説明

光パワーモニター

【課題】 受光感度のばらつきを抑え平均受光感度が高く、小型で多チャンネルの光パワ
ーモニターを得る。
【解決手段】 2本の光ファイバーの中心軸をオフセット融着して、コア部からクラッド
部内に光を漏洩させ、漏洩した光をクラッドに設けた切欠き面で反射させ、略90度光の
進行方向を変えてクラッド外に放射させ、光ダイオードで検知する構造とし、オフセット
融着部と切欠き部を含む支持ブロック間の光ファイバーを凸状円弧状に湾曲させ、曲率半
径を0.347〜2.667(m)もしくは0.086〜0.111(m)にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光通信分野において用いられる光パワーモニターに係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信における技術革新は目覚しく、インターネットの普及による通信速度の
高速化の要求および情報量の増加に対応するため、電気信号による通信から光信号による
通信へと移行しつつある。多くの基幹となるケーブルは、多数の中継点から情報が集まっ
てくるため、処理能力と処理速度から光ケーブルへと置き換わって来ている。光ケーブル
とユーザー端末との間の通信が見直されるようになり、より安くより快適な情報通信環境
の整備への要求は、ますます強くなってきている。
【0003】
光通信網が整備されてくると、情報の授受が高速に行なわれるようになり、またそれに
伴って新たな用途も拡大していくため、光通信網を行き交う情報量は益々増加することに
なる。光ファイバーの処理できる情報量を上げるには、単位時間あたりの信号量を増大さ
せるために高周波の信号を使用することや、波長多重方式と称され異なる情報を持つ多数
の波長の信号を単一な光ファイバー中で同時に送信するという技術が用いられている。ま
た、緻密で信頼性の高い通信網を形成するには、多方向、多経路への接続を確保する必要
があり、保守用途の観点からも複数の光ファイバーの利用は必須となっている。
【0004】
多数の信号を光ファイバーで伝送する光通信回路を形成する際には、波長多重した光信
号を各波長に分波したり、逆にそれぞれの波長の光信号を合波したり、更には、光信号の
分岐や挿入を行なうと言ったWavelength Division Multipl
ex(以下、WDMと略す)システムが必要になる。情報量が増加すると共に、扱われる
情報の重要性も高くなる。光信号が欠落した場合には、どの光信号がどこで欠落したのか
を迅速に把握する必要がある。光信号の接続の有無だけでなく、信号強度を確認すること
も必要となる。また、伝送距離が長くなると光ファイバー中を伝播するだけでも光信号強
度が減衰してしまうため、光信号を増幅するためのErbium Doped Fibe
r Amplifier(以下、EDFAと略す)という装置も必要になる。EDFAは
増幅の割合を判断することを目的としており、外部から入力した光信号の強度や増幅した
後外部に出射する光信号の強度を、正確に把握することが必要となる。信頼性の高い光通
信システムを構築するためには、こうした細かいモニタリング機能を備えることが不可欠
となってきている。
【0005】
光信号のモニタリング方法としては、光ファイバー中を伝播する光を分岐して主光と分
岐光とし、分岐光を光ダイオードに導き光量を測定する。光ダイオードで測定された分岐
光の光量と分岐光と主光の比から、光ファイバー中の光信号の量を求める。最近では、特
に多重化する波長数を多くして、一度に伝達できる情報量を多くしている。信号検知は各
波長に分波して行なわれるため、1台の装置で必要となる光パワーモニターの数量が多く
なる。光パワーモニターに割り振られる装置内の収納スペースは限られているため、光パ
ワーモニターの小型化が必須となってきている。
【0006】
小型化された光パワーモニターの一例が、特許文献1に開示されている。開示されてい
る構造を図8に示す。図8b)は、光パワーモニター70の断面図である。図8a)は、
光パワーモニター複数本をケース69に組込んだ光パワーモニター組立体71の一例で、
ケースの上蓋を取り除いた状態を示す。図8b)で、2本の光ファイバー51,52を有
するマルチキャピラリーガラスフェルール53とGRIN(Gradient Inde
x)レンズ54を所定の空隙55を開けて対向させる。GRINレンズの端面にはフィル
ター56が形成されており、GRINレンズを通ってきた光の反射と透過を行なう。透過
した光は空隙57を通り光ダイオード58で電気信号に変換され端子59から取り出され
る。光ダイオード58の電気出力値で、光路内の光の強度値を得ることができる。マルチ
キャピラリーガラスフェルール53とGRINレンズ54はガラスチューブ60で位置決
めされている。フィルター56で反射した光はGRINレンズ54と空隙55を通り、光
ファイバー52に入り出力光となる。
【0007】
【特許文献1】米国特許 6,603,906 B2 図3
【0008】
図8b)に示した光パワーモニターの光は、空気中に一度は放出(放射)される構造で
ある。空気は光ファイバーと異なる屈折率を有するため、空気中に放射された光は拡散し
てしまう。拡散した光を集光するためGRINレンズに代表されるレンズは必須の部品で
ある。このため、光パワーモニター70の製品サイズがGRINレンズやガラスチューブ
のサイズに依存することになり、小型化を行うのが難しい。そのため、光パワーモニター
組立体71の小型化は非常に難しいものである。
【0009】
導波路を用い小型化された光パワーモニターが、特許文献2に開示されている。図9a
)に光導波路モジュールの平面図を、図9b)に光量の測定原理を示す。基板81に略平
行に複数の導波路82が形成され、導波路82を直角に横断する溝83が設けられて、導
波路が入力側と出力側に分断される。溝83には反射フィルター84が挿入され、反射フ
ィルター84の入力側に光検知器85が配され、光導波路モジュール80を構成している
。図9b)の断面図を用いて、光量測定方法を光の流れを使って説明する。導波路82は
、コア87を挟むように上部クラッド86と下部クラッド88が設けられている。コア8
7を通った光は溝83の空気中に放出され、殆んどの光は反射フィルター84を透過し出
力側のコア87に入る。反射フィルター84で一部の光(破線の矢印)は反射して光検出
器85に入り、電気信号に変換され光路内の光の強度値を得ることができる。
【0010】
【特許文献2】特開2003−329862号 公報 図1、図2
【0011】
特許文献2の光導波路モジュール80は、導波路を保持する基板の厚み、光検出器の保
持機構等が小型化をする上で障害になることは容易に理解できる。また、導波路と光ファ
イバーを接続する部位での光損失が大きいことは周知であり、低損失化を図ることは難し
い。導波路から出た光は空気中を通り反射フィルターに、反射フィルターを通った光は空
気中を通り導波路に入る構造となっており、光損失が大きくなってしまうことは避けられ
ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図9に示した光導波路モジュール80は多チャンネル化が容易であり、チャンネル分だ
け単体の光パワーモニターを組合わせた図8a)の光パワーモニター組立体71に比べ、
小型化と言う点では非常に優れている。しかし、光パワーモニターの性能を表す受光感度
(mA/w)で比べて見ると、光導波路モジュール80は導波路から出た光は空気中で反
射し受光器に入るため、受光感度は35〜70(mA/W)で平均受光感度55(mA/
W)と低く、受光感度ばらつきレンジ(受光感度の上値と下値の差)は35(mA/W)
と大きかった。受光感度ばらつきレンジが大きいのは、導波路に加工した溝83と反射フ
ィルター84の加工寸法ばらつきや組立寸法ばらつきに起因していると考えられる。光パ
ワーモニター組立体71の平均受光感度は70(mA/W)と高く、受光感度ばらつきレ
ンジは16(mA/W)と小さい。予め受光感度が高い光パワーモニター70を選び、光
パワーモニター組立体71を製造することで、高感度で受光感度ばらつきレンジ小が得ら
れている。受光感度は、分岐された分岐光が光ダイオードに入り、どれだけの電流を出力
するかの指標である。主光と分岐光に分けられ、分岐光は空気中に放射されたりして減衰
し光ダイオードに入り電流に変換される。受光感度が高いということは、分岐光が光ダイ
オードに入るまでに減衰が少ないと言うことである。
【0013】
多重化する波長数を多くして一度に伝達できる情報量を多くした波長多重方式が普及す
るにつれ、光パワーモニターの高性能化と小型化の要求が強く、光導波路モジュール並み
の小型サイズで、光パワーモニター組立体並みの性能を要求されている。
【0014】
本願特許の目的は、受光感度のばらつきレンジを抑え平均受光感度が高く、小型で多チ
ャンネルの光パワーモニターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明の光パワーモニターは、2本の光ファイバーの光軸をオフセット融着し、融着
部のコア部から伝播光の一部を、光伝播方向前方側光ファイバーのクラッド部に漏洩させ
、漏洩した光は光伝播方向前方側光ファイバーの融着部より前方側に設けられた切欠き部
の融着部側の切欠き面で反射させ、反射した光は切欠き部の反対側のクラッドを透過して
光ファイバー外に放射し、放射された光を光ダイオードで検出し、伝播光の光量を測定す
る。光ファイバーは融着部の後方側と切欠き部の前方側の位置で、支持ブロックで保持さ
れており、支持ブロック間の光ファイバーは、光ダイオード側の反対方向に略円弧状に湾
曲していることが好ましい。
【0016】
支持ブロック間の光ファイバーに所定の円弧を形成せずに組立てると、支持ブロック間
の光ファイバーは光ダイオード側方向の円弧、平坦、反対側の円弧と種々の形態をとる。
平均受光感度は65.2(mA/W)と、光導波路モジュールより約10(mA/W)改
善され、要求される70(mA/W)に近い値が得られている。しかし、受光感度ばらつ
きレンジは33(mA/W)で、要求の倍以上の値しか得られていない。支持ブロック間
の光ファイバーを光ダイオード側の反対方向に略円弧状に湾曲させることで、平均受光感
度を更に上げ、受光感度ばらつきレンジを半減させることができる。
【0017】
光ファイバーの湾曲は支持ブロック間で規定する。湾曲は、光伝播方向後方側支持ブロ
ックと光ファイバーが樹脂等で固着されている点と、光伝播方向前方側支持ブロックと光
ファイバーが樹脂等で固着されている点で求めるが、本願では支持ブロックの端部まで樹
脂を塗布して固着しているので、対向する支持ブロックの内側寸法を支持ブロック間の寸
法と規定している。
【0018】
支持ブロック間の光ファイバーは、光ダイオード側の反対方向に略円弧状(以下、凸状
円弧と言う)に湾曲させることで、受光感度を上げることができる。平坦な状態言い換え
ると湾曲の半径が無限大から、光ダイオード側の方向に略円弧状(以下、凹状円弧と言う
)に湾曲させることは、受光感度の低下を招くため好ましくない。凸状円弧に湾曲させる
と、曲率半径が小さくなるに従い、受光感度の最大値と最小値が交互に現れてくる。最大
値近傍の曲率半径となるように光ファイバーを支持ブロック間で湾曲させることが好まし
い。
【0019】
光ファイバーにストレスを加えると、光ファイバー内を伝播する光の速度が変化する。
光ファイバーを円弧状に湾曲させた時、光ファイバーのクラッド部の厚み中心より円弧中
心側と外側ではストレスの掛かり具合が異なり、円弧中心側では圧縮ストレスが外側では
引張ストレスが加わることになる。本願発明の光パワーモニターは、オフセット融着部か
らクラッド部に光を漏洩させ切欠き部で反射させて、光ダイオードで検出するものである
。クラッド部に漏洩させた光は、クラッドの中で反射を繰返しながら伝播して行く。光フ
ァイバーを円弧状に湾曲させることで、クラッド部の厚み中心より円弧中心側を進む場合
と外側を進む場合とで光の伝播速度が変わることになり、光は干渉して強め合ったり弱め
合ったりする現象が現れるので、光が強め合った位置と切欠き部を合わせることで受光感
度を上げることができる。クラッド部での光の伝播速度は、加えたストレスの量により変
えることができ、光ファイバーの曲がり具合(曲率半径)を制御することで実現できる。
曲率半径は、オフセット融着部と切欠き部間で規定すればよいが、この間だけに曲率持た
せることは切欠き部での光ファイバー破損が起きるため、支持ブロック間で湾曲させるこ
とが好ましい。
【0020】
光ファイバーを湾曲させる領域を支持ブロック間に限定することもできるし、支持ブロ
ックの外側まで湾曲させることもできる。支持ブロックの外側まで湾曲させた場合でも、
光ファイバーの曲率半径は支持ブロック間で規定する。支持ブロック間のみで湾曲させる
のに比べ、支持ブロックの外側まで湾曲させると、円弧の弦の長さが長くなるので光ファ
イバーに加わる応力を小さくでき、光ファイバーが破損する危険性を下げることができる
。また、円弧の頂点と弦との距離を大きくすることができるので曲率半径の制御が容易に
なる。
【0021】
支持ブロック間で光ファイバーを湾曲させる場合、所定の間隔を持って固着された支持
ブロックに、光ファイバーを樹脂固定することで所定の曲率半径が得られることが好まし
い。支持ブロックに設けられた位置決め用のV溝が、支持ブロックを固着した面に対し傾
斜を有することが好ましい。方形の支持ブロックに入口側と出口側でV溝深さの異なる傾
斜したV溝を形成するか、入口側と出口側でV溝深さが同じV溝が形成された方形の支持
ブロックの固着面を研磨して傾斜させることで形成することができる。傾斜させる角度は
概略1.2度以下と小さいものである。V溝に沿って設置した光ファイバーをエポキシ樹
脂等で固定することで、光ファイバーの曲率を固定することができる。傾斜を有するV溝
に沿って光ファイバーを設置することで、難しい曲率半径制御を容易に安定的に行うこと
ができる。
【0022】
支持ブロック間の略中央部に、光ファイバー持上材を設けることもできる。光ファイバ
ー持上材で光ファイバーを持上げることで、光ファイバーの円弧の頂点位置の制御が行い
易くなる。光ファイバー持上材を用いる場合も、傾斜を有するV溝支持ブロックを用いる
ことが良い。光ファイバー持上材を用いることで、頂点位置の制御は行い易くなるが、部
品点数が増えるため製造コストの点では余り好ましいものではない。光ファイバーを持上
げる量は概略100(μm)以下であるので、ケース内底と支持ブロック間、ケース内底
と光ファイバー持上材間の接着厚の安定化が重要となる。光ファイバー持上材の光ファイ
バーとの接触部は、鋭角ではなく半径1(mm)程度の曲率を有する方が、光ファイバー
が損傷する危険性を下げることができる。
【0023】
ケースの枠部に光ファイバーをエポキシ樹脂等で固着することで、支持ブロックの外側
まで湾曲させることができる。この場合、支持ブロックのV溝は傾斜角を持っていなくて
も良い。支持ブロックは光ファイバーを持上げて所定の曲率を得ることと、光ファイバー
の径方向(チャンネル方向)の位置固定の役目を主に果すものである。傾斜角を持たない
V溝の支持ブロックを用いると、光ファイバーは支持ブロックの端部で接触することとな
り、応力の集中を起こすことが考えられるので、傾斜を有するV溝支持ブロックを用いる
ことが良い。傾斜を有するV溝支持ブロックを用いる場合、V溝に沿って光ファイバーを
設置して接着し、支持ブロックから出た光ファイバーをケースの枠部に力を加えずに置き
、エポキシ樹脂等の接着剤を垂らすように接着することで、支持ブロックと枠部間に曲率
を形成することもできる。ケース枠部に傾斜溝を形成することもできるが、ケースの価格
が上がることは避けられない。
【0024】
本願発明の光パワーモニターは、光ファイバーの略円弧の頂点部分が、支持ブロック間
の略中間位置にあることが好ましい。
【0025】
支持ブロック間の距離Lと、支持ブロックとオフセット融着部間の距離L1、オフセッ
ト融着部と切欠き部間の距離L3、切欠き部と支持ブロック間の距離L2の関係は、L=
L1+L3+L2であり、L1とL2は略同じ値であることが好ましい。L1とL2を略
同じ値とすることで、略円弧の頂点位置を支持ブロック間の略中間、言い換えるとオフセ
ット融着部と切欠き部間の略中間に位置させることができる。オフセット融着部と切欠き
部間の略中間位置に略円弧の頂点を持たせることで、オフセット融着部から漏れ出た光の
強め合った位置と切欠き部を合わせることができ、受光感度が上るだけでなくばらつきを
小さくすることができる。
【0026】
本願発明の光パワーモニターは、略円弧状に湾曲させた光ファイバーの曲率半径rが、
0.347〜2.667(m)もしくは0.086〜0.111(m)であることが好ま
しい。
【0027】
光ファイバーの曲率半径は、支持ブロック間距離と略円弧の頂点と弦との距離よって決
まるものである。しかしながら、本願発明では、クラッド部へと光を漏洩させるためオフ
セット融着部と、クラッド部へ漏洩させた光を反射させて光ファイバー外に出すため切欠
き部があるため、厳密には円弧にならない。それ故、本願では略円弧と称している。支持
ブロック間距離Lと略円弧の頂点と弦との距離hを求め、Lとhから円弧近似を行ない曲
率半径r計算で求める。曲率半径r=h/2+L/8hであるが、hはLに比べて非常
に小さいためr≒L/8hで求めることもできる。言い方を替えると、本発明における
曲率半径とは、r=h/2+L/8hにて算出される値のことをいい、光ファイバーの
所定区間全域で正確な曲率半径を備えていることを要しないものである。
【0028】
支持ブロックに光ファイバーを単に固着しただけでは、支持ブロック間で光ファイバー
は凹状円弧から平坦、凸状円弧までの形状を取ってしまい、これが受光感度の向上とばら
つきの低減を阻害していた。光ファイバーの形状に着目し、形状と受光感度の関係を詳細
に調べたところ、凹状円弧では曲率半径が大きくなるに従い受光感度は大きくなる。凸状
円弧では曲率半径が小さくなるに従い全体的には受光感度は大きくなっていくが、極大値
と極小値が交互に現れる。凹状円弧では曲率半径を大きくしても受光感度70(mA/W
)が得られないし、曲率半径が無限大となる平坦な状態でも受光感度70(mA/W)は
得られない。凸状円弧では曲率半径約0.6(m)で1つ目の極大点、約0.1(m)に
2つ目の極大点が現れる。曲率半径0.347〜2.667(m)と0.086〜0.1
11(m)で受光感度70(mA/W)が得られる。0.111〜0.347(m)間に
極小値を示す曲率半径があり、その値は50(mA/W)以下と非常に低いものである。
【0029】
1つ目より2つ目の極大点の方が受光感度値が大きくなるので、当然3つ目の極大点を
使うことが考えられる。しかし、3つ目の極大点を示す曲率半径は、約0.01(m)と
非常に小さいと予想される。約0.01(m)の曲率半径で、石英製の光ファイバーを曲
げることは不可能なことであるため、1つ目と2つ目の極大点近傍を使用することが良い
。石英製の光ファイバーを曲げることができる下限の曲率半径は約0.070(m)であ
るが、作業が安定しないのとヒートサイクル試験で光ファイバー折れが多発することから
、受光感度70(mA/W)以上が確保でき、ヒートサイクル試験で光ファイバー折れが
発生しない、曲率半径0.086(m)を、最小曲率半径値とすることが好ましい。
【0030】
本願発明の光パワーモニターは、支持ブロック間の距離Lが4.8〜14.0(mm)
で、光伝播方向後方側支持ブロックと融着部間の距離L1および光伝播方向前方側支持ブ
ロックと切欠き部間の距離L2が0.2〜2.0(mm)であることが好ましい。この寸
法を取ることで、小型で高受光感度、受光感度ばらつきレンジの小さい光パワーモニター
が得られる。
【発明の効果】
【0031】
2本の光ファイバーの中心軸をオフセット融着して、コア部からクラッド部内に光を漏
洩させ、漏洩した光をクラッドに設けた切欠き部で反射させ、略90度光の進行方向を変
えてクラッド外に放射させ、光ダイオードで検知する構造で、支持ブロック間の光ファイ
バーを凸状円弧に湾曲させ、高受光感度で受光感度ばらつきレンジの小さい光パワーモニ
ターを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下本発明を図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。説明を判り易くす
るため、同一の部品、部位には同じ符号を用いている。
【実施例1】
【0033】
図1と図2を参照しながら本願発明の光パワーモニター組立体1の構造について詳細に
説明する。図1は8組の光パワーモニター構成部材を一つのケース9に組込んだ8チャン
ネル型光パワーモニター1である。ケース9から保護チューブ8を介して光伝播方向後方
側光ファイバー2と光伝播方向前方側光ファイバー3を外部に引き出し、乾燥窒素ガスを
充填して樹脂(図示せず)で上蓋11を接着した。ケース9の外側側面から光ダイオード
7の電極10を取り出している。ケース9内を通る光ダイオード7と電極10の配線の図
示は省略した。ケース9の内底には、2個の光ファイバー支持ブロック4と光ダイオード
7を接着剤で固定した。光ファイバー支持ブロック4は、光ファイバーの間隔を精度良く
保つため8個のV型溝を有している。光ファイバー支持ブロック4のV溝41に光ファイ
バーを樹脂で固着した。光ダイオード7は8チャンネルで、光ファイバーの切欠き部6に
対応した位置に配した。また、チャンネル間の光の干渉を防ぐため、光ファイバー間には
遮光板30を設けている。
【0034】
図2a)は、図1に示した光パワーモニターを光ファイバーに沿って切断したk−k’
断面図である。光伝播方向後方側光ファイバー2と光伝播方向前方側光ファイバー3は、
支持ブロック4のV型傾斜溝41に沿って設置し樹脂で固定した。支持ブロック4は登り
方向傾斜を対向させて設けているので、光ファイバーの融着部と切欠き部の略中央部が持
ち上がり、凸状円弧形状を成している。支持ブロック間の距離(L)は8(mm)として
いる。支持ブロック4とオフセット融着部5間の距離(L1)は1.5mm、切欠き部6
と支持ブロック4間の距離(L2)も1.5(mm)とした。オフセット融着部5と切欠
き部6間の距離(L3)は5(mm)とした。光ファイバーの融着部と切欠き部の略中央
部の持ち上がり量hを93(μm)としたので、光ファイバーの曲率半径rは0.086
(m)となった。
【0035】
図2b)と図2c)に、支持ブロックに光ファイバーが保持されている状態を示してい
る。図2b)は、支持ブロックの底面に対して0.14度傾斜させてV溝41を形成して
いる。光ファイバーを配置した時に、光ファイバーが支持ブロック上面よりも4(μm)
飛び出るような深さのV溝41を形成した。このV溝41に沿って光ファイバーを設置し
て接着で固定することで、光ファイバーに凸状円弧を容易に形成することができた。図2
c)は、支持ブロックの上面に平行なV溝41を形成したのち、支持ブロックの底面側を
上面に対し0.14度の角度で研削したものである。何れの支持ブロックを用いても、安
定した曲率で凸状円弧の光ファイバーを容易形成することができた。支持ブロックは、石
英を機械加工したものを用いた。
【0036】
図3に、支持ブロック間における光ファイバーの形状の詳細を示す。また、光ファイバ
ーの湾曲状態を表す曲率半径を求める算出式についても示した。光伝播方向後方側支持ブ
ロック4からオフセット融着部5までの距離をL1、オフセット融着部5から切欠き部6
までの距離をL3、切欠き部6から光伝播方向前方側支持ブロック4までの距離をL2と
すると、支持ブロックの内側同士の距離Lは、L1+L3+L2となる。支持ブロック間
に距離Lと光ファイバーの持ち上がり量hから、光ファイバーの曲率rはr=h/2+L
/8hで求められる。Lに比べhは非常に小さいので、r≒L2/8hと近似計算して
も問題はない。
【0037】
本実施例の光ファイバーの曲率半径rは0.086(m)で、受光感度は62.3〜7
8.5(mA/W)で平均74.0(mA/W)が得られた。50個の光パワーモニター
の値であるが、光パワーモニターは8チャンネルあるので、実質400個の測定値である
。受光感度ばらつきのレンジは16.2(mA/W)とばらつきが小さく良好な受光感度
を有する光パワーモニターが得られた。従来品の光パワーモニターに比べ、平均受光感度
は13.5(%)向上し、受光感度ばらつきのレンジは半分にすることができた。
【実施例2】
【0038】
図4に、光ファイバーの曲率半径と受光感度の関係を示す。L1からL3の寸法は実施
例1と同じとし、種々の角度の傾斜V溝支持ブロック使用して、曲率半径を凹状円弧の0
.16(m)から凸状円弧の0.067(m)まで変化させた。図4で、曲率半径rを∞
としているのが、光ファイバーが平坦な状態である。X軸は∞の点を中心として線対称に
曲率半径を対数目盛りで表している。負の曲率半径は凹状円弧、正の曲率半径は凸状円弧
を示している。光ファイバーが平坦である曲率半径∞の点では、受光感度は68(mA/
W)である。凹状円弧で曲率半径を小さくして行くに従い受光感度は低下して、曲率半径
0.16(m)では40(mA/W)以下まで低下してしまった。この結果からも、凹状
円弧では受光感度を上げることができないことが判る。逆に凸状円弧にして曲率半径を小
さくして行くと受光感度が上昇し、曲率半径2.667〜0.347(m)の範囲で70
(mA/W)以上が得られた。更に、曲率半径を小さくして行くと受光感度は低下し0.
16(m)で極小値を示し、0.10(m)で再度極大値75(mA/W)を示した。0
.10(m)近傍で70(mA/W)以上の受光感度を示す曲率半径rは、0.111〜
0.086(m)の範囲であった。この結果からも、光ファイバーを凸状円弧形状にして
、その曲率半径rを2.667〜0.347(m)もしくは0.111〜0.086(m
)の範囲に入れることで、受光感度70(mA/W)以上が得られることが検証できた。
【実施例3】
【0039】
図5に、光ファイバーをケースの枠部に固定して凸状円弧を形成した実施例を示す。ケ
ース9’の枠には1度の傾斜部を形成し、傾斜部に保護チューブ8に挿入された光ファイ
バー2,3を接着剤で固定した。支持ブロック4のV溝は、光ファイバーの横ずれを防止
するのが主目的であるので傾斜角を持っていない。また、支持ブロックと光ファイバーの
固定は行っていないので、光ファイバーは支持ブロック間だけでなくケース9’の内側全
域に凸状円弧が連続して形成されている。製作した光パワーモニターの曲率半径は支持ブ
ロック間で求め、1.212(m)と0.552(m),0.098(m)の値を得た。
各々の受光感度は71.3と75.2,74.3(mA/W)で、実施例2で示した図4
の値と良く合っており、ケースの枠部に光ファイバーを固定して凸状円弧を形成すること
の有効性を確認できた。
【実施例4】
【0040】
図6に、光ファイバー持上材使用して凸状円弧を形成した実施例を示す。ケース9の内
底に支持ブロック4と持上材33を樹脂で固定している。支持ブロック4はV溝を有して
いるが傾斜は設けていない。V溝に光ファイバーを沿わせて設置した状態で、光ファイバ
ーの中心が9(μm)持ち上がるように、光ファイバー持上材の高さを調整している。光
ファイバーを支持ブロック部のV溝に沿うように押さえ付けた状態で樹脂固定した。光フ
ァイバー持上材には、光ファイバーと同じ熱膨張係数を持つ石英を用いた。光ファイバー
持上材の光ファイバーと接触する先端部分は半径1(mm)の曲率とした。光ファイバー
はブロック間だけで凸状円弧となり、ブロック間の距離を8(mm)としたので曲率半径
は0.89(m)となった。受光感度の測定値は73.2(mA/W)であり、実施例2
で示した図4の値と良く合った。
【0041】
光ファイバーはブロック間だけで凸状円弧となるので、曲率半径を小さくすると切欠き
部6で光ファイバーが破損する率が高くなってくる。ブロック間距離を4〜20(mm)
まで変えて光ファイバーが破損する曲率半径を求めたところ、r=0.15〜0.25(
m)であった。本方式では、受光感度70(mA/W)以上の値が得られる曲率半径2.
667〜0.347(m)の凸状円弧は製作できるが、0.111〜0.086(m)の
凸状円弧は製作できないことが判った。しかし、凸状円弧の頂点位置のばらつきを小さく
できるので、頂点位置に起因すると考えられる受光感度のばらつきも小さくなるので、大
きな曲率半径の時には有効な方法である。
【実施例5】
【0042】
所定の曲率半径における受光感度のばらつきを見るため、実施例1の条件で曲率半径毎
に50〜60個の光パワーモニターを製作し受光感度を測定した。光パワーモニターは8
チャンネルであるので、曲率半径毎で400〜480個の測定値となる。曲率半径は12
種で、凹状円弧の1.6(m)から凸状円弧の8.1(m)まで変化させている。比較の
ために、従来の光パワーモニター200個も供試し、1600個の測定値を試料mとして
記載している。従来品の曲率半径は凹状円弧の0.3(m)から凸状円弧の0.3(m)
の範囲に分布している。
【0043】
図7に結果を示す。試料a,bが凹状円弧で試料cが平坦で曲率半径∞、試料dからl
が凸状円弧、試料mが従来品である。各試料の曲率半径は実測値ではなく設計値であるが
、数個は実測して設計値と合っていることを確認している。平均受光感度が70(mA/
W)を超えるものは、試料e,f,g,i,jで曲率半径は1.600,0.800,0
.400,0.100,0.086(m)である。実施例2で平均受光感度70(mA/
W)を超える曲率半径は2.667〜0.347(m)もしくは0.111〜0.086
(m)としており、試料e,f,g,i,jはこれらの範囲に含まれている。また、これ
ら試料の受光感度ばらつきのレンジは、14.6〜16.2(mA/W)と、従来品の半
分以下になっている。この範囲から外れた曲率半径0.267(m)の試料hは、受光感
度の最大値でも70(mA/W)に達していない。従来品の試料mは試料aから試料gを
含んだ曲率半径であり、この範囲に入る試料aから試料gでの最小値は46.5(mA/
W)最大値は81.4(mA/W)で、従来品の最小値46.5(mA/W)最大値79
.5(mA/W)と良く合っている。
【0044】
支持ブロック間の光ファイバーに、曲率半径2.667〜0.347(m)もしくは0
.111〜0.086(m)の凸状円弧を形成することで、平均受光感度70(mA/W
)以上が得られ、受光感度ばらつきのレンジも従来品の半分以下とすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本願発明の実施例1の光パワーモニターの平面図である。
【図2】本願発明の実施例1の光パワーモニターのk−k’断面図である。
【図3】本願発明の実施例1の支持ブロック間における光ファイバーの形状の詳細説明図である。
【図4】本願発明の実施例2の曲率半径と受光感度の関係を示す図である。
【図5】本願発明の実施例3の凸状円弧の説明図である。
【図6】本願発明の実施例4の凸状円弧の説明図である。
【図7】本願発明の実施例5の曲率半径と受光感度の関係を示す図である。
【図8】従来品の光パワーモニター組立体の斜視図と光パワーモニターの断面図である。
【図9】従来品の光導波路モジュールの平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 光パワーモニター、2 光伝播方向後方側光ファイバー、
3 光伝播方向前方側光ファイバー、4 支持ブロック、
5 オフセット融着部、6 切欠き部、
7 光ダイオード、8 保護チューブ、
9,9’ ケース、10 電極、
11,11’ 上蓋、30 遮光板、
33 持上材、41 V溝、
51,52 光ファイバー、53 マルチキャピラリーガラスフェルール、
54 GRINレンズ、55 空隙、
56 フィルター、57 空隙、
58 光ダイオード、59 端子、
60 ガラスチューブ、69 ケース、
70 光パワーモニター、71 光パワーモニター組立体、
80 光導波路モジュール、81 基板、
82 導波路、83 溝、
84 反射フィルター、85 光検知器、
86 上部クラッド、87 コア、
88 下部クラッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の光ファイバーの光軸をオフセット融着し、融着部のコア部から伝播光の一部を、
光伝播方向前方側光ファイバーのクラッド部に漏洩させ、漏洩した光は光伝播方向前方側
光ファイバーの融着部より前方側に設けられた切欠き部の融着部側の切欠き面で反射させ
、反射した光は切欠き部の反対側のクラッドを透過して光ファイバー外に放射し、放射さ
れた光を光ダイオードで検出し、伝播光の光量を測定する光パワーモニターであって、光
ファイバーは融着部の後方側と切欠き部の前方側の位置で、支持ブロックで保持されてお
り、支持ブロック間の光ファイバーは、光ダイオード側の反対方向に略円弧状に湾曲して
いることを特徴とする光パワーモニター。
【請求項2】
光ファイバーの略円弧の頂点部分が、支持ブロック間の略中間位置にあることを特徴と
する請求項1に記載の光パワーモニター。
【請求項3】
略円弧状に湾曲した光ファイバーの曲率が、半径0.347〜2.667(m)もしく
は半径0.086〜0.111(m)であることを特徴とする請求項1または2に記載の
光パワーモニター。
【請求項4】
支持ブロック間の距離Lが4.8〜14.0(mm)で、光伝播方向後方側支持ブロッ
クとオフセット融着部間の距離L1および光伝播方向前方側支持ブロックと切欠き部間の
距離L2が0.2〜2.0(mm)であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記
載の光パワーモニター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−83535(P2008−83535A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265106(P2006−265106)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【特許番号】特許第4019384号(P4019384)
【特許公報発行日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】