説明

内燃機関の制御装置

【課題】デポジットの堆積及び混合気の均質性に加えて燃料希釈及びPM生成を考慮して、二つの燃料噴射弁を有する内燃機関を最適に運転することが可能な制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関は、機関燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁3aと、機関吸気通路内に燃料を噴射するポート燃料噴射弁3bとを具備する。機関負荷及び機関回転数によって定められる運転領域が少なくとも筒内噴射運転領域と、両弁噴射運転領域とに分割されている。機関負荷及び機関回転数が筒内噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁のみから燃料噴射が行われ、機関負荷及び機関回転数が両弁噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われる。内燃機関の過渡運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて両弁噴射運転領域が縮小される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機関燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁と機関吸気通路内に燃料を噴射するポート燃料噴射弁との二つの燃料噴射弁を有し、機関運転状態に応じてこれら燃料噴射弁の一方又は両方から燃料を供給する内燃機関が公知である。
【0003】
斯かる内燃機関としては、機関負荷が低いときには筒内燃料噴射弁から燃料噴射を行って燃焼室内で混合気の成層燃焼を行い、機関負荷が高いときにはポート燃料噴射弁から燃料噴射を行って燃焼室内で混合気の均質燃焼を行うものが知られている。成層燃焼とは、圧縮行程中に筒内燃料噴射弁から燃料を噴射して点火プラグ周辺に集中的に層状の混合気を形成して、燃料を希薄燃焼させるものであり、均質燃焼とは燃焼室内に燃焼を拡散させて均質の混合気を形成して、燃料を燃焼させるものである。しかしながら、このような内燃機関では、成層燃焼と均質燃焼と間で切替を行う際に、点火制御やスロットル制御等が複雑になる。
【0004】
或いは、上記二つの燃料噴射弁を有する内燃機関として、全運転領域において均質燃焼を行うものが知られている(例えば、特許文献1)。特に、特許文献1に記載の内燃機関では、内燃機関の温度に基づいて筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁との噴き分け率を設定するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−138252号公報
【特許文献2】特開2006−194098号公報
【特許文献3】特開平11−351041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1では、内燃機関の温度のみに基づいて筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁との噴き分け率を設定している。しかしながら、筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁との二つの燃料噴射弁を有する内燃機関では、内燃機関を最適に運転するためには、内燃機関の温度のみならずその他のパラメータに基づいて噴き分け率を設定する必要がある。また、上記特許文献1では、内燃機関の温度に基づいて筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁との噴き分け率を設定するにあたって、筒内燃料噴射弁へのデポジットの堆積、混合気の均質性のみを考慮しているが、内燃機関を最適に運転するためには、それ以外の要素、例えば、燃料希釈(燃料の一部がシリンダに付着して燃焼に寄与しなくなってしまうこと)やノッキングの発生等を考慮する必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、デポジットの堆積及び混合気の均質性に加えて燃料希釈及びノッキングの発生を考慮して、二つの燃料噴射弁を有する内燃機関を最適に運転することが可能な制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明では、機関燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁と、機関吸気通路内に燃料を噴射するポート燃料噴射弁とを具備し、機関負荷及び機関回転数によって定められる運転領域が少なくとも筒内噴射運転領域と、両弁噴射運転領域とに分割されており、機関負荷及び機関回転数が筒内噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁のみから燃料噴射が行われ、機関負荷及び機関回転数が両弁噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われる内燃機関の制御装置において、内燃機関の過渡運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて両弁噴射運転領域が縮小される。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、上記両弁噴射運転領域には負荷上限ラインがあり、機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、内燃機関の過渡運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて、両弁噴射運転領域の機関負荷の上限値が低くされる。
【0010】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときには、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときに比べて、両弁噴射領域が縮小される。
【0011】
上記課題を解決するために、第4の発明では、機関燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁と、機関吸気通路内に燃料を噴射するポート燃料噴射弁とを具備し、機関負荷及び機関回転数によって定められる運転領域が少なくとも筒内噴射運転領域と、両弁噴射運転領域とに分割されており、機関負荷及び機関回転数が筒内噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁のみから燃料噴射が行われ、機関負荷及び機関回転数が両弁噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われる内燃機関の制御装置において、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときには、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときに比べて、両弁噴射領域が縮小される。
【0012】
第5の発明では、第4の発明において、上記両弁噴射運転領域には負荷上限ラインがあり、機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときには、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときに比べて、両弁噴射運転領域の負荷上限ラインが低くされる。
【0013】
第6の発明では、第1〜第5のいずれか一つの発明において、上記両弁噴射運転領域には回転数上限ラインがあり、機関回転数が該両弁噴射領域の回転数上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、内燃機関の暖機運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて、両弁噴射運転領域の回転数上限ラインが高くされる。
【0014】
第7の発明では、第1〜第6のいずれか一つの発明において、上記両弁噴射運転領域には負荷上限ラインがあり、機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、内燃機関の暖機運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて、両弁噴射運転領域の負荷上限ラインが高くされる。
【0015】
第8の発明では、第1〜第7のいずれか一つの発明において、上記両弁噴射領域は、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われるマルチ噴射領域と、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域とに分割されており、マルチ噴射領域はシングル噴射領域よりも負荷の高い領域であり、内燃機関の暖機運転時と内燃機関の通常運転時とではシングル噴射領域の機関負荷の上限値はほぼ同一である。
【0016】
第9の発明では、第1〜第8のいずれか一つの発明において、上記両弁噴射領域は、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われるマルチ噴射領域と、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域とに分割されており、マルチ噴射領域はシングル噴射領域よりも負荷の高い領域であり、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときと、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときとでは、シングル噴射領域の機関負荷の上限値はほぼ同一である。
【0017】
第10の発明では、第1〜第9のいずれか一つの発明において、上記両弁噴射領域は、内燃機関の通常運転時には、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われるマルチ噴射領域と、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域とに分割されており、内燃機関の過渡運転時には、これら二つの噴射領域に分割されず、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域のみとなる。
【0018】
第11の発明では、第1〜第10のいずれか一つの発明において、上記両弁噴射運転領域においては、筒内燃料噴射弁から噴射される燃料とポート燃料噴射弁から噴射される燃料との比率が40〜60%である。
【0019】
第12の発明では、第1〜第11のいずれか一つの発明において、筒内噴射運転領域のうち機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域では、筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われる。
【0020】
第13の発明では、第12の発明において、上記筒内噴射運転領域のうち機関負荷が上記両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域では、内燃機関の過渡運転時においては当該領域において筒内燃料噴射弁から一回の燃料噴射が行われる。
【0021】
第14の発明では、第1〜第13のいずれか一つの発明において、内燃機関は過給器を具備する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、デポジットの堆積及び混合気の均質性に加えて燃料希釈及びPM生成を考慮して、二つの燃料噴射弁を有する内燃機関を最適に運転することが可能な制御装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、同様な構成要素については同一の参照番号を付す。
【0024】
図1は、内燃機関の全体図を示す。図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3aは各燃焼室2内にそれぞれ燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ(筒内燃料噴射弁)、3bは吸気ポート(吸気通路)内に燃料を噴射するためのポート噴射用インジェクタ(ポート燃料噴射弁)、4は点火プラグ、5は吸気マニホルド、6は排気マニホルドをそれぞれ示す。吸気マニホルド5は吸気ダクト7を介して排気ターボチャージャ8のコンプレッサ8aの出口に連結され、コンプレッサ8aの入口はエアクリーナ9に連結される。吸気ダクト7内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト7周りには吸気ダクト7内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置11が配置される。図1に示される実施形態では機関冷却水が冷却装置11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0025】
一方、排気マニホルド6は排気ターボチャージャ8の排気タービン8bの入口に連結され、排気タービン8bの出口は排気管12を介して排気浄化触媒(例えば、三元触媒)13を内蔵したケーシング14に連結される。
【0026】
各気筒について詳しく示す図2を参照すると、15はシリンダブロック、16はシリンダブロック15上に固定されたシリンダヘッド、17はシリンダブロック15内で往復動するピストン、2はピストン17とシリンダヘッド16との間に形成された燃焼室、18は一組の吸気ポート、19は一組の吸気弁、20は一組の排気ポート、21は一組の排気弁をそれぞれ示している。シリンダヘッド16の内壁面の外周部には筒内噴射用インジェクタ3aが配置され、吸気マニホルド5の吸気枝管5aにはポート噴射用インジェクタ3bが配置される。ピストン17の上面にはキャビティ22が設けられる。
【0027】
再び図1を参照すると、各筒内噴射用インジェクタ3aは燃料リザーバ25に連結される。この燃料リザーバ25は燃料供給管26を介して燃料タンク27に接続される。燃料供給管26には電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ28が配置され、この燃料ポンプ28によって燃料タンク27内の燃料が燃料リザーバ25に供給される。一方、各ポート噴射用インジェクタ3bは燃料リザーバ29に連結される。この燃料リザーバ29は燃料供給管30を介して燃料タンク27に接続される。燃料供給管30には電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ31が配置され、この燃料ポンプ31によって燃料タンク27内の燃料が燃料リザーバ29に供給される。
【0028】
本実施形態では、両インジェクタ3から噴射される燃料を制御する制御装置として電子制御ユニット(ECU)40が用いられる。ECU40はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス41によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)42、RAM(ランダムアクセスメモリ)43、CPU(マイクロプロセッサ)44、入力ポート45および出力ポート46を具備する。吸気管7には吸気管7内を通過する空気の流量を検出するエアフロメータ49が取り付けられ、また排気管12には排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ50が取付けられる。これらエアフロメータ49及び空燃比センサ50の出力信号は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。
【0029】
また、アクセルペダル51にはアクセルペダル51の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ52が接続され、負荷センサ52の出力電圧は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。さらに入力ポート45にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ53が接続され、このクランク角センサ53により機関回転数が検出される。一方、出力ポート46は対応する駆動回路48を介してインジェクタ3、スロットル弁10駆動用のステップモータ、及び燃料ポンプ28、31に接続される。
【0030】
本実施形態の内燃機関では、基本的に全ての運転領域で均質燃焼が行われるように燃料噴射が行われる。したがって、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行う場合に加えて、ポート燃料噴射弁3b及び筒内燃料噴射弁3aの両方から燃料噴射を行う場合及び筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行う場合にも均質燃焼が行われるように燃料噴射が行われる。このため、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射が行われる場合であっても、筒内燃料噴射弁3aからの燃料噴射は圧縮上死点から比較的離れた時期に行われる。
【0031】
また、本実施形態の内燃機関では、混合気中の空燃比(混合気中の燃料に対する空気の比率)がほぼ理論空燃比となるように燃料噴射が行われる。特に、本実施形態では、筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行うことによって、燃料の気化潜熱により混合気の温度を下げ、圧縮比及び耐ノック性を高めるようにしている。
【0032】
次に、図3を参照して、機関運転状態に応じた筒内燃料噴射弁3aとポート燃料噴射弁3bとからの燃料噴射態様について説明する。図3に示したように、本実施形態では、機関負荷KL及び機関回転数NEによって定まる運転領域が6つの領域に分かれており、各領域毎に筒内燃料噴射弁3aとポート燃料噴射弁3bとからの燃料噴射態様が異なる。
【0033】
まず、機関負荷及び機関回転数が領域1にある場合、すなわち機関負荷が低い場合、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射が行われる。すなわち、機関負荷が低いと噴射される総燃料量が少ないため、筒内燃料噴射弁3aとポート燃料噴射弁3bとの両方から燃料噴射を行うことができない。また、ポート燃料噴射弁3bのみから燃料噴射を行うと、筒内燃料噴射弁3aの噴孔にデポジットが堆積し易い。すなわち、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行うと、筒内燃料噴射弁3aの噴孔には燃料が溜まり易くなる。このように噴孔に燃料が溜まっている筒内燃料噴射弁3aは、機関燃焼室2内で混合気の燃焼が行われるときに高温に曝される。これにより、筒内燃料噴射弁3aの噴孔に溜まっている燃料はデポジットとして堆積してしまう。そこで、本実施形態では、筒内燃料噴射弁3aの噴孔へのデポジットの堆積を抑制すべく、領域1では筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うようにしている。
【0034】
次に、機関負荷及び機関回転数が領域2にある場合、すなわち機関負荷が中低負荷であって機関回転数が低・中回転である場合、筒内燃料噴射弁3aとポート燃料噴射弁3bとの両方から燃料噴射が行われる。すなわち、機関回転数が低いときには、燃焼室2内に流入する空気の流速が遅く、よって燃焼室2内に空気の乱れが生じにくく、これに伴って混合気の均質性が悪化し易い。ここで、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行った場合、燃料が供給されてからも吸気ガスが吸気ポートを流れること及び燃焼室2内において早くから混合気中の空気と燃料とが混合せしめられることによって、空気と燃料との混合が促進される。したがって、筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行う場合に比べて、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行う場合の方が混合気の均質性が高くなる。
【0035】
また、機関回転数が低いときにはピストン17の上昇速度が遅いため、筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行った後、燃焼室2内で実際に燃焼が行われるまでに時間がかかる。したがって、筒内燃料噴射弁3aから噴射された燃料の一部はシリンダの壁面に付着してしまう(以下、斯かる現象を「燃料希釈」という)。このようにシリンダの壁面に付着した燃料は、その後、燃焼室2内での混合気の燃焼に寄与せず、ピストン17の上下運動に伴って潤滑油内に混合されてしまう。すなわち、噴射された燃料の一部が燃焼に用いられなくなってしまうばかりではなく、潤滑油の性状悪化をも招いてしまう。ここで、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行った場合、燃焼室2内には直接燃料が噴射されないため、燃料がシリンダの壁面に付着してしまうという問題は解消される。
【0036】
したがって、本実施形態では、機関負荷及び機関回転数が領域2にある場合には、基本的にポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行うこととしている。しかしながら、上述したようにポート燃料噴射弁3bのみから燃料噴射を行った場合には、筒内噴射弁3aの噴孔へのデポジットの堆積を招いてしまう。また、筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行うことにより、燃焼室2内の混合気から気化潜熱を奪うことができるようになり、混合気の燃焼温度を低下させることができ、これによりノッキングの発生を抑制することができる。そこで、本実施形態では、機関負荷及び機関回転数が領域2にある場合には、ポート燃料噴射弁3bからの燃料噴射のみならず、筒内燃料噴射弁3aからの燃料噴射も行うようにしている。
【0037】
次に、機関負荷及び機関回転数が領域3にある場合、すなわち機関負荷が中高負荷であって機関回転数が低・中回転である場合、筒内燃料噴射弁3aとポート燃料噴射弁3bとの両方から燃料噴射を行うと共に、筒内燃料噴射弁3aからは複数回に分けて燃料噴射を行う(マルチ噴射)こととしている。
【0038】
この場合、筒内燃料噴射弁3aとポート燃料噴射弁3bとの両方から燃料噴射を行っている理由は、上記機関負荷及び機関回転数が領域2にある場合と同様である。一方、領域3では、領域2に比べて機関負荷が高いため、ノッキングが発生し易くなる。また、領域3では、機関負荷が高いため、領域2に比べて、燃焼室2内に供給される総燃料量が多い。このように、燃焼室2内に供給される総燃料量が多くなると、筒内燃料噴射弁3aから噴射される燃料量が多くなることにより筒内燃料噴射弁3aの開弁時間が長くなり、筒内燃料噴射弁3aからの噴射燃料の貫徹力が高い時間が長くなる。このため、筒内燃料噴射弁3aから噴射された燃料がシリンダの壁面に付着し易くなり、燃料希釈が生じ易くなる。
【0039】
一方、筒内燃料噴射弁3aからマルチ噴射を行うと、筒内燃料噴射弁3aから噴射される燃料量が多くなって筒内燃料噴射弁3aの総開弁時間が長くなっても、各噴射時における噴射期間は短くなり、これに伴って筒内燃料噴射弁3aからの噴射燃料の貫徹力が高い総時間が短くなり、燃料希釈が抑制される。また、燃料噴射を複数回に分けて行うことにより、混合気の均質性が向上するため、局所的に燃焼温度が上昇してしまうことが抑制され、ノッキングが抑制される。そこで、本実施形態では、機関負荷及び機関回転数が領域3にある場合には、両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行うと共に、筒内燃料噴射弁3aではマルチ噴射を行うこととしている。
【0040】
次に、機関負荷及び機関回転数が領域4にある場合、すなわち、機関負荷が高負荷であって機関回転数が低回転である場合、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うと共に、筒内燃料噴射弁3aではマルチ噴射を行うこととしている。
【0041】
すなわち、本実施形態のように排気ターボチャージャ8を備えた内燃機関では、機関回転数が低回転となっている場合におけるターボラグを解消するため、吸気弁19・排気弁21間のバルブオーバーラップを大きくすることにより、吸気ガスの一部を排気へそのまま流すようにしている(以下では、斯かる状態を「吹き抜け」という)。このように吸気ガスの吹き抜けが生じているときに、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行うと、燃料の一部が燃焼室2を通過してそのまま排気ポート20へと流れてしまう。したがって、本実施形態では、燃料の一部がそのまま排気ポート20へと流れてしまうのを防止すべく、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うこととしている。また、上記領域3の場合と同様な理由でマルチ噴射が行われる。
【0042】
次に、機関負荷及び機関回転数が領域5にある場合、すなわち、機関負荷が高負荷であって機関回転数が中回転である場合、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うと共に、筒内燃料噴射弁3aではマルチ噴射を行うこととしている。したがって、領域5では、領域4と同様な噴射形態で燃料噴射が行われる。
【0043】
ただし、領域5では、領域4の場合とは異なる理由でこのような噴射形態が採用されている。すなわち、機関負荷及び機関回転数が領域5にある場合、領域4にある場合と比べて機関回転数が高いため、ターボラグを解消すべく吸気弁19及び排気弁21のバルブオーバーラップを大きくする必要はない。このため、吹き抜けは生じず、よって吹き抜け対策として筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行う必要はない。
【0044】
しかしながら、機関負荷が高くなると、一般に燃焼室2内での混合気の燃焼温度が上昇することになる。このように、燃焼室2内での燃焼温度が高くなると、筒内燃料噴射弁3aの噴孔近傍の温度も高くなり、噴孔にはデポジットが堆積し易くなる。一方、筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行えば、筒内燃料噴射弁3aの噴孔を通過する燃料によって噴孔の温度が低下せしめられ、これにより、筒内燃料噴射弁3aの噴孔にデポジットが堆積するのが抑制せしめられる。このため、本実施形態では、領域5においてポート燃料噴射弁3bからの燃料噴射を行わないようにしている。
【0045】
最後に、機関負荷及び機関回転数が領域6にある場合、すなわち、機関回転数が高回転である場合、領域5の場合と同様に筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うと共に、筒内燃料噴射弁3aではマルチ噴射を行わないようにしている。領域6においてポート燃料噴射弁3bからの燃料噴射を行わないようにしているのは、領域5と同様に筒内燃料噴射弁3aの噴孔にデポジットが堆積するのを抑制するためである。また、領域6において筒内燃料噴射弁3aからマルチ噴射を行わないようにしているのは、機関回転数が高いときにマルチ噴射を行うと混合気の均質性が悪化するためである。
【0046】
このように、機関負荷及び機関回転数から定まる運転領域毎に、燃料の噴射形態を切り替えることによって、筒内燃料噴射弁3aに付着するデポジットの低減、混合気の均質性燃料希釈、ノッキングの抑制等の観点から、各運転領域1〜6における燃焼室2内での混合気の燃焼を最適なものとすることができる。
【0047】
ところで、上述したように、本実施形態では機関負荷及び機関回転数が領域2、3内にあるときにのみ、筒内燃料噴射弁3a及びポート燃料噴射弁3bの両方から燃料噴射を行っている。このとき、筒内燃料噴射弁3aからの燃料噴射量とポート燃料噴射弁3bからの燃料噴射量との比率は機関運転状態に応じて変化せしめられる。例えば、機関回転数が低いときには、総燃料噴射量に対するポート燃料噴射弁3bからの燃料噴射量の比率が増大せしめられ、機関負荷が高いときには総燃料噴射量に対する筒内燃料噴射弁3aからの燃料噴射量の比率が増大せしめられる。
【0048】
ただし、本実施形態では、機関運転状態に関わらず、領域2、3における総燃料噴射量に対するポート燃料噴射弁3bからの燃料噴射量の比率(以下、「PFI比率」という)は40〜60%とされる。
【0049】
図4は、PFI比率とノック性、燃料希釈性、機関本体1から排出された排気ガス中のCO、HCの含有量との関係を示す図である。また、図中の丸、三角、四角はそれぞれ機関負荷率が40%、60%、90%であるときのPFI比率とノック性等との関係を示している。
【0050】
図4から分かるように、ノック性(ノッキングが生じる可能性)に関しては、機関負荷率が40%である場合、PFI比率が40%以下であるとノック性が上昇する傾向にある。一方、機関負荷率が90%である場合、PFI比率が60%以上であると機関負荷が高くなる傾向にある。従って、PFI比率が40%〜60%であるときには、機関負荷に関わらず比較的ノック性が低い。なお、図4に示した例では、ノック性を計る指標として、燃焼室2内の圧力が最大となるクランク角を採用しており、クランク角が遅角側であるほどノック性が上昇する(すなわち、ノッキングが生じる可能性が高くなる)ものとしている。
【0051】
燃料希釈性に関しては、機関負荷率が40%である場合、PFI比率が40%以下或いは60%以上になると、燃料希釈性が上昇する傾向にある。また、機関負荷率が90%である場合、PFI比率が低下するのに応じて燃料希釈性が上昇する傾向にある。従って、PFI比率が40〜60%であるときは、機関負荷率が低い時及び高い時のいずれであっても比較的燃料希釈性が低い。
【0052】
また、一般に、燃焼室2内で混合気が燃焼する際に混合気の均質性が低いと、局所的に不完全燃焼が行われたり燃焼温度が高温となってしまい、その結果、機関本体1から排出された排気ガス中に含まれるCO、HCの量が増大する。したがって、機関本体1から排出された排気ガス中のCO、HCの含有量は、混合気の均質性の指標となる。
【0053】
図4に示したように、機関負荷率が40%である場合、PFI比率が40%以下になると、CO、HC共に排気ガス中の含有量が増大しており、混合気の均質性が低下することがわかる。また、PFI比率が60%以上になると、COの排気ガス中の含有量が増大しており、混合気の均質性が低下することがわかる。また、機関負荷率が90%である場合、PFI比率が40%以下になると、CO、HC共に排気ガス中の含有量が増大しており、混合気の均質性が低下することがわかる。また、PFI比率が60%以上になると、COの排気ガス中の含有量が減少するがHCの排気ガス中の含有量が増大しており、混合気の均質性はあまり変化しないことがわかる。
【0054】
以上より、ノック性、燃料希釈性及び混合気の均質性のいずれについても、機関負荷に関わらずPFI比率を40〜60%とすることにより、比較的良好となることがわかる。本実施形態では、両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射が行われる領域2、3において、PFI比率が40〜60%とされるため、ノック性、燃料希釈性及び混合気の均質性を比較的良好に保つことができる。
【0055】
ところで、機関冷間始動時、すなわち暖機運転時においては、燃焼室2内の温度が低いため、燃料が気化しにくく、よって燃料希釈が生じやすいと共に、燃焼悪化が生じやすい。逆に、暖機運転時においては、燃焼室2内の温度が低いため、ノッキングが発生しにくくなる。また、筒内燃料噴射弁3aの先端温度も低いため、筒内燃料噴射弁3aの噴孔内にはデポジットが堆積しにくい。
【0056】
そこで、本実施形態では、暖機運転時においては、両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行う領域2、3を拡大するようにしている。
【0057】
図5は、内燃機関の通常運転時及び暖機運転時における燃料噴射形態に関するマップである。図5(A)は、内燃機関の通常運転時における燃料噴射形態に関するマップであり、図3と同様な図である。一方、図5(B)は、内燃機関の暖機運転時における燃料噴射形態に関するマップである。
【0058】
図5からわかるように、本実施形態では、暖機運転時には領域2が機関回転数の増大方向に拡大されると共に、領域3が機関回転数の増大方向及び機関負荷の増大方向に拡大される。具体的には、内燃機関の通常運転時においては領域2、3の機関回転数の上限ライン(以下、「回転数上限ライン」という)が回転数N1であるのに対して、暖機運転時においては回転数N1よりも高い回転数N1’とされる(N1’>N1)。また、内燃機関の通常運転時において領域3の機関負荷の上限ライン(以下、「負荷上限ライン」という)が負荷K1であるのに対して、暖機運転時においては負荷K1よりも高い負荷K1’とされる(K1’>K1)。なお、領域2の負荷上限ラインは通常運転時と暖機運転時とでは同一(図中の負荷K2)とされる。
【0059】
上述したように両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行うことにより、燃料希釈が抑制されると共に混合気の均質性が高められる。したがって、暖機運転時において両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行う領域2、3を拡大することにより、暖機運転時に問題となる燃料希釈の発生及び燃焼悪化が抑制される。また、両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行う場合、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行う場合に対して、筒内燃料噴射弁3aの噴孔内にはデポジットが堆積し易くなる。しかしながら、暖機運転時には、上述したように筒内燃料噴射弁3aの噴孔内にはデポジットが堆積しにくいため、両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行ってもデポジットの堆積が抑制される。
【0060】
具体的な制御としては、例えば機関冷却水温を検出する水温センサ(図示せず)によって検出された機関冷却水温が一定値以下である場合、すなわち暖機運転中には、図5(B)に示したマップに基づいて内燃機関の運転制御が行われ、水温センサによって検出された機関冷却水温が一定値よりも高くなった場合、すなわち暖機運転が終了して通常運転が行われる場合には、図5(A)に示したマップに基づいて内燃機関の運転制御が行われる。
【0061】
なお、本実施形態では、内燃機関の通常運転中には領域1において筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射が行われるのに対して、暖機運転中には領域1においてポート燃料噴射弁3bのみから燃料噴射が行われる。これは、内燃機関の暖機中においては燃焼室2内の温度が低いため、筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行わなくても筒内燃料噴射弁3aの噴孔にデポジットが堆積しにくく、且つ筒内燃料噴射弁3aから燃料噴射を行って燃料の気化潜熱による燃焼室2内の温度を低下させる必要がないためである。
【0062】
また、オクタン価が低い燃料(低オクタン価燃料)を用いた場合には、オクタン価が高い燃料(高オクタン価燃料)を用いた場合に比べて、ノッキングが生じやすくなる。一方、低オクタン価燃料は揮発性が高く、よって燃料希釈が生じにくい。
【0063】
そこで、本実施形態では、低オクタン価燃料を用いた場合には、高オクタン価燃料を用いた場合に比べて、領域3を縮小するようにしている。
【0064】
図6は、高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料を用いたときの燃料噴射形態に関するマップである。図6(A)は、高オクタン価燃料を用いた時の燃料噴射形態に関するマップであり、図3と同様な図である。一方、図6(B)は、低オクタン価燃料を用いた時の燃料噴射形態に関するマップである。
【0065】
図6からわかるように、本実施形態では、領域3が機関負荷の減少方向に縮小される。具体的には、高オクタン価燃料を用いた時には領域3の負荷上限ラインが負荷K1であるのに対して、低オクタン価燃料を用いた時には負荷K1よりも低い負荷K1’’とされる(K1’’<K1)。
【0066】
上述したように、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うことにより、燃焼室2内の混合気から気化潜熱を奪うことができるようになり、混合気の燃焼温度をより低下させることができる。したがって、領域3を縮小することにより、逆に言うと、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行う領域を拡大することにより、混合気の燃焼温度を低下させ、ノッキングの発生を抑制することができる。また、上述したように、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うと両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行った場合に比べて燃料希釈が生じ易くなる。しかしながら、低オクタン価燃料を用いた場合には、低オクタン価燃料の揮発性の高さから燃料希釈が生じにくいため、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行っても燃料希釈の発生が抑制される。
【0067】
具体的な制御としては、例えば、燃料タンク27に供給された燃料のオクタン価を検出するオクタン価センサ(図示せず)によって検出されたオクタン価が一定値以下である場合、すなわち低オクタン価燃料が用いられている場合には、図6(B)に示したマップに基づいて内燃機関の運転制御が行われ、オクタン価センサによって検出されたオクタン価が一定値よりも高くなった場合、すなわち高オクタン価燃料が用いられている場合には、図6(A)に示したマップに基づいて内燃機関の運転制御が行われる。
【0068】
また、内燃機関の過渡運転時においては、ポート燃料噴射弁3bから燃料噴射を行っていると、吸気ポート18に付着している燃料量が変化し、空燃比のバラツキが生じ易くなると共にノッキングが発生する可能性が高くなる。
【0069】
そこで、本実施形態では、過渡運転時においては、両燃料噴射弁3a、3bから燃料噴射を行う領域2、3を縮小すると共に、当該領域2、3において筒内燃料噴射弁3aからのマルチ噴射を禁止するようにしている。
【0070】
図7は、内燃機関の通常運転時及び過渡運転時における燃料噴射形態に関するマップである。図7(A)は、内燃機関の通常運転時における燃料噴射形態に関するマップであり、図3と同様な図である。一方、図7(B)は、内燃機関の過渡運転時における燃料噴射形態に関するマップである。
【0071】
図7からわかるように、本実施形態では、領域2が機関負荷の増大方向に拡大されると共に、領域3がなくされ、筒内燃料噴射弁3aからはマルチ噴射が行われなくなる。領域2、3全体としては、機関負荷の減少方向に縮小される。具体的には、内燃機関の通常運転時においては領域2の負荷上限ラインが負荷K2であるのに対して、過渡運転時においては負荷K2よりも高く且つ負荷K1よりも低いK2’とされる(K1>K2’>K2)。また、内燃機関の過渡運転時においては、領域3が削除される。さらに、本実施形態では、領域4、5において、マルチ噴射が禁止される。すなわち、領域4、5では、筒内燃料噴射弁3aから1回のみ燃料噴射が行われる。
【0072】
内燃機関の過渡運転時においては、その過渡運転時の運転経過に応じてノッキングが発生し易くなる場合もあればしにくくなる場合もある。しかしながら、ノッキング発生の可能性を低減するためには、過渡運転時にノッキングが発生し易くなる場合を想定して噴射形態の設定を行う必要がある。ここで、上述したように、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行うことにより、燃焼室2内の混合気から気化潜熱を奪うことができるようになり、混合気の燃焼温度を低下させることができ、その結果、ノッキングを抑制することができる。本実施形態では、過渡運転時に領域2、3が縮小されて、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行う領域が拡大されることにより、過渡運転時におけるノッキングの発生が抑制される。
【0073】
また、過渡運転時に筒内燃料噴射弁3aからマルチ噴射を行うと、燃料噴射を終了すべき時期までに燃料噴射が終わらない場合がある。一般に、筒内燃料噴射弁3aからの燃料噴射の時期及び回数は図3〜図7に示したようなマップを用いて機関負荷及び機関回転数の変化に応じて定められる。この場合、燃料噴射時期及び回数は、或る気筒における燃料噴射時期に対して比較的早い時期に定められており、燃料噴射直前に機関負荷又は機関回転数が急激に変化しても変更されない。
【0074】
一方、燃料噴射弁3a、3bからの燃料噴射量は燃料噴射直前の吸気流量等に基づいて定められる。したがって、燃料噴射直前に機関負荷が上昇して吸気流量が急激に増大した場合、燃料噴射時期及び回数は上昇前の機関負荷に基づいて設定されているのに対して、燃料噴射量は上昇後の機関負荷に基づいて設定される。このような場合に筒内燃料噴射弁3aからの燃料噴射を複数回に分けて行って燃料噴射開始時期から終了時期までの期間が長くなると、燃料噴射を終了すべき時期までに燃料噴射が終わらない場合がある。本実施形態では、過渡運転時に領域3がなくされることにより、すなわち筒内燃料噴射弁3aからのマルチ噴射が禁止されることにより、過渡運転時において燃料噴射を終了すべき時期までに燃料噴射が終わらないという事態を防止することができる。
【0075】
具体的な制御としては、例えば負荷センサ52又はクランク角センサ53によって検出された機関負荷又は機関回転数の変化率が一定値以上である場合、すなわち過渡運転中には、図7(B)に示したマップに基づいて内燃機関の運転制御が行われ、検出された機関負荷又は機関回転数の変化率が一定値よりも小さい場合、すなわち通常運転中には図7(A)に示したマップに基づいて内燃機関の運転制御が行われる。
【0076】
なお、上記実施形態では、機関負荷及び機関回転数が領域1にある場合、すなわち機関負荷が低い場合には、筒内燃料噴射弁3aのみから燃料噴射を行っているが、ポート燃料噴射弁3bのみから燃料噴射を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の制御装置が搭載される内燃機関の全体を表す概略図である。
【図2】内燃機関の概略断面図である。
【図3】機関運転状態に応じた筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁とからの燃料噴射態様を示す図である。
【図4】PFI比率とノック性、燃料希釈性、機関本体から排出された排気ガス中のCO、HCの含有量との関係との関係を示す図である。
【図5】内燃機関の通常運転時及び暖機運転時における燃料噴射形態に関するマップである。
【図6】高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料を用いたときの燃料噴射形態に関するマップである。
【図7】内燃機関の通常運転時及び過渡運転時における燃料噴射形態に関するマップである。
【符号の説明】
【0078】
1 機関本体
2 燃焼室
3a 筒内燃料噴射弁
3b ポート燃料噴射弁
4 点火プラグ
17 ピストン
18 吸気ポート
19 吸気弁
20 排気ポート
21 排気弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁と、機関吸気通路内に燃料を噴射するポート燃料噴射弁とを具備し、機関負荷及び機関回転数によって定められる運転領域が少なくとも筒内噴射運転領域と、両弁噴射運転領域とに分割されており、機関負荷及び機関回転数が筒内噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁のみから燃料噴射が行われ、機関負荷及び機関回転数が両弁噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われる内燃機関の制御装置において、
内燃機関の過渡運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて両弁噴射運転領域が縮小される、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
上記両弁噴射運転領域には負荷上限ラインがあり、機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、内燃機関の過渡運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて、両弁噴射運転領域の機関負荷の上限値が低くされる、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときには、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときに比べて、両弁噴射領域が縮小される、請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
機関燃焼室内に燃料を噴射する筒内燃料噴射弁と、機関吸気通路内に燃料を噴射するポート燃料噴射弁とを具備し、機関負荷及び機関回転数によって定められる運転領域が少なくとも筒内噴射運転領域と、両弁噴射運転領域とに分割されており、機関負荷及び機関回転数が筒内噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁のみから燃料噴射が行われ、機関負荷及び機関回転数が両弁噴射運転領域にあるときには、筒内燃料噴射弁とポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われる内燃機関の制御装置において、
両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときには、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときに比べて、両弁噴射領域が縮小される、内燃機関の制御装置。
【請求項5】
上記両弁噴射運転領域には負荷上限ラインがあり、機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときには、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときに比べて、両弁噴射運転領域の負荷上限ラインが低くされる、請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
上記両弁噴射運転領域には回転数上限ラインがあり、機関回転数が該両弁噴射領域の回転数上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、内燃機関の暖機運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて、両弁噴射運転領域の回転数上限ラインが高くされる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
上記両弁噴射運転領域には負荷上限ラインがあり、機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域は筒内噴射運転領域とされ、内燃機関の暖機運転時においては、内燃機関の通常運転時に比べて、両弁噴射運転領域の負荷上限ラインが高くされる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
上記両弁噴射領域は、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われるマルチ噴射領域と、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域とに分割されており、マルチ噴射領域はシングル噴射領域よりも負荷の高い領域であり、内燃機関の暖機運転時と内燃機関の通常運転時とではシングル噴射領域の機関負荷の上限値はほぼ同一である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
上記両弁噴射領域は、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われるマルチ噴射領域と、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域とに分割されており、マルチ噴射領域はシングル噴射領域よりも負荷の高い領域であり、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が低いときと、両燃料噴射弁に供給される燃料のオクタン価が高いときとでは、シングル噴射領域の機関負荷の上限値はほぼ同一である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
上記両弁噴射領域は、内燃機関の通常運転時には、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われるマルチ噴射領域と、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域とに分割されており、内燃機関の過渡運転時には、これら二つの噴射領域に分割されず、ポート燃料噴射弁から燃料噴射が行われると共に筒内燃料噴射弁から一回燃料噴射が行われるシングル噴射領域のみとなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
上記両弁噴射運転領域においては、筒内燃料噴射弁から噴射される燃料とポート燃料噴射弁から噴射される燃料との比率が40〜60%である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項12】
筒内噴射運転領域のうち機関負荷が該両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域では、筒内燃料噴射弁から複数回に亘って燃料噴射が行われる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項13】
上記筒内噴射運転領域のうち機関負荷が上記両弁噴射領域の負荷上限ラインよりも高い運転領域では、内燃機関の過渡運転時においては当該領域において筒内燃料噴射弁から一回の燃料噴射が行われる、請求項12に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項14】
内燃機関は過給器を具備する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−53717(P2010−53717A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217159(P2008−217159)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】