説明

内燃機関の燃料噴射制御システム

【課題】本発明は、燃料タンクから燃料噴射弁へ至る燃料経路に配置される電動式の燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、当該システムの異常を検出することができる技術の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、電動式燃料ポンプの消費電流をパラメータとして、電動式燃料ポンプから吐出される燃料の圧力を演算するとともに、電動式燃料ポンプより下流の燃料経路における燃料の圧力を取得する取得し、それら2つの燃料圧力の差が閾値を超える場合に、当該システムに異常が発生していると判定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクから燃料を汲み上げるポンプ機構として、電動式の燃料ポンプが知られている。電動式の燃料ポンプを制御する方法として、燃料タンクに貯留された燃料を汲み上げる電動式の燃料ポンプと、バッテリから燃料ポンプへ供給される電圧を調整する燃料ポンプ駆動装置と、を備え、燃料ポンプ駆動装置は、燃料ポンプに対するバッテリ電圧の印加時間と停止時間との比を変更することにより、燃料ポンプから吐出される燃料量を調整する方法が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−014183号公報
【特許文献2】特開平09−184460号公報
【特許文献3】特開2010−077957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、燃料タンクから燃料噴射弁へ至る燃料経路に配置される電動式の燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、当該システムの異常を検出することができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記した課題を解決するために、燃料タンクから燃料噴射弁へ至る燃料経路に配置される電動式燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、
前記電動式燃料ポンプの消費電流を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された消費電流をパラメータとして、前記電動式燃料ポンプから吐出される燃料の圧力を演算する演算手段と、
前記電動式燃料ポンプより下流の燃料経路における燃料の圧力を取得する取得手段と、
前記演算手段により算出された燃料圧力と前記取得手段により取得された燃料圧力との差が閾値を超える場合に、当該システムに異常が発生していると判定する判定手段と、
を備えるようにした。
【0006】
ここでいう「異常」は、燃料噴射制御システムの故障による異常に加え、使用燃料の性状が想定された性状と異なることによる異常も含む。
【0007】
燃料ポンプより下流の燃料経路において詰まり等が発生した場合は、取得手段により取得される燃料圧力は、電動式燃料ポンプから吐出される燃料の圧力(吐出圧力)より低くなる。ここで、電動式燃料ポンプに流れる電流(消費電流)は、電動式燃料ポンプのトルク、言い換えると、電動式燃料ポンプから吐出される燃料の圧力に比例する。そのため、電動式燃料ポンプより下流の燃料経路において詰まり等が発生した場合は、演算手段により算出される燃料圧力は、取得手段により取得された燃料圧力より高くなる。言い換えると、電動式燃料ポンプの消費電流は、取得手段により取得された燃料圧力に対応する消費電流より多くなる。
【0008】
よって、演算手段により算出された燃料圧力と取得手段により取得された燃料圧力とを
比較することにより、燃料経路の詰まりに起因した異常を検出することができる。その際、前記閾値は、たとえば、燃料経路の詰まり度合いが内燃機関の燃焼安定性や排気エミッションを悪化させ得ると考えられる最小の値にマージンを加算した値に設定されてもよい。
【0009】
また、内燃機関の使用燃料が予め想定された燃料(以下、「基準燃料」と称する)より軽質な燃料である場合は、基準燃料が使用される場合に比べ、取得手段により取得される燃料圧力が低くなる。そのため、演算手段により算出される燃料圧力は、取得手段により取得される燃料圧力より高くなる。言い換えると、電動式燃料ポンプの消費電流は、取得手段により取得された燃料圧力に対応する消費電流より多くなる。
【0010】
一方、内燃機関の使用燃料が基準燃料より重質な燃料である場合は、基準燃料が使用される場合に比べ、取得手段により取得される燃料圧力が高くなる。そのため、演算手段により算出される燃料圧力は、取得手段により取得される燃料圧力より低くなる。言い換えると、電動式燃料ポンプの消費電流は、取得手段により取得された燃料圧力に対応する消費電流より少なくなる。
【0011】
よって、演算手段により算出された燃料圧力と取得手段により取得された燃料圧力とを比較することにより、使用燃料の性状が基準燃料と異なることに起因した異常を検出することもできる。その際、前記閾値は、たとえば、使用燃料の性状と基準燃料の性状との差が内燃機関の燃焼安定性や排気エミッションを悪化させ得ると考えられる最小の値にマージンを加算した値に設定されてもよい。
【0012】
なお、前記閾値は、燃料経路の詰まり度合いが内燃機関の炎症安定性や排気エミッションを悪化させ得る最小の値と、使用燃料の性状と基準燃料の性状との差が内燃機関の燃焼安定性や排気エミッションを悪化させ得ると考えられる最小の値とのうち、最も小さい値にマージンを加算した値に設定されてもよい。
【0013】
次に、本発明の内燃機関の燃料噴射制御システムは、電動式燃料ポンプの消費電流が目標値に一致するように、電動式燃料ポンプを駆動させる駆動手段をさらに備えるようにしてもよい。
【0014】
電動式燃料ポンプの印加電圧が一定である場合に燃料の流量が変化すると、電動式燃料ポンプから吐出される圧力が変化する。そのため、電動式燃料ポンプの印加電圧をパラメータとして燃料圧力を制御しようとすると、燃料の流量に応じて印加電圧を調整する必要がある。
【0015】
これに対し、電動式燃料ポンプの印加電流が一定である場合に燃料の流量が変化しても、電動式燃料ポンプから吐出される圧力は略一定になる。よって、電動式燃料ポンプの消費電流が目標値に収束するように電動式燃料ポンプが駆動されると、燃料圧力が目標値に収束し易くなる。
【0016】
本発明の内燃機関の燃料噴射制御システムは、電動式燃料ポンプより下流の燃料経路に配置され、電動式燃料ポンプから吐出された燃料を昇圧させる昇圧ポンプと、
前記昇圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力センサと、
前記昇圧ポンプの目標吐出圧力と前記圧力センサの検出値の偏差をパラメータとして演算される比例項及び積分項を用いて前記昇圧ポンプの駆動信号を演算する演算部と、
前記積分項の変化傾向に応じて電動式燃料ポンプの目標吐出圧力を低下させる低下処理手段と、
を備えるようにしてもよい。
【0017】
昇圧ポンプの目標吐出圧力と圧力センサの検出値(以下、「実吐出圧力」と称する)の偏差をパラメータとする比例積分制御を利用して昇圧ポンプの駆動信号が演算される場合であって、且つ、前記低圧燃料ポンプの吐出圧力が連続的又は段階的に低下される場合において、昇圧ポンプに吸引される燃料のベーパが発生すると、前記積分項が増加傾向を示す(前記積分項の単位時間あたりの変化量が零より大きくなる)。よって、前記積分項が一定又は減少傾向を示す場合(前記積分項の単位時間あたりの変化量が零以下になる場合)に前記低下処理が実行され、且つ前記積分項が増加傾向を示す場合(前記積分項の単位時間あたりの変化量が零より大きくなる場合)に前記上昇処理が実行されると、ベーパの発生を回避しつつ低圧燃料ポンプの吐出圧力を低下させることができる。
【0018】
本発明の内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、取得手段は、燃料圧力を測定する手段(たとえば、圧力センサ)であってもよく、或いは燃料温度等をパラメータとして燃料圧力を演算する手段であってもよい。
【0019】
なお、本発明の内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、燃料ポンプの消費電流を燃料圧力に換算し、その燃料圧力と燃料経路の燃料圧力とを比較することにより、異常の有無を判定しているが、取得手段により取得された燃料圧力を燃料ポンプの消費電流に換算し、その消費電流と燃料ポンプの実際の消費電流とを比較することにより、異常の有無を判定してもよい。
【0020】
詳細には、本発明は、燃料タンクから燃料噴射弁へ至る燃料経路に配置される電動式燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、
前記燃料ポンプの消費電流を検出する検出手段と、
前記燃料ポンプより下流の燃料経路における燃料の圧力を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された燃料圧力をパラメータとして、前記燃料ポンプの消費電流を演算する演算手段と、
前記検出手段により検出された消費電流と前記演算手段により算出された消費電流との差が閾値を超える場合に、当該システムに異常が発生していると判定する判定手段と、
を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、燃料ポンプの駆動電流を制御することにより燃料ポンプの吐出圧力を調整する内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、当該システムの異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用する内燃機関の燃料噴射系の概略構成を示す図である。
【図2】低圧燃料ポンプの吐出圧力を低下させたときの積分項の挙動および高圧燃料通路内の燃料圧力の挙動を示す図である。
【図3】駆動回路の概略構成を示す図である。
【図4】低圧燃料ポンプに印加される電圧が一定である場合の吐出圧力と燃料流量との関係を示す図である。
【図5】低圧燃料ポンプに印加される電流が一定である場合の吐出圧力と燃料流量との関係を示す図である。
【図6】燃料噴射制御システムの異常を検出する際に実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載
される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0024】
図1は、本発明に係わる内燃機関の燃料噴射制御システムの概略構成を示す図である。図1に示す燃料噴射制御システムは、直列4気筒の内燃機関に適用される燃料噴射制御システムであり、低圧燃料ポンプ1と、高圧燃料ポンプ2とを備えている。なお、内燃機関の気筒数は、4つに限られず、5つ以上であってもよく、或いは3つ以下であってもよい。
【0025】
低圧燃料ポンプ1は、本発明に係わる電動式燃料ポンプの一実施態様であり、燃料タンク3に貯留されている燃料を汲み上げるためのポンプである。低圧燃料ポンプ1は、電力により駆動されるタービン式ポンプ(ウェスコ式ポンプ)である。低圧燃料ポンプ1から吐出された燃料は、低圧燃料通路4によって高圧燃料ポンプ2の吸入口へ導かれるようになっている。
【0026】
高圧燃料ポンプ2は、本発明に係わる昇圧ポンプの一実施態様であり、低圧燃料ポンプ1から吐出された燃料を昇圧するためのポンプである。高圧燃料ポンプ2は、内燃機関の動力(たとえば、カムシャフトの回転力)により駆動される往復式のポンプ(プランジャー式ポンプ)である。高圧燃料ポンプ2の吸入口には、該吸入口の導通と閉塞とを切り換える吸入弁2aが設けられている。吸入弁2aは、電磁駆動式の弁機構であり、プランジャの位置に対する開閉タイミングを変更することによって高圧燃料ポンプ2の吐出量を変更する。また、高圧燃料ポンプ2の吐出口には、高圧燃料通路5の基端が接続されている。高圧燃料通路5の終端は、デリバリパイプ6に接続されている。
【0027】
デリバリパイプ6には、4つの燃料噴射弁7が接続されており、高圧燃料ポンプ2からデリバリパイプ6へ圧送された高圧の燃料が各燃料噴射弁7へ分配されるようになっている。燃料噴射弁7は、内燃機関の気筒内へ直接燃料を噴射する弁機構である。
【0028】
なお、上記した燃料噴射弁7のような筒内噴射用の燃料噴射弁に加え、吸気通路(吸気ポート)内へ燃料を噴射するためのポート噴射用の燃料噴射弁が内燃機関に取り付けられている場合は、低圧燃料通路4の途中から分岐してポート噴射用のデリバリパイプへ低圧の燃料が供給されるように構成されてもよい。
【0029】
上記した低圧燃料通路4の途中には、パルセーションダンパ11が配置されている。パルセーションダンパ11は、前記高圧燃料ポンプ2の動作(吸引動作と吐出動作)に起因する燃料の脈動を減衰するものである。また、上記した低圧燃料通路4の途中には、分岐通路8の基端が接続されている。分岐通路8の終端は、燃料タンク3に接続されている。分岐通路8の途中には、プレッシャーレギュレータ9が設けられている。プレッシャーレギュレータ9は、低圧燃料通路4内の圧力(燃料圧力)が所定値を超えたときに開弁することにより、低圧燃料通路4内の余剰の燃料が分岐通路8を介して燃料タンク3へ戻るように構成される。
【0030】
上記した高圧燃料通路5の途中には、チェック弁10が配置されている。チェック弁10は、前記高圧燃料ポンプ2の吐出口から前記デリバリパイプ6へ向かう流れを許容し、前記デリバリパイプ6から前記高圧燃料ポンプ2の吐出口へ向かう流れを規制するワンウェイバルブである。
【0031】
上記したデリバリパイプ6には、該デリバリパイプ6内の余剰の燃料を前記燃料タンク3へ戻すためのリターン通路12が接続されている。リターン通路12の途中には、該リターン通路12の導通と遮断とを切り換えるリリーフ弁13弁が配置されている。リリー
フ弁13は、電動式または電磁駆動式の弁機構であり、デリバリパイプ6内の燃料圧力が目標値を超えたときに開弁される。
【0032】
前記リターン通路12の途中には、連通路14の終端が接続されている。前記連通路14の基端は、前記高圧燃料ポンプ2に接続されている。この連通路14は、前記高圧燃料ポンプ2から排出される余剰燃料を前記リターン通路12へ導くための通路である。
【0033】
ここで、本実施例における燃料供給システムは、上記した各機器を電気的に制御するためのECU15を備えている。ECU15は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどを備えた電子制御ユニットである。ECU15は、燃圧センサ16、吸気温度センサ17、アクセルポジションセンサ18、クランクポジションセンサ19などの各種センサと電気的に接続されている。
【0034】
燃圧センサ16は、デリバリパイプ6内の燃料圧力(高圧燃料ポンプの吐出圧力)Phに相関した電気信号を出力するセンサである。吸気温度センサ17は、内燃機関に吸入される空気の温度に相関した電気信号を出力する。アクセルポジションセンサ18は、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)に相関した電気信号を出力する。クランクポジションセンサ19は、内燃機関の出力軸(クランクシャフト)の回転位置に相関した電気信号を出力するセンサである。
【0035】
ECU15は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、低圧燃料ポンプ1や吸入弁2aを制御する。たとえば、ECU15は、燃圧センサ16の出力信号(実吐出圧力)Phが目標吐出圧力Phtrgに収束するように、吸入弁2aの開閉タイミングを調整する。その際、ECU15は、実吐出圧力Phと目標吐出圧力Phtrgとの差ΔPh(=Phtrg−Ph)に基づいて、吸入弁2aの制御量である駆動デューティ(ソレノイドの通電時間と非通電時間との比)Dhをフィードバック制御する。具体的には、ECU15は、吸入弁2aの駆動デューティDhに対し、前記差ΔPhに基づく比例積分制御(PI制御)を行う。なお、前記目標吐出圧力Phtrgは、燃料噴射弁7の目標燃料噴射量に応じて定められる値である。
【0036】
上記した比例積分制御において、ECU15は、目標燃料噴射量に応じて定まる制御量(フィードフォワード項)Tffと、実吐出圧力Phと目標吐出圧力Phtrgとの差ΔPhの大きさに応じて定める制御量(比例項)Tpと、前記差ΔPhの一部(たとえば、比例制御の残留偏差)を積算した制御量(積分項)Tiと、を加算することにより、駆動デューティDhを算出する。
【0037】
なお、前記目標燃料噴射量とフィードフォワード項Tffとの関係、および、前記差ΔPhと比例項Tpとの関係は、予め実験などを利用した適合作業によって定められるものとする。また、前記差ΔPhのうち、積分項Tiに加算される量の割合についても、予め実験などを利用した適合作業によって定められるものとする。
【0038】
また、ECU15は、低圧燃料ポンプ1の消費電力を可及的に低減するために、低圧燃料ポンプ1の吐出圧力(フィード圧)Peを低下させる処理を実行する。具体的には、ECU15は、以下の式(1)にしたがって、低圧燃料ポンプ1の駆動信号Dlを演算する。なお、ここでいう駆動信号Dlは、低圧燃料ポンプ1の吐出圧力Peに比例する電流値である。
Dl=D1old+ΔTi*F−Cdwn・・・(1)
式(1)中のD1oldは、駆動信号Dlの前回の計算値である。式(1)中のΔTiは、前記比例積分制御に用いられる積分項Tiの変化量ΔTi(たとえば、駆動デューティDhの前回の演算に用いられた積分項Tioldと今回の演算に用いられた積分項Ti
との差(Ti−Tiold))である。式(1)中のFは、補正係数である。なお、補正係数Fとしては、積分項Tiの変化量ΔTiが正値であるときは1以上の増加係数Fiが使用され、積分項Tiの変化量ΔTiが負値であるときは1未満の減少係数Fdが使用される。また、式(1)中のCdwnは、低下定数である。
【0039】
上記した式(1)にしたがって低圧燃料ポンプ1の駆動信号Dlが決定されると、前記積分項Tiが増加傾向を示すとき(ΔTi>0)は低圧燃料ポンプ1の駆動信号Dlが増加(吐出圧力Peが上昇)し、前記積分項Tiが減少傾向又は一定値を示すとき(ΔTi≦0)は低圧燃料ポンプ1の駆動信号Dlが減少(吐出圧力Peが低下)することになる。
【0040】
ここで、前記積分項Tiは、低圧燃料通路4にベーパが発生したとき、言い換えると、低圧燃料通路4内の燃料圧力が燃料の飽和蒸気圧を下回ったときに、増加傾向を示す。ここで、低圧燃料ポンプ1の吐出圧力(フィード圧)Peを連続的に低下させた場合における積分項Tiと高圧燃料通路5内の燃料圧力(高圧燃料ポンプ2の実吐出圧力)Phの挙動を図2に示す。
【0041】
図2において、フィード圧Peが飽和蒸気圧を下回ると(図2中のt1)、積分項Tiが穏やかな増加傾向を示す。その後、フィード圧Peがさらに低下されると、高圧燃料ポンプ2の吸引不良または吐出不良が発生する(図2中のt2)。高圧燃料ポンプ2の吸引不良または吐出量が発生すると、積分項Tiの増加速度が大きくなるとともに、高圧燃料通路5内の燃料圧力Phが低下する。
【0042】
よって、上記した式(1)により低圧燃料ポンプ1の駆動信号Dlが決定されると、前記積分項Tiが増加傾向を示すとき(ΔTi>0)は低圧燃料ポンプ1の吐出圧力Peが上昇し、前記積分項Tiが一定又は減少傾向を示すとき(ΔTi≦0)は低圧燃料ポンプ1の吐出圧力Peが低下するため、ベーパの発生に起因した高圧燃料ポンプ2の吸引不良や吐出不良を抑制しつつ、低圧燃料ポンプの吐出圧力Peを低下させることができる。
【0043】
ここで、本実施例の低圧燃料ポンプ1は、ECU14から出力される駆動信号Dl(電流値)に従って低圧燃料ポンプ1を駆動するための駆動回路100を備えている。駆動回路100は、図3に示すように、2つのオペアンプ101,102と、トランジスタ103と、2つの抵抗104,105を備えている。
【0044】
オペアンプ101は、ECU15から出力される駆動信号Dl(電流値)と低圧燃料ポンプ1に流れる電流値との差分を増幅して出力する。オペアンプ102は、ECU15から出力される駆動信号Dlとオペアンプ101から出力される差分との差分を増幅して出力する。トランジスタ103は、オペアンプ102の出力に応じて、低圧燃料ポンプ1に対するバッテリ電圧Bの印加と非印加とを切り換える。なお、抵抗104は、低圧燃料ポンプ1にバッテリ電圧Bを印加するための抵抗である。また、抵抗105は、低圧燃料ポンプ1に流れる電流値を検知するための抵抗であり、本発明に係わる検出手段に相当する。
【0045】
このように構成された駆動回路100によれば、低圧燃料ポンプ1に印加されるバッテリ電圧Bは、低圧燃料ポンプ1に実際に流れる電流値(消費電流値)が駆動信号Dlに一致するようにデューティ制御されることになる。なお、駆動回路100は、本発明に係わる駆動手段に相当する。
【0046】
ここで、低圧燃料ポンプ1の印加電圧が一定であるときに燃料の流量が変化すると、図4に示すように、低圧燃料ポンプ1から吐出される燃料の圧力(吐出圧力)が変化する。
一方、低圧燃料ポンプ1に流れる電流(消費電流)が一定であるときは、図5に示すように、燃料の流量が変化しても、低圧燃料ポンプ1の吐出圧力が殆ど変化しない。これは、低圧燃料ポンプ1の消費電流値は、該低圧燃料ポンプ1のトルク、言い換えれば、該低圧燃料ポンプ1の吐出圧力に比例するからである。
【0047】
したがって、図3に示したような駆動回路100によって低圧燃料ポンプ1の印加電圧が制御されると、燃料の流量にかかわらず、低圧燃料ポンプ1の吐出圧力を所望の吐出圧力に収束させることが可能になる。
【0048】
ところで、低圧燃料通路4に詰まりが発生する場合がある。特に、低圧燃料通路4にフィルタが配置される場合は、フィルタの目詰まりが発生する可能性がある。そのような場合には、高圧燃料ポンプ2の直上流における低圧燃料通路4内の燃料圧力が低圧燃料ポンプ1の消費電流値に見合った圧力より低くなる可能性がある。その結果、燃料のベーパが発生したり、高圧燃料ポンプ2の吸引不良が発生したりする可能性がある。
【0049】
また、予め想定された性状の燃料(基準燃料)と懸け離れた性状の燃料が燃料タンク3に給油された場合は、高圧燃料ポンプ2の直上流における低圧燃料通路4内の燃料圧力と低圧燃料ポンプ1の消費電流値に見合った吐出圧力とが乖離する可能性がある。
【0050】
たとえば、燃料タンク3内に給油された燃料(使用燃料)が基準燃料より軽質な性状を有する場合は、基準燃料が使用される場合に比べ、高圧燃料ポンプ2の直上流における燃料圧力が低くなる。その場合、高圧燃料ポンプ2の直上流における燃料圧力は、低圧燃料ポンプ1の消費電流値に見合った吐出圧力より低くなる。その結果、燃料のベーパが発生したり、高圧燃料ポンプ2の吸引不良が発生したりする可能性がある。
【0051】
一方、燃料タンク3内に給油された燃料(使用燃料)が基準燃料より重質な性状を有する場合は、基準燃料が使用される場合に比べ、高圧燃料ポンプ2の直上流における燃料圧力が高くなる。その場合、高圧燃料ポンプ2の直上流における燃料圧力は、低圧燃料ポンプ1の消費電流値に見合った吐出圧力より高くなる。その結果、低圧燃料ポンプ1の消費電力が不要に増加する可能性がある。
【0052】
そこで、本実施例の内燃機関の燃料噴射制御システムは、駆動回路100の抵抗105により検知される電流値(低圧燃料ポンプ1の消費電流値)を利用して、当該燃料噴射制御システムの異常を検出するようにした。なお、ここでいう異常は、低圧燃料通路4の詰まりや低圧燃料ポンプの劣化などに起因した異常に加え、燃料性状に起因した異常も含む。
【0053】
以下、本実施例における異常検出方法について図6に沿って説明する。図6は、燃料噴射制御システムの異常を検出する際にECU15が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。この処理ルーチンは、予めECU15のROMなどに記憶されており、ECU15によって周期的に実行される。
【0054】
図6の処理ルーチンでは、ECU15は、先ずS101において低圧燃料ポンプの消費電流値を読み込む。詳細には、ECU15は、駆動回路100の抵抗105を流れる電流値(消費電流値)Iを読み込む。
【0055】
S102では、ECU15は、前記S101で読み込まれた消費電流値Iを低圧燃料ポンプ1の吐出圧力Peに換算する。その際、消費電流値Iと吐出圧力Peとの関係は、予め実験などを利用した適合処理によって求めておき、マップ又は関数式としてECU15のROMに記憶させておくものとする。なお、ECU15がS102の処理を実行するこ
とにより、本発明に係わる演算手段が実現される。
【0056】
S103では、ECU15は、高圧燃料ポンプ2の直上流の低圧燃料通路4における燃料圧力Pfを取得する。その際、高圧燃料ポンプ2の直上流の低圧燃料通路4に圧力センサを配置し、その圧力センサの測定値をECU15が読み込むようにしてもよい。また、ECU15は、高圧燃料ポンプ2の直上流の低圧燃料通路4における燃料温度をパラメータとして、燃料圧力Pfを演算してもよい。高圧燃料ポンプ2の直上流の低圧燃料通路4における燃料温度と燃料圧力Pfとの関係は、予め実験などを利用した適合処理によって求めておき、マップ又は関数式としてECU15のROMに記憶させておくものとする。また、高圧燃料ポンプ2の直上流の低圧燃料通路4における燃料温度は、温度センサにより直接測定してもよく、或いは吸気温度センサ17の測定値を代用してもよい。なお、ECU15がS103の処理を実行することにより、本発明に係わる取得手段が実現される。
【0057】
S104では、ECU15は、前記S102で算出された吐出圧力Peと前記S103で算出された燃料圧力Pfとの差ΔPを演算する。続いて、ECU15は、S105へ進み、前記S104で算出された差ΔPの絶対値が閾値Pthreより大きいか否かを判別する。ここでいう閾値Pthreは、低圧燃料通路4の詰まりが内燃機関の運転状態に影響を与え得る最小の差ΔP1と、低圧燃料ポンプ1の消費電流値が許容範囲を超えると考えられる最小の差ΔP2と、使用燃料の性状と基準燃料の性状との差が内燃機関の燃焼安定性や排気エミッションを悪化させ得ると考えられる最小の差ΔP3とのうち、最も小さい値にマージンを加算した値に設定される。
【0058】
前記S105において肯定判定された場合は、ECU15は、S106ヘ進み、異常が発生していると判定する。その場合、ECU15は、車両の室内に設けられた警告灯などを点灯させることにより、運転者に修理を促すようにしてもよい。一方、前記S105において否定判定された場合は、ECU15は、S107ヘ進み、異常が発生していない(正常)と判定する。
【0059】
以上述べた処理ルーチンによれば、低圧燃料通路4の詰まりや燃料性状の変化による異常を検出することができる。
【0060】
なお、本実施例においては、低圧燃料通路4の詰まりに起因した異常と燃料性状による異常とを識別していないが、低圧燃料通路4にフィルタが配置されている場合に、前記差ΔPが閾値Pthreを超えると、フィルタが目詰まりを起こしていると判定するようにしてもよい。これに対し、低圧燃料通路4にフィルタが配置されていない場合に、前記差ΔPが閾値Pthreを超えると、使用燃料の性状が基準燃料より軽質又は重質であると判定し、燃料噴射量を補正するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 低圧燃料ポンプ
2 高圧燃料ポンプ
2a 吸入弁
3 燃料タンク
4 低圧燃料通路
5 高圧燃料通路
6 デリバリパイプ
7 燃料噴射弁
8 分岐通路
9 プレッシャーレギュレータ
10 チェック弁
11 パルセーションダンパ
12 リターン通路
13 リリーフ弁
14 連通路
15 ECU
16 燃圧センサ
100 駆動回路
101 オペアンプ
102 オペアンプ
103 トランジスタ
104 抵抗
105 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから燃料噴射弁へ至る燃料経路に配置される電動式燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、
前記電動式燃料ポンプの消費電流を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された消費電流をパラメータとして、前記電動式燃料ポンプから吐出される燃料の圧力を演算する演算手段と、
前記電動式燃料ポンプより下流の燃料経路における燃料の圧力を取得する取得手段と、
前記演算手段により算出された燃料圧力と前記取得手段により取得された燃料圧力との差が閾値を超える場合に、当該システムに異常が発生していると判定する判定手段と、
を備える内燃機関の燃料噴射制御システム。
【請求項2】
請求項1において、前記電動式燃料ポンプの消費電流が目標値に一致するように、該電動式燃料ポンプを駆動させる駆動手段をさらに備える内燃機関の燃料噴射制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記取得手段は、燃料温度をパラメータとして燃料圧力を演算する内燃機関の燃料噴射制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項において、前記電動式燃料ポンプより下流の燃料経路に配置され、前記電動式燃料ポンプから吐出された燃料を昇圧させる昇圧ポンプと、
前記昇圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力センサと、
前記昇圧ポンプの目標吐出圧力と前記圧力センサの検出値の偏差をパラメータとして演算される比例項及び積分項を用いて前記昇圧ポンプの駆動信号を演算する演算部と、
前記積分項の変化傾向に応じて電動式燃料ポンプの目標吐出圧力を低下させる低下処理手段と、
を更に備える内燃機関の燃料噴射制御システム。
【請求項5】
燃料タンクから燃料噴射弁へ至る燃料経路に配置される電動式燃料ポンプを備えた内燃機関の燃料噴射制御システムにおいて、
前記燃料ポンプの消費電流を検出する検出手段と、
前記燃料ポンプより下流の燃料経路における燃料の圧力を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された燃料圧力をパラメータとして、前記燃料ポンプの消費電流を演算する演算手段と、
前記検出手段により検出された消費電流と前記演算手段により算出された消費電流との差が閾値を超える場合に、当該システムに異常が発生していると判定する判定手段と、
を備える内燃機関の燃料噴射制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96366(P2013−96366A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242359(P2011−242359)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】