説明

周波数逓倍遅延ロックループ

【課題】周波数逓倍回路を提供する。
【解決手段】周波数逓倍回路(100)は、遅延ラインとクロック合成回路(TOG)を備える。遅延ラインは、その一端でリファレンスクロック(102)を受けて、一周期に一致した複数の遅延素子(101)からクロックタップ出力を発生させる。クロック合成回路(TOG)は、一対のタップ出力に応答して、各タップ出力から出力クロックパルスの立ち上がり及び立ち下がりエッジを発生させる。出力クロックの周期は入力クロックの周期よりも短い。遅延ラインは、遅延素子(101)の周期に一致するように遅延ロックループに含まれてもよい。所定数の遅延段タップ出力に接続された入力を有し、相補出力を供給する、複数の合成回路セル(TOG)が設けられる。セレクタ(106)は、位相検出器(112)からの選択制御信号に応答して、合成セルの1つに係る一対の相補出力のうちの一方から出力を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リファレンスクロック信号から高速クロックを発生させるためのクロック発生回路の分野に関し、さらに詳しく言えば、遅延ロックループ(DLL)を組み込んだ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路やマルチチップモジュールなどの比較的自己完結したタイプの多くの電子サブシステムにおいて、動作を同期させるために内部クロックが使用される。多くの場合、内部クロックの周波数は、サブシステムとの間でのデータおよび制御情報の転送を同期させることに使用される外部インタフェースクロックの周波数よりも高い。インタフェースの効率的な低遅延動作のために、内部クロックとより低速の外部インタフェースクロックとの間に規定の位相および周波数の関係を確立することが必要とされる場合が多い。例えば、一般的に、内部クロック信号の周波数をインタフェースクロックの周波数のちょうど2倍にすることが要求される。より厳しい制限として、インタフェースクロックの立ち上がりエッジを内部クロックの立ち上がりエッジと1つおきに一致させることが要求される場合がある。
【0003】
インタフェースクロックがサブシステムの外部で発生される場合、サブシステム内でより高い周波数の内部クロック信号を合成し、それと同時に、所望の位相および周波数の関係を満たす必要がある。また、内部クロックは、インタフェースクロックの位相および/または周波数の変動を追跡する必要もある。
【0004】
多くの場合、適切な内部クロックをより遅いインタフェースクロックに基づいて合成することは、サブシステム内の位相ロックループ回路、すなわちPLL回路を用いて行われる。これまで多くのPLL実装が当業界では提供されてきた。一般的に、PLL方式では、外部インタフェースクロックは、内部クロック信号を発生するPLLにリファレンスクロック入力を与える。内部クロック信号を適切に分割した信号(またはその遅延信号)が、PLLへのローカルフィードバックとして働く。このような手法の典型例が、Young等の特許文献1およびその添付書類である非特許文献1に開示されている。これらの文献に開示されているPLLベースのクロック発生器は、位相周波数検出器、チャージポンプ、ループフィルタ、および電圧制御発振器(VCO)とを含み、これにより50%デューティサイクルを有する内部クロックが発生される。VCOは、外部クロック周波数の2倍で動作し、二分割(divide-by-2)回路を使用して、マイクロプロセッサの内部で使用する50%デューティサイクル内部クロックを正確に発生する。Conary等の特許文献2に、PLLクロック発生手法の別の例が提示されている。この特許文献では、選択的に、システムバスの速度で動作するか、またはバス速度の倍数の速度で動作するマイクロプロセッサが開示されている。特に、マイクロプロセッサコアは、マイクロプロセッサ内での動作を制御するためのクロック信号を発生するPLLを用いることにより、アドレス/データバスと同じ周波数または2倍の周波数で動作する。
【0005】
上述した特許文献1及び2において、外部インタフェースクロックは、連続的な自走クロックであり、この連続的な自走クロックは、通常、サブシステム上の所定の場所に設けられた水晶発振器で発生され、マイクロプロセッサ、メモリおよび他の構成要素に送られる。その後、PLLベースのクロック発生システムが用いられて、内部クロックを発生する。しかしながら、インタフェースクロックが断続的(すなわち、非連続的)である場合であって、かつ、インタフェースクロックを再び検出するとすぐにインタフェースクロックと内部クロックとの間に所望の位相および周波数の関係を回復する必要がある場合においては、一般的に、PLLベースのクロック発生システムは不適切である。さらに、内部クロックがインタフェースリファレンスクロックの高周波位相ジッタを正確に追跡する必要がある場合においても、PLLは不適切である。
【0006】
より一般的に、今日のほぼディジタルのメモリ設計環境において、アナログPLLは多くの一般的な欠点を有する。第1に、PLLはアナログ構成要素を用いているが、アナログ構成要素は通常、直流バイアス電流を必要とすることに起因して、ディジタル構成要素よりも実質的に多くの電力を消費する。第2に、最近の傾向として、高密度メモリの用途において電力消費量を減少させるために電源電圧を低減する方向にあるが、この傾向は、PLLのアナログ構成要素が比較的高い電源電圧を必要とすることに反している。第3に、PLLのロック状態の達成にかかる時間の長さは、ジッタを最小限に抑えるように大きな閉ループ時定数が必要なため、比較的長い。一般的に、メモリ、マイクロプロセッサおよびASICなどのディジタルシステムにおいて、これらのタイプのPLLは、ほぼディジタルの設計では不要なアナログ設計の複雑性を持ち込むため、最近では避けられている。
【0007】
遅延ロックループ(DLL:Delay Locked Loop)を使用することにより、クロックデータを同期させる別のアプローチがとられてよい。従来のDLL回路は、アナログPLLに代わるディジタル代替物として業界で使用されてきた。DLL回路は、通常、複数のディジタル遅延素子からなるタップ付きディジタル遅延ラインから構成される。タップ出力は、入力クロックの適切な位相遅延を選択して内部回路に供給するように使用されるマルチプレクサ回路に入力される。内部クロックは、PLLの位相検出器に機能的に類似した位相検出器にもフィードバックされる。Foss等の特許文献3(MOSAID Technologies Inc.)に、この構造の一例が開示されている。Abousiedoの特許文献4(MOSAID Technologies Inc.)に、別のDLL構成が開示されている。この構造では、折り畳み遅延ラインの実装が用いられ、詳しくは、遅延ラインを全遅延長の約半分に折り畳み、遅延ラインの一方に進む部分と他方に戻る部分との間に分路接続が設けられる。分路接続は、所望のクロックを内部に分配するように正しいタップ位置を選択するシフトレジスタにより制御される。
【0008】
最近では、高速メモリインタフェース回路により、DLLベースの内部クロック発生手法がさらに改良されてきた。特に、Lee等の特許文献5に、差動チャージポンプと位相シフタとを用いた高帯域メモリインタフェースの応用が提示されている。このアプローチは、かなり頑健であるが、差動チャージポンプ、デューティサイクル補正増幅器および位相ミキサなどの多数の複雑なアナログ構成要素を用いるアナログ解決法の1つであるため、上述したように、ディジタルドメインでアナログ回路を実装するときと同じ一般的な欠点を有することになる。非特許文献2において、Gillingham等により、高帯域メモリインタフェース回路において使用するDLLの改良されたディジタル実装が提示されている。
【0009】
この回路において、遅延ロックループは、5nsのリファレンスクロックにロックして、32個の等間隔の出力を与える。固定遅延素子を備えた単純なDLLを用いる場合、温度または電圧の変動に起因してDLLが1つの遅延素子から別の遅延素子へとジャンプするため、動作中にジッタが生じることになる。この問題は、32段が常に5ns遅延を発生するように各ユニットの遅延段の遅延を制御することにより解消される。図1に示す7ビット電流出力DACが、遅延段にリファレンス電流を与える。DACは、プロセス、温度および電圧の変動にわたったコストと遅延の解決を与える非線形伝達関数を有する。演算回路は、以下のように説明されてよい。初期化中、32段遅延ラインから、リファレンスクロックと一致する単一のタップが選択される。これを仮想0度タップと呼ぶ。普通、入力バッファとクロック分配の遅延を補償するために、遅延のリードとして数段が使用されてよい。初期化時に、この遅延のリードの電流制御はミッドレンジに設定されるため、動作中に温度または電圧が変動すると、遅延のリードは、リファレンスクロックと同期して仮想0度タップを維持するように調節される。したがって、32段遅延ラインは、リファレンスクロックの1つの全周期に位相が合わせられ、外部クロックに対して一定の位相で維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,412,349号明細書。
【特許文献2】米国特許第5,634,117号明細書。
【特許文献3】米国特許第5,796,673号明細書。
【特許文献4】米国特許第5,777,501号明細書。
【特許文献5】米国特許第5,614,855号明細書。
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「マイクロプロセッサ用の5〜110MHzレンジをもつPLLクロック発生器(A PLL Clock Generator with 5 to 110 MHz Range for Microprocessors)」,IEEE JSSC Vol.27,No.11,Nov.1992,pg.1599−1606。
【非特許文献2】「ディジタル較正DLLを備えた800メガバイト/秒 72メガビットSLDRAM(A 800Mbyte/sec 72Mbit SLDRAM with Digitally Calibrated DLL)」,ISSCC February 1999。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的に、ほとんどのDLLベースの内部クロック発生手法は、位相ジッタを正確に追跡でき、位相を即座に回復できるが、インタフェースクロック周波数と同じ内部クロック周波数を発生するように制限が課せられている。
【0013】
したがって、低電力、高帯域の用途の分野において、位相ジッタを正確に追跡でき、断続的なインタフェースクロックを再び検出すると即座に位相を回復でき、インタフェースクロックまたは外部クロックの倍数である内部クロックを発生することもできるディジタル遅延ロックループの実装が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明により、
(a)全体としてリファレンスクロックの一周期に一致するように設けられた複数の遅延素子を備えた遅延ラインであって、リファレンスクロックを一端で受けて、遅延素子のそれぞれからクロックタップ出力を発生する遅延ラインと、
(b)それぞれ対になった複数のタップ出力に応答して、対のそれぞれから出力クロックパルスの立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジを発生させるクロック合成回路とを具備し、出力クロックの周期が入力クロックの周期よりも小さいものである周波数逓倍回路が提供される。
【0015】
本発明は2つの変形例を含む。第1の変形例を、デューティサイクル補正を用いない周波数二倍DLLと呼ぶのに対して、第2の変形例を、デューティサイクル補正を用いた周波数二倍DLLと呼ぶ。これらの2つの変形例は、TOGセルの特定の実装と、一周期に一致したN段DLLへのこれらのセルの接続方法とに関して異なる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1(a)】従来技術による遅延ライン段を通過する際の遅延を制御するディジタル符号化制御回路を用いた従来のDLLの略図的ブロック図である。
【図1(b)】図1(a)に示すDLLのリファレンス入力クロックと(N−1)段目のタップ出力のクロック周期を示すタイミング図である。
【図2(a)】本発明の第1の実施形態のブロック図である。
【図2(b)】図2(a)の実施形態で使用される2入力セルのうちの1つを示す図である。
【図3】図2(a)の実施形態の動作を示すタイミング図である。
【図4(a)】本発明の第2の実施形態のブロック図である。
【図4(b)】図4(a)の実施形態において使用される4入力セルのうちの1つを示す図である。
【図4(c)】図4(b)に示す4入力セルの詳細図である。
【図5】図4(a)の実施形態の動作を示すタイミング図である。
【図6】図4(a)に示す本発明の第2の実施形態を用いた、全体にわたるDLLベースのクロック発生手法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好適な実施形態の上記の特徴および他の特徴は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明においてさらに明らかになるであろう。
【0018】
図1(a)を参照すると、上述の非特許文献2に開示されている従来の遅延ロックループ(DLL)が示されている。このDLLは、全体としてリファレンス入力クロックの一周期に一致したN段DLL9から構成され、すなわち、TCPをリファレンス入力クロック周期とするとき、0段目〜N−1段目のタップ位置出力10のそれぞれは、TCPのTCP/N部分を表す。このDLLは、直列に接続されたN個の同一の遅延段に基づいており、最後の遅延段出力TAP[N−1]は、この最後の遅延段出力とリファレンス入力クロック11とを比較する位相検出器13に入力される。位相検出器13は、TAP[N−1]出力がリファレンス入力クロック11より進んでいるか、それとも遅れているかを表す2つの制御信号LEADおよびLAGを出力し、これらの信号を遅延制御ブロック12への入力として用いる。各遅延素子を通過する際の伝搬遅延は、電流や電圧などのアナログ量に基づいて遅延制御ブロック12により発生される制御信号を用いることにより、またはディジタル符号化された値を用いることにより調節可能である。このような電流または電圧に係るアナログ技術は公知のものである。最後の遅延段TAP[N−1]からの出力の立ち上がりエッジと最初の遅延段に供給されるリファレンス入力クロックとの間の位相差をできるだけ小さくするように、全N段の遅延は、位相検出器と協働する遅延制御ブロックにより同一に設定される。最初のDLLロック捕捉後に静止状態に達すると(図示していないが、当業者に公知のものである)、N個の遅延段のそれぞれを通過する際の伝搬遅延であるtPD[段]は、TCP/Nに非常に近くなる。遅延制御ブロックと位相検出器が動作した結果、図1(b)に示すように、TAP[N−1]の出力とTAP[0]の出力との間の遅延は、入力リファレンスクロックのクロック周期とほぼ同じものである。
【0019】
図2(a)に、本発明の第1の実施形態による周波数二倍DLLが示されている。(N−1)段目のタップ出力TAP[N−1]を与えるために、一周期に一致したN段DLL(Nは4の倍数)が使用されており、各遅延段20は、1つのTAP[i]出力を与える。最初のN/2個の遅延段出力は、図2(a)に示されているように、N/4個の2入力タップ出力発生器セル、すなわち「TOG」セルに接続される。TPDを均一に保つために、TOGセルに接続されない残りのN/2個の遅延段出力には、ダミーの負荷25が接続される。
【0020】
さらに詳しく言えば、2入力TOGセルにおけるI(同相または0度)入力およびQ(直交位相または90度)入力は、互いにN/4段だけ隔てた2つの遅延素子にそれぞれ接続される。例えば、N=32であれば、TOGセル21の入力には、TAP[0]およびTAP[8]が接続され、TOGセル22の入力には、TAP[1]およびTAP[9]が接続され、以下同様に続き、最後のTOGセル23の入力には、TAP[7]およびTAP[15]が接続される。各TOGセルにより、2つの出力である真値(T)および補数値(C)が発生される。例えば、上記からの構成要素の番号付与方法に従うと、TOGセル21では出力PHI[0]およびPHI[N/4]を発生し、TOGセル22では出力PHI[1]およびPHI[N/4+1]を発生し、以下同様に続き、最後のTOGセル23では出力PHI[N/4−1]およびPHI[N/2−1]を発生する。N/4個のTOGセルのPHI[i]出力は、互いに360/(N/2)度間隔をおき、リファレンス入力クロックの2倍の周波数を有する、内部発生クロック信号のN/2個の異なる位相を表す。以下にさらに詳細に記載するように、これらの位相出力を用いて、所望の内部発生クロックを内部回路に与える。
【0021】
図2(b)は、図2(a)において使用した2入力TOGセル23のうちの1つを示す。図3のタイミング図に示すように、TOGセルは、I(同相出力)の立ち上がりおよび立ち下がりエッジにセットされ、Q(直交位相出力)の立ち上がりおよび立ち下がりエッジにリセットされている相補出力をもつSRフリップフロップ26を備える。
【0022】
以下、図3を参照しながら、図2(a)および図2(b)に示す実施形態の動作について記載する。DLLイネーブル信号(図示せず)に応答して、リファレンス入力クロックの立ち上がりエッジであるクロックエッジAにおいて、周波数が二倍された出力クロックの発生が開始される。タップiのI(同相または0度)タップ位置は、立ち上がりエッジAに応答して、クロックエッジBにおいて立ち上がる。TAP[i]に関連付けられたTOGセル内において、I入力は、TOGセルにおいてSRフリップフロップをセットするためのセット信号S1を発生し、このセット信号S1は、立ち上がりエッジCにおいて生じる。TOGセルのT出力は、立ち上がりエッジDにおいて開始するクロック信号PHI[i]を出力し、これはリファレンス入力クロックの2倍の周波数をもつ。同じTAP[i]に関連付けられたTOGセルのC出力は、T出力の論理補数値PHI[i+N/4]を出力し、これはPHI[i]と同じ周波数をもつ。
【0023】
また、立ち上がりエッジBから、Q出力TAP[i+N/4]が開始されるが、これは、リファレンスクロックがTAP[i]からTAP[i+N/4]までの遅延を経た後にこの出力が生じるためである。立ち上がりエッジB−C−Dに対して上述したものと同様のシーケンスが、立ち上がりエッジBにトリガされて立ち上がりエッジE−F−Gとして生じる。図から分かるように、シーケンスB−C−DおよびE−F−Gはともに、経路にある固定数の遅延素子に基づく内部的に固定された遅延を有し(遅延素子間の温度およびプロセスの変動を除く)、両方の経路は、リファレンス入力クロックの立ち上がりエッジAにより開始される。したがって、クロックエッジAが立ち上がると、2つのシーケンスB−C−DおよびE−F−Gは独立して伝搬する。
【0024】
引き続き、リファレンス入力クロックの立ち下がりエッジであるエッジHにおいて、同様のシーケンス動作がセットされる。立ち上がりエッジHは、立ち下がりエッジI−J−KをトリガするとともにL−M−Nをトリガする。ここでも、立ち上がりエッジAの場合と同様に、リファレンス入力クロックの立ち下がりエッジHが生じると、シーケンスI−J−KおよびL−M−Nは独立して伝搬することに留意されたい。しかしながら、リファレンス入力クロックのデューティサイクルが50%でない場合、すなわち、立ち上がりエッジAと立ち下がりエッジHとの間の持続時間が、立ち下がりエッジHとその後の立ち上がりエッジZとの間の遅延に等しくない場合、関連するシーケンスにゆがみが生じ、結果的に得られる出力クロックTおよびCもまた、50%デューティサイクルをもたなくなる。例えば、AとHとの間の持続時間がHとZとの間よりも長ければ、出力クロックTの立ち上がりエッジDと立ち下がりエッジGとの間の遅延が対応して広くなり、立ち上がりエッジKと立ち下がりエッジNとの間の遅延が縮まる。したがって、上述した実装例は、デューティサイクル補正を用いないものであると考えられ、これは、入力クロックのデューティサイクルが50%を超える変動または50%を下回る変動があると、周波数が二倍された出力クロックの周期は偶数番目と奇数番目のパルス間および奇数番目と偶数番目のパルス間において不均一になるためである。
【0025】
図4(a)は、デューティサイクル補正を用いた周波数二倍DLLの本発明の代替実施形態を示す。図3(a)を参照して上述した第1の実施形態と同様に、(N−1)段目の出力TAP[N−1]を与えるために、一周期に一致したN段DLL(Nは4の倍数)が使用されており、各遅延段30は、1つのTAP[i]出力を与える。しかしながら、この代替実施形態では、N/4−1個のTOGセルは、1つのセルにつき2つの入力の代わりに4つの入力を有する。さらに詳しく言えば、N個の遅延段すべての出力が、N/4個のTOGセルに接続される。各TOGセルへの0度、90度、180度および270度の入力は、N/4段ずつ隔てて並んだ4つの遅延素子の出力にそれぞれ接続される。例えば、TOGセル0の0度入力にはTAP[0]が接続され、90度入力にはTAP[N/4]が接続され、180度入力にはTAP[2N/4]が接続され、そして270度入力にはTAP[3N/4]が接続される。さらに、N/4個のTOGセル31,32,...33のすべての真値(T)および補数値(C)の出力PHI[0]...PHI[N/2−1]は、互いに720/N度間隔をおき、リファレンス入力クロックの2倍の周波数を有する、発生されたクロック信号のN/2個の異なる位相を表す。
【0026】
図4(b)は、2つのセット信号S1およびS2と、2つのリセット信号R1およびR2と、2つの相補出力TおよびCとを有するSRフリップフロップを備える4入力TOGセルを示し、ここで、相補出力TおよびCは、0度(S1)および180度(S2)入力の立ち上がりエッジでセットされ、90度(R1)および270度(R2)入力の立ち上がりエッジでリセットされる。
【0027】
図4(c)は、図4(a)の実施形態で使用したTOGセルの1つの詳細な回路図である。TOGセルは、0_deg、90_deg、180_degおよび270_deg入力を有し、これらの入力は、立ち上がりエッジパルス発生器40を経由してセット/リセットNANDゲート41および42へ送られる。NANDゲート41および42の出力は、パスゲート43および44のSPULSおよびRPULS入力にそれぞれ接続されるとともに、インバータ45および46にそれぞれ接続される。パスゲート43および44は、NMOSゲートをVDDに結線し、PMOSゲートをVSSに結線することでイネーブルにされている。パスゲート43および44のそれぞれの出力RNGおよびSNGは、NMOSトランジスタ47および48のゲートに接続され、NMOSトランジスタ47および48のソースおよびドレインは、VSSとノードINおよびIPとにそれぞれ接続される。これらの2つのノードINおよびIPは、2つの交差結合したインバータ49および50によりラッチされ、インバータ53および54を経由して出力TおよびCにそれぞれ接続される。また、ノードINおよびIPにはプルアップPMOSトランジスタ51および52が接続され、トランジスタ51および52のソースおよびドレインは、VDDとノードINおよびIPとにそれぞれ接続され、トランジスタ51および52のゲートには、インバータ45および46を経由してNANDゲート41および42の出力がそれぞれ供給される。
【0028】
パスゲート43の目的は、インバータ45の遅延を補償するように遅延を付加して、RNGおよびSPGのラインでの遷移をより厳密に一致させることである。同様に、パスゲート44の目的は、インバータ46の遅延を補償するように遅延を付加して、SNGおよびRPGの遷移をより厳密に一致させることである。
【0029】
以下に、図4(c)および発生した信号のタイミングを示す図5を参照して、4入力TOGセルの動作について記載する。内部クロック発生シーケンスが始まる前、立ち上がりエッジ検出器内のNANDゲートへの入力のうちの少なくとも1つの論理が低であるため、NANDゲート41および42へのすべての入力の論理は高である。リファレンスクロック信号の立ち上がりエッジAに応答して、0度TAP[I]信号には立ち上がりエッジBが生じ、これは立ち上がりエッジパルス発生器40に入力され、その後、この発生器は、NANDゲート41に入力するための論理低出力を発生する。このように、NANDゲート41への出力の論理が低であることにより、NANDゲート41から出力される信号の論理が高になり、この信号は図5のS1セットパルス信号Cを表す。NANDゲート41からのS1パルス出力は、パスゲート43を通過して、NMOS48をオンにした後、ノードINの電位をVSSに変化させる。交差結合したインバータ49および50のラッチ動作により、ノードIPおよびINのそれぞれの論理高および論理低が、インバータ53および54を経由して出力TおよびCにそれぞれ接続され、図5では、これらの出力を立ち上がりエッジD1および立ち下がりエッジD2として示す。
【0030】
i段目からN/4+i段目までを通過することによる遅延後、90度タップ出力TAP[N/4+i]には、立ち上がりエッジBに応答して立ち上がりエッジEが生じる。立ち上がりエッジEは、立ち上がりエッジパルス発生器40の90度入力として入力され、この発生器は、NANDゲート42に出力される論理低出力を発生した後、このNANDゲートは、図5において立ち上がりエッジFをもつリセットパルスR1を発生する。S1経路と同様に、NANDゲート42のR1パルス出力は、パスゲート44を通過してNMOS47のゲートへ進み、ノードIPの電位をVSSに変化させる。交差結合したインバータ49および50のラッチ動作により、出力TおよびCはインバータ53および54を経由してそれぞれ論理低および高にされ、これらは、図5では、立ち下がりエッジG1および立ち上がりエッジG2としてそれぞれ示す。これまでのところ、TおよびC出力の発生は、図3に示す手法に酷似しており、すなわち、立ち上がりエッジAが生じたときに、シーケンスA−B−C−D1/D2およびA−B−E−F−G1/G2は独立して伝搬することに留意されたい。図2(a)および図3に示す第1の実施形態と、図4(a)および図5に示す第2の実施形態の相違点は、出力クロック信号TおよびCの周期の後半部分の発生にある。出力TおよびCの周期の後半がリファレンス入力クロックの立ち下がりエッジであるエッジHにより開始されて、シーケンスI−J−KおよびL−M−Nを伝搬する図3とは異なり、図5に示すこの第2の実施形態では、リファレンスクロックの立ち下がりエッジであるエッジHは、シーケンスI−J−KおよびL−M−Nの発生に何ら影響を及ぼさない。これは、シーケンスI−J−Kが、立ち上がりエッジEに応答して固定的な内部遅延後に開始されるためであり、すなわち、180度タップ出力は、90度タップ出力に応答して発生されるためである。同様に、シーケンスL−M−Nは、上述したように立ち上がりエッジEに応答して発生される立ち上がりエッジIに応答して発生される。その結果、シーケンスA−B−C−DおよびA−B−E−F−GおよびA−B−E−I−J−KおよびA−B−E−I−L−M−N全体(概してA−N)は、リファレンス入力クロックの立ち下がりエッジHが生じるタイミングからは独立したものである。したがって、TOGセルのTおよびC出力で50%デューティサイクル出力を得るために、リファレンス入力クロックのデューティサイクルを50%にする必要はない。したがって、この第2の実施形態は、デューティサイクル補正されているものであり、これは、入力クロックのデューティサイクルが変動しても、周波数が二倍された出力クロックのパルス間隔またはデューティサイクルに影響を及ぼさないためである。
【0031】
本発明の上述した両方の実施形態において、TOGセルの伝搬遅延特性は、周波数が二倍された出力クロック波形の質に重要なものである。TOGセルに入るアクティブエッジと内部SRフリップフロップのセットまたはリセットとの間の遅延が、2つの入力または4つの入力に対して可能な限り近いものであることが重要である。また、TOGセルの真値および補数値の出力が、可能な限り同様のタイミングおよびスイッチング特性をもつことも重要である。図4(c)に示す実装例は、これらの所望のタイミング関連特性をすべて備えるものである。
【0032】
リファレンス入力クロックと周波数が二倍された内部クロックとの間の位相関係が重要である用途では、周波数二倍DLLからのN/2個の出力クロック位相が、N/2対1のマルチプレクサの入力に与えられてよい。位相検出器とMUX制御論理を追加することにより、N/2個のクロック位相出力から最も適切なクロック位相を選択することが可能である。図6に、メモリインタフェースASICで使用するための、本発明の第2の実施形態に係るデューティサイクル補正を用いた周波数二倍DLLのフルクロック発生手法の概要が、参照番号100によって、または遅延素子101の部分で示されている。この実装例では、N=64段であり、入力リファレンスクロック102は、公称100MHz(TCP=10.0ns)である。分解能は、遅延素子101の数に左右されることが分かる。DLLは、各位相出力が互いに720/64度または11.25度間隔をおいた、50%デューティサイクルの200MHzクロックの32個の位相104を発生する。32入力マルチプレクサ106が、32個の位相のうちの1つを選択して、クロックバッファ108とASIC内の分配ツリー110を駆動する。分配されたクロック110は、DLLにフィードバックされ、その位相は、位相検出器112を用いて、100MHzリファレンス入力クロック112と比較される。MUX制御ブロック114が、位相検出器112の出力を用いて32対1のマルチプレクサ106を制御して、入力リファレンスクロック102の立ち上がりエッジを、分配されたクロック110の1つおきの立ち上がりエッジと可能な限り厳密に一致させるようなセッティングを選択する。
【0033】
入力リファレンスクロック周波数の2倍よりも大きな倍数の周波数を有する内部クロックを発生させるように、本発明を拡張可能であることに留意されたい。図4(c)に示す4入力TOGに2つの入力をさらに追加し、その6つの入力を互いにN/6段だけ隔てたDLL遅延素子にそれぞれ接続することにより、デューティサイクル補正を用いたクロック三倍DLLが得られる。したがって、タップ入力は、0度、60度、120度、180度、240度および300度でオフセットされることになる。同様に、この方法は、8入力TOGセルと、互いにN/8段だけ隔てたDLL遅延素子への接続、すなわち、入力が互いに45度間隔で隔てられたものを用いることにより、デューティサイクル補正を用いたクロック4倍DLLにさらに拡張してもよい。さらに多数のファンインを備えたTOGセルを注意深く設計するならば、4よりも大きなファクタでのクロック逓倍も実現可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
周波数二倍DLLは、現在PLLを用いている多くのタイプの用途に用いられてよい。これらには、データ通信インタフェース回路、メモリシステムインタフェース回路、マイクロプロセッサオンチップクロック発生、およびコンピュータシステムチップセットクロック発生が挙げられる。
【0035】
さらに、本発明の多くの可能な実施形態では、位相ロックループと比較すると、アナログ回路および混成信号回路に対する必要性が大幅に低下するので、実現のためにさらなる低電圧、短ゲート長の半導体プロセスを要する高集積化「システム・オン・ア・チップ」の用途に非常に適している。
【0036】
上述した開示は、本発明を説明するものであって、本発明の範囲または趣旨を限定するものではない。上記開示を熟考することにより、さまざまな修正および変更が当業者には明らかであろう。
【0037】
一般的な概念および特定の実施形態の上記開示を考慮に入れながら、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲により限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リファレンスクロック信号を一端で受けて、一周期に一致した複数の遅延素子のそれぞれからクロックタップ出力を発生させる遅延ラインと、
(b)一対のタップ出力に応答して、上記一対のタップ出力のそれぞれから出力クロックパルスの立ち上がりおよび立ち下がりエッジを発生させるクロック合成回路とを備え、上記出力クロックの周期が上記入力クロックの周期よりも短い周波数逓倍回路。
【請求項2】
出力クロックパルスをそれぞれ発生する複数の合成回路を含む請求項1記載の回路。
【請求項3】
上記各合成回路は第1および第2の相補出力を発生させる請求項2記載の回路。
【請求項4】
リファレンス入力クロック信号に応答して出力クロック信号を発生させる遅延ロックループであって、上記遅延ロックループは、
(a)遅延段タップ出力をそれぞれ供給する直列接続された複数の遅延段を有する遅延ラインと、
(b)上記遅延段タップ出力のうちの所定個数にそれぞれ接続された入力をそれぞれ有し、第1及び第2の相補出力をそれぞれ供給する複数の合成回路セルであって、上記各セルの出力が上記所定個数の遅延段だけ時間的に隔てられた複数の合成回路セルと、
(c)選択制御信号に応答して、上記合成セルのうちの1つに係る一対の相補出力のうちの1つから出力を選択して、上記出力クロック信号を発生するセレクタと、
(d)上記出力クロック信号と上記リファレンス入力クロック信号とに応答して、上記リファレンス入力クロック信号と上記出力クロック信号とを同期させるために最適な相補出力を選択するように上記セレクタを制御する位相検出器とを備えた遅延ロックループ。
【請求項5】
上記遅延ロックループは、N個のタップ出力をN/4個の合成回路セルに与える、直列接続されたN個の遅延段を含み、
上記N/4個の合成セルは、上記リファレンス入力クロックの2倍の周波数をもつ出力クロック信号のN/2個の等間隔の位相を与える請求項4記載の遅延ロックループ。
【請求項6】
上記合成回路セルのそれぞれは、
上記入力クロックのパルスの立ち上がりエッジに応答して上記出力クロックの立ち上がりパルスを開始し、
上記入力パルスを遅延したパルスに応答して上記パルスをクリアし、
上記入力クロックパルスの立ち下がりエッジに応答して第2の出力パルスの立ち上がりエッジを開始し、
上記入力立ち下がりエッジを遅延したエッジに応答して上記第2の出力パルスをクリアする請求項4記載の遅延ロックループ。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−19281(P2011−19281A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−210865(P2010−210865)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【分割の表示】特願2000−616126(P2000−616126)の分割
【原出願日】平成12年5月1日(2000.5.1)
【出願人】(593138296)モーセッド・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】Mosaid Technologies 1ncorporated
【Fターム(参考)】