説明

半導体素子のゲート駆動回路

【課題】 小電流ターンオフ時の過大な短絡電流を確実に防止できる。
【解決手段】 ゲート駆動回路20は、制御信号Saが絶縁器10を介して供給され、ゲート抵抗13,15の接続点がIGBT5aのゲートに接続されている。ゲート制御回路30は、第1の基準値Vref1を設定するための基準電源31と、この第1の基準値Vref1とIGBT5aのゲート電位を比較するコンパレータ回路32と、このコンパレータ回路32の出力とスイッチ素子14をオンオフ制御するスイッチング信号S2との論理積(アンド)演算を行う論理積回路33と、セット端子(S)とリセット端子(R)を持つフリップフロップ34とから構成され、ゲート駆動回路20に対する制御信号Saがオフ指令に切換わった後に、スイッチ素子22をオン状態に切換えて保持するように動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBTなどの半導体素子のゲート駆動回路に関し、とくに直流電源に対して電圧駆動型のパワー半導体素子を複数個用いてインバータなどの電力変換装置を構成するための半導体素子の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、IGBTを用いたインバータの一般的な構成例を示す回路図である。直流電源回路1から、直流電圧Edがインバータ回路2に供給されていて、インバータ回路2では直流電圧Edを交流変換することにより、モータなどの負荷3を駆動することができる。この直流電源回路1とインバータ回路2の間には配線インダクタンス4が存在する。インバータ回路2では、上下のアームがそれぞれ3組のIGBT5a〜5f、および逆並列に接続されたダイオード6a〜6fによって構成されている。これらのIGBT5a〜5fには、それぞれのゲート駆動回路7,8がゲート端子に接続され、これによってオンオフ制御される。
【0003】
図7では、ゲート駆動回路7がIGBT5aのゲート端子に接続され、ゲート駆動回路8がIGBT5bのゲート端子に接続されるものとして図示している。実際には、図示しないゲート駆動回路が各IGBT5c〜5fのそれぞれに対応して接続される。また、直流電源回路1に代えて、交流入力のインバータを構成しようとする場合は、整流器と電解コンデンサなどを使用することになる。
【0004】
制御回路9からは、各IGBT5a〜5fのゲート駆動回路7,8などに上下アーム用の制御信号Sa,Sbなどが出力されていて、後述するように、これらの制御信号Sa〜Sfによって上下アームを構成するIGBT5a〜5fが交互にオンオフ制御されるようになっている。
【0005】
図8は、従来のゲート駆動回路7の具体的な回路構成を示す回路図である。ゲート駆動回路7には、絶縁器10を介して制御回路9から制御信号Saが供給されている。このゲート駆動回路7は、駆動用の直流電源11、直流電源11の正極側とIGBT5aのゲートとの間を接続するターンオン用のスイッチ素子12およびゲート抵抗13からなる第1の直列回路、直流電源11の負極側とIGBT5aのゲートとの間を接続するターンオフ用のスイッチ素子14およびゲート抵抗15からなる第2の直列回路から構成される。なお、他方のゲート駆動回路8なども上述したものと同様に構成されている。
【0006】
制御信号Saから取り出された第1、第2のスイッチング信号S1,S2は、HレベルまたはLレベルの論理状態のいずれかに制御され、これらのスイッチング信号S1,S2によってスイッチ素子12,14がオンオフ動作する。ゲート駆動回路7では、スイッチング信号S1の論理値がLレベルであればスイッチ素子12がオンして、IGBT5aには直流電源11の正極からゲート電流Ig1が流れる。このゲート電流Ig1によって、IGBT5aはターンオンして、コレクタ電流Icが流れ始める。また、ゲート駆動回路7にスイッチング信号S2の論理値がHレベルで入力するとき、スイッチ素子14がオンして、反対方向のゲート電流Ig2が流れる。このゲート電流Ig2によって、IGBT5aがターンオフすることになる。
【0007】
なお、インバータを構成する他のIGBT5b〜5fについても、制御信号Saと同様の制御信号Sb〜Sfから取り出される第1、第2のスイッチング信号S1,S2によって交互にオンオフ制御される。
【0008】
図9は、下アームを構成するIGBT5bの等価回路を示す回路図、図10は、IGBT5bをターンオフする際の各部の電流、電圧信号波形を示す信号波形図である。
スイッチ素子14がオンしてIGBT5bがターンオフし、対向アームのIGBT5aがターンオンするとき、図9に示すようにIGBT5bにはコレクタ電流Icとゲート電流Ig2とが同時に流れる。このとき、ゲート電流Ig2によって、IGBT5bのゲート・エミッタ間容量Cgeに充電されていた電荷がゲート抵抗15を介して放電され、コレクタ電流Icは徐々に低下していく。
【0009】
図10には、制御信号Sbにより、IGBT5bがターンオフするまでの期間を5つのモード(モードM0〜モードM4)に区分して、IGBT5bのコレクタ・エミッタ間の電圧Vce、コレクタ電流Ic、およびゲート・エミッタ間の電圧Vgeの各波形が各モードで変化する様子を示している。
【0010】
モードM0では、制御回路9(図7参照)から下アームを構成するIGBT5bへのオフ指令として、論理値Lに反転した制御信号Sbが出力される。このとき、スイッチング信号S2がLレベルからHレベルに変化するが、すぐには各波形Vce,Ic,Vgeに変化はない。このモードM0の期間は、実際にスイッチ素子12,14が動作するまでのストレージ時間によって規定される。
【0011】
モードM1では、実際にスイッチ素子12がオフし、スイッチ素子14がオンする。そのため、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeが現状のコレクタ電流Icを流すのに足りる電圧値VGE(on)(以下、オン電圧という。)まで低下する。この間はコレクタ・エミッタ間の電圧Vce、コレクタ電流Icともに変化は起こらない。
【0012】
モードM2では、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeがオン電圧値VGE(on)を下回ると(Vge<VGE(on))、コレクタ・エミッタ間の電圧Vceが上昇を始める。ところが、IGBT5bのゲート・コレクタ間容量(帰還容量)Cgcを介してコレクタ電流Ic(図9に点線で示す。)の流れ込みと、ゲート・エミッタ間容量Cgeからの放電電流(図9に一点鎖線で示す。)がほぼ釣り合うため、電圧Vgeの電位変動は殆ど起こらない。そして、このモードM2は概ねVge<Vceとなるまで継続する。
【0013】
モードM3では、帰還容量Cgcが急速に小さくなり、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeの低下が始まる。帰還容量Cgcの急速逆充電に伴い、電圧Vceは直流電源回路1の直流電圧Edに向かって急激に上昇を始める。
【0014】
ここで、モードM2とM3におけるIGBT5bは、次の式(1)に示すように、コレクタ電流Icがゲート・エミッタ間の電圧Vgeに応じて変動する。
Ic=gm(Vge−Vth) ・・・(1)
ただし、gmは相互コンダクタンス、VthはIGBT5bのゲートしきい値電圧であり、後述する図3にコレクタ電流Icと電圧Vgeの概略の関係を示している。
【0015】
モードM4では、IGBT5bのコレクタ・エミッタ間の電圧Vceが直流電圧Edまで達したことで、対向アーム側のダイオード6aが導通を始め、コレクタ電流Icが減少し最終的にゼロとなる。その際、直流回路部の配線インダクタンス4とdi/dtによって、電圧Vceにサージ電圧ΔVが発生する。電力変換装置では、一般に遮断するコレクタ電流Icが大きいほど、あるいはゲート抵抗15の抵抗値が小さいほど、サージ電圧ΔVは高くなる。
【0016】
下記の特許文献1に記載された逆バイアス制御回路は、ターンオフ遅れ時間を長期化せずに逆バイアス電圧を低減でき、サージ電圧障害を阻止できる。
図11は、電力変換装置の制御回路の構成を示すブロック図、図12は、IGBT5a,5bに出力される制御信号Sa,Sbを示すタイミング図である。
【0017】
インバータなどの電力変換装置の制御回路9においては、CPU16で外部からのモータ速度指令などを受け取って、デッドタイム生成部17を介して制御信号Sa,SbなどをIGBT5a〜5fに出力している。デッドタイム生成部17では、CPU16から所定のオンデューティの制御信号SA,SBを受け取って、図12に示すように制御信号SA,SBのオン側のタイミングのみ、ある遅延時間Tdだけ遅らせた制御信号Sa,Sbを生成処理している。
【0018】
この遅延時間Tdは、一般にIGBTでは数μsに設定される。これにより、上アーム側のIGBT5a,5c,5eと下アーム側のIGBT5b,5d,5fとは、同時にオンしないようなゲート制御が可能になる。同時にオンするとインバータ回路2は直流短絡状態となり、過大な電流が流れてIGBT5a〜5fの破壊を招くからである。一般に、この遅延時間Tdをデッドタイムと称している。
【0019】
下記の特許文献2には、半導体スイッチング素子のオフ状態を確実に維持でき、ターンオン時の貫通電流を大幅に低減できる半導体スイッチング素子の駆動回路の発明が記載されている。
【0020】
図13は、IGBTのモードM4におけるコレクタ・エミッタ間の電圧Vceの波形を示す図である。ここでは、ターンオフ時の2通りの信号波形を、実線によってコレクタ電流Icが大きい場合を、点線によって小さい場合を示している。
【0021】
コレクタ電流Icが小電流の場合は、図9に示す帰還容量Cgcを逆充電する電流値も小さくなる結果、電圧Vceの立ち上がり(dv/dt)は大電流時と比べて緩やかとなる。すなわち、ターンオフ指令に対するIGBT5bのスイッチング時間が延びる。
【0022】
そのためデッドタイムTdが短く設定されていると、コレクタ・エミッタ間の電圧Vceが直流電圧Edに到達する前に対向アームのIGBT5aがターンオンする現象が発生する。
【0023】
図14は、IGBTをターンオフする際の各部の電流、電圧信号波形を示す信号波形図である。また、図15にはIGBTを用いたインバータの一部分を、図16にはIGBTの等価回路を示す。ここでは、コレクタ電流Icが図10に示すコレクタ電流Icよりも小さくなっている。
【0024】
下アーム側の制御信号Sbがオフ指令になった後、デッドタイムTdが経過した時刻t0には対向アーム(上アーム)側のIGBT5aがターンオンする。そのとき、下アーム側でIGBT5bのコレクタ・エミッタ間の電圧Vceが直流電圧Edに達していないと、図15に示すような直流短絡電流Ishtが流れ、帰還容量Cgcがこの直流短絡電流Ishtによって急速に逆充電される。
【0025】
その際、IGBT5aに流れ込む直流短絡電流Ishtは、図16に示すようにゲート抵抗15を経由する経路(一点鎖線により示す。)と、ゲート抵抗15を経由しないでコレクタ・エミッタ間を流れる経路(点線により示す。)とが存在する。ここで、ゲート抵抗15の抵抗値がある程度大きい場合や、ゲート駆動回路7,8内部の配線が長く、ここでは図示していない配線インダクタンスの値が大きい場合、回路インピーダンスが高くなって直流短絡電流Ishtが流れにくくなる。その結果、電流経路としては帰還容量Cgeを充電する直流短絡電流Ishtがメインとなるから、図14に示すようにゲート・エミッタ間の電圧Vgeも上昇する。前述した式(1)によれば、IGBT5aに流すことのできるコレクタ電流Icは、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeの上昇に伴って増加するため、直流短絡電流Ishtとして流れるコレクタ電流値が増加する。
【特許文献1】特開平5−129917号公報
【特許文献2】特開2004−215458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
こうして、コレクタ電流Icが増加すると電圧Vgeがさらに上昇するという正帰還的な現象が発生して、IGBT5aには直流短絡電流Ishtが過大に流れてしまう。また、最終的にはコレクタ・エミッタ間の電圧Vceが直流電圧Edに到達した瞬間に直流短絡電流Ishtを遮断するため、ターンオフ損失の増加、サージ電圧の増加、およびノイズ発生の増加などの問題が生じていた。
【0027】
これらの問題に対処するには、たとえばゲート抵抗15の低抵抗化や低配線インピーダンス化、またはデッドタイムTdを延ばすなどの対策が可能である。ところが、ゲート抵抗15を低抵抗にすれば、通常の大電流遮断時にサージ電圧が高くなるという問題が生じる。また、デッドタイムTdを延ばした場合には、負荷として駆動されるモータの回転むらが増加するなど、一般に負荷側での制御性能が低下するという問題があった。そのため、いずれも完全な対策とはなりえないことから、従来ではこれらとのトレードオフ関係でゲート抵抗値やデッドタイムTdが設定されていた。
【0028】
また、特許文献2に開示されている発明では、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeが設定された所定値以下になった場合に、MOSFETなどのスイッチ素子によってIGBTのゲート・エミッタ間を短絡するようにしている。しかし、ここでの設定値を図9におけるモードM1のオン電圧値VGE(on)と等しくした場合、ターンオフ用のゲート抵抗がほぼ0Ωとなるため急激なターンオフ動作でサージ電圧ΔVが高くなって、サージ電圧障害が大きな問題となる。
【0029】
一方、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeの設定値をモードM3のゲートしきい値電圧Vthと等しくすれば、コレクタ電流Icが小電流の場合のように、モードM2の期間が長くなったときに、モードM2の期間中に対向アームがオンして、前述と同様の正帰還的な大きい短絡電流が流れてしまうという問題があった。
【0030】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、デッドタイムを必要最低限の長さに設定しても、小電流ターンオフ時の過大な短絡電流を確実に防止できる半導体素子のゲート駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明では、上記問題を解決するために、直流電源に対して電圧駆動型のパワー半導体素子を複数個用いて電力変換装置を構成するための半導体素子のゲート駆動回路において、前記パワー半導体素子をオンオフ制御するゲート駆動手段と、前記パワー半導体素子のゲート・エミッタ間にスイッチ回路を介して並列接続された非線形の抵抗手段と、前記ゲート駆動手段に対するオフ指令の出力より遅れて前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持する制御手段と、を備え、前記制御手段によって前記パワー半導体素子のゲート・エミッタ間に前記抵抗手段が接続された状態で、前記パワー半導体素子をターンオフするようにしたことを特徴とする半導体素子のゲート駆動回路が提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明の半導体素子のゲート駆動回路によれば、小電流ターンオフ動作時でのコレクタ・エミッタ間の電圧の立ち上がり期間中に対向アームのパワー半導体素子がターンオンしたとき、パワー半導体素子のゲート・エミッタ端子と並列に接続された非線形の抵抗手段によってゲート・エミッタ間の電圧がクランプされるために、帰還容量Cgcを逆充電する短絡電流が流れてもゲート・エミッタ間の電圧は上昇せず、正帰還的に増加するような短絡電流を確実に防止できる。したがって、小電流ターンオフ時の過大な短絡電流現象は発生せず、損失やサージ電圧、あるいはノイズの大幅増加などの現象が防止できるとともに、デッドタイムが必要最小限で済むために負荷となるモータなどの制御性能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。ここでは、従来のゲート駆動回路とは異なる部分についてだけ説明することとし、図8に示す従来回路に対応する部分には同じ符号が付けてある。
【0034】
ゲート駆動回路20は、制御信号Saが絶縁器10を介して供給される従来回路に相当するものであって、IGBT5aをオンオフ制御するためのゲート抵抗13,15の接続点がIGBT5aのゲートに接続されている。図8の従来回路と異なるのは、さらにIGBT5aのゲート・エミッタ間に、非線形の抵抗手段としてツェナーダイオード21がMOSFETなどのスイッチ素子22を介して並列に接続されていること、およびゲート制御回路30によってスイッチ素子22がオンオフ制御されるようになっていることである。
【0035】
ゲート制御回路30は、第1の基準値Vref1を設定するための基準電源31と、この第1の基準値Vref1とIGBT5aのゲート電位を比較するコンパレータ回路32と、このコンパレータ回路32の出力とスイッチ素子14をオンオフ制御するスイッチング信号S2との論理積(アンド)演算を行う論理積回路33と、セット端子(S)とリセット端子(R)を持つフリップフロップ(以下、SRFF回路という。)34とから構成される。このゲート制御回路30は、ゲート駆動回路20に対する制御信号Saがオフ指令に切換わった後に、MOSFETなどのスイッチ素子22をオン状態に切換えて保持するように動作する。
【0036】
図2は、IGBTをターンオフする際の各部の電流、電圧信号波形を示す信号波形図である。
この図2に示すように、ゲート駆動回路20では、ゲート・エミッタ間の電圧Vgeの検出値と第1の基準値Vref1とをコンパレータ回路32にて比較し、電圧Vgeが第1の基準値Vref1以下となった場合であって、制御信号Saがスイッチ素子14をオンするようにHレベルになったとき、SRFF回路34が論理積回路33からの論理積演算結果によってセットされる。このSRFF回路34は、論理積回路33からの出力(Q)をラッチするために挿入され、スイッチ素子22をオンしている。ここでは、その後にIGBT5aへの制御信号Saがオン指令に切換わって、スイッチング信号S2がLレベルに立下ったとき、SRFF回路34がリセットされ、スイッチ素子22がオフされる。
【0037】
ゲート・エミッタ間の電圧Vgeは、その電圧波形の変化との関係を図2に示すように、第1の基準値Vref1をゲート・コレクタ間容量Cgcの放電期間中(モードM2)におけるオン電圧値VGE(on)より若干高めに設定した。
【0038】
図3は、IGBT5aにおけるコレクタ電流Icと電圧Vgeの概略の関係を示す特性図である。
ゲート駆動回路20によって制御されるIGBT5aは、スイッチ素子14がオンすると、そのゲート・エミッタ間の電圧Vgeがツェナーダイオード21のツェナー電圧(降伏電圧)Vzにクランプされる。したがって、コレクタ・エミッタ間の電圧Vceが直流電圧Edに到達する前に対向アームのIGBT5bがターンオンしても、極端な電圧Vgeの上昇は起こらず、その結果、図3に示すツェナーダイオード21の特性に応じて、直流短絡電流Ishtを抑制することができる。
【0039】
また、ツェナー電圧Vzについては、低コレクタ電流時のオン電圧値VGE(on)付近に設定するのが適当である。
以上に説明した実施の形態1に係る半導体素子のゲート駆動回路20では、IGBT5aのゲート・エミッタ間にスイッチ素子22を介して並列接続されたツェナーダイオード21と、ゲート駆動回路20に対するオフ指令の出力より遅れてスイッチ素子22をオン状態に切換えて保持するゲート制御回路30を備え、ゲート制御回路30では、ゲート駆動回路20に対してオフ指令が出力された後、IGBT5aのゲート電位が第1の基準値Vref1以下になったとき、スイッチ素子22をオン状態に切換えて保持するようにしたので、ゲート制御回路30によってIGBT5aのゲート・エミッタ間にツェナーダイオード21が接続された状態でIGBT5aをターンオフできる。したがって、直流電源に対して電圧駆動型のパワー半導体素子を複数個用いて電力変換装置を構成したとき、ターンオフ時の損失を少なくして、サージ電圧の低減やノイズの低減が実現できる。
【0040】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
ゲート駆動回路20では、実施の形態1と同様に、IGBT5aのゲート・エミッタ間に、非線形の抵抗手段としてツェナーダイオード21がスイッチ素子22を介して並列に接続されており、ゲート制御回路40によってスイッチ素子22がオンオフ制御される。
【0041】
ゲート制御回路40は、第2の基準値Vref2を設定するための基準電源41と、この第2の基準値Vref2とIGBT5aのコレクタ・エミッタ間電位を比較するコンパレータ回路42と、このコンパレータ回路42の出力とスイッチ素子14をオンオフ制御するスイッチング信号S2との論理積(アンド)演算を行う論理積回路43と、セット端子(S)とリセット端子(R)を持つフリップフロップ(以下、SRFF回路という。)44とから構成される。また、IGBT5aのコレクタ・エミッタ間の電圧Vceを検出するために、電流源回路23とダイオード24を設けている。このゲート制御回路40は、ゲート駆動回路20に対する制御信号Saがオフ指令に切換わった後に、MOSFETなどのスイッチ素子22をオン状態に切換えて保持するように動作する。
【0042】
このように構成されたゲート駆動回路20では、コレクタ・エミッタ間の電圧Vceの検出値と第2の基準値Vref2とをコンパレータ回路42にて比較し、電圧Vceが第2の基準値Vref2以上となった場合であって、制御信号Saがスイッチ素子14をオンするようにHレベルになったとき、SRFF回路44は論理積回路43からの論理積演算結果によってセットされ、スイッチ素子22をオンすることができる。
【0043】
ゲート制御回路40におけるSRFF回路44は、実施の形態1のSRFF回路34と同様に機能するものであるが、すでに図10に示した通りモードM2からモードM3への移行過程での電圧Vceが概ねオン電圧値VGE(on)と等しくなることから、ここでは、第2の基準値Vref2を、Vref2≦VGE(on)のように設定することが望ましい。
【0044】
図4に示すゲート駆動回路20では、電流源回路23とIGBT5aのコレクタとの間に接続されたダイオード24のアノード電位によって、電圧Vceを検出している。しかし、これ以外であっても、たとえば抵抗分圧回路などによって、電圧Vceの検出回路を構成することが可能である。
【0045】
(実施の形態3)
図5は、実施の形態3に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
ゲート駆動回路20は、スイッチ素子22をオンオフ制御するためのゲート制御回路30(実施の形態1)あるいはゲート制御回路40(実施の形態2)に加えて、IGBT5aがターンオフするとき、それ以前に流れていたコレクタ電流Icの電流値を検出する電流値検出回路50を備えている。ただし、図5のゲート駆動回路20ではゲート制御回路30,40などの記載が省略されている。
【0046】
電流値検出回路50は、第3の基準値Vref3を設定するための基準電源51と、この第3の基準値Vref3とIGBT5aのコレクタ電流値を比較するコンパレータ回路52と、このコンパレータ回路52の出力を、スイッチ素子14をオンオフ制御するスイッチング信号S2によってサンプリングするサンプルホールド回路53と、このサンプルホールド回路53の出力とゲート制御回路の出力との論理積(アンド)演算を行う論理積回路54とから構成される。この電流値検出回路50では、サンプルホールド回路53において、コレクタ電流の大きさを検出するタイミングがスイッチング信号S2の立ち上がりの時点に設定されている。また、論理積回路54には、ゲート制御回路30(実施の形態1)あるいはゲート制御回路40(実施の形態2)におけるスイッチ素子22への入力信号が供給されている。したがって、図1や図4に示すゲート駆動回路20において、スイッチ素子22をオンさせるための信号線55上に論理積回路54を設けて、IGBT5aがターンオフするときのコレクタ電流Icの検出値が第3の基準値Vref3以下のときだけ、スイッチ素子22をオンさせるようなアルゴリズムが構成できる。
【0047】
この電流値検出回路50では、IGBT5aの第2エミッタからの電流をセンス抵抗25に流し、このセンス抵抗25の両端の電圧値を検出することによって、コンパレータ回路52でコレクタ電流Icが設定電流値以下か、あるいは設定電流値以上かの判断が行われ、アーム短絡現象が発生する可能性がある小電流のときだけ、ゲート制御回路30あるいはゲート制御回路40を動作させることができる。すなわち、IGBT5aのターンオフする時間が延び、上下アーム短絡現象が発生する可能性がある小電流のときのみ、ゲート制御回路30あるいはゲート制御回路40を動作させれば、デッドタイムTdを必要最低限の長さに設定した場合であっても、小電流ターンオフ時の過大な短絡電流を確実に防止できる。
【0048】
なお、IGBT5aをターンオフするときのコレクタ電流を検出する方法として、図示しない電流トランス(CT)、あるいはメインのIGBT5aと直列に接続された抵抗などから、それらの両端電圧を検出することも可能である。
【0049】
(実施の形態4)
図6は、実施の形態4に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
ゲート駆動回路20は、実施の形態1と同様に、IGBT5aのゲート・エミッタ間に、非線形の抵抗手段としてツェナーダイオード21がMOSFETなどのスイッチ素子22を介して並列に接続され、さらに、このツェナーダイオード21とスイッチ素子22との直列回路をゲート制御回路60によって制御している。
【0050】
ゲート制御回路60は、具体的には、たとえばディレイ回路とワンショット回路からなり、制御信号Saがスイッチ素子14をオンするようにHレベルになった後、ディレイ回路においてデッドタイムTdとほぼ等しい時間Tzに設定された遅延期間が経過したときに、ワンショット回路が動作して、所定のオン期間Tonだけスイッチ素子22をオン状態に切換えて保持するように動作する。
【0051】
なお、スイッチ素子22をオン状態に保持するオン期間Tonは、ツェナーダイオード21の特性に応じて決定できる。たとえば、このオン期間Tonとして図3に示す電流値IzでIGBT5aの帰還容量を逆充電するだけの時間が設定されていればよい。
【0052】
以上の各実施の形態1〜4によれば、従来のゲート制御回路と比較して、ターンオフ損失の低減、サージ電圧の低減、発生ノイズの低減化が実現できる。したがって、電力変換装置を構成する電圧駆動型のパワー半導体素子、たとえばIGBTの定格ダウン、あるいはインバータ回路などの放熱器の小型化などにより、安価な電力変換システムの構築が可能になる。また、デッドタイムの短縮化によって、モータなどの負荷側での制御性能も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態1に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
【図2】IGBTをターンオフする際の各部の電流、電圧信号波形を示す信号波形図である。
【図3】IGBTにおけるコレクタ電流Icと電圧Vgeの概略の関係を示す特性図である。
【図4】実施の形態2に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
【図5】実施の形態3に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
【図6】実施の形態4に係る半導体素子のゲート駆動回路を示す回路図である。
【図7】IGBTを用いたインバータの一般的な構成例を示す回路図である。
【図8】従来のゲート駆動回路の具体的な回路構成を示す回路図である。
【図9】下アームを構成するIGBTの等価回路を示す回路図である。
【図10】IGBTをターンオフする際の各部の電流、電圧信号波形を示す信号波形図である。
【図11】電力変換装置の制御回路の構成を示すブロック図である。
【図12】IGBTに出力される制御信号Sa,Sbを示すタイミング図である。
【図13】IGBTのモードM4におけるコレクタ・エミッタ間の電圧Vceの波形を示す図である。
【図14】IGBTをターンオフする際の各部の電流、電圧信号波形を示す信号波形図である。
【図15】IGBTを用いたインバータの一部分を示す回路図である。
【図16】IGBTの等価回路を示す回路図である。
【符号の説明】
【0054】
1 直流電源回路
2 インバータ回路
3 負荷
4 配線インダクタンス
5a〜5f IGBT
6a〜6f ダイオード
7,8 ゲート駆動回路
9 制御回路
10 絶縁器
11 直流電源(Vg)
12,14 スイッチ素子
13 ゲート抵抗(ターンオン用)
15 ゲート抵抗(ターンオフ用)
20 ゲート駆動回路
21 ツェナーダイオード
22 スイッチ素子
23 電流源回路
24 ダイオード
25 センス抵抗
30,40 ゲート制御回路
31 基準電源
32 コンパレータ回路
33 論理積回路
34 SRFF回路(フリップフロップ)
41 基準電源
42 コンパレータ回路
43 論理積回路
44 SRFF回路(フリップフロップ)
50 電流値検出回路
51 基準電源
52 コンパレータ回路
53 サンプルホールド回路
54 論理積回路
60 ゲート制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に対して電圧駆動型のパワー半導体素子を複数個用いて電力変換装置を構成するための半導体素子のゲート駆動回路において、
前記パワー半導体素子をオンオフ制御するゲート駆動手段と、
前記パワー半導体素子のゲート・エミッタ間にスイッチ回路を介して並列接続された非線形の抵抗手段と、
前記ゲート駆動手段に対するオフ指令の出力より遅れて前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持する制御手段と、
を備え、
前記制御手段によって前記パワー半導体素子のゲート・エミッタ間に前記抵抗手段が接続された状態で、前記パワー半導体素子をターンオフするようにしたことを特徴とする半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ゲート駆動手段に対してオフ指令が出力された後、前記電力変換装置の上下アームをなす前記パワー半導体素子の制御信号に対して短絡防止用に設定されたデッドタイムとほぼ等しい時間だけ経過したとき、前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持するようにしたことを特徴とする請求項1記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項3】
前記制御手段は、前記パワー半導体素子の帰還容量を逆充電するための必要な時間だけ、前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持するようにしたことを特徴とする請求項1記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項4】
前記抵抗手段は、所定の降伏電圧を有するツェナーダイオードであって、
前記降伏電圧が、前記パワー半導体素子をターンオフする際に前記帰還容量に正方向に充電された電荷が放電する間のゲート・エミッタ間の電圧とほぼ等しく設定されていることを特徴とする請求項3記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ゲート駆動手段に対してオフ指令が出力された後、前記パワー半導体素子のゲート電位が第1の基準値以下になったとき、前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持するようにしたことを特徴とする請求項4記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項6】
前記第1の基準値が、前記ツェナーダイオードの前記降伏電圧より高く設定されていることを特徴とする請求項5記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項7】
前記制御手段は、前記ゲート駆動手段に対してオフ指令が出力された後、前記パワー半導体素子のコレクタ・エミッタ間電位が第2の基準値以上になったとき、前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持するようにしたことを特徴とする請求項4記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項8】
前記第2の基準値が、前記ツェナーダイオードの降伏電圧より低く設定されていることを特徴とする請求項7記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項9】
前記制御手段は、さらに前記パワー半導体素子をターンオフさせる以前に流れていたコレクタ電流値を検出する電流値検出回路を備え、
前記電流値検出回路は、前記ゲート駆動手段に対してオフ指令が出力された後、前記コレクタ電流値が第3の基準値以下になったとき前記スイッチ回路をオン状態に切換えて保持するようにしたことを特徴とする請求項1記載の半導体素子のゲート駆動回路。
【請求項10】
前記ゲート駆動手段は、駆動用の直流電源と、前記直流電源の正極側と前記パワー半導体素子との間を接続するターンオン用のスイッチ素子および抵抗素子からなる第1の直列回路と、前記直流電源の負極側と前記パワー半導体素子との間を接続するターンオフ用のスイッチ素子および抵抗素子からなる第2の直列回路とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の半導体素子のゲート駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−28711(P2007−28711A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203497(P2005−203497)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】