説明

半導体装置

【課題】ヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制できる半導体装置を提供すること。
【解決手段】互いに異なる熱膨張係数の第1の部材25と第2の部材23aとを接合した接合層24を有する半導体装置において、接合層24の周辺部を第1の部材25と共に挟むように配置され、第2の部材23aに比べて第1の部材25との熱膨張差の小さい第3の部材23bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を搭載した半導体装置に関し、特に、互いに異なる熱膨張係数の第1の部材と第2の部材とを接合した接合層を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来のパワー半導体素子を搭載した半導体装置の構造の一例を示した断面図である。この半導体装置は、パワー半導体モジュールであり、放熱用の金属ベース1と、金属ベース1に搭載した絶縁基板2と、絶縁基板2の上面にマウントされたパワー半導体素子3とを備える。また、この半導体装置は、パワー半導体素子3などで構成される主回路の外部導出端子4と、ボンディングワイヤ5と、外囲樹脂ケース6と、上蓋7と、封止樹脂8と、ゲル状充填材9とを備える。
【0003】
ここで、絶縁基板2は、方形状のセラミック基板10の表、裏両面に銅あるいはアルミニウム箔の導体パターン11、12を接合した構造である。絶縁基板2の表面側の導体パターン11を回路パターンとしてシリコンチップ3を半田マウント、裏面側の導体パターン12と金属ベース1との間を半田付けして伝熱的に接合している。
【0004】
このように、半導体装置は、熱膨張係数の異なる部材を接合層13で接合した積層構造を有する。このため、温度が変化すると、各部材間の熱膨張差により、半田接合層13に熱応力が作用する。ヒートサイクルに起因して熱応力が繰り返し発生すると、接合層13でクラックが発生し、放熱が妨げられ、半導体素子が熱破壊に至る恐れがある。
【0005】
そこで、従来から、このような熱応力を緩和するための半導体装置として、図4に示すように、方形状のセラミック基板10の四隅コーナー部を、面取り寸法dが2mm以上10mm未満の範囲で面取りされた半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
セラミック基板10の四隅コーナー部に面取り部10aを備えることにより、ヒートサイクルに起因して半田接合層13に発生する応力集中が緩和され、半田亀裂が発生するまでの時間が延びて、基板の疲労寿命が向上する。
【特許文献1】特開2004−134746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の半導体装置では、セラミック基板の四隅コーナー部に面取り部を設けることで熱応力の集中を緩和できるが、面取り部の形状で緩和できる熱応力には限界があり、現在もなお、ヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制できる半導体装置が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、ヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、第1の発明は、互いに異なる熱膨張係数の第1の部材と第2の部材とを接合した接合層を有する半導体装置において、
前記接合層の周辺部を前記第1の部材と共に挟むように配置され、前記第2の部材に比べて前記第1の部材との熱膨張差の小さい第3の部材を備える。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明の半導体装置であって、前記接合層の前記周辺部は、前記接合層の4隅コーナー部である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接合層の周辺部を挟むように、熱膨張差の小さい第1の部材と第3の部材とを対置することができ、接合層の周辺部での熱膨張差に起因する熱応力を低減することができ、ヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。尚、以下の説明において、半導体素子が請求項1記載の第1の部材に、第1の放熱板が請求項1記載の第2の部材に、第2の放熱板が請求項1記載の第3の部材に、それぞれ相当する。
【0013】
図1は、本発明の半導体装置の構成の一実施例を示した図で、(a)は平面図、(b)は(a)のA−Aに沿った断面図である。この半導体装置は、図1に示すように、半導体素子25をベアチップで実装するものであり、基板21上に、絶縁層22、放熱板23、接合層24、半導体素子25を積層して構成される。
【0014】
この半導体装置では、半導体素子25が動作し、発熱すると、その熱は、接合層24を介して放熱板23で放熱される。このため、半導体素子25の過熱を防止又は抑制することができる。しかしながら、半導体素子25が発熱すると、半導体素子25と放熱板23との熱膨張差により、接合層24に熱応力が作用する。
【0015】
接合層24に作用する熱応力の大きさは、一般に、半導体素子25と放熱板23との熱膨張差と、発熱前後の温度差と、接合層24の面内距離とを積算したものに比例する。したがって、温度が上昇するほど、大きな熱応力が作用し、クラックが発生しやすくなる。また、接合層24の外周部では、接合層24の中央部よりも接合層24の面内距離が大きくなるので、大きな熱応力が発生し、クラックが発生しやすくなる。特に、接合層24の四隅コーナー部では、直交する2方向X、Y(図1参照)へ変形しようとするため、熱応力が集中し、クラックが発生しやすい。以下、本実施例の半導体装置の各構成について詳説する。
【0016】
基板21は、例えば、軽量、かつ高熱伝導のアルミニウムで形成される。このため、半導体素子25で発生した熱を素早く放熱することができる。
【0017】
この基板21上には、絶縁層22が積層される。基板21上に絶縁層22を積層することにより、絶縁層22上に電気回路の配線パターン(図示せず)を形成することができる。絶縁層22は、例えば、エポキシ樹脂で形成され、基板21と後述の放熱板23とを接着している。
【0018】
一方、発熱源となる半導体素子25は、IGBT、パワーMOSFET等の半導体素子である。半導体素子25の基板を形成するSiは、熱膨張係数が約3×10−6/Kで、熱伝導率が約150W/mKである。
【0019】
この半導体素子25の下には、後述の接合層24を介して、後述の放熱板23が配置されている。
【0020】
接合層24には、例えば、半田を用いる。溶融した半田を半導体素子25と放熱板23との隙間に充填させることで、緻密な接合層24が形成される。
【0021】
半田は、延性に富むため、塑性変形することで、半導体素子25と放熱板23との熱膨張差に起因する熱応力を緩和できる。半田接合層24の厚さが大きくなるほど、より大きく変形できるので、大きな熱応力を緩和できる。しかしながら、半田接合層24の厚さが大きくなり過ぎると、半導体素子25と放熱板23との熱交換が妨げられ、放熱性が悪くなる。このため、接合層24の厚さは、熱応力の緩和と放熱性の維持とのバランスを考慮して設定される。
【0022】
放熱板23は、その特徴的な構成として、図1に示すように、第1の放熱板23aと、第1の放熱板23aに比べて、半導体素子25との熱膨張差の小さい第2の放熱板23bと、から構成される。この第1の放熱板23aは、略十字の形状であって、接合層24の中央部に配置され、第2の放熱板23bは、略方形の形状であって、接合層24の四隅コーナー部に1個ずつ配置される。そして、第2の放熱板23bは、第1の放熱板23aの四隅コーナー部に隣接して配置されている。
【0023】
第1の放熱板23a、第2の放熱板23bには、例えば、Cu、Mo等の金属、AlN、Si等のセラミックス、Cu/C、Al/SiC、Cu/W等の複合材料を用いることができる。Cuは、熱伝導率に優れ、放熱性に優れるという特徴を有する。一方、Cu以外の材料は、半導体素子25との熱膨張差が小さく、半導体素子25との熱膨張差に起因する熱応力が小さいという特徴を有する。
【0024】
Cuは、熱伝導率が400W/mKで、熱膨張係数が約17×10−6/Kである。Moは、熱伝導率が140W/mKで、熱膨張係数が約6×10−6/Kである。また、AlNは、熱伝導率が約100〜200W/mKで、熱膨張係数が約5×10−6/Kである。Cu/C複合材料は、熱伝導率が250W/mKで、熱膨張係数が約4×10−6/Kである。Al/SiC複合材料は、熱伝導率が約150〜200W/mKで、熱膨張係数が約7×10−6/Kである。
【0025】
第1の放熱板23aと第2の放熱板23bとの組合せには、例えば、第1の放熱板23aに熱伝導率の高いCuを、第2の放熱板23bに半導体素子25との熱膨張差の小さいCu/C複合材料をそれぞれ選択できる。
【0026】
このように、接合層24の四隅コーナー部に、半導体素子25との熱膨張差の小さい第2の放熱板23bを配置することにより、接合層24の四隅コーナー部での熱膨張差に起因する熱応力を低減することができる。この結果、従来は熱応力が集中しやすかった、四隅コーナー部でのヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0027】
また、接合層24の四隅コーナー部に、第2の放熱板23bを配置することにより、放熱板23全体としての容量を大きくすることができ、半導体素子25で発生する熱を素早く放熱することができる。したがって、温度上昇を抑制することができる。この結果、半導体素子25の熱破壊を防止することができると共に、熱膨張差に起因する熱応力を低減することができ、接合層24のクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0028】
また、接合層24の中央部に、放熱性に優れる第1の放熱板23aを配置することにより、半導体素子25で発生する熱を素早く放熱することができる。したがって、温度上昇を抑制することができる。この結果、半導体素子25の熱破壊を防止することができると共に、熱膨張差に起因する熱応力を低減することができ、接合層24のクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0029】
図2は、半導体装置の構成の別の例を示した図で、(a)は平面図、(b)は(a)のA−Aに沿った断面図である。以下、各構成について説明するが、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
放熱板33は、その特徴的な構成として、図2に示すように、第1の放熱板33aと、第1の放熱板33aに比べて、半導体素子25との熱膨張差の小さい第2の放熱板33bと、から構成される。この第1の放熱板33aは、略方形の形状であって、接合層24の中央部に配置される。また、第2の放熱板33bは、リング形状であって、第1の放熱板33aを内嵌するように、接合層24の外周部に配置される。
【0031】
第1の放熱板33aと第2の放熱板33bとの組合せには、例えば、第1の放熱板33aに熱伝導率の高いCuを、第2の放熱板33bに半導体素子25との熱膨張差の小さいCu/C複合材料をそれぞれ選択できる。
【0032】
このように、接合層24の外周部に、半導体素子25との熱膨張差の小さい第2の放熱板33bを配置することにより、接合層24の外周部での熱膨張差に起因する熱応力を低減することができる。この結果、従来は熱応力が大きかった、接合層24の外周部でのヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0033】
また、熱膨張係数の小さな第2の放熱板33bで、熱膨張係数の大きな第1の放熱板33aを内嵌することにより、第1の放熱板33aの熱膨張を抑圧することができる。したがって、第1の放熱板33aと半導体素子25との熱膨張差を緩和することができ、接合層24の中央部での熱膨張差に起因する熱応力を低減することができる。この結果、接合層24の中央部でのヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0034】
また、接合層24の外周部に、第2の放熱板23bを配置することにより、放熱板23全体としての容量を大きくすることができ、半導体素子25で発生する熱を素早く放熱することができる。したがって、温度上昇を抑制することができる。この結果、半導体素子25の熱破壊を防止することができると共に、熱膨張差に起因する熱応力を低減することができ、接合層24のクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0035】
また、接合層24の中央部に、放熱性に優れる第1の放熱板33aを配置することにより、半導体素子25が発熱したとき、その熱は素早く放熱される。したがって、温度上昇を抑制することができる。この結果、半導体素子25の熱破壊を防止することができると共に、熱膨張差に起因する熱応力を低減することができ、接合層24のクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。
【0036】
尚、熱伝導率の高い第1の放熱板33aの配置面積を大きくするほど、熱を素早く放熱することができる。一方、半導体素子25との熱膨張差の小さい第2の放熱板33bの配置面積を大きくするほど、熱膨張差に起因する熱応力を低減することができる。したがって、第1の放熱板33aと第2の放熱板33bとの配置バランスは、熱応力の緩和と放熱性の維持とのバランスを考慮して設計される。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0038】
例えば、本実施例では、半導体素子25と放熱板23(33)とを接合する接合層24に本発明を適用したが、発熱源を備える半導体装置である限り、本発明の適用範囲に制限はなく、互いに異なる熱膨張係数の第1の部材と第2の部材とを接合する接合層であれば、本発明を適用することができる。
【0039】
また、本実施例では、第1の放熱板23aと第2の放熱板23bとの組合せとして、CuとCu/C複合材料との組合せを選択したが、接合層24の四隅コーナー部での熱膨張差に起因する熱応力を低減することができる限り、その組合せに制限はない。例えば、第1の放熱板23aにAl/SiC複合材料を、第2の放熱板23bにCu/C複合材料を選択して良い。或いは、第1の放熱板23aにCuを、第2の放熱板23bにSiを選択して良い。第2の放熱板23bに半導体素子25と同じ材料のSiを選択した場合、接合層24の四隅コーナー部での熱膨張差が略0になるので、四隅コーナー部での熱応力を著しく低減することができる。また、第2の放熱板23bには、半導体素子25(Si)より熱膨張係数の小さい材料を用いてもよい。
【0040】
また、本実施例では、第1の放熱板23aと第2の放熱板23bとを隙間なく配置したが、隙間があっても良い。隙間の有無にかかわらず、接合層24の四隅コーナー部での熱膨張差に起因する熱応力を低減することができ、従来は熱応力が集中しやすかった、四隅コーナー部でのヒートサイクルに起因するクラックの発生、伸展を防止又は抑制することができる。ただし、隙間が大きくなり過ぎると、放熱性が悪くなる。
【0041】
また、本実施例では、第1の放熱板33aと第2の放熱板33bとは嵌合されているが、接合されていても良い。どちらの場合であっても、熱膨張係数の小さな第2の放熱板33bで、熱膨張係数の大きな第1の放熱板33aの熱膨張を抑圧できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の半導体装置の構成の一実施例を示した図である。
【図2】半導体装置の構成の別の例を示した図である。
【図3】従来の半導体装置の構成の一例を示した断面図である。
【図4】図3に示す半導体装置の絶縁基板2の構成の一例を示した平面図である。
【符号の説明】
【0043】
23、33 放熱板
23a、33a 第1の放熱板(第2の部材)
23b、33b 第2の放熱板(第3の部材)
24 接合層
25 半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる熱膨張係数の第1の部材と第2の部材とを接合した接合層を有する半導体装置において、
前記接合層の周辺部を前記第1の部材と共に挟むように配置され、前記第2の部材に比べて前記第1の部材との熱膨張差の小さい第3の部材を備える半導体装置。
【請求項2】
前記接合層の前記周辺部は、前記接合層の4隅コーナー部である請求項1に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−59821(P2009−59821A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224645(P2007−224645)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】