説明

作業車両における変速レバー

【課題】コンバイン等の作業車両において、走行用HSTのトラニオン軸にリンク機構を介して連結されている変速レバーを操作する際、当該変速レバーを走行用HSTの油圧反力を受けずに操作できるように改良する。
【解決手段】主変速レバー23と走行用HST24のトラニオン軸43とを連係するリンク機構45に、当該走行用HST24からの油圧反力を遮断する逆入力遮断手段33を介設することによって、主変速レバー23の変速ポジションを変動させることなく安定した状態で保持できるようにすると共に主変速レバー23の操作荷重を軽減させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等の作業車両において、走行用HSTのトラニオン軸にリンク機構を介して連結する変速レバーの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインのように走行用HSTを変速装置として備える作業車両においては、
走行用HSTのトラニオン軸にリンク機構を介して連結する変速レバーを前後揺動操作することにより機体の走行速度を変速できるようになっている。ところが、変速レバーを揺動操作すると、変速レバーを中立方向に押し戻す走行用HSTからの油圧反力が加わることから、この反力に抗して変速レバーの変速ポジションを保持すべく、当該変速レバー側にブレーキ装置が設けられている。
【0003】
そして、前記ブレーキ装置は、変速レバーとの揺動位置を保持するブレーキライナーと変速レバーと共に前後に一体揺動する揺動部材との間の摩擦力と、ブレーキライナーとブレーキライナーを付勢的に押接する挟持部材との間の摩擦力のいずれか一方が他方に比較して小さくなるように設定することにより、ブレーキライナーと揺動部材との間、またはブレーキライナーと挟持部材との間のいずれか一方の滑り面が限定されるため、安定した操作力で変速レバーを操作することが可能になり、それによって当該変速レバーの操作フィーリングを向上させようとするものが知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方、本発明の属する技術分野とは異なるが、電動シャッターのように駆動源からの入力トルクを出力側機構に伝達して所要の動作を行なう装置においては、何らかの事情により駆動源が停止した時、出力側機構の位置が変動しないようにこれを保持する機能が求められる場合がある。
【0005】
即ち、電動シャッターは、その駆動源である駆動モータからの正方向または逆方向の入力トルクを出力側の開閉機構に入力してシャッターの開閉動作を行なうものであるが、その開閉動作の途中で停電等の事情により駆動源が停止した場合、シャッターの自重下降による逆入力トルクが入力側に還流すると入力側機器に損傷が生じる可能性があることから、駆動源が停止した時点のシャッターの高さ位置を保持すると共に、当該シャッターからの逆入力トルクを入力側に還流させない機能を有する逆入力遮断クラッチを設けたものが知られている。(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2000−184816号公報(第3−4頁、図3−図5)
【特許文献2】特開2003−343601号公報(第3−5頁、図1−図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1のブレーキ装置は、変速レバーを中立方向に押し戻す方向に作用する走行用HSTからの油圧反力に抗すべく、ブレーキライナーと揺動部材、及びブレーキライナーと挟持部材の接触面を押圧する皿バネの微妙な付勢力の調整を行わなければならないが、この皿バネの付勢力の調整が難しいことから所望の変速レバーの操作フィーリングを得ることができなかった。
【0007】
そこで、出願人が知り得た本発明の属する技術分野とは異なる特許文献2の逆入力遮断クラッチを応用して、従来の変速レバーのブレーキ装置とは構成を異にするHSTからの反力を遮断するための逆入力遮断手段を備える変速レバーの具現化を図った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、HSTを変速装置として備える作業車両において、変速レバーとHSTのトラニオン軸とを連係するリンク機構に、当該HSTからの油圧反力を遮断する逆入力遮断手段を介設したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、変速レバーとHSTのトラニオン軸とを連係するリンク機構に介設した逆入力遮断手段によって、変速レバーを揺動(変速)操作した際、変速レバーの変速ポジションを押し戻す方向に加わるHSTからの油圧反力を遮断することが可能になり、それによって変速レバーの変速ポジションを変動させることなく安定した状態で保持できるようになると共に、変速レバーを揺動操作する際にはブレーキ力が作用しないので、当該変速レバーの操作荷重を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、作業車両であるコンバイン10の斜視図であり、該コンバイン10は、穀稈を刈取る前処理部11と、刈取穀稈から穀粒を脱穀し、この穀粒を選別する脱穀装置12(図7参照)と、選別済みの穀粒を貯留する穀粒タンク13と、脱穀済みの排稈を排出処理する後処理部14と、各種の操作具が設けられる操縦部15と、左右一対のクローラ走行装置16を走行方向に沿わせて配設した機体フレーム17を有している。
【0011】
そして、操縦部15にはオペレータが着座する運転席18が設置されており、この運転席18の左側に図2に示すような操作パネル21を設けると共に、該操作パネル21に形成したガイド溝22に沿って主変速レバー23を操作することができるようになっている。
【0012】
また、運転席18の下方には、図示しないエンジンとミッションケースとを配設してあり、このミッションケースの上部には図3及び図4に示すようにエンジンの回転駆動力を無段階に変速してトランスミッション側に出力する走行用HST24を取付けている。
【0013】
そして、主変速レバー23は後述するように走行用HST24と連結(連係)してあり、当該主変速レバー23を操作パネル21に形成したガイド溝22に沿って、前後及び左右揺動操作することにより機体の走行速度を変速できるようになっている。
【0014】
即ち、主変速レバー23がガイド溝22の前進操作領域22aに位置している時は、主変速レバー22を前方に揺動操作するに従って機体の前進走行速度を無段階に上昇させることができる。一方、主変速レバー23がガイド溝22の後進操作領域22bに位置している時は、主変速レバー23を後方に揺動操作するに従って機体の後進走行速度を無段階に上昇させることができる。また、主変速レバー23がガイド溝22の中立領域22cに位置しているときはニュートラルとなり機体は走行しない。
【0015】
次に、主変速レバー23と走行用HST24との連結(連係)機構について説明する。
ミッションケースの上部に取り付けられている走行用HST24の左側(図4においては右側)には、ミッションケースから立設するステー31の中途部にブラケット32を固設すると共に、このブラケット32の右側に走行用HST24からの油圧反力を遮断するための逆入力遮断手段33を設けている。
【0016】
詳述すると、前記逆入力遮断手段33の左側の入力軸34に回動アーム35を固設すると共に、この回動アーム35の上端部に設けた前後方向に向くボス35aに主変速レバー23の基端部に固設した前方に向くピン23a嵌挿することによって、当該主変速レバー23の前後揺動と左右回動とを融通可能に軸支している。尚、主変速レバー23の基端部には、右方向に突出するスプリング係止部23bが設けてあり、このスプリング係止部23bと回動アーム35の右側面に設けた係止片35bとの間に引張スプリング37を係止している。
【0017】
これによって主変速レバー23は、逆入力遮断手段33の入力軸34を中心とする前後方向(X−Y方向)への揺動と、ピン23aを中心とする左右方向(L−R方向)への揺動操作が行えるようになっている。そして、主変速レバー23は、引張スプリング37によりピン23aを中心に右方向R(運転席18側)に常時付勢されており、左方向L(脱穀装置側)への揺動は引張スプリング37の付勢力に抗して行われる。
【0018】
そして、逆入力遮断手段33の右側の出力軸41に固設したアーム42の先端に、長さ調節部38aを備える連係ロッド(主変速ロッド)38の一端を連結すると共に、この連係ロッド38の他端を、走行用HST24を変速動作せしめるトラニオン軸43に取付けたトラニオンアーム44と連結することによって、主変速レバー23と走行用HST24のトラニオン軸43とを連係するリンク機構45を構成している。
【0019】
上述した構成により主変速レバー23を前後に揺動操作することで回動アーム35が上下に揺動し、次いで回動アーム35の上下の揺動により連係ロッド38が上下に作動し、更に連係ロッド38の上下動によりトラニオンアーム44が揺動することによって、トラニオン軸43が回動して走行用HST24が変速操作されるようになっている。
【0020】
次に、走行用HST24からの油圧反力を遮断するために設けた逆入力遮断手段33の構造について説明する。
【0021】
逆入力遮断手段33は、図5及び図6に示すように、主変速レバー23の操作力(入力トルク)を回動アーム35を介して入力する入力軸34と、主変速レバー23の操作力が出力される出力軸41と、回転が拘束される静止側部材である固定外輪51と、この固定外輪51と出力軸41との間に係合離脱可能に設けた一対の係合子であるローラ52a,52b、及び両ローラ52a,52b間に配設して両者を固定外輪51と出力軸41間に係合させる方向に付勢する一対の弾性部材53a,53bを備えている。
【0022】
そして、走行用HST24からの油圧反力(逆入力トルク)が逆入力される出力軸41と固定外輪51とをロックし、入力軸34からの入力トルクに対してロック状態を解除するロック手段55と、このロック手段55によるロックが解除状態の時、入力軸34からの入力トルクを出力軸41に伝達するトルク伝達手段56を入力軸34と出力軸41との間に備えており、前記固定外輪51に入力軸34と出力軸41とを転がり軸受57,58を介して正逆回転自在に支承した構造を具備している。
【0023】
次に、トルク伝達手段56の構造について説明する。入力軸34には、その中心から径方向外側へずれた位置に軸方向に沿う貫通孔61を穿設すると共に、出力軸41には、入力軸34と対向する端面に径方向に沿う凹溝62を形成してある。そして、入力軸34の貫通孔61にピン63を挿入し、そのピン63の先端を出力軸41と対向する端面から突出させて、出力軸41の端面に形成した凹溝62に嵌入させることにより、入力軸34からの入力トルクを出力軸41に伝達できるようになっている。
【0024】
一方、ロック手段55の構造は以下の通りである。入力軸34の出力軸側端部には径方向外側へ拡径したフランジ部34aが一体的に形成してあって、そのフランジ部34aの外周から軸方向の出力軸側へ連続して延びる複数の柱部34bを円周方向に等間隔で形成している。そして、円周方向に隣接する各柱部34b間の空間は、軸方向の一方に向かって開口した形態のポケット65が構成されると共に、各ポケット65に一対の係合子であるローラ52a,52bをそれぞれ配設している。
【0025】
また、出力軸41の入力軸34側外周には、上述した入力軸34の柱部34b間に位置するポケット65と対応させて複数対のカム面66a,66bを円周方向等間隔に形成している。そして、この出力軸41のカム面66a,66bと固定外輪51の内周面との間に一対のローラ52a,52bをそれぞれ配設することによって、両ローラ52a,52bは入力軸34の柱部34b間に構成したポケット65に収容されるようになっている。この時、両ローラ52a,52bのうち、一方のローラ52aは一対のカム面66a,66bのうち一方のカム面66aに位置し、他方のローラ52bは他方のカム面66bに位置するように配設している。
【0026】
更に、前記一対のローラ52a,52bの間にはN字状をなす上述した一対の弾性部材53a,53bを介挿してあり、両弾性部材53a,53bによってローラ52a,52bを互いに離反する方向に弾圧付勢している。そして、両ローラ52a,52b間には、入力軸34からのトルク伝達時に、何れか一方のローラに作用する弾性部材の押圧力と他方のローラに作用する弾性部材の押圧力とを独立させるための遮蔽板71を配設すると共に、この遮蔽板71の両面に弾性部材53a,53bそれぞれ固着してある。
【0027】
上述した構成の逆入力遮断手段33によれば、出力軸41に走行用HST24からの油圧反力(逆入力トルク)が、例えば時計方向に入力されると、弾性部材53aの弾性力により反時計方向(回転方向後方)のローラ52aがその方向の楔隙間と係合して、出力軸41が固定外輪51に対して時計方向にロックされる。逆に、出力軸41に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、弾性部材53bの弾性力により時計方向(回転方向後方)のローラ52bがその方向の楔隙間と係合して、出力軸41が固定外輪51に対して反時計方向にロックされるようになっている。即ち、出力軸41からの逆入力トルクは、一対のローラ52a,52bによって正逆両回転方向にロックできる構成になっている。
【0028】
したがって、上述の如く主変速レバー23と走行用HST24のトラニオン軸43とを連係するリンク機構45に介設した逆入力遮断手段33によって、主変速レバー23を揺動(変速)操作した際、主変速レバー23の変速ポジションを押し戻す方向に加わる走行用HST24からの油圧反力を遮断することが可能になり、それによって主変速レバー23の変速ポジションを変動させることなく安定した状態で保持できるようになると共に、主変速レバー23を揺動操作する際にはブレーキ力が作用しないので、当該主変速レバー23の操作荷重を軽減することができる。
【0029】
一方、主変速レバー23を揺動操作することにより入力軸34に回転トルクが入力されるが、例えば入力軸34を時計方向に回動すると、
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入力軸34の反時計方向(回転方向後方)の柱部34bがその方向(回転方向後方)のローラ52aと係合し、更に一方の弾性部材53aの弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧される。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ52aがその方向の楔隙間から離脱して出力軸41のロック状態が解除され、当該出力軸41が時計方向に回動可能な状態となる。
【0030】
そして、入力軸34が更に時計方向に回動すると、入力軸34のピン63が出力軸23の凹溝62の壁面に当接することにより、入力軸34からの時計方向の回転トルクがピン63と凹溝62との係合部分を介して出力軸41に伝達され、該出力軸41が時計方向に回動する。この時、時計方向(回転方向前方)のローラ52bは、その方向の楔隙間と係合せずに出力軸41のカム面66bと固定外輪51の内周面に接触した状態で空転するようになっている。
【0031】
また、入力軸34に反時計方向の回転トルクが入力された場合は、前述とは逆の動作で出力軸41が反時計方向に回動する。即ち、入力軸34からの正逆両回転方向の回転トルクは、ピン63と凹溝62との係合部を介して出力軸41に伝達され、それによって当該出力軸41が正逆両回転方向に回動できるようになっている。
【0032】
尚、上述した構成の逆入力遮断手段33は、コンバイン10における他の装置部品にも採用することができる。
【0033】
例えば、図7に示す脱穀装置12は、上方をカバー体85にて覆われて穀稈を脱穀する扱胴86を有しており、該扱胴86の外周には複数の扱歯86aが植設されると共に、その下方に受網(不図示)を張設した扱室87を構成している。そして、カバー体85は、扱胴86の回転軸88と平行な軸心(パイプ軸)89周りに回動自在に支持してあり、それによって該カバー体85は閉塞位置から開放位置に亘って開閉することができるようになっている。
【0034】
また、扱胴86の回転軸88は、カバー体85と一体に形成されている扱室87の前側板87a(不図示)と後側板87bに軸支してあり、アクチュエータである昇降(電動)モータ91、スクリュウシャフト92、及びシリンダ93を介して、当該扱胴86とカバー体85とを一体に上下回動させることができるようになっている。
【0035】
そして、扱胴86と一体に回動するカバー体85を閉塞位置で固定する開閉(ロック)レバー95を、支点軸96を中心として回動可能に構成すると共に、開閉レバー95の基端部に連結するロッド97を介して、機体内方側の支点軸98を中心として回動するフック99を設け、このフック99を扱室固定枠体101側に設けたピン102に係合可能に構成しているが、開閉レバー95を上動操作することによりピン102に係合しているフック99の係止を解除する際、当該開閉レバー95の操作荷重が大きくなることから、その操作荷重を軽減すべく、フック99の支点軸98に上述した逆入力遮断手段33を介設してもよい。尚、ピン102に係合しているフック99の係止が解除されると、ガススプリング103にアシストされて扱胴86とカバー体85が一体的にやや上方に回動するように構成してある。
【0036】
また、他例として図8に示すように、穀粒タンク13内の穀粒を排出する穀粒排出オーガ105の縦螺旋筒105aは、その下部近傍に外周ギヤ106が設けてあり、この外周ギヤ106に歯合するピニオン107を、逆入力遮断手段33を介して旋回モータ108に固設することにより、穀粒排出オーガ105を旋回させる際の旋回モータ108への過負荷を当該逆入力遮断手段33によって遮断できるように構成してもよい。尚、従来は、旋回モータ108への過負荷が生じるとサーキットブレーカーが作動する構成になっており、上述の如く逆入力遮断手段33を設けることによって、旋回モータ108を正常状態に復帰させるまでの点検作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】コンバインの斜視図。
【図2】操縦部の斜視図。
【図3】主変速レバーと走行用HSTとの連係機構を示す右側面図。
【図4】主変速レバーと走行用HSTとの連係機構を示す正面図。
【図5】逆入力遮断手段を示す断面図。
【図6】図5におけるA−A断面図。
【図7】脱穀装置の背面図。
【図8】穀粒排出オーガの縦螺旋筒の下部を示す側面図。
【符号の説明】
【0038】
10 作業車両
23 変速レバー
24 HST
33 逆入力遮断手段
43 トラニオン軸
45 リンク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HST(24)を変速装置として備える作業車両(10)において、変速レバー(23)とHST(24)のトラニオン軸(43)とを連係するリンク機構(45)に、当該HST(24)からの油圧反力を遮断する逆入力遮断手段(33)を介設したことを特徴とする作業車両における変速レバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−6163(P2006−6163A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186120(P2004−186120)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】