説明

回転式圧縮機

【課題】電動機を大型化することなく、起動時及びその後も駆動部である電動機の過負荷防止しつつ、運転中における吐出圧力を一定に保つことを可能とした回転式圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機本体12からの吐出ガスの圧力を検出する圧力検出器15と、回転数がインバータ17により制御される電動機11の駆動軸に作用するトルクを検出するトルク検出器16と、予め入力された電動機11の最大駆動トルクよりも小さいトルクの閾値及び所望の圧力設定値と圧力検出器15からの検出圧力を示す圧力信号及び上記トルク検出器からの検出トルクを示すトルク信号とに基づき、検出トルクが上記閾値がよりも小さい場合には、検出圧力と上記設定圧力との差をなくすように上記回転数を制御し、上記場合以外では、検出トルクが上記閾値よりも小さくなる迄、加速度を減少させるように上記回転数を制御する制御装置19とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ等を用いて駆動部の回転数を制御するようにした回転式圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータ等を用いて駆動部の回転数を制御するようにした回転式圧縮機、例えばスクリュ圧縮機は公知である。この駆動部には、近年の省エネルギに対する要求が高まりつつある状況下、高効率の同期電動機の採用が多くなっている。しかし、この同期電動機は、高効率の運転を可能とする反面、負荷トルクの増大により過負荷状態になると、電源の周波数と同期した運転ができなくなるいわゆる脱調(同期外れ)現象を起こし、圧縮機の正常な運転を継続することができなくなるという不具合を招くことがある。特に、この過負荷状態は起動時に生じ易い。
【0003】
特許文献1には、この起動時における負荷トルクを軽減するようにしたスクリュ圧縮機が開示されている。
【特許文献1】特開2003−3976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のスクリュ圧縮機の場合、起動時に駆動部のモータに作用する負荷トルクが軽減され、モータが過負荷状態になることは回避できるが、起動時以外では、この過負荷状態は回避できないという問題がある。現実には、圧縮ガスの使用量が一定していないため、吐出圧力が変動し、この変動幅が大きい場合には、モータが過負荷状態になり、圧縮機の正常な運転を継続できない事態が発生することがある。
本発明は、上記従来の問題をなくすことを課題としてなされたもので、電動機を大型化することなく、起動時及びその後も駆動部である電動機の過負荷を防止しつつ、運転中における吐出圧力を一定に保つことを可能とした回転式圧縮機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために第1発明は、回転数が制御される電動機で駆動される圧縮機本体を備えた回転式圧縮機において、上記圧縮機本体からの吐出ガスの圧力を検出する圧力検出器と、上記電動機の駆動軸に作用するトルクを導出するトルク導出手段と、予め入力された上記電動機の最大駆動トルクよりも小さいトルクの閾値及び所望の圧力設定値と、上記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号及び上記トルク導出手段からの導出トルクを示すトルク信号に基づき、導出トルクが上記閾値以上となった場合には、導出トルクが上記閾値よりも小さくなるまで、加速度を減少させるように上記回転数を制御し、上記場合以外では、検出圧力と上記圧力設定値との差をなくすように上記回転数を制御する制御装置とが設けられた構成とした。
【0006】
また、第2発明は、回転数が制御される電動機で駆動される圧縮機本体を備えた回転式圧縮機において、上記圧縮機本体からの吐出ガスの圧力を検出する圧力検出器と、上記電動機の駆動軸に作用するトルクを導出するトルク導出手段と、予め入力された上記電動機の最大駆動トルクよりも小さいトルクの閾値、上記閾値よりもさらに小さい第2閾値及び所望の圧力設定値と、上記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号及び上記トルク導出手段からの導出トルクを示すトルク信号に基づき、導出トルクが上記閾値以上となった場合には、導出トルクが上記第2閾値よりも小さくなるまで、加速度を減少させるように上記回転数を制御し、上記場合以外では、検出圧力と上記圧力設定値との差をなくすように上記回転数を制御する制御装置とが設けられた構成とした。
【0007】
さらに、第3発明は、第1または第2発明の構成に加えて、上記トルク導出手段が、電動機の駆動軸に設けられたトルク検出器であって、上記トルク導出手段からの導出トルクが上記トルク検出器からの検出トルクである構成とした。
【0008】
さらに、第4発明は、第1または第2発明の構成に加えて、電動機の回転数を制御するインバータを備え、上記インバータが上記電動機に通電される電流に相当する電流値信号を出力するものであって、上記電流値信号が上記制御装置に入力されるように構成され、上記制御装置が上記トルク導出手段を兼ね、上記電流値信号に基いて導出トルクを導出するものである構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転式圧縮機によれば、例えばリフト弁、スライド弁、或いはピストン弁等を用いて容量調節する必要がなく、これらを設けることによる構造の複雑化はなく、かつ電動機を大型化することなく、起動時及びその後も駆動部である電動機の過負荷防止しつつ、運転中における吐出圧力を一定に保つことが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明に係る回転式圧縮機1Aを示し、この回転式圧縮機1Aは電動機11により回転駆動される図示しないロータを内蔵した圧縮機本体12を有している。圧縮機本体12の一方には吸込流路13、他方には吐出流路14のそれぞれが接続し、吐出流路14には、吐出圧力を検出する圧力検出器15が設けられている。さらに、圧縮機本体12と電動機11との間の駆動軸にはトルク検出器16が設けられ、電動機11はインバータ17を介して交流電源18に接続している。圧力検出器15からは吐出圧力についての検出圧力を示す圧力信号が、また、トルク検出器16からは検出トルクを示すトルク信号が制御装置19に入力され、これらの信号に基づき、以下に述べるように吐出圧力が所望の設定圧力になるように制御装置19及びインバータ17を介して電動機11の回転数制御が行われる。
【0011】
圧縮機本体12内のロータの回転数制御の説明にあたり、まず圧縮機本体12の出力及びそれに関係するトルクとの関係について考察する。
圧縮機本体12の出力P(kW)は次式で表せる。
【数1】

【0012】
一方、電動機11により圧縮機本体12内の上記ロータを駆動するときに必要な全負荷トルクTcは、次式で表すように、一定回転数下での定常運転時に上記ロータから上記駆動軸に作用する定常的負荷トルクTc_dに、上記ロータの回転を加速するための過渡的負荷トルクTc_aを加えた値となる。
【数2】

【0013】
定常的負荷トルクTc_d及び過渡的負荷トルクTc_aのそれぞれは次式のように表すことができる。
【数3】

【0014】
【数4】

【0015】
電動機11により駆動される圧縮機本体12の安定した運転のためには、次式が成立していなければならない。
【数5】

換言すれば、式(5)が成立するように電動機11は選定されている。
また、制御装置19には、予め最大駆動トルクTmよりも小さいトルクの閾値Tsetと所望の圧力設定値Psetが入力されている。
【0016】
そして、圧縮機本体12の起動とともに、電動機11は予め設定された一定の加速度が回転数を上昇させてゆく一方、トルク検出器16から検出トルク、即ち全負荷トルクTcを示すトルク信号、また圧力検出器15から検出された吐出圧力Pdを示す圧力信号のそれぞれが制御装置19に入力される。
制御装置19では、Tc<Tsetか否かが判断され、YESの場合、即ち電動機11が過負荷状態でない場合には、(吐出圧力Pd−圧力設定値Pset)の値をゼロにする電動機11の回転数がPID演算等に算出され、電動機11をこの回転数にするようにインバータ17に対して制御信号が出力される。
【0017】
これに対して、上記判断の結果、NOの場合、即ち電動機11が過負荷状態にあるかその状態になるおそれがある場合には、電動機11が過負荷状態になるのを未然に防ぐ必要がある故、電動機11の回転数を低下させるようにインバータ17に対して制御信号が出力される。具体的には、式(4)の時間tにおけるロータ(電動機11の駆動軸)の回転数の変化量Δnを、PID演算等により(吐出圧力Pd−設定圧力Pset)の値をゼロにするように算出した値よりも一定量だけ減少させる。なお、回転数の変化量Δnに対応する時間の変化量Δtがいわゆる単位時間であれば、回転数の変化量Δnは加速度である。即ち、回転数の変化量Δnを一定量だけ減少させることは、加速度を所定の量だけ減少させることと同義である。これにより、過渡的負荷トルクTc_aが低下し、電動機11に作用する負荷を軽減することができる。
以後、圧縮機本体12の作動中、以上の演算処理、制御信号の出力が繰り返される。
【0018】
また、上記トルクの閾値Tsetよりもさらに小さい第2閾値Tset_lowを予め入力しておき、上記判断の結果がNOの場合、即ち電動機11が過負荷状態にあるか、その状態になるおそれがある場合に、トルクの値Tcをその第2閾値Tset_lowよりも小さくなるまで下げるような回転数にて電動機11を回転させるようにしてもよい。具体的には、上記判断の結果がNO(トルクの値Tc≧Tset)の場合、上述のように、電動機11の加速度を所定の量だけ減少させ、Tc<Tsetとなり、さらにTc<Tset_lowとなるまで、それを係属すればよい。なるべく、吐出圧力を所望の設定圧力としたいのであれば、加速度を減少させた状態をTc<Tsetとなった時点で終えるのがよいが、電動機11に作用する負荷をなるべく減減させたいのであれば、このように加速度を減少させた状態をTc<Tset_lowとなるまで継続するのが好ましい。
【0019】
図2は、本発明に係る別の回転式圧縮機1Bを示し、図2において上述した回転式圧縮機1Aと互いに共通する部分については、同一番号を付して説明を省略する。
この回転式圧縮機1Bでは、回転式圧縮機1Aに設けられているトルク検出器16を省き、それに代えて、図2にて一点鎖線20で示すように、インバータ17が電動機11に通電される電流に相当する電流値信号を制御装置19に対して出力するように構成されている。ところで、この電動機11に通電される電流に関して、次式が成立する。
【数6】

【0020】
制御装置19のインバータ17に対する直接的な制御パラメータは、(6)式中のE,fとなる。従って、制御装置19側ではE,fは当然に認識し得る数値であり、加えて、上述のとおり、一点鎖線20で示す上記電流値信号が制御装置19に入力されるように構成されているので、制御装置19側では負荷トルクTcを導出するのに必要なパラメータを全て認識できるようになっている。回転式圧縮機1Bは、回転式圧縮機1Aのようにトルク検出器16にて直接トルクを検出する代わりに、インバータ17が電動機11に通電される電流に相当する上記電流値信号に基づきトルクを導出するように構成されている。なお、その他の演算処理・制御信号の出力等については、回転式圧縮機1Aの場合と同様である。このような構成の回転式圧縮機1Bによって、トルク検出器16を配置しなくても、電動機11に作用する負荷の軽減が実現できる。なお、インバータによっては、電圧E,周波数fが制御装置19の制御パラメータどおりに出力されているかどうかを確認するために、それらのモニタリング信号を出力可能に構成されている場合がある。インバータ17がそのような種類のものであり、また制御装置19に電流値信号とともに、電圧E、周波数fのモニタリング信号が入力されるように構成されていれば、それらのモニタリング信号をトルク導出のために利用してもよい。
【0021】
図3は、本発明に係るさらに別の回転式圧縮機1Cを示し、図3において上述した回転式圧縮機1Aと互いに共通する部分については、同一番号を付して説明を省略する。
この回転式圧縮機1Cでは、回転式圧縮機1Aの構成に加えて、圧縮機本体12の吸込流路13に流量計21と圧力検出器22とが設けられている。そして、流量計21からは吸込みガス量を示す流量信号が、圧力検出器22からは吸込圧力についての検出圧力を示す圧力信号が制御装置19に入力されている。制御装置19は、吸込圧力、吐出圧力、吸込みガス量と(1)式〜(4)式に基いて、現時点でのトルクの値Tcと回転数nから第2閾値Tset_lowに相当する回転数nset_lowを算出し、その回転数nset_lowで電動機11を回転させ、Tc≦Tset_lowとなるまで、それを継続するように構成されている。PID演算等により算出した回転数の変化量Δn(ひいては加速度)を一定量だけ減少させるものではないが、それと同様に過渡的負荷トルクTc_aが変化し、電動機11に作用する負荷を軽減させることができる。
【0022】
上述したように、圧縮機本体12の起動時だけでなく、その運転中にもその電動機11に過大な負荷トルクが作用し得る状況が発生することがあるが、回転式圧縮機1の場合、電動機11を大型化することなく、駆動部である電動機11の過負荷を防止しつつ、運転中における吐出圧力が回転数制御のみにより一定に保たれる。しかも、回転式圧縮機1の場合、例えば、例えばリフト弁、スライド弁、或いはピストン弁等を用いて容量調節する必要がなく、これらの弁を採用した場合のように構造が複雑になることもない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、例えばスクリュ圧縮機、スクロール圧縮機に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る回転式圧縮機の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る別の回転式圧縮機の全体構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るさらに別の回転式圧縮機の全体構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0025】
1A,1B,1C 回転式圧縮機
11 電動機
12 圧縮機本体
13 吸込流路
14 吐出流路
15 圧力検出器
16 トルク検出器
17 インバータ
18 交流電源
19 制御装置
20 電流値信号
21 流量計
22 圧力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数が制御される電動機で駆動される圧縮機本体を備えた回転式圧縮機において、
上記圧縮機本体からの吐出ガスの圧力を検出する圧力検出器と、
上記電動機の駆動軸に作用するトルクを導出するトルク導出手段と、
予め入力された上記電動機の最大駆動トルクよりも小さいトルクの閾値及び所望の圧力設定値と、上記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号及び上記トルク導出手段からの導出トルクを示すトルク信号に基づき、導出トルクが上記閾値以上となった場合には、導出トルクが上記閾値よりも小さくなるまで、加速度を減少させるように上記回転数を制御し、上記場合以外では、検出圧力と上記圧力設定値との差をなくすように上記回転数を制御する制御装置とが
設けられたことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項2】
回転数が制御される電動機で駆動される圧縮機本体を備えた回転式圧縮機において、
上記圧縮機本体からの吐出ガスの圧力を検出する圧力検出器と、
上記電動機の駆動軸に作用するトルクを導出するトルク導出手段と、
予め入力された上記電動機の最大駆動トルクよりも小さいトルクの閾値、上記閾値よりもさらに小さい第2閾値及び所望の圧力設定値と、上記圧力検出器からの検出圧力を示す圧力信号及び上記トルク導出手段からの導出トルクを示すトルク信号に基づき、導出トルクが上記閾値以上となった場合には、導出トルクが上記第2閾値よりも小さくなるまで、加速度を減少させるように上記回転数を制御し、上記場合以外では、検出圧力と上記圧力設定値との差をなくすように上記回転数を制御する制御装置とが
設けられたことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項3】
上記トルク導出手段が、電動機の駆動軸に設けられたトルク検出器であって、上記トルク導出手段からの導出トルクが上記トルク検出器からの検出トルクであることを特徴とする請求項1または2に記載の回転式圧縮機。
【請求項4】
電動機の回転数を制御するインバータを備え、上記インバータが上記電動機に通電される電流に相当する電流値信号を出力するものであって、上記電流値信号が上記制御装置に入力されるように構成され、上記制御装置が上記トルク導出手段を兼ね、上記電流値信号に基いて導出トルクを導出するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の回転式圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−17041(P2006−17041A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196412(P2004−196412)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】