説明

周波数シンセサイザ

【課題】
応答性が高く維持され、かつハードウェアの構成が簡略化されるにもかかわらず、各部の変動やバラツキに対して安定に適応できる周波数シンセサイザを提供する。
【解決手段】
位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で出力信号を生成する可変周波発振器を有し、前記所望の周波数となり得る目標周波数毎に、前期可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録されたテーブルと、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数に対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する初期値設定手段と、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出するロックアップ検出手段と、前記ロックアップが検出されたときに、前記応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による初期値の供給を規制する位相同期再開手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準周波数を与える基準信号に同期した所望の周波数の信号を生成する周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
位相同期発振器は、位相同期ループ内に配置された位相比較器の前段である可変分周波器に設定された分集比mと、基準周波数を得るために備えられたプリスケーラの分周比nとの比に比例する多様な周波数fOSCの合成が可能であるため、多くの電子機器に搭載されている。
【0003】
また、このような位相同期発振器には、所望の周波数fOSCが大幅に変更される場合であっても、ロックアップタイムを短縮することによって応答性を高め、その応答性を安定に高く維持するために、以下のような技術が適用されている。
【0004】
(1)予め所望の発振周波数に対応した好適な制御電圧が登録されたテーブルが設けられる。
(2)発振周波数の切り替え時に上記テーブルが参照されることによって、所望の発振周波数を得るために望ましい制御電圧が取得され、この制御電圧が電圧制御発振器に初期値として与えられる。
【0005】
(3)このようなテーブルに登録された制御電圧は、所望の発振周波数に応じた位相同期ループの振る舞いが反映されることによって、より望ましい値に更新される。
なお、本発明に関連した先行技術としては、以下に列記する特許文献1〜4がある。
【0006】
(1)「電圧制御発振器によって出力されたシグナル信号と基準信号との誤差信号を出力する位相比較器と、その位相比較器に縦続接続されたチャージポンプ回路およびローパスフィルタと、発振開始時に、前記位相比較器の誤差信号が入力端子に供給され、前記誤差信号に基づいて、Nビットのデジタル信号の値を上記ビットから順に変えて出力端子に出力する論理回路と、このデジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータと、入力端子に前記ローパスフィルタの出力端子と前記D/Aコンバータの出力端子が接続され、出力端子が前記電圧制御発振器の制御電圧端子に接続された加算器とを具えることによって構成され、高速なロックアップ時間を実現することができる」点に特徴があるPLL回路・・・特許文献1
【0007】
(2)「設定周波数毎に、位相誤差信号データを格納する学習機能を備えているため、次回の周波数設定時に、この学習した値を採用することにより、対環境が変化しない条件化において、周波数切替時間をほぼ零にすることができる」点に特徴がある周波数シンセサイザ・・・特許文献2
【0008】
(3)「電圧制御発振器の温度を測定する温度測定手段と、目標周波数を設定する目標周波数設定手段と、前記温度測定手段による電圧制御発振器の温度と前記目標周波数設定手段による目標周波数とに基づいて、電圧制御発振器の温度が変化したとき該電圧制御発振器から出力される出力信号の周波数と目標周波数との間に生じる誤差を補正する演算を行い、前記電圧制御発振器から出力される出力信号の周波数を目標周波数に一致させるためのデジタル制御信号を出力する制御信号出力手段と、該制御信号出力手段によるデジタル制御信号をアナログ変換し、前記電圧制御発振器に該デジタル制御信号に対応するアナログ制御周波数安定性を損なわずに出力信号の周波数切替を高速化させる電圧を出力する信号変換手段とから構成され、周波数安定性を損なわずに出力信号の周波数切替を高速化できる」点に特徴がある周波数シンセサイザ・・・特許文献3
【0009】
(4)「周波数の切り換え時に電圧制御発振器への入力電圧をプリセット電圧によって強制的に変える手段を具備し、上記プリセット電圧が、切り換え周波数データおよび温度変化情報に基づいて決定されることによって、周波数の切り換え時間を短縮すると共に、温度変化による悪影響をも排除する」点に特徴がある周波数シンセサイザ・・・特許文献4
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−238074号公報
【特許文献2】特許2658886号公報
【特許文献3】特開平9−321621号公報
【特許文献4】特開平6−232742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した従来の位相同期発振器では、上記テーブルに登録される制御電圧の更新のために、以下のようなハードウェアが備えられていた。
(1)電圧制御発振器によって生成される周波数を計測するための周波数カウンタ
(2)この電圧制御発振器に実際に入力されている制御電圧を計測するためのA/D変換器
【0012】
しかし、これらの周波数カウンタおよびA/D変換器は、位相同期発振器の全体との対比においては、回路規模、消費電力および物理的な容積の何れもが比較的大きな比率を占めるために、実装、温度、信頼性の何れかが低下する要因となる場合があった。
【0013】
また、上記テーブルの更新は、所望の周波数や温度の範囲において位相同期ループを反復して作動させ、その位相同期ループの振る舞いに関する計測の結果に基づいて行われるために、時間を要し、応答性が低下する要因となる場合が多かった。
【0014】
本発明は、応答性が高く維持され、かつハードウェアの構成が簡略化されるにもかかわらず、各部の特性の変動やバラツキに対して安定に適応できる周波数シンセサイザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明では、出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、テーブルには、前記所望の周波数となり得る目標周波数毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録される。初期値設定手段は、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数に対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する。ロックアップ検出手段は、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出する。位相同期再開手段は、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する。
【0016】
すなわち、テーブルには、所望の周波数の切り替えに応じて位相同期ループによって可変周波発振器に供給されることが望ましい制御情報が予め登録される。その周波数の切り替えが行われる過程では、このようなテーブルの参照によって得られた制御情報が位相同期ループを介することなく可変周波発振器に与えられ、この制御情報に応じた位相同期ループの過渡応答が収束したときに、位相同期ループが再度形成される。
【0017】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の周波数シンセサイザにおいて、テーブル更新手段は、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新する。
【0018】
すなわち、テーブルに登録された初期値は、請求項1に記載の周波数シンセサイザと同様に構成が従来例より大幅に簡略されているにもかかわらず、位相同期ループの特性の変化やバラツキが反映された値に効率的に更新される。
【0019】
請求項3に記載の発明では、出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、温度計測手段は、前記周波数シンセサイザの特定の部位、または前記周波数シンセサイザが配置された領域の温度を計測する。テーブルには、前記所望の周波数となり得る目標周波数と前記温度との組み合わせ毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録される。初期値設定手段は、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数と前記温度計測手段によって計測された温度とに対応して前記テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する。ロックアップ検出手段は、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出する。位相同期再開手段は、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する。
【0020】
すなわち、テーブルには、所望の周波数の切り替えに応じて位相同期ループによって可変周波発振器に供給されることが望ましい制御情報が、その周波数と上記温度とに対応付けられて予め登録される。その周波数の切り替えが行われる過程では、このようなテーブルの参照によって得られた制御情報が位相同期ループを介することなく可変周波発振器に与えられ、この制御情報に応じた位相同期ループの過渡応答が収束したときに、位相同期ループが再度形成される。
【0021】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の周波数シンセサイザにおいて、テーブル更新手段は、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数と前記温度計測手段によって計測された温度との組み合わせ毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新する。
【0022】
すなわち、テーブルに登録された初期値は、請求項4に記載の周波数シンセサイザと同様に構成が従来例より大幅に簡略されているにもかかわらず、位相同期ループの特性の変化やバラツキが反映された値に効率的に更新される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、出力信号の周波数を計測する手段と、可変周波発振器に既述の制御情報を引き渡す手段とが備えられることなく、位相同期ループが有効に活用されることにより、ロックアップタイムの短縮が精度よく実現される。
【0024】
本発明では、コストが増加することなく安定にロックアップタイムの短縮が図られ、かつ本発明が適用された電子機器では、従来例より小型化が可能となり、しかも、実装面における自由度に併せて、価格性能比および信頼性が高められる。
【0025】
本発明では、テーブル更新手段によって既述の初期値の更新が行われ、そのためにロックアップタイムが無用に長くなることが回避される。また、本発明では、テーブルに登録される初期値の更新の頻度が高められる。
【0026】
したがって、本発明に係る周波数シンセサイザは、多様な電子機器に搭載可能となり、かつ環境条件および構成要素の特性の変化やバラツキがあっても、安定に所望の周波数の合成を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一ないし第三の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第一ないし第三の実施形態におけるプロセッサの動作フローチャートである。
【図3】テーブルの構成を示す図(1)である。
【図4】テーブルの構成を示す図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第一ないし第三の実施形態を示す図である。図において、周波数シンセサイザ10はプロセッサ20の対応する入出力ポートに接続される。
【0029】
周波数シンセサイザ10では、位相比較器11の一方の入力に周波数が規定の値(=fREF)に設定された基準信号が入力され、その位相比較器11の出力は、ロックアップ監視部12とチャージポンプ13との入力に接続される。チャージポンプ13の出力は、アナログセレクタ14の一方の入力とに接続される。アナログセレクタ14の他方の入力にはD/A変換器15の出力が接続され、そのアナログセレクタ14の出力はローパスフィルタ(LPF)16を介して電圧制御発振器(VCO)17の入力に接続される。電圧制御発振器17の出力には所望の周波数(=fOSC)の出力信号が得られ、その電圧制御発振器17の出力は可変分周器18を介して既述の位相比較器11の他方の入力に接続される。可変分周器18およびD/A変換器15の入力と、アナログセレクタ14の制御端子とには、プロセッサ20の対応する出力ポートが接続される。ロックアップ監視部12出力は、プロセッサ20の対応する入力ポートに接続される。
【0030】
また、プロセッサ20の主記憶の特定の領域には、後述するテーブル20Tが配置される。図2は、本発明の第一ないし第三の実施形態におけるプロセッサの動作フローチャートである。
【0031】
[第一の実施形態]
以下、図1および図2を参照して本発明の第一の本実施形態の動作を説明する。本実施形態の特徴は、発振周波数の切り替えに応じた位相同期ループのロックアップタイムが短縮される点にある。
【0032】
プロセッサ20は、始動時に起動される初期化処理の過程で、アナログセレクタ14に理論値「0」の二値情報を与え、かつ上記所望の周波数に対応する分周比(=r)を可変分周器18に与える。アナログセレクタ14は、このような二値情報の論理値に応じて、チャージポンプ13の出力をローパスフィルタ16の入力に接続することにより、図1に二点差線で示されるように、周波数シンセサイザ10内に、「位相比較器11の出力からチャージポンプ13、ローパスフィルタ16、電圧制御発振器17および可変分周器18を介して位相比較器11の他方の入力に至る位相同期ループ」を形成する。
【0033】
このような位相同期ループでは、可変分周器18によって出力信号がr分周されることによって生成されるモニタ信号と既述の基準信号との位相差を示すアナログ信号が位相比較器11によって生成され、そのアナログ信号で示される位相差は、チャージポンプ13によって所定の電圧の信号に変換される。このような信号は、その信号に含まれる高い周波数成分がローパスフィルタ16によって除去されることによって制御電圧に変換され、電圧制御発振器17に与えられる。電圧制御発振器17によって生成される出力信号の周波数(以下、「発振周波数」という。)は、上述した所望の周波数に収束し、かつ位相同期ループの特性によって定まる精度で維持される。
【0034】
したがって、周波数シンセサイザ10は、プロセッサ20によって与えられる分周比rに応じて基準信号の周波数fREFを基準として周波数合成を行うことにより、所望の周波数(=fOSC)を生成する。
【0035】
また、プロセッサ20の主記憶の記憶領域に配置されたテーブル20Tには、図3に示すように、既述の所望の周波数(以下、「発振周波数」という。)に応じて可変分周器18に与えられるべき個々の分周比と、その分周比に対して上記位相同期ループがロックアップした状態で電圧制御発振器17に与えるべき制御電圧の値とが予め対応づけられて登録される。
【0036】
プロセッサ20は、上記所望の発振周波数を新たに設定し、あるいは更新するべき契機を識別すると、以下の処理を行う。
(1) 新たな発振周波数に対応する分周比(以下、「特定の分周比」という。)R_targetを特定する(図2ステップS1)。
(2) この時点で可変分周器18に与えられている分周比(以下、「復旧分周比」という。)をセーブし、上記特定の分周比を可変分周器18に与える(図2ステップS2)
【0037】
(3) 上記特定の分周比に対応してテーブル20Tに登録されている制御電圧の値V_targetをD/A変換器15に与える(図2ステップS2)
(4) 既述の二値情報の理論値を「1」に切り替える(図2ステップS3)
【0038】
したがって、このようなD/A変換器15の出力の電位は、位相比較器11およびチャージポンプ13に代わって与えられ、テーブル20Tの参照によって得られた値(V_target)となる。
【0039】
ロックアンプ監視部12は、位相比較器11によって出力される誤差信号のレベルおよび瞬時値が所定の小さなレンジ内に収束する状態(以下、「ロックアップ状態」という。)を監視する。
【0040】
一方、プロセッサ20は、ロックアップ監視部12を介して上記位相同期ループがロックアップ状態となるまで待機し(図2ステップS4)、このようなロックアップ状態を識別すると、既述の二値情報の理論値を「0」に戻す(図2ステップS5)ことによって、スイッチ14によって開放されていた位相同期ループを閉じる。
【0041】
すなわち、本実施形態では、テーブル20Tには、発振周波数の切り替えに応じて位相同期ループの応答の下で電圧制御発振器17に与えられるべき制御電圧が予め所定の精度で格納される。また、発振周波数の切り替えが行われる過程では、このようなテーブル20Tの参照によって得られた制御電圧が位相同期ループを介することなく電圧制御発振器17に与えられ、その制御電圧に応じた可変分周器18および位相比較器11の過渡応答が収束する時点で、位相同期ループが再度形成される。
【0042】
したがって、本実施形態によれば、以下に示すハードウェアが備えられることなく、既存の位相同期ループのハードウェアが有効に活用されることにより、ロックアップタイムの短縮が精度よく安価に実現される。
【0043】
(1) 発振周波数を計測する周波数カウンタ
(2) 電圧制御発振器17に入力される制御電圧をディジタル変換するA/D変換器
【0044】
[第二の実施形態]
以下、図1および図2を参照して本発明の第二の実施形態の動作を説明する。本実施形態の特徴は、テーブル20Tの内容が更新される処理の手順点にある。
【0045】
プロセッサ20は、周波数シンセサイザ10によって出力信号が生成されなくてもよい状態、あるいは発振周波数が如何なる値であってもよい状態(以下、「特定の状態」という。)を識別すると、このような特定の状態が継続する期間に亘って、既述の二値情報の理論値を「1」に設定して位相同期ループを開放しつつ(所定の頻度で)反復して以下の処理(以下、「学習処理」という。)を可能とする(図2ステップS6)。
【0046】
なお、このような状態では、位相同期ループは開放されているが、ロックアップ監視部12は、プロセッサ20がD/A変換器15を介してローパスフィルタ16に与える「代替の制御電圧」に対するその位相同期ループの仮想的なロックアップの程度を逐次プロセッサ20に通知する。
【0047】
また、上述した「特定の状態」としては、例えば、周波数シンセサイザ10が移動通信の端末装置に組み込まれている場合には、所定のチャネル制御の手順に基づいて特定される「非通話状態」や「待ち受け状態」が該当する。
【0048】
(1) 電圧制御発振器17によって生成されるべき周波数の内、1つの周波数(以下、「特定の周波数」という。)を特定し、かつその「特定の周波数」に対応して可変分周器18に与えられるべき分周比(以下、「特定の分周比」という。)を特定する(図2ステップS10)。
(2) この時点において可変分周器18に与えられている分周比(以下、「復旧分周比」という。)を主記憶上の特定の領域にセーブし、かつ上記「特定の分周比」を可変分周器18に設定する(図2ステップS11)。
【0049】
(3) 発振周波数の全てをカバーするためにチャージポンプ13(またはD/A変換器15)によって出力されるべき制御電圧の値域の全域に亘って、例えば、その制御電圧の値を中点法に基づいて切り替えながら、ロックアップ監視部12を介して既述の仮想的なロックアップの程度が最大となる制御電圧の値V_targetを求める(図2ステップS12)。
【0050】
(4) テーブル20Tのレコードの内、上記「特定の分周比」に対応したレコードの値をこのような制御電圧の値V_targetの値で更新する(図2ステップS13)。
(5) 「特定の周波数」を他の「特定の周波数」に切り替え、上記(1)〜(4)の処理を反復する(図2ステップS14)。
【0051】
なお、プロセッサ20は、上記処理(1)〜(4)に並行して「特定の状態」から脱却したか否かを監視し(図2ステップS7)、このような脱却を識別したときには、以下の処理を行うことにより、学習処理の中断を図る(図2ステップS8)。
【0052】
(a)再び「特定の状態」となったときに行われる学習処理の再開に必要な情報をセーブする。
(b)可変分周器18に「復旧分周比」を設定し、既述の二値情報の理論値を「0」に復旧させることによって位相同期ループを閉じる。
【0053】
すなわち、既述の第一の実施形態と同様にハードウエアの構成が従来例より大幅に簡略されているにもかかわらず、テーブル20Tに登録された制御電圧の値は、「特定の期間」には、位相同期ループの特性の変化やバラツキが反映された値に効率的に更新されるので、コストが増加することなく安定にロックアップタイムの短縮が図られる。
【0054】
したがって、本発明が適用された電子機器では、従来例より小型化および節電が図られ、しかも、実装面における自由度に併せて、価格性能比および信頼性が高められる。
【0055】
なお、本実施形態には、既述の中点法が適用されているが、このような中点法は、例えば、ニュートン−ラプソン法のように、「制御電圧−発振周波数の対応関係を示す既知の関数の値が所望の発振周波数となる収束点」が高速に求められるアルゴリズムで代替されてもよい。
【0056】
また、上述した「特定の状態」は、本発明が適用された電気機器においてその稼動状況に応じて自動的に識別される状態に限らず、例えば、その電子機器の操作として指定される状態であってもよい。
【0057】
さらに、上述した「学習処理」の開始に際してセーブされるべき情報と、その「学習処理」の中断に際してセーブされるべき情報とについては、既述の情報に限定されず、本発明が適用された電子機器に適し、かつ位相同期ループを介する周波数合成の開始や再開と、その位相同期ループのロックアップタイムの短縮との何れも正常に実現するために必要であるならば、如何なる情報が含まれてもよい。
【0058】
[第三の実施形態]
以下、図1および図2を参照して本発明の第三の実施形態の動作を説明する。本実施形態の特徴は、図1に破線および点線で示すように、位相同期ループ上に配置された要素の内、温度に対する特性の変動が最も大きい要素(例えば、電圧制御発振器17)に密に温度結合する温度センサ19が備えられ、その温度センサ19の出力がプロセッサ20の対応する入力ポートに接続された点にある。
【0059】
プロセッサ20は温度センサ19を介して電圧制御発振器17の周辺の温度の変化率を監視し、その変化率が規定の閾値以上である期間には、既述の学習処理の実行を規制する(図2ステップS20)。
【0060】
すなわち、テーブル20Tに登録された制御電圧の値は、上記温度が変化したために、電圧制御発振器17の発振周波数が変動している可能性が高い期間には、更新されない。
【0061】
したがって、本実施形態によれば、温度の変化に起因して位相同期ループの特性がシフトし、あるいは変動している期間にテーブル20Tの内容が更新され、そのためにロックアップが無用に遅延することが回避される。
【0062】
なお、温度センサ19は、電圧制御発振器17に密に熱結合する位置に配置されているが、位相同期ループ上に配置された複数の素子に対して個別に密に熱結合する温度センサであってもよい。
【0063】
また、これらの温度センサの一部は、周波数シンセサイザ10や位相同期ループに対して密に熱結合しなくてもよく、例えば、本発明が適用された電子装置の筐体の温度、その筐体の内部または外部の温度の何れを計測する温度センサであってもよい。
【0064】
さらに、上述した第二および第三の実施形態では、「学習処理」は、既述の温度センサ19によって計測された温度毎に対応した処理として実現され、かつテーブル20Tには、図4に示すように、異なる発振周波数f1からfnおよび温度T1〜Tnに対応して制御電圧の値V11〜V1n、V21〜V2n、・・・、Vn1〜Vnnが登録されてもよい。
【0065】
また、「学習処理」がこのように温度毎に行われる場合には、上述した第一の実施形態にも、温度センサ19が付加され、その温度センサ19によって計測された温度に対応してテーブル20Tに登録されている制御電圧の値がロックアップタイムの短縮に適用されてもよい。
【0066】
さらに、このようなテーブル20Tに登録される離散的な温度の精度が温度センサ19を介して計測される温度の精度を下回っている場合には、そのテーブル20Tに登録された温度の値に対応して登録された制御電圧の値は、所望の温度に対応した補間処理の下で算出されてもよい。
【0067】
また、テーブル20Tに登録される離散的な温度の値や精度は、プロセッサ20の主記憶の記憶容量の余剰分、あるいはそのプロセッサ20の処理量の余剰分に適した値に設定されてもよい。
【0068】
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0069】
以下、本願に開示された発明を整理し、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段」の欄の記載に準じた様式により列記する。
【0070】
[請求項1] 出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、前記所望の周波数となり得る目標周波数毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録されたテーブルと、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数に対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する初期値設定手段と、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出するロックアップ検出手段と、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する位相同期再開手段とを備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【0071】
このような構成の周波数シンセサイザでは、出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、テーブルには、前記所望の周波数となり得る目標周波数毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録される。初期値設定手段は、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数に対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する。ロックアップ検出手段は、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出する。位相同期再開手段は、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による初期値の供給を規制する。
【0072】
すなわち、テーブルには、所望の周波数の切り替えに応じて位相同期ループによって可変周波発振器に供給されることが望ましい制御情報が予め登録される。その周波数の切り替えが行われる過程では、このようなテーブルの参照によって得られた制御情報が位相同期ループを介することなく可変周波発振器に与えられ、この制御情報に応じた位相同期ループの過渡応答が収束したときに、位相同期ループが再度形成される。
【0073】
したがって、出力信号の周波数を計測する手段と、可変周波発振器に上記制御情報を引き渡す手段とが備えられることなく、位相同期ループが有効に活用され、ロックアップタイムの短縮が精度よく実現される。
【0074】
[請求項2] 請求項1に記載の周波数シンセサイザにおいて、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新するテーブル更新手段を備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【0075】
このような構成の周波数シンセサイザでは、請求項1に記載の周波数シンセサイザにおいて、テーブル更新手段は、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新する。
【0076】
すなわち、テーブルに登録された初期値は、請求項1に記載の周波数シンセサイザと同様に構成が従来例より大幅に簡略されているにもかかわらず、位相同期ループの特性の変化やバラツキが反映された値に効率的に更新される。
【0077】
したがって、コストが増加することなく安定にロックアップタイムの短縮が図られ、かつ本発明が適用された電子機器では、従来例より小型化が可能となり、しかも、実装面における自由度に併せて、価格性能比および信頼性が高められる。
【0078】
[請求項3] 出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記同期位相ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、前記周波数シンセサイザの特定の部位、または前記周波数シンセサイザが配置された領域の温度を計測する温度計測手段と、前記所望の周波数となり得る目標周波数と前記温度との組み合わせ毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録されたテーブルと、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数と前記温度計測手段によって計測された温度とに対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する初期値設定手段と、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出するロックアップ検出手段と、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する位相同期再開手段とを備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【0079】
このような構成の周波数シンセサイザでは、出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、温度計測手段は、前記周波数シンセサイザの特定の部位、または前記周波数シンセサイザが配置された領域の温度を計測する。テーブルには、前記所望の周波数となり得る目標周波数と前記温度との組み合わせ毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録される。初期値設定手段は、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数と前記温度計測手段によって計測された温度とに対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する。ロックアップ検出手段は、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出する。位相同期再開手段は、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する。
【0080】
すなわち、テーブルには、所望の周波数の切り替えに応じて位相同期ループによって可変周波発振器に供給されることが望ましい制御情報が、その周波数と上記温度とに対応付けられて予め登録される。その周波数の切り替えが行われる過程では、このようなテーブルの参照によって得られた制御情報が位相同期ループを介することなく可変周波発振器に与えられ、この制御情報に応じた位相同期ループの過渡応答が収束したときに、位相同期ループが再度形成される。
【0081】
したがって、出力信号の周波数を計測する手段と、可変周波発振器に上記制御情報を引き渡す手段とが備えられることなく、位相同期ループが有効に活用されることにより、ロックアップタイムの短縮が広範な温度に亘って精度よく実現される。
【0082】
[請求項4] 請求項3に記載の周波数シンセサイザにおいて、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数と前記温度計測手段によって計測された温度との組み合わせ毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新するテーブル更新手段を備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【0083】
このような構成の周波数シンセサイザでは、請求項4に記載の周波数シンセサイザにおいて、テーブル更新手段は、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数と前記温度計測手段によって計測された温度との組み合わせ毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新する。
【0084】
すなわち、テーブルに登録された初期値は、請求項4に記載の周波数シンセサイザと同様に構成が従来例より大幅に簡略されているにもかかわらず、位相同期ループの特性の変化やバラツキが反映された値に効率的に更新される。
【0085】
したがって、コストが増加することなく安定にロックアップタイムの短縮が図られ、かつ本発明が適用された電子機器では、従来例より小型化が可能となり、しかも、実装面における自由度に併せて、価格性能比および信頼性が高められる。
【符号の説明】
【0086】
10 周波数シンセサイザ
11 位相比較器
12 ロックアップ監視部
13 チャージポンプ
14 アナログセレクタ
15 D/A変換器
16 ローパスフィルタ(LPF)
17 電圧制御発振器(VCO)
18 可変分周器
19 温度センサ
20 プロセッサ
20T テーブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、前記所望の周波数となり得る目標周波数毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録されたテーブルと、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数に対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する初期値設定手段と、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出するロックアップ検出手段と、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する位相同期再開手段とを備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項2】
請求項1に記載の周波数シンセサイザにおいて、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新するテーブル更新手段を備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項3】
出力信号と基準信号との位相差を圧縮する位相同期ループに配置され、前記位相同期ループが供給する制御情報に対応した所望の周波数で前記出力信号を生成する可変周波発振器を有する周波数シンセサイザにおいて、前記周波数シンセサイザの特定の部位、または前記周波数シンセサイザが配置された領域の温度を計測する温度計測手段と、前記所望の周波数となり得る目標周波数と前記温度との組み合わせ毎に、前記可変周波発振器に与えられるべき制御情報の初期値が予め登録されたテーブルと、前記所望の周波数が切り替えられたときに、前記位相同期ループの応答を規制し、かつ最新の所望の周波数と前記温度計測手段によって計測された温度とに対応して前期テーブルに登録されている初期値を前記可変周波発振器に供給する初期値設定手段と、前記位相同期ループのロックアップを前記位相差に基づいて検出するロックアップ検出手段と、前記ロックアップが検出されたときに、前記位相同期ループの応答の規制を解除し、かつ前記初期値設定手段による前記初期値の供給を規制する位相同期再開手段とを備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項4】
請求項3に記載の周波数シンセサイザにおいて、外部から指定される期間に、前記位相同期ループによる前記制御情報の供給を規制し、前記目標周波数と前記温度計測手段によって計測された温度との組み合わせ毎に、前記ロックアップの精度を最大化するアルゴリズムにより前記制御情報を可変し、前記テーブルに登録されている初期値を前記アルゴリズムによる前記制御情報の収束値で更新するテーブル更新手段を備えたことを特徴とする周波数シンセサイザ。




【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−244359(P2011−244359A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116818(P2010−116818)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】