説明

作業車両および作業車両の制御方法

【課題】フィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる作業車両およびその制御方法を提供する。
【解決手段】油圧ショベルにおいて、エンジンコントローラは、パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合には、機械モニタによって警告を出力させる。また、エンジンコントローラは、パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合において、さらに、燃料ダイヤルによって目標回転数が低減され、且つ、作業機ロックスイッチによって作業機の操作が禁止され、且つ、再生実行スイッチが操作された場合に、フィルタ再生処理を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両には、エンジンから排出される排気ガス中のパーティキュレート(粒子状物質)を捕集するフィルタが備えられたものがある。このフィルタに捕集されたパーティキュレートの一部は、排気ガスによる高温雰囲気中において燃焼するが、排気ガスの温度が十分に高くない場合には、捕集したパーティキュレートがフィルタに堆積し続けることになる。そして、パーティキュレートの堆積量が増大すると、フィルタの機能が低下する恐れがある。
【0003】
そこで、従来の作業車両では、排気ガスの温度を上昇させることによりフィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させるフィルタ再生処理が行われている。例えば、特許文献1に記載の作業車両では、吸込み空気の冷却を抑制することによって、排気ガスの温度を上昇させ、フィルタに担持された触媒の活性温度域まで加熱させている。また、特許文献2に記載の作業車両では、エンジンの燃料噴射制御により、排気ガス中に燃料を添加して、この燃料の反応熱によって排気ガスの温度を上昇させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−64005号公報
【特許文献2】特開2008−75560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなフィルタ再生処理が行われても、パーティキュレートの堆積量が増大し続ける場合がある。本願の発明者の研究によれば、エンジンの出力トルクと回転数との状態により、上記のようなフィルタ再生処理が行われても、パーティキュレートの燃焼が十分に進まず、パーティキュレートが堆積し続ける場合があることが分かった。例えば、エンジンの出力トルクが小さく、且つ、エンジン回転数が高い状態で作業車両が運転されている場合には、フィルタ再生処理が行われても、パーティキュレートの燃焼が十分に進まない。エンジンの出力トルクが小さい場合には、排気ガスの温度が十分に高くならず、また、エンジン回転数が高いと、エンジンからの排気ガスの流速が高くなることにより排気ガスの温度が上昇し難くなるからである。一方、エンジンの出力トルクが小さくても、エンジン回転数が低ければ、パーティキュレートの燃焼が進み易くなることも分かった。
【0006】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、フィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる作業車両およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る作業車両は、エンジンと、油圧ポンプと、作業機と、フィルタと、フィルタ再生部と、堆積量検知部と、回転数設定部と、作業機操作部と、作業機ロック操作部と、再生実行操作部と、警告出力部と、制御部と、を備える。油圧ポンプは、エンジンによって駆動される。作業機は、油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される。フィルタは、エンジンからの排気ガス中のパーティキュレートを捕集する。フィルタ再生部は、排気ガスの温度を上昇させることにより、フィルタに捕集されたパーティキュレートを燃焼させるフィルタ再生処理を行う。堆積量検知部は、フィルタでのパーティキュレートの堆積量を検知する。回転数設定部は、エンジンの目標回転数を設定するために操作される。作業機操作部は、作業機を動作させるために操作される。作業機ロック操作部は、作業機操作部による作業機の操作を禁止するために操作される。再生実行操作部は、フィルタ再生部にフィルタ再生処理を実行させるために操作される。警告出力部は、所定の警告を出力する。制御部は、パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合には、警告出力部によって警告を出力させる。また、制御部は、パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合において、さらに、回転数設定部によって目標回転数が低減され、且つ、作業機ロック操作部によって作業機の操作が禁止され、且つ、再生実行操作部が操作された場合に、フィルタ再生処理を実行させる。
【0008】
この作業車両では、パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合には、制御部は、警告出力部によって警告を出力させると共に、所定の操作がオペレータによって行われたかを判定する。すなわち、回転数設定部によって目標回転数が低減され、且つ、作業機ロック操作部によって作業機の操作が禁止され、且つ、再生実行操作部が操作されたか否かが判定される。これらの条件が満たされると、制御部は、フィルタ再生部にフィルタ再生処理を実行させる。このため、エンジン回転数を低下させた状態でフィルタ再生処理を実行することができる。これにより、排気ガスの温度を十分に上昇させることができ、フィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【0009】
第2発明に係る作業車両の制御方法は、エンジンと、油圧ポンプと、作業機と、フィルタと、フィルタ再生部と、堆積量検知部と、回転数設定部と、作業機操作部と、作業機ロック操作部と、再生実行操作部と、警告出力部と、を備える作業車両の制御方法である。油圧ポンプは、エンジンによって駆動される。作業機は、油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される。フィルタは、エンジンからの排気ガス中のパーティキュレートを捕集する。フィルタ再生部は、排気ガスの温度を上昇させることにより、フィルタに捕集されたパーティキュレートを燃焼させるフィルタ再生処理を行う。堆積量検知部は、フィルタでのパーティキュレートの堆積量を検知する。回転数設定部は、エンジンの目標回転数を設定するために操作される。作業機操作部は、作業機を動作させるために操作される。作業機ロック操作部は、作業機操作部による作業機の操作を禁止するために操作される。再生実行操作部は、フィルタ再生部にフィルタ再生処理を実行させるために操作される。警告出力部は、所定の警告を出力する。そして、この制御方法は、以下のステップを備える。
・パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合に、警告出力部によって警告を出力させるステップ。
・回転数設定部によって目標回転数が低減されたか否かを判定するステップ。
・作業機ロック操作部によって作業機の操作が禁止されたか否かを判定するステップ。
・再生実行操作部が操作されたか否かを判定するステップ。
・パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合に、回転数設定部によって目標回転数が低減され、且つ、作業機ロック操作部によって作業機の操作が禁止され、且つ、再生実行操作部が操作された場合に、フィルタ再生処理を実行させるステップ。
【0010】
この作業車両の制御方法では、パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合には、警告出力部が警告を出力すると共に、所定の操作がオペレータによって行われたか否かの判定が行われる。すなわち、回転数設定部によって目標回転数が低減され、且つ、作業機ロック操作部によって作業機の操作が禁止され、且つ、再生実行操作部が操作されたか否かが判定される。これらの条件が満たされると、フィルタ再生部がフィルタ再生処理を実行する。このため、この作業車両の制御方法では、エンジン回転数を低下させた状態でフィルタ再生処理を実行することができる。これにより、排気ガスの温度を十分に上昇させることができ、フィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、排気ガスの温度を十分に上昇させることができ、フィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】油圧ショベルの外観図。
【図2】油圧ショベルが備える油圧システムの構成を示す概略図。
【図3】油圧ショベルのエンジン出力トルク特性およびポンプ吸収トルク特性を示す図。
【図4】油圧ショベルが備える排気ガス浄化部の構成を示すブロック図。
【図5】油圧ショベルの制御方法を示すフローチャート。
【図6】油圧ショベルの制御方法を示すフローチャート。
【図7】油圧ショベルの制御方法を示すフローチャート。
【図8】エンジン出力トルク特性における通常再生不可能領域と通常再生可能領域を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<外観構成>
本発明の一実施形態に係る油圧ショベル1を図1に示す。この油圧ショベル1は、走行体2と、旋回体3と、作業機4とを備えている。
【0014】
走行体2は、一対の走行装置11,12を有する。各走行装置11,12は、履帯13,14と走行モータ(図示せず)とを有し、履帯13,14が走行モータによって駆動されることによって、油圧ショベル1を走行させる。
【0015】
旋回体3は、走行体2上に載置されている。旋回体3は、図示しない旋回モータによって走行体2上において旋回する。また、旋回体3の前部左側位置には運転室15が設けられている。
【0016】
作業機4は、旋回体3の前部中央位置に取り付けられており、ブーム21、アーム22、バケット23を有する。ブーム21の基端部は、旋回体3に回転可能に連結されている。また、ブーム21の先端部はアーム22の基端部に回転可能に連結されている。アーム22の先端部は、バケット23に回転可能に連結されている。また、ブーム21、アーム22およびバケット23のそれぞれに対応するように油圧シリンダ(ブームシリンダ24、アームシリンダ25およびバケットシリンダ26)が配置されている。これらの油圧シリンダ24〜26が駆動されることによって作業機4が駆動され、これにより、掘削等の作業が行われる。
【0017】
<油圧システムの構成>
次に、油圧ショベル1が備える油圧システムの構成を図2に示す。この油圧システムは、油圧ポンプ31がエンジン32によって駆動され、油圧ポンプ31から吐出された作動油が操作弁33を介して、ブームシリンダ24、アームシリンダ25、バケットシリンダ26、走行モータ、旋回モータなどの油圧アクチュエータに供給および排出されるように構成されている。油圧アクチュエータへの油圧の供給および排出が制御されることにより、作業機4の動作、旋回体3の旋回、および走行体2の走行動作が制御される。
【0018】
エンジン32は、ディーゼルエンジンであり、燃料噴射装置34からの燃料の噴射量が調整されることにより、エンジン32の出力が制御される。燃料噴射量の調整は、燃料噴射装置34がエンジンコントローラ35によって制御されることで行われる。なお、エンジン32の実回転数は、回転数センサ36にて検出され、その検出信号は、エンジンコントローラ35およびポンプコントローラ37にそれぞれ入力される。
【0019】
油圧ポンプ31は、エンジン32によって駆動され、作動油を吐出する。油圧ポンプ31から吐出された作動油は、後述する操作弁33を介して油圧アクチュエータに供給される。また、油圧ポンプ31から吐出された作動油は、自己圧減圧弁38によって一定の圧力に減圧されて、各種のバルブのパイロット用に供給される。
【0020】
油圧ポンプ31は、斜板41の傾転角が制御されることにより吐出容量を制御可能な可変容量型の油圧ポンプである。斜板41には、図示しないサーボピストンが連結されており、サーボピストンが駆動されることによって斜板41の傾転角が制御される。これにより、油圧ポンプ31の吐出容量が制御される。サーボピストンを駆動するための油圧は、サーボバルブ42によって制御される。サーボバルブ42は、サーボバルブ42に供給されるパイロット圧に応じて、サーボピストンへ供給する油圧を制御する。このパイロット圧は、PCバルブ44およびLSバルブ43を介してサーボバルブ42に供給される。これにより、図3に示すような、ポンプ吸収トルク特性が得られる(ラインPL1,PL2参照)。
【0021】
LSバルブ43は、油圧ポンプ31の吐出圧と油圧アクチュエータの負荷圧との差圧が一定になるようにサーボバルブ42へのパイロット圧を制御する。
【0022】
PCバルブ44は、油圧ポンプ31の吸収トルク(以下、「ポンプ吸収トルク」と呼ぶ)が一定となるようにサーボバルブ42へのパイロット圧を制御する。また、ポンプ吸収トルクは、PC−EPCバルブ47からPCバルブ44に供給されるパイロット圧によって制御される。PC−EPCバルブ47は、電磁制御弁であり、ポンプコントローラ37からの信号によって電気的に制御される。
【0023】
なお、油圧ポンプ31の吐出圧(以下、「ポンプ圧」と呼ぶ)は、油圧センサ51によって検出され、その検出信号は、ポンプコントローラ37に入力される。
【0024】
操作弁33は、油圧アクチュエータに対応して設けられる油圧パイロット操作式の方向制御弁の集合体である。操作弁33は、後述する操作装置60の操作に応じて制御され、各油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。
【0025】
操作装置60は、運転室15内に設けられており、各種の動作を指令するためにオペレータによって操作される。操作装置60は、燃料ダイヤル61、走行レバー62、作業機レバー63、作業機ロックスイッチ73、機械モニタ64などを有する。
【0026】
燃料ダイヤル61は、エンジン32の目標回転数を設定するためにオペレータによって操作される部材である。燃料ダイヤル61が操作されると、燃料ダイヤル61の操作量に応じたスロットル信号がポンプコントローラ37を介してエンジンコントローラ35に入力される。
【0027】
走行レバー62は、油圧ショベル1の走行を操作するためにオペレータによって操作される部材である。走行レバー62が操作されると、その操作内容に対応したパイロット圧が操作弁33に供給される。これにより、走行モータへの供給油圧が制御され、油圧ショベル1の走行動作が制御される。なお、走行レバー62の操作内容に対応したパイロット圧は、油圧センサ52によって検出され、その検出信号がポンプコントローラ37に入力される。
【0028】
作業機レバー63は、作業機4を動作させるためにオペレータによって操作される部材である。作業機レバー63が操作されると、その操作内容に対応したパイロット圧が操作弁33に供給される。これにより、ブームシリンダ24、アームシリンダ25、バケットシリンダ26、旋回モータへの供給油圧が制御され、作業機4の動作および旋回体3の旋回動作が制御される。なお、作業機レバー63の操作内容に対応したパイロット圧は、油圧センサ53によって検出され、その検出信号がポンプコントローラ37に入力される。
【0029】
作業機ロックスイッチ73は、作業機レバー63による作業機4の操作を禁止するために操作される。作業機ロックスイッチ73がオン状態に操作されると、操作弁33から油圧アクチュエータに供給される油圧の制御が制限される。これにより、作業機レバー63が操作されても油圧アクチュエータに供給される油圧が変更されなくなり、作業機4の操作が禁止される。
【0030】
機械モニタ64は、ポンプコントローラ37から各種の信号を受け取り、燃料量や水温などの各種の情報を表示する。また、機械モニタ64は、後述するDPF69の再生処理に関する警告表示を出力する。機械モニタ64は、油圧ショベル1の各種の設定を入力するための操作ボタンを有しており、例えば、機械モニタ64によって作業モードを選択することができる。作業モードには、例えば、高出力を優先させるモードおよび燃費を優先させるモードなどがある。後述する制御部30は、選択された作業モードおよび運転状況に応じて、最適なエンジントルクおよびポンプ吸収トルクを選択する。また、機械モニタ64は、後述するDPF69のフィルタ再生処理を手動で実行させるために操作される再生実行スイッチ74を有する。なお、機械モニタ64が操作されると、その操作信号がポンプコントローラ37およびエンジンコントローラ35に入力される。
【0031】
制御部30は、エンジンコントローラ35と、ポンプコントローラ37とを有する。
【0032】
エンジンコントローラ35には、複数のエンジン出力トルク特性に対応した目標噴射特性がマップ化されて記憶されている。エンジン出力トルク特性は、エンジンの出力トルクと回転数との関係を示すものであり、その一例を図3に示す(ラインEL1参照)。エンジンコントローラ35は、燃料ダイヤル61からのスロットル信号および設定された作業モードに応じて、エンジン出力トルク特性を選択し、選択したエンジン出力トルク特性に基づいて燃料噴射装置34を制御する。
【0033】
ポンプコントローラ37は、PC−EPCバルブ47を制御することによって、ポンプ吸収トルクを制御する。ポンプコントローラ37には、作業モードや運転状況に基づいて設定される複数のポンプ吸収トルク特性がマップ化されて記憶されている。ポンプ吸収トルク特性は、ポンプ吸収トルクと、エンジン回転数との関係を示すものである。ポンプ吸収トルク特性の一例を図3に示す(ラインPL1、PL2参照)。ポンプコントローラ37は、設定された作業モードなどに応じてポンプ吸収トルク特性を選択する。そして、選択されたポンプ吸収トルク特性と実際のエンジン回転数とに基づいて、ポンプ吸収トルクがエンジン出力トルクとマッチング点(例えば、図3のマッチング点M1又はM2)でマッチングするように、PC−EPCバルブ47を制御する。
【0034】
<排気ガス浄化部6の構成>
また、この油圧ショベル1は、図4に示す排気ガス浄化部6を備えている。排気ガス浄化部6は、エンジン32に接続されており、エンジン32からの排気ガスを浄化する装置である。排気ガス浄化部6は、第1処理部55、第2処理部56、第1補助処理部57、及び、第2補助処理部58を有する。
【0035】
第1処理部55は、酸化触媒がコーティングされたディーゼルパーティキュレートフィルタ69(以下「DPF69」)を有しており、排気ガス中のパーティキュレート(粒子状物質)を捕集すると共に、排気ガス中の一酸化窒素を酸化して二酸化窒素を生成する。二酸化窒素は、排気ガスのような高温雰囲気中では不安定であり、酸素を放出して一酸化窒素に戻る。そして、放出された酸素の酸化力により、DPF69に堆積したパーティキュレートが燃焼する。一酸化窒素、および、一酸化窒素に戻りきれなかった二酸化窒素は、第1補助処理部57に送られる。なお、DPF69の材質としては、コージェライト、炭化珪素などのセラミックス、又は、ステンレス、アルミニウム等の金属が用いられる。
【0036】
第1処理部55の上流側と下流側とには、それぞれ第1圧力センサ71と、第2圧力センサ72とが設けられている。第1圧力センサ71は、DPF69の上流側において排気ガスの圧力を検知する。第2圧力センサ72は、DPF69の下流側において排気ガスの圧力を検知する。第1圧力センサ71および第2圧力センサ72によって検知された排気ガスの圧力は、それぞれ検知信号としてエンジンコントローラ35に送られる。
【0037】
第1補助処理部57は、加水分解触媒を有しており、液体還元剤ポンプ67から供給される液体還元剤中の尿素を分解してアンモニアを生成する。第1処理部55と第1補助処理部57とは、連絡管65によって接続されており、液体還元剤タンク59から液体還元剤ポンプ67を介して連絡管65を通る排気ガスに液体還元剤が供給される。
【0038】
第2処理部56は、SCR(Selective Catalytic Reduction:選択還元触媒)方式の触媒コンバーターであり、ゼオライト、バナジウム等の卑金属からなる尿素脱硝触媒(DeNOx触媒)を有する。尿素脱硝触媒は、尿素から得られたアンモニアと排気ガス中のNOxとを反応させ、NOxを窒素と酸素に分解して浄化する。
【0039】
第2補助処理部58は、酸化触媒を有しており、第2処理部56において残ったアンモニアを酸化し、窒素と水とに分解して無害化する。第2補助処理部58において処理された排気ガスは、排気管68を介して外部に排出される。
【0040】
上記のように、排気ガス中のパーティキュレートは、DPF69に捕集される。DPF69に堆積したパーティキュレートは、排気ガスによる高温雰囲気中で燃焼するが、通常運転時の排気ガスの温度ではDPF69に堆積したパーティキュレートを完全には燃焼させることはできない。そこで、この油圧ショベル1では、エンジンコントローラ35が、図5から図7のフローチャートに示すようなフィルタ再生処理制御を行うことにより、DPF69に堆積したパーティキュレートを処理してDPF69の再生を行う。
【0041】
まず、図5に示す第1ステップS1では、パーティキュレートの堆積量Mが検知される。ここでは、エンジンコントローラ35は、第1圧力センサ71および第2圧力センサ72からの検知信号に基づいて、DPF69の上流側および下流側での排気ガスの差圧を算出する。そして、算出した差圧に基づいて、パーティキュレートのDPF69での堆積量Mが算出される。
【0042】
ステップS2では、堆積量Mが所定の第1閾値M1以上であるか否かが判定される。堆積量Mが所定の第1閾値M1以上である場合にはステップS3に進む。
【0043】
ステップS3では、堆積量Mが所定の第2閾値M2より少ないか否かが判定される。第2閾値M2は第1閾値M1よりも大きな値である。堆積量Mが第2閾値M2より少ない場合にはステップS4に進む。
【0044】
ステップS4では、所定の警告表示が機械モニタ64に出力される。例えば警告表示として、堆積量Mのレベルを意味する「L01」のような警告コードが表示される。
【0045】
また、ステップS5において、フィルタ再生処理が実行される。フィルタ再生処理では、エンジン32において圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射が行われるように、燃料噴射装置34が制御される。このような燃料噴射が行われると、ポスト噴射により排気ガス中に、主として炭化水素(HC)を含む未燃の燃料が添加され、この未燃の燃料を含む排気ガスがエンジン32から排出される。そして、排気ガス中の炭化水素が、DPF69に担持された触媒によって酸化反応したときの反応熱により、排気ガスの温度が上昇する。これにより、DPF69でのパーティキュレートの燃焼が促進され、DPF69が再生される。
【0046】
以上のように、堆積量Mが第1閾値M1以上且つ第2閾値M2未満である場合には、機械モニタ64にレベル1の警告表示が表示されると共に、フィルタ再生処理が実行される。
【0047】
次に、ステップS6において、堆積量Mが所定の第4閾値M4より少なくなったか否かが判定される。第4閾値M4は第1閾値M1以下の値である。堆積量Mが第4閾値M4より少なくなった場合には、ステップS7に進む。
【0048】
ステップS7では、フィルタ再生処理が停止される。また、ステップS8において、警告表示が解除される。
【0049】
ステップS6において、堆積量Mが第4閾値M4以上である場合には、ステップS4に戻り、警告表示とフィルタ再生処理が維持される。
【0050】
上述したステップS3において、堆積量Mが第2閾値M2以上である場合にはステップS9に進む。
【0051】
ステップS9では、堆積量Mが所定の第3閾値M3より少ないか否かが判定される。第3閾値M3は第2閾値M2よりも大きな値である。堆積量Mが第3閾値M3より少ない場合には、図6に示すステップS10に進む。
【0052】
ステップS10では、所定の警告表示が機械モニタ64に出力される。例えば警告表示として、堆積量Mのレベルを意味する「L02」のような警告コードが表示される。
【0053】
次に、ステップS11において、スロットル指令値が所定の規定回転数Nより小さいか否かが判定される。ここでは、燃料ダイヤル61からエンジンコントローラ35に送られるスロットル信号に基づいて、オペレータが燃料ダイヤル61を操作してエンジン32の目標回転数を所定の規定回転数Nより小さい回転数に設定したか否かが判定される。スロットル指令値が所定の規定回転数Nより小さい場合にはステップS12に進む。
【0054】
ステップS12では、作業機ロックスイッチ73がオン状態であるか否かが判定される。ここでは、オペレータが作業機ロックスイッチ73をオン状態に操作することによって、作業機4の操作が禁止されたか否かが判定される。作業機ロックスイッチ73がオン状態である場合には、ステップS13に進む。
【0055】
ステップS13では、再生実行スイッチ74がオン状態であるか否かが判定される。ここでは、オペレータが再生実行スイッチ74をオン状態に操作して、フィルタ再生処理の実行を手動で指示したか否かが判定される。再生実行スイッチ74がオン状態である場合には、ステップS14に進む。
【0056】
ステップS14では、エンジンの出力トルクが低減される。ここでは、エンジンコントローラ35は、通常運転時よりも、エンジン32の出力トルクを低減させるように燃料噴射装置34を制御する。また、このとき、上述したステップS11で判定されたように、エンジン32の目標回転数は低減されている。このため、エンジン出力トルク特性が図3のEL1からEL2のように変化して、エンジン32の回転数と出力トルクとが低下する。
【0057】
次に、ステップS15において、フィルタ再生処理が実行される。ここでは、上述したステップS5と同様の処理が行われる。このとき、上述したように、エンジン回転数が低減されているため、排気ガスの流速が低下している。このため、エンジン回転数が低減されていない場合と比べて、排気ガスの温度が上昇し易くなり、フィルタ再生処理によるパーティキュレートの燃焼が一層、促進される。これにより、DPF69が再生される。
【0058】
以上のように、堆積量Mが第2閾値M2以上且つ第3閾値M3未満である場合には、機械モニタ64にレベル2の警告表示が表示されると共に、フィルタ再生処理を開始するための所定の手動操作がオペレータによって行われたか否かが判定される。そして、上記の手動操作が行われた場合に、フィルタ再生処理が行われる。
【0059】
そして、ステップS16において、堆積量Mが第4閾値M4より少なくなったか否かが判定される。堆積量Mが第4閾値M4より少なくなった場合には、ステップS17においてフィルタ再生処理が停止される。また、ステップS18において、警告表示が解除される。その後、ステップS1に戻る。
【0060】
ステップS16において、堆積量Mが第4閾値M4以上である場合には、ステップS15に戻り、フィルタ再生処理と警告表示とが維持される。
【0061】
なお、ステップS11,S12,S13において、上記の手動操作のいずれかが行われていない場合は、フィルタ再生処理は行われずに図5に示すステップS1に戻る。
【0062】
上述したステップS9において、堆積量Mが所定の第3閾値M3以上である場合には、図7に示すステップS19に進む。
【0063】
ステップS19では、所定の警告表示が機械モニタ64に出力される。例えば警告表示として、堆積量Mのレベルを意味する「L03」のような警告コードが表示される。
【0064】
また、ステップS20において、エンジンの出力トルクが低減される。ここでは、上述したステップS13と同様にして、エンジンの出力トルクが低減される。
【0065】
また、ステップS21において、フィルタ再生処理が停止される。すなわち、パーティキュレートの堆積量Mが第3閾値M3以上となるまでには、ステップS5或いはステップS15においてフィルタ再生処理が実行されているが、堆積量Mが第3閾値M3以上となった場合には、フィルタ再生処理が停止される。この場合、フィルタ再生処理ではDPF69の再生が不可能なほどに大量のパーティキュレートがDPF69に堆積しているためである。上記の警告コードはDPF69の交換が必要な状態を表すものとして、オペレータに示される。
【0066】
以上のように、パーティキュレートの堆積量Mが第3閾値M3以上である場合には、機械モニタ64にレベル3の警告表示が表示され、エンジン出力トルクの低減が維持されると共に、フィルタ再生処理が停止される。
【0067】
<特徴>
この油圧ショベル1では、パーティキュレートの堆積量Mが第1閾値M1以上となった場合には、機械モニタ64に警告表示が出力されると共に、フィルタ再生処理が実行される。このとき、エンジン32の出力トルクと回転数とが、図8に示すように、フィルタ再生処理のみでパーティキュレートの燃焼が十分に進む領域R1(図8においてハッチングを施した部分であり、以下、「通常再生可能領域R1」と呼ぶ)にある場合には、フィルタ再生処理によって、パーティキュレートの堆積量Mが低減する。そして、パーティキュレートの堆積量Mが閾値M4より小さな値まで低下すると、警告表示とフィルタ再生処理が解除される。
【0068】
なお、図8において、破線T1〜T4は、排気ガスが各温度T1〜T4となるエンジン32の出力トルクと回転数との関係を示しており、T1>T2>T3>T4である。また、T4は、上述したフィルタ再生処理によってパーティキュレートの燃焼を促進させるために必要な排気ガスの最低温度を示している。すなわち、排気ガスの温度がT4以上となる通常再生可能領域R1では、フィルタ再生処理のみでパーティキュレートの燃焼が十分に進み、排気ガスの温度がT4より小さい領域R2(以下、「通常再生不可能領域R2」と呼ぶ)では、フィルタ再生処理のみではパーティキュレートの燃焼が十分に進まない。
【0069】
エンジン32の出力トルクと回転数とが、通常再生不可能領域R2にある状態で、油圧ショベル1が運転されている場合には、フィルタ再生処理が実行されても、パーティキュレートの堆積量Mは増大し続ける。そして、パーティキュレートの堆積量Mが第2閾値M2以上となる。
【0070】
パーティキュレートの堆積量Mが第2閾値M2以上となった場合には、上述した手動操作の全てがオペレータによって行われたか否かが判定される。これらの手動操作は、エンジン32の出力トルクと回転数とが通常再生不可能領域R2にある状態(例えば図8のP1参照)で、運転が行われている状態から、エンジン32の出力トルクと回転数とを低下させて通常再生可能領域R1にある状態(例えば図8のP2参照)に移行させるために必要な操作である。従って、上記の手動操作が全て行われた状態で、フィルタ再生処理が実行されることにより、DPF69に堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【0071】
なお、エンジン32の出力トルクと回転数とが上記の通常再生不可能領域R2にあるか否かをエンジン32の出力トルクと回転数とによって直接的に判定する必要はなく、上記のように、パーティキュレートの堆積量Mが第2閾値M2以上となったか否かを判定すればよい。パーティキュレートの堆積量Mが第1閾値M1以上となった時点でフィルタ再生処理が実行されたにも関わらず、パーティキュレートの堆積量Mが第2閾値M2以上に達したということは、エンジン32の出力トルクと回転数とが通常再生不可能領域R2にあることを意味しているからである。
【0072】
<他の実施形態>
(a)上記の実施形態では、作業車両として油圧ショベルが例示されているが、他の種類の作業車両にも本発明の適用が可能である。
【0073】
(b)上記の実施形態では、フィルタ再生処理として、燃料噴射量の制御が行われているが、排気ガスの温度を上昇させる手段であれば他の手段が用いられもよい。
【0074】
(c)上記の実施形態では、DPF69の上流側と下流側との差圧によってパーティキュレートの堆積量Mが検知されているが、他の手段によってパーティキュレートの堆積量Mが検知されてもよい。
【0075】
(d)上記の実施形態では、図5のステップS6と、図6のステップS16とにおいて、警告表示およびフィルタ再生処理の解除の判定に、第4閾値M4が用いられているが、それぞれ異なる閾値が用いられてもよい。例えば、図5のステップS6において堆積量Mが、第1閾値M1より小さいか否かが判定され、図6のステップS16とにおいて、堆積量Mが、第2閾値M2より小さいか否かが判定されてもよい。この場合、ステップS16において、堆積量Mが第2閾値M2より小さいが第1閾値M1より大きい場合には、ステップS4に進んでレベル1の警告表示とフィルタ再生処理とが行われてもよい。
【0076】
(e)上記の実施形態では、警告表示が機械モニタ64に表示されているが、警告灯が点灯されるなど、他の表示手段が用いられてもよい。また、表示に限らず、スピーカから警告音や音声などが出力されてもよい。
【0077】
(f)上記の実施形態では、作業機操作部、作業機ロック操作部、再生実行操作部、回転数設定部として、レバー、スイッチ、ダイヤルなどの部材が示されているが、これらの部材に限られるものではない。
【0078】
(g)
上記の実施形態では、堆積量Mが第2閾値M2以上である場合にエンジン出力トルク特性が変更されることにより、エンジン回転数が低下されている。しかし、エンジン出力トルク特性が変更されずにエンジン回転数のみが低下されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、排気ガスの温度を十分に上昇させてフィルタに堆積したパーティキュレートの燃焼を促進させることができる効果を有し、作業車両および作業車両の制御方法として有用である。
【符号の説明】
【0080】
4 作業機
31 油圧ポンプ
32 エンジン
34 燃料噴射装置(フィルタ再生部)
35 エンジンコントローラ(制御部)
61 燃料ダイヤル(回転数設定部)
63 作業機レバー(作業機操作部)
64 機械モニタ(警告出力部)
69 DPF(フィルタ)
71 第1圧力センサ(堆積量検知部)
72 第2圧力センサ(堆積量検知部)
73 作業機ロックスイッチ(作業機ロック操作部)
74 再生実行スイッチ(再生実行操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される作業機と、
前記エンジンからの排気ガス中のパーティキュレートを捕集するフィルタと、
前記排気ガスの温度を上昇させることにより、前記フィルタに捕集されたパーティキュレートを燃焼させるフィルタ再生処理を行うフィルタ再生部と、
前記フィルタでのパーティキュレートの堆積量を検知する堆積量検知部と、
前記エンジンの目標回転数を設定するために操作される回転数設定部と、
前記作業機を動作させるために操作される作業機操作部と、
前記作業機操作部による前記作業機の操作を禁止するために操作される作業機ロック操作部と、
前記フィルタ再生部に前記フィルタ再生処理を実行させるために操作される再生実行操作部と、
所定の警告を出力する警告出力部と、
前記パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合には、前記警告出力部によって前記警告を出力させ、さらに、前記回転数設定部によって前記目標回転数が低減され、且つ、前記作業機ロック操作部によって前記作業機の操作が禁止され、且つ、前記再生実行操作部が操作された場合に前記フィルタ再生処理を実行させる制御部と、
を備える作業車両。
【請求項2】
エンジンと、前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される作業機と、前記エンジンからの排気ガス中のパーティキュレートを捕集するフィルタと、前記排気ガスの温度を上昇させることにより、前記フィルタに捕集されたパーティキュレートを燃焼させるフィルタ再生処理を行うフィルタ再生部と、前記フィルタでのパーティキュレートの堆積量を検知する堆積量検知部と、前記エンジンの目標回転数を設定するために操作される回転数設定部と、前記作業機を動作させるために操作される作業機操作部と、前記作業機操作部による前記作業機の操作を禁止するために操作される作業機ロック操作部と、前記フィルタ再生部に前記フィルタ再生処理を実行させるために操作される再生実行操作部と、所定の警告を出力する警告出力部と、を備える作業車両の制御方法であって、
前記パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合に、前記警告出力部によって前記警告を出力させるステップと、
前記回転数設定部によって前記目標回転数が低減されたか否かを判定するステップと、
前記作業機ロック操作部によって前記作業機の操作が禁止されたか否かを判定するステップと、
前記再生実行操作部が操作されたか否かを判定するステップと、
前記パーティキュレートの堆積量が所定の閾値以上となった場合に、前記回転数設定部によって前記目標回転数が低減され、且つ、前記作業機ロック操作部によって前記作業機の操作が禁止され、且つ、前記再生実行操作部が操作された場合に、前記フィルタ再生処理を実行させるステップと、
を備える作業車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−229986(P2010−229986A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81374(P2009−81374)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】