光導波路デバイス
【課題】光変調器において、光導波路の湾曲部分における曲率半径を小さくできるようにし、かつ湾曲部分における光放射損失を抑制する。
【解決手段】光変調器2は、電気光学光学効果を有する強誘電性材料からなる光導波路基板、光導波路基板に形成されている光導波路5、および光導波路5を伝搬する光を変調するための電圧を印加する変調用電極4A、4B、4Cを備える。少なくとも光導波路5の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下である。光導波路5が曲率半径30mm以下の湾曲部分5c、5dを含んでいる。
【解決手段】光変調器2は、電気光学光学効果を有する強誘電性材料からなる光導波路基板、光導波路基板に形成されている光導波路5、および光導波路5を伝搬する光を変調するための電圧を印加する変調用電極4A、4B、4Cを備える。少なくとも光導波路5の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下である。光導波路5が曲率半径30mm以下の湾曲部分5c、5dを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光変調器の変調帯域を広帯域化するために、光導波路基板を薄くすることによりマイクロ波と光波の速度整合をとる構造が提案されている。光導波路基板を薄くする構造において、速度整合条件を満足するためには光導波路部周辺の基板厚みを例えば10μm程度にする必要があり、光モードフィールドパターンの偏平化を防止し、基板薄型および溝加工による表面ラフネス、ダメージの影響で発生する光の伝搬損失を抑制するために2段裏溝構造を特許文献1で出願した。
【特許文献1】特開2002−109133号公報
【0003】
特許文献2に記載のデバイスにおいては、補強基板に空気層を設けることで速度整合条件を満たす構造になっている。また、特許文献3に記載のデバイスにおいては、補強基板上に厚さ30μm以下の平板状の光導波路基板を接合し、一体化することを記載している。
【特許文献2】特開平9−211402号公報
【特許文献3】特開2004−341147号公報
【0004】
また、特許文献4には、2本の光導波路が交差する交差部分を有する進行波形光変調器が記載されている。この型の光変調器においては、光導波路を基板の一端で折り返すことによって、強度変調を加えるのに必要な基板長さを低減している。
【特許文献4】特開平4−355714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光導波路デバイスの小型化のためには、より小さな曲率半径で光導波路を曲げることが望ましい。しかし、光導波路を曲げると、光導波路の湾曲部分で光放射損失が増大するために、光導波路の湾曲部分の曲率半径を小さくすることは困難であった。
【0006】
また、2本の光導波路が交差する交差部分を設けた場合には、この光導波路の交差部分における交差全角を小さくすることによって、光導波路基板の交差角に対して幅方向を小型化することが可能となる。これによって、より小さな光デバイスを実現できる。しかし、交差全角を小さくすると、交差部分での挿入損失とクロストークとが増大するために、交差全角を小さくすることは困難である。
【0007】
本発明の課題は、光導波路デバイスにおいて、光導波路の湾曲部分における曲率半径を小さくできるようにし、かつ湾曲部分における光放射損失を抑制することである。
【0008】
また、本発明の課題は、光導波路の交差部分を有する光変調器において、交差部分での交差全角を小さくできるようにし、かつ交差部分における挿入損失とクロストークとを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下であり、光導波路が曲率半径30mm以下の湾曲部分を含んでいることを特徴とする。
【0010】
第二の発明は、強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下であり、光導波路が交差部分を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第一の発明によれば、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下であり、光導波路が曲率半径30mm以下の湾曲部分を含んでいる。即ち、光導波路基板を30μm以下まで薄片化し、空気を含む低誘電率媒質上に光導波路基板を設置すれば、光導波路内の光の閉じ込めが強くなり、湾曲部分における放射損失を著しく低減できる。これによって、放射損失を抑制しつつ、デバイスの小型化を実現できることが分かった。
【0012】
ここで、光導波路形成領域における基板の厚さを30μm以下とすることによって、湾曲部分における放射損失を著しく低減できる。この厚さは10μm以下とすることが更に好ましく、8μm以下とすることが最も好ましい。光導波路形成領域における基板厚さの下限値は特にないが、強度の点からは2μm以上が好ましい。湾曲部分の曲率半径の最大値は特にないが、この曲率半径が30mmを超えると、基板が厚くともある程度放射損失は低くなるので、本発明の観点からは、湾曲部分の曲率半径を30mm以下とする。
【0013】
第一の発明においては、湾曲部分の外側に凹部を形成することができる。更に好ましくは、湾曲部分の内側に更に凹部を形成することができる。これらの凹部の形態は特に限定されないが、溝形状であることが好ましい。また、凹部の深さは特に限定されないが、湾曲部分における光の閉じ込めを強くするという観点からは、0.2μm以上が好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。ただし、基板厚さが薄い場合は相対的に浅い溝の形成で十分な効果を得ることが出来る。凹部の深さは基板の厚さ以下である。凹部が深くなりすぎると、基板の強度が低下するので、凹部の深さは基板の厚さよりも1μm以上浅いことが好ましい。
【0014】
第二の発明によれば、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下である。これによって、交差部分での交差全角を小さくでき、交差部分における挿入損失とクロストークとを抑制できる。
【0015】
ここで、光導波路形成領域における基板の厚さを30μm以下とすることによって、交差部分におけるクロストークおよび挿入損失を著しく低減できる。この厚さは10μm以下とすることが更に好ましく、8μm以下とすることが最も好ましい。光導波路形成領域における基板厚さの下限値は特にないが、強度の点からは2μm以上が好ましい。また、交差全角は特に限定はされない。しかし、交差全角の最大値が 40°を超えると、基板が厚くともある程度挿入損失は低く、クロストークは小さくなるので、本発明の観点からは、交差全角は40°以下が好ましい。更にこの観点からは、交差全角は20°以下とすることが更に好ましく、10°以下が最も好ましい。なお、交差全角が小さくなると、光導波路デバイスを小型化することが難しくなるので、光導波路デバイスの小型化という観点からは、交差全角を10°以上とすることが好ましく、15°以上とすることがさらに好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第一、第二の発明において、光導波路基板の表面側、裏面側は、空気層であるか、あるいは低誘電率材料層とすることが好ましく、これによって本発明の効果が顕著となる。この低誘電率層は、後述する接着層であることが好ましい。しかし、光導波路基板に対して保持基体を直接接合あるいは一体化した場合には、保持基体の材質を低誘電率材料とすることができる。
【0017】
図1は、光変調器2を示す平面図であり、図2は、図1の光変調器2の横断面図である。
【0018】
光変調器2は、光導波路基板3と保持基体31とを備えている。基板3、基体31は共に平板形状をしている。基板3(光導波路形成領域)の厚さは30μm以下である。基板3の主面には所定の電極4A、4B、4Cが形成されている。
【0019】
本例では、いわゆるコプレーナ型(Coplanar waveguide:CPW電極) の電極配置を採用しているが、電極の配置形態は特に限定されない。コプレーナ型では、一対の接地電極の間に一列の信号電極がはさまれている。しかし、本発明は、例えばACPSタイプの進行波形光変調器に適用できる。この場合には、一列の接地電極と一列の信号電極とが設けられている。また、いわゆる独立変調型の進行波形光変調器にも適用できる。
【0020】
本例では、光導波路5は、平面的に見るといわゆるマッハツェンダー型の光導波路を構成している。即ち、光導波路5の入射部5aに入射した光は、分岐部5bで二つに分岐し、各湾曲部分5cを経由して各変調部5A、5Bに入射する。そして、それぞれ湾曲部分5dを経て各分岐部5eに入り、合波し、出射部5fから出射される。一対の変調部5A、5Bに対して略水平方向に信号電圧を印加するようになっている。基板3の下面と保持基体31との間に、厚さが略一定の接着層30が介在し、基板3と保持基体31とを接着している。
【0021】
光導波路は、基板の一方の主面に直接形成されたリッジ型の光導波路であってよく、基板の一方の主面の上に他の層を介して形成されたリッジ型の光導波路であってよく、また基板の内部に内拡散法やイオン交換法によって形成された光導波路、例えばチタンや亜鉛拡散光導波路、プロトン交換光導波路であってよい。具体的には、光導波路が、基板表面から突出するリッジ型光導波路であってよい。リッジ型の光導波路は、レーザー加工、機械加工によって形成可能である。あるいは、高屈折率膜を基板上に形成し、この高屈折率膜を機械加工やレーザーアブレーション加工することによって、リッジ型の三次元光導波路を形成できる。高屈折率膜は、例えば化学的気相成長法、物理的気相成長法、有機金属化学的気相成長法、スパッタリング法、液相エピタキシャル法によって形成できる。
【0022】
本例では、電極は基板の表面に設けられているが、基板の表面に直接形成されていてよく、低誘電率層ないしバッファ層の上に形成されていてよい。低誘電率層は、酸化シリコン、弗化マグネシウム、窒化珪素、及びアルミナなどの公知の材料を使用することができる。ここで言う低誘電率層とは、基板本体を構成する材質の誘電率よりも低い誘電率を有する材料からなる層を言う。
【0023】
接着層30の厚さは1000μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。また、接着層30の厚さの下限は特にないが、マイクロ波実効屈折率の低減という観点からは、10μm以上であってもよい。
【0024】
光導波路基板3、保持基体31を構成する材料は、強誘電性の電気光学材料、好ましくは単結晶からなる。こうした結晶は、光の変調が可能であれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体、ニオブ酸カリウムリチウム、KTP、及び水晶などを例示することができる。
【0025】
保持基体31の材質は、上記した強誘電性の電気光学材料に加えて、更に石英ガラス等のガラスであってもよい。
【0026】
接着剤の具体例は、前記の条件を満足する限り特に限定されないが、エポキシ系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する材料と比較的近い熱膨張係数を有するアロンセラミックスC(商品名、東亜合成社製)(熱膨張係数13×10−6/K)を例示できる。
【0027】
また、接着層内に空洞を設け、空気層とすることができる。あるいは、接着層30の上側表面(光導波路基板に対向する表面)に凹部を設けることによって、この凹部を空気層として利用することができる。これらの場合、接着層および空気層の両方が低誘電率材料層として機能する。
【0028】
ここで、第一の発明に従い、図3に示すように、湾曲部分5cにおける曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。また、同様に、湾曲部分5dにおいても、曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。更に、湾曲部分5c、5dとは反対方向へと湾曲する湾曲部分5e、5fにおける各曲率半径も30mm以下とする。特に好ましくは、光導波路5の全長にわたって、各湾曲部分の曲率半径Rを30mm以下とする。
【0029】
また、図4に示す例においては、光導波路5の分岐部5b、湾曲部分5cおよび変調部5Aの末端の外側(外周側)に細長い凹部20が形成されている。そして、湾曲部分5cの曲率半径Rが30mm以下である。また、これと同様に、湾曲部分5dにおいても、湾曲部分5dの外側に細長い凹部20を設け、湾曲部分5dの曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。湾曲部分5c、5dの内側には凹部は形成されていない。これと同時に、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て外側には細長い凹部35が形成されており、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て内側には凹部は形成されていない。湾曲部分5e、5fの曲率半径Rが30mm以下である。特に好ましくは、光導波路5の全長にわたって、各湾曲部分の曲率半径を30mm以下とする。
【0030】
更に、図5に示す例では光導波路5の分岐部5b、湾曲部分5cおよび変調部5Aの末端の外側(外周側)に細長い凹部20Aが形成されている。これと共に、分岐部5b、湾曲部分5cおよび変調部5Aの末端の内側(内周側)に細長い凹部21が形成されている。そして、湾曲部分5cの曲率半径Rが30mm以下である。また、これと同様に、湾曲部分5dにおいても、湾曲部分5dの外側に細長い凹部20Aを設け、湾曲部分5dの内側に細長い凹部21を設け、湾曲部分5dの曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。これと同時に、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て外側には細長い凹部20Aが形成されており、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て内側にも凹部21が形成されている。湾曲部分5e、5fの曲率半径Rが30mm以下である。特に好ましくは、光導波路5の全長にわたって、各湾曲部分の曲率半径を30mm以下とする。
【0031】
凹部20、20A、21、30の形状や深さは特に限定されない。凹部20、21の幅W、W1、W2も特に限定されないが、湾曲部分5c、5d、5e、5fにおける光の閉じ込めを向上させるためには、0.2μm以上とすることが好ましく、0.5μm以上とすることが更に好ましい。また、また、凹部と湾曲部分5c、5d、5e、5f(のビーム中心)との距離d、d1、d2が小さ過ぎると、光導波路を伝搬する光を凹部によって減少させ、あるいは散乱させることになるので、この距離d、d1、d2は1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることが更に好ましい。また、d、d1、d2が大き過ぎると、湾曲部分における光の閉じ込め効果が低くなるので、d、d1、d2は15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。但し、凹部の最適位置は光導波路のスポット形状により変化する。小さなスポット径であれば、相対的に近い位置に凹部を形成するのが好ましい。一方大きなスポット径であれば相対的に遠い位置に凹部を形成するのが望ましい。
【0032】
図12は、第二の発明を適用可能な1×2光スイッチ21を模式的に示す平面図である。光スイッチはXカットニオブ酸リチウムからなる光導波路基板12、光導波路基板12上面に形成されたチタン拡散導波路22、23と、スイッチング動作に必要な電界を印加するために基板12上に配置された電極24、25からなる。電極24、25に電界を印加しない場合は、光は、入射ポート26から矢印Aのように光導波路22に入射し、次いで入力光は光導波路22を直進し、出力ポート27から矢印Bのように出力される。一方、電界を印加した場合は、電気光学効果により電極間ギャップで光導波路基板の屈折率が下がるために、入力光は全反射され、光導波路23を伝搬して出力ポート28に矢印Cのように出力される。
【0033】
ここで交差角θが小さい方が、全反射に必要な屈折率変化が小さくてすむために、駆動電圧を下げることができる。このため、より交差角θを小さくするために、本発明にしたがって基板12の厚さを30μm以下とする。
【0034】
更に、1つの基板上に複数の光機能処理部(例えば光スイッチ)を有する光集積デバイスにおいて、2つの導波波路が交わる箇所(交差部)に本発明を適用できる。
【0035】
図6は、第一および第二の各発明を適用可能な光変調器11を模式的に示す平面図である。光変調器11は、光導波路基板12と、図示しない保持基体31および接着層30(図2参照)とを備えている。基板12、基体31は共に平板形状をしている。基板12(光導波路形成領域)の厚さは30μm以下である。基板12の主面には所定の電極14、15、16が形成されている。
【0036】
本例では、光導波路17は、マッハツェンダー型の光導波路を折り返した形状を有している。即ち、光導波路17の入射部17aに入射した光は、分岐部17bで二つに分岐し、各湾曲部分17cを経由して一対の往路変調部17dに入射する。そして、それぞれ各湾曲部分17eを経て各連結部17fに入り、次いで光導波路基板12端部の反射点18で反射される。次いで、反射点18で反射された光は、それぞれ連結部17gを伝搬し、各湾曲部分17hから各復路変調部17jに入り、再び変調を受ける。次いで湾曲部分17k、各分岐部17mを通過し、合波し、出射部17nから出射される。
【0037】
接地電極14は、往路変調部14a、復路変調部14cおよび連結部14bを備えている。また接地電極16は、基部16aと変調部16bを備えている。信号電極15は、入力部15a、15d、変調部15b、15cを備えている。そして、接地電極の往路変調部14a、信号電極の往路変調部15b、接地電極16の変調部16bによって、変調部17dに対して略水平方向に変調電圧を印加し、変調部17d内を伝搬する光を変調する。接地電極の復路変調部14c、信号電極の復路変調部15c、接地電極16の変調部16bによって、変調部17jに対して略水平方向に変調電圧を印加し、変調部17j内を伝搬する光を変調する。
【0038】
このような型の光変調器においては、一方の分岐部17gと他方の分岐部17fとが交差部分19において交差するデザインとならざるを得ない。
【0039】
ここで、第一の発明を各湾曲部分17c、17e、17h、17kに対して適用することが可能である。また、第二の発明を光導波路の交差部分19に対して適用することが可能である。即ち、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下である。
【0040】
本例では強誘電性の光導波路基板としてXカットニオブ酸リチウム、光導波路としてチタン拡散導波路を用いた。ここで湾曲部分17c、17e、17h、17kは放射損失を低減するために、拡散前のチタン幅を広くする、あるいはチタン厚を厚くする事で、相対的に光導波路の閉じ込めを強くするのが望ましい。一方19の交差部分ではクロストークを向上させるために、拡散前のチタン幅を狭くする、あるいはチタン厚を薄くする事で、光導波路の閉じ込めを弱くするのが好ましい。この時、チタン幅もしくはチタン厚が異なる接続部では、その幅もしくは厚さをテーパ状に徐々に変化するように形成すれば低損失な光導波路が実現できる。本例では湾曲部分17c、17e、17h、17kで拡散前のチタン幅8ミクロン、交差部分19で拡散前のチタン幅3ミクロンとした。またテーパ部の長さを300μmとした。
【0041】
本発明の光導波路デバイスは、光強度変調器、あるいは光位相変調器が最も好ましいが、他の光導波路デバイス、例えば高調波発生素子、光スイッチ、オプティカルシグナルプロセッサー、センサーデバイスなどに適用できる。
【実施例】
【0042】
(実験1)
図1の光変調器1を使用する。具体的には、Xカットした3インチウエハー(LiNbO3 単結晶)からなる基板を使用し、チタン拡散プロセスとフォトリソグラフィー法とによって、ウエハーの表面にマッハツェンダー型の光導波路5を形成する。光導波路5のサイズは、例えば1/e2で10μmとできる。次いで、メッキプロセスにより、CPW電極を形成する。信号電極と接地電極とのギャップを40μmとし、電極厚みを28μmとし、電極長を40mmとした。次に薄型研磨のために研磨定盤に研磨ダミー基板を貼り付け、その上に変調器基板を電極面を下にして熱可塑性樹脂で貼り付ける。さらに、横型研磨およびポリッシング(CMP)にて10μm厚みまで基板本体4を薄型加工する。その後、平板状の保持基体31を基板に接着固定し、光ファイバーの接続部を端面研磨し、ダイシングにてチップ切断する。接着固定用の樹脂は、エポキシ系接着剤を使用して樹脂厚50μmとした。1.5μmシングルモード光ファイバーを保持した単芯ファイバーアレイを作製し、これを進行波形光変調器チップに結合し、光ファイバーと光導波路とを調芯し、紫外線硬化型樹脂によって接着する。
【0043】
ここで、光導波路基板3の厚さ、湾曲部分5c、5d、5e、5fにおける曲率半径Rを、表1および図7に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角180°当たりの放射損失を見積もった。この結果を表1に示す。また、曲がり角5°当たりの放射損失を図8に示す。なお、Tti(チタン拡散時のチタン厚み)を0.85μmとし、Wti(チタン拡散時のチタン幅)を7μmとした。
【0044】
【表1】
【0045】
この結果から、基板の厚さを30μm以下としたときには、曲率半径2mm〜30mmの広範囲にわたって、放射損失が著しく低減されることが判明した。
【0046】
(実験2)
実験1と同様にして光変調器を作製し、各光変調器の曲がり角5°当たりの放射損失を測定した。ただし、基板厚さは6μmとし、Tti(チタン拡散時のチタン厚み)を0.70μmとし、Wti(チタン拡散時のチタン幅)を、5、7、9、11μmとした。この結果を図8に示す。
【0047】
図8から分かるように、Wti(チタン拡散時のチタン幅)を大きくすること、特に7μm以上とすることによって、曲がり角5°当たりの放射損失が大きく低減されることを見いだした。
【0048】
(実験3)
実験1と同様にして、図1、2、5および図9に示すような形態の光変調器を作製した。ただし、溝を設けない例、溝20、35を設け、溝21を設けない例、溝20Aおよび21の両方を設けた例をそれぞれ実施した。各溝20、20A,21、35の幅W1、W2は5μmとし、各溝20、21と光導波路ビーム中心との距離d1、d2は4μmとした。各溝20、20A、21、35の深さDgは2μmとした。そして、光導波路基板3の厚さ、湾曲部分5c〜5fにおける曲率半径Rを、表2に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角180°当たりの放射損失を見積もった。この結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
この結果から、溝20、35を設け、基板の厚さを30μm以下としたときには、放射損失が著しく低減されることが判明した。溝21、20Aを設けた場合には、放射損失が更に低減されることも判明した。
【0051】
(実験4)
実験3と同様にして光変調器を作製した。ただし、細長い溝20、21を湾曲部分の外側および内側にそれぞれ形成した。溝20、21の幅W1、W2は5μmとし、溝20、21と光導波路ビーム中心との距離d1、d2は4μmとした。溝20、21の深さDgは2μmとした。光導波路基板3の厚さTsubを6μmとした。湾曲部分5cにおける曲率半径Rを、図10に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角5°当たりの放射損失を見積もった。この結果を図10に示す。
【0052】
図10から分かるように、基板厚さTsubを6μmまで小さくすると、溝の深さDgが2μmと浅い場合であっても、曲がり部での放射損失はかなり低減することができた。
【0053】
(実験5)
実験4と同様にして光変調器を作製した。ただし、曲がり部の外側に溝20、35を設けたが、内側の溝21は設けなかった。溝20、35の幅W1は5μmとし、溝20、35と光導波路ビーム中心との距離d1は4μmとした。溝20の深さDgは2.7μmとした。光導波路基板3の厚さTsubを8μmとした。湾曲部分5cにおける曲率半径Rを、図11に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角5°当たりの放射損失を見積もった。この結果を図10に示す。
【0054】
図11から分かるように、片側の溝20、35だけを設けた場合にも、曲がり部での放射損失はかなり低減することができた。
【0055】
(実験6)
実験1と同様にして、図2、図6に示すような形態の光変調器を作製した。ただし、本例では、各湾曲部分における曲率半径は15mmとした、そして、光導波路基板3の厚さ、交差全角θを、表3に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により挿入損失およびクロストークを見積もった。この結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
この結果から、基板の厚さを30μm以下としたときには、幅広い交差全角θ範囲にわたって、クロストーク、挿入損失が著しく低減されることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用可能な光変調器の一例を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の光変調器2の横断面図である。
【図3】第一の発明に係る光導波路パターンを示す平面図である。
【図4】光導波路の外側に溝20を形成した光導波路パターンを示す平面図である。
【図5】光導波路の両側に溝20、21を形成した光導波路パターンを示す平面図である。
【図6】第一および第二の発明を適用可能な折り返し型マッハツェンダー光変調器を概略的に示す平面図である。
【図7】曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図8】チタン幅Ttiを変更したときの曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図9】光導波路デバイスの各部分の寸法を示すための模式図である。
【図10】溝20、21を形成した場合の曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図11】溝20を形成した場合の曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図12】第二の発明を適用できる光スイッチ21を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
2、11 光変調器 3、12 光導波路基板 4A、4B、4C、14、15、16 変調用電極 5,17 光導波路 5A、5B、17d、17j 変調部 5a、17a
入射部 5b、5e、17b、17m 分岐部 5 5c、5d、17c、17e、17h、17k 湾曲部分 19 交差部分 20 湾曲部分の外周側の凹部 30 接着層(低誘電率層) 21 湾曲部分の内周側の凹部 31 保持基板 R 湾曲部分の曲率半径 W、W1、W2 凹部の幅 θ 交差全角
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光変調器の変調帯域を広帯域化するために、光導波路基板を薄くすることによりマイクロ波と光波の速度整合をとる構造が提案されている。光導波路基板を薄くする構造において、速度整合条件を満足するためには光導波路部周辺の基板厚みを例えば10μm程度にする必要があり、光モードフィールドパターンの偏平化を防止し、基板薄型および溝加工による表面ラフネス、ダメージの影響で発生する光の伝搬損失を抑制するために2段裏溝構造を特許文献1で出願した。
【特許文献1】特開2002−109133号公報
【0003】
特許文献2に記載のデバイスにおいては、補強基板に空気層を設けることで速度整合条件を満たす構造になっている。また、特許文献3に記載のデバイスにおいては、補強基板上に厚さ30μm以下の平板状の光導波路基板を接合し、一体化することを記載している。
【特許文献2】特開平9−211402号公報
【特許文献3】特開2004−341147号公報
【0004】
また、特許文献4には、2本の光導波路が交差する交差部分を有する進行波形光変調器が記載されている。この型の光変調器においては、光導波路を基板の一端で折り返すことによって、強度変調を加えるのに必要な基板長さを低減している。
【特許文献4】特開平4−355714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光導波路デバイスの小型化のためには、より小さな曲率半径で光導波路を曲げることが望ましい。しかし、光導波路を曲げると、光導波路の湾曲部分で光放射損失が増大するために、光導波路の湾曲部分の曲率半径を小さくすることは困難であった。
【0006】
また、2本の光導波路が交差する交差部分を設けた場合には、この光導波路の交差部分における交差全角を小さくすることによって、光導波路基板の交差角に対して幅方向を小型化することが可能となる。これによって、より小さな光デバイスを実現できる。しかし、交差全角を小さくすると、交差部分での挿入損失とクロストークとが増大するために、交差全角を小さくすることは困難である。
【0007】
本発明の課題は、光導波路デバイスにおいて、光導波路の湾曲部分における曲率半径を小さくできるようにし、かつ湾曲部分における光放射損失を抑制することである。
【0008】
また、本発明の課題は、光導波路の交差部分を有する光変調器において、交差部分での交差全角を小さくできるようにし、かつ交差部分における挿入損失とクロストークとを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下であり、光導波路が曲率半径30mm以下の湾曲部分を含んでいることを特徴とする。
【0010】
第二の発明は、強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下であり、光導波路が交差部分を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第一の発明によれば、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下であり、光導波路が曲率半径30mm以下の湾曲部分を含んでいる。即ち、光導波路基板を30μm以下まで薄片化し、空気を含む低誘電率媒質上に光導波路基板を設置すれば、光導波路内の光の閉じ込めが強くなり、湾曲部分における放射損失を著しく低減できる。これによって、放射損失を抑制しつつ、デバイスの小型化を実現できることが分かった。
【0012】
ここで、光導波路形成領域における基板の厚さを30μm以下とすることによって、湾曲部分における放射損失を著しく低減できる。この厚さは10μm以下とすることが更に好ましく、8μm以下とすることが最も好ましい。光導波路形成領域における基板厚さの下限値は特にないが、強度の点からは2μm以上が好ましい。湾曲部分の曲率半径の最大値は特にないが、この曲率半径が30mmを超えると、基板が厚くともある程度放射損失は低くなるので、本発明の観点からは、湾曲部分の曲率半径を30mm以下とする。
【0013】
第一の発明においては、湾曲部分の外側に凹部を形成することができる。更に好ましくは、湾曲部分の内側に更に凹部を形成することができる。これらの凹部の形態は特に限定されないが、溝形状であることが好ましい。また、凹部の深さは特に限定されないが、湾曲部分における光の閉じ込めを強くするという観点からは、0.2μm以上が好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。ただし、基板厚さが薄い場合は相対的に浅い溝の形成で十分な効果を得ることが出来る。凹部の深さは基板の厚さ以下である。凹部が深くなりすぎると、基板の強度が低下するので、凹部の深さは基板の厚さよりも1μm以上浅いことが好ましい。
【0014】
第二の発明によれば、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下である。これによって、交差部分での交差全角を小さくでき、交差部分における挿入損失とクロストークとを抑制できる。
【0015】
ここで、光導波路形成領域における基板の厚さを30μm以下とすることによって、交差部分におけるクロストークおよび挿入損失を著しく低減できる。この厚さは10μm以下とすることが更に好ましく、8μm以下とすることが最も好ましい。光導波路形成領域における基板厚さの下限値は特にないが、強度の点からは2μm以上が好ましい。また、交差全角は特に限定はされない。しかし、交差全角の最大値が 40°を超えると、基板が厚くともある程度挿入損失は低く、クロストークは小さくなるので、本発明の観点からは、交差全角は40°以下が好ましい。更にこの観点からは、交差全角は20°以下とすることが更に好ましく、10°以下が最も好ましい。なお、交差全角が小さくなると、光導波路デバイスを小型化することが難しくなるので、光導波路デバイスの小型化という観点からは、交差全角を10°以上とすることが好ましく、15°以上とすることがさらに好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第一、第二の発明において、光導波路基板の表面側、裏面側は、空気層であるか、あるいは低誘電率材料層とすることが好ましく、これによって本発明の効果が顕著となる。この低誘電率層は、後述する接着層であることが好ましい。しかし、光導波路基板に対して保持基体を直接接合あるいは一体化した場合には、保持基体の材質を低誘電率材料とすることができる。
【0017】
図1は、光変調器2を示す平面図であり、図2は、図1の光変調器2の横断面図である。
【0018】
光変調器2は、光導波路基板3と保持基体31とを備えている。基板3、基体31は共に平板形状をしている。基板3(光導波路形成領域)の厚さは30μm以下である。基板3の主面には所定の電極4A、4B、4Cが形成されている。
【0019】
本例では、いわゆるコプレーナ型(Coplanar waveguide:CPW電極) の電極配置を採用しているが、電極の配置形態は特に限定されない。コプレーナ型では、一対の接地電極の間に一列の信号電極がはさまれている。しかし、本発明は、例えばACPSタイプの進行波形光変調器に適用できる。この場合には、一列の接地電極と一列の信号電極とが設けられている。また、いわゆる独立変調型の進行波形光変調器にも適用できる。
【0020】
本例では、光導波路5は、平面的に見るといわゆるマッハツェンダー型の光導波路を構成している。即ち、光導波路5の入射部5aに入射した光は、分岐部5bで二つに分岐し、各湾曲部分5cを経由して各変調部5A、5Bに入射する。そして、それぞれ湾曲部分5dを経て各分岐部5eに入り、合波し、出射部5fから出射される。一対の変調部5A、5Bに対して略水平方向に信号電圧を印加するようになっている。基板3の下面と保持基体31との間に、厚さが略一定の接着層30が介在し、基板3と保持基体31とを接着している。
【0021】
光導波路は、基板の一方の主面に直接形成されたリッジ型の光導波路であってよく、基板の一方の主面の上に他の層を介して形成されたリッジ型の光導波路であってよく、また基板の内部に内拡散法やイオン交換法によって形成された光導波路、例えばチタンや亜鉛拡散光導波路、プロトン交換光導波路であってよい。具体的には、光導波路が、基板表面から突出するリッジ型光導波路であってよい。リッジ型の光導波路は、レーザー加工、機械加工によって形成可能である。あるいは、高屈折率膜を基板上に形成し、この高屈折率膜を機械加工やレーザーアブレーション加工することによって、リッジ型の三次元光導波路を形成できる。高屈折率膜は、例えば化学的気相成長法、物理的気相成長法、有機金属化学的気相成長法、スパッタリング法、液相エピタキシャル法によって形成できる。
【0022】
本例では、電極は基板の表面に設けられているが、基板の表面に直接形成されていてよく、低誘電率層ないしバッファ層の上に形成されていてよい。低誘電率層は、酸化シリコン、弗化マグネシウム、窒化珪素、及びアルミナなどの公知の材料を使用することができる。ここで言う低誘電率層とは、基板本体を構成する材質の誘電率よりも低い誘電率を有する材料からなる層を言う。
【0023】
接着層30の厚さは1000μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。また、接着層30の厚さの下限は特にないが、マイクロ波実効屈折率の低減という観点からは、10μm以上であってもよい。
【0024】
光導波路基板3、保持基体31を構成する材料は、強誘電性の電気光学材料、好ましくは単結晶からなる。こうした結晶は、光の変調が可能であれば特に限定されないが、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体、ニオブ酸カリウムリチウム、KTP、及び水晶などを例示することができる。
【0025】
保持基体31の材質は、上記した強誘電性の電気光学材料に加えて、更に石英ガラス等のガラスであってもよい。
【0026】
接着剤の具体例は、前記の条件を満足する限り特に限定されないが、エポキシ系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する材料と比較的近い熱膨張係数を有するアロンセラミックスC(商品名、東亜合成社製)(熱膨張係数13×10−6/K)を例示できる。
【0027】
また、接着層内に空洞を設け、空気層とすることができる。あるいは、接着層30の上側表面(光導波路基板に対向する表面)に凹部を設けることによって、この凹部を空気層として利用することができる。これらの場合、接着層および空気層の両方が低誘電率材料層として機能する。
【0028】
ここで、第一の発明に従い、図3に示すように、湾曲部分5cにおける曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。また、同様に、湾曲部分5dにおいても、曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。更に、湾曲部分5c、5dとは反対方向へと湾曲する湾曲部分5e、5fにおける各曲率半径も30mm以下とする。特に好ましくは、光導波路5の全長にわたって、各湾曲部分の曲率半径Rを30mm以下とする。
【0029】
また、図4に示す例においては、光導波路5の分岐部5b、湾曲部分5cおよび変調部5Aの末端の外側(外周側)に細長い凹部20が形成されている。そして、湾曲部分5cの曲率半径Rが30mm以下である。また、これと同様に、湾曲部分5dにおいても、湾曲部分5dの外側に細長い凹部20を設け、湾曲部分5dの曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。湾曲部分5c、5dの内側には凹部は形成されていない。これと同時に、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て外側には細長い凹部35が形成されており、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て内側には凹部は形成されていない。湾曲部分5e、5fの曲率半径Rが30mm以下である。特に好ましくは、光導波路5の全長にわたって、各湾曲部分の曲率半径を30mm以下とする。
【0030】
更に、図5に示す例では光導波路5の分岐部5b、湾曲部分5cおよび変調部5Aの末端の外側(外周側)に細長い凹部20Aが形成されている。これと共に、分岐部5b、湾曲部分5cおよび変調部5Aの末端の内側(内周側)に細長い凹部21が形成されている。そして、湾曲部分5cの曲率半径Rが30mm以下である。また、これと同様に、湾曲部分5dにおいても、湾曲部分5dの外側に細長い凹部20Aを設け、湾曲部分5dの内側に細長い凹部21を設け、湾曲部分5dの曲率半径Rを曲率半径30mm以下とする。これと同時に、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て外側には細長い凹部20Aが形成されており、湾曲部分5e、5fの曲率中心から見て内側にも凹部21が形成されている。湾曲部分5e、5fの曲率半径Rが30mm以下である。特に好ましくは、光導波路5の全長にわたって、各湾曲部分の曲率半径を30mm以下とする。
【0031】
凹部20、20A、21、30の形状や深さは特に限定されない。凹部20、21の幅W、W1、W2も特に限定されないが、湾曲部分5c、5d、5e、5fにおける光の閉じ込めを向上させるためには、0.2μm以上とすることが好ましく、0.5μm以上とすることが更に好ましい。また、また、凹部と湾曲部分5c、5d、5e、5f(のビーム中心)との距離d、d1、d2が小さ過ぎると、光導波路を伝搬する光を凹部によって減少させ、あるいは散乱させることになるので、この距離d、d1、d2は1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることが更に好ましい。また、d、d1、d2が大き過ぎると、湾曲部分における光の閉じ込め効果が低くなるので、d、d1、d2は15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。但し、凹部の最適位置は光導波路のスポット形状により変化する。小さなスポット径であれば、相対的に近い位置に凹部を形成するのが好ましい。一方大きなスポット径であれば相対的に遠い位置に凹部を形成するのが望ましい。
【0032】
図12は、第二の発明を適用可能な1×2光スイッチ21を模式的に示す平面図である。光スイッチはXカットニオブ酸リチウムからなる光導波路基板12、光導波路基板12上面に形成されたチタン拡散導波路22、23と、スイッチング動作に必要な電界を印加するために基板12上に配置された電極24、25からなる。電極24、25に電界を印加しない場合は、光は、入射ポート26から矢印Aのように光導波路22に入射し、次いで入力光は光導波路22を直進し、出力ポート27から矢印Bのように出力される。一方、電界を印加した場合は、電気光学効果により電極間ギャップで光導波路基板の屈折率が下がるために、入力光は全反射され、光導波路23を伝搬して出力ポート28に矢印Cのように出力される。
【0033】
ここで交差角θが小さい方が、全反射に必要な屈折率変化が小さくてすむために、駆動電圧を下げることができる。このため、より交差角θを小さくするために、本発明にしたがって基板12の厚さを30μm以下とする。
【0034】
更に、1つの基板上に複数の光機能処理部(例えば光スイッチ)を有する光集積デバイスにおいて、2つの導波波路が交わる箇所(交差部)に本発明を適用できる。
【0035】
図6は、第一および第二の各発明を適用可能な光変調器11を模式的に示す平面図である。光変調器11は、光導波路基板12と、図示しない保持基体31および接着層30(図2参照)とを備えている。基板12、基体31は共に平板形状をしている。基板12(光導波路形成領域)の厚さは30μm以下である。基板12の主面には所定の電極14、15、16が形成されている。
【0036】
本例では、光導波路17は、マッハツェンダー型の光導波路を折り返した形状を有している。即ち、光導波路17の入射部17aに入射した光は、分岐部17bで二つに分岐し、各湾曲部分17cを経由して一対の往路変調部17dに入射する。そして、それぞれ各湾曲部分17eを経て各連結部17fに入り、次いで光導波路基板12端部の反射点18で反射される。次いで、反射点18で反射された光は、それぞれ連結部17gを伝搬し、各湾曲部分17hから各復路変調部17jに入り、再び変調を受ける。次いで湾曲部分17k、各分岐部17mを通過し、合波し、出射部17nから出射される。
【0037】
接地電極14は、往路変調部14a、復路変調部14cおよび連結部14bを備えている。また接地電極16は、基部16aと変調部16bを備えている。信号電極15は、入力部15a、15d、変調部15b、15cを備えている。そして、接地電極の往路変調部14a、信号電極の往路変調部15b、接地電極16の変調部16bによって、変調部17dに対して略水平方向に変調電圧を印加し、変調部17d内を伝搬する光を変調する。接地電極の復路変調部14c、信号電極の復路変調部15c、接地電極16の変調部16bによって、変調部17jに対して略水平方向に変調電圧を印加し、変調部17j内を伝搬する光を変調する。
【0038】
このような型の光変調器においては、一方の分岐部17gと他方の分岐部17fとが交差部分19において交差するデザインとならざるを得ない。
【0039】
ここで、第一の発明を各湾曲部分17c、17e、17h、17kに対して適用することが可能である。また、第二の発明を光導波路の交差部分19に対して適用することが可能である。即ち、少なくとも光導波路の領域における光導波路基板の厚さが30μm以下である。
【0040】
本例では強誘電性の光導波路基板としてXカットニオブ酸リチウム、光導波路としてチタン拡散導波路を用いた。ここで湾曲部分17c、17e、17h、17kは放射損失を低減するために、拡散前のチタン幅を広くする、あるいはチタン厚を厚くする事で、相対的に光導波路の閉じ込めを強くするのが望ましい。一方19の交差部分ではクロストークを向上させるために、拡散前のチタン幅を狭くする、あるいはチタン厚を薄くする事で、光導波路の閉じ込めを弱くするのが好ましい。この時、チタン幅もしくはチタン厚が異なる接続部では、その幅もしくは厚さをテーパ状に徐々に変化するように形成すれば低損失な光導波路が実現できる。本例では湾曲部分17c、17e、17h、17kで拡散前のチタン幅8ミクロン、交差部分19で拡散前のチタン幅3ミクロンとした。またテーパ部の長さを300μmとした。
【0041】
本発明の光導波路デバイスは、光強度変調器、あるいは光位相変調器が最も好ましいが、他の光導波路デバイス、例えば高調波発生素子、光スイッチ、オプティカルシグナルプロセッサー、センサーデバイスなどに適用できる。
【実施例】
【0042】
(実験1)
図1の光変調器1を使用する。具体的には、Xカットした3インチウエハー(LiNbO3 単結晶)からなる基板を使用し、チタン拡散プロセスとフォトリソグラフィー法とによって、ウエハーの表面にマッハツェンダー型の光導波路5を形成する。光導波路5のサイズは、例えば1/e2で10μmとできる。次いで、メッキプロセスにより、CPW電極を形成する。信号電極と接地電極とのギャップを40μmとし、電極厚みを28μmとし、電極長を40mmとした。次に薄型研磨のために研磨定盤に研磨ダミー基板を貼り付け、その上に変調器基板を電極面を下にして熱可塑性樹脂で貼り付ける。さらに、横型研磨およびポリッシング(CMP)にて10μm厚みまで基板本体4を薄型加工する。その後、平板状の保持基体31を基板に接着固定し、光ファイバーの接続部を端面研磨し、ダイシングにてチップ切断する。接着固定用の樹脂は、エポキシ系接着剤を使用して樹脂厚50μmとした。1.5μmシングルモード光ファイバーを保持した単芯ファイバーアレイを作製し、これを進行波形光変調器チップに結合し、光ファイバーと光導波路とを調芯し、紫外線硬化型樹脂によって接着する。
【0043】
ここで、光導波路基板3の厚さ、湾曲部分5c、5d、5e、5fにおける曲率半径Rを、表1および図7に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角180°当たりの放射損失を見積もった。この結果を表1に示す。また、曲がり角5°当たりの放射損失を図8に示す。なお、Tti(チタン拡散時のチタン厚み)を0.85μmとし、Wti(チタン拡散時のチタン幅)を7μmとした。
【0044】
【表1】
【0045】
この結果から、基板の厚さを30μm以下としたときには、曲率半径2mm〜30mmの広範囲にわたって、放射損失が著しく低減されることが判明した。
【0046】
(実験2)
実験1と同様にして光変調器を作製し、各光変調器の曲がり角5°当たりの放射損失を測定した。ただし、基板厚さは6μmとし、Tti(チタン拡散時のチタン厚み)を0.70μmとし、Wti(チタン拡散時のチタン幅)を、5、7、9、11μmとした。この結果を図8に示す。
【0047】
図8から分かるように、Wti(チタン拡散時のチタン幅)を大きくすること、特に7μm以上とすることによって、曲がり角5°当たりの放射損失が大きく低減されることを見いだした。
【0048】
(実験3)
実験1と同様にして、図1、2、5および図9に示すような形態の光変調器を作製した。ただし、溝を設けない例、溝20、35を設け、溝21を設けない例、溝20Aおよび21の両方を設けた例をそれぞれ実施した。各溝20、20A,21、35の幅W1、W2は5μmとし、各溝20、21と光導波路ビーム中心との距離d1、d2は4μmとした。各溝20、20A、21、35の深さDgは2μmとした。そして、光導波路基板3の厚さ、湾曲部分5c〜5fにおける曲率半径Rを、表2に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角180°当たりの放射損失を見積もった。この結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
この結果から、溝20、35を設け、基板の厚さを30μm以下としたときには、放射損失が著しく低減されることが判明した。溝21、20Aを設けた場合には、放射損失が更に低減されることも判明した。
【0051】
(実験4)
実験3と同様にして光変調器を作製した。ただし、細長い溝20、21を湾曲部分の外側および内側にそれぞれ形成した。溝20、21の幅W1、W2は5μmとし、溝20、21と光導波路ビーム中心との距離d1、d2は4μmとした。溝20、21の深さDgは2μmとした。光導波路基板3の厚さTsubを6μmとした。湾曲部分5cにおける曲率半径Rを、図10に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角5°当たりの放射損失を見積もった。この結果を図10に示す。
【0052】
図10から分かるように、基板厚さTsubを6μmまで小さくすると、溝の深さDgが2μmと浅い場合であっても、曲がり部での放射損失はかなり低減することができた。
【0053】
(実験5)
実験4と同様にして光変調器を作製した。ただし、曲がり部の外側に溝20、35を設けたが、内側の溝21は設けなかった。溝20、35の幅W1は5μmとし、溝20、35と光導波路ビーム中心との距離d1は4μmとした。溝20の深さDgは2.7μmとした。光導波路基板3の厚さTsubを8μmとした。湾曲部分5cにおける曲率半径Rを、図11に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により曲がり角5°当たりの放射損失を見積もった。この結果を図10に示す。
【0054】
図11から分かるように、片側の溝20、35だけを設けた場合にも、曲がり部での放射損失はかなり低減することができた。
【0055】
(実験6)
実験1と同様にして、図2、図6に示すような形態の光変調器を作製した。ただし、本例では、各湾曲部分における曲率半径は15mmとした、そして、光導波路基板3の厚さ、交差全角θを、表3に示すように変更するものとし、ビーム伝搬法により挿入損失およびクロストークを見積もった。この結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
この結果から、基板の厚さを30μm以下としたときには、幅広い交差全角θ範囲にわたって、クロストーク、挿入損失が著しく低減されることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用可能な光変調器の一例を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の光変調器2の横断面図である。
【図3】第一の発明に係る光導波路パターンを示す平面図である。
【図4】光導波路の外側に溝20を形成した光導波路パターンを示す平面図である。
【図5】光導波路の両側に溝20、21を形成した光導波路パターンを示す平面図である。
【図6】第一および第二の発明を適用可能な折り返し型マッハツェンダー光変調器を概略的に示す平面図である。
【図7】曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図8】チタン幅Ttiを変更したときの曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図9】光導波路デバイスの各部分の寸法を示すための模式図である。
【図10】溝20、21を形成した場合の曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図11】溝20を形成した場合の曲がり部5°当たりの放射損失を示すグラフである。
【図12】第二の発明を適用できる光スイッチ21を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
2、11 光変調器 3、12 光導波路基板 4A、4B、4C、14、15、16 変調用電極 5,17 光導波路 5A、5B、17d、17j 変調部 5a、17a
入射部 5b、5e、17b、17m 分岐部 5 5c、5d、17c、17e、17h、17k 湾曲部分 19 交差部分 20 湾曲部分の外周側の凹部 30 接着層(低誘電率層) 21 湾曲部分の内周側の凹部 31 保持基板 R 湾曲部分の曲率半径 W、W1、W2 凹部の幅 θ 交差全角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、
少なくとも前記光導波路の領域における前記光導波路基板の厚さが30μm以下であり、前記光導波路が曲率半径30mm以下の湾曲部分を含んでいることを特徴とする、光導波路デバイス。
【請求項2】
前記光導波路が不純物をドープすることにより形成されたことを特徴とする、請求項1記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
前記湾曲部分の曲率中心から見て前記湾曲部分の外側において前記光導波路基板に凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1または2記載の光導波路デバイス。
【請求項4】
前記湾曲部分の曲率中心から見て前記湾曲部分の内側において前記光導波路基板に他の凹部が形成されていることを特徴とする、請求項3記載の光導波路デバイス。
【請求項5】
前記光導波路を伝搬する光を変調するための電圧を印加する変調用電極を備えていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の光導波路デバイス。
【請求項6】
強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、
少なくとも前記光導波路の領域における前記光導波路基板の厚さが30μm以下であり、前記光導波路が交差部分を含んでいることを特徴とする、光導波路デバイス。
【請求項7】
前記光導波路が、不純物をドープすることにより形成されていることを特徴とする、請求項6記載の光導波路デバイス。
【請求項8】
前記光導波路を伝搬する光を変調するための電圧を印加する変調用電極を備えていることを特徴とする、請求項6または7記載の光導波路デバイス。
【請求項1】
強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、
少なくとも前記光導波路の領域における前記光導波路基板の厚さが30μm以下であり、前記光導波路が曲率半径30mm以下の湾曲部分を含んでいることを特徴とする、光導波路デバイス。
【請求項2】
前記光導波路が不純物をドープすることにより形成されたことを特徴とする、請求項1記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
前記湾曲部分の曲率中心から見て前記湾曲部分の外側において前記光導波路基板に凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1または2記載の光導波路デバイス。
【請求項4】
前記湾曲部分の曲率中心から見て前記湾曲部分の内側において前記光導波路基板に他の凹部が形成されていることを特徴とする、請求項3記載の光導波路デバイス。
【請求項5】
前記光導波路を伝搬する光を変調するための電圧を印加する変調用電極を備えていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の光導波路デバイス。
【請求項6】
強誘電性の光導波路基板およびこの光導波路基板に形成された光導波路を備えている光導波路デバイスであって、
少なくとも前記光導波路の領域における前記光導波路基板の厚さが30μm以下であり、前記光導波路が交差部分を含んでいることを特徴とする、光導波路デバイス。
【請求項7】
前記光導波路が、不純物をドープすることにより形成されていることを特徴とする、請求項6記載の光導波路デバイス。
【請求項8】
前記光導波路を伝搬する光を変調するための電圧を印加する変調用電極を備えていることを特徴とする、請求項6または7記載の光導波路デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−133135(P2007−133135A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325928(P2005−325928)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
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