半導体検査装置
【課題】高い空間解像度を有しており、検査に要する時間を短くでき、簡易な構成によって半導体デバイスの異常箇所を特定可能な半導体検査装置を提供する。
【解決手段】半導体検査装置1Aは、DUT17の端子電極にストレス電圧Vsを印加するストレス印加装置22と、シリコン基板17aを透過する波長の光を発生する光源11と、光源11から提供された光をシリコン基板17aに照射し、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成する干渉光学系と、干渉像を撮像して撮像データを生成するIRカメラ19と、撮像データに基づいて、異常発生箇所としてのDUT17の発熱箇所を特定するための情報を演算する演算部21とを備える。ストレス電圧Vsの時間波形は、一定周期の繰り返し波形であって、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の時間変化を正弦波状とする時間波形である。
【解決手段】半導体検査装置1Aは、DUT17の端子電極にストレス電圧Vsを印加するストレス印加装置22と、シリコン基板17aを透過する波長の光を発生する光源11と、光源11から提供された光をシリコン基板17aに照射し、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成する干渉光学系と、干渉像を撮像して撮像データを生成するIRカメラ19と、撮像データに基づいて、異常発生箇所としてのDUT17の発熱箇所を特定するための情報を演算する演算部21とを備える。ストレス電圧Vsの時間波形は、一定周期の繰り返し波形であって、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の時間変化を正弦波状とする時間波形である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体検査装置には、被検査デバイス(DUT:Device Under Test)における数マイクロメートルやサブミクロンといった極めて小さな異常発生箇所を短時間で特定することが求められる。DUTの異常発生箇所を特定する一つの方法として、サーマルロックイン計測法がある。この方法では、DUTの異常に伴う電流集中による発熱から生じる輻射熱を、赤外線カメラ(例えばInSbカメラなど)によって撮影する。しかし、このような輻射熱の波長は3.5[μm]〜5.2[μm]と長く、近年の半導体デバイスの微細化に伴って高い空間解像度が要求されるなか、サーマルロックイン計測法の空間解像度は輻射熱の波長の半分程度(1[μm]〜2[μm])に抑えられてしまう。
【0003】
一方、基板の材料(例えばシリコン)を透過する波長の光(例えば波長1.3[μm]の光)をDUTに照射すると、異常発生箇所の発熱に伴う基板の膨張や屈折率変化等といった光学的距離の変化により、異常発生箇所からの反射光は正常箇所からの反射光に対し位相遅れを生じる。この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱箇所(異常発生箇所)の特定だけでなく、その現象をリアルタイムで観察できる。
【0004】
しかし、基板における光学的距離の変化を光干渉計を用いて計測する方式では、光干渉計における参照光及びサンプル光の位相差と、DUTに印加される電圧波形に対する熱膨張波形の位相遅れとが混信することが問題となる。この混信を回避する方法として、非特許文献1では、0次元計測(ポイントセンシング)において参照光及びサンプル光の光路長差または電気信号の位相を予め調節して、光位相差をゼロまたはπ/2とする方式を採用している。
【0005】
また、DUTの異常発生箇所を特定するためには、DUTをワンポイントではなく二次元的に検査する必要がある。非特許文献2では、非特許文献1に示されたワンポイントセンシングの機構において、DUTをXYステージ上に載置し、二次元的に光を走査する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献1には、光エネルギーが熱エネルギーに変換される光熱変位効果を利用して、正弦波状に強度変調された光をDUTの測定しようとする箇所に照射して当該箇所の温度を上昇させ、そのときの熱膨張波形の振幅及び位相を、光干渉計にて同期検波して求める方法が述べられている。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法は、マイケルソン型干渉顕微鏡を用い、10ナノ秒ないし500ナノ秒、或いはそれ以上の長いストレスパルスをDUTに与え、ストレスパルス印加時及びストレスパルス印加後といった二つの異なる状態での干渉像を取得し、差分画像を作成することで、発熱箇所を特定しようとするものである。
【0008】
また、非特許文献3に記載された方法は、特許文献2に記載された方法を改良したものであり、音響光学素子(AOM:Acoustic-Optical Modulator)を用いて光をパルス状に変調し、光位相を近似にて推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3203936号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0036151号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.Goldstein, “Heterodyn interferometer for the detection of electricand thermal signals in integrated circuits through the substrate”, Review ofScientific Instruments, American Institute of Physics, 64(10), pp.3009-3013(1993)
【非特許文献2】C. Furbock, “Thermal and free carrier concentration mapping during ESDevent in Smart Power ESD protection devices using an inproved laserinterferometric technique”, Microelectronics Reliability, elsevier, 40,pp.1365-1370 (2000)
【非特許文献3】V.Dubec, “Backside interferometric methods for localization ofESD-induced leakage current and metal shorts”, Microelectronics Reliability,elsevier, 47, pp.1549-1554 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1に記載された方法はワンポイントセンシングに限られ、半導体デバイスの異常検出といった或る領域内での二次元計測には適用し難い。非特許文献2に記載された方式を用いれば非特許文献1に記載された方法を二次元計測に応用できるが、光位相φを0またはπ/2に保持する為に、DUT自身をXYステージに乗せ走査するため測定時間が長くなり、装置構成も複雑になってしまう。また、照射光を走査する方法としてガルバノミラー等の走査機構を設ける方法が考えられるが、光干渉計における参照光及びサンプル光の位相差と、DUTに印加される電圧波形に対する熱膨張波形の位相遅れとの混信を防ぐために、予め、全ての測定領域における位相差を予め測定しておくか、或いは所定の値に調整しておく必要がある。したがって、半導体デバイスの異常検出に手間と時間とを要してしまう。
【0012】
また、特許文献1には、正弦波状に強度変調された光をDUTに照射し、DUTにおける熱膨張もこの光と等しい周波数にて正弦波変調されるので、ロックインアンプを用いて上記周波数にて同期検波することにより、干渉像から熱膨張波形の振幅Aと位相遅れΦを直接計測できることが開示されている。しかし、DUTへの照射光に加えて励起光を必要とするため、構造が複雑となる。また、試料の光学的距離変化と比べ、温度に対する感度が小さい熱伝導率及び線膨張係数の温度変化を熱膨張変位量として検出しているため、検出される温度変化の精度が±10℃とあまり高くなく、半導体デバイスの異常箇所を特定することは難しいと考えられる。
【0013】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、高い空間解像度を有しており、検査に要する時間を短くでき、且つ簡易な構成によって半導体デバイスの異常箇所を特定可能な半導体検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するために、本発明による半導体検査装置は、基板を有する被検査デバイスの異常発生箇所を特定するための半導体検査装置であって、被検査デバイスの端子電極にストレス電圧を印加するストレス印加手段と、基板を透過する波長の光を発生する光源と、光源から提供された光を基板に照射し、基板を透過した光に関する干渉像を生成する干渉光学系と、干渉像を撮像して撮像データを生成する撮像手段と、撮像データに基づいて、異常発生箇所としての被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報を演算する演算手段とを備える。この半導体検査装置は、ストレス電圧の時間波形が、一定周期の繰り返し波形であって、被検査デバイスの発熱による基板内部の光学的距離の時間変化を正弦波状とする時間波形であることを特徴とする。
【0015】
また、半導体検査装置は、演算手段が、干渉像に含まれる基板を透過した光の位相遅れの分布を、被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報として算出することを特徴としてもよい。
【0016】
また、半導体検査装置は、ストレス電圧の時間波形が正弦波状であることを特徴としてもよい。
【0017】
また、半導体検査装置は、ストレス電圧の時間波形が、一定周期の基本波に高調波が重畳された波形であることを特徴としてもよい。この場合、ストレス電圧の時間波形は、一定周期で繰り返される矩形波であってもよい。
【0018】
また、半導体検査装置は、被検査デバイスの端子電極が電源端子であることを特徴としてもよい。この場合、ストレス印加手段は、被検査デバイスの信号端子に通常動作時の信号を入力してもよい。
【0019】
また、半導体検査装置は、被検査デバイスの端子電極が信号端子であることを特徴としてもよい。この場合、ストレス印加手段は、被検査デバイスの電源端子に通常動作時の電源電圧を供給してもよい。
【0020】
また、半導体検査装置は、視野を移動させながら複数回の撮像を行うための機構を更に備え、演算手段は、複数回の撮像により得られた複数の撮像データを相互に繋ぎ合わせて演算を行うことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い空間解像度を有しており、検査に要する時間を短縮でき、簡易な構成によって半導体デバイスの異常箇所を特定可能な半導体検査装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体検査装置1Aの構成を示す図である。
【図2】半導体検査装置1Aの被検査デバイス(DUT)17付近の構造を拡大して示す断面図である。
【図3】半導体検査装置1AがDUT17の微細な発熱箇所を検知する際の原理を説明するための図である。
【図4】ビームスプリッタBS、ミラーM、およびカメラCからなる干渉計を示す図である。
【図5】図4のカメラCにおける撮像データの一例である。
【図6】シリコン厚さdが400[μm]である場合における、発熱点直下での熱周波数応答曲線である。
【図7】基準信号SP1(図7(a))、IRカメラ19のトリガ信号(図7(b))、ストレス印加装置22のトリガ信号(図7(c))、およびシリコン基板17aの熱膨張波形(図7(d))の関係を示すタイミングチャートである。
【図8】基本波のフーリエ係数a1の分布の例を示す図であり、式(7)の演算結果を示している。
【図9】基本波のフーリエ係数b1の分布の例を示す図であり、式(8)の演算結果を示している。
【図10】(a)フーリエ係数a1,b1から算出された熱位相Φの分布の例を示す図であり、式(9)の演算結果を示している。(b)(a)の一部を拡大した図である。
【図11】図8、図9、および図10に示した実施例において、式(14)によって求めた熱振幅Aの分布の例を示す図である。
【図12】従来のワンポイント計測法(光ヘテロダイン干渉法)や位相シフト法を用いた半導体検査装置100の構成例を示すブロック図である。
【図13】半導体検査装置1Aの構成を簡略的に示すブロック図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る半導体検査装置1Bの構成を示す図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る半導体検査装置1Cの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体検査装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体検査装置1Aの構成を示す図である。また、図2は、半導体検査装置1AのDUT17付近の構造を拡大して示す断面図である。本実施形態の半導体検査装置1Aは、検査対象であるDUT17の微細な発熱箇所を検知することにより、DUT17の異常発生箇所を特定するための装置である。
【0025】
DUT17は、図2に示すように、シリコン基板17aと、シリコン基板17aの下面に設けられた回路層17bと、シリコン基板17a及び回路層17bを覆う樹脂モールド17cとを備える。本来、シリコン基板17a及び回路層17bは樹脂モールド17cによって完全に覆われているが、このDUT17では、検査のためシリコン基板17aの上面が露出するように樹脂モールド17cの一部が除去されている。尚、回路層17bは、半導体回路が形成されていてシリコン基板17aに温度変化を与えるものである。
【0026】
ここで、図3は、半導体検査装置1AがDUT17の微細な発熱箇所を検知する際の原理を説明するための図である。図3(a)に示すように、DUT17のシリコン基板17aの光学的厚さは、基板厚さをL、屈折率nを用いてnLと表される。なお、シリコンの屈折率nは3.5である。このシリコン基板17aの温度がT[K]上昇した場合、図3(b)に示すように、シリコン基板17aの光学的厚さは(nL+ΔnTL+αLTn)に変化する。Δnは温度変化に対する屈折率変化係数であり、シリコンの場合5×10−5[K−1]である。αは温度変化による線膨張率であり、シリコンの場合3.5×10−6[K−1]である。
【0027】
そこで、シリコン基板17aを透過する波長の光(例えば波長1.3[μm]の光)をDUT17に照射すると、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等により、発熱箇所からの反射光は正常箇所または発熱現象が起こる前の状態からの反射光に対し位相遅れを生じる。したがって、図4に示すように、ビームスプリッタBS、ミラーM、およびカメラCからなる干渉計を構成し、シリコン基板17aを透過する波長の光Laをこの干渉計に入射すると、この位相遅れに起因する干渉縞変化を観察することができる。図5はカメラCにおける撮像データの一例であり、干渉縞の位相が本来の位相(図中のラインPH1)から部分的に遅れていることがわかる(図中のラインPH2)。なお、シリコン基板17aの厚さが400[μm]である場合、温度変化1[K]あたりのシリコン基板17a光学的厚さの変化量は75[nm/K]であり、したがって、反射光同士の干渉を計測する図4に示す干渉計では、往復光路分の150[nm/K]となる。光の波長が1.3[μm]である場合、干渉縞の明から明の間隔の1/9、すなわち40°の位相遅れを生じる。
【0028】
半導体検査装置1Aは、シリコン基板17aを透過する波長の光をDUT17に照射し、この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等を検知して、発熱箇所を特定する。
【0029】
上述した発熱箇所の検知を正確に行う為に、本実施形態の半導体検査装置1Aは、マイケルソン干渉計において分岐された二つの光路の双方に対物レンズを配置した、リニック(Linnik)型干渉計を基本にした装置構成となっている。図1に示すように、半導体検査装置1Aは、低コヒーレンス光源11、レンズ12a及び12b、ビームスプリッタ13、対物レンズ14、ミラー15、対物レンズ16、IRカメラ19、及びフレームメモリ20を備える。
【0030】
低コヒーレンス光源11は、いわゆるスーパールミネッセンス・ダイオード(SLD)を含んで構成されており、DUT17のシリコン基板17aを透過する波長を含む光、例えば中心波長1.3[μm]、波長幅20[nm]の光束L1を出力する。低コヒーレンス光源11としては、例えばファイバーラボ(FiberLab)社製型番SLD−131−04(中心波長1.3[μm]、波長半値幅20[nm]、最大パワー4[mW])といったファイバ出力タイプの光源を使用することができる。光源としてSLDを使用する理由は、その可干渉距離を利用して、シリコン基板17aの上面からの反射光と、シリコン基板17aの内部を通って下面において反射した光とを好適に区別することができるからである。
【0031】
レンズ12a及び12b、ビームスプリッタ13、対物レンズ14、ミラー15、及び対物レンズ16は、低コヒーレンス光源11から提供された光束L1をシリコン基板17aに照射し、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成するための干渉光学系を構成する。
【0032】
レンズ12aは、低コヒーレンス光源11と光学的に結合されており、低コヒーレンス光源11の光ファイバ出力端から出射された光束L1をコリメートする。レンズ12bは、レンズ12aを通過した光束L1を集光する。ビームスプリッタ13は、レンズ12a及び12bを介して低コヒーレンス光源11と光学的に結合されており、レンズ12a,12bを通過した光束L1を二つの光束L2(参照光)及びL3(サンプル光)に分岐する。対物レンズ14は、ビームスプリッタ13の一方の反射面とミラー15との間に配置されており、ビームスプリッタ13から分岐された一方の光束L2(参照光)の焦点をミラー15の表面に合わせる。対物レンズ14の拡大倍率は、例えば5倍である。ミラー15は、光束L2(参照光)を反射して再びビームスプリッタ13へ戻す。
【0033】
対物レンズ16は、ビームスプリッタ13の他方の反射面とDUT17との間に配置されており、ビームスプリッタ13から分岐された他方の光束L3(サンプル光)の焦点をDUT17のシリコン基板17aと回路層17bとの界面に合わせる。対物レンズ16の拡大倍率は例えば5倍であり、対物レンズ14の拡大倍率と等しい。DUT17に達した光束L3は、シリコン基板17aを透過し、シリコン基板17aと回路層17bとの界面にて反射したのち、再びビームスプリッタ13へ戻り、光束L2の戻り光と合波されて干渉像を構成する。
【0034】
IRカメラ19は、本実施形態における撮像手段であり、低コヒーレンス光源11の出力波長である1.3[μm]付近の波長域に感度を有する撮像素子を内蔵している。IRカメラ19は、レンズ18を介してビームスプリッタ13と光学的に結合されており、光束L2の戻り光と光束L3の戻り光とが合波されてなる合波光L4を撮像する。レンズ18は、IRカメラ19の撮像素子面に合波光L4(干渉像)を結像する。すなわち、レンズ18は、光束L3の戻り光に含まれる回路層17bのパターン像と、光束L2の戻り光に含まれるミラー15の像とを、IRカメラ19の撮像素子面に結像する。これにより、必然的に、回路層17bにおいて反射された光束L3(サンプル光)と、ミラー15において反射された光束L2(参照光)とにより形成される、合波光L4(干渉像)の干渉縞のコントラストが最大となる。
【0035】
フレームメモリ20は、IRカメラ19によって撮影された合波光L4(干渉像)の撮像データを記憶する。演算部21は、本実施形態における演算手段である。演算部21は、フレームメモリ20に蓄えられた撮像データに基づいて所定の解析演算を行い、DUT17の発熱箇所(すなわち異常発生箇所)を特定するための情報を出力する。演算部21は、例えばCPU及びメモリ等を含んで構成される情報処理装置により実現される。
【0036】
また、半導体検査装置1Aは、ストレス印加装置22と、ペルチェ素子23と、温度制御コントローラ24とを更に備える。ストレス印加装置22は、DUT17に対してストレスを印加するためのストレス印加手段であり、具体的には、DUT17の端子電極(電源端子または信号端子)に所定のストレス電圧Vsを印加することにより、DUT17の回路層17bに電流を流す。なお、DUT17の電源端子にストレス電圧Vsを印加する場合、ストレス印加装置22は、信号端子に通常動作時の信号を入力することが好ましい。また、DUT17の信号端子にストレス電圧Vsを印加する場合、ストレス印加装置22は、電源端子に通常動作時の電源電圧を入力することが好ましい。
【0037】
ストレス電圧Vsは、一定周期の繰り返し波形であって、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の時間変化を、正弦波状のなめらかな変化とするような時間波形を有する。ストレス電圧Vsは、例えば周期的な正弦波状の時間波形となる電圧波形を有する。或いは、ストレス電圧Vsは、一定周期の基本波に高調波が重畳された波形、典型的には周期的な矩形波状の時間波形となる電圧波形を有しても良い。一実施例では、DUT17の正常動作電圧が5[V]である場合、ストレス電圧Vsの電圧波形は、5[V]のオン電圧及び0[V]のオフ電圧を一定周期で繰り返す波形であり、デューティ比は例えば50%である。DUT17では、このようなストレス電圧Vsの印加によって、断線といった異常発生箇所ではストレス電圧Vsの電力P(=Vs2/R、Rは異常発生箇所の抵抗値)に比例する熱が発生し、当該箇所のシリコン基板17aが膨張する。
【0038】
また、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数は、次のように決定される。シリコン基板17aを厚さ方向に光が透過する場合、その光学的距離はシリコンの熱膨張により変化する。また、シリコンの熱膨張反応は、断線等の異常発生箇所からの発熱に対して或る時定数をもって生じる。すなわち、ストレス電圧Vsの繰り返し周期がシリコン基板17a側の熱膨張反応の応答速度に対して比較的短い場合、シリコン基板17a内の光学的距離の変化は、ストレス電圧Vsの変化に遅れて追従すると共に、その熱振幅も減衰することとなる。したがって、ストレス電圧Vsの繰り返し周期が適切に決定された場合、シリコン基板17a内の光学的距離の変化が、基本周波数のみを含む時間関数(すなわち正弦波)となる。本実施形態において、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数は、このようにシリコン基板17a内の光学的距離の変化が正弦波状の時間関数となるように決定される。
【0039】
ストレス印加装置22によって一定周期のストレス電圧Vsが印加されると、DUT17全体に熱が蓄積される。ペルチェ素子23は、その一方の面(吸熱面)上にDUT17を載置しており、他方の面(放熱面)が放熱部材(不図示)と接している。ペルチェ素子23は、DUT17に蓄積された熱を吸熱面から吸収し、放熱面から放出する。温度制御コントローラ24は、ペルチェ素子23に駆動電流Idを与える電気回路であり、DUT17が一定温度になるように駆動電流Idを生成する。ペルチェ素子23及び温度制御コントローラ24は、DUT17の熱的な平衡状態を短時間で実現する。なお、DUT17の設定温度は、例えば25℃である。
【0040】
ここで、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数の決定方法について更に説明する。シリコン基板17aを構成するシリコンの熱伝導率κ、比熱cおよび密度ρから、シリコン基板17aの熱抵抗Rhおよび熱容量Chは次式(1)および(2)によって算出される。
【数1】
【数2】
【0041】
こうして求められるシリコン基板17aの熱抵抗Rhおよび熱容量Chから、熱入力に対するシリコン基板17aの膨張反応の時定数τ(=Ch・Rh)を求めると、
【数3】
となる。ここで、d[cm]はシリコンの厚みである。よって熱的なカットオフ周波数fcは、次式(4)で与えられる。
【数4】
【0042】
ここで、dは熱拡散長とも呼ばれ、DUT17のシリコン基板17aの厚さに相当する。熱的なカットオフ周波数fcは、例えばシリコン厚さdが400[μm]である場合、上式(4)により約180[Hz]となる。なお、図6は、シリコン厚さdが400[μm]である場合における、発熱点直下での熱周波数応答曲線である。ここで、矩形波状のストレス電圧VsをDUT17に入力した場合を考える。ストレス電圧Vsの矩形波には、基本波(周波数Ω)の他に、基本周波数Ωの奇数倍の周波数(3Ω、5Ω、7Ω、・・・)を有する高調波成分が含まれるので、例えば基本波の周波数Ωを180[Hz]に設定すれば、3倍波(3Ω=540[Hz])の成分の熱振幅は、基本波の熱振幅の約3分の1にまで減衰する。ストレス電圧Vsの矩形波に含まれる3倍波の割合が基本波の3分の1であることを加味すれば、3倍波成分の熱振幅の大きさは、基本波の振幅の9分の1である約11%となる。このように、ストレス電圧Vsとして高調波を含む波形(例えば矩形波)を入力した場合であっても、シリコン基板17aにおける熱的な周波数応答によって、基本波より周波数が高い成分(高調波成分)は大きく減衰を受ける。その結果、シリコン基板17aの光学的厚さは、基本波の周波数Ωと同じ周波数を有する正弦波形でもって変調される。
【0043】
同様に与えるストレス電圧Vsを正弦波としてDUT17に入力した場合を考える。ストレス電圧Vsの正弦波を端子電極に加えると熱抵抗によりその2乗にて熱が発生する。すなわちVsを式(4a)とした場合、
【数5】
熱源での発熱量は式(4b)で表せる。すなわち基本波Ωに加えてその2倍波の周波数成分がDUT17に熱として拡散する。
【数6】
この場合、基本波と2倍波の比はm/4となる。たとえば変調度mを0.25にとれば、2倍波は基本波の熱振幅の16分の1にまで減衰する。このように、ストレス電圧Vsとして正弦波を入力した場合であっても、シリコン基板17aにおける熱的な周波数応答によって、2倍波は大きく減衰を受ける。その結果、シリコン基板17aの光学的厚さは、基本波の周波数Ωと同じ周波数を有する正弦波形でもって変調される。
【0044】
厳密には、シリコン基板17aの厚さdはDUT17の内部構造などに依存するので、上述した理論的な熱的カットオフ周波数fcを得ることはできない。本発明者が実測したところ、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数を数ヘルツないし数十ヘルツ程度とすることにより、シリコン基板17a内の光学的距離の変化が正弦波状の時間関数となる良好な結果が得られている。
【0045】
なお、以下の表1は、シリコンの熱伝導率κ、比熱c、および密度ρといった物性値を示している。
【表1】
【0046】
そして、上述したような繰り返し周波数を有するストレス電圧VsをDUT17に印加することによって、IRカメラ19に入射する合波光L4(干渉像)は、以下の式(5)に示される干渉強度I(t,x,y)を有することとなる。なお、式(5)において、Irは光束L2(参照光)の光強度、Isは光束L3(サンプル光)の光強度、φは光位相差、mは変調度、Ωはストレス電圧Vsの基本周波数、Φはストレス電圧Vsの初期位相である。
【数7】
【0047】
また、ストレス電圧Vsは、以下の式(6)で表される正弦波の平方根といった電圧波形を有していてもよい。但し、V0は任意の係数である。
【数8】
ストレス電圧Vsの電力エネルギー(すなわち発熱量)がVsの2乗に比例することから、上式(6)で表されるストレス電圧VsをDUT17に印加することによって、異常発生箇所では{1+sin(Ωt)}に比例した熱が発生することとなる。したがって、式(5)に示したような干渉像、すなわち光学距離が正弦波状に変調された干渉像を好適に得ることができる。
【0048】
なお、IRカメラ19は、DUT17に印加されるストレス電圧Vsの基本周波数Ωに対応する周期(2π/Ω)内に少なくとも2回の撮像を行うことが好ましい。
【0049】
半導体検査装置1Aは、干渉計の位相ノイズを低減するためのフィードバック機構を更に備えることが好ましい。本実施形態の半導体検査装置1Aは、このようなフィードバック機構として、光源32、ダイクロイックミラー33及び34、圧電素子36、変調器37、フォトダイオード38、乗算器39、およびフィードバック回路40を備える。
【0050】
光源32は、光束L1とは波長が異なる光束L5を出力する。光束L5の波長は、DUT17のシリコン基板17aを透過しない波長であり、シリコン基板17aの上面(露出面)と空気との界面で反射する波長(例えば633[nm])である。光源32から出力された光束L5は、レンズ12cによってコリメートされる。
【0051】
ダイクロイックミラー33は、光源32から出射された光束L5と、低コヒーレンス光源11から出射された光束L1とを同軸上で合波するための光学部品である。本実施形態のダイクロイックミラー33は、光束L1を含む波長域の光を透過し、光束L5を含む波長域の光を反射する。このダイクロイックミラー33は、レンズ12aから一方の面に入射した光束L1をレンズ12bへ向けて透過し、レンズ12cから他方の面に入射した光束L5を、光束L1と同じ光軸でもってレンズ12bへ向けて反射する。光束L5は、光束L1とともにビームスプリッタ13に入射し、光束L1と同様に、2本の光束L6及びL7に分岐される。光束L6は、光束L2(参照光)とともに対物レンズ14を通過してミラー15に到達し、ミラー15において反射する。光束L7は、光束L3(サンプル光)とともに対物レンズ16を通過してDUT17に到達し、シリコン基板17aの上面(露出面)で反射する。
【0052】
これら光束L6及びL7の各反射光は、ビームスプリッタ13において合波され、合波光L8となってレンズ18を通過する。ここで、ダイクロイックミラー34がレンズ18とIRカメラ19との間に設けられている。ダイクロイックミラー34は、合波光L4とは波長が異なる合波光L8を合波光L4から分離するための光学部品である。本実施形態のダイクロイックミラー34は、合波光L4を含む波長域の光を透過し、合波光L8を含む波長域の光を反射する。このダイクロイックミラー34は、レンズ18から一方の面に入射した合波光L4をIRカメラ19へ向けて透過し、同じくレンズ18から一方の面に入射した合波光L8を、該一方の面に光結合されたフォトダイオード38の受光面へ向けて反射する。
【0053】
フォトダイオード38では、合波光L8の光強度に応じた電気信号S1が生成される。電気信号S1は、フォトダイオード38から乗算器39へ送られる。また、乗算器39には、変調器37から出力された正弦波状の電気信号(周波数ω)S2が更に入力される。乗算器39は、電気信号S1,S2が乗算されて成る電気信号S3をフィードバック回路40へ提供する。
【0054】
フィードバック回路40は、ミラー15に固定された圧電素子36を駆動するための回路である。フィードバック回路40は、乗算器39から提供された電気信号S3と、変調器37から提供された電気信号S2とに基づいて、ビームスプリッタ13とシリコン基板17aの上面(露出面)との距離Lsと、ビームスプリッタ13とミラー15との距離Lrとの差(Ls−Lr)が一定に保持されるように、圧電素子36を駆動する。
【0055】
なお、干渉計の位相ノイズを低減するフィードバック方式については、上述したものに限られず、他の様々な方式を適用できる。
【0056】
続いて、IRカメラ19における撮影タイミングと、ストレス電圧Vsとの関係について説明する。本実施形態の半導体検査装置1Aは、IRカメラ19における撮影タイミングと、ストレス電圧Vsの位相とを適切に調整する為に、基準信号発生装置54および分周器55を更に備える。
【0057】
基準信号発生装置54は、周期的なパルス信号である基準信号SP1を発生する装置である。基準信号SP1は、IRカメラ19の撮影タイミングを示すトリガ信号の基準としてIRカメラ19へ提供されるとともに、分周器55にも提供される。分周器55は、基準信号SP1を少なくとも2分周以上に分周する。分周された信号SP2は、分周器55からストレス印加装置22へ提供される。ストレス印加装置22は、信号SP2の周波数を基本周波数Ωとして、ストレス電圧Vsを生成する。
【0058】
図7(a)〜図7(d)は、基準信号SP1(図7(a))、IRカメラ19のトリガ信号(図7(b))、ストレス印加装置22のトリガ信号(すなわち信号SP2、図7(c))、およびシリコン基板17aの熱膨張波形(図7(d))の関係を示すタイミングチャートである。なお、IRカメラ19のトリガ信号は、IRカメラ19の露光タイミングおよび露光時間の双方を示している。IRカメラ19の露光時間は、合波光L4(干渉像)の変調を損ねない程度の時間に設定されることが好ましい。
【0059】
基準信号SP1に示されるタイミングでIRカメラ19により撮影・生成された撮像データは、フレームメモリ20に蓄積される。演算部21は、この撮像データを取り出し、以下に述べる方法により解析して、異常発生箇所を特定するための情報としての熱膨張波形の位相遅れ(以下、熱位相という)および熱膨張波形の振幅(以下、熱振幅という)を算出する。
【0060】
演算部21では、上式(5)に示した干渉光強度I(t,x,y)が、IRカメラ19の各画素毎に時系列データとして得られる。演算部21は、各画素の時系列データに対して、以下の式(7)及び(8)に示されるフーリエ分析を行うことにより、基本波(周波数Ω)に対するフーリエ係数a1及びb1を算出する。記号Aは式(5)中の2√(IsIr)を表す。J1(m)は変調度mに対する1次の第1種ベッセル関数である。
【数9】
【数10】
【0061】
そして、演算部21は、各画素における熱位相Φを、上記基本波のフーリエ係数a1及びb1を用いて以下の式(9)により求める。
【数11】
【0062】
図8は、基本波のフーリエ係数a1の分布の例を示す図であり、上式(7)の演算結果を示している。また、図9は、基本波のフーリエ係数b1の分布の例を示す図であり、上式(8)の演算結果を示している。また、図10(a)は、これらのフーリエ係数a1,b1から算出された熱位相Φの分布の例であり、図10(b)は図10(a)の一部を拡大した図である。図10(a)及び図10(b)は、上式(9)の演算結果を示している。なお、図8、図9、および図10において、縦軸および横軸はそれぞれ縦方向および横方向の画素番号を示しており、全視野の実寸法は3[mm]×2.5[mm]である。また、図10において、熱位相Φの単位はラジアンである。
【0063】
図8、図9、および図10に示す実施例では、シリコン基板17aの厚さが400[μm]であるDUT17の電源電圧端子に、ストレス電圧Vsとしてオン電圧5[V]、オフ電圧0[V]、デューティ比50%の矩形波を印加した。また、対物レンズ14,16として拡大倍率が5倍のものを使用した。
【0064】
図10(a)を参照すると、画像の中心から右上の領域に、熱位相Φが比較的小さい領域が存在している。すなわち、この領域において発熱が生じていることを示しており、この領域をDUT17における異常発生箇所と特定することができる。なお、図10(b)はこの領域を拡大して示しており、熱位相Φの表示範囲を狭めてコントラストを高めている。演算部21は、このような熱位相Φの分布データ又は分布画像を、DUT17の発熱箇所を特定するための情報として算出し、出力する。
【0065】
熱位相Φは、次に示す関係式(10)により時間に変換できる。
【数12】
また、一周期(2π/Ω)内にサンプリング数(すなわちIRカメラ19の撮像回数)が4以上であれば、2倍波に相当するフーリエ係数a2及びb2を、式(11)及び(12)に従い求めることができる。
【数13】
【数14】
【0066】
撮像データの各画素における熱位相Φは、式(11)及び(12)によって求められた2倍波のフーリエ係数a2及びb2を用いて、次の式(13)のように表される。
【数15】
【0067】
演算部21は、各画素における熱振幅Aを、基本波のフーリエ係数a1及びb1、並びに2倍波のフーリエ係数a2及びb2に基づいて、次の式(14)によって求める。
【数16】
ここで、式(14)におけるJ1およびJ2は、変調度mに対する第1種ベッセル関数である。実用上、J2はJ1の10分の1程度であるため、2倍波でのS/Nが低い場合には、光の位相を90度ずらして同様の計測を行い、位相差ゼロでの基本波のフーリエ係数a1(0),b1(0)と、位相差90°での基本波のフーリエ係数a1(π/2),b2(π/2)とを用いて熱位相Φを求めてもよい。
【0068】
図11は、図8、図9、および図10に示した実施例において、式(14)によって求めた熱振幅Aの分布の例を示す図である。なお、図11において、縦軸および横軸はそれぞれ縦方向および横方向の画素番号を示しており、全視野の実寸法は3[mm]×2.5[mm]である。また、図11において、熱振幅Aの単位は任意単位である。図11では、段落[0067]に記載の2倍波でのS/Nが低い場合の方法は使用していない。
【0069】
図11を参照すると、発熱箇所(図中の点P)から遠い画素ほど、熱振幅Aが小さくなることがわかる。これは、図6に示したシリコンの熱周波数特性に起因する。したがって、熱振幅Aが大きい箇所を、DUT17における異常発生箇所と特定することができる。この実施例では、図11に示す熱振幅Aの画像により特定された異常発生箇所は、図10(a)に示した熱位相Φの画像により特定された異常発生箇所と一致した。
【0070】
なお、S/Nが十分に確保される場合、式(5)から示唆されるように、高調波成分を多数含むため、高調波周波数mΩおよびnΩに対して、撮像データの各画素における熱位相Φおよび熱振幅Aは、以下の式(15)及び(16)によっても表される。ただし、式(15),(16)においてi,jは整数である。
【数17】
【数18】
また、次数iとjのベッセル関数の比(Jj/Ji)は、下記の式(17)によって算出される。
【数19】
【0071】
以上に説明した、本実施形態による半導体検査装置1Aが奏する作用効果について説明する。
【0072】
前述したように、基板の材料(例えばシリコン)を透過する波長の光をDUTに照射すると、異常発生箇所の発熱に伴う基板の膨張や屈折率変化等により、異常発生箇所からの反射光は正常箇所からの反射光に対し位相遅れφを生じる。この位相遅れφを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱箇所(異常発生箇所)の特定だけでなく、その現象をリアルタイムで観察できる。しかしながら、DUTの数百ミリメートル四方の領域から数マイクロメートルの異常発生箇所を特定する場合(面積換算では6桁落ち程度)、必ずしも異常発生に関わる現象をリアルタイムで観察する必要はない。
【0073】
そこで、本実施形態の半導体検査装置1Aでは、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の変化が正弦波状となるように一定周期のストレス電圧Vsを印加しておき、シリコン基板17aを透過した光の位相の変化に伴う干渉光強度を観察して、シリコン基板17a内部の光学的距離の変化の位相遅れおよび減衰を検出することにより、DUT17の異常発生箇所を特定している。これにより、従来のサーマルロックイン計測法と比較して、空間分解能を向上することができる。
【0074】
更に詳しく説明すると、従来のサーマルロックイン計測法では、矩形波等の時間波形を有するストレス電圧をDUTに印加し、異常発生箇所からの発熱に伴う輻射熱をInSbカメラで撮影する。その際、ストレス電圧の周波数の少なくとも2倍以上の周波数でもって撮影を行う。その後、時系列データとして取得された撮像データの各画素に対してフーリエ解析を行い、輻射熱の振幅および位相特性から発熱箇所(異常発生箇所)を特定する。すなわち、サーマルロックイン計測法では、以下の手順に従って計測が行われる。
(1)DUTに一定周波数のストレス電圧を印加する。
(2)ストレス電圧の変調周波数に応じた発熱変化が生じる。
(3)ストレス電圧の変調周波数より高いサンプリング周波数で連続的な撮像を行う。
(4)撮像データに基づいて、振幅および位相成分を取得する。
【0075】
しかし、このようなサーマルロックイン計測法の手順を、基板の透過光による干渉像(図1に示した合波光L4)に適用することは困難である。なぜなら、干渉像の光強度と、DUTの発熱等に伴う透過光の位相の変化とが互いに非線形だからである。このため、干渉像の光強度と位相差とが互いに非線形であることを考慮した上で、干渉像の光強度から位相差を抽出する方法(位相の復調という)が、種々検討されている。
【0076】
例えば、局所的な部位(ワンポイント)を計測する方法として、光ヘテロダイン法がある。光ヘテロダイン法では、原理上、光の位相φと、光を変調するための変調波の位相φmとの和(φ+φm)が得られる。このようなワンポイント計測では、時刻0を基準として、すなわち(φ0+φm)を初期位相φ0として、局所部位での光位相φの時間変化を測定する。したがって、時刻0の時点における初期位相φ0を全く考慮する必要はない。この初期位相φ0は、DUT上面の面精度(平坦度)に依存するが、多くの場合、DUT上面にはナノメートルのオーダーで凹凸が存在するので、初期位相φ0はDUTの面内において均一ではない。
【0077】
半導体検査装置に求められていることは、半導体装置の異常発生箇所を特定することであるから、正常な他のポイントとの関係が重要である。すなわち、DUTの面内において初期位相φ0が不均一であることは、各ポイントにおいてオフセットが存在することを意味する。このようなオフセットを含んだ状態で、正常な他のポイントとの比較により発熱箇所(異常発生箇所)を特定することは困難である。このため、光ヘテロダイン法等のワンポイント計測による方法では、異常発生箇所を正確に特定するために初期位相φ0の分布を何らかの手段を用いて予め測定しておく必要がある。したがって、ワンポイント計測技術を、DUTの面内(すなわち二次元)における計測に応用して半導体装置の異常発生箇所を特定することは困難である。
【0078】
また、二次元で得られた光干渉像から光位相φを復調する方法として、フーリエ変換法や位相シフト法がある。これらの方法を用いて二次元干渉像から光位相φ(t,x,y)を求め、得られた光位相φ(t,x,y)についてサーマルロックイン計測法と同様の手順を用いれば、熱位相Φや熱振幅Aを算出することができる。これは、光位相φと熱膨張とが互いに線形の関係にあるからである。しかし、フーリエ変換法では、干渉像内に空間的に縞を多数作成することによってキャリア信号を生成する。このため、フーリエ変換法を用いる場合、例えば本実施形態のフィードバック機構(光源32、ダイクロイックミラー33及び34、圧電素子36、変調器37、フォトダイオード38、乗算器39、およびフィードバック回路40)のような機構を設けることは困難であり、干渉計のノイズを除去することが難しい。または観察視野内に、熱的膨張がないとわかっている箇所があれば、それを基準点として位相ノイズをキャンセル方法があるが、発熱箇所が未知のサンプルを計測する場合、その基準点を設けることは困難である。また、位相シフト法では、本実施形態のフィードバック機構のようなものを設けることは可能であるが、光位相φが互いに異なり且つ光位相φが既知である少なくとも3枚の干渉像が必要なので、測定時間が長くなるという問題がある。また、ナノメートルオーダーで参照用ミラーを断続的に制御する必要があるので、装置構成が複雑になるという問題もある。
【0079】
これに対し、本実施形態の半導体検査装置1Aにおいては、光干渉像に基づいて光位相φを復調するのではなく、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の時間変化が正弦波状となるように一定周期のストレス電圧Vsを印加しておくことによって、光干渉像(合波光L4)から、直接的に熱位相Φおよび熱振幅Aを求めることができる。したがって、フーリエ変換法を用いた従来装置と比較して、フィードバック機構を設けて干渉計のノイズを除去することができ、より正確に異常発生箇所を特定することができる。すなわち、半導体検査装置1Aではフーリエ変換法を用いないため、光源32からの光束L5を、低コヒーレンス光源11からの光束L1と同軸の光路上に導波させて、干渉計内の位相ノイズを相殺するフォードバック機構の導入を容易にできる。
【0080】
また、半導体検査装置1Aによれば、位相シフト法を用いた従来装置と比較して、測定時間を短くでき(例えばπ/2位相シフト法を用いる場合と比較して3分の1以下の時間で計測できる)、また、参照ミラーを変調するための機構が不要になり、装置構成を簡易にできる。
【0081】
また、本実施形態の半導体検査装置1Aによれば、光干渉像(合波光L4)から光位相φを定量することなく、熱拡散による熱振幅Aの減衰や、熱位相Φの遅れの様子を定量的情報として得ることができるので、機構を単純化させることができる。なお熱振幅の減衰量は温度差(℃)を表し、熱位相Φは熱伝導の時間遅れを表す。
【0082】
なお、本実施形態ではDUT17の発熱箇所を二次元で計測する例を示したが、半導体検査装置1Aの構成はワンポイント計測にも適用可能である。
【0083】
本実施形態の半導体検査装置1Aの構成と、従来のワンポイント計測や位相シフト法を用いた半導体検査装置の構成との違いを図示して説明する。図12は、従来のワンポイント計測や位相シフト法を用いた半導体検査装置100の構成例を示すブロック図である。また、図13は、本実施形態の半導体検査装置1Aの構成を簡略的に示すブロック図である。図12に示すように、従来の半導体検査装置100では、信号発生器101によって変調器102を制御して参照光LRを変調し、一方でDUT103にストレス印加装置104からストレス電圧を印加する。そして、DUT103を透過したサンプル光LSと、参照光LRとを合波して干渉像とし、この干渉像をカメラ105によって撮像する。その後、同期検波を行い、ワンポイント計測や位相シフト法により光位相及び光振幅を復調したのち、光位相及び光振幅に基づいて熱位相Φ及び熱振幅Aを算出する。
【0084】
一方、図13に示すように、本実施形態の半導体検査装置1Aでは、カメラ19によって取得された撮像データ(干渉像)から直接、熱位相Φ及び熱振幅Aを算出する。なお、このように熱位相Φ及び熱振幅Aを直接求める方法については、前述した非特許文献1および特許文献1に記載があるが、非特許文献1および特許文献1ではワンポイント計測について述べているだけであり、二次元計測へ単純に拡張できるものではない。
【0085】
(第2の実施の形態)
図14は、本発明の第2実施形態に係る半導体検査装置1Bの構成を示す図である。半導体検査装置1Bは、上述した第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様に、シリコン基板17a(図2を参照)を透過する波長の光をDUT17に照射し、この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等を検知して、発熱箇所を特定する。
【0086】
本実施形態の半導体検査装置1Bは、干渉計内の位相安定化を不要とする為に、同軸光路タイプの干渉計(ミラウ型干渉計)を基本にした装置構成を有する。図14に示すように、半導体検査装置1Bは、ハロゲン光源25、フィルタ26、レンズ27、ハーフミラー28、及び対物レンズ29を備える。これらは、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成するための本実施形態における干渉光学系を構成する。また、半導体検査装置1Bは、第1実施形態と同様に、レンズ18、IRカメラ19、フレームメモリ20、演算部21、ストレス印加装置22、ペルチェ素子23、温度制御コントローラ24、基準信号発生装置54、および分周器55を備えるが、これらの構成および機能(作用)は第1実施形態と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0087】
ハロゲン光源25から出力された広帯域光は、フィルタ26を通過する。その際、DUT17のシリコン基板17aを透過する波長を含む光束L11のみがフィルタ26を透過する。光束L11はレンズ27によって、サンプル面にていわゆるケラー照明を実現する。その後、光束L11はハーフミラー28によって反射される。対物レンズ29はいわゆるミラウ型の対物レンズであり、光束L11は対物レンズ29を通過してDUT17に達する。DUT17に達した光束L11は、シリコン基板17aを透過し、シリコン基板17aと回路層17bとの界面にて反射したのち、再び対物レンズ29へ戻る。そして、対物レンズ29において干渉像が生成され、該干渉像を含む光束L12がハーフミラー28およびレンズ18を通過してIRカメラ19へ入射する。
【0088】
本発明に係る半導体検査装置は、半導体検査装置1Bのような光学系を有してもよく、第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様の作用効果を奏することができる。すなわち、半導体検査装置1Bによれば、位相ノイズがより少ないミラウ型の干渉顕微鏡を使用することにより、参照ミラーを変調するための機構が不要になり、装置構成を簡易にできる。
【0089】
また、半導体検査装置1Bによれば、光干渉像から光位相φを定量することなく、熱拡散による熱振幅Aの減衰や、熱位相Φの様子を定量的情報として得ることができるので、機構を単純化させることができる。
【0090】
(第3の実施の形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係る半導体検査装置1Cの構成を示す図である。半導体検査装置1Cは、上述した第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様に、シリコン基板17a(図2を参照)を透過する波長の光をDUT17に照射し、この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等を検知して、発熱箇所を特定する。
【0091】
本実施形態の半導体検査装置1Cでは、シリコン基板17aの上面(光入射面)からの反射光と、下面(回路層17bとの界面)からの反射光とを相互に干渉させることによって、同軸の光路を有する干渉計を実現している。
【0092】
具体的には、半導体検査装置1Cは、図15に示すように、第1実施形態と同様の機能を有するIRカメラ19、フレームメモリ20、及び演算部21を備える。また、半導体検査装置1Cは、照明光源61、レーザ光源62、ビームスプリッタ63〜65、対物レンズ66、可動ミラー67、ミラー68、光路長補正部材69及び70、フォトダイオード71、結像レンズ72、並びにフィルタ73を備える。これらの光学部材のうち、ビームスプリッタ63〜65、対物レンズ66、可動ミラー67、固定ミラー68、光路長補正部材69及び70、フォトダイオード71、結像レンズ72、並びにフィルタ73は、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成するための本実施形態における干渉光学系を構成する。
【0093】
照明光源61から出力された光束L21は、DUT17のシリコン基板17aを透過する波長を含む。光束L21は、ビームスプリッタ63によって反射され、対物レンズ66を通過してDUT17に達する。DUT17に達した光束L21の一部はシリコン基板17a(図2を参照)において反射され、他の一部はシリコン基板17aと回路層17bとの境界面において反射される。そして、これらの反射光を含む光束L22が、対物レンズ66及びビームスプリッタ63を通過してビームスプリッタ64に達する。
【0094】
ビームスプリッタ64では、光束L22が二つの光束L23,L24に分岐される。一方の光束L23は、可動ミラー67において反射したのち光路長補正部材69を透過する。他方の光束L24は、光路長補正部材70を透過したのちミラー68において反射する。これらの光学部材(可動ミラー67、ミラー68、光路長補正部材69及び70)は、シリコン基板17aの上面からの反射光と下面からの反射光との光路差を調整して好適に干渉させるための光学的遅延回路を構成している。光束L23及びL24はビームスプリッタ65において再び合波され、結像レンズ72及びフィルタ73を通過してIRカメラ19へ入射する。
【0095】
また、レーザ光源62から出射されたレーザ光L25は、ビームスプリッタ64へ入射する。レーザ光L25は、ビームスプリッタ64によって二つのレーザ光L26,L27に分岐される。一方のレーザ光L26は、光束L23と同じ光軸でもってビームスプリッタ65に達する。他方のレーザ光L27は、光束L24と同じ光軸でもってビームスプリッタ65に達する。レーザ光L26及びL27はビームスプリッタ65において合波され、フォトダイオード71によってその光強度が検出される。フォトダイオード71における検出信号は、光学的遅延回路内の位相ノイズをキャンセルするために、圧電素子68aへフィードバックされる。なお、ミラー68は、ミラー68に固定された圧電素子68aによって、ビームスプリッタ64からビームスプリッタ65へ向かう2つの光L26,L27の光路長の差が一定に保持されるように駆動される。
【0096】
なお、本実施形態においても、IRカメラ19、フレームメモリ20、及び演算部21の構成および機能は第1実施形態と同様である。
【0097】
本発明に係る半導体検査装置は、半導体検査装置1Cのような光学系を有してもよく、第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様の作用効果を奏することができる。すなわち、半導体検査装置1Cによれば、測定時間を短くでき、また、参照ミラーを変調するための機構が不要になり、装置構成を簡易にできる。
【0098】
また、半導体検査装置1Cによれば、光干渉像から光位相φを定量することなく、熱拡散による熱振幅Aの減衰や、熱位相Φの様子を定量的情報として得ることができるので、機構を単純化させることができる。
【0099】
本発明による半導体検査装置は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではDUTが有する基板としてシリコン基板を例示したが、本発明による半導体検査装置は、これに限らず種々の材料からなる基板を有するDUTを検査できる。
【0100】
また、本発明による半導体検査装置は、視野を移動させながら複数回の撮像を行うための機構を更に備えてもよい。この場合、演算手段(演算部21)は、複数回の撮像により得られた複数の撮像データを相互に繋ぎ合わせて演算を行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0101】
1A,1B,1C…半導体検査装置、11…低コヒーレンス光源、12a,12b,12c,18,27…レンズ、13…ビームスプリッタ、14,16,29,66…対物レンズ、15…ミラー、17…被検査デバイス(DUT)、17a…シリコン基板、17b…回路層、17c…樹脂モールド、19…カメラ、20…フレームメモリ、21…演算部、22…ストレス印加装置、23…ペルチェ素子、24…温度制御コントローラ、25…ハロゲン光源、26,73…フィルタ、28…ハーフミラー、32…光源、33,34…ダイクロイックミラー、36…圧電素子、37…変調器、38,71…フォトダイオード、39…乗算器、40…フィードバック回路、54…基準信号発生装置、55…分周器、61…照明光源、62…レーザ光源、63〜65…ビームスプリッタ、67…可動ミラー、68…固定ミラー、68a…圧電素子、69,70…光路長補正部材、72…結像レンズ、Vs…ストレス電圧。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体検査装置には、被検査デバイス(DUT:Device Under Test)における数マイクロメートルやサブミクロンといった極めて小さな異常発生箇所を短時間で特定することが求められる。DUTの異常発生箇所を特定する一つの方法として、サーマルロックイン計測法がある。この方法では、DUTの異常に伴う電流集中による発熱から生じる輻射熱を、赤外線カメラ(例えばInSbカメラなど)によって撮影する。しかし、このような輻射熱の波長は3.5[μm]〜5.2[μm]と長く、近年の半導体デバイスの微細化に伴って高い空間解像度が要求されるなか、サーマルロックイン計測法の空間解像度は輻射熱の波長の半分程度(1[μm]〜2[μm])に抑えられてしまう。
【0003】
一方、基板の材料(例えばシリコン)を透過する波長の光(例えば波長1.3[μm]の光)をDUTに照射すると、異常発生箇所の発熱に伴う基板の膨張や屈折率変化等といった光学的距離の変化により、異常発生箇所からの反射光は正常箇所からの反射光に対し位相遅れを生じる。この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱箇所(異常発生箇所)の特定だけでなく、その現象をリアルタイムで観察できる。
【0004】
しかし、基板における光学的距離の変化を光干渉計を用いて計測する方式では、光干渉計における参照光及びサンプル光の位相差と、DUTに印加される電圧波形に対する熱膨張波形の位相遅れとが混信することが問題となる。この混信を回避する方法として、非特許文献1では、0次元計測(ポイントセンシング)において参照光及びサンプル光の光路長差または電気信号の位相を予め調節して、光位相差をゼロまたはπ/2とする方式を採用している。
【0005】
また、DUTの異常発生箇所を特定するためには、DUTをワンポイントではなく二次元的に検査する必要がある。非特許文献2では、非特許文献1に示されたワンポイントセンシングの機構において、DUTをXYステージ上に載置し、二次元的に光を走査する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献1には、光エネルギーが熱エネルギーに変換される光熱変位効果を利用して、正弦波状に強度変調された光をDUTの測定しようとする箇所に照射して当該箇所の温度を上昇させ、そのときの熱膨張波形の振幅及び位相を、光干渉計にて同期検波して求める方法が述べられている。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法は、マイケルソン型干渉顕微鏡を用い、10ナノ秒ないし500ナノ秒、或いはそれ以上の長いストレスパルスをDUTに与え、ストレスパルス印加時及びストレスパルス印加後といった二つの異なる状態での干渉像を取得し、差分画像を作成することで、発熱箇所を特定しようとするものである。
【0008】
また、非特許文献3に記載された方法は、特許文献2に記載された方法を改良したものであり、音響光学素子(AOM:Acoustic-Optical Modulator)を用いて光をパルス状に変調し、光位相を近似にて推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3203936号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0036151号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.Goldstein, “Heterodyn interferometer for the detection of electricand thermal signals in integrated circuits through the substrate”, Review ofScientific Instruments, American Institute of Physics, 64(10), pp.3009-3013(1993)
【非特許文献2】C. Furbock, “Thermal and free carrier concentration mapping during ESDevent in Smart Power ESD protection devices using an inproved laserinterferometric technique”, Microelectronics Reliability, elsevier, 40,pp.1365-1370 (2000)
【非特許文献3】V.Dubec, “Backside interferometric methods for localization ofESD-induced leakage current and metal shorts”, Microelectronics Reliability,elsevier, 47, pp.1549-1554 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献1に記載された方法はワンポイントセンシングに限られ、半導体デバイスの異常検出といった或る領域内での二次元計測には適用し難い。非特許文献2に記載された方式を用いれば非特許文献1に記載された方法を二次元計測に応用できるが、光位相φを0またはπ/2に保持する為に、DUT自身をXYステージに乗せ走査するため測定時間が長くなり、装置構成も複雑になってしまう。また、照射光を走査する方法としてガルバノミラー等の走査機構を設ける方法が考えられるが、光干渉計における参照光及びサンプル光の位相差と、DUTに印加される電圧波形に対する熱膨張波形の位相遅れとの混信を防ぐために、予め、全ての測定領域における位相差を予め測定しておくか、或いは所定の値に調整しておく必要がある。したがって、半導体デバイスの異常検出に手間と時間とを要してしまう。
【0012】
また、特許文献1には、正弦波状に強度変調された光をDUTに照射し、DUTにおける熱膨張もこの光と等しい周波数にて正弦波変調されるので、ロックインアンプを用いて上記周波数にて同期検波することにより、干渉像から熱膨張波形の振幅Aと位相遅れΦを直接計測できることが開示されている。しかし、DUTへの照射光に加えて励起光を必要とするため、構造が複雑となる。また、試料の光学的距離変化と比べ、温度に対する感度が小さい熱伝導率及び線膨張係数の温度変化を熱膨張変位量として検出しているため、検出される温度変化の精度が±10℃とあまり高くなく、半導体デバイスの異常箇所を特定することは難しいと考えられる。
【0013】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、高い空間解像度を有しており、検査に要する時間を短くでき、且つ簡易な構成によって半導体デバイスの異常箇所を特定可能な半導体検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するために、本発明による半導体検査装置は、基板を有する被検査デバイスの異常発生箇所を特定するための半導体検査装置であって、被検査デバイスの端子電極にストレス電圧を印加するストレス印加手段と、基板を透過する波長の光を発生する光源と、光源から提供された光を基板に照射し、基板を透過した光に関する干渉像を生成する干渉光学系と、干渉像を撮像して撮像データを生成する撮像手段と、撮像データに基づいて、異常発生箇所としての被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報を演算する演算手段とを備える。この半導体検査装置は、ストレス電圧の時間波形が、一定周期の繰り返し波形であって、被検査デバイスの発熱による基板内部の光学的距離の時間変化を正弦波状とする時間波形であることを特徴とする。
【0015】
また、半導体検査装置は、演算手段が、干渉像に含まれる基板を透過した光の位相遅れの分布を、被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報として算出することを特徴としてもよい。
【0016】
また、半導体検査装置は、ストレス電圧の時間波形が正弦波状であることを特徴としてもよい。
【0017】
また、半導体検査装置は、ストレス電圧の時間波形が、一定周期の基本波に高調波が重畳された波形であることを特徴としてもよい。この場合、ストレス電圧の時間波形は、一定周期で繰り返される矩形波であってもよい。
【0018】
また、半導体検査装置は、被検査デバイスの端子電極が電源端子であることを特徴としてもよい。この場合、ストレス印加手段は、被検査デバイスの信号端子に通常動作時の信号を入力してもよい。
【0019】
また、半導体検査装置は、被検査デバイスの端子電極が信号端子であることを特徴としてもよい。この場合、ストレス印加手段は、被検査デバイスの電源端子に通常動作時の電源電圧を供給してもよい。
【0020】
また、半導体検査装置は、視野を移動させながら複数回の撮像を行うための機構を更に備え、演算手段は、複数回の撮像により得られた複数の撮像データを相互に繋ぎ合わせて演算を行うことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い空間解像度を有しており、検査に要する時間を短縮でき、簡易な構成によって半導体デバイスの異常箇所を特定可能な半導体検査装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体検査装置1Aの構成を示す図である。
【図2】半導体検査装置1Aの被検査デバイス(DUT)17付近の構造を拡大して示す断面図である。
【図3】半導体検査装置1AがDUT17の微細な発熱箇所を検知する際の原理を説明するための図である。
【図4】ビームスプリッタBS、ミラーM、およびカメラCからなる干渉計を示す図である。
【図5】図4のカメラCにおける撮像データの一例である。
【図6】シリコン厚さdが400[μm]である場合における、発熱点直下での熱周波数応答曲線である。
【図7】基準信号SP1(図7(a))、IRカメラ19のトリガ信号(図7(b))、ストレス印加装置22のトリガ信号(図7(c))、およびシリコン基板17aの熱膨張波形(図7(d))の関係を示すタイミングチャートである。
【図8】基本波のフーリエ係数a1の分布の例を示す図であり、式(7)の演算結果を示している。
【図9】基本波のフーリエ係数b1の分布の例を示す図であり、式(8)の演算結果を示している。
【図10】(a)フーリエ係数a1,b1から算出された熱位相Φの分布の例を示す図であり、式(9)の演算結果を示している。(b)(a)の一部を拡大した図である。
【図11】図8、図9、および図10に示した実施例において、式(14)によって求めた熱振幅Aの分布の例を示す図である。
【図12】従来のワンポイント計測法(光ヘテロダイン干渉法)や位相シフト法を用いた半導体検査装置100の構成例を示すブロック図である。
【図13】半導体検査装置1Aの構成を簡略的に示すブロック図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る半導体検査装置1Bの構成を示す図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る半導体検査装置1Cの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体検査装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体検査装置1Aの構成を示す図である。また、図2は、半導体検査装置1AのDUT17付近の構造を拡大して示す断面図である。本実施形態の半導体検査装置1Aは、検査対象であるDUT17の微細な発熱箇所を検知することにより、DUT17の異常発生箇所を特定するための装置である。
【0025】
DUT17は、図2に示すように、シリコン基板17aと、シリコン基板17aの下面に設けられた回路層17bと、シリコン基板17a及び回路層17bを覆う樹脂モールド17cとを備える。本来、シリコン基板17a及び回路層17bは樹脂モールド17cによって完全に覆われているが、このDUT17では、検査のためシリコン基板17aの上面が露出するように樹脂モールド17cの一部が除去されている。尚、回路層17bは、半導体回路が形成されていてシリコン基板17aに温度変化を与えるものである。
【0026】
ここで、図3は、半導体検査装置1AがDUT17の微細な発熱箇所を検知する際の原理を説明するための図である。図3(a)に示すように、DUT17のシリコン基板17aの光学的厚さは、基板厚さをL、屈折率nを用いてnLと表される。なお、シリコンの屈折率nは3.5である。このシリコン基板17aの温度がT[K]上昇した場合、図3(b)に示すように、シリコン基板17aの光学的厚さは(nL+ΔnTL+αLTn)に変化する。Δnは温度変化に対する屈折率変化係数であり、シリコンの場合5×10−5[K−1]である。αは温度変化による線膨張率であり、シリコンの場合3.5×10−6[K−1]である。
【0027】
そこで、シリコン基板17aを透過する波長の光(例えば波長1.3[μm]の光)をDUT17に照射すると、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等により、発熱箇所からの反射光は正常箇所または発熱現象が起こる前の状態からの反射光に対し位相遅れを生じる。したがって、図4に示すように、ビームスプリッタBS、ミラーM、およびカメラCからなる干渉計を構成し、シリコン基板17aを透過する波長の光Laをこの干渉計に入射すると、この位相遅れに起因する干渉縞変化を観察することができる。図5はカメラCにおける撮像データの一例であり、干渉縞の位相が本来の位相(図中のラインPH1)から部分的に遅れていることがわかる(図中のラインPH2)。なお、シリコン基板17aの厚さが400[μm]である場合、温度変化1[K]あたりのシリコン基板17a光学的厚さの変化量は75[nm/K]であり、したがって、反射光同士の干渉を計測する図4に示す干渉計では、往復光路分の150[nm/K]となる。光の波長が1.3[μm]である場合、干渉縞の明から明の間隔の1/9、すなわち40°の位相遅れを生じる。
【0028】
半導体検査装置1Aは、シリコン基板17aを透過する波長の光をDUT17に照射し、この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等を検知して、発熱箇所を特定する。
【0029】
上述した発熱箇所の検知を正確に行う為に、本実施形態の半導体検査装置1Aは、マイケルソン干渉計において分岐された二つの光路の双方に対物レンズを配置した、リニック(Linnik)型干渉計を基本にした装置構成となっている。図1に示すように、半導体検査装置1Aは、低コヒーレンス光源11、レンズ12a及び12b、ビームスプリッタ13、対物レンズ14、ミラー15、対物レンズ16、IRカメラ19、及びフレームメモリ20を備える。
【0030】
低コヒーレンス光源11は、いわゆるスーパールミネッセンス・ダイオード(SLD)を含んで構成されており、DUT17のシリコン基板17aを透過する波長を含む光、例えば中心波長1.3[μm]、波長幅20[nm]の光束L1を出力する。低コヒーレンス光源11としては、例えばファイバーラボ(FiberLab)社製型番SLD−131−04(中心波長1.3[μm]、波長半値幅20[nm]、最大パワー4[mW])といったファイバ出力タイプの光源を使用することができる。光源としてSLDを使用する理由は、その可干渉距離を利用して、シリコン基板17aの上面からの反射光と、シリコン基板17aの内部を通って下面において反射した光とを好適に区別することができるからである。
【0031】
レンズ12a及び12b、ビームスプリッタ13、対物レンズ14、ミラー15、及び対物レンズ16は、低コヒーレンス光源11から提供された光束L1をシリコン基板17aに照射し、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成するための干渉光学系を構成する。
【0032】
レンズ12aは、低コヒーレンス光源11と光学的に結合されており、低コヒーレンス光源11の光ファイバ出力端から出射された光束L1をコリメートする。レンズ12bは、レンズ12aを通過した光束L1を集光する。ビームスプリッタ13は、レンズ12a及び12bを介して低コヒーレンス光源11と光学的に結合されており、レンズ12a,12bを通過した光束L1を二つの光束L2(参照光)及びL3(サンプル光)に分岐する。対物レンズ14は、ビームスプリッタ13の一方の反射面とミラー15との間に配置されており、ビームスプリッタ13から分岐された一方の光束L2(参照光)の焦点をミラー15の表面に合わせる。対物レンズ14の拡大倍率は、例えば5倍である。ミラー15は、光束L2(参照光)を反射して再びビームスプリッタ13へ戻す。
【0033】
対物レンズ16は、ビームスプリッタ13の他方の反射面とDUT17との間に配置されており、ビームスプリッタ13から分岐された他方の光束L3(サンプル光)の焦点をDUT17のシリコン基板17aと回路層17bとの界面に合わせる。対物レンズ16の拡大倍率は例えば5倍であり、対物レンズ14の拡大倍率と等しい。DUT17に達した光束L3は、シリコン基板17aを透過し、シリコン基板17aと回路層17bとの界面にて反射したのち、再びビームスプリッタ13へ戻り、光束L2の戻り光と合波されて干渉像を構成する。
【0034】
IRカメラ19は、本実施形態における撮像手段であり、低コヒーレンス光源11の出力波長である1.3[μm]付近の波長域に感度を有する撮像素子を内蔵している。IRカメラ19は、レンズ18を介してビームスプリッタ13と光学的に結合されており、光束L2の戻り光と光束L3の戻り光とが合波されてなる合波光L4を撮像する。レンズ18は、IRカメラ19の撮像素子面に合波光L4(干渉像)を結像する。すなわち、レンズ18は、光束L3の戻り光に含まれる回路層17bのパターン像と、光束L2の戻り光に含まれるミラー15の像とを、IRカメラ19の撮像素子面に結像する。これにより、必然的に、回路層17bにおいて反射された光束L3(サンプル光)と、ミラー15において反射された光束L2(参照光)とにより形成される、合波光L4(干渉像)の干渉縞のコントラストが最大となる。
【0035】
フレームメモリ20は、IRカメラ19によって撮影された合波光L4(干渉像)の撮像データを記憶する。演算部21は、本実施形態における演算手段である。演算部21は、フレームメモリ20に蓄えられた撮像データに基づいて所定の解析演算を行い、DUT17の発熱箇所(すなわち異常発生箇所)を特定するための情報を出力する。演算部21は、例えばCPU及びメモリ等を含んで構成される情報処理装置により実現される。
【0036】
また、半導体検査装置1Aは、ストレス印加装置22と、ペルチェ素子23と、温度制御コントローラ24とを更に備える。ストレス印加装置22は、DUT17に対してストレスを印加するためのストレス印加手段であり、具体的には、DUT17の端子電極(電源端子または信号端子)に所定のストレス電圧Vsを印加することにより、DUT17の回路層17bに電流を流す。なお、DUT17の電源端子にストレス電圧Vsを印加する場合、ストレス印加装置22は、信号端子に通常動作時の信号を入力することが好ましい。また、DUT17の信号端子にストレス電圧Vsを印加する場合、ストレス印加装置22は、電源端子に通常動作時の電源電圧を入力することが好ましい。
【0037】
ストレス電圧Vsは、一定周期の繰り返し波形であって、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の時間変化を、正弦波状のなめらかな変化とするような時間波形を有する。ストレス電圧Vsは、例えば周期的な正弦波状の時間波形となる電圧波形を有する。或いは、ストレス電圧Vsは、一定周期の基本波に高調波が重畳された波形、典型的には周期的な矩形波状の時間波形となる電圧波形を有しても良い。一実施例では、DUT17の正常動作電圧が5[V]である場合、ストレス電圧Vsの電圧波形は、5[V]のオン電圧及び0[V]のオフ電圧を一定周期で繰り返す波形であり、デューティ比は例えば50%である。DUT17では、このようなストレス電圧Vsの印加によって、断線といった異常発生箇所ではストレス電圧Vsの電力P(=Vs2/R、Rは異常発生箇所の抵抗値)に比例する熱が発生し、当該箇所のシリコン基板17aが膨張する。
【0038】
また、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数は、次のように決定される。シリコン基板17aを厚さ方向に光が透過する場合、その光学的距離はシリコンの熱膨張により変化する。また、シリコンの熱膨張反応は、断線等の異常発生箇所からの発熱に対して或る時定数をもって生じる。すなわち、ストレス電圧Vsの繰り返し周期がシリコン基板17a側の熱膨張反応の応答速度に対して比較的短い場合、シリコン基板17a内の光学的距離の変化は、ストレス電圧Vsの変化に遅れて追従すると共に、その熱振幅も減衰することとなる。したがって、ストレス電圧Vsの繰り返し周期が適切に決定された場合、シリコン基板17a内の光学的距離の変化が、基本周波数のみを含む時間関数(すなわち正弦波)となる。本実施形態において、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数は、このようにシリコン基板17a内の光学的距離の変化が正弦波状の時間関数となるように決定される。
【0039】
ストレス印加装置22によって一定周期のストレス電圧Vsが印加されると、DUT17全体に熱が蓄積される。ペルチェ素子23は、その一方の面(吸熱面)上にDUT17を載置しており、他方の面(放熱面)が放熱部材(不図示)と接している。ペルチェ素子23は、DUT17に蓄積された熱を吸熱面から吸収し、放熱面から放出する。温度制御コントローラ24は、ペルチェ素子23に駆動電流Idを与える電気回路であり、DUT17が一定温度になるように駆動電流Idを生成する。ペルチェ素子23及び温度制御コントローラ24は、DUT17の熱的な平衡状態を短時間で実現する。なお、DUT17の設定温度は、例えば25℃である。
【0040】
ここで、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数の決定方法について更に説明する。シリコン基板17aを構成するシリコンの熱伝導率κ、比熱cおよび密度ρから、シリコン基板17aの熱抵抗Rhおよび熱容量Chは次式(1)および(2)によって算出される。
【数1】
【数2】
【0041】
こうして求められるシリコン基板17aの熱抵抗Rhおよび熱容量Chから、熱入力に対するシリコン基板17aの膨張反応の時定数τ(=Ch・Rh)を求めると、
【数3】
となる。ここで、d[cm]はシリコンの厚みである。よって熱的なカットオフ周波数fcは、次式(4)で与えられる。
【数4】
【0042】
ここで、dは熱拡散長とも呼ばれ、DUT17のシリコン基板17aの厚さに相当する。熱的なカットオフ周波数fcは、例えばシリコン厚さdが400[μm]である場合、上式(4)により約180[Hz]となる。なお、図6は、シリコン厚さdが400[μm]である場合における、発熱点直下での熱周波数応答曲線である。ここで、矩形波状のストレス電圧VsをDUT17に入力した場合を考える。ストレス電圧Vsの矩形波には、基本波(周波数Ω)の他に、基本周波数Ωの奇数倍の周波数(3Ω、5Ω、7Ω、・・・)を有する高調波成分が含まれるので、例えば基本波の周波数Ωを180[Hz]に設定すれば、3倍波(3Ω=540[Hz])の成分の熱振幅は、基本波の熱振幅の約3分の1にまで減衰する。ストレス電圧Vsの矩形波に含まれる3倍波の割合が基本波の3分の1であることを加味すれば、3倍波成分の熱振幅の大きさは、基本波の振幅の9分の1である約11%となる。このように、ストレス電圧Vsとして高調波を含む波形(例えば矩形波)を入力した場合であっても、シリコン基板17aにおける熱的な周波数応答によって、基本波より周波数が高い成分(高調波成分)は大きく減衰を受ける。その結果、シリコン基板17aの光学的厚さは、基本波の周波数Ωと同じ周波数を有する正弦波形でもって変調される。
【0043】
同様に与えるストレス電圧Vsを正弦波としてDUT17に入力した場合を考える。ストレス電圧Vsの正弦波を端子電極に加えると熱抵抗によりその2乗にて熱が発生する。すなわちVsを式(4a)とした場合、
【数5】
熱源での発熱量は式(4b)で表せる。すなわち基本波Ωに加えてその2倍波の周波数成分がDUT17に熱として拡散する。
【数6】
この場合、基本波と2倍波の比はm/4となる。たとえば変調度mを0.25にとれば、2倍波は基本波の熱振幅の16分の1にまで減衰する。このように、ストレス電圧Vsとして正弦波を入力した場合であっても、シリコン基板17aにおける熱的な周波数応答によって、2倍波は大きく減衰を受ける。その結果、シリコン基板17aの光学的厚さは、基本波の周波数Ωと同じ周波数を有する正弦波形でもって変調される。
【0044】
厳密には、シリコン基板17aの厚さdはDUT17の内部構造などに依存するので、上述した理論的な熱的カットオフ周波数fcを得ることはできない。本発明者が実測したところ、ストレス電圧Vsの繰り返し周波数を数ヘルツないし数十ヘルツ程度とすることにより、シリコン基板17a内の光学的距離の変化が正弦波状の時間関数となる良好な結果が得られている。
【0045】
なお、以下の表1は、シリコンの熱伝導率κ、比熱c、および密度ρといった物性値を示している。
【表1】
【0046】
そして、上述したような繰り返し周波数を有するストレス電圧VsをDUT17に印加することによって、IRカメラ19に入射する合波光L4(干渉像)は、以下の式(5)に示される干渉強度I(t,x,y)を有することとなる。なお、式(5)において、Irは光束L2(参照光)の光強度、Isは光束L3(サンプル光)の光強度、φは光位相差、mは変調度、Ωはストレス電圧Vsの基本周波数、Φはストレス電圧Vsの初期位相である。
【数7】
【0047】
また、ストレス電圧Vsは、以下の式(6)で表される正弦波の平方根といった電圧波形を有していてもよい。但し、V0は任意の係数である。
【数8】
ストレス電圧Vsの電力エネルギー(すなわち発熱量)がVsの2乗に比例することから、上式(6)で表されるストレス電圧VsをDUT17に印加することによって、異常発生箇所では{1+sin(Ωt)}に比例した熱が発生することとなる。したがって、式(5)に示したような干渉像、すなわち光学距離が正弦波状に変調された干渉像を好適に得ることができる。
【0048】
なお、IRカメラ19は、DUT17に印加されるストレス電圧Vsの基本周波数Ωに対応する周期(2π/Ω)内に少なくとも2回の撮像を行うことが好ましい。
【0049】
半導体検査装置1Aは、干渉計の位相ノイズを低減するためのフィードバック機構を更に備えることが好ましい。本実施形態の半導体検査装置1Aは、このようなフィードバック機構として、光源32、ダイクロイックミラー33及び34、圧電素子36、変調器37、フォトダイオード38、乗算器39、およびフィードバック回路40を備える。
【0050】
光源32は、光束L1とは波長が異なる光束L5を出力する。光束L5の波長は、DUT17のシリコン基板17aを透過しない波長であり、シリコン基板17aの上面(露出面)と空気との界面で反射する波長(例えば633[nm])である。光源32から出力された光束L5は、レンズ12cによってコリメートされる。
【0051】
ダイクロイックミラー33は、光源32から出射された光束L5と、低コヒーレンス光源11から出射された光束L1とを同軸上で合波するための光学部品である。本実施形態のダイクロイックミラー33は、光束L1を含む波長域の光を透過し、光束L5を含む波長域の光を反射する。このダイクロイックミラー33は、レンズ12aから一方の面に入射した光束L1をレンズ12bへ向けて透過し、レンズ12cから他方の面に入射した光束L5を、光束L1と同じ光軸でもってレンズ12bへ向けて反射する。光束L5は、光束L1とともにビームスプリッタ13に入射し、光束L1と同様に、2本の光束L6及びL7に分岐される。光束L6は、光束L2(参照光)とともに対物レンズ14を通過してミラー15に到達し、ミラー15において反射する。光束L7は、光束L3(サンプル光)とともに対物レンズ16を通過してDUT17に到達し、シリコン基板17aの上面(露出面)で反射する。
【0052】
これら光束L6及びL7の各反射光は、ビームスプリッタ13において合波され、合波光L8となってレンズ18を通過する。ここで、ダイクロイックミラー34がレンズ18とIRカメラ19との間に設けられている。ダイクロイックミラー34は、合波光L4とは波長が異なる合波光L8を合波光L4から分離するための光学部品である。本実施形態のダイクロイックミラー34は、合波光L4を含む波長域の光を透過し、合波光L8を含む波長域の光を反射する。このダイクロイックミラー34は、レンズ18から一方の面に入射した合波光L4をIRカメラ19へ向けて透過し、同じくレンズ18から一方の面に入射した合波光L8を、該一方の面に光結合されたフォトダイオード38の受光面へ向けて反射する。
【0053】
フォトダイオード38では、合波光L8の光強度に応じた電気信号S1が生成される。電気信号S1は、フォトダイオード38から乗算器39へ送られる。また、乗算器39には、変調器37から出力された正弦波状の電気信号(周波数ω)S2が更に入力される。乗算器39は、電気信号S1,S2が乗算されて成る電気信号S3をフィードバック回路40へ提供する。
【0054】
フィードバック回路40は、ミラー15に固定された圧電素子36を駆動するための回路である。フィードバック回路40は、乗算器39から提供された電気信号S3と、変調器37から提供された電気信号S2とに基づいて、ビームスプリッタ13とシリコン基板17aの上面(露出面)との距離Lsと、ビームスプリッタ13とミラー15との距離Lrとの差(Ls−Lr)が一定に保持されるように、圧電素子36を駆動する。
【0055】
なお、干渉計の位相ノイズを低減するフィードバック方式については、上述したものに限られず、他の様々な方式を適用できる。
【0056】
続いて、IRカメラ19における撮影タイミングと、ストレス電圧Vsとの関係について説明する。本実施形態の半導体検査装置1Aは、IRカメラ19における撮影タイミングと、ストレス電圧Vsの位相とを適切に調整する為に、基準信号発生装置54および分周器55を更に備える。
【0057】
基準信号発生装置54は、周期的なパルス信号である基準信号SP1を発生する装置である。基準信号SP1は、IRカメラ19の撮影タイミングを示すトリガ信号の基準としてIRカメラ19へ提供されるとともに、分周器55にも提供される。分周器55は、基準信号SP1を少なくとも2分周以上に分周する。分周された信号SP2は、分周器55からストレス印加装置22へ提供される。ストレス印加装置22は、信号SP2の周波数を基本周波数Ωとして、ストレス電圧Vsを生成する。
【0058】
図7(a)〜図7(d)は、基準信号SP1(図7(a))、IRカメラ19のトリガ信号(図7(b))、ストレス印加装置22のトリガ信号(すなわち信号SP2、図7(c))、およびシリコン基板17aの熱膨張波形(図7(d))の関係を示すタイミングチャートである。なお、IRカメラ19のトリガ信号は、IRカメラ19の露光タイミングおよび露光時間の双方を示している。IRカメラ19の露光時間は、合波光L4(干渉像)の変調を損ねない程度の時間に設定されることが好ましい。
【0059】
基準信号SP1に示されるタイミングでIRカメラ19により撮影・生成された撮像データは、フレームメモリ20に蓄積される。演算部21は、この撮像データを取り出し、以下に述べる方法により解析して、異常発生箇所を特定するための情報としての熱膨張波形の位相遅れ(以下、熱位相という)および熱膨張波形の振幅(以下、熱振幅という)を算出する。
【0060】
演算部21では、上式(5)に示した干渉光強度I(t,x,y)が、IRカメラ19の各画素毎に時系列データとして得られる。演算部21は、各画素の時系列データに対して、以下の式(7)及び(8)に示されるフーリエ分析を行うことにより、基本波(周波数Ω)に対するフーリエ係数a1及びb1を算出する。記号Aは式(5)中の2√(IsIr)を表す。J1(m)は変調度mに対する1次の第1種ベッセル関数である。
【数9】
【数10】
【0061】
そして、演算部21は、各画素における熱位相Φを、上記基本波のフーリエ係数a1及びb1を用いて以下の式(9)により求める。
【数11】
【0062】
図8は、基本波のフーリエ係数a1の分布の例を示す図であり、上式(7)の演算結果を示している。また、図9は、基本波のフーリエ係数b1の分布の例を示す図であり、上式(8)の演算結果を示している。また、図10(a)は、これらのフーリエ係数a1,b1から算出された熱位相Φの分布の例であり、図10(b)は図10(a)の一部を拡大した図である。図10(a)及び図10(b)は、上式(9)の演算結果を示している。なお、図8、図9、および図10において、縦軸および横軸はそれぞれ縦方向および横方向の画素番号を示しており、全視野の実寸法は3[mm]×2.5[mm]である。また、図10において、熱位相Φの単位はラジアンである。
【0063】
図8、図9、および図10に示す実施例では、シリコン基板17aの厚さが400[μm]であるDUT17の電源電圧端子に、ストレス電圧Vsとしてオン電圧5[V]、オフ電圧0[V]、デューティ比50%の矩形波を印加した。また、対物レンズ14,16として拡大倍率が5倍のものを使用した。
【0064】
図10(a)を参照すると、画像の中心から右上の領域に、熱位相Φが比較的小さい領域が存在している。すなわち、この領域において発熱が生じていることを示しており、この領域をDUT17における異常発生箇所と特定することができる。なお、図10(b)はこの領域を拡大して示しており、熱位相Φの表示範囲を狭めてコントラストを高めている。演算部21は、このような熱位相Φの分布データ又は分布画像を、DUT17の発熱箇所を特定するための情報として算出し、出力する。
【0065】
熱位相Φは、次に示す関係式(10)により時間に変換できる。
【数12】
また、一周期(2π/Ω)内にサンプリング数(すなわちIRカメラ19の撮像回数)が4以上であれば、2倍波に相当するフーリエ係数a2及びb2を、式(11)及び(12)に従い求めることができる。
【数13】
【数14】
【0066】
撮像データの各画素における熱位相Φは、式(11)及び(12)によって求められた2倍波のフーリエ係数a2及びb2を用いて、次の式(13)のように表される。
【数15】
【0067】
演算部21は、各画素における熱振幅Aを、基本波のフーリエ係数a1及びb1、並びに2倍波のフーリエ係数a2及びb2に基づいて、次の式(14)によって求める。
【数16】
ここで、式(14)におけるJ1およびJ2は、変調度mに対する第1種ベッセル関数である。実用上、J2はJ1の10分の1程度であるため、2倍波でのS/Nが低い場合には、光の位相を90度ずらして同様の計測を行い、位相差ゼロでの基本波のフーリエ係数a1(0),b1(0)と、位相差90°での基本波のフーリエ係数a1(π/2),b2(π/2)とを用いて熱位相Φを求めてもよい。
【0068】
図11は、図8、図9、および図10に示した実施例において、式(14)によって求めた熱振幅Aの分布の例を示す図である。なお、図11において、縦軸および横軸はそれぞれ縦方向および横方向の画素番号を示しており、全視野の実寸法は3[mm]×2.5[mm]である。また、図11において、熱振幅Aの単位は任意単位である。図11では、段落[0067]に記載の2倍波でのS/Nが低い場合の方法は使用していない。
【0069】
図11を参照すると、発熱箇所(図中の点P)から遠い画素ほど、熱振幅Aが小さくなることがわかる。これは、図6に示したシリコンの熱周波数特性に起因する。したがって、熱振幅Aが大きい箇所を、DUT17における異常発生箇所と特定することができる。この実施例では、図11に示す熱振幅Aの画像により特定された異常発生箇所は、図10(a)に示した熱位相Φの画像により特定された異常発生箇所と一致した。
【0070】
なお、S/Nが十分に確保される場合、式(5)から示唆されるように、高調波成分を多数含むため、高調波周波数mΩおよびnΩに対して、撮像データの各画素における熱位相Φおよび熱振幅Aは、以下の式(15)及び(16)によっても表される。ただし、式(15),(16)においてi,jは整数である。
【数17】
【数18】
また、次数iとjのベッセル関数の比(Jj/Ji)は、下記の式(17)によって算出される。
【数19】
【0071】
以上に説明した、本実施形態による半導体検査装置1Aが奏する作用効果について説明する。
【0072】
前述したように、基板の材料(例えばシリコン)を透過する波長の光をDUTに照射すると、異常発生箇所の発熱に伴う基板の膨張や屈折率変化等により、異常発生箇所からの反射光は正常箇所からの反射光に対し位相遅れφを生じる。この位相遅れφを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱箇所(異常発生箇所)の特定だけでなく、その現象をリアルタイムで観察できる。しかしながら、DUTの数百ミリメートル四方の領域から数マイクロメートルの異常発生箇所を特定する場合(面積換算では6桁落ち程度)、必ずしも異常発生に関わる現象をリアルタイムで観察する必要はない。
【0073】
そこで、本実施形態の半導体検査装置1Aでは、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の変化が正弦波状となるように一定周期のストレス電圧Vsを印加しておき、シリコン基板17aを透過した光の位相の変化に伴う干渉光強度を観察して、シリコン基板17a内部の光学的距離の変化の位相遅れおよび減衰を検出することにより、DUT17の異常発生箇所を特定している。これにより、従来のサーマルロックイン計測法と比較して、空間分解能を向上することができる。
【0074】
更に詳しく説明すると、従来のサーマルロックイン計測法では、矩形波等の時間波形を有するストレス電圧をDUTに印加し、異常発生箇所からの発熱に伴う輻射熱をInSbカメラで撮影する。その際、ストレス電圧の周波数の少なくとも2倍以上の周波数でもって撮影を行う。その後、時系列データとして取得された撮像データの各画素に対してフーリエ解析を行い、輻射熱の振幅および位相特性から発熱箇所(異常発生箇所)を特定する。すなわち、サーマルロックイン計測法では、以下の手順に従って計測が行われる。
(1)DUTに一定周波数のストレス電圧を印加する。
(2)ストレス電圧の変調周波数に応じた発熱変化が生じる。
(3)ストレス電圧の変調周波数より高いサンプリング周波数で連続的な撮像を行う。
(4)撮像データに基づいて、振幅および位相成分を取得する。
【0075】
しかし、このようなサーマルロックイン計測法の手順を、基板の透過光による干渉像(図1に示した合波光L4)に適用することは困難である。なぜなら、干渉像の光強度と、DUTの発熱等に伴う透過光の位相の変化とが互いに非線形だからである。このため、干渉像の光強度と位相差とが互いに非線形であることを考慮した上で、干渉像の光強度から位相差を抽出する方法(位相の復調という)が、種々検討されている。
【0076】
例えば、局所的な部位(ワンポイント)を計測する方法として、光ヘテロダイン法がある。光ヘテロダイン法では、原理上、光の位相φと、光を変調するための変調波の位相φmとの和(φ+φm)が得られる。このようなワンポイント計測では、時刻0を基準として、すなわち(φ0+φm)を初期位相φ0として、局所部位での光位相φの時間変化を測定する。したがって、時刻0の時点における初期位相φ0を全く考慮する必要はない。この初期位相φ0は、DUT上面の面精度(平坦度)に依存するが、多くの場合、DUT上面にはナノメートルのオーダーで凹凸が存在するので、初期位相φ0はDUTの面内において均一ではない。
【0077】
半導体検査装置に求められていることは、半導体装置の異常発生箇所を特定することであるから、正常な他のポイントとの関係が重要である。すなわち、DUTの面内において初期位相φ0が不均一であることは、各ポイントにおいてオフセットが存在することを意味する。このようなオフセットを含んだ状態で、正常な他のポイントとの比較により発熱箇所(異常発生箇所)を特定することは困難である。このため、光ヘテロダイン法等のワンポイント計測による方法では、異常発生箇所を正確に特定するために初期位相φ0の分布を何らかの手段を用いて予め測定しておく必要がある。したがって、ワンポイント計測技術を、DUTの面内(すなわち二次元)における計測に応用して半導体装置の異常発生箇所を特定することは困難である。
【0078】
また、二次元で得られた光干渉像から光位相φを復調する方法として、フーリエ変換法や位相シフト法がある。これらの方法を用いて二次元干渉像から光位相φ(t,x,y)を求め、得られた光位相φ(t,x,y)についてサーマルロックイン計測法と同様の手順を用いれば、熱位相Φや熱振幅Aを算出することができる。これは、光位相φと熱膨張とが互いに線形の関係にあるからである。しかし、フーリエ変換法では、干渉像内に空間的に縞を多数作成することによってキャリア信号を生成する。このため、フーリエ変換法を用いる場合、例えば本実施形態のフィードバック機構(光源32、ダイクロイックミラー33及び34、圧電素子36、変調器37、フォトダイオード38、乗算器39、およびフィードバック回路40)のような機構を設けることは困難であり、干渉計のノイズを除去することが難しい。または観察視野内に、熱的膨張がないとわかっている箇所があれば、それを基準点として位相ノイズをキャンセル方法があるが、発熱箇所が未知のサンプルを計測する場合、その基準点を設けることは困難である。また、位相シフト法では、本実施形態のフィードバック機構のようなものを設けることは可能であるが、光位相φが互いに異なり且つ光位相φが既知である少なくとも3枚の干渉像が必要なので、測定時間が長くなるという問題がある。また、ナノメートルオーダーで参照用ミラーを断続的に制御する必要があるので、装置構成が複雑になるという問題もある。
【0079】
これに対し、本実施形態の半導体検査装置1Aにおいては、光干渉像に基づいて光位相φを復調するのではなく、DUT17の発熱によるシリコン基板17a内部の光学的距離の時間変化が正弦波状となるように一定周期のストレス電圧Vsを印加しておくことによって、光干渉像(合波光L4)から、直接的に熱位相Φおよび熱振幅Aを求めることができる。したがって、フーリエ変換法を用いた従来装置と比較して、フィードバック機構を設けて干渉計のノイズを除去することができ、より正確に異常発生箇所を特定することができる。すなわち、半導体検査装置1Aではフーリエ変換法を用いないため、光源32からの光束L5を、低コヒーレンス光源11からの光束L1と同軸の光路上に導波させて、干渉計内の位相ノイズを相殺するフォードバック機構の導入を容易にできる。
【0080】
また、半導体検査装置1Aによれば、位相シフト法を用いた従来装置と比較して、測定時間を短くでき(例えばπ/2位相シフト法を用いる場合と比較して3分の1以下の時間で計測できる)、また、参照ミラーを変調するための機構が不要になり、装置構成を簡易にできる。
【0081】
また、本実施形態の半導体検査装置1Aによれば、光干渉像(合波光L4)から光位相φを定量することなく、熱拡散による熱振幅Aの減衰や、熱位相Φの遅れの様子を定量的情報として得ることができるので、機構を単純化させることができる。なお熱振幅の減衰量は温度差(℃)を表し、熱位相Φは熱伝導の時間遅れを表す。
【0082】
なお、本実施形態ではDUT17の発熱箇所を二次元で計測する例を示したが、半導体検査装置1Aの構成はワンポイント計測にも適用可能である。
【0083】
本実施形態の半導体検査装置1Aの構成と、従来のワンポイント計測や位相シフト法を用いた半導体検査装置の構成との違いを図示して説明する。図12は、従来のワンポイント計測や位相シフト法を用いた半導体検査装置100の構成例を示すブロック図である。また、図13は、本実施形態の半導体検査装置1Aの構成を簡略的に示すブロック図である。図12に示すように、従来の半導体検査装置100では、信号発生器101によって変調器102を制御して参照光LRを変調し、一方でDUT103にストレス印加装置104からストレス電圧を印加する。そして、DUT103を透過したサンプル光LSと、参照光LRとを合波して干渉像とし、この干渉像をカメラ105によって撮像する。その後、同期検波を行い、ワンポイント計測や位相シフト法により光位相及び光振幅を復調したのち、光位相及び光振幅に基づいて熱位相Φ及び熱振幅Aを算出する。
【0084】
一方、図13に示すように、本実施形態の半導体検査装置1Aでは、カメラ19によって取得された撮像データ(干渉像)から直接、熱位相Φ及び熱振幅Aを算出する。なお、このように熱位相Φ及び熱振幅Aを直接求める方法については、前述した非特許文献1および特許文献1に記載があるが、非特許文献1および特許文献1ではワンポイント計測について述べているだけであり、二次元計測へ単純に拡張できるものではない。
【0085】
(第2の実施の形態)
図14は、本発明の第2実施形態に係る半導体検査装置1Bの構成を示す図である。半導体検査装置1Bは、上述した第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様に、シリコン基板17a(図2を参照)を透過する波長の光をDUT17に照射し、この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等を検知して、発熱箇所を特定する。
【0086】
本実施形態の半導体検査装置1Bは、干渉計内の位相安定化を不要とする為に、同軸光路タイプの干渉計(ミラウ型干渉計)を基本にした装置構成を有する。図14に示すように、半導体検査装置1Bは、ハロゲン光源25、フィルタ26、レンズ27、ハーフミラー28、及び対物レンズ29を備える。これらは、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成するための本実施形態における干渉光学系を構成する。また、半導体検査装置1Bは、第1実施形態と同様に、レンズ18、IRカメラ19、フレームメモリ20、演算部21、ストレス印加装置22、ペルチェ素子23、温度制御コントローラ24、基準信号発生装置54、および分周器55を備えるが、これらの構成および機能(作用)は第1実施形態と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0087】
ハロゲン光源25から出力された広帯域光は、フィルタ26を通過する。その際、DUT17のシリコン基板17aを透過する波長を含む光束L11のみがフィルタ26を透過する。光束L11はレンズ27によって、サンプル面にていわゆるケラー照明を実現する。その後、光束L11はハーフミラー28によって反射される。対物レンズ29はいわゆるミラウ型の対物レンズであり、光束L11は対物レンズ29を通過してDUT17に達する。DUT17に達した光束L11は、シリコン基板17aを透過し、シリコン基板17aと回路層17bとの界面にて反射したのち、再び対物レンズ29へ戻る。そして、対物レンズ29において干渉像が生成され、該干渉像を含む光束L12がハーフミラー28およびレンズ18を通過してIRカメラ19へ入射する。
【0088】
本発明に係る半導体検査装置は、半導体検査装置1Bのような光学系を有してもよく、第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様の作用効果を奏することができる。すなわち、半導体検査装置1Bによれば、位相ノイズがより少ないミラウ型の干渉顕微鏡を使用することにより、参照ミラーを変調するための機構が不要になり、装置構成を簡易にできる。
【0089】
また、半導体検査装置1Bによれば、光干渉像から光位相φを定量することなく、熱拡散による熱振幅Aの減衰や、熱位相Φの様子を定量的情報として得ることができるので、機構を単純化させることができる。
【0090】
(第3の実施の形態)
図15は、本発明の第3実施形態に係る半導体検査装置1Cの構成を示す図である。半導体検査装置1Cは、上述した第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様に、シリコン基板17a(図2を参照)を透過する波長の光をDUT17に照射し、この位相遅れを光干渉計測技術を使用して高精度で計測することにより、発熱に伴うシリコン基板17aの膨張や屈折率変化等を検知して、発熱箇所を特定する。
【0091】
本実施形態の半導体検査装置1Cでは、シリコン基板17aの上面(光入射面)からの反射光と、下面(回路層17bとの界面)からの反射光とを相互に干渉させることによって、同軸の光路を有する干渉計を実現している。
【0092】
具体的には、半導体検査装置1Cは、図15に示すように、第1実施形態と同様の機能を有するIRカメラ19、フレームメモリ20、及び演算部21を備える。また、半導体検査装置1Cは、照明光源61、レーザ光源62、ビームスプリッタ63〜65、対物レンズ66、可動ミラー67、ミラー68、光路長補正部材69及び70、フォトダイオード71、結像レンズ72、並びにフィルタ73を備える。これらの光学部材のうち、ビームスプリッタ63〜65、対物レンズ66、可動ミラー67、固定ミラー68、光路長補正部材69及び70、フォトダイオード71、結像レンズ72、並びにフィルタ73は、シリコン基板17aを透過した光に関する干渉像を生成するための本実施形態における干渉光学系を構成する。
【0093】
照明光源61から出力された光束L21は、DUT17のシリコン基板17aを透過する波長を含む。光束L21は、ビームスプリッタ63によって反射され、対物レンズ66を通過してDUT17に達する。DUT17に達した光束L21の一部はシリコン基板17a(図2を参照)において反射され、他の一部はシリコン基板17aと回路層17bとの境界面において反射される。そして、これらの反射光を含む光束L22が、対物レンズ66及びビームスプリッタ63を通過してビームスプリッタ64に達する。
【0094】
ビームスプリッタ64では、光束L22が二つの光束L23,L24に分岐される。一方の光束L23は、可動ミラー67において反射したのち光路長補正部材69を透過する。他方の光束L24は、光路長補正部材70を透過したのちミラー68において反射する。これらの光学部材(可動ミラー67、ミラー68、光路長補正部材69及び70)は、シリコン基板17aの上面からの反射光と下面からの反射光との光路差を調整して好適に干渉させるための光学的遅延回路を構成している。光束L23及びL24はビームスプリッタ65において再び合波され、結像レンズ72及びフィルタ73を通過してIRカメラ19へ入射する。
【0095】
また、レーザ光源62から出射されたレーザ光L25は、ビームスプリッタ64へ入射する。レーザ光L25は、ビームスプリッタ64によって二つのレーザ光L26,L27に分岐される。一方のレーザ光L26は、光束L23と同じ光軸でもってビームスプリッタ65に達する。他方のレーザ光L27は、光束L24と同じ光軸でもってビームスプリッタ65に達する。レーザ光L26及びL27はビームスプリッタ65において合波され、フォトダイオード71によってその光強度が検出される。フォトダイオード71における検出信号は、光学的遅延回路内の位相ノイズをキャンセルするために、圧電素子68aへフィードバックされる。なお、ミラー68は、ミラー68に固定された圧電素子68aによって、ビームスプリッタ64からビームスプリッタ65へ向かう2つの光L26,L27の光路長の差が一定に保持されるように駆動される。
【0096】
なお、本実施形態においても、IRカメラ19、フレームメモリ20、及び演算部21の構成および機能は第1実施形態と同様である。
【0097】
本発明に係る半導体検査装置は、半導体検査装置1Cのような光学系を有してもよく、第1実施形態の半導体検査装置1Aと同様の作用効果を奏することができる。すなわち、半導体検査装置1Cによれば、測定時間を短くでき、また、参照ミラーを変調するための機構が不要になり、装置構成を簡易にできる。
【0098】
また、半導体検査装置1Cによれば、光干渉像から光位相φを定量することなく、熱拡散による熱振幅Aの減衰や、熱位相Φの様子を定量的情報として得ることができるので、機構を単純化させることができる。
【0099】
本発明による半導体検査装置は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではDUTが有する基板としてシリコン基板を例示したが、本発明による半導体検査装置は、これに限らず種々の材料からなる基板を有するDUTを検査できる。
【0100】
また、本発明による半導体検査装置は、視野を移動させながら複数回の撮像を行うための機構を更に備えてもよい。この場合、演算手段(演算部21)は、複数回の撮像により得られた複数の撮像データを相互に繋ぎ合わせて演算を行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0101】
1A,1B,1C…半導体検査装置、11…低コヒーレンス光源、12a,12b,12c,18,27…レンズ、13…ビームスプリッタ、14,16,29,66…対物レンズ、15…ミラー、17…被検査デバイス(DUT)、17a…シリコン基板、17b…回路層、17c…樹脂モールド、19…カメラ、20…フレームメモリ、21…演算部、22…ストレス印加装置、23…ペルチェ素子、24…温度制御コントローラ、25…ハロゲン光源、26,73…フィルタ、28…ハーフミラー、32…光源、33,34…ダイクロイックミラー、36…圧電素子、37…変調器、38,71…フォトダイオード、39…乗算器、40…フィードバック回路、54…基準信号発生装置、55…分周器、61…照明光源、62…レーザ光源、63〜65…ビームスプリッタ、67…可動ミラー、68…固定ミラー、68a…圧電素子、69,70…光路長補正部材、72…結像レンズ、Vs…ストレス電圧。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を有する被検査デバイスの異常発生箇所を特定するための半導体検査装置であって、
被検査デバイスの端子電極にストレス電圧を印加するストレス印加手段と、
基板を透過する波長の光を発生する光源と、
光源から提供された光を基板に照射し、基板を透過した光に関する干渉像を生成する干渉光学系と、
干渉像を撮像して撮像データを生成する撮像手段と、
撮像データに基づいて、異常発生箇所としての被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報を演算する演算手段と
を備え、
ストレス電圧の時間波形が、一定周期の繰り返し波形であって、被検査デバイスの発熱による基板内部の光学的距離の時間変化を正弦波状とする時間波形であることを特徴とする、半導体検査装置。
【請求項2】
演算手段は、干渉像に含まれる基板を透過した光の位相遅れの分布を、被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報として算出することを特徴とする、請求項1に記載の半導体検査装置。
【請求項3】
ストレス電圧の時間波形が正弦波状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体検査装置。
【請求項4】
ストレス電圧の時間波形が、一定周期の基本波に高調波が重畳された波形であることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体検査装置。
【請求項5】
ストレス電圧の時間波形が、一定周期で繰り返される矩形波であることを特徴とする、請求項4に記載の半導体検査装置。
【請求項6】
被検査デバイスの端子電極が電源端子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体検査装置。
【請求項7】
ストレス印加手段が、被検査デバイスの信号端子に通常動作時の信号を入力することを特徴とする、請求項6に記載の半導体検査装置。
【請求項8】
被検査デバイスの端子電極が信号端子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体検査装置。
【請求項9】
ストレス印加手段が、被検査デバイスの電源端子に通常動作時の電源電圧を供給することを特徴とする、請求項8に記載の半導体検査装置。
【請求項10】
視野を移動させながら複数回の撮像を行うための機構を更に備え、
前記演算手段は、複数回の撮像により得られた複数の撮像データを相互に繋ぎ合わせて演算を行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体検査装置。
【請求項1】
基板を有する被検査デバイスの異常発生箇所を特定するための半導体検査装置であって、
被検査デバイスの端子電極にストレス電圧を印加するストレス印加手段と、
基板を透過する波長の光を発生する光源と、
光源から提供された光を基板に照射し、基板を透過した光に関する干渉像を生成する干渉光学系と、
干渉像を撮像して撮像データを生成する撮像手段と、
撮像データに基づいて、異常発生箇所としての被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報を演算する演算手段と
を備え、
ストレス電圧の時間波形が、一定周期の繰り返し波形であって、被検査デバイスの発熱による基板内部の光学的距離の時間変化を正弦波状とする時間波形であることを特徴とする、半導体検査装置。
【請求項2】
演算手段は、干渉像に含まれる基板を透過した光の位相遅れの分布を、被検査デバイスの発熱箇所を特定するための情報として算出することを特徴とする、請求項1に記載の半導体検査装置。
【請求項3】
ストレス電圧の時間波形が正弦波状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体検査装置。
【請求項4】
ストレス電圧の時間波形が、一定周期の基本波に高調波が重畳された波形であることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体検査装置。
【請求項5】
ストレス電圧の時間波形が、一定周期で繰り返される矩形波であることを特徴とする、請求項4に記載の半導体検査装置。
【請求項6】
被検査デバイスの端子電極が電源端子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体検査装置。
【請求項7】
ストレス印加手段が、被検査デバイスの信号端子に通常動作時の信号を入力することを特徴とする、請求項6に記載の半導体検査装置。
【請求項8】
被検査デバイスの端子電極が信号端子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体検査装置。
【請求項9】
ストレス印加手段が、被検査デバイスの電源端子に通常動作時の電源電圧を供給することを特徴とする、請求項8に記載の半導体検査装置。
【請求項10】
視野を移動させながら複数回の撮像を行うための機構を更に備え、
前記演算手段は、複数回の撮像により得られた複数の撮像データを相互に繋ぎ合わせて演算を行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の半導体検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−80960(P2011−80960A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235548(P2009−235548)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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