説明

光半導体装置用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた光半導体装置

【課題】良好な光透過性はもちろん、耐光性に優れた光半導体装置用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)、酸無水物系硬化剤(B)、硬化促進剤(C)とともに、下記の(D)および多価アルコール(E)を含有する光半導体装置用エポキシ樹脂組成物である。(D)シリコーン樹脂を構成するシロキサン単位が下記の一般式(1)で表され、一分子中に少なくとも一個のケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基を有し、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基(R)中、10モル%以上が置換または未置換の芳香族炭化水素基であるシリコーン樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性および短波長(例えば、350〜500nm)に対する耐光性にも優れた光半導体装置用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた光半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)等の光半導体素子を封止する際に用いられる封止用樹脂組成物としては、その硬化物が透明性を有することが要求されており、一般に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、硬化剤に酸無水物とを用いて得られるエポキシ樹脂組成物が汎用されている。
【0003】
上記エポキシ樹脂組成物を光半導体素子の封止材料として用いた場合、発光波長の短波長(例えば、350〜500nm)化に伴い、封止してなる光半導体装置において充分な耐光性が得られていなかった。
【0004】
このようなことから、耐光性の向上を図るため、特殊なシリコーン樹脂を用いた光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−274249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特殊なシリコーン樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物は、通常の環境雰囲気下ではある程度の耐光性向上が図られるが、加湿環境下のような過酷な条件下においては耐光性の低下が見受けられ、より過酷な条件下においても優れた耐光性が付与されることが強く要望されている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、良好な光透過性はもちろん、耐光性に優れた光半導体装置用エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた光半導体装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、下記の(A)〜(C)成分とともに、下記の(D)および(E)成分を含有する光半導体装置用エポキシ樹脂組成物を第1の要旨とする。
(A)エポキシ樹脂。
(B)酸無水物系硬化剤。
(C)硬化促進剤。
(D)シリコーン樹脂を構成するシロキサン単位が下記の一般式(1)で表され、一分子中に少なくとも一個のケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基を有し、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基(R)中、10モル%以上が置換または未置換の芳香族炭化水素基であるシリコーン樹脂。
【化1】

(E)下記の一般式(2)で表されるアルコール類化合物。
【化2】

【0009】
そして、本発明は、上記光半導体装置用エポキシ樹脂組成物を用いて光半導体素子を樹脂封止してなる光半導体装置を第2の要旨とする。
【0010】
また、本発明は、光半導体素子搭載領域を備え、その少なくとも一部で素子搭載領域の周囲を囲んだ状態でリフレクタが形成されてなる光半導体装置用リードフレームの所定位置に光半導体素子が搭載されてなる光半導体装置であって、上記リフレクタが、上記光半導体装置用エポキシ樹脂組成物を用いて形成されてなる光半導体装置を第3の要旨とする。
【0011】
本発明者らは、光透過性を低下させることなく、より過酷な条件下、例えば、加湿雰囲気下のような環境条件下においても耐光性に優れたエポキシ樹脂組成物を得るべく鋭意検討を重ねた。その結果、封止材料として上記特殊なシリコーン樹脂を用いると、優れた耐光性等が得られることを突き止めた。さらに、この特殊なシリコーン樹脂とともに、上記一般式(2)で表されるアルコール類化合物を用いると、系内にて相溶し、得られる硬化物は光透過率が低下せず、優れた耐光劣化性を得ることができるという作用を奏することから、所期の目的が達成されることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明は、エポキシ樹脂〔(A)成分〕と、酸無水物系硬化剤〔(B)成分〕と、硬化促進剤〔(C)成分〕と、前記特殊なシリコーン樹脂〔(D)成分〕とともに、前記アルコール類化合物〔(E)成分〕を含有する光半導体装置用エポキシ樹脂組成物である。このように、特殊なシリコーン樹脂〔(D)成分〕とともに、変性剤として前記アルコール類化合物〔(E)成分〕を用いることから、優れた耐光性が得られるようになる。したがって、上記エポキシ樹脂組成物を用いてなる光半導体装置は、光半導体分野において優れた信頼性が付与されることとなり、その機能を充分に発揮することができる。
【0013】
そして、上記シリコーン樹脂〔(D)成分〕のシロキサン単位が特定の構造式(d1)〜(d4)で表され、しかもその各単位の構成割合をそれぞれ特定の範囲に設定すると、得られる硬化物に対して優れた低応力性が付与される。
【0014】
また、上記シリコーン樹脂〔(D)成分〕のケイ素原子に結合する一価炭化水素基(R)がメチル基およびフェニル基であると、エポキシ樹脂〔(A)成分〕との相溶性が向上する。
【0015】
さらに、上記アルコール類化合物〔(E)成分〕が特定の化合物であると、さらなる耐光性の劣化抑制効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光半導体装置用エポキシ樹脂組成物(以下「エポキシ樹脂組成物」ともいう)は、エポキシ樹脂(A成分)と、酸無水物系硬化剤(B成分)と、硬化促進剤(C成分)と、特殊なシリコーン樹脂(D成分)と、特定のアルコール類化合物(E成分)とを用いて得られるものであり、通常、液状、あるいは粉末状、もしくはその粉末を打錠したタブレット状にして供される。
【0017】
上記エポキシ樹脂(A成分)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート(1,3,5−トリスグリシジルイソシアヌル酸)、ヒダントインエポキシ樹脂等の含窒素環エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、低吸水率硬化体タイプの主流であるビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロ環型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらエポキシ樹脂の中でも、透明性、耐変色性に優れるという点から、下記の構造式(a1)で表される脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートを単独でもしくは併せて用いることが好ましい。さらに、後述の特殊なシリコーン樹脂(D成分)との相溶性および耐光性の観点から、トリグリシジルイソシアヌレートを用いることが特に好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
上記エポキシ樹脂(A成分)としては、常温で固形であっても液状であってもよいが、一般に、使用するエポキシ樹脂の平均エポキシ当量が90〜1000のものが好ましく、また、固形の場合には、軟化点が160℃以下のものが好ましい。すなわち、エポキシ当量が小さすぎると、エポキシ樹脂組成物硬化物が脆くなる場合がある。また、エポキシ当量が大きすぎると、エポキシ樹脂組成物硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなる傾向がみられるからである。
【0020】
上酸無水物系硬化剤(B成分)としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これら酸無水物系硬化剤の中でも、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を用いることが好ましい。さらに、酸無水物系硬化剤としては、その分子量が140〜200程度のものが好ましく、また無色ないし淡黄色の酸無水物を用いることが好ましい。
【0021】
上記エポキシ樹脂(A成分)と酸無水物系硬化剤(B成分)との配合割合は、エポキシ樹脂(A成分)中のエポキシ基1当量に対して、酸無水物系硬化剤(B成分)中のエポキシ基と反応可能な活性基(酸無水基または水酸基)が0.5〜1.5当量となるよう設定することが好ましく、より好ましくは0.7〜1.2当量である。すなわち、活性基が少なすぎると、エポキシ樹脂組成物の硬化速度が遅くなるとともに、その硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなる傾向がみられ、活性基が多すぎると耐湿性が低下する傾向がみられるからである。
【0022】
さらに、硬化剤成分として、その目的および用途に応じて、上記酸無水物系硬化剤(B成分)以外の他のエポキシ樹脂の硬化剤、例えば、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、上記酸無水物系硬化剤をアルコールで部分エステル化したもの、または、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボン酸類の硬化剤を、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。例えば、カルボン酸類の硬化剤を併用した場合には、硬化速度を速めることができ、生産性を向上させることができる。なお、これら硬化剤を用いる場合においても、その配合割合は、上記酸無水物系硬化剤(B成分)を用いた場合の配合割合(当量比)に準じればよい。
【0023】
上記硬化促進剤(C成分)としては、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、トリ−2,4,6−ジメチルアミノメチルフェノール等の3級アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロンジチオエート、メチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート等のリン化合物、4級アンモニウム塩、有機金属塩類、およびこれらの誘導体等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これら硬化促進剤の中では、3級アミン類、イミダゾール類、リン化合物を用いることが好ましい。その中でも、着色度が少なく、透明で強靱な硬化物が得られるという点から、リン化合物を用いることが特に好ましい。
【0024】
上記硬化促進剤(C成分)の含有量は、上記エポキシ樹脂(A成分)100重量部に対して0.01〜8.0重量部に設定することが好ましく、より好ましくは0.1〜3.0重量部である。すなわち、硬化促進剤(C成分)の含有量が少なすぎると、充分な硬化促進効果を得られない場合があり、含有量が多すぎると、得られる硬化物に変色が生じる傾向がみられるからである。
【0025】
上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)は、通常、ポリオルガノシロキサンと称されるもので、シロキサン結合による架橋構造を有する重合体である。上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)は、そのシリコーン樹脂を構成するシロキサン単位が下記の一般式(1)で表され、一分子中に少なくとも一個のケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基を有し、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基(R)中、10モル%以上が置換または未置換の芳香族炭化水素基であるという特徴を備えている。
【0026】
【化4】

【0027】
上記式(1)において、炭素数1〜18の置換または未置換の飽和一価炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基であるRのうち、未置換の飽和一価炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基や、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ジシクロペンチル基、デカヒドロナフチル基等のシクロアルキル基、さらに芳香族炭化水素基として、フェニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、トリル基、エチルフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基等があげられる。
【0028】
一方、上記式(1)のRにおいて、置換された飽和一価炭化水素基としては、具体的には、炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、エポキシ基等によって置換されたものがあげられ、具体的には、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、クロロフェニル基、ジブロモフェニル基、ジフルオロフェニル基、β−シアノエチル基、γ−シアノプロピル基、β−シアノプロピル基等の置換炭化水素基等があげられる。
【0029】
そして、上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)として、エポキシ樹脂との親和性および得られるエポキシ樹脂組成物の特性の点から、上記式(1)中のRとして好ましいものは、アルキル基またはアリール基であり、上記アルキル基の場合、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基として例示したものであり、特に好ましいのはメチル基である。また、アリール基として特に好ましいのはフェニル基である。上記式(1)中のRとして選択されるこれら基は、同一のシロキサン単位の中で、またはシロキサン単位の間で同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)では、その構造において、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基(R)は、その10モル%以上が芳香族炭化水素基から選択される必要がある。すなわち、10モル%未満では、エポキシ樹脂との親和性が不充分であるためにシリコーン樹脂をエポキシ樹脂中に溶解,分散させた場合に不透明となり、得られる樹脂組成物の硬化物においても耐光劣化性および物理的な特性において充分な効果が得られないからである。このような芳香族炭化水素基の含有量は、より好ましくは30モル%以上であり、特に好ましくは40モル%以上である。なお、上記芳香族炭化水素基の含有量の上限は、100モル%である。
【0031】
また、上記式(1)の(OR1)は、水酸基またはアルコキシ基であって、(OR1)がアルコキシ基である場合のR1としては、具体的には、前述のRについて例示したアルキル基において炭素数1〜6のものである。より具体的には、R1としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基があげられる。これらの基は、同一のシロキサン単位の中で、またはシロキサン単位の間で同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
さらに、上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)は、その一分子中に少なくとも一個のケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基、すなわち、シリコーン樹脂を構成するシロキサン単位の少なくとも一個に式(1)の(OR1)基を有することを必要とする。すなわち、上記水酸基またはアルコキシ基を有しない場合には、エポキシ樹脂との親和性が不充分となり、またその機構は定かではないもののこれら水酸基またはアルコキシ基がエポキシ樹脂の硬化反応のなかで何らかの形で作用するためと考えられるが、得られる樹脂組成物により形成される硬化物の物理的特性も充分なものが得られない。そして、上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)において、ケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基の量は、好ましくは、OH基に換算して0.1〜15重量%の範囲に設定され、より好ましくは1〜10重量%である。すなわち、水酸基またはアルコキシ基の量が上記範囲を外れると、エポキシ樹脂(A成分)との親和性に乏しくなり、特に15重量%を超えると、自己脱水反応や脱アルコール反応を生じる可能性がある。
【0033】
上記式(1)において、繰り返し数mおよびnは、それぞれ0〜3の整数である。そして、上記繰り返し数mおよびnがとりうる数は、シロキサン単位毎に異なるものであり、上記特殊なシリコーン樹脂を構成するシロキサン単位を、より詳細に説明すると、下記の一般式(d1)〜(d4)で表されるD1〜D4単位があげられる。
【0034】
【化5】

【0035】
すなわち、前記式(1)のmにおいて、m=3の場合が上記式(d1)で表されるD1単位に、m=2の場合が上記式(d2)で表されるD2単位に、m=1の場合が上記式(d3)で表されるD3単位に、m=0の場合が上記式(d4)で表されるD4単位にそれぞれ相当する。このなかで、上記式(d1)で表されるD1単位は1個のシロキサン結合のみであって末端基を構成する構造単位であり、上記式(d2)で表されるD2単位は、nが0の場合には2個のシロキサン結合を有し線状のシロキサン結合を構成する構造単位であり、上記式(d3)で表されるD3単位においてnが0の場合、および上記式(d4)で表されるD4単位においてnが0または1の場合には、3個または4個のシロキサン結合を有することができ、分岐構造または架橋構造に寄与する構造単位である。
【0036】
さらに、上記特殊なシリコーン樹脂(C成分)において、上記式(d1)〜(d4)で表される各D1〜D4単位の構成割合が、下記の(α)〜(δ)の割合に設定されていることが好ましい。
(α)D1単位が0〜30モル%
(β)D2単位が0〜80モル%
(γ)D3単位が20〜100モル%
(δ)D4単位が0〜30モル%
【0037】
より好ましくはD1単位およびD4単位が0モル%、D2単位が0〜70モル%、D3単位が30〜100モル%である。すなわち、各D1〜D4単位の構成割合を上記範囲に設定することにより、硬化体に適度な硬度や弾性率を付与(維持)することができるという効果が得られるようになり一層好ましい。
【0038】
上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)は、上記各構成単位が相互にまたは連なって結合しているものであって、そのシロキサン単位の重合度は、6〜10,000の範囲であることが好ましい。そして、上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)の性状は、重合度および架橋度によって異なり、液状または固体状のいずれであってもよい。
【0039】
このような特殊なシリコーン樹脂(D成分)は、公知の方法によって製造することができる。例えば、オルガノシラン類およびオルガノシロキサン類の少なくとも一方をトルエン等の溶媒存在下で加水分解する等の反応によって得られる。特に、オルガノクロロシラン類またはオルガノアルコキシシランを加水分解縮合する方法が一般的に用いられる。ここで、オルガノ基は、アルキル基やアリール基等の前記式(1)中のRに相当する基である。前記式(d1)〜(d4)で表されるD1〜D4単位は、それぞれ原料として用いるシラン類の構造と相関関係にあり、例えば、クロロシランの場合は、トリオルガノクロロシランを用いると式(d1)で表されるD1単位が、ジオルガノジクロロシランを用いると式(d2)で表されるD2単位が、オルガノクロロシランを用いると式(d3)で表されるD3単位が、テトラクロロシランを用いると式(d4)で表されるD4単位がそれぞれ得られる。また、上記式(1),(d2)〜(d4)において、(OR1)として示されるケイ素原子の置換基は、縮合されなかった加水分解の残基である。
【0040】
上記特殊なシリコーン樹脂(D成分)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体の10〜60重量%の範囲に設定することが好ましい。特に好ましくは20〜40重量%の範囲である。すなわち、10重量%未満では、耐熱性および耐光性が低下する傾向がみられ、60重量%を超えると、得られる樹脂組成物硬化体自身の脆さが顕著となる傾向がみられるからである。
【0041】
上記特定のアルコール類化合物(E成分)は、エポキシ樹脂組成物の変性剤として作用するものであり、1分子中に2個の一般水酸基を有するアルコール類化合物であって、下記の一般式(2)で表される。
【0042】
【化6】

【0043】
上記式(2)中、Xは、上述のとおり、単結合または炭素数1〜22の2価の炭化水素基であるが、好ましくは単結合または下記の構造式(x)で表される2価の炭化水素基である。なお、上記単結合とは、式(2)において、Xに2価の炭化水素基が存在せず、Xを挟んだ左右の炭素原子が直接結合していることを意味する。
【0044】
【化7】

【0045】
上記式(2)中のXが単結合または構造式(x)で表される上記式(2)で表されるアルコール類化合物(E成分)としては、具体的には、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、ジイソブチルプロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−(4−エチルシクロヘキシル)プロパン−1,2−ジオール等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらアルコール類化合物の中でも、さらなる耐光性の改善がみられるという点から、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、ジイソブチルプロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−(4−エチルシクロヘキシル)プロパン−1,2−ジオールがより好ましく用いられる。
【0046】
上記アルコール類化合物(E成分)の含有量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる酸無水物系硬化剤(B成分)のモル数に対して2〜30モル%となるよう設定することが好ましく、より好ましくは5〜25モル%である。すなわち、アルコール類化合物(E成分)の含有量が少なすぎると、充分な耐光性の向上効果が得られ難く、含有量が多すぎると、硬化物のガラス転移温度(Tg)が低下し、耐光性が低下する傾向がみられるからである。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、上記A〜E成分以外に、必要に応じて、酸化防止剤、上記E成分以外の変性剤、各種シランカップリング剤、脱泡剤、レベリング剤、離型剤、染料、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。一方、本発明のエポキシ樹脂組成物をリフレクタ形成材料として用いる場合には、さらに酸化チタン等の白色顔料を適宜配合してもよい。また、本発明の光半導体装置が紫外から青色の波長を発光する発光装置である場合は、波長変換体としての蛍光体をバルク中に分散させるか、発光素子近傍に配置することにより白色を発光する装置とすることが可能である。
【0048】
上記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物等の酸化防止剤があげられる。
【0049】
上記変性剤としては、先に述べた特定のアルコール類化合物(E成分)以外の各種変性剤があげられる。
【0050】
上記シランカップリング剤としては、例えば、シラン系、チタネート系等の各種シランカップリング剤があげられる。
【0051】
上記脱泡剤としては、例えば、シリコーン系等の脱泡剤があげられる。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして製造することによって、液状、粉末状、もしくはその粉末を打錠したタブレット状として得ることができる。すなわち、液状のエポキシ樹脂組成物を得るには、例えば、上記A〜E成分および必要に応じて適宜配合される各種添加剤を配合することにより得られる。また、粉末状もしくはその粉末を打錠したタブレット状として得るには、例えば、上記A〜E成分および必要に応じて適宜配合される各種添加剤を配合し予備混合した後、混練機を用いて混練して溶融混合し、ついで、これを室温まで冷却した後、熟成工程を経て公知の手段によって粉砕し、必要に応じて打錠することにより得ることができる。
【0053】
<光半導体素子封止用途>
このようにして得られた本発明のエポキシ樹脂組成物は、LED、電荷結合素子(CCD)等の光半導体素子の封止用として用いられる。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて光半導体素子を封止するには、特に限定するものではなく、通常のトランスファー成形や注型等の公知のモールド方法により行なうことができる。なお、本発明のエポキシ樹脂組成物が液状である場合には、少なくともエポキシ樹脂成分と酸無水物系硬化剤成分とをそれぞれ別々に保管し、使用する直前に両者を混合するという、いわゆる2液タイプとして用いればよい。また、本発明のエポキシ樹脂組成物が所定の熟成工程を経て、粉末状、あるいはタブレット状である場合には、上記各配合成分を溶融混合する際に、Bステージ(半硬化)状とし、これを使用時に加熱溶融すればよい。
【0054】
そして、本発明のエポキシ樹脂組成物によって光半導体素子を封止することによって、得られる光半導体装置は耐湿化が図られ、装置の輝度の劣化を抑制することができる。そのため、本発明のエポキシ樹脂組成物によって光半導体素子が封止された光半導体装置は、信頼性および加湿環境下での輝度劣化の抑制効果に優れ、その機能を充分に発揮することができる。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて得られる光半導体装置は、短波長(例えば、350〜500nm)光源を用いた白色発光装置として、発光素子近傍に光変換用の蛍光体を具備する、あるいは蛍光体そのものを本発明のエポキシ樹脂組成物からなる封止樹脂内部に分散させることにより白色光を得ることも可能である。
【0056】
<リフレクタ形成用途>
一方、本発明のエポキシ樹脂組成物をリフレクタ形成用途として使用することができる。すなわち、金属リードフレームをトランスファー成形機の金型内に設置して本発明のエポキシ樹脂組成物を用いてトランスファー成形によりリフレクタを形成する。このようにして、光半導体素子搭載領域の周囲を囲んだ状態でリフレクタが形成されてなる光半導体装置用の金属リードフレームを作製する。ついで、上記リフレクタの内部の、金属リードフレーム上の光半導体素子搭載領域に光半導体素子を搭載し、必要に応じてワイヤーボンディングを行なう。このようにして、搭載される光半導体素子の周囲を囲んだ状態でリフレクタが形成された金属リードフレームと、その金属リードフレーム上に搭載された光半導体素子を備えたユニットである光半導体装置が作製される。なお、上記光半導体装置では、通常、上記光半導体素子を含むリフレクタの内側領域は、シリコーン樹脂等を用いて封止される。
【実施例】
【0057】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0058】
まず、エポキシ樹脂組成物の作製に先立って下記に示す各成分を準備した。
【0059】
〔エポキシ樹脂〕
トリグリシジルイソシアヌレート(エポキシ当量:100)
【0060】
〔酸無水物系硬化剤〕
4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(b1)とヘキサヒドロ無水フタル酸(b2)との混合物〔酸無水当量:168、b1とb2の混合重量比(b1:b2)=7:3〕
【0061】
〔硬化促進剤〕
下記の構造式(c)で表されるメチルトリブチルホスホニウムジメチルホスフェート
【化8】

【0062】
〔シリコーン樹脂〕
フェニルトリクロロシラン148.2g(66mol%)、メチルトリクロロシラン38.1g(24mol%)、ジメチルジクロロシラン13.7g(10mol%)およびトルエン215gの混合物を、あらかじめフラスコ内に用意した水550g、メタノール150gおよびトルエン150gの混合溶媒に激しく攪拌しながら5分かけて滴下した。フラスコ内の温度は75℃まで上昇し、そのまま10分間攪拌を続けた。この溶液を静置し、室温(25℃)まで冷却した後、分離した水層を除去し、引き続き水を混合して攪拌後静置し、水層を除去するという水洗浄操作をトルエン層が中性になるまで行った。残った有機層は30分還流を続け、水およびトルエンの一部を留去した。得られたオルガノシロキサンのトルエン溶液を濾過して、不純物を除去した後、さらに残ったトルエンをロータリーエバポレータを用いて減圧留去することによって、固形のシリコーン樹脂を得た。得られたシリコーン樹脂はOH基を6重量%含むものであった。なお、使用した原料クロロシランは全て反応しており、得られたシリコーン樹脂は前記d2単位が10モル%、d3単位が90モル%からなり、フェニル基が60%、メチル基が40%のものであった。
【0063】
〔アルコール類化合物e1〕
下記の構造式(e1)で表される2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)
【化9】

【0064】
〔アルコール類化合物e2〕
下記の構造式(e2)で表される1,3−プロパンジオール
HO−CH2−CH2−CH2−OH ・・・(e2)
【0065】
〔アルコール類化合物e3〕
下記の構造式(e3)で表される2,2′−ジイソブチル−1,3−プロパンジオール
【化10】

【0066】
〔アルコール類化合物e4(比較例用)〕
下記の構造式(e4)で表されるトリメチロールプロパン〔1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン〕
【化11】

【0067】
〔酸化防止剤s1〕
下記の構造式(s1)で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド
【化12】

【0068】
〔酸化防止剤s2〕
下記の構造式(s2)で表されるテトラキス[メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン
【化13】

【0069】
〔実施例1〜5、比較例1〜2〕
後記の表1に示す各成分を同表に示す割合で配合することにより目的とするエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0070】
このようにして得られた実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物を用い、下記の方法に従って耐光性(輝度保持率)の測定・評価を行った。その結果を後記の表1に併せて示す。
【0071】
〔輝度保持率〕
上記各エポキシ樹脂組成物を用い、InGaN系(波長405nm)LEDをポッティング(120℃×1時間)により直径5mmの砲弾型ランプに樹脂封止し、さらに150℃で3時間硬化させることにより光半導体装置を作製した。そして、30mA(定格20mA)連続発光を常温(25℃)加湿無しの雰囲気下で行ない、その輝度を測定して、これを基準の100%とした。つぎに、30mA(定格20mA)連続発光を加湿条件下(85℃×85%)で行ない、1000時間経過後の輝度を測定し、上記常温加湿無しに対する輝度劣化保持率を調べた(輝度測定装置:テクノス社製オプトデバイス自動検査装置)。なお、各光半導体装置のサンプル数(n数)は5個としその平均値を示した。
【0072】
【表1】

【0073】
上記結果から、実施例品は、いずれも輝度保持率が高く、耐光性に優れていることがわかる。
【0074】
これに対して、アルコール類化合物を配合しなかった比較例1品では、輝度保持率が実施例品に比べて劣る結果となった。また、1分子中に3個の一級水酸基を有するアルコール類化合物e4を用いた比較例2品では、上記と同様、輝度保持率が実施例品に比べて劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の光半導体装置用エポキシ樹脂組成物は、LEDやCCD等の光半導体素子の樹脂封止材料や、リードフレームに搭載された光半導体素子から発する光を反射させるリフレクタの形成材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分とともに、下記の(D)および(E)成分を含有することを特徴とする光半導体装置用エポキシ樹脂組成物。
(A)エポキシ樹脂。
(B)酸無水物系硬化剤。
(C)硬化促進剤。
(D)シリコーン樹脂を構成するシロキサン単位が下記の一般式(1)で表され、一分子中に少なくとも一個のケイ素原子に結合した水酸基またはアルコキシ基を有し、ケイ素原子に結合した一価の炭化水素基(R)中、10モル%以上が置換または未置換の芳香族炭化水素基であるシリコーン樹脂。
【化1】

(E)下記の一般式(2)で表されるアルコール類化合物。
【化2】

【請求項2】
上記シリコーン樹脂を構成するシロキサン単位が下記の一般式(d1)〜(d4)で表されるD1〜D4単位であり、上記D1〜D4単位の構成割合が、下記の(α)〜(δ)の割合に設定されている請求項1記載の光半導体装置用エポキシ樹脂組成物。
【化3】

(α)D1単位が0〜30モル%
(β)D2単位が0〜80モル%
(γ)D3単位が20〜100モル%
(δ)D4単位が0〜30モル%
【請求項3】
上記(E)成分であるアルコール類化合物が、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、ジイソブチルプロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、および、2−(4−エチルシクロヘキシル)プロパン−1,2−ジオールからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の光半導体装置用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光半導体装置用エポキシ樹脂組成物を用いて光半導体素子を樹脂封止してなる光半導体装置。
【請求項5】
光半導体素子搭載領域を備え、その少なくとも一部で素子搭載領域の周囲を囲んだ状態でリフレクタが形成されてなる光半導体装置用リードフレームの所定位置に光半導体素子が搭載されてなる光半導体装置であって、上記リフレクタが、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光半導体装置用エポキシ樹脂組成物を用いて形成されてなることを特徴とする光半導体装置。

【公開番号】特開2012−241180(P2012−241180A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115975(P2011−115975)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】