説明

内燃機関の制御装置

【課題】補助手段を作動させる際に、燃焼状態が悪化するのを防ぐことが可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の制御装置は、ターボ過給機と、ターボ過給機のタービンにガスを供給することによりタービンの回転駆動力のアシストを行う補助手段と、を備えた内燃機関に好適に適用される。内燃機関の制御装置は、制御手段を備えており、制御手段は、加速開始時から所定時間経過するまで、補助手段によりタービンに供給されるガスの量を所定ガス量未満にする。ここで、所定ガス量とは、例えば、前記補助手段によるアシストによって失火しない程度の量に設定される。このようにすることで補助手段によるアシストが行われた場合において、排気ガスが燃焼室へ逆流することによる内部EGRの増加を抑えることができ、燃焼室における燃焼状態が悪化するのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ過給機を備えた内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の加速性能を向上させるために、ターボ過給機の駆動をアシストする技術が知られている。例えば、特許文献1には、圧縮空気をタービンに向かって噴出することによりタービンの回転駆動力を補助する補助手段を備えた内燃機関において、運転者の加速要求の有無に応じて、当該補助手段を作動させる技術が記載されている。特許文献2には、タービンに供給される補助空気の流量を調整する調整手段を備えた内燃機関において、タービン回転数が第1目標回転数のN倍(0<N<1)である初期目標回転数になるまで、補助空気の流量が最大流量となるように調整手段を制御し、タービン回転数が第1目標回転数を越えた後、タービン回転数が第2目標回転数となるように調整手段を制御する技術が記載されている。特許文献3には、タンク圧が所定圧以上であると判定された場合には、タンク圧が所定圧以下になるまで補助空気をタービンへ供給するように制御し、タンク圧が所定圧以上でないと判定された場合には、補助空気を一定時間タービンへ供給するように制御する技術が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−105026号公報
【特許文献2】特開2008−2275号公報
【特許文献3】特開2008−2277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では、補助手段を作動させる際に、背圧が上昇することにより排気ガスが燃焼室に逆流して内部EGRが増加し、燃焼状態が悪化する場合がある。この点について、特許文献3においても何ら検討されていない。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、補助手段を作動させる際に、燃焼状態が悪化して失火するのを防ぐことが可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、ターボ過給機と、前記ターボ過給機のタービンにガスを供給することにより前記タービンの回転駆動力のアシストを行う補助手段と、を備えた内燃機関に適用される内燃機関の制御装置は、加速開始時から所定時間経過するまで、前記補助手段により前記タービンに供給される前記ガスの量を所定ガス量未満にする制御手段を備える。
【0007】
上記の内燃機関の制御装置は、ターボ過給機と、前記ターボ過給機のタービンにガスを供給することにより前記タービンの回転駆動力のアシストを行う補助手段と、を備えた内燃機関に好適に適用される。ここで、補助手段とは、例えばエアアシスト装置である。内燃機関の制御装置は、例えばECU(Electronic Control Unit)などの制御手段を備えている。制御手段は、加速開始時から所定時間経過するまで、前記補助手段により前記タービンに供給される前記ガスの量を所定ガス量未満にする。ここで、所定ガス量とは、例えば、前記補助手段によるアシストによって失火しない程度の量に設定される。このようにすることで、前記補助手段によるアシストが行われた場合において、排気ガスが燃焼室へ逆流することによる内部EGRの増加を抑えることができ、燃焼室における燃焼状態の悪化を抑え、失火を防ぐことができる。
【0008】
上記の内燃機関の好適な実施例は、前記制御手段は、前記所定時間だけ前記補助手段によるアシストを禁止する。
【0009】
上記の内燃機関の好適な実施例は、前記所定時間は、前記内燃機関の吸気弁と排気弁との間のバルブオーバラップ量が所定量以下となるまでの時間である。ここで、所定量とは、前記補助手段によりアシストが行われた場合において、点火時期の補正により失火を防ぐことが可能な内部EGR量となるときのバルブオーバラップ量となるように設定される。
【0010】
上記の内燃機関の制御装置の他の一態様は、前記制御手段は、前記内燃機関における過給圧と背圧との差が所定圧力以上となるときには、前記バルブオーバラップ量を増加させる。ここで、所定圧力とは、吸気通路より燃焼室に導入された吸気が燃焼されずに排気通路へ吹き抜けるスカベンジ効果が生じるときの過給圧と背圧との差である。前記内燃機関における過給圧と背圧との差が所定圧力以上となるときには、スカベンジ効果により、排気ガスの燃焼室への逆流を防ぐことができる。このときに、前記バルブオーバラップ量を増加させることにより、スカベンジ効果によりタービンの回転駆動力をアシストすることができ、出力トルクの向上を図ることができる。
【0011】
上記の内燃機関の制御装置の他の一態様は、前記制御手段は、前記補助手段によるアシストを行う際において、前記内燃機関の点火時期を進角側に補正する。このようにすることで、燃焼室における燃焼状態の悪化を確実に抑えることができ、失火を防ぐことができる。
【0012】
上記の内燃機関の制御装置の他の一態様は、前記内燃機関は、排気通路において前記タービンの上流側と下流側とをバイパスするバイパス通路上に設けられたウエストゲートバルブを備え、前記制御手段は、加速開始時から前記ウエストゲートバルブを閉じ側に制御する。このようにすることで、アシストに対するタービンのレスポンスを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0014】
[全体構成]
図1は、本発明の内燃機関の制御装置を適用した内燃機関の構成を示す構成図である。図1では、実線矢印がガス(吸気及び排気)の流れを示し、破線矢印が信号の流れを示している。
【0015】
内燃機関(エンジン)は、自動車などの車両に走行用動力源として搭載され、主に、複数の気筒10と、各気筒10にそれぞれ接続される吸気通路3及び排気通路4と、吸気通路3及び排気通路4に設けられたターボ過給機5とを備えている。ターボ過給機5は、吸気通路3に設けられたコンプレッサ5aと、排気通路4に設けられたタービン5bと、を有し、これらが一体回転するように構成されている。
【0016】
吸気通路(吸気管)3には、エアクリーナ9と、エアフローメータ(AFM)41と、エアバイパス弁31と、ターボ過給機5のコンプレッサ5aと、インタークーラ6と、スロットルバルブ32と、吸気(空気)を貯蔵可能なサージタンク7と、が設けられている。AFM41は、外部から吸入された吸気の量(吸入空気量)を検出して、検出された吸入空気量に対応する検出信号S41をECU50へ送信する。エアバイパス弁31は、吸気通路3におけるコンプレッサ5aの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路3aに設けられている。エアバイパス弁31は、バイパス通路3aを通過する吸気を調整するためのものでありECU50からの制御信号によって制御される。スロットルバルブ32は、吸気通路3における吸入空気量を調整するためのものであり、ECU50からの制御信号によって制御される。
【0017】
また、吸気通路3には、吸気温度センサ42と、吸気圧センサ43と、が設けられている。吸気温度センサ42は、吸気通路3における吸気の温度(吸気温度)を検出して、検出された吸気温度に対応する検出信号S42をECU50へ送信する。吸気圧センサ43は、吸気通路3における吸気の圧力(吸気管圧力)を検出して、検出された吸気管圧力に対応する検出信号S43をECU50へ送信する。
【0018】
気筒10の燃焼室10aには、吸気通路3と排気通路4とが接続されているとともに、燃焼室10a内に燃料を噴射するための燃料噴射弁11と、燃焼室10a内において燃料に点火する点火プラグ12と、が設けられている。燃料噴射弁11と点火プラグ12とは、ECU50からの制御信号によって制御される。例えば、点火プラグ12は、ECU50からの検出信号S12によって制御される。また、気筒10には、吸気弁13と排気弁14とが設けられている。吸気弁13は、開閉することによって、吸気通路3と燃焼室10aとの導通/遮断を制御する。排気弁14は、開閉することによって、排気通路4と燃焼室10aとの導通/遮断を制御する。吸気弁13が開くことにより、吸気通路3より燃焼室10a内へ吸気が導入される。燃焼室10a内へ導入された吸気は、燃料噴射弁11より噴射された燃料と混合した後、点火プラグ12が点火することにより燃焼される。燃焼により発生した排気(排気ガス)は、排気弁14が開くことにより排気通路4へ排出される。燃焼室10a内で燃料と吸気とが燃焼されると、ピストン15が下死点まで押し下げられる力が発生する。ピストン15が下死点まで押し下げられる力が、コンロッド16を介してクランク軸17に伝達され、クランク軸17が回転する。ここで、クランク軸17近傍には、クランク角センサ45が設けられている。クランク角センサ45は、クランク軸17の回転角(クランク角)を検出して、検出されたクランク角に対応する検出信号S45をECU50へ送信する。
【0019】
ここで、吸気弁13には、当該吸気弁13のバルブタイミングを変化させることが可能な可変バルブタイミング機構(VVT)13aが設けられている。可変バルブタイミング機構13aが制御されることにより、吸気弁13と排気弁14との間のバルブオーバラップ量が制御される。可変バルブタイミング機構(VVT)13aは、ECU50から供給される制御信号S13aによって制御される。なお、可変バルブタイミング機構13aは、吸気弁13のみに取り付けられるのには限られず、加えて、排気弁14にも取り付けられるとしてもよい。
【0020】
排気通路4には、ターボ過給機5のタービン5bと、ウエストゲートバルブ(WGV)36と、触媒8と、エアアシスト装置21と、が設けられている。ウエストゲートバルブ(WGV)36は、排気通路4におけるタービン5bの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路4aに設けられている。ウエストゲートバルブ36は、バイパス通路4aを通過する排気ガス量を調整するためのものであり、ECU50からの制御信号S36によって制御される。触媒8は、例えば三元触媒であり、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物、などを浄化する機能を有する。なお、触媒8の代わりに、排気ガス中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと触媒とを組み合わせた排気浄化装置を用いるとしてもよい。
【0021】
エアアシスト装置21は、エア通路23と、エアタンク22と、制御弁24と、より構成される。エアタンク22は、例えば吸気通路4より吸気(空気)を取り入れて蓄積するタンクである。エア通路23は、エアタンク22と、タービン5bの上流側の排気通路4と、を接続している。エア通路23の排気通路4側の先端には、タービン5bに向けられたノズル25が取り付けられている。エアアシスト装置21は、エアタンク22内の圧縮空気を、エア通路23を通過させ、排気通路4内においてタービン5bに向けて噴射することにより、タービン5bの回転駆動力のアシスト(エアアシスト)を行う。エア通路23には、制御弁24が設けられている。制御弁24は、圧縮空気の流量を調節するためのものであり、ECU50からの制御信号S24によって制御される。また、エアタンク22には、圧力センサ44が設けられている。圧力センサ44は、エアタンク22内の圧縮空気の圧力(以下、「アシスト圧」と称する)を検出して、検出されたアシスト圧に対応する検出信号S44をECU50へ送信する。
【0022】
なお、エアアシスト装置21は、圧縮空気をタービン5bに向けて噴射する装置には限られない。空気を蓄積する代わりに、エアアシスト装置21は、例えばタービン5bの下流側の排気通路4より排気ガスをエアタンク22に取り入れて蓄積し、エアタンク22内に蓄積された排気ガスをタービン5bへ向けて噴射するとしても良い。
【0023】
ECU(Electronic Control Unit)50は、図示しないCPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、アクセル開度センサや各種センサからの検出信号に基づいて内燃機関の運転状態を検出し、検出された運転状態に基づいて内燃機関の制御を行う。具体的には、本実施形態に係る内燃機関の制御装置では、ECU50は、アクセル開度センサからの検出信号に基づいて、運転者からの加速要求があるか否かを判定し、運転者からの加速要求があると判定した場合には、各種センサからの検出信号S41〜45に基づいて、制御弁24、ウエストゲートバルブ36、可変タイミング機構13a、点火プラグ12の制御を行う。従って、ECU50は、本発明における制御手段として機能する。
【0024】
[内燃機関の制御方法]
本実施形態に係る内燃機関の制御方法について説明する。本実施形態に係る内燃機関の制御方法では、ECU50は、加速開始時から所定時間経過するまでは、エアアシスト装置21によるエアアシストを禁止することとし、加速開始時から所定時間経過後に、エアアシスト装置21によるエアアシストを実行することとする。以下、図2を用いて具体的に述べる。
【0025】
図2は、エンジンの各パラメータについて時間に対する変化を示すグラフである。図2において、横軸は時間を示し、縦軸は各パラメータの値を示している。図2において、実線のグラフは、本実施形態に係る内燃機関の制御方法における各パラメータのグラフを示し、破線のグラフは、一般的な内燃機関の制御方法における各パラメータのグラフを示している。また、実線で示す背圧のグラフとの区別を明確にするために、過給圧のグラフを一点鎖線で示している。
【0026】
ECU50は、要求空気量が実際の吸入空気量よりも大きく、即ち、運転者からの加速要求があり、かつ、当該要求空気量が、ターボ過給を行わないとした場合における吸入空気量よりも大きくなっている場合には、エアアシスト装置21によるエアアシストを行う必要があると判定する。図2に示す例では、ECU50は、時刻T1において、エアアシスト装置21によるエアアシストを行う必要があると判定している。
【0027】
ECU50は、エアアシスト装置21によるエアアシストを行う必要があると判定してから所定時間経過するまでは、エアアシスト装置21の制御弁24を閉じたままとし、所定時間経過後に、エアアシスト装置21の制御弁24を開くこととする。具体的には、ECU50は、エアアシスト装置21によるエアアシストを行う必要があると判定してから、可変バルブタイミング機構13aを制御して、吸気弁13と排気弁14との間のバルブオーバラップ量を減少させるとともに、当該バルブオーバラップ量が所定量以下となるまで、エアアシスト装置21の制御弁24を閉じたままとする。図2の例でいうと、ECU50は、バルブオーバラップ量が所定量OV1以下となるまで、エアアシスト装置21の制御弁24を閉じたままとする。ここで、所定量OV1は、エンジン回転数、エンジン負荷、アシスト圧、に基づいて、予め実験などにより求められたマップを用いて算出された値である。また、図2の例では、ECU50は、バルブオーバラップ量が所定量OV1以下となったときに、エアアシスト装置21の制御弁24を開くとしているが、これに限られるものではない。代わりに、ECU50は、バルブオーバラップ量が最小量OV2となるまで、エアアシスト装置21の制御弁24を閉じたままとし、バルブオーバラップ量が最小量OV2となったときに、エアアシスト装置21の制御弁24を開くとしても良い。
【0028】
なお、ECU50は、時刻T1において、エアアシスト装置21によるエアアシストを行う必要があると判定した場合には、ウエストゲートバルブ36を閉じることとする。例えば、触媒8の触媒温度を上昇させる必要がある場合には、ウエストゲートバルブ36が開かれていることがある。このような場合であっても、ECU50は、エアアシスト装置21によるエアアシストを行う必要があると判定した場合には、ウエストゲートバルブ36を閉じて、排気通路4における排気ガス、及び、エアアシスト装置21より噴射された圧縮空気、を全てタービン5bに通過させる。このようにすることで、タービン5bのレスポンスを向上させることができる。
【0029】
ECU50は、バルブオーバラップ量が所定量OV1以下になったときに(時刻T2)、エアアシスト装置21の制御弁24を開き、タービン5bに圧縮空気を噴射して、タービン5bの回転駆動力のアシストを行う。時刻T2では、エアアシスト装置21よりタービン5bに圧縮空気が噴射されることにより、排気通路4における背圧は上昇するものの、バルブオーバラップ量は減少しているので、破線で示すバルブオーバラップ量を減少させない場合と比較して、排気ガスの燃焼室10aへの逆流は抑えられ、内部EGRの増加は抑えられる。つまり、バルブオーバラップ量を予め減少させておくことにより、エアアシスト装置21によるエアアシストが行われた際に内部EGRが増加するのを抑えることができ、燃焼室10aにおける燃焼状態の悪化を抑え、失火を防ぐことができる。
【0030】
しかし、ECU50は、バルブオーバラップ量を所定量OV1以下とすることにより、エアアシスト装置21の制御弁24が開かれた際において、排気ガスの燃焼室10aへの逆流をある程度抑えることはできるものの、背圧の方が過給圧よりも大きくなっているので、排気ガスの逆流を完全に抑えることは難しい。一般的な内燃機関の制御方法では、エアアシスト装置21の制御弁24を開いた後、破線で示すように、点火時期を一定の割合で遅角させるとしているが、この場合には、排気ガスの逆流により内部EGRが増加した状態で点火時期を遅角させることとなるので、燃焼室10aにおける燃焼状態は悪化して失火し、図2に示すように、エンジンの出力トルクの落ち込みが発生する可能性がある。
【0031】
そこで、本実施形態に係る内燃機関の制御方法では、ECU50は、時刻T2において、エアアシスト装置21の制御弁24を開いた後、過給圧と背圧との大小関係が逆転して、過給圧が背圧よりも所定圧力以上大きくなる時刻T3までは、つまり、排気ガスの燃焼室10aへ逆流が完全に抑えられるまでは、実線で示すように、点火時期を進角側へ補正することとする。具体的には、ECU50は、エアアシスト装置21の制御弁24を開いた後、時刻T3まで、バルブオーバラップ量を最小量OV2となるように制御するとともに、一般的な内燃機関の制御方法と比較して、点火時期を進角側へ補正する、即ち、図2の例でいうと、点火時期の遅角量を減少させる。このようにすることで、燃焼室10aにおける燃焼状態の悪化を確実に抑えることができ、失火を防ぐことができる。
【0032】
つまり、本実施形態に係る内燃機関の制御方法では、バルブオーバラップ量が所定量OV1以下となるまでエアアシスト装置21の制御弁24を閉じたままとすることにより、点火時期の補正により失火を防ぐことが可能なレベルにまで内部EGR量を減少させ、その後、点火時期の補正を行うことで失火を防いでいる。言い換えると、所定量OV1は、エアアシスト装置21によりアシストが行われた場合において、点火時期の補正により失火を防ぐことが可能な内部EGR量となるときのバルブオーバラップ量となるように設定される。
【0033】
時刻T3において、過給圧と背圧との大小関係が逆転して、過給圧が背圧よりも所定圧力以上大きくなったとき、吸気通路3より燃焼室10aに導入された吸気が燃焼されずに排気通路4へ吹き抜ける、いわゆるスカベンジ効果が生じる。このとき、スカベンジ効果により、排気ガスの燃焼室10aへの逆流は完全に抑えられるので、バルブオーバラップ量を増加させても失火する心配がなくなり、ECU20は、バルブオーバラップ量を最小量OV2より増加させることが可能となる。そこで、ECU20は、時刻T3より、バルブオーバラップ量を、タービン5bのレスポンスが最適となるバルブオーバラップ量OVMとなるまで(時刻T4)、次第に増加させることとする。このようにすることで、スカベンジ効果によりタービン5bの回転駆動力をアシストすることができ、エンジンの出力トルクの向上を図ることができる。
【0034】
(制御処理)
次に、本実施形態に係る内燃機関の具体的な制御処理について、図3に示すフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0035】
まず、ステップS101において、ECU50は、アクセル開度などに基づいて、要求空気量を算出する。続くステップS102において、ECU50は、要求空気量が実際の吸入空気量よりも大きいか否かについて判定する。ECU50は、AFM41からの検出信号に基づいて、実際の吸入空気量を算出することができる。
【0036】
ステップS102において、ECU50は、要求空気量が実際の吸入空気量以下となっていると判定した場合には(ステップS102:No)、運転者からの加速要求がないものとして、エアアシスト装置21によるエアアシストを禁止し(ステップS111)、ウエストゲートバルブ36の通常制御を行う(ステップS112)。このとき、例えば、触媒8の触媒温度を上昇させる必要がある場合には、ECU50は、ウエストゲートバルブ36を開き側に制御することにより、タービン5bを経由せずに触媒8に直接供給される排気ガス量を増加させる。この後、ECU50は、本制御処理をリターンする。
【0037】
ステップS102において、ECU50は、要求空気量が実際の吸入空気量よりも大きくなっていると判定した場合には(ステップS102:Yes)、運転者からの加速要求があるものとして、ステップS103の処理へ進む。
【0038】
ステップS103において、ECU50は、要求空気量が、NA状態での吸入空気量よりも大きくなっているか否か、即ち、ターボ過給を行わないとした場合における吸入空気量よりも大きくなっているか否かについて判定する。ECU50は、要求空気量が、NA状態での吸入空気量以下となっていると判定した場合には(ステップS103:No)、本制御処理をリターンし、要求空気量が、NA状態での吸入空気量よりも大きくなっていると判定した場合には(ステップS103:Yes)、ステップS104の処理へ進む。
【0039】
ステップS104において、ECU50は、エンジン回転数、エンジン負荷、バルブオーバラップ量、に基づいて、エンジンの運転状態がスカベンジ領域にあるか否かについて判定する。スカベンジ領域とは、過給圧が背圧よりも所定圧力以上大きくなるような運転領域である。つまり、エンジンの運転状態がスカベンジ領域にある場合には、吸気通路3より燃焼室10aに導入された吸気が燃焼されずに排気通路4へ吹き抜けるスカベンジ効果が生じている。具体的には、ECU50は、エンジン回転数、エンジン負荷、バルブオーバラップ量、に基づいて、予め実験などにより求められたマップを用いて、エンジンの運転状態がスカベンジ領域にあるか否かについて判定する。
【0040】
ステップS104において、ECU50は、エンジンの運転状態がスカベンジ領域にあると判定した場合には(ステップS104:Yes)、エアアシスト装置21によるエアアシストを許可するとともに(ステップS121)、エンジン回転数と要求空気量とに基づいて、タービン5bのレスポンスが最適となるように、バルブオーバラップ量を補正する(ステップS122)。具体的には、このときのバルブオーバラップ量の補正量は、エンジン回転数と要求空気量とに基づいて、予め実験などにより求められたマップを用いて算出される。上述のステップS121〜S122の処理は、図2の例でいうと、時刻T3から時刻T4における制御に相当する。このようにすることで、スカベンジ効果によりタービン5bの回転駆動力をアシストすることができ、出力トルクの向上を図ることができる。この後、ECU50は、本制御処理をリターンする。
【0041】
ステップS104において、ECU50は、エンジンの運転状態がスカベンジ領域にないと判定した場合には(ステップS104:No)、ステップS105の処理へ進む。
【0042】
ステップS105において、ECU50は、バルブオーバラップ量が失火オーバラップ量よりも大きいか否かについて判定する。ここでいう失火オーバラップ量とは、エアアシスト装置21によりエアアシストが行われることで背圧が大きくなった場合であっても、点火時期の補正により失火を防ぐことが可能な内部EGR量となるときのバルブオーバラップ量であり、図2の例でいうと、所定量OV1に相当する。具体的には、失火オーバラップ量は、エンジン回転数、エンジン負荷、アシスト圧、に基づいて、予め実験などにより求められたマップを用いて算出される。
【0043】
ステップS105において、ECU50は、バルブオーバラップ量が失火オーバラップ量よりも大きいと判定した場合には(ステップS105:Yes)、ステップS106の処理へ進む。
【0044】
ステップS106において、ECU50は、エアアシスト装置21によるエアアシストを禁止し、続くステップS107、S108において、ECU50は、バルブオーバラップ量を失火オーバラップ量以下となるまで減少させるとともに、ウエストゲートバルブ36を閉じ側に制御を行う。このステップS106〜S108の処理は、図2の例でいうと、時刻T1から時刻T2における制御に相当する。このようにすることで、後に、エアアシスト装置21によるエアアシストが行われた場合において、排気ガスが燃焼室10aへ逆流するのを抑えることができ、内部EGRの増加を抑えることができる。この後、ECU50は、本制御処理をリターンする。
【0045】
一方、ステップS105において、ECU50は、バルブオーバラップ量が失火オーバラップ量以下であると判定した場合には(ステップS105:No)、ステップS131の処理へ進む。
【0046】
ステップS131において、ECU50は、エアアシスト装置21によるエアアシストを許可し、続くステップS132において、ECU50は、点火時期を補正する。図2の例でいうと、ECU50は、点火時期を進角側へ補正する。補正量は、エンジン回転数、エンジン負荷、アシスト圧、に基づいて、予め実験などにより求められたマップを用いて算出される。このとき、ステップS133、S134の処理において、ECU50は、バルブオーバラップ量を失火オーバラップ量以下に保持するとともに、ウエストゲートバルブ36を閉じ側に制御を行う。このステップS131〜S134の処理は、図2の例でいうと、時刻T2から時刻T3における制御に相当する。このようにすることで、燃焼室10aにおける燃焼状態が悪化するのを確実に抑え、失火を防ぐことができる。この後、ECU50は、本制御処理をリターンする。
【0047】
以上に述べたことから分かるように、本実施形態に係る内燃機関の制御方法によれば、ECU50は、加速開始時から所定時間経過するまでは、エアアシスト装置21によるエアアシストを行わないこととする。このようにすることで、後に、エアアシスト装置21によるエアアシストが行われた場合において、内部EGRの増加を抑えることができ、燃焼室10aにおける燃焼状態の悪化を抑えて、失火を防ぐことができる。
【0048】
[変形例]
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御方法の変形例について述べる。
【0049】
上述の実施形態では、ECU50は、加速開始時から所定時間経過するまでは、エアアシスト装置21によるエアアシストを行わないとしているが、これはエアアシストを完全に行わないとすることに限られない。代わりに、ECU50は、制御弁23を制御して、エアアシスト装置21より噴射されるガス量が所定ガス量未満となるように制御するとしても良い。ここでいう所定ガス量は、予め実験などにより求められ、エアアシストを行うことにより失火しない程度の量に設定される。これによっても、所定時間経過後に、エアアシスト装置21より噴射されるガス量が所定ガス量以上にされるエアアシストが行われた場合において、燃焼室10aにおける燃焼状態の悪化を抑えて、失火を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の構成を示す構成図である。
【図2】加速アシスト時における各パラメータの変化を示すグラフである。
【図3】本実施形態に係る内燃機関の制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
3 吸気通路
4 排気通路
5 ターボ過給機
8 触媒
10 気筒
50 ECU
21 エアアシスト装置
36 ウエストゲートバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ過給機と、前記ターボ過給機のタービンにガスを供給することにより前記タービンの回転駆動力のアシストを行う補助手段と、を備えた内燃機関に適用される内燃機関の制御装置であって、
加速開始時から所定時間経過するまで、前記補助手段により前記タービンに供給される前記ガスの量を所定ガス量未満にする制御手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定時間だけ前記補助手段によるアシストを禁止する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記内燃機関の吸気弁と排気弁との間のバルブオーバラップ量が所定量以下となるまでの時間である請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記内燃機関における過給圧と背圧との差が所定圧力以上となるときには、前記バルブオーバラップ量を増加させる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記補助手段によるアシストを行う際において、前記内燃機関の点火時期を進角側に補正する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、排気通路において前記タービンの上流側と下流側とをバイパスするバイパス通路上に設けられたウエストゲートバルブを備え、
前記制御手段は、加速開始時から前記ウエストゲートバルブを閉じ側に制御する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−293516(P2009−293516A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147911(P2008−147911)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】