説明

光学素子アレイの製造方法、光学素子アレイ、及び光学系

【課題】高低差の小さい光学素子を高精度に形成し易い光学素子アレイの製造方法を提供する。
【解決手段】光学基材11上にフォトレジスト層15を設け、フォトレジスト層15を露光及び現像してフォトレジスト層15表面に凹凸形状部21を形成し、フォトレジスト層15及び光学基材11をエッチングすることで、光学基材11表面に凹凸形状部21に応じた形状を有する光学素子13を形成して光学素子アレイ10を製造する方法であり、フォトレジスト層15と光学基材10との選択比を1未満に調整してエッチングすることにより、凹凸形状部21の高低差より小さい高低差を有する光学素子13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にレンズやプリズム等の光学素子が形成された光学素子アレイの製造方法と、この製造方法により製造された光学素子アレイと、この光学素子アレイを用いた光学系とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表示素子、受光素子等の各種素子、レーザー加工機、計測器等の各種装置など、種々の分野において、マイクロレンズアレイのような微小な高精度の光学素子が光学基材表面に設けられた光学素子アレイが使用されており、近年、その需要がますます高まってきている。
【0003】
微小な光学素子を形成する方法としては、光学基材表面にレジスト層を設け、レジスト層表面に熱フロー処理を利用して所望の光学素子に対応する形状を有する凹凸形状部を形成し、ドライエッチングによりレジスト層に続いて光学基板をエッチングする方法が一般的であった。
【0004】
近年では、高精度の光学素子を有する光学素子アレイの需要が高まるにつれ、フォトレジスト層表面に凹凸形状部を形成する方法として、グレースケールマスクを使用して露光及び現像する方法が広まりつつある。
【0005】
例えば、下記特許文献1では、光学基材にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成し、フォトレジスト層と光学基材とのエッチング時の選択比や光学素子アレイの形状等を考慮して形成されたグレースケールマスクを用いて露光及び現像を行うことで、光学基材上のフォトレジスト層表面に凹凸形状部を形成し、フォトレジスト層に続いて凹凸形状部をドライエッチングして、凹凸形状部に応じた形状を有する光学素子を光学基材表面に形成している。
【0006】
また、この特許文献1では、凹凸形状部の形状やエッチング装置の使用時間によって選択比が変動することに起因して、光学素子の設計形状と最終形状とに相違が生じるため、一旦、ドライエッチングを行った後、ドライエッチングが行なわれた光学基材上に新たにフォトレジスト層を設け、補正用のグレースケールマスクを作製し、この補正用のグレースケールマスクを用いてフォトレジスト層の表面に補正用の凹凸形状部を形成し、再度ドライエッチングを行うことで、光学基材表面に形成される光学素子の最終形状を高精度に設計形状と一致させる処理が行われている。
【特許文献1】特開2006−30651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の光学素子アレイの製造方法では、光学基材表面に僅かな高低差の凹凸により光学素子を形成することが容易でなかった。
【0008】
即ち、光学基材表面に僅かな高低差の凹凸により光学素子を形成するには、光学基材上のフォトレジスト層表面に形成される凹凸形状部も僅かな高低差に形成しなければならない。その場合、精度を確保するには光学基材上にフォトレジスト層を非常に薄く形成することが必要である。ところが、フォトレジストを塗布及び乾燥するなどにより非常に薄いフォトレジスト層を形成することは製造上容易でない。
【0009】
また、フォトレジスト層表面に形成される凹凸形状部には、例えば、フォトレジスト層の厚さ、露光量、溶解量等のばらつきなど、作製上の種々の要因により形状に不可避の誤差が含まれる。この凹凸形状部を用いてエッチングすると、得られる光学素子の形状にもこの誤差が含まれることになる。ところが、光学素子の凹凸の高低差が小さいと、形状に対する誤差の割合が大きくなるため、光学素子の形状の精度が悪化し、所望の光学特性を得ることが困難であった。上記特許文献1のようにエッチング及び補正を繰り返したとしても、補正用のフォトレジスト層を設けて、その表面に凹凸形状部を形成する毎に新たな誤差が生じ、光学素子の形状に含まれる誤差を小さくすることは容易でなかった。
【0010】
そこで、本発明は、光学基材表面に僅かな高低差の凹凸により光学素子を高精度に形成し易い光学素子アレイの製造方法を提供することを課題とする。また、光学基材表面に僅かな高低差の凹凸からなるレンズを備えて高度な光学特性を実現し易い光学素子アレイを提供することを他の課題とし、そのような光学素子アレイを用いることで光学設計の自由度を向上し易い光学系を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の光学素子アレイの製造方法は、光学基材上にフォトレジスト層を設け、該フォトレジスト層を露光及び現像して該フォトレジスト層表面に複数の凹凸形状部を形成し、前記フォトレジスト層及び前記光学基材をエッチングすることで、前記光学基材表面に前記凹凸形状部に応じた形状を有する複数の光学素子を形成する光学素子アレイの製造方法において、前記フォトレジスト層と前記光学基材との選択比を1未満に調整してエッチングすることにより、前記凹凸形状部の高低差より小さい高低差を有する前記光学素子を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の光学素子アレイは、上記製造方法により製造された光学素子アレイであり、前記複数の光学素子は、前記光学基材の少なくとも一方の表面に、光軸が平行となるように複数設けられたレンズからなり、該レンズの高低差が5μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の光学系は、上記光学素子アレイを備えた光学系であり、発光素子が複数設けられた光源を備え、前記各発光素子と前記各レンズとがそれぞれ対応するように前記光源と前記光学素子アレイとが近接配置され、前記各発光素子からの拡散光が前記各レンズにより略平行光となるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学素子アレイの製造方法によれば、フォトレジスト層と光学基材との選択比を1未満に調整してエッチングすることにより、フォトレジスト層表面の凹凸形状部の高低差より小さい高低差を有する光学素子を光学基材表面に形成するので、僅かな高低差の凹凸により光学素子を形成する場合であっても、フォトレジスト層表面の凹凸形状部の高低差を大きく形成することができる。そのため、フォトレジスト層を適度な厚さで形成することが可能となり、フォトレジスト層を容易に形成することができる。
【0015】
同時に、フォトレジスト層と光学基材との選択比を1未満に調整してエッチングすることで、フォトレジスト層表面の凹凸形状部に存在する誤差を選択比に応じて小さくして光学基材をエッチングでき、光学素子の最終形状における高低差に対する誤差の割合を小さく抑えることができる。従って、光学基材表面に僅かな高低差の凹凸により光学素子を高精度に形成することが容易である。
【0016】
また、本発明の光学素子アレイによれば、光学基材表面の複数のレンズが上記製造方法により形成されているので、僅かな高低差の凹凸であっても高精度に形成することができ、高度な光学特性を実現し易い。
【0017】
また、本発明の光学系によれば、複数の発光素子と各レンズとがそれぞれ対応するように光源と光学素子アレイとが近接配置されて、各発光素子からの拡散光が各レンズにより略平行光となるように構成される光学系において、上記のような光学素子アレイを用いているので、各レンズが僅かな高低差の凹凸により光学基材表面に高精度に形成されている。そのため、より薄いレンズで所望の光学特性を実現でき、複数の発光素子や光源の配置などの光学設計の自由度を向上し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1乃至図3は、この実施の形態を示す。
【0019】
この実施の形態により製造する光学素子アレイとは、光学基材の少なくとも一方の表面に凸状及び/又は凹状の形状を有する光学素子が複数設けられた部材である。
【0020】
光学基材は、エッチングにより加工可能な材料であれば特に制限されず、例えば、ソーダライムガラス、光学ガラス、石英ガラス等の各種のガラス、蛍石、シリコン光学基材等の各種の結晶体、透光性セラミックス等の各種のセラミックス、各種の樹脂材料等が挙げられる。
【0021】
光学素子は、各種の光学特性が得られるように光学基材の表面を凸状又は凹状に形成した部位である。形状は任意であって、例えば、球面や非球面等の曲面形状、角張った屈曲面形状など、適宜選択可能である。特に、本発明は、光学素子の高低差が小さいものに適しており、例えば、5μm以下、好ましくは2μm以下のものが好適である。ここで、高低差とは、光学素子の周縁の光学基材の表面から該表面と直交方向に測定される突出量又は陥没量である。光学素子の表面形状が曲面からなる場合、所謂SAGで示される量である。
【0022】
この実施の形態では、図1に示すように、透明な光学基材11表面に、凸状の球面形状の光学素子としてのマイクロレンズ13が縦横に配列して設けられた光学素子アレイとしてのマイクロレンズアレイ10を製造する例について説明する。なお、図1及び図2では光学基材11の厚さを薄く示している。
【0023】
マイクロレンズアレイ10を製造するには、図2(a)乃至(e)に示すように、板状の光学基材11の上面にフォトレジスト層15を設け(a)、フォトレジスト層15を露光及び現像してフォトレジスト層15の表面に凹凸形状部21を形成し(b)(c)、フォトレジスト層15をエッチングすると共にフォトレジスト層15に続いて光学基材11をエッチングし(d)、光学基材11表面に凹凸形状部21に応じた形状を有するマイクロレンズ13を形成する(e)。
【0024】
まず、予め板状の光学基材11を適宜な形状に形成すると共に、マイクロレンズ13を形成する表面を用途に応じて、高精度に平坦に形成しておく。この平坦度は、例えば、触針式測定機(テンコール)により測定される表面粗さRMSが1nm以下となるようにしてもよい。
【0025】
そして、図2(a)に示すように、光学基材11上にフォトレジスト層15を形成する。このフォトレジスト層15は、光学基材11の上面にフォトレジストを塗布及び乾燥させることで、出来るだけ均一な厚さで形成する。
【0026】
フォトレジストとしては、ネガ型フォトレジスト、ポジ型フォトレジストなどを使用することができる。この実施の形態では、ポジ型フォトレジストを用いる。ポジ型フォトレジストは、露光量の分布と現像後の形状の対応関係を設定し易くでき、微細な形状を高精度に形成するのに有利である。
【0027】
フォトレジスト層15は、非常に薄く均一に形成したり、非常に厚く均一に形成することは技術的に困難であり、手間を要し易い。そのため、フォトレジスト層15の厚さは、少なくともマイクロレンズ13の設計形状の高低差と後述する選択比の逆数との積以上の範囲であって、例えば2〜10μm、好ましくは2〜5μmとするのが好適である。
【0028】
次いで、図2(b)に示すように、マイクロレンズ13の設計形状に基づいて精度よく光の透過率が調整されたグレースケールマスク19を用い、フォトレジスト層15を露光する。
【0029】
グレースケールマスク19には、各マイクロレンズ13に対応する位置にそれぞれ透過率調整部位19aが設けられている。図では、各透過率調整部位19aはそれぞれ独立しているが連続して形成されていてもよい。
【0030】
各透過率調整部位19aでは、透過率分布がマイクロレンズ13の設計形状と後述するエッチング時の選択比とに基づいて調整されている。各位置の透過率は、例えば、グレースケールマスク19の作成時に微小位置毎の開口率を変化させるなどにより適宜調整可能である。
【0031】
フォトレジスト層15の露光は、フォトレジスト層15上にグレースケールマスク19を配置し、グレースケールマスク19全体に均一な露光光を照射することにより行う。グレースケールマスク19の透過率調整部位19aを通して露光光がフォトレジスト層15に照射され、透過率調整部位19aの透過率分布に比例した露光量でフォトレジスト層15が露光される。この露光で、フォトレジスト層15が露光量に対応して現像液に対する溶解性が低下する。
【0032】
グレースケールマスク19を用いた露光により、フォトレジスト層15の各透過率調整部位19aに対応する位置が、設計形状におけるマイクロレンズ13の表面13aの各位置と周縁部13bとの光軸Lに沿う高低差と、エッチング時の選択比の逆数との積に比例した露光量で露光される。この露光量は各種の補正量が調整されていてもよい。
【0033】
なお、フォトレジスト層15の露光は、1枚のグレースケールマスク19を用いて1回で行うことも可能であるが、形成すべきマイクロレンズ13の形状によっては互いに異なるパターンを有する複数枚のグレースケールマスク19を用意し、これらを順番に用いてフォトレジスト層15を複数回に分けて露光してもよい。その場合、複数回の露光により所望の露光量となるようにする。例えば、一枚のグレースケールマスク19を用いて粗く露光し、他のグレースケールマスク19を用いて精密に露光することも可能である。複数枚のグレースケールマスク19を用いて複数回露光を行うようにすれば、現像後に得られる凹凸形状部21を所望の形状に精度よく形成し易くできる。
【0034】
次いで、図2(c)に示すように、フォトレジスト層15を現像液により現像して、フォトレジスト層15表面に凹凸形状部21を形成する。フォトレジスト層15の露光量がマイクロレンズ13の設計形状及びエッチング時の選択比に基づいて調整されているため、凹凸形状部21の高低差はマイクロレンズ13の設計形状の高低差より大きなものとなっている。
【0035】
このように形成された凹凸形状部21の形状には、例えば、フォトレジスト層15の厚さ、露光量、溶解量等のばらつきなど、作製上の種々の要因による誤差が生じている。この誤差とは、マイクロレンズ13の設計形状の各位置における光軸に沿う高さをエッチング時の選択比の逆数倍にして得られる形状との相違であり、出来るだけ少なく抑えて作製したとしても0.1μm程度は存在する。
【0036】
次いで、図2(d)に示すように、このような誤差を含んだ形状の凹凸形状部21が表面に形成されたフォトレジスト層15と、このフォトレジスト層15が上面に形成されている光学基材11とのエッチングを行う。
【0037】
この実施の形態では、エッチングは誘導結合プラズマを用いたドライエッチングにより行う。ドライエッチングでは、表面に凹凸形状部21を有するフォトレジスト層15が形成された光学基材11を収容空間20内に配置し、収容空間20内にエッチングガスを存在させた状態で所定の減圧雰囲気とし、誘導結合プラズマを用いて異方性エッチングを行う。
【0038】
エッチングガスは、プラズマを発生可能であると共に、凹凸形状部21と光学基材11とをエッチング可能なガスであり、例えば、Ar等の不活性ガスと、CF、CHF、C、及びSFのうちの少なくとも一種と、酸素とを含有する混合ガスなどを用いる。光学基材11として、石英ガラスを用いる場合、3フッ化メタンを含有するのが好ましい。
【0039】
ドライエッチングでは、フォトレジスト層15と光学基材11とを選択比が1未満となるように調整してエッチングする必要がある。これにより凹凸形状部21より光学基材11のエッチング量を少なくして、凹凸形状部21の高低差より小さい高低差を有するマイクロレンズ13を形成することが可能となる。
【0040】
特に限定されるものではないが、マイクロレンズ13の高低差が2μm以下の場合、選択率を0.4〜1としてもよい。このような範囲であれば、フォトレジスト層15を形成し易くできるからである。
【0041】
ドライエッチングにおいて、選択比を調整するには、例えば、エッチングガスの成分や圧力を調整したり、フォトレジスト層15の材料を選択したり、誘導結合プラズマを発生させるために印加される高周波電力を調整したり、配置を調整するなど、種々の方法により行うことが可能である。このうち、調整が容易であるという理由で、エッチングガスの成分を調整することが好ましく、特に、酸素の含有量を調整することでエッチングガスの成分を調整するのが好適である。酸素ガスは、フォトレジスト層15の燃焼に使われるため、エッチング速度を精度よく調整し易く、また、ドライエッチングの他の条件に与える影響が少ないからである。
【0042】
エッチングガスの成分により選択比を1未満に調整するには、例えば、光学基材11として石英ガラスを用いる場合、酸素及び3フッ化メタンを含有させ、エッチングガス中の3フッ化メタンの含有割合を20容積%以下にすると共に酸素の含有割合を3フッ化メタン含有割合以下に調整してもよい。3フッ化メタンの含有割合が20容積%より多いと、石英ガラス等の光学基材11のエッチングレートが高くなり易く、また、酸素の含有割合が3フッ化メタンの含有割合より多くなると、フォトレジスト層15のエッチングレートが高くなり易いからである。
【0043】
このように選択比を調整した状態でドライエッチングを行うと、凹凸形状部21が表面に形成されているフォトレジスト層15がエッチングされ、続いて光学基材11がエッチングされる。このとき、凹凸形状部21を含むフォトレジスト層15が光学基材11より多くエッチングされる。そして、例えば、凹凸形状部21を含むフォトレジスト層15が全てエッチングされた時点で終了することにより、図2(e)に示すように、光学基材11表面に凹凸形状部21に応じた形状のマイクロレンズ13が形成される。
【0044】
なお、このドライエッチングは1回で完了することも可能であるが、得られたマイクロレンズ13に補正可能な誤差が含まれることがある。例えば、マイクロレンズ13の形状やエッチング装置の使用時間等により選択比が変動することなどに起因する誤差などである。その場合には、一旦、ドライエッチングを行った後、マイクロレンズ13の形状を補正して精度を向上するために、再度、上記のような工程を繰り返すことも可能である。
【0045】
その際、マイクロレンズ13が形成された光学基材11上にフォトレジスト層15を形成し、補正用のグレースケールマスク19を作製して露光及び現像することで、フォトレジスト層15表面に補正用の凹凸形状部21を形成する。この凹凸形状部21は誤差に応じて調整された形状となる。そして、再び、選択比が1未満となるように調整してフォトレジスト層15及び光学基材11をドライエッチングする。このとき、先のエッチング時の選択比と同一にしてもよいが、誤差量が小さいため、より小さな選択比に設定して、補正用の凹凸形状部21を含むフォトレジスト層15がより多くエッチングされるようにしてもよい。このようにすれば、誤差量を低減し易いからである。
【0046】
以上のようなマイクロレンズ13の製造方法によれば、フォトレジスト層15と光学基材11との選択比を1未満に調整してエッチングすることにより、フォトレジスト層15表面の凹凸形状部21の高低差より小さい高低差を有するマイクロレンズ13を光学基材11表面に形成するので、僅かな高低差の凹凸によりマイクロレンズ13を形成する場合であっても、フォトレジスト層15表面の凹凸形状部21の高低差を大きく形成することができる。そのため、凹凸形状部21を形成するためのフォトレジスト層15を適度な厚さで形成することが可能であり、フォトレジスト層15や凹凸形状部21を容易に形成することができる。
【0047】
例えば、フォトレジスト層15を光学基材11上に形成する際には、フォトレジスト層15を十分な厚さに形成することができるため、フォトレジストを光学基材11上に非常に薄く均一に塗布するような必要がなく、容易に塗布することが可能である。また、フォトレジスト層15表面に凹凸形状部21を露光及び現像する際には、グレースケールマスク19のダイナミックレンジを大きくできるため、透過率の極めて微細な調整を行うような必要がなく、グレースケールマスク19の各透過率調整部位19aの透過率分布の精度を向上することが可能である。そのため、凹凸形状部21を形成することが容易である。
【0048】
同時に、フォトレジスト層15と光学基材11との選択比を1未満に調整してエッチングすることで、フォトレジスト層15の凹凸形状部21より少ない割合で光学基材11をエッチングするので、エッチングの加工精度が高いことと相俟って、凹凸形状部21に存在する誤差をその選択比に応じて小さくすることができ、エッチングにより得られるマイクロレンズ13の最終形状に含まれる各位置の誤差を小さく抑えることができる。そのため、光学基材11表面に僅かな高低差の凹凸によりマイクロレンズ13を形成していていも、マイクロレンズ13を精度よく形成することが可能である。
【0049】
逆に、マイクロレンズ13の設計形状に対する最終形状の誤差の許容範囲が設定される場合には、フォトレジスト層15と光学基材11との選択比を1未満に調整してエッチングすることで、フォトレジスト層15により形成される凹凸形状部21の形状精度をその分大きく設定することが可能である。
【0050】
具体的には、マイクロレンズ13のレンズ径200μm、レンズの光軸L方向の高低差1.5μm、焦点距離6.5mmの石英ガラス製のマイクロレンズアレイ10を製造する場合、選択比を1.5とすると、凹凸形状部21の高低差は1μmとなり、各マイクロレンズ13に許容される形状精度を高低差の10%以内とすると、凹凸形状部21の形状精度をPV100nmにしなければならない。ところが、同じマイクロレンズアレイ10を、選択比を0.5として製造すれば、凹凸形状部21の高低差は3μmとなり、凹凸形状部21の形状精度をPV300nmにすればよい。
【0051】
従って、このようにしてマイクロレンズアレイ10を製造すれば、光学基材11表面に僅かな高低差の凹凸によりマイクロレンズ13を高精度に形成することが容易である。
【0052】
更に、この製造方法では、誘導結合プラズマを用いたドライエッチングによりフォトレジスト層15及び光学基材11をエッチングするので、エッチングの選択性や異方性を向上し易いと共に光学基材11表面の劣化を抑え易いため、より誤差を抑えてマイクロレンズ13を形成し易い。
【0053】
また、ドライエッチングでは、酸素を含有するエッチングガスを用いてフォトレジスト層15及び光学基材11をエッチングすると共に、エッチングガス中の酸素の含有割合を調整することで選択比を調整すれば、エッチング条件を種々変動させることなく、選択比を調整することが容易であり、高精度のマイクロレンズ13を形成し易い。
【0054】
次に、このようにして製造されたマイクロレンズアレイ10について説明する。
【0055】
この実施の形態のマイクロレンズアレイ10は、図1に示すように、透明な光学基材11の一方の表面に複数のマイクロレンズ13が縦横に配列して、互いに光軸Lが平行となるように設けられている。図では、各マイクロレンズ13が互いに離間しているが互いに隣接していていもよい。
【0056】
各マイクロレンズ13は、凸状の球面形状を呈しており、球面形状の周縁の光学基材11の表面から直交方向に光軸Lに沿って測定される高低差を5μm以下、好ましくは2μm以下としている。更に、この実施の形態では、各レンズの有効径(D)に対する焦点距離(f)の比(f/D)を30〜80としている。
【0057】
このようなマイクロレンズアレイ10は、上述のように製造されているため、各マイクロレンズ13が僅かな高低差の凹凸であっても、各マイクロレンズ13の形状は高精度に形成されており、各位置における設計形状に対する最終形状の誤差が小さく抑えられている。例えば、各位置の誤差の最大値を高低差の10%以内とすることが可能であり、使用される光の波長の1/4以下とすることが可能である。そのため、このようなマイクロレンズアレイ10によれば、高度な光学特性を実現し易い。
【0058】
更に、僅かな高低差の凹凸のマイクロレンズ13の各位置の誤差を小さくできることで、精度よく焦点距離を設定することが可能であり、レンズのf/Dを30〜80として、より小さいレンズで長い焦点距離を精度良く確保することが可能である。そのため、各種の精密光学機器の光学系において、光学設計の自由度を向上することが可能である。
【0059】
次に、このマイクロレンズアレイ10を用いた光学系の例について、図3を用いて説明する。
【0060】
複数の発光素子33が縦横に配列して設けられた光源31と、光源31の各発光素子33からの拡散光を平行光にするマイクロレンズアレイ10と、マイクロレンズアレイ10からの平行光を集光するコンデンサレンズ37と、コンデンサレンズ37からの光を被照射物41に照射するリレーレンズ39とを備えている。ここでは、各マイクロレンズ13と各発光素子33とがそれぞれ対応するように光源31とマイクロレンズアレイ10とが近接配置されており、各発光素子33からの拡散光が各マイクロレンズ13によりそれぞれ略平行光として放射されるように構成されている。
【0061】
このような光学系30によれば、上述のようなマイクロレンズ13が多数設けられたマイクロレンズアレイ10を用いているので、各マイクロレンズ13の表面の各位置の誤差が小さく抑えられており、発光素子33からの拡散光を効率よく集光して被照射物に照射させることが可能である。また、マイクロレンズ13のf/Dが30〜80、例えば50であるので、より薄く小型のレンズで長い焦点距離を精度良く確保し易い。そのため、発光素子33や光源31の配置や形状などの自由度が大きく、光学設計の自由度を向上することが可能である。
【0062】
なお、上記実施の形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
【0063】
例えば、上記では誘導結合プラズマを用いてドライエッチングする例について説明したが、他の方法によるドライエッチングであってもよく、更に、選択比を調整可能であれば、ウエットエッチングよりエッチングすることも可能である。
【0064】
また、上記実施の形態では、光学素子アレイとして、光学基材11の一方の面に、凸状の球面形状を有するマイクロレンズ13が多数配列されたものについて説明したが、光学素子アレイの種類は特に限定されるものではない。例えば、凹状のレンズであってもよい。更に、非球面レンズ、シリンドリカルレンズなど、各種のレンズであってもよい。また、レンズに限定されるものではなく、不透明な光学基材を用いた他の光学素子アレイであっても、本発明を同様に適用することは可能である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
【0066】
図1に示すようなマイクロレンズアレイ10を製造し設計形状との誤差を測定した。
【0067】
マイクロレンズ13は、半径150μm、高低差であるSAG1.5μmとして、予めマイクロレンズ13の形状を設計すると共に、フォトレジスト層15を形成し易い範囲となるようにドライエッチング時の選択比を0.45に設定した。
【0068】
まず、直径6インチ、厚さ1.2mmの石英ガラスからなる光学基材11上に、回転数1500rpmで回転しつつポジ型フォトレジストを均一に塗布し、塗布厚を5〜6μmとし、これをオーブンにて100℃、30分加熱してフォトレジスト層15を形成した。
【0069】
次いで、マイクロレンズ13の設計形状の選択比の逆数倍(1/0.45)の高さを有する凹凸形状部21の形状が得られるように、透過率調整部位19aが設けられた2種類のグレースケールマスク19を使用し、株式会社ニコン製g線ステッパーを用いて、フォトレジスト層15を露光した。
【0070】
1方のグレースケールマスク19は透過率15〜65%で透過率を調整したもので、他方のグレースケールマスク19は、透過率20〜60%で透過率を調整したものである。
【0071】
2種類のグレースケールマスク19を順次フォトレジスト層15上に配置して露光を行い、一方の露光時間に比べて他方の露光時間を2倍にして、各グレースケールマスク19による露光量の和により、フォトレジスト層15の所望の露光量が得られるようにした。
【0072】
2種類のグレースケールマスク19による露光が完了した後、露光されているフォトレジスト層15を溶解可能な現像液で溶解して現像を行い、露光されたフォトレジスト層15からなる凹凸形状部21を形成した。
【0073】
得られた凹凸形状部21の形状を図4(a)に示すと共に、得られた凹凸形状部21の形状とマイクロレンズ13の設計形状の選択比の逆数倍の形状とを比較し、各位置における高さ方向の誤差を測定し、その結果を図4(b)に示した。
【0074】
その後、凹凸形状部21を有するフォトレジスト層15が設けられた光学基材11を収容空間20内に収容し、ICPを用いたドライエッチングによりエッチングすることで、光学基材11の表面にマイクロレンズ13を形成した。
【0075】
ドライエッチングでは、エッチングガスとしてアルゴン、酸素、3フッ化メタンの混合ガスを用いた。エッチング中、収容空間20内の気圧を0.3Paとし、混合ガスの成分比をアルゴン:酸素:3フッ化メタン=18:3.9:5.0とした。このようにエッチングガスの成分を調整することで、選択比を0.45に合わせるように調整した。
【0076】
得られたマイクロレンズ13の最終形状を図5(a)に示すと共に、得られたマイクロレンズ13の最終形状と設計形状との高さ方向の誤差を測定し、その結果を図5(b)に示した。
【0077】
図4及び図5から明らかなように、凹凸形状部21の誤差量に比べてマイクロレンズ13の最終形状の誤差量が略選択比に応じて小さくなっていたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態の光学素子を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の光学素子の形成方法の工程を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の光学系を示す模式図である。
【図4】実施例1により形成された凹凸形状部を示し、(a)は形状を示すグラフであり、(b)は誤差を示すグラフである。
【図5】実施例1により形成された光学素子を示し、(a)は形状を示すグラフであり、(b)は誤差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0079】
10 マイクロレンズアレイ
11 光学基材
13 マイクロレンズ
15 フォトレジスト層
19 グレースケールマスク
21 凹凸形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基材上にフォトレジスト層を設け、該フォトレジスト層を露光及び現像して該フォトレジスト層表面に複数の凹凸形状部を形成し、前記フォトレジスト層及び前記光学基材をエッチングすることで、前記光学基材表面に前記凹凸形状部に応じた形状を有する複数の光学素子を形成する光学素子アレイの製造方法において、
前記フォトレジスト層と前記光学基材との選択比を1未満に調整してエッチングすることにより、前記凹凸形状部の高低差より小さい高低差を有する前記光学素子を形成することを特徴とする光学素子アレイの製造方法。
【請求項2】
前記光学素子の高低差は5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子アレイの製造方法。
【請求項3】
誘導結合プラズマを用いたドライエッチングにより前記フォトレジスト層及び前記光学基材をエッチングすることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子アレイの製造方法。
【請求項4】
酸素を含有するエッチングガスを用いて前記フォトレジスト層及び前記光学基材をエッチングすると共に、前記エッチングガス中の前記酸素の含有割合を調整することで前記選択比を調整することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の光学素子アレイの製造方法。
【請求項5】
前記エッチングガスは、3フッ化メタンを含有し、該3フッ化メタンの含有割合が20%以下であると共に、前記酸素の含有割合が前記3フッ化メタンの含有割合以下であることを特徴とする請求項4に記載の光学素子アレイの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一つに記載の製造方法により製造された光学素子アレイであり、前記複数の光学素子は、前記光学基材の少なくとも一方の表面に、光軸が平行となるように複数設けられたレンズからなり、該レンズの高低差が5μm以下であることを特徴とする光学素子アレイ。
【請求項7】
前記レンズの有効径(D)に対する焦点距離(f)の比(f/D)が30〜80であることを特徴とする請求項6に記載の光学素子アレイ。
【請求項8】
請求項7に記載の光学素子アレイを備えた光学系であり、
発光素子が複数設けられた光源を備え、前記各発光素子と前記各レンズとがそれぞれ対応するように前記光源と前記光学素子アレイとが近接配置され、前記各発光素子からの拡散光が前記各レンズにより略平行光となるように構成されたことを特徴とする光学系。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−223250(P2009−223250A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70635(P2008−70635)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】