説明

内燃機関の排気還流装置

【課題】内燃機関の排気還流装置において、低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧を求める精度が低下した場合であっても、正確なEGRガス比率のEGRガスの制御を行う技術を提供する。
【解決手段】低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧が、当該差圧を求める精度が低下したか低下していないかの閾値となる所定差圧以下の場合に、機関回転速度、内燃機関の燃料噴射量、及び排気流量から排気中のHC量を推定し、酸化触媒の上流の排気温度及びHC量から酸化触媒の発熱量を推定し、発熱量から酸化触媒の浄化率を推定し、酸化触媒の上流の排気温度及び浄化率からSV比を推定し、SV比から酸化触媒通過ガス流量を算出し、酸化触媒通過ガス流量と目標流量との関係に応じて低圧EGRガスの還流量と高圧EGRガスの還流量とを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気還流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャのタービンより下流の排気通路から排気の一部を低圧EGRガスとして取り込みターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ当該低圧EGRガスを還流させる低圧EGR装置と、タービンより上流の排気通路から排気の一部を高圧EGRガスとして取り込みコンプレッサより下流の吸気通路へ当該高圧EGRガスを還流させる高圧EGR装置とを備えるものが知られている。そして、低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧から、低圧EGRガスと高圧EGRガスとのEGRガス比率を算出する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−038627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の技術では、低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧を取得するために、低圧EGR装置の入口と出口との夫々に圧力センサを配置して夫々の圧力を検出し、その圧力差によって前後差圧を求めている。
しかし、内燃機関の運転状態が低負荷のときには、低圧EGR装置内の圧力が低くなり過ぎるため、前後差圧を求める精度が低下し、正確なEGRガス比率を求めることができなくなってしまう。そうすると、EGRガスの制御にズレが生じ、排気エミッションが悪化する場合がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の排気還流装置において、低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧を求める精度が低下した場合であっても、正確なEGRガス比率のEGRガスの制御を行う技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
内燃機関の排気通路に配置されたタービン及び前記内燃機関の吸気通路に配置されたコンプレッサを有するターボチャージャと、
前記タービンより下流の前記排気通路に配置された酸化触媒と、
前記酸化触媒より下流の前記排気通路から排気の一部を低圧EGRガスとして取り込み、前記コンプレッサより上流の前記吸気通路へ当該低圧EGRガスを還流させる低圧EGR装置と、
前記タービンより上流の前記排気通路から排気の一部を高圧EGRガスとして取り込み、前記コンプレッサより下流の前記吸気通路へ当該高圧EGRガスを還流させる高圧EGR装置と、
前記低圧EGR装置及び前記高圧EGR装置を併用して低圧EGRガス及び高圧EGRガスの両方のEGRガスを還流させている場合に、前記低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧を取得する前後差圧取得手段と、
前記前後差圧取得手段によって取得された前後差圧が、当該差圧を求める精度が低下したか低下していないかの閾値となる所定差圧以下の場合に、酸化触媒通過ガス流量を算出
する酸化触媒通過ガス流量算出手段と、
前記酸化触媒通過ガス流量算出手段によって算出された酸化触媒通過ガス流量と、目標流量との関係に応じて、前記低圧EGR装置によって還流される低圧EGRガスの還流量と、前記高圧EGR装置によって還流される高圧EGRガスの還流量とを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気還流装置である。
ここで、所定差圧とは、前後差圧取得手段によって取得された前後差圧が、それ以下となると、当該差圧を求める精度が低下してしまう値であり、当該差圧を求める精度が低下したか当該差圧を求める精度が低下していないかの閾値である。
これによると、低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧が正確でなくなる場合に、酸化触媒通過ガス流量を算出し、当該酸化触媒通過ガス流量と目標流量との関係に応じて、両EGRガスの還流量を制御する。これにより、低圧EGRガスと高圧EGRガスとのEGRガス比率の精度が向上する。したがって、EGRガスの制御にズレが生じ難くなり、排気エミッションの悪化を抑制することができる。また、酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも多いために生じる酸化触媒のHC被毒も抑制できる。
【0007】
前記制御手段は、前記酸化触媒通過ガス流量算出手段によって算出された酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも多い場合には、前記低圧EGR装置によって還流される低圧EGRガスの還流量を減少させ、前記高圧EGR装置によって還流される高圧EGRガスの還流量を増加させ、前記酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも少ない場合には、前記低圧EGR装置によって還流される低圧EGRガスの還流量を増加させ、前記高圧EGR装置によって還流される高圧EGRガスの還流量を減少させるとよい。
これによると、酸化触媒通過ガス量を目標流量に調整できる。これにより、低圧EGRガスと高圧EGRガスとのEGRガス比率の精度が向上する。
【0008】
前記酸化触媒通過ガス流量算出手段は、機関回転速度、前記内燃機関の燃料噴射量、及び排気流量から、排気中のHC量を推定し、前記酸化触媒の上流の排気温度及び推定したHC量から、前記酸化触媒の発熱量を推定し、推定した発熱量から前記酸化触媒の浄化率を推定し、前記酸化触媒の上流の排気温度及び推定した浄化率からSV比を推定し、推定したSV比から酸化触媒通過ガス流量を算出するとよい。
これによると、新たな検出手段を設けることなく酸化触媒の発熱量を推定でき、コストアップを抑制できる。
【0009】
前記酸化触媒通過ガス流量算出手段は、前記酸化触媒の上流及び下流の排気温度から、前記酸化触媒の発熱量を推定し、推定した発熱量から前記酸化触媒の浄化率を推定し、前記酸化触媒の上流の排気温度及び推定した浄化率からSV比を推定し、推定したSV比から酸化触媒通過ガス流量を算出するとよい。
これによると、精度よく容易に酸化触媒の発熱量を推定できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、内燃機関の排気還流装置において、低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧を求める精度が低下した場合であっても、正確なEGRガス比率のEGRガスの制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る内燃機関及びその吸気系・排気系の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る内燃機関の運転状態に対応した低圧EGRガスの還流と高圧EGRガスの還流との使い分けのパターンを示す図である。
【図3】実施例1に係る酸化触媒通過ガス流量を用いたEGR制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施例1に係るSV比を求めるマップを示す図である。
【図5】実施例1の他の例に係る内燃機関及びその吸気系・排気系の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0013】
<実施例1>
(内燃機関)
図1に、本発明の実施例1に係る内燃機関の排気還流装置を適用する内燃機関、及びその吸気系・排気系の概略構成を示す。図1に示す内燃機関1は、ピストンと共に燃焼室を形成する気筒2を4つ有する水冷式の4ストロークサイクル・ディーゼルエンジンである。内燃機関1は、車両に搭載されている。各気筒2には、燃料としての軽油が供給され気筒2内へ軽油を適宜の量且つ適宜のタイミングで噴射する燃料噴射弁3が設けられている。内燃機関1には、吸気通路4及び排気通路5が接続されている。
【0014】
(吸気系)
内燃機関1に接続された吸気通路4の途中には、排気のエネルギを駆動源として作動するターボチャージャのコンプレッサ6aが配置されている。コンプレッサ6aよりも上流の吸気通路4には、該吸気通路4内を流通する吸気の流量を調節する第1スロットル弁7が配置されている。この第1スロットル弁7は、電動アクチュエータにより開閉される。第1スロットル弁7よりも上流の吸気通路4には、該吸気通路4内を流通する新気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ8が配置されている。このエアフローメータ8により、内燃機関1に吸入される吸入空気量(新気流量)が測定される。
コンプレッサ6aよりも下流の吸気通路4には、吸気と外気とで熱交換を行うインタークーラ9が配置されている。インタークーラ9よりも下流の吸気通路4には、該吸気通路4内を流通する吸気の流量を調節する第2スロットル弁10が配置されている。この第2スロットル弁10は、電動アクチュエータにより開閉される。
これら吸気通路4及びそれに配置された機器が内燃機関1に吸気を取り入れるための吸気系を構成している。
【0015】
(排気系)
一方、内燃機関1に接続された排気通路5の途中には、ターボチャージャのタービン6bが配置されている。タービン6bよりも下流の排気通路5には、排気浄化装置11が配置されている。排気浄化装置11は、酸化触媒11aと当該酸化触媒11aの後段に配置されたディーゼルパティキュレートフィルタ(以下単にフィルタという)11bとを有して構成される。フィルタ11bには吸蔵還元型NOx触媒(以下単にNOx触媒という)が担持されている。
これら排気通路5及びそれに配置された機器が内燃機関1から排気を排出させるための排気系を構成している。
【0016】
(低圧EGR装置)
そして、内燃機関1には、排気通路5内を流通する排気の一部を低圧で吸気通路4へ還流(再循環)させる低圧EGR装置30が備えられている。本実施例では、低圧EGR装置30によって還流される排気を低圧EGRガスと称している。
低圧EGR装置30は、低圧EGRガスが流通する低圧EGR通路31と、低圧EGR通路31を流通する低圧EGRガスの還流量を制御する低圧EGR弁32と、低圧EGRガスを冷却する低圧EGRクーラ33と、を有する。
低圧EGR通路31は、酸化触媒11aを有する排気浄化装置11よりも下流側の排気
通路5と、コンプレッサ6aよりも上流かつ第1スロットル弁7よりも下流側の吸気通路4とを接続している。この低圧EGR通路31を通って、排気が低圧EGRガスとして低圧で内燃機関1へ送り込まれる。
低圧EGR弁32は、低圧EGRクーラ33よりも下流の低圧EGR通路31に配置され、低圧EGR通路31の通路断面積を調整することにより、該低圧EGR通路31を流れる低圧EGRガスの流量(還流量)を調節する。この低圧EGR弁32は、電動アクチュエータにより開閉される。
なお、低圧EGRガスの流量の調節は、低圧EGR弁32の開度の調整以外の方法によって行うこともできる。例えば、第1スロットル弁7の開度を調整することにより、或いは不図示の排気絞り弁の開度を調節することにより、低圧EGR通路31の上流と下流との差圧を変化させ、これにより低圧EGRガスの流量を調節することができる。
低圧EGRクーラ33は、低圧EGR通路31の途中に配置される。低圧EGRクーラ33は、低圧EGRクーラ33内を通過する低圧EGRガスと機関冷却水とで熱交換をして、低圧EGRガスの温度を低下させる。
【0017】
(高圧EGR装置)
一方、内燃機関1には、排気通路5内を流通する排気の一部を高圧で吸気通路4へ還流(再循環)させる高圧EGR装置40が備えられている。本実施例では、高圧EGR装置40によって還流される排気を高圧EGRガスと称している。
高圧EGR装置40は、高圧EGRガスが流通する高圧EGR通路41と、高圧EGR通路41を流通する高圧EGRガスの還流量を制御する高圧EGR弁42と、を有する。
高圧EGR通路41は、タービン6bよりも上流側の排気通路5と、第2スロットル弁10よりも下流側の吸気通路4とを接続している。この高圧EGR通路41を通って、排気が高圧EGRガスとして高圧で内燃機関1へ送り込まれる。
高圧EGR弁42は、高圧EGR通路41に配置され、高圧EGR通路41の通路断面積を調整することにより、該高圧EGR通路41を流れる高圧EGRガスの流量(還流量)を調節する。この高圧EGR弁42は、電動アクチュエータにより開閉される。
なお、高圧EGRガスの流量の調節は、高圧EGR弁42の開度の調整以外の方法によって行うこともできる。例えば、第2スロットル弁10の開度を調整することにより、高圧EGR通路41の上流と下流との差圧を変化させ、これにより高圧EGRガスの流量を調節することができる。また、ターボチャージャのタービン6bが可変容量型の場合には、タービン6bの流量特性を変更するノズルベーンの開度を調整することによっても高圧EGRガスの量を調節することができる。
【0018】
(ECU)
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU12が併設されている。ECU12は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。
ECU12には、エアフローメータ8、低圧EGR装置30の入口において低圧EGR装置30に流入する排気の圧力を検出する第1圧力センサ13、低圧EGR装置30の出口において低圧EGR装置30から低圧EGRガスが流出した直後の吸気の圧力を検出する第2圧力センサ14、酸化触媒11aの上流の排気の温度を検出する第1排気温度センサ15、機関回転速度を検出するクランクポジションセンサ16、及び運転者がアクセルペダル17を踏み込んだ量に応じた電気信号を出力し内燃機関1の燃料噴射量を定める機関負荷を検出可能なアクセル開度センサ18が電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU12に入力されるようになっている。
一方、ECU12には、燃料噴射弁3、第1スロットル弁7、第2スロットル弁10、低圧EGR弁32、及び高圧EGR弁42の各アクチュエータが電気配線を介して接続されており、該ECU12によりこれらの機器が制御される。
【0019】
(EGR制御)
そして、本実施例における内燃機関1では、図2に示すように、運転状態に応じて、低圧EGRガスの還流と高圧EGRガスの還流との使い分けを行っている。図2に、内燃機関1の運転状態に対応した低圧EGRガスの還流と高圧EGRガスの還流との使い分けのパターンを示す。図2の横軸は内燃機関1の機関回転速度を表し、縦軸は内燃機関1の機関負荷を表している。高負荷と高回転の少なくともどちらかの運転状態においては、低圧EGR装置30のみを用いて低圧EGRガスの還流のみを行う。この低圧EGRガスの還流のみを行う領域をLPL領域という。中負荷の運転状態においては、低圧EGR装置30及び高圧EGR装置40を併用して低圧EGRガスの還流と高圧EGRガスの還流との両方を行う。この低圧EGRガスの還流と高圧EGRガスの還流との両方を行う領域をMPL領域という。低負荷の運転状態においては、高圧EGR装置40のみを用いて高圧EGRガスの還流のみを行う。この高圧EGRガスの還流のみを行う領域をHPL領域という。
これにより、HPL領域では、応答性に優れる高圧EGRガスを還流させることで、EGR運転の応答性を確保している。また、LPL領域では、低温の低圧EGRガスを還流させて、EGRガスの温度が過剰に高温になることを抑制している。その結果、より広い運転状態で排気を還流するEGR運転を実現している。
【0020】
(MPL領域でのEGR制御)
MPL領域では、上記のように低圧EGR装置30及び高圧EGR装置40を併用している。ここで、MPL領域では、第1、第2圧力センサ13,14が検出する圧力の差、即ち低圧EGR装置30の入口と出口との前後差圧を用いて、還流している低圧EGRガスと高圧EGRガスとのEGRガス比率を算出している。そして、EGRガス比率が目標比率となるように低圧EGR弁32や高圧EGR弁42等を制御している。
内燃機関1に還流する両EGRガス中の低圧EGRガスが多すぎると、タービン6bの上流における排気の背圧が上昇し、内燃機関1のポンピングロスが増加することにより、燃費が悪化する弊害が生じてしまう。一方、両EGRガス中の低圧EGRガスが少なすぎると、高圧EGRガスの還流量が相対的に増加し、内燃機関1に流入する吸気の温度が上昇し、スモークやNOxの発生量が増加する弊害が生じてしまう。これらの弊害を回避するため、EGRガス比率を目標比率となるよう制御している。
【0021】
しかし、内燃機関1の運転状態が低負荷のときには、低圧EGR装置30内の圧力が低くなり過ぎるため、低圧EGR装置30の入口と出口との前後差圧を求める精度が低下し、正確なEGRガス比率を求めることができなくなってしまう。そうすると、EGRガスの制御にズレが生じ、排気エミッションが悪化する場合がある。また、両EGRガス中の低圧EGRガスの割合が増加する側にズレが生じると、酸化触媒通過ガス流量が増加し、酸化触媒11aのHC被毒が促進されてしまう場合もある。
【0022】
そこで、本実施例では、低圧EGR装置30の入口と出口との前後差圧が正確でなくなる場合に、酸化触媒通過ガス流量を算出し、当該酸化触媒通過ガス流量と目標流量との関係に応じて、両EGRガスの還流量を制御する。
具体的には、まず、MPL領域の場合に、第1、第2圧力センサ13,14の検出値から、低圧EGR装置30の入口と出口との前後差圧を取得する。
次に、取得された前後差圧が、当該差圧を求める精度が低下したか低下していないかの閾値となる所定差圧以下の場合に、クランクポジションセンサ16が検出する機関回転速度、アクセル開度センサ18から求まる内燃機関1の燃料噴射量、並びにエアフローメータ8が検出する新気流量と内燃機関1の燃料噴射量とから求まる排気流量から、排気中のHC量を推定し、第1排気温度センサ15が検出する酸化触媒11aの上流の排気温度及び推定したHC量から、酸化触媒11aの発熱量を推定し、推定した発熱量から酸化触媒11aの浄化率を推定し、酸化触媒11aの上流の排気温度及び推定した浄化率からSV
比を推定し、推定したSV比から酸化触媒通過ガス流量を算出する。
ここで、所定差圧とは、先に取得された前後差圧が、それ以下となると、当該差圧を求める精度が低下してしまう値であり、当該差圧を求める精度が低下したか当該差圧を求める精度が低下していないかの閾値である。
そして最終的に、算出された酸化触媒通過ガス流量と、目標流量との関係に応じて、低圧EGR装置30によって還流される低圧EGRガスの還流量と、高圧EGR装置40によって還流される高圧EGRガスの還流量とを制御する。
このときの制御としては、算出された酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも多い場合には、低圧EGR装置30によって還流される低圧EGRガスの還流量を減少させ、高圧EGR装置40によって還流される高圧EGRガスの還流量を増加させる。一方、算出された酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも少ない場合には、低圧EGR装置30によって還流される低圧EGRガスの還流量を増加させ、高圧EGR装置40によって還流される高圧EGRガスの還流量を減少させる。
【0023】
このような本実施例によると、酸化触媒通過ガス量を目標流量に調整できる。これにより、低圧EGRガスと高圧EGRガスとのEGRガス比率の精度が向上する。したがって、EGRガスの制御にズレが生じ難くなり、排気エミッションの悪化を抑制することができる。また、酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも多いために生じる酸化触媒のHC被毒も抑制できる。
【0024】
また、本実施例では、クランクポジションセンサ16が検出する機関回転速度、アクセル開度センサ18から求まる内燃機関1の燃料噴射量、並びにエアフローメータ8が検出する新気流量と内燃機関1の燃料噴射量とから求まる排気流量から、排気中のHC量を推定し、第1排気温度センサ15が検出する酸化触媒11aの上流の排気温度及び推定したHC量から、酸化触媒11aの発熱量を推定する。
これによると、新たなセンサ等の検出手段を設けることなく酸化触媒11aの発熱量を推定でき、コストアップを抑制できる。
【0025】
(酸化触媒通過ガス流量を用いたEGR制御ルーチン)
本実施例に係る酸化触媒通過ガス流量を用いたEGR制御ルーチンについて説明する。図3は本実施例に係る酸化触媒通過ガス流量を用いたEGR制御ルーチンを示したフローチャートである。本ルーチンは、ECU12によって、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0026】
S101では、内燃機関1の運転状態がMPL領域であるか否か判別する。
ここでの判別は、クランクポジションセンサ16が検出する機関回転速度とアクセル開度センサ18が検出する機関負荷とを予め実験などにより求めた図2に示すマップに取り込み、MPL領域であり、MPL領域での低圧EGR装置30及び高圧EGR装置40を併用したEGR制御が行われているか否かで判断する。
S101においてMPL領域であると肯定判定された場合には、S102へ移行する。S101においてMPL領域ではないと否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0027】
S102では、第1、第2圧力センサ13,14の検出値から、低圧EGR装置30の入口と出口との前後差圧を取得する。
S102のステップを実行するECU12が、本発明の前後差圧取得手段に対応する。
【0028】
S103では、S102で取得された前後差圧が、当該差圧が正確でなくなるか正確であるかの閾値となる所定差圧以下か否かを判別する。
S103において肯定判定された場合には、S104へ移行する。S103において否
定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0029】
S104では、クランクポジションセンサ16が検出する機関回転速度、アクセル開度センサ18から求まる内燃機関1の燃料噴射量、並びにエアフローメータ8が検出する新気流量と内燃機関1の燃料噴射量とから求まる排気流量から、排気中のHC量を推定する。
排気中のHC量は、機関回転速度、燃料噴射量、及び排気流量を、予め求めてあるマップに取り込むことで推定できる。
【0030】
S105では、第1排気温度センサ15が検出する酸化触媒11aの上流の排気温度及びS104で推定したHC量から、酸化触媒11aの発熱量を推定する。
酸化触媒11aの発熱量は、酸化触媒11aの上流の排気温度及び推定したHC量を、予め求めてあるマップに取り込むことで推定できる。
【0031】
S106では、推定した酸化触媒11aの発熱量から酸化触媒11aの浄化率を推定する。
酸化触媒11aの浄化率は、推定した酸化触媒11aの発熱量を、予め求めてあるマップに取り込むことで推定できる。
【0032】
S107では、第1排気温度センサ15が検出する酸化触媒11aの上流の排気温度及びS106で推定した浄化率からSV比を推定する。
ここで、SV比とは、酸化触媒通過ガス流量と酸化触媒容量との比であり、図4に示すように、酸化触媒11aの上流の排気温度及び酸化触媒11aの浄化率を、予め求めてあるマップに取り込むことで求めることができる。
【0033】
S108では、S107で推定したSV比から酸化触媒通過ガス流量を算出する。
「酸化触媒通過ガス流量」=「酸化触媒容量」×「SV比」の式より求めることができる。酸化触媒容量は、予め求めておくことができる。
S104〜S108のステップを実行するECU12が、本発明の酸化触媒通過ガス流量算出手段に対応する。
【0034】
S109では、酸化触媒通過ガス流量が目標流量に一致するか否かを判別する。目標流量は、内燃機関1の運転状態に応じて定められる。
S109において肯定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。S109において否定判定された場合には、S110へ移行する。
【0035】
S110では、酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも多いか否かを判別する。
S110において肯定判定された場合には、S111へ移行する。S110において否定判定された場合には、S112へ移行する。
【0036】
S111では、低圧EGRガスの還流量を減少させると共に、高圧EGRガスの還流量を増加させる。本ステップの処理の後、本ルーチンを一旦終了する。
還流量の増減は各種EGR弁を制御することや、上記した還流量を調整する制御により行うことができる。また、還流量の増減の程度は、目標流量との差が大きい程大きくする等すればよい。
【0037】
S112では、低圧EGRガスの還流量を増加させると共に、高圧EGRガスの還流量を減少させる。本ステップの処理の後、本ルーチンを一旦終了する。
【0038】
以上本ルーチンによると、低圧EGR装置30の入口と出口との前後差圧を求める精度
が低下した場合であっても、正確なEGRガス比率のEGRガスの制御を行うことができる。
【0039】
本発明に係る内燃機関の排気還流装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。
上述の実施例では、機関回転速度、内燃機関の燃料噴射量、及び排気流量から、排気中のHC量を推定し、酸化触媒11aの上流の排気温度及び推定したHC量から、酸化触媒11aの発熱量を推定していた。しかしこれに限られない。例えば、図5に示すように、酸化触媒11aの上流の排気温度を検出する第1排気温度センサ15の他に、酸化触媒11aの下流の排気温度を検出する第2排気温度センサ19を設け、酸化触媒11aの上流及び下流の排気温度から、酸化触媒11aの発熱量を推定するようにしてもよい。この場合には、図3のルーチンにおいて、S104及びS105のステップを、酸化触媒11aの上流及び下流の排気温度から、酸化触媒11aの発熱量を推定するステップに変更すればよい。この場合であると、精度よく容易に酸化触媒11aの発熱量を推定できる。
【符号の説明】
【0040】
1:内燃機関、2:気筒、3:燃料噴射弁、4:吸気通路、5:排気通路、6a:コンプレッサ、6b:タービン、7:第1スロットル弁、8:エアフローメータ、9:インタークーラ、10:第2スロットル弁、11:排気浄化装置、11a:酸化触媒、11b:フィルタ、12:ECU、13:第1圧力センサ、14:第2圧力センサ、15:第1排気温度センサ、16:クランクポジションセンサ、17:アクセルペダル、18:アクセル開度センサ、19:第2排気温度センサ、30:低圧EGR装置、31:低圧EGR通路、32:低圧EGR弁、33:低圧EGRクーラ、40:高圧EGR装置、41:高圧EGR通路、42:高圧EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されたタービン及び前記内燃機関の吸気通路に配置されたコンプレッサを有するターボチャージャと、
前記タービンより下流の前記排気通路に配置された酸化触媒と、
前記酸化触媒より下流の前記排気通路から排気の一部を低圧EGRガスとして取り込み、前記コンプレッサより上流の前記吸気通路へ当該低圧EGRガスを還流させる低圧EGR装置と、
前記タービンより上流の前記排気通路から排気の一部を高圧EGRガスとして取り込み、前記コンプレッサより下流の前記吸気通路へ当該高圧EGRガスを還流させる高圧EGR装置と、
前記低圧EGR装置及び前記高圧EGR装置を併用して低圧EGRガス及び高圧EGRガスの両方のEGRガスを還流させている場合に、前記低圧EGR装置の入口と出口との前後差圧を取得する前後差圧取得手段と、
前記前後差圧取得手段によって取得された前後差圧が、当該差圧を求める精度が低下したか低下していないかの閾値となる所定差圧以下の場合に、酸化触媒通過ガス流量を算出する酸化触媒通過ガス流量算出手段と、
前記酸化触媒通過ガス流量算出手段によって算出された酸化触媒通過ガス流量と、目標流量との関係に応じて、前記低圧EGR装置によって還流される低圧EGRガスの還流量と、前記高圧EGR装置によって還流される高圧EGRガスの還流量とを制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気還流装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記酸化触媒通過ガス流量算出手段によって算出された酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも多い場合には、前記低圧EGR装置によって還流される低圧EGRガスの還流量を減少させ、前記高圧EGR装置によって還流される高圧EGRガスの還流量を増加させ、
前記酸化触媒通過ガス流量が目標流量よりも少ない場合には、前記低圧EGR装置によって還流される低圧EGRガスの還流量を増加させ、前記高圧EGR装置によって還流される高圧EGRガスの還流量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気還流装置。
【請求項3】
前記酸化触媒通過ガス流量算出手段は、機関回転速度、前記内燃機関の燃料噴射量、及び排気流量から、排気中のHC量を推定し、前記酸化触媒の上流の排気温度及び推定したHC量から、前記酸化触媒の発熱量を推定し、推定した発熱量から前記酸化触媒の浄化率を推定し、前記酸化触媒の上流の排気温度及び推定した浄化率からSV比を推定し、推定したSV比から酸化触媒通過ガス流量を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の排気還流装置。
【請求項4】
前記酸化触媒通過ガス流量算出手段は、前記酸化触媒の上流及び下流の排気温度から、前記酸化触媒の発熱量を推定し、推定した発熱量から前記酸化触媒の浄化率を推定し、前記酸化触媒の上流の排気温度及び推定した浄化率からSV比を推定し、推定したSV比から酸化触媒通過ガス流量を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の排気還流装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179425(P2011−179425A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45349(P2010−45349)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】