説明

単相ブラシレスDCモータ

【課題】ファン・ブロワ用に適する単相ブラシレスDCモータ構造を提供する。
【解決手段】本発明は,ステータヨークを絶縁処理した軟磁性粉末と樹脂の複合材から成る圧粉磁心材を使用して構成し,空心で集中巻きされたモータコイルをステータヨークの外周面に等間隔にマグネットの極数と同数だけ固着し,モータコイルの空心部分を基準に位置を決めるガイドをステータヨークの外周にモータコイルの厚みよりも薄くステータヨークと一体に形成して配置する。また,モータデットポイントが発生しないように,ガイドの厚みを不均一とし,ガイド外周表面とリング状マグネット内周のエアギャップが不均一になる構造とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ファンやブロワの駆動源として使用される,永久磁石を用いた単相のアウターロータ型モータの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のファンやブロワの駆動用単相モータとしては,ロータマグネットの極数とステータコアのティース数を4程度とし,ロータマグネットの磁極位置を検出する磁気センサに1個のホール素子を用い,半導体により単相モータコイルに通電方向を交互に反転させて,ロータマグネットを回転させている。このモータ構成は単相であるため,回転トルクを発生しない点が存在する。
【0003】
またロータマグネットとティース突極間の間隙が円周方向に一定であると,突極とマグネット間に生じるコギングトルクが0になる点と,上記回転トルクの生じない点とが同じ位置で発生するために,いわゆる,デットポイントと呼ばれるモータが起動できない点が存在する。
図11は,上記従来のファン用の単相モータの構造を示す図であって,31はロータ,32は円環状のマグネットで4極に着磁が施されている。33はマグネット32の磁極を検出するホール素子で,プリント基板(図示せず)に取り付けられている。34は珪素鋼板を打ち抜いて積層したステータコアで,4個のティース35と突極36を有し,突極36とマグネット32の間のエアギャップは,図11に示すように,一定ではなく不均一になっている。37はステータコアに装巻されたモータコイルである。この不均一なエアギャップにより,モータ無通電時の停止位置が上記デットポイントに一致しないように工夫されている。
【0004】
また,モータのステータコアの材料に圧粉磁心材を使用すると,渦電流損失が低減されこと,金型により様々な形状を形成することが可能であることが,特開2004−40871号に開示されている。この圧粉磁心材とは,絶縁処理した軟磁性粉末と樹脂の複合材から成るもので,金型を用いて圧縮成形で形成されるものである。
【0005】
また,本発明者等は特開2005−160264号広報で遠心ブロワに使用されるモータについて,モータを構成するステータの外径を遠心ブロワの吸込口に向かって小さくなるように形成し,エアギャップを介して対向するロータマグネットの内径も同様に吸込口に向かって小さくなるよう形成するモータ構造を開示し,遠心ブロワの形状を大きくすることなく,吸込の気流が十分に,且つ滑らかに羽根車のブレードに吸込できて,羽根車の振動が少ないブロワ用モータを提案した。
【特許文献1】特開2004−40871号
【特許文献2】特開2005−160264号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ファン・ブロワの高風量化に伴い,その中央部分に配置されるモータのサイズが大きいと風量低下・騒音大等の問題が生じる。その改善策としてモータの小型化が考えられる。モータの小型化にはマグネットの磁束密度を高く設定することが考えられるが,その場合にステータティースの磁気飽和の問題が生じる。また,磁気飽和しない範囲で磁束密度を高くしたとしても,高速回転する場合のステータヨークの渦電流損失が大きくなり効率に悪影響を与える。
【0007】
また,上述した遠心ブロワにおいてはモータを構成するステータの外径を吸込口に向かって小さくなるように形成するため,モータの製作方法に難点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のステータティースの磁気飽和を解決する方法として,モータ鉄心を使用しないコアレスモータが考えられる。このコアレスモータ構造を単相ブラシレスDCモータに適用する。
【0009】
ステータヨークを絶縁処理した軟磁性粉末と樹脂の複合材から成る圧粉磁心材を使用して構成し,空心で集中巻きされたモータコイルをステータヨークの外周面に等間隔にマグネットの極数と同数だけ固着し,モータコイルの空心部分を基準に位置を決めるガイドをステータヨークの外周にモータコイルの厚みよりも薄くステータヨークと一体に形成して配置する。
【0010】
また,モータのデットポイントが発生しないように,ガイドの厚みを不均一とし,ガイド外周表面とリング状のマグネット内周のエアギャップが不均一になる構造とする。
【0011】
圧粉磁心で成形されたステータヨークの表面には粉体樹脂コーティング法により,絶縁皮膜を形成すると同時に,ステータヨークの機械的強度の補強を兼ねる。
【0012】
また,遠心ブロワに使用する場合には,吸込口側に向かって,リング状のマグネットと圧粉磁心材から成るステータヨークの径が,小さくなるように形成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモータでは,下記のような特性改善と製作容易化が図れる。
(1)残留磁束密度の高いマグネットが使用可能となり,モータの小型化が可能で,ファン・ブロワの風量アップと低騒音化が可能となる。
(2)圧粉磁心材は渦電流の発生が少なく,高速回転域での高効率運転が可能になる。
(3)モータコイルをステータヨークに固着する際に,ステータヨークと一体に成形されたガイドにより精度良く配置できる。
(4)ガイドの厚みを不均一とすることで,モータのデットポイント発生を回避できる。
(5)圧粉磁心で成形されたステータヨークの表面には,絶縁処理が可能で直接モータコイルを固着できるため,モータコイルの放熱に効果がある。
(6)ステータヨークは金型により成形するため,径方向のテーパ加工が容易であり,別工程で巻線された,モータコイルはステータヨークと一体に成形されたガイドにより精度良く容易に配置できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ステータヨークを絶縁処理した軟磁性粉末と樹脂の複合材から成る圧粉磁心材を使用して構成し,モータコイルの空心部分を基準に位置を決めるガイドをステータヨークの外周にモータコイルの厚みよりも薄くステータヨークと一体に形成する。またガイドの厚みを不均一とし,該ガイド外周表面とリング状のマグネット内周のエアギャップが不均一になる構造とする。更にステータヨークのモータコイルとの接触面を,粉体樹脂コーティング法などにより,絶縁皮膜を形成し直接モータコイルを固着する。
【0015】
遠心ブロワに適用するには,ケーシングとその内部に回転自在に軸支し,外周に複数のブレードを付加した羽根車を準備し,ケーシングの一方の側壁に形成された吸込口から空気を吸入し,羽根車の回転により吸入気流に遠心力を与え,ケーシング外周面の一部に形成された吐出口から高圧空気を吐出し,羽根車の中央部に単相ブラシレスDCモータを配置する遠心ブロワに,吸込口側に向かって,リング状のマグネットと圧粉磁心材から成るステータヨークの径が,小さくなるように形成する。
【実施例1】
【0016】
本発明に係わる実施の形態を図1の単相ブラシレスDCモータを搭載した遠心ブロワの断面図を用いて説明する。1は自己融着のマグネットワイヤ等を用いて集中巻きされた空心のモータコイルであり,4個でモータ一台分を構成する。2は絶縁処理した軟磁性粉末と樹脂の複合材から成る圧粉磁心材を用いて圧縮成形により造られたステータヨークであり,その表面は粉体樹脂コーティングにより絶縁皮膜を形成してあり,ステータヨークの電気的絶縁の他にステータヨークの機械的強度の補強を兼ねるものである。3はステータヨークの外周面に設けられたガイドであり,ステータヨーク2と一体に成形されていて,モータコイル1をステータヨーク2の外周に配置して固着する際の位置決めのガイドになるもので,モータコイル1の空心部部分と接する形状に成形されている。
【0017】
4はロータ,5はネオジム系の高残留磁束密度を有するリングマグネットでロータ4の内径に挿入され内周面が4極に着磁されている。6はホール素子であり,7のプリント配線基板上に搭載され,マグネット5の磁極位置を検出している。
【0018】
8はモータ軸,9は軸受け,10はハウジング,11はケーシング,12は羽根車である。更に図2に示すように羽根車12の外周には複数のブレード(翼)13を有する。また,図3は遠心ブロワの外形であり,羽根車12の回転による遠心力で側方の吸込口15から羽根車12の外周面への空気の流れを生じさせて,吐出口14から排出するものである。
【0019】
また,図4は図1のモータ部のモータ軸方向の断面図で,マグネット5の磁極とステータヨークガイド3の位置関係を示し,従来のモータ図11と対比するものである。
【0020】
ステータヨーク2の外周径に合わせて,モータコイル1の固着面は1−1のように円弧状に曲げられている。また,ガイド3の厚みはモータコイル1より薄く,厚い部分3−1,薄い部分3−2のように不均一に成形されている。これは図11の従来のステータコア突極とマグネットのエアギャップの不均一化に相当するものである。
【0021】
図5はガイド3の厚みが均一の場合の無通電時のマグネット5の磁極位置とモータコイル1の停止位置関係を示す展開図である。磁気回路の構成からモータコイルの中心位置とマグネット磁極の中心は一致するように停止する。この位置ではホール素子6はマグネット磁極の切り換え部分に位置することになり,モータコイルへの通電方向が確定出来ず起動するための回転トルクが得られない。
【0022】
図6はガイド3の厚みを不均一にすることで,無通電時の停止位置がをずれすことが可能になり,この位置ではホール素子6はマグネット5の磁極を確実に検出できて,モータコイル1への通電方向が確定し,起動するための回転トルクが確実に得られる。
【0023】
図7はモータに発生する回転トルクを示すものであり,不均一エアギャップ等により生じるコギングトルク20と,通電トルク21により合成された,モータ回転トルク22を示すものである。T1はモータ回転トルク22のトルクリップル値である。このトルクリップル値がモータの加振源となり,大きいほどモータの振動騒音が大きくなる。
【0024】
図8はガイドの厚みを適切に変えた場合のトルクリップル値T2を示すもので,コギングトルクを適正値化したものでトルクリップルT2が小さくなり,その結果低騒音化が図れる。
【実施例2】
【0025】
図9は請求項3に係わるモータコイル1とガイド3の配置関係を示す図である。デッドポイントの回避方法としては,上述のガイド外周表面とリング状のマグネット内周のエアギャップを不均一にする方法とは別に,モータコイル1の配置で周方向の中心位置とガイド3の中心位置をずらしたことでも同様の効果が得られる。この場合にはモータコイルの位置決めはガイドの片側に寄せることで製作が可能である。
【実施例3】
【0026】
また,図10は請求項4に係わる遠心ブロワの断面図である。ステータヨーク2を吸入口15に向かって外径を小さくしている。ステータヨーク2には圧粉磁心材で金型により成形されているため,外径を変化させることは容易である。モータコイル1はステータヨーク2の外周表面に固着されるため,モータ軸8と傾いて配置されている。マグネット5は射出成形のネオジム系プラスチックマグネットでステータヨーク2と同じ傾きで成形され4極に着磁されている。マグネット5を保持するロータ4も同じ傾きに絞り加工により成形されている。本発明のモータはこのように構成されているため,吸入口に向かってモータ径を小さく製作することが容易である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば,空心で集中巻きされたモータコイルをステータヨークに固着する際に,ステータヨークと一体に成形されたガイドにより配置でき,ガイドの厚みを不均一とすることで,モータのデットポイント発生を回避できる単相ブラシレスDCモータの構成が可能であり,モータの基本構成はコアレスモータでステータヨークの磁気飽和が生じにくく,磁束密度の高いマグネットが使用可能になり,モータが小型化できる。また,圧粉磁心材は渦電流の発生が少なく,高速回転域での高効率化が可能である。また,ステータヨークは金型により成形するため,径方向のテーパ加工が容易であり,別工程で巻線された,モータコイルはステータヨークと一体に成形されたガイドにより精度良く容易に配置できる。
このような特徴を持つ単相ブラシレスDCモータであるから,モータが小型化でき,気流の吸入特性が向上し,ファン・ブロワに使用することで風量アップと低騒音化が可能を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の請求項1〜4に係わる単相ブラシレスDCモータを搭載した遠心ブロワの断面図
【図2】本発明に係わる羽根車とブレード(翼)の図
【図3】本発明に係わる遠心ブロワの外形図
【図4】本発明のモータ部のモータ軸方向断面図
【図5】無通電時のマグネット磁極位置とモータコイルの停止位置関係を示す展開図
【図6】無通電時のマグネット磁極位置とモータコイルの停止位置関係を示す展開図
【図7】モータトルク波形
【図8】モータトルク波形
【図9】本発明のモータコイルとガイドの配置関係を示す図
【図10】本発明の単相ブラシレスDCモータを搭載した遠心ブロワの断面図
【図11】従来の単相モータの構造図
【符号の説明】
【0029】
1 モータコイル
1−1 円弧状の曲げ
2 ステータヨーク
3 ガイド
3−1 ガイドの厚い部分
3−2 ガイドの薄い部分
4 ロータ
5 マグネット
6 ホール素子
7 プリント配線基板
8 モータ軸
9 軸受け
10 ハウジング
11 ケーシング
12 羽根車
13 ブレード
14 吐出口
15 吸込口
20 コギングトルク
21 通電トルク
22 モータ回転トルク
T1 トルクリップル
T2 トルクリップル
31 ロータコア
32 ロータマグネット
33 ホール素子
34 ステータコア
35 ティース
36 突極
37 モータコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持され内周面に多極着磁されたリング状のマグネットと,該マグネットの内周側に対向配置される円筒状のステータヨークと,該ステータヨークの外周面に等間隔に前記マグネットの極数と同数だけ固着された空心で集中巻きされたモータコイルを具備する単相ブラシレスDCモータにおいて,前記ステータヨークを絶縁処理した軟磁性粉末と樹脂の複合材から成る圧粉磁心材を使用して構成し,モータコイルの空心部分を基準に位置を決めるガイドをステータヨークの外周にモータコイルの厚みよりも薄くステータヨークと一体に形成して配置したことを特徴とする単相ブラシレスDCモータ。
【請求項2】
前記ガイドの厚みを不均一とし,該ガイド外周表面とリング状のマグネット内周のエアギャップが不均一になる構造としたことを特徴とする請求項1に記載の単相ブラシレスDCモータ。
【請求項3】
前記ガイドの厚みを均一とし,該ガイド外周表面とリング状のマグネット内周のエアギャップが均一になる構造とし,モータコイルの配置で周方向の中心位置とガイドの中心位置をずらしたことを特徴とする請求項1に記載の単相ブラシレスDCモータ。
【請求項4】
前記ステータヨークの少なくともモータコイルとの接触面を,粉体樹脂コーティング法などにより,絶縁皮膜を形成したことを特徴とする請求項1から3に記載の単相ブラシレスDCモータ。
【請求項5】
ケーシングとその内部に回転自在に軸支され,外周に複数のブレードを有する羽根車を備え,前記ケーシングの一方の側壁に形成された吸込口から空気を吸入し,前記羽根車の回転により吸入気流に遠心力を与え,前記ケーシング外周面の一部に形成された吐出口から高圧空気を吐出し,前記羽根車の中央部に前記単相ブラシレスDCモータを配置する遠心ブロワであって,吸込口側に向かって,前記リング状のマグネットと前記ステータヨークの径が,小さくなるように形成されたことを特徴とする請求項1から4に記載のブロワ用単相ブラシレスDCモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−37284(P2007−37284A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216777(P2005−216777)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000228730)日本サーボ株式会社 (276)
【Fターム(参考)】