説明

分数分周PLL装置、およびその制御方法

【課題】設定すべきパラメータ数が減ぜられて使い勝手の向上が図られると共に、回路の簡略化を図ることが可能な分数分周PLL装置、およびその制御方法を提供すること
【解決手段】第1分周信号fprの初期のAサイクルの期間は、第2分周信号fAがハイレベル、第3分周信号fBがローレベルに維持される。3モジュラスプリスケーラ13は(M+1)分周値となる。引き続くBサイクルでは、第2分周信号fAがローレベル、第3分周信号fBがハイレベルである。3モジュラスプリスケーラ13は、ΣΔ変調器8から出力される擬似乱数の符号に合わせて、負値の場合に(M−1)分周値、正値の場合に(M+1)分周値となる。その後は、M分周となる。比較分周器4では、擬似乱数値Bxを含む(MN+A+Bx)の分周値が得られる。負値を含む擬似乱数をそのまま使用してΣΔ変調による分数分周を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ΣΔ変調を利用した分数分周PLL装置に関するものであり、特に、1ΣΔ変調器からの出力信号に応じた分周値の設定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているPLL回路を図8に示す。PLLループを構成する比較分周器の分周値を分数とするFractional−NPLL周波数シンセサイザ(分数分周PLL装置)である。
【0003】
ΣΔ変調器80には比較信号fpが入力される。そして、ΣΔ変調器80は比較信号fpをクロック信号として動作して、擬似乱数のBit Streamを出力信号prsとして加算器90に出力する。例えば、ΣΔ変調器80が3次の回路構成を有している場合、出力信号prsは、−3〜+4の間で変化する乱数となる。
【0004】
また、加算器90には固定分周値Nが入力される。そして、出力信号prsと固定分周値Nとを加算して、比較分周器40に出力する。比較分周器40ではN−3〜N+4の間で変化する分周値で分周動作が行われる。
【0005】
ここで、ΣΔ変調器80から出力される出力信号prsは、0値を挟んで正負の値を含む乱数である。この乱数に応じて比較分周器40の分周値が演算される。この場合、出力信号prsが正負両極性の乱数であると演算処理が複雑にならざるを得ない。乱数値に応じて加算処理および減算処理の双方の演算処理が必要となるからである。そこで、加算器90を備えて出力信号prsに固定分周値Nを加算する。これにより、比較分周器40には正値のみを入力することが可能となり、演算処理の簡略化を図ることができる。加算器90では、固定分周値Nをオフセット値として、正負にまたがる出力信号prsの乱数値を非負の乱数値にシフトする役割を有している。
【0006】
【特許文献1】特開2004−80404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、出力信号prsが有する本来の乱数値に対して、固定分数値N大きなオフセット値が比較分周器40に入力されることになり、意図された分周値より大きな分周値が出力されてしまうおそれがある。このオフセット値を解消するためには、比較分周器40に備えられているカウンタのカウント設定値をオフセット値分小さく調整する必要がある。ΣΔ変調器80の変調次数に応じて調整すべきオフセット値が異なるため、比較分周器40を構成するカウンタのカウント値を、その都度調整しなければならず、煩雑である。
【0008】
また、出力信号prsの乱数値をシフトするために、加算器90や変換回路などの回路を追加しなければならず、回路構成の簡略化や消費電流の観点から問題がある。
【0009】
本発明は前記背景技術に鑑みなされたものであり、設定すべきパラメータ数が減ぜられて使い勝手の向上が図られると共に、回路の簡略化を図ることが可能な分数分周PLL装置、およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る分数分周PLL装置は、0値または正あるいは負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力するΣΔ変調器を備えた分数分周PLL装置であって、設定分周値、および該設定分周値に対して±Nで増減される−N分周値、+N分周値を有する3モジュラスプリスケーラと、3モジュラスプリスケーラの出力信号が擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、3モジュラスプリスケーラに対して、擬似乱数が負値の場合には−N分周値を指令し、正値の場合には+N分周値を指令する分数分周制御部とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の分数分周PLL装置では、ΣΔ変調器を備えて、0値、正の整数値、または負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力することにより分数分周が行われる。この場合、分数分周制御部により、設定分周値、設定分周値に対して−Nで減ぜられる−N分周値、および設定分周値に対して+Nで加えられる+N分周値の間で切り替えられる3モジュラスプリスケーラに対して、擬似乱数の絶対数値のサイクル数について3モジュラスプリスケーラの出力信号を選択し、擬似乱数が負値の場合には−N分周値を指令し、正値の場合には+N分周値を指令する。
【0012】
また、本発明に係る分数分周PLL装置の制御方法では、0値または正あるいは負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力するΣΔ変調を利用した分数分周PLL装置の制御方法であって、3モジュラスプリスケーラの出力信号が擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、擬似乱数が負値の場合に、3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値からN分周を減じた分周値に設定するステップと、3モジュラスプリスケーラの出力信号が擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、擬似乱数が正値の場合に、3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値にN分周を加えた分周値に設定するステップとを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の分数分周PLL装置の制御方法では、ΣΔ変調により出力される、0値、正の整数値、または負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を利用して分数分周が行われる。この場合、3モジュラスプリスケーラの出力信号が擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、擬似乱数が負値の場合には3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値からN分周を減じた分周値に設定し、擬似乱数が正値の場合には3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値にN分周を加えた分周値に設定する。
【0014】
これにより、ΣΔ変調によって出力される擬似乱数の大きさおよび符号に応じて、3モジュラスプリスケーラの分周値を、設定分周値に対して−N分周値または+N分周値に切り替える。ここで、擬似乱数の平均値は所定分数値に設定されているので、擬似乱数に応じて分周値が切り替えられる3モジュラスプリスケーラにおける平均化された分周値は、所定分数値にNを乗じた値となる。擬似乱数をそのまま使用して所定分数値に応じた分周値を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、擬似乱数をそのまま使用することができるので、オフセット値を付与した場合に必要となるオフセット値の相殺のための追加パラメータの調整などが不要となると共に、回路構成を簡略化することができる分数分周PLL装置、およびその制御方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の分数分周PLL装置、およびその制御方法について具体化した実施形態を図1乃至図7に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
近年、移動体通信等の無線通信分野を中心に様々な分野にPLL装置が利用されている。特に、携帯電話等の移動体通信の分野においては、キャリア周波数の有効利用が重要な課題であり高速な周波数の切替が要求される場合がある。周波数の切替時間であるロックアップタイムを短縮することが要求されている。また、通信品質を確保するために良好なC/N特性が要求されており、スプリアスの発生を抑制する必要がある。
【0018】
これらの要求に有効なPLL装置として、ΣΔ変調を利用した分数分周PLL装置が提案されている。分数分周動作により高速なロックアップタイム特性を確保しながら、ΣΔ変調により分周値をランダムに変化させることによりスプリアス特性の改善を図るものである。
【0019】
図1に、本願のΣΔ変調を利用した分数分周PLL装置についての実施形態を例示する。発振器1は、水晶振動子等を利用した基準クロック信号の出力回路である。発振器1から出力された基準クロック信号は基準分周器2に入力される。基準分周器2は、カウンタ回路で構成され、予め設定された分周値に応じて基準クロック信号を分周する。基準分周器2において分周された基準クロック信号は基準信号frとして出力され、位相比較器3に入力される。
【0020】
位相比較器3には、比較分周器4から出力される比較信号fpが更に入力される。位相比較器3では、基準信号frと比較信号fpとの周波数差および位相差に応じたパルス信号を出力し、チャージポンプ回路5に入力される。
【0021】
チャージポンプ回路5は、入力されるパルス信号に基づいた電圧信号を出力し、出力された電圧信号はローパスフィルタ(LPF)6に入力される。ここで、チャージポンプ回路6から出力される電圧信号は、直流成分にパルス成分が重畳された信号である。直流成分はパルス信号の周波数変動に伴って変化し、パルス成分はパルス信号の位相差に基づいて変化する。
【0022】
ローパスフィルタ(LPF)6は、入力される電圧信号を平滑し高周波数成分を除去した信号を出力し、電圧制御発振器(VCO)7に出力する。電圧制御発振器(VCO)7では、入力された信号を信号電圧に応じた周波数を有する信号に変換し、出力信号foutとして出力する。出力信号foutは外部回路に出力されると共に、比較分周器4に対して出力する。
【0023】
比較分周器4は、図5において後述するとおりの回路構成を有している。ΣΔ変調器8から擬似乱数として出力される出力信号prsに応じて分周値が調整される。比較分周器4では、調整された分周値に応じて、入力される出力信号foutを分周して比較信号fpが出力される。
【0024】
ΣΔ変調器8は、比較信号fpが入力されており、比較信号fpをクロック信号としてΣΔ変調動作を行う。ΣΔ変調器8から出力される出力信号prsは符号を含んだ擬似乱数を示す信号である。ΣΔ変調器8を構成する回路次数に応じたビット幅で構成されている。例えば、ΣΔ変調器8が3次の回路構成である場合、出力される擬似乱数は−3〜+4の幅を有して出力される。出力信号prsは、1ビットの符号ビットSと2ビットの数値ビット列D1、D2とで構成される。
【0025】
実施形態の分数分周PLL装置(図1)では、ΣΔ変調器8から符号を含んで出力される出力信号prsが、直接、比較分周器4に入力されて、分周値が調整される。比較分周器4に入力される乱数値についてオフセット値を付与することにより負値を含まない乱数値とする必要はない。
【0026】
図2は、ΣΔ変調器8の具体例である。3次の回路構成について例示したものである。3個の積分器9a〜9c、6個の微分器10a〜10f、および加算器11を備えて構成されている。
【0027】
積分器9aにはΣΔ変調器8の分子値Fが不図示の外部装置から入力される。積分器9aはクロック信号fpに基づいて入力値Fを累算し、その累算値が分母値(モジュロ値)Qより大きくなると、オーバーフロー信号OVFaを出力する。オーバーフロー後は、積分器9aは累算値から分母値Qを除算し、さらに入力値Fの累算を継続する。
【0028】
分母値(モジュロ値)Qは積分器9aを構成するnビットのビット列で表現される数値であり2で設定される。分子値Fは分母値Qの累乗数nに対し(n−1)ビットのデジタル信号で入力される。積分器9a〜9cの分母値Qは同一値である。例えば、積分器9a〜9cが23ビット(n=23)で構成されている場合には、Q=223=8388608であり、分子値Fは22ビットで構成されることとなる。
【0029】
積分器9aのオーバーフロー信号OVFaは、微分器10a、10bを介して入力信号aとして加算器11に供給される。また、積分器9aの累算値X1は積分器9bに供給される。
【0030】
積分器9bは、累算値X1を入力信号として累算動作を行い、その累算値X2を積分器9cに供給する。また、積分器9bから出力されるオーバーフロー信号OVFbは、微分器10cを介して入力信号bとして加算器11に供給され、微分器10c、10dを介して入力信号cとして加算器11に供給される。
【0031】
積分器9cは、累算値X2を入力信号として累算動作を行い、オーバーフロー信号OVFcを出力する。オーバーフロー信号OVFcは、入力信号dとして加算器11に供給され、微分器10eを介して入力信号eとして加算器11に供給され、微分器10e、10fを介して入力信号fとして加算器11に供給される。
【0032】
微分器10a、10b、10cは、クロック信号fpに従う微分器10d、10e、10fの動作による各入力信号a〜fのタイミングのずれを補正するために挿入されている。
【0033】
加算器11は、入力信号a〜fに基づいて、
(+1)a+(+1)b+(−1)c+(+1)d+(−2)e+(+1)f
の演算を行う。これが擬似乱数として出力される。各入力信号a〜fに乗算される係数は、図3のパスカルの三角形に基づいて設定される係数である。上記の演算では、−3〜+4の範囲の整数値が演算される。この擬似乱数の平均値F/Qが分数値となる。いわゆるMASH型の乱数である。
【0034】
加算器11から出力される出力信号prsは、1ビットの符号ビットSと2ビットの数値ビット列D1、D2とで構成されている。上式に基づいて演算された擬似乱数のうち、正負の符号は符号ビットSとして出力され、数値部分については数値ビット列D1、D2によりデジタル値として出力される。
【0035】
ここで、図4に、擬似乱数値と出力信号prsとの対応表を示す。負値に対してS=0が出力され、正値に対してS=1が出力される。また、数値0〜3に対して(D2、D1)=(0、0)、(0、1)、(1、0)、(1、1)が割り当てられる。尚、数値4に対しては(D2、D1)=(0、0)が割り当てられる。
【0036】
図5には比較分周器4の具体例を示す。電圧制御発振器(VCO)7から出力される出力信号foutは、3モジュラスプリスケーラ13の入力端子(I)に入力される。3モジュラスプリスケーラ13では、M分周を基本の設定分周値として、M分周から±1分周された(M±1)分周値を合わせた3つの分周値の何れかが選択される。選択された分周値により入力された出力信号foutが分周され、出力端子(O)から第1分周信号fprが出力される。
【0037】
3モジュラスプリスケーラ13において選択される分周値は、分周値設定端子(T1)、(T2)に入力される信号に応じて設定される。すなわち、図6に示すように、分周値設定端子(T1)、(T2)に入力される信号が、(0、0)の場合はM分周値が選択され、(1、0)の場合は(M−1)分周値が選択され、(0、1)または(1、1)の場合は(M+1)分周値が選択される。
【0038】
分周値設定端子(T1)には、後述する第3分周信号fBが入力される。分周値設定端子(T2)には、論理和ゲート17の出力信号が入力される。ここで、論理和ゲート17には、論理積ゲート18の出力信号と後述する第2分周信号fAとが入力される。また、論理積ゲート18には、ΣΔ変調器8から出力される出力信号prsのうち符号ビットSと後述する第3分周信号fBとが入力される。
【0039】
3モジュラスプリスケーラ13から出力された第1分周信号fprは、メインカウンタ14、サブカウンタ15、および制御カウンタ16のそれぞれの入力端子(I)に入力される。
【0040】
メインカウンタ14は、第1分周信号fprをNカウントし、出力端子(O)からローレベル信号の比較信号fpを出力する。これにより、第1分周信号fprがN分周される。
【0041】
サブカウンタ15は、比較信号fpが初期化端子(R)に入力される。ここで、初期化端子(R)は正論理入力とされる。メインカウンタ14によるカウント動作の開始に伴いハイレベルの比較信号fpが出力されることに応じて、カウント動作を開始する。第1分周信号fprをAカウントし、出力端子(O)からローレベルの第2分周信号fAを出力する。これにより、第1分周信号fprがA分周される。Aカウント後は、メインカウンタ14が第1分周信号fprをNカウントするまで、第2分周信号fAはローレベルに維持される。
【0042】
制御カウンタ16は、第2分周信号fAが初期化端子(R)に入力される。ここで、初期化端子(R)は負論理入力とされる。サブカウンタ15による第1分周信号fprのAカウント動作の完了に伴いローレベルの第2分周信号fAが出力されることに応じて、カウント動作を開始する。第1分周信号fprをBカウントし、出力端子(O)からローレベルの第3分周信号fBを出力する。これにより、第1分周信号fprがB分周される。Bカウント後は、サブカウンタ15が第1分周信号fprをAカウントしカウント動作を完了するまで、第3分周信号fBはローレベルに維持される。
【0043】
制御カウンタ16は、設定端子(T1)、(T2)を備えており、設定端子(T1)、(T2)に入力される2ビットのデジタル値をカウント値のBとして設定される。ここで、制御カウンタ16のビット構成は少なくともBビットである。設定端子(T1)、(T2)に入力される2ビットのデジタル値(T2、T1)=(0、1)、(1、0)、(1、1)の各々に対して、B=1、2、3が設定される。ここで、設定端子(T1)、(T2)には、ΣΔ変調器8から出力される出力信号prsのうち数値ビット列D1、D2が入力される。
【0044】
図5に示す比較分周器4の動作タイミングチャートを図7に示す。図5の比較分周器4はメインカウンタ14による第1分周信号fprのNカウントを基本時間とし、これを繰り返すことにより分周動作が行われる。図7は、基本時間のタイミングチャートを示している。
【0045】
メインカウンタ14による第1分周信号fprのカウント動作の開始に伴い、比較信号fpがハイレベルに遷移する。また、比較信号fpのハイレベル遷移に応じて第2分周信号fAもハイレベルに遷移する。メインカウンタ14では、カウント動作が第1分周信号fprのNカウントまで継続し、ローレベルの比較信号fpを出力する。サブカウンタ15では、カウント動作が第1分周信号fprのAカウントまで継続する。この間、第2分周信号fAはハイレベルが維持され、Aカウントに応じてローレベルに遷移する。第2分周信号fAのローレベル状態は、メインカウンタ14により第1分周信号fprがNカウントされ比較信号fpがハイレベルに遷移するまで、ローレベルに維持される。ここで、AカウントはNカウントより小さなカウント数である。
【0046】
制御カウンタ16では、サブカウンタ15による第1分周信号fprのAカウント動作に応じて出力される第2分周信号fAのローレベル遷移を受けて、カウント動作が開始される。カウント動作の開始に伴い、第3分周信号fBはハイレベルに遷移し、第1分周信号fprのBカウントまでハイレベルを維持する。Bカウントされると、ローレベルに遷移し、以後、第3分周信号fBのローレベル状態は、サブカウンタ15により第1分周信号fprがAカウントされ第1分周信号fAがローレベルに遷移するまで維持される。ここで、BカウントはNカウントより小さなカウント数であり、更に、AカウントとBカウントとの和も、Nカウントより小さなカウント数である。
【0047】
以上の動作によれば、メインカウンタ14により第1分周信号fprがNカウントされる基本時間のうち、第1分周信号fprの初期のAサイクルの期間は、第2分周信号fAがハイレベル、第3分周信号fBがローレベルに維持される。3モジュラスプリスケーラ13の分周値設定端子(T1)は、第3分周信号fBが入力されるためローレベルが入力され、3モジュラスプリスケーラ13の分周値設定端子(T2)は、論理和ゲート17を介して第2分周信号fAのハイレベルによりハイレベルが入力される。これにより図6を参照すれば、3モジュラスプリスケーラ13は、(M+1)分周値が選択される。第1分周信号fprの初期のAサイクルでは、第1分周信号fprは出力信号foutを(M+1)分周して出力する。
【0048】
初期のAサイクルに引き続くBサイクルでは、第2分周信号fAがローレベル、第3分周信号fBがハイレベルである。3モジュラスプリスケーラ13の分周値設定端子(T1)はハイレベルが入力され、3モジュラスプリスケーラ13の分周値設定端子(T2)は、論理和ゲート17によりΣΔ変調器8から出力される符号ビットSに応じてローレベルまたはハイレベルが入力される。論理積ゲート18に入力される第3分周信号fBがハイレベルであるため、符号ビットSの論理レベルと同相の論理レベルが論理和ゲート17に入力されるからである。ΣΔ変調器8から出力される擬似乱数が負値の場合にはローレベルが入力され、正値の場合はハイレベルが入力される。これにより図6を参照すれば、3モジュラスプリスケーラ13は、ΣΔ変調器8から出力される擬似乱数の符号に合わせ、負値の場合に(M−1)分周値が選択され、正値の場合に(M+1)分周値が選択される。また、Bサイクルは、ΣΔ変調器8から出力される擬似乱数の絶対数値に合わせたサイクル数である。第1分周信号fprの初期のAサイクルに引き続き、擬似乱数の絶対数値に合わせたBサイクルの期間、擬似乱数の符号に合わせて、分周値がM分周から±1増減されて出力信号foutが分周され、第1分周信号fprが出力される。
【0049】
Bカウントに引き続く残りのサイクルでは、第2分周信号fAおよび第3分周信号fBは共にローレベルである。また、このとき、3モジュラスプリスケーラ13の分周値設定端子(T1)にはローレベルが入力され、3モジュラスプリスケーラ13の分周値設定端子(T2)には、論理積ゲート18の出力信号はローレベルに固定され論理和ゲート17には共にローレベルが入力されるため、ローレベルが入力される。これにより図6を参照すれば、3モジュラスプリスケーラ13は、M分周値が選択される。第1分周信号fprのAおよびBサイクルの後は、第1分周信号fprは出力信号foutをM分周して出力する。
【0050】
以上より、比較分周器4における分周値は、
A(M+1)+B(M+x)+M(N−A−B)=MN+A+Bx
となる。ここで、xは、−1または+1を示す。符号ビットSに応じて何れか一方が設定される擬似乱数の符号である。また、Bは数値ビット列D1、D2により設定される擬似乱数の絶対数値である。すなわち、Bxは、擬似乱数そのものである。よって、比較分周器4による分周値は、メインカウンタ14により設定されるN分周とサブカウンタ15で設定されるA分周とを乗じた分周値に、ΣΔ変調器8から出力される擬似乱数の平均値である所定分数値(F/Q)を加えた分周値となり、分数分周される。個々の基本時間では、分数分周を設定するBxが擬似乱数として与えられるので、スプリアスが抑制された特性を実現することができる。
【0051】
以上説明したように本発明の実施形態によれば、ΣΔ変調器8による擬似乱数を使用して分数分周を実現する際、ΣΔ変調器8から出力される負値の擬似乱数をそのまま扱うことができるので、負値にオフセット値を加算して非負値に変換した上で分周値の演算処理を行う場合に比して簡略に分数分周を行うことができる。具体的には、オフセット値を加算するための加算器等の回路構成が不要であると共に、擬似乱数に加算されたオフセット値を相殺するために、サブカウンタ15のカウント値(Aカウント)を調整するなどの煩雑な回路定数の調整は不要である。回路構成の簡略化を図ることができると共に、回路定数の調整等の煩雑な作業を不要とすることができる。
【0052】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは言うまでもない。
例えば、本実施形態においては、比較分周器4において、サブカウンタ15によるAカウントに引き続いて制御カウンタ16でBカウントを行なう場合について例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。サブカウンタ15によるカウント動作と制御カウンタ16によるカウント動作とは、第1分周信号fprの動作サイクルにおいて重ならなければ良い。すなわち、Aカウント動作とBカウント動作とは、第1分周信号fprの動作サイクルに関して、隣接する動作サイクルでカウント動作を行なう場合のほか、互いに離間した動作サイクルでカウント動作を行っても良い。
【0053】
また、ΣΔ変調器8の回路構成について、3次の回路構成を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。2次あるいは4次以上の回路構成においても同様に構成することができる。この場合、次数に応じて数値ビット列が増減するので、制御カウンタは、数値ビット列のビット数をカウントできるビット構成とするように、ΣΔ変調器8の次数にビット幅を合わせることが必要である。
【0054】
また、本実施形態ではサブカウンタ15を備えて構成される場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。サブカウンタ15を備えていなくても構成することができる。この場合、出力される分周値は、(MN+Bx)である。
【0055】
また、3モジュラスプリスケーラ13について、基本となる設定分周値であるM分周値に加えて、(M±1)分周値を備える場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。(M±N)分周値(Nは2以上の整数)を備えていても良い。
【0056】
ここで、本発明の技術思想により、背景技術における課題を解決するための手段を以下に列記する。
(付記1) 0値または正あるいは負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力するΣΔ変調器を備えた分数分周PLL装置であって、
設定分周値、および該設定分周値に対して±Nで増減される−N分周値、+N分周値を有する3モジュラスプリスケーラと、
前記3モジュラスプリスケーラの出力信号が前記擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、前記3モジュラスプリスケーラに対して、前記擬似乱数が負値の場合には前記−N分周値を指令し、正値の場合には前記+N分周値を指令する分数分周制御部とを備えることを特徴とする分数分周PLL装置。
(付記2) 前記分数分周制御部は、
前記ΣΔ変調器の出力信号のうち前記擬似乱数の絶対数値が特定される数値ビット列を目標値とし、前記3モジュラスプリスケーラの出力信号のサイクル数をカウントする制御カウンタを備え、
前記制御カウンタでのカウントが前記目標値に至るまでの間、前記ΣΔ変調器の出力信号のうち前記擬似乱数の符号が特定される符号ビットに応じて、前記3モジュラスプリスケーラの分周値が、前記−N分周値または前記+N分周値に設定されることを特徴とする付記1に記載の分数分周PLL装置。
(付記3) 前記制御カウンタは、前記数値ビット列を構成するビット数のカウンタであることを特徴とする付記2に記載の分数分周PLL装置。
(付記4) 前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、第1所定サイクル数をカウントするメインカウンタと、
前記メインカウンタによる前記第1所定サイクル数のカウント動作期間ごとに動作し、前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、前記第1所定サイクル数より小さい第2所定サイクル数をカウントするサブカウンタとを備え、
前記制御カウンタは、前記サブカウンタの非カウント動作期間にカウント動作を行うことを特徴とする付記2に記載の分数分周PLL装置。
(付記5) 前記制御カウンタは、前記サブカウンタによるカウント動作完了に応じて、カウント動作を開始することを特徴とする付記4に記載の分数分周PLL装置。
(付記6) 前記サブカウンタによる前記第2所定サイクル数のカウント動作期間、前記3モジュラスプリスケーラの分周値は、前記+N分周値に設定されることを特徴とする付記4に記載の分数分周PLL装置。
(付記7) 前記3モジュラスプリスケーラは、N=1であることを特徴とする付記6に記載の分数分周PLL装置。
(付記8) 前記擬似乱数は、MASH型の乱数であることを特徴とする付記1に記載の分数分周PLL装置。
(付記9) 0値または正あるいは負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力するΣΔ変調を利用した分数分周PLL装置の制御方法であって、
3モジュラスプリスケーラの出力信号が前記擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、前記擬似乱数が負値の場合に、前記3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値からN分周を減じた分周値に設定するステップと、
前記3モジュラスプリスケーラの出力信号が前記擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、前記擬似乱数が正値の場合に、前記3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値にN分周を加えた分周値に設定するステップとを有することを特徴とする分数分周PLL装置の制御方法。
(付記10) 前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、第1所定サイクル数をカウントするステップと、
前記第1所定サイクル数をカウントするステップにおいて、前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、前記第1所定サイクル数より小さい第2所定サイクル数をカウントするステップとを有し、
前記第2所定サイクル数をカウントするステップは、前記擬似乱数の符号に応じて分周値を設定するステップとは異なるタイミングで行われることを特徴とする付記9に記載の分数分周PLL装置の制御方法。
(付記11) 前記擬似乱数の符号に応じて分周値を設定するステップは、前記第2所定サイクル数をカウントするステップの完了に応じて、開始されることを特徴とする付記10に記載の分数分周PLL装置の制御方法。
(付記12) 前記第2所定サイクル数をカウントするステップでは、前記3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値にN分周を加えた分周値に設定することを特徴とする付記10に記載の分数分周PLL装置の制御方法。
(付記13) 前記3モジュラスプリスケーラは、N=1であることを特徴とする付記12に記載の分数分周PLL装置の制御方法。
(付記14) 前記擬似乱数は、MASH型の乱数であることを特徴とする付記9に記載の分数分周PLL装置の制御方法。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態を示す回路ブロック図である。
【図2】ΣΔ変調器の具体例を示す回路ブロック図である。
【図3】パスカルの三角形を示す図である。
【図4】ΣΔ変調器の出力信号を示す図である。
【図5】比較分周器の具体例を示す図である。
【図6】3モジュラスプリスケーラの分周値の設定を示す図である。
【図7】比較分周器の動作タイミングチャートを示す図である。
【図8】背景技術の回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0058】
1 発振器
2 基準分周器
3 位相比較器
5 チャージポンプ回路
6 ローパスフィルタ(LPF)
7 電圧制御発振器(VCO)
8 ΣΔ変調器
9a〜9c 積分器
10a〜10f 微分器
11 加算器
13 3モジュラスプリスケーラ
14 メインカウンタ
15 サブカウンタ
16 および制御カウンタ
17 論理和ゲート
18 論理積ゲート
fpr 第1分周信号
fp 比較信号
fr 基準信号
fout 出力信号
fA 第2分周信号
fB 第3分周信号
prs 出力信号prs
D1、D2 数値ビット列
S 符号ビットS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0値または正あるいは負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力するΣΔ変調器を備えた分数分周PLL装置であって、
設定分周値、および該設定分周値に対して±Nで増減される−N分周値、+N分周値を有する3モジュラスプリスケーラと、
前記3モジュラスプリスケーラの出力信号が前記擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、前記3モジュラスプリスケーラに対して、前記擬似乱数が負値の場合には前記−N分周値を指令し、正値の場合には前記+N分周値を指令する分数分周制御部とを備えることを特徴とする分数分周PLL装置。
【請求項2】
前記分数分周制御部は、
前記ΣΔ変調器の出力信号のうち前記擬似乱数の絶対数値が特定される数値ビット列を目標値とし、前記3モジュラスプリスケーラの出力信号のサイクル数をカウントする制御カウンタを備え、
前記制御カウンタでのカウントが前記目標値に至るまでの間、前記ΣΔ変調器の出力信号のうち前記擬似乱数の符号が特定される符号ビットに応じて、前記3モジュラスプリスケーラの分周値が、前記−N分周値または前記+N分周値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の分数分周PLL装置。
【請求項3】
前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、第1所定サイクル数をカウントするメインカウンタと、
前記メインカウンタによる前記第1所定サイクル数のカウント動作期間ごとに動作し、前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、前記第1所定サイクル数より小さい第2所定サイクル数をカウントするサブカウンタとを備え、
前記制御カウンタは、前記サブカウンタの非カウント動作期間にカウント動作を行うことを特徴とする請求項2に記載の分数分周PLL装置。
【請求項4】
前記制御カウンタは、前記サブカウンタによるカウント動作完了に応じて、カウント動作を開始することを特徴とする請求項3に記載の分数分周PLL装置。
【請求項5】
前記サブカウンタによる前記第2所定サイクル数のカウント動作期間、前記3モジュラスプリスケーラの分周値は、前記+N分周値に設定されることを特徴とする請求項3に記載の分数分周PLL装置。
【請求項6】
前記3モジュラスプリスケーラは、N=1であることを特徴とする請求項5に記載の分数分周PLL装置。
【請求項7】
前記擬似乱数は、MASH型の乱数であることを特徴とする請求項1に記載の分数分周PLL装置。
【請求項8】
0値または正あるいは負の整数値であって平均値が所定分数値である擬似乱数を出力するΣΔ変調を利用した分数分周PLL装置の制御方法であって、
3モジュラスプリスケーラの出力信号が前記擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、前記擬似乱数が負値の場合に、前記3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値からN分周を減じた分周値に設定するステップと、
前記3モジュラスプリスケーラの出力信号が前記擬似乱数の絶対数値のサイクル数出力される間、前記擬似乱数が正値の場合に、前記3モジュラスプリスケーラの分周値を設定分周値にN分周を加えた分周値に設定するステップとを有することを特徴とする分数分周PLL装置の制御方法。
【請求項9】
前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、第1所定サイクル数をカウントするステップと、
前記第1所定サイクル数をカウントするステップにおいて、前記3モジュラスプリスケーラの出力信号について、前記第1所定サイクル数より小さい第2所定サイクル数をカウントするステップとを有し、
前記第2所定サイクル数をカウントするステップは、前記擬似乱数の符号に応じて分周値を設定するステップとは異なるタイミングで行われることを特徴とする請求項8に記載の分数分周PLL装置の制御方法。
【請求項10】
前記擬似乱数の符号に応じて分周値を設定するステップは、前記第2所定サイクル数をカウントするステップの完了に応じて、開始されることを特徴とする請求項9に記載の分数分周PLL装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−205760(P2008−205760A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38830(P2007−38830)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】