説明

制御装置

【課題】ゲイン変更時に生じる速度変動を抑制することができ、リアルタイムにゲインの変更をしても、指令値に対する軌跡精度が低下することがない制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、位置指令を生成する指令生成部2と、所定のタイミングでゲインを変更し、サーボ制御部2に出力するゲイン制御部3と、指令生成部2より出力される位置指令を補正し、補正位置指令を生成する位置指令補正部4と、補正位置指令と、ゲイン制御部3からの変更後のゲインに基づいてモータを駆動するサーボ制御部1とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボゲインをモータ動作中に変更できる制御装置に関し、特に多関節ロボット等を制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボット制御装置において、サーボ系の位置ゲインや位置指令にかかるフィルタ特性をモータ駆動中に変更する提案は以前からされている。例えば、多関節ロボットの制御方法において、各関節軸のサーボモータの制御系のフィードバックゲイン、位置制御ゲイン、速度制御ゲインを、ロボットの加速動作区間、等速動作区間、減速動作区間、動作整定後の位置決め制御区間の各動作状態に応じて可変して制御することにより、追従特性や整定特性の改善を行う提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、他の例として、ロボットの作動期間中、ロボットの姿勢が変わるのに応じてロボットの固有振動数は変化するが、この固有振動数を測定し、測定した固有振動数に応じてフィードバック制御に用いる位置ゲインの値を調整することにより、ロボットの位置の制御精度を向上する提案がされている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平07−295650号公報
【特許文献2】特開平06−138950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来提案されている位置ゲインの変更方法においては、ゲイン変更時にモータ動作速度が大きく変動してロボットが激しく振動する。このため、ゲインを変更する場合は、振動の影響が出ない範囲で緩やかに変更するか、或いはロボットの停止時に変更する必要があった。したがって、ロボットの動作中にゲインを積極的に変更することができず、動作に応じた理想的なゲイン設定が計算できてもリアルタイムに変更する術が無かった。
【0006】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、ゲイン変更時に生じる速度変動を抑制することができ、これにより、リアルタイムにゲインの変更をすることができる制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる制御装置においては、位置指令を生成する指令生成部と、所定のタイミングでゲインを変更し、サーボ制御部に出力するゲイン制御部と、指令生成部より出力される位置指令を補正し、補正位置指令を生成する位置指令補正部と、補正位置指令と、ゲイン制御部からの変更後のゲインに基づいてモータを駆動するサーボ制御部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明にかかる制御装置によれば、ゲイン変更時に生じる速度変動を抑制することができる。そのため、ゲインをリアルタイムに変更させることができ、最適なゲインを常に設定することにより、指令値に対する追従特性向上により軌跡精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかる制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は本実施の形態1の制御装置の機能構成を示す機能ブロック図である。図2は制御装置のサーボブロック図である。図3は位置指令補正部が補正位置指令を算出する際の算出式である。図1において、ロボット制御装置は、サーボアンプ5を通じてモータ6を駆動することによりロボット10の動作を制御するサーボ制御部1と、位置指令を生成する指令生成部2と、ゲイン変更内容を管理するゲイン制御部3と、ゲイン制御部3の生成するゲイン変更内容に基づき、速度変動を抑制するように位置指令を補正する位置指令補正部4とを含む。なお、ハードウエア的構成に関しては、指令生成部2、ゲイン制御部3および位置指令補正部4は、所定のCPU装置とそのCPU装置上で動作する各プログラムによって構成されており、また、サーボ制御部1は、他のCPU装置とそのCPU装置上で動作するプログラムによって構成されている。両CPU装置はパケット通信が可能な伝送媒体にて接続されている。
【0011】
指令生成部2は、入力されたデータよりロボット10の動作計画を生成し、その運動計画を実現するために必要な各軸の位置指令を生成して出力する。また、サーボ制御部1は、位置検出器(エンコーダ)7から得られる位置検出信号を用いて、入力される位置指令に追従するような制御指令をサーボアンプ5へ入力することによりフィードバック制御をする。サーボアンプ5は、サーボ制御部1から入力される指令を増幅してモータ6に回転トルクを発生させる。
【0012】
ゲイン制御部3は、サーボゲインの変更内容を位置指令補正部4に通知する処理を行うとともに、ゲイン変更タイミングを管理しながらサーボ制御部1におけるサーボゲインを変更する。本実施の形態では位置ゲインKpが変更される場合について説明する。位置ゲインKpの変更は、例えば、動作計画に基づいて行われる場合、あるいは位置検出器7から得られる位置検出信号と指令生成部2との差が一定値以下となった場合などに行われる。ここでは、ロボットの共振周波数を予め求めておき、ゲイン制御部3はこの共振周波数に基づいて、例えば周波数の所定成分が所定のしきい値を超えたとき、その量に比例する変更量にて位置ゲインKpを変更するものとする。
【0013】
位置指令補正部4は、ゲイン制御部3から入力されるゲイン変更内容を受け、変更前のゲインと変更後のゲインとから、図3に示した(式1)を用いて、ゲイン変更時の速度変動を最小にするように補正された位置指令を生成する。なお、図3に示した(式1)で示される式は、変更前後ゲイン設定値と指令値のサンプリング時間とから、ゲイン変更時の速度変動が最小となるように求めたもので、また、種々の実験により検証したものである。
【0014】
次に上述のように構成されたロボット制御装置の動作について述べる。いま、図2のようなPI制御で構成されているサーボ制御装置の位置ゲインKpを変更する場合を考える。モータ6が等速運転状態にあるものとし、サーボ系の位置ゲインKpを変更するときに、モータ速度変動を抑制する方法について説明する。
【0015】
ゲイン制御部3の位置ゲインKpの変更のタイミングにて、ゲイン制御部3からゲイン変更内容が位置指令補正部4に通知される。ゲイン変更内容とは、変更する前後のゲインのことである。位置指令補正部4は、変更前後ゲイン設定値と指令値のサンプリング時間から、図3に示した(式1)より補正係数αを計算する。
【0016】
位置指令補正部4は、入力される補正前位置指令の微分値(速度指令)と補正係数αとを積算し、その結果を積分することで補正された位置指令を生成する。これは、位置指令サンプリング周期における位置指令の増加率がα倍になることを意味している。ゲイン制御部3は、パケット通信により、位置指令補正部4で生成された補正位置指令がサーボ制御部1に入力されるタイミングと同期させて、サーボゲイン変更内容をサーボ制御部1に通知する。補正位置指令とサーボゲイン変更内容とを同一のパケットに載せることにより両者の同期を図ってもよい。
【0017】
サーボ制御部1は、補正位置指令とゲイン変更内容とを受信して位置ゲインを所定の値に変更するが、この位置ゲイン変更時に指令値補正も同時に行ってゲイン変更時の速度変動を抑制する。補正位置指令は、ゲイン変更時の速度変動が最小となるように補正をするものなので、両者が同じタイミングにてサーボ制御部1に指令されることにより、速度変動は補正位置指令によって打ち消され最小となる。
【0018】
図4は従来のようにゲイン変更時の補正をしない場合のものである。ゲイン変更と同時に速度が変動していることが解る。一方、図5は本実施の形態のもので、ゲイン変更時の速度変動が最小となるように補正をする場合のものである。ゲイン変更時に速度が変動していないことが解る。図4において、サーボ制御部1は、指令生成部2から速度変化のない(直線的な)位置指令を与えられており、この位置指令に基づいてモータ6をフィードバック制御している。結果として、モータ6は等速運転状態となっている。しかしながら、この状態において何らかの制御動作(例えば、本実施の形態のようなロボットの共振周波数に基づく位置ゲインの変更)により位置ゲインが変更されると当然のことながらモータ6の速度は変化する。一方、本実施の形態の位置指令補正部4は、変更前後のゲインと指令値のサンプリング時間とから、モータ6の速度変化を打ち消すような位置補正指令を生成する。そして、補正された位置指令の発令とゲイン変更とが同時に行われるように、補正された位置指令とゲイン変更内容とをサーボ制御部1に通知する。そのため、ゲイン変更による速度変化がなくなる。
【0019】
以上のように、本実施の形態の制御装置によれば、位置指令補正部4が、速度変動を抑制するように位置指令を補正するとともに、ゲイン制御部4は、補正された位置指令の発令とゲイン変更のタイミングとが同期する(同時に行われる)ように位置指令とゲイン変更内容とをサーボ制御部1に通知する。これに基づき、サーボ制御部1は、補正された位置指令の発令とゲイン変更を同じタイミングにて行う。そのため、ゲイン変更時に生じる速度変動を抑制することができ、これにより、リアルタイムにゲインの変更をすることができる。
【0020】
実施の形態2.
図6は本実施の形態2の制御装置の機能構成を示す機能ブロック図である。図6において、ロボット制御装置は、実施の形態1のロボット制御装置に加えて、ゲイン計算部8とパラメータ設定部9が付加されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0021】
ゲイン計算部8は、指令生成部2から通知される位置指令から得られるロボットの姿勢情報や、ロボットが把持するワーク質量などから、ロボットの各関節軸回りの慣性モーメントを計算し、パラメータ設定部9にあらかじめ設定されている各関節部のばね係数を用いて、関節回りの共振周波数を計算する。そして、計算された共振周波数に基づき、ロボットを加振しない範囲で最適な位置ゲイン設定(共振周波数に比例した値)をリアルタイム計算し、その結果をゲイン制御部に通知する。ゲイン制御部はこの通知を受け、実施の形態1の方法でリアルタイムにゲインの変更を行う。尚、一般に位置ゲインは共振周波数の1/5から1/3程度に設定するが、このあらかじめ設定されている共振周波数と位置ゲインの比例関係を用いて、リアルタイムにゲイン変更を行う。また、共振周波数はロボットが動作することにより時事刻々と変化するが、ゲイン変更もこの共振周波数に同期して行う。
【0022】
以上、実施の形態1および2から明らかなように、この発明にかかる制御装置においては、ゲイン変更によるモータの速度変動が抑制されるため、ロボット動作中にゲインを変更することができ、ロボットの動作や姿勢に合わせて最適なゲイン設定を行うことが可能となる。これにより、ロボットの軌跡精度の改善・整定時間の短縮・振動抑制の効果がある。
【0023】
なお、上述の実施の形態においては、PI制御で構成された制御系において、位置ゲインを変更する場合について記載しているが、本発明にかかる思想は、モデル規範型制御のモデル位置ゲインや、サーボ指令にかかるフィルタ特性をリアルタイムに変更する場合にも、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態1の制御装置の回路構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態1の制御装置のサーボブロック図である。
【図3】位置指令補正部が補正位置指令を算出する際の算出式を示す図である。
【図4】動作中に位置ゲインを変更すると速度が変動する様子のグラフ図である。
【図5】速度変動を抑制するように位置指令を補正する様子のグラフ図である。
【図6】本実施の形態2の制御装置の回路構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0025】
1 サーボ制御部
2 指令生成部
3 ゲイン制御部
4 位置指令補正部
5 サーボアンプ
6 モータ
7 エンコーダ
8 ゲイン計算部
9 パラメータ設定部
10 ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置指令を生成する指令生成部と、
所定のタイミングでゲインを変更し、サーボ制御部に出力するゲイン制御部と、
上記指令生成部より出力される位置指令を補正し、補正位置指令を生成する位置指令補正部と、
補正位置指令と、ゲイン制御部からの変更後のゲインに基づいてモータを駆動するサーボ制御部と、
を備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
位置指令補正部は、変更前のゲインと変更後のゲインとから位置指令を補正することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
位置指令補正部は、(式1)に基づき位置指令を補正することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
位置指令補正部は、変更前後のゲインと指令値のサンプリング時間とから補正係数αを算出するとともに、位置指令サンプリング周期における位置指令の増加率が、補正前の位置指令増加率のα倍となるように補正された位置指令を生成することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
位置指令補正部は、補正前の位置指令の微分値と前記補正係数αとを積算し、その結果を積分することで補正された位置指令を生成する
ことを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記ゲイン制御部は、所定の範囲でゲイン変更内容を生成する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
ロボットの関節のばね係数が設定されたパラメータ設定部と、
位置指令からロボットの関節軸回りの慣性モーメントを計算して、ばね係数を用いて関節回りの共振周波数を計算し、計算された共振周波数に基づき、ロボットが加振しない範囲の位置ゲイン設定を求めるゲイン計算部とをさらに備え、
前記ゲイン制御部は、前記位置ゲイン設定に基づいてロボットが加振しない範囲のゲイン変更内容を生成する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記ゲイン制御部は、ゲイン変更を位置指令の発令と同期させてリアルタイムで変更することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−15610(P2008−15610A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183470(P2006−183470)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】