説明

半導体基板およびその製造方法

【課題】大面積化が可能な非極性基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板の製造方法は、サファイア基板上に、GaN層と、AlGa(1−X)N(0<X≦1)層とが交互に積層された半導体成長層を形成する工程と、半導体成長層を、半導体成長層の成長面と交差する方向に沿って分割することにより、GaN層からなる第1領域11aとAlGa(1−X)N(0<X≦1)層からなる第2領域12aとが縞状に配置された非極性面からなる主表面(切り出し面100a)を有する半導体基板100を形成する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非極性面からなる主表面を有する半導体基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化ガリウム(GaN)などの窒化物系材料からなる発光素子は、ディスク装置などで利用される青紫色半導体レーザ(LD)や、照明用の光源などに利用される発光ダイオード(LED)として実用化されている。これらの発光素子では、一般的に、結晶膜の成長が比較的容易なGaNのc面とよばれる(0001)面上に素子構造が形成される。なお、このc面は、ヘテロ接合を形成した場合に、自発分極および圧電分極を発生する、いわゆる極性面である。しかし、近年、極性面上に形成した発光素子では、大きなピエゾ電界の影響により発光遷移確率が低くなるため、発光素子の発光効率が低下することが明らかにされている。
【0003】
そこで、c面とは異なる(1−100)面(m面)、(11−20)面(a面)などの無極性面や、(11−22)面など半極性面などの非極性面(非c面)からなる主表面を有する基板(非極性基板)上に素子構造を形成することが検討されている。また、従来では、非極性面基板の製造方法も提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
上記特許文献1には、GaAs基板上にGaN層を成長させるとともに、このGaN層(インゴット)を、層の成長方向と平行な面でスライス加工することにより、非極性面(非c面)からなる主表面を有する単結晶GaN基板を形成する方法が提案されている。上記特許文献1に提案された単結晶GaN基板の製造方法では、大面積の非極性基板を得るためには、GaAs基板上に厚みの大きいGaN成長層を形成する必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−29897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1において提案された単結晶GaN基板の製造方法では、GaAs基板上に厚みの大きいGaN層をエピタキシャル成長させるには、基板温度を約1000℃以上の高温にする必要がある。ところが、GaAs基板は、格子定数および熱膨張係数がGaNとは異なるために、GaN層を成長させた後の基板の冷却過程において、熱応力に起因して基板に反りが生じる。さらに、熱応力に起因してGaN層に欠陥やクラックが発生してしまう。すなわち、上記特許文献1において提案された製造方法では、GaN層をより厚く成長させるほど基板の反りが顕著となるので、GaN層の厚みを大きくすることは困難である。このため、GaN層の成長方向と略平行な面でスライス加工して得られる非極性基板のサイズを大きくするのは困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、大面積化が可能な非極性基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による半導体基板の製造方法は、成長用基板上に、第1半導体層と、第1半導体層と異なる材質の第2半導体層とが交互に積層された半導体成長層を形成する工程と、半導体成長層を、半導体成長層の成長面と交差する方向に沿って分割することにより、第1半導体層からなる第1領域と第2半導体層からなる第2領域とが縞状に配置された非極性面からなる主表面を有する半導体基板を形成する工程とを備える。
【0009】
この発明の第1の局面による半導体基板の製造方法では、上記のように、第1半導体層および第2半導体層が交互に積層された半導体成長層を形成する工程と、半導体成長層を、半導体成長層の成長面と交差する方向に沿って分割することにより、第1半導体層からなる第1領域と第2半導体層からなる第2領域とが縞状に配置された非極性面からなる主表面を有する半導体基板を形成する工程とを備えることによって、たとえば、成長用基板に対して互いに異なる格子定数を有する第1半導体層と第2半導体層とを交互に積層する際に、結晶成長時の熱膨張係数や格子定数の差に起因して、成長用基板に対する第1半導体層の反りの方向と、第1半導体層上に積層される第2半導体層の反りの方向とを実質的に相反する方向となるように組み合わせることが可能であるために、成長用基板に対して反りの程度を緩和させながら半導体成長層を形成していくことができる。これにより、成長用基板に対して1種類の材質からなる半導体層を積層させる場合と異なり、成長用基板上に成長させる半導体層の厚みを大きくすることができる。そして、厚みの大きな半導体成長層に対して成長面(極性面)と交差する方向に分割することにより、主表面が大面積化された非極性面からなる非極性基板(半導体基板)を得ることができる。
【0010】
上記第1の局面による半導体基板の製造方法において、好ましくは、半導体成長層を形成する工程は、第1半導体層および第2半導体層に発生する応力が互いに緩和されるように第1半導体層および第2半導体層の材質を選択して交互に積層する工程を含む。このように構成すれば、たとえば、第1半導体層と第2半導体層とを交互に積層する際に、成長用基板に対する第1半導体層の反り変形と、第1半導体層上に積層される第2半導体層の反り変形とが互いに打ち消されるので、反り変形の少ない半導体成長層を容易に形成することができる。
【0011】
上記第1の局面による半導体基板の製造方法において、好ましくは、成長用基板、第1半導体層および第2半導体層の熱膨張係数が、それぞれ、αsub、α、およびαであり、第1半導体層および第2半導体層の格子定数が、それぞれ、bおよびbであって、成長用基板および第1半導体層が、αsub>αの関係を有する場合には、第1半導体層および第2半導体層は、少なくともα<αまたはb>bのいずれか一方の関係を有する。このように構成すれば、高温条件下で成長用基板上に半導体成長層を形成した後に常温へ移行した場合、成長用基板の収縮率が第1半導体層の収縮率よりも大きいために、成長用基板と第1半導体層との間には、第1半導体層側に凸の反り変形を生じさせる内部応力が発生する。その一方で、第1半導体層と第2半導体層との関係が、少なくともα<αまたはb>bのいずれか一方の関係を有するので、第2半導体層の収縮率が第1半導体層の収縮率よりも大きいために、第1半導体層と第2半導体層との間には、第2半導体層により、第1半導体層が上記の方向に凸に変形するのを引き戻す方向に内部応力が発生する。したがって、反りが抑制された半導体基板を容易に得ることができる。
【0012】
上記第1の局面による半導体基板の製造方法において、好ましくは、成長用基板、第1半導体層および第2半導体層の熱膨張係数が、それぞれ、αsub、α、およびαであり、第1半導体層および第2半導体層の格子定数が、それぞれ、bおよびbであって、成長用基板および第1半導体層が、αsub<αの関係を有する場合には、第1半導体層および第2半導体層は、少なくともα>αまたはb<bのいずれか一方の関係を有する。このように構成すれば、高温条件下で成長用基板上に半導体成長層を形成した後に常温へ移行した場合、成長用基板の収縮率が第1半導体層の収縮率よりも小さいために、成長用基板と第1半導体層との間には、成長用基板側に凸の反り変形を生じさせる内部応力が発生する。その一方で、第1半導体層と第2半導体層との関係が、少なくともα>αまたはb<bのいずれか一方の関係を有するので、第2半導体層の収縮率が第1半導体層の収縮率よりも小さいために、第1半導体層と第2半導体層との間には、第2半導体層により、第1半導体層が上記の方向に凸に変形するのを引き戻す方向に内部応力が発生する。したがって、反りが抑制された半導体基板を容易に得ることができる。
【0013】
上記第1の局面による半導体基板の製造方法において、好ましくは、第1半導体層および第2半導体層は、少なくともGaN、AlGa(1−X)N(0<X≦1)、および、InGa(1−Y)N(0<Y≦1)のいずれかを含み、第1半導体層と第2半導体層とは、異なる組成である。このように構成すれば、反りが抑制された窒化物系化合物半導体からなる半導体基板を容易に得ることができる。
【0014】
この発明の第2の局面による半導体基板は、第1半導体層からなる第1領域と、第1半導体層と異なる材質であるとともに第1領域に接合する第2半導体層からなる第2領域とを備え、第1領域と第2領域とが交互に積層されているとともに、第1領域と第2領域とが縞状に配置された非極性面からなる主表面を有する。
【0015】
この発明の第2の局面による半導体基板では、上記のように、第1半導体層からなる第1領域と、第1半導体層と異なる材質の第2半導体層からなる第2領域とが交互に積層されているとともに、第1領域と第2領域とが縞状に配置された非極性面からなる主表面を有するように構成することによって、たとえば、半導体基板の形成時に、成長用基板に対して互いに異なる格子定数を有する第1半導体層と第2半導体層とを交互に積層する際に、結晶成長時の熱膨張係数や格子定数の差に起因して、成長用基板に対する第1半導体層の反りの方向と、第1半導体層上に積層される第2半導体層の反りの方向とを反対方向となるように組み合わせることが可能であるために、成長用基板に対して反りの程度を緩和しながら半導体成長層を厚く形成することができる。これにより、成長用基板に対して1種類の材質からなる半導体層を積層させる場合と異なり、成長用基板上に成長させる半導体層の厚みを大きくすることができる。そして、厚みの大きな半導体成長層に対して成長面(極性面)と交差する方向に分割することにより、主表面が大面積化された非極性面からなる非極性基板として得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1〜図8は、本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。図9は、本発明の第1実施形態による半導体基板の構成を説明するための図である。まず、図1〜図9を参照して、第1実施形態による半導体基板100の製造プロセスおよび半導体基板100の構成について説明する。
【0018】
第1実施形態による半導体基板100の製造プロセスでは、半導体成長層の形成工程および成長用基板の除去工程を行い、その後、スライス加工による半導体基板の形成工程を行うことにより、図9に示すような主表面が非極性面からなる縞状の半導体基板100が形成される。以下、各工程順に具体的に説明する。
【0019】
まず、半導体成長層の形成工程では、図1に示すように、サファイア基板10の上面上に、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法)により、GaN層11を所定の厚さにエピタキシャル成長させる。その際、GaN層11の成長面を極性面(c面)として成長させるために、略(0001)面を主表面とするサファイア基板10を用いている。なお、サファイア基板10およびGaN層11は、それぞれ、本発明の「成長用基板」および「第1半導体層」の一例である。
【0020】
なお、GaN層11を成長させる成長用基板としては、上記サファイア基板10に限らず、窒化物系半導体基板や窒化物系半導体ではない異種基板(たとえばα−SiC基板、ZnO基板、スピネル基板およびLiAlO基板など)を用いてもよい。また、略(111)面を主表面にもつGaAs基板を用いてもよい。
【0021】
また、GaN層11は、気相から固層への反応を利用した薄膜成長法により成膜されるために、上記MOCVD法のほかに、ハイドライド気相成長法(HVPE法)や有機金属塩化物気相成長法(MOC法)などを適用してもよい。
【0022】
ここで、サファイア基板10の熱膨張係数αsub(a軸では約7.5×10−6/Kを有し、c軸では約8.5×10−6/Kを有する)と、GaAs基板の熱膨張係数αsub’(約6.0×10−6/Kを有する)とは、共に、GaN層11(図1参照)の熱膨張係数α(a軸では約5.59×10−6/Kを有し、c軸では約3.17×10−6/Kを有する)よりも大きい(αsub、αsub’>α)ために、サファイア基板10上にGaN層11のみの単層を厚く積層した場合、図4に示すように、成長後の冷却過程における熱応力(矢印P方向の応力)に起因して、GaN層11側(矢印A方向)に凸の反り変形が生じる。なお、図4では、上記の現象を分かりやすく説明するために、反りの形状を誇張して示している。
【0023】
そこで、第1実施形態では、上記GaN層11を成長させた後、図2に示すように、GaN層11とは異なる格子定数のAlGa(1−X)N(0<X≦1)層12を所定の厚さにエピタキシャル成長させる。なお、以降の説明では、AlGa(1−X)N(0<X≦1)層12をAlGa(1−X)N層12として記載する。このAlGa(1−X)N層12の成長により、AlGa(1−X)N層12の格子定数b(a軸方向では約3.112≦b<3.189を有する)がGaN層11の格子定数b(a軸方向では約3.189を有する)よりも小さい(b>b)ために、AlGa(1−X)N層12には、図5に示すように、半導体層の内部に向かう方向(矢印Q方向)の応力が生じる。このため、AlGa(1−X)N層12に生じる内部応力が、GaN層11側に凸に変形するのを矢印B方向に引き戻す(打ち消す)役割として作用する。なお、AlGa(1−X)N層12は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0024】
また、第1実施形態では、図3に示すように、AlGa(1−X)N層12を成長させた後、GaN層11を、再度、所定の厚さにエピタキシャル成長させる。そして、さらに、GaN層11の成長の後、AlGa(1−X)N層12を、再度、所定の厚さにエピタキシャル成長させる。この場合も、GaN層11の格子定数bと、AlGa(1−X)N層12の格子定数bとに大小関係(b>b)を有するために、互いの半導体層内部に発生する応力を打ち消し合う作用が生じる(図5参照)。すなわち、図6に示すように、GaN層11とAlGa(1−X)N層12とが繰り返して積層されることによって、半導体成長層20を、サファイア基板10上に反りが生じない状態か、または、反りが緩和された状態で、大きな厚みを有するように形成することが可能である。また、半導体成長層20には若干の反りが生じる場合もある。なお、半導体成長層20に若干の反りが生じる場合でも、反りの程度は、後述する半導体基板100の形成後に、半導体レーザ素子形成時の成長用基板または支持基板として半導体基板100を使用する際に、支障を来たす程度ではない。
【0025】
このようにして、GaN層11とAlGa(1−X)N層12とが所定の回数だけ繰り返して積層されることによって、半導体成長層の形成工程が行われる。
【0026】
次に、成長用基板の除去工程では、図7に示すように、成長用基板としてのサファイア基板10を半導体成長層20から分離除去する。その際、スライサー(図示せず)などによって物理的に除去してもよい。また、成長用基板がGaAs基板などの場合には、化学的エッチング処理によって除去してもよい。
【0027】
次に、スライス加工による半導体基板の形成工程では、図8に示すように、GaN層11とAlGa(1−X)N層12とが繰り返し積層された半導体成長層20の成長面に対して、実質的に垂直な方向(半導体成長層20の積層方向(図8の矢印C方向))に、スライサー(図示せず)などを使用して分割線500(破線)に沿ってスライス加工を施すことにより、半導体成長層20から半導体基板100を薄板状に切り出す。これにより、図9に示すように、GaN層11の第1領域11aとAlGa(1−X)N層12の第2領域12aとが横方向(矢印C方向)に交互に積層された半導体基板100が得られる。
【0028】
ここで、第1実施形態では、図9に示すように、半導体基板100の切り出し面100a(第1領域11aと第2領域12aとが縞状に配置された面)が、m面((1−100)面)またはa面((11−20)面)となるように切り出すことによって、無極性面(非c面)からなる主表面を有する半導体基板100が得られる。ここで、m面およびa面は、それぞれ、c面((0001)面)とよばれる極性面に対して法線方向の面を示す。なお、m面およびa面は、それぞれ、本発明の「非極性面」の一例であり、切り出し面100aは、本発明の「主表面」の一例である。
【0029】
また、この場合、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12の各層の厚みや、AlGa(1−X)N層12の組成比Xは、成長用基板の材質(サファイア基板10やGaAs基板などの熱膨張係数αsub)や、所望の半導体基板100の切り出し面100aにおける第1領域11aおよび第2領域12aの縞の間隔に基づいて、適宜調整される必要がある。
【0030】
たとえば、半導体レーザ素子を形成する際に、図9を参照して、半導体基板100のGaN層11の第1領域11a上にのみ、レーザ素子部を形成するならば、レーザ素子部が形成されない不要なAlGa(1−X)N層12の第2領域12aはGaN層11の第1領域11aよりも狭く形成されるのが望ましい。その場合、Alの組成比Xを増やすことによりAlGa(1−X)N層12としての格子定数bをより小さくすることができる。これにより、半導体層の内部に向かう方向の応力を増大させることができるので、AlGa(1−X)N層12の厚みをより小さくすることができる。通常の半導体レーザ素子のサイズは、数100μm(一辺)×数100μm(一辺)であり、隣り合う素子間隔を数10μm程度離す。このため、GaN層11の第1領域11a上にのみレーザ素子を形成する場合には、GaN層11の厚みを数100μmに形成するとともに、AlGa(1−X)N層12の厚みを、数10μm程度に形成するのが好ましい。ただし、GaN層11とAlGa(1−X)N層12とのそれぞれの格子定数bおよびbの差が大きくなり過ぎると、半導体層内部に欠陥やクラック(ひび割れ)などが発生する原因となるので、Alの組成比Xの調整には注意が必要である。
【0031】
このようにして、第1実施形態による製造プロセスにより、主表面が無極性面からなる半導体基板100が形成(製造)される。
【0032】
第1実施形態では、上記のように、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12が交互に積層された半導体成長層20を形成する工程と、半導体成長層20を、半導体成長層20の成長面(GaN層11およびAlGa(1−X)N層12の積層方向(図8の矢印C方向)の成長面)と実質的に平行な切り出し面100aによって分割することにより、GaN層11の第1領域11aとAlGa(1−X)N層12の第2領域12aとが縞状に配置された非極性面(非c面)からなる主表面(切り出し面100a)を有する半導体基板100を形成する工程とを備えることによって、たとえば、サファイア基板10に対して互いに異なる格子定数を有するGaN層11とAlGa(1−X)N層12とを交互に積層する際に、結晶成長時の熱膨張係数や格子定数の差に起因して、サファイア基板10に対するGaN層11の反りの方向と、GaN層11上に積層されるAlGa(1−X)N層12の反りの方向とを実質的に相反する方向となるように組み合わせることが可能であるために、サファイア基板10に対して反りの程度を緩和させながら半導体成長層20を形成することができる。これにより、成長用基板に対して1種類の材質からなる半導体層を積層させる場合と異なり、サファイア基板10上に成長させる半導体成長層20の厚みを大きくすることができる。そして、厚みの大きな半導体成長層20に対して、半導体成長層20の成長面(極性面)と実質的に平行な方向に分割することにより、切り出し面100a(主表面)が大面積化された非極性面からなる半導体基板100を得ることができる。
【0033】
また、第1実施形態では、半導体成長層20を形成する工程が、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12に発生する応力が互いに緩和されるようにGaN層11およびAlGa(1−X)N層12の材質を選択して交互に積層する工程を含むように構成することによって、たとえば、GaN層11とAlGa(1−X)N層12とを交互に積層する際に、成長用基板(サファイア基板10)に対するGaN層11の反り変形と、GaN層11上に積層されるAlGa(1−X)N層12の反り変形とが互いに打ち消されるので、反り変形の少ない半導体成長層20を容易に形成することができる。
【0034】
また、第1実施形態では、成長用基板(サファイア基板10)、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12の熱膨張係数が、それぞれ、αsub、α、およびαであり、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12の格子定数が、それぞれ、bおよびbであって、成長用基板(サファイア基板10)およびGaN層11が、αsub>α関係を有する場合には、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12は、b>bの関係を有するように構成することによって、高温条件下(約800℃〜1000℃)でサファイア基板10上に半導体成長層20を形成した後に常温へ移行した場合、サファイア基板10の収縮率がGaN層11の収縮率よりも大きいために、サファイア基板10とGaN層11との間には、GaN層11側(図4の矢印A方向)に凸の反り変形を生じさせる内部応力が発生する。その一方で、GaN層11とAlGa(1−X)N層12との関係が、上述のようにb>bの関係を有するので、GaN層11とAlGa(1−X)N層12との間には、AlGa(1−X)N層12によって、GaN層11が上記方向に凸に変形するのを引き戻す方向(図5の矢印B方向)に内部応力が発生する。したがって、反りが抑制された半導体基板100を容易に得ることができる。
【0035】
また、第1実施形態では、GaN層11を、GaNを含むように構成するとともに、AlGa(1−X)N層12を、GaN層11と異なる組成であるAlGa(1−X)N(0<X≦1)を含むように構成することによって、反りが抑制された窒化物系化合物半導体からなる半導体基板100を容易に得ることができる。
【0036】
(第2実施形態)
図10は、本発明の第2実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。図11は、本発明の第2実施形態による半導体基板の構成を説明するための図である。この第2実施形態による半導体基板110の製造プロセスでは、スライス加工による半導体基板の形成工程において半導体基板110を半導体成長層20から切り出す角度が、上記第1実施形態と異なる。図10および図11を参照して、この第2実施形態による半導体基板110の製造プロセスおよび半導体基板110の構成について説明する。
【0037】
本発明の第2実施形態では、図10に示すように、まず、上記第1実施形態と同様の製造プロセスにより、サファイア基板10上に半導体成長層20を形成した上で、半導体成長層20からサファイア基板10を分離除去する。その後、スライス加工による半導体基板の形成工程に移行する。
【0038】
ここで、第2実施形態では、図10に示すように、GaN層11とAlGa(1−X)N層12とが繰り返し積層された半導体成長層20の成長面に対して、斜め方向(半導体成長層20の積層方向(矢印C方向)に対して所定の角度で交差する方向)の分割線600(破線)に沿ってスライス加工を施すことにより、半導体成長層20から半導体基板110を薄板状に切り出す。これにより、図11に示すように、GaN層11の第1領域11aとAlGa(1−X)N層12の第2領域12aとが交互に積層されているとともに、正面側(矢印D方向の矢視)から見て、半導体基板110の切り出し面110aに対して半導体成長層20の積層方向(図10の矢印C方向)が所定の角度を有する半導体基板110が得られる。なお、切り出し面110aは、本発明の「主表面」の一例である。
【0039】
また、第2実施形態では、半導体成長層20を積層方向(図10の矢印C方向)に対して斜め方向(図10の分割線600の方向)にスライスすることによって、半極性面からなる主表面を有する半導体基板110が得られる。ここで、半極性面とは、GaN層11の結晶成長におけるc面((0001)面)とよばれる極性面に対して傾いた方向の面を意味している。なお、半極性面であっても、第1実施形態のように無極性面(非c面)からなる主表面を有する半導体基板100と同様にピエゾ電界を弱められるので、半導体基板110上に形成された発光素子における発光効率の向上が期待できる。
【0040】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0041】
(第3実施形態)
図12は、本発明の第1実施形態による半導体基板を用いた半導体レーザ素子を形成する際の製造プロセスを説明するための図である。図13は、本発明の第1実施形態による半導体基板を用いた半導体レーザ素子の構成について説明するための図である。図12および図13を参照して、この第3実施形態による半導体レーザ素子200の製造プロセスおよび半導体レーザ素子200の構成について説明する。
【0042】
本発明の第3実施形態による半導体レーザ素子200の製造プロセスでは、上記第1実施形態の半導体基板100上に、半導体レーザ素子層および電極の形成を行うことにより、ウェーハ状の半導体レーザ素子200が形成される。その後、分割工程を行うことにより、個々の半導体レーザ素子200が形成される。以下、各工程順に具体的に説明する。
【0043】
まず、半導体レーザ素子層の形成工程では、図12に示すように、半導体基板100の上面(主表面)上に、MOCVD法により、第1クラッド層101と、活性層102と、第2クラッド層103などの半導体レーザ素子層を順に積層する。なお、第1クラッド層101と第2クラッド層103とは、互いに反対の導電型を有している。また、第1クラッド層101は、活性層102よりもバンドギャップが大きく、第2クラッド層103は、活性層102よりもバンドギャップが大きい。この第1クラッド層101および第2クラッド層103の材質は、特に、窒化物系化合物半導体であるGaNや、AlGaNなどが用いられる。また、上記構成による半導体レーザ素子層は、GaN、AlN、InN、BN、TlNおよびこれらの混晶からなるウルツ構造の窒化物系半導体層により形成されていてもよい。
【0044】
また、第1クラッド層101と活性層102との間に、第1クラッド層101と活性層102との中間のバンドギャップを有する光ガイド層などが形成されていてもよく、活性層102と第2クラッド層103との間に、活性層102と第2クラッド層103との中間のバンドギャップを有する光ガイド層などが形成されていてもよい。
【0045】
また、活性層102は、アンドープであっても、Siなどの不純物がドーピングされていてもよく、特に、活性層102の材質としてInGaNなどが用いられる。また、活性層102は、たとえば4層の障壁層と、3層の井戸層とが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造により形成される。なお、活性層102は、単層または単一量子井戸(SQW)構造などにより形成されてもよい。
【0046】
次に、図12に示すように、第2クラッド層103の上面に、エッチング加工などにより図面に垂直な方向(図13の矢印E方向)に峰状に延びるリッジ部103aを形成する。このリッジ部103aを形成することによって、導波路構造が形成されている。なお、導波路構造の形成方法はリッジ部103aを形成する方法に限らず、埋め込みヘテロ構造などにより、導波路構造を形成してもよい。
【0047】
次に、電極の形成工程では、図12に示すように、第2クラッド層103のリッジ部103aの上面上に、電極104を真空蒸着により形成する。なお、第2クラッド層103と電極104との間には、第2クラッド層103よりも好ましくはバンドギャップが小さいコンタクト層(図示せず)が形成されてもよい。また、研磨やエッチング加工などにより所定の厚みに調整された半導体基板100の下面上に、電極105を真空蒸着により形成する。
【0048】
次に、半導体基板100および半導体レーザ素子層の分割工程を行う。具体的には、劈開面形成工程の後に、図12に示すように、半導体基板100のGaN層11からなる第1領域11a上に上述の半導体レーザ素子層(第1クラッド層101、活性層102および第2クラッド層103など)およびリッジ部103aを形成した場合には、GaN層11と異なる材質からなるAlGa(1−X)N層12からなる第2領域12aを切除する。すなわち、図12に示すように、スライサーなどを使用して、分割線700(破線)に沿って、AlGa(1−X)N層12からなる第2領域12aとAlGa(1−X)N層12からなる第2領域12aの上部に積層された半導体レーザ素子層とを、共に半導体基板100から切除する。これにより、図13に示すように、GaN層11ベースの成長用基板を有するチップ状の半導体レーザ素子200が個々に分離される。
【0049】
なお、第3実施形態では、上記第1実施形態による無極性面を主表面とする半導体基板100を成長用基板として用いるために、ピエゾ電界の影響が生じないので、半導体レーザ素子の発光効率を向上させることができる。
【0050】
(第4実施形態)
図14は、本発明の第1実施形態による半導体基板を用いた半導体レーザ素子を形成する際の製造プロセスを説明するための図である。図15は、本発明の第1実施形態による半導体基板を用いた他の半導体レーザ素子の構成について説明するための図である。この第4実施形態による半導体レーザ素子210の製造プロセスでは、半導体レーザ素子層の形成工程において半導体基板100のAlGa(1−X)N層12のからなる第2領域12a上に、リッジ部103aおよび電極104を形成する点が、上記第3実施形態と異なる。図14および図15を参照して、この第4実施形態による半導体レーザ素子210の製造プロセスおよび半導体レーザ素子210の構成について説明する。
【0051】
すなわち、第4実施形態では、第3実施形態と同様の方法により、図14に示すように、上記第1実施形態による半導体基板100のAlGa(1−X)N層12の第2領域12a上に、半導体レーザ素子層(第1クラッド層101、活性層102および第2クラッド層103など)を形成するとともに、AlGa(1−X)N層12のからなる第2領域12a上に、リッジ部103aおよび電極104を形成する。
【0052】
そして、第4実施形態では、図14に示すように、半導体基板100上の互いに隣接するAlGa(1−X)N層12に挟まれたGaN層11からなる第1領域11aの中央部近傍を、分割線800(破線)に沿って、スライサーなどを使用して分割する。これにより、図15に示すように、主にAlGa(1−X)N層12からなる第2領域12a上に積層された半導体レーザ素子層からなるチップ状の半導体レーザ素子210が得られる。
【0053】
この第4実施形態では、半導体基板100のうちのAlGa(1−X)N層12からなる第2領域12a(図14参照)上に、リッジ部103aが形成されている。このため、第1クラッド層101および第2クラッド層103が、AlGaNなどの材質からなる場合には、第1クラッド層101および第2クラッド層103と第2領域12aとの間には、格子定数や熱膨張係数の差に起因する歪みが生じにくい。この結果、リッジ部103aには、上記の歪みの影響が生じにくいので、半導体レーザ素子の特性が低下しにくくなる。
【0054】
なお、第4実施形態では、上記第1実施形態による無極性面を主表面とする半導体基板100を成長用基板として用いるために、第3実施形態と同様に、ピエゾ電界の影響が生じないので、半導体レーザ素子の発光効率を向上させることができる。
【0055】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0056】
たとえば、上記第1〜第4実施形態では、サファイア基板10に対してGaN層11(第1半導体層)およびAlGa(1−X)N層12(第2半導体層)を繰り返し積層させて半導体成長層の形成工程を行う例について示したが、本発明はこれに限らず、サファイア基板10に対してAlGa(1−X)N(0<X≦1)およびInGa(1−Y)N(0<Y≦1)などからなる異種の半導体層を繰り返し積層させて半導体成長層の形成工程を行うようにしてもよい。
【0057】
また、上記第1および第2実施形態では、成長用基板としてサファイア基板10を用いた例について示したが、本発明はこれに限らず、サファイア基板以外のたとえばGaAs、SiCおよびSiなどの材質からなる基板などを用いてもよい。
【0058】
また、上記第1実施形態では、成長用基板(サファイア基板10)、第1半導体層(GaN層11)および第2半導体層(AlGa(1−X)N層12)の熱膨張係数を、それぞれαsub、α、およびαとし、GaN層11およびAlGa(1−X)N層12の格子定数を、それぞれbおよびbとした場合に、αsub>αであって、b>bの関係を有するように、GaN層11に対してAlGa(1−X)N層12の材質を選択するように構成した例について示したが、本発明はこれに限らず、少なくともα<αまたはb>bの関係を有するように第1半導体層および第2半導体層の材質を選択してもよい。また、αsub<αであって、少なくともα>αまたはb<bのいずれか一方の関係を有するように、第1半導体層および第2半導体層の材質を選択してもよい。
【0059】
また、上記第3および第4実施形態では、上記第1実施形態において形成された無極性面を主表面とした半導体基板100を用いて半導体レーザ素子200および210を形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、上記第2実施形態において形成された半極性面を主表面とした半導体基板110を用いて半導体レーザ素子を形成してもよい。
【0060】
また、上記第3および第4実施形態では、上記第1実施形態において形成された無極性面を主表面とした半導体基板100を用いて半導体レーザ素子200および210を形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、半導体レーザ素子200および210の代わりに、発光ダイオードやトランジスタなどを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図2】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図3】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図4】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図5】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図6】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図7】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図8】本発明の第1実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図9】本発明の第1実施形態による半導体基板の構成を説明するための図である。
【図10】本発明の第2実施形態による半導体基板の製造プロセスを説明するための図である。
【図11】本発明の第2実施形態による半導体基板の構成を説明するための図である。
【図12】本発明の第3実施形態による半導体基板を用いた半導体レーザ素子を形成する際の製造プロセスを説明するための図である。
【図13】本発明の第3実施形態による半導体基板を用いた半導体レーザ素子の構成について説明するための図である。
【図14】本発明の第4実施形態による半導体基板を用いた半導体レーザ素子を形成する際の製造プロセスを説明するための図である。
【図15】本発明の第4実施形態による半導体基板を用いた他の半導体レーザ素子の構成について説明するための図である。
【符号の説明】
【0062】
10 サファイア基板(成長用基板)
11 GaN層(第1半導体層)
11a 第1領域
12 AlGa(1−X)N層(第2半導体層)
12a 第2領域
100、110 半導体基板
100a、110a 切り出し面(主表面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長用基板上に、第1半導体層と、前記第1半導体層と異なる材質の第2半導体層とが交互に積層された半導体成長層を形成する工程と、
前記半導体成長層を、前記半導体成長層の成長面と交差する方向に沿って分割することにより、前記第1半導体層からなる第1領域と前記第2半導体層からなる第2領域とが縞状に配置された非極性面からなる主表面を有する半導体基板を形成する工程とを備えた、半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記半導体成長層を形成する工程は、前記第1半導体層および前記第2半導体層に発生する応力が互いに緩和されるように前記第1半導体層および前記第2半導体層の材質を選択して交互に積層する工程を含む、請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記成長用基板、前記第1半導体層および前記第2半導体層の熱膨張係数が、それぞれ、αsub、α、およびαであり、前記第1半導体層および前記第2半導体層の格子定数が、それぞれ、bおよびbであって、
前記成長用基板および前記第1半導体層が、αsub>αの関係を有する場合には、前記第1半導体層および前記第2半導体層は、少なくともα<αまたはb>bのいずれか一方の関係を有する、請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記成長用基板、前記第1半導体層および前記第2半導体層の熱膨張係数が、それぞれ、αsub、α、およびαであり、前記第1半導体層および前記第2半導体層の格子定数が、それぞれ、bおよびbであって、
前記成長用基板および前記第1半導体層が、αsub<αの関係を有する場合には、前記第1半導体層および前記第2半導体層は、少なくともα>αまたはb<bのいずれか一方の関係を有する、請求項1または2に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1半導体層および前記第2半導体層は、少なくともGaN、AlGa(1−X)N(0<X≦1)、および、InGa(1−Y)N(0<Y≦1)のいずれかを含み、
前記第1半導体層と前記第2半導体層とは、異なる組成である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項6】
第1半導体層からなる第1領域と、
前記第1半導体層と異なる材質であるとともに前記第1領域に接合する第2半導体層からなる第2領域とを備え、
前記第1領域と前記第2領域とが交互に積層されているとともに、前記第1領域と前記第2領域とが縞状に配置された非極性面からなる主表面を有する、半導体基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−40664(P2009−40664A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210458(P2007−210458)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】