説明

内燃機関

【課題】排気行程における燃焼室の残留ガスに起因するノッキングの発生を効果的に抑制可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関(1)は、燃焼室(2)で発生した燃焼ガスを、排気バルブ(11)を介して排気通路(12)に排出する。特に、排気行程で燃焼室の内壁側から該燃焼室内に突出することにより、燃焼室に残存している燃焼ガスを冷却する金属材料からなる冷却部材(14)と、該冷却部材の突出量及び突出タイミングを制御する制御手段(18)とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において排気行程で燃焼室に残留した排気ガスを冷却することにより、ノッキングの発生を抑制可能な内燃機関の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンなどの内燃機関では、吸気通路から吸気バルブを介して燃焼室に新気を取り込み、燃焼室での爆発により発生した燃焼ガスが排気バルブを介して排気通路に排出される。燃焼室で発生した排気ガスは、排気行程においてピストンが上昇することによって燃焼室の容積が減少し、排気通路側に押し出されるように排出される。しかしながら、排気上死点においても、ピストンの頂部とシリンダヘッドとの間には少なからず隙間が残っており、燃焼室の容量は完全にゼロとはならない。そのため、当該隙間には排気通路に排出されなかった排気ガスが少なからず残留することとなる。
【0003】
このように燃焼室に残留した排気ガス(いわゆる残留ガス)は非常に高温であるため、次サイクルで燃焼室に取り込まれる新気の温度を上昇させ、これが圧縮行程にて圧縮加熱されることにより、更に高温となり、ノッキングを誘発させる要因となる。
【0004】
このように残留ガスはノッキング発生の要因となるため、残留ガスをいかに低減させるかは重要な問題である。これに対し特許文献1では、シリンダヘッドから燃焼室側に突出、及び後退可能なサブピストンを設け、点火時期後の膨張行程においてサブピストンをシリンダヘッド側に後退させることによって、燃焼室の容積を増大させ、燃焼室内の圧縮比を一時的に低減することによって、ノッキングを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−271036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1ではサブピストンを燃焼室の内側に向かって前後させることで、燃焼室の圧縮比を可変制御することにより、ノッキングの回避を図っている。しかしながら、燃焼室の容積を十分に変化させるためは、ある程度大きな体積を有するサブピストンを用いる必要がある。一方、点火時期である圧縮上死点付近ではピストンとシリンダヘッドとの間隔は狭くなっているため、燃焼室の容積がそもそも小さく、この限られた空間において燃焼室の容積を更に変化させることはサブピストンやその周辺構造との兼ね合いから、構造的に容易ではない。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、排気行程における燃焼室の残留ガスに起因するノッキングの発生を効果的に抑制可能な内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関は上記課題を解決するために、吸気バルブを介して吸気通路から吸気を導入し、燃焼室で発生した燃焼ガスを、排気バルブを介して排気通路に排出する内燃機関であって、排気行程で前記燃焼室の内壁側から該燃焼室内に突出することにより、前記燃焼室に残存している燃焼ガスを冷却する金属材料からなる冷却部材と、前記冷却部材の突出量及び突出タイミングを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、良好な熱伝導性を有する金属材料から形成された冷却部材を、排気行程時に燃焼室の内壁側から内側に向かって突出させることにより、燃焼ガス(残存ガス)が有する熱量を冷却部材に吸収させて冷却することができる。このように残存ガスの温度を低下させることで、次サイクルの圧縮行程における混合ガス温度を低下させることにより、残存ガスを実質的に軽減でき、ノッキングの効果的な抑制を行うことができる。
【0010】
本発明の一態様として、前記制御手段は、前記冷却部材の突出タイミングを排気行程の後半に設定するとよい。
仮に排気行程の前半に冷却部材を突出させて燃焼室内の燃焼ガスを冷却したとしても、その燃焼ガスの大半は排気通路側に排出されてしまい、結果的に排気行程終了時に燃焼室内に残存している燃焼ガスの温度を十分低下できない。そこで、本態様では、排気行程の後半に冷却部材を突出させることによって、排気行程終了時に燃焼室に残存した燃焼ガスの温度を効果的に低下させることができる。
【0011】
この場合、前記制御手段は、前記冷却部材の突出量の増加率が減少率に比べて大きくなるように設定するとよい。一般的に、排気行程では、燃焼室の容積は次第に減少していく。本態様では、燃焼室の容量が比較的大きい段階で、冷却部材の突出量を迅速に増大させることにより、冷却部材と燃焼室内の燃焼ガスとの接触面積を大きく確保し、冷却効果を向上させることができる。
【0012】
本発明の他の態様として、前記制御手段は、排気行程において前記冷却部材の突出量の変化率が前記排気バルブの開度の変化率と等しくなるように制御してもよい。この態様では、排気行程の初期段階から冷却部材を突出させることにより、冷却部材と燃焼室内の燃焼ガスとの接触時間を長く確保できる。そのため、冷却部材によって燃焼ガスから十分に熱吸収を行うことができ、良好な冷却効果を得ることができる。
【0013】
本発明の他の態様では、前記冷却部材は、シリンダヘッドの内壁から前記燃焼室の中央部に向けて突出するように設けられていてもよい。この態様によれば、シリンダヘッドから突出する冷却部材によって、燃焼室内に残存している燃焼ガスから熱量をシリンダヘッド側に伝達することができるので、良好な冷却効果を得ることができる。
【0014】
また本発明の他の態様では、前記冷却部材は、前記吸気バルブ及び前記排気バルブの少なくとも一方の内部に、該バルブの駆動方向と同方向に沿って突出入可能に内蔵されていてもよい。この態様によれば、シリンダヘッドなどの余分なスペースの少ない部材に冷却部材を設けることがない。特に内燃機関にとって必須部材である吸排気バルブに冷却部材を内蔵することにより、効率的なレイアウトで冷却部材を設けることができる。
【0015】
この場合、前記冷却部材は、前記吸気バルブ及び前記排気バルブの内側にそれぞれ内蔵されており、前記制御手段は、前記吸気バルブに内蔵された冷却部材の突出量が、前記排気バルブに内蔵された冷却部材の突出量に比べて大きくなるように制御するとよい。この態様によれば、吸気バルブの冷却部材を排出バルブ側より大きく突出させることによって、排気バルブを介して排気通路に排出される燃焼ガスの流路が吸気バルブ側の冷却部材の突出により妨げられることを抑制できる。そのため、燃焼ガスの排気通路への排出がスムーズになり、先の冷却効果に加えて掃気効率が向上するという効果も得られ、より良好に残留ガスの減少を図ることができる。
【0016】
また、前記冷却部材は、該冷却部材が内蔵された前記吸気バルブ又は前記排気バルブの駆動用カムと共通のカムシャフトにより駆動されるカム機構によって駆動されるとよい。この態様によれば、吸排気バルブと共通のカムシャフトによってカム機構を駆動することにより、簡易且つ効率的な構成で本発明を実現することができる。また、冷却部材をカム機構で駆動することにより、突出タイミングや突出量を簡易且つ精度良く制御することができる。
【0017】
また、前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記回転数検出手段で検出した回転数が低下するに従い、前記冷却部材の突出量を大きく設定するとよい。一般的に、内燃機関の回転数が低くなるほど、残留ガスによるノッキングが発生し易くなる傾向がある。そのため、本態様では内燃機関の回転数が低くなるに従い冷却部材の突出量を増加させることにより、残留ガスの温度冷却を促進させ、内燃機関の運転状態に応じて効果的にノッキングを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好な熱伝導性を有する金属材料から形成された冷却部材を、排気行程時に燃焼室の内壁側から内側に向かって突出させることにより、燃焼ガス(残存ガス)が有する熱量を冷却部材に吸収させて冷却することができる。このように残存ガスの温度を低下させることで、次サイクルの圧縮行程における混合ガス温度を低下させることにより、残存ガスを実質的に軽減でき、ノッキングの効果的な抑制を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施例に係るエンジンの内部構造を模式的に示す概略図である。
【図2】第1実施例に係るエンジンのバルブレイアウトをシリンダヘッド側から示す平面図である。
【図3】第1実施例に係るエンジンのバルブレイアウトの他の例をシリンダヘッド側から示す平面図である。
【図4】第1実施例における冷却部材の動作を段階毎に示す模式図である。
【図5】第1実施例における冷却部材の内部構造を示す断面図である。
【図6】第2実施例に係るエンジンの内部構造を模式的に示す概略図である。
【図7】図6のバルブ周辺の構造を駆動機構と共に拡大して示す断面図である。
【図8】吸気バルブ、排気バルブ及び冷却部材の突出タイミング及び突出量の一例を示すタイミングチャートである。
【図9】吸気バルブ、排気バルブ及び冷却部材の突出タイミング及び突出量の他の例を示すタイミングチャートである。
【図10】冷却部材の突出量とエンジンの回転数との関係を規定するマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0021】
(第1実施例)
図1は、第1実施例に係るエンジン1の内部構造を模式的に示す概略図であり、図2は、第1実施例に係るエンジン1のバルブレイアウトをシリンダヘッド3側から示す平面図である。尚、図1ではエンジンの内部構造を断面図的に示しているが、これは図2の破線Aで示すラインにおける断面構造を模式的に示したものである。
【0022】
図1に示すように、エンジン1の燃焼室2はシリンダヘッド3、ピストン4及びシリンダ5によって構成されており、ピストン4の往復運動がコンロッド6を介して不図示のクランクシャフトに伝達されるように構成されている。シリンダヘッド3の中心部には燃焼室2内の混合気に着火するための点火プラグ7が設けられている。尚、エンジン1は直噴型ガソリンエンジンであり、燃焼室2には該燃焼室2に直接燃料を噴射供給するための筒内インジェクタ8が設けられている。
【0023】
燃焼室2には吸気通路9から吸気バルブ10を介して新気が導入され、燃焼室2内にて筒内インジェクタ8から供給された燃料と混合気を形成し、燃焼した後、排気ガス(燃焼ガス)が排気バルブ11を介して排気通路12に排出される。吸気通路9には吸気を浄化するためのエアフィルタ(図不示)や吸気量を調整するためのスロットルバルブ13が設けられている。排気通路12には排気ガス中に含まれる有害成分(CO、NOxなど)を除去するための三元触媒(図不示)が設けられている。
【0024】
冷却部材14は、シリンダヘッド3の内壁から燃焼室2の内側に向かって突出する金属材料からなる棒状部材である。図2に示すように、冷却部材14はシリンダヘッド3の中央に設けられた点火プラグ7の周りを囲むように円筒形状を有している。
【0025】
図3は、第1実施例に係るエンジン1のバルブレイアウトの他の例をシリンダヘッド3側から示す平面図である。この例では、吸気バルブ10を2つ、排気バルブ11を1つ有する3バルブレイアウトを採用することで、残ったスペースに冷却部材14を設けるようにしている。この場合、図2の例に比べて排気バルブ11が一つ少なくなるものの、シリンダヘッド3に冷却部材14を設けるためのスペースを広く確保できるので、容積が大きく大熱容量の冷却部材14を設けることができる点で、より高い冷却効果が期待できる。
【0026】
再び図1に戻って、吸気バルブ10及び排気バルブ11は、それぞれに対応して設けられた可変バルブタイミング機構(吸気VVT15、排気VVT16)によって、開度及び開閉タイミングが制御される。この吸気VVT15、排気VVT16の制御は、次に説明するECU18によって実施される。
【0027】
また、ピストン4のレシプロサイクルに応じて回転駆動されるコンロッド6の近傍には、コンロッド6の回転角を検出することによりエンジン回転数を計測可能な回転数センサ19(本発明の「回転数検出手段」の一例)が設けられており、その検出値もまたECU18に送信されて制御に用いられる。
【0028】
ECU18はエンジン1の制御全体を統括するコントロールユニットであり、エンジン1に設けられた各種センサ(例えば回転数センサ19)から取得した検出値に基づいて、筒内インジェクタ8の燃料噴射時期や燃料噴射量、点火プラグ7の着火時期、各種VVT(吸気VVT15、排気VVT16)の動作タイミングや動作量、並びに、冷却部材14を駆動するための図不示の駆動機構を駆動することにより冷却部材14の突出量や突出タイミングを総合的に制御する。
【0029】
続いて図4を参照して、冷却部材14の動作について具体的に説明する。図4は第1実施例における冷却部材14の動作を段階毎に示す模式図である。冷却部材14は図不示の電動モータ又は油圧機構などの動力源によって回転駆動される回転部21と、該回転部21に連結されたアーム22とからなるクランク駆動機構20によって、鉛直方向(典型的には円筒形状を有する冷却部材14の中心線方向)に沿って突入出可能に構成されている。
【0030】
図4(a)は冷却部材14がシリンダヘッド3内に収納されることにより、燃焼室2に突出していない通常時の状態を示している。図4(a)の状態では、クランク駆動機構20のアーム22が燃焼室2から離れた位置にあり、冷却部材14は引き上げられてシリンダヘッド3内に収納されている。このとき、冷却部材14と燃焼室2内の燃焼ガスとの接触面積が小さく、冷却効果は少ない、或いは殆どない。尚、シリンダヘッド3に収納された際に冷却部材14によって意図しない冷却が行われないように、冷却部材14の先端(シリンダヘッド3に収納された際に燃焼室2に露出する面)に断熱材を施工してもよい。
【0031】
続いて図4(b)に示すように、回転部21が反時計回りに回転駆動されると、アーム22は燃焼室2に近い位置に移動し、これに伴って冷却部材14は燃焼室2の中央部に向かって押し出されるように露出する。すると、冷却部材14と燃焼室2内の燃焼ガスとの接触面積が増大し、冷却部材14に燃焼ガスが有する熱量が吸収されることにより、冷却効果が発揮される。これにより、燃焼室2の残存ガスの温度が低下し、次サイクルの圧縮行程における混合ガス温度を低下させることができるので、実質的に残存ガスを低減することができる。
【0032】
また、所定容積を有する冷却部材14を燃焼室2の内側に向かって突出させることによって燃焼室2の容積が減少するので、上述の残存ガスの冷却効果に加えて、残存ガスの排出促進効果も得ることができる。このように本発明では、残存ガスの冷却と、排気通路12への排気を促進させることによって、ノッキングの発生を効果的に抑制することができる。
【0033】
そして図4(c)に示すように、回転部21が時計回りに回転駆動されることにより、アーム22が燃焼室2から離れた位置に戻ると、冷却部材14は再びシリンダヘッド3の内部に収納されて、図4(a)の状態に戻る。このような冷却部材14の動作は、クランク駆動機構20がECU18によって制御されることによって実現され、図4(a)から図4(c)に示したサイクルが任意の周期で繰り返される。
【0034】
図5は第1実施例における冷却部材14の内部構造を示す断面図である。冷却部材14の内部には、良好な熱伝導性を有する物質であるナトリウムを封入するための空洞部14aが設けられている。該空洞部14aに封入されたナトリウムは、冷却部材14が燃焼室2に突出した際に燃焼ガスから吸収した熱量によって気化し、冷却部材14がシリンダヘッド3内に格納されて冷却された際に、その周辺部材に放熱することにより冷却されることにより再び液化する。このような気化及び液化サイクルを繰り返すことによって、冷却部材14は残存ガスから熱量を吸収して、冷却性能を向上させることができる。
【0035】
(第2実施例)
図6は第2実施例に係るエンジン1の内部構造を模式的に示す概略図である。尚、第2実施例では上述の第1実施例と共通する箇所については共通の符号を付すこととし、重複する説明は適宜省略することとする。
【0036】
第2実施例における冷却部材14は、吸気バルブ10及び前記排気バルブ11のそれぞれに内蔵されており、これらのバルブの駆動方向と同方向に沿って突出入可能に形成されている。このように冷却部材14を設けることにより、上記第1実施例のように(図2を参照)シリンダヘッド3などの余分なスペースの少ない部材に冷却部材14を設ける必要が無くなる点で有利である。特にエンジン1にとって必須部材である吸気バルブ10や排気バルブ11に冷却部材14を内蔵することにより、効率的なレイアウトで冷却部材14を設けることが可能となる。
【0037】
尚、本実施例では吸気バルブ10及び排気バルブ11の双方に冷却部材14を内蔵した例について説明するが、どちらか一方のバルブにのみ冷却部材14を内蔵するようにしてもよい。この場合、吸気バルブ10側にだけ冷却部材14を内蔵することにより、排気バルブ11側において排気通路12に排出される燃焼ガスの流路を、冷却部材14によって妨げなくなるので、燃焼ガスの排気通路12への排出がよりスムーズになり、掃気効率をアップして、残留ガスの低減を図るとより好ましい。
【0038】
ここで図6(a)は冷却部材14が燃焼室2の内側に向かって突出された状態を示しており、図6(b)は冷却部材14が燃焼室2に突出していない通常時の状態を示している。図6(a)のように冷却部材14が突出している状態では、冷却部材14と燃焼室2内の残存ガスとの接触面積が大きくなることによって、残存ガスが有する熱量が冷却部材14に吸収されることによって良好な冷却効果が得られる。一方、図6(b)のように冷却部材14がバルブに収納されると、冷却部材14と燃焼室2内の残存ガスとの接触面積が減少し、冷却効果は少ない、或いは殆どなくなる。尚、冷却部材14がバルブに収納された際に意図しない冷却効果が発揮されてしまわないように、冷却部材14の先端(バルブに収納された際に燃焼室2に露出する面)に断熱材を施工してもよい。
【0039】
図7は図6のバルブ周辺の構造を駆動機構と共に拡大して示す断面図である。駆動機構30は、バルブ駆動用のカムシャフト31と、該カムシャフトに連結されたバルブ駆動用カム32及び冷却部材駆動用カム33とを含んでなる。バルブ駆動用カム32及び冷却部材駆動用カム33は、それぞれ後述する吸気バルブ10、排気バルブ11及び冷却部材14の突出タイミングや突出量の推移に応じて、それに適した形状のカム形状を有している。
【0040】
バルブ駆動用カム32及び冷却部材駆動用カム33はカムシャフト31の回転に伴って、それぞれの径が変化する。図7(a)はバルブ10,11及び冷却部材14が収納された状態を示しており、図7(b)はバルブ10,11及び冷却部材14が突出された状態を示している。バルブ10,11はスプリング34によってバルブ駆動用カム32側に付勢されており、カムシャフト31の回転に伴ってバルブ駆動用カム32の径が変化することによって、バルブ10,11の突出量が可変に制御される。冷却部材14はスプリング35によって冷却部材駆動用カム33側に付勢されており、カムシャフト31の回転に伴って冷却部材駆動用カム33の径が変化することによって、冷却部材14の突出量が可変に制御される。
【0041】
バルブ駆動用カム32と冷却部材駆動用カム33は、同一のカムシャフト31に連結されており、冷却部材駆動用カム33がバルブ駆動用カム32間に挟まれるように収納されている。このように駆動機構30を設けるように、冷却部材14を各バルブに内蔵した場合であっても、比較的簡易な構成で実現することができる。特に、冷却部材14をカム駆動することができるので、カム形状の設計によってその駆動制御を精度よく行うことができる点で有利である。
【0042】
尚、本実施例では吸気バルブ10側と排気バルブ11側に内蔵された冷却部材14をそれぞれ独立に制御できるように構成することが好ましいため、DOHC形式を採用することが好ましい。
【0043】
尚、図7に示すように、本実施例における冷却部材14も第1実施例と同様に、内部に空洞部14aを形成しナトリウムが封入されることにより、冷却性能の向上が図られている。
【0044】
(冷却部材の制御方法)
続いて図8から図10を参照して、上述の第1実施例及び第2実施例に示す冷却部材の突出タイミング及び突出量の制御方法について説明する。
【0045】
図8は、第1実施例及び第2実施例における吸気バルブ10、排気バルブ11及び冷却部材14の突出タイミング及び突出量の一例を示すタイミングチャートである。吸気バルブ10、排気バルブ11及び冷却部材14の駆動タイミング及び駆動量は、それぞれECU18によって電子制御的に制御されている。エンジン1は4サイクルガソリンエンジンであり、図8の横軸は各行程(膨張行程、排気行程、吸気行程、圧縮行程)を示している。図8では1サイクル分を代表的に示しており、実際には同様のサイクルが繰り返されている。
【0046】
まず膨張行程では、燃焼室2において混合気が燃焼した後(即ち膨張行程の後半において)、燃焼で発生した排気ガスを排気通路12側に排出するために、排気バルブ11を開き始める(t=t1)。そして排気バルブ11の開度を次第に増加させ、排気行程にて最大値に達する。その後、排気バルブ11の開度は排気行程の終了時に向かって(正確には、後述するように吸気バルブ10との間にバルブオーバーラップが設けられているので吸気行程のt=t3に至るまで)次第に減少していく。吸気行程では(正確には排気バルブ11との間にバルブオーバーラップが設けられているので吸気行程に移行する直前にて)、燃焼室2に新気を取り入れるために吸気バルブ10を開き始める(t=t2)。吸気バルブ10の開度は吸気行程において最大値に達し、その後、圧縮行程のt=t4に向って次第に減少する。
【0047】
図8の例では特に、吸排気が有する慣性の影響を考慮して、吸気バルブ10と排気バルブ11とが共に開いているバルブオーバーラップ期間(図8の期間t2〜t3)を設けることによって、吸排気効率を向上させている。このオーバーラップ期間は排気行程と吸気行程との境界をまたぐように設けられており、その境界はピストン4の排気上死点に対応するように設定されている。
【0048】
図8では、冷却部材14の突出量の推移を一点鎖線で示している。ECU18は、冷却部材14の突出タイミングを排気行程の後半に設定している。仮に排気行程の前半に冷却部材14を突出させて燃焼室2内の燃焼ガスを冷却したとしても、その燃焼ガスの大半は排気通路12側に排出されてしまい、結果的に排気行程終了時に燃焼室2内に残存している燃焼ガスの温度を効果的に低下させることができない。そこで、本態様では、排気行程の後半に冷却部材14を突出させることによって、排気行程終了時に燃焼室2に残存した燃焼ガスの温度を低下させることができる。
【0049】
この例では特に、ECU18は冷却部材14の突出量の増加率が減少率に比べて大きくなるように設定している。一般的に、排気行程では、燃焼室2の容積は次第に減少していく。本態様では、燃焼室2の容量が比較的大きい段階で、冷却部材14の突出量を迅速に増加させることにより、温度の低い状態にある冷却部材14と燃焼室2内の燃焼ガスとの接触面積を大きく確保することで冷却を促進させ、残留ガスの温度を効果的に低下させることができる。
【0050】
図9は、第1実施例及び第2実施例における吸気バルブ10、排気バルブ11及び冷却部材14の突出タイミング及び突出量の他の例を示すタイミングチャートである。この例では、ECU18は排気行程において冷却部材14の突出量の変化率が排気バルブ11の開度の変化率と等しくなるように制御する。このように排気バルブ11が開き始めるタイミングと同時に冷却部材14の突出タイミングを設定することにより、冷却部材14と燃焼室2内の燃焼ガスとの接触時間を長く確保できる。そのため、冷却部材14によって燃焼ガスから十分に熱吸収を行うことができ、良好な冷却効果を得ることができる。
【0051】
尚、上記第2実施例において冷却部材14を吸気バルブ10及び排気バルブ11の双方に内蔵した場合には、吸気バルブ10に内蔵された冷却部材14の突出量が、排気バルブ11に内蔵された冷却部材14の突出量に比べて大きくなるように制御するとよい。このように吸気バルブ10の冷却部材14を排出バルブ11側より大きく突出させることによって、排気バルブ11を介して排気通路に排出される燃焼ガスの流路が吸気バルブ10側の冷却部材14の突出により妨げられることを抑制することができる。そのため、燃焼ガスの排気通路12への排出がスムーズになり、掃気効率アップによる残留ガスの減少を図ることができる。
【0052】
図10は、本発明に係るエンジン1において冷却部材14の突出量とエンジン1の回転数との関係を規定するマップの一例である。図10の横軸は回転数センサ19によって検出されるエンジン回転数を示しており、縦軸は冷却部材14の突出量を示している。
【0053】
冷却部材14の突出量は、ECU18によってエンジン1の回転数が低下するに従って増加するように制御されている。一般的に、エンジン1の回転数が低くなるほど、残留ガスによるノッキングが発生し易くなる傾向がある。そのため、本態様ではエンジン1の回転数が低くなるに従い突出量を増加させることにより、残留ガスの排出量を促進させ、ノッキングのより効果的な防止を図ることができる。
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、良好な熱伝導性を有する金属材料から形成された冷却部材14を、排気行程時に燃焼室2の内側に向かって突出させることにより、排気行程時に燃焼室2に残存している燃焼ガス(残存ガス)を冷却することができる。このように残存ガスの温度を低下させることで、次サイクルの圧縮行程における混合ガス温度を低下させることができる。また、冷却部材14を突出させることによっても燃焼室2の容積が減少するので、上述の残存ガスの冷却と共に残存ガスの排出を促進でき、ノッキングの発生を効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、内燃機関において排気行程で燃焼室に残留した排気ガスを冷却することにより、ノッキングの発生を抑制可能な内燃機関に利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン
2 燃焼室
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 シリンダ
6 コンロッド
7 点火プラグ
8 筒内インジェクタ
9 吸気通路
10 吸気バルブ
11 排気バルブ
12 排気通路
13 スロットルバルブ
14 冷却部材
15 吸気用VVT
16 排気用VVT
18 ECU
19 回転数センサ
20 クランク駆動機構
21 回転部
22 アーム
30 駆動機構
31 カムシャフト
32 バルブ駆動用カム
33 冷却部材駆動用カム
34,35 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブを介して吸気通路から吸気を導入し、燃焼室で発生した燃焼ガスを、排気バルブを介して排気通路に排出する内燃機関であって、
排気行程で前記燃焼室の内壁側から該燃焼室内に突出することにより、前記燃焼室に残存している燃焼ガスを冷却する金属材料からなる冷却部材と、
前記冷却部材の突出量及び突出タイミングを制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記制御手段は、前記冷却部材の突出タイミングを排気行程の後半に設定することを特徴する請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記制御手段は、前記冷却部材の突出量の増加率が減少率に比べて大きくなるように設定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制御手段は、排気行程において前記冷却部材の突出量の変化率が前記排気バルブの開度の変化率と等しくなるように制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記冷却部材は、シリンダヘッドの内壁から前記燃焼室の中央部に向けて突出するように設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記冷却部材は、前記吸気バルブ及び前記排気バルブの少なくとも一方の内部に、該バルブの駆動方向と同方向に沿って突出入可能に内蔵されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記冷却部材は、前記吸気バルブ及び前記排気バルブの内側にそれぞれ内蔵されており、
前記制御手段は、前記吸気バルブに内蔵された冷却部材の突出量が、前記排気バルブに内蔵された冷却部材の突出量に比べて大きくなるように制御することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関。
【請求項8】
前記冷却部材は、該冷却部材が内蔵された前記吸気バルブ又は前記排気バルブの駆動用カムと共通のカムシャフトにより駆動されるカム機構によって駆動されることを特徴とする請求項6又は7に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記回転数検出手段で検出した回転数が低下するに従い、前記冷却部材の突出量を大きく設定することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−40571(P2013−40571A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176473(P2011−176473)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】