説明

内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法および成形装置

【課題】蒸着面が汚染されることがなく、また在庫管理も格別に必要としない、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】その内部にターゲット電極のような蒸着要素を備えた蒸着用凹部(3、4)が設けられている固定型(1)と、スライド可能な可動金型(22、30)とを使用する。本体部と蓋体をその開口部の周囲に接合部を有するように1次成形する。縦スライド金型(30)に残っている状態の本体部を蒸着用凹部(3、4)により密に覆ってから蒸着する。次いで金型(1、30)に残っている蒸着された本体部と蓋体とを整合させて型締めし、その接合部に溶融樹脂を射出して一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の半中空体の開口部が接合されて一体化された、少なくとも一方の半中空体の内表面には薄膜が蒸着されている中空成形品の成形方法およびこの成形方法の実施に使用される成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空体の内表面の一部に数μmオーダの薄膜を有する成形品として、例えば車両に装備されているフロントランプ、テールランプ等が挙げらる。このようなランプは、電球が取り付けられる凹状の本体部と、この本体部の開口部に一体的に取り付けられているレンズ部とからなっている。本体部は、例えば射出成形により成形され、そして外表面等の不要箇所をマスキングして蒸着専用の真空タンク中に専用のハンガーを使用して吊り下げ、次いで後述するような蒸着方法により薄膜が形成されている。そして、再び金型にセットして、別途成形されているレンズ部と整合させて射出成形により接合一体化されている。
【0003】
本体部のような基板の表面に薄膜を形成する蒸着方法は従来周知で、例えば基板とターゲットを対向させておき、数Pa〜数10Pa程度のアルゴンガス雰囲気中でターゲットに数kVの負の電圧を印加し、そして放電させて薄膜を形成するスパッタリング方法、真空容器の中に基板と蒸発源とを収納して成幕する真空蒸着法、基板に数kVの負の電圧を印加し数Paのアルゴンガスの圧力下で真空蒸着をするイオンプレーティング方法等が知られ、また化学蒸着法も知られている。
【0004】
【特許文献1】特公平2−38377号
【特許文献2】特許第3326752号
【特許文献3】特許第3047213号
【0005】
特許文献1には、射出成形による中空成形品の成形方法が示されている。すなわち、固定金型とスライド金型とにより構成されている一対のキヤビティにより一対の1次半成形品をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形と、一方の1次半成形品は固定金型の方に、他方の1次半成形品はスライド金型の方に残るようにして型を開き、そしてスライド金型を一対の1次半成形品の接合部が整合する位置へスライドさせ、次いで型締めする工程と、その後接合部に溶融樹脂を射出して接合する2次成形とからなる中空成形品の成形方法が示されている。また、特許文献2には、特許文献1に示されているような成形方法において、1次成形時に一方の1次半成形品の接合部すなわち突合部の内側にガイド部を一体的に成形し、2次成形のために、他方の1次半成形品の突合部を、一方の1次半成品の突合部に嵌合するとき、他方の1次半成形品の突合部を一方の1次半成形品の突合部のガイド部により案内させるようにした成形方法が示されている。また、特許文献3には、上記のようにして中空成形品を成形すると、2次成形時に突合部分の射出充填点における接線となす角度が90°より小さいようにして射出充填する成形方法が示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような形成方法によると、前もって基板を例えば射出成形により成形し、そして真空タンク中へ搬入して蒸着しなければならないので、問題も多い。例えば、基板は前もって成形され保管されるようになっているので、保管取扱中に蒸着する表面に手あか、塵埃等が付着し、蒸着不良を起こすことがある。これを避けるためには、取り扱いに最大限の注意を払わなければならないので、コスト高になる。また、前もって成形される基板は一旦保管されるようになっているので、在庫管理が必要となる問題もある。さらには、基板を一旦金型から取り出して蒸着し、そして再度金型にインサートして接合しなければならず、生産性が悪い。
一方、特許文献1に示されている射出成形方法によると、各工程が自動化でき中空成形品を量産できるという利点があり、また複雑な形状の中空成形品も製造できる利点もある。また、特許文献2に記載の発明によると、突合部に多少の変形が生じても、2次成形時に突合部を密に突き合わせることができ、それにより2次成形用の樹脂が漏れない効果が得られる。さらには、特許文献3に記載の発明によると、接合強度が大きく、2次成形用の溶融樹脂の射出箇所が少なくても接合できる特徴を有し、これらの発明は、現在も有効に実施されている。しかし、前記した成形方法によっては中空成形品の内表面に数μmオーダの薄膜を成形することはできない。
本発明は、上記したような従来の問題点を解決した成形方法を提供しようとするもので、具体的には蒸着面が汚染されることがなく、それ故蒸着不良による品質の低下がなく、また在庫管理も格別に必要としない、さらには自動成形も容易な、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法およびこの成形方法の実施に使用される成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、固定型とスライド可能な可動型とにより成形される本体部の内表面を、前記可動金型の凹部に残した状態で、該本体部をその内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている蒸着用チャンバーで覆って、金型内で蒸着するように構成される。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、固定金型とスライド可能な可動金型とを使用して、一対の半中空体をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形工程と、前記1次成形工程で成形された一対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で、前記スライド可能な可動金型を所定位置へ駆動して、一対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定金型に設けられ、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素を備えた蒸着用凹部で覆って蒸着する蒸着工程と、前記蒸着工程により、少なくとも一方の半中空体が蒸着された一対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で前記スライド可能な可動金型を、前記一対の半中空体の開口部が整合する位置へ駆動して型締めし、そして前記一対の半中空体を、その接合部に溶融樹脂を射出して一体化する2次成形とから成形品を成形するように構成され、請求項2に記載の発明は、固定金型とスライド可能な可動金型とを使用して、対となる複数対の半中空体をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形工程と、前記1次成形工程で成形された対となる複数対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で、前記スライド可能な可動金型を所定位置へ駆動して、前記対となる複数対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定金型に設けられ、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素を備えた蒸着用凹部で覆って蒸着する蒸着工程と、前記蒸着工程により、少なくとも一方の半中空体が蒸着された対となる複数対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で前記スライド可能な可動金型を、前記対となる複数対の半中空体の開口部が整合する位置へ駆動して型締めし、そして前記対となる複数対の半中空体を、それぞれの接合部に溶融樹脂を射出して一体化する2次成形とから複数個の成形品を同時に成形するように構成され、そして請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の成形方法において、1次成形工程で対となる半中空体をそれぞれ異なる樹脂材料で成形するように構成される。
請求項4に記載の発明は、一対の半中空体の開口部の周囲が接合されて一体化された、少なくとも一方の半中空体の内表面には薄膜が蒸着されている中空成形品の成形装置であって、前記成形装置は、固定型と可動型とからなり、前記固定型の方には前記一対の半中空体を成形するためのコアと凹部と、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている第1、2の蒸着用凹部とが所定の間隔をおいて設けられ、前記可動型は、横スライド金型と縦スライド金型とからなり、前記横スライド金型には前記固定型の凹部と共働するコアが、前記縦スライド金型には前記固定型のコアと共働する第1、2の凹部が設けられ、前記第1、2の蒸着用凹部は前記縦スライド金型に設けられている第1、2の凹部をそれぞれカバーする大きさになっているように構成され、請求項5に記載の発明は、対となる半中空体の開口部の周囲が接合されて一体化された、少なくとも一方の半中空体の内表面には薄膜が蒸着されている複数個の中空成形品を同時に成形する成形装置であって、前記成形装置は、固定型と可動型とからなり、前記固定型の方には前記対となる半中空体を成形するための複数個のコアと複数個の凹部と、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている第1、2の蒸着用凹部とが所定の間隔をおいて設けられ、前記可動型は、横スライド金型と縦スライド金型とからなり、前記横スライド金型には前記固定型の複数個の凹部とそれぞれ共働する複数個のコアが、前記縦スライド金型には前記固定型の複数個のコアとそれぞれ共働する複数個の第1、2の凹部とが設けられ、前記第1、2の蒸着用凹部は前記縦スライド金型に設けられている複数個の第1、2の凹部をそれぞれカバーする大きさになっているように構成される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によると、固定金型とスライド可能な可動金型とを使用して、一対の半中空体をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形工程と、前記1次成形工程で成形された一対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で、前記スライド可能な可動金型を所定位置へ駆動して、一対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定金型に設けられ、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素を備えた蒸着用凹部で覆って蒸着するので、すなわち一対の半中空体を金型から取り出すことなく、蒸着用凹部で覆って金型内で蒸着するので、従来のように蒸着する表面が手あか、塵埃等により汚染されることはない。したがって、蒸着状態の良好な高品質の内表面に薄膜を有する中空成形品を得ることができる。また、金型内に残っている状態で金型内で蒸着するので、半中空体の在庫管理が不要となる。また、本発明によると、少なくとも一方の半中空体が蒸着された一対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態でスライド可能な可動金型を、一対の半中空体の開口部が整合する位置へ駆動して型締めし、そして一対の半中空体を、その接合部に溶融樹脂を射出して一体化するので、すなわち金型により成形するので、内表面に薄膜を有する複雑な形状の中空成形品も容易に自動成形できる。
また、他の発明によると、1次成形工程により対となる複数対の半中空体を成形し、蒸着工程においても対となる複数対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を蒸着し、さらには2次成形工程において対となる複数対の半中空体を一体化するので、上記のような効果に加えて、内表面に薄膜を有する複数個の中空成形品を同時に得ることができ、成形効率が向上する効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、碗状の本体部と、この本体部の開口部を封鎖する板状の蓋体とを射出成形により成形し、そして金型内で本体部の内表面に薄膜を形成し、次いで本体部の開口部を蓋体で封鎖して内部に薄膜を有する成形品の成形例について説明する。始めに、本発明の成形装置の実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態に係わる成形装置を模式的に示す斜視図で、その(イ)はパーテイングライン側から見た固定型1の、そしてその(ロ)は同様にパーテイングライン側から見た可動型20の斜視図である。固定型1のパーテイングラインP面は、図示の実施の形態では、上下方向に延びた第1の成形面2と水平方向に延びた第2の成形面10とから略クロス状に形成されている。
【0011】
第1の成形面2には、上下方向に所定の間隔をおいて真空チャンバーを構成する第1、2の蒸着用凹部3、4が形成されている。これらの蒸着用凹部3、4の開口部は、後述する本体成形用凹部をカバーできる大きさになって、その周囲にはシール手段としてのOリング5が設けられている。このように構成されている蒸着用凹部3、4の内部には、例えばスパッタリング法で蒸着するときはターゲット電極、基板電極等の蒸着要素が設けられ、また真空吸引管、アルゴンガス供給管等が開口している。そして、これらの電極、真空吸引管の開口部等には、ホース6、7により真空装置8、不活性ガス供給装置9、あるいは図示されない電源装置等に接続されている。
【0012】
水平方向の第2の成形面10の、第1、2の蒸着用凹部3、4と上下方向に整合する位置に、碗状の本体部を成形するための本体成形用コア11が設けられている。また、本体成形用コア11と所定の間隔をおいて蓋体を成形するための蓋体成形用凹部12が設けられている。本体成形用コア11はパーテイングライン面Pから外方へ突き出ている。これにより、本体部は碗状に形成される。これに対し、蓋体成形用凹部12はパーテイングライン面Pから僅かに窪んでいる。これにより、板状の蓋体が成形されることになる。このようなコア11の周囲には、詳しくは図3により説明するような接合部を本体部と一体的に成形するための凸部が設けられているが、図1には示されていない。
【0013】
可動型20は、可動枠21に対して水平方向にスライド的に駆動可能に取り付けられている横スライド金型22と、横スライド金型22に対して上下方向にスライド的に駆動可能に取り付けられている縦スライド金型30とからなっている。これらの金型22、30のパーテイングライン面Pは同一面を構成している。したがって、図1の(ロ)に示されている実施の形態では、横スライド金型22は横方向に分割された形になって、縦スライド金型30は分割された間を図1の(ロ)において上下方向にスライドするようになっている。このように構成されている横スライド金型22は、可動枠21から水平方向に延びている支持部材23に、その一端部が取り付けられているアクチュエータ24により、縦スライド金型30と一体となって水平方向に、また縦スライド金型30は垂直方向に延びている門型の支持部材31に、その一端部が取り付けられているアクチュエータ32により、横スライド金型22に対して独立してそれぞれ縦方向に駆動されるようになっている。
【0014】
上記のように構成されている可動型20の横スライド金型22のパーテイングライン面Pの、縦スライド金型30を挟んだ一方には、蓋体を成形するための蓋体成形用コア25が、また他方には型締めされるとき本体成形用コア11を逃すための逃げ凹部26がそれぞれ形成されている。蓋体成形用コア25の周囲には、本体成形用コア11と同様に、接合部を蓋体と一体的に成形するための凸部が設けられているが、図1の(ロ)には示されていない。縦スライド金型30のパーテイングライン面Pの、固定型1に設けられている第1、2の蒸着用凹部3、4に対応して、第1、2の本体成形用凹部33、34が形成されている。
【0015】
上記した固定型1と可動型20とを使用して、1次成形により碗状の本体部と板状の蓋体とを成形し、そして2次成形により本体部と蓋体を一体化して中空成形品を成形することができるが、その成形の原理を説明するための金型の例が模式化されて図3に示されている。すなわち、固定型40とスライド金型45とからなり、固定型40のパーテイングライン面P側の上方の位置には、本体を成形するための、所定深さの本体成形用凹部41が形成され、下方の位置には比較的低い、蓋体成形用コア42が形成されている。このコア42の周囲には所定の間隔をおいて小コア43が形成されている。この小コア43により、蓋体の開口部の周囲に接合用の段部が形成される。一方、スライド金型45のパーテイングライン面P側には、固定型40の本体成形用凹部41と対をなす本体成形用コア46が設けられている。このコア46の周囲にも所定の間隔をおいて小コア47が形成されている。この小コア47により、本体の開口部の周囲に接合用の段部が形成される。また、本体成形用コア46の下方には、固定型40の蓋体成形用コア42と対をなす、比較的浅い蓋体成形用凹部48が設けられている。スライド金型45の、本体成形用コア46と蓋体成形用凹部48との間には、1次成形用のスプル50が設けられ、この1次成形用のスプル50はランナ51およびゲート52を介して本体成形用凹部41と蓋体成形用凹部48とに連通している。また、1次成形用のスプル50の下方には2次成形用のスプル53が設けられている。なお、図3には、スライド金型45を上下方向にスライド的に駆動するアクチュエータ、型締装置、成形品を突き出すエジェクタ装置、射出装置等は示されていない。
【0016】
上記金型40、45を使用して中空成形品を次のようにして成形することができる。すなわち、図3の(イ)に示されている第1の位置で型締めする。そうすると、固定型40の本体成形用凹部41とスライド金型45の本体成形用コア46とにより本体成形用キャビテイKhが構成される。また、固定型40の蓋体成形用コア42とスライド金型45の蓋体成形用凹部48とにより蓋体成形用キャビテイKfが構成される。1次成形用のスプル50から溶融樹脂を射出する。そうすると、図3の(ロ)に示されているように、溶融樹脂はランナ51およびゲート52を通って、本体成形用キャビテイKhと蓋体成形用キャビテイKfとに充填される。この1次成形により、本体Hと蓋体Fとがその開口部の周囲に接合用の半溝M’を有するように成形される。このような半溝M’は、図3の(ハ)に示されている。
【0017】
冷却固化を待って、本体Hは固定型40の方に、蓋体Fはスライド金型45の方に残った状態でに金型を開く。そうして、本体Hと蓋体Fとの開口部が整合する2次成形位置へスライド金型45をスライドさせる。このように整合した位置が図3の(ハ)に示されている。この整合位置で型締めする。そうすると、図3の(ニ)に示されているように本体Hと蓋体Fの突き合わせ部の外周部に半溝M’、M’により接合用のキャビテイMが構成される。2次成形用のスプル53から、本体成形用の樹脂と同じ樹脂あるいは異なる樹脂を射出する。この2次成形により本体Hと蓋体Fは一体化され、中空成形品が得られる。
【0018】
内表面に薄膜を有する中空成形品も、上記のように1次成形により本体部と蓋体と成形し、そして本体部の内表面または本体部の内表面と蓋体の内表面に薄膜を形成し、次いで2次成形により本体部と蓋体の接合部を突き合わせ溶融樹脂を射出して一体化することにりよ得られる。前述した図1に示されている実施の形態では本体成形用コア11、蓋体成形用コア25、第1、2の本体成形用凹部33、34、蓋体成形用凹部12等も、上記図3に示されているような形状に構成され、あるいは1次成形品の接合部は特許文献2、3に示されているような構造になっているが、図1には形状を簡略化して模式的に示されている。
【0019】
次に、模式的な図2も参照しながら、図1に示されている実施の形態の固定型1と可動型20とを使用して内表面に薄膜を有する中空成形品の成形例について説明する。なお、図2において空白の楕円は未充填のキャビテイを、丸印が付けられている楕円は充填が終わったキャビテイあるいは1次成形により得られた半成形品を、斜線が施されている楕円は蒸着が終わった半成形品を、そして斜線の周りの太い線で描かれている楕円は内表面が蒸着された中空成形品を、それぞれ示している。また、図2にはスライド的に駆動される可動型20のみが示され、固定的で動きのない固定型1は、示されていない。
【0020】
可動型20を第1の成形位置へスライドさせる。また、縦スライド金型30を下方の第1の成形位置へスライドさせる。そうすると、固定型1の本体成形用コア11に、縦スライド金型30の第1の本体成形用凹部33が整合し、碗状の本体部を成形するためのキャビテイが構成される。型締めして、一次成形用の溶融樹脂を射出する。これにより、第1番目の本体部が成形される。この状態が図2の(イ)に示されている。
【0021】
ある程度の冷却固化を待って可動型20を開いて、縦スライド金型30を図2の(ロ)に示されている上方の第2の成形位置へ駆動する。そうすると、固定型1の蓋体成形用凹部12に横スライド金型22の蓋体成形用コア25が整合する。また、固定型1の本体成形用コア11に、縦スライド金型30の第2の本体成形用凹部34が整合する。このように整合した状態が図2の(ロ)に示されている。型締めする。そうすると、固定型1の蓋体成形用凹部12と横スライド金型22の蓋体成形用コア25とよにより蓋体成形用のキャビテイが構成され、同時に本体成形用コア11と第2の本体成形用凹部34とにより第2番目の本体成形用のキャビテイが構成される。これらのキャビテイに1次成形用の溶融樹脂を射出する。この1次成形により、図2の(ハ)に示されているように、第2番目の本体部と第1番目の蓋体とが同時に成形される。
【0022】
冷却固化を待って、可動型20を開いて縦スライド金型30を、図2の(ニ)に示されているように、下方の第1の蒸着位置へ駆動する。そうすると、固定型1の第1の蒸着凹部3に縦スライド金型30の第1の本体成形用凹部33が整合する。すなわち、第1の本体成形用凹部33に残っている第1番目の本体部が、第1の蒸着凹部3に整合し、その内部に収まる。次いで、蒸着できる程度に型締めする。
【0023】
型締めされたので、第1の蒸着用凹部3のOリング5は縦スライド金型30のパーテイングラインP面に密着し蒸着できる状態になっている。第1の蒸着用凹部3内を、例えば真空源と不活性ガス供給源とを駆動して数Pa〜数10Pa程度のアルゴンガス雰囲気にする。そして、ターゲットには負の電圧を、本体部には正の数kVの電圧を印加し、そして放電させ本体部の内表面に蒸着する。蒸着が終わった状態が、図2の(ニ)に示されている。縦スライド金型30を、図2の(ホ)に示されているように、左方の2次成形位置へ駆動する。そうすると、蒸着が終わって第1の本体成形用凹部33に残っている第1番目の本体部が、固定型1の蓋体成形用凹部12に残っている蓋体に整合する。型締めして、2次成形用の溶融樹脂を射出する。これにより、本体部と蓋体は開口部で接合され一体化される。この状態が図2の(ホ)に示されている。可動型20を開いて本体部の内表面に薄膜を有する中空成形品を取り出す。成形品を取り出されたので、図2の(ヘ)に示されているように、縦スライド金型30の第1の本体成形用凹部33は空洞になっている。
【0024】
成形品を取り出して、型締めする。そうすると、本体成形用コア11と第1の本体成形用凹部33とで第3番目の本体部を成形するためのキャビテイと、固定型1の蓋体成形用凹部12と横スライド金型22の蓋体成形用コア25とで蓋体成形用のキャビテイが構成される。これらのキャビテイに1次成形用の溶融樹脂を射出する。これにより、第3番目の本体部と第2番目の蓋体とが同時に1次成形される。このようにして、1次成形が終わった状態が図2の(ト)に示されている。
【0025】
可動型20を開く。そうして、縦スライド金型30を上方の第2の蒸着位置へスライドさせる。そうして型締めする。そうすると、第2の蒸着用凹部4のOリング5は縦スライド金型30のパーテイングラインP面に密着し蒸着できる状態になる。前述したように、第2の蒸着用凹部4内に電圧、ガス等を印加して第2番目の本体部の内周面に蒸着する。このようにして蒸着が終わった状態が、図2の(チ)に示されている。縦スライド金型30を、図2の(リ)に示されている2次成形位置へ駆動する。そうすると、蒸着が終わって第2の本体成形用凹部34に残っている第2番目の本体部が、固定型1の蓋体成形用凹部12に残っている蓋体に整合する。型締めして、2次成形用の溶融樹脂を射出する。これにより、本体部と蓋体は開口部で接合され一体化される。可動型20を開いて内表面に薄膜を有する中空成形品を取り出す。取り出された後の状態が図2の(ヌ)に示されている。以下、同様にして本体部の内表面に薄膜を有する中空成形品を成形する。
【0026】
本発明は色々な形で実施できる。例えば、固定型1に蓋体蒸着用の凹部を追加的に設けることにより、蓋体の内表面にも蒸着できることは明らかである。また、図4に示されているような成形装置を使用すると、内表面に薄膜を有する2個の中空成形品を同時に成形できることも明らかである。すなわち、図1に示されている第1の実施の形態に係わる成形装置の構成要素と同じ要素には同じ参照数字を付けて、あるいは同様な要素には同じ参照数字にダッシュを付けて重複説明はしないが、本実施の形態によると、固定型1’には2個の本体成形用コア11、11’と2個の蓋体成形用凹部12、12’とが設けられている。また、可動金型20’の横スライド金型22の方には2個の蓋体成形用コア25、25’と本体成形用コア11、11’を逃がす大きな逃げ凹部26’とが設けられ、さらに縦スライド金型30には2個の第1の本体成形用凹部33、33’と、2個の第2の本体成形用凹部34、34’とが設けられている。そして、固定型1’の第1、2の蒸着用凹部3’、4’は、縦スライド金型30の2個の第1の本体成形用凹部33、33’と2個の第2の本体成形用凹部34、34’とをそれぞれ同時にカバーできる大きさになっている。また、本体成形用コア、蓋体成形用凹部等の数を増やして、内表面に薄膜を有する3個以上の中空成形品を同時に成形できることも明らかである。さらには、1次成形時に本体部成形用の樹脂材料と蓋体成形用の樹脂材料とを異ならしめることもできる。例えば、内表面に薄膜を有する中空成型品がフロントランプあるいはテールランプのようなときは蓋体を透明なレンズ材料から成形することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる成形装置を示す図で、その(イ)は固定型を、そしてその(ロ)は可動型をパーテイングライン側からそれぞれ見た模式的な斜視図である。
【図2】第1の実施の形態に係わる成形装置を使用した成形例を示す図で、その(イ)〜(ヌ)は、各成形段階を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の作動原理を説明するための金型の例を示す図で、その(イ)〜(ニ)は各成形段階を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に第2の実施の形態に係わる成形装置を示す図で、その(イ)は固定型を、そしてその(ロ)は可動型をパーテイングライン側からそれぞれ見た模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 固定型 3、3’ 第1の蒸着用凹部
4、4’ 第2の蒸着用凹部 11、11’ 本体成形用コア
12、12’ 蓋体成形用凹部 20 可動型 22 横スライド金型 25、25’ 蓋体成形用コア
33、33’ 第1の本体成形用凹部 34、34’ 第2の本体成形用凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型とスライド可能な可動金型とを使用して、一対の半中空体をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形工程と、
前記1次成形工程で成形された一対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で、前記スライド可能な可動金型を所定位置へ駆動して、一対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定金型に設けられ、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素を備えた蒸着用凹部で覆って蒸着する蒸着工程と、
前記蒸着工程により、少なくとも一方の半中空体が蒸着された一対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で前記スライド可能な可動金型を、前記一対の半中空体の開口部が整合する位置へ駆動して型締めし、そして前記一対の半中空体を、その接合部に溶融樹脂を射出して一体化する2次成形とから成形品を成形する、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法。
【請求項2】
固定金型とスライド可能な可動金型とを使用して、対となる複数対の半中空体をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形工程と、
前記1次成形工程で成形された対となる複数対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で、前記スライド可能な可動金型を所定位置へ駆動して、前記対となる複数対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定金型に設けられ、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素を備えた蒸着用凹部で覆って蒸着する蒸着工程と、
前記蒸着工程により、少なくとも一方の半中空体が蒸着された対となる複数対の半中空体をそれぞれの金型に残した状態で前記スライド可能な可動金型を、前記対となる複数対の半中空体の開口部が整合する位置へ駆動して型締めし、そして前記対となる複数対の半中空体を、それぞれの接合部に溶融樹脂を射出して一体化する2次成形とから複数個の成形品を同時に成形する、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形方法において、1次成形工程で対となる半中空体をそれぞれ異なる樹脂材料で成形する、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法。
【請求項4】
一対の半中空体の開口部の周囲が接合されて一体化された、少なくとも一方の半中空体の内表面には薄膜が蒸着されている中空成形品の成形装置であって、
前記成形装置は、固定型(1)と可動型(20)とからなり、前記固定型(1)の方には前記一対の半中空体を成形するためのコア(11)と凹部(12)と、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている第1、2の蒸着用凹部(3、4)とが所定の間隔をおいて設けられ、
前記可動型(20)は、横スライド金型(22)と縦スライド金型(30)とからなり、前記横スライド金型(22)には前記固定型(1)の凹部(12)と共働するコア(25)が、前記縦スライド金型(30)には前記固定型(1)のコア(11)と共働する第1、2の凹部(33、34)が設けられ、前記第1、2の蒸着用凹部(3、4)は前記縦スライド金型(30)に設けられている第1、2の凹部(33、34)をそれぞれカバーする大きさになっている、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形装置。
【請求項5】
対となる半中空体の開口部の周囲が接合されて一体化された、少なくとも一方の半中空体の内表面には薄膜が蒸着されている複数個の中空成形品を同時に成形する成形装置であって、
前記成形装置は、固定型(1)と可動型(20)とからなり、前記固定型(1)の方には前記対となる半中空体を成形するための複数個のコア(11、11’)と複数個の凹部(12、12’)と、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている第1、2の蒸着用凹部(3’、4’)とが所定の間隔をおいて設けられ、
前記可動型(20)は、横スライド金型(22)と縦スライド金型(30)とからなり、前記横スライド金型(22)には前記固定型(1)の複数個の凹部(12、12’)とそれぞれ共働する複数個のコア(25、25’)が、前記縦スライド金型(30)には前記固定型(1)の複数個のコア(11、11’)とそれぞれ共働する複数個の第1、2の凹部(33、33’、34、34’)とが設けられ、前記第1、2の蒸着用凹部(3’、4’)は前記縦スライド金型(30)に設けられている複数個の第1、2の凹部(33、33’、34、34’)をそれぞれカバーする大きさになっている、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−327000(P2006−327000A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153273(P2005−153273)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】