説明

内燃機関の制御方法および内燃機関システム

【課題】吸気弁閉タイミングの変化の連続性を加味して膨張比を高めること。
【解決手段】第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じる早閉じステップ、第1閉弁タイミング範囲IVC1stから遅角側に離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21を閉じる遅閉じステップ、第1閉弁タイミング範囲IVC1stから第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに吸気弁閉タイミングIVCを遷移する遅角遷移ステップS10、並びに第2閉弁タイミング範囲IVC2ndから第1閉弁タイミング範囲IVC1stに吸気弁閉タイミングIVCを遷移する進角遷移ステップS20を実行する。遷移ステップS10、S20では、吸気弁閉タイミングIVCが当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxに至るまでは、点火タイミングSAを遅角し、IVCmaxを通過した後は、点火タイミングSAを進角する点火アドバンスステップを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御方法および内燃機関システムに関し、概略的には内燃機関の吸気弁閉タイミング設定方法に関し、より具体的には、比較的高い圧縮比を持つ内燃機関に好適な吸気弁閉タイミング設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気弁の最大バルブリフト量を機関運転条件に応じて変更することが、例えば特許文献1に開示されるように、知られている。機関速度が高いほど、吸気慣性力は大きい。従って、空気流量に応じて定まる所定以上のバルブリフト量があるならば、機関速度に応じて遅角する所定タイミングにおいて吸気弁が閉じるときに、気筒空気充填量が最大となる。この最大充填量に対応する所定タイミングから吸気弁閉タイミングが離れるほど、つまり進角または遅角するほど、気筒空気充填量は少なくなる。この原理に従い、特許文献1に記載されたカム駆動式の可変動弁装置は、各気筒への目標空気充填量の増加に応じてバルブリフト量を増大するように制御され、そして、バルブリフト量の増大に応じて吸気弁閉タイミングが遅角するように構成されている。従って、特許文献1の構成では、吸気管圧力を高く保った状態で、気筒空気充填量を目標量に制御することができる。
【0003】
ここで、吸気行程においてピストンが下降する際には、ピストンの上下に各々気筒内圧力とクランクケース内圧力が作用する。気筒内圧力は、吸気管圧力に略等しく、クランクケース内圧力は大気圧に略等しい。従って、吸気管圧力が大気圧より低ければ、下降中のピストンの下面に作用する圧力が上面に作用する圧力を上回り、ピストン下降運動に対する抵抗力を生み、いわゆるポンプ損失が発生する。よって、吸気管圧力をできるだけ高く保つことで、ポンプ損失を低下させ、機関運転効率を向上することができる。
【0004】
一方、機関運転効率を高める別の方策として、膨張比を高めることが知られている。膨張比は、ピストンが上死点にあるときの気筒容積に対するピストンが下死点にあるときの気筒容積の比である。従って、膨張比を高めるほど、混合気の持つエネルギーがピストンの仕事により高い効率で変換され、結果的に機関運転効率を向上させることができる。しかし、これは同時に圧縮比を高めることにもなる。
【0005】
火花点火式内燃機関の圧縮比を高める場合、混合気の自着火やノッキング等の課題がある。それに対処するために、例えば、特許文献2には、自着火が生じやすい運転状態を検出した場合に、電磁駆動式吸気弁の閉タイミングを遅角または進角させ、有効圧縮比すなわち気筒空気充填量を低減させる方法が開示されている。
【0006】
ところで、吸気弁の閉タイミングが運転状態に応じて変化する場合、点火タイミングの過渡的な過遅角または過進角を防止する必要がある。そのような観点から、吸気弁の開閉タイミングに応じて、点火タイミングを制御する内燃機関の制御システムも開発されている。
【0007】
例えば、特許文献3に開示されている制御システムでは、吸気弁閉弁タイミングが吸気下死点から離れているときには、吸気弁閉弁時期が吸気下死点から離れていないときに比べ、点火手段による点火時期を進角させる構成を採用し、燃焼期間を確保して、出力の維持を図るようにしている。
【特許文献1】特開2006−97647号公報
【特許文献2】特開2001−159348号公報
【特許文献3】特開2002−257018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1と特許文献2の方法を組み合わせて、高膨張比による機関運転効率を高める技術を開発する場合、目標充填効率が低い運転領域では、吸気弁閉タイミングを、当該機関速度において充填効率が最大となるタイミングよりも進角側に設定し(このような設定による閉弁動作を「早閉じ」ともいう)、低負荷運転領域での機械的なロスを抑制するとともに、目標充填効率が高い運転領域では、吸気弁閉タイミングを、当該機関速度において充填効率が最大となるタイミングよりも遅角側に設定し(このような設定による閉弁動作を「遅閉じ」ともいう)、高負荷運転領域での充分な充填効率を確保する必要がある。
【0009】
ところが、早閉じ動作と遅閉じ動作との間で吸気弁閉タイミングがシフトする間は、空気過剰になる傾向が高く、特に、高圧縮比エンジンでは、プリイグニション等の異常燃焼懸念が高まるタイミングでもある。
【0010】
そのため、吸気弁の開閉タイミングを、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングの両側に設定可能にするとともに、早閉じ動作と遅閉じ動作と間で吸気弁閉タイミングを遷移する過渡的な状態において、特に異常燃焼や点火タイミングの過遅角、過進角を防止して、気筒サイクル毎に連続性を持たせる必要がある。
【0011】
従って、吸気弁閉タイミングの変化の連続性を加味して膨張比を高めることができる技術を開発する余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグとを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する遅角遷移ステップを備え、前記遅角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップを含んでいることを特徴とする内燃機関の制御方法である。
【0013】
この態様では、目標充填効率が所定充填効率よりも小さいときは、早閉じ動作によって第1閉弁タイミング範囲内で吸気弁が閉じられる一方、目標充填効率が所定充填効率以上のときは、遅閉じ動作によって第1閉弁タイミング範囲よりも遅角し、且つ離間した第2閉弁タイミング範囲内で吸気弁が閉じられる。従って、例えば、吸気弁開タイミングを一定に維持しつつ目標充填効率の増加に応じて吸気弁閉タイミングが遅角する可変動弁装置を採用した場合に、目標充填効率が比較的小さい運転領域では、早閉じ動作によって、要求される充填効率に相応した小さな開弁量によって内燃機関を運転し、過大な動弁動作による機械損失を低減することができるとともに、目標充填効率が高い運転領域では、遅閉じ動作によって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、必要な充填効率を充分に確保し、高い機関出力を得ることができる。また、目標充填効率の高い機関高負荷状態では、機関出力が高まるので、その後機関速度が上昇する可能性が高い。吸気慣性力の影響で、機関速度が高いほど、一定の充填効率を得る吸気弁閉タイミングが遅くなる。従って、予め第2閉弁タイミング範囲を低速運転領域に設定しておくことで、高負荷時の回転上昇中に吸気弁閉タイミングが、第1閉弁タイミング範囲と第2閉弁タイミング範囲との間に位置する中間閉弁タイミング範囲に入る頻度を最小化することができるので、吸気管圧力を低下させる程度を最小化し、ポンプ損失を最小化することができる。それで、高圧縮比に伴う問題の発生を防止しつつ、膨張比を高めて、機関運転効率を向上させることができる。加えて、第1閉弁タイミング範囲から第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移する過程では、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに近づくほど点火タイミングを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングを進角するので、吸気弁閉タイミングの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができる。
【0014】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁とを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する遅角遷移ステップを備え、前記遅角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップ、並びに前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度を低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度を増加するスロットル制御ステップを含んでいることを特徴とする内燃機関の制御方法である。
【0015】
この態様では、吸気弁閉タイミングが空気過剰となる領域に近いほど、スロットル開度が低減するので、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。しかも、異常燃焼を防止するに当たり、スロットル弁による気筒空気量低下制御の遅れを応答性の速い点火遅角量で制御しているので、機関出力を安定化させることができる。また、スロットル弁による気筒空気量低下により、点火タイミングの遅角量を抑制し、充分な混合気燃焼期間を確保して、機関運転効率を向上することができる。
【0016】
各態様において、前記点火アドバンスステップ終了後の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも遅角していることが好ましい。その場合には、充填効率の多い遅閉じ動作時では、充填効率の少ない早閉じ動作時よりも点火タイミングが遅角しているので、充填効率を増加した後に遅閉じ動作が実行される運転領域であっても、より確実に異常燃焼の防止を図ることができる。
【0017】
各態様において、前記遅角遷移ステップは、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに対応する点火タイミングを最遅角点火タイミングとして、現在の有効圧縮比を正規化する正規化ステップ、正規化された有効圧縮比を所定の反映率で重み付けして補正値を算出するステップ、前記第1閉弁タイミング範囲の最遅角時の吸気弁閉タイミングに基づく点火タイミングをベース値として算出するベース値算出ステップおよび算出されたベース値、前記補正値、並びに前記最遅角点火タイミングに基づいて、目標となる有効圧縮比に対応する点火タイミングをテーリングするテーリングステップを含んでいることが好ましい。その場合には、吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となるとき(たとえば吸気下死点)の点火タイミングを最遅角タイミングとして、目標充填効率の変化に応じて点火タイミングを無段階に進角側に移行させ、燃焼安定性を確保しつつ吸気弁閉タイミングを遷移させることができる。
この態様において、「正規化」とは、有効圧縮比が幾何学的圧縮比と等しいときの値(例えば1)と、有効圧縮比がゼロのときの値(例えば0)とを設定し、両者の差(0−1)の値を算出することをいう。充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過する範囲で点火タイミングの切換を制御する際には、現在の点火タイミングと目標となる点火タイミングとが、最遅角を要する点火タイミングよりも進角側に存在するため、充填効率が最大となるタイミングで吸気弁が閉じるときには、適正な点火タイミングよりも遙かに進角側で点火されることになり、高圧縮比エンジンではプリイグニション等の異常燃焼が生じやすくなるおそれがある。これに対して、本態様では、充填効率が最大となるタイミングを最遅角タイミングとし、目標となる点火タイミングをベースとして、現在の有効圧縮比を正規化しているので、有効圧縮比が最大となるときの点火タイミングを最も遅角させることができる結果、所要の燃焼期間を確保しつつ、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。さらに、テーリングステップによって、正規化された有効圧縮比が所定の反映率で重み付けされるので、点火タイミングをより適正な位相に遅角または進角させることができる。
【0018】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグとを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する進角遷移ステップを備え、前記進角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップを含んでいることを特徴とする内燃機関の制御方法である。この態様においても、第2閉弁タイミング範囲から第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移する過程では、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに近づくほど点火タイミングを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングを進角するので、吸気弁閉タイミングの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができる。
【0019】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁とを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する進角遷移ステップを備え、前記進角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップ、並びに前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度を低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度を増加するスロットル制御ステップを含んでいることを特徴とする内燃機関の制御方法である。この態様においても、吸気弁閉タイミングが空気過剰となる領域に近いほど、スロットル開度が低減するので、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。しかも、異常燃焼を防止するに当たり、スロットル弁による気筒空気量低下制御の遅れを応答性の速い点火遅角量で制御しているので、機関出力を安定化させることができる。また、スロットル弁による気筒空気量低下により、点火タイミングの遅角量を抑制し、機関運転効率を向上することができる。
【0020】
各態様において、前記点火アドバンスステップ終了後の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも進角していることが好ましい。その場合には、充填効率の少ない早閉じ動作時では、充填効率の多い遅閉じ動作時よりも点火タイミングが進角しているので、充填効率の少ない運転領域でも確実に混合気の燃焼期間を確保し、燃焼安定性の確保と期間出力の維持を図ることができる。
【0021】
各態様において、前記進角遷移ステップは、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに対応する点火タイミングを最遅角点火タイミングとして、現在の有効圧縮比を正規化する正規化ステップ、正規化された有効圧縮比を所定の反映率で重み付けして補正値を算出するステップ、前記第2閉弁タイミング範囲の最進角時の閉弁タイミングに基づく点火タイミングをベース値として算出するベース値算出ステップおよび算出されたベース値、前記補正値、並びに前記最遅角点火タイミングに基づいて、目標となる有効圧縮比に対応する点火タイミングをテーリングするテーリングステップを含んでいることが好ましい。その場合にも吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となるとき(たとえば吸気下死点)の点火タイミングを最遅角タイミングとして、目標充填効率の変化に応じて点火タイミングを無段階に進角側に移行させ、燃焼安定性を確保しつつ吸気弁閉タイミングを遷移させることができる。
【0022】
各態様において、前記点火タイミングの最遅角時は、機関速度が大きいほど遅角することが好ましい。その場合には、点火リタードステップと点火アドバンスステップの切換点が機関速度に応じて遅角するので、より運転条件に適合した点火タイミングで点火プラグを作動し、適切な機関出力を得ることができる。
【0023】
各態様において、前記点火タイミングの最遅角時は、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングとほぼ等しいことが好ましい。その場合には、早閉じ動作と遅閉じ動作との間で吸気弁閉タイミングを遷移させるに当たり、より確実にプリイグニション等の異常燃焼を防止することができる。
【0024】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、制御器とを備えた内燃機関システムであって、前記制御器は、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する遅角遷移ステップを実行するものであり、前記遅角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップを含んでいることを特徴とする内燃機関システムである。
【0025】
この態様では、目標充填効率が所定充填効率よりも小さいときは、早閉じ動作によって第1閉弁タイミング範囲内で吸気弁が閉じられる一方、目標充填効率が所定充填効率以上のときは、遅閉じ動作によって第1閉弁タイミング範囲よりも遅角し、且つ離間した第2閉弁タイミング範囲内で吸気弁が閉じられる。従って、例えば、吸気弁開タイミングを一定に維持しつつ目標充填効率の増加に応じて吸気弁閉タイミングが遅角する可変動弁装置を採用した場合に、目標充填効率が比較的小さい運転領域では、早閉じ動作によって、要求される充填効率に相応した小さな開弁量によって内燃機関を運転し、過大な動弁動作による機械損失を低減することができるとともに、目標充填効率が高い運転領域では、遅閉じ動作によって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、必要な充填効率を充分に確保し、高い機関出力を得ることができる。また、目標充填効率の高い機関高負荷状態では、機関出力が高まるので、その後機関速度が上昇する可能性が高い。吸気慣性力の影響で、機関速度が高いほど、一定の充填効率を得る吸気弁閉タイミングが遅くなる。従って、予め第2閉弁タイミング範囲を低速運転領域に設定しておくことで、高負荷時の回転上昇中に吸気弁閉タイミングが、第1閉弁タイミング範囲と第2閉弁タイミング範囲との間に位置する中間閉弁タイミング範囲に入る頻度を最小化することができるので、吸気管圧力を低下させる程度を最小化し、ポンプ損失を最小化することができる。それで、高圧縮比に伴う問題の発生を防止しつつ、膨張比を高めて、機関運転効率を向上させることができる。加えて、第1閉弁タイミング範囲から第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移する過程では、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに近づくほど点火タイミングを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングを進角するので、吸気弁閉タイミングの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができる。
【0026】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁と、制御器とを備えた内燃機関システムであって、前記制御器は、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する遅角遷移ステップを実行するものであり、前記遅角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップ、並びに前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度が低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度が増加するように前記スロットル弁を制御するスロットル制御ステップを含んでいることを特徴とする内燃機関システムである。
【0027】
この態様では、吸気弁閉タイミングが空気過剰となる領域に近いほど、スロットル開度が低減するので、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。しかも、異常燃焼を防止するに当たり、スロットル弁による気筒空気量低下制御の遅れを応答性の速い点火遅角量で制御しているので、機関出力を安定化させることができる。また、スロットル弁による気筒空気量低下により、点火タイミングの遅角量を抑制し、充分な混合気燃焼期間を確保して、機関運転効率を向上することができる。
【0028】
各内燃機関システムにおいて、前記点火アドバンスステップ終了後の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも遅角していることが好ましい。その場合には、充填効率の多い遅閉じ動作時では、充填効率の少ない早閉じ動作時よりも点火タイミングが遅角しているので、充填効率を増加した後に遅閉じ動作が実行される運転領域であっても、より確実に異常燃焼の防止を図ることができる。
【0029】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、制御器とを備えた内燃機関システムであって、前記制御器は、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する進角遷移ステップを実行するものであり、前記進角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップを含んでいることを特徴とする内燃機関システムである。この態様においても、第2閉弁タイミング範囲から第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移する過程では、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに近づくほど点火タイミングを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングを進角するので、吸気弁閉タイミングの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができる。
【0030】
本発明の別の態様は、往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁と、制御器とを備えた内燃機関システムであって、前記制御器は、前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する進角遷移ステップを実行するものであり、前記進角遷移ステップは、各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップ、並びに前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度が低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度が増加するように前記スロットル弁を制御するスロットル制御ステップを含んでいることを特徴とする内燃機関システムである。この態様においても、吸気弁閉タイミングが空気過剰となる領域に近いほど、スロットル開度が低減するので、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。しかも、異常燃焼を防止するに当たり、スロットル弁による気筒空気量低下制御の遅れを応答性の速い点火遅角量で制御しているので、機関出力を安定化させることができる。また、スロットル弁による気筒空気量低下により、点火タイミングの遅角量を抑制し、機関運転効率を向上することができる。
【0031】
各内燃機関システムにおいて、前記点火アドバンスステップ終了後の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも進角していることが好ましい。その場合には、充填効率の少ない早閉じ動作時では、充填効率の多い遅閉じ動作時よりも点火タイミングが進角しているので、充填効率の少ない運転領域でも確実に混合気の燃焼期間を確保し、燃焼安定性の確保と期間出力の維持を図ることができる。
【0032】
各内燃機関システムにおいて、前記吸気弁駆動機構は、吸気弁開タイミングを一定に維持しつつ目標充填効率の増加に応じて吸気弁閉タイミングが遅角する可変動弁装置であることが好ましい。その場合には、目標充填効率が比較的小さい運転領域では、早閉じ動作によって、要求される充填効率に相応した小さな開弁量によって内燃機関を運転し、過大な動弁動作による機械損失を低減することができるとともに、目標充填効率が高い運転領域では、遅閉じ動作によって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、必要な充填効率を充分に確保し、高い機関出力を得ることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明は、目標充填効率が所定充填効率よりも小さいときは、早閉じ動作によって、要求される充填効率に相応した小さな開弁量によって内燃機関を運転し、過大な動弁動作による機械損失を低減することができるとともに、目標充填効率が高い運転領域では、遅閉じ動作によって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、必要な充填効率を充分に確保し、高い機関出力を得ることができる。一方、早閉じ動作が実行される第1閉弁タイミング範囲と遅閉じ動作が実行される第2閉弁タイミング範囲との間で吸気弁閉タイミングが遷移する過程では、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに近づくほど点火タイミングを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングを進角するので、吸気弁閉タイミングの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施の一形態に係る内燃機関システムの概略構成図である。
【0036】
図1を参照して、同内燃機関システムは、エンジン1、エンジン1に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、およびそしてセンサからの信号に基づきアクチュエータを制御する制御器としてのエンジン制御ユニット100を有する。
【0037】
エンジン1は、火花点火式内燃機関であって、第1〜第4の4つの気筒11、11、…を有するものであるが、いかなる数の気筒を有するものであってもよい。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、そのクランクシャフト14は、変速機を介して駆動輪に連結され、車両を推進する。
【0038】
本実施形態に係るエンジン1は、13:1以上の幾何学的圧縮比をもち、幾何学的圧縮比は、14:1以上16:1以下であるのが好ましい。幾何学的圧縮比が大きいことは、膨張比が大きいことを意味するので、大きいほど、機関効率は上がる。そこで、本実施形態では、幾何学的圧縮比を13以上に設定し、点火リタード等の方法によってノッキングを回避しつつ高トルクと燃費の大幅な低減を図ることとしている。
【0039】
尤も、圧縮比が高いほど、異常燃焼発生の可能性が高まるので、有効圧縮比を小さく、すなわち、充填効率CEを下げる必要が生じる。そうなると、気筒容積の割りに得られる出力が低下するために、機関の重量比で見たときの効率は低下する。他方、エンジン1を自動車等の車両に搭載する際に、エンジンルーム内への搭載性に問題を生じる。従って、幾何学的圧縮比の上限は、16:1以下にするのが好ましい。
【0040】
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、それらの内部に気筒11、11、…が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナル、ベアリングなどによりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14がピストン15に対し、コネクティングロッド16を介して連結されている。
【0041】
ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されて燃焼室17を区画している。図には1つのみ示すが、シリンダヘッド13には、気筒11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成されて、それぞれ燃焼室17に連通している。同様に、シリンダヘッド13には、気筒11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成されて、それぞれ燃焼室17に連通している。図に示すように、吸気弁21および排気弁22は、それぞれ、吸気ポート18および排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)できるように配設されている。吸気弁21は、動弁装置としての吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動されて、所定のタイミングで往復動し、吸気ポート18および排気ポート19を開閉するものである。
【0042】
吸気弁駆動機構30は、吸気カムシャフト31を有し、排気弁駆動機構40は、排気カムシャフト41を有する。カムシャフト31、41は、クランクシャフト14により、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介して連結される。動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、カムシャフト31、41が一回転するように構成される。
【0043】
カムシャフトの位相角は、カム位相センサ35により検出され、その検出信号θVCT_Aがエンジン制御ユニット100に入力される。
【0044】
点火プラグ51は、例えばねじ等、周知の構造によってシリンダヘッド13に取り付けられている。点火システム52は、エンジン制御ユニット100からの制御信号SADを受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
【0045】
燃料噴射弁53は、例えばブラケットを使用する等、周知の構造でシリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)に取り付けられている。燃料噴射弁53の先端は、上下方向については2つの吸気ポート18の下方に、また、水平方向についてはそれら2つの吸気ポート18の中間に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。
【0046】
燃料供給システム54は、図示は省略するが、燃料噴射弁53に燃料を昇圧して供給する高圧ポンプと、この高圧ポンプに燃料タンクから燃料を送給する配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路とを備えている。この電気回路は、エンジン制御ユニット100からの制御信号FPDを受けて燃料噴射弁53のソレノイドを作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を噴射させる。
【0047】
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55bによってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流はスロットルボデー56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56にはスロットル弁57が配置されており、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。スロットルアクチュエータ58が、エンジン制御ユニット100からの制御信号TVODを受けて、スロットル弁57の開度を調整する。
【0048】
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管内の通路に連通している。排気マニホールド60よりも下流の排気通路には、一つ以上の触媒コンバータ61を有する排気ガス浄化システムが配置される。触媒コンバータ61は、周知の三元触媒、リーンNOx触媒、酸化触媒等とすることができ、それ以外にも、特定の燃料制御手法による排気ガス浄化の目的にかなうものであれば、いかなるタイプの触媒としてもよい。
【0049】
また、排気ガスの一部を吸気系に循環させる(以下、EGRともいう)ために、吸気マニホールド55(スロットル弁57よりも下流側)と排気マニホールド60との間がEGRパイプ62によって接続されている。排気側の圧力は吸入側よりも高いので、排気ガスの一部は吸気マニホールド55に流れ込むようになり(EGRガスと呼ぶ)、この吸気マニホールド55から燃焼室17に吸入される新気と混ざることになる。EGRパイプ62にはEGR弁63が配設され、EGRガスの流量を調整するようになっている。EGR弁アクチュエータ64は、エンジン制御ユニット100からの制御信号EGROPENを受けて、EGR弁63の開度を調整する。
【0050】
エンジン制御ユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央算出処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラムおよびデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスとを備えている。
【0051】
エンジン制御ユニット100は、エアフローセンサ71から吸気流量AF、吸気圧センサ72から吸気マニホールド圧MAP、クランク角センサ73からクランク角パルス信号、というように種々の入力を受け入れる。エンジン制御ユニット100は、例えば、クランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転速度NENGを計算する。また、エンジン制御ユニット100は、酸素濃度センサ74から排気ガスの酸素濃度EGOについての入力も受け入れる。さらに、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル制御信号αを受け入れる。またエンジン制御ユニット100は、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号VSPを受け入れる。
【0052】
より具体的に、エンジン制御ユニット100は前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度TVO、燃料噴射量FP、点火タイミングSA、バルブ位相角θVCT、バルブリフト量θVVL、EGR量(EGR弁開度)QEGR等である。そして、それら制御パラメータに基づいて、対応する制御信号として、スロットル制御信号TVOD、燃料噴射パルス信号FPD、点火パルス信号SAD、バルブ位相角信号θVCT_D、バルブリフト量信号θVVL_D、EGR制御信号EGROPENを、スロットルアクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、吸気カムシャフト位相可変機構32およびEGRアクチュエータ64等に出力する。
【0053】
次に、図2以下を参照して、本実施形態に係る吸気弁駆動機構30の詳細について説明する。図2は、図1の実施形態に係る吸気弁駆動機構30の具体的な構成を示す斜視図であり、図3は、図1の吸気弁駆動機構30の要部を示す断面図である。図3において、(A)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(B)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示し、(C)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(D)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示している。
【0054】
本実施形態の吸気弁駆動機構30は、可変カムタイミング機構(VCT機構)32と、可変バルブリフト機構(VVL機構)33とを備えている。
【0055】
VCT機構32は、図略のチェーンドライブ機構によってクランクシャフト14に駆動連結されている。チェーンドライブ機構は、ドリブンスプロケット104の他に、図示しないが、クランクシャフト14のドライブスプロケットと、それら両スプロケットに巻き掛けられたチェーンとを備える。
【0056】
VCT機構32は、ドリブンスプロケット104に一体に回転するように固定されたケースと、それに収容されるとともにインナシャフト105に一体に回転するように固定されたロータとを有する。ケースとロータとの間には複数の液圧室が、中心軸X(図3に示す)の周りに(周方向に)並んで形成される。そして、ポンプにより加圧された液体(例えばエンジンオイル)が各々の液圧室に選択的に供給されて、互いに対向する液圧室の間に圧力差を形成する。
【0057】
VCT機構32は、VCT制御ユニットとしてのエンジン制御ユニット100により制御される。エンジン制御ユニット100は、VCT機構32の電磁バルブ32aに制御信号(バルブ位相角信号)θVCT_Dを出力し、この制御信号θVCT_Dを受けて、電磁バルブ32aが液圧のデューティ制御をすることで、前記液圧室に供給する液体の流量や圧力等を調整する。これによりスプロケット104とインナシャフト105との間の実際の位相差が変更され、それによって、周知のようにインナシャフト105の所望の回転位相が達成される。なお、エンジン制御ユニット100と別構成のユニットでVCT制御ユニットを構成してもよい。
【0058】
吸気弁駆動機構30のVVL機構33は、インナシャフト105を備えている。
【0059】
インナシャフト105は、図3(A)〜(D)に示すように各々の気筒11に対応して一体的に設けられたディスク形状のカム106を有する。このカム106は、インナシャフト105の軸芯から偏心して設けられ、VCT機構32により規定される位相で回転する。この偏心カム106の外周にはリング状アーム107の内周が回転自在に嵌め合わされており、インナシャフト105がその中心軸X周りに回転すると、リング状アーム107は、同じ中心軸Xの回りを公転しながら偏心カム106の中心の周りを回動する。
【0060】
また、前記インナシャフト105には、気筒11毎にロッカーコネクタ110が配設されている。このロッカーコネクタ110は円筒状で、インナシャフト105に外挿されて同軸に軸支され、換言すれば、その中心軸X周りに回動可能に支持されている一方、該ロッカーコネクタ110の外周面はベアリングジャーナルとされ、シリンダヘッド13に配設されたベアリングキャップ(図示せず)によって回転可能に支持されている。
【0061】
前記ロッカーコネクタ110には、第1および第2のロッカーカム111、112が一体的に設けられている。両者の構成は同じなので、図3(A)〜(D)にはロッカーカム111について示すが、このロッカーカム111は、カム面111aと円周状のベース面111bとを有し(図3(D)参照)、それらはいずれもタペット115の上面に摺接するようになっている。ロッカーカム111は、連続的には回転せず、揺動運動することを除いては、一般的な吸気弁駆動機構のカムと同様にタペット115を押圧してバルブを開くものである。タペット115はバルブスプリング116で支えられている。バルブスプリング116は、周知のように保持器117、118の間に支持されている。
【0062】
再度、図2を参照すると、インナシャフト105およびロッカーカム部品110〜112の組立体と並んで、その上方にコントロールシャフト120が配置されている。このコントロールシャフト120は、図示しないベアリングによって回転可能に支持されており、その長手方向の中央付近には、外周面から突出する同軸状のウォームギヤ121が一体的に設けられている。
【0063】
ウォームギヤ121はウォーム122と噛合している。このウォーム122は、VVL機構33のアクチュエータである例えばステッピングモータ123の出力軸に固定されている。よって、エンジン制御ユニット100からの制御信号(バルブリフト量信号)θVVL_Dを受けたステッピングモータ123の作動により、コントロールシャフト120を所望の位置に回動させることができる。こうして回動されるコントロールシャフト120には、気筒11毎のコントロールアーム131が取り付けられており、これらコントロールアーム131は、コントロールシャフト120の回動によって一体的に回動される。
【0064】
また、そうして回動されるコントロールアーム131は、コントロールリンク132によってリング状アーム107に連結されている。すなわち、コントロールリンク132の一端部はコントロールピボット133によってコントロールアーム131の先端部に回転自在に連結され、該コントロールリンク132の他端部はコモンピボット134によってリング状アーム107に回転自在に連結されている。
【0065】
ここで、コモンピボット134は、前記のようにコントロールリンク132の他端部をリング状アーム107に連結するとともに、このリング状アーム107を貫通してそれをロッカーリンク135の一端部にも回転自在に連結している。そして、このロッカーリンク135の他端部がロッカーピボット136によってロッカーカム111に回転自在に連結されており、これによりリング状アーム107の回転がロッカーカム111に伝えられるようになっている。
【0066】
より具体的に、インナシャフト105が回転して、これと一体に偏心カム106が回転するとき、図3(A)(C)に示すように偏心カム106が下側に位置すれば、リング状アーム107も下側に位置するようになり、一方、図3(B)(D)に示すように偏心カム106が上側に位置すれば、リング状アーム107も上側に位置するようになる。
【0067】
その際、リング状アーム107とコントロールリンク132とを連結するコモンピボット134の位置は、コントロールピボット133の位置と、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心位置との、3者相互の位置関係によって規定されるから、図示のようにコントロールピボット133の位置が変化しない(コントロールシャフト120が回動しない)とすれば、コモンピボット134は、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心周りの回転のみに対応して概略上下に往復動作するようになる。
【0068】
そのようなコモンピボット134の往復動作はロッカーリンク135によって第1のロッカーカム111に伝えられ、該第1のロッカーカム111を、ロッカーコネクタ110で連結された第2のロッカーカム112と共に中心軸X周りに揺動させる。こうして揺動するロッカーカム111は、図3(B)(C)に示すように、カム面111aがタペット115の上面に接触する間は、当該タペット115をバルブスプリング116のばね力に抗して押し下げ、このタペット115が吸気弁21を押し下げて、吸気ポート18を開かせる。
【0069】
一方、図3(A)(C)に示すように、ロッカーカム111のベース面111bがタペット115の上面に接触するとき、タペット115は押し下げられない。これは、中心軸Xを中心とするロッカーカム111のベース面111bの半径が、その中心軸Xとタペット115の上面との間隔以下に設定されているからである。
【0070】
上述の如きコントロールピボット133と、コモンピボット134と、偏心カム106およびリング状アーム107の共通中心との相互の位置関係において、コントロールピボット133の位置が変化すれば、これにより3者相互の位置関係に変化が生じ、コモンピボット134は前記とは異なる軌跡を描いて往復動作するようになる。
【0071】
よって、モータ123の作動によりコントロールシャフト120およびコントロールアーム131を回転させて、コントロールピボット133の位置を変えることにより、ロッカーカム111、112の揺動範囲を変更することができる。例えば、コントロールアーム131を図3において時計回りに回動させて、コントロールピボット133を図3(A)に示す位置から図3(C)に示すように左斜め上側にずらすと、ロッカーカム111の揺動範囲は、相対的にベース面111bがタペット115の上面に接触する傾向の強いものとなる。
【0072】
図4は、本実施形態に係る吸気弁駆動機構30の設定例を示す図である。
【0073】
図4を参照して、本実施形態では、上述した吸気弁駆動機構30およびこれに関連する構成部品により、バルブリフト量θVVLは、例えばθVVL_minからθVVLmaxまでの範囲で、各気筒11への目標充填効率CEの増加に応じて増大するように制御されるとともに、吸気弁閉タイミングは、バルブリフト量θVVLの増大に応じてθVCT_minからθVCTmaxの範囲で遅角する。吸気弁21の開作動タイミングおよび閉作動タイミングは、必要に応じていかなる組合せも可能であり、例えば、バルブリフト量を0にするいわゆるロストモーション動作も可能である。
【0074】
例えばエンジン回転速度(機関速度)NENGが1500rpmの時の吸気行程において吸気弁21を開閉する際、本実施形態では、吸気弁21の開タイミングについては、殆どの運転領域で排気上死点直前(クランク角度で例えば20°CA)から開弁を開始し、要求トルクに応じて閉タイミングを変更するようにしている。
【0075】
ここで、本実施形態では、吸気弁21の閉タイミングとして、当該エンジン回転速度(機関速度)NENGにおいて充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stと、当該エンジン回転速度(機関速度)NENGにおいて充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ第1閉弁タイミング範囲IVC1stから離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとが設定されており、吸気弁21が第1閉弁タイミング範囲IVC1stで閉じるように運転される早閉じ運転モードMEIVCと、吸気弁21が第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで閉じるように運転される遅閉じ運転モードMLIVCと、運転モードを早閉じ運転モードMEIVCから遅閉じ運転モードMLIVCに切り換える遅角遷移モードMTR-Rと、運転モードを遅閉じ運転モードMLIVCから早閉じ運転モードMEIVCに切り換える進角遷移モードMTR-Aとを設定可能に構成されている。なお、第1、第2閉弁タイミング範囲IVC1st、IVC2ndは、何れも、当該エンジン回転速度NENGにおいて、充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxを挟んで設定されており、詳しくは後述するように、必ずしも吸気下死点を基準として設定されるものではない(後述する図15参照)。
【0076】
早閉じ運転モードMEIVCは、低負荷時に選択されるモードであり、吸気弁21のバルブリフト量θVVL を小さくし、このバルブリフト量θVVLに対応して吸気弁閉タイミングを例えば吸気下死点よりも進角する。
【0077】
他方、遅閉じ運転モードMLIVCは、高負荷時に選択されるモードであり、吸気弁21のバルブリフト量θVVL を大きくし、このバルブリフト量θVVLに対応して吸気弁閉タイミングを例えば吸気下死点よりも遅角する。
【0078】
ここで、本実施形態において、遅閉じ運転モードMLIVCが設定される第2閉弁タイミング範囲IVC2ndは、早閉じ運転モードMEIVCが設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1stよりも遅角し且つ離間している。従って、各閉弁タイミング範囲IVC1st、IVC2ndの間には、吸気弁21が閉じることのない中間閉弁タイミング範囲IVCIMが設定されることになる。
【0079】
次に、上述のような運転モードを設定している理由について説明する。
【0080】
エンジン1の出力を高め、燃費を低減するために、吸気弁21の閉タイミングを吸気下死点よりも進角または遅角させて、膨張比を高くする方法として、吸気弁21の閉タイミングを吸気下死点よりも進角する早閉じでエンジン1を運転制御する場合には、図3(A)(B)から明らかなように、ロッカーカム111の揺動量は、小さくなり、バルブスプリング116の抵抗も小さくなるので、低負荷側では好ましいものとなる。しかし、要求負荷の増加に応じて、吸気弁21の閉タイミングを吸気下死点に遅角すると、上述のような高圧縮比に設定されたエンジン1では、プリイグニション等の異常燃焼を来してしまうことになる。また、単に、異常燃焼が懸念される運転領域を回避して吸気弁21の早閉じ制御をすれば、要求負荷が高くなるにつれて充填効率CEを確保できなくなり、必要な出力を得ることができなくなる。
【0081】
他方、吸気弁閉タイミングIVCを、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標充填効率CEが最大となるタイミングよりも遅角側に設定した場合、ピストン15が下死点に移動するまで気筒11内に空気を導入することができるため、有効圧縮比が低減するところで吸気弁21を閉じても比較的充分な目標充填効率CEを確保することができる反面、図3(C)(D)に示したように、低速低負荷時の目標充填効率CEが小さい運転領域では、吸気弁21のバルブリフト量、動弁範囲を最大値近傍まで大きく設定する必要があり(図4参照)、機械的損失が大きくなる等の不具合を回避することができない。
【0082】
そこで、本実施形態では、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとを設定し、高圧縮比エンジンにおいて、可及的に連続的な運転領域で膨張比を高めるとともに、異常燃焼懸念の高い中間閉弁タイミング範囲IVCIMでは、ノッキング対策を講じることによって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、出力の向上と燃費の低減を図ることとしているのである。
【0083】
かかる構成を実現するため、本実施形態では、図5以下のフローチャートが実行されるように設定されている。
【0084】
図5〜図9は、本発明の実施形態に係るエンジン1の制御例を示すフローチャートである。
【0085】
まず、図5を参照して、エンジン制御ユニット100は、最初に諸設定の初期化を実行する(ステップS1)。この初期化において、エンジン制御ユニット100は、現在の運転モードMを早閉じ運転モードMEIVCに設定する。
【0086】
次いで、エンジン制御ユニット100は、アクセル開度センサ75からのアクセル制御信号α、クランク角パルス信号に基づくエンジン回転速度NENG、車速センサ76からの車速信号VSPを読み取りまたは算出し、これらの情報に基づいて、目標トルクTQを算出する(ステップS2)。
【0087】
次いで、エンジン制御ユニット100は、算出された目標トルクTQと、予め想定されている損失要素pfとに基づき、目標燃焼トルクPiを算出する(ステップS3)。このステップS3において、損失要素pfは、機械抵抗やポンプ損失であり、運転状態(エンジン回転速度NENGや、筒内温度等)に基づいて予め実験等で求められたデータをマップ化したものである。
【0088】
次いで、エンジン制御ユニット100は、エンジン回転速度NENGに基づき、運転領域切換しきい値L1、L2を算出する(ステップS4)。
【0089】
エンジン制御ユニット100は、ステップS4による運転モード領域を算出した後、目標燃焼トルクPi、運転領域切換しきい値L1、L2、およびエンジン回転速度NENGに基づき、目標ブーストBt_t、目標吸気弁閉タイミングIVC_t、目標運転領域R_tを算出する(ステップS5)。
【0090】
次いで、エンジン制御ユニット100は、算出されたパラメータに基づき、運転領域の切換が必要か否かを判定する(ステップS6)。
【0091】
仮に運転モードの切換が不要である場合(ステップS6においてNOの場合)、エンジン制御ユニット100は、現在の運転モードM_nowに対応する制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS7)。その後、ステップS2に移行し、上述した制御を繰り返す。
【0092】
次に、図5のフローチャートにおいて、ステップ6で運転モードの切換が必要であると判定した場合(ステップS6においてYESの場合)、エンジン制御ユニット100は、目標運転モードM_tが遅閉じ運転モードMLIVCであるか否かを判定する(ステップS8)。仮に目標運転モードM_tが遅閉じ運転モードMLIVCである場合には、遅角遷移モードMTR-Rを実行する遅角遷移ステップS10が実行され、目標運転モードM_tが早閉じ運転モードMEIVCである場合には、進角遷移モードMTR-Aを実行する進角遷移ステップS20が実行される。何れかのサブルーチンが実行された後は、ステップS7に移行して、上述したフローが繰り返される。
【0093】
図6および図7は、遅角遷移ステップのフローチャートである。
【0094】
図6を参照して、遅角遷移ステップS10が実行される場合、エンジン制御ユニット100は、早閉じ動作を遅閉じ動作に切り換えるために、目標燃焼トルクPiの増加に伴って、吸気弁閉タイミングIVCを遅角させる(ステップS101)。次いで、エンジン制御ユニット100は、吸気弁閉タイミングIVCの遅角に伴って、スロットル開度TVOを低減する(ステップS102)。吸気弁閉タイミングIVCを遅角させることにより、有効圧縮比εrが高くなり、空気充填量が増加するので、このスロットル開度TVOの低減により、空気過剰による異常燃焼を回避するようにしているのである。
【0095】
次いで(或いは、ステップS102の制御と並行して)、エンジン制御ユニット100は、カム位相センサ35の検出信号θVCT_Aに基づき、現在のIVC_nowを算出する(ステップS103)。さらに、エンジン制御ユニット100は、算出した現在のIVC_nowから、現在の有効圧縮比εrを算出する(ステップS104)。上述したステップS101による吸気弁閉タイミングIVCの遅角により、エンジン1の有効圧縮比εrは増加する(図13参照)。
【0096】
次いで、エンジン制御ユニット100は、制御マップMT1から現在の運転条件(主として吸気下死点通過後の)に対応する目標有効圧縮比εr_tを索引する(ステップS105)。次いで、索引した目標有効圧縮比εr_tを0とし、幾何学的圧縮比εを1として、現在の有効圧縮比εrを正規化(内分)する(ステップS106)。
【0097】
次いで、エンジン制御ユニット100は、テーリング処理を実行する(ステップS107)。このテーリング処理では、正規化された有効圧縮比ε_NRに所定の反映率で重み付けを行い、この重み付けに対応する点火タイミングを算出することによって点火タイミングをテーリングする。
【0098】
テーリング処理の後、エンジン制御ユニット100は、点火タイミングSAに対応する制御信号SADを算出する(ステップS108)とともに、遅角遷移モードMTR-Rでのバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT等に基づき、制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS109)。
【0099】
次いでエンジン制御ユニット100は、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過したか否かを判定し(ステップS110)、追加している場合には、次のフローに移行する一方、通過していない場合には、ステップS101に戻って上述した処理を繰り返す。
【0100】
次に、図7を参照して、ステップS110の判定において、吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過していると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、早閉じ動作を遅閉じ動作に切り換えるために、目標燃焼トルクPiの増加に伴って、吸気弁閉タイミングIVCをさらに遅角させる(ステップS112)。次いで、エンジン制御ユニット100は、吸気弁閉タイミングIVCの遅角に伴って、スロットル開度TVOを増加する(ステップS113)。吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過後は、吸気弁閉タイミングIVCを遅角させることにより、有効圧縮比εrが低くなり、空気充填量が低減するので、このスロットル開度TVOの増加により、充填効率を調整するようにしているのである。
【0101】
次いで(或いは、ステップS113の制御と並行して)、エンジン制御ユニット100は、カム位相センサ35の検出信号θVCT_Aに基づき、現在のIVC_nowを算出する(ステップS114)。さらに、エンジン制御ユニット100は、算出した現在のIVC_nowから、現在の有効圧縮比εrを算出する(ステップS115)。上述したステップS112による吸気弁閉タイミングIVCの遅角により、エンジン1の有効圧縮比εrは減少する(図13参照)。
【0102】
次いで、エンジン制御ユニット100は、制御マップMT2から現在の運転条件(主として吸気下死点通過後の)に対応する目標有効圧縮比εr_tを索引する(ステップS116)。次いで、索引した目標有効圧縮比εr_tを0とし、幾何学的圧縮比εを1として、現在の有効圧縮比εrを正規化(内分)する(ステップS117)。
【0103】
次いで、エンジン制御ユニット100は、テーリング処理を実行する(ステップS118)。このテーリング処理では、正規化された有効圧縮比ε_NRに所定の反映率で重み付けを行い、この重み付けに対応する点火タイミングを算出することによって点火タイミングをテーリングする。
【0104】
テーリング処理の後、エンジン制御ユニット100は、点火タイミングSAに対応する制御信号SADを算出する(ステップS119)とともに、遅角遷移モードMTR-Rでのバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT等に基づき、制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS120)。
【0105】
次いでエンジン制御ユニット100は、現在の吸気弁閉タイミングIVC_eが第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに到達しているか否かを判定し(ステップS121)、到達している場合には、現在の運転モードM_nowを遅閉じ運転モードMLIVCに切り換え(ステップS122)、メインルーチンに復帰する一方、通過していない場合には、ステップS112に戻って上述した処理を繰り返す。
【0106】
次に、図5の判定において、進角遷移ステップS20が実行された場合について説明する。
【0107】
図8および図9は、進角遷移ステップのフローチャートである。
【0108】
図8を参照して、進角遷移ステップS20が実行される場合、エンジン制御ユニット100は、遅閉じ動作を早閉じ動作に切り換えるために、目標燃焼トルクPiの減少に伴って、吸気弁閉タイミングIVCを進角させる(ステップS201)。次いで、エンジン制御ユニット100は、吸気弁閉タイミングIVCの進角に伴って、スロットル開度TVOを減少する(ステップS202)。進角遷移モードでは、吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過する前は、吸気弁閉タイミングIVCを進角させることにより有効圧縮比εrが高くなり、空気充填量が増加するので、このスロットル開度TVOの減少により、空気過剰による異常燃焼を回避するようにしているのである。
【0109】
次いで(或いは、ステップS202の制御と並行して)、エンジン制御ユニット100は、カム位相センサ35の検出信号θVCT_Aに基づき、現在のIVC_nowを算出する(ステップS203)。さらに、エンジン制御ユニット100は、算出した現在のIVC_nowから、現在の有効圧縮比εrを算出する(ステップS204)。上述したステップS201による吸気弁閉タイミングIVCの進角により、エンジン1の有効圧縮比εrは増加する(図13参照)。
【0110】
次いで、エンジン制御ユニット100は、制御マップMT2から現在の運転条件(主として吸気下死点通過後の)に対応する目標有効圧縮比εr_tを索引する(ステップS205)。次いで、索引した目標有効圧縮比εr_tを0とし、幾何学的圧縮比εを1として、現在の有効圧縮比εrを正規化(内分)する(ステップS206)。
【0111】
次いで、エンジン制御ユニット100は、テーリング処理を実行する(ステップS207)。このテーリング処理では、正規化された有効圧縮比ε_NRに所定の反映率で重み付けを行い、この重み付けに対応する点火タイミングを算出することによって点火タイミングをテーリングする。
【0112】
テーリング処理の後、エンジン制御ユニット100は、点火タイミングSAに対応する制御信号SADを算出する(ステップS208)とともに、進角遷移モードMTR-Aでのバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT等に基づき、制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS209)。
【0113】
次いでエンジン制御ユニット100は、当該エンジン回転速度NENGにおいて目標充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過したか否かを判定し(ステップS210)、追加している場合には、次のフローに移行する一方、通過していない場合には、ステップS201に戻って上述した処理を繰り返す。
【0114】
次に、図9を参照して、ステップS210の判定において、吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過していると判定した場合、エンジン制御ユニット100は、遅閉じ動作を早閉じ動作に切り換えるために、目標燃焼トルクPiの減少に伴って、吸気弁閉タイミングIVCをさらに進角させる(ステップS211)。次いで、エンジン制御ユニット100は、吸気弁閉タイミングIVCの進角に伴って、スロットル開度TVOを増加する(ステップS212)。吸気弁閉タイミングIVCを進角させることにより、有効圧縮比εrが低くなり、空気充填量が減少するので、このスロットル開度TVOの低減により、充填効率を調整するようにしているのである。
【0115】
次いで(或いは、ステップS212の制御と並行して)、エンジン制御ユニット100は、カム位相センサ35の検出信号θVCT_Aに基づき、現在のIVC_nowを算出する(ステップS213)。さらに、エンジン制御ユニット100は、算出した現在のIVC_nowから、現在の有効圧縮比εrを算出する(ステップS214)。上述したステップS211による吸気弁閉タイミングIVCの進角により、エンジン1の有効圧縮比εrは減少する(図13参照)。
【0116】
次いで、エンジン制御ユニット100は、制御マップMT1から現在の運転条件(主として吸気下死点通過後の)に対応する目標有効圧縮比εr_tを索引する(ステップS215)。次いで、索引した目標有効圧縮比εr_tを0とし、幾何学的圧縮比εを1として、現在の有効圧縮比εrを正規化(内分)する(ステップS216)。
【0117】
次いで、エンジン制御ユニット100は、テーリング処理を実行する(ステップS217)。このテーリング処理では、正規化された有効圧縮比ε_NRに所定の反映率で重み付けを行い、この重み付けに対応する点火タイミングを算出することによって点火タイミングをテーリングする。
【0118】
テーリング処理の後、エンジン制御ユニット100は、点火タイミングSAに対応する制御信号SADを算出する(ステップS218)とともに、進角遷移モードMTR-Aでのバルブリフト量θVVL、開弁期間θVCT等に基づき、制御信号FPD、EGROPEN、SAD、θVVL-D、θVCT-D、TVODを出力することによって、吸気弁駆動機構30やスロットル弁57の各アクチュエータを制御する(ステップS219)。
【0119】
次いでエンジン制御ユニット100は、現在の吸気弁閉タイミングIVC_eが第1閉弁タイミング範囲IVC1stに到達しているか否かを判定し(ステップS220)、到達している場合には、現在の運転モードM_nowを早閉じ運転モードMEIVCに切り換え(ステップS221)、メインルーチンに復帰する一方、通過していない場合には、ステップS211に戻って上述した処理を繰り返す。
【0120】
図10は、図5のフローチャートに係る運転領域の例を示す特性図である。
【0121】
図10に示すように、本実施形態では、エンジン回転速度NENGに比例する特性L1、L2(所定充填効率の一例)が図5のフローチャートのステップS4によって決定され、高負荷側の特性L1以上の高負荷側である運転領域RLIVCではモードMLIVCが、低負荷側の特性L2以下の低負荷側である運転領域REIVCでは、早閉じ運転モードMEIVCが、それぞれ選定されるように設定されている。図示の例において、特性L1と特性L2の間の過渡領域RTRは、ヒステリシスを設けて運転モードの切換に用いられる領域であり、運転領域REIVCから要求負荷が高くなっても、特性L1を越えるまでは、運転モードは早閉じ運転モードMEIVCが維持され、運転領域RLIVCから要求負荷が低くなっても、特性L2を越えるまでは、運転モードは運転領域RLIVCが維持される。
【0122】
図5のステップS7で実行される運転モードM_nowが早閉じ運転モードMEIVCである場合、例えば図11(A)(B)に示す制御例で吸気弁閉タイミングIVCやスロットル開度TVOが制御される。
【0123】
図11は、本実施形態に係る早閉じ運転モードMEIVCでの制御例を示す図であり、(A)は、吸気弁閉タイミングの制御例、(B)はスロットル開度の制御例である。
【0124】
図11(A)を参照して、図5のステップS7で早閉じ運転モードMEIVCが実行される場合、制御領域は、第1閉弁タイミング範囲IVC1stとなる。この領域では、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉タイミングは遅角する。また、目標充填効率CEが増加するほど、吸気弁21の閉タイミングは遅角する。この結果、第1閉弁タイミング範囲IVC1stで運転される場合では、吸気弁21の閉タイミングが遅角することによって、充填効率CEを増加させ、要求トルクに見合うトルクを出力できるようになっている。
【0125】
図11(B)を参照して、同図に示した制御例では、特性L1と平行にエンジン回転速度NENGに比例する特性L3を低負荷側に設定している。特性L3は、図11の特性L2よりも低負荷側であってもよく、特性L2以上であってもよい。この特性L3よりも低負荷側の運転領域では、スロットル開度TVOは、全開になっており、目標充填効率CEは、専ら、吸気弁21の閉タイミングで制御されるようになっている。このため、充分な充填効率CEを確保し、ポンプ損失が生じないように制御することが可能になる。他方、特性L1から特性L3の間では、要求負荷が高まるにつれて、或いはエンジン回転速度NENGが低減するにつれて、スロットル開度TVOを小さくするように制御される。このため、運転状態が、中高速低中負荷運転領域から運転モードMを遅閉じ運転モードMLIVCに設定する必要のある低速高負荷運転領域に近づくにつれて、目標充填効率CEを低減することができるので、高圧縮比エンジンを採用した本実施形態において、運転モードMを切り換える過渡的で不安定な運転領域であっても、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、運転モードMを切り換えて、所要の目標充填効率CEを確保することができるのである。
【0126】
次に、図5のステップS7で実行される運転モードM_nowが遅閉じ運転モードMLIVCである場合、例えば図11(A)(B)に示す制御例で吸気弁閉タイミングIVCやスロットル開度TVOが制御される。
【0127】
図12は、本実施形態に係る遅閉じ運転モードMLIVCでの制御例を示す図であり、(A)は、吸気弁閉タイミングの制御例、(B)は、スロットル開度を一定に維持する制御例を示す図である。
【0128】
図12(A)(B)を参照して、図5のステップS7で遅閉じ運転モードMLIVCが実行される場合、制御領域は、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとなる。この領域では、スロットル開度TVOを変更しながら目標充填効率CEを制御することにより、目標充填効率CEの増減に拘わらず、吸気弁21の閉タイミングを一定にし、有効圧縮比と膨張比との関係を維持して、出力を高めている。
【0129】
また、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気弁21の閉タイミングは遅角し、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、スロットル開度TVOは、大きく制御される。これは、エンジン回転速度NENGが高くなるほど、吸気慣性力が増加し、当該エンジン回転速度(機関速度)NENGにおいて目標充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングが遅角することに対応しているのであり、この制御によって、所要の目標充填効率CEを確保することができるのである。
【0130】
図13は、本実施形態に係る各遷移ステップS10、S20を実行した場合の一例を示すタイミングチャートである。
【0131】
図13を参照して、遅角遷移ステップS10が実行される運転条件では、時間は、同図のタイミングチャートの左から右に経過し、目標燃焼トルクPi_tは、右肩上がりに上昇する。
【0132】
この上昇によって、吸気弁閉タイミングIVCは、吸気下死点前(例えば、−95°CA)から吸気下死点後の所定位置(例えば、90°CA)に移動する(図6のステップS101、図7のステップS112参照)。この間、充填効率CEを調整してプリイグニション等の異常燃焼の防止と要求トルクの充足とを両立するために、スロットル開度TVOは、第1閉弁タイミング範囲IVC1stの終端(最遅角側)から遅角するにつれて低減する(図6のステップS101参照)とともに、吸気弁閉タイミングIVCmax経過後は、吸気弁閉タイミングIVCが遅角するにつれて増加する(図7のステップS113)。
【0133】
また、有効圧縮比εrは、吸気弁閉タイミングIVCmaxに至るまでは、当該吸気弁21の閉タイミングIVCが遅角するにつれて増加する一方、吸気弁閉タイミングIVCmax経過後は、遅角するにつれて低減する。ここで、有効圧縮比εrの変化は、図13に示すように、吸気弁閉タイミングIVCmaxをピークとする曲線的な特性となるため、本実施形態では、図6のステップS106、或いは図7のステップS117で説明したように、この有効圧縮比εrを正規化して、点火タイミングSAの制御に反映するようにしている。
【0134】
図6のステップS109、および図7のステップS120で算出される点火タイミングSAの制御信号SADは、有効圧縮比εrの特性を反映しない場合には、第1閉弁タイミング範囲IVC1stの最遅角タイミングから第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの最進角点との間を結ぶ直線的な特性SA1になる。しかし、この点火タイミングSA1では、非常に高くなっている充填効率CEに対して進角過剰になっているため、スロットル開度TVOを下げたとしても、高圧縮比エンジンではプリイグニションが生じやすくなる。そこで、正規化された有効圧縮比εrを反映することにより、図13の特性SA2に示すような点火タイミングを得ることにより、過渡的に充填効率(有効圧縮比εr)が非常に高くなる運転領域でも、確実に異常燃焼の防止を図るようにしているのである。
【0135】
さらに本実施形態では、図6のステップS107、および図7のステップS118で有効圧縮比εrに重み付けをし、点火タイミングをテーリングすることにより、図13のSADで示す点火タイミングになるように制御されている。そのため、IVCmaxは、もちろん、その両側の運転領域でも、確実に異常燃焼の防止を図ることができるようになっている。
【0136】
他方、進角遷移ステップS20が実行される運転条件では、時間は、同図のタイミングチャートの右から左に経過し、目標燃焼トルクPi_tは、時間の経過とともに減少することになる。
【0137】
この減少によって、吸気弁閉タイミングIVCは、吸気下死点後(例えば、90°CA)から吸気下死点前の所定位置(例えば、−95°CA)に移動する(図8のステップS101、図9のステップS112参照)。この間、充填効率CEを調整してプリイグニション等の異常燃焼の防止と要求トルクの充足とを両立するために、スロットル開度TVOは、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの終端(最進角側)から進角するにつれて低減する(図8のステップS202)とともに、吸気弁閉タイミングIVCmax経過後は、吸気弁閉タイミングIVCが進角するにつれて増加する(図9のステップS212参照)。
【0138】
また、有効圧縮比εrは、吸気弁閉タイミングIVCmaxに至るまでは、当該吸気弁21の閉タイミングIVCが進角するにつれて増加する一方、吸気弁閉タイミングIVCmax経過後は、進角するにつれて低減する。有効圧縮比εrの変化は、図13に示すように、吸気弁閉タイミングIVCmaxをピークとする曲線的な特性となるため、進角遷移ステップS20においても、図8のステップS206、或いは図9のステップS216で説明したように、この有効圧縮比εrを正規化して、点火タイミングSAの制御に反映するとともに、図8のステップS207、および図9のステップS217で有効圧縮比εrに重み付けをし、点火タイミングをテーリングすることにより、図13のSADで示す点火タイミングになるように制御されている。そのため、進角遷移ステップS20においても、IVCmaxは、もちろん、その両側の運転領域でも、確実に異常燃焼の防止を図ることができるようになっている。
【0139】
次に、各遷移ステップS10、S20における点火タイミングの具体的な算出アルゴリズムについて説明する。
【0140】
図14は、本実施形態に係る各遷移ステップS10、S20の具体的なアルゴリズムの一例を示すブロック図である。
【0141】
次に、図14を参照して、エンジン制御ユニット100には、有効圧縮比算出部201、IVCボトム算出部202、切換判定部203、およびSA算出部204が論理的に構成されている。また、エンジン制御ユニット100には、有効圧縮比εrを正規化するための正規化算出部311、411と、正規化算出部311、411の算出結果に基づいてテーリング処理を実行するテーリング処理部312、412とが、対になって論理的に構成されており、各対の一方が吸気弁閉タイミングIVCmax以前の進角側での算出処理を担い、他方が吸気弁閉タイミングIVCmax以降の遅角側での算出処理を担っている。
【0142】
また、一方のテーリング処理部312と他方のテーリング処理部412からの出力を排他的に用いるために、切換判定部203とSA算出部204との間には、ゲート205が論理的に形成されている。
【0143】
有効圧縮比算出部201は、カム位相センサ35の検出信号θVCT_Aに基づき、現在の有効圧縮比εrを算出するモジュールである。この有効圧縮比算出部201により、図6のステップS104、図7のステップS115、図8のステップS204、図9のステップS214が実行されることになる。
【0144】
IVCボトム算出部202は、制御時のエンジン回転速度NENGにおいて、目標充填効率CEが最大となるときの論理値(例えば、1)を出力するモジュールである。このIVCボトム算出部202によって算出された吸気弁閉タイミングIVCmaxにより、図6のステップS106、S107、図7のステップS117、S118、図8のステップS206、S207、図9のステップS216、S217等がそれぞれ実行されることになる。
【0145】
切換判定部203は、エンジン回転速度NENG毎に充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxを算出するモジュールである。この切換判定部203によって、図5のステップS6、図6のステップS110、図8のステップS210等の制御が実行され、ゲート205が切り換えられることになる。
【0146】
SA算出部204は、ゲート205を経由して入力された各テーリング処理部312、412の算出値に基づき、制御信号SADを出力するモジュールである。このSA算出部204により、点火システム52は、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
【0147】
各正規化算出部311、411は、正規化された有効圧縮比ε_NRを算出するためのモジュールである。これら正規化算出部311、411によって、現在の有効圧縮比εrと幾何学的圧縮比εとの差ε_df1と、対応する制御マップMT1、MT2から読み出された目標有効圧縮比εr_tと幾何学的圧縮比εとの差ε_df2がそれぞれ算出され、これらの有効圧縮比ε_df1、ε_df2に基づいて、正規化された有効圧縮比ε_NRが算出される。なお、各正規化算出部311、411において、311a、411aは、0除算を禁止するための0除算禁止算出子であり、311b、411bは、有効圧縮比ε_NRの領域を0から1の範囲に制約するドメイン算出子である。
【0148】
テーリング処理部312、412は、正規化算出部311、411の算出結果に基づいてテーリング処理を実行するモジュールである。このテーリング処理部312、412により、図6のステップS107、図7のステップS118、図8のステップS207、図9のステップS217がそれぞれ実行されることになる。
【0149】
各テーリング処理部312、412には、対応する反映率算出子312a、412aと、算出の基礎となるベース値SAEB、SALBを出力するベース値算出子312b、412bとが設けられている。
【0150】
反映率算出子312a、412aは、対応する正規化算出部311、411が出力した正規化された有効圧縮比ε_NRに重み付けを付けるモジュールである。この反映率算出子312a、412aの出力結果により、例えば、図13の破線SA2で示す特性を実線のSADで示す特性に補正することが可能になる。
【0151】
ベース値算出子312bは、吸気弁閉タイミングIVCmax以前の進角側での算出処理を担う一方のテーリング処理部312において、第1閉弁タイミング範囲IVC1stの最遅角時の吸気弁閉タイミングに基づく点火タイミング(ベース値)SAEBを算出し、出力するものである。また、ベース算出子412bは、吸気弁閉タイミングIVCmax以降の遅角側での算出処理を担う他方のテーリング処理部412において、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの最進角時の閉弁タイミングに基づく点火タイミング(ベース値)SALBを算出し、出力するものである。
【0152】
各テーリング処理部312、412は、対応する反映率算出子312a、412aによって補正された有効圧縮比ε_NRをテーリング要素とし、IVCボトム算出部202が出力した論理値と、対応するベース値算出子312b、412bが出力したベース値SAEBSALBに基づいて、最終的な目標点火タイミングSA_tを算出する。これにより、図6のステップS108、図7のステップS119、図8のステップS208、図9のステップS218のような制御が実現され、図13の特性SADに準じた点火タイミングで遷移モードでの運転が実行されることになる。
【0153】
図15は、図5〜図9のフローチャートを実行した制御例を示す吸気弁閉タイミングのグラフである。
【0154】
図15を参照して、本実施形態では、遅閉じ運転モードMLIVCでの吸気弁閉タイミングの制御において、スロットル開度を並行して制御しているので、吸気弁21の閉タイミングを最も進角側に固定して目標充填効率CEを制御することができ、早閉じ運転モードMEIVCから遅閉じ運転モードMLIVCへ切り換える時の変位量(図3におけるコントロールシャフト120の回動角度)も最小となり、早閉じ運転モードMEIVCからの切り換えに要する時間を可及的に短くすることができる。
【0155】
また、エンジン回転速度NENGが上昇するにつれて、吸気弁閉タイミング(従って、点火タイミングSAの最遅角時)IVCは、遅角するので、エンジン回転速度NENGが高いほど第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間の中間閉弁タイミング範囲IVCIMが小さくなり、ある回転速度(例えば、2500rpm)以上では、専ら第2閉弁タイミング範囲IVC2ndで吸気弁21が閉じることとなり、運転モードMの切り換えは不要となる。
【0156】
以上説明したように本実施形態は、往復動するピストン15とともに燃焼室17を規定する気筒11と、燃焼室17内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を燃焼室17から遮断可能な吸気弁21と、吸気弁21の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構30と、気筒11内の混合気を火花点火する点火プラグ51を含む点火システム52と、制御器としてのエンジン制御ユニット100とを備えた内燃機関システムないしその制御方法であって、エンジン制御ユニット100は、気筒11内への目標充填効率CE_tが所定充填効率よりも小さいとき、当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21を閉じる早閉じステップ(早閉じ運転モードMEIVCでのステップS7)、目標充填効率CE_tが所定充填効率以上のとき、当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxよりも遅角側に設定され、且つ第1閉弁タイミング範囲IVC1stから離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21を閉じる遅閉じステップ(遅閉じ運転モードMLIVCでのステップS7)、第1閉弁タイミング範囲IVC1stから第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに吸気弁閉タイミングIVCを遷移する遅角遷移ステップS10、並びに第2閉弁タイミング範囲IVC2ndから第1閉弁タイミング範囲IVC1stに吸気弁閉タイミングIVCを遷移する進角遷移ステップS20を実行するものである。
【0157】
このため本実施形態では、目標充填効率CE_tが所定充填効率よりも小さいときは、早閉じ動作によって第1閉弁タイミング範囲IVC1st内で吸気弁21が閉じられる一方、目標充填効率CE_tが所定充填効率以上のときは、遅閉じ動作によって第1閉弁タイミング範囲IVC1stよりも遅角し、且つ離間した第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内で吸気弁21が閉じられる。従って、例えば、吸気弁開タイミングIVCを一定に維持しつつ目標充填効率CE_tの増加に応じて吸気弁閉タイミングIVCが遅角する吸気弁駆動機構30を採用していても、図4に示したように、目標充填効率CE_tが比較的小さい運転領域では、早閉じ動作によって、要求される充填効率に相応した小さな開弁量によって内燃機関を運転し、過大な動弁動作による機械損失を低減することができるとともに、目標充填効率CE_tが高い運転領域では、遅閉じ動作によって、プリイグニション等の異常燃焼を回避しつつ、必要な充填効率CEを充分に確保し、高い機関出力を得ることができる。また、目標充填効率CE_tの高い機関高負荷状態では、機関出力が高まるので、その後エンジン回転速度NENGが上昇する可能性が高い。吸気慣性力の影響で、エンジン回転速度NENGが高いほど、一定の充填効率CEを得る吸気弁閉タイミングIVCが遅くなる。従って、予め第2閉弁タイミング範囲IVC2ndを低速運転領域に設定しておくことで、高負荷時の回転上昇中に吸気弁閉タイミングIVCが、第1閉弁タイミング範囲IVC1stと第2閉弁タイミング範囲IVC2ndとの間に位置する中間閉弁タイミング範囲IVCIMに入る頻度を最小化することができるので、吸気管圧力を低下させる程度を最小化し、ポンプ損失を最小化することができる。それで、高圧縮比に伴う問題の発生を防止しつつ、膨張比を高めて、機関運転効率を向上させることができる。
【0158】
また、本実施形態に係る遅角遷移ステップS10は、各気筒サイクルでの目標充填効率CE_tの増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングIVCがIVCmaxに至るまでは、吸気弁閉タイミングIVCの遅角に応じて、点火タイミングSAを遅角する点火リタードステップ(図6の各処理)、および目標充填効率CE_tの増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングIVCがIVCmaxを通過した後は、吸気弁閉タイミングIVCの遅角に応じて、点火タイミングSAを進角する点火アドバンスステップ(図7の各処理)を含んでいる。そのため、第1閉弁タイミング範囲IVC1stから第2閉弁タイミング範囲IVC2ndに吸気弁閉タイミングIVCが遷移する過程では、当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxに近づくほど点火タイミングSAを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングSAを進角するので、吸気弁閉タイミングIVCの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができる。
【0159】
また、本実施形態に係る進角遷移ステップS20は、各気筒サイクルでの目標充填効率CE_tの減少に応じて進角する吸気弁閉タイミングIVCがIVCmaxに至るまでは、吸気弁閉タイミングIVCの進角に応じて、点火タイミングSAを遅角する点火リタードステップ(図8の各処理)、および吸気弁閉タイミングIVCがIVCmaxを通過した後は、吸気弁閉タイミングIVCの進角に応じて、点火タイミングSAを進角する点火アドバンスステップ(図9の各処理)を含んでいる。このため本実施形態では、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndから第1閉弁タイミング範囲IVC1stに吸気弁閉タイミングIVCが遷移する過程においても、当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxに近づくほど点火タイミングSAを遅角し、遠ざかるほど点火タイミングSAを進角するので、吸気弁閉タイミングIVCの大幅な変化に拘わらず、機関出力を安定させることができる。
【0160】
また、本実施形態では、各遷移ステップS10、S20において、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁57が設けられているとともに、エンジン制御ユニット100は、遅角遷移ステップS10では、点火リタードステップにおいて、吸気弁閉タイミングIVCの遅角量増加に応じてスロットル開度TVOを低減し(図6のステップS102)、点火アドバンスステップにおいて、吸気弁閉タイミングIVCの遅角量増加に応じてスロットル開度TVOを増加するスロットル制御ステップ(図7のステップS113)を含んでいる一方、進角遷移ステップS20では、点火リタードステップにおいて、吸気弁閉タイミングIVCの進角量増加に応じてスロットル開度TVOを低減し(図8のステップS202)、点火アドバンスステップにおいて、吸気弁閉タイミングIVCの進角量増加に応じてスロットル開度TVOを増加するスロットル制御ステップ(図9のステップS212)を含んでいる。このため本実施形態では、吸気弁閉タイミングIVCが空気過剰となる領域に近いほど、スロットル開度TVOが低減するので、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。しかも、異常燃焼を防止するに当たり、スロットル弁57による気筒空気量低下制御の遅れを応答性の速い点火遅角量で制御しているので、機関出力を安定化させることができる。また、スロットル弁57による充填効率CEの低下により、点火タイミングSAの遅角量を抑制し、機関運転効率を向上することができる。
【0161】
また本実施形態では、遅角遷移ステップS10の終了後の第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内での点火タイミングSAは、遅角遷移ステップS10の開始前の第1閉弁タイミング範囲IVC1st内での点火タイミングSAよりも遅角している。そのため本実施形態では、充填効率の多い遅閉じ動作時では、充填効率の少ない早閉じ動作時よりも点火タイミングSAが遅角しているので、充填効率を増加した後に遅閉じ動作が実行される運転領域であっても、より確実に異常燃焼の防止を図ることができる。
【0162】
また本実施形態では、進角遷移ステップS20の終了後の第1閉弁タイミング範囲IVC1st内での点火タイミングSAは、進角遷移ステップS20の開始前の第2閉弁タイミング範囲IVC2nd内での点火タイミングSAよりも進角している。そのため本実施形態では、充填効率の少ない早閉じ動作時では、充填効率の多い遅閉じ動作時よりも点火タイミングSAが進角しているので、充填効率の少ない運転領域でも確実に混合気の燃焼期間を確保し、燃焼安定性の確保と期間出力の維持を図ることができる。
【0163】
また本実施形態では、点火タイミングSAの最遅角時は、エンジン回転速度NENGが大きいほど遅角する。そのため本実施形態では、点火リタードステップと点火アドバンスステップの切換点がエンジン回転速度NENGに応じて遅角するので、より運転条件に適合した点火タイミングSAで点火プラグ51を作動し、適切な機関出力を得ることができる。
【0164】
また、本実施形態の遅角遷移ステップS10は、当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxに対応する点火タイミングを最遅角点火タイミングSAmaxとして、現在の有効圧縮比εrを正規化する正規化ステップ(図6のステップS106、図7のステップS117)、正規化された有効圧縮比εrを所定の反映率で重み付けして補正値を算出するステップ(図13の反映率算出子312aによる処理)、第1閉弁タイミング範囲IVC1stの最遅角時の吸気弁閉タイミングに基づく点火タイミングをベース値SAEBとして算出するベース値算出ステップ(図13のベース値算出子312bによる処理)および算出されたベース値SAEB、補正値、並びに最遅角点火タイミングSAmaxに基づいて、目標となる有効圧縮比εrに対応する点火タイミングSAをテーリングするテーリングステップを含んでいる。
【0165】
また、本実施形態の進角遷移ステップS20は、当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率CEが最大となる吸気弁閉タイミングIVCmaxに対応する点火タイミングを最遅角点火タイミングSAmaxとして、現在の有効圧縮比εrを正規化する正規化ステップ(図8のステップS206、図9のステップS216)、正規化された有効圧縮比εrを所定の反映率で重み付けして補正値を算出するステップ(図13の反映率算出子412aによる処理)、第2閉弁タイミング範囲IVC2ndの最進角時の閉弁タイミングに基づく点火タイミングをベース値SALBとして算出するベース値算出ステップ(図13のベース値算出子412bによる処理)および算出されたベース値SALB、補正値、並びに最遅角点火タイミングSAmaxに基づいて、目標となる有効圧縮比εrに対応する点火タイミングSAをテーリングするテーリングステップを含んでいる。そのため本実施形態では、吸気弁閉タイミングIVCが当該エンジン回転速度NENGにおいて充填効率CEが最大となるとき(たとえば吸気下死点)の点火タイミングSAを最遅角タイミングSAbottom(図13参照)として、目標充填効率CE_tの変化に応じて点火タイミングSAを無段階に進角側に移行させ、燃焼安定性を確保しつつ吸気弁閉タイミングIVCを遷移させることができる。
【0166】
吸気弁閉タイミングIVCmaxを通過する範囲で点火タイミングSAの切換を制御する際には、現在の点火タイミングSAと目標点火タイミングSA_tとが、最遅角を要する最遅角タイミングSAbottomよりも進角側に存在するため、充填効率CEが最大となるタイミングで吸気弁21が閉じるときには、適正な点火タイミングSAよりも遙かに進角側で点火されることになり、高圧縮比エンジンではプリイグニション等の異常燃焼が生じやすくなるおそれがある。これに対して、本実施形態では、充填効率CEが最大となるときの点火タイミングSAbottom(図13参照)を最も遅角させることができる結果、所要の燃焼期間を確保しつつ、プリイグニション等の異常燃焼を確実に防止することができる。さらに、テーリングステップによって、正規化された有効圧縮比が所定の反映率で重み付けされるので、点火タイミングSAをより適正な位相に遅角または進角させることができる。
【0167】
上述した実施の形態は、本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の実施の一形態に係る内燃機関システムの概略構成図である。
【図2】図1の実施形態に係る吸気弁駆動機構の具体的な構成を示す斜視図である。
【図3】図1の吸気弁駆動機構の要部を示す断面図であり、(A)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(B)は大リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示し、(C)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が0のときを示し、(D)は小リフト制御状態においてバルブリフト量が最大のときを示している。
【図4】本実施形態に係る吸気弁駆動機構の設定例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るエンジンの制御例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る遅角遷移ステップのフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係る遅角遷移ステップのフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態に係る進角遷移ステップのフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る進角遷移ステップのフローチャートである。
【図10】図5のフローチャートに係る運転領域の例を示す特性図である。
【図11】本実施形態に係る早閉じ運転モードでの制御例を示す図であり、(A)は、吸気弁閉タイミングの制御例、(B)はスロットル開度の制御例である。
【図12】本実施形態に係る遅閉じ運転モードでの制御例を示す図であり、(A)は、吸気弁閉タイミングの制御例、(B)は、スロットル開度を一定に維持する制御例を示す図である。
【図13】本実施形態に係る各遷移ステップを実行した場合の一例を示すタイミングチャートである。
【図14】本実施形態に係る各遷移ステップの具体的なアルゴリズムの一例を示すブロック図である。
【図15】図5〜図9のフローチャートを実行した制御例を示す吸気弁閉タイミングのグラフである。
【符号の説明】
【0169】
1 エンジン(内燃機関の一例)
11 シリンダ
15 ピストン
17 燃焼室
18 吸気ポート
19 排気ポート
21 吸気弁
22 排気弁
30 吸気弁駆動機構
32 吸気カムシャフト位相可変機構
100 エンジン制御ユニット(制御器の一例)
201 有効圧縮比算出部
202 IVCボトム算出部
203 切換判定部
204 SA算出部
311、411 正規化算出部
312、412 テーリング処理部
312a、412a 反映率算出子
312b、412b ベース値算出子
CE 充填効率
IVC 閉弁タイミング範囲
IVC1st 第1閉弁タイミング範囲
IVC2nd 第2閉弁タイミング範囲
IVCIM 中間閉弁タイミング範囲
EIVC 早閉じ運転モード
LIVC 遅閉じ運転モード
TR-A 進角遷移モード
TR-R 遅角遷移モード
R 運転領域
EIVC 早閉じ運転モード運転領域
LIVC 遅閉じ運転領域
TR 過渡領域
SA 点火タイミング
SAmax 最遅角点火タイミング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグとを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および
前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する遅角遷移ステップ
を備え、前記遅角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁とを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および
前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する遅角遷移ステップ
を備え、前記遅角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップ、並びに
前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度を低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度を増加するスロットル制御ステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の内燃機関の制御方法において、
前記点火アドバンスステップ終了後の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも遅角している
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項4】
請求項1、2、または3に記載の内燃機関の制御方法において、
前記遅角遷移ステップは、
当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに対応する点火タイミングを最遅角点火タイミングとして、現在の有効圧縮比を正規化する正規化ステップ、
正規化された有効圧縮比を所定の反映率で重み付けして補正値を算出するステップ、
前記第1閉弁タイミング範囲の最遅角時の吸気弁閉タイミングに基づく点火タイミングをベース値として算出するベース値算出ステップおよび
算出されたベース値、前記補正値、並びに前記最遅角点火タイミングに基づいて、目標となる有効圧縮比に対応する点火タイミングをテーリングするテーリングステップを含んでいる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項5】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグとを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および
前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する進角遷移ステップ
を備え、前記進角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項6】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁とを有し、吸気弁の閉タイミングに応じて点火タイミングを制御する内燃機関の制御方法であって、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁を閉じる遅閉じステップ、および
前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングを遷移する進角遷移ステップ
を備え、前記進角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを遅角する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングを進角する点火アドバンスステップ、並びに
前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度を低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度を増加するスロットル制御ステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の内燃機関の制御方法において、
前記点火アドバンスステップ終了後の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも進角している
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項8】
請求項5、6、または7に記載の内燃機関の制御方法において、
前記進角遷移ステップは、
当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに対応する点火タイミングを最遅角点火タイミングとして、現在の有効圧縮比を正規化する正規化ステップ、
正規化された有効圧縮比を所定の反映率で重み付けして補正値を算出するステップ、
前記第2閉弁タイミング範囲の最進角時の閉弁タイミングに基づく点火タイミングをベース値として算出するベース値算出ステップおよび
算出されたベース値、前記補正値、並びに前記最遅角点火タイミングに基づいて、目標となる有効圧縮比に対応する点火タイミングをテーリングするテーリングステップを含んでいる
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の内燃機関の制御方法において、
前記点火タイミングの最遅角時は、機関速度が大きいほど遅角する
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか1項に記載の内燃機関の制御方法において、
前記点火タイミングの最遅角時は、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングとほぼ等しい
ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項11】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、制御器とを備えた内燃機関システムであって、
前記制御器は、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および
前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する遅角遷移ステップ
を実行するものであり、前記遅角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項12】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁と、制御器とを備えた内燃機関システムであって、
前記制御器は、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および
前記第1閉弁タイミング範囲から前記第2閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する遅角遷移ステップ
を実行するものであり、前記遅角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の増加に応じて遅角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の増加に応じて遅角する吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの遅角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップ、並びに
前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度が低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの遅角量増加に応じて前記スロットル開度が増加するように前記スロットル弁を制御するスロットル制御ステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項13】
請求項11または請求項12記載の内燃機関システムにおいて、
前記点火アドバンスステップ終了後の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも遅角している
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項14】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、制御器とを備えた内燃機関システムであって、
前記制御器は、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および
前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する進角遷移ステップ
を実行するものであり、前記進角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項15】
往復動するピストンとともに燃焼室を規定する気筒と、前記燃焼室内へ導入される空気が通過する吸気通路と、該吸気通路を前記燃焼室から遮断可能な吸気弁と、前記吸気弁の開閉タイミングを制御する吸気弁駆動機構と、気筒内の混合気を火花点火する点火プラグを含む点火システムと、吸気通路の空気流量を調整するスロットル弁と、制御器とを備えた内燃機関システムであって、
前記制御器は、
前記気筒内への目標充填効率が所定充填効率よりも小さいとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも進角側に設定される第1閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する早閉じステップ、
前記目標充填効率が前記所定充填効率以上のとき、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングよりも遅角側に設定され、且つ前記第1閉弁タイミング範囲から離間した第2閉弁タイミング範囲内で前記吸気弁が閉じるように前記吸気弁駆動機構を制御する遅閉じステップ、および
前記第2閉弁タイミング範囲から前記第1閉弁タイミング範囲に吸気弁閉タイミングが遷移するように前記吸気弁駆動機構を制御する進角遷移ステップ
を実行するものであり、前記進角遷移ステップは、
各気筒サイクルでの目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングに至るまでは、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが遅角するように前記点火システムを制御する点火リタードステップ、および
前記目標充填効率の減少に応じて進角する前記吸気弁閉タイミングが、当該機関速度において充填効率が最大となる吸気弁閉タイミングを通過した後は、前記吸気弁閉タイミングの進角に応じて、前記点火プラグの点火タイミングが進角するように前記点火システムを制御する点火アドバンスステップ、並びに
前記点火リタードステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度が低減し、前記点火アドバンスステップにおいて、前記吸気弁閉タイミングの進角量増加に応じて前記スロットル開度が増加するように前記スロットル弁を制御するスロットル制御ステップ
を含んでいる
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項16】
請求項14または請求項15記載の内燃機関システムにおいて、
前記点火アドバンスステップ終了後の前記第1閉弁タイミング範囲内での点火タイミングは、前記点火リタードステップ開始前の前記第2閉弁タイミング範囲内での点火タイミングよりも進角している
ことを特徴とする内燃機関システム。
【請求項17】
請求項11から請求項16の何れか1項に記載の内燃機関システムにおいて、
前記吸気弁駆動機構は、吸気弁開タイミングを一定に維持しつつ目標充填効率の増加に応じて吸気弁閉タイミングが遅角する可変動弁装置である
ことを特徴とする内燃機関システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−243290(P2009−243290A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88048(P2008−88048)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】