説明

圧縮成形用エポキシ樹脂組成物と半導体装置

【課題】圧縮成形用エポキシ樹脂組成物について、BGAパッケージの反りを抑え、耐リフロー性を良好にするとともに、組成物パウダーの耐ブロッキング、計量精度を向上させる。
【解決手段】無機充填材の配合割合を組成物全体の85質量%以上とし、エポキシ樹脂中のアントラセン骨格グリシジルエーテル系エポキシ樹脂の割合を50質量%以上、硬化剤中のビフェニル・トリフェニルメタン系フェノールの割合を50質量%以上とし、組成物のパウダーの粒度分布を2.4mm以上が2質量%以下、0.18mm以下が2質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の封止に用いられるパウダー状の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物とこれにより封止成形された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、薄型化にともない、表面実装型パッケージが主流になってきており、これらのパッケージのなかでも、より実装密度の高いエリア実装タイプのBGAが多くなりつつある。このBGAパッケージは片面封止であるために反りが発生し、半田リフロー時に問題となる。
【0003】
このようなBGAパッケージの反りを低減するには、線膨張を低減すること、もしくはガラス転移温度を高くすることで、樹脂の成形収縮率を低減する方法があるが、このような材料は耐リフロー性に問題が生じてしまう。
【0004】
従来、BGAパッケージの反りを抑えることと、耐リフロー性を改善するための方策としてアントラセン骨格やナフタレン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いることが提案されている(例えば特許文献1−2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262384号公報
【特許文献2】特開2008−31233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来提案の方策においてはBGAパッケージの反りの抑制と耐リフロー性の改善については依然として改良の余地が残されているのが実情であった。
【0007】
しかもまた、近年新たな成形方法として圧縮成形方式が検討されているが、この成形方式では、パウダー状の組成物を成形機内で直接軽量するために、パウダーの耐ブロッキングや計量精度の向上が問題となる。
【0008】
したがって、良好な取り扱い性を有する圧縮成形用封止材料が望まれている。
【0009】
本発明は、以上のことから、BGAパッケージの反りの抑制とともに耐リフロー性を改善し、かつ、パウダーの耐ブロッキング性、計量精度の向上を図ることのできる、圧縮成形用エポキシ樹脂組成物とこれを用いて樹脂封止した半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材を必須成分として含有する半導体素子の封止に用いられるパウダー状の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物であって、無機充填材が前記組成物全体量の85質量%以上であり、エポキシ樹脂として、次式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中のR、R、Rは、各々、同一または別異に、水素原子、または炭素数1〜14の範囲内のアルキル基、アルコキシ基、アリール基もしくはアリル基のうちのいずれかを示し、OGはグリシジルエーテル基を示し、kは、0〜4のうちの整数を示す。)
で表わされるエポキシ樹脂を全エポキシ樹脂中の50質量%以上含有する。
【0013】
また、硬化剤として、次式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中のn,mは、n/m=1〜2.5を満足する整数を示す。)
で表わされる硬化剤を全硬化剤中の50質量%以上含有する。
【0016】
さらに、前記組成物のパウダーの粒度分布は、2.4mm以上が2質量%以下、0.18mm以下が2質量%以下であることを特徴とする。
【0017】
この圧縮成形用エポキシ樹脂組成物においては、前記硬化剤として、式(2)で表わされる硬化剤とともにフェノールノボラック樹脂を含有することが好ましい。
【0018】
本発明は、以上の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物をもって半導体素子が封止成形されていることを特徴とする半導体装置も提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物によれば、BGAパッケージの反りの抑制、耐リフロー性が良好であるとともに、パウダーの耐ブロッキング性並びに計量精度の向上が図られることになる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明においては、エポキシ樹脂は、前記式(1)で示される骨格を持つエポキシ樹脂を全エポキシ樹脂中50質量%以上含有する。これにより、圧縮成形用エポキシ樹脂組成物の成形収縮を小さくすることができ、BGAパッケージの反りの抑制、すなわちPKG反りを良好に保つ。50質量%以下では成形収縮が大きくなってしまい、PKG反りが大きくなってしまう。
【0021】
式(1)で示される骨格を持つエポキシ樹脂については、式(1)中の符号R、R、Rは、各々、同一または別異に、水素原子、または炭素数1〜14の範囲内のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、もしくはアリル基のうちのいずれかを示す。本発明の効果を阻害しない許容範囲内において他の置換基を有していてもよい。
【0022】
符号OGはグリシジルエーテル基を示し、係数kは0〜4のうちの整数である。
、R、Rは、好ましくは水素原子、もしくは炭素数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、またはアリール基である。
【0023】
式(1)のエポキシ樹脂は市販品として入手使用してもよいし、公知技術に従って合成して使用してもよい。
【0024】
また、エポキシ樹脂としては、式(1)で示される骨格を持つエポキシ樹脂とともに他のものの併用も可能である。例えばビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂などを併用することができる。
【0025】
組成物全体量に占めるエポキシ樹脂の割合としては、2〜20質量%、好ましくは5〜12質量%の範囲内とすることが考慮される。
【0026】
本発明では、硬化剤は、前記式(2)で示される骨格を持つ硬化剤を全硬化剤中50質量%以上含有する。これにより、圧縮成形用エポキシ樹脂組成物の、熱時の弾性率を低下することができ、耐リフロー性を良好にする。
【0027】
式(2)においてはn,mは、n/m=1〜2.5を満足する整数を示す。水酸基当量は、例えば170〜190のものを用いることができる。
【0028】
式(2)の硬化剤化合物は、市販品として入手して使用してもよいし、公知技術に従って合成したものを使用してもよい。
【0029】
式(2)においては、アリール環は、本発明の効果を阻害しない範囲において、アルキル基、アルコキシ基、アリール基等の置換基を有していてもよい。
【0030】
また、本発明の硬化剤としては、例えばフェノールノボラック、クレゾールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル等、各種多価フェノール化合物、あるいはナフトール化合物などを併用することができる。
【0031】
なかでも、フェノールノボラックの併用が好ましい。
【0032】
組成物全体量に占める硬化剤の割合としては、2〜10質量%、より好ましくは5〜18質量の範囲内であることが考慮される。
【0033】
また、本発明では、必要に応じて、硬化促進剤として、エポキシ基とフェノール性水酸基の反応を促進するものであれば特に限定しないが、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートやトリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、ジアザビシクロウンデセン等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を併用することもできる。
【0034】
硬化促進剤は、硬化剤に対して、質量比0.1〜0.5の範囲内で使用することが好ましい。
【0035】
そして本発明の圧縮成形品エポキシ樹脂組成物においては、無機充填材が全エポキシ樹脂組成物において85質量%以上の割合で配合される。
【0036】
85質量%未満では線膨張が大きくなるために、収縮率が大きくなり、パッケージの反りが大きくなってしまう。
【0037】
無機充填材として、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素などを用いることができる。
【0038】
無機充填材の平均粒径としては5〜20μmの範囲内のものが考慮される。なお、溶融シリカの平均粒径は、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。そして、平均粒径は、母集団から任意に抽出される試料を用い、上記測定装置を利用して測定し導出される値である。
【0039】
さらに本発明では、離型剤として、カルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン等を用いることができる。
【0040】
その他、必要に応じてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、難燃剤、着色剤、シリコーン可とう剤などを加えることができる。
【0041】
そして、本発明の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物は、固形パウダー(粉末または粒状)としてあるが、この場合のパウダーは、粒度分布が、2.4mm以上が2質量%以下で、0.18mm以下が2質量%以下であることを必須としている。0.18mm以下のパウダーが2質量%を超えて存在することにより、パウダーのブロッキングが発生し、2.4mm以上のパウダーが2質量%を超えて存在することにより、計量精度が悪化する。
【0042】
ここで粒度分布は、JIS Z 8801規定の篩を用いて測定することができる。
【0043】
このような粒度分布を必須とする本発明の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物については、公知技術に従って、前述のとおりのエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化促進剤及びその他の成分を配合し、ミキサー、ブレンダー等で均一に混合した後、ニーダーやロールで加熱、混練し、混練後冷却固化し、粉砕して粉粒状のものとして製造することができる。
【0044】
本発明の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物を用いての圧縮成形による樹脂封止については、例えば、圧力10MPa、金型温度175℃、成形時間150秒等に設定することができる。
【0045】
その後、金型を閉じたまま後硬化(ポストキュア)を行った後、型開きして成形物すなわち半導体装置(パッケージ)を取り出す。このときの後硬化条件は、例えば175℃、6時間に設定することができる。
【0046】
本発明においては、このような成形によって、たとえば、成形後の収縮率が0.12%以下とすることができ、パッケージの反りを良好に保つことができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
表1に示した実施例、比較例の各配合材料を調整し、ブレンダーで30分間混合し均一化した後、80℃に加熱した2本のロールで混練溶融させて押し出し、冷却後、粉砕機で粉砕して、粒状材料を得た。この粒状材料を篩い機で篩うことにより所定の粒度分布の樹脂組成物を得た。
【0049】
表1中の配合材料については以下のものを用いた。
【0050】
エポキシ樹脂1〔式(1)のエポキシ樹脂〕:
ジャパンエポキシレジン株式会社製 YL7172 エポキシ当量180 軟化点:104℃
エポキシ樹脂2〔ビフェニル型エポキシ樹脂〕:
ジャパンエポキシレジン株式会社製 YX4000H エポキシ当量195
硬化剤1〔式(2)の硬化剤〕:エアウォーター株式会社製 HE625C−04 水酸基当量180
硬化剤2〔フェノールノボラック〕:明和化成(株)DL−92 水酸基当量105
無機充填材〔シリカ〕:電気化学工業株式会社製FB820
カップリング剤〔γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン〕:信越化学工業(株)製 KBM403
カルナバワックス:大日化学F1−100
カーボンブラック:三菱化学製 40B
硬化促進剤:北興化学(株)製 TPP
【0051】
また、表1中の組成物パウダーの粒度分布について表2に示した区分を示している。
【0052】
<評価>
評価は以下のようにして行った。
(評価方法と条件)
コンプレッション成形条件
金型温度:175℃
圧縮圧力:10MPa
圧縮時間:150秒
後硬化:175℃/6h
トランスファー成形条件
金型温度:175℃
注入圧力:70kgf/cm
圧縮時間:120秒
【0053】
(計量精度)
圧縮成形機の計量ユニットを用い、自動で5gを計量するように設定した。30回計量を繰り返し、実際に計量された重量と設定値のバラツキ(最大値)により、計量精度を測定した。パウダーにブロッキングが見られる場合には記録無しとした。
【0054】
(ブロッキング性)
所定の容器に、エポキシ樹脂組成物パウダーを100g計量し、25℃50%の環境に2時間放置し、ブロッキングの有無を確認した。
【0055】
(PBGAパッケージ反り量(常温での反り)
35×35×0.5mmtPBGA(封止サイズ29×29×1.17mmt、BT基板、レジストPSR400)を175℃120sキュアにて成形し後硬化させたPBGAのパッケージを、AKROMETRIX社製のシャドウモアレ(PS200)を用いて、常温の反り(コプラナリティー)を測定した。
【0056】
(成形収縮率)
上記トランスファー成形条件にて、試験片(φ90mm)を得た。成形後の試験片の寸法を測定し、金型寸法に対する試験片の寸法により、収縮率を算出した。
【0057】
(耐リフロークラック性)
上記35 PBGA基板に寸法8×9×0.35mmのテスト用チップを銀ペーストを用いて搭載した。
【0058】
35 PBGAのパッケージを上記条件で成形し、85℃、60%の条件で168時間吸湿させた後、IRリフロー装置により、260℃、10秒の条件で3回リフロー処理を行い、チップおよび基板剥離の有無を確認し、試験パッケージ数に対する剥離発生パッケージ数で評価した。
【0059】
(評価の結果)
表1には、結果と判定評価を示した。PBGA反り(常温反り)の判定は、表3による区分とした。
【0060】
表1より明らかなように本発明の実施例1〜4の全てにおいて、評価の結果は優良であることが確認された。一方、無機充填材の配合が85質量%未満(比較例1)、式(1)のエポキシ樹脂を配合しない場合(比較例2)、式(2)の硬化剤の割合が50質量%未満(比較例3)、粒度分布が0.18mm以下または2.4mm以上のものが多過ぎる場合(比較例4、5)のいずれも問題があることが確認された。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材を必須成分として含有する半導体素子の封止に用いられるパウダー状の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物であって、無機充填材が前記組成物全体量の85質量%以上であり、エポキシ樹脂として、次式(1)
【化1】

(式中のR、R、Rは、各々、同一または別異に水素原子、または炭素数1〜14の範囲内のアルキル基、アルコキシ基、アリール基もしくはアリル基のうちのいずれかを示し、OGはグリシジルエーテル基を示し、kは、0〜4のうちの整数を示す。)
で表わされるエポキシ樹脂を全エポキシ樹脂中の50質量%以上含有し、硬化剤として、次式(2)
【化2】

(式中のn,mは、n/m=1〜2.5を満足する整数を示す。)
で表わされる硬化剤を全硬化剤中の50質量%以上含有し、前記組成物のパウダーの粒度分布は、2.4mm以上が2質量%以下、0.18mm以下が2質量%以下であることを特徴とする圧縮成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
硬化剤として、前記式(2)で表わされる硬化剤とともにフェノールノボラック樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧縮成形用エポキシ樹脂組成物をもって半導体素子が封止成形されていることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2012−241177(P2012−241177A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115794(P2011−115794)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】