説明

力学量センサ

【課題】スペーサとして従来のビーズを用いた場合と比較して、センサチップの温度特性を改善する。
【解決手段】弾性変形によって熱応力を緩和する高分子接着剤2を介して、センサチップ3が被着体4に接着された力学量センサの製造方法において、被着体4のセンサチップ3との接着予定領域の一部に、接着剤2と同じ材料を硬化させることにより、センサチップ3と被着体4との間隔を保つためのスペーサ12を形成する。このとき、接着剤2と同じ材料の液滴の状態での塗布と硬化とを複数回繰り返す。そして、スペーサ12によってセンサチップ3を保持しながら、センサチップ3と被着体4との間の接着剤2を硬化させる。これによると、接着剤2の硬化後においては、スペーサ12は接着剤2と同じヤング率となるので、温度変化による接着剤の収縮時にセンサチップ3がスペーサから受ける応力を低減でき、センサチップ3の温度特性を改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学量センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
力学量センサは、センサチップが接着剤を介してケース等の被着体に接着されているが、被着体とセンサチップとの線膨張係数の違いから、温度変化によってセンサチップに熱応力がかかってしまう。このため、従来では、弾性変形によって熱応力を緩和させる弾性接着剤、特に、低弾性の接着剤(柔らかい接着剤)を用いている。
【0003】
しかし、低弾性の接着剤は、硬化前の状態が液状のため、被着体に接着剤を塗布して、センサチップを載せた後、接着剤が硬化するまでの間に、センサチップが自重で沈むことで、熱応力を緩和するのに十分な接着剤の厚みを確保できなかったり、センサチップが傾いて接着剤の厚みが不均一になったりする恐れがある。
【0004】
そこで、従来では、低弾性の接着剤にビーズを混ぜることにより、ビーズをセンサチップと被着体との間隔を保つためのスペーサとして機能させて、熱応力を緩和するのに必要な接着剤の厚みを確保している。なお、低弾性の接着剤としては、例えば、シリコーン系接着剤が用いられ、ビーズとしては、例えば、PS(ポリスチレン)や、アルミナ、ガラス製のものが用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−110351号公報(段落0014参照)
【特許文献2】特開平5−333056号公報(段落0014参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の従来技術では、被着体に接着剤を塗布して、センサチップを載せた後、接着剤が硬化するまでの間、センサチップと被着体との間隔を保ちながら、センサチップを保持するために、PS製等の高弾性、すなわち、比較的硬いビーズが用いられており、ビーズのヤング率が硬化後の接着剤よりも高かった。具体的には、PS製のビーズのヤング率は、シリコーン系接着剤のヤング率よりも三桁以上高かった。それに加えて、PS製ビーズの線膨張係数は、シリコーン系接着剤の線膨張係数よりも1/5程度と小さかった。
【0007】
また、特許文献1の段落0014に記載の通り、粒径がそろっているビーズを用いることが好ましいが、実際には、粒径がそろっているビーズを用いることは困難であり、ビーズには粒径のバラツキが存在してしまう。
【0008】
このため、図11に示すような問題が生じてしまう。ここで、図11は、ビーズ30を混ぜた低弾性の接着剤2によって、センサチップ3と被着体とを接着した状態を示しており、図1と同様の構成部には図1と同一の符号を付している。
【0009】
すなわち、図11に示すように、接着剤2の硬化温度よりも環境温度が低い場合、接着剤2はビーズ30よりもより大きく収縮し、相対的に大きなビーズ30がセンサチップ3を押して歪を生じさせてしまう。さらに、接着剤2中のビーズ30の配置はコントロールできないため、相対的に大きなビーズ30の位置にバラツキがあることから、センサチップ3に生じる歪の大きさや分布にバラツキが生じてしまう。これが、センサチップ3の温度特性の悪化の要因となる。
【0010】
なお、温度特性が悪化するとは、センサの出力と温度との関係を示す温度特性図において、両者の関係を示す線に曲がりが生じ、線の傾きが一定の関係でなくなることを意味する。傾きが一定であれば、回路での出力特性の温度補正が可能であるが、傾きが一定でなくなると、高精度に温度補正するためには、回路チップの規模が大きくなってしまう。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、スペーサとして従来のビーズを用いた場合と比較して、センサチップの温度特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、弾性変形によって熱応力を緩和する第1の高分子接着剤(2)を介して、センサチップ(3)が被着体(4)に接着された力学量センサの製造方法において、
被着体(4)のセンサチップ(2)との接着予定領域の一部に、硬化後のヤング率が第1の高分子接着剤(2)と略同じである第2の高分子接着剤を硬化させることにより、センサチップ(3)と被着体(4)との間隔を保つためのスペーサ(12、13)を形成する工程と、
スペーサ(12)を形成した後、接着予定領域の全体に第1の高分子接着剤(2)を塗布する工程と、
接着剤(2)が塗布された接着予定領域にセンサチップ(3)を載せ、スペーサ(12、13)によってセンサチップ(3)を保持しながら、センサチップ(3)と被着体(4)との間の第1の高分子接着剤(2)を硬化させる工程とを有することを特徴としている。
【0013】
なお、「硬化後のヤング率が第1の高分子接着剤(2)と略同じ」とは、硬化後のヤング率が第1の高分子接着剤(2)に対して0.1倍〜10倍の範囲内であることを意味する。
【0014】
これによると、熱応力を緩和する第1の高分子接着剤と硬化後のヤング率が近い材料を用いてスペーサを形成するので、スペーサとして従来のビーズを用いた場合と比較して、温度変化による接着剤の収縮時にセンサチップがスペーサから受ける応力を低減でき、センサチップの温度特性を改善することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、スペーサ(12)を形成する工程で、液滴の状態での第2の高分子接着剤の塗布と硬化とを行うことにより、所望厚さ(T1)のスペーサ(12)を形成することを特徴としている。
【0016】
ここで、熱応力を緩和する第1の高分子接着剤と硬化後のヤング率が近い高分子接着剤は、上述の通り、硬化前の状態が液状なので、ある程度の体積があると被着体の表面に濡れ広がってしまう。このため、所望厚さのスペーサを形成するまでの塗布回数が多くなり、時間がかかってしまうという問題が生じる。
【0017】
これに対して、本発明では、液滴の状態で塗布するので、塗布した材料は、被着体の表面上で表面張力により濡れ広がらず、液滴の状態のままとなる。これにより、塗布した材料が濡れ広がる場合と比較して、所望厚さのスペーサを形成するまでの塗布回数および時間を減らすことができる。
【0018】
請求項2に記載の発明においては、請求項3に記載のように、スペーサ(12)を形成する工程で、液滴の状態での塗布と硬化とを複数回行うことにより、所望厚さのスペーサを形成しても良い。
【0019】
また、請求項1〜3に記載の発明においては、請求項4に記載のように、第2の高分子接着剤として、例えば、第1の高分子接着剤(2)と同じ材料を用いることが好ましい。これにより、硬化後の第1の高分子接着剤とスペーサとのヤング率および線膨張係数を同じにできるので、温度変化による接着剤の収縮時にセンサチップがスペーサから受ける応力をより低減でき、センサチップの温度特性をより改善することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明では、スペーサ(13)を形成する工程で、所定間隔(T2)とされた接着剤塗布用ノズル(10)の先端面(21)と被着体(4)との間で、接着剤塗布用ノズル(10)から塗布した第2の高分子接着剤(2)を硬化させるとともに、第2の高分子接着剤として、第1の高分子接着剤(2)と同じ材料を用い、
第1の高分子接着剤(2)を塗布する工程で、スペーサを形成する工程で使用した接着剤塗布用ノズル(10)から第1の高分子接着剤(2)を追加塗布することを特徴としている。
【0021】
これによると、請求項4に記載の発明と同様に、第1の高分子接着剤と同じ材料を用いてスペーサを形成するので、硬化後の第1の高分子接着剤とスペーサとのヤング率および線膨張係数を同じにでき、センサチップの温度特性をより改善することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明においては、請求項6、7、8に記載のように、スペーサ(13)を形成する工程で、接着剤塗布用ノズル(20)から塗布した第2の高分子接着剤を部分的に硬化させることができる。
【0023】
また、請求項5〜8に記載の発明においては、スペーサ(13)を形成する工程で、接着剤塗布用ノズル(20)として、先端面(21)よりも被着体(4)側に突出するとともに、先端面(21)を基準とした突出高さ(T3)が所定間隔(T2)と同じである突出部(23、24)を設けたものを用いることが好ましい。これによれば、接着剤塗布用ノズルの突出部を被着体に当てることで、自動的に、接着剤塗布用ノズルの先端面と被着体との距離を所定間隔とすることができるからである。
【0024】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態における圧力センサの構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態における圧力センサの製造工程を示す断面図である。
【図3】第2実施形態における圧力センサの製造工程を示す断面図である。
【図4】第3実施形態における圧力センサの製造工程の一部を示す断面図である。
【図5】第4実施形態における圧力センサの製造工程で用いる接着剤塗布ノズルの断面図である。
【図6】第5実施形態における圧力センサの製造工程の一部を示す断面図である。
【図7】(a)、(b)は、それぞれ、図6中の接着剤塗布ノズルの断面図およびノズル先端側から見た平面図である。
【図8】図7に示される接着剤塗布ノズルを用いたときのスペーサ用に硬化された接着剤の平面図である。
【図9】(a)、(b)は、それぞれ、第6実施形態における圧力センサの製造工程で用いる接着剤塗布ノズルの断面図およびノズル先端側から見た平面図である。
【図10】図9の接着剤塗布ノズルを用いたときのスペーサ用に硬化された接着剤の平面図である。
【図11】本発明が解決しようとする課題を説明するための力学量センサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0027】
(第1実施形態)
本実施形態は、車両に搭載される圧力センサに本発明を適用したものである。図1に本実施形態における圧力センサの断面構成を示す。
【0028】
本実施形態の圧力センサ1は、接着剤(第1の高分子接着剤)2を介して、センサチップ3がセラミックステム4と接着されており、このセラミックスステム4が図示しない樹脂ケースに接着されたものである。本実施形態では、セラミックステム4がセンサチップ3と接着される被着体である。
【0029】
本実施形態の圧力センサ1は、車両に搭載されるため、外気温変化や、エンジンの作動と停止による温度変化に曝される。そこで、接着剤2として、センサチップ3とセラミックステム4との線膨張係数の違いから生じる熱応力を弾性変形によって緩和させるために、低弾性の高分子接着剤が用いられている。この低弾性とは、ヤング率が0.3〜10MPaの範囲を意味する。
【0030】
接着剤2としては、一般的なシリコーン系接着剤、フロロシリコーン系接着剤等を用いることができる。フロロシリコーン系接着剤を用いる場合では、例えば、信越化学工業株式会社製の製品名「X−32−1619」を用いることができ、この場合の硬化後のヤング率は1MPa前後である。
【0031】
センサチップ3は、Si半導体基板5とガラス台座6とが積層された構成である。Si半導体基板5は、その裏面側に設けられた凹部5bによって、表面側にダイアフラム5aが形成されている。ダイアフラム5aとガラス台座6との間の空間5cは密閉されており、基準圧力室としての真空室となっている。
【0032】
また、図示しないが、ダイアフラム5aには、ダイアフラム5aの歪みに基づく電気信号を発生するゲージ拡散抵抗(歪みゲージ)が、ブリッジ回路を構成するように形成されている。この圧力センサ1においては、ダイアフラム5aの表面側から圧力が印加されると、ダイアフラム5aが歪み、このダイアフラム5aの歪みに基づいてゲージ拡散抵抗の抵抗値が変化し、ブリッジ回路における電圧値が変化する。この変化した電圧値が電気信号として回路部にて検出されることにより、印加圧力が検出されるようになっている。本実施形態の圧力センサにおいては、ダイアフラム5aの表面にかかる圧力と真空室5c内との圧力差、すなわち絶対圧が検出される。
【0033】
次に、図1に示す構造の圧力センサ1の製造方法について説明する。図2に圧力センサ1の製造工程を示す。
【0034】
図2(a)に示すように、セラミックステム4の表面のうちセンサチップ3との接着予定領域の一部に、複数のスペーサ12を形成する工程を行う。
【0035】
具体的には、ピエゾインジェクタ10によって、低弾性の接着剤(第1の高分子接着剤)2と同じ材料(第2の高分子接着剤)を塗布し、熱風で硬化させる。この塗布と硬化とを複数回繰り返し行うことで、低弾性の接着剤2と同じ材料(第2の高分子接着剤)からなる層11を積層印刷して、所望厚さT1のスペーサ12を形成する。
【0036】
ピエゾインジェクタは、硬化前の液状の接着剤を微小な液滴の状態で塗布するものであり、市販のインクジェットプリンタと同じ機構を有するものである。
【0037】
スペーサ12の所望厚さT1とは、図1に示す製造後の圧力センサ1において、熱応力を緩和するのに十分な接着剤2の所望厚さと同じ厚さである。スペーサ12の形成位置は、セラミックステム4の表面に対して平行に、センサチップ3を保持できる位置である。
【0038】
ここで、低弾性の接着剤2は、硬化前の状態が液状のため、ある程度の体積があると濡れ広がってしまう。このため、所望厚さのスペーサを形成するまでの塗布回数が多くなり、時間がかかってしまうという問題が生じる。
【0039】
しかし、ピエゾインジェクタで微小液滴を塗布すると、セラミックステム4の表面上で、表面張力により濡れ広がらず、液滴の状態のままとなる。これにより、塗布した接着剤が濡れ広がる場合と比較して、所望厚さT1のスペーサ12を形成するまでの塗布回数および時間を減らすことができる。
【0040】
続いて、図2(b)に示すように、セラミックステム4の表面のうちセンサチップ3との接着予定領域の全体に、接着剤2を塗布する工程を行う。このとき用いる接着剤塗布用ノズルは、一般的なものを用いれば良く、スペーサ12の形成のときとは異なるものを用いる。接着剤2は、接着剤2を所望厚さとするために必要な量が塗布される。また、塗布後の接着剤12は、スペーサ12を包含している。
【0041】
その後、図2(c)に示すように、セラミックステム4の表面のうち接着剤2が塗布された接着予定領域にセンサチップ3を載せ、センサチップ3とセラミックステム4との間 の接着剤2を硬化させる工程を行う。この工程は、従来と同様の条件にて行えば良い。例えば、熱風を吹付けることで、接着剤を硬化させる。
【0042】
この工程では、スペーサ12によってセンサチップ3を保持しながら、接着剤2を硬化させるので、接着剤2が硬化するまでの間に、センサチップ3が自重で沈んだり、傾いたりすることを防止できる。この結果、硬化後の接着剤2の厚みを、均一にでき、熱応力を緩和するのに十分な厚みとすることができる。
【0043】
このようにして、図1に示す構造の圧力センサ1が製造される。
【0044】
以上の説明の通り、本実施形態では、熱応力を緩和する低弾性の接着剤2と同じ材料を用いてスペーサ12を形成するので、接着剤2の硬化後においては、スペーサ12のヤング率および線膨張係数は低弾性の接着剤2と同じである。
【0045】
よって、本実施形態によれば、スペーサとして従来のビーズ30を用いた場合と比較して、温度変化による接着剤2の収縮時にセンサチップ3がスペーサから受ける応力を低減でき、センサチップ3の温度特性を改善することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、塗布と硬化とを複数回繰り返したが、比較的大きな液滴が形成でき、1回の塗布と硬化で所望の厚さが得られるのであれば、塗布と硬化の回数は1回でも良い。
【0047】
また、本実施形態では、図2(a)に示すスペーサ12を形成する工程や、図2(c)に示す接着剤2を硬化させる工程で、接着剤を熱風で硬化させたが、レーザ加熱等の他の加熱方法によって、接着剤を硬化させても良く、接着剤の種類に応じて、UV照射等の他の硬化方法によって接着剤を硬化させても良い。
【0048】
また、本実施形態では、熱硬化性の接着剤を加熱しないために、ピエゾインジェクタ10を用いているが、接着剤が硬化、変性しないように、液滴の状態で塗布できれば、他の塗布手段を用いても良い。
【0049】
また、本実施形態では、スペーサ12を形成する材料(第2の高分子接着剤)として、図1中の低弾性の接着剤2と同じ材料を用いたが、図1中の低弾性の接着剤2と異なる材料を用いても良い。ただし、硬化後のヤング率が図1中の低弾性の接着剤2と略同じ、すなわち、低弾性の接着剤2に対して0.1倍〜10倍である高分子接着剤を用いる。このような材料としては、一般的な高分子接着剤の中から任意に選択して用いることができる。ちなみに、高分子接着剤は、高分子の架橋度を変えたり、添加する高分子オイルの添加量を変えたりすることで、ヤング率(硬さ)を制御することが可能である。
【0050】
ここで、上述の通り、従来のPS製のビーズは、そのヤング率がシリコーン系接着剤のヤング率よりも三桁以上高く、線膨張係数が1/5程度と小さかったことが、温度変化により接着剤が収縮したときにセンサチップがスペーサから応力を受ける原因であった。
【0051】
そこで、スペーサ12の形成材料として、硬化後のヤング率が、従来のPS製のビーズよりも図1中の低弾性の接着剤2に近い高分子接着剤の材料を用いることで、スペーサとして従来のビーズを用いた場合と比較して、接着剤の収縮時にセンサチップがスペーサから受ける応力を低減できる。
【0052】
なお、低弾性の接着剤2と異なる高分子接着剤を用いる場合では、ヤング率が近ければ、センサチップがスペーサから受ける応力を低減できるので、線膨張係数は異なっていても良いが、低弾性の接着剤2と略同じである線膨張係数を有することが好ましい。例えば、図1中の低弾性の接着剤2がシリコーン系接着剤である場合、材料としては異なるが、同じシリコーン系の接着剤を用いれば、線膨張係数は略同じとなる。
【0053】
また、低弾性の接着剤2と異なる高分子接着剤を用いる場合では、さらに、ピエゾインジェクタでの塗布性に優れること、硬化時間や硬化手法に優れることの少なくとも一方を満たすことが好ましい。低弾性の接着剤2よりも硬化時間が短いものを用いれば、製造時間を短縮できる。
【0054】
(第2実施形態)
本実施形態は、スペーサの形成方法が第1実施形態と異なるものであり、以下では、本実施形態における圧力センサの製造方法について説明する。
【0055】
図3に本実施形態における圧力センサの製造工程を示す。図3(a)に示すように、セラミックステム4の表面のうちセンサチップ3との接着予定領域の一部に、スペーサ13を形成する工程を行う。
【0056】
具体的には、先端面21が平らな構造である接着剤塗布用ノズル20を用いて、接着剤塗布用ノズル20の先端面21とセラミックステム4との間隔を所定間隔T2とした状態で、吐出口20aから接着剤2を少量吐出する。この所定間隔T2は、図1に示す製造後の圧力センサ1において、熱応力を緩和するのに十分な接着剤2の所望厚さと同じ厚さである。本実施形態では、コンピュータ制御等によって接着剤塗布用ノズル20の図中上下方向での位置を規定することで、接着剤塗布用ノズル20の先端面21とセラミックステム4との間隔を所定間隔T2とする。
【0057】
そして、接着剤塗布用ノズル20の外側から硬化手段としてのUV照射手段によって、塗布後の接着剤2のうち外側部分のみをUV照射して部分的に硬化させることで、スペーサ13を形成する。このとき、UV照射時間等の硬化条件を、塗布後の接着剤2が半硬化する条件とすることで、塗布後の接着剤2を、完全に硬化させるのではく、半生状態となるように硬化させる。この半硬化とは、接着剤2がセンサチップ3を保持できる程度に硬さを有しつつ、後述のように、半生状態の接着剤2が追加塗布した接着剤2と反応して硬化できる程度に硬化することを意味する。
【0058】
なお、図示しないが、接着剤塗布用ノズル20は略円柱形状であり、形成されたスペーサ13の平面形状は環状となる。
【0059】
その後、図3(b)に示すように、スペーサ13の形成時に使用した接着剤塗布用ノズル20をセラミックステム4から離しながら、セラミックステム4の表面の接着予定領域に、接着剤塗布用ノズル20から接着剤2を追加塗布する。
【0060】
続いて、図3(c)に示すように、セラミックステム4の表面のうち接着剤2が塗布された接着予定領域にセンサチップ3を載せ、図3(d)に示すように、センサチップ3とセラミックステム4との間の接着剤2を本硬化させる工程を行う。このとき、例えば、熱風を吹付けて接着剤2を硬化させるが、熱風温度、熱風吹付け時間等の硬化条件を、塗布後の接着剤2が完全に硬化する条件とする。これにより、半生状態のスペーサ13は、追加塗布された接着剤2と反応して硬化し、追加塗布された接着剤2と一体化する。
【0061】
以上の説明の通り、本実施形態では、スペーサを形成する材料(第2の高分子接着剤)として、熱応力を緩和する低弾性の接着剤(第1の高分子接着剤)2と同じ材料を用いてスペーサ12を形成し、追加塗布した接着剤2の硬化後において、スペーサ13を接着剤2と一体化させている。
【0062】
これにより、製造後の圧力センサ1では、接着剤2は全体が完全に同一物性の材料で構成され、接着剤2の内部にヤング率および線膨張係数が異なる部材が存在しないので、スペーサとして従来のビーズ30を用いた場合と比較して、温度変化による接着剤2の収縮時にセンサチップ3がスペーサから受ける応力を低減でき、センサチップ3の温度特性を改善することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、スペーサ13を半生状態とすることで、スペーサ13と追加塗布された接着剤2とを本硬化によって一体化させたが、スペーサ13と追加塗布された接着剤2とを一体化させなくても良い。この場合であっても、接着剤2の硬化後においては、スペーサ13は接着剤2と同じヤング率なので、スペーサとしてビーズ30を用いた場合と比較して、センサチップ3がスペーサから受ける応力を低減できる。
【0064】
また、本実施形態では、図3(a)に示す工程で、紫外線照射により、塗布後の接着剤2の外側部分を硬化させたが、熱風吹付け手段を用いて、接着剤塗布用ノズル20の外側からの熱風吹付けにより、塗布後の接着剤2の外側部分を硬化させても良い。
【0065】
(第3実施形態)
図4に本実施形態における圧力センサの製造工程の一部を示す断面図である。
【0066】
本実施形態では、第2実施形態で説明した図3(a)に示すスペーサを形成する工程において、図4に示すように、先端側に加熱部22を設けた接着剤塗布用ノズル20を用いる。これにより、接着剤塗布用ノズル20の加熱部22によって、接着剤塗布用ノズル20から塗布した接着剤2を局所的に加熱し部分的に硬化させることで、スペーサ13を形成する。
【0067】
具体的には、加熱部22をニクロム線等の電気ヒータで構成し、電力によって加熱部22を発熱させたり、加熱部22を電磁波吸収して発熱する発熱材料で構成し、電磁波照射によって加熱部22を発熱させたりすることが可能である。
【0068】
なお、第2実施形態では、接着剤塗布用ノズル20の外側から接着剤硬化手段によって、塗布後の接着剤2の外側部分を硬化させたが、本実施形態では、塗布後の接着剤2の外側ではなく、内側の部分を硬化させても良い。ただし、硬化後の接着剤2の厚みを均一にするために、セラミックステム4の表面に対して平行に、センサチップ3を保持するという観点では、塗布後の接着剤2の外側の部分を硬化させることが好ましい。
【0069】
(第4実施形態)
図5に本実施形態における圧力センサの製造工程で用いる接着剤塗布ノズルの断面図を示す。
【0070】
本実施形態では、第2実施形態で説明した図3(a)に示すスペーサを形成する工程において、図5に示すように、接着剤塗布用ノズル20として、先端面21よりもセラミックステム4側に突出する突出部23が設けられたものを用いる。この突出部23は、先端面21の外周側に設けられており、先端面21を基準とした突出高さT3が、所定間隔T2と同じである。
【0071】
これによれば、接着剤塗布用ノズル20の突出部23をセラミックステム4に押し当てることで、自動的に、接着剤塗布用ノズル20の先端面21とセラミックステム4との距離を所定間隔T2とすることができる。
【0072】
(第5実施形態)
図6に本実施形態における圧力センサの製造工程の一部を示す。また、図7(a)、(b)に、図6中の接着剤塗布ノズルの断面図およびノズル先端側から見た平面図を示し、図8に図6(b)に示す工程でスペーサ用に硬化された接着剤の平面図を示す。
【0073】
本実施形態では、第2実施形態で説明した図3(a)に示すスペーサを形成する工程において、図7(a)、(b)に示すように、接着剤塗布用ノズル20として、先端面21よりもセラミックステム4側に突出する突出部24が、吐出口20aの周縁部で環状に設けられたものを用いる。この突出部24の先端面21を基準とした突出高さT3は、所定間隔T2と同じである。
【0074】
そして、図6(a)に示すように、接着剤塗布用ノズル20をセラミックステム4に近づけて、接着剤2を少量吐出する。
【0075】
続いて、図6(b)に示すように、接着剤塗布用ノズル20の突出部24をセラミックステム4に押し当てる。これにより、接着剤2が突出部24の外側にはみ出して、接着剤塗布用ノズル20の先端面21とセラミックステム4との間に接着剤2が位置する。
【0076】
その後、第2実施形態と同様に、突出部24の外側に位置する接着剤2を硬化させることで、スペーサ13を形成する。このとき、図8に示すように、形成されたスペーサ13の平面形状は、突出部24の外形に沿った環状となる。
【0077】
本実施形態によっても、第4実施形態と同様に、接着剤塗布用ノズル20の突出部23をセラミックステム4に押し当てることで、自動的に、接着剤塗布用ノズル20の先端面21とセラミックステム4との距離を所定間隔T2とすることができる。
【0078】
(第6実施形態)
図9(a)、(b)に、本実施形態の接着剤塗布ノズルの断面図およびノズル先端側から見た平面図を示し、図10にスペーサ用に硬化された接着剤の平面図を示す。
【0079】
本実施形態では、第2実施形態で説明した図3(a)に示すスペーサを形成する工程において、第5実施形態で説明した図7に示す接着剤塗布ノズル20に対して、図9(b)に示すように、突起部24の一部に溝部25を設けたものを用いる。
【0080】
溝部25は、吐出口20aから突起部24の外側に接着剤2を導くためのものであり、吐出口20aから外側へ放射状に延びて形成されている。溝部25は、突起部24に対して複数箇所設けられており、本実施形態では、図9(b)に示すように、4箇所設けられている。溝25の底面は先端面21と同一平面となっている。
【0081】
これにより、本実施形態では、接着剤塗布用ノズル20の突出部24をセラミックステム4に押し当てた状態で、接着剤2を少量吐出することで、突出部24の外側に位置する接着面21とセラミックステム4との間に接着剤24を配置させることができる。
【0082】
そして、第2実施形態と同様に、突出部24の外側に位置する接着剤を硬化させることで、スペーサ13を形成する。このとき、図10に示すように、スペーサ13は吐出口20aの外側に4箇所形成される。
【0083】
本実施形態によっても、第5実施形態と同様に、接着剤塗布用ノズル20の突出部23をセラミックステム4に押し当てることで、自動的に、接着剤塗布用ノズル20の先端面21とセラミックステム4との距離を所定間隔T2とすることができる。
【0084】
(他の実施形態)
(1)上述の各実施形態では、センサチップ3がセラミックステム4に接着され、このセラミックステム4が樹脂ケースに接着された構成であったが、センサチップ3が樹脂ケースに接着された構成であっても良い。この場合、樹脂ケースがセンサチップ3と接着される被着体である。
【0085】
(2)上述の各実施形態では、センサチップ3は、Si半導体基板5とガラス台座6とが積層された構成であったが、Si半導体基板5のみによって構成されていても良い。
【0086】
(3)上述の各実施形態では、本発明を、力学量としての圧力を検出する圧力センサの製造方法に適用したが、弾性変形によって熱応力を緩和する接着剤を介して、センサチップが被着体に接着された構造を有するものであれば、他の力学量センサの製造方法に適用することもできる。他の力学量センサとしては、力学量として加速度を検出する加速度センサが挙げられる。
【符号の説明】
【0087】
1 圧力センサ(力学量センサ)
2 接着剤(第1の高分子接着剤)
3 センサチップ
4 セラミックステム(被着体)
11 接着剤2と同じ材料からなる層(第2の高分子接着剤からなる層)
12 スペーサ(第2の高分子接着剤からなるスペーサ)
13 スペーサ(第2の高分子接着剤からなるスペーサ)
20 接着剤塗布用ノズル
21 接着剤塗布用ノズルの先端面
22 接着剤塗布用ノズルの加熱部
23 接着剤塗布用ノズルの突出部
24 接着剤塗布用ノズルの突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形によって熱応力を緩和する第1の高分子接着剤(2)を介して、センサチップ(3)が被着体(4)に接着された力学量センサの製造方法において、
前記被着体(4)の前記センサチップ(2)との接着予定領域の一部に、硬化後のヤング率が前記第1の高分子接着剤(2)と略同じである第2の高分子接着剤を硬化させることにより、前記センサチップ(3)と前記被着体(4)との間隔を保つためのスペーサ(12、13)を形成する工程と、
前記スペーサ(12)を形成した後、前記接着予定領域の全体に前記第1の高分子接着剤(2)を塗布する工程と、
前記接着剤(2)が塗布された前記接着予定領域に前記センサチップ(3)を載せ、前記スペーサ(12、13)によって前記センサチップ(3)を保持しながら、前記センサチップ(3)と前記被着体(4)との間の前記第1の高分子接着剤(2)を硬化させる工程とを有することを特徴とする力学量センサの製造方法。
【請求項2】
前記スペーサ(12)を形成する工程では、液滴の状態での前記第2の高分子接着剤の塗布と硬化とを行うことにより、所望厚さ(T1)の前記スペーサ(12)を形成することを特徴とする請求項1に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項3】
前記スペーサ(12)を形成する工程では、液滴の状態での前記第2の高分子接着剤の塗布と硬化とを複数回行うことを特徴とする請求項2に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項4】
前記第2の高分子接着剤として、前記第1の高分子接着剤(2)と同じ材料を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の力学量センサの製造方法。
【請求項5】
前記スペーサ(13)を形成する工程では、所定間隔(T2)とされた接着剤塗布用ノズル(10)の先端面(21)と前記被着体(4)との間で、前記接着剤塗布用ノズル(10)から塗布した前記第2の高分子接着剤を硬化させるとともに、第2の高分子接着剤として、前記第1の高分子接着剤(2)と同じ材料を用い、
前記第1の高分子接着剤(2)を塗布する工程では、前記スペーサを形成する工程で使用した前記接着剤塗布用ノズル(10)から前記第1の高分子接着剤(2)を追加塗布することを特徴とする請求項1に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項6】
前記スペーサ(13)を形成する工程では、前記接着剤塗布用ノズル(20)から塗布した前記第2の高分子接着剤(2)を部分的に硬化させることを特徴とする請求項5に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項7】
前記スペーサ(13)を形成する工程では、前記接着剤塗布用ノズル(20)の外側から接着剤硬化手段によって、前記第2の高分子接着剤(2)の外側を部分的に硬化させることを特徴とする請求項6に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項8】
前記スペーサ(13)を形成する工程では、先端側に加熱部(22)を設けた前記接着剤塗布用ノズル(20)を用い、前記加熱部(22)によって、前記接着剤塗布用ノズル(20)から塗布した前記第2の高分子接着剤(2)を部分的に熱硬化させることを特徴とする請求項6に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項9】
前記スペーサ(13)を形成する工程では、前記接着剤塗布用ノズル(20)として、前記先端面(21)よりも前記被着体(4)側に突出するとともに、前記先端面(21)を基準とした突出高さ(T3)が前記所定間隔(T2)と同じである突出部(23、24)を設けたものを用いることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1つに記載の力学量センサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−127781(P2012−127781A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279105(P2010−279105)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】