説明

噴霧粒子撮像解析システムおよび解析方法

【課題】噴霧粒子を撮像し、画像処理を行い、粒子径および粒度速度を同時に測定する噴霧粒子撮像解析システムおよび解析方法を提供すること。
【解決手段】噴霧粒子撮像解析システムは、噴霧粒子の集合(M)に光を照射する光源部(1、2)と、噴霧粒子の前記集合を所定の時間間隔で撮像する撮像部(3、4)と、撮像部によって撮像された画像を記録する記録部と、制御部(8)とを備え、制御部が、画像から粒子を検出し、粒子の粒子径及び円形度を求め、円形度が所定のしきい値以上である粒子を焦点深度内の粒子の候補として選択し、連続測定した2枚の画像の相互相関から平均速度を求め、連続測定した2枚の画像における全粒子の組み合わせについて粒子速度を求め、粒子速度と平均速度の方向が一致し、粒子径が一致し、且つ、粒子速度が平均速度に対して所定範囲内にある粒子を対応する粒子として決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧粒子の粒子径および粒度速度を同時に測定するシステムおよび方法に関し、特に定常的な噴霧液滴粒子を撮像し、画像処理により粒子径および粒度速度を同時に測定する噴霧粒子撮像解析システムおよび解析方法に関する。なお、本明細書および特許請求の範囲において「噴霧」とは、液体を霧状に放出することに限定されず、より一般的に、複数の粒子の集合を所定の空間領域に射出することを意味する。
【背景技術】
【0002】
燃焼システムの解析や設計、原子力発電における放射性物質の拡散シミュレーション、医療機器としての吸入製剤の開発などにおいて、エアロゾル微粒子の動力学的挙動を解明することが重要である。そして、エアロゾル微粒子の動力学的挙動を解明するためには、粒子径および粒子速度をそれぞれ個別に測定するのではなく、個々の粒子について粒子径および粒子速度を同時に計測することが必要である。
【0003】
従来、微粒子の分析方法として、種々の方法が知られている。例えば、下記特許文献1、2には、レーザドップラー法を用いた方法が開示されている。これらの方法では、レーザ光の干渉により測定部に強度分布を形成し、単一または複数の検出器によって時間波形を検出し、その形状の位相差によって粒子径、粒子速度を測定する。
【0004】
また、下記特許文献3〜7には、液滴粒子の粒子径や速度を測定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−174687号公報
【特許文献2】特開平10−318909号公報
【特許文献3】特開2004−361291号公報
【特許文献4】特開2005−221311号公報
【特許文献5】特開2005−164560号公報
【特許文献6】特開2007−114055号公報
【特許文献7】特開2004−69494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1、2には次のような問題がある。粒子散乱がミー散乱のような、粒子径に依存してその角度分布が大きく変化する場合には、低角度の集光レンズではその散乱角度強度分布特性を十分に測定することができない(散乱光角度強度分布による粒子径測定精度が低い)。特に測定部にレーザ干渉性により強度分布を形成する場合には低角度による照射でなければ、光学系収差による歪みが発生し、さらにレーザの空間的コヒーレンスが十分に高くなければ十分な強度分布が形成できないという、相反する原理的な限界が存在する。
【0007】
また、粒子濃度が非常に薄く、検出対象領域に1個程度の粒子しか存在しない場合にしか、精度良く測定することができない。通常の噴霧液滴では、そのような状況は期待できず、多重散乱による測定信号の乱れが生じるので、精度良く測定することが非常に難しいという問題がある。
【0008】
上記特許文献3〜7では単に撮像素子を使用しているだけであり、画像処理において粒子が撮像焦点深度内に存在しているかどうかが考慮されていない。即ち、光学原理的に考えて、撮像光学系焦点深度を深くするためには、撮像開口数を非常に小さくしなければならず、その場合には光学分解能が低下してしまい微小な粒子を鮮明に撮像解析することは不可能になる。また、鮮明に撮像された粒子と不鮮明に撮像された粒子とを区別せずに粒子径を算出しているために、正確な粒度分布を算出することは不可能である。
【0009】
さらに、上記特許文献3〜7には次の問題もある。
【0010】
問題A:数百μm〜1μmの粒子を正確に画像計測するためには、それら粒子の直径に対して1/10〜1/2程度の光学分解能が必要である。ところが、仮に1μmの粒子撮像を鮮明に行なうためには、撮像波長0.55μmでNA(開口数)0.5が必要であり、その場合の焦点深度は1μm程度にしかならない。言い換えれば、大半の粒子は鮮明に撮像できないことになる。従って、これらの粒子を全て画像解析したとしても精度ある測定は困難である。また、数百μmの粒子を測定する場合には、開口数を0.01程度にすれば、焦点深度が十分に深い測定が可能ではあるが、同じ条件で数μmの粒子を十分な光学分解能で測定することは不可能である。従って、広い測定範囲からある一定の基準を満たす粒子像のみを抽出して解析しなければならないという問題がある。
【0011】
問題B:粒子群像は焦点深度内に存在する粒子及び焦点深度外に存在する粒子が撮像され、鮮明に撮像されている粒子ですら、背景輝度強度が(撮像毎に)変化する場合が多い。このために、通常の画像処理プロセスにおける背景画像処理(減算による背景画像輝度分布補償、シェーディング補正処理等)は効果がないという問題がある。
【0012】
問題C:個別粒子の速度を画像解析により算出する場合には、単一波長、単一パルス光では困難である。どうしても移動量を測定する必要があるので、時間差をおいて撮像された各波長での粒子画像における移動距離を両画像の焦点深度内に存在する粒子を判別し、算出しなければならない問題がある。
【0013】
本発明の目的は、上記した問題を原理的に克服することを目的とし、定常的な噴霧粒子を撮像し、撮像画像に対して画像処理を行うことによって、粒子径および粒度速度を同時に測定することができる噴霧粒子撮像解析システムおよび解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明に係る噴霧粒子撮像解析システムは、噴霧粒子の粒子径および速度を測定するシステムであって、前記噴霧粒子の集合に光を照射する光源部と、前記噴霧粒子の前記集合を所定の時間間隔で撮像する撮像部と、前記撮像部によって撮像された画像を記録する記録部と、制御部とを備え、
前記制御部が、
前記画像から粒子を検出し、該粒子の粒子径と、該粒子径を直径とする円周の長さで該粒子の輪郭線の長さを除した値である円形度とを求め、
前記円形度が所定のしきい値以上である粒子を目的候補粒子として選択し、
連続して測定した第1画像および第2画像において対応する2つの目的候補粒子を検出し、第1画像中の目的候補粒子を第1目的粒子として決定し、第2画像中の目的候補粒子を第2目的粒子として決定し、
前記第1画像および前記第2画像の相互相関を計算し、得られた複数の相互相関値の最大値を平均速度として決定し、
複数の前記第1目的粒子および複数の前記第2目的粒子の組み合わせの全てについて、粒子速度を計算し、
前記粒子速度の方向が前記平均速度の方向と第1の所定範囲内で一致し、前記粒子径が第2の所定範囲内で一致し、且つ、前記粒子速度が前記平均速度に対して第3の所定範囲内にある前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応する粒子として決定することを特徴としている。
【0015】
上記の噴霧粒子撮像解析システムは、対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子が1対1に対応していない場合、前記制御部が、
前記第1目的粒子および前記第2目的粒子をそれぞれ縦横に配列し、前記第1目的粒子および前記第2目的粒子の対応関係の情報を、該当するセルに配置したマトリックスを想定した場合に、
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子に対応するセルを含む行に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表す情報が設定されたセルが存在し、且つ、該セルを含む列に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表すデータが存在する場合、該セルに対応する前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応していないと決定することができる。
【0016】
また、上記の噴霧粒子撮像解析システムは、
前記制御部が、
前記画像から粒子を検出する前に、撮像された前記画像に対して微分化処理および2値化処理を行って、2値画像を生成し、
前記2値画像において連続領域の面積と同じ面積の円の直径を求めて前記粒子径を決定し、
前記粒子のチェーンコードを求めて前記輪郭線の長さを算出することができる。
【0017】
また、上記の噴霧粒子撮像解析システムは、
前記第1の所定範囲が、±60°であり、
前記第2の所定範囲が、±10%であり、
前記第1の所定範囲が、50〜200%であることができる。
【0018】
また、上記の噴霧粒子撮像解析システムは、
第1光路変更部及び第2光路変更部をさらに備え、
前記光源部が、異なる波長の光を出力する第1光源部及び第2光源部を備えて構成され、
前記撮像部が、第1撮像部及び第2撮像部を備えて構成され、
第1光路変更部が、前記第1光源部及び第2光源部から出力される光を、同じ方向に出力し、
第2光路変更部が、前記第1光源部から出力され前記第1光路変更部を通過した光を、前記第1撮像部に入射し、前記第2光源部から出力され前記第1光路変更部を通過した光を、前記第2撮像部に入射し、
前記制御部が、前記第1光源部を制御してパルス光を出力させ、該パルス光が出力されている間に前記第1撮像部を制御して撮像させ、
前記制御部が、前記第1光源部に光を出力させた時から前記時間間隔の経過後に、前記第2光源部を制御してパルス光を出力させ、該パルス光が出力されている間に前記第2撮像部を制御して撮像させることができる。
【0019】
また、上記の噴霧粒子撮像解析システムは、
偏光シャッタ及び光路変更部をさらに備え、
前記撮像部が、第1撮像部及び第2撮像部を備えて構成され、
前記光路変更部が、第1の偏光方向の入射光を前記第1撮像部に入射し、前記第1の偏光方向と異なる方向である第2の偏光方向の入射光を前記第2撮像部に入射し、
前記制御部が、前記光源部を制御してパルス光を出力させ、前記偏光シャッタを制御して該パルス光のうち前記第1の偏光方向の光を通過させ、該パルス光が出力されている間に前記第1撮像部を制御して撮像させ、
前記制御部が、前記光源部に光を出力させた時から前記時間間隔の経過後に、再び前記光源部を制御してパルス光を出力させ、前記偏光シャッタを制御して該パルス光のうち前記第2の偏光方向の光を通過させ、該パルス光が出力されている間に前記第2撮像部を制御して撮像させることができる。
【0020】
また、噴霧粒子撮像解析方法は、
所定の時間間隔で噴霧粒子の集合を撮像した複数の画像を用いて噴霧粒子の粒子径および速度を求める方法であって、
前記画像から粒子を検出し、該粒子の粒子径、および、該粒子径を直径とする円周の長さで該粒子の輪郭線の長さを除した値である円形度を求める第1ステップと、
前記円形度が所定のしきい値以上である粒子を目的候補粒子として選択する第2ステップと、
連続して測定した第1画像および第2画像において対応する2つの目的候補粒子を検出し、第1画像中の目的候補粒子を第1目的粒子として決定し、且つ、第2画像中の目的候補粒子を第2目的粒子として決定する第3ステップと、
前記第1画像および前記第2画像の相互相関を計算し、得られた複数の相互相関値の最大値を平均速度として決定する第4ステップと、
複数の前記第1目的粒子および複数の前記第2目的粒子の組み合わせの全てについて、粒子速度を計算する第5ステップと、
前記粒子速度の方向が前記平均速度の方向と第1の所定範囲内で一致し、前記粒子径が第2の所定範囲内で一致し、且つ、前記粒子速度が前記平均速度に対して第3の所定範囲内にある前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応する粒子として決定する第6ステップとを含むことを特徴としている。
【0021】
また、上記の噴霧粒子撮像解析方法は、
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子が1対1に対応していない場合、
前記第1目的粒子および前記第2目的粒子をそれぞれ縦横に配列し、前記第1目的粒子および前記第2目的粒子の対応関係の情報を、該当するセルに配置したマトリックスを想定した場合に、
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子に対応するセルを含む行に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表す情報が設定されたセルが存在し、且つ、該セルを含む列に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表すデータが存在するとき、該セルに対応する前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応していないと決定する第7ステップをさらに含むことができる。
【0022】
また、上記の噴霧粒子撮像解析方法は、
前記第1ステップが、
画像から粒子を検出する前に、撮像された前記画像に対して微分化処理および2値化処理を行って、2値画像を生成する第8ステップと、
前記2値画像において連続領域の面積と同じ面積の円の直径を求めて前記粒子径を決定する第9ステップと、
前記粒子のチェーンコードを求めて前記輪郭線の長さを算出する第10ステップとを含み、
前記2値画像を用いて、前記粒子径および前記円形度が求められることを特徴としている。
【0023】
また、上記の噴霧粒子撮像解析方法は、
前記第1の所定範囲が、±60°であり、
前記第2の所定範囲が、±10%であり、
前記第1の所定範囲が、50〜200%であることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、撮像された対応する2枚の画像中の噴霧粒子(特に噴霧液滴粒子)を自動的に1対1に対応させることができ、噴霧粒子の粒子径及び粒子速度を同時に、精度よく測定することができる。特に、粒子径が約0.5〜2μmと可視光の波長に近い大きさの粒子に関しても適用可能である。
【0025】
また、複数の撮像装置と波長の異なる複数の光源とを使用した構成とすることによって、高速撮像が可能な高価な撮像装置を使用することなく、比較的安価なシステムとすることができる。
【0026】
また、本発明は、従来のレーザドップラー法を用いる方法とは原理的に異なる方法を採用しているので、上記したレーザドップラー法の問題を生じることがない。即ち、粒子散乱がミー散乱のような、粒子径に依存してその角度分布が大きく変化する場合や、多重散乱が生じる場合にも、本発明を適用することができる。
【0027】
また、本発明では、上記した問題A〜Cが生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る噴霧粒子撮像解析システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の噴霧粒子撮像解析システムで撮像された画像の一例を示す図である。
【図3】撮像領域(焦点深度)を説明するための概念図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る噴霧粒子撮像解析システムによって撮像された画像を解析する方法を示すフローチャートである。
【図5】撮像部を調整するためにピンホールを撮像した画像である。
【図6】図1の噴霧粒子撮像解析システムで連続して撮像された画像である。
【図7】焦点深度内に位置している粒子と、焦点深度外に位置している粒子が撮像された場合の差違を模式的に示す図である。
【図8】参照テーブルの一例を示す図である。
【図9】図6の画像から得られた粒子画像解析用元画像である。
【図10】2つの撮影画像から対応する粒子同士を見つけ出すためのアルゴリズムを説明した模式図である。
【図11】図10の判定のみでは不十分な場合を説明する模式図である。
【図12】同じ粒子に重複して対応している複数の粒子の中から1個を選択する処理を説明する図である。
【図13】図7に示した2枚の画像に含まれる粒子ペアを重畳した画像を示す図である。
【図14】円形度の有効性を示す実験結果のグラフである。
【図15】本発明の実施の形態に係る噴霧粒子撮像解析システムを用いて撮影した球形ラテックス粒子画像である。
【図16】テーブル判定により図11の誤判定を避け、適切な対応粒子ペアを判別できることを示す図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る噴霧粒子撮像解析システムを用いて測定及び解析した結果を示すグラフである。
【図18】本発明の実施の形態に係る噴霧粒子撮像解析システムを用いて測定及び解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下においては、主として噴霧液滴粒子について説明するが、液体以外の粒子についても本発明を適用可能である。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る噴霧粒子撮像解析システムの概略構成を示す図である。本噴霧粒子撮像解析システム(以下「撮像解析システム」とも略記する)は、第1光源部1と、第2光源部2と、第1撮像部3と、第2撮像部4と、第1及び第2光源部1、2から入射する光を一方向に出力する第1光路変更部5と、入射する光をその特性(発光波長域)に応じて分離して第1又は第2撮像部3、4に出力する第2光路変更部6と、XYZステージ7と、各部を制御する制御部8とを備えている。図1には、本撮像解析システムの測定および解析対象である噴霧液滴粒子を生成する噴霧装置Tも示している。
【0031】
第1及び第2光源部1、2は、制御部8によって制御され、それぞれ異なる波長の光(例えば青色および緑色の光)を、所定の時間(パルス的)に出力する装置である。第1及び第2撮像部3、4は、CCDカメラなどの拡大光学系を有する撮像装置であり、撮像タイミングは制御部8によって制御される。第1及び第2撮像部3、4によって撮像された画像は、制御部8に伝送される。第1光路変更部5には、例えば公知のダイクロイックミラーを使用することができ、第2光路変更部6には、例えば公知のビームスプリッターを使用することができる。噴霧装置Tは、本撮像解析システムの解析対象である液滴粒子(以下、単に粒子とも記す)を生成する装置である。XYZステージ7は、搭載された噴霧装置Tの3次元位置を変更する装置であり、例えば所定の平面内及び垂直面内で移動させることができ、これにより、後述するように噴霧状態の粒子径及び粒子速度の立体的分布を測定し、表示することができる。また、制御部8には例えばコンピュータを使用することができ、制御部8は各部を制御するだけでなく、撮像された画像を解析して粒子径および粒子速度を求める。
【0032】
なお、第1及び第2光源部1、2から出力される光がレーザ光のように細い光であれば、所定の光学系を備えて、所定の集光角度により測定に必要な部位を照射するように霧状領域Mに照射することが望ましい。また、図1において、霧状領域Mと第1および第2撮像部3、4との間に、撮像領域を拡大する光学系(対物レンズなど)を備えることができる。
【0033】
本撮像解析システムの動作は、液滴粒子を撮像する段階と、撮像された画像を解析する段階の2段階に大別できる。以下では、まず撮像解析システムを構成する各部の機能を説明するために、撮像を中心に説明する。その後、画像解析について説明する。
【0034】
噴霧装置Tから液滴粒子を霧状に放出した状態で、液滴粒子の集合である霧状領域Mの2枚の画像を撮像する。制御部8が第1光源部1を制御して、波長λ1の光をパルス幅Δt0で放出させる。第1光源部1から放出された光は、光路を変更することなく第1光路変更部5を直進し、霧状領域Mに照射される。霧状領域Mを通過した光は、第2光路変更部6に入射され、光路を変更されることなく直進し、第1撮像部3に入射する。霧状領域Mに光が照射されている間に、制御部8が第1撮像部3を制御して、霧状領域Mを撮像する。撮像された画像は、ディジタルデータまたはアナログデータとして制御部8に伝送され、ディジタルデータとして制御部8内部の記録手段(図示せず)に記録される。
【0035】
次に、所定の時間Δt1(Δt1>Δt0)の後、制御部8が第2光源部2を制御して、波長λ2(λ1≠λ2)の光をパルス幅Δt0で放出させる。第2光源部2から放出された光は、第1光路変更部5によって光路を変更され、第1光源部1からの光が第1光路変更部1から出力される方向と同じ方向に出力され、霧状領域Mに照射される。霧状領域Mを通過した光は、第2光路変更部6によって光路を変更され、第2撮像部4に入射する。霧状領域Mに光が照射されている間に、制御部8が第2撮像部4を制御して、霧状領域Mを撮像する。撮像された画像は、制御部8に伝送されて記録される。
【0036】
以上によって、Δt1の時間差で霧状領域Mの2枚の画像(画像データ)を得ることができる。撮像された画像の一例を図2に示す。このとき、事前に第1及び第2撮像部3、4の光学系を調整し、両者の焦点深度(被写界深度)および撮像領域がほぼ一致するようにしておき、同じ領域を通過する粒子のみが鮮明に撮像されるようにする(図3参照)。必要に応じて、上記の処理を繰り返せば、3枚以上の画像データを得ることもできる。また、霧状領域Mが定常状態にあれば、XYZステージ7によって噴霧装置Tの3次元位置を変更し、同様に撮像することによって、霧状領域Mのより広い領域において測定データを得ることが可能である。
【0037】
制御部8は、撮像された画像に対して画像処理を行い、粒子径および粒子速度(粒径分布および粒子速度分布)を計算する。噴霧された液滴粒子はそれ自身の表面張力により球形に近い形になる。したがって、焦点深度内を通過した粒子は輪郭が鮮明(高コントラスト)に撮像される。一方、焦点深度を外れた粒子はぼけて輪郭が不鮮明になる。詳細は後述するが、本発明ではこの現象を利用して、円形度α(α=輪郭線の長さ/同面積の円周の長さ であり、輪郭が鮮明な円形粒子はαが1.0に非常に近くなる。)を求め、この円形度αによって焦点深度内にある粒子と焦点深度外にある粒子とを識別する。このとき、画像の微分化処理によって、円形度αの精度の向上を図っている。そして、各画像において焦点深度内にある粒子を自動的に特定し、その粒子径および粒子速度を算出する。
【0038】
図4は、本発明の実施の形態に係る液滴粒子撮像解析システムによって撮像された画像から、粒子径および粒子速度を求める方法を示すフローチャートである。
【0039】
以下の説明において、制御部8は、操作者による指示を受け付けるキーボード、マウスなどの操作手段を備えているとする。また、制御部8が、操作者による操作を受けて行う処理は、内部の演算素子(以下、CPUと記す)が、内部の記録手段(ハードディスクドライブなど)から所定のデータを、内部の一時記憶手段(以下、メモリと記す)に読み出し、メモリをワーク領域として使用して行う処理であり、CPUは適宜処理結果を記録手段に記録することとする。ここでは、対角長(30倍拡大時)が約200μmの長方形領域を撮像し、640画素×480画素の画像が得られるとする。従って、1画素は約0.25μmに対応する。
【0040】
ステップS1において、第1及び第2撮像部1、2を調整し、後述の解析処理において必要な情報である基準位置データを取得する。具体的には、先ず、噴霧装置Tによって霧状領域Mが形成される予定の領域に微小対象物(例えば、板に開けた10μmのピンホール)が配置された状態で、操作者が、微小対象物が鮮明に撮像されるように第1及び第2撮像部3、4の焦点位置を調節する。次に、制御部8は、第1及び第2撮像部3、4を制御して微小対象物を撮像し、撮像画像を記録する。撮像された2枚の画像の一例を図5に示す。2枚の画像中のほぼ中央に位置する高輝度領域が微小対象物である。制御部8は、2枚の画像の光輝度領域の中心座標(例えば画像の左上を原点とし、右方向をX軸、下方向をY軸とする)を算出して記録する。また、制御部8は、第1及び第2撮像部3、4で最大の有効面積を確保できるように画像処理における有効処理領域(図5において矩形の枠内)を決定し、その情報を記録する。例えば、左上の座標値および右下の座標値を有効処理領域の情報とすることができる。また、光輝度領域の中心座標と、領域の縦横の長さとを、有効処理領域を表す情報としてもよい。
【0041】
ステップS2において、操作者が制御部8に対して、初期条件を入力する。初期条件は、後述の処理において粒子を抽出するときの基準値として、円形度範囲(下限値αmin(上限値は1.0))、粒子径範囲(下限値βmin及び上限値βmax)を含む。また、初期条件には、撮像タイミングを決めるパルス幅Δt0、パルス間隔Δt1等を含むこともできる。なお、一定のパルス間隔Δt1を使用せずに、パルス間隔Δt1を変更させながら測定する場合には、パルス間隔Δt1の時間変化率の情報を設定することが必要である。制御部8は、入力された数値を記録する。ここで、βmin、βmaxは対象とする粒子に応じて設定すればよい。円形度範囲の下限値αminは、例えばαmin=0.9である。
【0042】
ステップS3において、噴霧装置Tを作動させて粒子が放出された状態で、制御部8は上記したように、第1及び第2撮像部3、4を用いて霧状領域Mを撮像し、複数枚の画像(グレースケールの輝度画像)を記録する。このとき、第1及び第2光源部1、2から出力する光のパルス幅、出力する時間間隔には、ステップS2で指定されたΔt0、Δt1が使用される。画像を記録する際には、第1及び第2撮像部のどちらで撮像されたかを識別する情報、および撮像された順序を識別する情報を、画像データと対応させて記録する。記録された2枚の画像の一例を図6に示す。図6の左側が先に撮像された画像、右側がその次に撮像された画像である。
【0043】
このとき、撮像された各画像から、ステップS2で決定された有効処理領域に対応する領域を切り出し、ステップS4以降における処理の対象画像として記録する。なお、有効処理領域は第1及び第2撮像部3、4毎に決定されるので、この切り出し処理においては、画像が第1及び第2撮像部3、4の何れによって撮像されたかを考慮することが必要である。
【0044】
ステップS4において、制御部8は、ステップS3で撮像された複数の画像の中から1枚の画像を選択して記録手段から読み出し、微分化処理および2値化処理を行い、その結果の画像を記録手段に記録する。この処理は、ステップS3において撮像された全ての画像について実行され、得られた2値画像は、元画像との対応が分かる情報と合わせて記録される。
【0045】
画像の微分化処理には、ソーベルフィルタなどのエッジ検出に用いられる公知の画像処理を用いることができる。2値化処理は、微分化処理によって得られた画像に対するしきい値処理であり、例えば、特定のしきい値以上の画素値を“1”とし、しきい値未満の画素値を“0”とした2値画像を生成する処理である。しきい値は適宜設定することができる。例えば、画像毎に微分化処理を行って得られた最大微分値(画像毎に異なる)の50%の値を、その画像に対するしきい値として使用して2値化処理を行えば、後述する粒子抽出を最も効率よく行うことが可能である。
【0046】
ステップS5において、制御部8は、ステップS4で得られた2値画像から粒子を抽出し、円形の粒子と仮定して、その中心座標(x0,y0)、粒子径dおよび円形度αを求める。求めた値は、抽出した粒子を特定する情報と対応させて、「参照テーブル」として記録する。粒子を特定する情報は、例えば、画像毎に粒子に付与した通し番号jである。
【0047】
ここで処理対象である2値画像においては、粒子に対応する候補領域として、同じ値(例えば“1”)の画素が連続した領域が明らかになっている。従って、各連続領域の重心を求めて、中心座標とする。次に、各連続領域の面積S(例えば値が“1”である画素の数)を求め、円形の粒子と仮定した場合の粒子径dを、d=2×[S/(2π)]1/2によって求める。
【0048】
円形度αの算出方法を具体的に説明すると、次の通りである。まず、各連続領域の輪郭線(境界線)を表すチェーンコードを求め、輪郭線の長さLを求める。画像処理によってチェーンコード及び輪郭線の長さLを求める方法は公知であるので、説明を省略する。そして、上記したように、各連続領域の円形度αを、α=L/(πd)によって求める。円形度αは、後述の処理において、撮像時に焦点深度内に位置していた粒子を選択するのに使用される。図7は、焦点深度内に位置している粒子と、焦点深度外に位置している粒子が撮像された場合の差違を模式的に示す図である。図7の上段、中断、下段には、それぞれ撮像画像(グレースケールの輝度画像)、縦軸を輝度値としてA−A線に沿った断面図、撮像画像に境界線を重ねた画像を示している。図7の下段の図から分かるように、焦点深度内に位置している粒子は、輪郭線がほぼ円形であるので、円形度αはほぼ1になる。しかし、焦点深度外に位置している粒子では、輪郭線が量子化誤差や輝度変化が緩やかであるために凹凸のある複雑な形状をしており(図7では模式的にギザギザの線で示す)、その輪郭線の長さは、焦点深度内に位置している粒子の輪郭線の長さよりも長くなり、円形度は、焦点深度内に位置している粒子の円形度よりも小さくなる。従って、球形の粒子が対象であれば、円形度αによって、その粒子が焦点深度内に位置していたか否かを精度良く判断することができる。
【0049】
参照テーブルの一例として、テキストファイルに記録されたデータを図8に示す。図8において、上から、画像番号、画像内での粒子番号、しきい値、面積、輪郭線の長さ、中心のX座標、中心のY座標、粒子径、円形度を表している。
【0050】
ステップS6において、制御部8は、ステップS5で求めた円形度αおよび粒子径dが、ステップS2で入力された円形度範囲(下限値αmin)および粒子径範囲(下限値βmin及び上限値βmax)に適合する粒子を抽出する。即ち、α≧αmin且つβmax≧d≧βminである粒子を選択し、2値画像上で、選択された粒子を表す領域以外の領域の画素値を“0”にする。制御部8は、生成された2値画像を、元の2値画像との対応が分かる情報を付加して、粒子画像解析用元画像データとして記録する。得られた粒子画像解析用元画像の一例を図9に示す。また、抽出された粒子の番号jに付加情報を追加して記録する。例えば、参照テーブルに、粒子番号jに対応させた1ビットのフラグfを設け、上記の条件に該当する場合、フラグfを初期値(例えば“0”)と異なる値(例えば“1”)にセットする。
【0051】
ステップS7において、対応する2枚の画像に含まれる粒子の平均速度(ベクトル)を算出するために、制御部8は、ステップS4で得られた、それら2枚の2値画像の相互相関を求める。即ち、2枚の画像を相対的に、所定方向に所定画素数だけシフトさせ、2枚の画像の各画素の積を求め、さらに得られた積の総和を求める。相互相関を求める方法は公知であるので、詳細説明は省略する。シフトさせる方向および画素数(例えばX軸方向の画素数およびY軸方向の画素数であり、以下「シフトベクトル」とも記す)を変化させ、得られた複数の総和の中の最大値を求める。この最大値が得られたときのシフトベクトルから粒子の平均速度を求める。即ち、2枚の画像が撮像された時間間隔Δt1でシフトベクトルを除して、粒子の平均速度とする。得られた粒子の平均速度は、元の2枚の画像との対応が分かる情報を付して、記録手段に記録される。なお、計算時間を短縮するために、処理対象の画像を縮小して用いてもよい。例えば、1/2に縮小すれば、画素数(画像面積)が1/4になるので、高速に平均速度を計算することができる。
【0052】
ステップS8において、制御部8は、ステップS5で求めた参照テーブルを参照して、ステップS6で選択された全粒子の組み合わせについて速度(ベクトル)を算出して、記録する。例えば、参照テーブルにおいて、フラグfが“1”である粒子を参照すれば、対応する2枚の画像(例えば画像番号i、i+1の画像)の各々において、ステップS8で処理対象とする粒子(粒子番号)が分かる。従って、これら2枚の画像の間で、全ての粒子(フラグf=1)の組み合わせについて、粒子の中心座標の差(ベクトル)を、2枚の画像を撮像した時間間隔Δt1で除して、粒子の速度とする。例えば、2枚の画像(画像番号i、i+1)の各々にni、ni+1個の粒子が含まれていた場合、ni×ni+1個の組み合わせがあるので、ni×ni+1個の速度を求める。得られた速度は、粒子の情報と対応させて記録手段に記録される。
【0053】
ステップS9において、制御部8は、対応する2枚の画像に含まれ、ステップS8で処理された粒子(フラグf=1)が、次の条件1〜3を満たすか否かを判断し、その結果を記録する。
条件1:ステップS8で求めた粒子の移動方向(速度ベクトルの方向)が、平均速度と所定範囲内で一致している。
条件2:粒子径が所定範囲内で一致している。
条件3:粒子速度が平均速度の所定範囲内である。
条件1の所定範囲は、例えば±60°とすることができる。この所定範囲は、粒子密度に応じて設定することができる。即ち、所定範囲を比較的小さく設定すれば(例えば、±15°や±30°)、粒子密度が比較的大きい場合には良好な結果が得られるが、粒子密度が比較的小さい場合には、多くの粒子が除外されるので、後述の処理において対応する粒子が存在しない可能性が高くなる。また、所定範囲を比較的大きく設定すれば(例えば、±90°)、粒子密度が比較的小さい場合には良好な結果が得られるが、粒子密度が比較的大きい場合には、多くの粒子が除外されずに処理対象として残るので、処理時間が長くなる。総合的に評価した結果、所定範囲が±45°であれば、粒子密度に依存せず良好な結果が得られることが分かった。また、条件2の所定範囲は、例えば粒子径の差が±10%以内とすることができる。また、条件3の所定範囲は、例えば50〜200%とすることができる。
【0054】
これら3つの判定条件は、図10のように、第1撮影部より得られた画像(上段左側の時刻tにおける画像Image1)中に粒子を中心とした扇形の検査領域を設け、その検査領域の中に第2撮影部より得られた画像(上段右側の時刻t+dtにおける画像Image2)の粒子が存在するかどうかを判定することに対応する。このことを模式的に示すために、図10の下段に、上段の2枚の画像を重ねて得られる合成画像を示す。このとき、ある1つの粒子を考えると、上記の条件1〜3を満たす粒子の組み合わせが複数存在する場合がある。即ち、上記の条件1〜3のみでは、2枚の画像間で粒子を1対1に対応させること、即ち同じ粒子を特定することは、必ずしも可能ではない。これは図11のように、2つ以上の検査領域が重なり、かつ重なった検査領域の部分に粒子が存在する場合である。図11では、第1撮影部より得られた画像中の2個の粒子を1、1で表し、第2撮影部より得られた画像中の2個の粒子を2、2で表している。具体的な例として、左側の図に示した場合(TypeA)と、右側の2つの図で示した場合(TypeB)の2つのタイプに分類できる。
【0055】
その場合、ステップS10において、制御部8は、同じ粒子に重複して対応している複数の粒子の中から1個を、次の処理によって選択する。
まず、2枚の画像中の、重複して対応している粒子のみを対象として、それぞれ縦横に配列し(例えば1枚目の画素中の粒子をi(i=1〜m)で表し、2枚目の画像中の粒子をj(j=1〜n)で表す)、2枚の画像間の2つの粒子が上記の3つの判定条件を満たすか否かを示す情報(例えば満たす場合“1”、満たさない場合“0”)を各セル((i,j)で表す)に配置したマトリックスを想定する。次に、“1”が設定された1つのセル(i,j)に注目し、そのセル(i,j)を含む行のセル(セル(i,j)以外)に“1”が設定され、且つ、そのセル(i,j)を含む列のセル(セル(i,j)以外)に“1”が設定されている場合、そのセル(i,j)の値を“0”に変更する。元のマトリックスを処理対象として、この処理を繰り返し、全ての行、列に1つ以上の“1”が設定されていない状態にする。
その結果、同じ行又は列に、2つの“1”が設定された状況が起こり得るので、その場合には、それらのセルの値を全て“0”に変更する。
【0056】
図12に示した一例のテーブルを参照して、具体的に説明すれば、次の通りである。ただし、以下の判定で区別できる同一粒子のペアは、図11のTypeAの状況である。
【0057】
図12の(a)は、対応する2枚の画像(Image1及びImage2)中にそれぞれ4個、3個の粒子が含まれており、上記の条件1〜3を満たす粒子の組み合わせに対応するセルに“1”が設定され、それ以外の粒子の組み合わせに対応するセルには“0”が設定された状態を表している。この状態では、画像Image1内の粒子と画像Image2内の粒子とが1対1に対応していない。2行目から、画像Image1内の粒子番号2の粒子が、画像Image2内の粒子番号2、3の2つの粒子に対応しており、4行目から、画像Image1内の粒子番号4の粒子が、画像Image2内の粒子番号1、2の2つの粒子に対応していることが分かる。
【0058】
そこで、制御部8は、2枚の画像間で1対1に対応していない粒子を、上記の処理によって特定する(画像Image1内の粒子番号2の粒子と画像Image2内の粒子番号2の粒子、画像Image1内の粒子番号4の粒子と画像Image2内の粒子番号1の粒子、画像Image1内の粒子番号4の粒子と画像Image2内の粒子番号2の粒子)。これらの組み合わせは、図11のTypeAの粒子2(図12のImage2の粒子番号2の粒子に対応)のような状況に対応する。次に、これら重複した粒子ペアに対応するセルの値を“0”にする。この操作が有効である理由は、図11のTypeAにおいて粒子1と粒子2のペアが一義的に決まるので、それを除くペア(粒子1と粒子2)は有り得ないものであるからである。
【0059】
また、図11のTypeBの状況は図12の(b)の状況に対応する(画像Image1内の粒子番号2の粒子と画像Image2内の粒子番号3の粒子、画像Image1内の粒子番号3の粒子と画像Image2内の粒子番号3の粒子)。これらは上記の判定では実質的に判別不可能であるので、これらのセルを“0”と設定する。
【0060】
上記(図12の(a))の処理結果を図12の(c)に示す。(c)から、ステップS10の処理によって、画像Image1内の粒子番号1の粒子と画像Image2内の粒子番号1の粒子とが1対1に対応し、画像Image1内の粒子番号2の粒子と画像Image2内の粒子番号3の粒子とが1対1に対応するという結果が得られたことが分かる。決定された粒子の組み合わせの情報は、記録手段に記録される。
【0061】
以上によって、本撮像解析システムによれば、対応する2枚の画像間で粒子を1対1に対応させることができ、それらの粒子(液滴粒子)の粒子径及び粒子速度を同時に求めることができる。即ち、撮像された各画像において、焦点深度内に位置していた粒子を特定し、その粒子径および粒子速度を求めることができる。記録手段に記録される粒子の情報は、例えば{i,j,x0,y0,d,α,v}のテーブルである。ここで、iは、所定の時間間隔で撮像した連続する画像の順序を特定する番号であり、jは各画像内で粒子(連続領域)に一意に付与された粒子番号、(x0,y0)は粒子の中心座標、dは粒子径、αは円形度、vは粒子速度である。
【0062】
粒子ペアーを重畳した画像の一例を図13に示す。図13には、図8に示した2枚の画像に撮像された4つの粒子(粒子1〜4)を重ねて表示しており、撮像時間間隔Δt1の間に4つの粒子がそれぞれ移動したことをベクトルで示している。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されない。
【0064】
例えば、上記では異なる波長の光を使用する場合を説明したが、これに限定されず、特性が異なる光を使用することができる。例えば、偏光方向が異なる光を使用してもよい。図1において、第1及び第2光源部1、2を、偏光していない光を発する1つの光源部に置き換え、第1光路変更部5を、直交する2方向に偏光した光を選択的に通過させる電気的に制御可能なシャッタに置き換えてもよい。その場合、第2光路変更部6は、偏光方向に応じて入射光を透過または反射する素子(例えば、偏光ビームスプリッタ)であればよい。また、図1に示した構成では2つの撮像部を使用しているが、高速撮像可能な撮像装置を採用すれば、1つの撮像部で構成することができる。その他、種々の構成が可能であり、所定の短い時間間隔で2枚以上の画像を撮像することができる構成であればよい。なお、光源部から照射する光の波長を変更(例えば短波長化)することにより、粒子径が0.5μm以上100μm以下の液滴粒子を測定範囲とすることが可能である。
【0065】
また、図4に示した処理の順序はこれに限定されず、種々変更して実行することができる。例えば、環境や使用する撮像部が変更無ければ、ステップS1の処理は一度だけ行えばよい。また、上記したように1つの撮像部を使用したシステム構成の場合、ステップS1で有効処理領域を求める処理は不要である。
【0066】
また、ステップS5において、円形度αを求めるときに輪郭線の長さを求める方法は、チェーンコードを使用する方法に限定されず、種々の公知の画像処理を使用することができる。
【0067】
また、ステップS4における2値化のしきい値は、一定の値を使用してもよく、画像や抽出対象の粒子径に応じて、適宜変更してもよい。
【0068】
また、ステップS6において、対応する粒子を検出する場合の円形度の下限値として、一定の値を使用する代わりに、粒子径毎に異なるしきい値を用いてもよい。また、ステップS6における粒子の選択に、粒子径範囲(下限値βmin及び上限値βmax)を用いる場合を説明したが、粒子径範囲を考慮せず、円形度範囲(下限値αmin)のみを用いて粒子を選択してもよい。
【0069】
また、ステップS4〜S10の処理は、対応する2枚の画像ペア毎に、ステップS4〜S10の一連の処理を行ってもよく、対応する2枚の画像ペアの全てについて、ステップS4〜S10の各処理を行ってもよい。
【0070】
また、ステップS10の処理において、重複して対応している粒子のみを処理対象とする場合を説明したが、1対1に対応している粒子も(一部又は全て)含めて処理対象としてもよい。
【0071】
また、ステップS10において、“1”が設定されたセルの値を“0”に変更する処理は、種々の方法で実現することが可能である。例えば、“1”が設定されたセル(i,j)を含む行において“1”が設定されたセルの数をカウントし、且つ、セル(i,j)を含む列において“1”が設定されたセルの数をカウントし、2つのカウント値が共に2以上であるか否かを判断することで行うことができる。なお、セル(i,j)を除外してカウントするように変更することも可能であり、その場合、2つのカウント値が共に1以上であるか否かを判断すればよい。
【0072】
また、噴霧粒子撮像解析システムによって全ての処理が行われなくてもよい。例えば、撮像された画像データを所定の形式で記録した後、伝送路または記録媒体を介して、別のコンピュータに移し、ステップS4〜S10の処理を行ってもよい。
【0073】
また、測定対象は、噴霧される液滴粒子に限らず、射出される液滴粒子であってもよい。さらには、球形の粒子であればよく、液滴粒子には限定されない。
【実施例1】
【0074】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確に示す。まず、円形度αの有効性を示す。
【0075】
図14は、粒子径が既知(4μm及び16μm)の球形のラテックス粒子をスライドガラス上に配置し、撮像距離を変化させて、撮像を行い、ステップS7に示した方法で円形度および粒子径を求めた結果を示す。右の縦軸は円形度α(■で表されたデータ)、左の縦軸は粒子径d(μm)(◆で表されたデータ)である。横軸は、撮像部の焦点を調節するマイクロメータの値であり、粒子位置の変化に対応する。上側のグラフは、粒子径が4μmの粒子を使用した結果、下側のグラフは粒子径が16μmの粒子を使用した結果である。
【0076】
図14の上側のグラフでは、中央付近の約20μmの範囲で、粒子径が約4μmになっており、それらに対応する円形度αがほぼ0.99以上(少なくとも0.98以上)である。下側のグラフでは、約30μmの範囲で、粒子径が約16μmになっており、それらに対応する円形度αがほぼ0.99以上(少なくとも0.98以上)である。従って、円形度αの下限値αminを0.98〜0.99に設定すれば、焦点深度内にある粒子を精度良く抽出することができる。
【実施例2】
【0077】
図15は、粒子径が既知(10μm)の球形のラテックス粒子をスライドガラス上に分散させ、第1撮影部で撮影後、スライドガラスを焦点深度と平行に移動させ、さらに第2撮影部で撮影した画像ペアの例である。図中に付された番号は、ステップS6において抽出された粒子について、順次割り振られた粒子ナンバーである。なお、ステップS5が画像の左下から右上に向かっておこなわれることから、左へいくほど、また下へいくほど番号は若くなっている。図16(a)は、図15の画像に対してステップS9の条件1〜3のみで粒子ペアを判定した場合に得られたテーブルである。テーブル中の灰色に四角の枠で囲んだセルは、条件1〜3を満たすが、誤判定された粒子の組み合わせである。この誤判定された粒子ペアを含むテーブルに対して、テーブル判定による処理(ステップS10)を施した結果が図16(b)である。図15に付された番号と比較することにより、図16(b)のテーブルでは適切に粒子ペアの判別をおこなえたことが分かる。
【実施例3】
【0078】
噴霧粒子撮像解析システムを用いて、実際に噴霧された液滴を測定および解析して得られた粒子径および粒子速度を図17に示す。図17のグラフは、測定位置の噴霧装置からの距離(噴霧距離)が異なり、噴霧距離が、上からそれぞれ13.5mm、16.6mm、29.03mmである。
【0079】
図17からも分かるように、本発明の噴霧粒子撮像解析システムによって、液滴の粒子径および粒子速度を同時に測定することができた。特に、粒子径が約1〜2μmと可視光の波長に近く非常に小さい粒子に関しても測定可能であった。
【0080】
粒子径の測定結果は空気力学径測定法による実験値と5%以内の誤差で一致した。また、測定した噴霧距離の範囲では平均粒子速度はほぼ一定とみなせた。これは、測定点が噴霧流のほぼ中心であったため、周囲流体(空気)の抵抗による粒子速度の減衰が小さかったためと考えられる。噴霧流の中心では空気もほぼ粒子速度と同じ速度で流れているので、噴霧距離が大きくなるにつれて小さい粒子径で大きな粒子速度をもつ粒子の数が減少した。これは、粒子径が小さいほど質量あたりの空気抵抗が大きくなり、粒子速度が減衰しやすいためである。
【実施例4】
【0081】
実施例3と同様に、噴霧粒子撮像解析システムを用いて、実際に噴霧された液滴を測定および解析して得られた粒子径および粒子速度を図18に示す。噴霧器にはオムロン社製メッシュ式ネブライザーNE-U22を、薬液試料としては生理食塩水を用いた。また、メッシュノズルの径およびネブライザーへの印加電圧はそれぞれ、5.4μmおよび8Vとした。図18のグラフには、約1200個の粒子のデータがプロットされている。図18から分かるように、粒子径が約1μm〜数十μmの広い範囲で、粒子速度の分布が得られた。この結果では、全粒子1200個のうち図11のTypeBのように特定不可能であるために強制的にテーブル判定のセルを“0”とした粒子ペアの総数は2個であった。したがって、最終的な粒子径と速度の平均値に対するこれらの寄与はほとんど無視できる。
【符号の説明】
【0082】
1 第1光源部
2 第2光源部
3 第1撮像部
4 第2撮像部
5 第1光路変更部
6 第2光路変更部
7 XYZステージ
8 制御部
T 噴霧装置
M 霧状領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧粒子の粒子径および速度を測定するシステムであって、
前記噴霧粒子の集合に光を照射する光源部と、
前記噴霧粒子の前記集合を所定の時間間隔で撮像する撮像部と、
前記撮像部によって撮像された画像を記録する記録部と、
制御部とを備え、
前記制御部が、
前記画像から粒子を検出し、該粒子の粒子径と、該粒子径を直径とする円周の長さで該粒子の輪郭線の長さを除した値である円形度とを求め、
前記円形度が所定のしきい値以上である粒子を目的候補粒子として選択し、
連続して測定した第1画像および第2画像において対応する2つの目的候補粒子を検出し、第1画像中の目的候補粒子を第1目的粒子として決定し、第2画像中の目的候補粒子を第2目的粒子として決定し、
前記第1画像および前記第2画像の相互相関を計算し、得られた複数の相互相関値の最大値を平均速度として決定し、
複数の前記第1目的粒子および複数の前記第2目的粒子の組み合わせの全てについて、粒子速度を計算し、
前記粒子速度の方向が前記平均速度の方向と第1の所定範囲内で一致し、前記粒子径が第2の所定範囲内で一致し、且つ、前記粒子速度が前記平均速度に対して第3の所定範囲内にある前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応する粒子として決定することを特徴とする噴霧粒子撮像解析システム。
【請求項2】
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子が1対1に対応していない場合、前記制御部が、
前記第1目的粒子および前記第2目的粒子をそれぞれ縦横に配列し、前記第1目的粒子および前記第2目的粒子の対応関係の情報を、該当するセルに配置したマトリックスを想定した場合に、
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子に対応するセルを含む行に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表す情報が設定されたセルが存在し、且つ、該セルを含む列に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表すデータが存在する場合、該セルに対応する前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応していないと決定することを特徴とする請求項1に記載の噴霧粒子撮像解析システム。
【請求項3】
前記制御部が、
前記画像から粒子を検出する前に、撮像された前記画像に対して微分化処理および2値化処理を行って、2値画像を生成し、
前記2値画像において連続領域の面積と同じ面積の円の直径を求めて前記粒子径を決定し、
前記粒子のチェーンコードを求めて前記輪郭線の長さを算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の噴霧粒子撮像解析システム。
【請求項4】
前記第1の所定範囲が、±60°であり、
前記第2の所定範囲が、±10%であり、
前記第1の所定範囲が、50〜200%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の噴霧粒子撮像解析システム。
【請求項5】
第1光路変更部及び第2光路変更部をさらに備え、
前記光源部が、異なる波長の光を出力する第1光源部及び第2光源部を備えて構成され、
前記撮像部が、第1撮像部及び第2撮像部を備えて構成され、
第1光路変更部が、前記第1光源部及び第2光源部から出力される光を、同じ方向に出力し、
第2光路変更部が、前記第1光源部から出力され前記第1光路変更部を通過した光を、前記第1撮像部に入射し、前記第2光源部から出力され前記第1光路変更部を通過した光を、前記第2撮像部に入射し、
前記制御部が、前記第1光源部を制御してパルス光を出力させ、該パルス光が出力されている間に前記第1撮像部を制御して撮像させ、
前記制御部が、前記第1光源部に光を出力させた時から前記時間間隔の経過後に、前記第2光源部を制御してパルス光を出力させ、該パルス光が出力されている間に前記第2撮像部を制御して撮像させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の噴霧粒子撮像解析システム。
【請求項6】
偏光シャッタ及び光路変更部をさらに備え、
前記撮像部が、第1撮像部及び第2撮像部を備えて構成され、
前記光路変更部が、第1の偏光方向の入射光を前記第1撮像部に入射し、前記第1の偏光方向と異なる方向である第2の偏光方向の入射光を前記第2撮像部に入射し、
前記制御部が、前記光源部を制御してパルス光を出力させ、前記偏光シャッタを制御して該パルス光のうち前記第1の偏光方向の光を通過させ、該パルス光が出力されている間に前記第1撮像部を制御して撮像させ、
前記制御部が、前記光源部に光を出力させた時から前記時間間隔の経過後に、再び前記光源部を制御してパルス光を出力させ、前記偏光シャッタを制御して該パルス光のうち前記第2の偏光方向の光を通過させ、該パルス光が出力されている間に前記第2撮像部を制御して撮像させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の噴霧粒子撮像解析システム。
【請求項7】
所定の時間間隔で噴霧粒子の集合を撮像した複数の画像を用いて噴霧粒子の粒子径および速度を求める方法であって、
前記画像から粒子を検出し、該粒子の粒子径、および、該粒子径を直径とする円周の長さで該粒子の輪郭線の長さを除した値である円形度を求める第1ステップと、
前記円形度が所定のしきい値以上である粒子を目的候補粒子として選択する第2ステップと、
連続して測定した第1画像および第2画像において対応する2つの目的候補粒子を検出し、第1画像中の目的候補粒子を第1目的粒子として決定し、且つ、第2画像中の目的候補粒子を第2目的粒子として決定する第3ステップと、
前記第1画像および前記第2画像の相互相関を計算し、得られた複数の相互相関値の最大値を平均速度として決定する第4ステップと、
複数の前記第1目的粒子および複数の前記第2目的粒子の組み合わせの全てについて、粒子速度を計算する第5ステップと、
前記粒子速度の方向が前記平均速度の方向と第1の所定範囲内で一致し、前記粒子径が第2の所定範囲内で一致し、且つ、前記粒子速度が前記平均速度に対して第3の所定範囲内にある前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応する粒子として決定する第6ステップとを含むことを特徴とする噴霧粒子解析方法。
【請求項8】
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子が1対1に対応していない場合、
前記第1目的粒子および前記第2目的粒子をそれぞれ縦横に配列し、前記第1目的粒子および前記第2目的粒子の対応関係の情報を、該当するセルに配置したマトリックスを想定した場合に、
対応する粒子として決定された前記第1目的粒子および前記第2目的粒子に対応するセルを含む行に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表す情報が設定されたセルが存在し、且つ、該セルを含む列に、該セル以外に、2つの粒子が対応することを表すデータが存在するとき、該セルに対応する前記第1目的粒子および前記第2目的粒子を、対応していないと決定する第7ステップをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の噴霧粒子解析方法。
【請求項9】
前記第1ステップが、
画像から粒子を検出する前に、撮像された前記画像に対して微分化処理および2値化処理を行って、2値画像を生成する第8ステップと、
前記2値画像において連続領域の面積と同じ面積の円の直径を求めて前記粒子径を決定する第9ステップと、
前記粒子のチェーンコードを求めて前記輪郭線の長さを算出する第10ステップとを含み、
前記2値画像を用いて、前記粒子径および前記円形度が求められることを特徴とする請求項7又は8に記載の噴霧粒子解析方法。
【請求項10】
前記第1の所定範囲が、±60°であり、
前記第2の所定範囲が、±10%であり、
前記第1の所定範囲が、50〜200%であることを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の噴霧粒子解析方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−185691(P2010−185691A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28421(P2009−28421)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】