説明

半導体記憶装置

【課題】誤書込を抑制することが可能なMRAM装置を提供する。
【解決手段】三角波状のパルス電流Iwをワード線に流してパルス磁場をトンネル磁気抵抗素子の自由層に印加する。また、パルス電流Iwがピークに達した後にピークに達する三角波状のパルス電流Ibをビット線に流してパルス磁場を自由層に印加する。これにより、自由層の磁化ベクトルの歳差運動をその熱揺動よりも大きくして、パルス電流Iwのみで自由層の磁化方向が反転するのを防止できる。また、パルス電流Ibによって自由層の磁化方向を確実に反転させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体記憶装置に関し、特に、磁気抵抗素子を含む半導体記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)は、各々が、抵抗値のレベル変化によってデータ信号を記憶する複数の磁気抵抗素子を備えている。各磁気抵抗素子は磁化容易軸と磁化困難軸を有する自由層を含み、磁気抵抗素子の抵抗値は自由層の磁化方向に応じて変化する。複数の磁気抵抗素子は、複数行複数列に配置されている。
【0003】
また、MRAMは、それぞれ複数行に対応して設けられた複数のワード線と、それぞれ複数列に対応して設けられた複数のビット線とを備える。各ワード線は、対応の行の各磁気抵抗素子の下方に設けられ、磁化容易軸方向に延在している。各ビット線は、対応の列の各磁気抵抗素子の上に設けられ、磁化困難軸方向に延在している。書込動作時は、選択されたワード線に活性化電流を流すとともに、書込データ信号の論理に応じた極性の書込電流を選択されたビット線に流し、選択された磁気抵抗素子の自由層の磁化方向を反転させる。
【0004】
特許文献1には、書込動作時に、書込電流が活性化電流よりも所定時間だけ遅延して供給され、活性化電流と書込電流の両方が流されている期間においてデータ信号を磁気抵抗素子に書込むMRAMが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、活性化電流を流しながら、負の書込電流と正の書込電流を順次流して磁気抵抗素子の磁化方向を反転させるMRAMが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−528665号公報
【特許文献2】特開2004−152449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のMRAMでは、活性化電流または書込電流によって発生する磁場の影響により、選択されていない磁気抵抗素子の記憶データの論理が反転し、誤書込が発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。代表的な実施の形態による半導体記憶装置は、磁気抵抗素子と、磁気抵抗素子の自由層に磁化困難軸方向の第1のパルス磁場を印加するためのワード線と、自由層に磁化容易軸方向の第2のパルス磁場を印加するためのビット線と、第1のパルス電流をワード線に流して第1のパルス磁場を発生させるとともに、第2のパルス電流をビット線に流して第2のパルス磁場を発生させ、自由層の磁化方向を反転させる駆動回路とを備える。第1および第2のパルス電流の各々は三角波状であり、第1のパルス電流がピークに達した後に第2のパルス電流がピークに達する。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記の通りである。すなわち、第1のパルス電流がピークに達した後にピークに達する三角波状の第2のパルス電流をビット線に流すので、第1のパルス電流によって活性化された自由層の磁化方向を確実に反転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本願発明の基礎となるMRAMの全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示したメモリセルの構成を示す回路図である。
【図3】図2に示したメモリセルの構成を示す断面図である。
【図4】図3に示したトンネル磁気抵抗素子の構成を示す断面図である。
【図5】図1に示したメモリアレイのうちのデータ書込に関連する部分を示す図である。
【図6】図5に示した活性化電流および書込電流を示すタイムチャートである。
【図7】図1〜図6に示したMRAMの問題点を説明するための図である。
【図8】図1〜図6に示したMRAMの問題点を説明するための他の図である。
【図9】本実施の形態においてワード線に印加されるパルス電流の波形を示すタイムチャートである。
【図10】本実施の形態においてビット線に印加されるパルス電流の波形を示すタイムチャートである。
【図11】図9および図10に示したワード線電流とビット線電流の関係を示すタイムチャートである。
【図12】図11で示したパルス電流Iw,Ibによって発生するパルス磁場Hh,Heの波形を示すタイムチャートである。
【図13】図12に示したパルス磁場Hhのみが印加される半選択ビットの磁化変化を示すタイムチャートである。
【図14】図12に示したパルス磁場Hh,Heの両方が印加される選択ビットの磁化変化を示すタイムチャートである。
【図15】比較例の半選択ビットの磁化変化を示すタイムチャートである。
【図16】図15に示した軌跡Aに対応する磁化ベクトルの軌跡を示す図である。
【図17】図15に示した軌跡Bに対応する磁化ベクトルの軌跡を示す図である。
【図18】図15に示した軌跡Cに対応する磁化ベクトルの軌跡を示す図である。
【図19】本実施の形態の半選択ビットの磁化変化を示すタイムチャートである。
【図20】図15に示した軌跡Dに対応する磁化ベクトルの軌跡を示す図である。
【図21】図15に示した軌跡Eに対応する磁化ベクトルの軌跡を示す図である。
【図22】パルス磁場He,Hhを順次印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図23】パルス磁場He,Hhを同時に印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図24】パルス磁場Hh,Heを順次印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図25】パルス磁場Hhの印加後にパルス磁場Heを印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図26】パルス磁場Hhを印加して所定時間経過後にパルス磁場Heを印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図27】パルス磁場Heを弱めて図24のタイミングでパルス磁場Hh,Heを印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図28】パルス磁場Heを弱めて図25のタイミングでパルス磁場Hh,Heを印加した場合の磁化変化を示すタイムチャートである。
【図29】パルス磁場Hh,Heのピークの時間差と、磁化を反転させるのに必要なパルス磁場Heのピーク値の絶対値との関係を示す図である。
【図30】ワード線に印加するパルス電流の波形を説明するためのタイムチャートである。
【図31】図30に示したパルス電流の波形の変更例を示すタイムチャートである。
【図32】ワード線に印加するパルス電流Iwの動作領域を示す図である。
【図33】ビット線に印加するパルス電流の波形を説明するためのタイムチャートである。
【図34】磁化の振動回数を低減化する方法を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[MRAMの一般的構成]
実施の形態について説明する前に、まず本願発明の基礎となるMRAMについて説明する。図1は、MRAMの全体構成を示すブロック図である。図1において、このMRAMは、メモリアレイMAを備える。メモリアレイMAは、複数行複数列に配置された複数のメモリセルMCと、それぞれ複数行に対応して設けられた複数のワード線WLと、それぞれ複数行に対応して設けられた複数の読出ワード線WLRと、それぞれ複数列に対応して設けられた複数のビット線BLとを含む。
【0012】
メモリセルMCは、図2に示すように、トンネル磁気抵抗素子TMRおよびアクセストランジスタ(NチャネルMOSトランジスタ)ATRを含む。トンネル磁気抵抗素子TMRの一方端は、対応のビット線BLに接続される。アクセストランジスタATRのドレインはトンネル磁気抵抗素子TMRの他方端子に接続され、そのゲートは読出ワード線WLRに接続され、そのソースは接地電圧VSSのラインに接続される。
【0013】
書込動作時は、ワード線WLに活性化電流を流すとともに、書込データ信号の論理レベルに応じた方向の書込電流をビット線BLに流す。これにより、トンネル磁気抵抗素子TMRの抵抗値が高値RHまたは低値RLになる。RHおよびRLは、たとえば、それぞれデータ信号“1”(「H」レベル)および“0”(「L」レベル)に対応付けられる。
【0014】
読出動作時は、読出用ワード線WLRを活性化レベルの「H」レベルにしてアクセストランジスタATRをオンさせ、ビット線BLに所定の読出電圧VRを印加する。このとき、ビット線BLからメモリセルMCを介して接地電圧VSSのラインに流れる電流IRと所定のしきい値電流ITHとを比較する。IR>ITHである場合は、トンネル磁気抵抗素子TMRの抵抗値は低値RLであるので、メモリセルMCからデータ信号“0”が読み出される。IR<ITHである場合は、トンネル磁気抵抗素子TMRの抵抗値は高値RHであるので、メモリセルMCからデータ信号“1”が読み出される。
【0015】
図1に戻って、MRAMは、さらに、行デコーダ1、WLドライバ2、列デコーダ3、BLドライバ4,5、および読出回路6を備える。行デコーダ1は、行アドレス信号に従って、複数行のうちのいずれかの行を選択する。WLドライバ2は、書込動作時は行デコーダ1によって選択された行のワード線WLに活性化電流を流し、読出動作時は行デコーダ1によって選択された行の読出用ワード線WLRを活性化レベルの「H」レベルにする。
【0016】
列デコーダ3は、列アドレス信号に従って、複数列のうちのいずれかの列を選択する。BLドライバ4は各ビット線BLの一方端に接続され、BLドライバ5は各ビット線BLの他方端に接続される。BLドライバ4,5は、書込動作時に、列デコーダ3によって選択されたビット線BLに、書込データ信号の論理レベルに応じた方向の電流を流す。読出回路6は、読出動作時に、列デコーダ3によって選択された列のビット線BLに所定の読出電圧VRを印加し、選択されたメモリセルMCに流れる電流IRに基づいてメモリセルMCの記憶データを読み出す。
【0017】
図3(a)はメモリセルMCの構成を示す断面図であり、図3(b)は図3(a)のIIIB−IIIB線断面図である。図3(a)(b)において、アクセストランジスタATRは半導体基板の表面に形成され、そのソースは接地電圧VSSを受ける。アクセストランジスタATRの上方に長方形の下部電極BEが形成される。下部電極BEの下面の一方端部(図3では左側端部)はビアホールVH、電極EL、ビアホールVHなどを介してアクセストランジスタATRのドレインに接続される。
【0018】
トンネル磁気抵抗素子TMRは、下部電極BEの上面の他方端部(図3(a)では右側端部)の上に楕円形状に形成される。下部電極BEの短辺の方向をX方向とし、長辺の方向をY方向とすると、楕円形状のトンネル磁気抵抗素子TMRの長軸および短軸はそれぞれX方向およびY方向に向けられる。トンネル磁気抵抗素子TMRの長軸および短軸は、それぞれ磁化容易軸および磁化困難軸となる。長軸の長さaは、短軸の長さbよりも長い。
【0019】
トンネル磁気抵抗素子TMRは、図4に示すように、下部電極BEの表面にシード層11、固定層12、トンネル絶縁膜13、自由層14、およびキャップ層15を積層したものである。固定層12は、固定された一定の磁化方向を有する強磁性体層である。自由層14は、書込データ信号の論理レベルに応じて、固定層12と同一方向または反対方向に磁化される。固定層12と自由層14の磁化方向が同一方向である場合は、トンネル磁気抵抗素子TMRの抵抗値は低値RLになる。固定層12と自由層14の磁化方向が反対方向である場合は、トンネル磁気抵抗素子TMRの抵抗値は高値RHになる。
【0020】
なお、固定層12はトンネル絶縁膜13に接する強磁性体層で形成され、シード層11に固定層12の強磁性体層の磁化方向を一定方向に保つための反強磁性体層が含まれていてもよい。この場合、固定層12の強磁性体層と、シード層11の反強磁性体層とは、交換結合しており、トンネル磁気抵抗素子TMRはスピンバルブ構造を有している。
【0021】
ワード線WLは、トンネル磁気抵抗素子TMRの下方であって、下部電極BEの他方端部(図3(a)(b)では右側端部)の下方に形成され、X方向に延在する。ワード線WLに活性化電流を流すと、ワード線WLの周りに磁化困難軸方向(短軸方向)の磁場が発生する。ビット線BLは、トンネル磁気抵抗素子TMRの上に形成され、Y方向に延在する。ビット線BLに書込電流を流すと、ビット線BLの周りに磁化容易軸方向(長軸方向)の磁場が発生する。ワード線WLからの磁場とビット線BLからの磁場との合成磁場により、自由層14の磁化方向が書き換えられる。
【0022】
図5は、メモリアレイMAのうちにデータ書込に関連する部分を示す図である。図5において、メモリアレイMAは、複数行複数列に配置された複数のトンネル磁気抵抗素子TMRと、それぞれ複数行に対応して設けられた複数のワード線WLと、それぞれ複数列に対応して設けられた複数のビット線BLとを含む。各トンネル磁気抵抗素子TMRは楕円形状に形成されており、楕円の長軸(磁化容易軸)はワード線WLの延在方向に向けられ、楕円の短軸(磁化困難軸)はビット線BLの延在方向に向けられている。
【0023】
書込動作時は、複数のワード線WLのうちの選択された1本のワード線WLiに活性化電流Iwが流され、そのワード線WLiの周りに磁場が発生する。また、複数のビット線BLのうちの選択された1または2以上のビット線BLj,BLj+1の各々に書込データ信号の論理レベルに応じた方向の書込電流Ibが流され、ビット線BLj,BLj+1の各々の周りに磁場が発生する。これにより、ワード線WLiとビット線BLj,BLj+1の交差部のトンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14の磁化方向が書き換えられる。
【0024】
図6(a)はワード線電流(活性化電流)Iwの波形を示すタイムチャートであり、図6(b)はビット線電流(書込電流)Ibの波形を示すタイムチャートである。図6(a)(b)を参照して、ワード線電流Iwは、時刻t1〜t2において0Aから所定の電流値W0に立ち上げられ、時刻t2〜t5において所定の電流値W0に維持され、時刻t5〜t6において所定の電流値W0から0Aに立ち下げられる。
【0025】
また、ビット線電流Ibは、たとえばデータ信号“1”を書き込む場合、時刻t3〜t4において0Aから所定の電流値B0に立ち上げられ、時刻t4〜t7において所定の電流値B0に維持され、時刻t7〜t8において所定の電流値B0から0Aに立ち下げられる。また、ビット線電流Ibは、たとえばデータ信号“0”を書き込む場合、時刻t3〜t4において0Aから所定の電流値(−B0)に立ち下げられ、時刻t4〜t7において所定の電流値(−B0)に維持され、時刻t7〜t8において所定の電流値(−B0)から0Aに立ち上げられる。
【0026】
時刻t4〜t5では、ワード線WLとビット線BLの両方に電流が流されており、この期間にワード線WLとビット線BLの交差部のトンネル磁気抵抗素子TMRのデータ信号が書き換えられる。
【0027】
[WLディスターブ]
図5において、選択されたワード線WLiに電流Iwを流すと、そのワード線WLiの周りに磁場が発生する。このとき、選択されたワード線WLiに対応するが、選択されていないビット線BLに対応するトンネル磁気抵抗素子TMRの記憶データが、ワード線WLiの周りの磁場の影響を受けて書き換えられる現象をWLディスターブという。
【0028】
すなわち、ワード線WLに電流を流すと、図7(a)に示すようにワード線WLの周りに磁場Hが発生し、図7(b)に示すようにトンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14の磁化方向が初期状態(長軸方向)から短軸方向に傾く。自由層14は楕円状に形成されており、形状異方性を有する。このため自由層14の磁化方向は、楕円の長軸方向で安定し、長軸方向から傾くと不安定になる。また、有限温度では、磁化方向は熱により揺らぐ。このため、図7(c)(d)に示すようにワード線WLへの電流供給を停止すると、そのときの磁化方向に応じて反転したりしなかったりする。磁化方向の熱揺らぎは電流Iwを印加する毎に異なるので、同じトンネル磁気抵抗素子TMRに対して同じ値、パルス幅の電流Iwを印加しても、100%反転する(あるいは反転しない)ことはない。
【0029】
図8(a)(b)はWLディスターブのシミュレーション結果を示す図である。特に、図8(a)は、図6(a)で示したような波形の電流Iwをワード線WLに流したときに、トンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14に発生する磁場Hhを示している。また、図8(b)は、自由層14の磁化方向の変化の軌跡を示しており、100回分の軌跡を重ねて描いたものである。
【0030】
このとき、自由層14の長軸の長さaを425nmとし、その短軸の長さbを200nmとし、その厚さを2nmとした。自由層14の材料をパーマロイ(NiFe)とし、系の温度を450Kとした。
【0031】
ワード線WLの電流Iwを1n秒かけて0Aから所定値W0に立ち上げ、所定値W0に5n秒間だけ維持し、1n秒かけて所定値W0から0Aに立ち下げた。これにより、図8(a)に示すように、電流Iwと同様の波形の磁場Hhが発生した。図8(a)の縦軸は、磁場Hを自由層14の異方性磁界Hkで除算したものである。このような磁場Hhを上記の自由層14に印加し、磁化方向の変化を求めた。磁場Hhを1回印加する毎に自由層14の磁化を初期磁化状態にリセットし、自由層14に合計100回、磁場Hhを印加した。
【0032】
図8(b)の縦軸は、規格化された磁化Mx/Mであり、自由層14の磁化ベクトルのX方向(長軸方向)の成分を示している。Mx/M=1は、自由層14の磁化方向が反転されていない状態を示している。Mx/M=0は、自由層14の磁化方向がY方向に向けられた状態を示している。Mx/M=−1は、自由層14の磁化方向が反転された状態を示している。
【0033】
図8(a)(b)において、同一の自由層14に同じ波形の磁場Hhを印加しても、試行毎に磁化変化の軌跡が異なり、全試行における磁化変化の軌跡を重ね合わせると帯のような広がりが見られることから、熱揺らぎの影響が大きいことが分かる。その結果として磁場Hhの印加中に、図7(c)(d)で示したように自由層14の磁化が状態(A)や(B)になり、状態(B)を経て最終的に反転した場合が、WLディスターブを受けた場合に相当する。
【0034】
[実施の形態]
本願発明では、書込動作時に、選択されたワード線WLに三角波状のパルス電流Iwを印加するとともに、選択されたビット線BLに三角波状のパルス電流Ibを印加する。三角波状のパルス電流Iwを急峻に立ち上げて自由層14の磁化ベクトルの歳差運動を磁化ベクトルの熱揺動よりも大きくし、さらにその運動中にパルス電流Iwを急峻に立ち下げて熱の影響を抑える。これにより、選択されたワード線WLに対応するが、選択されていないビット線BLに対応するメモリセルMC(以下、半選択ビットという)の記憶データが反転するのを100%防止することができる。また、ワード線電流Iwがピーク値に達した後に、ビット線電流Ibをピーク値にすることにより、選択されたメモリセルMCの記憶データを100%書き換えることができる。以下、本願発明の一実施の形態によるWLディスターブの抑制方法(MRAMの書込方法)について図面を用いて詳細に説明する。
【0035】
図9はワード線WLに印加するパルス電流Iwの波形を示すタイムチャートであり、図10はビット線BLに印加するパルス電流Ibの波形を示すタイムチャートであり、図11はパルス電流Iw,Ibの関係を示すタイムチャートである。なお、MRAMのデータ書換動作で使用される磁場範囲では、磁場は電流に比例するという経験則が成立するので、図9は磁化困難軸方向の磁場Hhの時間変化も示し、図10は磁化容易軸方向の磁場Heの時間変化も示し、図11は磁化困難軸方向の磁場Hhと磁化容易軸方向の磁場Heとの関係も示している。
【0036】
図9に示すように、ワード線電流Iwは、三角波状のパルス電流であり、0Aからピーク値Wまで急峻に立ち上げられ、ピーク値Wから0Aまで急峻に立ち下げられる。また図10に示すように、ビット線電流Ibは三角波状のパルス電流である。たとえば、データ信号“1”を書き込む場合は、ビット線電流Ibは、0Aからピーク値Bまで急峻に立ち上げられ、ピーク値Bから0Aまで急峻に立ち下げられる。また、データ信号“0”を書き込む場合は、ビット線電流Ibは、0Aからピーク値(−B)まで急峻に立ち下げられ、ピーク値(−B)から0Aまで急峻に立ち上げられる。
【0037】
また、図11に示すように、パルス電流Iwのピーク値Wはパルス電流Ibのピーク値の絶対値Bよりも大きい。また、パルス電流Ibがピーク値Bまたは(−B)に達する時間tpbは、パルス電流Iwがピーク値Wに達する時間tpwよりも遅い。パルス電流Iw,Ibの他の定義については、後述する。
【0038】
[本実施の形態の効果(1)]
図12〜図14は、本実施の形態の効果(1)を示す図である。特に、図12は、図11で示したような波形のパルス電流Iw(またはIb)をワード線WL(またはビット線BL)に流したときに、トンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14に印加されるパルス磁場Hh(またはHe)を示している。図12の縦軸は、磁場Hを異方性磁界Hkで除算したものである。
【0039】
また、図13は、Hh,HeのうちのHhのみを自由層14に印加した場合における自由層14の磁化方向の変化の軌跡を示しており、100回分の軌跡を重ねて描いたものである。また、図14は、Hh,Heの両方を自由層14に印加した場合における自由層14の磁化方向の変化の軌跡を示しており、100回分の軌跡を重ねて描いたものである。
【0040】
このとき、自由層14の長軸の長さaを425nmとし、その短軸の長さbを200nmとし、その厚さを2nmとした。また、自由層14の材料をパーマロイ(NiFe)とし、自由層14の温度を450Kとした。
【0041】
ワード線WLの電流Iwを1n秒かけて0Aからピーク値Wに立ち上げ、1n秒かけてピーク値Wから0Aに立ち下げた。これにより、図12に示すように、パルス電流Iwと同様の波形のパルス磁場Hhが発生した。また、ビット線BLの電流Ibを1n秒かけて0Aからピーク値(−B)に立ち下げ、1n秒かけてピーク値(−B)から0Aに立ち上げた。これにより、図12に示すように、パルス電流Ibと同様の波形のパルス磁場Heが発生した。
【0042】
パルス電流Ibのピークとパルス電流Iwのピークとの時間差は、1n秒である。パルス磁場Heのピークとパルス磁場Hhのピークとの時間差は、1n秒である。このようなパルス磁場を上記の自由層14に印加し、磁化方向の時刻変化を求めた。パルス磁場を1回印加する毎に自由層14の磁化を初期磁化状態にリセットし、自由層14に合計100回、パルス磁場を印加した。
【0043】
図13および図14の各々の縦軸は、規格化された磁化Mx/Mであり、自由層14の磁化ベクトルのX方向(長軸方向)の成分を示している。Mx/M=1は、自由層14の磁化方向が反転されていない状態を示している。Mx/M=0は、自由層14の磁化方向がY方向に向けられた状態を示している。Mx/M=−1は、自由層14の磁化方向が反転された状態を示している。
【0044】
図13から分かるように、図12に示したパルス磁場Hhのみを自由層14に印加した場合、自由層14の磁化は100回とも反転しなかった。また図14から分かるように、図11に示したパルス磁場Hh,Heの両方を自由層14に印加した場合、自由層14の磁化は100回とも反転した。なお、ビット線BLの電流Ibに基づくパルス磁場Heの大きさは保磁力Hc未満であり、パルス磁場Heのみでは自由層14の磁化が100回とも反転することはない。ここで、保磁力Hcとは、パルス磁場Heのみで自由層14の磁化を反転させることが可能な磁場である。つまり、選択されたビット線BLに対応する半選択ビットの記憶データの論理が反転することはない。
【0045】
[本実施の形態のメカニズム]
次に、本実施の形態のメカニズムについて説明する。図15(a)(b)は、図8(a)(b)でも示したWLディスターブのシミュレーション結果を示す図である。特に、図15(a)は、図6(a)で示したような波形の電流Iwをワード線WLに流したときに、トンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14に発生する磁場Hhを模式的に示している。また、図15(b)は、自由層14の磁化方向の変化の軌跡を示しており、100回分の軌跡が重ねて描かれている。100回分の軌跡のうちの3回分の軌跡A,B,Cが得られた場合に、磁化ベクトルが磁化空間(Mx,My,Mz)をどのように動いたかを図16〜図18に示す。
【0046】
図16(a)〜(c)は、軌跡Aが得られた場合に、磁化ベクトルが磁化空間(Mx,My,Mz)を動いた軌跡を示す図であり、磁化ベクトルをそれぞれZX平面、YZ平面、YX平面に投射した図である。図16(a)〜(c)中の細い点線は図15(a)で示したパルス磁場の立ち上がり期間T1に対応し、太い点線はパルス磁場が一定値に固定された期間T2に対応し、細い実線はパルス磁場の立ち下がり期間T3に対応し、太い実線はパルス磁場の印加が終了した後の期間T4に対応している。図17(a)〜(c)および図18(a)〜(c)の各々も、図16(a)〜(c)と同様である。
【0047】
図16〜図18から分かるように、図15(a)で示した台形状の磁場Hhを自由層14に印加すると、磁場Hhの立ち上がり期間T1および立ち下がり期間T3中に磁化ベクトルが僅かに歳差運動するが、磁化ベクトルはほぼ磁場変化に追随している。磁場変動がもたらす磁化の運動が非常に小さいために熱による磁化揺動が顕在化し、磁場Hhが一定値に固定された期間T2においてA,B,Cで大きな違いが現れていることが分かる。
【0048】
図19(a)(b)は、図13でも示したWLディスターブのシミュレーション結果を示す図である。特に、図19(a)は、図9で示したような波形のパルス電流Iwをワード線WLに流したときに、トンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14に発生するパルス磁場Hhを模式的に示している。また、図19(b)は、自由層14の磁化方向の変化の軌跡を示しており、100回分の軌跡を重ねて描いている。100回分の軌跡のうちの2回分の軌跡D,Eが得られた場合に、磁化ベクトルが磁化空間(Mx,My,Mz)をどのように動いたかを図20および図21に示す。
【0049】
図20(a)〜(c)は、軌跡Dが得られた場合に磁化ベクトルが磁化空間(Mx,My,Mz)を動いた軌跡を示す図であり、磁化ベクトルをそれぞれZX平面、YZ平面、YX平面に投射した図である。図20(a)〜(c)中の細い点線は図19(a)で示したパルス磁場Hhの立ち上がり期間T5に対応し、細い実線はパルス磁場Hhの立ち下がり期間T6に対応し、太い実線はパルス磁場Hhの印加が終了した後の期間T7に対応している。図21(a)〜(c)も、図20(a)〜(c)と同様である。
【0050】
図20および図21から分かるように、図19(a)で示した三角波状のパルス磁場Hhを自由層14に印加すると、パルス磁場Hhの立ち上がり期間T5および立ち下がり期間T6中に磁化ベクトルが強いジャイロ効果を受けてZ方向に振られる。このため、磁化ベクトルに回転半径の大きな歳差運動が生じ、磁化ベクトルはパルス磁場Hhに追随していない。この力の起源は磁場(回転軸)の急激な変化により生じた慣性力である。この慣性力と比べて熱がもたらす力は無視できるほど小さくなっている。各試行におけるパルス磁場Hhが同じであれば慣性力も全試行で等しいので、パルス磁場Hhの印加期間T5,T6における磁化ベクトルの軌跡はDとEで同じである。
【0051】
すなわち、有限温度における磁場変化時の磁化の応答としては、歳差運動と熱揺動があり、これらは同時に起こっている。本実施の形態では、三角波状のパルス磁場Hhを印加することにより、歳差運動を起こす力を熱揺動を起こす力よりも十分に大きくすることができ、WLディスターブを抑制することができる。
【0052】
[本実施の形態の効果(2)]
図22〜図24は、本実施の形態の効果(2)を示す図である。特に、図22(a)は、図11で示したような波形のパルス電流Iw,Ibをそれぞれワード線WLおよびビット線BLに流したときに、トンネル磁気抵抗素子TMRの自由層14に印加されるパルス磁場Hh,Heを示している。図22(a)の縦軸は、磁場Hを自由層14の異方性磁界Hkで除算したものである。
【0053】
また、図22(b)は、Hh,Heの両方を印加した場合における自由層14の磁化方向の変化の軌跡を示しており、100回分の軌跡を重ねて描いている。このとき、系の温度を450Kとした。図23(a)(b)および図24(a)(b)の各々も、図22(a)(b)と同様である。
【0054】
パルス磁場Hhがピークに達する時間をtpwとし、パルス磁場Heがピークに達する時間をtpbとすると、図22(a)(b)ではtpw>tpbであり、図23(a)(b)ではtpw=tpbであり、図24(a)(b)ではtpw<tpbである。図22〜図24から分かるように、tpw>tpbおよびtpw=tpbの場合では自由層14の磁化は反転せず、tpw<tpbの場合のみで自由層14の磁化が反転した。
【0055】
図22〜図24では、パルス磁場Hhのピーク値がパルス磁場Heのピーク値よりも大きいため、パルス磁場Hhによる磁化ベクトルの運動がパルス磁場Heによる磁化ベクトルの運動よりも大きくなっている。図22および図23で磁化が反転しなかったのは、パルス磁場Heの印加によって発生した磁化ベクトルの運動が、パルス磁場Hhの印加による運動によってかき消されたためである。図24で磁化が反転したのは、パルス磁場Hhの印加によって発生した磁化ベクトルの運動に、パルス磁場Heの印加による運動が加えられたためである。
【0056】
図22〜図24で用いたパルス磁場Heは、図12〜図14で用いたパルス磁場Heと同じであり、保磁力Hcよりも小さい。したがって、パルス磁場Heのみを自由層14に印加しても自由層14の磁化は100%反転するということはない。しかし、図25(a)(b)に示すように、パルス磁場Hhとパルス磁場Heのオーバーラップ時間が0でも自由層14の磁化は100%反転することが分かった。
【0057】
これは、パルス磁場Hhの印加を停止しても、磁化ベクトルの運動がエネルギー的に安定な範囲内に収束していないうちに、保磁力Hc未満のパルス磁場Heを印加すると磁化を反転させることが可能であることを示している。ただし、図26(a)(b)に示すように、パルス磁場Hhの印加を停止してから十分な時間の経過後にパルス磁場Heを印加しても磁化は反転しない。
【0058】
図24(a)(b)では、パルス磁場Hh,Heのピーク値をそれぞれ4.0,−0.57に設定し、パルス磁場Hhを印加してから1n秒後にパルス磁場Heを印加した。これに対して図27(a)(b)では、パルス磁場Hh,Heのピーク値をそれぞれ4.0,−0.34に設定し、パルス磁場Hhを印加してから1n秒後にパルス磁場Heを印加した。すなわち、図27(a)(b)では、パルス磁場Heのピーク値の絶対値を0.57から0.34に下げて、図24(a)(b)の場合と同じタイミングでパルス磁場Hh,Heを印加した。この場合でも、自由層14の磁化は反転した。
【0059】
また図25(a)(b)では、パルス磁場Hh,Heのピーク値をそれぞれ4.0,−0.57に設定し、パルス磁場Hhを印加してから2n秒後にパルス磁場Heを印加した。これに対して図28(a)(b)では、パルス磁場Hh,Heのピーク値をそれぞれ4.0,−0.34に設定し、パルス磁場Hhを印加してから2n秒後にパルス磁場Heを印加した。すなわち、図28(a)(b)では、パルス磁場Heのピーク値の絶対値を0.57から0.34に下げて、図25(a)(b)の場合と同じタイミングでパルス磁場Hh,Heを印加した。この場合、自由層14の磁化は反転しなかった。
【0060】
図27および図28から、パルス磁場Hh,Heのピークの時間差(tpb−tpw)を長くすると、自由層14の磁化を反転させるのに必要な磁場が大きくなることが分かった。
【0061】
図29は、パルス磁場Hh,Heのピークの時間差(tpb−tpw)と、磁化を反転させるのに必要なパルス磁場Heのピーク値の絶対値との関係を示す図である。図29中の領域Fが磁化を反転させることが可能な領域である。たとえば、tpb−tpw=1n秒である場合は、パルス磁場He/Hkのピーク値の絶対値を0.24以上で0.74以下に設定することが必要である。なお、He/HkがHc/Hk(=0.74)を超えると、パルス磁場Heのみで磁化が反転してしまう。図29から分かるように、HeがHcに近いほどパルス磁場Hh,Heの時間差(tpb−tpw)を長くすることができ、制御性の観点から見ると好ましい。また、パルス磁場Hh,Heの時間差(tpb−tpw)を0[n秒]よりも大きく、4[n秒]以下の値に設定することが必要である。パルス磁場Hh,Heの各々のパルス幅が2[n秒]である場合、パルス磁場Hh,Heの時間差(tpb−tpw)は、パルス磁場Hh,Heのパルス幅の和(4[n秒])以下に設定される。
【0062】
[印加パルスの定義]
図30は、ワード線WLに印加されるパルス電流Iwの波形を示すタイムチャートである。図30に示すように、パルス電流Iwは、0Aからピーク値Wに急峻に立ち上げられ、直ぐにピーク値Wから0Aに急峻に立ち下げられ、二等辺三角形状の波形を有する。パルス電流Iwが0Aから立ち上げられてピーク値Wに到達するまでの時間Twと、パルス電流Iwがピーク値Wから立ち上げられて0Aに到達するまでの時間Twとは略等しい。Twは、0.8n秒から1.2n秒までの時間に設定される。すなわち、パルス電流Iwのパルス幅は、1.6n秒から2.4n秒までの時間に設定される。
【0063】
パルス電流Iwのピーク値Wは電流値である。しかし、自由層14の磁化を反転させるのに必要なパラメータは、パルス電流Iwから生じる磁場のピーク値Hpwである。経験則としてWとHpwには、次式(1)が成り立つことが分かっている。
W=λw・Hpw …(1)
ただし、λwは、電流[mA]と磁場[Oe]の比例定数であり、1以下の値である。λwは、トンネル磁気抵抗素子TMRとワード線WLの間の距離や、クラッド配線構造などに依存する。λwの値は、0.1程度が一般的である。
【0064】
Hpwは、トンネル磁気抵抗素子TMRの形状や材料に依存し、トンネル磁気抵抗素子TMRの異方性磁界Hkによって特徴付けられる。TwとHpw,Hkとの間には、経験則として次式(2)が成り立つ。
Hpw/Hk=кTw+Hp0/Hk …(2)
ただし、кは比例定数である。また、Hp0は、Tw=0において磁化反転を起こさない磁場である。
【0065】
本実施の形態においては、上記Twの範囲(0.8〜1.2[n秒])において次式(3)を満たすHpwであれば、パルス電流Iwのみで自由層14の磁化反転は起こらない。
[9.15−0.2]<Hp0/Hk<[9.15+0.2] …(3)
この範囲のHpwをλw倍した値が必要な電流値Wとなる。
【0066】
なお、上記Tw,Wの範囲内であれば、パルス電流Iwの波形は、正確な二等辺三角形状である必要はない。たとえば、図31(a)に示すように、電流Iwの上昇中、下降中に曲線の傾きが変化してもかまわない。また、図31(b)に示すように、パルス電流Iwが所定時間(たとえば、100p秒以下の時間)だけピーク値Wに維持されてもかまわない。
【0067】
図32は、パルス電流Iwの動作領域を示す図である。図32中の点線は、数式(2)のHpw/Hkの中点を取った曲線である。図32の斜線が施された領域A1,A3,A5は、パルス電流Iwのみでは自由層14の磁化が反転しない領域である。これらの領域A1,A3,A5では、ワード線WLにパルス電流Iwを流すとともにビット線BLにパルス電流Ibを流すことにより、自由層14の磁化を反転させることができる。
【0068】
したがって、これらの領域A1,A3,A5は、データ書込に使用できる領域である。ただし、領域A1ではパルス幅2Twが短くなり過ぎてパルス電流Iwを制御することが難しく、領域A5では電流値Wが大きくなるので、領域A3の条件が使用し易い。
【0069】
図32のうちの斜線が施されていない領域A2,A4,A6は、パルス電流Iwのみで自由層14の磁化が反転する領域である。これらの領域A2,A4,A6では、パルス電流Iwを流したワード線WLに対応する行の全メモリセルMCの記憶データが反転してしまう。したがって、領域A2,A4,A6は、データ書込に使用できない領域である。
【0070】
図33は、ビット線BLに印加されるパルス電流Ibの波形を示すタイムチャートである。図33に示すように、パルス電流Ibは、0Aからピーク値Bに急峻に立ち上げられ、直ぐにピーク値Bから0Aに急峻に立ち下げられ、二等辺三角形状の波形を有する。パルス電流Ibが0Aから立ち上げられてピーク値Bに到達するまでの時間Tbと、パルス電流Ibがピーク値Bから立ち上げられて0Aに到達するまでの時間Tbとは略等しい。Tbは、0.8n秒から1.2n秒までの時間に設定される。すなわち、パルス電流Ibのパルス幅は、1.6n秒から2.4n秒までの時間に設定される。
【0071】
パルス電流Ibのピーク値Bは電流値である。しかし、自由層14の磁化を反転させるのに必要なパラメータは、パルス電流Ibから生じる磁場のピーク値Hpbである。経験則としてBとHpには、次式(4)が成り立つことが分かっている。
B=λb・Hpb …(4)
ただし、λbは、電流[mA]と磁場[Oe]の比例定数であり、1以下の値である。λbは、トンネル磁気抵抗素子TMRとワード線WLの間の距離や、クラッド配線構造などに依存する。λbの値は、0.1程度が一般的である。λbは、必ずしもλwと一致しない。
【0072】
Hpbは、トンネル磁気抵抗素子TMRの形状や材料に依存し、トンネル磁気抵抗素子TMRの保磁力Hcによって特徴付けられる。Hpb<Hcが成り立つ。したがって、B<λb・Hcとなる。
【0073】
保磁力Hcは、パルス電流Ibによって発生するパルス磁場のみで磁化反転が起こる際の臨界磁場であり、通常、Hc≦Hkである。したがって、B<Wである。なお、上述のようなパルス電流Ibを採用することにより、消費電流の低減化を図ることができる。
【0074】
[制御性の向上]
図34(a)に示すように、自由層14の磁化Mx/Mは、ワード線WLへのパルス電流Iwの印加に応答して、Mx/M=0を境にして複数回振動する。これは、磁化Mx/Mが反転に近い状態と非反転に近い状態とを短時間で繰り返していることを示している。反転状態と非反転状態のうちのいずれの状態で磁化Mx/Mが停止するかは、パルス電流Iwの条件で決まる。その結果が図32で示されている。
【0075】
図32の動作マージンを拡大するためには、磁化Mx/Mの振動数を減らせばよい。磁化Mx/Mの振動数を減らす方法としては、メモリセルMCの面積を縮小する第1の方法と、ギルバート減衰定数αを大きくする第2の方法がある。第1および第2の方法の両方を行ってもよい。ギルバート減衰定数αを大きくする具体的な方法としては、スピンポンピングを利用する方法、すなわち図4で示したキャップ層15をスピン緩和の大きな材料(白金、パラジウム)で形成する方法がある。
【0076】
図34(a)は、図19(b)の時間軸を拡大した図である。図34(a)の試行では、長軸長aが425nmで、短軸長bが200nmの楕円形状の自由層14を使用した。図34(b)の試行では、長軸長aが210nmで、短軸長bが100nmの楕円形状の自由層14を使用した。図34(c)の試行では、長軸長aが210nmで、短軸長bが100nmの楕円形状の自由層14を使用し、かつギルバート減衰定数αを図34(a)(b)の場合の5倍にした。
【0077】
図34(a)(b)(c)において、磁化Mx/MがMx/M=0の直線と交差する回数は、それぞれ6回、4回、2回であった。磁化Mx/Mの振動回数は、図34(a)(b)(c)と順次減少している。これは、図34(c)の場合に、パルス電流Iwの制御が最も容易になることを示している。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
MA メモリアレイ、MC メモリセル、WL ワード線、WLR 読出ワード線、BL ビット線、TMR トンネル磁気抵抗素子、ATR アクセストランジスタ、BE,EL 電極、VH ビアホール、1 行デコーダ、2 WLドライバ、3 列デコーダ、4 BLドライバ、6 読出回路、11 シード層、12 固定層、13 トンネル絶縁膜、14 自由層、15 キャップ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗値のレベル変化によってデータ信号を記憶する磁気抵抗素子を備え、
前記磁気抵抗素子は磁化容易軸と磁化困難軸を有する自由層を含み、前記磁気抵抗素子の抵抗値は前記自由層の磁化方向に応じて変化し、
さらに、前記自由層に前記磁化困難軸方向の第1のパルス磁場を印加するためのワード線と、
前記自由層に前記磁化容易軸方向の第2のパルス磁場を印加するためのビット線と、
第1のパルス電流を前記ワード線に流して前記第1のパルス磁場を発生させるとともに、第2のパルス電流を前記ビット線に流して前記第2のパルス磁場を発生させ、前記自由層の磁化方向を反転させる駆動回路とを備え、
前記第1および第2のパルス電流の各々は三角波状であり、
前記第1のパルス電流がピークに達した後に前記第2のパルス電流がピークに達する、半導体記憶装置。
【請求項2】
前記第1のパルス電流のピーク値、立ち上がり時間、および立ち下がり時間は、前記自由層における磁化ベクトルの歳差運動が前記磁化ベクトルの熱揺動よりも大きくなるように設定されている、請求項1に記載の半導体記憶装置。
【請求項3】
前記第1のパルス電流のピーク値の絶対値は、前記第2のパルス電流のピーク値の絶対値よりも大きい、請求項1または請求項2に記載の半導体記憶装置。
【請求項4】
前記第1および第2のパルス電流の各々のパルス幅は1.6n秒から2.4n秒までの値に設定されている、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の半導体記憶装置。
【請求項5】
前記第1および第2のパルス電流のピークの時間差は4n秒以下の値に設定されている、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の半導体記憶装置。
【請求項6】
前記第1および第2のパルス電流のピークの時間差は、前記第1および第2のパルス電流のパルス幅の和以下に設定されている、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の半導体記憶装置。
【請求項7】
前記第1のパルス電流のピーク値をWとし、そのパルス幅を2Twとし、1以下の比例定数をλwとし、前記自由層における磁場のピーク値をHpwとし、比例定数をкとし、Tw=0において磁化反転を起こさない磁場をHp0とすると、数式W=λw・Hpwおよび数式Hpw/Hk=кTw+Hp0/Hkが成り立ち、Hp0/Hkは8.95よりも大きく9.35よりも小さい、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の半導体記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2013−97842(P2013−97842A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241086(P2011−241086)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】