半導体式ガス検知素子
【課題】長期間に亘ってガス選択性を有する半導体式ガス検知素子を提供する。
【解決手段】ガス感応部2と、ガス感応部2を被覆する触媒層3とを備える半導体式ガス検知素子Rsであって、触媒層3は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物を含有する。
【解決手段】ガス感応部2と、ガス感応部2を被覆する触媒層3とを備える半導体式ガス検知素子Rsであって、触媒層3は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス感応部を備える半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体式ガス検知素子は、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部を備えており、検知対象となるガス(以下、「被検知ガス」と称する)がガス感応部に接触すると、被検知ガスは金属酸化物半導体と反応し、電子の授受が行われる。この電子の授受によって金属酸化物半導体の抵抗値は変化するため、半導体式ガス検知素子を備えるガスセンサは、金属酸化物半導体の抵抗値の変化をセンサ出力として取り出すことによって被検知ガスを検知することができる。
【0003】
半導体式ガス検知素子を備えるガスセンサは、耐久性が高く、家庭用ガス漏れ警報器等に用いられている。近年では、住宅の高気密化が進み、日常の生活から発生する有機性のガスも多様化し、増加しているため、被検知ガスとは異なるガス(以下、「干渉ガス」と称する)を検知し、警報を発する場合がある。このような誤報を防止する技術としては、半導体式ガス検知素子のガス感応部の表面に干渉ガスを除去する触媒層を設け、被検知ガスに対する選択性を高めることが知られている(例えば、特許文献1参照)。触媒層としては、例えば、金属酸化物に担持した貴金属触媒等を用いるものがあり、この種の半導体式ガス検知素子では、水素、エタノール等、比較的反応性が高い干渉ガスを触媒層で燃焼除去することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭49−129596号公報
【特許文献2】特開2002−139469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、触媒層に貴金属触媒を用いた半導体式ガス検知素子では、ガスセンサの動作温度で長期間使用すると、貴金属微粒子が凝集し、貴金属触媒の酸化活性が低下して、干渉ガスを燃焼除去できなくなるという問題があった。この場合、時間の経過と共に、干渉ガスが触媒層を通過してガス感応部に到達し易くなり、被検知ガスに対する選択性が低下するため、このような半導体式ガス検知素子を用いた警報器等では誤報を招く虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、長期間に亘ってガス選択性を有する半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る半導体式ガス検知素子の第1特徴構成は、ガス感応部と、当該ガス感応部を被覆する触媒層とを備える半導体式ガス検知素子であって、
前記触媒層は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物を含有する点にある。
【0008】
酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムは、酸化活性が高い。本構成では、これらの金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物(固溶体)を、半導体式ガス検知素子の触媒層として用いる。
【0009】
すなわち、本発明者らは、金属酸化物半導体に金属元素を固溶させることによって結晶子サイズが小さくなることに着目し、触媒層として酸化活性を有する金属酸化物半導体に金属元素を固溶させた金属複合酸化物を用いることにより、金属酸化物半導体の酸化活性を有しつつ、高温下での結晶子の成長を抑制することができ、触媒層の経時的な劣化を防止することができることを見出した。
したがって、本構成に係る半導体式ガス検知素子では、触媒層の酸化活性が変化し難いため、長期に亘ってガス選択性を維持することができる。
【0010】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第2特徴構成は、前記金属複合酸化物が、前記金属酸化物半導体に対し、前記金属元素を0.01〜10mol%固溶させてある点にある。
【0011】
本構成のように、金属酸化物半導体に対して金属元素を0.01〜10mol%固溶させた金属複合酸化物であれば、結晶子サイズがより小さくなり、比表面積が大きくなると共に、高温下においても結晶子の成長を抑制することができるため、酸化活性が低下し難くなる。
【0012】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第3特徴構成は、前記金属酸化物半導体はn型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなるものを含む点にある。
【0013】
触媒層に電流が流れるとガス感応材料として機能し、センサ出力に影響を与える場合がある。
本構成では、金属酸化物半導体がn型半導体である場合に、少なくとも金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなる金属元素を固溶させて原子価制御することにより、酸化活性を長期に亘って維持しつつ、金属複合酸化物の抵抗値を上げることができる。これにより、触媒層に電流が流れ難くなるため、触媒層がガス感応材料として機能することを防止し、長期に亘って安定なセンサ出力を維持することができる。
【0014】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第4特徴構成は、前記金属酸化物半導体はp型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなるものを含む点にある。
【0015】
本構成のように、金属酸化物半導体がp型半導体である場合には、少なくとも金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなる金属元素を固溶させて原子価制御することにより、酸化活性を長期に亘って維持しつつ、金属複合酸化物の抵抗値を上げることができる。これにより、触媒層に電流が流れ難くなるため、触媒層がガス感応材料として機能することを防止し、長期に亘って安定なセンサ出力を維持することができる。
【0016】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第5特徴構成は、前記第3特徴構成において、前記金属酸化物半導体は酸化スズからなり、前記金属元素はセリウム及びアルミニウムである点にある。
【0017】
本構成のように、酸化活性を有する酸化スズからなる金属酸化物半導体にセリウム及びアルミニウムを固溶させると、酸化活性を長期に亘って維持しつつ、金属複合酸化物の抵抗値を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る半導体式ガス検知素子を用いたガスセンサの一実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、半導体式ガス検知素子として熱線型半導体式ガス検知素子を例示するが、これに限られるものではない。その他の半導体式ガス検知素子として、基板型半導体式ガス検知素子等が挙げられる。
【0019】
本実施形態に係るガスセンサは、図2に示すように、熱線型半導体式ガス検知素子Rs、及び固定抵抗R0,R1,R2をブリッジ回路に組み込んで構成してある。ブリッジ回路は電源Eによって常時または間欠的に通電してあり、熱線型半導体式ガス検知素子Rsが検知の際に適した温度となるようにしてある。また、熱線型半導体式ガス検知素子Rsは被検知ガスが吸着すると抵抗値が変化する。このため、本実施形態に係るガスセンサでは、熱線型半導体式ガス検知素子Rsの抵抗値の変化を偏差電圧をとして取り出し、これをセンサ出力Vとすることで空気中の被検知ガスの濃度を測定することができる。
【0020】
本実施形態の熱線型半導体式ガス検知素子Rsは、図1に示すように、コイル状の貴金属線1にガス感応部2と、当該ガス感応部2を被覆する触媒層3とが設けてある。貴金属線1は、材質、線径、コイル径、コイル巻数等は、従来の熱線型半導体式ガス検知素子に使用するものと同様で、特に限定されないが、本実施形態においては、線径20μmの白金線を用い、コイル径200μm、コイル巻数12ターンにしてある。
【0021】
ガス感応部2は、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化タングステン等の金属酸化物を含む金属酸化物半導体を用いることができ、被検知ガスの種類によって任意に選択可能である。本実施形態では、メタン、イソブタン等の炭化水素を被検知ガスとしており、酸化スズにアンチモンを0.1mol%添加した金属酸化物半導体(Sb−SnO2)を用い、膜厚を0.24mmにしてある。
【0022】
触媒層3は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物で形成してある。金属酸化物半導体に金属元素を固溶させることによって結晶子サイズが小さくなる。このため、触媒層3として酸化活性を有する金属酸化物半導体に金属元素を固溶させた金属複合酸化物を用いることにより、金属酸化物半導体の酸化活性を有しつつ、高温下での結晶子の成長を抑制することができ、触媒層3の経時的な劣化を防止することができる。したがって、本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子では、触媒層3において長期に亘って干渉ガスを燃焼除去できるため、ガス選択性を維持することができる。
【0023】
金属酸化物半導体は干渉ガスに対して酸化活性を有するものを任意に選択することができる。金属酸化物に固溶する金属元素は、上記の通りであり、金属酸化物の金属原子と置換固溶できるもの、金属酸化物に侵入型固溶できるもののいずれも用いることができる。金属酸化物に固溶させる金属元素の固溶量は、特に限定されず、固溶限界量まで可能であるが、後述する実施例(図6)に示すように、結晶子サイズに影響を与える0.01mol%〜10mol%が好ましく、その影響が大きくなる1mol%〜10mol%がより好ましい。また、3mol%以上では結晶子サイズがほとんど変化しなくなるため、3mol%〜10mol%がさらに好ましい。
【0024】
触媒層3に電流が流れるとガス感応材料として機能してセンサ出力に影響を与える場合がある。このため、金属酸化物半導体を原子価制御することにより触媒層3の抵抗値を上げることが好ましい。これにより、触媒層3に電流が流れ難くなるため、触媒層3で起こる反応がセンサ出力に影響を及ぼすことを防止でき、長期に亘って安定なセンサ出力を維持することができる。
【0025】
原子価制御は、金属酸化物半導体がn型半導体である場合には、金属酸化物半導体の金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなる金属元素を固溶させることによって行うことができ、金属酸化物半導体がp型半導体である場合には、金属酸化物半導体の金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなる金属元素を固溶させることによって行うことができる。
【0026】
したがって、少なくとも金属酸化物半導体の抵抗値を低下させないためには、固溶させる金属元素として、金属酸化物半導体がn型半導体である場合には、金属酸化物半導体を構成する金属酸化物の金属元素の価数以下の金属イオンとなるものを用いることが好ましく、金属酸化物半導体がp型半導体である場合には、金属酸化物半導体を構成する金属酸化物の金属元素の価数以上の金属イオンとなるものを用いることが好ましい。
【0027】
酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムは、n型半導体として用いることができる。このため、これらの金属酸化物は、それ自体を金属酸化物半導体として用いることができる。また、金属酸化物半導体として、これらの金属酸化物に、当該金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなる金属元素を添加したものを用いることもできる。この場合にはp型半導体となる。
【0028】
本実施形態では、水素やエタノール等のアルコールを干渉ガスとし、後述する実施例(図3〜5)に示すように、これらの干渉ガスに対して酸化活性を有する酸化スズを金属酸化物半導体として用い、セリウムを3mol%固溶させ、さらに、酸化スズにおけるスズの価数(4)より小さい価数(3)の金属イオンとなり得るアルミニウムを1mol%固溶させたものを触媒層3に用いる。
【0029】
このような触媒層3は、共沈法や混練法等によって形成させることができる。本実施形態の触媒層3では、塩化スズ(SnCl4)と硝酸アンモニウムセリウム(Ce(NH4)2(NO3)6)と塩化アルミニウム(AlCl3)との混合水溶液を調製し、この混合水溶液にアンモニア(NH3)水溶液を滴下する(共沈法)。これにより得られた沈殿物を水洗、乾燥、粉砕した後、700〜800℃で焼成することによって、酸化スズにセリウムとアルミニウムが固溶した金属複合酸化物(AlxCeySnOz)を作製することができる。
【0030】
また、金属複合酸化物(AlxCeySnOz)は、塩化スズ(SnCl4)と塩化アルミニウム(AlCl3)との混合水溶液にアンモニア(NH3)水溶液を滴下した後の沈殿物を粉砕する際に、硝酸アンモニウムセリウム(Ce(NH4)2(NO3)6)の水溶液として混練し、焼成することによっても作製することができる(混練法)。
【0031】
このように作製した金属複合酸化物(AlxCeySnOz)は、ペースト状にしてガス感応部2を被覆するように付着させ、貴金属線1の自己加熱等によって焼成し、触媒層3を形成させる。本実施形態においては、触媒層3の膜厚は0.1mmとなるようにしてある。
【0032】
尚、熱線型半導体式ガス検知素子Rsを備えたガスセンサのその他の構成、機能等については、従来公知のガスセンサと同様である。
【実施例】
【0033】
(センサ出力の経時変化の測定方法)
図1に示すような本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsを、図2に示すブリッジ回路に組み込んで用い、2.0Vの電圧を印加し、動作温度を約450℃にして、空気、メタン(2000ppm)、イソブタン(2000ppm)、水素(5000ppm)、エタノール(1000ppm)に対するセンサ出力の経時変化を調べた。
【0034】
(金属酸化物のセンサ特性)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3を設けない場合、触媒層3に粒径約30nmのアルミナ(Al2O3)を用いた場合、触媒層3に粒径約49.5nmの酸化スズ(SnO2)を用いた場合について、上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、触媒層3を設けない場合(図3)では、水素及びエタノールのセンサ出力が日数の経過に伴い上昇したのに対し、触媒層3にAl2O3を用いた場合(図4)では、センサ出力の経時的な変化はほとんど無かったものの、メタンやイソブタンと水素との選択性が無く、ガスに対して酸化活性を有しないことが分かった。また、触媒層3にSnO2を用いた場合(図5)では、水素及びエタノールのセンサ出力は初期の変化は小さいが、日数の経過に伴い上昇することが分かった。すなわち、SnO2は、水素及びエタノールに対して酸化活性を有するものの、経時的に酸化活性が低下することが分かった。
したがって、以下ではSnO2を用い、その酸化活性について検討を行った。
【0035】
(セリウムの固溶量)
酸化スズに、上記の共沈法により、異なる量のセリウム(Ce)をドープした場合の格子定数(a軸)と結晶子サイズの変化をリートベルト法により調べた。その結果、図6に示すように、Ceのドープ量が少なくとも10mol%までは格子定数(a軸)が大きくなっており、CeはSnO2に固溶していることが分かった。また、結晶子サイズはCeを少なくとも0.01mol%ドープすると結晶子サイズに変化があり、1mol%ドープすると急激に小さくなった。3mol%でさらに小さくなったが、それ以上はほとんど変化しないことが分かった。
したがって、CeのSnO2への固溶量は、0.01mol%〜10mol%が好ましく、1mol%〜10mol%がより好ましく、3mol%〜10mol%がさらに好ましい。
【0036】
(固溶体のセンサ特性)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3としてSnO2に上記の共沈法によってCeを3mol%固溶させ、700℃で焼成したものを用いた場合の上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、図7に示すように、水素及びエタノールのセンサ出力は経時的な変化が小さく、酸化活性が低下し難いことが分かった。
したがって、SnO2にCeを固溶した金属複合酸化物を触媒層3に用いることにより、半導体式ガス検知素子は長期に亘ってガス選択性を維持できることが分かった。
【0037】
(製法)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3としてSnO2に上記の混練法によってCeを3mol%固溶させ、700℃で焼成したものを用いた場合の上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、図8に示すように、水素及びエタノールのセンサ出力が日数の経過に伴い上昇し、共沈法(図7)に比べて経時的な酸化活性の低下が大きいことが分かった。これは混練法ではCeの固溶が不十分であったためと考えられる。
【0038】
(焼成温度)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3としてSnO2に上記の共沈法によってCeを3mol%固溶させ、800℃で焼成したもの((3mol%)Ce−SnO2)を用いた場合の上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、図9に示すように、センサ出力の変化がほとんどなく、700℃で焼成したもの(図7)に比べて触媒層3の酸化活性の経時的な変化を小さく維持できることが分かった。
したがって、800℃で焼成した固溶体を用いることにより、半導体式ガス検知素子は、長期の安定性が向上することが分かった。
【0039】
(アルミニウムの固溶量)
(3mol%)Ce−SnO2に、さらに、上記の共沈法により異なる量のアルミニウム(Al)をドープした場合の格子定数(a軸)と結晶子サイズの変化をリートベルト法により調べた。その結果、図10に示すように、Alのドープ量が少なくとも10mol%までは格子定数(a軸)が小さくなっており、Alが固溶していることが分かった。また、結晶子サイズはAlのドープ量に対して変化が小さいことが分かった。
【0040】
(抵抗値変化)
SnO2、(3mol%)Ce−SnO2、(3mol%)Ce−SnO2にAlを1mol%固溶させたもの((1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2)、(3mol%)Ce−SnO2にAlを3mol%固溶させたもの((3mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2)、Sb−SnO2のそれぞれを櫛形電極の上に塗布し、抵抗値を測定した。その結果、図11に示すように、Alを固溶させたものは、SnO2及び(3mol%)Ce−SnO2に比べて抵抗値が高くなることが分かった。また、Alを1mol%固溶したものと3mol%固溶したものとでは、その抵抗値はほとんど変わらなかった。
したがって、図10,11の結果から、Alの固溶量は、1mol%〜10mol%が好ましく、1mol%〜3mol%がより好ましい。
【0041】
(センサ出力の経時変化)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3として、(1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた場合と、(3mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた場合とについて、上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、Alを1mol%固溶したものを用いた場合(図12)、Alを3mol%固溶したものを用いた場合(図13)のいずれも、Alを固溶させない場合(図9)に比べて、センサ出力に変化はなかった。
したがって、Alを固溶することで、(3mol%)Ce−SnO2の酸化活性に影響を与えないことが分かった。
【0042】
(金属複合酸化物の特性)
SnO2、(3mol%)Ce−SnO2、(1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2のそれぞれについて、粒径、結晶子サイズ、比表面積を調べた。粒径はX線小角散乱法(SAXS)及びTEM観察、結晶子サイズはリートベルト法、比表面積はBET法を用いて算出した。その結果、表1に示すように、SnO2にCe及びAlを固溶させることにより、粒径、結晶子サイズは小さくなり、比表面積は大きくなることが確認できた。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る半導体式ガス検知素子は、長期に亘ってガス選択性を維持できるため、家庭用ガス漏れ警報器等、各種ガス警報器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子の概略図
【図2】本実施形態に係るガスセンサの構成図
【図3】触媒層を有しない熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図4】Al2O3を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図5】SnO2を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図6】Ceのドープ量に対する格子定数(a軸)及び結晶子サイズの変化を示すグラフ
【図7】(3mol%)Ce−SnO2(共沈法、700℃)を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図8】(3mol%)Ce−SnO2(混練法、700℃)を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図9】(3mol%)Ce−SnO2(800℃)を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図10】Alのドープ量に対する格子定数(a軸)及び結晶子サイズの変化を示すグラフ
【図11】金属複合酸化物の動作温度における抵抗値の変化を示すグラフ
【図12】(1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図13】(3mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0046】
Rs 熱線型半導体式ガス検知素子(半導体式ガス検知素子)
1 貴金属線
2 ガス感応部
3 触媒層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス感応部を備える半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体式ガス検知素子は、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部を備えており、検知対象となるガス(以下、「被検知ガス」と称する)がガス感応部に接触すると、被検知ガスは金属酸化物半導体と反応し、電子の授受が行われる。この電子の授受によって金属酸化物半導体の抵抗値は変化するため、半導体式ガス検知素子を備えるガスセンサは、金属酸化物半導体の抵抗値の変化をセンサ出力として取り出すことによって被検知ガスを検知することができる。
【0003】
半導体式ガス検知素子を備えるガスセンサは、耐久性が高く、家庭用ガス漏れ警報器等に用いられている。近年では、住宅の高気密化が進み、日常の生活から発生する有機性のガスも多様化し、増加しているため、被検知ガスとは異なるガス(以下、「干渉ガス」と称する)を検知し、警報を発する場合がある。このような誤報を防止する技術としては、半導体式ガス検知素子のガス感応部の表面に干渉ガスを除去する触媒層を設け、被検知ガスに対する選択性を高めることが知られている(例えば、特許文献1参照)。触媒層としては、例えば、金属酸化物に担持した貴金属触媒等を用いるものがあり、この種の半導体式ガス検知素子では、水素、エタノール等、比較的反応性が高い干渉ガスを触媒層で燃焼除去することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭49−129596号公報
【特許文献2】特開2002−139469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、触媒層に貴金属触媒を用いた半導体式ガス検知素子では、ガスセンサの動作温度で長期間使用すると、貴金属微粒子が凝集し、貴金属触媒の酸化活性が低下して、干渉ガスを燃焼除去できなくなるという問題があった。この場合、時間の経過と共に、干渉ガスが触媒層を通過してガス感応部に到達し易くなり、被検知ガスに対する選択性が低下するため、このような半導体式ガス検知素子を用いた警報器等では誤報を招く虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、長期間に亘ってガス選択性を有する半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る半導体式ガス検知素子の第1特徴構成は、ガス感応部と、当該ガス感応部を被覆する触媒層とを備える半導体式ガス検知素子であって、
前記触媒層は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物を含有する点にある。
【0008】
酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムは、酸化活性が高い。本構成では、これらの金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物(固溶体)を、半導体式ガス検知素子の触媒層として用いる。
【0009】
すなわち、本発明者らは、金属酸化物半導体に金属元素を固溶させることによって結晶子サイズが小さくなることに着目し、触媒層として酸化活性を有する金属酸化物半導体に金属元素を固溶させた金属複合酸化物を用いることにより、金属酸化物半導体の酸化活性を有しつつ、高温下での結晶子の成長を抑制することができ、触媒層の経時的な劣化を防止することができることを見出した。
したがって、本構成に係る半導体式ガス検知素子では、触媒層の酸化活性が変化し難いため、長期に亘ってガス選択性を維持することができる。
【0010】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第2特徴構成は、前記金属複合酸化物が、前記金属酸化物半導体に対し、前記金属元素を0.01〜10mol%固溶させてある点にある。
【0011】
本構成のように、金属酸化物半導体に対して金属元素を0.01〜10mol%固溶させた金属複合酸化物であれば、結晶子サイズがより小さくなり、比表面積が大きくなると共に、高温下においても結晶子の成長を抑制することができるため、酸化活性が低下し難くなる。
【0012】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第3特徴構成は、前記金属酸化物半導体はn型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなるものを含む点にある。
【0013】
触媒層に電流が流れるとガス感応材料として機能し、センサ出力に影響を与える場合がある。
本構成では、金属酸化物半導体がn型半導体である場合に、少なくとも金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなる金属元素を固溶させて原子価制御することにより、酸化活性を長期に亘って維持しつつ、金属複合酸化物の抵抗値を上げることができる。これにより、触媒層に電流が流れ難くなるため、触媒層がガス感応材料として機能することを防止し、長期に亘って安定なセンサ出力を維持することができる。
【0014】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第4特徴構成は、前記金属酸化物半導体はp型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなるものを含む点にある。
【0015】
本構成のように、金属酸化物半導体がp型半導体である場合には、少なくとも金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなる金属元素を固溶させて原子価制御することにより、酸化活性を長期に亘って維持しつつ、金属複合酸化物の抵抗値を上げることができる。これにより、触媒層に電流が流れ難くなるため、触媒層がガス感応材料として機能することを防止し、長期に亘って安定なセンサ出力を維持することができる。
【0016】
本発明に係る半導体式ガス検知素子の第5特徴構成は、前記第3特徴構成において、前記金属酸化物半導体は酸化スズからなり、前記金属元素はセリウム及びアルミニウムである点にある。
【0017】
本構成のように、酸化活性を有する酸化スズからなる金属酸化物半導体にセリウム及びアルミニウムを固溶させると、酸化活性を長期に亘って維持しつつ、金属複合酸化物の抵抗値を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る半導体式ガス検知素子を用いたガスセンサの一実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、半導体式ガス検知素子として熱線型半導体式ガス検知素子を例示するが、これに限られるものではない。その他の半導体式ガス検知素子として、基板型半導体式ガス検知素子等が挙げられる。
【0019】
本実施形態に係るガスセンサは、図2に示すように、熱線型半導体式ガス検知素子Rs、及び固定抵抗R0,R1,R2をブリッジ回路に組み込んで構成してある。ブリッジ回路は電源Eによって常時または間欠的に通電してあり、熱線型半導体式ガス検知素子Rsが検知の際に適した温度となるようにしてある。また、熱線型半導体式ガス検知素子Rsは被検知ガスが吸着すると抵抗値が変化する。このため、本実施形態に係るガスセンサでは、熱線型半導体式ガス検知素子Rsの抵抗値の変化を偏差電圧をとして取り出し、これをセンサ出力Vとすることで空気中の被検知ガスの濃度を測定することができる。
【0020】
本実施形態の熱線型半導体式ガス検知素子Rsは、図1に示すように、コイル状の貴金属線1にガス感応部2と、当該ガス感応部2を被覆する触媒層3とが設けてある。貴金属線1は、材質、線径、コイル径、コイル巻数等は、従来の熱線型半導体式ガス検知素子に使用するものと同様で、特に限定されないが、本実施形態においては、線径20μmの白金線を用い、コイル径200μm、コイル巻数12ターンにしてある。
【0021】
ガス感応部2は、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化タングステン等の金属酸化物を含む金属酸化物半導体を用いることができ、被検知ガスの種類によって任意に選択可能である。本実施形態では、メタン、イソブタン等の炭化水素を被検知ガスとしており、酸化スズにアンチモンを0.1mol%添加した金属酸化物半導体(Sb−SnO2)を用い、膜厚を0.24mmにしてある。
【0022】
触媒層3は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物で形成してある。金属酸化物半導体に金属元素を固溶させることによって結晶子サイズが小さくなる。このため、触媒層3として酸化活性を有する金属酸化物半導体に金属元素を固溶させた金属複合酸化物を用いることにより、金属酸化物半導体の酸化活性を有しつつ、高温下での結晶子の成長を抑制することができ、触媒層3の経時的な劣化を防止することができる。したがって、本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子では、触媒層3において長期に亘って干渉ガスを燃焼除去できるため、ガス選択性を維持することができる。
【0023】
金属酸化物半導体は干渉ガスに対して酸化活性を有するものを任意に選択することができる。金属酸化物に固溶する金属元素は、上記の通りであり、金属酸化物の金属原子と置換固溶できるもの、金属酸化物に侵入型固溶できるもののいずれも用いることができる。金属酸化物に固溶させる金属元素の固溶量は、特に限定されず、固溶限界量まで可能であるが、後述する実施例(図6)に示すように、結晶子サイズに影響を与える0.01mol%〜10mol%が好ましく、その影響が大きくなる1mol%〜10mol%がより好ましい。また、3mol%以上では結晶子サイズがほとんど変化しなくなるため、3mol%〜10mol%がさらに好ましい。
【0024】
触媒層3に電流が流れるとガス感応材料として機能してセンサ出力に影響を与える場合がある。このため、金属酸化物半導体を原子価制御することにより触媒層3の抵抗値を上げることが好ましい。これにより、触媒層3に電流が流れ難くなるため、触媒層3で起こる反応がセンサ出力に影響を及ぼすことを防止でき、長期に亘って安定なセンサ出力を維持することができる。
【0025】
原子価制御は、金属酸化物半導体がn型半導体である場合には、金属酸化物半導体の金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなる金属元素を固溶させることによって行うことができ、金属酸化物半導体がp型半導体である場合には、金属酸化物半導体の金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなる金属元素を固溶させることによって行うことができる。
【0026】
したがって、少なくとも金属酸化物半導体の抵抗値を低下させないためには、固溶させる金属元素として、金属酸化物半導体がn型半導体である場合には、金属酸化物半導体を構成する金属酸化物の金属元素の価数以下の金属イオンとなるものを用いることが好ましく、金属酸化物半導体がp型半導体である場合には、金属酸化物半導体を構成する金属酸化物の金属元素の価数以上の金属イオンとなるものを用いることが好ましい。
【0027】
酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムは、n型半導体として用いることができる。このため、これらの金属酸化物は、それ自体を金属酸化物半導体として用いることができる。また、金属酸化物半導体として、これらの金属酸化物に、当該金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなる金属元素を添加したものを用いることもできる。この場合にはp型半導体となる。
【0028】
本実施形態では、水素やエタノール等のアルコールを干渉ガスとし、後述する実施例(図3〜5)に示すように、これらの干渉ガスに対して酸化活性を有する酸化スズを金属酸化物半導体として用い、セリウムを3mol%固溶させ、さらに、酸化スズにおけるスズの価数(4)より小さい価数(3)の金属イオンとなり得るアルミニウムを1mol%固溶させたものを触媒層3に用いる。
【0029】
このような触媒層3は、共沈法や混練法等によって形成させることができる。本実施形態の触媒層3では、塩化スズ(SnCl4)と硝酸アンモニウムセリウム(Ce(NH4)2(NO3)6)と塩化アルミニウム(AlCl3)との混合水溶液を調製し、この混合水溶液にアンモニア(NH3)水溶液を滴下する(共沈法)。これにより得られた沈殿物を水洗、乾燥、粉砕した後、700〜800℃で焼成することによって、酸化スズにセリウムとアルミニウムが固溶した金属複合酸化物(AlxCeySnOz)を作製することができる。
【0030】
また、金属複合酸化物(AlxCeySnOz)は、塩化スズ(SnCl4)と塩化アルミニウム(AlCl3)との混合水溶液にアンモニア(NH3)水溶液を滴下した後の沈殿物を粉砕する際に、硝酸アンモニウムセリウム(Ce(NH4)2(NO3)6)の水溶液として混練し、焼成することによっても作製することができる(混練法)。
【0031】
このように作製した金属複合酸化物(AlxCeySnOz)は、ペースト状にしてガス感応部2を被覆するように付着させ、貴金属線1の自己加熱等によって焼成し、触媒層3を形成させる。本実施形態においては、触媒層3の膜厚は0.1mmとなるようにしてある。
【0032】
尚、熱線型半導体式ガス検知素子Rsを備えたガスセンサのその他の構成、機能等については、従来公知のガスセンサと同様である。
【実施例】
【0033】
(センサ出力の経時変化の測定方法)
図1に示すような本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsを、図2に示すブリッジ回路に組み込んで用い、2.0Vの電圧を印加し、動作温度を約450℃にして、空気、メタン(2000ppm)、イソブタン(2000ppm)、水素(5000ppm)、エタノール(1000ppm)に対するセンサ出力の経時変化を調べた。
【0034】
(金属酸化物のセンサ特性)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3を設けない場合、触媒層3に粒径約30nmのアルミナ(Al2O3)を用いた場合、触媒層3に粒径約49.5nmの酸化スズ(SnO2)を用いた場合について、上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、触媒層3を設けない場合(図3)では、水素及びエタノールのセンサ出力が日数の経過に伴い上昇したのに対し、触媒層3にAl2O3を用いた場合(図4)では、センサ出力の経時的な変化はほとんど無かったものの、メタンやイソブタンと水素との選択性が無く、ガスに対して酸化活性を有しないことが分かった。また、触媒層3にSnO2を用いた場合(図5)では、水素及びエタノールのセンサ出力は初期の変化は小さいが、日数の経過に伴い上昇することが分かった。すなわち、SnO2は、水素及びエタノールに対して酸化活性を有するものの、経時的に酸化活性が低下することが分かった。
したがって、以下ではSnO2を用い、その酸化活性について検討を行った。
【0035】
(セリウムの固溶量)
酸化スズに、上記の共沈法により、異なる量のセリウム(Ce)をドープした場合の格子定数(a軸)と結晶子サイズの変化をリートベルト法により調べた。その結果、図6に示すように、Ceのドープ量が少なくとも10mol%までは格子定数(a軸)が大きくなっており、CeはSnO2に固溶していることが分かった。また、結晶子サイズはCeを少なくとも0.01mol%ドープすると結晶子サイズに変化があり、1mol%ドープすると急激に小さくなった。3mol%でさらに小さくなったが、それ以上はほとんど変化しないことが分かった。
したがって、CeのSnO2への固溶量は、0.01mol%〜10mol%が好ましく、1mol%〜10mol%がより好ましく、3mol%〜10mol%がさらに好ましい。
【0036】
(固溶体のセンサ特性)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3としてSnO2に上記の共沈法によってCeを3mol%固溶させ、700℃で焼成したものを用いた場合の上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、図7に示すように、水素及びエタノールのセンサ出力は経時的な変化が小さく、酸化活性が低下し難いことが分かった。
したがって、SnO2にCeを固溶した金属複合酸化物を触媒層3に用いることにより、半導体式ガス検知素子は長期に亘ってガス選択性を維持できることが分かった。
【0037】
(製法)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3としてSnO2に上記の混練法によってCeを3mol%固溶させ、700℃で焼成したものを用いた場合の上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、図8に示すように、水素及びエタノールのセンサ出力が日数の経過に伴い上昇し、共沈法(図7)に比べて経時的な酸化活性の低下が大きいことが分かった。これは混練法ではCeの固溶が不十分であったためと考えられる。
【0038】
(焼成温度)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3としてSnO2に上記の共沈法によってCeを3mol%固溶させ、800℃で焼成したもの((3mol%)Ce−SnO2)を用いた場合の上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、図9に示すように、センサ出力の変化がほとんどなく、700℃で焼成したもの(図7)に比べて触媒層3の酸化活性の経時的な変化を小さく維持できることが分かった。
したがって、800℃で焼成した固溶体を用いることにより、半導体式ガス検知素子は、長期の安定性が向上することが分かった。
【0039】
(アルミニウムの固溶量)
(3mol%)Ce−SnO2に、さらに、上記の共沈法により異なる量のアルミニウム(Al)をドープした場合の格子定数(a軸)と結晶子サイズの変化をリートベルト法により調べた。その結果、図10に示すように、Alのドープ量が少なくとも10mol%までは格子定数(a軸)が小さくなっており、Alが固溶していることが分かった。また、結晶子サイズはAlのドープ量に対して変化が小さいことが分かった。
【0040】
(抵抗値変化)
SnO2、(3mol%)Ce−SnO2、(3mol%)Ce−SnO2にAlを1mol%固溶させたもの((1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2)、(3mol%)Ce−SnO2にAlを3mol%固溶させたもの((3mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2)、Sb−SnO2のそれぞれを櫛形電極の上に塗布し、抵抗値を測定した。その結果、図11に示すように、Alを固溶させたものは、SnO2及び(3mol%)Ce−SnO2に比べて抵抗値が高くなることが分かった。また、Alを1mol%固溶したものと3mol%固溶したものとでは、その抵抗値はほとんど変わらなかった。
したがって、図10,11の結果から、Alの固溶量は、1mol%〜10mol%が好ましく、1mol%〜3mol%がより好ましい。
【0041】
(センサ出力の経時変化)
本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子Rsにおいて、触媒層3として、(1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた場合と、(3mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた場合とについて、上記のガスに対するセンサ出力の経時変化を調べた。その結果、Alを1mol%固溶したものを用いた場合(図12)、Alを3mol%固溶したものを用いた場合(図13)のいずれも、Alを固溶させない場合(図9)に比べて、センサ出力に変化はなかった。
したがって、Alを固溶することで、(3mol%)Ce−SnO2の酸化活性に影響を与えないことが分かった。
【0042】
(金属複合酸化物の特性)
SnO2、(3mol%)Ce−SnO2、(1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2のそれぞれについて、粒径、結晶子サイズ、比表面積を調べた。粒径はX線小角散乱法(SAXS)及びTEM観察、結晶子サイズはリートベルト法、比表面積はBET法を用いて算出した。その結果、表1に示すように、SnO2にCe及びAlを固溶させることにより、粒径、結晶子サイズは小さくなり、比表面積は大きくなることが確認できた。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る半導体式ガス検知素子は、長期に亘ってガス選択性を維持できるため、家庭用ガス漏れ警報器等、各種ガス警報器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係る熱線型半導体式ガス検知素子の概略図
【図2】本実施形態に係るガスセンサの構成図
【図3】触媒層を有しない熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図4】Al2O3を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図5】SnO2を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図6】Ceのドープ量に対する格子定数(a軸)及び結晶子サイズの変化を示すグラフ
【図7】(3mol%)Ce−SnO2(共沈法、700℃)を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図8】(3mol%)Ce−SnO2(混練法、700℃)を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図9】(3mol%)Ce−SnO2(800℃)を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図10】Alのドープ量に対する格子定数(a軸)及び結晶子サイズの変化を示すグラフ
【図11】金属複合酸化物の動作温度における抵抗値の変化を示すグラフ
【図12】(1mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【図13】(3mol%)Al−(3mol%)Ce−SnO2を用いた熱線型半導体式ガス検知素子のセンサ出力の経時変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0046】
Rs 熱線型半導体式ガス検知素子(半導体式ガス検知素子)
1 貴金属線
2 ガス感応部
3 触媒層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス感応部と、当該ガス感応部を被覆する触媒層とを備える半導体式ガス検知素子であって、
前記触媒層は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物を含有する半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
前記金属複合酸化物は、前記金属酸化物半導体に対し、前記金属元素を0.01〜10mol%固溶させてある請求項1に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項3】
前記金属酸化物半導体はn型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなるものを含む請求項1または2に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項4】
前記金属酸化物半導体はp型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなるものを含む請求項1または2に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項5】
前記金属酸化物半導体は酸化スズからなり、前記金属元素はセリウム及びアルミニウムである請求項3に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項1】
ガス感応部と、当該ガス感応部を被覆する触媒層とを備える半導体式ガス検知素子であって、
前記触媒層は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む金属酸化物半導体に、セリウム、スズ、アルミニウム、ランタン、ニオブ、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ネオジム、ガドリニウム、バナジウム、シリコン、マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を固溶させた金属複合酸化物を含有する半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
前記金属複合酸化物は、前記金属酸化物半導体に対し、前記金属元素を0.01〜10mol%固溶させてある請求項1に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項3】
前記金属酸化物半導体はn型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が小さい金属イオンとなるものを含む請求項1または2に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項4】
前記金属酸化物半導体はp型半導体であり、前記金属元素は前記金属酸化物の金属元素より価数が大きい金属イオンとなるものを含む請求項1または2に記載の半導体式ガス検知素子。
【請求項5】
前記金属酸化物半導体は酸化スズからなり、前記金属元素はセリウム及びアルミニウムである請求項3に記載の半導体式ガス検知素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−241430(P2008−241430A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81595(P2007−81595)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】
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