説明

含フッ素高分子化合物とそれを用いたコーティング用組成物

【課題】高いフッ素含有量と、高度な溶剤溶解性、アルカリ現像液溶解性、密着性、高硬度、高極性(相溶性)の各性能をバランスよく満たす新規の高分子化合物を提供する。
【解決手段】含フッ素ビニル系単量体および含フッ素アクリレート単量体から成る含有する含フッ素高分子化合物によって課題が解決する。該高分子は溶媒に溶かしてコーティング組成物とした上で、薄膜として用いたときに、特に優れた性能を発揮する。また、上記高分子化合物がOH基を含有しているとき、該OH基をアクリロイル化することができ、それによって、より硬度の大きい薄膜を得ることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含有し、優れた溶剤溶解性、アルカリ溶解性、塗布性、密着性、透明性、低屈折率性、平滑性、硬度、撥水性、耐候性等の性能を有する、新規の高分子化合物およびそれを用いたコーティング用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系の高分子材料は、従来よりポリテトラフルオロエチレンを代表として、安定な耐熱性樹脂としてエンジニアリングプラスチックや焼付け塗料用途に使われてきた。しかしながらこれらのフルオロオレフィン高分子はフッ素含有量は高いものの汎用の有機溶媒に不溶なものが多く機能性コーティング用途には不向きであった。特に、フッ素含有量が高く、かつ側鎖に反応性や密着性を有する置換基を持った機能性コーティング材料は困難であった。
【0003】
そのような背景の中、フルオロオレフィンを共重合成分として用い、非フッ素系単量体を共重合することで、汎用の有機溶剤に対する可溶性を持たせたコーティング組成物が開発され、塗布型のフッ素塗料として応用されている。しかしながら、溶解性を増大させるためにフッ素含有量を犠牲にした分子設計となっているのが一般的である。
【0004】
一方、含フッ素高分子コーティング材料の半導体リソグラフィーへの応用は、157nmのレーザーを用いたF2レジスト材料としてフルオロアルコール基によるアルカリ現像液可溶性能が見出されたことから、各方面で開発が促進されてきた。この場合、157nmへの透明性を高める目的でフッ素含有量を高める開発が盛んに進められたが、主鎖にフッ素を含有したテトラフルオロエチレンとノルボルネン系単量体の共重合体に代表される、「主鎖フッ素型高分子」において比較的高いフッ素含有量のコーティング用高分子が開発されている。しかし高いアルカリ可溶性を持った材料設計には限界があり密着性やエッチング耐性も低下し、また同時に産業界としての157nmリソグラフィーの開発断念と193nmリソグラフィーの延命が決定したこともあって、157nm用レジスト材料の実用化には至っていない。
【0005】
当該主鎖フッ素型に対し、工業的にも使いやすいアクリル樹脂系の側鎖フッ素型高分子も157nm用途で開発されてきたが、この場合にはフッ素含有量に限界があり、157nmにおける透明性を十分なレベルに高めることが困難とされていた。
【0006】
以上のようなフッ素系リソグラフィー材料は193nmの延命と液浸リソグラフィーの台頭という産業界の動向に呼応する形で、レジスト用高分子組成物や液浸用のレジスト保護膜(トップコートと呼ぶ)への開発が行われ、最近になって実用化に至りつつある。193nmに利用する場合には、高いフッ素含有量は必要ないことも実用化を可能にした要因と考えられる。また保護膜としての応用は、適度なフッ素含有量とアルカリ可溶性を付与させることで、液浸液に対する保護機能と現像時に一回の現像プロセスで保護膜とレジスト膜の露光部を同時現像する仕組みが見出され、実用化に至りつつある。
【0007】
しかしながら、液浸リソグラフィーを用いたさらなる高性能半導体の開発要求に対応するため、レジスト用保護膜のアルカリ現像液可溶性を維持したまま、フッ素含有量を高め、反射防止機能(低屈折率性)やより高いスキャンスピード(撥水性)を高める樹脂の設計が求められているが、フッ素含有量を高めた自由度の大きい樹脂デザインには限界がある。
【0008】
さらに、プラズマディスプレーや液晶ディスプレーが普及するにつれ、フッ素系材料の特徴を生かした防汚膜や反射防止膜のニーズが高まっており、すでに実用化に至っている。しかしながら、ディスプレー用途に不可欠な高い硬度(耐久性)やより低い反射率性能(低屈折率)を両立させた高分子材料の開発が求められているが、フッ素含有量を高めた低屈折率材料は、硬度が低下したり、密着性が低下したり、溶剤溶解性が低下するなど、トレードオフの関係が顕著であった。
【0009】
例えば、透明な樹脂フィルム上に下層よりも低い屈折率を有する層を設けた反射防止フィルムを作製し、ディスプレーの表示面に貼り付ける方法が用いられている。例えば特許文献1には、特定のフッ素系重合体を塗布して反射防止フィルムを作製する方法が開示されている。しかしながら、この樹脂は汎用溶剤への溶解性が低いことからフッ素系溶剤を使用する必要があり、また基材との密着性が低いことから繰り返し擦過を受けた場合に剥がれる問題があった。
【0010】
また、低屈折率の被膜付基材を得る方法として、低屈折率層に微小空隙を導入して屈折率を低下させる方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法によって形成された被膜は膜強度が弱く、また指紋や油性マジック等の汚れが浸入しやすいという問題があった。反射防止フィルム上の低屈折率層はディスプレーの最表面に位置し、指紋やほこりなどで汚れた場合に繰り返し拭き取ることに対して耐性を求められている。
【0011】
他の低屈折率の被膜付基材を得る方法として、空隙を有するシリカ微粒子を使用する方法が開示されている(特許文献3)。平均粒子径が5nm〜300nmであるシリカ系微粒子であって、細孔を有する外殻の内部に空洞が形成されてなる中空球状体の分散液を調製し、これを基材に塗布し、乾燥し、更に必要に応じて焼成する方法によって低屈折率の被膜を得ている。しかしながら、この場合にもシリカ系微粒子の添加によって膜強度が低下するという問題、及び指紋や油性マジック等の汚れが浸入しやすいといった問題があった。
【特許文献1】特開平6-115023号公報
【特許文献2】特開平9-222502号公報
【特許文献3】特開2001-167637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような技術背景の中、目標(A):高いフッ素含有量、目標(B):高度な溶剤溶解性、アルカリ現像液溶解性、密着性、高硬度、高極性(相溶性)の両方を、より高いレベルに引き上げることが重要とされている。
【0013】
従来の含フッ素高分子では、フルオロオレフィン系に代表される主鎖フッ素型の場合には目標(A)は達成できるものの目標(B)が満足できないことが一般的である。また、アクリル系の含フッ素共重合体に代表される側鎖フッ素型の場合には目標(B)は達成できるものの目標(A)が満足できないことが一般的である。
【0014】
一方、側鎖フッ素型の中でも、一般式(3)に表される含フッ素ビニル化合物(以下、「化合物(3)」と称することもある。)は比較的高いフッ素含量を有し、しかも隣接部位にアルコール又はエーテル、エステル結合を有する高極性の高フッ素含量単量体と位置付けられる。
【0015】
しかしながら、化合物(3)の重合反応性は必ずしも高くはなく、テトラフルオロエチレンとの共重合(主鎖型高分子となってしまう)は知られているものの、設計自由度の大きな他の単量体との共重合反応性は著しく乏しいとされている。したがって、化合物(3)は一般に、別の重合性二重結合部位を持つ形に誘導し、該部位を共重合させる研究が多くなされている[例えば、特開2003-040840号公報(特許文献4)]。このような場合、該重合性二重結合部位が、高分子の性質を決定づける重要な因子となり、化合物(3)の有する特徴(例えば高いフッ素含量など)が、直接、樹脂の性質に反映されにくいという問題がある。
【0016】
一方、特開2005-37777号公報(特許文献5)には、「化合物(3)のビニル部位を共重合させた重合体」について記載がされている。しかし、化合物(3)を用いた重合体についての実験例はなく、具体的にどのようなモノマーとの間で好適に共重合を起こすのかについて開示はなされていない。実際に本発明者らは、化合物(3)を構成モノマーとして、種々の含フッ素モノマーとの間で共重合を試みたが、後述の比較例に示すように、殆んどのケースで、共重合が成功しないか、不十分にしか達成されないことが判明した。
【0017】
そこで本発明では、化合物(3)を共重合の構成モノマーとした、フッ素含有量が十分に高い高分子化合物を得ることを課題とした。本発明では、このような高分子化合物の用途(応用)を見出すことも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような状況に鑑み、本発明者らは、式(3)で表される含フッ素ビニルモノマーを、式(4)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマーと、ラジカル開始剤および、不活性有機溶媒の存在下、共重合させることを試みた。その結果、意外にも、両者は円滑な共重合反応を起こし、目標(A)の高いフッ素含有量、及び目標(B)の高度な溶剤溶解性、アルカリ現像液溶解性、密着性、高硬度、高極性(相溶性)をはじめとして透明性、平滑性、耐久性に優れた、高フッ素含有量の「含フッ素高分子化合物」が得られた。
【0019】
該共重合反応は穏和な条件で起こるため、反応の制御も行いやすく、所望の重量平均分子量の高分子化合物を、容易に合成できることも判った。
【0020】
この式(3)で表される含フッ素ビニルモノマーと、式(4)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマーの共重合は、特異的な現象である。なぜなら、後述の「比較例」に示すように、(3)に属する化合物を、各種含フッ素モノマーと共重合させることを試みても、通常、満足すべき結果を得られないためである。
【0021】
特に、式(3)で表される含フッ素ビニルモノマーを、式(4)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマーのうち、少なくとも一方が、ヒドロキシル(OH)基を有する場合、得られる「含フッ素高分子化合物」もOH基を含有することとなる。この場合、得られる「含フッ素高分子化合物」は、高フッ素含量に由来する特性(高対候性能、低屈折率など)を維持したまま、OH基に由来する溶剤溶解性、アルカリ現像液溶解性、密着性、高極性(相溶性)を併せ持つ。すなわち、この含フッ素高分子化合物を溶媒に溶かしてコーティング組成物とした上で、薄膜として用いたときに、特に優れた性能を発揮することが判った。
【0022】
さらに、本発明者らは、上述の「含フッ素高分子化合物」が、遊離のOH基を有している場合に、該含フッ素高分子化合物を、式(5a)もしくは式(5b)で表されるアクリロイル化剤と反応させることによって、OH基がアクリロイル化され、アクリル側鎖がO原子を介して結合した「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」が得られることを見出した。この「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」を薄膜用途に供する場合、側鎖として結合したアクリル部位が、加熱処理もしくは光照射処理の過程で、他のアクリル(メタクリル)側鎖との間で、重合(架橋)を起こし、より硬度の大きい薄膜を形成することも見出された。
【0023】
また、「含フッ素高分子化合物」と「アクリル架橋部位」との相溶性は良好であり、透明な薄膜を得ることができることが判った。
【0024】
このように本発明者らは、式(3)で表される含フッ素ビニルモノマーと、式(4)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマーの共重合を行うことによって、フッ素含量の高い、物性の優れた「含フッ素高分子化合物」を得た。さらに、該「含フッ素高分子化合物」のうち、遊離のOH基を有しているものをアクリロイル化することで、硬度のさらに増した「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」を得た。
【0025】
本発明者は、このようにして得られた「含フッ素高分子化合物」、「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」を有機溶媒に溶解することによって、各種薄膜を生産するのに適した「コーティング組成物」を提供できることを見出した。さらに該「コーティング組成物」を用いて、フォトレジスト組成物、フォトレジスト用保護膜、さらには光反射防止膜が作製できることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明は、次の[発明1]〜[発明18]を含む。
[発明1]
式(1)で表される繰り返し単位
【0027】
【化25】

【0028】
および、式(2)で表される繰り返し単位
【0029】
【化26】

【0030】
を、少なくとも含有する含フッ素高分子化合物。
[式(1)および(2)において、nは0又は1を表す。R1、R3はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。R2はメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。]
[発明2]
発明1において、該含フッ素高分子化合物中に現れる式(1)で表される繰り返し単位の数をα、式(2)で表される繰り返し単位の数をβとするとき、(α/β)が、0.8〜1.2の範囲にある、発明1に記載の含フッ素高分子化合物。
【0031】
[発明3]
重量平均分子量が2000〜50000の範囲にある、発明1又は発明2に記載の含フッ素高分子化合物。
【0032】
[発明4]
式(1)で表される繰り返し単位が、次の式(A)で表される繰り返し単位
【0033】
【化27】

【0034】
である、発明1乃至発明3の何れかに記載の含フッ素高分子化合物。
【0035】
[発明5]
発明1乃至発明3の何れかにおいて、式(1)で表される繰り返し単位が、次の式(A)で表される繰り返し単位
【0036】
【化28】

【0037】
であり、
式(2)で表される繰り返し単位が、次の式(B1)〜(B6)で表される繰り返し単位
【0038】
【化29】

【0039】
【化30】

【0040】
【化31】

【0041】
【化32】

【0042】
【化33】

【0043】
【化34】

【0044】
から選ばれる少なくとも1種類のものである、発明1乃至発明3の何れかに記載の含フッ素高分子化合物。
[式(B5)において、Rの意味は式(1)と同じ。式(B6)において、Rfは、炭素数1〜5のアルキレン基を介して炭素数1〜10のフルオロアルキル基が結合した基を表す。]
[発明6]
又はRの一部に、光酸発生剤から発生した酸の効果で分解する酸不安定基を含有した、発明1乃至発明3の何れかに記載の含フッ素高分子化合物。
【0045】
[発明7]
酸不安定基が次の基(ALG1〜ALG5)からなる群より選ばれるものである、発明6に記載の含フッ素高分子化合物。
【0046】
【化35】

【0047】
[ALG1〜ALG5において、Ra1、Ra4はそれぞれ独立に、炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。Ra2とRa3、Ra2とRa4、Ra3とRa4はそれぞれ結合して環を形成することもできる。]
[発明8]
式(3)で表される含フッ素ビニルモノマー
【0048】
【化36】

【0049】
および、式(4)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマー
【0050】
【化37】

【0051】
を、ラジカル開始剤および、不活性有機溶媒の存在下、共重合させることによりなる、発明1乃至発明7の何れかに記載の、含フッ素高分子化合物の製造方法。
[式(3)および式(4)において、n、R1〜R3の意味は、式(1)および式(2)と同じ。]
[発明9]
式(1)で表される繰り返し単位、
【0052】
【化38】

【0053】
式(1a)で表される繰り返し単位、
【0054】
【化39】

【0055】
及び、式(1b)で表される繰り返し単位
【0056】
【化40】

【0057】
からなる群[これをA群と呼ぶ]より選ばれる、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有し、かつ、
式(2)で表される繰り返し単位
【0058】
【化41】

【0059】
及び、式(2a)で表される繰り返し単位
【0060】
【化42】

【0061】
からなる群[これをB群と呼ぶ。]から選ばれる、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有し、
なおかつ、式(1a)、式(1b)、及び式(2a)で表される繰り返し単位のうち、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有することを特徴とする、含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
[式(1)および(2)において、nは0又は1を表す。R1、R3はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。R2はメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。式(1a)、(1b)および(2a)において、Rは、水素原子またはメチル基を表す。R1a、R3aは、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を置換基として有することもできる。式(1a)、(1b)において、n、Rの意味は、式(1)と同じ。ここで、nとRは式(1)とは独立に変化することができる。]
[発明10]
含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物中に現れる、式(1)で表される繰り返し単位の数、式(1a)で表される繰り返し単位の数、式(1b)で表される繰り返し単位の数の合計値をγ、式(2)で表される繰り返し単位の数と、式(2a)で表される繰り返し単位の数の合計値をδとするとき、(γ/δ)が、0.8〜1.2の範囲にある、発明9に記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
【0062】
[発明11]
重量平均分子量が2500〜60000の範囲である、請求項9又は請求項10に記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
【0063】
[発明12]
発明9乃至発明11の何れかおいて、A群の繰り返し単位が、次の式(A)で表される繰り返し単位
【0064】
【化43】

【0065】
であり、
かつ、B群の繰り返し単位が、次の式(C2)または(C3)で表される繰り返し単位
【0066】
【化44】

【0067】
【化45】

【0068】
のうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする、発明9乃至発明11の何れかに記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
【0069】
[発明13]
次の2つの工程を含む、発明9乃至発明12の何れかに記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物の製造方法。
(第1工程)
式(3)、式(3a)及び式(3b)で表される含フッ素ビニルモノマー
【0070】
【化46】

【0071】
のうち、少なくとも1種類と、式(4)及び式(4a)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマー
【0072】
【化47】

【0073】
のうち、少なくとも1種類とを、上記(3a)、(3b)、(4a)で表されるモノマーのうち、少なくとも1種類を必ず使用するという条件のもと、ラジカル開始剤および、不活性有機溶媒の存在下、共重合させ、「遊離のヒドロキシル基を有する含フッ素高分子化合物」を得る工程。
(第2工程)
第1工程で得られた、「遊離のヒドロキシル基を有する含フッ素高分子化合物」に対して、式(5a)又は式(5b)で表されるアクリロイル化剤
【0074】
【化48】

【0075】
を反応させ、上記含フッ素高分子化合物中の遊離の、ヒドロキシル基の一部または全部をアクリロイル化し、発明9乃至発明12の何れかに記載の、含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物を得る工程。
[式(3)、(3a)、(3b)、(4)、(4a)、において、n、R1、R3〜R、R1a、R3aは、それぞれ独立に、式(1)、(1a)、(1b)、(2)、(2a)で示された意味と同じ。式(5b)において、XはFまたはCl原子を表す。]
[発明14]
発明1乃至発明7の何れかに記載の含フッ素高分子化合物、又は発明9乃至発明12の何れかに記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物と、有機溶媒を含有することによりなる、コーティング用組成物。
【0076】
[発明15]
発明6又は発明7に記載の含フッ素高分子化合物と、有機溶媒を含有することによりなる、コーティング用組成物と、少なくとも光酸発生剤を含有する、フォトレジスト組成物。
【0077】
[発明16]
発明14に記載のコーティング用組成物を、フォトレジスト膜上に塗布乾燥せしめてなるフォトレジスト用保護膜。
【0078】
[発明17]
水又は有機溶剤を使用する液浸リソグラフィーに適用する、発明16に記載のフォトレジスト用保護膜。
【0079】
[発明18]
発明14に記載のコーティング用組成物を、支持体上に形成させた後、加熱または光照射せしめてなる、光反射防止膜。
【発明の効果】
【0080】
本発明によれば、目標(A):高いフッ素含有量、目標(B):高度な溶剤溶解性、アルカリ現像液溶解性、密着性、高硬度、高極性(相溶性)の両方を、ともに満たす新規の高分子化合物が提供される。また、それらの高分子化合物の製造方法が提供される。該高分子化合物は、フォトレジスト用途、光反射防止膜用途など、光学用途に好適に採用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0081】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0082】
[1]含フッ素高分子化合物について
まず、本発明の[発明1]〜[発明7]に係る含フッ素高分子化合物は、トリフルオロメチル基を有する新規な含フッ素高分子化合物である。
【0083】
一般に、含フッ素高分子化合物は、フッ素含有量の増加と共に、紫外線領域から赤外線領域に至るまでの幅広い波長領域での透明性の向上や、屈折率の低下が誘起されることが知られている。一方フッ素の含有量の増加に伴って、その樹脂溶液の基板への塗布性や成膜性、形成した膜の基板との密着性の低下などが誘起され、透明性の高さや屈折率の低さとの両立を図ることは難しかった。
【0084】
しかしながら、本発明の[発明1]〜[発明7]に係る含フッ素高分子化合物は、ケトン系溶剤やエステル系溶剤など一般の有機溶媒への溶解性が良好であり、その樹脂溶液は基板への塗布性に非常に優れている。また、得られた被膜は均一で基板への密着性にも優れ、光学材料としての透明性や屈折率の低さを生かし得る材料であることを見出した。
【0085】
該含フッ素高分子化合物を構成する、式(1)および(2)で表される繰り返し単位において、nは0又は1を表す。R、Rはそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。Rはメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。
【0086】
該含フッ素高分子化合物中に現れる式(1)で表される繰り返し単位の数をα、式(2)で表される繰り返し単位の数をβとするとき、(α/β)が、0.8〜1.2の範囲にある含フッ素高分子化合物は、重合反応の連鎖の規則性によって良好な収率で得ることができるため、特に好ましい。また、この範囲の組成にある含フッ素高分子化合物は、性能面においても、適度な溶解性やガラス転移点を有することから、好ましく採用される。共重合組成の分析は、1H-NMR、19F-NMR、13C-NMR等の測定によって行うことができる。
【0087】
なお、本発明に係る含フッ素高分子化合物における、「式(1)で表される繰り返し単位」と、「式(2)で表される繰り返し単位」の合計が、「含フッ素高分子化合物の繰り返し単位合計」占める割合としては特に制限はない。しかし、これらの繰り返し単位の相対的な割合が大きい方が、これらの繰り返し単位の有する特徴(例えばフッ素含量)が含フッ素高分子化合物の性能に反映しやすいため、これらの繰り返し単位の合計数が「含フッ素高分子化合物全体の繰り返し単位数」に占める割合は80%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましい。後述の実施例に示すように、これらの繰り返し単位のみで構成される含フッ素高分子化合物は特に好ましい態様の1つである。但し、要求される物性に合わせて、適宜、第三の繰り返し単位を構成成分として含有することを妨げるものではない。
【0088】
該第三の繰り返し成分に供するために使用可能な単量体を具体的に例示するならば、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、含フッ素スチレン系化合物、ビニルエーテル、含フッ素ビニルエーテル、アリルエーテル、含フッ素アリルエーテル、オレフィン、含フッ素オレフィン、ノルボルネン化合物、含フッ素ノルボルネン化合物、二酸化硫黄、ビニルシランなどが挙げられる。
【0089】
本発明の含フッ素高分子化合物の分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の値で知ることができる。好ましくは、重量平均分子量が2,000〜50,000の範囲にある含フッ素高分子化合物が採用される。重量平均分子量が小さすぎる場合には耐熱性が低下し、大きすぎると溶剤やアルカリ現像液に対する溶解性が低下して、例えばレジストとした場合に解像性が低下する傾向にある。
【0090】
なお、含フッ素高分子化合物をレジスト材料に適用する場合、その分子量分布があまりにも広い場合には、溶解性が不均一となって微細なパターンを形成することが困難なことがある。しかしながら、本発明の含フッ素高分子化合物は、通常、その溶解性に不均一を生じるほどに広い分子量分布を示さないことが判明した。
【0091】
本発明の含フッ素高分子化合物の官能基として、Rが水素原子の場合には、側鎖にはヘキサフルオロイソプロピルアルコール基又はトリフルオロイソプロピルアルコール基が存在することとなるが、このヘキサフルオロイソプロピルアルコール基又はトリフルオロイソプロピルアルコール基が弱酸性のアルコールとして溶媒への溶解性や基板への密着性に寄与するため、好ましい態様の1つである。また、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール基又はトリフルオロイソプロピルアルコール基は酸性の水酸基であって、アルカリ性の現像液に対して溶解性基として働く。すなわち、分子内のヘキサフルオロイソプロピルアルコール基又はトリフルオロイソプロピルアルコール基を酸不安定性の保護基で保護した後に光酸発生剤と混合してレジスト化し、これを露光することによってアルカリ現像可能なポジ型レジストとして機能させることも可能である。
【0092】
特に、式(1)で表される繰り返し単位が、式(A)で表される繰り返し単位であることは、原料単量体の入手容易性、該含フッ素高分子の性能の高さなどから、好ましい形態の例である。式(A)で表される繰り返し単位は、比較的フッ素含有量が高い上に、OH基を含有するので、優れた性能の高分子を合成する上でふさわしいものの1つである。
【0093】
また、式(1)で表される繰り返し単位が、式(A)で表される繰り返し単位であり、なおかつ、式(2)で表される繰り返し単位が、式(B1)〜(B6)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1種類のものであることは、原料単量体の入手容易性、該含フッ素高分子の性能の高さなどから、特に好ましい形態の例である。
【0094】
本発明の含フッ素高分子化合物のOH基の含有量には特に制限はない。「OH基を含有する繰り返し単位数」の「高分子化合物全体の繰り返し単位数」に占める割合は通常1〜99%であり、5〜95%が好ましく、10〜90%がより好ましい。OH基を含有する繰り返し単位数が増えると、溶剤溶解性、アルカリ現像液溶解性、密着性、高極性(相溶性)は向上する一方、フッ素含有量は低下する傾向がある。このため、要求されるポリマーの物性に合わせて、OH基の含有量を当業者によって適宜調節することが望ましい。「OH基を含有する繰り返し単位数」の「高分子化合物全体の繰り返し単位数」に占める割合が40〜60%である含フッ素高分子化合物は、特に好ましい例の1つである。
【0095】
また、該「含フッ素高分子化合物」を、後述の「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」の合成原料に用いる場合においては、後者のアクリル側鎖の形成に用いるOH基が、前者中に存在していることが求められることは言うまでもない。
【0096】
本発明の含フッ素高分子化合物の官能基の一部には、光酸発生剤から発生した酸の効果で分解する酸不安定基を含有することもできる。
【0097】
酸不安定基の例としては、光酸発生剤や加水分解などの効果で脱離が起きる基であれば特に制限なく使用できるが、ALG1〜ALG5からなる群より選ばれたものが好ましい。具体的な例をあげるとするならば、三級アルキル基、アルキコキシカルボニル基、アセタール基、シリル基、アシル基等を挙げることができる。三級アルキル基の例としては、tert−ブチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロヘキシル基、1−メチルシクロペンチル基、1−エチルシクロペンチル基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基、tert−アミル基、2−(アダマンタン−1−イル)プロパン−2−イル基、2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−イル)プロパン−2−イル基等が例示でき、アルコキシカルボニル基としてはtert−ブトキシカルボニル基、tert−アミルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基等を例示できる。アセタール基としては、メトキシメチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、ベンジルオキシエチル基、フェネチルオキシエチル基、エトキシプロピル基、ベンジルオキシプロピル基、フェネチルオキシプロピル基、エトキシブチル基、エトキシイソブチル基などが挙げられる。また水酸基に対してビニルエーテルを付加させたアセタール基を使用することもできる。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、メチルジエチルシリル基、トリエチルシリル基、i−プロピルジメチルシリル基、メチルジ−i−プロピルシリル基、トリ−i−プロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、メチルジ−t−ブチルシリル基、トリ−t−ブチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、バレリル基、ピバロイル基、イソバレリル基、ラウリロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピペロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、オレオイル基、マレオイル基、フマロイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基等を挙げることができる。さらに、これらの酸不安定基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものを使用することもできる。
【0098】
酸不安定性基を使用する目的は、その酸不安性基によるポジ型感光性及び波長300nm以下の遠紫外線、エキシマレーザー、X線等の高エネルギー線もしくは電子線の露光後のアルカリ水溶液への溶解性を発現させることであり、その官能基にフッ素原子を持つものは透明性を、環状構造を含むものはエッチング耐性や高ガラス転移点などの特徴をさらに付与させるためで、本発明の応用分野ごとに使い分けることが可能である。
【0099】
本発明の含フッ素高分子化合物において、分子内に含まれる水酸基の一部又は全部を保護基によって保護することができる。保護基の種類や保護化率を変えることによって分子の極性を変化、調整することが可能であり、これによって溶剤への溶解性、基板への塗布性、表面張力、光酸発生剤の分散性、酸拡散速度などを適性にすることができる。保護基としては炭素数1〜25の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、sec−ペンチル基,ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロへキシル基、エチルヘキシル基、ノルボルネル基、アダマンチル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、エチニル基、フェニル基、ベンジル基、4−メトキシベンジル基などが例示でき、上記官能基の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものでもよい。また、酸素原子を含むものとしてアルコキシカルボニル基、アセタール基、アシル基等を挙げることができ、アルコキシカルボニル基としてはtert−ブトキシカルボニル基、tert−アミルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基等を例示できる。アセタール基としては、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、ベンジルオキシエチル基、フェネチルオキシエチル基、エトキシプロピル基、ベンジルオキシプロピル基、フェネチルオキシプロピル基、エトキシブチル基、エトキシイソブチル基の鎖状のエーテルやテトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基等の環状エーテルが挙げられる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、バレリル基、ピバロイル基、イソバレリル基、ラウリロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピペロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、オレオイル基、マレオイル基、フマロイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基等を挙げることができる。さらに、上記置換基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものを使用することもできる。
【0100】
本発明の含フッ素高分子化合物は、ポジ型、ネガ型、化学増幅型などいずれのタイプのレジスト材料においても好ましく使用することができ、用途ごとにその配合量、配合方法を変えて用いることが可能である。
【0101】
[2]含フッ素高分子化合物の合成方法(発明8)
本発明にかかる含フッ素高分子化合物の合成方法としては、一般的に重合に使用される方法であれば特に制限されないが、ラジカル重合、イオン重合などが好ましく、場合により、配位アニオン重合、リビングアニオン重合、カチオン重合、開環メタセシス重合、ビニレン重合などを使用することも可能である。これらの中ではラジカル重合は、穏和な条件で安定した収率で含フッ素高分子化合物を製造できる点から、特に好ましい。
【0102】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤あるいはラジカル開始源、および不活性溶媒の存在下、塊状重合、溶液重合、懸濁重合又は乳化重合などの公知の重合方法により、回分式、半連続式又は連続式のいずれかの操作で行えばよい。
【0103】
ラジカル重合開始剤としては特に限定されるものではないが、例としてアゾ系化合物、過酸化物系化合物、レドックス系化合物が挙げられ、とくにアゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルパーオキシド、i−ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、過硫酸アンモニウム等が好ましい。
【0104】
重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。
【0105】
また、重合反応においては、重合溶媒を用いてもよい。重合溶媒としては、ラジカル重合を阻害しないものが好ましく、代表的なものとしては、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤などがある。また水、エーテル系、環状エーテル系、フロン系、芳香族系などの溶媒を使用することも可能である。これらの溶剤は単独でもあるいは2種類以上を混合しても使用できる。また、メルカプタンのような分子量調整剤を併用してもよい。共重反応の反応温度はラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源により適宜変更され、通常は20〜200℃が好ましく、特に30〜140℃が好ましい。
【0106】
一方、開環メタセシス重合は共触媒存在下で遷移金属触媒を用い、公知の方法で行なうことが可能である。
【0107】
重合触媒としては特に限定されるものではないが、例としてTi系、V系、Mo系、W系触媒が挙げられ、特に、塩化チタン、塩化バナジウム、バナジウムトリスアセチルアセトナート、バナジウムビスアセチルアセトナートジクロリド、塩化モリブデン、塩化タングステンなどが好ましい。触媒量としては、使用モノマーに対して10mol%から0.001mol%、好ましくは、1mol%から0.01mol%である。
【0108】
共触媒としては、アルキルアルミニウム、アルキルすずなどが挙げられ、特に、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−2−メチルブチルアルミニウム、トリ−3−メチルブチルアルミニウム、トリ−2−メチルペンチルアルミニウム、トリ−3−メチルペンチルアルミニウム、トリ−4−メチルペンチルアルミニウム、トリ−2−メチルヘキシルアルミニウム、トリ−3−メチルヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルアルミニウム類、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのジアルキルアルミニウムハライド類、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジアイオダイド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソプロピルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジクロライド、イソブチルアルミニウムジクロライドなどのモノアルキルアルミニウムハライド類、メチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、プロピルアルミニウムセスキクロライド、イソブチルアルミニウムセスキクロライドなどのアルキルアルミニウムセスキクロライド類などのアルミニウム系や、テトラ−n−ブチルすず、テトラフェニルすず、トリフェニルクロロすずなどが例示できる。共触媒量は、遷移金属触媒に対して当量比で、100当量以下、好ましくは30当量以下の範囲である。
【0109】
また、重合溶媒としては重合反応を阻害ない不活性溶媒であればよく、代表的なものとして、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素系、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素などが例示できる。また、これらの溶剤は単独でもあるいは2種類以上を混合しても使用できる。反応温度は、通常は−70〜200℃が好ましく、特に−30〜60℃が好ましい。
【0110】
ビニレン重合は、共触媒存在下、鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウム、白金などの遷移金属触媒や、ジルコニウム、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステンなどの金属触媒を用いて公知の方法で行なうことが可能である。
【0111】
重合触媒としては特に限定されるものではないが、例として特に、鉄(II)クロライド、鉄(III)クロライド、鉄(II)ブロマイド、鉄(III)ブロマイド、鉄(II)アセテート、鉄(III)アセチルアセトナート、フェロセン、ニッケロセン、ニッケル(II)アセテート、ニッケルブロマイド、ニッケルクロライド、ジクロロヘキシルニッケルアセテート、ニッケルラクテート、ニッケルオキサイド、ニッケルテトラフルオロボレート、ビス(アリル)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ニッケル(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナートテトラハイドレート、ニッケル(II)トリフルオロアセチルアセトナートジハイドレート、ニッケル(II)アセチルアセトナートテトラハイドレート、塩化ロジウム(III)、ロジウムトリス(トリフェニルホスフィン)トリクロライド、パラジウム(II)ビス(トリフルオロアセテート)、パラジウム(II)ビス(アセチルアセトナート)、パラジウム(II)2−エチルヘキサノエート、パラジウム(II)ブロマイド、パラジウム(II)クロライド、パラジウム(II)アイオダイド、パラジウム(II)オキサイド、モノアセトニトリルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)テトラフルオロボレート、テトラキス(アセトニトリル)パラジウム(II)テトラフルオロボレート、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムビス(アセトニトリル)ジクロライド、パラジウムビス(ジメチルスルホキサイド)ジクロライド、プラチニウムビス(トリエチルホスフィン)ハイドロブロマイドなどの遷移金属や、塩化バナジウム(IV)、バナジウムトリスアセチルアセトナート、バナジウムビスアセチルアセトナートジクロリド、トリメトキシ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)チタニウム(IV)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどの遷移金属が好ましい。触媒量としては、使用モノマーに対して10mol%から0.001mol%、好ましくは、1mol%から0.01mol%である。
【0112】
共触媒としては、アルキルアルミノキサン、アルキルアルミニウムなどが挙げられ、特に、メチルアルミノキサン(MAO)や、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−2−メチルブチルアルミニウム、トリ−3−メチルブチルアルミニウム、トリ−2−メチルペンチルアルミニウム、トリ−3−メチルペンチルアルミニウム、トリ−4−メチルペンチルアルミニウム、トリ−2−メチルヘキシルアルミニウム、トリ−3−メチルヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルアルミニウム類、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソプロピルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのジアルキルアルミニウムハライド類、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジアイオダイド、プロピルアルミニウムジクロライド、イソプロピルアルミニウムジクロライド、ブチルアルミニウムジクロライド、イソブチルアルミニウムジクロライドなどのモノアルキルアルミニウムハライド類、メチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、プロピルアルミニウムセスキクロライド、イソブチルアルミニウムセスキクロライドなどのアルキルアルミニウムセスキクロライド類などが例示できる。共触媒量は、メチルアルミノキサンの場合、Al換算で50から500当量、その他アルキルアルミニウムの場合、遷移金属触媒に対して当量比で、100当量以下、好ましくは30当量以下の範囲である。
【0113】
得られる高分子化合物の溶液又は分散液から有機溶媒又は水を除去する方法として、再沈殿、ろ過、減圧下での加熱留出などの方法が可能である。
【0114】
本発明による含フッ素高分子化合物を薄膜に成膜する方法としては、例えば有機溶媒に溶解させて塗布、乾燥によって成膜する方法を用いることが可能である。使用する有機溶媒としては、高分子化合物が可溶であれば特に制限されないが、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2‐ヘプタノンなどのケトン類やエチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール、又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類及びその誘導体や、ジオキサンのような環式エーテル類や乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類、キシレン、トルエンなどの芳香族系溶媒、フロン、代替フロン、パーフルオロ化合物、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのフッ素系溶剤、塗布性を高める目的で高沸点弱溶剤であるターペン系の石油ナフサ溶媒やパラフィン系溶媒などが使用可能である。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0115】
[3]含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物とその合成(発明9〜13)
本発明の[発明9]〜[発明12]で示される高分子化合物は、少なくとも一種類のアクリル側鎖を有する「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」である。この化合物は、溶剤溶解性に優れることから基板上に均一な薄膜を形成することが可能であり、紫外線を照射されることによって、アクリル部位どうしが重合し、架橋構造を形成して耐溶剤性や耐擦傷性のある被膜を形成することが可能である。この被膜は透明性が高く屈折率が低いことから、ディスプレー表面に用いる反射防止膜に好適に採用される。
【0116】
本発明の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物の中でも、式(1)で表される繰り返し単位、式(1a)で表される繰り返し単位、及び、式(1b)で表される繰り返し単位からなる群[これをA群と呼ぶ]より選ばれる、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有し、かつ、式(2)で表される繰り返し単位、及び、式(2a)で表される繰り返し単位からなる群[これをB群と呼ぶ。]から選ばれる、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有し、なおかつ、式(1a)、式(1b)、及び式(2a)で表される繰り返し単位のうち、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有することを特徴とする、含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物は好ましい。
【0117】
含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物中に現れる、式(1)で表される繰り返し単位の数、式(1a)で表される繰り返し単位の数、式(1b)で表される繰り返し単位の数の合計値をγ、式(2)で表される繰り返し単位の数と、式(2a)で表される繰り返し単位の数の合計値をδとするとき、(γ/δ)の値として0.8〜1.2の範囲が好ましく、重合反応の連鎖の規則性によって良好な収率で得ることができる。また、性能面においても適度な溶解性やガラス転移点を有することから好ましく採用される。共重合組成の分析は、1H-NMR、19F-NMR、13C-NMR等の測定によって行うことができる。
【0118】
本発明の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物において、アクリル側鎖の含有量(アクリル側鎖の単位数/高分子全体の繰り返し単位数。以下同じ)に特別な制限はないが、5〜60%が好ましく、10〜40%がより好ましく採用される。アクリル成分の含有量が多すぎると、フッ素含有量が低下することによって透明性の低下や屈折率の上昇が見られ、逆に少なすぎると、架橋密度が十分とならず、用途によっては被膜の強度が不足する場合があり、敢えてアクリル成分を側鎖に導入する効果が得られないことがある。
【0119】
この含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物中にも、遊離のOH基が存在していることが、好ましい。OH基の含量に特別な制限はないが、含フッ素含アクリル側鎖高分子を合成する過程で、OH基がアクリロイル化されて減少することを考慮すると、「OH基を含有する繰り返し単位数」の「高分子化合物全体の繰り返し単位数(側鎖を除く)」に占める割合は通常20〜70%が好ましく、30〜50%がより好ましく採用される。水酸基の含有ユニットが少ないと、基板への密着性や塗布性の点で十分でなく、多すぎるとフッ素含有量の低下や被膜強度の点で好ましくない。
【0120】
例えば、30〜50%の「OH基を含有する繰り返し単位」を有し、かつ20〜35%の「アクリル側鎖」が導入された含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物は、フッ素に由来する性能、OH基に由来する性能を満たすと共に、アクリル側鎖に基づく架橋が適度に存在するため、バランスの取れた樹脂を構成する。
【0121】
本発明の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物において、「上記A群の繰り返し単位」が、式(A)で表される繰り返し単位であり、かつ、「上記B群の繰り返し単位」が、式(C2)または(C3)で表される繰り返し単位のうち少なくとも1種類を含むことは、本発明の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物のうちでも、特に好ましい態様の1つである。
【0122】
本発明の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物の合成方法としては、特に限定されないが、一旦、前述の「含フッ素高分子化合物」として遊離の水酸基(OH)を有するものを重合し、かかる後に、該含フッ素高分子化合物をアクリロイル化する方法が好適に採用される。
【0123】
具体的には、次の2工程によって、合成することが好ましい。
(第1工程)
式(3)、式(3a)及び式(3b)で表される含フッ素ビニルモノマーのうち、少なくとも1種類と、式(4)及び式(4a)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマーのうち、少なくとも1種類とを、上記(3a)、(3b)、(4a)で表されるモノマーのうち、少なくとも1種類を必ず使用するという条件のもと、ラジカル開始剤および、不活性有機溶媒の存在下、共重合させ、「遊離のヒドロキシル基を有する含フッ素高分子化合物」を得る工程。
(第2工程)
第1工程で得られた、「遊離のヒドロキシル基を有する含フッ素高分子化合物」に対して、式(5a)又は式(5b)で表されるアクリロイル化剤を反応させ、上記含フッ素高分子化合物中の遊離の、ヒドロキシル基の一部または全部をアクリロイル化し、該「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」を得る工程。
【0124】
ここで、アクリロイル化試薬としては、アクリル酸無水物やアクリル酸クロライドなどを使用することが可能である。例えば、メタンスルホン酸等の酸触媒を触媒として、ポリマー中の水酸基とアクリル酸無水物との反応を行うことによって、水酸基の一部またはほぼ全部をアクリロイル化することが可能である。このときに、遊離の水酸基の残存量は、加えるアクリル酸無水物の量で調整することができる。また、水酸基含有の高分子に対してジメチルアミノピリジン等の塩基性触媒を触媒として、ピリジンなどの溶媒中でアクリル酸無水物を作用させる反応を行うことも可能である。
【0125】
上記、酸触媒を用いる方法に比べ、塩基性触媒を用いる方法は、アクリロイル化の条件が穏和であるが、対象となる水酸基の酸性度がそれほど高くないと、塩基性触媒の方法ではアクリロイル化が進行しにくいことがある。その場合には、酸触媒を用いる方法によれば、ほぼ完全にアクリロイル化することもできる。
【0126】
該アクリロイル化をより穏和な条件で行った方が、最終的に得られるコーティング組成物が耐久性に優れ、好ましいこともある。そのような場合は、塩基性触媒を用いる方法でのアクリロイル化が望ましい。ここで、式(1)で表される、繰り返し単位中の基RがHである含フッ素高分子化合物の場合、この位置はOH基となるが、このOH基は隣接するトリフルオロメチル基の電子求引性に由来して酸性を示すため、穏和な塩基性条件でもアクリロイル化されやすい。つまり、式(1)で表される、繰り返し単位中の基RがHである含フッ素高分子化合物を塩基性触媒を用いてアクリロイル化する方法は、特に好ましい態様の1つである。
【0127】
[4]コーティング組成物の調製とその用途(発明14〜18)
上記の「含フッ素高分子化合物」、「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」は何れも、ケトン系溶剤やエステル系溶剤、エーテル系溶剤など一般の有機溶剤に可溶であり、安定なコーティング組成物を構成する。これらのコーティング組成物は、容易に調整することが可能である。本コーティング組成物は、スピンコートやロールコートなどの方法で基板上に容易に均一な薄膜を形成でき、得られた薄膜は透明性が高く反射率が低いといった光学的な特徴を有している。また、得られた薄膜に紫外線を照射することによって、耐擦傷性の高い薄膜を得ることが可能である。いずれの高分子化合物を用いるかは、最終的な薄膜の用途に応じて適宜選択することができる。
【0128】
本コーティング組成物は、屈折率を調整するために屈折率の異なる成分をブレンドして使用することも可能である。フッ素樹脂や無機フッ化物、あるいは微細な空間を有するシリカ等の無機微粒子を混合分散した組成物は、反射防止材料として好適に採用される。
【0129】
本コーティング組成物は、より架橋密度を高める目的で、多官能アクリレートなど別の架橋剤を混合することも可能である。これによって耐擦傷性の向上や、耐汚染性を向上することが可能である。更に、光重合開始剤を混合することも可能であり、紫外線照射時により効率的に架橋反応を行うことができる。
【0130】
また、本コーティング組成物の、溶液中における濃度は特に限定されないが、1〜50%が好ましく、5〜20%がより好ましく採用される。濃度が低すぎる場合には、所望の膜厚が得られなかったり不均一になったりする場合がある。逆に濃度が高すぎる場合には、膜厚の均一性が低下したり、膜表面が荒れる現象が発生しやすくなる。コーティング組成物に用いる溶剤は特に限定されないが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、シクロヘキサノンなどの溶剤が好ましく用いられる。さらに、レベリング剤や消泡剤、界面活性剤などの添加剤を適量加えて塗布性や成膜性を改善することも可能である。
【0131】
本発明のコーティング組成物はレジスト材料として好適に使用できる。すなわち、本発明のコーティング組成物に対し、少なくとも光酸発生剤を含有することによって、フォトレジスト組成物を構成する。またこのフォトレジスト組成物を、フォトレジスト膜上に塗布乾燥せしめることによってフォトレジスト用保護膜を得ることができる。また、該フォトレジスト用保護膜は、水又は有機溶剤を使用する液浸リソグラフィーに適用することができる。
【0132】
本発明のレジスト材料は、酸の作用によりアルカリ水溶液に対する溶解性が変化する溶解抑制剤と高分子化合物の双方を含有するもの、又は、高分子化合物に溶解抑制剤が組み込まれたものであり、これらは、特に、ポジ型レジスト材料として好適となり、最近の半導体の微細化に対応した248nmKrF又は193nmArFエキシマレーザー又は液浸用のポジ型レジスト、157nmに代表される真空紫外領域のF2レーザー用ポジ型レジスト、電子ビームレジスト、X線用のレジストとしても好適である。すなわち、酸の作用によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が変化する溶解抑制剤は、前述の酸不安定基を有するモノマーを一成分として共重合するか、ヘキサフルオロカルビノール基の少なくともひとつが酸不安定基になるようにしたものであるが、その構造は特に制限なく使用可能である。このような高分子化合物は高エネルギー線が照射される前にはアルカリ性水溶液に不溶もしくは難溶であって、高エネルギー線を照射したことにより光酸発生剤から発生した酸により加水分解されアルカリ性水溶液に対して溶解性を示すようになる。
【0133】
本発明のレジスト材料に用いられる光酸発生剤については特に制限はなく、化学増幅型レジストの酸発生剤として用いられるものの中から、任意のものを選択して使用することができる。このような光酸発生剤の例としては、ビススルホニルジアゾメタン類、ニトロベンジル誘導体類、オニウム塩類、ハロゲン含有トリアジン化合物類、シアノ基含有オキシムスルホネート化合物類、その他のオキシムスルホネート化合物などが挙げられる。これらの光酸発生剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その含有量は、高分子化合物100重量部に対して、通常0.5〜20重量部の範囲で選ばれる。この量が0.5重量部未満では像形成性が不十分であるし、20重量部を超えると均一な溶液が形成されにくく、保存安定性が低下する傾向がみられる。
【0134】
本発明のレジスト材料の使用方法は、従来のフォトレジスト技術のレジストパターン形成方法を用いることができる。すなわち、まずシリコンウエーハのような基板に、レジスト材料の溶液をスピンナーなどを用いて塗布し、乾燥することによって感光層を形成させ、これに露光装置などにより高エネルギー線を所望のマスクパターンを介して照射し、加熱する。次いでこれを現像液、例えば0.1〜10重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液のようなアルカリ性水溶液などを用いて現像処理する。この形成方法でマスクパターンに忠実なパターンを得ることができる。さらに、所望によってレジスト材料に混和性のある添加物、例えば付加的樹脂、クエンチャー、可塑剤、安定剤、着色剤、界面活性剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤、相溶化剤、密着剤、酸化防止剤などの種々添加剤を含有させることができる。
【0135】
本発明で用いる高エネルギー線は特に限定されないが、特に微細加工を行なおうとする場合にはF2エキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー又は軟X線など短波長の高エネルギー線の発生源を備えた露光装置を用いることが有効である。また、光路の一部に水やフッ素系の溶媒など、使用する高エネルギー線の吸収が少ない媒質を用い、開口数や有効波長においてより効率的な微細加工を可能とする液浸露光装置を使用することが有効であり、本レジスト材料は、この装置に用いる場合にも好適である。
【0136】
本発明のコーティング用組成物は、支持体上に形成させた後、加熱または光照射せしめることによって、光反射防止膜として好適に採用できる。この光反射防止膜に供する高分子化合物としては、本発明の「含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物」が特に好ましく採用される。すなわち、該化合物の持つ高いフッ素含有量による低屈折率に加え、透明度が高く、耐候性に優れるだけでなく、均一で基板への密着性にも優れるため、本用途に対して特に好ましく用いることができる。
【0137】
[実施例]
[1]含フッ素高分子化合物の合成
【実施例1】
【0138】
TFMA-B/BTHB共重合体の合成
【0139】
【化49】

【0140】
TFMA-B 50g(0.255mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これにメチルエチルケトン 52g、t-ブチルパーオキシピバレート 1.78g(10.2mmol:モノマーに対して2 mol%)を加え、系内を真空ポンプで脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0141】
16時間後、攪拌機を備えた5,000mlのビーカーにn-ヘプタン4,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー65gを得た(収率63%)。
【0142】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=12,500、Mw/Mn=1.53。
【0143】
また、19F-NMRによる分析から、ポリマーの組成はTFMA-B/BTHB=52/48 であった(mol換算。以下同じ)。
【実施例2】
【0144】
TFMA-MAD/TFMA-NBVL/BTHB共重合体の合成
【0145】
【化50】

【0146】
TFMA-MAD 37g(0.128mol)、TFMA-NBVL 37g(0.128mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに酢酸n-ブチル 64g、t-ブチルパーオキシピバレート 1.78g(10.2mmol:モノマーに対して2 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを50℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0147】
40時間後、攪拌機を備えた5,000mlのビーカーにn-ヘプタン4,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー70gを得た(収率55%)。
【0148】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=9,100、Mw/Mn=1.51。
【0149】
また、19F-NMRによる分析から、ポリマーの組成はTFMA-MAD/TFMA-NBVL/BTHB=23/28/49であった。
【実施例3】
【0150】
TFMA-HFIP/BTHB共重合体の合成
【0151】
【化51】

【0152】
TFMA-HFIP 74g(0.255mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに酢酸n-ブチル 64g、t-ブチルパーオキシピバレート 1.78g(10.2mmol:モノマーに対して2 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0153】
16時間後、攪拌機を備えた5,000mlのビーカーにn-ヘプタン4,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー64gを得た(収率50%)。
【0154】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=8,300、Mw/Mn=1.48。
【0155】
また、19F-NMRによる分析から、ポリマーの組成はTFMA-HFIP/BTHB=52/48 であった。
【実施例4】
【0156】
TFMA-OFCPE-NB/BTHB共重合体の合成
【0157】
【化52】

【0158】
TFMA-OFCPE-NB 65g(0.150mol)、BTHB 31g(0.150mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これにメチルエチルケトン 48g、t-ブチルパーオキシピバレート 1.05g(6.0mmol:モノマーに対して2 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを50℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0159】
40時間後、攪拌機を備えた5,000mlのビーカーにn-ヘプタン4,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー65gを得た(収率68%)。
【0160】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=8,900、Mw/Mn=1.48。
【0161】
また、19F-NMRによる分析から、ポリマーの組成はTFMA-OFCPE-NB/BTHB=53/47 であった。
【実施例5】
【0162】
TFMA-HFIP/TFMA-HP/BTHB共重合体の合成
【0163】
【化53】

【0164】
TFMA-HFIP 44g(0.153mol)、TFMA-HP 20g(0.102mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに酢酸n-フ゛チル 59g、t-ブチルパーオキシピバレート 1.78g(10.2mmol:モノマーに対して2 mol%)を加え、系内を真空ポンプで脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0165】
16時間後、攪拌機を備えた5,000mlのビーカーにn-ヘプタン4,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー88gを得た(収率75%)。
【0166】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=12,000、Mw/Mn=2.03。
【0167】
また、19F-NMRによる分析から、ポリマーの組成はTFMA-HFIP/TFMA-HP/BTHB=30/21/49であった。
【実施例6】
【0168】
TFMA-3,5-HFA-CHOH/TFMA-HP/BTHB共重合体の合成
【0169】
【化54】

【0170】
TFMA-3,5-HFA-CHOH 50g(0.090mol)、TFMA-HP 12g(0.060mol)、BTHB 31g(0.150mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに酢酸n-フ゛チル 47g、t-ブチルパーオキシピバレート 1.05g(6.0mmol:モノマーに対して2 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0171】
16時間後、攪拌機を備えた5,000mlのビーカーにn-ヘプタン4,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー85gを得た(収率91%)。
【0172】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=22,100、Mw/Mn=2.30。
【0173】
また、19F-NMRによる分析から、ポリマーの組成はTFMA-3,5-HFA-CHOH /TFMA-HP/BTHB=34/21/45であった。
【0174】
[2] 含フッ素高分子化合物合成の比較例
[比較例1]スチレン(ST)/BTHB共重合体の合成
【0175】
【化55】

【0176】
スチレン27g(0.255mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに1,4-ジオキサン80g、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬製V65(商品名)) 0.89g(5.1mmol:モノマーに対して1 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0177】
16時間後、攪拌機を備えた3,000mlのビーカーにn-ヘプタン2,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー24gを得た(収率30%)。
【0178】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=8,700、Mw/Mn=1.85。
【0179】
また、1H-NMR及び19F-NMRによる分析から、ポリマーはスチレンの単独重合体であった。
【0180】
[比較例2]メタクリル酸t-ブチル(MA-B)/BTHB共重合体の合成
【0181】
【化56】

【0182】
メタクリル酸t-ブチル(MA-B)36g(0.255mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに1,4-ジオキサン89g、V65 0.89g(5.1mmol:モノマーに対して1 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0183】
16時間後、攪拌機を備えた3,000mlのビーカーにn-ヘプタン2,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥し、白色のポリマー31gを得た(収率35%)。
【0184】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=23,200、Mw/Mn=2.76。また、1H-NMR及び19F-NMRによる分析から、ポリマーはメタクリル酸t-ブチル(MA-B)の単独重合体であった。
【0185】
[比較例3]ノルボルネン/BTHB共重合体の合成
【0186】
【化57】

【0187】
ノルボルネン24g(0.255mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これに1,4-ジオキサン19g、V65 0.89g(5.1mmol:モノマーに対して1 mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0188】
16時間後、攪拌機を備えた3,000mlのビーカーにn-ヘプタン2,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れたが、ポリマーの沈殿は生成しなかった。
【0189】
[比較例4]t-ブチルビニルエーテル(VE-B)/BTHB共重合体の合成
【0190】
【化58】

【0191】
t-ブチルビニルエーテル(VE-B) 26g(0.255mol)、BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに仕込み、これにメチルエチルケトン 158g、パーブチルPV 1.78g(10.2mmol:モノマーに対して2mol%)を加え、系内を真空ポンプで脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0192】
16時間後、攪拌機を備えた3,000mlのビーカーにn-ヘプタン2,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れたが、ポリマーの沈殿は生成しなかった。
【0193】
[比較例5]BTHB重合体の合成
【0194】
【化59】

【0195】
BTHB 53g(0.255mol)を、攪拌機を備えた300mlの四つ口フラスコに仕込み、これにメチルエチルケトン 106g、パーブチルPV 0.89g(10.2mmol:モノマーに対して2mol%)を加え、系内を真空ポンフ゜で脱気した後に窒素で置換した。次に、フラスコを60℃のオイルバスで加熱して攪拌を行った。
【0196】
16時間後、攪拌機を備えた3,000mlのビーカーにn-ヘプタン2,000mlを入れ、これに反応溶液をゆっくり注ぎ入れたが、ポリマーの沈殿は生成しなかった。
【0197】
[3]含フッ素高分子化合物合成のアクリロイル化
【実施例7】
【0198】
TFMA-HFIP/BTHB共重合体のアクリロイル化
【0199】
【化60】

【0200】
実施例3で合成したTFMA-HFIP/BTHB共重合体(Mw8,300) 30gを、300ml四つ口フラスコに仕込み、テトラヒドロフラン(THF)150mlを加えて溶解した。この溶液を攪拌しながら、ピリジン 9.5g(120mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.37g(3.0mmol)、アクリル酸無水物7.6g(60mmol)を加えた後、70℃に加熱し3時間反応を行った。
【0201】
反応終了後、5wt%塩酸水溶液1,800mlに攪拌しながら反応溶液をゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、アセトン90gに溶解した。ここで得られた溶液を、イオン交換水1,800mlに攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、再びアセトン90gに溶解した。ここで得られた溶液を、n-ヘプタン2,600mlに攪拌しながらゆっくり注ぎいれた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥して白色のポリマー28.5gを得た。
【0202】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=8,600、Mw/Mn=1.44。
【0203】
また、1H-NMR及び19F-NMRによる分析から、l1:m1:n1の比率は約5:2:3であった。
【実施例8】
【0204】
TFMA-HFIP/TFMA-HP/BTHB共重合体のアクリロイル化
【0205】
【化61】

【0206】
実施例5で合成したTFMA-HFIP/TFMA-HP/BTHB共重合体 (Mw12,000) 30gを500ml四つ口フラスコに仕込み、トルエン 120mlとジイソプロピルエーテル(IPE) 120mlを加え、70℃に加熱してポリマーを溶解した。その後、アクリル酸無水物 3.6g(28.6mmol)とメタンスルホン酸 0.83g(8.6mmol)を加えて3時間反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 300gに反応溶液を攪拌しながらゆっくり注ぎいれた。分液ロートに移した後、静置して二層分離した有機相を取り出した。この溶液をn-ヘプタン4,000ml中に攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、アセトン90gに溶解した。ここで得られた溶液を、イオン交換水1,800mlに攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、再びアセトン90gに溶解した。ここで得られた溶液を、n-ヘプタン2,600mlに攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥して白色のポリマー25.2gを得た。
【0207】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=12,300、Mw/Mn=1.76。
【0208】
また、1H-NMR及び19F-NMRによる分析から、l2:m2:n2の比率は約3:2:5であった。
【実施例9】
【0209】
TFMA-3,5-HFA-CHOH/TFMA-HP/BTHB共重合体のアクリロイル化
【0210】
【化62】

【0211】
実施例6で合成したTFMA-3,5-HFA-CHOH/TFMA-HP/BTHB共重合体 (Mw22,000) 30gを500ml四つ口フラスコに仕込み、トルエン 120mlとジイソプロピルエーテル(IPE) 120mlを加え、70℃に加熱してポリマーを溶解した。その後、アクリル酸無水物 2.7g(21.5mmol)とメタンスルホン酸 0.69g(7.2mmol)を加えて3時間反応を行った。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 300gに反応溶液を攪拌しながらゆっくり注ぎいれた。分液ロートに移した後、静置して二層分離した有機相を取り出した。この溶液をn-ヘプタン4,000ml中に攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、アセトン90gに溶解した。ここで得られた溶液を、イオン交換水1,800mlに攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、再びアセトン90gに溶解した。ここで得られた溶液を、n-ヘプタン2,600mlに攪拌しながらゆっくり注ぎ入れた。生成した白色沈殿をろ過して取り出し、50℃の真空乾燥機で乾燥して白色のポリマー27.7gを得た。
【0212】
得られたポリマーを、ポリスチレンを標準としたゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、分子量及び分散度は次の通りであった。Mw=21,900、Mw/Mn=2.19。
【0213】
また、1H-NMR及び19F-NMRによる分析から、l3:m3:n3の比率は約3:2:5であった。
【0214】
実施例1〜9、比較例1〜5の結果を以下の表1〜表3にまとめる。
【0215】
【表1】

【0216】
【表2】

【0217】
【表3】

【実施例10】
【0218】
露光テスト
実施例1,2で合成した高分子化合物を、それぞれプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させ、固形分14%となるように調整した。さらに、高分子化合物100重量部に対して酸発生剤としてみどり化学製トリフェニルスルフォニウムトリフレート(TPS105)を2重量部になるように溶解してレジスト溶液を調整した。これをスピンコートして膜厚250nmの光透過率を193nmにて測定したところ、実施例1の高分子化合物で88%、実施例2の高分子化合物で79%となり、紫外線領域で高い透明性を発現した。
【0219】
次いで、レジスト溶液をそれぞれ孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、各組成物溶液をシリコンウェハー上にスピンコートし膜厚250nmのレジスト膜を得た。120℃でプリベークを行なった後、フォトマスクを介して248nmの紫外線で露光を行なった後、120℃でポストエクスポーザーベークを行なった。その後、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、22℃で1分間現像した。この結果、いずれのレジスト溶液からも高解像度のパターン形状が得られ、基板への密着性不良欠陥、成膜不良欠陥、現像欠陥、およびエッチング耐性不良による欠陥も殆ど見られなかった。
【実施例11】
【0220】
反射防止テスト
実施例7で合成した高分子化合物を0.2g含むメチルエチルケトン溶液を調整し、これにイルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.02g、ペンタエリストールトリアクリレート0.2gを加えて攪拌した。
【0221】
トリアセテートセルロースフィルム上に、上記組成物をバーコーティングし、乾燥して溶剤を除いた後に高圧水銀灯で200mJ/cm2を照射して硬化膜を形成させた。
【0222】
得られた反射防止フィルムについて、ヘイズ値を測定した結果0.2%であった。また、分光光度計による入射角5°の絶対反射率を測定し、反射Y値を算出した結果、1.3%であった。さらに、100g/cm2の過重をかけてスチールウールを10回往復するテストを行った結果、表面には傷は認められなかった。また、分光エリプソメータで測定した650nmの屈折率は1.39であった。
【実施例12】
【0223】
反射防止テスト
実施例8で合成した高分子化合物を0.2g含むメチルエチルケトン溶液を調整し、これにイルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.02g、ペンタエリストールトリアクリレート0.2gを加えて攪拌した。
【0224】
トリアセテートセルロースフィルム上に、上記組成物をバーコーティングし、乾燥して溶剤を除いた後に高圧水銀灯で200mJ/cm2を照射して硬化膜を形成させた。
【0225】
得られた反射防止フィルムについて、ヘイズ値を測定した結果0.2%であった。また、分光光度計による入射角5°の絶対反射率を測定し、反射Y値を算出した結果、1.2%であった。さらに、100g/cm2の過重をかけてスチールウールを10回往復するテストを行った結果、表面には傷は認められなかった。また、分光エリプソメータで測定した650nmの屈折率は1.38であった。
【実施例13】
【0226】
反射防止テスト
実施例9で合成した高分子化合物を0.2g含むメチルエチルケトン溶液を調整し、これにイルガキュア907(チバスペシャリティケミカルズ社製)0.02g、ペンタエリストールトリアクリレート0.2gを加えて攪拌した。
【0227】
トリアセテートセルロースフィルム上に、上記組成物をバーコーティングし、乾燥して溶剤を除いた後に高圧水銀灯で200mJ/cm2を照射して硬化膜を形成させた。
【0228】
得られた反射防止フィルムについて、ヘイズ値を測定した結果0.2%であった。また、分光光度計による入射角5°の絶対反射率を測定し、反射Y値を算出した結果、1.3%であった。さらに、100g/cm2の過重をかけてスチールウールを10回往復するテストを行った結果、表面には傷は認められなかった。また、分光エリプソメータで測定した650nmの屈折率は1.40であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位
【化1】

および、式(2)で表される繰り返し単位
【化2】

を、少なくとも含有する含フッ素高分子化合物。
[式(1)および(2)において、nは0又は1を表す。R1、R3はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。R2はメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。]
【請求項2】
請求項1において、該含フッ素高分子化合物中に現れる式(1)で表される繰り返し単位の数をα、式(2)で表される繰り返し単位の数をβとするとき、(α/β)が、0.8〜1.2の範囲にある、請求項1に記載の含フッ素高分子化合物。
【請求項3】
重量平均分子量が2000〜50000の範囲にある、請求項1又は請求項2に記載の含フッ素高分子化合物。
【請求項4】
式(1)で表される繰り返し単位が、次の式(A)で表される繰り返し単位
【化3】

である、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の含フッ素高分子化合物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかにおいて、式(1)で表される繰り返し単位が、次の式(A)で表される繰り返し単位
【化4】

であり、
式(2)で表される繰り返し単位が、次の式(B1)〜(B6)で表される繰り返し単位
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

から選ばれる少なくとも1種類のものである、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の含フッ素高分子化合物。
[式(B5)において、Rの意味は式(1)と同じ。式(B6)において、Rfは、炭素数1〜5のアルキレン基を介して炭素数1〜10のフルオロアルキル基が結合した基を表す。]
【請求項6】
又はRの一部に、光酸発生剤から発生した酸の効果で分解する酸不安定基を含有した、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の含フッ素高分子化合物。
【請求項7】
酸不安定基が次の基(ALG1〜ALG5)からなる群より選ばれるものである、請求項6に記載の含フッ素高分子化合物。
【化11】

[ALG1〜ALG5において、Ra1、Ra4はそれぞれ独立に、炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。Ra2とRa3、Ra2とRa4、Ra3とRa4はそれぞれ結合して環を形成することもできる。]
【請求項8】
式(3)で表される含フッ素ビニルモノマー
【化12】

および、式(4)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマー
【化13】

を、ラジカル開始剤および、不活性有機溶媒の存在下、共重合させることによりなる、請求項1乃至請求項7の何れかに記載の、含フッ素高分子化合物の製造方法。
[式(3)および式(4)において、n、R1〜R3の意味は、式(1)および式(2)と同じ。]
【請求項9】
式(1)で表される繰り返し単位、
【化14】

式(1a)で表される繰り返し単位、
【化15】

及び、式(1b)で表される繰り返し単位
【化16】

からなる群[これをA群と呼ぶ]より選ばれる、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有し、かつ、
式(2)で表される繰り返し単位
【化17】

及び、式(2a)で表される繰り返し単位
【化18】

からなる群[これをB群と呼ぶ。]から選ばれる、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有し、なおかつ、式(1a)、式(1b)、及び式(2a)で表される繰り返し単位のうち、少なくとも1種類の繰り返し単位を含有することを特徴とする、含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
[式(1)および(2)において、nは0又は1を表す。R1、R3はそれぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を有することもできる。R2はメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。式(1a)、(1b)および(2a)において、Rは、水素原子またはメチル基を表す。R1a、R3aは、それぞれ独立に、水素、又は炭素数1〜13の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基であって、フッ素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を置換基として有することもできる。式(1a)、(1b)において、n、Rの意味は、式(1)と同じ。ここで、nとRは式(1)とは独立に変化することができる。]
【請求項10】
含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物中に現れる、式(1)で表される繰り返し単位の数、式(1a)で表される繰り返し単位の数、式(1b)で表される繰り返し単位の数の合計値をγ、式(2)で表される繰り返し単位の数と、式(2a)で表される繰り返し単位の数の合計値をδとするとき、(γ/δ)が、0.8〜1.2の範囲にある、請求項9に記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
【請求項11】
重量平均分子量が2500〜60000の範囲である、請求項9又は請求項10に記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
【請求項12】
請求項9乃至請求項11の何れかおいて、A群の繰り返し単位が、次の式(A)で表される繰り返し単位
【化19】

であり、かつ、
B群の繰り返し単位が、次の式(C2)または(C3)で表される繰り返し単位
【化20】

【化21】

のうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする、請求項9乃至請求項11の何れかに記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物。
【請求項13】
次の2つの工程を含む、請求項9乃至請求項12の何れかに記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物の製造方法。
(第1工程)
式(3)、式(3a)及び式(3b)で表される含フッ素ビニルモノマー
【化22】

のうち、少なくとも1種類と、
式(4)及び式(4a)で表されるα−トリフルオロメチルアクリル酸モノマー
【化23】

のうち、少なくとも1種類とを、上記(3a)、(3b)、(4a)で表されるモノマーのうち、少なくとも1種類を必ず使用するという条件のもと、ラジカル開始剤および、不活性有機溶媒の存在下、共重合させ、「遊離のヒドロキシル基を有する含フッ素高分子化合物」を得る工程。
(第2工程)
第1工程で得られた、「遊離のヒドロキシル基を有する含フッ素高分子化合物」に対して、式(5a)又は式(5b)で表されるアクリロイル化剤
【化24】

を反応させ、上記含フッ素高分子化合物中の遊離の、ヒドロキシル基の一部または全部をアクリロイル化し、請求項9乃至請求項12の何れかに記載の、含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物を得る工程。
[式(3)、(3a)、(3b)、(4)、(4a)、において、n、R1、R3〜R、R1a、R3aは、それぞれ独立に、式(1)、(1a)、(1b)、(2)、(2a)で示された意味と同じ。式(5b)において、XはFまたはCl原子を表す。]
【請求項14】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の含フッ素高分子化合物、又は請求項9乃至請求項12の何れかに記載の含フッ素含アクリル側鎖高分子化合物と、有機溶媒を含有することによりなる、コーティング用組成物。
【請求項15】
請求項6又は請求項7に記載の含フッ素高分子化合物と、有機溶媒を含有することによりなる、コーティング用組成物と、少なくとも光酸発生剤を含有する、フォトレジスト組成物。
【請求項16】
請求項15に記載のフォトレジスト組成物を、フォトレジスト膜上に塗布乾燥せしめてなるフォトレジスト用保護膜。
【請求項17】
水又は有機溶剤を使用する液浸リソグラフィーに適用する、請求項16に記載のフォトレジスト用保護膜。
【請求項18】
請求項14に記載のコーティング用組成物を、支持体上に形成させた後、加熱または光照射せしめてなる、光反射防止膜。

【公開番号】特開2008−179789(P2008−179789A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328041(P2007−328041)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】