説明

協調型トラクション制御システム

個々の車輪の空転及び/又は横滑りを個別に制御する協調型トラクション制御システムである。該システムは、特定の車軸に備えられた所定の車輪に掛かる駆動トルクの量を調節できる駆動トルクアクチュエータに接続されている既存のトラクション及び挙動安定化モジュールを使用している。このシステムは、空転及び/又は横滑りしている車輪の駆動トルクの制御を行うか、或いは、ブレーキを作動させてスロットル角度を調節するとともに該駆動トルクの制御を行って、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の動作を低減又は制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個々の車輪の駆動トルクを調節できる駆動トルク配分制御システムと協調してトラクション制御システムと挙動安定化制御システムとを利用しながら、各車輪の空転(ホイールスピン)及び横滑りを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用システムは、(ブレーキ、駆動トルク配分装置、サスペンションのストロークを制御する装置、タイヤに掛かる荷重を制御する装置等の)各種の制御アクチュエータで構成することができる。これらの制御アクチュエータは、トラクションを維持し、車両の動的な応答を実現させ、車両のヨーイングに対する安定性を確保するために、各車輪に掛かる力を調節することができる。各アクチュエータは、専用の電子制御装置(ECU)を備えており、このECUによって、アクチュエータは駆動されて特定の機能を発揮する。あるアクチュエータのECU同士は、各ECUの動作状態、又は、故障状態を把握するために、情報を共有し合っている。
【0003】
車両の応答性を安定させるトラクション制御の分野において、車両挙動安定化制御システム(VSA)又はトラクション制御システム(TCS)は、通常、ブレーキ技術に基づいており、エンジンを制御(エンジンのトルクを変更)することによって行われる該システム全体の駆動トルクの変更を命令するとともに、ブレーキトルクを掛けることによって行われる各車輪の調整を命令する。これにより、トラクション制御システム又は車両挙動安定化制御システムは、車輪の空転及び/又は横滑りを全体的に制限し、車両の応答性を安定させることができる。
【0004】
しかし、エンジンのトルク制御によって調節されるような全体の駆動トルクの制御は、各車輪の駆動トルクには直接関係していない(即ち、エンジンのトルクを変化させると、全体のトルクが影響を受け、個々の車輪の駆動トルクは影響を受けない)。従って、車両の運動量を維持しながら車両の応答性を安定させる傍ら、個々の車輪の空転及び横滑りを制御することに対する効果に関しては、この全体の駆動トルクの制御では限界がある。
【0005】
TCS及び/又はVSAコントローラは、通常、空転及び/又は横滑りに基づいてフィードバック方式で動作するように設計されており、実際のコントローラは、このフィードバック方式の動作にかなり忠実に動作するコントローラとなっている。しかし、当業界において、現状では、TCS及び/又はVSAコントローラは、駆動系における駆動トルクの配分を変化させることによって個々の車輪の駆動トルクを調節する性能を備えていない。
【0006】
当業界の現状におけるTCS及び/VSAコントローラの性能は以下の通りである。
・基準車速度を算出する。
・各車輪のトラクションの状態(車輪の空転速度又は車輪の横滑り)を計算する。
・速度及び/又は車輪の空転及び/又は車輪の横滑りを起こすレベルと比較する。
・車両の動作が潜在的に不安定な状態に近いと判断する。
・車輪の空転及び/又は車輪の横滑り及び/又は車両の動作を制御するために所要のトルク(通常はブレーキトルク)を算出する。
【0007】
摩擦係数が低い表面上で車両が旋回して急激に加速する際における従来のTCS又はVSAの動作には限界があることは既に知られている。車両が摩擦係数の低い表面上で発進する際や特に旋回する際に、トラクションが失われて、その結果、ヨーイングに対する安定性及び/又は車両の操作性が損なわれる可能性が高い。
【0008】
これらの事情に対して、当業界における現状のトラクション制御システムは、車両の動作、車輪の空転及び車輪の横滑りを制御するために、空転及び/又は横滑りを起こしている車輪にブレーキを掛けることに加えて、エンジンのトルクを低減させている。しかし、これは、車両全体の運動量の観点からは好ましくない。その理由は、最も重大である車輪の空転及び/又は横滑りを低減させるのに要するエンジントルクの低減を行うことによって、空転及び/又は横滑りが過剰な状態にはなく、より大きな駆動力のある他の車輪の駆動力をも低下させてしまうからである。このような不都合は、場合によっては、有害であり、また、この不都合が原因で加速が必要であっても行えないような狭く閉塞された空間での運転或いは丘を登るような状況においては問題となり得る。
【0009】
従って、可能であればエンジンのトルクの低下を防ぐか、又は、エンジンのトルクの低下を遅らせるとともに、空転及び/又は横滑りを起こしている車輪の駆動トルクを低下させて車両のトラクションを良好することによって、特に、摩擦係数の低い表面上で低速で急旋回する際に良好な操縦を可能にする改良が施されたトラクション制御式システムが当業界で必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は協調型トラクション制御システムに関する。該協調型トラクション制御システムにおいて、複数の車輪に掛かる駆動トルクは、検知された車輪の空転及び/又は検知された車輪の横滑りに応じるように個々に制御又は調節されて、特に、摩擦係数の比較的低い表面上で低速で急旋回して加速する際に、車両の操縦性及び応答性を良好にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、特定の車軸にある車輪に掛かる駆動トルク量を調節できる駆動トルクアクチュエータに接続されている既存のTCS制御モジュール及び/又は既存のVSA制御モジュールを使用することによって、個々の車輪の空転及び/又は横滑りの制御或いは個々の車輪の潜在的な空転及び/又は横滑りの制御が行われる。
【0012】
本発明に係わる協調型トラクション制御システムは、複数のパラメータセンサで構成されるグループを1つ備えている。該パラメータセンサは、各車輪毎に車輪速度センサを備えている。また、該パラメータセンサは車両動作センサを備えている。車両動作センサとしては、ヨーレートセンサと、車両の横方向への加速度センサと、車両の長手方向への加速度センサと、操舵角センサと、が含まれるが、これらのセンサには限定されない。
【0013】
また、協調型トラクション制御システムは、荷重を検知できる機能を備えた制御可能なサスペンションと、トラクション制御システム電子制御装置(以降、“TCS・ECU”とする)と、TCS・ECUと組み合わせて使用されるか又はTCS・ECUの代わりに使用される車両挙動安定化制御システム電子制御装置(以降、“VSA・ECU”とする)と、各車輪に対応する駆動トルクアクチュエータと、駆動トルクコントローラ電子制御装置(以降、“駆動トルクECU”とする)と、エンジン電子制御装置(以降、“エンジンECU”とする)と、を備えている。エンジンECUは、エンジンの出力トルクに影響を及ぼすエンジンの動作、すなわち、スロットル角度を制御するように動作可能である。TCS・ECUと、VSA・ECUと、駆動トルクECUと、エンジンECUとは、通信バスを介して、互いに電気通信接続されている。
【0014】
協調型トラクション制御システムを以下で説明する。協調型トラクション制御システムには、車輪の空転状態を改善するためにTCS・ECUのみを利用する形態、又は、車輪の横滑り及び車両のその他の不安定な状態を改善するためにVSA・ECUのみを利用する形態、又は、TCS・ECUとVSA・ECUとを共に利用する好適な形態である第3の形態がある。
【0015】
TCS・ECU及びVSA・ECUは、車輪速度センサ及び車両のその他のパラメータセンサからの信号を受信し、1つ又はそれ以上の車輪が空転及び/又は横滑りをしているか否かを所定の制御アルゴリズムに基づいて判断し(フィードバック制御)、或いは、1つ又はそれ以上の車輪が空転及び/又は横滑りをしようとしているか否かを所定の制御アルゴリズムに基づいて判断し(フィードフォワード制御)、或いは、車両が不安定な動作に入っているか否かを所定の制御アルゴリズムに基づいて判断する。TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、空転及び/又は横滑りをしている車輪に対して、所要のブレーキトルク(ブレーキ作動力)を算出し、所要のスロットル角度調整を行い、所要の駆動トルク減少量を算出する。
【0016】
TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、各車輪のブレーキに通信接続され、また、駆動トルクECU及びエンジンECUに通信接続されている。駆動トルクECUは、個々の駆動トルクアクチュエータに通信接続されている。本発明は、各車輪に対する駆動トルクを互いに個別で制御することによる協調型トラクション制御の改良を実現する方法を幾つか提供している。
【0017】
本発明の第2実施例において、潜在的な車輪の空転及び/又は横滑りを判断するために制御可能なサスペンション及び対応する荷重センサが使用されている。尚、本発明の第1の実施例においては、制御可能なサスペンションはない。
【0018】
本発明の第1の好適な実施例の協調型トラクション制御システムの第1の動作方法においては、連続的な制御が行われる。この制御において、車輪が空転及び/又は横滑りをしている、或いは、車両が不安定な動作に入っていると判断されたとき、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、所要の駆動トルク減少量を駆動トルクECUに伝達し、空転及び/又は横滑りしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータを作動させて、空転及び/又は横滑りしている車輪に掛かる駆動トルクを減少させる。
【0019】
駆動トルクが減少した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両が不安定な動作に入っている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、各車輪のブレーキを調節又は作動させて、車輪速度を更に下げる。
【0020】
駆動トルクが減少しブレーキが作動した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両が不安定な動作に入っている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、スロットル角度変更リクエストをエンジンECUに伝達し、スロットル角度を調整して所望の出力トルクの低減を行う。
【0021】
本発明の第1の好適な実施例の協調型トラクション制御システムの第2の動作方法においては、連続的な制御が行われる。この制御において、車輪が空転及び/又は横滑りをしていると判断された場合、或いは、車両が不安定な動作に入っていると判断された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、駆動トルクECUに所要の駆動トルク減少量を伝達して、空転及び/又は横滑りしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータを作動させて、空転及び/又は横滑りしている車輪に掛かる駆動トルクを減少させる。
【0022】
駆動トルクが減少した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両が不安定な動作に入っている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、スロットル角度変更リクエストをエンジンECUに伝達し、スロットル角度を調整して、所望の出力トルクの低減を行う。
【0023】
駆動トルクが減少しスロットル角度が調整されても該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両が不安定な動作に入っている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、各車輪のブレーキを調節又は作動させて、車輪速度を更に下げる。
【0024】
更に本発明によると、第1の好適な実施例の協調型トラクション制御システムの第3の動作方法が提供されている。この方法において、車輪の空転及び/又は横滑りの程度、或いは、車両の不安定動作への入り具合の程度がTCS・ECU及び/又はVSA・ECUによって判断され、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定動作の程度の予見される大きさに対応した処置が採られる。
【0025】
例えば、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な動作への入り具合が非常に深刻であると判断された場合、或いは、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な動作への入り具合が非常に深刻になりそうであると判断された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、次の3つの動作を同時に行うことによって応答する。これらの3つの動作とは、(駆動トルクECUを介して)対応する駆動トルクアクチュエータを作動させることと、(スロットル角度変更リクエストをエンジンECUに送信することによって)エンジンの出力トルクを減少させることと、そして、各車輪のブレーキを掛ける又は調節することである。
【0026】
車輪の空転及び/又は横滑り状態及び/又は車両の不安定な動作への入り具合が比較的深刻なものではない場合、或いは、車輪の空転及び/又は横滑り状態及び/又は車両の不安定な動作への入り具合が比較的深刻なものではないとTCS・ECU及び/又はVSA・ECUによって予見された場合、それらに対応する改善処置が採られる。
【0027】
例えば、検知又は予見された車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な動作の程度が中位の場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、次の2つの動作を同時に行うことによって応答することができる。これらの2つの動作とは、(駆動トルクECUを介して)対応する駆動トルクアクチュエータを作動させることと、各車輪のブレーキを掛ける又は調節することである。このようにして、検知又は予見された車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な動作の程度が比較的深刻なものではない場合、エンジンの出力トルクは維持され、車両の操縦性及び速度が維持される、又は、車輪の空転状態及び/又は横滑り状態及び/又は車両の不安定な状態が取り除かれたとき、車両の操縦性及び速度は迅速に元の状態に戻る。
【0028】
また、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な状態の程度が小さい場合、或いは、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な状態の程度が小さいと予見された場合、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUは、駆動トルクECUを介して対応する駆動トルクアクチュエータを作動するだけで応答する。多くの場合、空転及び/又は横滑りしている車輪のみの駆動トルクを減少させることによって、より深刻な車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な状態が起きる前に、車両の性能に有害な影響を与えることなく、空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定な動作の問題は軽減される。本発明の以上及び更なる特徴を以下の説明及び添付の図面を参照して明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、フィードフォワード駆動トルクアクチュエータの基本的な機能と、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両動作に基づくフィードバックブレーキ・スロットル制御システムによる制御と、を組み合わせたものである。本発明によると、協調型トラクション制御システムは、制御された駆動トルクアクチュエータを介して各車輪の駆動トルクの変更を要求することができる。
【0030】
図2a及び図2bを参照すると、本発明に係わる協調型トラクション制御システム10が示されている。該システム10は、複数の車輪12を有する車両に設置されている。また、該システム10は車両のパラメータセンサを備えている。該パラメータセンサは、車輪速度センサ14及び/又は車両動作センサ13から成る(車両動作センサ13としては、ヨーレイトセンサ、横方向への加速度センサ、長手方向への加速度センサ、操舵角センサが含まれるが、これらのセンサに限定されない)。
【0031】
また、協調型トラクション制御システム10は、各車輪12に対応するブレーキ16と、TCS・ECU18(トラクション制御システム電子制御装置18)と、VSA・ECU19(車両挙動安定化制御システム電子制御装置19)と、各車輪12に対応する駆動トルクアクチュエータ20と、駆動トルクECU22(駆動トルクコントローラ電子制御装置22)と、エンジンECU24(エンジン電子制御装置24)と、通信バス26と、を備えている。VSA・ECU19は、図2aの例においてはTCS・ECU18の代価物として使用され、図2bの例においてはTCS・ECU18とともに使用される。
【0032】
TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、図示されるように、各車輪12のブレーキ16(即ち、ブレーキアクチュエータ)に通信接続されている。また、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、図示されるように、通信バス26を介して駆動トルクECU22とエンジンECU24とに通信接続されている。
【0033】
TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、車輪速度センサ14及び/又は車両動作センサ13から信号を受信し、該信号を利用して車輪速度が変化したことと車両動作とを決定する。TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19において、1つ或いはそれ以上の車輪12が空転及び/又は横滑りしているのか否か或いは空転及び/又は横滑りしようとしているのか否か、且つ/又は車両が不安定動作に入っているのか否か、そして、実際に起こっている又は予見された車輪の空転及び/又は横滑りを低減させる必要があるのか否かを決定するために、車輪速度の変化及び車両動作は安定動作の限界レベルと比較される。当業界において、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定動作の判断及び緩和を行うためのアルゴリズムは数多く知られており、これらのアルゴリズムの多くがTCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19に使用可能であることに留意されたい。
【0034】
TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、車輪の空転情報及び/又は車輪の横滑り情報及び/又は車両の動作情報を利用するか、或いは、これらの情報と他の検知された条件(即ち、操舵角、温度、車両のピッチング/ヨーイング)とを利用して制御信号を生成する。該制御信号は、後述するように、車輪の空転及び/又は車輪の横滑り及び/又は車両の動作を修正するために、車両の駆動/ブレーキシステムの動作の制御に使用される。
【0035】
詳しくは、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、駆動トルクアクチュエータ20を制御するために駆動トルクECU22に伝達される駆動トルク減少量を算出する。また、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、各ブレーキ16を調節する/作動させるために各ブレーキ16に伝達されるブレーキトルク(ブレーキ力)を算出する。また、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、エンジンの動作を制御するためにエンジンECU24に伝達されるスロットル角度変更リクエストを生成する。スロットルの状態即ちスロットルの位置は、通信バス26を介して、エンジンECU24からTCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19に伝達されることは留意されたい。また、個々の駆動トルクアクチュエータ20の状態は、駆動トルクECU22からTCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19に伝達されることは留意されたい。
【0036】
駆動トルクECU22は、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19から駆動トルク減少信号を受信し、個々の駆動トルクアクチュエータ20の動作を制御する。駆動トルクアクチュエータ20は、各車輪の駆動トルクを、車両の状態が要求するようなレベルに適した駆動トルクにするように設計されている。また、駆動トルクアクチュエータ20は、フィードフォワード制御及びフィードバック制御を行うことができる。しかし、路面、荷重、速度及びその他の車両状態が変化すると、トラクションの損失及び/又は車両の安定性又は車両の操縦性の損失を招く車輪の空転及び/又は車輪の横滑りが生じる可能性がある。従って、本発明から明白なように、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19及び駆動トルクECU22を介して個々の駆動トルクアクチュエータ20を制御することが好ましい。
【0037】
エンジンECU24は、スロットルを調節又は調整することによって、エンジンの出力トルクに影響を与える。エンジンECU24は、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19からスロットル角度変更リクエスト信号を受信して、スロットル角度の調整を行い、スロットル角度をTCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19に伝達する。
【0038】
図3を参照すると、本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システム10の好適な第1の動作方法を示すフローチャートが示されている。この図3の例においては、協調型トラクション制御システムは、必要に応じて車輪の空転及び/又は車輪の横滑りを低減するために起動する。
【0039】
ステップ100において、車輪及び車両動作が監視される。ステップ102において、車輪が空転及び/又は横滑りし、且つ/又は、車両が不安定な動作に入っているか又は不安定な動作をしていると判断される。その後、ステップ104において、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、所要の駆動トルク減少量を駆動トルクECU22に伝達し、空転及び/又は横滑りをしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ20を作動させて、その空転及び/又は横滑りしている車輪に掛かる駆動トルクを減少させる。
【0040】
車輪の空転及び/又は横滑り状態は検知され、(ステップ106)、駆動トルクが減少した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両が不安定動作に入っているか又は不安定な動作をしている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、各車輪のブレーキ16を調節する又は作動させて(ステップ108)、車輪速度を更に減少させる。
【0041】
車輪の空転状態及び/又は横滑り状態及び/又は車両動作状態が更に検知され(ステップ110)、駆動トルクが減少してブレーキが作動した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両がまだ不安定動作に入っているか又は不安定な動作をしている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、スロットル角度変更リクエストをエンジンECU24に伝達し、スロットル角度を調整してエンジンの出力トルクを低下させる(ステップ112)。車輪の空転状態及び/又は横滑り状態及び/又は車両動作状態は更に監視され(ステップ114)、過剰な空転及び/又は横滑り及び/又は望ましくない車両動作が検知或いは予見されなくなるまで、これまでに行われた上記の制御動作が続けられる。
【0042】
図4を参照すると、本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システム10の好適な第2の動作方法を示すフローチャートが示されている。図4の例は図3の例に類似しているが、以下で述べるように動作順序を一部逆にしている。
【0043】
ステップ150において、車輪及び車両動作が監視される。ステップ152において、車輪が空転及び/又は横滑りし、且つ/又は、車両が不安定動作に入っているか或いは不安定動作を行っていると判断される。その後、ステップ154において、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、所要の駆動トルク減少量を駆動トルクECU22に伝達し、空転及び/又は横滑りをしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ20を作動させて、その空転及び/又は横滑りしている車輪に掛かる駆動トルクを減少させる。車輪の空転状態及び/又は横滑り状態及び/又は車両動作状態が更に検知され(ステップ156)、駆動トルクが減少した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両が不安定動作に入っているか又は不安定な動作をしている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、スロットル角度変更リクエストをエンジンECU24に伝達し、スロットル角度を調整してエンジンの出力トルクを低下させる(ステップ158)。
【0044】
車輪の空転及び横滑り状態が検知され(ステップ160)、駆動トルクが減少しスロットル角度が調整されても該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、或いは、車両がまだ不安定動作に入っているか又は不安定な動作をしている状態が続いていると判断された場合、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、各車輪のブレーキ16を調節する又は作動させ(ステップ162)、車輪速度を更に低下させる。車輪の空転状態及び/又は横滑り状態及び/又は車両動作状態は更に監視され(ステップ164)、過剰な空転及び/又は望ましくない車両動作が検知又は予見されなくなるまで、これまでに行われた上記の制御動作が続けられる。
【0045】
図5を参照すると、本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システム10の更なる好適な動作方法のフローチャートが示されている。この図5の例において、協調型トラクション制御システム10は、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は望ましくない車両動作の検知された又は算出された度合いに基づき、動作する。
【0046】
ステップ200において、車輪及び/又は車両動作が監視される。車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は望ましくない車両動作が検知又は予見された場合(ステップ202)、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、その検知された又は予見された車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は望ましくない車両動作の程度を決定する(ステップ204)。
【0047】
ステップ204において、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の望ましくない動作状態の程度が小さいと判断された場合、対応する駆動トルクアクチュエータ20が作動する(ステップ206)。ステップ204において、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の望ましくない動作状態の程度が中位であると判断された場合、対応する駆動トルクアクチュエータ20及びブレーキが同時に作動する(ステップ208)。ステップ204において、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の望ましくない動作状態の程度が大きい即ち深刻であると判断された場合、対応する駆動トルクアクチュエータ20の作動と、ブレーキの作動と、エンジンの出力トルクを低下させるためのスロットル角度の調整と、が同時に行われる(ステップ210)。
【0048】
通常、ステップ206、ステップ208、ステップ210の各々の動作に続いて、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両動作状態が検知され、(ステップ212、ステップ214、ステップ216)、発生した又は予見された空転及び/又は横滑り及び/又は車両動作が許容できるものである場合、車輪及び/又は車両動作が監視される(ステップ200)。
【0049】
車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両が不安定な動作に入っているか又は不安定な動作をしている状態が続いている場合、或いは、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両が不安定な動作に入るか又は不安定な動作をすることが予見された場合、トラクション制御システム10の動作は、車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は望ましくない車両動作の程度を再び決定し、その程度に適した処理が選択される(即ち、ステップ206、ステップ208、ステップ210のいずれかの動作が実行される)。
【0050】
このように、検知又は予見された車輪の空転及び/又は横滑りの状態が小規模或いは中規模である場合、エンジンの出力トルクは維持され、車両の操縦性及び車両の速度は維持されるか、又は、車両の操縦性及び車両の速度は、過剰な空転及び/又は横滑りの状態が解消されたとき元の操縦性及び速度に戻る。また、発生又は予見した車輪の空転及び/又は横滑り状態が小規模な場合(即ち、TCS及びVSAを作動させるレベルに近い場合)、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19は、駆動トルクECUを介して、対応する駆動トルクアクチュエータを作動させるだけでよい。多くの場合、空転及び/又は横滑りしている車輪のみの駆動トルクを低下させることによって、より深刻な空転及び/又は横滑りが起きる前に空転及び/又は横滑りの問題を、車両の性能に有害な影響を及ぼすことなく軽減させる。車輪の空転及び/又は横滑りが中規模である場合、ブレーキを掛ける代わりにスロットル角度を調整するように変更してもよい。また、車輪の空転及び/又は横滑りが中規模である場合において、駆動トルクの低減とスロットル角度の調整とを行うことが制御技術に関する戦略上好ましいこともある。
【0051】
図6a及び図6bを参照すると、本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システム310が示されている。該システム310は、複数の車輪312と車両のパラメータセンサとを有する車両に設置されている。該パラメータセンサとしては、車輪速度センサ314及び/又は車両動作センサ313(典型的なものとしてはヨーレートセンサ、横gセンサ、縦Gセンサ、及び操舵角センサ)が含まれる。協調型トラクション制御システム310は、また、各車輪312に対応するブレーキ316と、TCS・ECU318及び又はVSA・ECU319と、各車輪312に対応する駆動トルクアクチュエータ320と、駆動トルクECU322と、エンジンECU324と、通信バス326と、個々の車輪に掛かる荷重を決定する制御可能なサスペンション317と、を備えている。
【0052】
TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、図示されているように、各車輪312のブレーキ316(即ち、ブレーキアクチュエータ)に通信接続されている。TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、図示されているように、通信バス326を介して、駆動トルクECU322とエンジンECU324とに通信接続されている。
【0053】
TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、車輪速度センサ314及び/又は車両動作センサから信号を受信し、これらの信号を利用して車輪速度の変化と、車両動作の変化とを決定する。1つ或いはそれ以上の車輪312が空転及び/又は横滑りをしているか又はしようとしているのか否か、或いは、車両が不安定動作に入っているのか否かと、実際の車輪の空転及び又は横滑り或いは予見された車輪の空転及び/又は横滑りを低減させる必要があるのか否かと、を判断するために、車輪速度の変化と車両動作の変化とは、TCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19において、安定動作の限界レベルと比較される。当業界において、車輪の空転及び/又は横滑り量及び/又は車両の不安定動作の判断及び緩和を行うためのアルゴリズムは数多く知られており、これらのアルゴリズムの多くがTCS・ECU18及び/又はVSA・ECU19に使用可能であることに留意されたい。
【0054】
TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、また、車両の制御可能なサスペンション317から信号を受信する。制御可能なサスペンション317は、運転中の車両の個々の車輪に掛かる荷重を決定又は算出する。制御可能なサスペンション317は、非制御のばね力を提供する部品と組み合わさっている可変減衰制御装置を備えている。1つ又はそれ以上の車輪312が空転及び/又は横滑りをしようとしているのか否か、或いは、車両が不安定動作に入っているのか否かと、予見された車輪の空転及び/又は横滑りを低減させる必要があるのか否かと、を判断するために、車輪に掛かる荷重は、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319において、安定動作の限界レベルと比較される。
【0055】
また、潜在的な車輪の空転及び/又は横滑り及び/又は車両の不安定動作の判断及び緩和を行うためのアルゴリズムが当業界において数多く知られており、これらの周知のアルゴリズムの多くがTCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319に使用可能であることは留意されたい。若しくは、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、後述するように、車輪の空転情報及び/又は車輪の横滑り情報及び/又は車両の動作情報及びその他の検知された条件と組み合わせて、サスペンションに掛かる荷重情報を利用する。
【0056】
TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、車輪の空転情報及び/又は車輪の横滑り情報を利用するか、或いは、これらの情報と他の検知された条件(即ち、操舵角、温度、ピッチング/ヨーイング)とを組み合わせて利用して制御信号を生成する。該制御信号は、後述するように、車輪の空転及び/又は横滑りを修正するために、車両の駆動/ブレーキシステムの動作を制御するように使用可能である。詳しくは、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルクアクチュエータ320を制御するために駆動トルクECU322に伝達される駆動トルク減少量を算出する。また、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、各ブレーキ316を調節する/作動させるために各ブレーキ316に伝達されるブレーキトルク(ブレーキ力)を算出する。また、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、エンジンの動作を制御するためにエンジンECU324に伝達されるスロットル角度変更リクエストを生成する。
【0057】
スロットルの状態即ち位置は、エンジンECU324からTCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319に通信バス326を介して伝達されることは留意されたい。また、個々の駆動トルクアクチュエータ320の状態は、駆動トルクECU322からTCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319に伝達されることは留意されたい。
【0058】
駆動トルクECU322は、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319から駆動トルク減少信号を受信し、個々の駆動トルクアクチュエータ320の動作を制御する。駆動トルクアクチュエータ320は、各車輪312の駆動トルクを、車両の状態が要求するようなレベルに適した駆動トルクにするように設計されており、フィードフォワード制御及びフィードバック制御を行うことができる。しかし、路面、荷重、速度、及びその他の車両の状態が変化すると、トラクションの損失及び/又は車両の安定性即ち操縦性の損失を招く空転及び/又は横滑りを車輪が起こす可能性がある。従って、本発明から明らかなように、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319と駆動トルクECU322とを介して個々の駆動トルクアクチュエータ320を制御することが好ましい。
【0059】
エンジンECU324は、スロットルを調節又は調整することによって、エンジンの出力トルクに影響を及ぼす。エンジンECU324は、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319からスロットル角度変更リクエスト信号を受信し、スロットル角度の調整を行い、スロットル角度をTCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319に伝達する。
【0060】
図7を参照すると、本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システム310の第1の好適な動作方法のフローチャートが示されている。この図7の例において、協調型トラクション制御システムは、潜在的な車輪の空転及び/又は横滑りと、実際の車輪の空転及び/又は横滑りと、を必要に応じて低減させるように起動する。
【0061】
ステップ390において、制御可能なサスペンションが監視される。ステップ392において、潜在的な車輪の空転及び/又は横滑りが存在していると判断される。その後、ステップ394において、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルクECU322に所要の駆動トルク減少量を伝達し、空転及び/又は横滑りをしようとしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320を作動させて、該車輪に掛かる駆動トルクを低減させる。
【0062】
ステップ400において、車輪及び車両動作が監視される。ステップ402において、車輪が空転及び/又は横滑りをし、且つ/又は、車両が不安定な動作に入っていると判断される。その後、ステップ404において、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルクECU322に所要の駆動トルク減少量を伝達し、空転及び/又は横滑りしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320を作動させて、空転及び/又は横滑りをしている車輪に掛かる駆動トルクを低減させる。
【0063】
車輪の空転状態及び/又は横滑り状態が検知され(ステップ406)、駆動トルクが低減した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、各車輪312のブレーキ316を調節する又は作動させ(ステップ408)、車輪の速度を更に減少させる。車輪の空転及び/又は横滑り状態が更に検知され(ステップ410)、駆動トルクが低減しブレーキが作動した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、エンジンECU324にスロットル角度変更リクエストを伝達してスロットル角度を調整し、エンジンの出力トルクを減少させる(ステップ412)。車輪の空転状態は更に監視され(ステップ414)、過剰な空転及び/又は横滑りが検知或いは予見されなくなるまで、これまでに行われた上記の制御動作が続けられる。
【0064】
図8を参照すると、本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システム310の第2の好適な動作方法のフローチャートが示されている。この図8の例は、図7の例と類似しているが、以下の説明で明らかなように、実際の車輪の空転及び/又は横滑りが検知された際の動作順序が図7の例とは一部逆になっている。
【0065】
ステップ440において、制御可能なサスペンションが監視される。ステップ442において、潜在的な車輪の空転及び/又は横滑りが存在していると判断される。その後、ステップ444において、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルクECU322に所要の駆動トルク減少量を伝達し、空転及び/又は横滑りをしようとしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320を作動させ、該車輪に掛かる駆動トルクを低減させる。
【0066】
ステップ450において、車輪及び車両動作が監視される。ステップ452において、車輪が空転及び/又は横滑りをしていると判断される。その後、ステップ454において、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルク322に所要の駆動トルク減少量を伝達し、空転及び/又は横滑りをしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320を作動させ、空転及び/又は横滑りしている車輪に掛かる駆動トルクを減少させる。車輪の空転及び/又は横滑り状態が更に検知され(ステップ456)、駆動トルクが減少した該車輪が空転及び/又は横滑りを続けていると判断された場合、TCS・ECU318及びVSA・ECU319は、エンジンECU324にスロットル角度変更リクエストを伝達し、スロットル角度を調整してエンジンの出力トルクを減少させる(ステップ458)。車輪の空転及び/又は横滑り状態が検知され(ステップ460)、駆動トルクが減少しスロットル角度が調整されても該車輪が空転及び/又は横滑りを過剰に続けていると判断された場合、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、各車輪312のブレーキ316を調節する又は作動させ(ステップ462)、更に車輪速度を低下させる。車輪の空転及び/又は横滑り状態が更に監視され(ステップ464)、過剰な空転及び/又は横滑りが検知又は予見されなくなるまで、これまでに行われた上記の制御動作が続けられる。
【0067】
図9を参照すると、本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システム310の更なる好適な動作方法のフローチャートが示されている。この図9の例において、協調型トラクション制御システム310は、車輪の空転及び/又は横滑りの検知又は算出された程度に基づいて動作を行う。
【0068】
ステップ590において、制御可能なサスペンションが監視される。ステップ592において、潜在的な車輪の空転及び/又は横滑りが存在し、且つ/又は、車両が不安定動作に入る潜在性があると判断される。その後、ステップ594において、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルクECU322に所要の駆動トルク減少量を伝達し、空転及び/又は横滑りをしようとしている車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320を作動させ、該車輪に掛かる駆動トルクを減少させる。
【0069】
ステップ600において、車輪及び/又は車両動作が監視される。車輪の過剰な空転及び/又は横滑りが検知又は予見された場合(ステップ602)、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、検知又は予見された車輪の空転及び/又は横滑りの程度を判断する(ステップ604)。ステップ604において、車輪の空転及び/又は横滑りの程度が小さいと判断された場合、該車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320が作動する(ステップ606)。ステップ604において、車輪の空転及び/又は横滑りの程度が中位であると判断された場合、該車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320とブレーキとが同時に作動する(ステップ608)。ステップ604において、車輪の空転及び/又は横滑りの程度が大きい、即ち、深刻であると判断された場合、該車輪に対応する駆動トルクアクチュエータ320の作動と、ブレーキの作動と、エンジンの出力トルクを低減させるためのスロットル角度の調整と、が同時に行われる(ステップ610)。ステップ606と、ステップ608と、ステップ610とのいずれかの後、車輪の空転及び/又は横滑り状態が検知され(ステップ612、ステップ614、ステップ616)、発生又は予見された車輪の空転及び/又は横滑りが許容できるものである場合、サスペンションの荷重が監視される(ステップ590)。車輪の空転及び/又は横滑りが予見された場合、協調型トラクション制御システムは、該車輪の駆動トルクを調整することによって、過剰な空転及び/又は横滑りを防止するように再び動作する。
【0070】
検知された車輪の空転及び/又は横滑りの程度が小規模又は中規模である場合、エンジンの出力トルクは維持され、車両の操作性及び速度は維持されるか、又は、過剰な空転及び/又は横滑りが解消されたとき車両の操作性及び速度は元の操縦性及び速度に戻る。また、小規模な車輪の空転及び/又は横滑りの場合、TCS・ECU318及び/又はVSA・ECU319は、駆動トルクECU322を介して、該車輪に対応する駆動トルクアクチュエータを作動させるだけの動作を行えばよい。多くの場合、空転及び/又は横滑りをしている車輪のみの駆動トルクを低減させることによって、より深刻な空転及び/又は横滑り状態が発生する前に、車両の性能に有害な影響を及ぼすことなく、空転及び/又は横滑りの問題は軽減される。
【0071】
車輪の空転及び/又は横滑りが中規模である場合の動作として、ブレーキを掛ける代わりにスロットル角度を調整するように変更してもよいことは明白である。車輪の空転及び/又は横滑りが中規模である場合、駆動トルクを減少させてスロットル角度を調整することが制御技術の戦略上好ましいこともある。
【0072】
本発明によると、ブレーキ系統のコントローラの改良点は以下の通りである。
・所要の駆動トルク減少量を算出する機能を備えていること。
・命令された駆動トルクの減少の量を、(制御される各車輪に対応する)電子制御駆動トルク装置に送信する機能を備えていること。
・電子制御駆動トルク装置のコマンドの実行に関するステータス情報を受信する機能を備えていること。
・制御可能なサスペンションからの荷重情報を受信し、該情報をフィードフォワード式で利用して、駆動トルク減少量を調節する機能を備えていること。
【0073】
更に、本発明において、制御された駆動トルクアクチュエータは、TCS・ECU及び/又はVSA・ECUのリクエストに応じるべく、以下の機能を備えている。
・TCS・ECU及び/又はVSA・ECUが命令した駆動トルクの減少に関する信号を駆動トルクECUを介して受信する機能。
・TCS・ECU及び/又はVSA・ECUのコマンド信号の優先順位を、駆動トルク制御の他の分野との調整を図りながら決定する機能。
・上記2つの機能による動作に基づいて駆動トルクの所要変化を要求及び制御する機能。
【0074】
前述したように、本発明の主な動作の改良は、摩擦係数の低い表面上における旋回及び急激な加速の際の動作の改良に関するが、これには限定されない。車両が摩擦係数の低い表面上で発進し、特に、旋回する際に、トラクションの損失及びその結果としてヨーイングに対する安定性及び/又は車両の操縦性が損失する可能性が高い。
【0075】
本発明は、空転及び/又は横滑りしている車両の駆動トルクを制御することによって、或いは、空転低減機構と横滑り低減機構と車両動作の安定性を向上させる制御機構と駆動トルクの制御とを組み合わせることによって、従来のシステムが抱える問題を取り除く又は軽減する。
【0076】
好適な実施例及びその変形例を参照して本発明を説明したが、これらの実施例及びその変形例は本発明を限定するものではない。特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物の範囲内であれば、当業者が本発明の方法及び構成の各種組み合わせに対して若干の変更を行い、些細な相違点が生じることはあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】従来のトラクション制御システムの概略図。
【図2a】本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システムの概略図。
【図2b】本発明の第1実施例の変形例における協調型トラクション制御システムの概略図。
【図3】本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システムの第1の動作方法のステップを示すフローチャート。
【図4】本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システムの第2の動作方法のステップを示すフローチャート。
【図5】本発明の第1実施例における協調型トラクション制御システムの第3の動作方法のステップを示すフローチャート。
【図6a】本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システムの概略図。
【図6b】本発明の第2実施例の変形例における協調型トラクション制御システムの概略図。
【図7】本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システムの第1の動作方法のステップを示すフローチャート。
【図8】本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システムの第2の動作方法のステップを示すフローチャート。
【図9】本発明の第2実施例における協調型トラクション制御システムの第3の動作方法のステップを示すフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪を有する車両を制御するための協調型トラクション制御システムであって、
前記車両の複数のパラメータセンサと、
複数の駆動トルクアクチュエータと、
前記複数のパラメータセンサから信号を受信し、前記複数の車輪のいずれかの車輪が空転又は横滑りしているか否かを判断するコントローラと、
から成り、
前記駆動トルクアクチュエータの各々は前記複数の車輪の各々に対応しており、
前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしている、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想される、と前記コントローラが前記信号に基づいて判断したとき、前記1つの車輪に対応する駆動トルクアクチュエータは、前記1つの車輪に伝えられる駆動トルクを減少させるために作動することを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記パラメータセンサは、前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪に対応する車輪センサであり、
前記車輪センサからの信号は車輪速度信号であり、
前記コントローラは、トラクション制御システム電子制御装置と、駆動トルク電子制御装置と、を備えており、
前記トラクション制御システム電子制御装置は、前記車輪速度信号を受信し、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転しているか否かを判断し、
前記駆動トルク電子制御装置は、前記トラクション制御システム電子制御装置からの制御信号に応じて、前記駆動トルクアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1のシステム。
【請求項3】
前記パラメータセンサは、前記複数の車輪のうちの少なくとも1つの車輪に対応する車輪センサ、及び、車両動作センサであり、
前記車両動作センサからの信号は車両動作信号であり、前記車輪センサからの信号は車輪速度センサであり、
前記コントローラは、車両挙動安定化制御システム電子制御装置と、トラクション制御システム電子制御装置と、駆動トルク電子制御装置と、を備えており、
前記トラクション制御システム電子制御装置及び前記車両挙動安定化制御システム電子制御装置は、前記車両動作信号及び前記車輪速度信号を受信し、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りしているか否かを判断し、
前記駆動トルク電子制御装置は、前記トラクション制御システム電子制御装置及び前記車両挙動安定化制御システム電子制御装置からの制御信号に応じて、前記駆動トルクアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記パラメータセンサは車両動作センサであり、
前記車両動作センサからの信号は車両動作信号であり、
前記コントローラは、車両挙動安定化制御システム電子制御装置と、駆動トルク電子制御装置と、を備えており、
前記車両挙動安定化制御システム電子制御装置は、前記車両動作信号を受信し、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が横滑りし且つ/又は前記車両が不安定な動作に入っているか否かを判断し、
前記駆動トルク電子制御装置は、前記車両挙動安定化制御システム電子制御装置からの制御信号に応じて前記駆動トルクアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記システムは、更に、複数のブレーキから成り、前記複数のブレーキの各々は前記複数の車輪の各々に対応しており、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているとき、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるとき、前記複数のブレーキが作動することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは、更に、エンジンのスロットル角度を調整するように動作可能なエンジン電子制御装置から成り、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているとき、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるとき、前記エンジン電子制御装置は、前記エンジンの出力トルクを減少させるために、前記スロットル角度を調整するように作動することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは、更に、エンジンのスロットル角度を調整するように動作可能なエンジン電子制御装置から成り、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているとき、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるとき、前記エンジン電子制御装置は、前記エンジンの出力トルクを減少させるために、前記スロットル角度を調整するように作動することを特徴とする請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記駆動トルクアクチュエータの作動と、前記複数のブレーキの作動と、前記スロットル角度の調整とは、実質的に同時に行われることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記駆動トルクアクチュエータの作動と、前記複数のブレーキの作動と、前記スロットル角度の調整とは、連続的に行われることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記システムは、更に、複数のブレーキから成り、前記複数のブレーキの各々は前記複数の車輪の各々に対応しており、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているとき、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるとき、前記複数のブレーキが作動することを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムは、更に、エンジンのスロットル角度を調整するように動作可能なエンジン電子制御装置から成り、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているとき、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるとき、前記エンジン電子制御装置は、前記エンジンの出力トルクを減少させるために、前記スロットル角度を調整するように作動することを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項12】
前記システムは、更に、エンジンのスロットル角度を調整するように動作可能なエンジン電子制御装置から成り、前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているとき、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるとき、前記エンジン電子制御装置は、前記エンジンの出力トルクを減少させるために、前記スロットル角度を調整するように作動することを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記駆動トルクアクチュエータの作動と、前記複数のブレーキの作動と、前記スロットル角度の調整とは、実質的に同時に行われることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記駆動トルクアクチュエータの作動と、前記複数のブレーキの作動と、前記スロットル角度の調整とは、連続的に行われることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
複数の車輪を有する車両を制御する方法であって、
前記複数の車輪の速度を監視するステップと、
前記車両の動作を監視するステップと、
前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているか否か、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるか否かを判断するステップと、
前記車両が不安定な動作に入っているか否かを判断するステップと、
前記1つの車輪の駆動トルクを調整するステップと、
から成る方法。
【請求項16】
更に、前記1つの車輪にブレーキを掛けるステップから成ることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
更に、エンジンの出力トルクを減少させるためにスロットル角度を変化させるステップから成ることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
更に、エンジンの出力トルクを減少させるためにスロットル角度を変化させるステップから成ることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記駆動トルクを調整するステップと、前記ブレーキを掛けるステップと、前記スロットル角度を変化させるステップと、のうちの少なくとも2つは同時に行われることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記駆動トルクを調整するステップと、前記ブレーキを掛けるステップと、前記スロットル角度を変化させるステップと、のうちの少なくとも2つは連続的に行われることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
複数の車輪を有する車両を制御する方法であって、
前記複数の車輪の速度を監視するステップと、
前記複数の車輪のうちの1つの車輪が空転及び/又は横滑りをしているか否か、或いは、前記1つの車輪が空転及び/又は横滑りをすると予想されるか否かを判断するステップと、
前記1つの車輪の空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記1つの車輪の予想される空転及び/又は横滑りの程度を判断するステップと、
前記1つの車輪の空転及び/又は横滑りを低減するために、前記空転及び/又は横滑りの程度に下された判断、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度に下された判断に基づく所定の手順に従って、前記1つの車輪に対応するブレーキと、前記1つの車輪に対応する駆動トルクアクチュエータと、エンジンのスロットル角度と、のうちの少なくとも1つを制御するステップと、
から成る方法。
【請求項22】
前記空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度が小さいと判断されたとき、前記1つの車輪に対応する前記駆動トルクアクチュエータは、前記1つの車輪に与えられる駆動トルクを減少させるように動作することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度が中位であると判断されたとき、前記1つの車輪に対応する前記ブレーキ及び前記駆動トルクアクチュエータが同時に動作し、前記1つの車輪を減速させると共に前記1つの車輪に与えられる駆動トルクを減少させることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度が中位であると判断されたとき、前記スロットル角度は、前記エンジンの出力トルクを減少させるように制御され、前記駆動トルクアクチュエータは、前記1つの車輪に与えられる駆動トルクを減少させるように動作し、前記1つの車輪は減速することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度が大きく深刻であると判断されたとき、前記1つの車輪に対応する前記ブレーキ及び前記駆動トルクアクチュエータは同時に動作し、前記1つの車輪を減速させると共に前記1つの車輪に与えられる駆動トルクを減少させる一方で、前記エンジンの前記スロットル角度は、前記エンジンの出力トルクを減少させるように制御されることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度が中位であると判断されたとき、前記1つの車輪に対応する前記ブレーキ及び前記駆動トルクアクチュエータは同時に動作し、前記1つの車輪を減速させると共に前記1つの車輪に与えられる駆動トルクを減少させることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記空転及び/又は横滑りの程度、或いは、前記予想される空転及び/又は横滑りの程度が大きく深刻であると判断されたとき、前記1つの車輪に対応する前記ブレーキ及び前記駆動トルクアクチュエータは同時に動作し、前記1つの車輪を減速させると共に前記1つの車輪に与えられる駆動トルクを減少させる一方で、前記エンジンの前記スロットル角度は、前記エンジンの出力トルクを減少させるように制御されることを特徴とする請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−537929(P2007−537929A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527518(P2007−527518)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/017949
【国際公開番号】WO2005/113308
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】