説明

内燃機関の自動停止制御装置

【課題】減速時シフトダウン操作中に、ドライバの意思に反してアイドルストップ制御によりエンジン10が自動停止すること。
【解決手段】クラッチペダル26の踏み込み操作が開始されてから、シフト位置が駆動状態から非駆動状態へと操作されるまでの操作を第1の操作とする。第1の操作が完了してから、シフト位置が非駆動状態から上記駆動状態よりも変速比の大きい駆動状態へと操作されるまでの操作を第2の操作とする。第2の操作が完了してから、クラッチが伝達状態とされるまでの操作を第3の操作とする。エンジン10の自動停止処理は、クラッチが遮断状態にされたこと及びブレーキ操作がされることを条件に行われる。但し、第1の操作が第1のシフトダウン判定時間T1内に完了する場合、また第2の操作が第2のシフトダウン判定時間内に完了する場合、更には第3の操作が第3のシフトダウン判定時間T3内に完了する場合、上記自動停止処理を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の出力軸の回転力をクラッチ及び手動変速装置を介して駆動輪へと伝達させる車両に適用される内燃機関の自動停止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1、2に見られるように、内燃機関のアイドル運転中に所定の停止条件が成立すると内燃機関を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立すると内燃機関を再始動させる、いわゆるアイドルストップ制御が知られている。アイドルストップ制御によれば、内燃機関の燃費低減効果を得ることができる。
【0003】
ここで、手動変速装置(マニュアルトランスミッション)を備える車両においては、内燃機関のアイドル運転中にドライバによってブレーキペダルの踏み込み操作がなされるとともに、クラッチペダルの踏み込み操作がなされることをアイドルストップ制御の上記停止条件とするものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−041070号公報
【特許文献2】特開2003−035174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記車両においては、ブレーキ操作による車両の減速中に手動変速装置の変速比を低速走行に見合ったものとすべく、手動変速装置のシフトダウン操作(減速時シフトダウン操作)が行われることがある。減速時シフトダウン操作としては通常、まず、ブレーキペダルの踏み込み操作が行われるとともに、クラッチペダルの踏み込み操作が行われる。次に、手動変速装置のシフト位置が駆動状態(例えば3速)から非駆動状態(ニュートラル)へと操作され、その後再び駆動状態(例えば2速)へと操作される。そして、ブレーキペダル及びクラッチペダルの踏み込み操作が解除されるとともに、アクセルペダルの踏み込み操作が行われる。
【0006】
ただし、上記減速時シフトダウン操作は、アイドルストップ制御の上記停止条件としてのブレーキペダル及びクラッチペダルの踏み込み操作と同様の操作となり得る。この場合、ドライバが減速時シフトダウン操作を行おうとしているにもかかわらず上記停止条件が成立することで、ドライバの意思に反してアイドルストップ制御により内燃機関が自動停止し、ドライブフィーリングを低下させる等、ドライバに違和感を与えるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ドライバの意思に反する内燃機関の自動停止を好適に抑制しつつも、内燃機関の燃費低減効果の低下を抑制することのできる内燃機関の自動停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明は、内燃機関の出力軸の回転力をクラッチ及び手動変速装置を介して駆動輪へと伝達させる車両に適用され、前記クラッチの操作により前記回転力の伝達が遮断されたこと及び前記車両のブレーキ操作がなされたことを条件に、前記内燃機関を自動停止させる内燃機関の自動停止制御装置において、前記手動変速装置の操作状態を入力として、ドライバのシフトダウン操作の意思の有無を予測する予測手段と、前記予測手段により前記意思が無いと予測されるまで前記自動停止を禁止する自動停止禁止手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
内燃機関の自動停止条件を上記クラッチ操作及びブレーキ操作についての条件に基づき定める自動停止制御装置を備えるものにあっては、ブレーキ操作による車両の減速時において手動変速装置のシフトダウン操作(減速時シフトダウン操作)が行われることで、ドライバの意思に反して内燃機関が自動停止し、ドライバに違和感を与えるおそれがある。この点、上記発明では、予測手段を備えることで、減速時シフトダウン操作がなされないことを実際に検出する場合と比較して、速やかに内燃機関の自動停止処理を行うことができる。これにより、ドライバの意思に反する内燃機関の自動停止を好適に抑制しつつも、内燃機関の燃費低減効果の低下を抑制することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態及び前記クラッチの操作状態を入力として、前記回転力の伝達が遮断される側に前記クラッチの操作が開始されたと判断されてから前記手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間に基づき、前記意思の有無を予測することを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、減速時シフトダウン操作を行うための一連のクラッチ及び手動変速装置の操作のうち、内燃機関の出力軸の回転力の伝達が遮断する側にクラッチの操作が開始されてから、手動変速装置が駆動状態(上記回転力を駆動輪へと伝達可能な状態)から非駆動状態(上記回転力を駆動輪へと伝達不可能な状態)へと操作されるまでの時間(第1の時間)に着目した。そして、第1の時間が、ドライバの減速時シフトダウン操作を行う意思を定量化するためのパラメータとなることを見出した。これは、通常、ドライバにこの操作を行う意思がある場合、上記第1の時間がある長さの範囲となる傾向があることに基づくものである。上記発明では、この点に鑑み、上記第1の時間に基づきドライバの減速時シフトダウン操作の意思の有無を予測することができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間が、0.2〜0.7秒で設定される第1の閾値以下であると判断された場合、前記意思があると予測することを特徴とする。
【0014】
上記発明では、減速時シフトダウン操作を行う場合における上記第1の時間の計測結果に基づき設定された上記第1の閾値を用いることで、減速時シフトダウン操作を行うか否かのドライバの意思を適切に把握することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態が1速であると判断された場合、前記意思が無いと予測することを特徴とする。
【0016】
手動変速装置の操作状態が1速である場合、ドライバにより減速時シフトダウン操作は行われない。上記発明では、この点に鑑み、上記操作状態が1速であると判断された場合、ドライバに停車意思があるものと捉え、速やかに内燃機関の自動停止処理を行う。これにより、内燃機関の燃費低減効果の低下をより好適に抑制することができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態を入力として、前記手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されたと判断されてから、同手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間に基づき、前記意思の有無を予測することを特徴とする。
【0018】
本発明者らは、減速時シフトダウン操作を行うための一連のクラッチ及び手動変速装置の操作のうち、手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されてから、同手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されるまでの時間(第2の時間)に着目した。そして、第2の時間が、ドライバの減速時シフトダウン操作を行う意思を定量化するためのパラメータとなることを見出した。これは、通常、ドライバにこの操作を行う意思がある場合、上記第2の時間がある長さの範囲となる傾向があることに基づくものである。上記発明では、この点に鑑み、上記第2の時間に基づきドライバの減速時シフトダウン操作の意思の有無を予測することができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置が非駆動状態とされる状況下、前記内燃機関の出力軸から前記手動変速装置へと前記回転力が伝達される側に前記クラッチが操作されたと判断された場合、前記意思が無いと予測することを特徴とする。
【0020】
減速時シフトダウン操作を行うための一連のクラッチ及び手動変速装置の操作のうち、手動変速装置を非駆動状態から駆動状態へと操作するためには、ドライバのクラッチ操作により内燃機関の出力軸と手動変速装置との間の回転力の伝達が遮断されていることが要求される。ここで、上記発明では、手動変速装置が非駆動状態とされる状況下、上記回転力が伝達される側にクラッチが操作されたと判断された場合、ドライバの減速時シフトダウン操作の意思が無いものと捉え、内燃機関を極力速やかに自動停止させる。これにより、燃費低減効果の低下を抑制することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項5又は6記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間が、0.2〜0.7秒で設定される第2の閾値以下であると判断された場合、前記意思があると予測することを特徴とする。
【0022】
上記発明では、減速時シフトダウン操作を行う場合における上記第2の時間の計測結果に基づき設定された上記第2の閾値を用いることで、減速時シフトダウン操作を行うか否かのドライバの意思を適切に把握することができる。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態及び前記クラッチの操作状態を入力として、前記手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されたと判断されてから、前記内燃機関の出力軸から前記手動変速装置へと前記回転力が伝達される側に前記クラッチが操作されたと判断されるまでの時間に基づき、前記意思の有無を予測することを特徴とする。
【0024】
本発明者らは、減速時シフトダウン操作を行うための一連のクラッチ及び手動変速装置の操作のうち、手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されてから、内燃機関の出力軸から手動変速装置へと上記回転力が伝達されるまでの時間(第3の時間)に着目した。そして、第3の時間が、ドライバの減速時シフトダウン操作を行う意思を定量化するためのパラメータとなることを見出した。これは、通常、ドライバにこの操作を行う意思がある場合、上記第3の時間がある長さの範囲となる傾向があることに基づくものである。上記発明では、この点に鑑み、上記第3の時間に基づきドライバの減速時シフトダウン操作の意思の有無を予測することができる。
【0025】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記予測手段は、前記内燃機関の出力軸から前記手動変速装置へと前記回転力が伝達される側に前記クラッチが操作されたと判断されるまでの時間が、0.4〜0.9秒で設定される第3の閾値以下であると判断された場合、前記意思があると予測することを特徴とする。
【0026】
上記発明では、減速時シフトダウン操作を行う場合における上記第3の時間の計測結果に基づき設定された上記第3の閾値を用いることで、減速時シフトダウン操作を行うか否かのドライバの意思を適切に把握することができる。
【0027】
請求項10記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記自動停止のための条件には、前記車両の走行速度が0よりも高い所定速度を下回ることが含まれることを特徴とする。
【0028】
上記発明では、車両の走行速度が0よりも高い所定速度を下回ることを条件に内燃機関を自動停止させることで、内燃機関の燃費低減効果の更なる向上を図っている。ただし、減速時シフトダウン操作は、例えばブレーキ操作による車両の減速中に手動変速装置の変速比を低速走行に見合ったものとすべく車両が停車する以前に行われ、この操作によって上記自動停止条件が成立しやすく、ドライバの意思に反する内燃機関の自動停止が生じやすい。このため、上記発明は、上記予測手段及び上記自動停止禁止手段を備えるメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一実施形態にかかるシステムの全体構成を示す図。
【図2】従来技術にかかるアイドルストップ制御処理の計測結果を示すタイムチャート。
【図3】一実施形態にかかるシフトダウン判定時間を示すタイムチャート。
【図4】一実施形態にかかるシフトダウン操作時間の計測結果を示す図。
【図5】一実施形態にかかるアイドルストップ制御処理の手順を示すフローチャート。
【図6】一実施形態にかかるアイドルストップ制御処理の計測結果を示すタイムチャート。
【図7】一実施形態にかかる燃費低減効果への影響の確認結果を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明にかかる内燃機関の自動停止制御装置をガソリンエンジン及び手動変速装置を搭載した車両(自動車)に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1に本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0032】
図示されるエンジン10は、火花点火式内燃機関である。本実施形態では、エンジン10として、多気筒ガソリンエンジンを想定している。エンジン10の各気筒には、エンジン10の燃焼室に燃料を噴射供給するための燃料噴射弁12と、噴射供給された燃料と吸気との混合気を燃焼させるための放電火花を発生させる点火プラグ14とが備えられている。燃料の燃焼によって発生するエネルギは、エンジン10の出力軸(クランク軸16)の回転力として取り出される。
【0033】
クランク軸16には、スタータ18が接続されている。スタータ18は、図示しないイグニッションスイッチのオンにより始動し、エンジン10を始動させるべくクランク軸16に初期回転を付与する(クランキングを行う)。
【0034】
クランク軸16の回転力は、クラッチ装置20を介して手動変速装置(MT22)へと伝達される。クラッチ装置20は、クランク軸16に接続された円板20a(フライホイール等)と、MT22の入力軸24に接続された円板20b(クラッチディスク等)とを備えて構成されている。これら円板20a,20b同士は、ドライバによるクラッチペダル26の踏み込み操作に応じて接触及び離間のいずれかの状態に切り替えられる。本実施形態では、クラッチペダル26が完全に踏み込まれた状態でのペダルの踏み込み量(クラッチストローク)を100%とし、クラッチペダル26の踏み込み操作が解除された状態でのクラッチストロークを0%とする。クラッチストロークが所定量(例えば50%、ミートポイント)よりも大きくなると、これら円板20a,20bが互いに離れることで、クランク軸16からMT22へのクランク軸16の回転力の伝達が遮断される(クラッチ遮断状態)。一方、クラッチストロークが上記所定量以下となると、これら円板20a,20bが互いに接触することで、クランク軸16からMT22へと上記回転力が伝達される(クラッチ伝達状態)。
【0035】
MT22は、シフト装置28のシフト位置がドライバにより手動操作されることで、変速比が操作される有段手動変速装置であり、複数段の前進ギア(1〜5速)や、ニュートラルギア(N)等を備えて構成されている。MT22では、入力軸24の回転速度が変速比に従った回転速度に変換される。また、MT22は、シフト位置が1〜5速(駆動状態)に操作されることで、MT22の図示しない出力軸やデファレンシャルギア、ドライブシャフト30等を介してクランク軸16の回転力を駆動輪32へと伝達可能な状態とする。一方、シフト位置がニュートラル(非駆動状態)に操作されることで、上記回転力を駆動輪へと伝達不可能な状態とする。なお、駆動輪32近傍には、ブレーキペダル34の踏み込み量に応じて駆動輪32に対して制動力を付与する図示しないブレーキアクチュエータが設けられている。
【0036】
ブレーキペダル34には、このペダルの踏み込みに応じて、オン状態(ブレーキ操作されている)又はオフ状態(ブレーキ操作されていない)に切り替わるブレーキセンサ36が設けられている。そして、クラッチペダル26には、クラッチストロークを検出するクラッチセンサ38が設けられている。また、アクセルペダル40には、このペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ42が設けられている。これらの各種センサや、クランク軸16の回転角度を検出すべくクランク軸16近傍に設けられるクランク角度センサ44、車両の走行速度を検出すべくMT22の出力軸近傍に設けられる車速センサ46、更にはシフト装置28のシフト位置を検出するシフト位置センサ48等の出力信号は、電子制御装置(以下、ECU50)に入力される。
【0037】
ECU50は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU50は、上記各センサからの入力信号に基づき、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁12による燃料噴射制御や、点火プラグ14による点火制御、スタータ18による駆動制御等を行う。
【0038】
特にECU50は、エンジン10のアイドルストップ制御を行う。アイドルストップ制御は、エンジン10の運転中に所定の停止条件が成立することを入力としてエンジン10を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立することを入力としてエンジン10を再始動させるものである。これにより、エンジン10の燃費低減効果を得ることが可能となる。ここで、上記停止条件や再始動条件は、ドライバの停車意思や車両を発進させる意思を把握可能なように、ブレーキペダル34やクラッチペダル26等の操作状態に基づき設定される。本実施形態では、エンジン10の停止条件を、触媒が暖機されているとの条件に加えて、以下の(ア)〜(ウ)の論理積条件とする。
【0039】
(ア)ブレーキ操作がなされているとの条件:ドライバに停車意思がある場合、ブレーキペダルの踏み込み操作がなされる。このため、条件(ア)を、エンジン10の停止条件として用いることができる。ここで、ブレーキ操作がなされているか否かは、ブレーキセンサ36の出力値に基づき判断すればよい。
【0040】
(イ)クラッチが遮断状態にされたとの条件:通常、停車に際しては、クラッチが遮断状態とされる。このため、条件(イ)を、ドライバの停車意思の有無を把握するための条件として用いることができ、エンジン10の停止条件とすることができる。ここで、クラッチが遮断状態にされたか否かは、クラッチセンサ38の出力値に基づき判断すればよい。なお、本実施形態では、クラッチストロークが80%以上であると判断された場合、クラッチが遮断状態にされたと判断する。この設定は、後述する再始動のための条件(オ)におけるクラッチストロークよりも小さくするとの制約の下で、クラッチが確実に遮断された状態を上記停止条件とすべく、上記停止条件のクラッチストロークをミートポイントよりも極力大きくした結果である。
【0041】
(ウ)車両の走行速度が0よりも高い所定速度を下回るとの条件:この条件は、アイドルストップ制御による燃費低減効果の更なる向上を図るために設定される条件である。つまり、上記所定速度を0よりも高い速度(20km/h)とすることで停車する以前にもエンジン10を自動停止させ、上記所定速度を0(又は略0)とする場合と比較して、エンジン10の自動停止を行う運転領域を拡大させることが可能となる。これにより、燃費低減効果を向上させることが可能となる。なお、車両の走行速度が所定速度を下回るか否かは、車速センサ46の出力値に基づき判断すればよい。また、上記所定速度は、エンジン10を自動停止させる際に、図示しない制動倍力装置の負圧室内のブレーキ負圧が確保でき、ブレーキ操作による制動トルクを十分に確保できること等を条件に設定すればよい。
【0042】
一方、エンジン10の再始動条件を、以下の(エ)及び(オ)の論理積条件とする。
【0043】
(エ)シフト位置が駆動状態(1〜5速)であるとの条件:車両を発進させるためには、シフト位置が駆動状態となっていることが要求される。このため、条件(エ)を、ドライバの車両を発進させる意思の有無を把握するための条件として用いることができ、エンジン10の再始動条件とすることができる。ここで、シフト位置が駆動状態であるか否かは、シフト位置センサ48の出力値に基づき判断すればよい。
【0044】
(オ)クラッチが遮断状態にされて且つクラッチストロークが所定量(100%)を下回るとの条件:車両を発進させるに先立ち通常、シフト位置が駆動状態へと操作された後、クラッチを伝達状態とすべくクラッチストロークが小さくなる方向にクラッチペダル26が操作される。ここで、所定量の設定は、スタータ18が始動してからクラッチが伝達状態となるまでの時間を長くし、スタータ18の回転力をクランキングのために適切に用いることで、エンジン10の始動性の低下を回避するための設定である。すなわち、この目的のためには、所定量を極力「100%」に近づけることが有効であるため、本実施形態では、所定量を「100%」に設定した。
【0045】
ところで、MT22を備える車両においては、ブレーキ操作による車両の減速中に、MT22の変速比を低速走行に見合ったものとすべくシフトダウン操作(減速時シフトダウン操作)が行われることがある。減速時シフトダウン操作としては通常、まず、ブレーキペダル34の踏み込み操作が行われるとともに、クラッチペダル26の踏み込み操作が行われる。次に、シフト装置28のシフト位置が駆動状態(例えば3速)からニュートラルへと操作され、その後上記駆動状態より変速比の大きい駆動状態(例えば2速)へと操作される。そして、ブレーキペダル34及びクラッチペダル26の踏み込みが解除されるとともに、アクセルペダル40の踏み込み操作が行われる。
【0046】
ただし、減速時シフトダウン操作は、アイドルストップ制御の上記停止条件としてのブレーキペダル34及びクラッチペダル26の踏み込み操作と同様の操作となり得る。ここで、図2に、減速時シフトダウン操作の一例を示す。詳しくは、図2(a)に、車両の走行速度の推移を示し、図2(b)に、シフト位置の推移を示し、図2(c)に、クラッチストロークの推移を示し、図2(d)に、ブレーキフラグの推移を示し、図2(e)に、エンジン回転速度の推移を示す。なお、ブレーキフラグは、「1」によってブレーキがオン状態であることを示し、「0」によってブレーキがオフ状態であることを示す。また、エンジン回転速度は、クランク角度センサ44の出力値に基づき算出される。
【0047】
図に示す例では、ブレーキペダル34の踏み込み操作により車両の走行速度が上記所定速度(20km/h)を下回るため、上記条件(ア)及び(ウ)が成立している。時刻t1において、クラッチペダル26の踏み込み操作が開始され、時刻t2において、クラッチストロークが80%となることで上記条件(イ)が成立する。この時、エンジン10の停止条件が成立することで、ドライバが減速時シフトダウン操作を行おうとしているにもかかわらず、ドライバの意思に反してエンジン10が自動停止する。ちなみに、その後、シフト位置が3速からニュートラル、ニュートラルから2速へと操作されることで上記条件(エ)が成立する。そして、時刻t3において、クラッチストロークが100%を下回ることで上記条件(オ)が成立する。この時、エンジン10の再始動条件が成立し、エンジン10が再始動する。
【0048】
このように、ドライバの意思に反してアイドルストップ制御によりエンジン10が自動停止したり再始動したりすることで、ドライブフィーリングを低下させる等、ドライバに違和感を与えるおそれがある。
【0049】
このため、減速時シフトダウン操作に要求される時間に応じた遅延時間を設定し、上記(ア)及び(イ)の条件が成立してから遅延時間が経過するまでの間は、エンジン10の自動停止を禁止することも考えられる。しかしながら、遅延時間を上記設定とすると、減速時シフトダウン操作を行うか否かのドライバの意思を把握するための時間が長期化することとなる。このため、例えばドライバに停車意思がある場合であっても、エンジン10の自動停止が開始される時点が遅延し、アイドルストップ制御によるエンジン10の燃費低減効果が低下するおそれがある。
【0050】
こうした問題を解消すべく、本発明者らは、減速時シフトダウン操作を詳細に分析した。そして、減速時シフトダウン操作を行うための一連のクラッチペダル26及びシフト位置の操作を、図3に示すように第1の操作、第2の操作及び第3の操作に分解し、それぞれの操作に要する時間が、ドライバの減速時シフトダウン操作を行う意思を定量化するためのパラメータとなることを見出した。詳しくは、第1の操作は、クラッチストロークが0%から上昇する(クラッチペダル26の踏み込み操作が開始される)時点(時刻t1)から、シフト位置が駆動状態(3速)からニュートラルへと操作される時点(時刻t2)までの操作である。また、第2の操作は、シフト位置が駆動状態(3速)からニュートラルへと操作される時点(時刻t2)から、シフト位置がニュートラルから上記駆動状態(3速)よりも変速比の大きい駆動状態(2速)へと操作される時点(時刻t3)までの操作である。更に、第3の操作は、シフト位置がニュートラルから上記変速比の大きい駆動状態(2速)へと操作される時点(時刻t3)から、クラッチストロークがミートポイントに到達する(クラッチ伝達状態となる)時点(時刻t4)までの操作である。通常、ドライバに減速時シフトダウン操作を行う意思がある場合、これら第1〜第3の操作に要する時間は、ある長さの範囲で行われる傾向がある。このため、これら操作に要する時間は、ドライバの減速時シフトダウン操作を行う意思を定量化するためのパラメータとなる。
【0051】
そこで本実施形態では、まず上記第1〜第3の操作に対応する第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3を設定する。これらシフトダウン判定時間は、ドライバが各シフト操作に要する時間に基づき算出される。そして、上記触媒が暖機されているとの条件に加えて上記(ア)〜(ウ)の論理積条件が成立する場合であっても、各操作が開始された時点から上記シフトダウン判定時間T1〜T3に基づきドライバの減速時シフトダウン操作の意図が無いと予測されるまでは、エンジン10の自動停止を禁止する処理(自動停止禁止処理)を行う。これにより、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止を好適に抑制しつつも、エンジン10の燃費低減効果の低下の抑制を図る。
【0052】
まず、第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3の算出手法について説明する。各シフトダウン判定時間は、ドライバが第1〜第3の操作に要する時間(第1〜第3の操作時間)を予め計測し、この計測データを統計的に処理した結果に基づき算出する。図4は、車両の走行速度を20km/hから10km/hへと減速させる間にシフト位置を3速からニュートラル、ニュートラルから2速へと操作する場合における4人のドライバの各操作時間の頻度分布である。詳しくは、図4(a)に、第1の操作時間の頻度分布を示し、図4(b)に、第2の操作時間の頻度分布を示し、図4(c)に、第3の操作時間の頻度分布を示し、図4(d)に、第1〜第3の操作時間の合計時間の頻度分布を示す。
【0053】
本実施形態では、第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3を、各操作時間の平均値と、各操作時間のばらつき指標としての標準偏差σとに基づき算出する。具体的には、上記シフトダウン判定時間を、上記平均値と、上記標準偏差を3倍した値3σとの加算値(計測データの分布が正規分布すると仮定した場合における99.7%信頼区間の上限値)として算出する。これにより、減速時シフトダウン操作を行うか否かのドライバの意思を適切に把握することが可能となる。なお、本実施形態では、上記計測結果に基づき、第1のシフトダウン判定時間T1を0.475秒、第2のシフトダウン判定時間T2を0.462秒、更には第3のシフトダウン判定時間T3を0.679秒とする。
【0054】
次に、図5に、本実施形態にかかるエンジン10の自動停止禁止処理を有するアイドルストップ制御処理の手順を示す。この処理は、ECU50によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0055】
この一連の処理では、まずステップS10において、自動停止フラグFが「1」に設定されているか否かを判断する。この処理は、エンジン10が自動停止中であるか否かを判断するためのものである。ここで、自動停止フラグFは、「0」によってエンジン10が自動停止していないことを示し、「1」によって自動停止していることを示す。
【0056】
ステップS10において自動停止フラグFが「1」に設定されていると判断された場合には、ステップS12に進み、エンジン10の再始動条件が成立しているか否かを判断する。ここで、上記再始動条件は、上述したように、上記(エ)及び(オ)の論理積条件とする。
【0057】
ステップS12においてエンジン10の再始動条件が成立していると判断された場合には、ステップS14に進み、エンジン10の自動始動処理を行う。ここで、自動始動処理は、スタータ18を始動させることでクランキングを行うとともに、燃料噴射弁12及び点火プラグ14を操作することで、自動停止しているエンジン10を再始動させる処理である。そして、エンジン10が始動したことを確認の後、自動停止フラグFを「0」に設定する。
【0058】
一方、上記ステップS10において自動停止フラグFが「1」に設定されていないと判断された場合には、ステップS16に進み、エンジン10の停止条件が成立しているか否かを判断する。ここで、上記停止条件は、上述したように、触媒が暖機されているとの条件に加えて上記(ア)〜(ウ)の論理積条件とする。
【0059】
ステップS16においてエンジン10の停止条件が成立していると判断された場合には、ステップS18に進み、シフト位置が「1速」であるか否かを確認する。この処理は、ドライバに停車意思があるか否かを判断するためのものである。つまり、シフト位置が「1速」である場合、減速時シフトダウン操作は行われない。このため、シフト位置が「1速」である場合、ドライバに停車意思があるものと捉える。
【0060】
ステップS18においてシフト位置が「1速」であると判断された場合には、ステップS19に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。ここで、自動停止処理は、燃料噴射弁12からの燃料噴射を停止することで、エンジン10を停止させる処理である。そして、エンジン10が停止したことを確認の後、自動停止フラグFを「1」に設定する。
【0061】
一方、上記ステップS18においてシフト位置が「1速」でないと判断された場合には、ステップS20に進み、シフト位置が駆動状態(例えば3速)から非駆動状態(ニュートラル)へと操作されたか否かを判断する。この処理は、第1の操作が完了したか否かを判断するためのものである。
【0062】
ステップS20において第1の操作が完了していないと判断された場合には、ステップS22に進み、第1の操作が開始された時点から現在の時点までの時間TAが、第1のシフトダウン判定時間T1を超えたか否かを判断する。この処理は、ドライバの減速時シフトダウン操作の意思の有無を予測するためのものである。ステップS22において上記時間TAが第1のシフトダウン判定時間T1を超えないと判断された場合には、上記ステップS20に戻る。一方、上記ステップS22において肯定判断された場合には、ドライバに減速時シフトダウン操作の意思が無いと予測し、上記ステップS19に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。
【0063】
上記ステップS20において第1の操作が完了したと判断された場合には、ステップS24に進み、クラッチが伝達状態であるか否かを判断する。この処理は、ドライバのシフトダウン操作の意思の有無を予測するためのものである。つまり、第2の操作を行うためには、ドライバのクラッチペダル26の踏み込み操作によりクラッチが遮断状態となっていることが要求される。このため、シフト位置がニュートラルとされる状況下、クラッチが伝達状態となる場合は、ドライバのシフトダウン操作の意思が無いものと捉える。
【0064】
ステップS24においてクラッチが伝達状態であると判断された場合には、ドライバに減速時シフトダウン操作の意思が無いと予測し、上記ステップS19に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。一方、上記ステップS24においてクラッチが伝達状態でないと判断された場合には、ステップS26に進み、シフト位置がニュートラルから上記ステップS20での駆動状態よりも変速比の大きい駆動状態(例えば2速)へと操作されたか否かを判断する。この処理は、第2の操作が完了したか否かを判断するためのものである。
【0065】
ステップS26において第2の操作が完了していないと判断された場合には、ステップS28に進み、第2の操作が開始されたと判断された(上記ステップS20で肯定判断された)時点から現在の時点までの時間TBが、第2のシフトダウン判定時間T2を超えたか否かを判断する。この処理は、ドライバの減速時シフトダウン操作の意思の有無を予測するためのものである。ステップS28において上記時間TBが第2のシフトダウン判定時間T2を超えないと判断された場合には、上記ステップS26に戻る。一方、上記ステップS28において肯定判断された場合には、ドライバに減速時シフトダウン操作の意思が無いと予測し、上記ステップS19に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。
【0066】
上記ステップS26において第2の操作が完了したと判断された場合には、ステップS30に進み、クラッチが伝達状態であるか否かを判断する。この処理は、第3の操作が完了したか否かを判断するためのものである。
【0067】
ステップS30において第3の操作が完了していないと判断された場合には、ステップS32に進み、第3の操作が開始されたと判断された(上記ステップS26で肯定判断された)時点から現在の時点までの時間TCが、第3のシフトダウン判定時間T3を超えたか否かを判断する。この処理は、ドライバにシフトダウン操作の意思があるか否かを予測するためのものである。ステップS32において上記時間TCが第3のシフトダウン判定時間T3を超えないと判断された場合には、上記ステップS30に戻る。一方、上記ステップS32において肯定判断された場合には、ドライバに減速時シフトダウン操作の意思が無いと予測し、上記ステップS19に進み、エンジン10の自動停止処理を行う。
【0068】
なお、上記ステップS30で肯定判断された場合や、上記ステップS12、S16で否定判断された場合、更にはステップS14、S19の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0069】
図6に、本実施形態におけるアイドルストップ制御処理による計測結果の一例を示す。ここで、図6(a)〜図6(e)は、先に示した図2(a)〜図2(e)に対応している。
【0070】
図示されるように、時刻t1において、第1の操作が開始される。その後、第1の操作中である時刻t2において、上記(イ)の条件が成立するが、第1の操作が開始される時刻t1から第1のシフトダウン判定時間T1(0.475sec)が経過していないため、エンジン10の自動停止処理が禁止される。その後、第1の操作に要する時間TA(時刻t1〜時刻t3、0.4秒)が第1のシフトダウン判定時間T1を超えないで第2の操作に移行するため、エンジン10の自動停止処理が引き続き禁止状態とされる。そして、第2の操作に要する時間TB(時刻t3〜時刻t4、0.3sec)が第2のシフトダウン判定時間T2(0.462sec)を超えないまま第3の操作状態に移行し、更には第3の操作の要する時間TC(時刻t4〜時刻t5、0.4sec)が第3のシフトダウン判定時間T3(0.679sec)を超えないため、エンジン10の自動停止処理が禁止される。
【0071】
ここで、エンジン10の自動停止禁止処理によりドライバの意思に反するエンジン10の自動停止を抑制することはできるものの、エンジン10の自動停止時間が短くなることで、エンジン10の燃費低減効果への影響が懸念される。このため、本発明者らは、上記自動停止禁止処理が燃費低減効果に及ぼす影響をEUモード(燃料消費率やエミッションなどを計測するための欧州の試験条件)にて調べた。図7に、EUモードにて上記燃費低減効果に及ぼす影響を調べた結果を示す。まず、図7(a)に、EUモードでの車両の走行速度の推移を示す。EUモードでは、図7(a)に示される車両の走行速度パターンでの燃料消費率等を計測する。この際、車両の走行速度に応じたシフト位置が選択される。なお、時刻t0において、上述したエンジン10の停止条件の1つである触媒が暖機されているとの条件が成立する。
【0072】
次に、図7(b)〜図7(d)に、図7(a)のうち燃費低減効果への影響が懸念される時間帯、すなわちブレーキ操作がなされることで車両が減速し、エンジン10の停止条件が成立する時間帯における車両の走行速度、シフト位置及びクラッチペダル26の操作状態の推移を示す。詳しくは、図7(b)に図7(a)のα部分、図7(c)に図7(a)のβ部分、図7(d)に図7(a)のγ部分についての推移を示す。なお、図中、クラッチペダル26の操作状態は、「0」によってクラッチペダル26の踏み込み操作が行われていないことを示し、「1」によって上記踏み込み操作が行われていることを示す。また、クラッチペダル26の踏み込み操作が開始されてからクラッチストロークが80%となるまでの時間をクラッチON時間とし、上記踏み込み操作が開始されてからクラッチON時間が経過する時点でエンジン10の停止条件としての上記(イ)の条件が成立する。
【0073】
図7(b)では、ブレーキ操作により車両が減速しているため、エンジン10の停止条件としての上記(ア)及び(ウ)の条件が既に成立している。そして、シフト位置が「1速」であるため、時刻t1において上記(イ)の条件が成立することでエンジン10が自動停止される。このため、α部分では、上記自動停止禁止処理によるエンジン10の自動停止時間への影響が無い。
【0074】
また、図7(c)では、ブレーキ操作により車両が減速しているため、エンジン10の停止条件としての上記(ア)及び(ウ)の条件が既に成立している。そして、時刻t3において上記(イ)の条件が成立することでエンジン10の停止条件が成立するが、時刻t2から第1のシフトダウン判定時間T1が経過する時刻t4までエンジン10の自動停止が禁止される。このため、β部分では、上記自動停止禁止処理によってエンジン10の自動停止時間が、時刻t2から時刻t3までのクラッチON時間(計測データの平均値として0.275sec)と第1のシフトダウン判定時間T1(0.475sec)との時間差(0.2sec)だけ短くなった。
【0075】
更に、図7(c)では、ブレーキ操作により車両が減速し、車両の走行速度が50km/hとなる時点でクラッチが遮断状態とされるため、エンジン10の停止条件としての上記(ア)及び(イ)の条件が既に成立している。そして、時刻t5において、第1の操作がなされた時点から第1のシフトダウン判定時間T1が既に経過している。このため、時刻t5において上記(ウ)の条件が成立することでエンジン10が自動停止される。したがって、γ部分では、上記自動停止禁止処理によるエンジン10の自動停止時間への影響が無い。
【0076】
これらの計測結果から、エンジン10の自動停止禁止処理を行わない場合におけるEUモードでのエンジン10の自動停止時間が290secであるのに対し、上記自動停止禁止処理を行う場合における自動停止時間が288.4secであった。これは、EUモード全体では、β部分に相当する時間帯が8つあり、エンジン10の自動停止時間が1.6sec短くなるためである。そして、上記自動停止時間が1.6sec短くなることによる燃費低減効果の低下は0.03%であった。このように、上記自動停止禁止処理が燃費低減効果に及ぼす影響は非常に小さい。なお、第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3を設定することで、一連の減速時シフトダウン操作に要する時間(第1の操作が開始されてから第3の操作が完了するまでに要する時間)に応じた遅延時間を設定する場合と比較して、エンジン10の自動停止時間が7.2sec長くなった。
【0077】
このように、本実施形態では、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止を好適に抑制しつつも、エンジン10の燃費低減効果の低下を好適に抑制することができる。
【0078】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0079】
(1)第1の操作が第1のシフトダウン判定時間T1内に完了する場合、また第2の操作が第2のシフトダウン判定時間内に完了する場合、更には第3の操作が第3のシフトダウン判定時間T3内に完了する場合、エンジン10の自動停止処理を禁止した。これにより、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止を好適に抑制しつつも、エンジン10の燃費低減効果の低下を好適に抑制することができる。更に、ドライバの減速時シフトダウン操作の意思をクラッチペダル26及びシフト位置の操作状態に基づき把握するため、例えば車両の周囲の情報を取得する手段の取得値(ナビゲーションシステムにより取得される道路交通情報や、車間距離を検出するセンサの検出値)に基づき上記意思を把握する場合と比較して、エンジン10の自動停止禁止処理を簡素な構成で行うこともできる。
【0080】
(2)シフト位置が1速であると判断された場合、エンジン10の停止条件の成立によってエンジン10を速やかに自動停止させた。これにより、エンジン10の燃費低減効果の低下をより好適に抑制することができる。
【0081】
(3)第2の操作中にクラッチが伝達状態になると判断された場合、エンジン10を速やかに自動停止させた。これにより、燃費低減効果の低下を極力抑制することができる。
【0082】
(4)車両の走行速度が0よりも高い所定速度(20km/h)を下回るとの条件をエンジン10の停止条件とした。この場合、減速時シフトダウン操作によってエンジン10の停止条件が成立しやすく、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止が生じやすい。このため車両の走行速度についての上記条件をエンジン10の停止条件とする本実施形態は、エンジン10の自動停止禁止処理の利用価値が高い。
【0083】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0084】
・上記実施形態では、エンジン10の停止条件としてブレーキ操作がなされているか否かを、ブレーキセンサ36の出力値に基づき判断したがこれに限らない。例えば、ブレーキペダル34にこのペダルの踏み込み力又は踏み込み量を検出するセンサを備え、このセンサの出力値に基づき判断してもよい。
【0085】
・上記実施形態では、エンジン10の停止条件としてクラッチが遮断状態にされたか否かを、クラッチセンサ38の出力値に基づき判断したがこれに限らない。例えば、クラッチペダル26にこのペダルの踏み込み力を検出するセンサを備え、このセンサの出力値に基づき判断してもよい。
【0086】
・上記実施形態では、第1の操作の開始時点をクラッチストロークが0%から上昇する時点としたがこれに限らない。例えば、クラッチストロークが0%より大きくて且つクラッチが伝達状態となるクラッチストローク(ミートポイント)よりも小さい所定量を上回る時点を第1の操作の開始時点としてもよい。
【0087】
・上記実施形態では、エンジン10の停止条件としての上記(ウ)の条件で、上記所定速度を、20km/hとしたがこれに限らず、0よりも高い任意の速度(20km/hを除く)としてもよい。
【0088】
・第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3の算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、各シフトダウン判定時間を、各操作時間の計測データの平均値(下限時間)から各操作時間の計測データの上限値よりも大きい値(上限時間)までの間の任意の時間として算出してもよい。具体的には、先に示した図4の頻度分布に基づき、第1及び第2のシフトダウン判定時間T1,T2を0.2〜0.7秒、第3のシフトダウン判定時間T3を0.4〜0.9秒とすればよい。ここでは、アイドルストップ制御によるエンジン10の燃費低減効果や、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止の抑制度合いの要求に応じて各シフトダウン判定時間を算出するのが望ましい。すなわち例えば、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止の抑制を優先させたい場合には、各シフトダウン判定時間を上限時間側とすればよい。また例えば、アイドルストップ制御によるエンジン10の燃費低減効果を優先させたい場合には、各シフトダウン判定時間を下限時間側とすればよい。なお、第3のシフトダウン判定時間T3の上限時間を第3の操作時間の上限値(略0.6秒)を大きく超える0.9秒としているのは、第3のシフトダウン判定時間T3の下限時間から上限時間までの間隔を、第1及び第2のシフトダウン判定時間T1、T2の下限時間から上限時間までの間隔と合わせるためである。
【0089】
・上記実施形態では、エンジン10の自動停止処理を禁止すべく第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3を設定したがこれに限らない。第1〜第3のシフトダウン判定時間T1〜T3のうち任意の1又は2つのシフトダウン判定時間を設定してもよい。例えば、エンジン10の停止条件を上記(ア)〜(ウ)の条件及びシフト位置がニュートラル(非駆動状態)であるとの条件の論理積条件とする場合、少なくとも第2のシフトダウン判定時間を設定することで、ドライバの意思に反するエンジン10の自動停止を好適に抑制しつつも、エンジン10の燃費低減効果の低下を抑制することができる。また例えば、第3のシフトダウン判定時間のみを設定する場合、先に示した図4の頻度分布に基づき、第3のシフトダウン判定時間を第3の操作時間の計測データの平均値側とするのが望ましい。これにより、エンジン10の燃費低減効果の低下を極力抑制することができる。
【0090】
・内燃機関としては、ガソリンエンジンのような火花点火式内燃機関に限らない。例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関であってもよい。
【符号の説明】
【0091】
10…エンジン、16…クランク軸、20…クラッチ装置、22…手動変速装置、26…クラッチペダル、34…ブレーキペダル、36…ブレーキセンサ、38…クラッチセンサ、46…車速センサ、48…シフト位置センサ、50…ECU(内燃機関の自動停止制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸の回転力をクラッチ及び手動変速装置を介して駆動輪へと伝達させる車両に適用され、前記クラッチの操作により前記回転力の伝達が遮断されたこと及び前記車両のブレーキ操作がなされたことを条件に、前記内燃機関を自動停止させる内燃機関の自動停止制御装置において、
前記手動変速装置の操作状態を入力として、ドライバのシフトダウン操作の意思の有無を予測する予測手段と、
前記予測手段により前記意思が無いと予測されるまで前記自動停止を禁止する自動停止禁止手段とを備えることを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項2】
前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態及び前記クラッチの操作状態を入力として、前記回転力の伝達が遮断される側に前記クラッチの操作が開始されたと判断されてから前記手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間に基づき、前記意思の有無を予測することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項3】
前記予測手段は、前記手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間が、0.2〜0.7秒で設定される第1の閾値以下であると判断された場合、前記意思があると予測することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項4】
前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態が1速であると判断された場合、前記意思が無いと予測することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項5】
前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態を入力として、前記手動変速装置が駆動状態から非駆動状態へと操作されたと判断されてから、同手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間に基づき、前記意思の有無を予測することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項6】
前記予測手段は、前記手動変速装置が非駆動状態とされる状況下、前記内燃機関の出力軸から前記手動変速装置へと前記回転力が伝達される側に前記クラッチが操作されたと判断された場合、前記意思が無いと予測することを特徴とする請求項5記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項7】
前記予測手段は、前記手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されたと判断されるまでの時間が、0.2〜0.7秒で設定される第2の閾値以下であると判断された場合、前記意思があると予測することを特徴とする請求項5又は6記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項8】
前記予測手段は、前記手動変速装置の操作状態及び前記クラッチの操作状態を入力として、前記手動変速装置が非駆動状態から駆動状態へと操作されたと判断されてから、前記内燃機関の出力軸から前記手動変速装置へと前記回転力が伝達される側に前記クラッチが操作されたと判断されるまでの時間に基づき、前記意思の有無を予測することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項9】
前記予測手段は、前記内燃機関の出力軸から前記手動変速装置へと前記回転力が伝達される側に前記クラッチが操作されたと判断されるまでの時間が、0.4〜0.9秒で設定される第3の閾値以下であると判断された場合、前記意思があると予測することを特徴とする請求項8記載の内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項10】
前記自動停止のための条件には、前記車両の走行速度が0よりも高い所定速度を下回ることが含まれることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の自動停止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−270689(P2010−270689A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123476(P2009−123476)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】