説明

内燃機関の制御装置

【課題】エンジンの停止遅延期間中に運転者が不在の状態でエンジンの運転が継続されることを防止できるようにする。
【解決手段】IGスイッチ(イグニッションスイッチ)がオフされてエンジン停止指令が発生した時点t1 から所定の停止遅延期間が経過した時点t3 でエンジンの回転を停止させると共に、このエンジンの停止遅延期間中に実バルブタイミングを始動に適した位置に制御する停止時バルブタイミング制御を実行する。その際、エンジンの停止遅延期間中に運転操作用ペダル(例えばブレーキペダルやアクセルペダル)の操作が検出されない状態が所定期間以上継続した状態で車両の運転席のドアの開操作が検出されたときには、その時点t2 で、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、エンジンの停止遅延期間の途中でもエンジンの回転を自動的に停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後に内燃機関の回転を停止させる内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特許第3551886号公報)に記載されているように、内燃機関の吸気バルブのバルブタイミング(開閉時期)を変化させる可変バルブタイミング装置を備えたシステムにおいて、内燃機関の停止時に吸気バルブの閉弁時期の最遅角位置を確実に学習するために、内燃機関の停止指令が発生してから所定の遅延時間が経過した後に内燃機関の回転を停止させ、この停止遅延期間(内燃機関の停止指令が発生してから内燃機関の回転を停止させるまでの期間)に、吸気バルブの閉弁時期を最遅角位置に制御して該最遅角位置を学習するようにしたものがある。
【0003】
また、フォークリフト等の産業車両においては、運転者が荷物の積み降ろし作業等のために運転席を離れることがあるため、特許文献2(特開2005−2798号公報)に記載されているように、運転者が運転席に座っているか否かを検出するシートスイッチと、変速装置(トランスミッション)のシフト位置を検出するシフトスイッチを設け、運転者が運転席を離れていると判定され、且つ、シフト位置が走行可能な位置(前進位置や後進位置)であると判定されたときに内燃機関の回転を停止させることで、運転者が運転席を離れた状態で車両が動き出すことを防止するようにしたものがある。
【特許文献1】特許第3551886号公報(第1頁〜第3頁等)
【特許文献2】特開2005−2798号公報(第2頁〜第3頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、内燃機関の停止指令が発生してから所定の遅延時間が経過した後に内燃機関の回転を停止させるシステムでは、停止遅延期間中(内燃機関の停止指令が発生してから内燃機関の回転を停止させるまでの期間中)に運転者が車両を離れると、運転者が不在の状態で内燃機関の運転が継続されてしまうという問題がある。
【0005】
尚、上記特許文献2では、運転者が運転席を離れていると判定され、且つ、シフト位置が走行可能な位置であると判定されたときに、内燃機関の回転を停止させる技術が開示されているが、この技術は、内燃機関の通常運転中の対策であって、上述した内燃機関の停止遅延期間中の問題を解決する技術ではない。
【0006】
また、仮に、内燃機関の停止遅延期間中に、運転者が運転席を離れていると判定され、且つ、シフト位置が走行可能な位置であると判定されたときに、内燃機関の回転を停止させるようにしたとしても、シフト位置が走行可能な位置ではない(例えばパーキング位置やニュートラル位置である)と判定されたときには、運転者が運転席を離れていると判定されても、内燃機関の回転を停止させないため、運転者が不在の状態で内燃機関の運転が継続されてしまう。しかも、運転者が運転席に座っているか否かを検出するシートスイッチ等の検出手段を新たに設ける必要があるため、その分、コストアップするという問題もある。
【0007】
本発明は、これらの事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、内燃機関の停止遅延期間中に運転者が不在の状態で内燃機関の運転が継続されることを防止できると共に、低コスト化の要求を満たすことができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後に内燃機関の回転を停止させる内燃機関の制御装置において、運転操作用ペダルの操作をペダル操作検出手段により検出し、停止遅延期間中に運転操作用ペダルの操作が検出されない状態が所定期間継続したときに内燃機関の回転を停止制御手段により自動的に停止させるようにしたものである。
【0009】
つまり、停止遅延期間中に運転操作用ペダル(例えばブレーキペダルやアクセルペダル)の操作が検出されない状態が所定期間継続したときには、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、内燃機関の回転を自動的に停止させる。このようにすれば、停止遅延期間中に運転者が不在の状態で内燃機関の運転が継続されることを防止することができる。しかも、一般に、車両に設けられるブレーキスイッチやアクセルセンサ等のペダル操作検出手段を利用して運転者が運転席を離れる可能性の有無を判断できるため、新たにセンサを設ける必要がなく、低コスト化の要求を満たすことができる。
【0010】
また、請求項2のように、車両のドアの開操作又はドアロックの解除操作をドア操作検出手段により検出し、停止遅延期間中にドアの開操作又はドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させるようにしても良い。つまり、停止遅延期間中にドアの開操作やドアロックの解除操作が検出されたときには、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、内燃機関の回転を自動的に停止させるものである。このようにしても、停止遅延期間中に運転者が不在の状態で内燃機関の運転が継続されることを防止することができる。一般に、ドアの開操作を検出するドアセンサは車両に設けられている。また、ドアロックの解除操作を検出するドアロックセンサを備えた車両もある。従って、ドアの開操作やドアロックの解除操作を検出するドア操作検出手段を利用すれば、新たにセンサを設ける必要がなく、低コスト化の要求を満たすことができる。
【0011】
この場合、停止遅延期間中に車両のいずれかのドアの開操作又はいずれかのドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させるようにしても良いが、請求項3のように、停止遅延期間中に車両の運転席のドアの開操作又は運転席のドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させるようにしても良い。このようにすれば、停止遅延期間中に運転席のドアの開操作や運転席のドアロックの解除操作が検出されたときだけ、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、内燃機関の回転を自動的に停止させることができ、停止遅延期間中に運転席以外のドアの開操作や運転席以外のドアロックの解除操作が検出されたときには、内燃機関の停止遅延制御を継続することができる。これにより、停止遅延期間中に車両のいずれかのドアの開操作又はいずれかのドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させる場合に比べて、運転者が運転席に座っているにも拘らず停止遅延期間の途中で内燃機関の回転を停止させてしまう頻度を少なくすることができ、停止遅延期間中に実行する処理が中断されてしまう頻度を少なくすることができる。
【0012】
また、請求項4のように、停止遅延期間中に運転操作用ペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続した状態でドアの開操作又はドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させるようにしても良い。このようにすれば、停止遅延期間中に運転操作用ペダルの操作が検出されない状態が所定期間継続したときに内燃機関の回転を自動的に停止させる場合に比べて、運転者が運転席に座っているにも拘らず停止遅延期間の途中で内燃機関の回転を停止させてしまう頻度を少なくすることができ、停止遅延期間中に実行する処理が中断されてしまう頻度を少なくすることができる。
【0013】
更に、請求項5のように、停止遅延期間中に内燃機関の始動要求が発生した場合には停止制御手段による内燃機関の停止制御を禁止するようにしても良い。このようにすれば、停止遅延期間中に内燃機関の始動要求が発生したにも拘らず、内燃機関の回転を自動的に停止させてしまうことを未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関であるエンジン51の吸気管52の最上流部には、エアクリーナ53が設けられ、このエアクリーナ53の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ54が設けられている。このエアフローメータ54の下流側には、モータ55によって開度調節されるスロットルバルブ56と、このスロットルバルブ56の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ57とが設けられている。
【0015】
更に、スロットルバルブ56の下流側には、サージタンク58が設けられ、このサージタンク58に、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ59が設けられている。また、サージタンク58には、エンジン51の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド60が設けられ、各気筒の吸気マニホールド60の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁61が取り付けられている。また、エンジン51のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ62が取り付けられ、各点火プラグ62の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0016】
また、エンジン51には、吸気バルブ67のバルブタイミング(開閉タイミング)を可変するベーン式の可変バルブタイミング装置11が設けられている。一方、エンジン51の排気管63には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ64(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ64の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒65が設けられている。
【0017】
また、エンジン51のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ66や、エンジン51のクランク軸が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ44が取り付けられている。このクランク角センサ44の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0018】
更に、アクセルセンサ68(ペダル操作検出手段)によってアクセル操作量(アクセルペダルの踏込量)が検出され、ブレーキスイッチ69(ペダル操作検出手段)によってブレーキ操作(ブレーキペダルの踏込操作)が検出されると共に、ドアセンサ70(ドア操作検出手段)によって車両のドアの開閉状態が検出される。
【0019】
これら各種センサの出力は、制御回路(以下「ECU」と表記する)43に入力される。このECU43は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁61の燃料噴射量や点火プラグ62の点火時期を制御する。
【0020】
次に、図2に基づいてベーン式の可変バルブタイミング装置11の構成を説明する。可変バルブタイミング装置11のハウジング12は、図示しない吸気側のカム軸の外周に回動自在に支持されたスプロケットにボルト13で締め付け固定されている。これにより、エンジンのクランク軸の回転がタイミングチェーンを介してスプロケットとハウジング12に伝達され、スプロケットとハウジング12がクランク軸と同期して回転する。ハウジング12内には、ベーンロータ14が相対回動自在に収納され、このベーンロータ14がボルト15によりカム軸の一端部に締め付け固定されている。
【0021】
ハウジング12の内部には、ベーンロータ14の外周部の複数のベーン17を進角方向及び遅角方向に相対回動自在に収納する複数のベーン収納室16が形成され、各ベーン収納室16が各ベーン17によって進角室18と遅角室19とに区画されている。
【0022】
進角室18と遅角室19に所定圧以上の油圧が供給された状態では、進角室18と遅角室19の油圧でベーン17が保持されて、クランク軸の回転によるハウジング12の回転が油圧を介してベーンロータ14に伝達され、このベーンロータ14と一体的にカム軸が回転駆動される。エンジン運転中は、進角室18と遅角室19の油圧を油圧制御弁21で制御してハウジング12に対してベーンロータ14を相対回動させることで、クランク軸に対するカム軸の変位角(カム軸位相)を制御して吸気バルブ67のバルブタイミングを可変する。
【0023】
また、いずれか1つのベーン17の両側部には、ハウジング12に対するベーンロータ14の相対回動範囲を規制するストッパ部22,23が形成され、このストッパ部22,23によってカム軸の変位角の最遅角位置と最進角位置が規制されている。また、いずれか1つのベーン17には、エンジン停止時等にカム軸の変位角を所定のロック位置でロックするためのロックピン24が設けられ、このロックピン24がハウジング12に設けられたロック穴(図示せず)に嵌り込むことで、カム軸の変位角が所定のロック位置でロックされる。このロック位置は、始動に適した位置(例えばカム軸変位角の調整可能範囲の略中間位置)に設定されている。
【0024】
可変バルブタイミング装置11の油圧制御回路には、オイルパン26内のオイル(作動油)がオイルポンプ27により油圧制御弁21を介して供給される。この油圧制御回路は、油圧制御弁21の進角圧ポートから吐出されるオイルを複数の進角室18に供給する油圧供給油路28と、油圧制御弁21の遅角圧ポートから吐出されるオイルを複数の遅角室19に供給する油圧供給油路29とが設けられている。
【0025】
そして、進角室18の油圧供給油路28と遅角室19の油圧供給油路29には、それぞれ各室18,19からの作動油の逆流を防止する逆止弁30,31が設けられている。本実施例では、1つのベーン収納室16の進角室18と遅角室19の油圧供給油路28,29についてのみ逆止弁30,31が設けられている。勿論、2つ以上のベーン収納室16の進角室18と遅角室19の油圧供給油路28,29にそれぞれ逆止弁30,31を設ける構成としても良い。
【0026】
各室18,19の油圧供給油路28,29には、それぞれ逆止弁30,31をバイパスするドレーン油路32,33が並列に設けられ、各ドレーン油路32,33には、それぞれドレーン切替弁34,35が設けられている。各ドレーン切替弁34,35は、油圧制御弁21から供給される油圧(パイロット圧)で閉弁方向に駆動されるスプール弁により構成され、油圧が加えられないときには、スプリング41,42によって開弁位置に保持される。ドレーン切替弁34,35が開弁すると、ドレーン油路32,33が開放されて、逆止弁30,31の機能が働かない状態となる。ドレーン切替弁34,35が閉弁すると、ドレーン油路32,33が閉鎖されて、逆止弁30,31の機能が有効に働く状態となり、油圧室18,19からのオイルの逆流が防止されて油圧室18,19の油圧が保持される。
【0027】
各ドレーン切替弁34,35は、電気的な配線が不要であるため、逆止弁30,31と共に可変バルブタイミング装置11内部のベーンロータ14にコンパクトに組み付けられている。これにより、各油圧室18,19の近くにドレーン切替弁34,35が配置され、進角・遅角動作時に各ドレーン油路32,33を各油圧室18,19の近くで応答良く開放/閉鎖できるようになっている。
【0028】
一方、油圧制御弁21は、リニアソレノイド36によって駆動されるスプール弁により構成され、進角室18と遅角室19に供給する油圧を制御する進角/遅角油圧制御機能37と、各ドレーン切替弁34,35を駆動する油圧を切り替えるドレーン切替制御機能38(油圧切替弁)とが一体化されている。この油圧制御弁21のリニアソレノイド36に通電する電流値(制御デューティ)は、ECU43によって制御される。
【0029】
このECU43は、クランク角センサ44及びカム角センサ45の出力信号に基づいて吸気バルブ67の実バルブタイミング(実変位角)を演算すると共に、吸気管圧力センサ59、冷却水温センサ66等のエンジン運転状態を検出する各種センサの出力に基づいて吸気バルブ67の目標バルブタイミング(目標変位角)を演算する。そして、ECU43は、図示しないバルブタイミング制御プログラムを実行することで、実バルブタイミングを目標バルブタイミングに一致させるように可変バルブタイミング装置11の油圧制御弁21の駆動電流をフィードバック制御(F/B制御)する。これにより、進角室18と遅角室19の油圧を制御してハウジング12に対してベーンロータ14を相対回動させることで、カム軸の変位角を変化させて実バルブタイミングを目標バルブタイミングに一致させる。
【0030】
ところで、エンジン運転中に吸気バルブ67を開閉駆動するときに、吸気バルブ67からカム軸が受けるトルク変動がベーンロータ14に伝わり、それによって、ベーンロータ14に対して遅角方向及び進角方向へのトルク変動が作用する。これにより、ベーンロータ14が遅角方向にトルク変動を受けると、進角室18の作動油が進角室18から押し出される圧力を受け、ベーンロータ14が進角方向にトルク変動を受けると、遅角室19の作動油が遅角室19から押し出される圧力を受けることになる。このため、油圧供給源であるオイルポンプ27の吐出油圧が低くなる低回転領域では、逆止弁30,31が無いと、進角室18に油圧を供給してカム軸の変位角を進角させようとしても、ベーンロータ14が上記トルク変動により遅角方向に押し戻されてしまい、目標変位角に到達するまでの応答時間が長くなってしまうという問題があった。
【0031】
これに対して、本実施例では、進角室18の油圧供給油路28と遅角室19の油圧供給油路29に、それぞれ各室18,19からのオイルの逆流を防止する逆止弁30,31を設けると共に、各室18,19の油圧供給油路28,29に、それぞれ逆止弁30,31をバイパスするドレーン油路32,33を並列に設け、各ドレーン油路32,33に、それぞれドレーン切替弁34,35を設けた構成となっている。これにより、図3に示すように、遅角動作、保持動作、進角動作に応じて各室18,19の油圧が次のように制御される。
【0032】
[遅角動作]
実バルブタイミングを遅角側の目標バルブタイミングに向けて遅角させる遅角動作中は、進角室18のドレーン切替弁34への油圧供給を停止することで、進角室18のドレーン切替弁34を開弁して進角室18の逆止弁30を機能させない状態にすると共に、遅角室19のドレーン切替弁35へ油圧切替弁38から油圧を加えることで、遅角室19のドレーン切替弁35を閉弁して遅角室19の逆止弁31を機能させる状態にする。これにより、低油圧時でも、ベーンロータ14の進角方向へのトルク変動に対して遅角室19からのオイルの逆流を逆止弁31により防止しながら効率良く遅角室19に油圧を供給して遅角応答性を向上させる。
【0033】
[保持動作]
実バルブタイミングを目標バルブタイミングに保持する保持動作中は、進角室18と遅角室19の両方のドレーン切替弁34,35へ油圧切替弁38から油圧を共に加えることで、両方のドレーン切替弁34,35を共に閉弁して、進角室18と遅角室19の両方の逆止弁30,31を機能させる状態にする。この状態では、吸気バルブ67からカム軸が受けるトルク変動によってベーンロータ14に対して遅角方向及び進角方向へのトルク変動が作用しても、進角室18と遅角室19の両方のオイルの逆流を逆止弁31により防止して、ベーン17をその両側から保持する油圧が低下するのを防止して、保持安定性を向上させる。
【0034】
[進角動作]
実バルブタイミングを進角側の目標バルブタイミングに向けて進角させる進角動作中は、進角室18のドレーン切替弁34へ油圧切替弁38から油圧を加えることで、進角室18のドレーン切替弁34を閉弁して進角室18の逆止弁30を機能させる状態にすると共に、遅角室19のドレーン切替弁35への油圧供給を停止することで、遅角室19のドレーン切替弁35を開弁して遅角室19の逆止弁31を機能させない状態にする。これにより、低油圧時でも、ベーンロータ14の遅角方向へのトルク変動に対して進角室18からのオイルの逆流を逆止弁30により防止しながら効率良く油圧を進角室18に供給して進角応答性を向上させる。
【0035】
また、ECU43は、後述する図5の停止制御プログラムを実行することで、エンジン停止時に図示しないIGスイッチ(イグニッションスイッチ)がオフされてからエンジン51の回転が完全に停止するまでの期間に、実バルブタイミングを始動に適した位置(ロック位置)に制御する停止時バルブタイミング制御を実行する。
【0036】
この停止時バルブタイミング制御の際に、ECU43は、図4のタイムチャートに実線で示すように、IGスイッチがオフされてエンジン停止指令が発生した時点t1 で、目標バルブタイミングを始動に適した位置に設定して、実バルブタイミングを目標バルブタイミングに一致させるように可変バルブタイミング装置11の油圧制御弁21を制御すると共に、エンジン回転速度を所定回転速度に維持するようにスロットル開度や燃料噴射量を制御する。ここで、所定回転速度は、実バルブタイミングを目標バルブタイミング(始動に適した位置)に制御するのに必要な油圧を確保できるエンジン回転速度(例えばエンジン停止指令発生直前のエンジン回転速度又はそれよりも少し低い回転速度)である。
【0037】
そして、実バルブタイミングと目標バルブタイミングとの偏差が所定の許容値以下になって実バルブタイミングが始動に適した位置付近に制御された後、更に実バルブタイミングが安定するのに必要な所定期間が経過したか否かを判定し、所定期間が経過して実バルブタイミングが始動に適した位置付近で安定するまで、エンジン回転速度を所定回転速度に維持して実バルブタイミングを目標バルブタイミング(始動に適した位置)に制御するのに必要な油圧を維持し、所定期間が経過した時点t3 で、燃料噴射及び点火を停止してエンジン51の回転を完全に停止させる。これにより、エンジン停止時に実バルブタイミングを確実に始動に適した位置に制御する。
【0038】
尚、エンジン51の筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を備え、エンジン運転中に燃圧(燃料圧力)を高圧にして筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射エンジンの場合には、エンジン停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後にエンジン51の回転を停止させると共に、このエンジン51の停止遅延期間中に燃圧を所定値まで低下させる停止時燃圧制御(又は燃圧を所定値まで上昇させる停止時燃圧制御)を実行するようにしても良い。
【0039】
このように、エンジン停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後にエンジン51の回転を停止させるシステムでは、エンジン51の停止遅延期間中(エンジン停止指令が発生してからエンジン51の回転を停止させるまでの期間中)に運転者が車両を離れると、運転者が不在の状態でエンジン51の運転が継続されてしまう。
【0040】
この対策として、ECU43は、図4のタイムチャートに破線で示すように、エンジン51の停止遅延期間中に運転操作用ペダル(例えばブレーキペダルやアクセルペダル)の操作が検出されない状態が所定期間以上継続した状態で車両の運転席のドアの開操作が検出されたときには、その時点t2 で、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、エンジン51の停止遅延期間の途中でもエンジン51の回転を自動的に停止させるようにしている。
【0041】
以下、ECU43が実行する図5の停止制御プログラムの処理内容を説明する。
図5に示す停止制御プログラムは、ECU43の電源オン中に所定周期で実行され、特許請求の範囲でいう停止制御手段としての役割を果たす。尚、IGスイッチのオフ後も暫く間、本プログラムを実行するために、IGスイッチのオフ後も暫くの間は、電源ラインのメインリレー(図示せず)をオン状態に維持してECU43の通電が継続されるようになっている。
【0042】
本プログラムが起動されると、まず、ステップ101で、エンジン停止指令が発生したか否かをIGスイッチがオフされたか否かによって判定する。尚、エンジン自動停止装置(いわゆるアイドリングストップ装置)を備え、そのエンジン自動停止装置が作動するように選択されている場合には、所定の自動停止条件が成立したか否かによってエンジン停止指令が発生したか否かを判定するようにしても良い。
【0043】
このステップ101で、エンジン停止指令が発生していないと判定された場合には、ステップ102以降の処理を行うことなく、本プログラムを終了する。
その後、上記ステップ101で、エンジン停止指令が発生したと判定された時点で、ステップ102に進み、現在のエンジン状態(例えば、エンジン回転速度、冷却水温、油温等)を検出する。
【0044】
この後、ステップ103に進み、図示しない停止遅延制御プログラムを実行することで、エンジン停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後にエンジン51の回転を停止させると共に、このエンジン51の停止遅延期間中に実バルブタイミングを始動に適した位置(ロック位置)に制御する停止時バルブタイミング制御を実行する。
【0045】
尚、エンジン51の筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を備え、エンジン運転中に燃圧(燃料圧力)を高圧にして筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射エンジンの場合には、エンジン停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後にエンジン51の回転を停止させると共に、このエンジン51の停止遅延期間中に燃圧を所定値まで低下させる停止時燃圧制御(又は燃圧を所定値まで上昇させる停止時燃圧制御)を実行するようにしても良い。
【0046】
この後、ステップ104に進み、エンジン51の停止遅延期間中であるか否かを判定し、停止遅延期間中であると判定された場合には、ステップ105に進み、エンジン始動要求が発生したか否かを、例えばIGスイッチがオンされたか否かや、所定の自動始動条件が成立したか否かによって判定する。
【0047】
このステップ105で、エンジン始動要求が発生していないと判定されれば、ステップ106に進み、アクセルセンサ68とブレーキスイッチ69の出力に基づいてアクセルペダルとブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続したか否かを判定する。この所定期間は、予め設定した固定値としても良いが、停止遅延制御の種類(停止時バルブタイミング制御や停止時燃圧制御)や停止遅延期間に応じて変化させるようにしても良い。
【0048】
このステップ106で、アクセルペダルとブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続したと判定された場合には、ステップ107に進み、ドアセンサ70の出力に基づいて運転席のドアの開操作が検出されたか否か(ドアが閉状態から開状態になったか否か)を判定する。その結果、エンジン51の停止遅延期間中に、上記ステップ106でアクセルペダル及びブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続したと判定され、且つ、上記ステップ107で運転席のドアの開操作が検出されたと判定された時点で、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、ステップ108に進み、燃料噴射及び点火を停止してエンジン51の回転を自動的に停止させる。
【0049】
尚、エンジン51の運転を継続したままでも絶対に安全であることを他のセンサ等との組み合わせによって検出可能な場合には、エンジン51の回転を停止させないようにしても良い。また、万一、他のセンサによって危険な状態が検出されたときには、ドアの開操作が検出されない場合でも、エンジン51の回転を自動的に停止させる。
【0050】
一方、エンジン51の停止遅延期間中に、上記ステップ105でエンジン始動要求が発生したと判定された場合には、ステップ106以降の処理を行うことなく本プログラムを終了することで、エンジン51の回転を自動的に停止させる処理を禁止して、停止遅延期間中にエンジン51の始動要求が発生したにも拘らず、エンジン51の回転を自動的に停止させてしまうことを未然に防止する。
【0051】
また、エンジン51の停止遅延期間中に、上記ステップ106でアクセルペダル又はブレーキペダルの操作が所定期間内に検出されたと判定された場合、又は、上記ステップ107で運転席のドアの開操作が検出されないと判定された場合(つまり全てのドアの開操作が検出されないと判定された場合や運転席以外のドアの開操作が検出されたと判定された場合)には、そのまま本プログラムを終了して、エンジン51の停止遅延制御を継続する。
【0052】
以上説明した本実施例では、エンジン51の停止遅延期間中に、アクセルペダルとブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続した状態で、運転席のドアの開操作が検出されたときに、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、エンジン51の回転を自動的に停止させるようにしたので、停止遅延期間中に運転者が不在の状態でエンジン51の運転が継続されることを防止することができる。しかも、一般に、車両に設けられるアクセルセンサ68、ブレーキスイッチ69、ドアセンサ70等を利用して運転者が運転席を離れる可能性の有無を判断できるため、新たにセンサを設ける必要がなく、低コスト化の要求を満たすことができる。
【0053】
しかも、本実施例では、停止遅延期間中に運転席のドアの開操作が検出されたときだけ、運転者が運転席を離れる可能性があると判断して、エンジン51の回転を自動的に停止させ、停止遅延期間中に運転席以外のドアの開操作が検出されたときには、エンジン51の停止遅延制御を継続するようにしたので、停止遅延期間中に車両のいずれかのドアの開操作が検出されたときにエンジン51の回転を自動的に停止させる場合に比べて、運転者が運転席に座っているにも拘らず停止遅延期間の途中でエンジン51の回転を停止させてしまう頻度を少なくすることができ、停止遅延期間中に実行する処理(実バルブタイミングを始動に適した位置に制御する処理や燃圧を所定値に制御する処理)が中断されてしまう頻度を少なくすることができる。
【0054】
しかしながら、エンジン51の停止遅延期間中にアクセルペダルとブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続した状態で車両のいずれかのドアの開操作が検出されたときにエンジン51の回転を自動的に停止させるようにしても良い。
【0055】
また、エンジン51の停止遅延期間中にアクセルペダルとブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間継続したときにエンジン51の回転を自動的に停止させるようにしたり、或は、エンジン51の停止遅延期間中に車両の運転席のドア(又はいずれかのドア)の開操作が検出されたときにエンジン51の回転を自動的に停止させるようにしても良い。
【0056】
また、上記実施例では、運転者が運転席を離れる可能性を判断するために、アクセルペダルとブレーキペダルの操作が検出されない状態が所定期間継続したか否かを判定するようにしたが、クラッチペダルを備えたシステムでは、アクセルペダルとブレーキペダルとクラッチペダルの操作が検出されない状態が所定期間継続したか否かを判定するようにしても良い。
【0057】
また、上記実施例では、運転者が運転席を離れる可能性を判断するために、運転席のドア(又はいずれかのドア)の開操作が検出されたか否かを判定するようにしたが、ドアロックの解除操作を検出するドアロックセンサを備えたシステムでは、運転席のドアロック(又はいずれかのドアロック)の解除操作が検出されたか否かを判定するようにしても良い。或は、ドアノブの開操作を検出するドアノブセンサを備えたシステムでは、運転席のドアノブ(又はいずれかのドアノブ)の開操作が検出されたか否かを判定するようにしても良い。更に、ドアの開操作とドアロックの解除操作とドアノブの開操作のうちのいずれか2つ又は3つの操作が検出されたか否かを判定するようにしても良い。
【0058】
また、上記実施例では、吸気バルブ側の可変バルブタイミング装置で停止時バルブタイミング制御を実行するシステムに本発明を適用したが、排気バルブ側の可変バルブタイミング装置で停止時バルブタイミング制御を実行するシステムや、吸気バルブ側の可変バルブタイミング装置及び排気バルブ側の可変バルブタイミング装置で停止時バルブタイミング制御を実行するシステムに本発明を適用しても良い。
【0059】
また、上記実施例では、エンジン停止時に停止時バルブタイミング制御や停止時燃圧制御を実行するためにエンジンの停止遅延期間を設けるシステムに本発明を適用したが、エンジン停止時に停止時バルブタイミング制御や停止時燃圧制御以外の制御を実行するためにエンジンの停止遅延期間を設けるシステムに本発明を適用しても良い。
【0060】
その他、本発明は、可変バルブタイミング装置の構成を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施例におけるエンジン制御システム全体の概略構成図である。
【図2】可変バルブタイミング装置とその油圧制御回路を概略的に示す図である。
【図3】可変バルブタイミング装置の遅角動作、保持動作、進角動作を説明するための図である。
【図4】停止制御の実行例を示すタイムチャートである。
【図5】停止制御プログラムの処理の流れを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
11…可変バルブタイミング装置、43…ECU(停止制御手段)、44…クランク角センサ、45…カム角センサ、51…エンジン(内燃機関)、56…スロットルバルブ、61…燃料噴射弁、62…点火プラグ、66…冷却水温センサ、68…アクセルセンサ(ペダル操作検出手段)、69…ブレーキスイッチ(ペダル操作検出手段)、70…ドアセンサ(ドア操作検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後に内燃機関の回転を停止させる内燃機関の制御装置において、
運転操作用ペダルの操作を検出するペダル操作検出手段と、
前記停止遅延期間中に前記運転操作用ペダルの操作が検出されない状態が所定期間継続したときに内燃機関の回転を自動的に停止させる停止制御手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
内燃機関の停止指令が発生してから所定の停止遅延期間が経過した後に内燃機関の回転を停止させる内燃機関の制御装置において、
車両のドアの開操作又はドアロックの解除操作を検出するドア操作検出手段と、
前記停止遅延期間中に前記ドアの開操作又は前記ドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させる停止制御手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記停止制御手段は、前記停止遅延期間中に車両の運転席のドアの開操作又は運転席のドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
運転操作用ペダルの操作を検出するペダル操作検出手段を備え、
前記停止制御手段は、前記停止遅延期間中に前記運転操作用ペダルの操作が検出されない状態が所定期間以上継続した状態で前記ドアの開操作又は前記ドアロックの解除操作が検出されたときに内燃機関の回転を自動的に停止させることを特徴とする請求項2又は3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記停止遅延期間中に内燃機関の始動要求が発生した場合に前記停止制御手段による内燃機関の停止制御を禁止する手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−75581(P2008−75581A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256597(P2006−256597)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】