説明

半導体デバイス

【課題】応力による半導体回路の特性劣化を抑制した半導体デバイスを提供する。
【解決手段】縦導体は、半導体基板の厚み方向に設けられた微細孔を満たし、第1結晶組織301と第2結晶組織302とを含むナノコンポジット結晶構造を有する。ナノコンポジット結晶構造において、第1結晶組織301及び第2結晶組織302の少なくとも一方は、ナノサイズである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおいては、これまで、基板上に半導体チップを平面的に配置し、その間を配線で接続する方法がとられてきた。しかし、この方法では、実装面積が半導体チップの数とともに増加するとともに、配線長も増加してしまうので、半導体デバイスの小型大容量化、高性能化及び低消費電力化を実現することが困難である。微細化技術が極限まで進んだ現状では、半導体チップの微細化、小型化をとおして、大容量化、高性能化及び低消費電力化を実現することは、限界に来ている。
【0003】
そこで、半導体チップを積層し、チップ間を貫通電極で接続するいわゆるTSV(Through Silicon Via)方式に係る三次元配置の半導体デバイスの開発が進められている。TSV技術を使えば、大量の機能を小さな占有面積の中に詰め込めるようになるし、また、素子同士の重要な電気経路が劇的に短く出来るために、処理の高速化が導かれる。
【0004】
TSV方式に係る三次元配置の半導体デバイスを実現する代表的な技術は、めっき技術を適用して貫通電極を形成するめっき方法、及び、例えば、特許文献1に開示されているように、微細孔を持つシリコン基板を、真空圧に減圧した真空チャンバー内で溶融金属槽に挿入し、シリコン基板が溶融金属とほぼ同じ温度に達した後、真空チャンバー内を例えば大気圧以上に加圧して、溶融金属を微細孔に充填し、硬化させて、溶融凝固導体でなる貫通導体を形成する溶融金属充填方法である。
【0005】
ところで、TSV技術を採用して、貫通電極を形成するには、既に、半導体基板(ウエハ)に形成された半導体回路の特性に悪影響を与えるような応力を持たないことが、極めて重要である。
【0006】
ところが、上述した従来技術の何れも、縦導体における結晶成長などに伴う応力による半導体回路の特性変動について気づいておらず、検討もなされていない。このため、半導体基板に既に形成されている半導体回路の特性を劣化させることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−158191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、縦導体の応力による半導体回路の特性劣化を抑制した半導体デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明に係る半導体デバイスは、半導体基板と、縦導体とを含み、前記縦導体は、前記半導体基板の厚み方向に設けられた微細孔を満たし、複数の金属/合金結晶組織からなる。前記金属/合金結晶組織の少なくとも一種は、ナノサイズの第1結晶組織である。この第1結晶組織は、前記貴金属/合金結晶組織の少なくとも他の一種である第2結晶組織と、ナノコンポジット結晶構造を構成する。
【0010】
上述したように、本発明では、縦導体が、ナノコンポジット結晶構造を有し、ナノコンポジット結晶構造を構成する第1結晶組織及び第2結晶組織の少なくとも一方は、ナノサイズであるから、大きさが、ナノレベルに制限された組織(結晶)を含むことの効果として、縦導体に発生する応力が小さくなる。しかも、ナノコンポジット結晶構造には、縦導体の等軸晶化を促進する働きある。
【0011】
上述したナノコンポジット結晶構造の有する特有の特性により、半導体基板(ウエハ)に形成された半導体回路の特性劣化が抑制される。また、半導体基板に亀裂・クラックが入るのを抑制することもできる。
【0012】
本発明において、ナノコンポジット結晶構造とは、基本的には、結晶粒内にナノ粒子を分散(粒内ナノコンポジット結晶構造)させるか、粒界にナノ粒子を分散(粒界ナノコンポジット結晶構造)させたものをいう。本発明において、「ナノ」とは、1μm未満のサイズをいう。
【0013】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。但し、添付図面は、単なる例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る半導体デバイスの一例を概略的に示す断面図である。
【図2】ナノコンポジット結晶構造を模式的に示す図である。
【図3】別のナノコンポジット結晶構造を模式的に示す図である。
【図4】更に別のナノコンポジット結晶構造を模式的に示す図である。
【図5】更に別のナノコンポジット結晶構造を模式的に示す図である。
【図6】本発明に係る半導体デバイスの別の例を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明に係る半導体デバイスのSEM像である。
【図8】図7に示したSEM像の上端面を拡大したSEM像である。
【図9】本発明に係る半導体デバイスの更に別の例を概略的に示す図である。
【図10】本発明に係る半導体デバイスの更に別の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、縦導体3は半導体基板1の一面からその厚み方向に延びる微細孔30の内部に充填されている。半導体基板1は、Si、SiC又はSOI等で構成され、その内部に半導体回路2が形成されている。半導体回路2は、縦導体3の側方に微小間隔をおいて備えられている。
【0016】
半導体基板1に設けられた微細孔30の内側面の全面に、絶縁膜5が付着されており、絶縁膜5によって囲まれた微細孔30の内側に、縦導体3が配置されている。絶縁膜5は、微細孔30の内壁面を酸化又は窒化して得られた絶縁膜であってもよいし、無機絶縁材料、例えばガラスを主成分とし、必要に応じてセラミック成分を含有させたものによって形成してもよい。
【0017】
図1には、簡単な構成の半導体基板が示されているのみであるが、実際には、半導体デバイスの種類に応じた機能、及び、構造を満たすべく、より複雑な構造がとられる。半導体基板1は、ウエハであってもよいし、ウエハから切り出されたチップであってもよい。更に、単板であってよいし、複数枚を積層した積層体であってもよい。
【0018】
縦導体3は、μm単位の間隔をおいて、例えばマトリクス状などに多数設けられる。縦導体3によって満たされた微細孔30は、一般には、貫通孔、非貫通孔(盲孔)又はビア・ホールと称される。この微細孔30は、限定するものではないが、例えば、孔径60μm以下である。
【0019】
縦導体3は、複数種の金属/合金結晶組織からなり、この金属/合金結晶組織の少なくとも一種は、図2に模式的に示すように、ナノサイズの第2結晶組織302であり、貴金属/合金結晶組織の少なくとも他の一種である第1結晶組織301と、ナノコンポジット結晶構造を構成する。
【0020】
上述したように、本発明では、縦導体3が、ナノコンポジット結晶構造を有し、第1結晶組織301及び第2結晶組織302の少なくとも一方、例えば、第2結晶組織302は、ナノサイズであるから、大きさが、ナノレベルに制限された組織(結晶)を含むことの効果として、縦導体3に発生する応力が小さくなる。しかも、ナノコンポジット結晶構造には、縦導体3の等軸晶化を促進する働きもある。等軸晶は、均一な等軸結晶であって、その特性が等方的であるゆえに、応力低減に資する。
【0021】
ナノコンポジット結晶構造の上述した特性により、半導体基板1(ウエハ)に形成された半導体回路2の特性劣化が抑制される。また、半導体基板1における亀裂・クラックの発生なども抑制される。
【0022】
図2に示す形態は、第1結晶組織301の内部に、ナノサイズである第2結晶組織302を分散させたものである。このほか、図3〜図5に模式的に示すように、第1結晶組織301の粒界に、ナノサイズである第2結晶組織302を分散させたもの(図3)、これとは逆に、第2結晶組織302の粒界に、ナノサイズである第1結晶組織301を分散させたもの、第1結晶組織301の内部に、ナノサイズである第2結晶組織302を分散させるとともに、第1結晶組織301の粒界に、ナノサイズである第2結晶組織302を分散させたもの(図4)、第1結晶組織301及び第2結晶組織302の両者がナノサイズであるもの(図5)などの形態をとることができる。図示は省略するけれども、図2〜図5の形態を組み合せたものであってもよい。さらに、縦導体3を構成する複数種の金属/合金結晶組織において、上述した第1結晶組織301及び第2結晶組織302によるナノコンポジット結晶構造とは、異なる他種のナノコンポジット結晶構造を形成させてもよい。
【0023】
第1結晶組織301及び第2結晶組織302は、金属成分が部分的に重なっていてもよいし、全く異なっていてもよい。第1結晶組織301及び第2結晶組織302の別は、含まれている金属元素の融点の違いや、共晶化や合金化の有無などによって生まれる。また、このナノコンポジット結晶構造は、ナノ金属/合金粒子の溶融充填方法や、スパッタ併用めっき法などによって実現することができる。
【0024】
第1結晶組織301及び第2結晶組織302の代表的な例は、非共晶組織と共晶組織の組み合わせである。共晶は、合金などの結晶組織の1つであって、たとえば2種類の金属Aと金属Bを溶解して合金をつくる場合、金属Aと金属Bの比率が金属Aに対する金属Bの固溶限(固溶体をつくる限界)までの範囲や、金属Bに対する金属Aの固溶限までの範囲にないと、合金は、それぞれ違った成分比の固溶体の結晶がまじりあったものになり、共晶組織を構成する。金属Aと金属Bとが、上記条件を満たさない場合や、溶解温度が共晶点まで達しなかった場合には、本来、共晶となりえる金属A,Bであっても、非共晶組織となる。非共晶組織は、共晶化のための金属元素とは異なる第3の金属元素を添加することによっても得られる。
【0025】
第1結晶組織301を非共晶組織とした場合、第2結晶組織302は共晶組織である。この組み合わせを前提としたナノコンポジット結晶構造には、図2〜図5を参照すると明らかなように、
(a)非共晶組織の内部に共晶組織でなるナノ粒子を分散させたもの、(b)非共晶組織の粒界に共晶組織でなるナノ粒子を分散させたもの、(c)共晶組織の粒界に非共晶組織でなるナノ粒子を分散させたもの、(d)非共晶組織の内部に共晶組織でなるナノ粒子を分散させるとともに、非共晶組織の粒界に共晶組織でなるナノ粒子を分散させたもの、(e)共晶組織及び非共晶組織が、共にナノサイズであるもの
などが含まれる。
【0026】
ナノコンポジット結晶構造は、縦導体3の全体にわたっていてもよいし、部分的に存在してもよい。例えば、微細孔30の内壁面又は絶縁膜5の内壁面と接触する縦導体3の外周に部分的に存在していてもよい。
【0027】
縦導体3が、共晶組織と、非共晶組織とによるナノコンポジット結晶構造を有し、共晶組織及び非共晶組織の少なくとも一方はナノサイズである場合も、結晶の大きさが、ナノレベルに制限された結晶を含むことの効果として、縦導体3に発生する応力が小さくなるから、半導体回路2の特性に悪影響を与える不具合を抑制する方向に働く。半導体基板1に亀裂・クラックが発生するのを抑制する働きも生じる。
【0028】
しかも、縦導体3を構成するナノコンポジット結晶構造が、共晶組織を含んでいるから、縦導体3と、μmオーダの微細孔30の内壁面との間に空隙や空洞を生じにくくなるし、縦導体3に金属成分の偏析も生じにくい。
【0029】
縦導体3は、好ましくは、Biを含むことができる。更に、Biに対して共晶組成を構成しえるもの、例えば、Sn、Cu、Ag、Al、Zn又はAuの群から選択された少なくとも1種を含むことができる。
【0030】
上述した金属元素の組み合わせにより、二元以上の多元共晶組織を実現することができる。そのような共晶組成は、すでに知られている。例えば、二元共晶組成としては、Bi:97.5質量%、Ag:2.5質量%、共晶温度262℃のBi−Ag系や、Bi:89質量%、Ag:11質量%、共晶温度241℃のBi−Ag系が知られている。また、三元共晶組成としては、Sn−1Ag−57Bi共晶(融点:138℃)などが知られている。その他の二元以上の金属を用いた場合の共晶組成及び融点についても、既に知られているものが、多数存在する。知られていないものであっても、既に確立しているCALPHAD(Computer Calculation of Phase Diagram)法等を用いて算出することができる。そのための具体的なソフトウエアも知られている(例えば、JMatPro)。
【0031】
上述したような金属元素の組み合わせであっても、共晶組成から外れた領域、共晶点を履歴しない温度条件では、非共晶組成が生じるので、共晶組織及び非共晶組織を同時に実現することができる。
【0032】
図6は、半導体デバイスの別の実施形態を示している。図6を参照すると、絶縁膜5の内側面に、第1縦導体31が付着されている。そして、第1縦導体31によって囲まれた空間内に、第1縦導体31と共に縦導体3を構成する第2縦導体32が配置されており、第1縦導体31及び第2縦導体32の少なくとも一方が、ナノコンポジット結晶構造を有する。
【0033】
図7及び図8は、本発明に係る半導体基板1のSEM像であり、半導体基板1に穿孔された微細孔30の内部に、縦導体3が充填されている。図7及び図8をみると明らかなように、第1結晶組織301に、ナノサイズを有する第2結晶組織302が分散されて、ナノコンポジット結晶構造を構成していることが分かる。
【0034】
次に、図9を参照すると、任意数の半導体デバイスA1〜A6を、順次に積層した三次元配置半導体デバイスが図示されている。半導体デバイスA1〜A6のそれぞれは、積層界面において接合されている。図では、縦導体3は、半導体デバイスA1〜A6の間において、全て連なっているが、回路構成によっては連ならない場合もあり得る。最外側の半導体デバイスA1、A6には、バンプ(取出電極)60〜69が設けられる。この多層積層構造は、TSV技術を適用した三次元半導体デバイスの一種である
更に、図10は、集積回路LSI1、LSI2と、本発明に係る半導体デバイスA1〜A6とを組み合せた三次元半導体デバイスを示している。本発明において、集積回路LSIと称する場合、小規模集積回路、中規模集積回路、大規模集積回路、超大規模集積回路VLSI、ULSI等の全てを含む。
【0035】
図10を参照すると、第1集積回路LSI1と、第2集積回路LSI2との間に、本発明に係る半導体デバイスA1〜A6が実装されている。この実施の形態では、半導体デバイスA1〜A6のうち、半導体デバイスA1はインターポーザとして用いられている。
【0036】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形形態及び説明されない他の適用技術分野を想到しえることは自明である。
【符号の説明】
【0037】
1 半導体基板
2 半導体回路
3 縦導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、縦導体とを含む半導体デバイスであって、
前記縦導体は、前記半導体基板の厚み方向に設けられた微細孔を満たし、複数種の金属/合金結晶組織からなり、前記金属/合金結晶組織の少なくとも一種は、ナノサイズの第1結晶組織であり、前記金属/合金結晶組織の少なくとも他の一種である第2結晶組織と、ナノコンポジット結晶構造を構成する、
半導体デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体デバイスであって、前記半導体基板は、その内部に半導体回路を有する、半導体デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された半導体デバイスであって、前記第1結晶組織の内部に、前記第2結晶組織を分散させたものである、半導体デバイス。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された半導体デバイスであって、前記第1結晶組織の粒界に、前記第2結晶組織を分散させたものである、半導体デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載された半導体デバイスであって、前記第2結晶組織の粒界に、前記第1結晶組織を分散させたものである、半導体デバイス。
【請求項6】
請求項1又は2に記載された半導体デバイスであって、前記第1結晶組織及び前記第2結晶組織の両者がナノサイズである、半導体デバイス。
【請求項7】
請求項1又は2に記載された半導体デバイスであって、前記第1結晶組織は非共晶組織であり、前記第2結晶組織は共晶組織である、半導体デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載された半導体デバイスであって、前記非共晶組織の内部に前記共晶組織でなるナノ粒子を分散させたものでなる、半導体デバイス。
【請求項9】
請求項7又は8に記載された半導体デバイスであって、前記非共晶組織の粒界に、前記共晶組織でなるナノ粒子を分散させたものでなる、半導体デバイス。
【請求項10】
請求項7又は8に記載された半導体デバイスであって、前記共晶組織の粒界に、前記非共晶組織でなるナノ粒子を分散させたものでなる、半導体デバイス。
【請求項11】
請求項7に記載された半導体デバイスであって、前記共晶組織及び前記非共晶組織が、共にナノサイズである、半導体デバイス。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れかに記載された半導体デバイスであって、前記半導体基板は複数であり、積層されている、半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−43822(P2012−43822A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180749(P2010−180749)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(504034585)有限会社 ナプラ (55)
【Fターム(参考)】