説明

吸着部材付き触媒コンバータ

【課題】 吸着部材の耐久性を向上できる吸着部材付き触媒コンバータ1の提供。
【解決手段】 制御部13は、吸着部材2bの離脱終了後は、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とすることで、エンジンa1からの排気の全量をメイン管5に流入させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着部材付き触媒コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中の炭化水素を吸着・離脱可能な吸着部材と、この吸着部の下流側に連通した状態で配置され、排気を浄化可能な触媒担体とを収容した吸着部材付き触媒コンバータの技術が公知になっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−194231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の発明にあっては、特に、排気がメイン管とバイパス管に分岐した後、触媒担体の上流側で再び合流する場合に、大きな排気騒音が発生する虞があった。
この結果、センタマフラやリアマフラに大きな設計変更を必要とし、排気系の大型化やコストアップに繋がるという問題点あった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、消音機能を有する吸着部材付き触媒コンバータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、排気中の炭化水素を吸着・離脱可能な吸着部材と、この吸着部の下流側に連通した状態で配置され、排気を浄化可能な触媒担体とを収容した本体と、エンジンからの排気を触媒担体に導くメイン管と、上記メイン管の上流側から分岐してエンジンからの排気を吸着部材に導くバイパス管と、上記メイン管とバイパス管に流入する排気ガスの流通態様を弁の開閉動作により変更可能な制御部を備える吸着部材付き触媒コンバータにおいて、上記本体内に排気騒音を低減可能な消音手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明では、本体内に排気騒音を低減可能な消音手段を備えるため、本体内を排気が通過する際に発生する排気騒音を消音手段によって低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
以下、実施例1を説明する。
図1は実施例1の排気系を示す全体図、図2は実施例1の吸着部材付き触媒コンバータを示す側面図、図3〜6は実施例1の作用を説明する図、図7は実施例1の効果を説明する実験結果を示す図である。
【0009】
先ず、全体構成を説明する。
図1に示すように、実施例1の自動車の排気系は、エンジンa1と、触媒コンバータa2と、吸着部材付き触媒コンバータ1と、センタマフラa3と、リアマフラa4が接続管b1(エキゾーストマニホールド)、b2、b3、b4を介して連結されている。
【0010】
触媒コンバータa2は、公知のものと同様に筒状の本体内に図示を省略する金属触媒担体またはセラミックス製触媒担体が採用される他、エンジンa1側から流入した排気中の有害成分(HC、CO、Nox等)を無害成分(CO2、O等)に浄化して下流側へ排出するものである。
そして、この触媒コンバータa2の下流側には、後述する吸着部材付き触媒コンバータ1が設けられている。
【0011】
図2に示すように、吸着部材付き触媒コンバータ1は、吸着部2及び触媒部3等を有する本体4と、メイン管5と、バイパス管6等が備えられている。
吸着部2は、金属製で円筒状のシェル7a内に収容されている。
具体的には、シェル7aの上流側端部は略お碗状のエンドプレート7bで閉塞される他、その内部には略皿状のバッフルプレート7c,7dが離間して介装され、これにより、シェル7a内に2つの室R1,R2が形成されている
【0012】
そして、2枚のバッフルプレート7c,7dを貫通した状態で吸着部2が設けられている。
【0013】
吸着部2は、金属製で円筒状の外筒2aと、この外筒2aに収容された吸着部材2bとから構成されている。
なお、吸着部材2bは、公知のものと同様に軸方向へ貫通形成されたセル(図示せず)の表面にゼオライト等の吸着材をコーティングしてなるものが採用されている。
また、バッフルプレート7cにおける後述するメイン管5の貫通部位には、所定の隙間8が形成されている。
また、シェル7aの下流側端部には、金属製で円筒状のシェル9が連通接続され、さらに、このシェル9の下流側端部には後述する触媒部3の外筒3aが連通接続されている。
これにより、バッフルプレート7dと触媒担体3bとの間に室R3が形成される他、吸着部材2bは室R1,R3に臨んだ状態で配置されている。
【0014】
触媒部3は、金属製で円筒状の外筒3aと、この外筒3aに収容された円柱状の触媒担体3bとから構成されている。
触媒担体3bは、前述した触媒コンバータa2の触媒担体と同様に、公知の金属触媒担体またはセラミックス製触媒担体が採用されている。
外筒3aの下流側端部には、下流側へ行くにつれて縮径されたディフューザ10が連通接続されると共に、このディフィーザ10の下流側端部には接続管b3と連通接続するためのフランジ11が固定されている。
【0015】
メイン管5の上流側端部には、接続管b2と連通接続するためのフランジ12が固定される一方、下流側端部はエンドプレート7b、バッフルプレート7c,7dを貫通して室R3に連通接続されている。
【0016】
バイパス管6の上流側端部は、メイン管5の上流側から分岐した状態で連通接続される一方、下流側端部はエンドプレート7bから室R1に連通接続されている。
【0017】
さらに、メイン管5とバイパス管6における分岐位置の下流側には、弁V1,V2が設けられると共に、これら両弁V1,V2の開閉動作は制御部13によって制御されている。
なお、実施例1の両弁V1,V2は軽量・安価なバタフライ弁が採用されている。
【0018】
また、制御部13は、エンジンコントロールユニット14(ECU14)に電気的に接続されている。
さらに、制御部13は、吸着部材2b及び触媒担体3bの表面温度または下流側雰囲気温度を検出するための温度センサ15,16にも電気的に接続されている。
その他、前述した金属製の構成部材の接合部同士は図示を省略する溶接等により固定されている。
【0019】
次に、作用を説明する。
<排気の浄化作用について>
このように構成された吸着部材付き触媒コンバータ1では、制御部13がECU14からのエンジンa1の稼働状態と各温度センサ15,16の検出結果に基づいて、エンジンa1の始動開始から下記表1のように各弁V1,V2の開閉動作を制御する。
【0020】
【表1】

【0021】
(1)エンジン始動時から吸着部材が離脱温度となるまで
先ず、エンジン始動時から排気の温度が上昇して、吸着部材2bが離脱温度となるまでは、メイン管5の弁V1を閉じる一方、バイパス管6の弁V2を開いた状態とする。
なお、吸着部材2bの離脱温度は一般的に250℃(=温度センサ15の検出結果)以上である。
【0022】
これにより、図3に示すように、排気(図中破線で図示)の全量をバイパス管6から室R1に流入させた後、吸着部材2bを通過させる。
その後、吸着部材2bを通過して室R3に流入した排気を触媒担体3bに通過させた後、下流側へ排出する。
この際、吸着部材2bでは通過する排気中の炭化水素を吸着する。
また、排気の温度は低温であるため、触媒コンバータa2の触媒担体及び触媒担体3bは機能しない(表1参照)。
【0023】
従って、エンジン始動時において、触媒コンバータa2の触媒担体及び触媒担体3bが機能していない間に排気中の炭化水素が大気放出されるのを防止できる。
【0024】
(2)吸着部材の離脱温度から触媒担体が活性温度になるまで
次に、吸着部材2bが離脱温度となって触媒担体3bが活性温度になるまでは、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とする。
なお、触媒担体3bの活性温度は一般的に350℃以上(=温度センサ16の検出結果)である。
【0025】
これにより、図4に示すように、排気(図中破線で図示)の全量をメイン管5から室R3に流入させた後、さらに触媒担体3bを通過させて下流側へ排出する。
この際、触媒コンバータa2の触媒担体は活性温度になっており、排気中の炭化水素は触媒コンバータa2の触媒担体によって浄化できるようになっている(表1参照)。
【0026】
(3)触媒担体が活性温度になってから吸着部材が離脱を終了するまで
次に、触媒担体3bが活性温度になってから吸着部材2bが離脱を終了するまでは、両弁V1,V2を共に開いた状態とする。
なお、吸着部材2bの離脱終了は、弁V2を開いてから所定時間後とする。あるいは、室R2に炭化水素濃度を測定するセンサを設けて検出したり、公知のようにECU14からの信号を基に吸着部材2bに残留する炭化水素量を推測して判定するようにしても良い。
【0027】
これにより、図5に示すように、バイパス管6とメイン管5の両方に排気を流入させて、触媒担体3bに通過させた後、下流側へ排出する。
この際、吸着部材2bでは吸着していた炭化水素を離脱させて下流側へ排出する。
また、触媒担体3bでは、バイパス管6とメイン管5を介して通過する排気中の前述した炭化水素を含む有害成分を無害成分に浄化した後、下流側へ排出する(表1参照)。
【0028】
(4)吸着部材が離脱を終了した後
次に、吸着部材2bが離脱を終了した後は、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とする。
【0029】
これにより、図6に示すように、排気(図中破線で図示)の全量をメイン管5から室R3に流入させた後、触媒担体3bに通過させて下流側へ排出する。
この際、吸着部材2bの炭化水素は完全に離脱した初期状態となる。
また、触媒担体3bでは、バイパス管6とメイン管5を介して通過する排気中の有害成分を無害成分に浄化した後、下流側へ排出する(表1参照)。
【0030】
従って、排気がバイパス管6を介して吸着部材2bを通過することがなく、吸着部材2bの耐久性を向上できる。
また、吸着部材2bのゼオライト等のコーティング量や触媒担体3bの触媒量を減らすことができ、単体コストを低く抑えることができる。
また、吸着部材2bの離脱終了後の車両通常走行時において、通気抵抗が比較的大きい吸着部材2bに排気を通過させる必要がなく、排気抵抗を軽減して出力向上に貢献できる。
【0031】
次に、前述した(1)〜(4)の場合における時間(Time)と炭化水素の排出量(HC Emission)の関係図を実験等を通じて得られた結果を図7に示す。
図7に示すように、実施例1の発明品は、上述した(3)で触媒担体3bが活性状態になる前に排出される炭化水素の排出量を低く抑えることができる。
【0032】
<消音作用について>
実施例1では前述したように、室R1と室R2がバッフルプレート7cの隙間8を介して連通状態となっている。
【0033】
そして、前述した(1)、(3)で排気がバイパス管6に流入する際に、室R2に流入した排気騒音のエネルギーを隙間8を介して室R2に進入させて共鳴させることにより、室R2を共鳴室として機能させることができ、排気騒音を低減できる。
ここで、室R2の共鳴の周波数は室R2の容積等の設定により適宜設定できる。
例えば、メイン管5とバイパス管6に排気が分岐して再び合流する前述の(3)の場合において、透過音による排気騒音が大きくなると思われるため、この特性に合わせて設定する。
【0034】
あるいは、共鳴室はエンジン始動開始直後やアイドリング運転時等のエンジンが2000rpm以下の低回転時に発生する所謂こもり音の発生を低減するのに好適であり、この状況はバイパス管6に排気が流入する前述の(1)の場合において、条件が一致するため、この特性に合わせて設定する。
【0035】
さらに、実施例1では、排気がバイパス管8から室R1に流入する際や、メイン管5から室R3に流入する際に、拡張作用による排気騒音のエネルギー減衰により消音性能を向上できる。
【0036】
次に、効果を説明する。
以上、説明したように、実施例1の発明では、本体4内に室R2を備えるため、本体4内を排気が通過する際に発生する排気騒音を低減できる。
【0037】
また、室R2はバイパス管に排気が流入した際に機能するため、特に、排気がメイン管5とバイパス管6に分岐した後、触媒担体3bの上流側で再び合流する場合に発生する排気騒音を低減できる。
【0038】
また、室R2を共鳴室としたため、比較的簡単なチューニングで排気騒音を低減できる。
加えて、共鳴室はエンジン始動開始直後やアイドリング運転時等のエンジンが低回転時に発生しやすい所謂こもり音の発生を低減するのに好適であるが、この状況はバイパス管6に排気が流入する条件と一致し易く好適となる。
【0039】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例1では、吸着部2と触媒部3を別体で構成して連通接続したが、共用の筒状の本体4にこれらを収容することもできる。
【0040】
また、実施例1では、吸着部材2bや触媒担体3bの温度を温度センサ15,16によって直接検出したが、その他の各種センサを用いて検出したり、ECU14からの情報に基づいて推測しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の排気系を示す全体図である。
【図2】実施例1の吸着部材付き触媒コンバータを示す側面図である。
【図3】実施例1の作用を説明する図である。
【図4】実施例1の作用を説明する図である。
【図5】実施例1の作用を説明する図である。
【図6】実施例1の作用を説明する図である。
【図7】実施例1の効果を説明する実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
a1 エンジン
a2 触媒コンバータ
a3 センタマフラ
a4 リアマフラ
b1、b2、b3、b4 接続管
R1、R2 室
V1、V2 弁
1 吸着部材付き触媒コンバータ
2 吸着部
2a 外筒
2b 吸着部材
3 触媒部
3a 外筒
3b 触媒担体
4 本体
5 メイン管
6 バイパス管
7a 外筒
7b エンドプレート
7c、7d バッフルプレート
8 隙間
9 シェル
10 ディフィーザ
11、12 フランジ
13 制御部
14 エンジンコントロールユニット(ECU)
15、16 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気中の炭化水素を吸着・離脱可能な吸着部材と、この吸着部の下流側に連通した状態で配置され、排気を浄化可能な触媒担体とを収容した本体と、
エンジンからの排気を触媒担体に導くメイン管と、
前記メイン管の上流側から分岐してエンジンからの排気を吸着部材に導くバイパス管と、
前記メイン管とバイパス管に流入する排気ガスの流通態様を弁の開閉動作により変更可能な制御部を備える吸着部材付き触媒コンバータにおいて、
前記本体内に排気騒音を低減可能な消音手段を備えることを特徴とする吸着部材付き触媒コンバータ。
【請求項2】
請求項1記載の吸着部材付き触媒コンバータにおいて、
前記消音手段はバイパス管に排気が流入した際に機能することを特徴とする吸着部材付き触媒コンバータ。
【請求項3】
請求項1記載の吸着部材付き触媒コンバータにおいて、
前記消音手段を共鳴室としたことを特徴とする吸着部材付き触媒コンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174343(P2009−174343A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11459(P2008−11459)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】