説明

半導体装置製造用接着シート及び半導体装置並びにその製造方法

【課題】半導体装置の製造に用いた場合に、熱硬化型接着剤のワイヤボンディング性、モールドフラッシュ特性を維持したまま、糊残りを防止することができ、半導体装置の不良品化を防止することができる半導体装置製造用接着シート等の提供。
【解決手段】基材と、熱硬化性樹脂成分を含有した接着剤層とを有し、かつ半導体装置のリードフレームまたは配線基板に剥離可能に貼着される半導体装置製造用接着シートにおいて、前記接着剤層はフッ素樹脂及び反応性エラストマーを含有することを特徴とする半導体装置製造用接着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置製造用接着シート及び半導体装置並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型パソコン、携帯電話等の電子機器の小型化、多機能化に伴い、電子機器を構成する電子部品の小型化、高集積化の他、電子部品の高密度実装技術が必要になっている。このような背景下、従来のQFP(Quad Flat Package)やSOP(Small Outline Package)等の周辺実装型の半導体装置に代わって、高密度実装が可能なCSP(Chip Scale Pakeage)等の面実装型の半導体装置が注目されている。また、CSPの中でも特にQFN(Quad Flat Non-leaded)は、従来の半導体装置の製造技術を適用して製造できるため好適であり、主に100ピン以下の少端子型の半導体装置として用いられている。
【0003】
従来、QFNの製造方法として、概略下記の方法が知られている。
はじめに、接着シート貼着工程において、リードフレームの一方の面に接着シートを貼着し、次いで、ダイアタッチ工程において、リードフレームに複数形成された半導体素子搭載部(ダイパッド部)に、ICチップ等の半導体素子を各々搭載する。次に、ワイヤボンディング工程において、リードフレームの各半導体素子搭載部の外周に沿って配設された複数のリードと半導体素子とをボンディングワイヤにより電気的に接続する。次に、樹脂封止工程において、リードフレームに搭載された半導体素子を封止樹脂により封止する。その後、接着シート剥離工程において、接着シートをリードフレームから剥離することにより、複数のQFNが配列されたQFNユニットを形成することができる。最後に、ダイシング工程において、このQFNユニットを各QFNの外周に沿ってダイシングすることにより、複数のQFNを同時に製造することができる。
【0004】
従来、上記概略説明したQFNの製造方法においては、シリコーン粘着剤やアクリル粘着剤を使用した接着シートが使用されてきた。しかし、シリコーン粘着剤に起因して、モールドフラッシュの問題が生じることがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−294579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワイヤボンディング工程前にプラズマクリーニングを実施して、表面に付着した不純物を除去することにより、ワイヤボンディング特性をさらに向上させることが一般化している。
しかしながら、上記構成の従来の半導体装置製造用接着シートを用いた場合、半導体装置製造用接着シートの接着剤露出面表層がプラズマクリーニングにより粗化され、半導体用接着シートの剥離時に、半導体装置の接続端子、封止樹脂面への接着剤移行(以下「糊残り」と表記することがある)が発生することがあった。このような糊残りが発生した場合に、封止樹脂により封止した部分や、その近傍のリードの外部接続端子部分に接着剤が付着するため、製造された半導体装置を配線基板等に実装する際に、接続不良が発生する恐れがあった。
【0006】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、QFN等の半導体装置の製造に用いた場合に、モールドフラッシュ特性を防止することができ、かつ糊残りを防止することができ、これにより半導体装置の不良品化を防止することができる半導体装置製造用接着シート及び半導体装置並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、基材と、接着剤層とを有し、かつ半導体装置のリードフレームまたは配線基板に剥離可能に貼着される半導体装置製造用接着シートにおいて、前記接着剤層はフッ素樹脂及び反応性エラストマーを含有することを特徴とする半導体装置製造用接着シートである。
前記フッ素樹脂は、フルオロオレフィンとビニルエーテルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体及び/またはフルオロオレフィンとビニルエステルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体であることが好ましい。
前記反応性エラストマーは、無水マレイン酸含有スチレン−エチレン−ブチレン共重合体であることが好ましい。
また、接着剤層の片面に保護フィルムが設けられていると好ましい。
【0008】
本発明の第2の態様は、本発明の半導体装置製造用接着シートを用いて製造されたことを特徴とする半導体装置である。
本発明の第3の態様は、本発明の半導体装置製造用接着シートを用いて製造することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の半導体装置製造用接着シートにおいては、接着剤層がプラズマクリーニングに曝されても、適切な剥離性を保持し、糊残りが発生しないため、本発明の接着シートを用いて、QFN等の半導体装置を製造することにより、モールドフラッシュはもとより、糊残りを防止することができ、半導体装置の不良品化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
本発明の接着シートは、半導体装置のリードフレームまたは配線基板に剥離可能に貼着されるものである。ここで、リードフレームとは、金属板をエッチング又はプレス等により導体パターンを形成したものであり、配線基板とは、電気絶縁性基板の表面(または内面を含むことがある)に、導体パターンを導電性材料で形成し、固着したもののことである。
尚、以下の説明では、便宜的に、リードフレームを貼着対象として説明するが、配線基板に対しても同様である。
【0011】
本発明の接着シートは、基材と、接着剤層とを有するものである。
基材としては、耐熱性のあるもの、例えば、耐熱性樹脂フィルムや金属箔等を挙げることができる。
本発明の接着シートを用いてQFN等の半導体装置を製造する際に、接着シートは、ダイアタッチ工程、ワイヤボンディング工程、樹脂封止工程において、150〜250℃の高温に曝されるが、基材として耐熱性樹脂フィルムを用いる場合、該耐熱性フィルムの熱膨張係数はガラス転移温度(Tg)以上になると急激に増加し、金属製のリードフレームとの熱膨張差が大きくなるため、室温に戻した際に、耐熱性フィルムとリードフレームに反りが発生する恐れがある。そして、このように、耐熱性フィルムとリードフレームに反りが発生した場合には、樹脂封止工程において、金型の位置決めピンにリードフレームを装着することができず、位置ずれ不良を起こす恐れがある。
したがって、基材として耐熱性フィルムを用いる場合、ガラス転移温度が150℃以上の耐熱性フィルムであることが好ましく、更に180℃以上であることがより好ましい。
また、耐熱性フィルムの150〜250℃における熱膨張係数が5〜50ppm/℃であることが好ましく、更に10〜30ppm/℃であることがより好ましい。かかる特性を有する耐熱性フィルムとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、トリアセチルセルロース、ポリエーテルイミド等からなるフィルムを例示することができる。
【0012】
また、基材として金属箔を用いる場合においても、前記耐熱性フィルムと同様の理由から、金属箔の150〜250℃における熱膨張係数が5〜50ppm/℃であることが好ましく、更に10〜30ppm/℃であることがより好ましい。金属としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、マグネシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、パラジウム、カドミウム、インジウム、錫、鉛からなる箔や、これらの金属を主成分とした合金箔、あるいはこれらのメッキ箔を例示することができる。
【0013】
また、本発明の接着シートを用いて半導体装置を製造する際に、接着シート剥離工程における糊残りを防止するためには、基材と接着剤層との接着強度Saと、封止樹脂及びリードフレームと接着剤層との接着強度Sbとの比(接着強度比)Sa/Sbが1.5以上であることが好ましい。Sa/Sbが1.5未満の場合では、接着シート剥離工程において糊残りが発生しやすいため好ましくない。なお、接着強度比Sa/Sbを1.5以上とするためには、耐熱性フィルムの場合には、接着剤層を形成する前に、耐熱性フィルムの接着剤層を形成する側の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理、サンドブラスト等の、耐熱性フィルムと接着剤層との接着強度Saを高くするような処理をあらかじめ施しておくことが好適である。また、金属箔の場合では、その製法から圧延金属箔と電解金属箔とに分類されるが、接着強度比Sa/Sbを1.5以上とするために、電解金属箔を用いると共に粗面化された側の面に接着剤層を設けて調整することが好ましい。また、電解金属箔の中でも特に、電解銅箔を用いることが特に好ましい。
また、リードフレームに対する接着剤層の硬化後の150〜200℃における接着強度が0.03〜5N/cmであることがモールドフラッシュを防止できるので好ましい。0.03N/cm未満では、モールドフラッシュが発生し易く、5N/cm超では糊残りが生じやすい。また、リードフレームに対する接着剤層の未硬化における常温の接着強度は0.98N/cm以上であることが製造工程上、好ましい。0.98N/cm未満では、製造工程における搬送時にリードフレームから接着剤層が剥離し易くなるからである。
【0014】
半導体装置を製造するための樹脂封止工程においては、150〜200℃に加熱しながら、5〜10GPaの圧力をかけて半導体素子を樹脂封止により封止する。そのため、接着シートの接着剤層が高温に曝される結果、接着剤層の接着力(接着剤層とリードフレームとの接着強度)が低下し、封止樹脂の圧力により、接着剤層がリードフレームから部分的に剥離してモールドフラッシュが発生する場合があるが、本発明の接着シートでは、接着剤層の接着力がより低下しないため上記問題は生じない。
【0015】
本発明におけるフッ素樹脂としては、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル等のオレフィン系樹脂に官能基(反応性基)を有するモノマーを含有(共重合)させた重合体またはそれらの2種類以上を組み合わせた共重合体等を例示することができる。更にエチレンやプロピレン、アルキルビニルエーテル等を加えて重合させてなる共重合体でも良い。これらの中でも特に官能基を有するフッ素含有オレフィン系樹脂が含有するフッ素量が多くワイヤボンディング前のプラズマクリーニングへの耐性が高いことからより好ましい。
【0016】
さらに具体的には、(1)フルオロオレフィンと、(2)ビニルエーテル、ビニルエステル等の炭化水素系モノマーとを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体であり、かつ水酸基、カルボキシ基、エポキシ基等の官能基を有するフッ素樹脂が挙げられる。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「フルオロオレフィン」はオレフィンの水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されているものを包含する概念とする。例えばオレフィンの水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されている化合物と、下記に例示する様に、オレフィンの水素原子がフッ素原子で置換されるとともに、残りの水素原子の一部または全部が塩素原子等の他の原子で置換されている化合物とを包含する概念とする。
前記官能基を有するフッ素樹脂は、例えば原料モノマーに、上記(1)と(2)のモノマーに加えて、官能基を有するモノマーを配合し、共重合させることによって得ることができる。またビニル基等の不飽和結合を有するフッ素樹脂を製造した後、このビニル基等の不飽和結合にエポキシ基等の官能基を導入することによって得ることができる。
官能基を有するモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のビニル結合と官能基を有するモノマーを挙げることができる。
この様なフッ素樹脂は、各種製品が販売されている。
【0017】
この中でも特にモールド樹脂漏れ防止及び糊残りなく剥離可能とできるため、フルオロオレフィンとビニルエーテルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体及び/またはフルオロオレフィンとビニルエステルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体であり、かつ水酸基、カルボキシ基、エポキシ基等の官能基を有するフッ素樹脂が好ましい。
【0018】
さらに好適なものとして、具体的には、(1)−1 トリフルオロエチレンと、(2)−1 シクロヘキシルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、及びヒドロキシアルキルビニルエーテルから選ばれる1種以上のモノマーを共重合させてなる共重合体であって、かつ官能基を有する樹脂;
(1)−2 トリフルオロエチレンと、(2)−2 アルキルビニルエーテル及びアリルアルコールから選ばれる1種以上のモノマーを共重合させてなる共重合体であって、かつ官能基を有する樹脂;
(1)−3 トリフルオロエチレンと、(2)−3 脂肪族カルボン酸ビニルエステル、及びヒドロキシアルキルビニルエステルから選ばれる1種以上のモノマーを共重合させてなる共重合体であって、かつ官能基を有する樹脂等が挙げられる。
【0019】
この中で市販されているものとしては、例えば官能基を有するフルオロエチレンビニルエーテル共重合体(旭硝子社製 商品名:ルミフロン;官能基は水酸基やカルボキシ基)等を挙げることができる。
上記例示したフッ素樹脂の配合量は接着剤層100質量部に対して好ましくは5〜40量部、より好ましくは20〜30質量部であることが好ましい。5質量部以上にすることにより、より剥離性が向上し、糊残りを防ぐことができる。一方、40質量部以下であることにより、他の樹脂成分との相溶性が向上し、製造上有利である。
なお、フッ素樹脂は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0020】
本発明において、更に剥離力を向上させる必要がある場合は、フッ素系添加剤を接着剤層に含有させることもできる。フッ素系添加剤としては、含フッ素グラフトポリマー、含フッ素ブロックコポリマー、含フッ素脂肪族系ポリマーエステル(これらはオリゴマーであってもよい)等を挙げることができる。
含フッ素グラフトポリマーとしては、含フッ素アクリル系グラフトポリマーである綜研化学社製の商品名:ケミトリー LF−700等を挙げることができる。なお、含フッ素アクリル系グラフトポリマーは、幹ポリマーと、この幹ポリマーから伸びる複数の枝ポリマーとからなり、幹ポリマーはアクリル系ポリマーからなり、枝ポリマーはフッ素を含有するポリマーからなるものである。
含フッ素ブロックコポリマーとしては、フッ化アルキル基含有重合体セグメントとアクリル系重合体セグメントからなるブロックコポリマーが、日本油脂社製の商品名:モディパーFシリーズ、例えばモディパーF200、モディパーF220、モディパーF2020、モディパーF3035、モディパーF600として市販されている。
また、含フッ素脂肪族系ポリマーエステルとしては、ノニオン界面活性剤としての特性を有するものが好ましく、スリーエム社製の商品名:ノベック FC−4430等を挙げることができる。
この中でも特にモールド樹脂漏れ防止及び糊残りなく剥離可能とできるため含フッ素グラフトポリマーまたは含フッ素ブロックコポリマーが好ましい。
【0021】
反応性エラストマーとしては、カルボキシ基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基等の官能基やマレイン酸無水物等の酸無水物モノマーから誘導される構成単位を有することにより、反応性を有する弾性樹脂である。
反応性エラストマーは、弾性樹脂を製造する際に官能基を有するモノマーや酸無水物モノマーを共重合させることによって製造することができる。また、ビニル結合等の不飽和結合を有する弾性樹脂を製造した後、このビニル基等の不飽和結合にエポキシ基等の官能基を導入することによって製造することができる。なお、官能基を有するモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のビニル結合と官能基を有するモノマーを挙げることができる。
【0022】
具体的には、カルボキシ基含有スチレン−ブタジエン共重合体、カルボキシ基含有スチレン−イソプレン共重合体、カルボキシ基含有スチルン−ブタジエン飽和共重合体、カルボキシ基含有スチレン−イソプレン飽和共重合体、カルボキシ基含有スチレン−エチレン−ブテン−スチレン共重合体、カルボキシ基含有スチレン−エチレン−ブテン−スチレン飽和共重合体、カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アミノ基変性ポリオール樹脂、アミノ基変性フェノキシ樹脂、アミノ基変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、水添カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、カルボキシ基含有アクリルゴム、無水マレイン酸含有スチレン−ブタジエン共重合体、無水マレイン酸含有スチレン−エチレン−ブテン−スチレン共重合体、ヒドロキシ基末端飽和共重合ポリエステル樹脂、カルボキシ基末端飽和共重合体ポリエステル樹脂、エポキシ基含有スチレン系ブロック共重合体、無水マレイン酸含有スチレン―エチレン―ブチレン共重合体等が挙げられる。なお、「無水マレイン酸含有」とは、無水マレイン酸を共重合したものであることを示す。
【0023】
この中で市販されているものとしては次のものが挙げられる。
カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体としては、日本ゼオン社製 商品名:Nipol 1072J、同社製 商品名:Nipol DN631、宇部興産社製 商品名:Hycar CTBN、JSR社製 商品名:PNR−1H等が挙げられる。
アミノ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体としては、宇部興産社製 商品名:Hycar ATBN等が挙げられる。
無水マレイン酸含有スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体としては、旭化成社製 商品名:タフテックMシリーズ等が挙げられる。
エポキシ基含有スチレン系ブロック共重合体としては、ダイセル化学工業社製 商品名:エポフレンド等が挙げられる。
この中でも特にモールド樹脂漏れ防止及び糊残りなく剥離可能とできるため無水マレイン酸含有スチレン―エチレン―ブチレン共重合体が好ましい。当該共重合体において、無水マレイン酸:スチレン:エチレン―ブチレン(エチレン−ブチレンの合計)の質量比は、好ましくは0.3〜3:10〜40:60〜90、さらに好ましくは0.5〜1:20〜30:70〜80であることが好ましい。
【0024】
反応性エラストマーは1種または2種以上混合して用いることができる。
反応性エラストマーは接着剤層100質量部に対して好ましくは30〜95質量部、さらに好ましくは40〜90質量部用いられる。30質量部以上にすることによりモールドフラッシュや糊残りをより防ぐことができる。一方、95質量部以下にすることにより、より剥離性が向上し、糊残りを生じにくくすることができる。
【0025】
また、接着剤層には、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、フッ素樹脂及び反応性エラストマーと架橋する硬化剤、脱水触媒等の硬化促進剤を含有させてもよい。
熱硬化性樹脂成分としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アセトグアナミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、イソシアナート樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ナジイミド樹脂等を例示することができる。なお、これらの樹脂は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。この中でもエポキシ樹脂とフェノール樹脂の少なくとも1種を含有することによって、ワイヤボンディング工程における処理温度下で高弾性率を有すると共に、樹脂封止工程における処理温度下でリードフレームとの接着強度が高い接着剤層が得られるため好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂成分としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、アクロロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、スチレン−ブタジエン−エチレン樹脂(SEBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン樹脂(SBS)、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタン、アクリルゴム等が例示できる。
【0027】
また、接着剤層の熱膨張係数、熱伝導率、表面タック、接着性等を調整するために、接着剤層に無機、または有機フィラーを添加することが好ましい。ここで、無機フィラーとしては、粉砕型シリカ、溶融型シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、窒化チタン、窒化珪素、窒化硼素、硼化チタン、硼化タングステン、炭化珪素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、マイカ、酸化亜鉛、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン等からなるフィラー、あるいはこれらの表面にトリメチルシロキシル基等を導入したもの等を例示することができる。また、有機フィラーとしては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ナイロン、シリコーン樹脂等からなるフィラーを例示することができる。
【0028】
基材の一方の面に接着剤層を形成する方法としては、基材上に直接接着剤を塗布し、乾燥させるキャスティング法や、接着剤を離型性フィルム上に一旦塗布し、乾燥させた後、基材上に転写させるラミネート法等が好適である。なお、接着剤層を構成する成分を、有機溶剤、例えばトルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン系極性溶剤、テトラヒドロフラン等の単独あるいは混合物に対して1質量%以上好ましくは5質量%以上溶解して接着剤塗布液として使用することが好ましい。
【0029】
本発明の接着シートの接着剤層上に剥離可能な保護フィルムを貼着し、半導体装置製造直前に保護フィルムを剥離する構成としても良い。この場合には、接着シートが製造されてから使用されるまでの間に、接着剤層が損傷されることを防止することができる。保護フィルムとしては離型性を有するものであればいかなるフィルムを用いても良いが、例えばポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルムや、これらフィルムの表面をシリコーン樹脂又はフッ素化合物で離型処理したフィルム等を例示することができる。
【0030】
また、150℃から250℃の温度範囲全てにおける前記接着剤層の硬化後の貯蔵弾性率は、0.1MPa以上、好ましくは1MPa以上、更に5MPa以上であることが好ましい。なお、ここでいう硬化後とは、ダイアタッチ工程において加熱処理された状態における接着剤層のことをいう。半導体装置を製造するためのワイヤボンディング工程においては、ボンディングワイヤを用いて半導体素子とリードフレームとを接続するために、該ボンディングワイヤの両端を150〜250℃に加熱して60〜120kHzの超音波で融着する際、リードフレームの直下に位置する接着シートの接着剤層は、上記加熱による高温に曝されて低弾性化し、超音波を吸収し易くなり、その結果リードフレームが振動してワイヤボンディング不良が発生しやすいが、上記貯蔵弾性率を有する接着剤層をもつ接着シートの場合は、このような問題が発生しにくくなる。
【0031】
(半導体装置の製造方法)
図1、図2に基づいて、本発明の接着シートを用いて、半導体装置を製造する方法の一例について説明する。以下、半導体装置としてQFNを製造する場合を例として説明する。なお、図1はリードフレームを半導体素子を搭載する側から見たときの概略平面図であり、図2(a)〜(f)は、図1に示すリードフレームからQFNを製造する方法を示す工程図であって、リードフレームを図1のA−A’線の拡大概略断面図である。
【0032】
はじめに、図1に示す概略構成のリードフレーム20を用意する。リードフレーム20は、ICチップ等の半導体素子を搭載する島状の複数の半導体素子搭載部(ダイパッド部)21を具備し、各半導体素子搭載部21の外周に沿って多数のリード22が配設されたものである。次に、図2(a)に示すように、接着シート貼着工程において、リードフレーム20の一方の面上(下面)に、本発明の接着シート10を接着剤層(図示略)側がリードフレーム20側となるように貼着する。なお、接着シート10をリードフレーム20に貼着する方法としては、ラミネート法等が好適である。次に、図2(b)に示すように、ダイアタッチ工程において、リードフレーム20の半導体素子搭載部21に、接着シート10が貼着されていない側からICチップ等の半導体素子30を、ダイアタッチ剤(図示略)を用いて搭載する。
【0033】
次に、ワイヤボンディング直前までにかかる熱履歴で、接着シートや、ダイアタッチ剤等から発生するアウトガス成分が、リードフレームに付着し、ワイヤの接合不良による歩留低下を防止するため、ワイヤボンディング工程実施前に、前記接着シート、ダイアタッチ剤、ICチップが搭載されたリードフレームをプラズマクリーニングする。
【0034】
次に、図2(c)に示すように、ワイヤボンディング工程において、半導体素子30とリードフレーム20のリード22とを、金ワイヤ等のボンディングワイヤ31を介して電気的に接続する。次に、図2(d)に示すように、樹脂封止工程において、図2(c)に示す製造途中の半導体装置を金型内に載置し、封止樹脂(モールド材)を用いてトランスファーモールド(金型成型)することにより、半導体素子30を封止樹脂40により封止する。
次に、図2(e)に示すように、接着シート剥離工程において、接着シート10を封止樹脂40及びリードフレーム20から剥離することにより、複数のQFN50が配列されたQFNユニット60を形成することができる。最後に、図2(f)に示すように、ダイシング工程において、QFNユニット60を各QFN50の外周に沿ってダイシングすることにより、複数のQFN50を製造することができる。
このように本発明の接着シート10を用いてQFN等の半導体装置を製造することにより、モールドフラッシュ防止性を維持したまま、該接着シートがプラズマクリーニング工程を経た状態においても、糊残りを防止することができ、半導体装置の不良品化を防止することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[接着シートの製造]
各実施例、比較例において、接着剤を調製して接着シートを作製し、得られた接着剤層や接着シートの評価を行った。
すなわち以下に示す組成及び配合比(質量部)で実施例1及び比較例1、2はトルエンに固形分20質量%になる様に混合し、実施例2においてはメチルエチレンケトンに固形分20質量%になる様に混合して接着剤溶液を作製した。
次に、耐熱性基材としてポリイミド樹脂フィルム(東レ・デュポン社製 商品名:カプトン100EN、厚さ25μm、ガラス転移温度300℃以上、熱膨張係数16ppm/℃)を用い、その上に乾燥後の厚さが6μmになるように、上記接着剤溶液を塗布した後、120℃で5分間乾燥させ、接着剤層を有する接着シートを得た。
【0036】
[接着剤層の配合組成及び配合比]
(実施例1)
官能基を有するフルオロエチレンビニルエーテル共重合体 30質量部
(旭硝子社製 商品名:ルミフロンLF916)
無水マレイン酸含有スチレン−エチレン−ブチレン共重合体※1 70質量部
(旭化成社製 商品名:タフテックM−1911)
硬化剤 1質量部
(日本ポリウレタン工業社製 商品名:コロネートL)
【0037】
(実施例2)
官能基を有するフルオロエチレンビニルエーテル共重合体 10質量部
(旭硝子社製 商品名:ルミフロンLF916)
カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体 90質量部
(JSR社製 商品名:PNR−1H)
硬化剤 1質量部
(日本ポリウレタン工業社製 商品名:コロネートL)
【0038】
(比較例1;反応性エラストマーが配合されていない例)
官能基を有するフルオロエチレンビニルエーテル共重合体 20質量部
(旭硝子社製 商品名:ルミフロンLF200)
スチレン−ブタジエン共重合体 80質量部
(旭化成社製 商品名:タフテックH−1041)
硬化剤 1質量部
(日本ポリウレタン工業社製 商品名:コロネートL)
【0039】
(比較例2;フッ素樹脂が配合されていない例)
カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエン共重合体 20質量部
(日本ゼオン社製 商品名:Nipol 1072J)
フェノール樹脂 40質量部
(新日本石油化学社製 商品名:DPP−6095H)
エポキシ樹脂 40質量部
(大日本インキ化学工業社製 商品名:HP−7200)
2−エチル−4−メチルイミダゾール(硬化剤) 8質量部
(東京化成社製)
※1:無水マレイン酸含有スチレン―エチレン―ブチレン共重合体
無水マレイン酸:スチレン:エチレン―ブチレン(質量比)=0.5:30:70の共重合体
【0040】
[評価方法]
【0041】
<接着シートの評価>
1.モールドフラッシュ
実施例及び比較例において得られた接着シートを、外寸200mm×60mmのQFN用リードフレーム(Au−Pd−NiメッキCuリードフレーム、4×16個(計64個)のマトリックス配列、パッケージサイズ10mm×10mm、84ピン)にラミネート法により貼着した。次いで、オーブン中でダイアタッチ相当の熱処理175℃で1時間処理した後、プラズマクリーニング処理を行った。プラズマクリーニング条件は、プラズマエッチング装置(ヤマト科学社製、商品名:V1000)を用いて、使用ガス:Ar、ガス流量:45sccm、RF出力:450W、処理時間:5分である。次にホットプレート上でワイヤボンディング相当の熱処理を220℃で15分の条件で行った。次にエポキシ系モールド剤(ビフェニルエポキシ系、フイラー量85質量%)を用い、加熱温度を180℃、圧力を10MPa、処理時間を3分間として、トランスファーモールド(金型成型)により、樹脂封止した。樹脂封止後の半導体装置64個を検査し、リードの外部接続用部分(リードの接着シート側の面)に封止樹脂が付着している半導体装置数を、モールドフラッシュの発生個数として検出し、その結果を表1に示した。
【0042】
2.糊残り
モールドフラッシュの評価後のリードフレームを用い、糊残りの評価を行った。先ず接着シートをリードフレームから剥離速度500mm/minの条件で剥離した。接着シートの剥離後の半導体装置64個を検査し、リードの外部接続用部分、モールド樹脂面を含む接着シート剥離面に接着剤が付着している半導体装置個数を、糊残りの発生数として表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示した結果より、本発明においては良好な特性が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の半導体装置製造用接着シートを用いてQFNを製造する際に用いて好適なリードフレームの一例を示す概略平面図である。
【図2】QFNの製造工程例を示すもので、図1のA−A’断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 半導体装置製造用接着シート 20 リードフレーム 30 半導体素子 31 ボンディングワイヤ 40 封止樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、接着剤層とを有し、かつ半導体装置のリードフレームまたは配線基板に剥離可能に貼着される半導体装置製造用接着シートにおいて、前記接着剤層はフッ素樹脂及び反応性エラストマーを含有することを特徴とする半導体装置製造用接着シート。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が、フルオロオレフィンとビニルエーテルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体及び/またはフルオロオレフィンとビニルエステルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置製造用接着シート。
【請求項3】
前記反応性エラストマーが、無水マレイン酸含有スチレン−エチレン−ブチレン共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置製造用接着シート。
【請求項4】
接着剤層の片面に保護フィルムが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体装置製造用接着シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の半導体装置製造用接着シートを用いて製造されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の半導体装置製造用接着シートを用いて製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−123711(P2007−123711A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316561(P2005−316561)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】