説明

内燃機関の過給システム

【課題】可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生することを防止可能な内燃機関の過給システムを提供する。
【解決手段】ディフューザ部16に出没式のベーン21が設けられたコンプレッサ10aが吸気通路3に設けられた内燃機関1に適用される過給システムにおいて、コンプレッサ10aの運転状態がベーン21を格納位置に移動させるべき第1運転領域Z1及ベーン21を突出位置に移動させるべき第2運転領域Z2のうちの一方の運転領域から他方の運転領域に移行した場合には、移動禁止時間Taが経過するまでベーン21の移動が禁止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出没式の可動ベーンがディフューザ部に設けられたコンプレッサを備えた内燃機関の過給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディフューザ部に出没式の可動ベーンが設けられたコンプレッサが知られている。例えば、コンプレッサの流量、圧力比、又は回転数が等しくなる運転状態を繋いだ作動ラインを予め設定し、コンプレッサの運転状態がその作動ラインよりも小流量側の場合に可動ベーンを突出状態に切り替え、コンプレッサの運転状態がその作動ラインよりも大流量の場合に可動ベーンを格納状態に切り替えるコンプレッサが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−329996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のコンプレッサでは、作動ラインの付近の運転領域内でコンプレッサが運転され、運転状態が小流量側と大流量側との間で連続的に行き来した場合に可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生するおそれがある。この場合、可動ベーンの支持部材とコンプレッサハウジングとが接触する際に発生する音が連続的に発生するおそれがある。また、このように可動ベーンの支持部材とコンプレッサハウジングとの接触及び離間が連続的に行われると支持部材やコンプレッサハウジングの変形や摩耗が加速されるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生することを防止可能な内燃機関の過給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の内燃機関の過給システムは、コンプレッサホイールを内部に収容するとともに軸線回りに回転自在に支持するハウジングと、前記コンプレッサホイールの外周に配置されるように前記ハウジングに設けられた渦巻き状のスクロールと、前記コンプレッサホイールの出口側から前記スクロールに通じる通路空間として設けられたディフューザ部と、前記ディフューザ部の一部を形成する壁面内に収容される格納位置と前記ディフューザ部を横切るように前記壁面から突出する突出位置との間で移動可能に設けられた可動ベーンと、前記可動ベーンを駆動する駆動手段と、を有するコンプレッサが吸気通路に設けられた内燃機関に適用され、前記可動ベーンを前記格納位置に移動させるべき第1運転領域と、前記第1運転領域とは異なり、前記可動ベーンを前記突出位置に移動させるべき第2運転領域と、が設定されており、前記コンプレッサの運転状態が前記第1運転領域及び前記第2運転領域のうちの一方の運転領域から他方の運転領域に移行した場合には、所定の移動禁止時間が経過するまで前記可動ベーンの移動が禁止されるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の第1の過給システムによれば、コンプレッサの運転状態が一方の運転領域から他方の運転領域に移行しても移動禁止時間が経過するまで可動ベーンの移動が禁止されるので、可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。
【0008】
第1運転領域と第2運転領域とは、可動ベーンの位置を切り替えることによってコンプレッサでサージングの発生を防止可能なように適宜に設定してよい。例えば、前記第1運転領域と前記第2運転領域とは、前記可動ベーンが前記格納位置の場合と前記可動ベーンが前記突出位置の場合とで前記コンプレッサの出口の圧力、前記コンプレッサに吸入される空気の流量、又は前記コンプレッサホイールの回転速度が等しくなる前記コンプレッサの運転状態を繋いで形成される作動ラインを境界として互いに隣接するように設定されていてもよい(請求項2)。
【0009】
本発明の第1の過給システムの一形態においては、前記内燃機関のスロットル開度の時間変化に基づいて前記移動禁止時間を設定する禁止時間設定手段をさらに備えていてもよい(請求項3)。このように移動禁止時間をスロットル開度の時間変化に応じて変更することにより、内燃機関の運転状態の変化に対して可動ベーンの位置の切り替え時期が遅くなることを防止できる。そのため、内燃機関に対して急加速や急減速が要求された場合には可動ベーンの位置の切り替えを迅速に行うことができる。これにより可動ベーンの位置の切り替え遅れに起因するサージングの発生やコンプレッサホイールの過回転の発生を防止することができる。また、コンプレッサ効率が一時的に低下して内燃機関の出力トルクに段差が発生することを防止できる。
【0010】
本発明の第2の内燃機関の過給システムは、コンプレッサホイールを内部に収容するとともに軸線回りに回転自在に支持するハウジングと、前記コンプレッサホイールの外周に配置されるように前記ハウジングに設けられた渦巻き状のスクロールと、前記コンプレッサホイールの出口側から前記スクロールに通じる通路空間として設けられたディフューザ部と、前記ディフューザ部の一部を形成する壁面内に収容される格納位置と前記ディフューザ部を横切るように前記壁面から突出する突出位置との間で移動可能に設けられた可動ベーンと、前記可動ベーンを駆動する駆動手段と、を有するコンプレッサが吸気通路に設けられた内燃機関に適用され、前記内燃機関に対して加減速が要求された場合に、その加減速が要求された時点から前記コンプレッサの運転状態が前記可動ベーンを前記格納位置に移動すべき所定の第1運転領域及び前記可動ベーンを前記突出位置に移動すべき所定の第2運転領域のうちの一方の運転領域から他方の運転領域に移行するまでの時間を推定する移行時間推定手段と、前記移行時間推定手段が推定した時間よりも所定時間前に前記可動ベーンが前記他方の運転領域において前記可動ベーンが移動されるべき位置に移動するように前記駆動手段の動作を制御する制御手段と、を備えている(請求項4)。
【0011】
本発明の第2の過給システムでは、コンプレッサの運転状態が他方の運転領域に移行するよりも前に可動ベーンの位置の切り替えを行う。そのため、可動ベーンの位置を切り替えてからコンプレッサの運転状態が他方の運転領域に移行するまでの所定時間の間は可動ベーンの位置の切り替えを禁止できる。従って、可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。
【0012】
本発明の第2の過給システムにおいても第1運転領域と第2運転領域とは、コンプレッサでサージングの発生を防止可能なように適宜に設定してよい。例えば、前記第1運転領域と前記第2運転領域とは、前記可動ベーンが前記格納位置の場合と前記可動ベーンが前記突出位置の場合とで前記コンプレッサの出口の圧力、前記コンプレッサに吸入される空気の流量、又は前記コンプレッサホイールの回転速度が等しくなる前記コンプレッサの運転状態を繋いで形成される作動ラインを境界として互いに隣接するように設定されていてもよい(請求項5)。
【0013】
本発明の第2の過給システムの一形態においては、前記内燃機関のスロットル開度の時間変化に基づいて前記所定時間を設定する前倒し時間設定手段をさらに備えていてもよい(請求項6)。このように所定時間をスロットル開度の時間変化に応じて変更することにより、内燃機関の運転状態の変化に対して可動ベーンの位置の切り替え時期を適切に調整できる。そのため、可動ベーンの位置の切り替え遅れに起因するサージングの発生やコンプレッサホイールの過回転の発生を防止することができる。また、コンプレッサ効率が一時的に低下して内燃機関の出力トルクに段差が発生することを防止できる。
【0014】
本発明の第3の内燃機関の過給システムは、コンプレッサホイールを内部に収容するとともに軸線回りに回転自在に支持するハウジングと、前記コンプレッサホイールの外周に配置されるように前記ハウジングに設けられた渦巻き状のスクロールと、前記コンプレッサホイールの出口側から前記スクロールに通じる通路空間として設けられたディフューザ部と、前記ディフューザ部の一部を形成する壁面内に収容される格納位置と前記ディフューザ部を横切るように前記壁面から突出する突出位置との間で移動可能に設けられた可動ベーンと、前記可動ベーンを駆動する駆動手段と、を有するコンプレッサが吸気通路に設けられた内燃機関に適用され、前記コンプレッサの運転状態が所定の第1運転領域内の場合には前記可動ベーンが前記格納位置に移動し、前記コンプレッサの運転状態が前記第1運転領域とは異なる所定の第2運転領域内の場合には前記可動ベーンが前記突出位置に移動し、前記コンプレッサの運転状態が前記第1運転領域と前記第2運転領域との間に設定された所定の移動禁止領域内の場合には前記可動ベーンの移動が禁止されるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段を備えている(請求項7)。
【0015】
本発明の第3の過給システムによれば、第1運転領域と第2運転領域との間に可動ベーンの移動を禁止する移動禁止領域を設けたので、可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。
【0016】
第1運転領域と第2運転領域とは、可動ベーンの位置を切り替えることによってコンプレッサでサージングの発生を防止可能なように適宜に設定してよい。そして、移動禁止領域はこれらの運転領域の間に適宜に設定すればよい。例えば、前記移動禁止領域は、前記可動ベーンが前記格納位置の場合と前記可動ベーンが前記突出位置の場合とで前記コンプレッサの出口の圧力、前記コンプレッサに吸入される空気の流量、又は前記コンプレッサホイールの回転速度が等しくなる前記コンプレッサの運転状態を繋いで形成される作動ラインを中心として設定されていてもよい(請求項8)。
【0017】
本発明の第3の過給システムの一形態においては、前記内燃機関のスロットル開度の時間変化に基づいて前記移動禁止領域の大きさを設定する移動禁止領域設定手段をさらに備えていてもよい(請求項9)。このように移動禁止領域の大きさをスロットル開度の時間変化に応じて変更することにより、内燃機関の運転状態の変化に対して可動ベーンの位置の切り替え時期を適切に調整できる。そのため、可動ベーンの位置の切り替え遅れに起因するサージングの発生やコンプレッサホイールの過回転の発生を防止することができる。また、コンプレッサ効率が一時的に低下して内燃機関の出力トルクに段差が発生することを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
以上に説明したように、本発明の内燃機関の過給システムによれば、可動ベーンの位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。そのため、コンプレッサからの異音の発生を防止できる。また、可動ベーンやコンプレッサハウジングの摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の形態に係る過給システムが組み込まれた内燃機関を概略的に示す図。
【図2】図1のコンプレッサの断面を示す図。
【図3】図1のコンプレッサの特性曲線を示す図。
【図4】ECUが実行する可動ベーン制御ルーチンを示すフローチャート。
【図5】スロットル開度の時間変化と移動禁止時間との関係の一例を示す図。
【図6】本発明の第2の形態においてECUが実行する可動ベーン制御ルーチンを示すフローチャート。
【図7】作動ライン到達時間を推定する方法を説明するための図。
【図8】スロットル開度の時間変化と補正時間との関係の一例を示す図。
【図9】本発明の第3の形態に係る過給システムにおける可動ベーン機構の制御方法を説明するための図。
【図10】本発明の第3の形態においてECUが実行する可動ベーン制御ルーチンを示すフローチャート。
【図11】スロットル開度の時間変化と流量設定値及び圧力比設定値との関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の形態)
図1は、本発明の第1の形態に係る過給システムが組み込まれた内燃機関を概略的に示している。図1の内燃機関(以降、エンジンと称することがある。)1は、車両の走行用動力源として搭載されるものであり、機関本体2と、機関本体2に接続される吸気通路3及び排気通路4とを備えている。吸気通路3には、ターボ過給機10のコンプレッサ10aと、吸気を冷却するためのインタークーラ5と、吸気通路3を開閉するスロットル弁6とが設けられている。排気通路4には、ターボ過給機10のタービン10bが設けられている。
【0021】
図2は、コンプレッサ10aの断面図を示している。図2に示したようにコンプレッサ10aは、コンプレッサハウジング11と、コンプレッサハウジング11内に収容され、回転軸12にて軸線Ax回りに回転自在に支持されるコンプレッサホイール13とを備えている。コンプレッサハウジング11は、コンプレッサホイール13を収容するホイール室14と、ホイール室14の外周に設けられた渦巻き状のスクロール15と、コンプレッサホイール13の出口側13aからスクロール15に通じる通路空間として設けられたディフューザ部16とを備えている。コンプレッサホイール13は、回転軸12にてタービン10bのタービンホイール(不図示)と一体に回転するように連結されている。なお、これらの部分は周知のターボ過給機10のコンプレッサ10aと同様でよいため、詳細な説明は省略する。
【0022】
この図に示したようにコンプレッサ10aには、可動ベーン機構17が設けられている。可動ベーン機構17は、軸線Ax方向に移動可能に設けられた可動部18と、可動部18を駆動する駆動手段としてのアクチュエータ19とを備えている。可動部18は、環状のベースプレート20と、そのベースプレート20に設けられた複数(図2では1つのみを示す。)のベーン21とを備えている。複数のベーン21は、同一円周上に等間隔で並ぶようにベースプレート20に設けられている。また、この図に示したように各ベーン21は、ベースプレート20の同一の面から軸線Ax方向に延びるように設けられている。なお、ベーン21の断面形状はコンプレッサ10aに設けられる周知のものと同じでよいため、詳細な説明を省略する。
【0023】
コンプレッサハウジング11には、ディフューザ部16と軸線Ax方向に並ぶように収容室22が設けられている。ディフューザ部16と収容室22とは、ディフューザ部16の一部を形成する隔壁23で区分されている。隔壁23には複数のベーン21に対応して貫通孔23aが設けられ、可動部18は各ベーン21がそれぞれ貫通孔23aに挿入されるように収容室22内に収容されている。また、可動部18は、各ベーン21が隔壁23内に収容される格納位置と、各ベーン21がディフューザ部16を横切るように隔壁23から突出する突出位置との間で移動可能なように収容室22内に収容されている。アクチュエータ19は、ロッド19aを伸縮させることにより可動部18を格納位置と突出位置との間で駆動する。
【0024】
アクチュエータ19の動作は、エンジンコントロールユニット(ECU)30にて制御される。ECU30は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータとして構成され、各種センサからの出力信号に基づいてスロットル弁6の開度等を制御し、これによりエンジン1の運転状態を制御する周知のコンピュータユニットである。図1に示したようにECU30には、例えば吸入空気量に対応する信号を出力するエアフローメータ31、吸気通路3の一部を形成するインテークマニホールド3aの吸気の圧力、すなわち過給圧に対応する信号を出力する過給圧センサ32、アクセル開度に対応する信号を出力するアクセル開度センサ33等が接続されている。ECU30には、この他にも種々のセンサが接続されるが、それらの図示は省略した。
【0025】
図3を参照してECU30により可動ベーン機構17の制御方法の概略について説明する。図3は、コンプレッサ10aの特性曲線を示している。また、圧力比は、コンプレッサ10aの入口の圧力とコンプレッサ10aの出口の圧力との比である。この図の実線S1は可動部18が格納位置にある場合のコンプレッサ10aのサージラインを示し、実線S2は可動部18が突出位置にある場合のコンプレッサ10aのサージラインを示している。この図の実線L1は可動部18が格納位置にあり、かつコンプレッサホイール13の回転数が第1回転数N1の場合のコンプレッサ10aの性能曲線であり、実線L2は可動部18が突出位置にあり、かつコンプレッサホイール13の回転数が第1回転数N1の場合のコンプレッサ10aの性能曲線である。また、実線L3は可動部18が格納位置にあり、かつコンプレッサホイール13の回転数が第2回転数N2の場合のコンプレッサ10aの性能曲線であり、実線L4は可動部18が突出位置にあり、かつコンプレッサホイール13の回転数が第2回転数N2の場合のコンプレッサ10aの性能曲線である。そして、作動ラインAは、可動部18が格納位置の場合と可動部18が突出位置の場合とでコンプレッサ10aの出口の圧力、コンプレッサ10aに吸入される空気の流量、又はコンプレッサホイール13の回転速度が等しくなる運転状態を繋いだ線である。ECU30は、コンプレッサ10aの運転状態がこの作動ラインAよりも大流量側、すなわち第1運転領域Z1内の場合に可動部18が格納位置に移動するようにアクチュエータ19の動作を制御する。また、ECU30は、コンプレッサ10aの運転状態が作動ラインAよりも小流量側、すなわち第2運転領域Z2の場合に可動部18が突出位置に移動するようにアクチュエータ19の動作を制御する。
【0026】
図4は、ECU30がこのようにアクチュエータ19の動作を制御するためにエンジン1の運転中に所定の周期で繰り返し実行する可動ベーン制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、ECU30が実行する他のルーチンと並行に実行される。この制御ルーチンを実行することにより、ECU30が本発明の制御手段として機能する。
【0027】
この制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。エンジン1の運転状態としては、例えば吸入空気量及び過給圧等が取得される。また、ECU30は、運転状態としてスロットル弁6の開度(スロットル開度)も取得し、前回取得したスロットル開度との差からスロットル開度の時間変化を算出する。続くステップS12においてECU30は、移動禁止時間Taを設定する。この移動禁止時間Taは、コンプレッサ10aの運転状態が第1運転領域Z1及び第2運転領域Z2のうちの一方から他方に移行しても可動部18を移行前の運転領域に対応する位置に維持する時間である。移動禁止時間Taは、例えば図5に一例を示したマップに基づいて設定される。この図は、スロットル開度の時間変化と移動禁止時間Taとの関係を示している。スロットル開度の時間変化が大きい場合は、スロットル弁6が急に開閉されたと考えられる。このような場合は、コンプレッサ10aの運転状態も一方の運転領域から他方の運転領域に迅速に移行すると考えられる。そこで、移動禁止時間Taは、スロットル開度の時間変化が大きいほど小さくする。なお、この図に示した関係は、予め実験などにより求めてECU30のROMに記憶させておけばよい。また、スロットル開度と吸入空気量とは相関関係を有しているので、スロットル開度の時間変化に代えて吸入空気量の時間変化に応じて移動禁止時間Taを設定してもよい。この処理を実行することにより、ECU30が本発明の禁止時間設定手段として機能する。
【0028】
次のステップS13においてECU30は、所定の切替条件が成立したか否か判断する。所定の切替条件は、コンプレッサ10aの運転状態が図3の一方の運転領域から他方の運転領域に移行した場合に成立したと判断される。切替条件が不成立と判断した場合は今回の制御ルーチンを終了する。一方、切替条件が成立したと判断した場合はステップS14に進み、ECU30はコンプレッサ10aの運転状態が一方の運転領域から他方の運転領域に移行してから経過した時間を計測するためのタイマTをリセットし、その後タイマTのカウントを開始する。
【0029】
続くステップS15においてECU30は、タイマTが移動禁止時間Ta以上か否か判断する。そして、ECU30は、タイマTが移動禁止時間Ta以上になるまでこの処理を繰り返し実行する。タイマTが移動禁止時間Ta以上になるとステップS16に進み、ECU30は可動部18をコンプレッサ10aが移行した運転領域に対応する位置に移動する切替制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0030】
第1の形態によれば、コンプレッサ10aの運転状態が図3の一方の運転領域から他方の運転領域に移行しても、移動禁止時間Taが経過するまで可動部18は移行前の運転領域に対応する位置に維持される。そのため、コンプレッサ10aが作動ラインAの付近の運転領域で運転されても可動部18の位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。従ってコンプレッサ10aからの異音の発生を防止したり、ベースプレート20や隔壁23の摩耗を抑制したりできる。移動禁止時間Taにはスロットル開度の時間変化が大きいほど小さい値が設定される。そのため、エンジン1に対して急加速が要求された場合等には可動部18の位置の切り替えが迅速に行われる。従って、可動部18の位置の切り替えが遅れてコンプレッサ効率が低下することを防止でき、これによりエンジン1の出力トルクに段差が発生することを防止できる。また、急加速が要求されたときに可動部18の位置を迅速に格納位置に切り替えることができるので、ディフューザ部16で空気の流れが阻害されることを防止できる。そして、これによりコンプレッサホイール13が過回転になることを防止できる。さらに、エンジン1に対して急減速が要求されて吸入空気量が急に減少してもコンプレッサ10aでサージングが発生することを防止できる。
【0031】
(第2の形態)
次に図6〜図8を参照して本発明の第2の形態に係る過給システムについて説明する。なお、この形態においてもエンジン1については図1が、コンプレッサ10aについては図2がそれぞれ参照される。この形態では、エンジン1に対して加速又は減速が要求されてコンプレッサ10aの運転状態が一方の運転領域から他方の運転領域に移行すると予測された場合に、コンプレッサ10aの運転状態が作動ラインAに到達する前に可動部18の位置を切り替える。図6は、この形態においてECU30が実行する可動ベーン制御ルーチンを示している。なお、図6において図4と同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0032】
この制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。次のステップS21においてECU30は、エンジン1に対して加速又は減速が要求されたか否かを判断する。この判断は、例えばスロットル開度の時間変化及びスロットル弁6が動かされた方向に基づいて行えばよい。エンジン1に対して加速又は減速が要求されていないと判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。
【0033】
一方、エンジン1に対して加速又は減速が要求されたと判断した場合はステップS22に進み、ECU30は加速又は減速が要求されてから経過した時間を計測するためのタイマTをリセットし、その後タイマTのカウントを開始する。続くステップS23においてECU30は、加速又は減速が要求された時点からコンプレッサ10aの運転状態が作動ラインAに到達するまでの時間(作動ライン到達時間)TAを推定する。この作動ライン到達時間TAの推定方法を図7を参照して説明する。図7は、コンプレッサ10aの特性曲線である。なお、図7において図3と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この図において点D1は、加速が要求される前のコンプレッサ10aの運転状態である。点D2は、加速が要求された後のコンプレッサ10aの運転状態である。作動ライン到達時間TAは、図に破線で示したようにコンプレッサ10aの運転状態が以降も同様に変化すると仮定し、点D1から点D2まで移行するまでに要した時間に基づいて推定する。この処理を実行することにより、ECU30が本発明の移行時間推定手段として機能する。
【0034】
次のステップS24においてECU30は、補正時間Tbを算出する。この形態では、可動部18の位置の切り替えは、コンプレッサ10aの運転状態が作動ラインAに到達するよりもこの補正時間Tb前に行われる。補正時間Tbは、例えば図8に一例を示したマップに基づいて設定される。この図8は、スロットル開度の時間変化と補正時間Tbとの関係を示している。この図に示したように補正時間Tbには、スロットル開度の時間変化が大きいほど大きい値が設定される。なお、この図に示した関係は、予め実験などにより求めてECU30のROMに記憶させておけばよい。また、上述したようにスロットル開度と吸入空気量は相関関係を有しているので、スロットル開度の時間変化に代えて吸入空気量の時間変化に応じて補正時間Tbを設定してもよい。この処理を実行することにより、ECU30が本発明の前倒し時間設定手段として機能する。
【0035】
続くステップS25においてECU30は、タイマTが作動ライン到達時間TAから補正時間Tbを引いた値以上か否か判断する。ECU30は、タイマTが作動ライン到達時間TAから補正時間Tbを引いた値以上になるまでこの処理を繰り返し実行する。
【0036】
タイマTが作動ライン到達時間TAから補正時間Tbを引いた値以上と判断した場合はステップS16に進み、ECU30は切替制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0037】
以上に説明したように、第2の形態では、コンプレッサ10aの運転状態が作動ラインAに到達するよりも補正時間Tb前に可動部18の位置の切り替えを行う。この場合、可動部18の位置を切り替えてからコンプレッサ10aの運転状態が作動ラインAに到達するまでの間は可動部18の位置の切り替えを禁止できるので、可動部18の位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。この形態によれば、例えばエンジン1に加速が要求された場合には可動部18を迅速に格納位置に切り替えることができるので、可動部18の位置の切り替えが遅れてコンプレッサ効率が低下することを防止できる。そのため、エンジン1の出力トルクに段差が発生することを防止できる。また、エンジン1に急加速が要求された場合には可動部18を迅速に格納位置に切り替えることができるので、コンプレッサホイール13が過回転になることを防止できる。さらに、エンジン1に対して急減速が要求された場合にコンプレッサ10aでサージングが発生することを防止できる。
【0038】
(第3の形態)
図9〜図11を参照して本発明の第3の形態に係る過給システムについて説明する。なお、この形態においてもエンジン1については図1が、コンプレッサ10aについては図2がそれぞれ参照される。この形態では、図9に示したように第1運転領域Z1と第2運転領域Z2との間に移動禁止領域Z3を設け、コンプレッサ10aの運転状態がこの移動禁止領域Z3内の場合は可動部18の移動を禁止する。移動禁止領域Z3は、作動ラインAを中心として第1運転領域Z1側及び第2運転領域Z2側にそれぞれ同じ幅で設定される。
【0039】
図10は、この形態においてECU30が実行する可動ベーン制御ルーチンを示している。なお、図10において図4と同一の処理には同一の参照符号を付して説明を省略する。この制御ルーチンにおいてECU30は、まずステップS11でエンジン1の運転状態を取得する。続くステップS31においてECU30は、移動禁止領域Z3を設定する。上述したように移動禁止領域Z3は、作動ラインAを中心として両側に同じ幅で設定される。図9に示した移動禁止領域Z3と第2運転領域Z2との境界線A1は、作動ラインAの空気流量Gaに対して流量設定値α分引き、作動ラインAの圧力比Paに対して圧力比設定値β分加えた位置のラインが設定される。移動禁止領域Z3と第1運転領域Z1との境界線A2は、作動ラインAの空気流量Gaに対して流量設定値α分加え、作動ラインAの圧力比Paに対して圧力比設定値β分引いた位置のラインが設定される。すなわち、作動ラインAが(Ga、Pa)で示される場合、境界線A1は(Ga−α、Pa+β)となり、境界線A2は(Ga+α、Pa−β)となる。流量設定値α及び圧力比設定値βは、例えば図11に一例を示したマップに基づいて設定される。この図は、スロットル開度の時間変化と流量設定値α及び圧力比設定値βとの関係を示している。この図に示したように流量設定値α及び圧力比設定値βには、それぞれスロットル開度の時間変化が大きいほど小さい値が設定される。なお、この図に示した関係は、予め実験などにより求めてECU30のROMに記憶させておけばよい。上述したようにスロットル開度と吸入空気量は相関関係を有しているので、スロットル開度の時間変化に代えて吸入空気量の時間変化に応じて流量設定値α及び圧力比設定値βを設定してもよい。この処理を実行することにより、ECU30が本発明の移動禁止領域設定手段として機能する。
【0040】
次のステップS32においてECU30は、コンプレッサ10aの運転状態が移動禁止領域Z3内か否か判断する。移動禁止領域Z3内であると判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。一方、移動禁止領域Z3外であると判断した場合はステップS33に進み、ECU30は可動部18の位置が現在コンプレッサ10aの運転状態がある運転領域に対応した位置であるとか否か判断する。可動部18の位置が運転領域に対応した位置であると判断した場合は、今回の制御ルーチンを終了する。一方、可動部18の位置が運転領域に対応した位置ではないと判断した場合はステップS16に進み、ECU30は可動部18の位置が切り替わるように切替制御を実行する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0041】
この第3の形態によれば、第1運転領域Z1と第2運転領域Z2との間に移動禁止領域Z3を設け、コンプレッサ10aの運転状態がこの移動禁止領域Z3内の場合は可動部18の移動を禁止する。そのため、可動部18の位置の切り替えが連続的に発生することを防止できる。この移動禁止領域Z3の大きさはスロットル開度の時間変化が大きいほど小さく設定される。そのため、エンジン1に対して急加速が要求された場合には、可動部18の位置を迅速に切り替えることができる。これにより可動部18の位置の切り替えが遅れてコンプレッサ効率が低下することを防止できるので、エンジン1の出力トルクに段差が発生することを防止できる。
【0042】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、可動ベーンを軸線方向に駆動する駆動装置は、空気圧にて動作するアクチュエータに限定されない。例えば、電動モータを利用して可動ベーンを駆動してもよい。この場合、例えばカム機構やリンク機構を利用して電動モータの回転運動を直線運動に変換すればよい。
【符号の説明】
【0043】
1 内燃機関
3 吸気通路
10a コンプレッサ
11 コンプレッサハウジング
13 コンプレッサホイール
15 スクロール
16 ディフューザ部
19 アクチュエータ(駆動手段)
21 ベーン
30 エンジンコントロールユニット(制御手段、禁止時間設定手段、移行時間推定手段、前倒し時間設定手段、移動禁止領域設定手段)
Ax 軸線
Z1 第1運転領域
Z2 第2運転領域
Z3 移動禁止領域
A 作動ライン
Ta 移動禁止時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサホイールを内部に収容するとともに軸線回りに回転自在に支持するハウジングと、前記コンプレッサホイールの外周に配置されるように前記ハウジングに設けられた渦巻き状のスクロールと、前記コンプレッサホイールの出口側から前記スクロールに通じる通路空間として設けられたディフューザ部と、前記ディフューザ部の一部を形成する壁面内に収容される格納位置と前記ディフューザ部を横切るように前記壁面から突出する突出位置との間で移動可能に設けられた可動ベーンと、前記可動ベーンを駆動する駆動手段と、を有するコンプレッサが吸気通路に設けられた内燃機関に適用され、
前記可動ベーンを前記格納位置に移動させるべき第1運転領域と、前記第1運転領域とは異なり、前記可動ベーンを前記突出位置に移動させるべき第2運転領域と、が設定されており、
前記コンプレッサの運転状態が前記第1運転領域及び前記第2運転領域のうちの一方の運転領域から他方の運転領域に移行した場合には、所定の移動禁止時間が経過するまで前記可動ベーンの移動が禁止されるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段を備えている内燃機関の過給システム。
【請求項2】
前記第1運転領域と前記第2運転領域とは、前記可動ベーンが前記格納位置の場合と前記可動ベーンが前記突出位置の場合とで前記コンプレッサの出口の圧力、前記コンプレッサに吸入される空気の流量、又は前記コンプレッサホイールの回転速度が等しくなる前記コンプレッサの運転状態を繋いで形成される作動ラインを境界として互いに隣接するように設定されている請求項1に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項3】
前記内燃機関のスロットル開度の時間変化に基づいて前記移動禁止時間を設定する禁止時間設定手段をさらに備えている請求項1又は2に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項4】
コンプレッサホイールを内部に収容するとともに軸線回りに回転自在に支持するハウジングと、前記コンプレッサホイールの外周に配置されるように前記ハウジングに設けられた渦巻き状のスクロールと、前記コンプレッサホイールの出口側から前記スクロールに通じる通路空間として設けられたディフューザ部と、前記ディフューザ部の一部を形成する壁面内に収容される格納位置と前記ディフューザ部を横切るように前記壁面から突出する突出位置との間で移動可能に設けられた可動ベーンと、前記可動ベーンを駆動する駆動手段と、を有するコンプレッサが吸気通路に設けられた内燃機関に適用され、
前記内燃機関に対して加減速が要求された場合に、その加減速が要求された時点から前記コンプレッサの運転状態が前記可動ベーンを前記格納位置に移動すべき所定の第1運転領域及び前記可動ベーンを前記突出位置に移動すべき所定の第2運転領域のうちの一方の運転領域から他方の運転領域に移行するまでの時間を推定する移行時間推定手段と、前記移行時間推定手段が推定した時間よりも所定時間前に前記可動ベーンが前記他方の運転領域において前記可動ベーンが移動されるべき位置に移動するように前記駆動手段の動作を制御する制御手段と、を備えている内燃機関の過給システム。
【請求項5】
前記第1運転領域と前記第2運転領域とは、前記可動ベーンが前記格納位置の場合と前記可動ベーンが前記突出位置の場合とで前記コンプレッサの出口の圧力、前記コンプレッサに吸入される空気の流量、又は前記コンプレッサホイールの回転速度が等しくなる前記コンプレッサの運転状態を繋いで形成される作動ラインを境界として互いに隣接するように設定されている請求項4に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項6】
前記内燃機関のスロットル開度の時間変化に基づいて前記所定時間を設定する前倒し時間設定手段をさらに備えている請求項4又は5に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項7】
コンプレッサホイールを内部に収容するとともに軸線回りに回転自在に支持するハウジングと、前記コンプレッサホイールの外周に配置されるように前記ハウジングに設けられた渦巻き状のスクロールと、前記コンプレッサホイールの出口側から前記スクロールに通じる通路空間として設けられたディフューザ部と、前記ディフューザ部の一部を形成する壁面内に収容される格納位置と前記ディフューザ部を横切るように前記壁面から突出する突出位置との間で移動可能に設けられた可動ベーンと、前記可動ベーンを駆動する駆動手段と、を有するコンプレッサが吸気通路に設けられた内燃機関に適用され、
前記コンプレッサの運転状態が所定の第1運転領域内の場合には前記可動ベーンが前記格納位置に移動し、前記コンプレッサの運転状態が前記第1運転領域とは異なる所定の第2運転領域内の場合には前記可動ベーンが前記突出位置に移動し、前記コンプレッサの運転状態が前記第1運転領域と前記第2運転領域との間に設定された所定の移動禁止領域内の場合には前記可動ベーンの移動が禁止されるように前記駆動手段の動作を制御する制御手段を備えている内燃機関の過給システム。
【請求項8】
前記移動禁止領域は、前記可動ベーンが前記格納位置の場合と前記可動ベーンが前記突出位置の場合とで前記コンプレッサの出口の圧力、前記コンプレッサに吸入される空気の流量、又は前記コンプレッサホイールの回転速度が等しくなる前記コンプレッサの運転状態を繋いで形成される作動ラインを中心として設定されている請求項7に記載の内燃機関の過給システム。
【請求項9】
前記内燃機関のスロットル開度の時間変化に基づいて前記移動禁止領域の大きさを設定する移動禁止領域設定手段をさらに備えている請求項7又は8に記載の内燃機関の過給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−144710(P2011−144710A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4176(P2010−4176)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】