説明

圧縮機制御システム及び電動機制御装置並びに電動機制御方法

【課題】従来よりも信頼性の高い圧縮機が、電動機および電動機制御装置の容量を大きくする必要がない圧縮機制御システム及び電動機制御方法並びに電動機制御方法を提供する。
【解決手段】空気の取り込み口に弁を有する圧縮機60と、圧縮機60を動作させる電動機50と、電動機50の回転速度を制御し駆動する電動機制御装置10〜40とからなり、電動機制御装置は、圧縮機60内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で電動機50を起動する際に、空気の取り込み口の弁80を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、電動機50の回転速度をほぼ一定値に保持し、脱調させることなく安定に行う圧縮機制御システム。電動機制御装置は、電動機50への回転数指令値を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機制御システムに関し、特に圧縮機を動作させる電動機を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機を含む装置であって、構成に回転機械、同期電動機(以下「電動機」と呼称する)を有する装置において、当該電動機を制御する際に、電動機が定格値を超過して運転すると、過負荷保護装置で過負荷を検出し、電動機を停止させる場合がある。しかし、装置によっては、電動機が停止されることが好ましくないこともあり、出来れば停止されないようにすることが必要とされることがある。このことについての対応が特許文献1に開示がある。
【特許文献1】特開平6−22577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、「実電流検出手段からの検出実電流に基づいて検出された電動機の出力トルクが上記定格トルク以上の場合には該出力トルクの積算を行い、その積算値が加速禁止設定値を超過した場合には電動機を一定回転速度になるように目標回転速度出力手段を制御し、その後、上記積算値が減少して再加速設定値を下回った場合には電動機を再加速させるようにして上記目標回転速度出力手段を制御するトルク積算手段とを備えたもの」であり、当該構成とすることで、上述の電動機の停止を回避するようにしたものである。
【0004】
ところで、上記特許文献1にて開示されているのは、一般的な電動機制御装置を対象として記載されているものである。例えば、圧縮機においては、過負荷になることで、電動機が停止等することがある。その場合としては、圧縮機の残圧起動時の処理において、停止することのあることが知られている。ここで、上記の残圧起動とは、圧縮機停止の直後に圧縮機出口に残圧が存在しても再起動を行う起動方法のことを呼ぶものとする。この残圧起動によって、圧縮機が起動出来るようになれば、従来は、数分間待った後でなければ、圧縮機を再起動出来なかった不便さが解消されるものである。
【0005】
上記残圧起動において、圧縮機を駆動する電動機の負荷は、電動機が圧縮機を駆動するための「圧縮機の負荷」と、電動機及び圧縮機を加速するための「加速トルク」の和である。そして、残圧起動時は、残圧の為に「圧縮機の負荷」が大きいと、電動機にとって、過負荷となって、電動機が脱調し、あるいは保護装置が動作することで、モータ停止に至ることが知られており、問題となることがあった。
【0006】
上述の残圧起動時の電動機に対する負荷については、圧縮機の処理部での圧力と関係して変化するものである。
【0007】
残圧起動においては圧縮機の吸入絞り弁が閉じた状態で起動を行う。このため、圧縮機の吸入側の圧力は残圧と等しく、大気圧より高い状態である。電動機が起動後、吸入側の圧力が大気圧以下となったときに、吸入弁を開き大気を取り込み、圧縮動作を継続する。この吸入絞り弁を開く期間の前後は「圧縮機の負荷」が大きく、電動機が発生することの出来る負荷を上回っていれば脱調を引き起こす。従って、上記残圧起動時の電動機の脱調、停止等を解決するには、これらの圧力などを考慮して、電動機制御などをする必要がある。この圧力などを考慮しての電動機の制御については、特許文献1にも開示のないものである。
【0008】
本発明においては、上記問題を解決することを課題とし、従来よりも、より信頼性の高い圧縮機が、電動機および電動機制御装置の容量を大きくする必要がない圧縮機制御システム及び電動機制御方法並びに電動機制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記残圧起動において、圧縮機を起動後の或る期間において、回転速度指令作成器より出力する回転速度を一定に保持することにより、電動機及び圧縮機を加速するために必要とされる「加速トルク」を削減し、電動機に要求される負荷を、電動機が脱調するトルク以下とする。
【0010】
すなわち、本発明は、空気の取り込み口に弁を有する圧縮機と、圧縮機を動作させる電動機と、該電動機の回転速度を制御し駆動する電動機制御装置とからなり、前記電動機制御装置は、前記圧縮機内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で前記電動機を起動する際に、空気の取り込み口の弁を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、前記電動機の回転速度をほぼ一定値に保持させ、脱調させることなく安定に行う圧縮機制御システムである。
【0011】
また、本発明は、前記電動機制御装置が、前記電動機への回転数指令値を用いて回転速度をほぼ一定値に保持させる圧縮機制御システムである。
【0012】
そして、本発明は、空気の取り込み口に弁を有する圧縮機を動作させる電動機の回転速度を制御し駆動する電動機制御装置であって、前記圧縮機内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で前記電動機を起動する際に、空気の取り込み口の弁を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、前記電動機の回転速度をほぼ一定値に保持させ、脱調させることなく安定に行う電動機制御装置である。
【0013】
更に、本発明は、前記電動機への回転数指令値を用いて回転速度をほぼ一定値に保持させる電動機制御装置である。
【0014】
また、本発明は、空気の取り込み口に弁を有する圧縮機を動作させる電動機の回転速度を制御し駆動する電動機制御方法であって、前記圧縮機内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で前記電動機を起動する際に、空気の取り込み口の弁を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、回転速度をほぼ一定値に保持させ、脱調させることなく安定に行う電動機制御方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりも、より信頼性の高い圧縮機が、電動機および電動機制御装置の容量を大きくする事がない圧縮機制御システムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の圧縮機制御システム及び電動機制御装置並びに電動機制御方法の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1を説明する。図1は、本発明の第1の実施例の構成を説明する図である。電動機制御装置の回転速度指令作成器10から出力される回転数速度となるように、電圧指令演算部20から出力される指令を基にPWM演算部30およびインバータ部40から出力される交流電力により電動機50を駆動し、スクリュー圧縮機60による空気の圧縮を行う。
【0018】
スクリュー圧縮機60は、エアフィルタ70から取り込んだ空気を配管100を通じて吸入し、圧縮した空気を吐出する。吸入絞り弁80は、配管100の途中に配し、圧縮機停止時に空気が逆流することの無いように大気と圧縮機の吸入側を遮断する。
【0019】
圧力センサ90は、配管100の途中に配し、圧縮機の吸込側の圧力を計測する。圧力センサ90の情報を基に回転速度指令作成器10では、加速、一定速期間を判定し、電動機50の回転速度を指令する。
【0020】
この圧縮機の回転速度指令作成器10での残圧起動時の制御について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。図2で、残圧起動を開始する(ステップ200)と、先ず電動機を加速する(ステップ210)。そして、圧力センサ90で測定した圧縮機60の吸込側圧力が「大気圧+α」以上(ステップ220−NO)の場合は、ステップ210に戻り、電動機の加速を行う。ここで、αはモータが脱調することなく出力可能なトルクに対し、十分な余裕を持つ事の出来る圧力である。
【0021】
圧力センサ90で測定した圧縮機60の吸込側圧力が「大気圧+α」未満となった場合(ステップ220−YES)、電動機50の加速を停止し、一定速度Aに保持する回転制御とする(ステップ230)。ここで、圧縮機60は圧縮動作を続けるため、圧縮機60の吸入側圧力は下がりつづけ、大気圧以下となる。圧縮機60の吸入側の圧力が大気圧以下となると、吸入絞り弁80を開放する。一定速度Aは、採用する制御方式などに応じて、ほぼ一定の速度でもよい。
【0022】
次に、圧力センサ90で測定した圧縮機60の吸込側圧力が「定常動作における圧力」未満である場合には(ステップ240−NO)、ステップ230に戻り、電動機の回転速度Aを保持し、加速を行わない。圧力センサ90で測定した圧縮機60の吸込側圧力が「定常動作における圧力」以上へと復帰すると(ステップ240−YES)、電動機の加速を再開し(ステップ250)、目標回転数へと到達する(ステップ260−YES)まで加速を続ける。
【実施例2】
【0023】
実施例2を説明する。図3は、本発明の第2の実施例の構成を説明する図である。本実施例は、実施例1の構成(図1参照)から圧力センサ90を除いたものである。この構成により、吸入側の圧力情報を使用することなく制御を可能とする。
【0024】
実施例2の回転速度指令作成器10での残圧起動時の制御について、図4に示すフローチャートを用いて説明する。図4で、残圧起動を開始する(ステップ300)と、先ず電動機を加速する(ステップ310)。そして、実施例1での吸入側圧力に代わり、回転数指令による判定を行う。回転数指令値が「回転数指令保持を開始する回転数(周波数)」未満である場合(ステップ320−NO)にはステップ310に戻り、電動機の加速を行う。ここで、「回転数指令保持を開始する回転数」は予め、電動機が脱調することなく、加速可能な回転数(回転速度)を設定しておくものである。
【0025】
次に、回転数指令値が「回転数指令保持を開始する回転数」以上となった場合(ステップ320−YES)、電動機50の加速を停止し、一定回転数Aの回転制御とする(ステップ330)。
【0026】
ここで、回転数を保持してからの経過時間を測定する。回転数を保持してからの経過時間が「回転数指令保持を行う設定時間」以下である場合(ステップ340−NO)、ステップ330に戻り、電動機50の回転数指令値Aを保持し、加速を行わない。回転数指令を保持してからの経過時間が「回転数指令保持を行う設定時間」を超える場合(ステップ340−YES)、電動機50の加速を再開し(ステップ350)、目標回転数に到達する(ステップ360−YES)まで加速を続ける。ここで、「回転数指令保持を行う設定時間」は、予め負荷が十分に小さくなるまでの時間を測定して求め、設定しておくものであるとする。
【0027】
図5は、本実施例における圧縮機60の圧縮動作に必要な回転数N、モータトルクτM、吸込側圧力P1と駆動時間tとの関係図である。残圧が高く、かつ本実施例を用いない場合には、吸込側圧力が大気圧以下となる前後で、電動機が出力可能なモータトルクτMの限界値を超え、電動機の脱調を引き起こす(点線)。本実施例を用い、吸込側圧力が大気圧以下となる前後回転速度を一定に保持することで「加速トルク」分のトルクが低減され、電動機が出力可能なモータトルクτMの限界値となり、脱調を引き起こさず起動が可能である(実線)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1における電動機制御装置の構成を示す図である。
【図2】実施例1における電動機制御装置の速度制御のフローチャート図である。
【図3】実施例2における電動機制御装置の構成を示す図である。
【図4】実施例2における電動機制御装置の速度制御のフローチャート図である。
【図5】実施例の圧縮機制御システムにおける吸込側圧力と、圧縮動作に必要なトルクの関係図である。
【符号の説明】
【0029】
10:回転速度指令作成器、20:電圧指令演算部、30:PWM演算部 40:インバータ部、50:電動機、60:スクリュー圧縮機、70:エアフィルタ、80:吸入絞り弁、90:圧力センサ、100:配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気の取り込み口に弁を有する圧縮機と、圧縮機を動作させる電動機と、該電動機の回転速度を制御し駆動する電動機制御装置とからなり、
前記電動機制御装置は、前記圧縮機内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で前記電動機を起動する際に、空気の取り込み口の弁を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、前記電動機の回転速度をほぼ一定値に保持させ、脱調させることなく安定に行うことを特徴とする圧縮機制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の圧縮機制御システムにおいて、
前記電動機制御装置は、前記電動機への回転数指令値を用いて回転速度をほぼ一定値に保持させることを特徴とする圧縮機制御システム。
【請求項3】
空気の取り込み口に弁を有する圧縮機を動作させる電動機の回転速度を制御し駆動する電動機制御装置であって、
前記圧縮機内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で前記電動機を起動する際に、空気の取り込み口の弁を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、前記電動機の回転速度をほぼ一定値に保持させ、脱調させることなく安定に行うことを特徴とする電動機制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の電動機制御装置において、
前記電動機への回転数指令値を用いて回転速度をほぼ一定値に保持させることを特徴とする電動機制御装置。
【請求項5】
空気の取り込み口に弁を有する圧縮機を動作させる電動機の回転速度を制御し駆動する電動機制御方法であって、
前記圧縮機内部の圧力が大気圧よりも高い条件下で前記電動機を起動する際に、空気の取り込み口の弁を開放するまでの高いモータトルクを要求される期間中、回転速度をほぼ一定値に保持させ、脱調させることなく安定に行うことを特徴とする電動機制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−163927(P2008−163927A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−355(P2007−355)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】