説明

回転機の制御装置

【課題】PWM制御を行う場合、スイッチング素子のスイッチング状態の切替回数が多くなり、スイッチング状態の切り替えに伴う損失が問題となりやすいこと。
【解決手段】位相設定部32では、推定トルクTeを要求トルクTrにフィードバック制御するための操作量として位相δを算出する。一方、ノルム設定部33では、要求トルクTrおよび電気角速度ωを入力としてノルムVnを設定する。そして、デッドタイム算出部34では、電源電圧VDCとノルムVnとに基づき、矩形波制御におけるデッドタイムDTを電気角度間隔として算出する。位相補正部35では、位相設定部32による位相δを「DT/2」によって補正する。矩形波信号生成部36では、補正された位相δとデッドタイムDTと回転角度θとに基づき、操作信号g*#(*=u,v,w;#=p,n)を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の端子を直流電源の正極に接続する高電位側スイッチング素子と前記回転機の端子を前記直流電源の負極に接続する負極側スイッチング素子とを備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、電力変換回路(インバータ)の高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子とを交互にオン操作する周期を電気角の1周期よりも十分に短くして且つ、この1周期に対する高電位側スイッチング素子をオン状態とする期間の時比率を操作することで、回転機の制御量を制御するもの(PWM制御)が一般的である。なお、これ以外にも、例えば下記特許文献1に記載されたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−238484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、上記PWM制御を行う場合、スイッチング素子のスイッチング状態の切替回数が多くなり、スイッチング状態の切り替えに伴う損失が問題となりやすい。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転機の端子を直流電源の正極に接続する高電位側スイッチング素子と前記回転機の端子を前記直流電源の負極に接続する負極側スイッチング素子とを備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御するに際し、スイッチング損失を好適に低減することのできる回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、回転機の端子を直流電源の正極に接続する高電位側スイッチング素子と前記回転機の端子を前記直流電源の負極に接続する低電位側スイッチング素子とを備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、前記回転機の電気角の1周期において前記高電位側スイッチング素子がオン且つ前記低電位側スイッチング素子がオフとなる第1状態と前記高電位側スイッチング素子がオフ且つ前記低電位側スイッチング素子がオンとなる第2状態とを各1度ずつ実現するように前記電力変換回路のスイッチング素子を操作する矩形波制御手段を備え、前記矩形波制御手段は、前記電力変換回路の出力電圧の変調率を可変とすべく、前記高電位側スイッチング素子および前記低電位側スイッチング素子の双方をオフ操作する期間であるデッドタイム期間の時間間隔を可変設定する可変手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、デッドタイム期間の時間間隔を可変設定する可変手段を備えることで、デッドタイム期間を、スイッチング素子の応答特性から定まる時間に固定する場合と比較して、変調率を自由に変更することができる。このため、回転機の制御量の制御に際してデッドタイム期間を通じて変調率を可変操作することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記可変手段は、前記デッドタイム期間を、前記回転機の制御量を制御するための操作量とすることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記矩形波制御手段は、前記回転機の制御量を制御すべく、前記スイッチング素子がオン状態となる期間の位相を操作する位相操作手段を備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、位相操作手段を備えることで、電力変換回路の出力電圧の位相を操作することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記位相操作手段は、前記回転機の制御量をフィードバック制御するための操作量として位相を設定するフィードバック操作手段と、該フィードバック操作手段によって設定される位相を前記可変手段によって設定されるデッドタイムに応じてフィードフォワード補正するフィードフォワード補正手段とを備え、該フィードフォワード補正手段によって補正された位相に基づき前記スイッチング素子がオン状態となる期間の位相を操作することを特徴とする。
【0013】
可変手段によってデッドタイムが変更されると、フィードバック操作手段によるフィードバック操作量が適切な値からずれるおそれがある。この点、上記発明では、フィードフォワード補正手段を備えることで、こうした事態を好適に抑制することができる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路の出力電圧の指令値を設定する手段を備え、前記可変手段は、前記指令値のベクトルノルムに基づき、前記デッドタイム期間の時間間隔を操作することを特徴とする。
【0015】
上記発明では、矩形波制御手段が出力電圧の指令値に基づきデッドタイム期間の時間間隔を操作するため、指令値を定める従来の技術を流用して矩形波制御手段を構成することができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記第1状態および前記第2状態からなる1周期が前記電気角の1周期よりも短くなりうるように前記電力変換回路を操作する擬似正弦波制御手段と、前記擬似正弦波制御手段による制御と前記矩形波制御手段による制御とを切り替える切替手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、切替手段を備えることで、様々な要求要素を満たす適切な制御手段による制御を都度選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるインバータの操作信号の生成に関する処理を示すブロック図。
【図3】同実施形態にかかる矩形波制御における操作信号の生成処理を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態にかかるデッドタイムの可変設定態様を示すタイムチャート。
【図5】第2の実施形態にかかるインバータの操作信号の生成に関する処理を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を車載主機としての回転機の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0021】
モータジェネレータ10は、3相の永久磁石同期モータである。また、モータジェネレータ10は、突極性を有する回転機(突極機)である。詳しくは、モータジェネレータ10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。モータジェネレータ10の回転軸は、駆動輪に機械的に連結されている。
【0022】
モータジェネレータ10は、インバータIVを介して高電圧バッテリ12に接続されている。ここで、高電圧バッテリ12は、その端子電圧が例えば百V以上の高電圧となるものである。一方、インバータIVは、スイッチング素子S*p,S*n(*=u,v,w)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S*p,S*nとして、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードD*p,D*nが逆並列に接続されている。
【0023】
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータIVの状態を検出する検出手段として、以下のものを備えている。まずモータジェネレータ10の回転角度θ(電気角)を検出する回転角度センサ15を備えている。また、モータジェネレータ10のV相およびW相のそれぞれを流れる電流iv,iwを検出する電流センサ17,18を備えている。さらに、インバータIVの入力電圧(電源電圧VDC)を検出する電圧センサ19を備えている。
【0024】
上記各種センサの検出値は、インターフェース13を介して低電圧システムを構成する制御装置14に取り込まれる。制御装置14では、これら各種センサの検出値に基づき、インバータIVのスイッチング素子S*p,S*nを操作する操作信号g*p,g*nを生成して出力する。
【0025】
図2に、上記インバータIVの操作信号の生成に関する処理のブロック図を示す。
【0026】
図示されるように、本実施形態では、PWM制御部20および矩形波制御部30を備えている。ここで、PWM制御部20は、変調率の小さい領域において利用され、矩形波制御部30は、変調率が大きい領域において利用される。以下では、「PWM制御部20の処理」、「矩形波制御部30の処理」の順に説明する。
「PWM制御部20の処理」
モータジェネレータ10を流れる電流iv,iwは、2相変換部40において、回転2相座標系の実電流であるd軸上の実電流idとq軸上の実電流iqとに変換される。一方、指令電流設定部21は、要求トルクTrに基づき、回転2相座標系の電流の指令値であるd軸上の指令電流idrおよびq軸上の指令電流iqrを設定する。ここで、指令電流idr,iqrは、例えば、最小の電流で最大のトルクとなる最小電流最大トルク制御を実現可能なものとすればよい。
【0027】
フィードバック制御部22は、d軸上の実電流idを指令電流idrにフィードバック制御するための操作量としてのd軸上の指令電圧vdrを算出する。一方、フィードバック制御部23は、q軸上の実電流iqを指令電流iqrにフィードバック制御するための操作量としてのq軸上の指令電圧vqrを算出する。詳しくは、フィードバック制御部22,23では、比例制御器の出力と積分制御器の出力とを加算することで上記算出を行う。なお、指令電圧vdr、vqrを算出するに際しては、上記フィードバック操作量に、非干渉項や誘起電圧補償項等のフィードフォワード項を加算してもよい。
【0028】
3相変換部24では、回転2相座標系の指令電圧vdr、vqrを、3相の指令電圧vur,vvr,vwrに変換する。PWM信号生成部25では、3相の指令電圧vur,vvr,vwrと、電源電圧VDCとに基づき、PWM処理によって、操作信号g*p,g*nを生成する。これは、指令電圧v*rを電源電圧VDCによって規格化したものと三角波等のキャリアとの大小比較によって行うことができる。もっとも、これに代えて、3相の指令電圧vur,vvr,vwrを2相変調して且つ電源電圧VDCにて規格化した信号とキャリアとの大小比較に基づき操作信号を生成することも可能である。
【0029】
なお、PWM信号生成部25によって生成された操作信号g*#は、変調率が小さい場合に、セレクタ42を介してインバータIVに出力される。
「矩形波制御部30の処理」
矩形波制御部30では、以下に詳述する態様にて、高電位側のスイッチング素子S*pのオン状態と低電位側のスイッチング素子S*nのオン状態とが1電気角周期において1度ずつとなるように操作信号g*#を生成する。
【0030】
トルク推定部31では、モータジェネレータ10を流れる実電流id,iqに基づき、推定トルクTeを算出する。そして、位相設定部32では、推定トルクTeを要求トルクTrにフィードバック制御するための操作量として位相δを算出する。この位相δは、推定トルクTeと要求トルクTrとの差を入力とする比例制御器と積分制御器との各出力の和として算出されるものである。
【0031】
ノルム設定部33では、要求トルクTrおよび電気角速度ωとインバータIVの出力電圧ベクトルのノルムVnとの関係を記憶したマップを用い、要求トルクTrおよび電気角速度ωを入力としてノルムVnを設定する。ここで、ベクトルのノルムは、ベクトルの各成分の2乗の和の平方根によって定義される。なお、ノルムVnは、例えば、最小電流最大トルク制御を実現可能なように設計すればよい。
【0032】
一方、デッドタイム算出部34では、電源電圧VDCとノルムVnとに基づき、矩形波制御におけるデッドタイムDTを電気角度間隔として算出する。ここでは、電源電圧VDCとデッドタイムDTとを与えることでノルムVnが定まることを利用している。すなわち、高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとは、交互にオン状態とされて且つ、これらのオン状態となる期間は、「(180―DT)°」である。このため、デッドタイムDTを長くするほど、ノルムVnを小さくすることができる。また、デッドタイムDTが、高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとの双方がオン状態となることを回避できる最小時間Dminに対応する角度となるときが、その電気角速度ωにおいて実現可能な最大ノルムとなる。
【0033】
位相補正部35では、位相設定部32によって設定された位相δを、「DT/2」だけ進角補正する。この処理は、デッドタイムDTの変更に起因してフィードバック操作量(位相設定部32の設定する位相δ)が適切な値からずれることを補償するためのフィードフォワード制御を行うためのものである。すなわち、デッドタイムDTを変更量ΔDTだけ変更する場合、位相がデッドタイムDTの変更量ΔDTだけずれることとなる。これに対し、位相設定部32によって設定された位相δを、変更量ΔDTの「1/2」だけ変更することで、このずれを補償することができる。
【0034】
矩形波信号生成部36では、補正された位相「δ+DT/2」とデッドタイムDTと回転角度θとに基づき、操作信号g*#を生成する。なお、矩形波信号生成部36によって生成された操作信号g*#は、変調率が大きい場合に、セレクタ42を介してインバータIVに出力される。
【0035】
図3に、操作信号gu#の生成処理を示す。
【0036】
図3(a)は、操作信号gup,gunを生成するための基準信号である。基準信号は、論理「H」および論理「L」がそれぞれ「180°」ずつとなる対称性を有する矩形波信号である。この基準信号の立ち上がりエッジの位相は、「δ+DT/2」に基づき定められる。そして、図3(c)に示すように、基準信号の立ち上がり位相において操作信号gunを立ち下げて且つ、図3(b)に示すように、この位相からデッドタイムDTだけ遅延した位相において操作信号gupを立ち上げる。また、図3(b)に示すように、基準信号の立ち下がり位相において操作信号gupを立ち下げて且つ、図3(c)に示すように、この位相からデッドタイムDTだけ遅延した位相において操作信号gunを立ち上げる。なお、V相、W相の基準信号については、U相の基準信号の位相に対して、それぞれ「120°」、「240°」ずらした位相を有するものとすればよい。
【0037】
こうした構成によれば、デッドタイムDTの長さ(電気角度間隔)を可変操作することで、ノルムVnを制御することができる。換言すれば、デッドタイムDTの長さを可変操作することで、インバータIVの出力電圧の変調率を可変とすることができる。特に、デッドタイムDTの電気角度間隔を、高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとの双方がオン状態となることを回避できる最小時間Dminに対応する角度よりも大きい値に変更可能とし、デッドタイムDTを、要求トルクTrへの制御のための操作量として利用する。しかも、変調率を可変するためのパラメータをデッドタイムDTに限ることで、1電気角周期における高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとのそれぞれのスイッチング状態の切り替え回数を2回に制限することができ、ひいてはスイッチング状態の切り替えに伴う損失を低減することができる。
【0038】
図4(a)、図4(b)および図4(c)のそれぞれに、デッドタイムDTが最小値、「60°」および「40°」となる場合について、高電位側のスイッチング素子S*pのオン状態(図中、「上」と表記)と、低電位側のスイッチング素子S*nのオン状態(図中、「下」と表記)とを示す。
【0039】
なお、本実施形態では、変調率が小さい領域においてPWM制御部20による制御を用いたが、これは、過度に小さい変調率となるようにデッドタイムDTを操作すると、各相に電圧が印加される期間が過度に短くなり、モータジェネレータ10の制御性の低下が懸念されるからである。
【0040】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0041】
(1)矩形波制御部30による制御に際し、インバータIVの出力電圧の変調率を可変とすべく、デッドタイムDTの時間間隔を可変設定した。これにより、モータジェネレータ10の制御量の制御に際してデッドタイム期間を通じて変調率を可変操作することができる。
【0042】
(2)モータジェネレータ10の制御量を制御すべく、操作信号g*#のオン状態指令期間の位相(オン期間が一定である場合におけるオン状態への切り替え指令の位相とオフ状態への切り替え指令の位相)を、トルクフィードバック制御のための操作量として操作した。これにより、モータジェネレータ10のトルクを制御するためにインバータIVの出力電圧の位相を操作することができる。
【0043】
(3)インバータIVの出力電圧ベクトルのノルムVnを設定するノルム設定部33を備え、ノルムVnに基づき、デッドタイムDTを設定した。これにより、ノルムVnを定める従来の技術の流用によって矩形波制御部30を構成することができる。
【0044】
(4)変調率が小さい領域においては、矩形波制御部30による制御からPWM制御部20による制御へと切り替えた。これにより、矩形波制御部30によるモータジェネレータ10の制御性が低下すると懸念される状況下、PWM制御部20による制御を用いてモータジェネレータ10の制御性を維持することができる。
【0045】
(5)位相設定部32の設定する位相δをデッドタイムDTに応じてフィードフォワード補正したものを、矩形波制御部30による制御に際してのインバータIVの出力電圧の位相とした。これにより、デッドタイムDTの変更に伴う出力電圧の位相の変化を補償することができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0046】
図5に、上記インバータIVの操作信号の生成に関する処理のブロック図を示す。なお、図5において、先の図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
【0047】
本実施形態では、PWM制御部20における指令電圧vdr,vqrの生成手段を、矩形波制御部30において流用する。すなわち、位相算出部50は、PWM制御部20によって生成された指令電圧vdr、vqrを入力として、その位相δを算出し、矩形波信号生成部36(位相補正部35)に出力する。一方、ノルム算出部52は、PWM制御部20によって生成された指令電圧vdr、vqrを入力として、そのノルムVnを算出し、デッドタイム算出部34と位相補正部35とに出力する。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0048】
「可変手段について」
上記各実施形態では、デッドタイムDTを、電気角度間隔の次元を有するパラメータとしたが、これに限らない。例えば時間間隔であってもよい。この場合、矩形波信号生成部36では、タイマが規定値となるタイミングを、操作信号g*#の立ち上がりタイミングや立ち下がりタイミングとすればよい。
【0049】
「矩形波制御手段について」
矩形波制御手段としては、ノルムVnを入力パラメータとしてデッドタイムDTを設定する手段を備えるものに限らない。例えば、要求トルクTr、電気角速度ωおよび電源電圧VDCを入力として、デッドタイムDTをマップ演算するものであってもよい。
【0050】
また、高電位側のスイッチング素子S*pのオン操作指令期間と低電位側のスイッチング素子S*nのオン操作指令期間とを同一の電気角度間隔とするものに限らない。たとえば、高電位側のスイッチング素子S*pと低電位側のスイッチング素子S*nとの応答性の相違等に起因して上記一対の期間を同一とすることで1電気角周期におけるインバータIVの出力電圧の対称性が崩れる場合には、上記一対の期間を相違させることで対称性のずれを補償するようにしてもよい。
【0051】
「位相操作手段について」
位相操作手段としては、上記各実施形態において例示したものに限らない。例えば上記第1の実施形態において、q軸の指令電流iqrを実電流iqにフィードバック制御するための操作量として位相δを設定してもよい。また、d軸の指令電流idrを実電流idにフィードバック制御するための操作量として位相δを設定してもよい。ただし、回転機の制御量をフィードバック制御するための操作量として位相δを設定するに際しては、このフィードバック制御量を、トルクと強い相関を有するパラメータとすることが望ましい。
【0052】
また、フィードバック制御器としては、比例制御器および積分制御器からなるものに限らず、例えば比例制御器、積分制御器および微分制御器からなるものや、比例制御器、積分制御器および2重積分制御器からなるもの等であってもよい。
【0053】
さらに、デッドタイムDTが伸長(縮小)する場合にフィードバック操作量を進角側(遅角側)にフィードフォワード補正するものとしては、デッドタイムDTの変更量ΔDTの「1/2」だけ進角(遅角)させるものに限らない。また、フィードバック操作量がデッドタイムDTに応じてフィードフォワード補正されたものを最終的な位相とするものに限らず、フィードフォワード補正を行なわなくてもよい。
【0054】
なお、位相δを、フィードバック操作量とするものに限らず、開ループ操作量とするものであってもよい。
【0055】
「擬似正弦波制御手段について」
擬似正弦波制御手段としては、上記PWM制御部20のように、第1状態および第2状態からなる1周期に対する第1状態の時比率を制御量の制御のための操作量とするものや、第1状態および第2状態からなる1周期が規定されているものにも限らない。例えば、瞬時電流値制御やモデル予測制御を行うものであってもよい。
【0056】
「切替手段について」
切替手段としては、変調率が大きい場合に矩形波制御部30による制御を用いて且つ変調率が小さい場合に擬似正弦波制御手段(PWM制御部20)による制御を用いるものに限らない。例えば、高次高調波を低減する要求が生じる場合に矩形波制御部30による制御から擬似正弦波制御手段(PWM制御部20)による制御に切り替えるものであってもよい。
【0057】
また、切替手段を備えることなく、矩形波制御部30のみを用いてもよい。
【0058】
「そのほか」
・モータジェネレータ10の制御量としては、トルクに限らず、例えば回転速度であってもよい。
【0059】
・同期機としては、IPMSMに限らず、例えば表面磁石同期機(SPM)や、巻線界磁式同期機等であってもよい。
【0060】
・回転機としては、車載主機となるものに限らない。例えばパワーステアリングに搭載される回転機等であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…モータジェネレータ、12…高電圧バッテリ、14…制御装置(回転機の制御装置の一実施形態)、20…PWM制御部(擬似正弦波制御手段の一実施形態)、30…矩形波制御部(矩形波制御手段の一実施形態)、32…位相設定部(位相操作手段の一実施形態)、33…ノルム設定部、IV…インバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の端子を直流電源の正極に接続する高電位側スイッチング素子と前記回転機の端子を前記直流電源の負極に接続する低電位側スイッチング素子とを備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、
前記回転機の電気角の1周期において前記高電位側スイッチング素子がオン且つ前記低電位側スイッチング素子がオフとなる第1状態と前記高電位側スイッチング素子がオフ且つ前記低電位側スイッチング素子がオンとなる第2状態とを各1度ずつ実現するように前記電力変換回路のスイッチング素子を操作する矩形波制御手段を備え、
前記矩形波制御手段は、前記電力変換回路の出力電圧の変調率を可変とすべく、前記高電位側スイッチング素子および前記低電位側スイッチング素子の双方をオフ操作する期間であるデッドタイム期間の時間間隔を可変設定する可変手段を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記可変手段は、前記デッドタイム期間を、前記回転機の制御量を制御するための操作量とすることを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記矩形波制御手段は、前記回転機の制御量を制御すべく、前記スイッチング素子がオン状態となる期間の位相を操作する位相操作手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記位相操作手段は、前記回転機の制御量をフィードバック制御するための操作量として位相を設定するフィードバック操作手段と、該フィードバック操作手段によって設定される位相を前記可変手段によって設定されるデッドタイムに応じてフィードフォワード補正するフィードフォワード補正手段とを備え、該フィードフォワード補正手段によって補正された位相に基づき前記スイッチング素子がオン状態となる期間の位相を操作することを特徴とする請求項3記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記電力変換回路の出力電圧の指令値を設定する手段を備え、
前記可変手段は、前記指令値のベクトルノルムに基づき、前記デッドタイム期間の時間間隔を操作することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記第1状態および前記第2状態からなる1周期が前記電気角の1周期よりも短くなりうるように前記電力変換回路を操作する擬似正弦波制御手段と、
前記擬似正弦波制御手段による制御と前記矩形波制御手段による制御とを切り替える切替手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−95412(P2012−95412A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239338(P2010−239338)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】