説明

半導体集積回路の故障診断方法及び故障診断装置

【課題】 微細化、多層配線構造化に伴う配線長の短縮化、周辺回路の多様な論理状態等に影響されない故障箇所の特定、特にオープン故障箇所を特定することが可能な故障診断方法及び故障診断装置を提供すること。
【解決手段】 半導体集積回路の故障診断方法であって、該半導体集積回路に外部刺激を印加し、該外部刺激による電気的特性の変化を計測し、計測結果を分析することにより故障含有領域を特定し、前記故障含有領域のレイアウト情報に基づいて故障候補を特定し、該故障候補を回路に埋め込んで論理シミュレーションを行い、実故障品の電気的特性と一致する故障候補を最終故障候補として特定することを特徴とする半導体集積回路の故障診断方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体集積回路のオープン故障の論理の固定化により故障候補を検出し、この故障候補を特定する故障診断方法及び故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(以下、LSI)は大規模化、微細構造化、多層配線構造化が進み、物理解析のみで故障箇所を特定することが困難となってきている。
また、故障箇所特定に際して膨大な工数を費やす傾向になってきている。そのため、故障箇所診断と呼ばれるソフトウエアを利用して予め故障候補を特定し、その故障候補に対して物理解析を行う方法が主となっている。
しかしながらこの方法を用いた場合、論理や電流値が不安定であるため、オープン故障において故障候補を特定することは困難であった。
【0003】
オープン故障の診断方法として、論理情報を用いる方法について多く検討されている。
この方法は、オープン配線の論理が、これに隣接する配線の論理に依存するという
カップリング効果による現象を用いるものである。
その一つが非特許文献1に開示されている。非特許文献1の開示技術は、オープン配線をビア(Via)間のセグメント単位に分解し、各セグメント配線と並行して上下左右方向に配置される隣接配線間との容量、配線長、論理から、カップリング効果により誘導される論理を算出するものである。
【0004】
また、非特許文献2にはオープン配線に隣接する信号線の論理状態とレイアウトパタン形状とを用いて電磁界解析し、オープン配線への励起論理を算出する技術が開示されている。
非特許文献1及び非特許文献2の開示技術では、故障候補は入力論理によって変化する算出論理と、実際の論理に一致する故障セグメントから同定される。
これらの論理情報を用いた技術は、オープン配線に並行する隣接配線との長さ、間隔、入力信号に同期して変化する隣接配線群の論理の組み合わせを把握しつつ誘導論理を算出する必要があるため、論理特定方法が複雑となる問題があった。更に、LSIの進展に伴う微細化、多層配線構造化による配線長の短縮化及び周辺回路の多様な論理状態は上記した技術を適用することを困難にした。
【0005】
一方、LSI表面の垂直方向上部にパルスを印加し、LSI表面に流れる電流の変化と、パルス印加位置のマッピングから故障箇所を特定する物理解析方法が非特許文献3及び特許文献1に開示されている。
これらの開示技術は、あらかじめ絞り込まれた局部配線上の任意の位置に電界プローブを合わせてパルス(励起周波数f=50kHz、励起電圧V=5Vrms)を印加し、これに同期したプローブ位置毎のIDDQの変化量をマップ上に図示することで、IDDQ変化量の大きい箇所を特定しオープン故障候補と判断するものである。
【0006】
しかしながら、上記した電界印加と電界印加位置のマッピングによる故障箇所の特定においては、予め故障の発生箇所を特定しておく必要があった。加えて、特定領域の各配線上に電界プローブを位置合わせして電界を印加する必要があり、更にLSIの微細化と共に設計に依存した径のプローブを配置しなければならないという欠点があった。
また、配線局部に印加される電界は、電源電圧に重畳した励起パルス波形が用いられるためIDDQの変位が識別される。しかし、この変位はナノアンペア(nA)という微小な変化であるためノイズに埋もれてしまう。従って、DSM化と共に増大するIDDQ値をもつLSIからIDDQ値の変化を特定することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】LSIテスティングシンポジウム/2002会議録 pp.101−106
【非特許文献2】LSIテスティングシンポジウム/2006会議録 pp.181−186
【非特許文献3】LSIテスティングシンポジウム/2004会議録 pp.279−283
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−3135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであって、微細化、多層配線構造化に伴う配線長の短縮化、周辺回路の多様な論理状態等に影響されない故障箇所の特定、特にオープン故障箇所を特定することが可能な故障診断方法及び故障診断装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、半導体集積回路の故障診断方法であって、該半導体集積回路に外部刺激を印加し、該外部刺激による電気的特性の変化を計測し、計測結果を分析することにより故障含有領域を特定し、前記故障含有領域のレイアウト情報に基づいて故障候補を特定し、該故障候補を回路に埋め込んで論理シミュレーションを行い、実故障品の電気的特性と一致する故障候補を最終故障候補として特定することを特徴とする半導体集積回路の故障診断方法に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記外部刺激がレーザであることを特徴とする請求項1記載の半導体集積回路の故障診断方法に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記外部刺激が電界であることを特徴とする請求項1記載の半導体集積回路の故障診断方法に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記外部刺激の印加領域が基本的論理機能を実行する複数のセルからなる回路集合体であり、外部刺激の印加時において、印加領域を半導体集積回路の集合体から順次縮小していくことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の半導体集積回路の故障診断方法に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、計測される前記電気的特性の変位が出力論理値及び電源電流値であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の半導体集積回路の故障診断方法に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、半導体集積回路の故障診断装置であって、該半導体集積回路に外部刺激を印加する外部刺激印加手段と、該外部刺激による電気的特性の変化を計測する計測手段と、前記計測手段で得られる計測結果を分析する分析手段と、この分析結果と外部刺激印加領域のレイアウト情報を利用して特定した故障候補を用いた論理シミュレーションを実行するシミュレーション手段とを備えていることを特徴とする半導体集積回路の故障診断装置に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、前記外部刺激印加手段がレーザ発振器であることを特徴とする請求項6記載の半導体集積回路の故障診断装置に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、前記外部刺激印加手段がマニュプレータに取り付けられた電圧が印加された金属針であることを特徴とする請求項6記載の半導体集積回路の故障診断装置に関する。
【0018】
請求項9に係る発明は、前記半導体集積回路を載置するステージを備えた顕微鏡と、該顕微鏡を介して半導体集積回路を撮影するCCDカメラと、該CCDカメラにより撮影された映像を表示するモニターを備えていることを特徴とする請求項6乃至8いずれかに記載の半導体集積回路の故障診断装置に関する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、LSI内に発生した故障に伴う不安定な論理を外部からの刺激印加により任意の論理状態に固定化又は変動化でき、この固定化又は変動化した論理情報とレイアウト情報から特定される故障候補を回路に埋め込んで論理シミュレーションを行い、実故障品の電気的特性と一致する故障候補を最終故障候補として特定するため、故障候補を高精度で特定することが可能となる。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、外部刺激がレーザであるため、短時間で広範囲の走査が可能となり、故障診断の作業効率を高めることができる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、外部刺激が電界であるため、レーザ照射用の設備を必要とせず、比較的簡易な装置構成で故障候補を高精度で特定することが可能となる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、任意の領域に刺激を印加しながら、光学顕微鏡の倍率変更等により観察領域を順次微小領域へと移行していくことにより、位置合わせを必要とせず、簡単に効率的に故障候補を特定することができる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、電気的特性の変位の計測を容易に行うことができる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、LSIへの外部刺激印加手段からの刺激印加により電気的特性の変化を生じさせ、計測手段により電気的特性の変化を計測し、分析手段により計測結果を分析し、この分析結果と外部刺激印加領域のレイアウト情報を利用して特定した故障候補を用いてシミュレーション手段により論理シミュレーションを行うことができるため、故障候補を高精度で特定することが可能な装置となる。
【0025】
請求項7に係る発明によれば、短時間で広範囲の走査が可能となり、故障診断の処理効率を高めることができる装置となる。
【0026】
請求項8に係る発明によれば、レーザ照射用の設備を必要とせず、比較的簡易な装置構成で故障候補を高精度で特定することが可能な装置となる。
【0027】
請求項9に係る発明によれば、比較的簡易な装置構成によりLSIを観察しながら高精度で故障診断のための処理操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る故障診断装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る故障診断方法のフローチャートである。
【図3】故障含有領域の絞り込みの説明図であって、(a)外部刺激印加領域の縮小過程を示す概念図、(b)レイアウト情報、(c)回路情報である。
【図4】レーザ照射による外部刺激を印加する故障診断装置の概略構成図である。
【図5】電界印加による外部刺激を印加する故障診断装置の概略構成図である。
【図6】DEFの記載内容を示す図である。
【図7】ViaとTrの関係を示す説明図である。
【図8】LSI表面へのレーザ照射による電気的特性の変化を示す図である。
【図9】NAND回路へのレーザ照射による論理固定化を示す概念図である。
【図10】LSI表面への電界印加による電気的特性の変化を示す図である。
【図11】NAND回路への電界印加による論理変動を示す図である。
【図12】NAND回路への電界印加による論理変動を示す図である。
【図13】中間論理の回路伝搬による変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る故障診断方法及び故障診断装置について詳述する。
【0030】
図1は、本発明に係る故障診断装置の概略構成図である。
故障診断装置(1)は、診断対象となるLSI(2)が載置されるステージ(3)を備えた光学顕微鏡(4)と、光学顕微鏡(4)の鏡筒(41)側面に取り付けられたCCDカメラ(5)と、CCDカメラ(5)の撮影画像を表示するモニター(6)とを備えている。また鏡筒(41)上部にはレーザ照射部(7)が設置され、レーザ照射部(7)にはレーザ照射のタイミング調整のためのレーザ発振器(8)が連結されている。
また、LSI(2)に電界を印加するための金属針(9)は、ステージ(3)を囲む固定リング(10)上に設置したマニュプレータ(11)に取り付けられている。
更に、LSI(2)及び金属針(9)には信号供給装置(12)が連結され、信号が供給される。
LSI内部の詳細な測定が必要なときは、マニュプレータ(11)の先端に取り付けられたプローブ針(13)を用いることができる。
【0031】
故障診断装置(1)は、外部刺激印加手段(レーザ発振器(8)又は電圧が印加された金属針(9))によりLSI(2)に与えられる外部刺激による電気的特性の変化を計測する計測手段としての電気的特性計測装置(図示略)を備えている。
また、計測手段で得られる計測結果を分析する分析手段と、この分析結果と外部刺激印加領域のレイアウト情報を利用して特定した故障候補を用いた論理シミュレーションを実行するシミュレーション手段を構成する所定のソフトウエアを記憶した記憶媒体を備えたコンピュータ(図示略)を備えている。
【0032】
図2に基づいて、本発明に係る故障診断方法について説明する。
診断対象であるLSI(2)のパッケージを開封してLSI(2)表面を露出する。光学顕微鏡(4)を用いて、露出されたLSI(2)表面に外部刺激(レーザ又は電界)を印加し、印加状態のままLSI(2)表面上を走査する。
この外部刺激の印加領域と同期してLSI(2)の電気的特性(出力論理及び電源電流)を測定し、この測定データの分析を行い上記の電気的特性の変化の有無を導出する。
次いで、光学顕微鏡(4)の倍率を増加させるとともに、外部刺激を印加する領域を縮小していく(図3参照)。上記した電気的特性の測定及び分析と、光学顕微鏡(4)の倍率増加に伴う外部刺激印加領域の縮小とを繰り返し行うことで、故障含有領域を絞っていく。
この絞り込んだ故障含有領域に対して、LSI(2)のCADデータからレイアウト情報とその故障含有領域を構成する回路情報を取り出す。
続いて、レイアウト情報からオープン故障候補(Via)や外観異常とされた配線を特定する。この後に、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)データを用いて、オープン故障候補として特定した配線の終端位置のトランジスタ(Tr)を特定する。
Trを特定した後に、そのTrに外部刺激を与えることによって固定化又は変動化した論理を回路に埋め込み、論理シミュレーションを行う。
論理シミュレーションの結果から、実故障論理(実故障品の電気的特性)と一致する故障候補を特定する。一致した候補は確度の高い故障候補(最終故障候補)として特定され、その故障候補について物理解析が行われる。
【0033】
上記したレーザ又は電界夫々の外部刺激について以下に説明する。
【0034】
レーザを照射する場合、光学顕微鏡(4)の鏡筒(41)上部に設置されたレーザ照射部(7)からLSI(2)表面にレーザを照射する。まず光学顕微鏡(4)の倍率を低倍率にした状態でレーザを照射するとともにLSI(2)表面上を走査する。
その走査領域(レーザ印加領域)において、電気的特性に変化が生じた箇所を故障含有領域として特定する。故障含有領域に対して光学顕微鏡(4)の倍率を上げ、レーザ照射する。このレーザ照射と光学顕微鏡(4)の倍率の増加を繰り返すことで故障含有領域が絞り込まれることとなる。
絞り込まれた故障含有領域に対してLSI(2)のCADデータを利用し、故障含有領域のレイアウト情報と回路情報を取り出す(図3参照)。
【0035】
図4は、レーザ照射により外部刺激を印加する故障診断装置の概略構成図である。
故障診断装置(1)は、診断対象となるLSI(2)が載置されるステージ(3)を備えた光学顕微鏡(4)と、光学顕微鏡(4)の鏡筒(41)側面に取り付けられたCCDカメラ(5)と、CCDカメラ(5)の撮影画像を表示するモニター(6)とを備えている。また鏡筒(41)上部にはレーザ照射部(7)が設置され、レーザ照射部(7)にはレーザ照射のタイミング調整のためのレーザ発振器(8)が連結されている。更に、LSI(2)には信号供給装置(12)が連結され、信号が供給される。
【0036】
ステージ(3)上に載置されたオープン故障を有するLSI(2)のpn接合面にレーザ光を照射する。pn接合面の空乏層にレーザが照射されると、空乏層内で電子と正孔のキャリアが生成する。
上記キャリアは夫々逆極性となる電極方向へ光電流(OBIC:Optical Beam Induced Current)として流れる。
【0037】
故障に起因する中間電位を有する回路において、中間電位がしきい値より高い電位状態である場合、レーザを照射することによって共にオン状態となっているPchTrとNchTrとのインピーダンス値の違いから、キャリアは高インピーダンス側より低インピーダンス側への流れが強くなる。従って、しきい値に対する電位状態を加速する方向に変化し、PchTrはオフ状態に、NchTrはオン状態となる。
これに対して、中間電位がしきい値より低い電位状態である場合、PchTrはオン状態に、NchTrはオフ状態となる。
【0038】
また、LSI(2)の裏面からレーザ照射し故障候補を特定することも可能である。多層配線構造においては、配線層がLSI(2)の上面を覆ってしまうために拡散層が隠れることとなる。そのため、LSI(2)の裏面からレーザ照射することで、配線に阻害されず直接pn接合面へレーザが照射されるため故障候補の特定が容易となる。
LSI(2)の裏面にレーザを照射する場合、波長約1000nmのレーザが使用され、具体的には例えばYAGレーザ(波長1064nm)を用いることができる。この波長のレーザを用いると、LSI(2)を構成するSi結晶内を透過可能となる。また、上記した波長は、pn接合のSiのエネルギーギャップ(1.12eV、300K)において、キャリアを励起できる限界の波長である。
LSI(2)の裏面にレーザ照射した場合においても、表面へのレーザ照射と同様に電気的特性の変化が検出される。但し、裏面へのレーザ照射であるため、レイアウト情報が反転するが、この問題はコンピュータ処理により解決することが可能である。
【0039】
一方、電界を印加する場合、マニュプレータ(11)に取り付けられた金属針(9)からLSI(2)表面に電界が印加され、光学顕微鏡(4)の倍率に伴った先端径の金属針(9)を用いてLSI(2)表面上を走査する。
その走査領域(電界印加領域)において、電気的特性に変化が生じた箇所を故障含有領域として特定する。故障含有領域に対して光学顕微鏡(4)の倍率を上げ、電界を印加する。この電界印加と光学顕微鏡(4)の倍率の増加を繰り返すことで故障含有領域が絞り込まれることとなる。光学顕微鏡(4)の倍率の増加に伴って、金属針(9)の先端径を小さくする。
絞り込まれた故障含有領域に対してLSI(2)のCADデータを利用し、故障含有領域のレイアウト情報と回路情報を取り出す(図3参照)。
【0040】
図5は、電界印加により外部刺激を印加する故障診断装置の概略構成図である。
故障診断装置(1)は、診断対象となるLSI(2)が載置されるステージ(3)を備えた光学顕微鏡(4)と、光学顕微鏡(4)の鏡筒(41)側面に取り付けられたCCDカメラ(5)と、CCDカメラ(5)の撮影画像を表示するモニター(6)とを備えている。
また、電界を印加するための金属針(9)は、ステージ(3)を囲む固定リング(10)上に設置したマニュプレータ(11)に取り付けられている。
更に、LSI(2)及び金属針(9)には信号供給装置(12)が連結され、信号が供給される。
LSI内部の詳細な測定が必要なときは、マニュプレータ(11)の先端に取り付けられたプローブ針(13)を用いることができる。
【0041】
ステージ(3)上に載置されたオープン故障を有するLSI(2)表面に任意の電圧を印加した金属針(9)によって電界を印加する。
正の電界をLSI(2)に印加する場合、正の電圧を金属針(9)に印加し、負の電界をLSI(2)に印加する場合、負の電圧を金属針(9)に印加する。
LSI(2)表面と金属針(9)との間隔は、マニュプレータ(11)のZ軸方向(LSI(2)に対して垂直方向)の回転によって予め設定することができる。
【0042】
電界印加による外部刺激は、電圧を印加した金属針(9)とLSI(2)との間のオープン故障配線に誘起される電圧をゲート電圧としてTrを動作させる。
金属針(9)に正の電圧を印加した場合には、オープンに伴うTrのゲート電圧は正方向へ変化する。これに対して、金属針(9)に負の電圧を印加した場合には、オープンに伴うTrのゲート電圧は負方向へ変化する。
【0043】
LSI(2)は、基本的論理回路(セル)や基本動作を有する規模の大きい回路(マクロ)間を配線で接続することにより形成される(以降、セル及びマクロをセルと総称する)。
この配線接続は回路情報に記載されたセル間の入出力端子間の接続情報をもとに、規格化されたメッシュに従って形成される。その過程でDEFと呼ばれるセグメント単位の線分と階層間を接続するViaの座標リストが生成される。
【0044】
図6はDEFの記載内容であり、セル名、セルから引き出されるネットの端子名(入力をH、出力をNと記載)、ネットのセグメント数、ネットの始点と終点間の座標と配線層(P1は一層目、P2は二層目を示す)が記載されている。
このネット記述においてP2(43912 8572)(44152 8572)P1、やP2(10912 53908)(10864 53908)P1はこのネット中に存在する1層配線と2層配線が重なる同一座標点であり、この位置をViaと識別する。
【0045】
図7はViaを介して接続されるTrの関係を示す回路であり、Viaが影響するTrの識別を示す説明図である。
図7より、Via a、b、c、d、eが影響を与えるTrは順にn3、n3、p4及びn4、n4、p4であり、回路情報を用いてViaとTrの関係が特定される。これらの接続関係はSPICEデータを用いて特定される。以降の論理シミュレーションではこれらのTrが故障候補となる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明に係る故障診断方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は下記実施例には限定されない。
【0047】
(実施例1)
<LSI表面へのレーザ照射>
電源電圧1.8Vで駆動するインバータ回路を構成するPchTr及びNchTrのゲート電極をオープンとした故障回路(No.1として出力論理値約1.4V,電源電流値200μA、No.2として出力論理値約0.6V,電源電流値175μA)のLSI表面にHe−Neレーザ(632.8nm)を照射した。
【0048】
故障回路No.1の結果を図8No.1に示す。
レーザを照射すると、出力論理値は約1.8V(VDD)と“H”論理になり、電源電流は流れなくなった。レーザ照射を止めると、出力論理値及び電源電流はもとの故障状態にもどった。レーザ照射中(“H”論理)に流れる約数μAの電流は、基板へレーザが照射されたときに発生するキャリアによるものである。
【0049】
故障回路No.2の結果を図8No.2に示す。
レーザを照射すると、出力論理値は約0V(GND)と“L” 論理になり、電源電流は流れなくなった。
【0050】
(実施例2)
<NAND回路へのレーザ照射>
出力論理値約1.0V(約0.55VDD)、電源電流値200μAの故障回路において、一方の入力端子をオープン状態に、他方の入力端子を“H”入力とした。
この回路に実施例1と同様のレーザを照射した。
【0051】
結果を図9に示す。
回路にレーザを照射すると、出力論理値は約1.8V(VDD)と“H” 論理になり、電源電流は流れなくなった。
これは、オープン状態のゲート端子に“L”印加した状態と同じである。従って、レーザ照射により故障回路の論理が強制的に固定されたこととなる。
【0052】
(実施例3)
<LSI裏面へのレーザ照射>
実施例1と同様の回路を用い、この回路の裏面へYAGレーザ(波長1064nm)を照射した。尚、LSIの裏面を鏡面研削し、約100μmの厚さとした。
【0053】
回路の裏面にレーザを照射すると、出力論理値は約1.8V(VDD)と“H” 論理になり、電源電流は流れなくなった。
これは、オープン状態のゲート端子に“L”印加した状態と同じである。従って、レーザ照射により故障回路の論理が強制的に固定されたこととなり、実施例1(LSI表面へのレーザ照射時)と同様の結果が得られることが明らかとなった。
【0054】
(実施例4)
<LSI表面への電界印加>
電源電圧1.8Vで駆動するインバータ回路を構成するPchTr及びNchTrのゲート電極をオープンとした故障回路(出力論理値約1.5V、電源電流値160μA)のLSI表面に+40V、+20V、−20V、−40Vの電圧を印加した。尚、電圧印加距離はLSI表面から200μmとした。
【0055】
結果を図10に示す。
印加電圧+40V、+20V、−20V、−40Vを印加したところ、出力電圧と電源電流は夫々1.1V,180μA(+40V印加)、1.35V,170μA(+20V印加)、1.6V,145μA(−20V印加)、1.65V,130μA(−40V印加)となった。電界印加を止めると、出力論理値及び電源電流は元の故障状態に戻り始めた。
金属針に正の電圧を印加した場合、オープン状態のゲート端子の電圧は1.5Vより上昇して論理がH側へシフトし、そのため出力がL側へシフトすると考えられる。
これに対して金属針に負の電圧を印加した場合、オープン状態のゲート端子の電圧は1.5Vより下降して論理がL側へシフトし、そのため出力がH側へシフトすると考えられる。IDDQ値は、上記した入力論理に同期して変化するものと考えられる。
【0056】
(実施例5)
<NAND回路への電界印加>
出力論理値約1.0V(約0.56VDD)、電源電流値210μAの故障回路において、一方の入力端子をオープン状態に、他方の入力端子を“H”入力とした。
LSI表面から200μmの距離において−40Vの電圧を印加した。
【0057】
結果を図11に示す。
出力論理値は約1.36V(約0.74VDD)と“H” 論理になり、電源電流は190μAを示した。これは、オープン状態の入力端子に0.8V(約0.44VDD)を印加した状態と同じである。従って、入力電圧のL側へのシフトと等価となる。
【0058】
(実施例6)
<NAND回路への電界印加>
実施例5と同様のNAND回路を用い、一方の入力端子をオープン状態に、他方の入力端子を“H”入力とした。
LSI表面から200μmの距離において+40Vの電圧を印加した。
【0059】
結果を図12に示す。
出力論理値は約0.68V(約0.38VDD)と“L” 論理となり、電源電流は200μAを示した。これは、オープン状態の入力端子に1.2V(約0.67VDD)印加した状態と同じであり、従って、入力電圧のH側へのシフトと等価となる。
【0060】
一般に、オープン故障に伴うTrのしきい値は、多段Tr構成やTrのL/W(ゲート長/ゲート幅)の変動、拡散工程での不純物濃度のバラツキ等で変化する。また、周囲の論理環境や熱などの外因的環境にも反応して不安定となる。
このような不安定化に対して、電界印加による外部刺激のゲート電圧への影響は小さい。
しかしながら、信号伝搬は次段セル回路の入力しきい値より高いか低いかによって論理が決定されるため、しきい値のバラツキの範囲を避けた位置にゲート電圧を設定できれば論理の不安定さを解消することが可能となる。
図13は、4段のインバータ回路に入力した中間電位の伝搬による論理の変化をシミュレーションした結果である。しきい値(0.5VDD)とそのバラツキの範囲を±2%とした場合、それより1%高い入力電圧(0.53VDD)(図13中1)は1段目の出力(図13中2)で0.42VDD、2段目の出力(図13中3)で0.90VDD、3段目の出力(図13中4)で0VDDと、完全に“L”レベルとなる。この結果は電界印加による論理の固定化が可能なことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るLSIの故障診断方法は、オープン故障の故障箇所を特定することができ、微細、大規模、多層配線構造のいずれのLSIにおいても、その故障診断に好適に利用することができる。また、本発明に係る故障診断装置は、簡便且つ高い確度で故障箇所の診断を可能とする。
【符号の説明】
【0062】
1 故障診断装置
2 半導体集積回路
3 ステージ
4 光学顕微鏡
5 CCDカメラ
6 モニター
7 レーザ照射部
8 レーザ発振器
9 金属針
10 固定リング
11 マニュプレータ
12 信号供給装置
13 プローブ針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路の故障診断方法であって、該半導体集積回路に外部刺激を印加し、該外部刺激による電気的特性の変化を計測し、計測結果を分析することにより故障含有領域を特定し、前記故障含有領域のレイアウト情報に基づいて故障候補を特定し、該故障候補を回路に埋め込んで論理シミュレーションを行い、実故障品の電気的特性と一致する故障候補を最終故障候補として特定することを特徴とする半導体集積回路の故障診断方法。
【請求項2】
前記外部刺激がレーザであることを特徴とする請求項1記載の半導体集積回路の故障診断方法。
【請求項3】
前記外部刺激が電界であることを特徴とする請求項1記載の半導体集積回路の故障診断方法。
【請求項4】
前記外部刺激の印加領域が基本的論理機能を実行する複数のセルからなる回路集合体であり、外部刺激の印加時において、印加領域を半導体集積回路の集合体から順次縮小していくことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の半導体集積回路の故障診断方法。
【請求項5】
計測される前記電気的特性が出力論理値及び電源電流値であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の半導体集積回路の故障診断方法。
【請求項6】
半導体集積回路の故障診断装置であって、該半導体集積回路に外部刺激を印加する外部刺激印加手段と、該外部刺激による電気的特性の変化を計測する計測手段と、前記計測手段で得られる計測結果を分析する分析手段と、この分析結果と外部刺激印加領域のレイアウト情報を利用して特定した故障候補を用いた論理シミュレーションを実行するシミュレーション手段とを備えていることを特徴とする半導体集積回路の故障診断装置。
【請求項7】
前記外部刺激印加手段がレーザ発振器であることを特徴とする請求項6記載の半導体集積回路の故障診断装置。
【請求項8】
前記外部刺激印加手段がマニュプレータに取り付けられた電圧が印加された金属針であることを特徴とする請求項6記載の半導体集積回路の故障診断装置。
【請求項9】
前記半導体集積回路を載置するステージを備えた顕微鏡と、該顕微鏡を介して半導体集積回路を撮影するCCDカメラと、該CCDカメラにより撮影された映像を表示するモニターを備えていることを特徴とする請求項6乃至8いずれかに記載の半導体集積回路の故障診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−33412(P2011−33412A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178418(P2009−178418)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】