説明

内燃機関の制御装置

【課題】本発明は、内燃機関の制御装置に関し、新規な点火時期制御を可能とする内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明においては、混合気の燃焼速度の推定値を規定する特性マップを用いて点火時期を決定する。混合気の燃焼速度は、気筒外の要因により変化する混合気の状態を代表するものであるので、その推定値を規定した特性マップを用いれば、高精度に点火時期を決定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の気筒内の混合気に点火する時期は、内燃機関の運転状態に基づいて基本点火時期を求め、更にこの基本点火時期を補正することで決定されるのが一般的である。例えば特許文献1には、気筒内に吸入される新気量に基づいて基本点火時期を求めると共に、この気筒内に残留する残留ガスの割合に基づいて点火時期補正量を決定し、この点火時期補正量で上記基本点火時期を補正して点火時期を決定する内燃機関の制御装置が開示されている。つまり、この制御装置においては、基本点火時期に対して内部EGRガス量に関する補正を行った上で、最終的な点火時期を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−146785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、内部EGRガス量に関する補正を行うのは、筒内に吸入された空気量を正確に把握し最適な点火時期を決定する上で望ましいことである。このような観点からすると、その作動により吸入空気量の変化に影響を及ぼすアクチュエータが増加した場合は、その増加に伴う補正項目を追加すればよいことになる。例えば、排気還流システムを備える場合は、EGR弁の作動による補正、即ち外部EGRガス量に関する補正を行えばよく、過給機を備える場合には、その作動による補正、即ち過給圧や排気圧の圧力変動に応じた補正を行えばよい。しかしながら、このような補正手法では、補正項目の増加に伴い点火時期の算出精度が低下する可能性がある。
【0005】
また、上述した点火時期の補正は、定常運転時において行われるものである。換言すれば、過渡運転時においては、ノッキング抑制を目的とした補正、燃料増量に伴う補正やエミッション低減要求に基づく補正といった補正項目を更に追加する必要がある。そうすると、算出精度が低下する可能性が高くなるので、精度担保のために開発項目を増加する等の対策を講じなければならなくなる。従って、このような問題に対処しつつ点火時期の算出精度を担保するためには、新規な手法を確立する必要があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、新規な点火時期制御を可能とする内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の気筒内における圧縮端温度を推定する圧縮端温度推定手段と、
前記気筒内における混合気の比熱比を算出する比熱比算出手段と、
前記気筒内における混合気の気流乱れに関するパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
圧縮端温度、比熱比および気流乱れに関するパラメータと、点火時期との関係を規定した点火時期マップに、前記圧縮端温度推定手段で推定した圧縮端温度、前記比熱比算出手段で算出した比熱比および前記パラメータ算出手段で算出したパラメータを適用して、目標点火時期を算出する目標点火時期算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
内燃機関の空燃比制御に用いる目標空燃比に応じて、前記目標点火時期算出手段で算出した目標点火時期を補正する目標点火時期補正手段を更に備えることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記気筒と前記吸気通路とを連通または遮断する吸気バルブと、
前記気筒と前記排気通路とを連通または遮断する排気バルブと、
前記点火時期算出手段で算出した目標点火時期の今回値と、その前回値との偏差が、機関負荷の変化に応じて決定される所定の許容範囲内に収まるように前記吸気バルブおよび/または前記排気バルブの開閉タイミングを制御するバルブタイミング制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3何れか1つの発明において、
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記気筒と前記吸気通路とを連通または遮断する吸気バルブと、
前記気筒と前記排気通路とを連通または遮断する排気バルブと、
点火時期の遅角側への変更要求の有無を判定する変更要求判定手段と、
前記変更要求があると判定された場合に、前記目標点火時期を遅角側に変更する目標点火時期変更手段と、
変更後の目標点火時期を含む所定サイクル数における目標点火時期の分散が、機関負荷毎に決定される所定の許容値よりも小さくなるように、前記吸気バルブおよび/または前記排気バルブの開閉タイミングを変更するバルブタイミング変更手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第4何れか1つの発明において、
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記気筒と前記吸気通路とを連通または遮断する吸気バルブと、
前記気筒と前記排気通路とを連通または遮断する排気バルブと、
機関負荷が低負荷から高負荷へ移行することが予測される場合に成立する所定条件の成否を判定する所定条件判定手段と、
前記所定条件が成立する場合に、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが共に開弁するバルブオーバーラップ量が増加するように前記吸気バルブおよび/または前記排気バルブの開閉タイミングを制御するバルブオーバーラップ増量手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第3乃至第5何れか1つの発明において、
前記開閉タイミングは、機関負荷の変化方向に応じてそれぞれ決定される所定の限界値を超えないように補正されることを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第1乃至第6何れか1つの発明において、
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記吸気通路と前記排気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路に設けられたEGRバルブと、
前記点火時期算出手段で算出した目標点火時期の今回値と、その前回値との偏差が、機関負荷の変化に応じて決定される所定の許容範囲内に収まるように前記EGRバルブの開度を制御するEGRバルブ開度制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
また、第8の発明は、第7の発明において、
前記EGRバルブの開度は、機関負荷の変化方向に応じてそれぞれ決定される所定の限界値を超えないように補正されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
圧縮端温度、比熱比および気流乱れに関するパラメータを用いれば、気筒内の混合気の燃焼速度を推定できる。ここで、混合気の燃焼速度は、気筒外の要因により変化する混合気の状態を代表するものであるので、その推定値が分かれば高精度に点火時期を決定できる。従って、第1の発明によれば、圧縮端温度、比熱比および気流乱れに関するパラメータと、点火時期との関係を規定した点火時期マップに、圧縮端温度推定手段で推定した圧縮端温度、比熱比算出手段で算出した比熱比およびパラメータ算出手段で算出したパラメータを適用して、高精度に点火時期を決定できる。
【0016】
通常、内燃機関の目標空燃比はストイキ域に設定されるが、ストイキ域外に設定された場合には、混合気を形成する燃料の供給量が変更される。そのため、目標空燃比によっては圧縮端温度や比熱比に影響し、その結果、混合気の燃焼速度にズレが生じることになる。この点、第2の発明によれば、内燃機関の空燃比制御に用いる目標空燃比に応じて、目標点火時期算出手段で算出した目標点火時期を補正することができる。従って、目標空燃比に左右されることなく、高精度に点火時期を決定できる。
【0017】
第3の発明によれば、点火時期算出手段で算出した目標点火時期の今回値と、その前回値との偏差が、機関負荷の変化に応じて決定される所定の許容範囲内に収まるように吸気バルブおよび/または排気バルブの開閉タイミングを制御できるので、点火時期間に生じるばらつきを許容範囲内に収めることが可能となる。
【0018】
目標点火時期を遅角すればその変動により燃焼が悪化する可能性がある。この点、第4の発明によれば、変更後の目標点火時期を含む所定サイクル数における目標点火時期の分散が、機関負荷毎に決定される所定の許容値よりも小さくなるように、吸気バルブおよび/または排気バルブの開閉タイミングを変更するので、点火時期の変動幅を小さくして燃焼の悪化を抑制できる。
【0019】
機関負荷が低負荷から高負荷へ急速に移行するような場合、低温の新気が短時間で大量に筒内に吸入されるので圧縮端温度が大きく変化する。そのため、点火時期間に差が生じトルク変動が起こる可能性がある。この点、第5の発明によれば、低負荷から高負荷へ移行することが予測される場合に、バルブオーバーラップ量が増加するように吸気バルブおよび/または排気バルブの開閉タイミングを制御するので、高温の内部EGRガス量を増やすことができる。従って、新気量の増大による圧縮端温度の変動を緩和できトルク変動の発生リスクを低減できる。
【0020】
内部EGRガス量は圧縮端温度や比熱比に影響を及ぼす、内部EGRガス量が極端に増量或いは減量された場合、混合気の燃焼速度にズレが生じてしまう。この点、第6の発明によれば、吸気バルブおよび/または排気バルブの開閉タイミングを、機関負荷の変化方向に応じてそれぞれ決定される所定の限界値を超えないように補正できるので、内部EGRガス量が極端に増量或いは減量されることを防止できる。
【0021】
第7の発明によれば、点火時期算出手段で算出した目標点火時期の今回値と、その前回値との偏差が、機関負荷の変化に応じて決定される所定の許容範囲内に収まるようにEGRバルブの開度を制御できるので、点火時期間に生じるばらつきを許容範囲内に収めることが可能となる。
【0022】
EGR通路を流れる排気ガス(外部EGRガス)量は、内部EGRガス量同様、圧縮端温度や比熱比に影響を及ぼすので、外部EGRガス量が極端に増量或いは減量された場合、混合気の燃焼速度にズレが生じてしまう。この点、第8の発明によれば、EGRバルブの開度を、機関負荷の変化方向に応じてそれぞれ決定される所定の限界値を超えないように補正できるので、外部EGRガス量が極端に増量或いは減量されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の各実施形態のシステム構成を説明するための図である。
【図2】EGRガス導入時の吸気バルブ閉弁後における気筒内を模式的に示した図である。
【図3】吸気バルブのリフト量とタンブル比との関係を示した図である。
【図4】本実施形態の特性マップにより決定される点火時期の概念的に示したものである。
【図5】実施の形態1において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】過渡運転時において、実施の形態1の特性マップにより決定された点火時期の履歴の一例を示したものである。
【図7】実施の形態2の制御を説明するためのタイミングチャートである。
【図8】実施の形態2において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【図9】実施の形態3において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【図10】機関回転数および負荷と、EGRガス量GEGRの許容値との関係を規定したマップである。
【図11】実施の形態4において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【図12】遅角補正量と補正係数との関係を示すマップである。
【図13】実施の形態5における制御を説明するための図である。
【図14】実施の形態5における制御を説明するための図である。
【図15】実施の形態5において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
先ず、図1乃至図5を参照しながら、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、例えば車両の動力源として搭載される内燃機関10を備えている。内燃機関10の各気筒には、ピストン12と、吸気バルブ14と、排気バルブ16と、点火プラグ18と、吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ20とが設けられている。また、内燃機関10には、吸気バルブ14の開弁特性を可変とする可変動弁機構22と、排気バルブ16の開弁特性を可変とする可変動弁機構24とが設けられている。
【0025】
また、本実施形態のシステムは、ターボ過給機26を有している。ターボ過給機26は、吸気圧縮機26aと排気タービン26bとを有している。吸気圧縮機26aは、吸気通路28の途中に配置されており、排気タービン26bは、排気通路30の途中に配置されている。
【0026】
吸気圧縮機26aよりも上流側の吸気通路28には、吸入空気量Gaを検出するエアフローメータ32が設置されている。一方、吸気圧縮機26aよりも下流側の吸気通路28には、吸気圧縮機26aで圧縮された吸入空気を冷却するインタークーラ34が設置されている。インタークーラ34よりも下流側の吸気通路28には、吸入空気量を調節するための電子制御式のスロットルバルブ36が設置されている。スロットルバルブ36の近傍には、その開度(スロットル開度TA)を検出するスロットル開度センサ38が設置されている。スロットルバルブ36よりも下流側の吸気通路28には、吸気温度TAirを検出する吸気温センサ40と、吸気圧Pmを検出する吸気圧センサ42とが設置されている。
【0027】
排気タービン26bよりも上流側の排気通路30には、排気温度Teを検出する排気温センサ44と、背圧Peを検出する背圧センサ46とが設置されている。背圧センサ46よりも下流側の排気通路30には、排気タービン26bの上流側と下流側とをバイパスするバイパス通路48が設けられている。バイパス通路48には、ウェイストゲートバルブ50が設置されている。ウェイストゲートバルブ50を開くと、排気ガスの一部は、排気タービン26bを通らずにバイパス通路48を通って流れる。ウェイストゲートバルブ50は、アクチュエータ52により駆動されて、その開度が電子制御される。また、ウェイストゲートバルブ50よりも下流側の排気通路30には、排気浄化触媒54が組み込まれている。
【0028】
排気バルブ16と背圧センサ46と間の排気通路30には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路56の一端が接続されている。EGR通路56の他端は、吸気通路28に接続されている。本システムでは、このEGR通路56を通して、排気ガスの一部を吸気通路28に還流させることができる。EGR通路56の途中には、外部EGRガスを冷却するためのEGRクーラ58と、外部EGRガスの流量を制御するためのEGRバルブ60とが設けられている。また、EGRバルブ60の近傍には、その開度を検出するEGR開度センサ62が設置されている。
【0029】
また、本実施形態のシステムは、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度Accl)を検出するアクセルポジションセンサ64と、内燃機関10のクランク角を検出するクランク角センサ66と、内燃機関10に生ずるノッキングを検知するノックセンサ68とを備えている。
【0030】
上述した各種のセンサおよびアクチュエータは、ECU(Electronic Control Unit)70に電気的に接続されている。ECU70は、上述したセンサ等からの信号に基づいて、各アクチュエータの作動を制御することにより、内燃機関10の運転状態を制御する。
【0031】
[点火時期の決定手法]
上述したように、アクチュエータ数の増加に伴う補正項目の追加や、過渡運転時における補正項目の追加は、点火時期の算出精度を低下させる可能性がある。これは、基本点火時期を気筒外の要因に基づいて補正しているからに他ならない。そこで、本実施形態においては、混合気の燃焼速度の推定値を規定する特性マップを用いて点火時期を決定する。混合気の燃焼速度は、気筒外の要因により変化する混合気の状態を代表するものであるので、その推定値を規定した特性マップを用いれば、高精度に点火時期を決定できる。ここで、混合気の燃焼速度の推定値は、圧縮上死点における混合気の温度(圧縮端温度)、比熱比、排気空燃比の目標値(目標空燃比)や、気筒内における気流の乱れによって算出される。
【0032】
図2は、EGRガス導入時の吸気バルブ閉弁後における気筒内を模式的に示した図である。図2に示すように、気筒内には、新気の他に、外部EGRガスや残留ガス(内部EGRガス)が存在する。これらのガスはその温度がそれぞれ異なるので、ガス組成の変化に伴い圧縮端温度が変化し混合気の燃焼速度にズレが生じることになる。同様に、これらのガスは比熱比もそれぞれ異なるので、ガス組成の変化に伴い比熱比が変化して混合気の燃焼速度にズレが生じることになる。加えて、これらのガスと混合気を形成する燃料の供給量は、目標空燃比に応じて決定されている。そのため、目標空燃比によっては圧縮端温度や比熱比に影響し、その結果、混合気の燃焼速度にズレが生じることになる。
【0033】
また、気筒内における気流の乱れは、吸気バルブのリフト量と相関を有する。具体的に、吸気バルブのリフト量が大きくなると、気流の乱れが増加する。このことについて、図3を参照して説明する。図3は、吸気バルブのリフト量とタンブル比との関係を示した図である。図3に示すように、吸気バルブのリフト量が大きくなれば、タンブル比が大きくなる。タンブル比が大きくなれば、火炎伝播速度が速くなり燃焼が早期に終了する。そのため、吸気バルブのリフト量によっては、混合気の燃焼速度にズレが生じることになる。
【0034】
図4は、本実施形態の特性マップにより決定される点火時期の概念的に示したものである。図4に示すように、点火時期は、圧縮端温度、比熱比および気流乱れを基本軸とする三次元空間上のデータとして表される。これらのデータは、予め実験やシミュレーション等により求められた上で、ECU70の内部に記憶されているものとする。
【0035】
[本実施形態における具体的処理]
次に、図5を参照しながら、点火時期の決定のための具体的な処理について説明する。図5は、本実施形態において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【0036】
図5に示すルーチンにおいて、先ず、ECU70は、吸入空気量Gaを算出する(ステップ100)。具体的に、ECU70は、エアフローメータ32の検出値を取得し、この検出値に基づいて、吸入空気量Gaを算出する。続いて、ECU70は、吸気バルブ14と排気バルブ16の両方が開いているバルブオーバーラップ(O/L)の有無を判定し(ステップ110)、バルブオーバーラップが有ると判定した場合には、下記式(1)を用いて内部EGRガス量GIEGRを算出する(ステップ120)。
【0037】
【数1】

【0038】
上記式(1)において、Pm(θ)は、バルブオーバーラップ中の所定タイミング(クランク角がθとなるタイミング)における吸気圧であり、吸気圧センサ42の検出値が用いられる。また、Pe(θ)およびTeは、同タイミングにおける背圧および排気温度であり、それぞれ背圧センサ46および排気温センサ44の検出値が用いられる。また、Rは気体定数である。また、Sはバルブオーバーラップ中にガスの通過を許容する有効面積を示し、下記式(2)により算出される。
【0039】
【数2】

【0040】
上記式(2)において、Ne(θ)は、クランク角がθとなるタイミングにおける機関回転数である。また、Rは吸気バルブ14のバルブ直径であり、Rは排気バルブ16のバルブ直径である。また、L(θ)およびL(θ)はそれぞれ、吸気バルブ14および排気バルブ16のリフト量であり、クランク角θの関数として表される。また、IVOは吸気バルブ14の開弁タイミングにおけるクランク角であり、EVCは排気バルブ16の閉弁タイミングにおけるクランク角である。
【0041】
また、上記式(1)において、φ(Pm(θ)/Pe(θ))は、下記式(3)または式(4)により表される。なお、下記式(3)および式(4)において、κIEGRは内部EGRガスの比熱比を表す。
【0042】
【数3】

【0043】
一方、ステップ110において、バルブオーバーラップが無いと判定した場合には、排気バルブの閉弁タイミングにおける筒内ガス量がそのまま内部EGRガス量となるので、下記式(5)を用いて内部EGRガス量GIEGRを算出する(ステップ130)。
IEGR=A+LBore・L(θ)・・・(5)
【0044】
上記式(5)において、Aは吸気上死点における筒内容積であり、LBoreはシリンダボア径であり、L(θ)は排気バルブの閉弁タイミングにおける、吸気上死点からのピストン移動距離である。
【0045】
ステップ120またはステップ130に続いて、ECU70は、EGRバルブ60が開弁状態であるか否かを判定する(ステップ140)。具体的に、ECU70は、EGR開度センサ62の検出値を取得し、この検出値を用いてEGRバルブ60が開弁状態であるか否かを判定する。ステップ140において、EGRバルブ60が開弁状態であると判定した場合、ECU70は、下記式(6)を用いて外部EGRガス量GEEGRを算出する(ステップ150)。一方、ステップ140において、EGRバルブ60が閉弁状態であると判定した場合は、ステップ150の処理を実行せずにステップ160に進む。
【0046】
【数4】

【0047】
上記式(6)において、Pm(θ)は、排気バルブ閉弁後における所定タイミング(クランク角がθとなるタイミング)における吸気圧であり、吸気圧センサ42の検出値が用いられる。また、Pe(θ)は、同タイミングにおける背圧であり、背圧センサ46の検出値が用いられる。また、αは流量係数を表す。
【0048】
続いて、ECU70は、吸気バルブ14が開弁状態であるか否かを判定する(ステップ160)。本ステップの処理は、吸気バルブ14が開弁状態であると判定されるまで継続される。開弁状態であると判定した場合には、ECU70は、吸気バルブリフト量を算出する(ステップ170)。具体的に、ECU70は、吸気バルブ14の開弁中における吸気圧Pmを取得し、吸気バルブリフト量と吸気圧との関係を規定したマップデータを参照して、吸気バルブリフト量を算出する。なお、このマップデータについては、機関回転数毎に予め実験等により求めた上で、ECU70の内部に記憶されているものとする。
【0049】
続いて、ECU70は、ステップ170で算出した吸気バルブリフト量を用いて、タンブル比を算出する(ステップ180)。具体的に、ECU70は、図3に示したマップをデータ化したものに、ステップ170で算出した吸気バルブリフト量を適用してタンブル比を算出する。なお、本ステップで使用するマップデータは、機関回転数毎に予め実験等により求めた上で、ECU70の内部に記憶されているものとする。
【0050】
続いて、ECU70は、下記式(7)を用いて比熱比を算出する(ステップ190)。
【0051】
【数5】

【0052】
上記式(7)において、κAir、κIEGRおよびκEEGRは各ガスの比熱比であり、κAVEは平均比熱比である。また、Ga、GIEGRおよびGEEGRは各ガスのガス量であり、Gaについてはステップ100で算出した値が、GIEGRについてはステップ120または130で算出した値が、GEEGRについてはステップ150で算出した値が用いられる。また、TAir、TIEGRおよびTEEGRは各ガスの温度であり、ガス量の算出タイミングにおける温度が用いられる。具体的に、TAirについてはステップ100の処理タイミングにおける吸気温センサ40の検出値が、TIEGRについてはステップ120またはステップ130の処理タイミングにおける排気温センサ44の検出値が、TEEGRについてはステップ150の処理タイミングにおける排気温センサ44の検出値とEGRクーラ58による温度低下代とにより推定した値が用いられる。
【0053】
続いて、ECU70は、吸気バルブの閉弁タイミングにおける吸気圧Pmを取得し(ステップ200)、圧縮端温度を算出する(ステップ210)。具体的に、ECU70は、吸気バルブの閉弁タイミングにおける吸気圧センサ42の検出値を取得すると共に、同タイミングにおける筒内容積を用いて実圧縮比を算出し、これらの値を用いて圧縮端温度を推定する。
【0054】
続いて、ECU70は、点火時期SAを算出する(ステップ220)。具体的に、ECU70は、ステップ180で算出したタンブル比、ステップ190で算出した比熱比およびステップ210で算出した圧縮端温度を、図4で説明した特性マップに適用して点火時期SAを決定する。
【0055】
続いて、ECU70は、目標空燃比が所定のストイキ領域外に設定されているか否かを判定する(ステップ230)。本ステップにおいて、ストイキ領域外に設定されていると判定された場合、ECU70は、ストイキ領域からの偏差に応じた補正量マップを参照して、点火時期補正量SAreviseを特定し(ステップ240)、この点火時期補正量SAreviseをステップ220で算出した点火時期SAに加算して最終的な点火時期SAを決定する(ステップ250)。一方、本ステップにおいて、ストイキ領域内に設定されていると判定された場合は、ステップ220で算出した点火時期SAを最終的な点火時期SAとして決定する。
【0056】
以上、図5に示したルーチンによれば、タンブル比、比熱比および圧縮端温度を算出し、これらを混合気の燃焼速度の推定値を規定した特性マップに適用し、目標空燃比のストイキ領域からの偏差に応じて適宜補正した上で点火時期を決定できる。従って、アクチュエータ数や機関運転状態に左右されることなく高精度に点火時期を決定できる。
【0057】
なお、上述した実施の形態1においては、ECU70が図5のステップ200、210の処理を実行することにより上記第1の発明における「圧縮端温度推定手段」が、同図のステップ190の処理を実行することにより上記第1の発明における「比熱比算出手段」が、同図のステップ170、180の処理を実行することにより上記第1の発明における「パラメータ算出手段」が、同図のステップ220のステップを実行することにより上記第1の発明における「目標点火時期算出手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU70が図5のステップ230〜250の処理を実行することにより上記第2の発明における「目標点火時期補正手段」が実現されている。
【0058】
実施の形態2.
次に、図6乃至図8を参照しながら、本発明の実施の形態2について説明する。なお、本実施形態は、図1の構成において、ECU70に、後述する図8に示すルーチンを実行させることにより実現される。そのため、本実施形態では、上記実施の形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を簡略化または省略する。
【0059】
上記実施の形態1によれば、アクチュエータ数や機関運転状態に左右されることなく高精度に点火時期を決定できる。しかしながら、その精度が高いが故に、特に過渡運転時において、点火時期間にばらつきが生じ易い。図6は、過渡運転時において、上記実施の形態1の特性マップにより決定された点火時期の履歴の一例を示したものである。図6に示す複数の点はそれぞれ点火時期のデータを示すものであり、このうち、点Aは、定常運転から過渡運転に切り替わった時点でのデータであり、点Bは、その後に再び定常運転に切り替わった時点でのデータである。図6に示すように、点Aと点Bとの間、即ち過渡運転中においては、点火時期が連続的に推移せずにばらつきが生じている。このようなばらつきの発生は、内部EGRガス量や外部EGRガス量の変動によるものであり、ドライバビリティの悪化の原因となる。
【0060】
そこで、本実施形態においては、定常運転から過渡運転に切り替わった際には、その過渡運転が終了するタイミングでの点火時期を推定し、その点火時期と、現在の点火時期とを線形補間するように、内部EGRガス量および外部EGRガス量を制御することとした。図7は、本実施形態の制御を説明するためのタイミングチャートである。図7(A)に示すように、時刻tにおいてKLであった負荷の目標値が、KLよりも高負荷側のKLとなったとする。本実施形態においては、この時刻tにおいて、負荷がKLとなる際の点火時期SAが推定される。そして、時刻tの点火時期である点火時期SAから、推定した点火時期SAまでの点火時期が線形に変化するようにEGRバルブ60の開度や、吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングが設定される(図7(B)、(C)の実線)。これにより、時刻tから時刻tまでの点火時期のばらつきが抑制される(図7(D))。
【0061】
[本実施形態における具体的処理]
次に、図8を参照しながら、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図8は、本実施形態において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【0062】
図8に示すルーチンにおいて、先ず、ECU70は、トルク要求の有無を判定する(ステップ260)。具体的に、ECU70は、スロットル開度TAの変化量|ΔTA|が|ΔTA|>0であるか否かによってトルク要求の有無を判定する。そして、トルク要求があると判定された場合、ECU70は、現時点におけるトルクを読み取る(ステップ270)。一方、トルク要求が無いと判定された場合はステップ260に戻る。
【0063】
ステップ270に続いて、ECU70は、目標トルクを読み取り(ステップ280)、この目標トルクに基づいて目標スロットル開度TAを算出する(ステップ290)。続いて、ECU70は、点火時期SA、内部EGRガス量GIEGRおよび外部EGRガス量GEEGRについて、その現状値と目標値とを読み込み(ステップ300)、これらの値の偏差に基づいて、傾きΔSA、ΔGIEGRおよびΔGEEGRをそれぞれ算出する(ステップ310)。
【0064】
続いて、ECU70は、EGRガス量GEGR(=内部EGRガス量GIEGR+外部EGRガス量GEEGR)が、その目標値よりも所定値ζ以上乖離しているか否かを判定する(ステップ320)。具体的に、ECU70は、ステップ310で算出した傾きΔGIEGR、ΔGEEGRを用いて目標値ΔGEGR×t(ΔGEGR=ΔGIEGR+ΔGEEGR、t:トルク要求時点からEGR算出時点までの経過時間)を算出し、次いで、算出した目標値ΔGEGR×tと、EGRガス量GEGRとの差が所定値ζ以上あるか否かを判定する。
【0065】
ステップ320において、EGRガス量GEGRがその目標値よりも所定値ζ以上乖離していると判定された場合は、点火時期の今回値と次回値との間にばらつきが生じると判断できる。そのため、ECU70は、内部EGRガス量の今回値と次回値との差ΔIEGRと、外部EGRガス量の今回値と次回値との差ΔEEGRとの大小を比較する(ステップ330)。一方、ステップ320において、EGRガス量GEGRがその目標値よりも所定値ζ以上乖離していないと判定された場合は、ECU70は、本ルーチンを終了する。
【0066】
ステップ330において、ΔIEGRがΔEEGRよりも大きい場合は、内部EGRガス量の変動が点火時期のばらつきに影響を及ぼすと判断できるので、ΔIEGRの正負に応じて、内部EGRガス量GIEGRを補正する(ステップ350、360)。一方、ステップ330において、ΔIEGRがΔEEGRよりも小さい場合は、外部EGRガス量の変動が点火時期のばらつきに影響を及ぼすと判断できるので、ΔEEGRの正負に応じて、外部EGRガス量GEEGRを補正する(ステップ370、380)。
【0067】
以上、図8に示したルーチンによれば、トルク要求があり、EGRガス量GEGRとその目標値との差が所定値ζ以上ある場合には、内部EGRガス量GIEGRや外部EGRガス量GEEGRを補正できる。従って、目標トルク要求を満たしつつ、点火時期のばらつきを抑制できる。
【0068】
ところで、上述した実施形態においては、過渡運転中に内部EGRガス量および外部EGRガス量を制御したが、定常運転中に同様の制御を行うことも可能である。つまり、EGRガス量GEGRの目標値を負荷に応じて設定すれば、幅広い運転状態において点火時期のばらつきを抑制できる。
【0069】
なお、上述した実施形態においては、ECU70が図8のルーチンを実行することにより上記第3の発明の「バルブタイミング制御手段」および上記第7の発明の「EGRバルブ開度制御手段」が実現されている。
【0070】
実施の形態3.
次に、図9および図10を参照しながら、本発明の実施の形態3について説明する。本実施形態は、図1の構成において、ECU70に、後述する図9に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0071】
上記実施の形態2の制御によれば、負荷が変わった際に内部EGRガス量GIEGRや外部EGRガス量GEEGRを補正するので、点火時期のばらつきを抑制できる。しかしながら、この補正によってEGRガス量GEGRが増量されていき、やがて過多となった場合には燃焼の悪化に繋がる可能性がある。同様に、EGRガス量GEGRが減量されていき、やがて過少となった場合にはノックが発生し易くなる。そこで、本実施形態においては、負荷の変化方向に応じてEGRガス量GEGRの許容値(上限値または下限値)を定め、EGRガス量GEGRがこの許容値を超える場合には、内部EGRガス量GIEGRや外部EGRガス量GEEGRを再補正することとした。これにより、過渡運転時において、EGRガス量GEGRが極端に増量或いは減量されることを防止できる。従って、燃焼の悪化やノックの発生、更にはこれに伴うドラビリの悪化や燃費の低下を未然に防止することができる。
【0072】
また、EGRガス量の多少に関わらず、圧縮端温度が上昇してある一定温度以上となった場合にはノックが発生し易くなる。そこで、本実施形態においては、上記EGRガス量GEGRの判定と同時にノック発生の有無を判定し、ノック発生と判定された場合には、点火時期を遅角側に補正することとした。従って、ノックが発生したとしてもその頻度を低減することができる。
【0073】
[本実施形態における具体的処理]
次に、図9を参照しながら、上述した機能を実現するための具体的な処理について説明する。図9は、本実施形態において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。
【0074】
図9に示すルーチンにおいて、先ず、ECU70は、上記実施の形態2の制御が実行中か否かを判定し(ステップ400)、制御実行中であると判定した場合には、EGRガス量GEGRの許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを取得する(ステップ410)。図10は、機関回転数および負荷と、EGRガス量GEGRの許容値との関係を規定したマップである。ステップ410において、ECU70は、図10に示したマップを参照してEGRガス量GEGRの許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを設定する。
【0075】
続いて、ECU70は、EGRガス量GEGRがステップ410で設定した許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えたか否かを判定する(ステップ420)。ステップ420において、EGRガス量GEGRが許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えたと判定された場合は、ECU70は、その要因が(1)内部EGRガス量GIEGR、(2)外部EGRガス量GEEGR、(3)内部EGRガス量GIEGRおよび外部EGRガス量GEEGRのうちの何れであるかを判定する(ステップ430、440)。
【0076】
具体的に、ステップ430において、内部EGRガス量GIEGRが許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えていると判定された場合は、上記要因が内部EGRガス量GIEGRによるものであると判断できる(上記(1))。そのため、ECU70は、吸気バルブ14および排気バルブ16の開閉タイミングの補正量を算出し(ステップ450)、この開閉タイミングについてフィードバック制御を実行する(ステップ460)。
【0077】
また、ステップ440において、外部EGRガス量GEEGRが許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えていると判定された場合は、上記要因が外部EGRガス量GEEGRによるものであると判断できる(上記(2))。そのため、ECU70は、EGRバルブ60の開度の補正量を算出し(ステップ470)、この開度についてフィードバック制御を実行する(ステップ480)。
【0078】
また、ステップ440において、外部EGRガス量GEEGRが許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えていると判定された場合は、上記要因が内部EGRガス量GIEGRおよび外部EGRガス量GEEGRによるものであると判断できる(上記(3))。そのため、ECU70は、吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングの補正量およびEGRバルブ60の開度の補正量を算出し(ステップ490)、両者についてフィードバック制御を実行する(ステップ500)。
【0079】
一方、ステップ420において、EGRガス量GEGRが許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えていないと判定された場合は、ECU70は、吸気バルブ14および排気バルブ16の開閉タイミングについてのフィードバック制御や、EGRバルブ60の開度についてのフィードバック制御を終了する(ステップ510)。
【0080】
ステップ460、480、500または510に続いて、ECU70は、ノックフラグがONであるか否かを判定する(ステップ520)。本ステップにおいて、ノックフラグの判定は、ノックセンサ68の検出値に基づいて行われる。そして、ノックフラグがONであると判定された場合には、所定の点火時期補正量SAreviseを点火時期SAに加算して遅角側に補正する(ステップ530)。
【0081】
以上、図9に示したルーチンによれば、EGRガス量GEGRが許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを超えた場合には、その要因に応じてEGRガス量を調整できるので、燃焼の悪化やノックの発生を未然に防止することができる。また、ノック発生と判定された場合には、点火時期を遅角側に補正するので、ノックが発生したとしてもその頻度を低減することができる。
【0082】
実施の形態4.
次に、図11および図12を参照しながら、本発明の実施の形態4について説明する。本実施形態は、図1の構成において、ECU70に、後述する図11に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0083】
本実施形態においては、上記実施の形態2や3の制御に加えて、機関始動時における排気浄化触媒54の早期活性化を目的とした触媒暖機制御が実行される。この触媒暖機制御は、具体的に、図5のルーチン等により算出した点火時期を遅角して排出ガスの温度を上昇させて、排気浄化触媒54の暖機を促進するものである。しかしながら、単に点火時期を遅角すればその変動により燃焼が悪化する可能性がある。そこで、本実施形態においては、触媒暖機制御の実行中、内部EGRガス量GIEGRの分散を算出し、その値が所定値よりも小さくなるように吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングを制御することとした。これにより、点火時期の変動幅を小さくできるので、燃焼を悪化させることなく排気浄化触媒54を活性化できる。
【0084】
[本実施形態における具体的処理]
次に、図11を参照しながら、上述した機能を実現するための具体的な処理について説明する。図11は、本実施形態において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。なお、本ルーチンは、上記図9のルーチンと同時並行で実行されるものとする。
【0085】
図11に示すルーチンにおいて、先ず、ECU70は、触媒暖機要求の有無を判定する(ステップ540)。具体的に、ECU70は、吸気温度TAirが所定値よりも低く、かつ、アクセル開度Acclの変化量ΔAcclが所定値よりも高いか否かを判定する。そして、触媒暖機要求があると判定された場合、ECU70は、点火時期SAを所定量遅角する(ステップ550)。ここで、点火時期SAの遅角補正量は、吸気温度TAirに応じてECU70が記憶する関数またはマップに従って演算される。一方、触媒暖機要求が無いと判定された場合はステップ540に戻る。
【0086】
続いて、ECU70は、点火時期SAの分散SAdisが所定値(固定値)よりも大きいか否かを判定する(ステップ560)。この分散SAdisは、点火時期SAの今回値を含む所定サイクルに亘る点火時期SAの履歴を基に算出される。ステップ560において、分散SAdisが所定値よりも小さいと判定された場合、ECU70は、本ルーチンを終了する。
【0087】
一方、ステップ560において、分散SAdisが所定値よりも大きいと判定された場合、ECU70は、内部EGRガス量GIEGRの分散GIEGRdisが遅角補正量に応じて定まる所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップ570)。図12は、遅角補正量と補正係数との関係を示すマップである。本ステップにおいて、ECU70は、ステップ550で算出した遅角補正量を図12のマップに適用して補正係数を求め、上記の所定値を算出する。また、ECU70は、内部EGRガス量GIEGRの今回値を含む所定サイクルに亘る内部EGRガス量GIEGRの履歴を基に分散GIEGRdisを算出する。
【0088】
ステップ570において、分散GIEGRdisが所定値よりも大きいと判定された場合は、燃焼が悪化する可能性があると判断できる。そのため、ECU70は、内部EGRガス量GIEGRが減少するように吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングを制御する(ステップ580)。一方、ステップ570において、分散SAdisが所定値よりも小さいと判定された場合は、排気浄化触媒54の暖機を促進すべく、内部EGRガス量GIEGRが増加するように吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングを制御する(ステップ590)。
【0089】
以上、図11に示したルーチンによれば、分散SAdisが所定値よりも大きく、かつ、分散GIEGRdisが所定値よりも大きいと判定された場合に、内部EGRガス量GIEGRが減少するように吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングを制御するので、燃焼を悪化させることなく排気浄化触媒54を活性化できる。
【0090】
ところで、上述した実施形態においては、触媒暖機要求があった場合に分散SAdisついての判定等を行って、吸気バルブ14や排気バルブ16の開閉タイミングを制御したが、この一連の処理は、触媒暖機要求があった場合に限られない。例えば、機関回転数が急激に変化した場合はいわゆる過渡ノックが発生するので、この過渡ノックの防止を目的として点火時期を遅角する過渡ノック防止制御が実行される。点火時期を遅角すれば、本実施形態同様、燃焼の悪化の可能性が生じる。そこで、過渡ノック防止要求があった場合に上記の処理を行えば、燃焼を悪化させることなく過渡ノックを防止できる。このように、本実施形態における一連の処理は、点火時期の遅角側への変更要求があった場合に広く適用できる。
【0091】
なお、上述した実施形態においては、ECU70が図11のステップ540の処理を実行することにより上記第4の発明の「変更要求判定手段」が、同図のステップ550の処理を実行することにより上記第4の発明の「目標点火時期変更手段」が、同図のステップ580の処理を実行することにより上記第4の発明の「バルブタイミング変更手段」が、それぞれ実現されている。
【0092】
実施の形態5.
次に、図13乃至図15を参照しながら、本発明の実施の形態5について説明する。なお、本実施形態は、図1の構成において、ECU70に、後述する図15に示すルーチンを実行させることにより実現される。
【0093】
上記実施の形態2によれば、負荷が変わった際に内部EGRガス量GIEGRや外部EGRガス量GEEGRを補正するので、点火時期のばらつきを抑制できる。しかしながら、低負荷から高負荷に急変した場合は、低温の新気が短時間で大量に筒内に吸入されるので圧縮端温度が大きく変化する。ここで、圧縮端温度は、本発明による点火時期決定に使用されるパラメータの一つである。そのため、圧縮端温度が大きく変化すれば、その前後の点火時期間に差が生じトルク変動が起こる可能性がある。
【0094】
そこで、本実施の形態においては、低負荷から高負荷となることが予測される場合には、その予測がされた時点で、内部EGRガス量GIEGRを強制的に増量することとした。内部EGRガス量GIEGRは高温であるため、内部EGRガス量GIEGRを増量すれば、新気量の増大による圧縮端温度の変動を緩和できるのでトルク変動の発生リスクを低減できる。
【0095】
図13および図14を参照して、本実施形態における制御を説明する。図13は、低負荷から高負荷に変化した際におけるO/L量の履歴を示したものである。図13に示す複数の点は、それぞれO/L量のデータであり、低負荷時には少なく、高負荷時に多くなっている。一方、図13に示す実線は、本実施形態における点火時期の制御イメージを示したものである。本実施形態では、低負荷から高負荷となることが予測された時点でO/L量が増加するように吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングが設定される。
【0096】
また、図14は、低負荷から高負荷に変化した際における点火時期の履歴を示したものである。図14に示す複数の点は、それぞれ点火時期のデータであり、低負荷から高負荷となる際に、徐々に進角側に移動している。一方、図14に示す実線は、本実施形態における点火時期の制御イメージを示したものである。図13に示したように、低負荷から高負荷となることが予測された時点でO/L量を増加させれば、内部EGRガス量GIEGRが増量するので、点火時期が進角して過渡運転中における点火時期の差ΔSAを小さすることが可能となる。従って、トルク変動の発生リスクを低減できる。
【0097】
[本実施形態における具体的処理]
次に、図15を参照しながら、上述した機能を実現するための具体的な処理について説明する。図15は、本実施形態において、ECU70により実行されるルーチンのフローチャートである。なお、本ルーチンは、上記図9のルーチンと同時並行で実行されるものとする。
【0098】
図15に示すルーチンにおいて、先ず、ECU70は、変曲点の有無を判定する(ステップ600)。具体的に、ECU70は、アクセル開度Acclの変化量ΔAcclが所定量以上で、かつ、カーナビ情報による道路勾配が一定値以上あるか否かを判定する。そして、変曲点があると判定された場合、負荷が低負荷から高負荷に変化すると予測できるので、ECU70は、図10に示したマップを参照してEGRガス量GEGRの許容上限値EGRMAXまたは許容下限値EGRMINを設定する(610)。
【0099】
続いて、ECU70は、EGRガス量GEGRがステップ610で設定した許容上限値EGRMAXよりも小さく、かつ、許容下限値EGRMINよりも大きいか、即ち、許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップ620)。ステップ620において、EGRガス量GEGRが許容範囲内にあると判定された場合は、ECU70は、O/L量を増加すべく吸気バルブ14および排気バルブ16の開閉タイミングの制御を実行する(ステップ630)。一方、ステップ620において、EGRガス量GEGRが許容範囲外にあると判定された場合は、本ルーチンを終了する。
【0100】
以上、図15に示したルーチンによれば、変曲点があると判定され、EGRガス量GEGRが許容範囲内にある場合に、O/L量を増加するように吸気バルブ14と排気バルブ16の開閉タイミングを制御するので、低負荷から高負荷となることが予測された時点で、新気量の増大による圧縮端温度の変動を緩和してトルク変動の発生リスクを低減できる。
【0101】
なお、上述した実施形態においては、ECU70が図15のステップ600の処理を実行することにより上記第5の発明の「所定条件判定手段」が、同図のステップ610の処理を実行することにより上記第5の発明の「バルブオーバーラップ増量手段」が、それぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0102】
10 内燃機関
12 ピストン
14 吸気バルブ
16 排気バルブ
18 点火プラグ
20 インジェクタ
22、24 可変動弁機構
26 ターボ過給機
26a 吸気圧縮機
26b 排気タービン
28 吸気通路
30 排気通路
32 エアフローメータ
34 インタークーラ
36 スロットルバルブ
38 スロットル開度センサ
40 吸気温センサ
42 吸気圧センサ
44 排気温センサ
46 背圧センサ
48 バイパス通路
50 ウェイストゲートバルブ
52 アクチュエータ
54 排気浄化触媒
56 EGR通路
58 EGRクーラ
60 EGRバルブ
62 EGR開度センサ
64 アクセルポジションセンサ
66 クランク角センサ
68 ノックセンサ
70 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内における圧縮端温度を推定する圧縮端温度推定手段と、
前記気筒内における混合気の比熱比を算出する比熱比算出手段と、
前記気筒内における混合気の気流乱れに関するパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
圧縮端温度、比熱比および気流乱れに関するパラメータと、点火時期との関係を規定した点火時期マップに、前記圧縮端温度推定手段で推定した圧縮端温度、前記比熱比算出手段で算出した比熱比および前記パラメータ算出手段で算出したパラメータを適用して、目標点火時期を算出する目標点火時期算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
内燃機関の空燃比制御に用いる目標空燃比に応じて、前記目標点火時期算出手段で算出した目標点火時期を補正する目標点火時期補正手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記気筒と前記吸気通路とを連通または遮断する吸気バルブと、
前記気筒と前記排気通路とを連通または遮断する排気バルブと、
前記点火時期算出手段で算出した目標点火時期の今回値と、その前回値との偏差が、機関負荷の変化に応じて決定される所定の許容範囲内に収まるように前記吸気バルブおよび/または前記排気バルブの開閉タイミングを制御するバルブタイミング制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記気筒と前記吸気通路とを連通または遮断する吸気バルブと、
前記気筒と前記排気通路とを連通または遮断する排気バルブと、
点火時期の遅角側への変更要求の有無を判定する変更要求判定手段と、
前記変更要求があると判定された場合に、前記目標点火時期を遅角側に変更する目標点火時期変更手段と、
変更後の目標点火時期を含む所定サイクル数における目標点火時期の分散が、機関負荷毎に決定される所定の許容値よりも小さくなるように、前記吸気バルブおよび/または前記排気バルブの開閉タイミングを変更するバルブタイミング変更手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記気筒と前記吸気通路とを連通または遮断する吸気バルブと、
前記気筒と前記排気通路とを連通または遮断する排気バルブと、
機関負荷が低負荷から高負荷へ移行することが予測される場合に成立する所定条件の成否を判定する所定条件判定手段と、
前記所定条件が成立する場合に、前記吸気バルブおよび前記排気バルブが共に開弁するバルブオーバーラップ量が増加するように前記吸気バルブおよび/または前記排気バルブの開閉タイミングを制御するバルブオーバーラップ増量手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至4何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記開閉タイミングは、機関負荷の変化方向に応じてそれぞれ決定される所定の限界値を超えないように補正されることを特徴とする請求項3乃至5何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記気筒と連通する吸気通路および排気通路と、
前記吸気通路と前記排気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路に設けられたEGRバルブと、
前記点火時期算出手段で算出した目標点火時期の今回値と、その前回値との偏差が、機関負荷の変化に応じて決定される所定の許容範囲内に収まるように前記EGRバルブの開度を制御するEGRバルブ開度制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至6何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記EGRバルブの開度は、機関負荷の変化方向に応じてそれぞれ決定される所定の限界値を超えないように補正されることを特徴とする請求項7に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−7271(P2013−7271A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138444(P2011−138444)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】