説明

半導体素子

【課題】界面準位を意図的に形成−消滅させることにより素子特性を制御した構成の、高性能なスイッチング素子やメモリ素子を提供する。
【解決手段】半導体素子1は、界面準位制御層5と、半導体層4と、ソース電極2と、ドレイン電極3と、ゲート電極7と、ゲート絶縁膜6と、基板8とを層状に積層してなり、界面準位制御層5の1側面にゲート絶縁膜6を設けて構成する。微小な外部からの入力信号(外場)をこの界面準位制御層5で受け、界面準位の形成−消滅を切り替えることにより増幅された出力信号として高感度に取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面準位制御層を有する半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属−絶縁体−半導体(MIS)構造において、絶縁体/半導体界面に形成される界面準位は、素子の特性に強く影響を与えることが知られている。特に電界効果トランジスタ(FET)素子において、ゲート絶縁膜と伝導チャネルが形成される半導体層の界面に形成される界面準位は、閾値電圧Vthや電界効果移動度μFET等の重要なトランジスタパラメータに大きな影響を与える(非特許文献1参照)。FET素子のゲート絶縁膜等で一般的に用いられているSiOの表面には電子をトラップするような界面準位が存在し、シランカップリング剤等をもちいてSiO表面に自己組織化膜を形成させ、この界面準位を減少させることによりFETの特性が大幅に改善されることが報告されている(非特許文献2参照)。このように、今までの報告では、主に素子作成時に絶縁膜に表面処理を施し、界面準位を制御するという手法が用いられてきた。
【0003】
【非特許文献1】S. Kobayashi, T. Nishikawa, T. Takenobu, S. Mori, T. Shimoda, T. Mitani, H. Shimotani, N. Yoshimoto, S. Ogawa, and Y. Iwasa, Nature Materials, 3 (2004) 317.
【非特許文献2】L. L. Chua, J. Zaumsell, J. F. Chang, E. C. −W. Ou, P. K. −H. Ho, H. Sirringhaus, and R. H. Friend, Nature, 434 (2005) 194.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
界面準位は素子特性に大きな影響を与えるが、これらは一般的に、素子作製時に意図せず形成されることが多いため、素子設計時の特性と異なる特性をもつ素子が作製されるという問題があった。
【0005】
本発明は、これらの界面準位を意図的に形成−消滅させることにより素子特性を制御した構成の、高性能なスイッチング素子やメモリ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、FET素子において、ゲート絶縁膜と半導体層の界面に、外場(光や磁場)により分子軌道やバンド構造が変化する材料を用いることにより、FET素子の上面や下面から外場を入射することにより界面準位の形成−消滅を制御することが可能となり、FET特性を外場により制御できることを見出し、本発明を成すに到った。
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために下記(1)〜(9)の解決手段を採用する。
(1) 本発明の半導体素子は、界面準位制御層と、半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、基板とを層状に積層してなり、界面準位制御層の1側面にゲート絶縁膜を設けて構成する。
(2) 界面準位制御層の他側面に半導体層を設ける。
(3) 界面準位制御層の他側面に半導体層、ソース電極、およびドレイン電極を設ける。
(4) 界面準位制御層を、外場により分子軌道のエネルギー準位が変化する物質、又は、バンド構造が変化する物質により形成された層とする。
(5) 界面準位制御層を、フォトクロミック材料により形成される層とし、メモリ性を持たせる。
(6) 界面準位制御層を、サーモクロミック材料により形成される層とし、メモリ性を持たせる。
(7) ゲート絶縁膜を、ゲート絶縁膜の材料にフォトクロミック材料を含有させたものとし、該ゲート絶縁膜に界面準位制御層の機能を持たせる。
(8) ゲート絶縁膜を、ゲート絶縁膜の材料にサーモクロミック材料を含有させたものとし、該ゲート絶縁膜に界面準位制御層の機能を持たせる。
(9)フォトクロミックの材料をジアリールエテン誘導体とする。
(10) 半導体層を、有機半導体材料により形成される層とする。
(11) 半導体層を、金属酸化物半導体材料により形成される層とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導体素子は、界面準位制御層の導入により、微小な外部からの入力信号(外場)をこの界面準位制御層で受け、界面準位の形成−消滅を切り替えることにより増幅された出力信号(例えば、FET素子のドレイン‐ソース電流等)として高感度に取り出すことができる。また、本発明の半導体素子は、界面準位の形成−消滅の一方の状態をある一定時間保持できる材料を用いることにより、メモリ素子として機能させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の半導体素子はFET素子のゲート絶縁膜と半導体層の界面に界面準位制御層を導入したことを特徴とする。
【0010】
( 半導体素子の構成 )
図1は、本願発明における半導体素子の断面を示す模式図である。図1(a)はトップコンタクトボトムゲートタイプ、図1(b)はミドルコンタクトボトムゲートタイプ、図1(c)はボトムコンタクトトップゲートタイプ、図1(d)はミドルコンタクトトップゲートタイプを表す。
本発明の半導体素子は図1に示すように、界面準位制御層5と、半導体層4と、ソース電極2と、ドレイン電極3と、ゲート電極7と、ゲート絶縁膜6と、基板8とからなる。
図1(a)のトップコンタクトボトムゲートタイプは、基板8上にゲート電極7を設け、このゲート電極7を覆って基板上に平坦なゲート絶縁膜6を設け、ゲート絶縁膜6上に界面準位制御層5を設け、その界面準位制御層5上に半導体層4を設け、その半導体層4上に離間してソース電極2とドレイン電極3を形成する。
【0011】
図1(b)のミドルコンタクトボトムゲートタイプは、基板8上にゲート電極7を設け、このゲート電極7を覆って基板上に平坦なゲート絶縁膜6を設け、ゲート絶縁膜6上に界面準位制御層5を設け、その界面準位制御層5上に離間してソース電極2とドレイン電極3を形成し、ソース電極2とドレイン電極3を覆って界面準位制御層5上に半導体層4を設ける。
図1(c)のボトムコンタクトトップゲートタイプは、基板8上にソース電極2とドレイン電極3を形成し、このソース電極2とドレイン電極3を覆って基板上に平坦な界面準位制御層5を設け、その界面準位制御層5上に半導体層4を設け、その半導体層4上に平坦なゲート絶縁膜6を設け、このゲート絶縁膜6上にゲート電極7を形成し、ゲート電極7の上面が露出するように先のゲート絶縁膜6上に更に平坦なゲート絶縁膜6を設ける。
【0012】
図1(d)のミドルコンタクトトップゲートタイプは、基板8上に界面準位制御層5を設け、この界面準位制御層5上に離間してソース電極2とドレイン電極3を形成し、これらソース電極2とドレイン電極3の間の先の界面準位制御層5上に両電極の上面が露出するように更に界面準位制御層5を設け、これら両電極と界面準位制御層5上に平坦に半導体層4を設け、その半導体層4上に平坦なゲート絶縁膜6を設け、ゲート電極7の上面が露出するように先のゲート絶縁膜6上に更に平坦なゲート絶縁膜6を設ける。
【0013】
それぞれの部位の配置、構成する物質、作製方法を次に示す。
本発明の半導体素子の基本的な構造は図1に示すように、基板8上にパターニングされたゲート電極7を覆うようにゲート絶縁膜6が設けられ、ゲート絶縁膜6の上に界面準位制御層5、半導体層4、パターニングされたドレイン電極3−ソース電極2の順番に設けられた構造(トップコンタクトボトムゲート図1(a))、基板8上にパターニングされたゲート電極7を覆うようにゲート絶縁膜6が設けられ、ゲート絶縁膜6の上に界面準位制御層5、パターニングされたドレイン電極3−ソース電極2、半導体層4の順番に設けられた構造(ミドルコンタクトボトムゲート図1(b))、基板8上にパターニングされたドレイン電極3−ソース電極2を覆うように半導体層4が設けられ、半導体層4の上に界面準位制御層5、ゲート絶縁膜6、パターニングされたゲート電極7の順番に設けられた構造(ボトムコンタクトトップゲート図1(c))の基板8上に界面準位制御層5、パターニングされたドレイン電極3−ソース電極2、半導体層4、ゲート絶縁膜6、パターニングされたゲート電極7が順番に設けられた構造(ミドルコンタクトトップゲート図1(d))の四種類である。基本的に上記四種類のうちどの構造をもちいても同様の素子特性を示す。
【0014】
基板8としては、通常半導体素子に用いられるものであれば特に限定されず、いかなる材料の物を用いても良い。一般に好適に用いられる物としては、シリコン基板やガラス基板等が挙げられる。また、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルケトン(PEEK)等の材料のプラスチックフィルム基板、グリーンシート等のセラミックスフィルムなど、可撓性のあるフィルム基板等を用いることが出来る。基板の厚さは特に限定しないが、素子を安定に保持する強度を有する必要があることと、可撓性を必要とする場合があるため、10μmから1000μmの間の任意の値が好適に用いられる。
【0015】
ゲート絶縁膜6に関しては、その材料は特に限定されるものではないが、好ましくはアクリル系樹脂、ポリカーボネート、ボリビニルブチラール、ポリスチレン、ポリイミド、ポリエステル、エポキシ系樹脂、導電性高分子材料、パリレン、シラザン系材料、シロキサン系材料等が用いられる。また、ゲート絶縁膜の厚さは、低電圧駆動を実現するために薄いほうが望ましいが、絶縁性を保つ程度の厚さが必要であるため、0.1μmから10μmの間の任意の値が望ましい。
【0016】
ゲート絶縁膜6の作製方法は、特に限定されないが、好ましくは、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、プラズマ重合法、スパッタリング法、ディップコーティング法、スピンコート法、キャスティング法、印刷法、ディスペンシング法、ゾルゲル法等が用いられる。
ゲート電極7を構成する材料としては、その仕事関数はトランジスタの動作閾値電圧と半導体層4の仕事関数とに合わせて調節されるが、組み合わせは特に限定されるものではない。好ましくは、ドーピングされた酸化物半導体、ドーピングされた導電性高分子、金属、金属ペースト等が用いられる。
【0017】
ゲート電極7の作製方法は、特に限定されないが、好ましくは、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、印刷法、ディスペンシング法等が用いられる。
ドレイン電極3及びソース電極2に関しては、半導体層4への効率の良い電荷注入を実現するために、それらドレイン電極3及びソース電極2の仕事関数は半導体層4の仕事関数に近いことが望ましい。また、出力電流を効率よく取り出すためにはドレイン電極3とソース電極2の電極間距離は小さいほうが望ましいが、短チャネル効果等の影響もあるため、1μmから1000μmの間の任意の値が好ましい。
ドレイン電極3、ソース電極2の作製方法は、特に限定されないが、好ましくは、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、印刷法、ディスペンシング法等が用いられる。
【0018】
半導体層4を構成する半導体としては、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化銀、酸化銅、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、IGZO(インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物)、有機半導体等が好ましい。
優れた特性を示す有機半導体としては、好ましくは、以下(1)〜(8)に示されるものが用いられる。
(1) アントラセン、テトラセン、ペンタセン、またはその末端が置換されたこれらの誘導体、
(2) α−セクシチオフェン、
(3) ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)およびその末端が置換された誘導体、
(4) ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)およびその末端が置換された誘導体、
(5) 銅フタロシアニン及びその末端がフッ素などで置換された誘導体、
(6) 中心金属がニッケル、酸化チタン、フッ素化アルミニウム等のフタロシアニン系材料、
(7) フラーレン、ルブレン、コロネン、アントラジチオフェンおよびそれらの末端が置換された誘導体、
(8) ポリフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリアセチレンおよびこれらの末端もしくは側鎖が置換された誘導体のポリマー。
【0019】
半導体層4の作製方法は、特に限定されないが、好ましくは、蒸着法、MBE(分子線エピタキシー)法、CVD法、スパッタリング法、ディップコーティング法、スピンコート法、キャスティング法、印刷法、ディスペンシング法、ゾルゲル法等が用いられる。
【0020】
界面準位制御層5に用いられる物質としては、外場により分子軌道やバンド構造が変化する物質であれば特に限定されないが、好ましくは、光異性化分子(フォトクロミック分子)、熱異性化分子(サーモクロミック分子)が用いられる。フォトクロミック分子の代表的なものは、アゾ誘導体、スピロピラン誘導体、サリチリデンアニリン誘導体、チオインジゴ誘導体、フルギド誘導体、ジアリールエテン誘導体、ビオロゲン誘導体、ジヒドロピレン誘導体、ビス(トリフェニルイミダゾリル)誘導体、チオニン誘導体、または、これらを高分子系バインダーに分散したもの等がある。
【0021】
サーモクロミック分子の代表的なものは、エチレンジアミン誘導体錯体、サーモトロピック液晶材料、サリチリデンアニリン誘導体、アゾ誘導体、ジアリールエテン誘導体、または、これらを高分子系バインダーに分散したもの等である。
界面準位制御層5の作製方法は、特に限定されないが、好ましくは、蒸着法、MBE(分子線エピタキシー)法、CVD法、スパッタリング法、ディップコーティング法、スピンコート法、キャスティング法、印刷法、ディスペンシング法等が用いられる。
【0022】
( 動作形態と動作原理 )
本発明の半導体素子1に用いられる界面準位制御層5を構成する物質は、熱・光等の外場の入力により最高被占準位(HOMO)、最低空準位(LUMO)等の分子軌道や、価電子帯(VB)や伝導帯(CB)等のバンド準位が可逆的に変化する。ここでは、p型の半導体層4を用いた半導体素子(FET)に界面準位制御層5を導入した場合について説明する。なお、HOMO準位(Highest Occupied Molecular Orbital:最高被占軌道)は電子によって占有されている分子軌道のうち最もエネルギーの高い準位、LUMO準位(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:最低空軌道)は電子によって占有されていない軌道のうち最もエネルギーの低いものをいう。
【0023】
図2は、本願発明の半導体素子の外場を切り替えた状態における動作原理を示す模式図である。図2(a)はエネルギー障壁がある状態1に外場を切り替えた状態を示し、下側の図は素子構造を表し、上側の図はエネルギー状態を表す。図2(b)はエネルギー障壁がない状態2に外場を切り替えた状態を示し、下側の図は素子構造を表し、上側の図はエネルギー状態を表す。
図2(a)に示す状態1では、半導体層4に隣接する界面準位制御層5に用いられる物質のHOMO準位もしくはVBは半導体層のVBより低い位置になるため、ホールに対するエネルギー障壁が形成される。故に、ゲート電極7に負電圧を印加したときに、ホールは半導体層4/界面準位制御層5の界面に蓄積されるため、伝導チャネルは半導体層4内に形成される。
【0024】
一方、図2(b)に示す状態2では、半導体層4に隣接する界面準位制御層5に用いられる物質のHOMO準位もしくはVBが半導体層のVBと近い位置になるため、ホールに対するエネルギー障壁は形成されず、負のゲート電圧印加時には半導体層4/界面準位制御層5の界面で半導体層4から界面準位制御層5へホールが注入される。
界面準位制御層5を形成する物質は、半導体層4を形成する物質と比較して、電荷移動度が非常に小さいため、注入された電荷はドレイン電圧に沿って移動することは無く、界面準位制御層5内にトラップされた状態となる。
故に、状態2においてゲート電圧印加時のオン電流が状態1のオン電流と比較して低くなる。
【0025】
状態1と状態2は外場の入力により可逆的に変化させることができるため、外場によりFET素子のオン電流をスイッチすることができる。
また、状態1や状態2は次の外場の入力があって切り替えられるまで保持されるため、オン電流が高い状態と低い状態をそれぞれ保持するというメモリ素子として利用することもできる。
界面準位制御層5を構成する物質の代表的なものとしてフォトクロミック材料が挙げられる。フォトクロミック材料は、一般的に、異なる波長の光の入力に対して色が可逆的に変化する分子である。色が変化するということは、分子自身の吸収スペクトルの変化に対応することを意味する。つまり、光の入力に対して分子のHOMO準位、LUMO準位がそれぞれ変化して、準位間の遷移エネルギー差が変化するということであるから、この性質を界面準位制御に利用することができる。
【実施例】
【0026】
図3に本発明を用いて構成したFETの代表的な構造を示す。
図3のFETは、基板8上にゲート電極7を設け、このゲート電極7を覆って基板上に平坦なゲート絶縁膜6を設け、ゲート絶縁膜6上にフォトクロミック層5を設け、そのフォトクロミック層5上に半導体層4を設け、その半導体層4上に離間してソース電極2とドレイン電極3を形成する。
透明ゲート電極としてガラス上にパターニングされたITO(シート抵抗約10Ω)、ゲート絶縁膜として、下記化1の構造式を有するポリメチルメタクリレートPMMA(膜厚800nm、スピンコート)、
【0027】
【化1】

【0028】
フォトクロミック層(界面準位制御層)として、蒸着した下記化2の構造式を有するDAE(1,2‐Bis(2,4‐dimethyl‐5‐phenyl‐3‐thienyl) perfluorocyclopentene(東京化成製、膜厚85nm))、
【化2】

【0029】
半導体層として、蒸着した下記化3の構造式を有するペンタセンPentacene(ナード研究所製、3回昇華精製品、膜厚50nm)、
【化3】

ドレイン−ソース電極として蒸着したAu(膜厚50nm、L:20μm、W:5mm)をそれぞれ用いた。
【0030】
光異性化の際のFET素子に対する光照射は、ITO電極側から、光源として高圧水銀ランプ(マリオネットワーク社製HLR100T‐2、HB100A‐1 170mW/cm)、シャープカットフィルター(可視光照射時:λ<520nm、UV光照射時:λ<340nm)をもちいて3分間行った。FET素子のトランジスタ特性の測定は、ドレイン−ソース用とゲート−ソース用の2台のソースメータ(Keithley Instruments社製6430型)を用いて真空下、室温にて行った。
図4にDAE層を持つFET素子の出力特性と、図5にIDS1/2‐Vプロットを示す。
図4(a)は、VGS(ゲート−ソース電圧)が+81v〜−81vの間の値をとる閉環体特性であり、横軸がドレイン−ソース電圧VDS(単位V(ボルト))、縦軸がドレイン−ソース電流IDS(単位I(アンペア))である。
図4(b)は、VGS(ゲート−ソース電圧)が+81v〜−81vの間の値をとる開環体特性であり、横軸がドレイン−ソース電圧VDS(単位V(ボルト))、縦軸がドレイン−ソース電流IDS(単位I(アンペア))である。
図4(a)の閉環体の特性を下記表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
図4(b)の閉環体の特性を下記表1に示す。
【表2】

【0033】
図5は光異性化時のトランジスタ特性の変化を示す。
図5(a)は一回目の光異性化時のトランジスタ特性の変化、(b)は二回目の光異性化時のトランジスタ特性の変化を示している。横軸はVGS(ゲート−ソース電圧(単位V(ボルト))、縦軸はドレイン−ソース電流IDSの絶対値の0.5乗(単位I(アンペア)の0.5乗)である。
図5中の記号、
◇は、閉環体の特性a1として、VGSを「+」から「−」へ掃引した場合、
□は、閉環体の特性b1として、VGSを「−」から「+」へ掃引した場合、
△は、開環体の特性c1として、VGSを「+」から「−」へ掃引した場合、
○は、開環体の特性d1として、VGSを「−」から「+」へ掃引した場合、
を示す特性である。
【0034】
図5(a)に示されるように、閉環体の特性a1と閉環体の特性b1は直線eに沿った傾き領域でほとんど重なる特性を有する。直線eの傾きはおおよそ1.87E−5(A/V)となる。同じく、開環体の特性c1と開環体の特性d1は直線fに沿った傾き領域でほとんど重なる特性を有する。直線fの傾きはおおよそ3.47E−5(A/V)となる。
また、図5(b)に示されるように、閉環体の特性a2と閉環体の特性b2は直線gに沿った傾き領域でほとんど重なる特性を有する。直線gの傾きはおおよそ1.71E−5(A/V)となる。同じく、開環体の特性c2と開環体の特性d2は直線hに沿った傾き領域でほとんど重なる特性を有する。直線hの傾きはおおよそ3.20E−5(A/V)となる。
【0035】
図5(a)のトランジスタ特性を下記表3に示す。
【表3】

【0036】
図5(b)のトランジスタ特性を下記表4に示す。
【表4】

【0037】
図4および図5から、閉環体と開環体の異性化により電界効果移動度μFET、閾値電圧Vthともに変化する。また、二回目の光異性化時においても一回目と同傾向の特性が観察されるため、このトランジスタ特性の変化が可逆的なものであることが示唆された。
下記表5に示すように開環体と閉環体のμFETを比較すると、開環体のμFETの方が高くなっている。
【0038】
【表5】

【0039】
この結果について次のように考察した。
図6は、DAEとPentaceneに関するサイクリックボルタンメトリーのグラフである。図6(a)は、閉環体と開環体のポテンシャル−電流特性であり、横軸がAg/AgCl電極を用いたときのポテンシャル(v)、縦軸が単位面積(cm)あたりの電流値を表す。図6(b)は、ペンタセンのポテンシャル−電流特性であり、横軸がAg/AgCl電極を用いたときのポテンシャル(v)、縦軸が単位面積(cm)あたりの電流値を表す。
図6(a)中の記号◇は開環体の特性を表し、図6(a)中の記号□は閉環体の特性を表す。図6(a)中の矢印jはオンセットポテンシャルが0.72vのときの閉環体の特性を表し、図6(a)中の矢印kはオンセットポテンシャルが1.5vのときの開環体の特性を表す。図6(a)の開環体の特性と閉環体の特性はほとんど重なる傾向を有する。
図6(b)中の記号◇はペンタセンの特性を表し、図6(b)中の矢印mはオンセットポテンシャルが0.8vのときのペンタセンの特性を表す。
図6(a)のサイクリックボルタンメトリーの数値を下記表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
図6(b)のサイクリックボルタンメトリーの数値を下記表7に示す。
【表7】

【0042】
図6のサイクリックボルタンメトリーの結果より読み取られたオンセットポテンシャルから下記数1の式を用いてHOMO準位を計算した。
【数1】

【0043】
LUMO準位は図7に示す吸収スペクトルの吸収端波長を読み取り下記数2および数3を用いて求めた。
図7は、DAEの開環体、閉環体、及びPentaceneの吸収スペクトルである。
横軸が波長(単位nm)、縦軸が吸光度(吸光度=log10(入射光強度/透過光強度))(単位無次元)。図7中、矢印nは開環体における吸収端の波長425nmの特性、矢印pは閉環体における吸収端の波長700nmの特性、矢印qはペンタセンにおける吸収端の波長750nmの特性を示す。
図7の吸収スペクトルの数値を下記表8に示す。
【0044】
【表8】

【0045】
【数2】

【数3】

【0046】
結果として得られたHOMO準位は開環体で6.3eV、閉環体で5.5eV、LUMO準位は開環体で3.4eV、開環体で3.7eV、PentaceneのHOMO準位は5.6eV、LUMO準位は4.0eVとなった。それぞれの準位の位置関係を図示したものが図8となる。
図8は、DAEとPentaceneに関して算出された分子軌道のエネルギー準位図である。
【0047】
図8の右側は閉環体特性を表し、図8の左側は開環体特性を表す。
開環体のDAEのHOMO準位とPentaceneのHOMO準位は大きな差があるため、これがホールの注入障壁となり、ゲート電圧印加時にDAE/Pentacene界面にホールが蓄積される。また、DAE/Pentacene界面をホールが移動するときDAEのHOMO準位にホールがトラップされる確率は低い。それに対して、閉環体のDAEのHOMO準位はPentaceneのHOMO準位より高いレベルになるため、ゲート電圧印加時にホールはDAE内に注入されてしまう。またDAE/Pentacene界面をホールが移動するときDAEのHOMO準位にホールがトラップされる確率がたかくなる。DAE単独の蒸着膜ではFETとして動作しないことが確認されているため、DAEのホール移動度は非常に低いと考えられるため、DAE内にトラップされた電荷がDAE内を移動することは無い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における半導体素子の断面を示す模式図である。
【図2】本発明における半導体素子の動作原理を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例で用いた半導体素子の構造を示す断面図と用いた材料の構造式である。
【図4】本発明に係るDAEを光異性化させたときのFETの出力特性を示したグラフである。
【図5】本発明に係るDAEを光異性化させたときのFETの伝達特性を示したグラフである。
【図6】本発明に係るDAEとPentaceneに関するサイクリックボルタンメトリーのグラフである。
【図7】本発明に係るDAEの開環体、閉環体、及びPentaceneの吸収スペクトルである。
【図8】本発明に係るDAEとPentaceneに関して算出された分子軌道のエネルギー準位図である。
【符号の説明】
【0049】
1 半導体素子
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 半導体層
5 界面準位制御層
6 ゲート絶縁層
7 ゲート電極
8 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面準位制御層と、半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、基板とを層状に積層してなり、前記界面準位制御層の1側面にゲート絶縁膜を設けたことを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
前記界面準位制御層の他側面に前記半導体層を設けたことを特徴とする請求項1記載の半導体素子。
【請求項3】
前記界面準位制御層の他側面に前記半導体層、前記ソース電極、および前記ドレイン電極を設けたことを特徴とする請求項1記載の半導体素子。
【請求項4】
前記界面準位制御層を、外場により分子軌道のエネルギー準位が変化する物質、又は、バンド構造が変化する物質により形成された層としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体素子。
【請求項5】
前記界面準位制御層を、フォトクロミック材料により形成される層とし、メモリ性を持たせたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体素子。
【請求項6】
前記界面準位制御層を、サーモクロミック材料により形成される層とし、メモリ性を持たせたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体素子。
【請求項7】
前記ゲート絶縁膜を、前記ゲート絶縁膜の材料にフォトクロミック材料を含有させたものとし、該ゲート絶縁膜に前記界面準位制御層の機能を持たせたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体素子。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜を、前記ゲート絶縁膜の材料にサーモクロミック材料を含有させたものとし、該ゲート絶縁膜に前記界面準位制御層の機能を持たせたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の半導体素子。
【請求項9】
請求項5記載の前記フォトクロミックの材料をジアリールエテン誘導体としたことを特徴とする請求項5記載の半導体素子。
【請求項10】
前記半導体層を、有機半導体材料により形成される層としたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の半導体素子。
【請求項11】
前記半導体層を、金属酸化物半導体材料により形成される層としたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−80490(P2010−80490A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244032(P2008−244032)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】