説明

医用光度計

【課題】本発明は、モノクロメータタイプ光度計の利点である照射する光のエネルギーを小さく、照射する光の影響で反応液の変化を抑え、ハーフミラーによって光を二分し、参照側信号を作りだし、信号処理を行うことで受光素子の暗信号、及び光源の輝度変化影響を抑える感度調整信号を得る特長や、規定の波長ではなく任意の波長が選択できる特長を備えつつ、課題であった同時多波長測光を可能にする医用光度計を提供すること。
【解決手段】本発明は、試料を透過させる白色光を発生する光源と、前記試料を透過した白色光を単色光に分光する分光手段と、前記分光手段により分光された単色光を受光する受光手段と、上記単色光の波長を変える波長選択手段を備え、上記波長選択手段として反射鏡付き回転スリットを用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用光度計に係り、特に、血清と試薬を反応処理させた検体を直接吸引して分析をする際の多波長同時分光測定に用いられる医用光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
血清と試薬とを反応処理させた検体を、湿式分析によって行う方法は、分析反応の温度や反応物質の温度などの分析条件を正確に規定出来る。このため、再現性、定量精度に優れ、この湿式分析方法に用いられる医用光度計は、病院や臨床検査センター、保健所等で病気の診断や早期発見に不可欠の装置として広く使用されている。
【0003】
一方、検体や試薬の分注、攪拌や反応時間の管理など一連の前処理を自動化して前述の分析ができる装置として、自動分析装置がある。この自動分析装置に対して、医用光度計は、前述の前処理をオペレータが手動で行う装置として自動分析装置のバックアップ機、少量検体の測定、特殊項目測定用のものとして位置し、必要不可欠の装置とされている。
【0004】
医用光度計は、反応液を光度計フローセルへの吸い上げに用いるシッパーといわれるポンプ、光度計および信号処理部から概略構成されている。
【0005】
特に、光度計は、光源から出た光を回折格子や干渉フィルタにより分光した後、目的の波長域だけの単色光をフローセル内の反応液に照射する単色光照明方式(モノクロメータタイプ)と、光源から出た白色光を前記フローセル内の反応液に照射する白色光照明方式(ポリクロメータタイプ)に分けられる。
【0006】
医用光度計として代表的なものは、モノクロメータタイプで専用装置化したものが多くみられる。
【0007】
このモノクロメータタイプの医用光度計においては、まず、光源から出射した光は、レンズ、窓、及びスリットを通った後に凹面回折格子に入射する。
【0008】
光はここで分光され、ローランド円上に並んだ出射スリットへ入射スリットの像を結ぶ。この出射スリットから出た単色光がフローセルを通過し、シリコンダイオードなど検知器へ入射する。
【0009】
フローセルを通過させる波長を選ぶには、凹面回折格子の回転角度を設定し、偏心カムをモータ制御する。これにより、前述の病気の診断など生化学検査に必要な波長を選定することができる。
【0010】
前述と同様に、シリコンダイオードなどの検知器から出力される微小電流は増幅器によって増幅され、その信号がA/D変換されてマイクロコンピュータに入力される。入力された信号の吸光度変換や濃度変換もコンピュータが行う。
【0011】
多くの場合、A/D変換の際、対数変換により基準との差分により吸光度を測定するシステムとなっている。
【0012】
この場合でも、上記増幅器のドリフト、検知器の感度変化、光源の明るさ変化が測定値に悪影響を与えないようにするためには、暗信号、感度調整信号を得るため光チョッパーを回転させて、時分割させた光信号を処理したり、ハーフミラーによって光を二分し、参照側信号を作りだし、信号処理を行う。
【0013】
このため、光度計自体が大きくなり、制御や調整も複雑になるのが避けられないが、波長カムやマイクロメータにより回折格子を回転する時間がかかっても、連続した分光特性が得られることと、反応液に照射する光のエネルギーが小さくて済むので、照射する光の影響で反応液が変化しない利点がある。
【0014】
しかしながら、上記時分割光信号処理等の方法では、暗信号、感度調整信号を得ることが出来るが、単色光に分光した光を試料へ照射するので、二波長を同時に同一試料に照射して測定することはできない。
【0015】
また、上記凹面回折格子の回転角度設定偏心カムモータを高速で制御することで多波長測定することもできるが、処理に時間がかかるため、測定試料の反応過程をモニタする場合は正確な結果が得られない。
【0016】
これに対して、アレイ形受光素子を用いたポリクロメータタイプの分光光度計の場合、光源から出射した光はレンズや窓を通り、フローセルや専用の反応容器のひとつを通過し、スリットを通ったのち凹面回折格子に入射する。
【0017】
光はここで分光され、ローランド円上に並んだ複数のシリコン検知器上に波長毎に像を結ぶ。
【0018】
検知器は前述の病気の診断など生化学検査に必要な複数波長の場所にあるので、検知器を選べば波長を選んだことになり、ほぼ同時に波長測光が可能となる。
【0019】
多波長測光は臨床用途にフローセルを用いて分光測定を行う場合に、反応液の濁りやフローセル内への気泡混入による誤差を小さくする上で有効である。
【0020】
ただし、このポリクロメータタイプの分光光度計の場合、モノクロメータタイプとは異なり反応液に照射する光のエネルギーが大きく、照射する光の影響で反応液が変化し得る欠点があり、さらに暗信号、感度調整信号を得ることが難しくなる。
【0021】
特許文献1には、ミラー、シャッター等を切り換えることによりダブルモノクロ−ダブルビーム分光光度計と、シングルモノクロ二波長分光光度計の両方の機能をあわせもつ分光光度計が開示されている。
【0022】
【特許文献1】特開平7−318484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上述したように同時多波長測光を可能にするためにはモノクロメータを2つ設け、2つの波長で分光を行うダブルビーム分光光度計あるいは白色光を多色に分解して分光するポリクロメータタイプの分光光度計を用いることが考えられるが、この場合、同時に多波長測光を行うためには波長分の受光素子、検出アンプ、及びA/D変換器が必要となりコストがかかるのが実状である。
【0024】
また上述した、モノクロメータタイプ光度計の利点である反応液影響や感度調整が難しくなる欠点があった。
【0025】
一方、モノクロメータタイプ光度計における多波長測光は凹面回折格子の回転角度設定偏心カムモータを高速で制御する方法があるが、処理に時間がかかるため、測定試料の反応過程をモニタする場合は正確な結果が得られない。
【0026】
本発明は、モノクロメータタイプ光度計の利点である照射する光のエネルギーを小さく、照射する光の影響で反応液の変化を抑え、ハーフミラーによって光を二分し、参照側信号を作りだし、信号処理を行うことで受光素子の暗信号、及び光源の輝度変化影響を抑える感度調整信号を得る特長や、規定の波長ではなく任意の波長が選択できる特長を備えつつ、課題であった同時多波長測光を可能にする医用光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、試料を透過させる白色光を発生する光源と、前記試料を透過した白色光を単色光に分光する分光手段と、前記分光手段により分光された単色光を受光する受光手段と、上記単色光の波長を変える波長選択手段を備え、上記波長選択手段として反射鏡付き回転スリットを用いたことを特徴とする。
【0028】
更に具体的に述べると、本発明は次のように構成される。
(1).分光手段に照射させるための白色光を発生する光源と、上記白色光を波長毎の単色光に分光する分光手段と、この分光手段により分光された単色光を試料に通過させるための波長を選択する波長選択手段と、単色光を二分し、参照側信号を作りだし、差分信号処理を行う光分割手段と、この光分割手段により分割された同一波長の一方を試料に通過させ受光素子に、もう一方を別の受光器に照射させる受光手段と、この受光手段からの出力に従って試料成分を分析する分析手段とを備える医用光度計において、上記波長選択手段により選択された波長毎に試料の吸光度を算出し、試料成分を分析する。
(2).好ましくは、上記(1)において、上記試料をその内部に流させるフローセルを備え、上記光源からの白色光は上記フローセル内に流れる試料を通過して上記分光手段に照射される。
(3).また、好ましくは、上記(1)、(2)において、上記単色光を二分し、参照側信号を作りだし、差分信号処理を行う。
【0029】
また、好ましくは、上記(1)、(2)及び(3)において、上記単色光の波長を変化させる波長選択手段に反射鏡付き回転スリットを用い複数の波長を1つの試料及び受光手段に連続的に照射させ、多波長測光を行う。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、モノクロメータタイプ光度計の利点生かしつつ波長分の受光素子、検出アンプ、及びA/D変換器を必要とせずに簡単な構成で多波長測定が可能になり、安定した結果を正確に得ることができる医用光度計を実現することができる。
【0031】
つまり、多波長測定を行うための構造や、受光素子及び信号処理回路の数を少なく構成でき、生産コスト低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明に係る医用光度計の一実施形態の概略構成図である。
【0034】
図1において、本発明の一実施形態における医用光度計の光度計部は、モノクロメータ方式で構成している。
【0035】
光源1は、光源保持手段2により、この光源1から発生する熱が他の部材へ伝導しないように遮断して保持される。
【0036】
そして、光源1から発生した白色光(多波長光)は、スリット3を通過し、分光手段に含まれる凹面回折格子4に入射する。
【0037】
凹面回折格子4に入射した光は、ここで分光され、分光された単色光は凹面回折格子駆動機構5により任意の波長の単色光が選択され、波長選択手段に含まれる反射鏡付き回転スリット6に照射される。
【0038】
回転スリット6には円周上に12個のスリットが配置され、これらのスリット選択は回転スリット駆動機構7及びスリット位置センサ8によって回転制御され、12種類の波長の単色光を通過させる。
【0039】
12個のスリット間隔は一定となるが、凹面回折格子駆動機構5により選択される波長の最大長波長単色光9はそのまま回転スリット6を通過し、長波長単色光9以下の11波長単色光は回転スリット6を通過した後、ミラー10により反射させる。
【0040】
回転スリット6を通過した12波長単色光は波長幅5nmに制限され、別の波長が混じらぬように遮光マスク11を通過し12波長それぞれがハーフミラー120に集光する。
【0041】
ハーフミラー120を通過した単色光はフローセル13を通過し、受光手段に含まれるサンプル側検知器14に照射され、ハーフミラー120を反射した単色光は受光手段に含まれる参照側検知器15に照射される。
【0042】
一方、オペレータが予め分析する項目を決定して、目的の試薬と患者血清とを反応させ前処理が完了している反応液16は、反応液吸入ノズル17からチューブ18とシッパーポンプ19とによりフローセル13へ規定量吸引される。
【0043】
そして、測定が終了した反応液は、次の反応液によってフローセル13から排出され、この繰り返し動作により次々に反応液16がフローセル13へ送られ、順次、廃液ボトル20に排出される。
【0044】
シッパーポンプ19の回転を制御するシッパー制御信号21、フローセル13の温度を制御するフローセル温度制御信号22、凹面回折格子駆動信号23、及び回転スリット駆動信号24などの信号は、マイクロコンピュータ27により送受信され制御される。
【0045】
測定結果は、サンプル側検知器14と参照側検知器15の光電流出力を対数変換器25で差分演算され、この差分演算された受光素子信号(対数値)は、マイクロコンピュータ27に送られる。
【0046】
マイクロコンピュータ27により処理された分析結果は、例えば、高速紙送り機構を有する感熱式プリンタなどの印字出力手段28により印刷され、同時に液晶モジュールなどの表示手段29に表示される。
【0047】
上述した分析項目に合わせて波長、反応液の吸引量などの測定条件は予めオペレータがパラメータ入力手段30により設定する。フローセル13は、マイクロコンピュータ27により温度制御される。
【0048】
また、このフローセル13は、気泡が抜けやすいような構造となっており、フローセル13と流路(チューブ18)とを接続するジョイント部分も気泡が抜けるように斜めに工夫が加えられている。
【0049】
図2は、図1に示した医用光度計における回転スリット6の詳細図である。
【0050】
回転スリット6の円周上に均等な大きさの穴が空いたスリットを30°の角度で12個配置し、スリット位置を検知する検知手段に含まれるスリット位置検知板31を基準として長波長側から短波長側に円中心へとスリット位置を変えて穴を空けることで12個の異なる波長を選択できるようにする。
【0051】
12個の標準波長は生化学分析で使用される800、750、700、660、600、570、546、505、480、450、405、340nmとし、最長波長を除いた11個のスリットには全て、ミラー10が配置され、ミラー10により反射した単色光はハーフミラー120を通過して、最長波長を含む12波長全てが検知器に照射される。
【0052】
図3は、本発明における試料測定時の信号処理についての概略動作フローチャートである。
【0053】
なお、受光素子信号は対数増幅器25を用い、対数値に変換される。
【0054】
図3のステップ100において、測定時間、測定波長等の分析条件が設定される。
【0055】
次に、ステップ101において、多波長測定か単波長測定を行うかの選択を行う。
【0056】
単波長測定が選択された場合にはステップ102において凹面回折格子駆動機構5によりステップ100において選択した波長を最長波長スリット位置に設定する。
【0057】
一方、多波長測定が選択された場合にはステップ103において凹面回折格子駆動機構5により標準12波長となるように最長波長スリット位置が800nmとなるように設定する。
【0058】
ここで多波長測定において上述した12個の波長を変えて測定を行う場合は波長を間隔はそのままとし、凹面回折格子駆動機構5により最長波長スリット位置に任意の波長を選択する。
【0059】
次に、ステップ104において、回転スリットを回転させながらステップ101の単波長、多波長の選択に関わらず12スリット全ての測光値を記憶(図示なし)させる。
【0060】
ここで回転スリットは30°ピッチで動作し、1個のスリットの測定を終えて、次のスリット30°送る動作を繰り返しながら、ステップ100において設定された測定時間に応じて500rpm〜3000rpmの速度で回転させ、ステップ105において測定時間を監視し、測定時間に満たない場合はステップ104の測定を繰り返す。
【0061】
このように同一波長を繰り返し測定するのではなく、複数の波長を1回づつ繰り返し高速測定することで主波長に対する副波長の時間差影響を極力抑え、同時多波長測定と同じ効果が得られる。
【0062】
ステップ105において測定時間に達した場合はステップ106に進み、上述回数分の積算値から12波長全ての吸光度演算を行いう。
【0063】
この12波長の吸光度データからステップ100において、指定された波長を選択し、検量線演算、または既に検量線が作成されている場合はその検量線を用いた濃度演算を行う。
【0064】
そして、ステップ107において、測定した試料の吸光度、濃度を表示手段29により表示し、印字出力手段28により印字出力する。
【0065】
以上のように、本発明の一実施形態によれば、モノクロメータタイプ光度計の利点である照射する光のエネルギーを小さく、照射する光の影響で反応液の変化を抑え、ハーフミラーによって光を二分し、参照側信号を作りだし、信号処理を行うことで受光素子の暗信号、及び光源の輝度変化影響を抑える
感度調整信号を得る特長や、規定の波長ではなく任意の波長が選択できる特長を備えつつ、従来は困難であった多波長測光を可能にし、医用分光光度計の信頼性を向上させることができる。
【0066】
また、ポリクロメータタイプ光度計とは異なり波長分の受光素子、検出アンプ、及びA/D変換器を必要とせずに簡単な構成しており、ポリクロメータタイプ光度計に比較して生産コスト低減が図れる。
【0067】
なお、上述した例においては、受光素子の暗信号、及び光源の輝度変化影響を抑える感度調整信号を得るためにハーフミラーを用いて参照信号側検出器用いているが、このような参照信号側検出器を用いない他のモノクロメータタイプ光度計にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る医用光度計の一実施形態の概略構成図である。
【図2】図1に示した回転スリットの詳細図である。
【図3】本発明における試料測定時の信号処理についての概略動作フローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1…光源、2…光源保持手段、3…スリット、4…凹面回折格子、5…凹面回折格子駆動機構、6…回転スリット、7…回転スリット駆動機構、8…スリット位置センサ、9…長波長単色光、10…ミラー、11…マスク、120…ハーフミラー、13…フローセル、14…サンプル側検知器、15…参照側検知器、16…反応液、17…反応液吸入ノズル、18…チューブ、19…シッパーポンプ、20…廃液ボトル、21…シッパー制御信号、22…フローセル温度制御信号、23…凹面回折格子駆動信号、24…回転スリット駆動信号、25…対数変換器、26…受光素子信号(対数値)、27…マイクロコンピュータ、28…印字出力手段、29…表示手段、30…パラメータ入力手段、31…スリット位置検知板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を透過させる白色光を発生する光源と、
前記試料を透過した白色光を単色光に分光する分光手段と、
前記分光手段により分光された単色光を受光する受光手段と、
上記単色光の波長を変える波長選択手段を備え、
上記波長選択手段として反射鏡付き回転スリットを用いたことを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
請求項1記載の分光光度計において、
上記回転スリットの円周上に均等な大きさのスリットを所定の角度で複数配置し、複数の波長を選択できるようにしたことを特徴とする分光光度計。
【請求項3】
請求項2記載の分光光度計において、
前記所定の角度が30°、前記スリットの個数が12であることを特徴とする分光光度計。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の分光光度計において、
前記回転スリットの位置を検知する検知手段を備えたことを特徴とする分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−58155(P2008−58155A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235697(P2006−235697)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】