説明

双方向光モジュール

【課題】LD素子が発光する波長光を効率よく吸収し消滅させるようにして、迷光の発生を抑え、光クロストークのない双方向光モジュールを提供する。
【解決手段】送信光を発光する発光素子4と受信光を受光する受光素子5、並びに、波長合分波フィルタ6を搭載したステム3上に、光透過窓を有するキャップ7を封着したパッケージを備えた双方向光モジュールである。パッケージ内に発光素子4の発光波長よりも長い光吸収端をもつ半導体材料からなる光吸収部材20を配し、パッケージ内の迷光を吸収させる。半導体材料としては、Ge、InGaAs、InGaAsPのいずれかを用いるのが好ましい。また、該半導体材料を粉末状にして、低融点ガラスに含有させたものとしてもよい。なお、光吸収部材はキャップ8の内壁面に設けた形態とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つのパッケージ内に発光素子及び受光素子を搭載し、光信号の送受信に用いられる同軸型の双方向光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術の進展に伴い、FTTH(Fiber To The Home)に代表される加入者系通信網のGE−PON(Gigabit Ethernet(登録商標)−Passive Optical Network)システムの導入が進んでいる。このGE−PONシステムでは、メタルケーブル並みの低価格で、より高速なサービスを実現するために、光ファイバの本数を減らし1本の光ファイバで、局側のセンター端末(OLT:Optical Line Terminal )とユーザ側の加入者端末(ONU:Optical Network Unit )とで上りと下りの双方向通信を行う一心双方向通信方式が提案されている。具体的には、1.31μm帯と1.55μm帯(又は1.49μm帯)の2波長を用いて送受信を行う波長分割多重方式(WDM:Wavelength Division Multiplexing)である。
【0003】
これに用いられる一心双方向型の光モジュールとしては、発光素子である半導体レーザ(LD素子)から出射される送信光は、波長フィルタで反射させて光ファイバに結合させる一方で、光ファイバを伝送してきた受信光は、波長フィルタを透過させて受光素子であるフォトダイオード(PD素子)に光結合するように位置決めされて、筐体にYAG溶接等で固定される。しかし、近年の光アクセスシステムの利用の拡大ともに、一心双方向光モジュールの小型化、低コスト化の要求が強まり、LD素子とPD素子を1つのパッケージ内に収め、波長フィルタ(WDMフィルタ)により分波する形態のものが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
1つのパッケージを用いる形態とした場合、LD素子の構造にもよるが、その出射光は半値幅で横方向25〜35度、垂直方向30〜40度の広がりを持っていて、光ファイバに結合しない光が存在する。この光ファイバと結合しない光は、パッケージ内で反射しながら減衰していく。また、端面発光型のLD素子では、光ファイバに結合する光を出射する端面と、その反対側の端面からも光を出射する。この反対側からの出射光は、LD素子の出射光の強度をモニタするのに利用されるが、その一部がパッケージ内で反射を繰り返す。これら、LD素子から出射した光の一部は、パッケージ内で減衰しながら反射を繰り返す迷光となる。この迷光が受信用のPD素子に入射すると、光学的なクロストークを生じ、また、この他ノイズ或いは誤作動の原因ともなる。
【0005】
上述のような迷光による影響を回避するために、上記特許文献1では、受信用のPD素子をパッケージのキャップとは異なるキャップで囲い、反射光や上記の迷光を受光しないようにしている。また、特許文献2には、キャップ表面にZn−Niメッキなどによる黒色皮膜を設けてレーザ光の反射による迷光を抑制することが開示され、特許文献3には、キャップ表面に無光沢パラジウムメッキを施して、同様にレーザ光の反射による迷光を抑制することが開示されている。また、特許文献4には、信号光を透過するパッケージの窓部の周辺にカーボン等の吸収剤を設けて、反射による迷光を抑圧することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−133463号公報
【特許文献2】特開2003−204006号公報
【特許文献3】特開2006−120864号公報
【特許文献4】特開2003−209315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1つのパッケージ内に送信用のLD素子と受信用のPD素子を搭載することにより、送信用のLD素子と受信用のLD素子を別々のパッケージに搭載(2パッケージ)するものと比べて、スペースやコスト面で大きなメリットがあるが、上述したような光クロストークの発生の問題がある。上記の特許文献1に開示のように、LD素子を内部キャップで囲うことは、内部キャップを配するためのスペースを必要とし、また、WDMフィルタを通して入り込む光については、防止することができない。
【0007】
また、特許文献2に開示のように、パッケージ用のキャップの表面に黒色皮膜を形成、或いは特許文献3に開示のように、パッケージ用のキャップの表面に無光沢パラジウムメッキを施すこと、特許文献4に開示のように、パッケージの窓部の周辺に光の吸収膜を設けて、レーザ光の反射を低減する効果は認められものの、十分な改善には至っていない。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、LD素子が発光する波長光を効率よく吸収し消滅させるようにして、迷光の発生を抑え、光クロストークのない双方向光モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による双方向光モジュールは、送信光を発光する発光素子と受信光を受光する受光素子、並びに、波長合分波フィルタを搭載したステム上に、光透過窓を有するキャップを封着したパッケージを備えた双方向光モジュールで、パッケージ内に発光素子の発光波長よりも長い光吸収端をもつ半導体材料からなる光吸収部材を配し、パッケージ内の迷光を吸収することを特徴とする。
前記の半導体材料としては、例えば、Ge、InGaAs、InGaAsPのいずれかを用いるのが好ましい。また、該半導体材料を粉末状にして、低融点ガラスに含有させたものとしてもよい。なお、光吸収部材はキャップの内壁面に設けた形態とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光素子からの発光される信号光の一部がパッケージ内で反射することに起因する迷光を、発光素子の発光する波長に応じて効率よく吸収して消滅させることができるので、受光素子での受光を防ぎ、光クロストークの発生を問題ない程度に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の対象とする双方向光モジュールの一例を説明する図で、図2はパッケージ部の拡大模式図である。図中、1は双方向光モジュール、2はパッケージ部、3はステム、4は発光素子(LD)、5は受光素子(PD)、6は波長合分波フィルタ(WDMフィルタ)、7はレンズ、8はキャップ、9はホルダ、10は仕切り壁、11は開孔、12はスリーブ部、13はスタブ、13aは短尺の光ファイバ、14はスリーブシェル、15はガイドスリーブ、16はブッシュを示す。
【0011】
双方向光モジュール1は、図1に示すように、パッケージ部2にホルダ9を介してスリーブ部12を結合してなり、スリーブ部12に着脱可能に挿入される光コネクタ(図示せず)を介して外部光伝送路に接続され、光信号の送受信が行われる。パッケージ部2は、例えば、CAN型(同軸型)で形成され、ステム3に信号光を送信するレーザダイオード等の発光素子4(以下、LD4という)と、外部回路からの信号光を受信するフォトダイオード等の受光素子5(以下、PD5という)とが搭載された1パッケージ型の光モジュールデバイスとして構成される。
【0012】
また、図2に拡大して示すように、パッケージ部2のステム3上には、異なる波長の送信光と受信光が交差する光学径路上で、波長合分波フィルタ6(以下、WDMフィルタという)を傾斜させて搭載し、送信光と受信光を選択的に反射又は透過させて分離している。パッケージ部2の筐体としても機能するキャップ8は、上部中央に信号光及び受信光を集光するレンズ7が装着されていて、信号光の出射口及び受信光の入射口とされている。なお、キャップ8は、ステム3に密封構造で封着され、内部の搭載部品を保護する。
【0013】
スリーブ部12は、光コネクタを挿入して外部光伝送路と光接続を形成する部分で、例えば、円筒状のスリーブシェル14にスタブ13を密着嵌合したガイドスリーブ15を収納し、スリーブシェル14をブッシュ16に嵌合させて構成される。スタブ13は、中心部に短尺の光ファイバ13aを挿着したフェルール形状で形成され、ガイドスリーブ15内に挿入される光コネクタのフェルール端と突き合わされることにより、光ファイバ13aと外部の光ケーブル(図示せず)の光ファイバと光接続が形成される。
【0014】
パッケージ部2とスリーブ部12とは、ホルダ9を介して結合され、径方向の調心が行われる。ホルダ9は、上部に仕切り壁10を有し、この仕切り壁10の中央部にレンズ7により集光される信号光を通す開孔11が設けられていて、パッケージ部2のステム3に接着又は溶接により固定される。パッケージ部2とスリーブ部12間の径方向位置(入出射光の位置)は、ホルダ9とブッシュ16の相対位置を変えて調整される。これらの調整後、ブッシュ16がホルダ9に接着又は溶接により固定されて一体化される。
【0015】
双方向光モジュール1が上記のようにして調心されると、LD4から出力された送信光は、WDMフィルタ6で反射されてレンズ7で集光され、ホルダ9の開孔11を通ってスタブ13の光ファイバ13aに入射される。他方、外部伝送路からの信号光は、スタブ13の光ファイバ13aから出射され、ホルダ9の開孔11を通ってパッケージ部2内に入り、レンズ7で集光されて、WDMフィルタ6を透過してPD5で受光される。
【0016】
ここで、LD4で発光され出力される信号光は、スタブ13の光ファイバ13aに入射されて外部伝送路に送信されるように設計されるが、出力された信号光の一部がパッケージ部2のキャップ8の内壁に当たって反射する。この反射した信号光は、迷光となって反射を繰り返し、PD5に入射され、クロストークを生じる恐れがある。本発明では、このパッケージ部2内で生じる迷光を吸収し、消滅させることにある。
【0017】
図3は本発明による一例を示し、図3はパッケージ部2のキャップ8内に、迷光を吸収する光吸収部材20を配したものである。パッケージ部2の基本構造は、図2とほぼ同じで(例えば、CAN型構造)、ステム3上に信号光を送信するLD等の発光素子4と、外部回路からの信号光を受信するPD等の受光素子5とが搭載された1パッケージ型の光モジュールデバイスとして構成される。そして、異なる波長の送信光と受信光が交差する光学径路上にWDMフィルタ6を傾斜させて搭載し、送信光と受信光を選択的に反射又は透過させて分離している。なお、パッケージ部2の筐体としても機能するキャップ8は、上部中央に信号光及び受信光を集光するレンズ7が装着されていて、ステム3に密封構造で封着され、内部の搭載部品を保護する。
【0018】
パッケージ部2のステム3上には、上記のLD4、PD5、WDMフィルタ6の他に、本発明による光吸収部材20が樹脂材により固定して搭載され、キャップ8内の反射により生じる迷光を吸収するようにしている。光吸収部材20は、ステム3上のスペース部分に分散して配置するが、受信光以外の迷光がPD5に達しないように、PD5の周囲を囲うような形態で配置されているのが望ましい。
【0019】
光吸収部材20としては、発光素子であるLD4の発光波長(例えば、1.31μm)を吸収できる吸収係数をもつ材料、すなわち、発光素子の発光波長以上の光吸収端を有する材料で形成される。例えば、Ge(光吸収端が1.55μm)基板、または、InP基板上にInGaAs(光吸収端が1.65μm)、InGaAsP(光吸収端が1.30〜1.55μm)等を所定の厚さで成長させた半導体基材を用いることができる。これにより、LD4からの信号光の一部が、キャップ8の内壁に当たって反射した光は、PD5に達する前に前記の光吸収部材20に当たって吸収され消滅する。
【0020】
また、上記の光吸収部材をステム3上に配置する代わりに、図4に示すように、パッケージ2のキャップ8の内壁面に光吸収部材21を設けるようにしてもよい。しかし、キャップ8の内壁面は、通常は曲面で形成されている場合が多く、上述した半導体を成長させた基板を設置するのが容易でなく、手間を要する作業となる。したがって、例えば、上記のようにして形成された半導体基材を粉末状にして、これを低融点ガラス等に含有させてキャップ8の内壁面に付着させることにより配置するようにしてもよい。
【0021】
迷光の光吸収部材として、上記のInGaAsを用いた場合、LD4の発光波長が1.31μmであるとすると、この波長光に対するInGaAsの吸収係数は約1.3×10cm−1であり、5μmの厚さで99.85%の光を吸収することができる。また、発光波長が1.55μmであるとすると、この波長光に対するInGaAsの吸収係数は約1.0×10cm−1であり、5μmの厚さで99.3%の光を吸収することができる。
【0022】
黒色Niメッキの反射率が数%〜10%程度であるため、上記の光吸収部材20,21によるパッケージ内の迷光吸収効果は大きいと言える。また、光吸収部材として有効な5μm程度の厚さは、通常のメッキ厚さと比べても差がなく、パッケージのキャップ内の限られた空間を占有するものではなく、拡大する必要もない。
【0023】
なお、光吸収部材として半導体結晶基板等を用いる場合、半導体材料そのものの屈折率が、例えば、InGaAsでn=3.56、Geでn=4.0で、反射を生じることがある。このため、光吸収部材20,21の表面に、さらにARコート(反射防止膜)を施すことによって、吸収部材表面での反射を抑えるようにしてもよい。ARコート材料としては、例えば、Si酸化膜(SiNx、SiON)を用いることができる。
【0024】
上述の光吸収部材20,21は、通常の半導体製造技術により製造され安価に取得することができ、これを汎用構造の双方向光モジュールのパッケージ内に接着や付着等の簡単な方法で容易に配置させることができる。そして、双方向光モジュールの発光素子による信号光が、パッケージ内の壁面に当たって反射した迷光を効果的に吸収・消滅させ、迷光を受光素子側で受光するのを防止してクロストークの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の対象とされる双方向光モジュールの概略を説明する図である。
【図2】図1のパッケージ部の拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態を説明する図である。
【図4】本発明の他の実施の形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
1…双方向光モジュール、2…パッケージ部、3…ステム、4…発光素子(LD)、5…受光素子(PD)、6…波長合分波フィルタ(WDMフィルタ)、7…レンズ、8…キャップ、9…ホルダ、10…仕切り壁、11…開孔、12…スリーブ部、13…スタブ、13a…短尺の光ファイバ、14…スリーブシェル、15…ガイドスリーブ、16…ブッシュ、20,21…光吸収部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信光を発光する発光素子と受信光を受光する受光素子、並びに、波長合分波フィルタを搭載したステム上に、光透過窓を有するキャップを封着したパッケージを備えた双方向光モジュールであって、
前記パッケージ内に前記発光素子の発光波長よりも長い光吸収端をもつ半導体材料からなる光吸収部材を配し、前記パッケージ内の迷光を吸収することを特徴とする双方向光モジュール。
【請求項2】
前記半導体材料は、Ge、InGaAs、InGaAsPの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の双方向光モジュール。
【請求項3】
前記半導体材料は粉末状にされて、低融点ガラスに含有されていることを特徴とする請求項2に記載の双方向光モジュール。
【請求項4】
前記光吸収部材は前記キャップの内壁面に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の双方向光モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−26869(P2009−26869A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187013(P2007−187013)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】