説明

半導体装置、半導体装置の製造方法及びプラズマCVD用ガス

本発明は、420℃以下の熱履歴を経たフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を備えた半導体装置に関する。本発明の特徴は、前記フッ素添加カーボン膜中の水素原子の含有量が、前記熱履歴を経る前において、3原子%以下であることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素添加カーボン膜(フルオロカーボン膜)からなる絶縁膜、例えば層間絶縁膜、を備えた半導体装置及び半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、半導体装置の製造方法に有用なプラズマCVD用ガスに関する。
【背景技術】
【0003】
半導体装置の高集積化を図るための手法の一つとして、配線を多層化する技術がある。多層配線構造をとるために、n番目の配線層と(n+1)番目の配線層とが導電層で接続されると共に、導電層以外の領域には層間絶縁膜と呼ばれる薄膜が形成される。この層間絶縁膜の代表的なものとして、SiO膜があるが、近年デバイスの動作についてより一層の高速化を図るために、層間絶縁膜の比誘電率をより低くすることが要求されている。
【0004】
このような要請により、炭素(C)及びフッ素(F)の化合物であるフッ素添加カーボン膜が注目されている。SiO膜の比誘電率が4付近であるのに対して、フッ素添加カーボン膜の比誘電率は、原料ガスの種類を選定すれば、2以下になる。従って、フッ素添加カーボン膜は、層間絶縁膜として極めて有効な膜である。フッ素添加カーボン膜の原料ガスとしては種々のガスが知られている(特開平10−144675号:段落0017参照)。例えばC(オクタフロオロシクロペンテン)ガスは、網状構造体からなる膜を形成できる点で優れた原料ガスである。
【0005】
その他、フッ素添加カーボン膜の原料ガスに関する従来技術として、特開平9−237783号公報に記載された技術がある。当該技術によれば、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンまたは、ヘキサフルオロ−2−ブチンを原料にして、プラズマCVD法によりフッ素化アモルファスカーボンの絶縁膜が形成され、それぞれ比誘電率は2.1または2.5を得ている。
【0006】
特開2002−220668号公報では、さまざまな不飽和フッ素化炭素化合物が成膜ガスとして用いられているが、膜密度および膜の表面粗さについての検討がされているだけである。
【0007】
特開2000−332001号公報では、高純度のオクタフルオロシクロペンテンを用いたプラズマCVDにより、比誘電率が2.4の膜を得ている。
【0008】
[発明の要旨]
フッ素添加カーボン膜の原料ガス中には、水素が微量ながら例えば10−2オーダの原子%含まれている。ただし、ここでいう原料ガス中の原子%とは、Cを一つの原子とみなして計算した値である。この微量ながら含まれる水素は、主として原料ガス中に完全に取り除くことができないで含まれていた水分を構成していた水素であると推測される。
【0009】
一方、このように微量な水素が含まれるCガスを用いてフッ素添加カーボン膜を成膜すると、膜中の水素含量は例えば5原子%もの値になる。原料ガス中の水素含量は極微量であるのに、膜中の水素含量は多い。この理由は、原料ガス中の水素がフッ素の未結合手に選択的に結合するからであると考えられる。
【0010】
しかしながら、フッ素添加カーボン膜中に水素が取り込まれていると、この水素はフッ素と結合してフッ化水素を生成する。そして、デバイスの製造工程中において例えば350℃以上に加熱されると、このフッ化水素は膜から抜けてしまう。この結果、フッ素添加カーボン膜の重量減少が起こる。つまり、原料ガス中に水素が含まれていると、フッ素添加カーボン膜は熱的安定性に欠けるという課題がある。そして、加熱工程時に脱ガスが起こると、膜が空洞化して脆くなってしまい、密着性が悪くなり、層間絶縁膜による配線の押さえ込み作用が低下し、配線のうねりやエレクトロマイグレーションが発生しやすくなる。更に、フッ化水素による配線の腐食も懸念される。
【0011】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものである。その目的は、良好なフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を備えた半導体装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、炭素及びフッ素の化合物からなる原料ガスを用いてフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を成膜するにあたり、熱的安定性に優れた絶縁膜を成膜することのできる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の半導体装置は、420℃以下の熱履歴、例えば350℃〜420℃以下の熱履歴、を経たフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を備え、前記フッ素添加カーボン膜中の水素原子の含有量が、前記熱履歴を経る前において、3原子%以下であることを特徴とする。この絶縁膜は、例えば層間絶縁膜である。
【0013】
一般に、フッ素添加カーボン膜中に水素原子が含まれていると、後工程における加熱時に、水素とフッ素とが反応してフッ化水素となって膜中から抜けてしまう(脱ガスする)おそれがある。しかしながら、本発明によれば、420℃以下の熱履歴例えば350℃〜420℃の熱履歴の前において、フッ素添加カーボン膜中の水素原子の含有量が3原子%以下であるために、熱履歴を受ける際のフッ素添加カーボン膜の重量減少が少なく抑えられ得る。これにより、フッ素添加カーボン膜の絶縁膜としての機能低下が抑えられる。
【0014】
また、本発明は、炭素及びフッ素の化合物からなり、1×10−3原子%以下の含有量で水素原子を含む原料ガスをプラズマ化する工程と、プラズマ化された前記原料ガスを用いて、基板上に水素原子の含有量が3原子%以下であるようなフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を成膜する工程と、を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0015】
本発明によれば、炭素及びフッ素の化合物からなり1×10−3原子%以下の含有量で水素原子を含む原料ガスが用いられることにより、水素原子の含有量が3原子%以下のフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を得ることができる。
【0016】
ここで、原料ガス中の水素原子に関する原子%という単位の量は、炭素及びフッ素の化合物を一つの原子と見立てて計算される量である。水素以外に例えば酸素などの他の原子が原料ガス中に含まれる場合においても、それら不純物の含有量が極微量であることから、化合物の分子数に対する水素の原子数の割合を意味する当該単位の量が用いられる。
【0017】
一方で、絶縁膜中の水素原子に関する原子%という単位の量は、各原子の数の総数、例えば炭素原子、フッ素原子及び水素原子の数の総数、に対する水素原子の割合を示す量である。
【0018】
好ましくは、前記絶縁膜を成膜する工程の後において、前記基板を420℃以下の温度、例えば350℃〜420℃の温度、で加熱する工程を更に備える。
また、前記炭素及びフッ素の化合物は、例えばCである。
【0019】
一方、従来のプラズマCVD用ガスを用いた方法では、高集積度半導体装置の配線間容量低減に十分な効果がある比誘電率が小さい層間絶縁膜を得ることが出来なかった。
【0020】
本発明の目的は、比誘電率が小さな層間絶縁膜を製造するのに用いられるプラズマCVD用ガスを提供することにある。
【0021】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を加えたところ、プラズマCVD用ガス中の水素原子含有化合物の存在量が、プラズマCVD法により形成した膜の性能に大きく影響を及ぼすこと、およびプラズマCVD用ガス中の水素原子含有化合物量を抑えることにより、形成した膜の加熱処理時の腐食性ガス発生が抑制されることを見出し本発明を完成するに至った。
【0022】
かくして本発明によれば、不飽和フッ素化炭素化合物からなり、水素原子含有化合物量が90重量ppm以下であるプラズマCVD用ガスが提供される。
なお、水分含有量が3重量ppm以下であることが好ましい。
【0023】
そして、不飽和フッ素化炭素化合物が、オクタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロ−2−ペンチンまたはヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンであることが特に好ましい。
【0024】
さらに、プラズマCVD用ガスは、水素原子含有化合物を含有する不飽和フッ素化炭素化合物を焼成した吸着剤に接触させて製造することが好ましい。
【0025】
また、本発明によれば、上記ガスを用いてプラズマCVDを行なう工程を有する絶縁膜形成方法が提供される。
【0026】
本発明のプラズマCVD用ガスを用いて、プラズマCVDを行なうことにより、高集積度半導体装置の配線間容量低減に十分な効果がある比誘電率が小さな層間絶縁膜を再現性良く形成可能となるとともに、半導体装置の製造工程で該プラズマCVD用ガスで形成した層間絶縁膜を有する半導体素子に加熱処理しても腐食性ガスの発生がない顕著な効果を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】は、本発明の一実施の形態によってフッ素添加カーボン膜が成膜される様子を示す説明図である。
【図2】は、本発明の一実施の形態によって製造される半導体装置を示す断面図である。
【図3】は、本発明の一実施の形態に用いられるプラズマ成膜装置の一例を示す縦断側面図である。
【図4】は、図3のプラズマ成膜装置の第2のガス供給部を示す平面図である。
【図5】は、図3のプラズマ成膜装置のアンテナ部を一部断面で示す斜視図である。
【図6】は、フッ素添加カーボン膜の加熱温度と重量減少との関係を原料ガス中の水素量の差異に基づいて比較したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の半導体装置の製造方法は、フッ素添加カーボン膜(CF膜)からなる絶縁膜を成膜する工程を含む。絶縁膜として層間絶縁膜を成膜する実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、この実施の形態のイメージを示す図である。基板1として、例えばCMOSを含む集積回路形成用の基板が用いられる。例えば、表面にBPSG膜11が形成された基板が用いられる。BPSG膜11とは、ボロン(B)及びリン(P)がドープされたシリケートガラス膜である。このBPSG膜11に変えて、TEOSを原料として成膜されたシリコン酸化膜が用いられてもよい。
【0030】
原料ガス2としては、炭素及びフッ素の化合物である例えばCガスが用いられる。このCガス中の水素原子の含有量は、1×10−3原子%以下であることが必要である。
【0031】
このCガスをプラズマ化させると、プラズマ中に含まれる炭素及びフッ素の化合物の活性種が基板1の表面に堆積して、フッ素添加カーボン膜3が成膜される。このとき、原料ガス中に含まれる水素がフッ素添加カーボン膜3中に取り込まれる。既述のように、水素はフッ素の未結合手に選択的に結合する。これにより、フッ素添加カーボン膜3中に取り込まれる水素の量は、原料ガス中の含有率に比べて多くなる。
【0032】
水素原子の含有量が1×10−3原子%以下であるCガスを使用して後述のようにプラズマ処理すれば、フッ素添加カーボン膜3中に取り込まれる水素の量を3原子%以下に抑えることができる。この数値は、後述の実施例に基づくものである。原料ガス中の水素原子の含有量は、原料ガス中の水分量の測定値から計算で求めている。水分量で直接規定すれば、原料ガス中の水分量は0.5重量ppm(このときの水素原子の含有量の計算値は1.17×10−3原子%である)以下であることが好ましく、0.1重量ppm以下であればより一層好ましい。
【0033】
図2は、このようにして成膜された層間絶縁膜を備えた半導体装置の一例である。41はp型シリコン層、42、43は夫々ソース、ドレインをなすn型部分、44はゲート酸化膜、45はゲート電極である。これらにより、MOSトランジスタが構成されている。また、46はBPSG膜、47は例えばタングステン(W)からなる配線であり、48はサイドスペーサである。そして、BPSG膜46の上には、例えば銅からなる配線層51が埋め込まれた層間絶縁膜52が多層に積み上げられている(図2では便宜上2層としてある)。なお、53は例えば窒化シリコンからなるハードマスク、54は配線金属の拡散を防止するための例えばチタンナイトライドあるいはタンタルナイトライドなどからなる保護層、55は保護膜である。
【0034】
このような半導体装置の製造プロセスは、基板を加熱する工程を含んでいる。このため、層間絶縁膜52は、当該加熱工程のプロセス温度まで加熱される。加熱工程の例としては、絶縁膜の成膜、銅配線のアニール、ハードマスク例えばタンタルナイトライドのアニールなどが挙げられる。層間絶縁膜52を形成した後の加熱工程の中で最も高いプロセス温度は、一般には350℃〜420℃である。もっとも、本発明は、フッ素添加カーボン膜が成膜された後の熱処理温度が250℃〜350℃である場合、あるいは200℃から300℃である場合、においても適用できる。
【0035】
フッ素添加カーボン膜である層間絶縁膜52の中に含まれる水素は、加熱されると、フッ素と結合しフッ化水素(HF)となって膜から離脱する。その結果、膜が空洞化して脆くなってしまう。しかし、加熱工程の最高温度(つまり層間絶縁膜52の熱履歴)が上記の温度範囲の場合において、膜中の水素の含有量が3原子%以下であれば、フッ化水素の離脱量が少なく熱的安定性が優れていることが知見されたのである。
【0036】
次いで、水素原子の含有量が1×10−3原子%以下であるCガスを原料ガスとして層間絶縁膜を成膜するプラズマ成膜装置について、図3〜図5を参照しながら簡単に説明する。図中、61は処理容器(真空チャンバ)、62は温調手段を備えた載置台であり、載置台62には例えば13.56MHzのバイアス用高周波電源63が接続されている。
【0037】
前記処理容器61の上部には、載置台62と対向するように、例えば略円筒状に構成された例えばアルミナからなる第1のガス供給部64が設けられている。このガス供給部64における載置台62と対向する面には、多数の第1のガス供給孔65が形成されている。ガス供給孔65は、ガス流路66を介して第1のガス供給路67に連通している。第1のガス供給路67は、プラズマガスであるアルゴン(Ar)ガスやクリプトン(Kr)ガスなどの供給源に接続されている。
【0038】
載置台62と第1のガス供給部64との間には、例えば略円板状に構成された導電体からなる第2のガス供給部68が設けられている。ガス供給部68における載置台62と対向する面には、多数の第2のガス供給孔69が形成されている。ガス供給部68の内部には、例えば図4に示すように、ガス供給孔69と連通する格子状のガス流路71が形成されている。ガス流路71には、第2のガス供給路72が接続されている。また、第2のガス供給部68には、ガス供給部68を上下方向に貫通する多数の開口部73が形成されている。開口部73は、プラズマをガス供給部68の下方側の空間に通過させるために、例えば図4に示すように、隣接するガス流路71の間に形成されている。
【0039】
ここで、第2のガス供給部68は、第2のガス供給路72を介して原料ガスであるCガスの供給源(図示せず)と接続されている。これにより、この原料ガスは、第2のガス供給路72を介してガス流路71に順次通流し、前記ガス供給孔69を介して第2のガス供給部68の下方側の空間に一様に供給される。なお、74は排気管であり、真空排気手段75に接続されている。
【0040】
第1のガス供給部64の上部側には、例えばアルミナなどの誘電体により構成されたカバープレート76が設けられている。カバープレート76の上部側には、当該カバープレート76と密接するようにアンテナ部77が設けられている。アンテナ部77は、図5に示すように、円形の下面側が開口する扁平なアンテナ本体78と、アンテナ本体78の前記開口部を塞ぐように設けられ、多数のスリットが形成された円板状の平面アンテナ部材(スリット板)79と、を備えている。これらアンテナ本体78と平面アンテナ部材79とは、導体により構成され、扁平な中空の円形導波管を構成している。
【0041】
平面アンテナ部材79とアンテナ本体78との間には、例えばアルミナや酸化ケイ素、窒化ケイ素等の低損失誘電体材料により構成された遅相板81が設けられている。この遅相板81は、後述するマイクロ波の波長を短くして前記導波管内の管内波長を短くする。この実施の形態では、これらアンテナ本体78、平面アンテナ部材79、遅相板81によりラジアルラインスリットアンテナが構成されている。
【0042】
このように構成されたアンテナ部77は、平面アンテナ部材79がカバープレート76に密接するように、図示しないシール部材を介して処理容器61に装着されている。そして、このアンテナ部77は、同軸導波管82を介して外部のマイクロ波発生手段83と接続され、例えば周波数が2.45GHzあるいは84GHzのマイクロ波が供給されるようになっている。この際、同軸導波管82を構成する外側の導波管82Aがアンテナ本体78に接続され、中心導体82Bが遅相板81に形成された開口部を介して平面アンテナ部材79に接続されている。
【0043】
前記平面アンテナ部材79は、例えば厚さ1mm程度の銅板からなる。当該平面アンテナ部材79には、図5に示すように、例えば円偏波を発生させるための多数のスリット84が形成されている。具体的には、略T字状に僅かに離間させて配置された対のスリット84A,84Bの複数が、周方向に沿って例えば同心円状や渦巻き状に形成されている。なお、スリットの対は、略八字状に僅かに離間させて配置されてもよい。スリット84Aとスリット84Bとが相互に略直交するような関係で配置されているので、2つの直交する偏波成分を含む円偏波が放射される。スリット対84A,84Bが遅相板81により圧縮されるマイクロ波の波長に対応した間隔で配列されるならば、マイクロ波は平面アンテナ部材79より略平面波として放射される。
【0044】
続いて、上記成膜装置により実施される成膜プロセスの一例について説明する。先ず、基板であるウエハWが搬入されて載置台62上に載置される。続いて、処理容器61の内部が所定の圧力まで真空引きされ、第1のガス供給路67を介して第1のガス供給部64にプラズマガス例えばArガスが所定の流量例えば300sccmで供給されると共に、第2のガス供給路72を介して第2のガス供給部68に原料ガス例えばCガスが所定の流量例えば150sccmで供給される。そして、処理容器61内が例えばプロセス圧力13.3Paに維持され、載置台62の表面温度が350℃に設定される。
【0045】
一方、マイクロ波発生手段83から2.45GHz、2000Wの高周波(マイクロ波)が供給される。このマイクロ波は、TMモード或いはTEモード或いはTEMモードで同軸導波管82内(中心導体82B内)を伝搬して、アンテナ部77の平面アンテナ部材79に到達する。そして、平面アンテナ部材79の中心部から周縁領域に向けて放射状に伝搬される間に、スリット対84A,84Bから、マイクロ波は、カバープレート76及び第1のガス供給部64を介して当該ガス供給部64の下方側の処理空間に向けて放出される。
【0046】
このとき、既述のようなスリット対84A,84Bの配列のために、円偏波が平面アンテナ部材79の平面に亘って均一に放出され、この下方の空間における電界密度が均一化される。そして、このマイクロ波のエネルギーにより、第1のガス供給部64と第2のガス供給部68との間の空間に高密度で均一な例えばアルゴンガスのプラズマが励起される。一方、第2のガス供給部68から吹き出されたCガスは、開口部73を介して上側に回り込み、前記プラズマに接触して活性化される。Cガスから生成されるこの活性種は、前記開口部73を介して第2のガス供給部68の下方側の成膜処理空間に降りてきて、ウエハWの表面に堆積する。これにより、フッ素添加カーボン膜からなる層間絶縁膜が成膜される。即ち、このプラズマ処理装置によれば、プラズマ空間の下方側に活性種が存在する成膜空間(ここは発光していない)が形成され、いわばソフトな活性種によりフッ素添加カーボン膜が成膜される。これにより、緻密で密着性が高く、熱的安定性の高い薄膜が得られる。
【0047】
上述の例では層間絶縁膜を例に挙げているが、層間絶縁膜以外の絶縁膜であってもよい。また、原料ガスとしては、Cガスに限らず、CFガス、Cガス、Cガス、Cガス及びCガスなどを用いることができる。原料ガス中のフッ素(F)と炭素(C)との比率(F/C)は、1〜4であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。更にまた、フッ素添加カーボン膜中のF/Cが0.1よりも小さくなると、当該フッ素添加カーボン膜が導電性を帯びるようになり、1.5を越えると、当該フッ素添加カーボン膜の密着性が悪くなる。従って、F/Cは、0.1〜1.5が好ましく、0.1〜0.7がより好ましい。
【実施例1】
【0048】
水素の含有量が1.17×10−3原子%であるCガスを原料ガスとして用い、上述のプラズマ成膜装置を用い、プラズマ処理を行い2つのベアシリコン基板上に500nmのフッ素添加カーボン膜を成膜した。水素の含有量は、水分の含有量から計算で求めた値である。水分の含有量は、質量分析から求め、その値は0.5重量ppmであった。流量や電力などのプロセス条件は、上述の数値通りである。
【0049】
そして、一方のシリコン基板を真空雰囲気の容器内で10℃/分の昇温速度で加熱し、電子天秤により重量を測定し、室温から425℃までの範囲において各温度における重量減少を求めた。結果は図6の実線aに示すとおりである。
【0050】
また、他方のシリコン基板について、フッ素添加カーボン膜中の水素の濃度を調べたところ、3原子%であった。水素濃度の測定は、ラザフォード散乱分光により行った。なお、既述のように、原料ガス中の原子%は、Cを一つの原子として(CとFとにばらすことなく)計算した値である。Cの比率は略100%であることから、例えば原料ガス中に酸素が極微量に含まれていたとしても、Cの分子数(みなし原子数)に対する水素の原子数の比率になる。
一方、フッ素添加カーボン膜中の原子%は、{水素の原子数/(水素の原子数+炭素の原子数+フッ素の原子数)}×100で表される。
【0051】
(比較例1)
水素の含有量が15.2×10−3原子%であるCガスを原料ガスとして用い、その他は前記実施例1と同様にし、2枚のベアシリコン基板上に500nmのフッ素添加カーボン膜を成膜した。前記実施例1と同様の試験を行い、重量減少を調べた。水素の含有量は、水分の含有量から計算で求めた値であり、水分の含有量は6.5重量ppmであった。結果は図6の実線bに示すとおりである。
また、他方のシリコン基板について、フッ素添加カーボン膜中の水素の濃度を調べたところ、5原子%であった。
【0052】
(考察)
図6に示すように、室温から350℃付近までは、実施例1及び比較例1のいずれのフッ素添加カーボン膜についても、重量減少はほとんどない。しかし、350℃を越えたあたりから、比較例1の膜については重量減少が顕著になってくる。一方、実施例1の膜については、380℃付近まで重量減少の程度は小さいが、380℃付近を越えると重量減少が顕著になってくる。しかしながら、420℃に至るまでは、実施例1の膜は、比較例1の膜に比べて重量減少の程度が小さいと言える。また、425℃になると、いずれの膜も、重量減少が激しくなって10%よりも大きくなってしまう。
【0053】
即ち、フッ素添加カーボン膜が350℃〜420℃の熱履歴を受ける場合、つまり、フッ素添加カーボン膜が成膜された後の工程中に当該範囲の温度まで加熱される工程が含まれる場合には、実施例1の膜の方が、比較例1の膜に比べて重量減少が小さい。また、このことは、重量減少をある値以下に抑えようとする場合であっても、加熱工程のプロセス温度を高くできることを意味している。後工程である成膜工程などにおいて、良質な薄膜を得るために、あるいは、プロセス時間を短くしてスループットを高くするために、プロセス温度を高くすることは有利である場合が多い。従って、プロセス温度を高くできることは、半導体製造工程としては有利である。
【0054】
以上のように、水素の含有濃度が3原子%のフッ素添加カーボン膜は、水素の含有濃度が5原子%のフッ素添加カーボン膜に比べて、重量減少が小さい。これは、膜中の水素とフッ素とが結合してフッ化水素として膜から離脱する量が小さいからと考えられる。従って、脱ガス量が少ないことから、膜の空洞化が抑えられ、配線のうねりやエレクトロマイグレーションの発生が低減される。また、フッ化水素による配線の腐食も抑制され、この結果、歩留まりが向上する。
【0055】
フッ素添加カーボン膜中の水素の含有濃度がマージンを見積もって3.0原子%以下であれば、上述の効果を十分得ることができる。そのためには、原料ガスである炭素とフッ素とを含む化合物のガス中の水素の原子%が、1×10−3原子%以下であればよいことが確認された。
【0056】
次に、本発明のプラズマCVD用ガスの実施の形態について詳細に説明する。本発明のプラズマCVD用ガスは、不飽和フッ素化炭素化合物からなり、水素原子含有化合物量が90重量ppm以下であることを特徴とする。
【0057】
本発明のプラズマCVD用ガスとして使用する不飽和フッ素化炭素化合物は、炭素原子およびフッ素原子のみから構成され、二重結合又は三重結合を有する化合物をいう。その炭素数は好ましくは2〜7、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは4〜5、特に好ましくは5である。該不飽和フッ素化炭素化合物の具体例としては、テトラフルオロエチレンなどの炭素数が2である不飽和フッ素化炭素化合物;ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロプロピン、テトラフルオロシクロプロペンなどの炭素数が3の不飽和フッ素化炭素化合物;ヘキサフルオロ−2−ブチン、ヘキサフルオロ−1−ブチン、ヘキサフルオロシクロブテン、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン、ヘキサフルオロ−(1−メチルシクロプロペン)、オクタフルオロ−1−ブテン、オクタフルオロ−2−ブテンなどの炭素数が4の不飽和フッ素化炭素化合物;オクタフルオロ−1−ペンチン、オクタフルオロ−2−ペンチン、オクタフルオロ−1,3−ペンタジエン、オクタフルオロ−1,4−ペンタジエン、オクタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロイソプレン、ヘキサフルオロビニルアセチレン、オクタフルオロ−(1−メチルシクロブテン)、オクタフルオロ−(1,2−ジメチルシクロプロペン)などの炭素数が5の不飽和フッ素化炭素化合物;ドデカフルオロ−1−ヘキセン、ドデカフルオロ−2−ヘキセン、ドデカフルオロ−3−ヘキセン、デカフルオロ−1,3−ヘキサジエン、デカフルオロ−1,4−ヘキサジエン、デカフルオロ−1,5−ヘキサジエン、デカフルオロ−2,4−ヘキサジエン、デカフルオロシクロヘキセン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタフルオロ−2−ヘキシン、オクタフルオロ−3−ヘキシン、オクタフルオロシクロ−1,3−ヘキサジエン、オクタフルオロシクロ−1,4−ヘキサジエンなどの炭素数が6の不飽和フッ素化炭素化合物;ウンデカフルオロ−1−ヘプテン、ウンデカフルオロ−2−ヘプテン、ウンデカフルオロ−3−ヘプテン、ドデカフルオロシクロヘプテンなどの炭素数が7の不飽和フッ素化炭素化合物;が挙げられるが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロプロピン、テトラフルオロシクロプロペン、ヘキサフルオロ−2−ブチン、ヘキサフルオロ−1−ブチン、ヘキサフルオロシクロブテン、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン、ヘキサフルオロ−(1−メチルシクロプロペン)、オクタフルオロ−1−ブテン、オクタフルオロ−2−ブテン、オクタフルオロ−1−ペンチン、オクタフルオロ−2−ペンチン、オクタフルオロ−1,3−ペンタジエン、オクタフルオロ−1,4−ペンタジエン、オクタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロイソプレン、ヘキサフルオロビニルアセチレン、オクタフルオロ−1−メチルシクロブテン、オクタフルオロ−1,2−ジメチルシクロプロペンが好ましく、ヘキサフルオロ−2−ブチン、ヘキサフルオロ−1−ブチン、ヘキサフルオロシクロブテン、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン、ヘキサフルオロ−(1−メチルシクロプロペン)、オクタフルオロ−1−ブテン、オクタフルオロ−2−ブテン、オクタフルオロ−1−ペンチン、オクタフルオロ−2−ペンチン、オクタフルオロ−1,3−ペンタジエン、オクタフルオロ−1,4−ペンタジエン、オクタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロイソプレン、ヘキサフルオロビニルアセチレン、オクタフルオロ−(1−メチルシクロブテン)、オクタフルオロ−(1,2−ジメチルシクロプロペン)がより好ましく、オクタフルオロ−2−ペンチン、オクタフルオロ−1,3−ペンタジエン、オクタフルオロシクロペンテンがさらに好ましく、オクタフルオロ−2−ペンチン、オクタフルオロシクロペンテンが特に好ましく、オクタフルオロ−2−ペンチンがとりわけ好ましい。
【0058】
本発明のプラズマCVD用ガスは、不飽和フッ素化炭素化合物を通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上、特に好ましくは99.9重量%以上含有する。なお、本発明のプラズマCVD用ガスは、本発明の目的を阻害しない範囲で別種のプラズマCVD用ガスや希釈ガスを含有することもできるが、不飽和フッ素化炭素化合物以外の成分を含有しないことが好ましい。
【0059】
本発明において、水素原子含有化合物とは、プラズマCVD用ガス中に存在する水素原子を有する有機化合物、および水などの水素原子を有する無機化合物を意味する。
【0060】
本発明のプラズマCVD用ガス中の水素原子含有化合物量は90重量ppm以下、より好ましくは70重量ppm以下、さらに好ましくは50重量ppm以下、特に好ましくは10重量ppm以下である。また、本発明のプラズマCVD用ガス中の水分含有量は3重量ppm以下が好ましく、1重量ppm以下がさらに好ましく、0.5重量ppm以下が特に好ましい。具体的な例を挙げると、水素原子の含有量が1×10−3原子%以下であるプラズマCVDガスを使用した場合、成膜された膜中の水素の量を3原子%以下に抑えることができた。この場合におけるプラズマCVDガス中の水素原子化合物の量を水分量であらわすと、0.5重量ppm(水素原子の含有量の計算値は1.17×10−3原子%である)である。このことから、プラズマCVDガス中の水分量は0.5重量ppm以下が好ましく、0.1重量ppm以下であることがより望ましいことが判明した。
【0061】
プラズマCVD用ガス中に水素原子含有化合物が存在すると、プラズマCVD法により形成された膜中に水素原子が取り込まれる。この水素原子の存在により、膜の比誘電率の上昇、膜形成の再現性の低下、膜を加熱処理したときの腐食性ガスの発生等が起きる。プラズマCVD法により形成した膜を層間絶縁膜として使用して半導体装置を製造する場合、層間絶縁膜を有する半導体素子に加熱処理を行う工程が幾つもあるため、フッ化水素の発生は半導体素子そのものに大きな影響を及ぼしてしまう。したがって、プラズマCVD用ガス中の水素原子含有化合物量を上記範囲に制御すれば、比誘電率を下げたり、膜形成の再現性を良くしたり、半導体素子に悪影響を及ぼすフッ化水素の発生を防止する効果がある。
【0062】
なお、プラズマCVD用ガス中の水素原子含有化合物量は、例えば、水素原子を有する有機化合物についてはガスクロマトグラフィー質量分析計により求め、水分についてはカールフィッシャー水分計により求めることが出来る。
【0063】
水素原子を有する有機化合物の低減方法としては、吸着材により除去する、蒸留して低減する、あるいは、化学反応により別の沸点差の大きい化合物に変換してから蒸留する、などの方法を適宜選択することができるが、吸着剤による除去が好ましい。水分についても、吸着剤による方法が好適に用いられる。水素原子を有する有機化合物の低減に用いられる吸着剤としては、分子ふるい効果を有するゼオライト、モレキュラーシーブス3A、モレキュラーシーブス4A、モレキュラーシーブス5A、モレキュラーシーブス13Xや、その他ゼオライト、アルミナ、アルミナゲル、シリカ、シリカゲル、活性炭を挙げることができる。活性炭も木炭、ヤシ殻炭、パーム核炭、素灰などを原料とする植物質系、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭などを原料とする石炭系などの中から適宜選択して使用することができる。水分の低減に用いられる吸着剤としては、分子ふるい効果による吸着除去剤として良く使用されるモレキュラーシーブス3A、モレキュラーシーブス4A、モレキュラーシーブス5A、モレキュラーシーブス13Xや、アルミナなどを挙げることができるが、除去性能の観点及び前記水素原子を有する有機化合物の低減も同時に行なうことができることから、モレキュラーシーブス13Xの使用が好ましい。また、これらの吸着剤は、水素原子含有化合物の除去能力向上の観点から、使用前にヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で通常100℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは300℃で焼成し活性化してから用いることが好ましい。なお、吸着剤の焼成時間は、通常5時間以上、好ましくは10時間以上である。
【0064】
さらに、吸着剤の使用量は、処理すべき水素原子含有化合物を含有する不飽和フッ素化炭素化合物100重量部当たり、好ましくは5〜100重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。吸着剤の使用量が少なすぎると、水素原子含有化合物の除去が不十分となる傾向があり、吸着剤の使用量が多すぎると、製造コストが高くなる。
【0065】
また、水素原子含有化合物を含有する不飽和フッ素化炭素化合物と、上記吸着剤との接触方法は、該不飽和フッ素化炭素化合物の入った容器に吸着剤を投入して放置する浸漬法、吸着剤を充填した管に該不飽和フッ素化炭素化合物をガス状または液状で流して接触させる流通式などのいずれの方法でも良く該不飽和フッ素化炭素化合物の性質に合わせて適宜選択することができる。
【0066】
なお、水素原子含有化合物を含有する不飽和フッ素化炭素化合物を得る方法としては、オクタフルオロシクロペンテンを例にとると、特開平9−95458号公報に記載されているように、1,2−ジクロロヘキサフルオロシクロペンテンを窒素気流下、ジメチルホルムアミド中でフッ化カリウムと反応させながら、反応器に装備した精留塔から生成物を抜き出すことにより、純度99.8〜99.98%のものが得られる。こうして得られたオクタフルオロシクロペンテンを高段数を有する精留塔にて精密蒸留を行って、水分が30重量ppm程度のものを得ることができる。
【0067】
また、オクタフルオロ−2−ペンチンを例にとると、公知の方法、もしくは本発明者らの出願に係る方法により製造することができる。本発明者らの出願に係る特願2001−342791によれば、2,3−ジヒドロデカフルオロペンタンと溶融水酸化カリウムを接触させて、生成するガス状化合物を冷却したトラップ内に捕集し、捕集された粗生成物を精留塔にて精密蒸留することにより、純度99.9%以上のオクタフルオロ−2−ペンチンが得られる。精密蒸留の際に、留分は冷却したトラップ内に捕集され、水分20重量ppm程度のものが得られる。
【0068】
また、本発明のプラズマCVD用ガス中には、微量ガス成分である窒素ガスと酸素ガスが存在する場合もあるが、窒素ガスと酸素ガスの合計量は、プラズマCVD用ガスの容量基準で30容量ppm以下が好ましい。
【0069】
なお、本発明のプラズマCVD用ガスは、任意の容器に充填して半導体の製造工程などのプラズマ反応に供される。なお、プラズマ反応を行なう際に、本発明のプラズマCVD用ガスは、通常、プラズマCVD装置の中で、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの不活性ガスとともに供給される。これらの不活性ガスは、プラズマCVD用ガス希釈効果並びにプラズマの電子温度および電子密度を変化させる効果を有することから、プラズマ反応中のラジカルおよびイオンのバランスを制御して、適正な成膜条件を得ることが可能となる。プラズマCVD装置の中における不活性ガスの供給量は、本発明のプラズマCVD用ガス1モルに対して、通常、2〜100モル、好ましくは5〜20モルである。
【0070】
本発明のプラズマCVD用ガスを用いるCVDとは、プラズマ放電により不飽和フッ素化炭素化合物を活性化させて、イオン、ラジカルなどの活性種を発生させ、被処理物表面にフルオロカーボンのポリマー膜を形成せしめることを言う。ポリマー膜が形成される工程は必ずしも明確ではないが、電離解離条件下において、イオン、ラジカル種の発生とともに、不飽和フッ素化炭素化合物の重合、開環反応等さまざまな反応が複雑に関与しているものと考えられる。被処理物は特に限定されないが、半導体製造分野、電気電子分野および精密機械分野に用いられる物品、あるいは機能面から言えば、絶縁性、撥水性、耐腐食性、耐酸性、潤滑性、反射防止等が要求される物品や部材表面である。その中でも、特に、半導体装置の製造工程における絶縁膜および絶縁材料層の形成、並びに有機エレクトロルミネセンス素子の保護膜の形成に特に好適に使用される。その具体例としては、アルミニウム、銅またはタングステン金属配線上における層間絶縁膜、素子を保護するパッシベーション膜の形成などが挙げられる。プラズマCVDの手法としては、例えば特開平9−237783号公報に記載の方法などを用いることができる。プラズマ発生条件は、通常、平行平板の上部電極(シャワーヘッド)に印加する高周波電力10W〜10kW、被処理物温度0〜500℃、反応室圧力0.0133Pa〜13.3kPaの条件が採用される。堆積する膜の厚さは、通常、0.01〜10μmの範囲である。プラズマCVDに用いる装置としては、平行平板型CVD装置が一般的であるが、マイクロ波CVD装置、ECR−CVD装置、誘導結合プラズマ(ICP)CVD装置、および高密度プラズマCVD装置(ヘリコン波式、高周波誘導式)を用いることができる。
【0071】
以下にプラズマCVDガスの実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りが無い限り、実施例および比較例中の「部」、「%」、および「ppm」はそれぞれ、「重量部」、「重量%」、および「重量ppm」を意味する。
【0072】
また、以下の実施例および比較例における分析条件は下記のとおりである。
<分析条件1:ガスクロマトグラフィー分析(以下、「GC分析」と略す。)>
装置:ヒューレットパッカード社製HP6890
カラム:Ultra Alloy−1(s)
(長さ50m、内径0.25mm、膜厚1.5μm)
カラム温度:10分間80℃に固定、その後20分間で200℃に昇温
インジェクション温度:200℃
キャリアーガス:ヘリウム(流量1ml/分)
検出器:FID
内部標準物質:n−ブタンで行った。
【0073】
<分析条件2:ガスクロマトグラフィー質量分析(以下、「GC−MS分析」と略す。)>
[ガスクロマトグラフィー部分]
装置:ヒューレットパッカード社製 HP−6890
カラム:Frontier Lab Ultra ALLOY−1(s)
60m×I.D0.25mm、0.4μmdf
カラム温度:−20℃
キャリアーガス:ヘリウム
[質量分析計部分]
装置:ヒューレットパッカード社製 5973 NETWORK
検出器:EI型(加速電圧:70eV)
【0074】
<分析条件3:カールフィッシャー水分分析(以下、「KF分析」と略す。)>
装置:平沼産業製 AQ−7
発生液:ハイドラナール アクアライトRS
対極液:アクアライトCN
検出限界:0.5ppm
【実施例2】
【0075】
窒素気流下、滴下ロート、精留塔、温度計および攪拌装置を備えた四つ口フラスコにフッ化カリウム30部およびN,N−ジメチルホルムアミド47部を仕込んだ。精留塔塔頂部に備え付けられたジムロート冷却器に−20℃の冷媒を流し、精留塔の大気開放ラインに留分トラップを設けて、0.5時間かけてフラスコ内の温度を135℃に上げた。
【0076】
フラスコ内温度が135℃に到達後、17.1部/時間の速度で滴下ロートから1,2−ジクロロ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン50.2部を滴下して反応を開始した。反応開始から1.5時間経過した時、塔頂部の温度が生成物の沸点(27℃)に安定したのを確認して、留分の抜き出しを開始した。留分の抜き出し開始から3時間は0.105部/時間の留出速度で抜き出し、その後、塔頂部の温度が27℃から徐々に上昇し始めるまでの時間(留分の抜き出し開始から5時間)は、0.105部/時間以下の留出速度で留分の抜き出しを行ない、オクタフルオロシクロペンテン38.24部を得た。収率は87.8%、GC分析で求めた純度は99.82%であった。
【0077】
次に、得られたオクタフルオロシクロペンテン38.24部及び沸騰石をガラス製丸底フラスコに仕込み、フラスコを理論段数55段のスルーザーパック精留塔に取り付けた。蒸留塔上部のコンデンサーには5℃の冷却水を循環させ、丸底フラスコをオイルバスに浸し、65℃で1時間全還流させた。そして、還流比40:1で留分を抜き出し、受器に捕集したところオクタフルオロシクロペンテンが34.5部得られた。収率は90.2%、GC分析で求めた純度は99.98%であった。
【0078】
また、市販のモレキュラーシーブス13Xに、ヘリウム雰囲気下、350℃で12時間の焼成処理を施したものを用意した。
【0079】
次に、得られたオクタフルオロシクロペンテン34.5部をステンレス製容器に入れ、上記焼成処理を施したモレキュラーシーブス13Xを5.4部加え一晩放置した後、オクタフルオロシクロペンテンを孔径0.05μmのフィルターを通過させながらステンレス製シリンダーに移した。シリンダーをバルブを介して真空ラインに繋ぎ、ステンレス製シリンダーを液体窒素で冷却して凍結脱気を3回実施し、プラズマCVD用ガスを得た。シリンダー内のプラズマCVD用ガスをGC−MS分析したところ水素原子を有する有機化合物は検出されなかった(0ppm)。また、シリンダー内のプラズマCVD用ガスをKF分析したところ水分は検出限界以下であった。
【実施例3】
【0080】
ハステロイ製オートクレーブに、市販のペレット状水酸化カリウム(85%品)394部と、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(三井デュポンフロロケミカル製)300部を仕込んだ。内容物をよく攪拌して200℃、7.5時間反応させた。オートクレーブを冷却後、捕集用トラップと真空ポンプを接続した。次に真空ポンプを運転し、オートクレーブを減圧にすることにより反応混合物を留出させて、液体窒素で冷却したトラップへ捕集した。捕集物の収量は182.5部であった。これをGC分析すると、オクタフルオロ−2−ペンチン、1,1,1,2,4,5,5,5−ノナフルオロ−2−ペンテン(以下、「反応中間体A」と略す。)、1,1,1,3,4,5,5,5−ノナフルオロ−2−ペンテン(以下、「反応中間体B」と略す。)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンを含んでいた。仕込んだ原料基準の目的物の収率は20.6%、反応中間体A及びBの合計収率は44.2%であった。
【0081】
次に、ガラス製丸底フラスコに、得られた捕集物182.5部(オクタフルオロ−2−ペンチンの含有量は26.6%、反応中間体AおよびBの合計含有量は67.2%)を東科精機製KS型蒸留塔(理論段数35段)を用いて常圧で精留を行った。蒸留塔塔頂部の冷媒温度は−5〜−10℃に、留分トラップは−78℃に保った。この精留により、純度99.6%のオクタフルオロ−2−ペンチン留分(沸点5℃)を15.0部、純度99.9%のオクタフルオロ−2−ペンチン留分(沸点5℃)を9.4部、純度99.8%の反応中間体AおよびBの留分(沸点29℃)を89.5部得た。
【0082】
そして、得られた純度99.6%のオクタフルオロ−2−ペンチン留分15.0部および純度99.9%のオクタフルオロ−2−ペンチン留分9.4部を混合して再度、東科精機製KS型蒸留塔(理論段数35段)を用いて常圧にて精留を行った。精留の結果、純度99.99%のオクタフルオロ−2−ペンチン留分(沸点5℃)が13.0部得られた。
【0083】
また、市販のモレキュラーシーブス13Xに、ヘリウム雰囲気下、350℃で12時間の焼成処理を施したものを用意した。
【0084】
さらに、得られたオクタフルオロ−2−ペンチン留分(沸点5℃)13.0部をステンレス製容器に入れ、上記焼成処理を施したモレキュラーシーブス13Xを2.6部加え一晩放置した後、オクタフルオロ−2−ペンチンを孔径0.05μmのフィルターを通過させながらステンレス製シリンダーに移した。シリンダーをバルブを介して真空ラインに繋ぎ、ステンレス製シリンダーを液体窒素で冷却して凍結脱気を3回実施し、プラズマCVD用ガスを得た。シリンダー内のプラズマCVD用ガスをGC−MS分析したところ水素原子を有する有機化合物は検出されなかった(0ppm)。また、シリンダー内のプラズマCVD用ガスをKF分析したところ水分は検出限界以下であった。
【0085】
(比較例2)
ヘリウム雰囲気下に350℃で12時間焼成したモレキュラーシーブス13Xを5.4部使用する代わりに、市販のモレキュラーシーブズ13Xをそのまま2.7部使用した以外は、実施例2と同様にして実験を行ないステンレス製シリンダーに入れたプラズマCVD用ガスを得た。シリンダー内のプラズマCVD用ガスをGC−MS分析したところ水素原子を有する有機化合物の合計量は、プラズマCVD用ガス重量基準で150ppmであった。また、シリンダー内のプラズマCVD用ガスをKF分析したところ水分はプラズマCVD用ガス重量基準で5ppmであった。
【0086】
(比較例3)
ヘリウム雰囲気下に350℃で12時間焼成したモレキュラーシーブス13Xを2.6部使用する代わりに、未処理のモレキュラーシーブス13Xを2.6部使用した以外は、実施例2と同様にして実験を行ないステンレス製シリンダーに入れたプラズマCVD用ガスを得た。シリンダー内のプラズマCVD用ガスをGC−MS分析したところ水素原子を有する有機化合物はモノフルオロアセチレン、ペンタフルオロエタン、1,1−ジヒドロテトラフルオロペンテン、3,3,3−トリフルオロプロピンの4種類がそれぞれ20.5%、3.5%、20%、56%の割合で存在し、その合計量はプラズマCVD用ガスの重量基準で130ppmであった。また、シリンダー内のプラズマCVD用ガスをKF分析したところ水分はプラズマCVD用ガスの重量基準で6ppmであった。
【実施例4】
【0087】
実施例2で製造したプラズマCVD用ガスを使ってプラズマCVDによる成膜を実施した。
基板として一部アルミ蒸着したシリコン酸化膜ウェハを用い、プラズマCVD装置として平行平板型プラズマCVD装置を用い、そして実施例2で製造したプラズマCVD用ガスを使用して、次の条件により絶縁膜のプラズマCVDを実施した。プラズマCVD用ガスの流量:40sccm、アルゴンの流量:400sccm、圧力:250mTorr,RF出力(周波数13.56MHz):400W、基板温度:260℃。
【0088】
上記条件で処理した基板上に厚さ0.5μmの膜を得た。この膜はボイドの発生もなく緻密で均一であり、基板への密着性も良好であった。膜の比誘電率は2.2であり、成膜したシリコンウェハを真空容器内に置き、減圧下400℃で加温処理を行っても、フッ化水素の発生は認められなかった。
【実施例5】
【0089】
プラズマCVD用ガスを実施例3で製造したものに代える以外は、実施例4と同様に実験を行ない基板上に厚さ0.4μmの膜を得た。この膜はボイドの発生もなく緻密で均一であり、基板への密着性も良好であった。膜の比誘電率は1.8であり、成膜したシリコンウェハを真空容器内に置き、減圧下400℃で加温処理を行っても、フッ化水素の発生は認められなかった。
【0090】
(比較例4)
プラズマCVD用ガスを比較例2で製造したものに代える以外は、実施例4と同様に実験を行ない基板上に厚さ0.5μmの膜を得た。この膜はボイドの発生もなく緻密で均一であり、基板への密着性も良好であった。膜の比誘電率は2.4であった。しかしながら、成膜したシリコンウェハを真空容器内に置き、減圧下400℃で加温処理を行ったところ、GC−MS分析によりフッ化水素の発生が認められた。
【0091】
(比較例5)
プラズマCVD用ガスを比較例2で製造したものに代える以外は、実施例3と同様に実験を行ない基板上に厚さ0.4μmの膜を得た。この膜はボイドの発生もなく緻密で均一であり、基板への密着性も良好であった。膜の比誘電率は2.0であった。しかしながら、成膜したシリコンウェハを真空容器内に置き、減圧下400℃で加温処理を行ったところ、GC−MS分析によりフッ化水素の発生が認められた。
【0092】
実施例4〜5および比較例4〜5の結果を表1に示す。表1より、本発明の製造方法により、不飽和フッ素化炭素化合物からなり、水素原子含有化合物量が90ppm以下のプラズマCVD用ガスが得られていることがわかる。また、本発明のプラズマCVD用ガスを用いた実施例4〜5は、CVDにより生成した膜の比誘電率が低減され、かつ腐食性ガスであるフッ化水素の生成が抑制出来ていた。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
420℃以下の熱履歴を経たフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を備えた半導体装置であって、
前記フッ素添加カーボン膜中の水素原子の含有量が、前記熱履歴を経る前において、3原子%以下である
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁膜は、層間絶縁膜である
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
炭素及びフッ素の化合物からなり、1×10−3原子%以下の含有量で水素原子を含む原料ガスをプラズマ化する工程と、
プラズマ化された前記原料ガスを用いて、基板上に水素原子の含有量が3原子%以下であるようなフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を成膜する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁膜を成膜する工程の後において、前記基板を420℃以下の温度で加熱する工程を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記炭素及びフッ素の化合物は、Cである
ことを特徴とする請求項3または4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
不飽和フッ素化炭素化合物からなり、水素原子含有化合物量が90重量ppm以下である
ことを特徴とするプラズマCVD用ガス。
【請求項7】
水素原子含有化合物量が10重量ppm以下である
ことを特徴とする請求項6に記載のプラズマCVD用ガス。
【請求項8】
水分含有量が3重量ppm以下である
ことを特徴とする請求項6に記載のプラズマCVD用ガス。
【請求項9】
前記不飽和フッ素化炭素化合物が、オクタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロ−2−ペンチンまたはヘキサフルオロ−1,3−ブタジエンである
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載のプラズマCVD用ガス。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載のCVD用ガスを製造する方法であって、
水素原子含有化合物を含有する不飽和フッ素化炭素化合物を、焼成した吸着剤に接触させる工程
を備えたことを特徴とするCVD用ガスの製造方法。
【請求項11】
請求項6乃至9のいずれかに記載のCVD用ガスを用いて、プラズマCVD処理を行う工程
を備えたことを特徴とする絶縁膜形成方法。
【請求項12】
不飽和フッ素化炭素化合物からなり、水素原子の含有量が1×10−3原子%以下である
ことを特徴とするプラズマCVD用ガス。
【請求項13】
不飽和フッ素化炭素化合物からなり、水分含有量が0.5重量ppm以下であることを特徴とするプラズマCVD用ガス。
【請求項14】
水分含有量が0.1重量ppm以下である
ことを特徴とする請求項13に記載のプラズマCVD用ガス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/017991
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513174(P2005−513174)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011595
【国際出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(000205041)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】