説明

光学式測定装置

【課題】機械的走査機構を使用しない、高速、高分解能、かつ高耐久性の光学式測定装置を提供する。
【解決手段】発光素子1から出射され、偏向素子2により偏向されたビームB1を基にした平行ビームB2で測定対象物Wが位置する走査領域を繰り返し走査する投光手段3と、走査領域を通過したビームB2を受光して走査信号S1を出力する受光手段32と、走査信号を処理して測定値を得る制御手段33とを備える。偏向素子2は、電圧の印加によってビームの偏向角を決定する光学的特性が変化する。制御手段33は、偏向素子2に電圧を印加して、偏向素子2の光学的特性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行ビームを利用する走査型の光学式測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学式測定装置は、測定対象物が位置する走査領域を隔てて配置された投光部と受光部とを備え、投光部からの平行ビームにより走査領域を繰り返し走査し、走査領域を通過したビームを受光部で受光し、これにより発生した走査信号に所定の処理をして、測定対象物の直径や振れ等を測定するものである。具体的には、投光部からの平行ビームを上から下(または、下から上)へと繰り返し走査することにより、測定領域に配置された被測定物により遮られたビームの遮蔽時間を測定することで、被測定物の寸法を測定する。
【0003】
光学式測定装置の代表的なものに、光源として半導体レーザ等のレーザ光を使用したレーザ走査型測定装置がある。従来のレーザ走査型測定装置としては、ビームの走査手段として、高速で回転するポリゴンミラーを使用するもの(例えば、特許文献1)、及びガルバノスキャナーを使用するものが存在する。
【特許文献1】特開2006−38487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの走査手段は、機械的走査機構のため、ダウンサイジングや走査速度の高速化に限界があり、現状では、性能向上の余地が少ない。
【0005】
ポリゴンミラー方式の場合、モータを使用してポリゴンミラーを回転させて走査を行っている。8面のミラーを使用したと仮定すると、2000回/秒を実現するために、モータを15000rpmで回転させる必要がある。この回転数は、通常のモータ及び軸受けでは、耐久性の限界に相当する。
【0006】
一方、ガルバノスキャナー方式の場合、ガルバノスキャンモータにより、1枚のミラーの反射角度を変化させることにより走査を行っている。この方式でも、走査速度は実用的に、2000回/秒が限界である。
【0007】
従来、機械的走査機構を使用しない光学式測定装置として、受光部にインラインセンサを利用したものがある。この方式では、ビームを走査する必要がない。この場合、装置全体の測定範囲、分解能、測定スピードなどのすべての性能は、使用するインラインセンサの性能に依存する。高分解能、高感度、高応答速度を有する素子の供給は限られているので、光学式測定装置の設計自由度が非常に制限される。高性能なインラインセンサの供給が制限されている理由のひとつとして、インラインセンサが主にコピー機等の撮像素子として開発されてきたため、計測器が要求する性能と異なるという経緯がある。したがって、インラインセンサは高性能を要求する測定には実用的ではなく、ポリゴンミラー方式のレーザ走査型測定装置が多用されているのが現状である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、機械的走査機構を使用しない、高速、高分解能、かつ高耐久性の光学式測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る光学式測定装置は、発光素子から出射され、偏向素子により偏向されたビームを基にした平行ビームで測定対象物が位置する走査領域を繰り返し走査する投光手段と、走査領域を通過したビームを受光して走査信号を出力する受光手段と、走査信号を処理して測定値を得る制御手段と、を備え、偏向素子は、電圧の印加によってビームの偏向角を決定する光学的特性が変化するものであり、制御手段は、偏向素子に電圧を印加して、偏向素子の光学的特性を制御することを特徴とする。
【0010】
上記偏向素子として、KTN結晶(KTa1−xNb)を使用することが好ましい。
【0011】
固体のビーム偏向素子として、KTN結晶素子を使用することにより、高い走査速度を達成することができる。また、KTN結晶素子の大きさも小型化することができるため、装置全体を小型化及び軽量化することができる。さらに、KTN結晶は将来的に量産化により低価格化が予想され、装置コストの削減が期待できる。さらにまた、レーザビームの走査方式が機械的方式から固体素子に代替されることにより信頼性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機械的走査機構を使用しない、高速、高分解能、かつ高耐久性の光学式測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ走査型測定装置を説明するブロック図である。レーザ走査型測定装置30は、投光部31、受光部32、及び制御部33を備えて構成されている。投光部31と受光部32とは、走査領域Rを挟んで対向配置されている。走査領域Rは、被測定物Wを配置する装置外部の領域である。制御部33は、図示しないケーブルにより、投光部31及び受光部32と接続され、測定に必要な各種制御を実行する。
【0015】
投光部31は、半導体レーザのような発光素子1と、素子1から出射されたビームB1が入射するKTN結晶から成る偏向素子2と、偏向素子2によって偏向されたビームが通過する焦点位置補正光学系3と、ビームを反射する複数のミラー4,5,6と、ミラー4,5,6により反射されたビームを平行ビームB2にするためのコリメートレンズ7とを含む。焦点位置補正光学系3と、コリメートレンズ7との間に配置されるミラーの数は3つに限定されるものではなく、それ以上でもそれ以下でもよい。
【0016】
投光部31を構成するこれらの部品は、キャビネット42に収容されている。キャビネット42の一方の側面には、コリメータレンズ7と対向するように、保護ガラス40が嵌め込まれた窓が設けられている。平行ビームB2は、保護ガラス40を透過して走査領域Rを照射する。
【0017】
受光部32は、走査領域Rを通過した平行ビームB2が入射する集光レンズ9と、集光レンズ9で集光されたビームB3を受光して走査信号S1を出力する受光素子10と、走査信号S1を増幅するアンプ38とを備える。受光素子10は、例えばフォトダイオードである。集光レンズ9、受光素子10、及びアンプ38は、キャビネット43に収容されている。キャビネット43の一方の側面には、集光レンズ9と対向するように、保護ガラス41が嵌め込まれた窓が設けられている。走査領域Rを通過した平行ビームB2は、保護ガラス41を通過して集光レンズ9に入射する。窓の上下のキャビネットの内側にはフライングタイム計測板22,23が設けられている。
【0018】
ここで、フライングタイム計測板22、23について詳細に説明する。フライングタイム計測板22、23は、ビームB2が走査する際に2枚のフライングタイム計測板22、23の間を通過する時間を測定するためのものである。ビームB2の走査速度は理論的には電子回路のクロックで決まる。しかし、偏光素子2は、温度に極めて敏感であり、偏向素子2の温度により、印加電圧に対する偏向角特性が変化する。また、レーザ走査型測定装置30の各種部品のばらつき、アライメント誤差(例えば、偏光素子2とコリメータレンズ7との間の寸法)などの組立上のばらつきによってもビームの照射幅のばらつきや走査速度のばらつきが生じる。そのため、2枚のフライングタイム計測板22、23を使用して、実際のビームB2の走査速度を測定し、測定値を補正する必要がある。
【0019】
具体的には、2枚のフライングタイム計測板22、23をビームB2が通過する時間を測定し、上記したばらつきがないとした場合の通過時間からずれた分の比率に応じて、補正係数を乗算する。こうして、ばらつきを考慮した所定の精度内の測定値を得ることができる。補正方法として他に、基準ゲージを測定して、所望寸法のゲージによる校正をし、その所望寸法近傍で比較測定を行う方法、または複数種類のゲージを使って測定を行い、測定範囲全域を多点で補正する方法などがある。
【0020】
フライングタイム計測板22、23による測定結果を、レーザ走査型測定装置30の初期組立時の調整に使用することもできる。その結果、組立上の初期ばらつきによる偏向特性のばらつきが解消される。
【0021】
上記したように偏向素子2は温度に対して極めて敏感であるため、測定時には、偏向素子2の温度を所定の範囲に制御する必要がある。温度制御は、例えば、温度を検出するための白金温度センサ(図示せず)及び発熱体としてのペルチェ素子、薄膜発熱体等(図示せず)を使用して行われる。
【0022】
次に、制御部33について説明する。制御部33は、アンプ38で増幅された走査信号S1を整形してエッジ検出信号S2を出力するエッジ検出部11を備える。エッジ検出部11は、特定のしきい値を基準にして走査信号S1を整形してエッジを検出する。
【0023】
制御部33は、エッジ検出信号S2からエッジ間がアクティブになるゲート信号を生成すると共に、このゲート信号でクロックパルスをゲートした信号S3を出力する。制御部33は、さらに、上記クロックパルスを発生させるクロックパルス発振器14、及び信号S3のパルス数を計数するカウンタ13を備える。
【0024】
また制御部33は、測定に必要な各種制御を行うCPU15と、測定に必要な各種データ等を記憶するメモリ18と、測定値等を表示する表示部16と、測定に必要な各種設定を入力するための設定キー17と、外部装置との間でデータの入出力を行う外部インターフェイス部21とを備える。
【0025】
さらに制御部33は、メモリ18に記憶されたデジタル化補正データをアナログ信号に変換するためのD/A変換器19と、D/A変換器19からの出力信号を受信して偏向素子2を駆動するためのドライブ回路20とを備える。
【0026】
CPU15、メモリ18、ゲート信号発生回路12、カウンタ13、D/A変換器19、表示部16、設定キー17、及び外部インターフェイス部21は、メインバス34により互いに接続されている。
【0027】
次に、レーザ走査型測定装置を用いて測定値(例えば、被測定物Wの直径)を得る動作について、図1及び図2を用いて説明する。図2は、この測定動作を説明するためのタイミングチャートである。まず、クロックパルスCLKと同調して、発光素子1からビームB1を出射させる。ビームB1は、偏向素子2で偏向された後、ミラー4,5,6で反射されて、コリメートレンズ7により平行ビームB2にされる。平行ビームB2により、測定対象物Wが配置される走査領域Rが繰り返し走査される。
【0028】
走査領域Rを通過したビームは、集光レンズ9で集光されて、受光素子10で受光される。これにより、受光素子10から走査信号S1が出力される。受光素子10の受光面は被測定物Wにより遮られるため、走査信号S1はこれに対応した波形となる。sは、一回分の走査で出力される走査信号を示している。電圧の低い箇所Lは被測定物Wの直径と対応している。
【0029】
走査信号S1はアンプ38で増幅され、エッジ検出部11に入力する。測定には、所定のしきい値(例えば、しきい値50%)で生成された二値化信号が用いられる。
【0030】
走査信号S1が整形回路11に入力されると、しきい値50%で整形されたエッジ検出信号S2が出力される。この信号S2を基にして、ゲート回路12からクロックパルスCLKをゲートした信号S3が出力される。これにより、ゲート信号が「L」の期間のクロックパルスCLKの個数がカウンタ13で計測される。換言すれば、受光素子10が被測定物Wで遮られてビームB3を受光できない期間のクロックパルスCLKが計測される。この個数を用いて測定値(ここでは、被測定物Wの直径)がCPU15で演算される。走査領域Rは繰り返し走査されるので、何回分かのデータを平均した値が測定値として表示部16に表示される。
【0031】
設定キー17において、信号処理の手順、走査線の歪みを補正するための補正値等を入力する。設定キー17からの補正値を含むデジタル信号は、メインバス34を介してD/A回路19に入力する。そこで信号はアナログ信号に変換されて、以下で詳細に説明する偏向素子2及びコリメートレンズ7の光学的特性を補正する電圧パターン信号S4が生成される。この電圧パターン信号S4がドライブ回路20に入力し、ドライブ回路20は偏向素子2を駆動する。この動作の詳細については以下で説明する。
【0032】
本実施の形態の特徴は、偏向素子2として、KTN結晶を使用した点にある。ここで、KTN結晶について、説明する。KTN結晶(KTa1−xNb)は、カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及び酸素(O)から成る透明な光学結晶である。その特徴は、光偏向効率が高く大きなスキャン角度を得ることができる点、超小型化(6mm角)できる点、動作速度が超高速(例えば、10000回/秒)でありマイクロ秒応答が可能である点などである。
【0033】
次に、KTN結晶の動作原理について説明する。KTN結晶に電圧を印加すると電子の注入が生じ、傾斜電場が生成される。それにより、光の屈折率の分布が発生する。この屈折率のグラデーション効果は、KTN結晶の誘電率が非常に高いという特性のために顕著に現れる。結果として、高速かつ広角なビームスキャンが可能になる。KTN結晶の特性についてはさらに以下で詳細に説明する。
【0034】
図1に戻って説明を続ける。発光素子1から出射したビームB1は、KTN結晶から成る偏向素子2の入力端に入射する。ビームB1は、KTN結晶に印加された電圧により偏向されて、偏向素子2の出力端から出射する。偏向素子2からの出射ビームはKTN結晶の特性により歪むため、焦点位置補正光学系3によりその影響が除去される。こうして補正されたビームは、変位を拡大するために、3枚のミラー4,5,6で反射されてコリメートレンズ7に導かれる。コリメートレンズ7において、ビームは平行ビームに変換される。
【0035】
次に、KTN結晶の特性について図3を参照しながら、さらに詳細に説明する。上記したように、KTN結晶に電圧を印加すると、屈折率のグラデーションにより、ビームが偏向する。図3のビームL1、L2、L3を比較すると、徐々にビームの曲がり具合が大きくなることがわかる。図上の角度θはビームが偏向しない場合の基準線に対する偏向したビームの角度を示す。角度θが大きくなるに従い、ビームの回転中心が図の矢印Aの方向へずれる様子が描かれている。走査されたビームの回転中心が移動するとコリメートレンズ7で平行ビームに変換することができない。その理由を以下で図4を参照しながら説明する。
【0036】
図4は、偏向素子により偏向されたビームがコリメートレンズをどのように通過するかを示したものである。ビームIが平行ビームになるように、コリメートレンズを調整したとすると、ビームII、ビームIII、ビームIVと偏向角度が徐々に大きくなるに従い、偏向素子の特性により、ビームの回転中心が矢印A方向へ移動するため、コリメートレンズを通過したビームが互いに平行にならず、徐々に角度を有するようになる。
【0037】
したがって、コリメートレンズを通過したビームが平行ビームを形成するようにするためには、補正を行う必要がある。図5は、本実施の形態に従う、補正方法を示したものである。偏向素子2から出射されたビームは、焦点位置補正光学系3により、偏向角度に応じて補正された後、コリメートレンズ7に入射する。焦点位置補正光学系3は、偏向素子2により偏向されるビームの回転中心を、見かけ上、一点に固定するように補正することができる。結果として、コリメートレンズ7を通過したビームI’II’III’IV’は互いに平行になる。
【0038】
図3に戻って、説明を続ける。上記したように、KTN結晶に印加する電圧によってビームの進行方向が徐々に偏向する。その曲がり方は、従来のポリゴンミラーやガルバノミラーのように、ある一点を中心として曲がるのではなく、図3に示すように、結晶内部の電界の作用で徐々に曲がる点に特徴がある。ビームの曲がる角度は、印加電圧の2乗に比例する。結果として、図のような極性で電圧を印加した場合、ビームの回転中心がダウンストリーム側(すなわち、矢印A方向)に移動する現象と、ビームが曲がる角速度が変化する現象とが同時に起こる。したがって、より高精度な測定を行うためには、補正は、2段階で実行する必要がある。すなわち、第1段階補正として、図5で説明したように、結晶から出射されるビームの回転中心が見かけ上一点となるような補正を実行する。第2段階補正として、回転中心を基準にして偏向するビームの角速度を同じにして、等速の平行ビームを得るような補正を実行する。
【0039】
焦点位置補正レンズ3は、上記第1段階補正を実行する機能を有する非球面レンズである。しかし、上記したように、焦点位置補正レンズ3によりビームの回転中心の位置補正がなされたのみでは、平行ビームは互いに等速ではない。そこで、第2段階補正として、偏向素子2に印加する電圧パターンを制御し、ビームの偏向速度を等速にする補正を実行する。具体的には、メモリ18に記憶された印加電圧の補正データがメインバス34を介してD/A変換器19に入力する。D/A変換器19は補正された電圧パターンを生成する。これがドライブ回路20に与えられて、偏向素子2を駆動することにより、偏向速度の補正が達成される。
【0040】
偏向速度補正の原理について、図6から図8を参照してさらに詳細に説明する。図6は偏向素子2の特性を示したグラフである。縦軸は比偏向角(θr)、横軸は比電圧(Vr)をそれぞれ表している。ここで、偏向素子特性は正規化してあるため、各軸は比率で示している。曲線(a)は、KTN結晶の実際の特性を示し、直線(b)は、要求される素子特性を示している。要求される素子特性は線形であるのに対して、実際のKTN結晶は非線形(2乗)特性を有している。例えば、0.4θrの比偏向角を得るために、0.4Vrの比電圧では足りず、0.632Vrの比電圧を与える必要がある。そこで、例えば図7に示すような補正した電圧パターンBを与えることにより、図8に示すように、比偏向角と比電圧との間で線形関係を得ることが可能になる。図7において、波形Aは偏向素子に印加される補正前の電圧パターンの一例である。これに対して、波形Bは補正後の電圧パターンの一例を示している。
【0041】
電圧補正パターンに対応する数値データは、設定キー17から直接入力してもよいが、偏向素子2のダウンストリーム側にセンサを配置することにより、そのセンサから偏向速度情報を含む信号を捕獲し、それを二値化してCPU15にフィードバックし、さらに修正した補正信号を生成してD/A変換器19に戻す方法も可能である。この方法によれば、印加電圧の変動や、KTN結晶の製品ばらつきによるエラーを自己調整することが可能である。
【0042】
さらに、本実施の形態によれば、コリメートレンズ特性の補正をすることもできる。一般に、等角速度で走査されるビームはコリメートレンズでは等速度の平行ビームに変換することができない。このようなコリメートレンズ特性のために、上記2段階補正を行ったとしても、等速度の平行ビームを得ることができない。したがって、より高精度な測定値を得るためには、上記2段階補正に加え、さらにコリメートレンズ特性の補正を行う必要がある。以下、コリメートレンズ特性の補正について説明する。
【0043】
コリメートレンズの上記特性に起因して、ポリゴンミラーを使用した従来の光学式測定装置では、Y=f・θの特性を有する特殊なfθレンズを使用することにより、等角速度で走査されるビームを等速度の平行ビームに変換している。しかし、fθレンズを使用する従来の方法では、装置コストが高くなるばかりか装置スペースが増大するという問題があった。これに対して本実施の形態では、このような特殊なfθレンズを使用することなく、電気的にコリメートレンズ特性を補正することが可能である。
【0044】
表1はコリメートレンズの補正テーブルである。表1には、角度θ、tanθ、1度変化する毎のtanθの変化率が示されている。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、tanθの変化の比率は一定ではなく、角度が増すごとに増加する傾向にある。これは、コリメートレンズに入射するビームが等速ではないことを示している。そこで、表1に示すような補正係数を与える。この補正係数を乗じることによりtanθの変化の比率は一定となり、ビームが等速となる。この表1では、説明を簡単にするために、補正係数を一次の補正係数としているが、KTN結晶の駆動電圧の補正係数とした場合には、2次の補正係数となる。したがって、最終的な補正係数は、偏向素子特性の上記補正係数とコリメートレンズ補正係数とを掛け合わせたものとなる。
【0047】
本実施の形態によれば、KTN結晶を使用した高速走査が可能なレーザ走査型測定装置を提供することができる。
【0048】
また、KTN結晶の光学的特性を電気的に簡単に補正して制御することができるため、高精度な測定が実現できる。
【0049】
さらに、コリメートレンズ特性の補正も、KTN結晶の補正と同時に電気的に簡単に実行することができる。その結果、従来必要であった、fθレンズが不要となり、装置の小型化及び低コスト化を実現することができる。
【0050】
[第2の実施の形態]
図9は、本発明の第2の実施の形態に係るレーザ走査型測定装置50を説明するブロック図である。本実施の形態は、KTN結晶2a、2bを2つ直列に配置して偏向素子2’を構成している点で第1の実施の形態と異なっている。第1の実施の形態と同じ装置または手段については、同一符号で示す。
【0051】
制御部33’において、各KTN結晶2a、2bに対して駆動系統がそれぞれ設けられている。KTN結晶2aに対してはD/A変換器19及びドライブ回路20が設けられ、KTN結晶2bに対しては、D/A変換器24及びドライブ回路25が設けられている。
【0052】
発光素子1から出射されたビームは、KTN結晶2aの一方の端部から入射し、他方の端部から出射する。続いて、もうひとつのKTN結晶2bの一方の端部から入射し、他方の端部から出射する。KTN結晶2aはD/A変換器19が生成する電圧パターン信号S4を使って、ドライブ回路20によって駆動される。一方、KTN結晶2bはD/A変換器24が生成する電圧パターン信号S5を使って、ドライブ回路25により駆動される。その他の機能は第1の実施の形態と同様なので説明を省略する。
【0053】
次に、本発明の第2の実施の形態による、偏向素子2’の補正方法について、図10を参照して説明する。上記したように、第1のKTN結晶2aに入力したビームは印加電圧の2乗に比例して偏向するため、ビームの回転中心がダウンストリーム側に移動する。第2のKTN結晶2bには、第1のKTN結晶2aとは極性が逆の電圧を印加する。その結果、第2のKTN結晶2bに入力したビームは、第1のKTN結晶2aとは逆方向に偏向し、ビームの回転中心はアップストリーム側に移動する。したがって、第1のKTN結晶2aに印加する電圧と、第2のKTN結晶2bに印加する電圧とを適正に制御することにより、両者の作用が相殺されて、偏向の回転中心を一点に固定することが可能となる。こうして、ビームの回転中心を固定する補正を実行することができる。加えて、上記第1の実施の形態で説明した等速度補正及びコリメートレンズ特性補正を実行することにより、高精度な補正を実現することができる。
【0054】
第2の実施の形態のような構成によれば、第1の実施の形態によって得られる効果に加え、焦点位置補正光学系を使用する必要がないため、装置をより小型化、低コスト化することが可能である。
【0055】
[その他]
以上、発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加等が可能である。例えば、上記実施の形態では、KTN結晶を例にとって説明したが、KTN結晶と同様の作用を有するその他の結晶を偏向素子として使用することも可能である。また、上記第2の実施の形態では、KTN結晶を2個直列に配置したが、3個以上のKTN結晶を直列に接続して使用することも可能である。さらに、使用するKTN結晶のサイズは適宜選択可能であり、使用する補正電圧パターンは上記実施の形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る第1の実施例の形態を示すブロック図である。
【図2】図1の光学式測定装置を使って、被測定物を測定する方法を示すタイミングチャートである。
【図3】本発明に係る光学式測定装置で使用するKTN結晶の特性を説明したものである。
【図4】KTN結晶を使用した場合に、コリメートレンズを通過したビームが平行にならない様子を示したものである。
【図5】焦点位置補正光学系を使用することにより、偏向ビーム位置の移動を補正できることを説明したものである。
【図6】実際のKTN結晶の特性と、要求される特性とを比較したものである。
【図7】補正前の印加電圧パターンと補正後の印加電圧パターンとを比較したものである。
【図8】補正パターン信号により、偏向素子の特性が改善された様子を示す。
【図9】本発明に係る第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図10】図9の装置で使用される偏向素子の動作原理を説明したものである。
【符号の説明】
【0057】
1・・・発光素子、 2・・・偏向素子、 3・・・焦点位置補正光学系、 4,5,6・・・ミラー、 7・・・コリメートレンズ、 9・・・集光レンズ、 10・・・受光素子、 11・・・エッジ検出部、 12・・・ゲート回路、 13・・・カウンタ、 14・・・クロックパルス発振器、 15・・・CPU、 16・・・表示部、 17・・・設定キー、 18・・・メモリ、 19・・・D/A変換器、 20・・・ドライブ回路、 22,23・・・フライングタイム計測板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子から出射され、偏向素子により偏向されたビームを基にした平行ビームで測定対象物が位置する走査領域を繰り返し走査する投光手段と、
前記走査領域を通過したビームを受光して走査信号を出力する受光手段と、
前記走査信号を処理して測定値を得る制御手段と、を備え、
前記偏向素子は、電圧の印加によって前記ビームの偏向角を決定する光学的特性が変化するものであり、
前記制御手段は、前記偏向素子に電圧を印加して、前記偏向素子の光学的特性を制御する、
ことを特徴とする光学式測定装置。
【請求項2】
前記偏向素子は、KTN結晶(KTa1−xNb)から成ることを特徴とする請求項1に記載の光学式測定装置。
【請求項3】
前記投光手段は、前記偏向素子により偏向されたビームの焦点位置を補正する光学系と、この光学系で焦点位置補正がされたビームを平行光に変換するコリメータレンズとを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学式測定装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ビームの走査速度を一定にする特定の非線形パターンに従って、前記偏向素子への印加電圧を変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光学式測定装置。
【請求項5】
前記偏向素子は、ビームの進行方向に沿って直列に配置された、少なくとも2つのKTN結晶から成ることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学式測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−292210(P2008−292210A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135936(P2007−135936)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】