説明

可動マグネット型リニアモータを備えた工具送り装置

【課題】可動マグネット型リニアモータの小型、軽量化により、高速かつ高精度な切削加工を可能にした工具送り装置を提供する。
【解決手段】支持ベース体21と、支持ベース体に対して相対移動可能な可動体22と、可動体の先端部に取付けられた工具15と、可動体を支持ベース体に対して高速で相対移動させる可動マグネット型リニアモータ24と、可動体の位置を検出する位置検出手段25とを備え、可動マグネット型リニアモータは、可動体に配設されたマグネット構成体42と、支持ベース体に配設されたコイル41とを備え、マグネット構成体は、可動体の移動方向に間隔を有して配設された第1および第2の主マグネット51、52と、これら第1および第2の主マグネットの可動体の移動方向の両側に配設された第1および第2の補助マグネット53、54と、第1および第2の主マグネットの間に配設された第3の補助マグネット55とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動マグネット型リニアモータを備えた工具送り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、リニアモータは、例えば、特許文献1に記載されているように、軌道台(1)上に軌道台の全長に亘って延在するように設けられた矩形板状のコイルヨーク(15)と、このコイルヨーク上に一列に並べて配設された多数の電機子コイル(16)とを有する一次側と、軌道台上をスライドするスライドユニット(3)の下面側に固定されたマグネットヨーク(22)と、このマグネットヨークの下面側に固定され電機子コイルに各々対向する矩形板状の界磁マグネット(23)とを有する二次側とによって構成されている。
【0003】
かかる界磁マグネットは、スライドユニットのスライド方向に沿って、NおよびSの磁極が複数、交互に並ぶように着磁されており、電機子コイルに所定の電流を供給することにより、一次側および二次側の両者間にフレミングの左手の法則による推力が生じ、スライドユニットが軌道台上をスライドされるようになっている。
【特許文献1】特開平5−227729号公報(段落0017、0021、図3、4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来のリニアモータにおいては、マグネットがマグネットヨークを介して可動体(スライドユニット)に取付けられているため、マグネットヨークの重量によって可動側の重量が大きくなる。従って、当該リニアモータを、例えば、超精密加工機の工具の送り移動に用いた場合には、工具の高応答性および高速化を達成するうえで、障害となる問題があった。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点を解消するためになされたもので、可動マグネット型リニアモータの小型、軽量化により、高速かつ高精度な切削加工を可能にした可動マグネット型リニアモータを備えた工具送り装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、非磁性材料からなる支持ベース体と、該支持ベース体の先端側に設けられた先端側軸受および前記支持ベース体の後端側に設けられた後端側軸受と、前記先端側軸受により支持される先端側摺動軸部および前記後端側軸受により支持される後端側摺動軸部とを有し、前記支持ベース体に対して相対移動可能に配設された可動体と、該可動体の先端部に取付けられた工具と、前記可動体を前記支持ベース体に対して高速で相対移動させる可動マグネット型リニアモータと、前記可動体の位置を検出する位置検出手段とを備え、前記可動マグネット型リニアモータは、前記可動体に設けられた非磁性材料からなるマグネット取付部に配設されたマグネット構成体と、該マグネット構成体に前記可動体の移動方向と直交する方向に対向するように前記支持ベース体に配設されたコイルとを備え、前記マグネット構成体は、前記可動体の移動方向に間隔を有して配設された第1および第2の主マグネットと、これら第1および第2の主マグネットの前記可動体の移動方向の両側に配設された第1および第2の補助マグネットと、前記第1および第2の主マグネットの間に配設された第3の補助マグネットとからなり、前記第1の主マグネットは、前記可動体の移動方向と直角な方向に着磁されて前記コイルに対向され、前記第2の主マグネットは、前記第1の主マグネットの着磁方向と平行な方向に着磁されかつ前記コイルに前記第1の主マグネットとは反対の磁極で対向され、前記第1および第2の補助マグネットは、磁力線の方向を偏向させるために、前記第1および第2の主マグネットとそれぞれ対向する側の磁極が、前記第1および第2の主マグネットの前記コイルに対向する側の磁極と同じになるよう配置されていることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記可動体の先端側には、矩形状摺動軸部が形成されるとともに、前記可動体の後端側には、円形状摺動軸部が形成され、前記先端側軸受は、前記矩形状摺動軸部を摺動可能に支持する断面矩形状に形成されているとともに、前記後端側軸受は、前記円形状摺動軸部を摺動可能に支持する断面円形状に形成されていることである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記工具は、前記可動体の移動方向の中心軸線上に工具の先端が位置するように配設されていることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、可動体に設けられた非磁性材料からなるマグネット取付部に配設されたマグネット構成体が上記したように構成されているので、第1の主マグネットに作用された推力方向と直交する方向の磁力線は、第1の補助マグネットにより反発されて第2の主マグネットに向かう推力方向に偏向され、さらに、第2の主マグネットからの磁力線は、第2の補助マグネットによってコイルに向かう推力方向と直交する方向に偏向される。これにより、マグネットヨークをまったく用いなくても、磁束の漏洩を少なくできる効率のよい磁気回路を構成できる。その結果、可動マグネット型リニアモータの小型、軽量化を達成でき、工具の高速送りを可能にすることができる。しかも、ヨークを用いていないため、仮に軸受の中心とマグネット構成体の取付け中心とコイルの取付け中心とが一致していなくても、可動体に吸引力が発生せず、工具送り装置の製作を容易にすることができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、可動体の先端側には、矩形状摺動軸部が形成されるとともに、可動体の後端側には、円形状摺動軸部が形成され、先端側軸受は、矩形状摺動軸部を摺動可能に支持する断面矩形状に形成されているとともに、後端側軸受は、円形状摺動軸部を摺動可能に支持する断面円形状に形成されているので、可動体を先端側軸受と後端側軸受とによって両持ちで摺動のみ可能に高剛性に支持することができる。しかも、加工の際に工具に生じる曲げモーメントを、加工位置に近い断面矩形状の先端側軸受によって効率よく受けることができ、高精度な切削加工を可能にすることができる。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、工具は可動体の移動方向の中心軸線上に工具の先端が位置するように配設されているので、工具に作用する切削負荷を高剛性に支持でき、高精度な切削加工を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は工具送り装置10を備えた超精密加工機100を示すもので、この超精密加工機100は、図1に示すように、ベッド11を備え、このベッド11上に、X軸テーブル12が水平なX軸方向に移動可能に支持されている。X軸テーブル12上には、工具送り装置10が設置され、この工具送り装置10にバイト15が保持されている。
【0013】
また、ベッド11上には、工具送り装置10に対向して主軸台17がX軸方向と直交する水平なZ軸方向に移動可能に支持され、この主軸台17に主軸18がZ軸方向と平行なC軸の回りに回転可能に支持されている。主軸18の先端には、チャック19が取付けられ、このチャック19にバイト15によって切削加工される工作物20が保持されるようになっている。
【0014】
工具送り装置10は、図2および図3に示すように、X軸テーブル12上に設置された支持ベース体21と、この支持ベース体21にZ軸方向と平行なW軸方向に摺動可能に支持された可動体22と、この可動体22の先端側に取付けられた工具としてのバイト15と、可動体22を高速で進退移動させる可動マグネット型のリニアモータ24と、可動体22の位置を検出する位置検出手段25とを備えている。
【0015】
可動体22は、先端部に外周が四角柱状をなす矩形状摺動軸部27を有するとともに、中央部および後端部に外周が円柱状をなす円形状摺動軸部28を有する中空軸より形成されている。支持ベース体21には、先端側に矩形状摺動軸部27を摺動可能に嵌合する断面矩形状の非磁性材からなる先端側静圧軸受29と、後端側に円形状摺動軸部28を摺動可能に嵌合する断面円形状の非磁性材からなる後端側静圧軸受30とが設置されている。これら先端側静圧軸受29および後端側静圧軸受30によって、可動体22が支持ベース体21に対してW軸方向に摺動のみ可能に静圧支持されている。先端側静圧軸受29の先端には前面蓋体31が組付けられている。
【0016】
可動体22には、先端側に開口する中空穴部33と、後端側に開口する中空穴部34が設けられ、これら中空穴部33、34は、可動体22の中央部に設けた仕切壁35によって隔絶されている。可動体22の先端側の中空穴部33には、バイト15を保持した工具ホルダ36が取付けられ、工具ホルダ36は前面蓋体31に設けられた開口に遊嵌されている。工具ホルダ36と前面蓋体31との隙間には、図略のエアシールが設けられ、切削加工時の切り屑および切削液が先端側静圧軸受29に入らないようにしている。バイト15を保持した工具ホルダ36は、バイト15の刃先が可動体22の中心軸線O1上に位置するように配置され、バイト15の刃先は、X軸テーブル12のX軸方向移動によって、主軸18の回転中心を含む主軸18の径方向に移動できるようになっている。
【0017】
可動体22の後端側の中空穴部34内には、位置検出手段25のスケール部37が仕切壁35に固定されている。一方、支持ベース体21の後端側静圧軸受30には栓部材38が嵌合され、この栓部材38にセンサーヘッド39が仕切壁36に向かって突設されている。かかるスケール部37およびセンサーヘッド39によって、可動体22の位置を検出する光学式リニアスケールからなる位置検出手段25を構成している。なお、位置検出手段25のスケール部37は可動体22の中心軸線O1に沿って配設され、この中心軸線O1上で可動体22の位置を検出できるようになっている。
【0018】
次に、図4および図5に基づいて、可動マグネット型のリニアモータ24の構成を説明する。当該リニアモータ24は、固定側の一次側要素と、一次側要素に対して相対移動可能な可動側の二次側要素とから構成され、一次側要素は、支持ベース体21に取付けられたコイル41からなり、二次側要素は、可動体22に取付けられたマグネット構成体42からなっている。
【0019】
具体的には、可動体22の軸方向の中央部には、例えば、アルミニウム(アルミニウム合金)等の非磁性体の金属からなる断面矩形状のマグネット取付部43がキー部材44により相対回転不能に嵌合され、締付ナット45(図2参照)によって一体的に固定されている。マグネット取付部43の外周の4面には、マグネット取付面43a〜43dが形成されている。4つのマグネット取付面43a〜43dには、同一構成からなるマグネット構成体42(42a〜42d)がそれぞれ配設されている。また、支持ベース体21は、アルミニウム(アルミニウム合金)等の非磁性体の金属からなり、支持ベース体21には、マグネット取付部43を取り囲むように4つのコイル取付面21a〜21dが形成されている。これら4つのコイル取付面21a〜21dには、マグネット構成体42a〜42dに対向するようにコイル41(41a〜41d)がそれぞれ配設されている。
【0020】
各マグネット構成体42a〜42dは、図4に示すように、可動体22の移動方向に間隔を有して配設された第1および第2の主マグネット51、52と、これら第1および第2の主マグネット51、52の可動体22の移動方向の両側に配設された第1および第2の補助マグネット53、54と、第1および第2の主マグネット51、52の間に配設された第3の補助マグネット55とによって構成されている。
【0021】
第1の主マグネット51は、可動体22の移動方向と直角な方向に着磁され、N極側をマグネット取付面43a〜43dに貼付けられ、S極側をコイル41に対向されている。また、第2の主マグネット52は、可動体22の移動方向と直角な方向に着磁され、S極側をマグネット取付面43a〜43dに貼付けられ、N極側をコイル41に対向されている。このように、互いに平行な方向に着磁された第1および第2の主マグネット51、52が、磁極を反対にして可動体22に取付けられている。
【0022】
第1および第2の主マグネット51、52の両側に配設された第1および第2の補助マグネット53、54は、可動体22の移動方向にそれぞれ着磁され、その磁極は、第1および第2の主マグネット51、52を通過する磁力と反発する関係に配設されている。すなわち、第1の主マグネット51に隣接して配設された第1の補助マグネット53は、第1の主マグネット51に対向する側の磁極が、第1の主マグネット51のコイル41に対向する側の磁極(S極)と同じになるよう配置されている。同様に、第2の主マグネット52に隣接して配設された第2の補助マグネット54は、第2の主マグネット52に対向する側の磁極が、第2の主マグネット52のコイル41に対向する側の磁極(N極)と同じになるよう配置されている。
【0023】
第1および第2の主マグネット51、52の間に配設された第3の補助マグネット55は、可動体22の移動方向にそれぞれ着磁され、第1の主マグネット51に対向する側がS極に、第2の主マグネット52に対向する側がN極に配置されている。
【0024】
上記した第1および第2の主マグネット51、52、第1、第2および第3の補助マグネット53、54、55からなるマグネット構成体42(42a〜42d)によって、リニアモータ24の二次側要素を構成している。
【0025】
一方、可動体22に対して相対移動可能な支持ベース体21には、マグネット取付部43を取り囲むように、4つのコイル取付面21a〜21dがマグネット取付面43a〜43dと各々平行に配置されている。各コイル取付面21a〜21dには、各マグネット構成体42a〜42dの第1および第2の主マグネット51、52に対向して、コイル41a〜41dがそれぞれ取付けられている。
【0026】
コイル41(41a〜41d)は、第1および第2の主マグネット51、52に跨る矩形のループ形状に平角線あるいは丸線を積層状態で巻回したものである。可動体22の移動方向におけるコイル41の束の幅CWは、図6に示すように、主マグネット51(52)の幅MWより大きく構成され、可動体22が所定の移動範囲移動しても、コイル41の束の幅CW内より主マグネット51(52)が可動体22の移動方向にはみ出さないように構成されている。すなわち、コイル41は、いわゆるロングコイルで構成され、コイル41の束の幅CWから主マグネット51(52)の幅MWを差し引いた量W1(W1/2+W1/2)は、可動体22の移動範囲よりも大きく設定されている。支持ベース体21に取付けられたコイル41(41a〜41d)によって、リニアモータ24の一次側要素を構成している。
【0027】
上記のように構成された超精密加工機100の作動を以下に説明する。超精密加工機100は、予め定められた加工プログラムに基づいて制御され、バイト15によって工作物20の切削加工が行われる。
【0028】
工作物20は、主軸18にチャック19を介して保持され、主軸18とともにC軸回りに回転される。一方、主軸台17をZ軸方向に移動することにより、工具送り装置10を工作物20に接近させ、バイト15の先端が工作物20に接触して切削が開始される。工作物20の切削加工は、例えば、工作物20の外周側より主軸18の回転中心に向かってバイト15を移動させるように、X軸テーブル12をX軸方向に移動することにより行う。
【0029】
工具送り装置10は、可動マグネット型リニアモータ24のコイル41に通電することにより、可動体22にW軸方向の推力が働き、目標値に応じた距離だけ一方向へ移動される。可動体22の移動位置は光学式リニアスケールよりなる位置検出手段25により検出され、検出位置の信号が図略の制御装置にフィードバックされ、実際の位置情報と加工指令値との差を零に近づけるように制御されることにより、バイト15によって工作物20が所定の形状に高精度で切削加工される。
【0030】
すなわち、第1の主マグネット51、第3の補助マグネット55および第2の主マグネット52を通る磁気回路MC(図7参照)が形成されることにより、コイル41に所定の電流を供給すると、フレミングの左手の法則に従って、可動体22に推力が発生され、可動体22は電流の供給方向に応じて、図2および図4の左右方向に移動される。
【0031】
この際、第1および第2の主マグネット51、52の両側に配設された第1および第2の補助マグネット53、54は、主マグネット51、52を通る磁力に反発するように配置されているため、第1の主マグネット51を通過した推力方向と直交する方向の磁力線は、図7に示すように、第3の補助マグネット55のS極に向かう推力方向に偏向され、第1の補助マグネット53によって、第1の主マグネット51から図7の右方へ漏洩する磁束を防止できる。さらに、第3の補助マグネット55のN極より出た磁力線は、第2の主マグネット52を通過して、コイル41に向かう推力方向と直交する方向にほとんどが偏向され、第2の補助マグネット54によって、第2の主マグネット52から図7の左方へ漏洩する磁束を防止できる。
【0032】
このため、コイルヨークおよびマグネットヨークをまったく用いずに磁気回路を構成することができ、コイルヨークおよびマグネットヨークに代えて、例えば、アルミニウム製の低密度の非磁性材料を用いることができるようになる。従って、可動側となる二次側要素の小型、軽量化を達成でき、送りの応答性を向上できるとともに、高速化を可能にできる。また、固定側となる一次側要素の軽量化も達成できるため、リニアモータ24、延いては工具送り装置10の小型、軽量化を可能にできる。
【0033】
しかも、コイル41をロングコイルにて構成することにより、コイル41に対してマグネット構成体42が相対移動しても、コイル41の主マグネット51、52と対向する左右の辺部を横切る磁束をほぼ一定値に維持することができ、コイル41に印加した電流量に対して可動体22に発生する推力をストロークに亘って略一定に確保できるようになる。また、支持ベース体21をアルミニウム合金にすることにより、冷却性能を向上することもできる。
【0034】
上記した実施の形態によれば、可動体22に設けられた非磁性材料からなるマグネット取付部43に配設されたマグネット構成体42が、可動体22の移動方向に間隔を有して配設された第1および第2の主マグネット51、52と、これら第1および第2の主マグネット51、52の可動体22の移動方向の両側に配設された第1および第2の補助マグネット53、54と、第1および第2の主マグネット51、52の間に配設された第3の補助マグネット55とからなっている。そして、第1の主マグネット51は、可動体22の移動方向と直角な方向に着磁されてコイル41に対向され、第2の主マグネット52は、第1の主マグネット51の着磁方向と平行な方向に着磁されかつコイル41に第1の主マグネット51とは反対の磁極で対向され、第1および第2の補助マグネット53、54は、磁力線の方向を偏向させるために、第1および第2の主マグネット51、52とそれぞれ対向する側の磁極が、第1および第2の主マグネット51、52のコイル41に対向する側の磁極と同じになるよう配置されている。これにより、コイル41への電流の供給によって第1の主マグネット51に作用された推力方向と直交する方向の磁力線は、第1の補助マグネット53により反発されて第2の主マグネット52に向かう推力方向に偏向され、さらに、第2の主マグネット52からの磁力線は、第2の補助マグネット54によってコイル41に向かう推力方向と直交する方向に偏向される。その結果、マグネットヨークをまったく用いなくても、磁束の漏洩を少なくできる効率のよい磁気回路を構成することができ、可動マグネット型リニアモータ24の小型、軽量化を達成できるとともに、バイト15の高速送りを可能にすることができる。また、ヨークを用いていないため、仮に先端側静圧軸受29および後端側静圧軸受30の中心とマグネット構成体42およびコイル41の取付け中心とが一致していなくても、可動体22に吸引力が発生せず、工具送り装置10の製作を容易にすることができる。
【0035】
しかも、上記した実施の形態によれば、可動体22の先端側には、矩形状摺動軸部27が形成されるとともに、可動体22の後端側には、円形状摺動軸部28が形成され、先端側静圧軸受29は、矩形状摺動軸部27を摺動可能に支持する断面矩形状に形成されているとともに、後端静圧軸受30は、円形状摺動軸部28を摺動可能に支持する断面円形状に形成されているので、可動体22を先端側静圧軸受29と後端側静圧軸受30とによって両持ちで摺動のみ可能に高剛性で支持できるとともに、加工の際にバイト15に生じる曲げモーメントを、加工位置に近い矩形状に形成された先端側静圧軸受29によって効率よく受けることができる。
【0036】
さらに、上記した実施の形態によれば、工具ホルダ36は、可動体22の移動方向の中心軸線上にバイト15の刃先が位置するように配設されているので、バイト15に作用する切削負荷を高剛性に支持でき、バイト15によって工作物20を高精度に切削加工することができる。
【0037】
上記した実施の形態においては、可動体22に断面矩形状のマグネット取付部43を取付けて、円周上4面にマグネット構成体42およびコイル41を配設した例について述べたが、マグネット構成体42およびコイル41を上下あるいは左右2面に配設することもでき、あるいはまた、マグネット取付部43を断面三角形状にして、円周上3面にマグネット構成体42およびコイル41を配設することもできる。
【0038】
上記した実施の形態においては、可動体22の先端部に設けた矩形状摺動軸部27を、断面矩形状の先端側静圧軸受29によって静圧支持するとともに、可動体22の後端側に設けた円形状摺動軸部28を、断面円形状の後端側静圧軸受30によって静圧支持することにより、可動体22を支持ベース体21に対し摺動のみ可能に支持するようにしたが、可動体22の先端部および後端部ともに円形状摺動軸部とし、別途回り止め手段によって可動体22を回り止めするようにしてもよい。
【0039】
また、上記した実施の形態においては、可動体22の先端側および後端側を静圧軸受29、30によって静圧支持するようにしたが、可動体22を摺動可能に支持する構成は、必ずしも静圧軸受に限定されるものではなく、他の軸受手段によって支持するようにしてもよい。
【0040】
さらに、上記した実施の形態においては、コイル41をロングコイルで構成した例について述べたが、コイル41の束の幅が主マグネット51、52の幅よりも小さな、いわゆるショートコイルを用いることもできる。
【0041】
斯様に、本発明は、実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態を示す工具送り装置を備えた超精密加工機の概略図である。
【図2】可動マグネット型リニアモータを備えた工具送り装置の断面図である。
【図3】図2の3−3線に沿って矢視した断面図である。
【図4】可動マグネット型リニアモータの詳細を示す図である。
【図5】図4の5−5線に沿って矢視した断面図である。
【図6】コイルの束の幅を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る磁気回路を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
10…工具送り装置、15…工具(バイト)、21…支持ベース体、22…可動体、24…リニアモータ、25…位置検出手段、27…矩形状摺動軸部、28…円形状摺動軸部、29…先端側軸受、30…後端側軸受、36…工具ホルダ、41(41a〜41d)…コイル、42(42a〜42d)…マグネット構成体、43…マグネット取付部、51、52…主マグネット、53、54、55…補助マグネット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性材料からなる支持ベース体と、該支持ベース体の先端側に設けられた先端側軸受および前記支持ベース体の後端側に設けられた後端側軸受と、前記先端側軸受により支持される先端側摺動軸部および前記後端側軸受により支持される後端側摺動軸部とを有し、前記支持ベース体に対して相対移動可能に配設された可動体と、該可動体の先端部に取付けられた工具と、前記可動体を前記支持ベース体に対して高速で相対移動させる可動マグネット型リニアモータと、前記可動体の位置を検出する位置検出手段とを備え、
前記可動マグネット型リニアモータは、
前記可動体に設けられた非磁性材料からなるマグネット取付部に配設されたマグネット構成体と、該マグネット構成体に前記可動体の移動方向と直交する方向に対向するように前記支持ベース体に配設されたコイルとを備え、
前記マグネット構成体は、前記可動体の移動方向に間隔を有して配設された第1および第2の主マグネットと、これら第1および第2の主マグネットの前記可動体の移動方向の両側に配設された第1および第2の補助マグネットと、前記第1および第2の主マグネットの間に配設された第3の補助マグネットとからなり、
前記第1の主マグネットは、前記可動体の移動方向と直角な方向に着磁されて前記コイルに対向され、前記第2の主マグネットは、前記第1の主マグネットの着磁方向と平行な方向に着磁されかつ前記コイルに前記第1の主マグネットとは反対の磁極で対向され、
前記第1および第2の補助マグネットは、磁力線の方向を偏向させるために、前記第1および第2の主マグネットとそれぞれ対向する側の磁極が、前記第1および第2の主マグネットの前記コイルに対向する側の磁極と同じになるよう配置されている
ことを特徴とする可動マグネット型リニアモータを備えた工具送り装置。
【請求項2】
請求項1において、前記可動体の先端側には、矩形状摺動軸部が形成されるとともに、前記可動体の後端側には、円形状摺動軸部が形成され、前記先端側軸受は、前記矩形状摺動軸部を摺動可能に支持する断面矩形状に形成されているとともに、前記後端側軸受は、前記円形状摺動軸部を摺動可能に支持する断面円形状に形成されていることを特徴とする工具送り装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記工具は、前記可動体の移動方向の中心軸線上に工具の先端が位置するように配設されていることを特徴とする工具送り装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−76031(P2010−76031A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246185(P2008−246185)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】