圧電性薄膜素子および圧電性薄膜素子の製造方法、圧電薄膜デバイス
【課題】非鉛系の圧電性薄膜を用いて、高性能かつ高信頼の圧電性薄膜デバイスを提供する。
【解決手段】基板1と、接着層2と、下部電極3と、配向制御層である下地層6と、スパッタリング法によって成膜された(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜4と上部電極5を有し、圧電性薄膜4の内部応力の絶対値が1.6GPa以下である。
【解決手段】基板1と、接着層2と、下部電極3と、配向制御層である下地層6と、スパッタリング法によって成膜された(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜4と上部電極5を有し、圧電性薄膜4の内部応力の絶対値が1.6GPa以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムを用いた圧電性薄膜素子およびその製造方法、ならびに圧電薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工され、電圧を加えて変形を生じさせるアクチュエータや、圧電素子の変形から電圧を発生するセンサなどの機能性電子部品として広く利用されている。アクチュエータやセンサの用途に利用されている圧電体としては、大きな圧電特性を有する鉛系の誘電体が広く知られている。特にPZTと呼ばれるPb(Zr1-xTix)O3系のペロブスカイト型強誘電体がこれまで広く用いられている。通常、これら圧電体は、圧電材料の酸化物を焼結することにより形成されている。
一方、近年では環境への配慮から鉛を含有しない圧電体の開発が望まれており、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(一般式:(NaxKyLiz)NbO3(0<x<1、0<y<1,0<z<1,x+y+z=1)等の開発が進められている。このニオブ酸リチウムカリウムナトリウムは、PZTに匹敵する圧電特性を有することから、非鉛圧電材料の有力な候補として期待されている。
【0003】
現在、各種電子部品の小型かつ高性能化が進むにつれ、圧電素子においても小型化と高性能化が強く求められるようになった。しかしながら、従来からの製法である焼結法を中心とした製造方法により作製した圧電体は、その厚さが特に10μm以下の厚さになると、材料を構成する結晶粒の大きさに近づき、その影響が無視できなくなる。そのため、特性のばらつきや劣化が顕著になるといった問題が発生する。この問題を回避するために、焼結法に変わる薄膜技術等を応用した圧電体の製造方法が近年研究されるようになってきた。
【0004】
最近、RFスパッタリング法で形成したPZT圧電性薄膜が高精細高速インクジェットプリンタのヘッド用アクチュエータや、小型低価格のジャイロセンサとして実用化されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、鉛を用いないニオブ酸リチウムカリウムナトリウムの圧電性薄膜を用いた圧電性薄膜素子も提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−286953号公報
【特許文献2】特開2007−19302号公報
【特許文献3】特開2007−184513号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中村僖良監修 圧電材料の高性能化と先端応用技術(サイエンス&テクノロジー刊 2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電性薄膜として非鉛圧電性薄膜を形成することにより、環境負荷の小さい高精細高速インクジェットプリンタ用ヘッドや小型低価格なジャイロセンサを作成することができる。その具体的な候補として、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムの薄膜化の基礎研究が進められている。しかしながら、従来技術では、要求性能を満足する非鉛系の圧電性薄膜素子及び圧電性薄膜デバイスを安定的に提供することができなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解消して、要求性能を満足する非鉛系の圧電性薄膜素子およびその製造方法、ならびに圧電薄膜デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、基板と、前記基板上にスパッタリング法によって成膜された(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜とを有し、該圧電性薄膜の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることを特徴とする圧電性薄膜素子が提供される。
【0010】
また、前記基板の厚さの増減率に応じて増減する前記基板の反り形状の曲率半径の増減率が、前記基板の厚さの増減率の二倍以上であることが好ましい。
【0011】
また、前記基板と前記圧電性薄膜との間に、前記圧電性薄膜の配向を制御する下地層を有することが好ましい。
【0012】
また、前記下地層は(111)面に配向して形成されるPt薄膜であることが好ましい。
【0013】
また、前記基板と前記下地層との間に下部電極層が形成され、前記下部電極層と前記基板との間に接着層が形成され、前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記圧電性薄膜の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。
【0015】
また、前記圧電性薄膜上には上部電極が形成され、前記基板と前記圧電性薄膜との間には下部電極が形成され、前記下部電極層あるいは前記上部電極層もしくは両電極層の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記圧電性薄膜は、Arガス又はArガスに酸素を混合させた混合ガス雰囲気下で成膜され、前記圧電性薄膜中にArを含有することが好ましい。
【0017】
また、前記基板は酸化膜付きのSi基板であることが好ましい。
【0018】
また、前記圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値を0.15m-1以下、好ましくは0.07m-1以下の範囲で制御することが好ましい。
【0019】
また、前記圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値を0.9GPa以下、好ましくは0.45GPa以下の範囲で制御することが好ましい。
【0020】
本発明の他の形態によれば、上述した圧電性薄膜素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電薄膜デバイスが提供される。
【0021】
圧電性薄膜の内部応力が、前記成膜時のスパッタリング投入電力によって制御されることが好ましい。また、圧電性薄膜の内部応力が、前記基板の選定によって制御されてもよく、前記圧電性薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度によって制御されてもよい。
【0022】
前記圧電性薄膜阻止において、前記基板の厚さを0.3mmとしたき、前記基板の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。
【0023】
また、前記圧電性薄膜の一部に、ペロブスカイト構造を有するABO3の結晶層、ABO3の非晶質層、またはABO3の結晶と非晶質とが混合した混合層のいずれかを含んでもよい。ただし、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、Biのうちから選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta、Inのうちから選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、要求性能を満足する非鉛系の圧電性薄膜素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態の下部電極層、圧電性薄膜を備えた圧電性薄膜素子の説明図であって、(a)は圧縮応力状態を示す断面図、(b)は引張応力状態を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子のX線回折パターンの図である。
【図3】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の光てこ法で得られた反り形状の測定結果を示す図であり、(a)は反り形状が凸の場合、(b)は反り形状が凹の場合の図である。
【図4】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の光てこ法で得られた内部応力とスパッタリング投入電力との相関図である。
【図5】本発明の一実施の形態の異なる基板上に成膜したKNN圧電性薄膜の比較特性図であって、(a)は曲率半径の比較図、(b)は内部応力の比較図である。
【図6】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の内部応力の温度特性図である。
【図7】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の内部応力と、成膜後に行った熱処理温度との相関図である。
【図8】本発明の一実施の形態の下部電極層、LNO下地層、KNN圧電性薄膜及び上部電極層を備えた圧電性薄膜素子の説明図であって、(a)は圧縮応力状態を示す断面図であり、(b)は引張応力状態を示す断面図である。
【図9】本発明の一実施の形態の下部電極層、各種下地層、KNN圧電性薄膜及び上部電極層を備えた圧電性薄膜素子の説明図であって、(a)は圧縮応力状態を示す断面図であり、(b)は引張応力状態を示す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧20V時の基板の反り量(曲率)と圧電定数との相関図である。
【図11】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧2V時の基板の反り量(曲率)と圧電定数との相関図である。
【図12】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧20V時の内部応力と圧電定数との相関図である。
【図13】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧2V時の内部応力と圧電定数との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明はKNN((K,Na)NbO3)圧電薄膜に係るものである。内部応力が小さい材料は誘電率が低く、その結果、圧電定数が小さくなることがある。また、内部応力を大きくすることによって圧電特性を向上させる材料もあり得る。また、KNN圧電薄膜は、従来の鉛系圧電材料(例えばPZT等)と、組成が異なるだけであるからといって、内部応力と圧電定数の関係において、鉛系圧電材料と同じ振る舞いを示すという保障はない。薄膜とバルク材では物性が異なることはよく知られており、薄膜の内部応力と圧電特性との関係を具体的・実際的に解析しなければ、それらの関係はわからない。
そこで、本発明者は、KNN圧電薄膜における内部応力と圧電定数との相関関係を究明すべく、KNN圧電薄膜の作製条件の最適化や応力解析などを行った。その結果、KNN圧電薄膜において、その圧電特性は内部応力の影響(効果)が大きいことが認められた。そして、内部応力ゼロが圧電特性向上に寄与することも判明した。
本発明者らは、上記知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0027】
以下、本発明に係る圧電性薄膜素子の一実施の形態を説明する。その前に、圧電性薄膜の内部応力に影響を与える圧電性薄膜素子の製作条件について検討する。
【0028】
非鉛系の圧電性薄膜素子については、素子毎に要求される性能を満足させつつ安定に生産するためには、圧電性薄膜の残留応力(内部応力)を管理することや制御することが必要となる。
【0029】
その理由は、次の通りである。圧電性薄膜によって与えられる内部応力で、引張応力と圧縮応力とがある。引張応力は膜がはがれる様に働く応力で、圧縮応力はその逆である。内部応力が大きいと膜剥がれの原因になったり、割れを生じたり、その上に付ける上部電極層に悪影響を及ぼしたりするからである。
【0030】
[圧電性薄膜の反り形状]
Si基板など、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜(ニオブ酸カリウムナトリウム膜を含む)との熱膨張係数が異なる基板上に、その熱膨張係数差を考慮することなく、下部電極層を形成し、その上部にニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜を形成すると、この膜は反った形状になる。つまり、圧電性薄膜付基板が意図しない反りを有する。
従来は、反り形状や内部応力の大きさの影響を検討することなく形成していたため、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜の反り形状が素子作製毎に異なって形成されることが多かった。実際、このニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜の反り形状は凹形状、凸形状など様々な形状となる。以下、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムをLKNNと略称し、ニオブ酸カリウムナトリウムをKNNと略称する。
【0031】
LKNN膜の反り形状が凹形状、凸形状など様々な形状となる理由は、(1)LKNN膜、基板および下部電極層の伸び縮みの温度係数が異なっているため、薄膜を形成する際の温度と室温の差によって膜と基板の収縮が異なること、(2)または結晶化温度以上で成膜する際、結晶成長に伴う急激な格子収縮や膨張が起きることによってグレイン間に引力が働くこと、(3)更に、スパッタリング成膜時の投入電力(Power)を増加させることで、Arイオン(以下、Ar+)などエネルギー粒子衝撃により多くのスパッタ粒子が粒界に打ち込まれ、その結果として緻密な膜が形成されて面内で伸びる力が生じて凸形状になること、等が原因となり、上部に形成されるLKNN膜の反りを誘発させていると考えられる。
【0032】
[基板の選定]
そこで、はじめに、LKNN膜と基板との熱膨張係数の差について検討した。そして、成膜した際、圧電性薄膜の曲率半径が大きくなる(反り量が少ない)基板を選定するための検討を行った。
選定方法として、まず、バルクのLKNNの熱膨張係数に近い値をもつ基板を選択した。それらの基板の候補としては、MgO、Si、Ge、Al2O3、SrTiO3、石英等の結晶あるいは非晶質あるいはそれらの複合体等が望ましい。それらの基板上に下部電極層を形成し、その上部にLKNN膜を形成した素子について、各々の反り量を比較して、実際に反り量が小さい基板を選定した。
【0033】
[成膜条件]
更に、LKNN膜の内部応力の低減をより確実にするために、上記の実施の形態において、成膜温度、スパッタリング動作ガスの種類および圧力、真空度、及び投入電力について、反り量が小さくなる作製条件を見出し、最適化を図るのが良い。これらの条件を装置毎や環境化に応じて多面的に検討することによって、低内部応力のLKNN薄膜を形成できる。
【0034】
[下部電極層の表面平坦化]
次に、LKNN膜の内部応力が均一かつ低歪みとなるように、下地となるPt下部電極層の表面を平坦化する検討を行った。その方法として、Pt下部電極層の膜厚を厳密に制御して、Pt下部電極層の表面凹凸を小さくさせる。また、多結晶であるPt下部電極層について、その結晶粒子のサイズが均一になるように制御して形成することによって、結晶粒子間に加わる力が均等に分散される。結果として、LKNN膜を、粒子サイズを均一化した下部電極層の上部に形成すると、界面の応力緩和によって圧電性薄膜の内部応力が低減する効果が期待できる。
【0035】
以上述べた圧電性薄膜の内部応力に影響を与える圧電性薄膜素子の製作条件について検討した結果を踏まえて、本発明に係る圧電性薄膜素子の一実施の形態を説明する。
【0036】
本発明者は、鋭意研究の結果、前記圧電性薄膜の内部応力を素子の製作条件によって制御できることを見出した。ここで素子の製作条件は、成膜時のスパッタリング投入電力、成膜後の熱処理温度を適切に制御することである。また、圧電性薄膜素子の構成材料である基板、下部・上部電極、接着層、下地層、圧電性薄膜等を適切に選択することである。以下、各製作条件によって圧電性薄膜の内部応力が制御される圧電性薄膜素子について説明する。
【0037】
[圧電性薄膜素子]
本実施の形態の圧電性薄膜素子は、基板と、この基板上に形成される下部電極層と、この下部電極層上に形成される圧電性薄膜とを有する。前記圧電性薄膜は、ペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜である。実施の態様によっては、前記基板は、その表面に酸化膜を有することもある。また、実施の態様によっては、前記下部電極層は、所定方向に配向して形成され、前記圧電性薄膜を前記下部電極層に対し所定方向に配向させていることもある。また、実施の態様によっては、前記圧電性薄膜素子は、前記圧電性薄膜上に形成される上部電極層までを含めていうこともある。この場合、上部電極層を含めない圧電性薄膜までを圧電性薄膜付基板ということもある。また、圧電性薄膜を含めない下部電極層までを下部電極付基板ということもある。
【0038】
[基板の選定]
前記基板としては、Si基板、MgO基板、ZnO基板、SrTiO3基板、SrRuO3基板、ガラス基板、石英ガラス(SiO2)基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板などが挙げられる。特に、低価格でかつ工業的に実績のあるSi基板が望ましい。また、Si基板等の表面には酸化膜を形成してもよい。
Si基板等の表面に形成される前記酸化膜は、熱酸化により形成される熱酸化膜や、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成されるSi酸化膜などが挙げられる。なお、前記酸化膜を形成せずに、石英ガラス(SiO2)、MgO、SrTiO3、SrRuO3基板などの酸化物基板上に、直接Pt電極などの下部電極層を形成しても良い。 上記基板の材料を選定することによって、基板の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。
【0039】
[基板厚さと曲率半径]
基板の材料を選定するのではなく、基板の厚さないし基板の曲率半径を選定することによっても圧電性薄膜の内部応力を制御可能である。基板の厚さが厚いと曲率半径(反り量)は大きくなり、厚さが薄いと曲率半径は小さくなる。
基板の厚さが0.3mmのとき、前記基板の曲率半径が最も小さい0.8mとなることから、圧電性薄膜の内部応力を制御可能とするためには、基板の厚さが0.3mmで、曲率半径が0.8m以上であることが好ましい(実施例2)。
【0040】
また、前記基板の厚さの増減率に応じて増減する前記基板の反り形状の曲率半径の増減率が、前記基板の厚さの増減率の二倍以上であることが好ましい。
【0041】
後述する実施例1で示した式(1)により、Young率E、Pisson比ν、および上部に形成される圧電薄膜の厚さtが一定であるとすれば、圧電薄膜の内部応力σ、基板厚さh、および曲率半径Rの増減率は、微分形にすることによって以下のように表すことができる。このとき曲率半径Rは絶対値とする。
Δσ/σ=2Δh/h−ΔR/R
ΔR/R≧2Δh/hのとき、2Δh/h−ΔR/R≦0であるので、
Δσ/σ≦0
となる。
【0042】
上式に示すように、曲率半径の増減率(ΔR/R)を基板厚さの増減率の2倍(2Δh/h)より大きくすることにより、内部応力の変化(Δσ/σ)を負の方向へと制御することができる。したがって、基板の反り形状の曲率半径の増減率を、基板の厚さの増減率の二倍以上とすることによって、基板の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力をより適切に制御できる。すなわち、内部応力の大きい圧電薄膜の内部応力の絶対値を小さくすることが可能になる。その結果、KNN薄膜の内部応力の低減により圧電特性を向上することができる(実施例6の図12、図13)。
【0043】
[下部電極層、上部電極層、接着層及び下地層]
【0044】
前記下部電極層、前記上部電極層、もしくは両電極層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることが好ましい。
また前記下部電極層と前記基板との間に接着層が配置され、前記下部電極層と前記圧電性薄膜との間に下地層が配置され際、配置される前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることが好ましい。
【0045】
このように電極、接着層及び下地層等の曲率半径を、圧電性薄膜の曲率半径(1.6GPa以下)と同じ範囲となるように規定したのは、圧電性薄膜に要求される曲率半径が、電極、接着層及び下地層等側から規制されても、圧電性薄膜に要求される曲率半径を満たすようにするためである。さらには、基板によって制御可能な圧電性薄膜の内部応力が最大1.5GPa以下(実施例2)であることから、電極、接着層及び下地層の内部応力を少なくとも1.6GPa以下とすれば、要求性能を満足する圧電性薄膜素子を得ることができる。
【0046】
また、前記下部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金からなる電極層、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。あるいは、前記下部電極層が、Ru,Ir、Sn、In乃至同酸化物からなる電極層、またはこれらと前記圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物の層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
上記圧電性薄膜体素子の下部電極としてPt電極、あるいはPt合金、その他を使用することによって、または、上記下部電極としてRu、Ir乃至同酸化物やPtと、圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物を使用することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。
【0047】
また、前記Pt下部電極層は、(111)面に配向して形成されるのが好ましい。下部電極層を配向して形成することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。Pt下部電極層を(111)面に高配向したPt薄膜により形成することで、Pt下部電極層が圧電性薄膜の配向を制御する下地層(配向制御層)として機能する。
【0048】
また、前記下部電極層はスパッタリング法で成膜することが好ましい。スパッタリング法を使用して、室温より高い温度で成膜した下部電極の表面形状は、凹形状であって、引張応力の状態であり、曲率半径が大きくなり、内部応力を小さくすることができる。一方、室温で成膜した下部電極の表面形状は凸形状であって、圧縮応力の状態にあり、曲率半径が小さくなり、内部応力を小さくすることはできない。したがって、下部電極層を配向して形成することによって、または、スパッタリング法を用いて室温より高い温度で成膜することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。
【0049】
さらに基板とPtもしくはPtを主成分とする合金化からなる電極層との間に、基板との密着性を高めるための接着層、例えばTi層を設けても良い。接着層を設けることによって、圧電性薄膜の内部応力を制御できる。したがって、下部電極層をスパッタリング法を用いて室温より高い温度で成膜することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。また、下部電極の膜厚、成膜時のスパッタパワーや成膜温度を制御することにより、下部電極の表面粗さを、算術平均粗さRaを0.86nm以下、二乗平均粗さRmsを1.1nm以下となるよう成膜するとよい。これにより、圧電定数のばらつきを抑えるとともに、圧電性薄膜及び圧電性薄膜上に形成される上部電極表面の平坦性に優れた圧電性薄膜デバイスを得ることができる。
【0050】
また、前記圧電性薄膜の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。または、前記下部電極層あるいは前記上部電極層もしくは両電極層の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。または、接着層もしくは下地層あるいは両方の層が配置され、配置される前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。圧電性薄膜の内部応力を上述した1.6GPa以下とするためには、内部応力との相関から、この範囲の曲率半径を満たすことが必要である(実施例1の式(1))。
【0051】
上述したように、下部・上部電極層、接着層又は下地層を適切に選定して、圧電性薄膜の内部応力を1.6GPa以下に制御し、あるいは圧電性薄膜の反り形状を0.8m以上に制御することにより、内部歪みに伴うリーク電流の増加や圧電性薄膜や電極等の内部のクラックや圧電性薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができ、圧電性薄膜素子、及び圧電性薄膜デバイスを安定的に提供できる。
【0052】
[圧電性薄膜]
前記圧電性薄膜は、(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜とするのが好ましい。この圧電性薄膜には特定の元素がドーピングされていても良い。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウムや二オブ酸リチウムカリウムナトリウムに、所定量のTaやVなどがドーピングされても良い。前記圧電性薄膜は、RFスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて形成される。
任意の安定した圧電定数を得るためには、圧電性薄膜の内部応力の絶対値は1.6GPa以下であることが好ましい。また、圧電性薄膜の曲率半径は0.8m以上であることが好ましい。
【0053】
[スパッタリング投入電力]
前記圧電性薄膜の内部応力はスパッタリング投入電力によって制御される。投入電力が小さいと素子の反り形状は凹形状(引張応力)となり、投入電力が大きいと凸形状(圧縮応力)となる。
例えば、Si基板の場合、投入電力が低いとき引張応力状態にあり、その内部応力はプラス値をとり、投入電力を上げていくと、ある値付近で内部応力はゼロになり、さらに上げていくと圧縮応力状態にあり、その内部応力はマイナス値をとる。すなわち、スパッタリング投入電力に応じて内部応力はゼロクロスする。
したがって、圧電性薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力を変化させることで、圧電性薄膜の内部応力を制御でき、その内部応力の絶対値を1.6GPaから制御できる。
【0054】
また、前記圧電性薄膜の一部に、ペロブスカイト構造を有するABO3の結晶層、ABO3の非晶質層、またはABO3の結晶と非晶質とが混合した混合層のいずれかを含むことが好ましい。ただし、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、Biのうちから選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta、Inのうちから選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。上記Aサイトの圧電材料としてPbを含む構成とすることもできるが、環境面からはPbを含まない圧電性薄膜が求められる。
【0055】
また、前記圧電性薄膜が前記基板に対して垂直方向に(001)優先配向であることが好ましい。
【0056】
[成膜後の熱処理温度]
前記圧電性薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度を変化させることによって、圧電性薄膜の内部応力を制御することが可能である。
熱処理温度を増加させることによって、KNN圧電性薄膜を凸形状から凹形状へと引張応力状態へ変化させることができる。すなわち、熱処理温度を変化させることによって、KNN圧電性薄膜の内部応力を所望の値に制御できる。
【0057】
[上部電極層]
上記の実施の形態の圧電性薄膜付きの基板に対して、前記圧電性薄膜の上部に上部電極層を形成することによって、低内部応力(歪み)の圧電性薄膜素子を作製できる。
前記上部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金からなる電極層、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。あるいは、前記上部電極層は、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物からなる電極層、またはこれらと前記圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物の電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
このように上部電極を下部電極と同じ材料を使い、スパッタリングで形成するようにすれば、下部電極層と同じ手法で上部電極層を形成できるので、製造工程の簡素化が図れるので、好ましい。もっとも、上部電極層は、下部電極と層と異なり、その上に圧電性薄膜を成膜する必要がないため、アルミニウム(Al)金属などを用いて蒸着形成するようにしても良い。
【0058】
[圧電性薄膜デバイス]
ここで、圧電性薄膜デバイスは、上記圧電性薄膜素子を装置化したものである。圧電性薄膜デバイスは、圧電性薄膜素子を所定形状に成型し、電圧印加手段、電圧検出手段を設けることにより、各種のアクチュエータやセンサなどとして作製することができる。また、表面弾性波を利用したフィルタデバイスの作製も可能となる。
特に、これらの圧電性薄膜の内部応力の低減によって、圧電性薄膜素子や圧電性薄膜デバイスの圧電特性向上や安定化を実現することで、高性能なマイクロデバイスを安価に提供することが可能になる。また、デバイスによっては、素子強度などの制御の観点から、圧電性薄膜などの膜厚を増減することによって、内部応力を制御するとともに、Young率等弾性定数の高い基板を選定し、内部応力の最適化を図り、多種多様の高性能マイクロデバイスを提供することが可能になる。
【0059】
[圧電性薄膜素子の製造方法]
本実施の形態の圧電性薄膜素子は、基板上に下部電極層を形成し、さらに圧電性薄膜を成膜し、その上に上部電極層を形成することによって製造する。前記圧電性薄膜はLKNN圧電性薄膜であり、スパッタリング法によって成膜する。この圧電性薄膜の内部応力は、素子の作製条件によってその絶対値が1.6GPa以下となるように制御される。
【0060】
上述した圧電性薄膜の内部応力を得るには、前記圧電性薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40Wから120Wの範囲内、好ましくはスパッタリング投入電力密度が0.010W/mm2から0.040W/mm2の範囲内で制御されるのがよい(実施例1の図4)。
【0061】
また、上述した圧電性薄膜の内部応力を得るには、前記圧電性薄膜の内部応力は、前記圧電性薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下、好ましくは600℃から750℃の範囲内で制御されるのがよい(実施例3の図7)。
【0062】
また、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値が0.15m-1以下、好ましくは0.07m-1以下の範囲で制御されるのがよい(実施例6の図10)。
また、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値が0.9GPa以下、好ましくは0.45GPa以下の範囲で制御されるのがよい(実施例6の図12)。
[実施の形態の効果]
【0063】
本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、次のような効果がある。
【0064】
本発明の一実施の形態では、構成材料である圧電性薄膜、電極、基板、接着層、下地層を適切に管理・選定するとともに当該材料の作製条件の最適化を図り、それらの反り形状等を精密に測定して素子の内部応力を正確に制御した。この本発明の一実施の形態によれば、内部応力制御により良好な圧電特性を実現できる。また、高性能かつ高信頼性の圧電性薄膜素子を実現することができ、製造上高歩留りで高品質な圧電性薄膜素子及び圧電性薄膜デバイスを得ることが可能になる。
【0065】
本発明の一実施の形態による圧電性薄膜素子は、鉛を用いない圧電性薄膜を備えた圧電性薄膜素子である。したがって、本発明の一実施の形態による圧電性薄膜素子を搭載することによって、環境負荷を低減させかつ高性能な小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical System)等が実現できる。また、下部電極層を下地層として用い、圧電性薄膜所に形成される上部電極を所定のパターンとすることで、良好なフィルタ特性を有するフィルタデバイスを実現できる。
また、本実施の形態によれば、LKNNの圧電性薄膜及び電極表面の平坦性に優れた圧電性薄膜素子や圧電性薄膜デバイスが得られる。
【0066】
本発明の一態様においては、基板、下部電極、圧電性薄膜及び上部電極の積層構造よりなる圧電性薄膜素子において、該圧電性薄膜の反り形状の曲率半径を0.8m以上に制御し、あるいは、内部応力を1.6GPa以下に抑制することにより、内部歪みに伴うリーク電流の増加や圧電性薄膜や電極等の内部のクラックや圧電性薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができる。また、本発明の圧電性薄膜は、スパッタリング法により成膜される。このときスパッタリング動作ガスは成膜された圧電性薄膜中に含有される。成膜の際に使用されたスパッタリング動作ガス、及び圧電性薄膜中への含有量を制御することでも圧電性薄膜の内部応力を制御することができる。
【0067】
また上記圧電性薄膜体素子の下部電極としてPt電極、あるいはPt合金、その他を使用することによって、または、上記下部電極としてRu、Ir乃至同酸化物やPtと、圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物を使用することによって、上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。また、基板についても、Siのほか、MgO基板、SrTiO3基板、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板等を使用することによって、その上に形成した圧電性薄膜の内部応力を制御することができる。これにより圧電特性を更に向上することができる。
【実施例1】
【0068】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0069】
(実施例1)
実施例1は投入電力を変化させることにより内部応力を制御するものである。
図1に、圧電性薄膜付の基板の概要を示す断面図を示す。本実施例においては、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成し、その上部に、下部電極層3とペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(以下、KNNと記す)の圧電性薄膜4を形成することにより、圧電性薄膜素子(圧電性薄膜付基板)を作製した。その際、作製条件によって圧電性薄膜の内部応力の状態が変化する。
【0070】
図1(a)に、反りが表面側に凸形状となる圧電性薄膜付基板の断面図を示す。ここで表面側とは基板と反対側の面である。凸形状は圧電性薄膜が面内で押し合う方向に力が加わった状態にあることを示しており、いわゆる圧縮応力状態にあることを表している。一方、図1(b)に、反りが表面側に凹形状となる圧電性薄膜付基板の断面図を示す。これは圧電性薄膜が面内で引っ張り合う方向に力が加わった状態にあることを示しており、引張応力状態にあることを表している。
【0071】
[圧電性薄膜付基板の製造方法]
以下、圧電性薄膜付基板の製造方法を記述する。
【0072】
始めに、図1に示すように、Si基板1の表面に熱酸化膜を形成し、その上に下部電極層3を形成した。下部電極層3は、接着層2として形成したTi膜と、このTi膜上に電極層として形成したPt薄膜とからなる。Pt薄膜は下地層としても機能するが、ここではPt下部電極層という。
【0073】
本発明の実施例のSi基板には、熱酸化膜付きの4インチサイズのSi基板を用いた。基板厚さは0.3mm、(100)面方位のものを用いた。酸化膜の厚さは150nmとした。Si基板上には厚さは1〜20nmのTi接着層をスパッタリング法により作製するとよい。
Ti接着層及びPt下部電極層は、スパッタリング法で作製した。Pt下部電極を成膜する場合、スパッタリング用ターゲットとしてPt金属ターゲットを用い、スパッタリング用ガスには100%Arガスを使用し、圧力を2.5Paとした。Pt薄膜形成時には基板温度を300℃にして成膜を行って多結晶薄膜のPt薄膜を形成した。比較例として、Pt薄膜の形成には基板温度を常温にして成膜を行った。なお、Pt薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力は65Wから100Wの間で制御されるとよい。本実施例における、Ti密着層、Pt薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力を75Wとし、膜厚はそれぞれ、2nm、200nmとなるように形成した。このようにして2種類のPt電極付Si基板を作製した。
【0074】
次に、これら2種類のPt電極付Si基板のPt下部電極層上に、圧電性薄膜4としてKNN圧電性薄膜を形成した。このKNN圧電性薄膜の成膜にもスパッタリング法を用いて形成した。KNN圧電性薄膜の形成時には基板温度が600℃から900℃の範囲で制御されるよう基板加熱を行うとよい。本実施例では、基板温度が650℃となるよう制御した。Ar+O2の混合ガスによるプラズマでスパッタリングを実施した。混合比は9:1とした。スパッタリング用ターゲットには(NaxKyLiz)NbO3 x=0.5、y=0.5、z=0の焼結体ターゲットを用いた。膜厚は3μmになるまで成膜を行った。120Wのスパッタリング投入電力(Power)で成膜を行った。また、投入電力を50Wまで変化させ成膜したKNN圧電性薄膜も作製した。このように作製したKNN圧電性薄膜について、X線回折装置で結晶構造を調べた。
【0075】
その結果、300℃の基板加熱を行って形成した実施例1のPt薄膜は、図2のX線回折パターン(2θ/θスキャン測定)に示すように、基板の表面に垂直な向きにPt(111)面に配向した薄膜が形成されていることが判った。また、Pt(111)に配向したPt薄膜上に形成したKNN圧電性薄膜については、図2示すように、KNN(001)に強く配向していることが判った。
【0076】
これに対して、常温で成膜したPt膜をX線回折測定で調べた結果、特定の結晶面からの回折が存在せず、アモルファス状態となっていることを確認できた。また、常温で成膜したPt薄膜上に形成したKNN圧電性薄膜には配向表面がなく、ランダムな多結晶膜となっていることが判った。したがって、Pt薄膜(Pt下部電極層)としては、KNN膜を配向させるような配向、具体的にはPt(111)配向を備えることが好ましい。
【0077】
本実施例において、成膜条件等を変更し内部応力を制御したKNN圧電性薄膜について、表面の反り形状を光てこ法によって解析した。本測定では、−10mmから+10mmの薄膜範囲を1mmピッチで走査し、各点における変位量を測定した。
【0078】
図3に、実施例1の圧電性薄膜表面の反り形状の測定結果を示す。得られた測定データに対して、最小二乗法によるフィッティング解析(図3に示す実線)を行うことによって、曲率半径を求めた。
【0079】
その結果、投入電力を100Wに設定して作製した場合、図3(a)に示すように、反り形状は図1(a)に示した凸形状であり、圧縮応力状態にあった。このとき、反り量の解析値である曲率半径Rは10.4mであった。
【0080】
一方、50Wの投入電力で成膜した場合、図1(b)に示すように凹形状であり、引張応力状態となった。この反り量の曲率半径Rは10.3mであった。ここで得られた曲率半径Rを用いれば、KNN圧電性薄膜の面内の内部応力σを求めることができる。本実施例では、以下に示す定義式(1)に基づき計算を行った。
【0081】
σ=Eh2/(1−ν)・6Rt (1)
EはYoung率、νはPoisson比、hは基板の厚さ、tは薄膜の膜厚、およびRは基板の反り量(曲率半径)であって、t<<h<<Rの関係である。詳細については、下記の文献(1)、(2)を参照されたい。
【0082】
(1)須藤一著、残留応力とゆがみ、(内田老鶴圃、1988年)
(2)吉田貞史著、応用物理工学選書3「薄膜」、(培風館、1990年)
【0083】
前記の式(1)を元に、KNN圧電性薄膜の内部応力を求めた。本実施例で用いた基板は(100)Siウエハである。基板の機械的物性値は、Young率Eが130.8GPa、Poisson比νが0.28、厚さhが0.6mmである。また形成したKNN圧電性薄膜の厚さtは3μmである。これらをもとに前記条件で作製したKNN圧電性薄膜の内部応力を計算した結果、投入電力100Wで成膜したときは、内部応力は0.351GPaであり、投入電力50Wで成膜したとき、内部応力は0.353GPaであった。
【0084】
次に、スパッタリング投入電力に対するKNN圧電性薄膜の上記内部応力がどのように変化するのかを調べるために、投入電力を50Wから120Wまで変化させたときのKNN圧電性薄膜の内部応力を解析した。このとき使用したスパッタリングターゲットのサイズは直径が50mmであり、成膜に用いた基板は(100)Siである。
【0085】
図4にその結果を示す。この図の縦軸は内部応力の値を示し、正負符号について、正の場合は引張応力、負の場合は圧縮応力状態を表している。
【0086】
図4に示すように投入電力が50Wのときは引張応力状態にあり、その内部応力は0.3〜0.4GPaであった。投入電力を大きくするに従い、KNN圧電性薄膜の引張応力は小さくなることがわかる。そして、75W付近でKNN圧電性薄膜の内部応力はほぼ0になることがわかる。更に投入電力を大きくすると、基板の反り形状は凹形状であったものが凸形状へと変わり、引張応力から圧縮応力状態に変化したことがわかる。投入電力を120Wまで増加させたとき、圧縮応力の値は約0.6GPaにまで増加することがわかった。さらに検討した結果、+0.4GPa〜−0.6GPaの内部応力を有するKNN圧電性薄膜を得るには、前記圧電性薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40Wから120Wの範囲内、好ましくはスパッタリング投入電力密度が0.010W/mm2から0.040W/mm2の範囲内で制御することで実現が可能であった。ここで、スパッタリング投入電力密度とは、ターゲットへの投入電力を、ターゲットのスパッタリング面の面積で割った値である。
【0087】
以上のように、KNN圧電性薄膜の内部応力の制御はスパッタリング投入電力を変化させることで可能になることがわかる。本実施例では、スパッタリング投入電力を75W近傍で制御することによって低内部応力のKNN圧電性薄膜を作製することが可能である。
【0088】
(実施例2)
実施例2は、基板材料を選択することにより内部応力を制御するものである。
また、実施例1の配向させたPt電極上のKNN圧電性薄膜を、Si基板以外の基板を用いて作製することを試みた。それぞれの基板の弾性定数であるYoung率やPoisson比及び熱膨張係数等が異なっているため、その上部に形成されるKNN圧電性薄膜へかかる内部応力は変化することが予想され、内部応力の制御が可能であると考えられる。実際に、様々な物質に変えて検討を行ったところ、KNN圧電性薄膜の内部応力状態が、個々の基板において異なることがわかった。
【0089】
本実施例2において用意した基板は、MgO、Si、Ge、SrTiO3、Al2O3及びSiO2である。KNN圧電性薄膜の成膜時のスパッタ投入電力は100Wとした。図5(a)は、個々の基板上に成膜したときのKNN圧電性薄膜の反り形状を示している。このとき、基板の厚さが0.3mmのGe基板上に成膜したKNN圧電性薄膜が最も小さい曲率半径を有し、0.8mであった。一方、最大の曲率半径を有するのは、基板厚さが0.6mmのSi基板上に成膜したKNN圧電性薄膜であり、反り量は小さいことがわかった。
【0090】
この結果をもとに、内部応力を計算した結果を図5(b)に示す。本実施例において、KNN圧電性薄膜の内部応力が使用する基板によって、圧縮応力や引張応力のいずれの状態にも変化していることがわかる。図5(b)に示すように、圧電性薄膜付基板の内部応力を解析した結果、特にMgO基板を使用したとき、KNN圧電性薄膜の内部応力は圧縮状態であり、約1.5GPaであった。またGe基板のときは圧縮応力状態であり、0.94GPa、Al2O3基板では、圧縮応力が0.31GPaであることがわかった。
【0091】
一方、SiやSiO2などを使用した場合、KNN圧電性薄膜の内部応力は引張応力状態であるが、その値は小さく、ほぼ0にすることできることがわかった。以上から、適切な基板を選択することによって、所望の内部応力を有するKNN圧電性薄膜を作製できることがわかった。また、ガラス基板やSUS基板においても、KNN圧電性薄膜の内部応力を制御できる点で同様の効果が得られる。
上記の通り、基板を選定することで、所望の内部応力を備える圧電性薄膜付基板及び圧電性薄膜素子を得ることがわかった。そして、内部応力を1.6GPa以下に制御することで、環境負荷を低減した小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置、又はフィルタデバイスとして、適宜選択して用いることができる。
【0092】
(実施例3)
実施例3は、熱処理温度を変化させることにより内部応力を制御するものである。
KNN圧電性薄膜の温度に対する内部応力の変化を調べるために、実施例1に記載した断面構造を有するKNN圧電性薄膜について、その反り形状、すなわち内部応力の温度変化を検討した。図6にその温度特性の結果を示す。尚、この図の縦軸が正の場合は圧縮応力、負の場合は引張応力状態を表している。本実施例3では、75WでKNN膜を形成した素子について評価を行い、熱処理は大気中で行った。本図から、熱処理によってKNN圧電性薄膜は室温で圧縮応力状態にあったものが、引張応力状態に変わり、温度上昇とともに引張応力が増大することがわかる。これは、Si基板に対してKNN圧電性薄膜の熱膨張係数が大きいことを示している。この結果を元に、圧電性薄膜とSi基板の熱膨張係数の差を定量的に見積もることができる。一般に、熱による内部応力変化を式に表すと、下式(2)のように表される。
【0093】
σ=Ef(αf−αs)ΔT (2)
ここで、Efは薄膜のYoung率、αfは薄膜の熱膨張係数、αsは基板の熱膨張係数、そしてΔTは温度変化値である。本実施例において、図6に示す内部応力の温度変化について、一次関数を用いて最小二乗法フィッティング(Fitting)による解析を行うと、その直線の傾きは1.14×10-3GPa・K-1となる。これはσ/ΔTに相当する。KNN圧電性薄膜のEfを110.7GPa、Si基板のαsを3.2×10-6K-1とすれば、KNN圧電性薄膜の熱膨張係数αfは1.35×10-5K-1となる。結果として、基板に比べてKNN圧電性薄膜の熱膨張係数は約4倍以上であることがわかる。この指標を目安に、基板と圧電性薄膜の組み合わせを考慮して適宜選択すれば、熱処理温度がKNN圧電性薄膜の内部応力の制御パラメータとして有用となる可能性がある。
【0094】
そこで、KNN圧電性薄膜の内部応力の制御が、膜形成後の熱処理によっても可能かどうかを調べるために、膜形成後、熱処理なしの状態から750℃まで加熱処理を行ったときのKNN圧電性薄膜の内部応力を解析した。具体的には、膜形成後、一度室温まで降温させ、その後加熱処理を行った。さらに加熱処理後のKNN圧電性薄膜を再び室温まで降温した後、内部応力を測定した。このときの熱処理は大気中であるが、O2雰囲気あるいはN2雰囲気またはAr等の不活性ガス、もしくは前記ガスが少なくとも一つが含まれる混合ガスでも良い。尚、成膜に用いた基板は(100)Siである。
【0095】
図7にその結果を示す。尚、縦軸の値が正の場合は引張応力、負の場合は圧縮応力である。
【0096】
図7に示すように、スパッタリング投入電力80Wで成膜したとき、熱処理を行わない場合は、KNN圧電性薄膜は圧縮応力状態にあり、その内部応力は0から0.15GPa程度であった。このKNN圧電性薄膜について1時間の熱処理を行うと、基板の反り形状が変化することがわかった。
【0097】
図7に示すように、600℃で熱処理を行った場合、圧縮応力状態から引張応力状態に変化する傾向が見え、内部応力が0に近づくことがわかった。
また前記温度より高い700℃で熱処理を行うと、基板の凹形状は顕著になり、約0.2GPaの引張応力状態になることがわかった。更に高い750℃で熱処理を行うと、引張応力が大きくなり、0.4GPaになることがわかった。熱処理温度を600℃から増加させることによって、KNN圧電性薄膜を凸形状から凹形状へと引張応力状態へ変化させることができる。すなわち、熱処理温度を変化させることによって、KNN圧電性薄膜の内部応力を所望の値に制御できる。特に、低内部応力のKNN圧電性薄膜を作製する場合、本実施例においては、600℃付近で温度制御を行うことが好ましいことがわかった。
【0098】
したがって、0.4Gpa以下の内部応力を有するKNN圧電性薄膜を得るには、前記圧電性薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下に制御され、−0.1Gpa〜+0.3GPaの内部応力を有するKNN圧電性薄膜を得るには、成膜後に実施される熱処理の温度が600℃から750℃の範囲内で制御されるのがよい。
【0099】
(実施例4)
実施例4は、下地層を設けることにより薄膜の内部応力を制御するものである。
図8に、実施例4の圧電性薄膜素子の断面図を示す。本実施例4では、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成した上部に、下部電極層3とKNNの配向性を向上させる配向制御層である下地層6と、KNNの圧電性薄膜4と上部電極層5とを形成した圧電性薄膜素子を作製した。
【0100】
実施例1と同様にSi基板1上に接着層2を介して、下部電極層2を形成し、下部電極層2を結晶化させて形成したPt(111)配向させ、かつ表面平坦化させたPt電極上に、下地層6としてLaNiO3(Lanthan Nickel Oxide;LNO)膜を形成した。LNO膜はPt(111)上で容易に(001)面に配向する。LNO膜もスパッタリング法を用いて形成した。スパッタリングガスはAr+O2の混合ガス(混合比9:1)を用いた。スパッタリング投入電力は75Wとして200nmの膜厚になるように成膜した。このLNO膜のX線回折測定を行ったところ、LNO(001)に単独配向していることが判った。このLNO膜の下地層6上に、KNN膜の圧電性薄膜を形成した。形成条件は実施例1と同様の条件とした。
【0101】
このようにして形成したKNN圧電性薄膜について、X線回折装置を用いて配向状態について評価した結果、実施例1で形成したKNN圧電性薄膜よりも、KNN(001)により強く配向していることが判った。本実施例の場合において、図8(a)に示すようにKNN圧電性薄膜形成時、そのスパッタリング投入電力を100Wより大きくすることによって、基板の反り形状が凸形状となることを確認した。
【0102】
また600℃以上の熱処理を大気中で実施することによって、図8(b)に示すように基板の反りが凹形状になることを確認した。以上の素子について、光てこ法による内部応力を解析した結果、スパッタリング投入電力を大きくしたとき、その内部応力は圧縮状態であり、−1GPa程度まで応力増大することを確認した。
【0103】
一方で、熱処理温度を増加させることによって、引張応力が増大し、1GPa程度まで増大した。以上から、実施例1または3と同じく、内部応力の大きさを制御できることがわかり、所望の圧電特性を示すKNN圧電性薄膜を作製できることがわかった。
【0104】
次に作製したKNN膜の圧電性薄膜4上に上部電極層5を形成した。上部電極層5の材料にはAlを選択し、真空蒸着法を用いて形成した。平坦な圧電性薄膜4の上部に形成した上部電極層5の表面も圧電性薄膜4とほぼ同じ反り形状となることがわかった。
【0105】
(実施例5)
実施例5は、下地層を変えることにより薄膜の内部応力を制御するものである。
図9に、実施例5の圧電性薄膜素子の断面図を示す。本実施例5では、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成した上部に、下部電極層3と、ニオブ酸ナトリウムの下地層7と、LKNNの圧電性薄膜8と、上部電極層5とを形成した圧電性薄膜素子を作製した。
【0106】
下地層7としては、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)を用いた。また、本実施例5はKNNにリチウムをドーピングしたLKNN(NaxKyLiz)NbO3,以下LKNNと記す)を圧電性薄膜8に用いた。LKNNは、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)、酸素の5元素で構成されるが、このうちリチウム、カリウムを含まないニオブ酸ナトリウム(NabO3)を下地層として用いれば、スパッタリングを行うチャンバー内が、圧電性薄膜8の構成元素以外の物質で汚染される恐れがないことから、下地層を成膜したチャンバーと同一のチャンバーを用いて圧電性薄膜の成膜ができ、下地層、圧電性薄膜の成膜を連続して行うことが可能となる。
【0107】
まず、実施例4と同じPt電極付き基板を用意し、その上部にニオブ酸ナトリウムの下地層7を形成した。この下地層7の形成にはスパッタリング法を用いた。スパッタリングガスにはAr+O2混合ガス(混合比は8.5:1.5)を用い、RF電力は100Wとして200nmの膜厚になるように成膜した。このようにして形成したニオブ酸ナトリウム膜をX線回折装置で評価したところ、(001)面に優先配向していることがわかった。次に、ニオブ酸ナトリウム膜の下地層7上に、LKNN膜の圧電性薄膜8を成膜した。LKNN圧電性薄膜の成膜はスパッタリング法を用いた。成膜中は600℃の基板加熱を行い、Ar+O2の混合ガス(混合比は9:1)によるプラズマでスパッタリングを実施した。ターゲットには、(NaxKyLiz)NbO3 x=0.48、y=0.48、z=0.04の焼結体ターゲットを用いた。スパッタリング投入電力は100Wで成膜を実施し、膜厚が3μmになるまで成膜を行った。X線回折装置を用いて結晶構造解析を実施したところ、LKNN圧電性薄膜は(110)、(001)面の二つの面に配向していることがわかった。
【0108】
本実施例の素子について、光てこ法を用いて内部応力の評価を行った。その結果、実施例4と同様に、LKNNのスパッタリング投入電力を大きくしたとき、図9(a)に示すように、凸形状の圧縮応力状態となり、−0.8GPa程度まで増大することを確認した。
一方、膜形成後に行う、熱処理温度を増加させることによって、図9(b)に示すように、凹形状の引張応力状態となり、0.8GPa程度まで増大した。したがって、スパッタリング投入電力や熱処理温度などによって内部応力の大きさを制御することにより所望の圧電特性を示すLKNN膜を作製できることがわかった。
【0109】
また、下地層として更に幾つかの材料について調べた。その結果、NaNbO3、LaNiO3以外に、LaAlO3、SrTiO3、SrRuO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4CoO3、KNbO3でも同様に制御できる効果があった。また、これらを積層させる(LaNiO3上にKNbO3を形成等)ことや、固溶させること(La(Ni、Al)O3等)でも同様な効果があった。
【0110】
以上、本実施例4と同様、スパッタリング投入電力や熱処理温度を精度良く制御すれば、低内部応力のLKNN膜を作製することができ、更に平坦でかつ高配向の圧電性薄膜を作製することが可能となり、高性能な圧電性薄膜を実現できる。
【0111】
次に作製したKNN膜の圧電性薄膜8上に上部電極層5を形成した。上部電極層5の材料にはAlを選択し、真空蒸着法を用いて形成した。平坦な圧電性薄膜8の上部に形成した上部電極層5の表面も圧電性薄膜8とほぼ同じ反り形状となることがわかった。
【0112】
(実施例6)
実施例6は、圧電性薄膜の内部応力を変化させることにより圧電定数を制御するものである。
本実施例6では、実施例1に示したSi基板上のKNN圧電性薄膜素子における、有効な圧電定数に対する、当該圧電性薄膜の基板反り形状及び内部応力の適切な値(範囲)を示す。
【0113】
ここで測定した圧電定数は、膜厚3μmのKNN圧電性薄膜に対して電圧を20V印加したときの圧電定数である。図10に、実施例の1つとして基板の反り形状(曲率)と圧電定数との相関図を示す。
【0114】
このとき図10の横軸は、曲率半径Rの逆数、いわゆる曲率(1/R)である。単位はm-1である。また、縦軸は圧電定数である。縦軸の具体的な例としては、電極面に垂直(厚さ方向)な伸縮の変化量であるd33、あるいは電極面にそった方向の伸縮の変化量であるd31があげられる。
【0115】
ここでの圧電定数の単位は任意単位である。圧電定数を任意単位としたのは、次の理由からである。圧電定数を求めるには、圧電薄膜のヤング率やポアソン比等の数値が必要であるが、圧電薄膜(圧電薄膜)のヤング率やポアソン比の数値を求めることは容易でない。殊に、薄膜の場合は、バルク体と異なり、成膜時に使用される基板からの影響(拘束など)を受けるため,薄膜自身のヤング率やポアソン比(定数)の絶対値(真値)を原理的に求めることは困難である。そこで、現在までに知られているKNN薄膜のヤング率やポアソン比の推定値を用いて、圧電定数を算出した。従って、得られた圧電定数は推定値となることから、客観性を持たせるために、相対的な任意単位とした。ただし、圧電定数の算出に用いたKNN薄膜のヤング率やポアソン比の値は推定値とはいえ、ある程度、信頼性のある値であり、圧電定数の約70[任意単位]は、大体、圧電定数d31が70[−pm/V]であると言える。このことは、後述する図11〜図13においても共通する。
【0116】
また、横軸の符号が負の場合は圧縮応力、正の場合は引張応力状態を示している。この図に示すように、圧縮応力状態の範囲において、圧電定数が、曲率が0に近づく(曲率半径が大きくなる)に従って大きくなることがわかる。また逆に、曲率が大きくなる(曲率半径が小さくなる)に従って圧電定数は小さくなる。特に、曲率が約−0.15m-1(曲率半径が約−6.7m)になると、圧電定数はほぼ0となる。一方、引張応力状態においては、曲率が0付近(曲率半径が大きい)のとき、圧電定数がわずかに大きくなる傾向にあるが、曲率が大きくなっても、圧電定数は減少しないことがわかる。これは、圧電定数は圧縮応力変化に敏感であり、基板の反りが凸形状にあったとき、その反り量(曲率)が、圧電定数の大きさに影響を与えることを表している。尚、図11に示すように、20V以下の印加電圧2Vの圧電定数についても、内部応力との相関は、ほぼ同様な結果が得られている。したがって、圧縮応力状態においては曲率半径を6.7m以上に制御することによって、所望の圧電定数を確保することができる。
【0117】
したがって、所望の圧電定数を有するKNN圧電性薄膜素子を得るには、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値が0.15m-1以下、所望の圧電定数よりも高い圧電定数を有するKNN圧電性薄膜素子を得るには、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値が0.07m-1以下の範囲で制御されるのがよい。
【0118】
次に、図12にKNN圧電性薄膜の内部応力と圧電定数との相関図を示す。表1には、各試料の内部応力と圧電定数の測定値を示す。図12の横軸は、KNN圧電性薄膜の内部応力値である。単位はGPaである。また、横軸の符号が負の場合は圧縮応力、正の場合は引張応力状態を示している。また、本実施例ではPt下部電極を形成したときに、内部応力はこの図からわかるように、圧縮応力状態において、KNN圧電性薄膜の内部応力が0に近づくに従って圧電定数が大きくなることがわかる。また逆に、内部応力が大きくなるに従って圧電定数は小さくなる。特に、内部応力が約0.9GPaになると、圧電定数がほぼ0となる。図13及び表2に示すように、20V以下の印加電圧の圧電定数についても、内部応力との相関は、ほぼ同様な結果が得られている。
従って、圧縮応力状態においては内部応力を0.9以下に制御することによって、所望の圧電定数を確保することができる。すなわち、本実施例で得られた相関関係をもとにして、KNN圧電性薄膜の内部応力を最適な値に制御することによって、各種デバイスに必要な性能を有する圧電性薄膜素子を製造することが可能になる。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
なお、表1及び表2に示した試料1〜42は、実施例1に記載の条件に基き作製した。成膜時の基板温度、スパッタ投入電力、成膜後の熱処温度をパラメータとして制御することで、異なる内部応力を有する試料を得た。具体的には、基板には熱酸化膜付のSi基板を用いた。基板サイズは4インチサイズであり、基板厚さは0.3mm、(100)面方位のものを用いた。また、酸化膜の厚さは150nmとした。Si基板上には、2nmのTi接着層を設け、Ti接着層上に、200nmのPt薄膜(下部電極層)を形成した。Pt下部電極は、(111)面へ優先配向している。Ti接着層及びPt薄膜は、成膜時の基板温度を300℃、スパッタリング用ガスにはArガス100%を用い、圧力2.5Paで成膜した。
圧電性薄膜であるKNN膜の厚さは3μmとした。スパッタリングターゲットにはKNN焼結体ターゲットを用いた。成膜時の基板温度は600℃〜900℃の間で制御し、投入電力密度が0.010W/mm2から0.040W/mm2の範囲内となるようパワーの制御をした。スパッタリング動作ガスには、Ar+O2の混合ガス(混合比9:1)を用い、圧力は0.4Pa〜1.3Paの間で制御した。KNN膜の成膜後の熱処理温度は、600℃〜750℃の範囲で制御した。また、本実施例におけるターゲットと基板間の距離(TS間距離)は、100mm〜150mmの間で制御した。
【0122】
また、本実施例のように、動作ガスにAr含有ガスを用いたスパッタリング法により成膜を行うことで、圧電性薄膜中にArが含有される。圧電薄膜中にArが含まれると、Arと圧電薄膜を構成する元素とは異なる原子半径を有するため、Arが圧電薄膜の結晶格子間に侵入、または圧電薄膜を構成する元素と置き換わり、圧電薄膜において内部応力を生じさせる場合がある。この場合、投入電力やTS間距離、ガス混合比を適宜制御することで、圧電性薄膜中におけるAr含有量を所定の範囲内とし圧電性薄膜の反り量を制御するとよい。本実施例における圧電薄膜素子では、Ar含有量は質量比で80ppm以下とした。なお、Arを含有するKNN圧電薄膜のAr含有量の評価は、蛍光X線分析装置(リガク社製、System3272)を用いた。
【0123】
本実施例で示された通り、所望の圧電定数を有するKNN圧電性薄膜を得るには、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値が0.9GPa以下、所望の圧電定数よりも高い圧電定数を有するKNN圧電薄膜素子得るには、0.45GPa以下の範囲で制御されるのがよい。
【0124】
本実施例によれば、Si基板上に鉛を用いることなく良好な圧電定数を有する圧電薄膜を形成することができる。これにより環境負荷物質である鉛を用いることなく、アクチュエータやセンサなど、高性能な圧電デバイスを実現できる。また、本実施例では基板と圧電薄膜との間に、下部電極層となるPt薄膜を形成した例を示したが、下部電極層を形成せずに、基板上に直接、またはKNN圧電薄膜の配向を制御するような下地層(配向制御層)を形成し、KNN圧電性薄膜を形成しても良い。この場合、KNN圧電性薄膜上に所定のパターンを備える上部電極を形成することで、表面弾性波を利用したフィルタデバイスを作製できる。
【符号の説明】
【0125】
1 Si基板
2 接着層
3 下部電極層
4 圧電性薄膜
5 上部電極層
6 LNO下地層
7 各種下地層
8 圧電性薄膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムを用いた圧電性薄膜素子およびその製造方法、ならびに圧電薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工され、電圧を加えて変形を生じさせるアクチュエータや、圧電素子の変形から電圧を発生するセンサなどの機能性電子部品として広く利用されている。アクチュエータやセンサの用途に利用されている圧電体としては、大きな圧電特性を有する鉛系の誘電体が広く知られている。特にPZTと呼ばれるPb(Zr1-xTix)O3系のペロブスカイト型強誘電体がこれまで広く用いられている。通常、これら圧電体は、圧電材料の酸化物を焼結することにより形成されている。
一方、近年では環境への配慮から鉛を含有しない圧電体の開発が望まれており、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム(一般式:(NaxKyLiz)NbO3(0<x<1、0<y<1,0<z<1,x+y+z=1)等の開発が進められている。このニオブ酸リチウムカリウムナトリウムは、PZTに匹敵する圧電特性を有することから、非鉛圧電材料の有力な候補として期待されている。
【0003】
現在、各種電子部品の小型かつ高性能化が進むにつれ、圧電素子においても小型化と高性能化が強く求められるようになった。しかしながら、従来からの製法である焼結法を中心とした製造方法により作製した圧電体は、その厚さが特に10μm以下の厚さになると、材料を構成する結晶粒の大きさに近づき、その影響が無視できなくなる。そのため、特性のばらつきや劣化が顕著になるといった問題が発生する。この問題を回避するために、焼結法に変わる薄膜技術等を応用した圧電体の製造方法が近年研究されるようになってきた。
【0004】
最近、RFスパッタリング法で形成したPZT圧電性薄膜が高精細高速インクジェットプリンタのヘッド用アクチュエータや、小型低価格のジャイロセンサとして実用化されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、鉛を用いないニオブ酸リチウムカリウムナトリウムの圧電性薄膜を用いた圧電性薄膜素子も提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−286953号公報
【特許文献2】特開2007−19302号公報
【特許文献3】特開2007−184513号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中村僖良監修 圧電材料の高性能化と先端応用技術(サイエンス&テクノロジー刊 2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電性薄膜として非鉛圧電性薄膜を形成することにより、環境負荷の小さい高精細高速インクジェットプリンタ用ヘッドや小型低価格なジャイロセンサを作成することができる。その具体的な候補として、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムの薄膜化の基礎研究が進められている。しかしながら、従来技術では、要求性能を満足する非鉛系の圧電性薄膜素子及び圧電性薄膜デバイスを安定的に提供することができなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解消して、要求性能を満足する非鉛系の圧電性薄膜素子およびその製造方法、ならびに圧電薄膜デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、基板と、前記基板上にスパッタリング法によって成膜された(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜とを有し、該圧電性薄膜の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることを特徴とする圧電性薄膜素子が提供される。
【0010】
また、前記基板の厚さの増減率に応じて増減する前記基板の反り形状の曲率半径の増減率が、前記基板の厚さの増減率の二倍以上であることが好ましい。
【0011】
また、前記基板と前記圧電性薄膜との間に、前記圧電性薄膜の配向を制御する下地層を有することが好ましい。
【0012】
また、前記下地層は(111)面に配向して形成されるPt薄膜であることが好ましい。
【0013】
また、前記基板と前記下地層との間に下部電極層が形成され、前記下部電極層と前記基板との間に接着層が形成され、前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記圧電性薄膜の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。
【0015】
また、前記圧電性薄膜上には上部電極が形成され、前記基板と前記圧電性薄膜との間には下部電極が形成され、前記下部電極層あるいは前記上部電極層もしくは両電極層の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記圧電性薄膜は、Arガス又はArガスに酸素を混合させた混合ガス雰囲気下で成膜され、前記圧電性薄膜中にArを含有することが好ましい。
【0017】
また、前記基板は酸化膜付きのSi基板であることが好ましい。
【0018】
また、前記圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値を0.15m-1以下、好ましくは0.07m-1以下の範囲で制御することが好ましい。
【0019】
また、前記圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値を0.9GPa以下、好ましくは0.45GPa以下の範囲で制御することが好ましい。
【0020】
本発明の他の形態によれば、上述した圧電性薄膜素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電薄膜デバイスが提供される。
【0021】
圧電性薄膜の内部応力が、前記成膜時のスパッタリング投入電力によって制御されることが好ましい。また、圧電性薄膜の内部応力が、前記基板の選定によって制御されてもよく、前記圧電性薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度によって制御されてもよい。
【0022】
前記圧電性薄膜阻止において、前記基板の厚さを0.3mmとしたき、前記基板の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。
【0023】
また、前記圧電性薄膜の一部に、ペロブスカイト構造を有するABO3の結晶層、ABO3の非晶質層、またはABO3の結晶と非晶質とが混合した混合層のいずれかを含んでもよい。ただし、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、Biのうちから選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta、Inのうちから選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、要求性能を満足する非鉛系の圧電性薄膜素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態の下部電極層、圧電性薄膜を備えた圧電性薄膜素子の説明図であって、(a)は圧縮応力状態を示す断面図、(b)は引張応力状態を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子のX線回折パターンの図である。
【図3】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の光てこ法で得られた反り形状の測定結果を示す図であり、(a)は反り形状が凸の場合、(b)は反り形状が凹の場合の図である。
【図4】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の光てこ法で得られた内部応力とスパッタリング投入電力との相関図である。
【図5】本発明の一実施の形態の異なる基板上に成膜したKNN圧電性薄膜の比較特性図であって、(a)は曲率半径の比較図、(b)は内部応力の比較図である。
【図6】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の内部応力の温度特性図である。
【図7】本発明の一実施の形態のKNN圧電性薄膜の内部応力と、成膜後に行った熱処理温度との相関図である。
【図8】本発明の一実施の形態の下部電極層、LNO下地層、KNN圧電性薄膜及び上部電極層を備えた圧電性薄膜素子の説明図であって、(a)は圧縮応力状態を示す断面図であり、(b)は引張応力状態を示す断面図である。
【図9】本発明の一実施の形態の下部電極層、各種下地層、KNN圧電性薄膜及び上部電極層を備えた圧電性薄膜素子の説明図であって、(a)は圧縮応力状態を示す断面図であり、(b)は引張応力状態を示す断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧20V時の基板の反り量(曲率)と圧電定数との相関図である。
【図11】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧2V時の基板の反り量(曲率)と圧電定数との相関図である。
【図12】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧20V時の内部応力と圧電定数との相関図である。
【図13】本発明の一実施の形態の圧電性薄膜素子における印加電圧2V時の内部応力と圧電定数との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明はKNN((K,Na)NbO3)圧電薄膜に係るものである。内部応力が小さい材料は誘電率が低く、その結果、圧電定数が小さくなることがある。また、内部応力を大きくすることによって圧電特性を向上させる材料もあり得る。また、KNN圧電薄膜は、従来の鉛系圧電材料(例えばPZT等)と、組成が異なるだけであるからといって、内部応力と圧電定数の関係において、鉛系圧電材料と同じ振る舞いを示すという保障はない。薄膜とバルク材では物性が異なることはよく知られており、薄膜の内部応力と圧電特性との関係を具体的・実際的に解析しなければ、それらの関係はわからない。
そこで、本発明者は、KNN圧電薄膜における内部応力と圧電定数との相関関係を究明すべく、KNN圧電薄膜の作製条件の最適化や応力解析などを行った。その結果、KNN圧電薄膜において、その圧電特性は内部応力の影響(効果)が大きいことが認められた。そして、内部応力ゼロが圧電特性向上に寄与することも判明した。
本発明者らは、上記知見に基づき、本発明を完成するに至ったものである。
【0027】
以下、本発明に係る圧電性薄膜素子の一実施の形態を説明する。その前に、圧電性薄膜の内部応力に影響を与える圧電性薄膜素子の製作条件について検討する。
【0028】
非鉛系の圧電性薄膜素子については、素子毎に要求される性能を満足させつつ安定に生産するためには、圧電性薄膜の残留応力(内部応力)を管理することや制御することが必要となる。
【0029】
その理由は、次の通りである。圧電性薄膜によって与えられる内部応力で、引張応力と圧縮応力とがある。引張応力は膜がはがれる様に働く応力で、圧縮応力はその逆である。内部応力が大きいと膜剥がれの原因になったり、割れを生じたり、その上に付ける上部電極層に悪影響を及ぼしたりするからである。
【0030】
[圧電性薄膜の反り形状]
Si基板など、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜(ニオブ酸カリウムナトリウム膜を含む)との熱膨張係数が異なる基板上に、その熱膨張係数差を考慮することなく、下部電極層を形成し、その上部にニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜を形成すると、この膜は反った形状になる。つまり、圧電性薄膜付基板が意図しない反りを有する。
従来は、反り形状や内部応力の大きさの影響を検討することなく形成していたため、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜の反り形状が素子作製毎に異なって形成されることが多かった。実際、このニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜の反り形状は凹形状、凸形状など様々な形状となる。以下、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウムをLKNNと略称し、ニオブ酸カリウムナトリウムをKNNと略称する。
【0031】
LKNN膜の反り形状が凹形状、凸形状など様々な形状となる理由は、(1)LKNN膜、基板および下部電極層の伸び縮みの温度係数が異なっているため、薄膜を形成する際の温度と室温の差によって膜と基板の収縮が異なること、(2)または結晶化温度以上で成膜する際、結晶成長に伴う急激な格子収縮や膨張が起きることによってグレイン間に引力が働くこと、(3)更に、スパッタリング成膜時の投入電力(Power)を増加させることで、Arイオン(以下、Ar+)などエネルギー粒子衝撃により多くのスパッタ粒子が粒界に打ち込まれ、その結果として緻密な膜が形成されて面内で伸びる力が生じて凸形状になること、等が原因となり、上部に形成されるLKNN膜の反りを誘発させていると考えられる。
【0032】
[基板の選定]
そこで、はじめに、LKNN膜と基板との熱膨張係数の差について検討した。そして、成膜した際、圧電性薄膜の曲率半径が大きくなる(反り量が少ない)基板を選定するための検討を行った。
選定方法として、まず、バルクのLKNNの熱膨張係数に近い値をもつ基板を選択した。それらの基板の候補としては、MgO、Si、Ge、Al2O3、SrTiO3、石英等の結晶あるいは非晶質あるいはそれらの複合体等が望ましい。それらの基板上に下部電極層を形成し、その上部にLKNN膜を形成した素子について、各々の反り量を比較して、実際に反り量が小さい基板を選定した。
【0033】
[成膜条件]
更に、LKNN膜の内部応力の低減をより確実にするために、上記の実施の形態において、成膜温度、スパッタリング動作ガスの種類および圧力、真空度、及び投入電力について、反り量が小さくなる作製条件を見出し、最適化を図るのが良い。これらの条件を装置毎や環境化に応じて多面的に検討することによって、低内部応力のLKNN薄膜を形成できる。
【0034】
[下部電極層の表面平坦化]
次に、LKNN膜の内部応力が均一かつ低歪みとなるように、下地となるPt下部電極層の表面を平坦化する検討を行った。その方法として、Pt下部電極層の膜厚を厳密に制御して、Pt下部電極層の表面凹凸を小さくさせる。また、多結晶であるPt下部電極層について、その結晶粒子のサイズが均一になるように制御して形成することによって、結晶粒子間に加わる力が均等に分散される。結果として、LKNN膜を、粒子サイズを均一化した下部電極層の上部に形成すると、界面の応力緩和によって圧電性薄膜の内部応力が低減する効果が期待できる。
【0035】
以上述べた圧電性薄膜の内部応力に影響を与える圧電性薄膜素子の製作条件について検討した結果を踏まえて、本発明に係る圧電性薄膜素子の一実施の形態を説明する。
【0036】
本発明者は、鋭意研究の結果、前記圧電性薄膜の内部応力を素子の製作条件によって制御できることを見出した。ここで素子の製作条件は、成膜時のスパッタリング投入電力、成膜後の熱処理温度を適切に制御することである。また、圧電性薄膜素子の構成材料である基板、下部・上部電極、接着層、下地層、圧電性薄膜等を適切に選択することである。以下、各製作条件によって圧電性薄膜の内部応力が制御される圧電性薄膜素子について説明する。
【0037】
[圧電性薄膜素子]
本実施の形態の圧電性薄膜素子は、基板と、この基板上に形成される下部電極層と、この下部電極層上に形成される圧電性薄膜とを有する。前記圧電性薄膜は、ペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜である。実施の態様によっては、前記基板は、その表面に酸化膜を有することもある。また、実施の態様によっては、前記下部電極層は、所定方向に配向して形成され、前記圧電性薄膜を前記下部電極層に対し所定方向に配向させていることもある。また、実施の態様によっては、前記圧電性薄膜素子は、前記圧電性薄膜上に形成される上部電極層までを含めていうこともある。この場合、上部電極層を含めない圧電性薄膜までを圧電性薄膜付基板ということもある。また、圧電性薄膜を含めない下部電極層までを下部電極付基板ということもある。
【0038】
[基板の選定]
前記基板としては、Si基板、MgO基板、ZnO基板、SrTiO3基板、SrRuO3基板、ガラス基板、石英ガラス(SiO2)基板、GaAs基板、GaN基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板などが挙げられる。特に、低価格でかつ工業的に実績のあるSi基板が望ましい。また、Si基板等の表面には酸化膜を形成してもよい。
Si基板等の表面に形成される前記酸化膜は、熱酸化により形成される熱酸化膜や、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成されるSi酸化膜などが挙げられる。なお、前記酸化膜を形成せずに、石英ガラス(SiO2)、MgO、SrTiO3、SrRuO3基板などの酸化物基板上に、直接Pt電極などの下部電極層を形成しても良い。 上記基板の材料を選定することによって、基板の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。
【0039】
[基板厚さと曲率半径]
基板の材料を選定するのではなく、基板の厚さないし基板の曲率半径を選定することによっても圧電性薄膜の内部応力を制御可能である。基板の厚さが厚いと曲率半径(反り量)は大きくなり、厚さが薄いと曲率半径は小さくなる。
基板の厚さが0.3mmのとき、前記基板の曲率半径が最も小さい0.8mとなることから、圧電性薄膜の内部応力を制御可能とするためには、基板の厚さが0.3mmで、曲率半径が0.8m以上であることが好ましい(実施例2)。
【0040】
また、前記基板の厚さの増減率に応じて増減する前記基板の反り形状の曲率半径の増減率が、前記基板の厚さの増減率の二倍以上であることが好ましい。
【0041】
後述する実施例1で示した式(1)により、Young率E、Pisson比ν、および上部に形成される圧電薄膜の厚さtが一定であるとすれば、圧電薄膜の内部応力σ、基板厚さh、および曲率半径Rの増減率は、微分形にすることによって以下のように表すことができる。このとき曲率半径Rは絶対値とする。
Δσ/σ=2Δh/h−ΔR/R
ΔR/R≧2Δh/hのとき、2Δh/h−ΔR/R≦0であるので、
Δσ/σ≦0
となる。
【0042】
上式に示すように、曲率半径の増減率(ΔR/R)を基板厚さの増減率の2倍(2Δh/h)より大きくすることにより、内部応力の変化(Δσ/σ)を負の方向へと制御することができる。したがって、基板の反り形状の曲率半径の増減率を、基板の厚さの増減率の二倍以上とすることによって、基板の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力をより適切に制御できる。すなわち、内部応力の大きい圧電薄膜の内部応力の絶対値を小さくすることが可能になる。その結果、KNN薄膜の内部応力の低減により圧電特性を向上することができる(実施例6の図12、図13)。
【0043】
[下部電極層、上部電極層、接着層及び下地層]
【0044】
前記下部電極層、前記上部電極層、もしくは両電極層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることが好ましい。
また前記下部電極層と前記基板との間に接着層が配置され、前記下部電極層と前記圧電性薄膜との間に下地層が配置され際、配置される前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることが好ましい。
【0045】
このように電極、接着層及び下地層等の曲率半径を、圧電性薄膜の曲率半径(1.6GPa以下)と同じ範囲となるように規定したのは、圧電性薄膜に要求される曲率半径が、電極、接着層及び下地層等側から規制されても、圧電性薄膜に要求される曲率半径を満たすようにするためである。さらには、基板によって制御可能な圧電性薄膜の内部応力が最大1.5GPa以下(実施例2)であることから、電極、接着層及び下地層の内部応力を少なくとも1.6GPa以下とすれば、要求性能を満足する圧電性薄膜素子を得ることができる。
【0046】
また、前記下部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金からなる電極層、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。あるいは、前記下部電極層が、Ru,Ir、Sn、In乃至同酸化物からなる電極層、またはこれらと前記圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物の層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
上記圧電性薄膜体素子の下部電極としてPt電極、あるいはPt合金、その他を使用することによって、または、上記下部電極としてRu、Ir乃至同酸化物やPtと、圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物を使用することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。
【0047】
また、前記Pt下部電極層は、(111)面に配向して形成されるのが好ましい。下部電極層を配向して形成することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。Pt下部電極層を(111)面に高配向したPt薄膜により形成することで、Pt下部電極層が圧電性薄膜の配向を制御する下地層(配向制御層)として機能する。
【0048】
また、前記下部電極層はスパッタリング法で成膜することが好ましい。スパッタリング法を使用して、室温より高い温度で成膜した下部電極の表面形状は、凹形状であって、引張応力の状態であり、曲率半径が大きくなり、内部応力を小さくすることができる。一方、室温で成膜した下部電極の表面形状は凸形状であって、圧縮応力の状態にあり、曲率半径が小さくなり、内部応力を小さくすることはできない。したがって、下部電極層を配向して形成することによって、または、スパッタリング法を用いて室温より高い温度で成膜することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。
【0049】
さらに基板とPtもしくはPtを主成分とする合金化からなる電極層との間に、基板との密着性を高めるための接着層、例えばTi層を設けても良い。接着層を設けることによって、圧電性薄膜の内部応力を制御できる。したがって、下部電極層をスパッタリング法を用いて室温より高い温度で成膜することによって、下部電極の上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。また、下部電極の膜厚、成膜時のスパッタパワーや成膜温度を制御することにより、下部電極の表面粗さを、算術平均粗さRaを0.86nm以下、二乗平均粗さRmsを1.1nm以下となるよう成膜するとよい。これにより、圧電定数のばらつきを抑えるとともに、圧電性薄膜及び圧電性薄膜上に形成される上部電極表面の平坦性に優れた圧電性薄膜デバイスを得ることができる。
【0050】
また、前記圧電性薄膜の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。または、前記下部電極層あるいは前記上部電極層もしくは両電極層の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。または、接着層もしくは下地層あるいは両方の層が配置され、配置される前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の曲率半径が0.8m以上であることが好ましい。圧電性薄膜の内部応力を上述した1.6GPa以下とするためには、内部応力との相関から、この範囲の曲率半径を満たすことが必要である(実施例1の式(1))。
【0051】
上述したように、下部・上部電極層、接着層又は下地層を適切に選定して、圧電性薄膜の内部応力を1.6GPa以下に制御し、あるいは圧電性薄膜の反り形状を0.8m以上に制御することにより、内部歪みに伴うリーク電流の増加や圧電性薄膜や電極等の内部のクラックや圧電性薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができ、圧電性薄膜素子、及び圧電性薄膜デバイスを安定的に提供できる。
【0052】
[圧電性薄膜]
前記圧電性薄膜は、(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜とするのが好ましい。この圧電性薄膜には特定の元素がドーピングされていても良い。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウムや二オブ酸リチウムカリウムナトリウムに、所定量のTaやVなどがドーピングされても良い。前記圧電性薄膜は、RFスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて形成される。
任意の安定した圧電定数を得るためには、圧電性薄膜の内部応力の絶対値は1.6GPa以下であることが好ましい。また、圧電性薄膜の曲率半径は0.8m以上であることが好ましい。
【0053】
[スパッタリング投入電力]
前記圧電性薄膜の内部応力はスパッタリング投入電力によって制御される。投入電力が小さいと素子の反り形状は凹形状(引張応力)となり、投入電力が大きいと凸形状(圧縮応力)となる。
例えば、Si基板の場合、投入電力が低いとき引張応力状態にあり、その内部応力はプラス値をとり、投入電力を上げていくと、ある値付近で内部応力はゼロになり、さらに上げていくと圧縮応力状態にあり、その内部応力はマイナス値をとる。すなわち、スパッタリング投入電力に応じて内部応力はゼロクロスする。
したがって、圧電性薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力を変化させることで、圧電性薄膜の内部応力を制御でき、その内部応力の絶対値を1.6GPaから制御できる。
【0054】
また、前記圧電性薄膜の一部に、ペロブスカイト構造を有するABO3の結晶層、ABO3の非晶質層、またはABO3の結晶と非晶質とが混合した混合層のいずれかを含むことが好ましい。ただし、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、Biのうちから選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta、Inのうちから選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。上記Aサイトの圧電材料としてPbを含む構成とすることもできるが、環境面からはPbを含まない圧電性薄膜が求められる。
【0055】
また、前記圧電性薄膜が前記基板に対して垂直方向に(001)優先配向であることが好ましい。
【0056】
[成膜後の熱処理温度]
前記圧電性薄膜の成膜後に実施する熱処理の熱処理温度を変化させることによって、圧電性薄膜の内部応力を制御することが可能である。
熱処理温度を増加させることによって、KNN圧電性薄膜を凸形状から凹形状へと引張応力状態へ変化させることができる。すなわち、熱処理温度を変化させることによって、KNN圧電性薄膜の内部応力を所望の値に制御できる。
【0057】
[上部電極層]
上記の実施の形態の圧電性薄膜付きの基板に対して、前記圧電性薄膜の上部に上部電極層を形成することによって、低内部応力(歪み)の圧電性薄膜素子を作製できる。
前記上部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金からなる電極層、またはこれらPtを主成分とする電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。あるいは、前記上部電極層は、Ru、Ir、Sn、In乃至同酸化物からなる電極層、またはこれらと前記圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物の電極層を含む積層構造の電極層であることが好ましい。
このように上部電極を下部電極と同じ材料を使い、スパッタリングで形成するようにすれば、下部電極層と同じ手法で上部電極層を形成できるので、製造工程の簡素化が図れるので、好ましい。もっとも、上部電極層は、下部電極と層と異なり、その上に圧電性薄膜を成膜する必要がないため、アルミニウム(Al)金属などを用いて蒸着形成するようにしても良い。
【0058】
[圧電性薄膜デバイス]
ここで、圧電性薄膜デバイスは、上記圧電性薄膜素子を装置化したものである。圧電性薄膜デバイスは、圧電性薄膜素子を所定形状に成型し、電圧印加手段、電圧検出手段を設けることにより、各種のアクチュエータやセンサなどとして作製することができる。また、表面弾性波を利用したフィルタデバイスの作製も可能となる。
特に、これらの圧電性薄膜の内部応力の低減によって、圧電性薄膜素子や圧電性薄膜デバイスの圧電特性向上や安定化を実現することで、高性能なマイクロデバイスを安価に提供することが可能になる。また、デバイスによっては、素子強度などの制御の観点から、圧電性薄膜などの膜厚を増減することによって、内部応力を制御するとともに、Young率等弾性定数の高い基板を選定し、内部応力の最適化を図り、多種多様の高性能マイクロデバイスを提供することが可能になる。
【0059】
[圧電性薄膜素子の製造方法]
本実施の形態の圧電性薄膜素子は、基板上に下部電極層を形成し、さらに圧電性薄膜を成膜し、その上に上部電極層を形成することによって製造する。前記圧電性薄膜はLKNN圧電性薄膜であり、スパッタリング法によって成膜する。この圧電性薄膜の内部応力は、素子の作製条件によってその絶対値が1.6GPa以下となるように制御される。
【0060】
上述した圧電性薄膜の内部応力を得るには、前記圧電性薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40Wから120Wの範囲内、好ましくはスパッタリング投入電力密度が0.010W/mm2から0.040W/mm2の範囲内で制御されるのがよい(実施例1の図4)。
【0061】
また、上述した圧電性薄膜の内部応力を得るには、前記圧電性薄膜の内部応力は、前記圧電性薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下、好ましくは600℃から750℃の範囲内で制御されるのがよい(実施例3の図7)。
【0062】
また、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値が0.15m-1以下、好ましくは0.07m-1以下の範囲で制御されるのがよい(実施例6の図10)。
また、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値が0.9GPa以下、好ましくは0.45GPa以下の範囲で制御されるのがよい(実施例6の図12)。
[実施の形態の効果]
【0063】
本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、次のような効果がある。
【0064】
本発明の一実施の形態では、構成材料である圧電性薄膜、電極、基板、接着層、下地層を適切に管理・選定するとともに当該材料の作製条件の最適化を図り、それらの反り形状等を精密に測定して素子の内部応力を正確に制御した。この本発明の一実施の形態によれば、内部応力制御により良好な圧電特性を実現できる。また、高性能かつ高信頼性の圧電性薄膜素子を実現することができ、製造上高歩留りで高品質な圧電性薄膜素子及び圧電性薄膜デバイスを得ることが可能になる。
【0065】
本発明の一実施の形態による圧電性薄膜素子は、鉛を用いない圧電性薄膜を備えた圧電性薄膜素子である。したがって、本発明の一実施の形態による圧電性薄膜素子を搭載することによって、環境負荷を低減させかつ高性能な小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical System)等が実現できる。また、下部電極層を下地層として用い、圧電性薄膜所に形成される上部電極を所定のパターンとすることで、良好なフィルタ特性を有するフィルタデバイスを実現できる。
また、本実施の形態によれば、LKNNの圧電性薄膜及び電極表面の平坦性に優れた圧電性薄膜素子や圧電性薄膜デバイスが得られる。
【0066】
本発明の一態様においては、基板、下部電極、圧電性薄膜及び上部電極の積層構造よりなる圧電性薄膜素子において、該圧電性薄膜の反り形状の曲率半径を0.8m以上に制御し、あるいは、内部応力を1.6GPa以下に抑制することにより、内部歪みに伴うリーク電流の増加や圧電性薄膜や電極等の内部のクラックや圧電性薄膜と電極等との界面等における膜剥れによる印加実効電圧の低下を防ぐことができる。また、本発明の圧電性薄膜は、スパッタリング法により成膜される。このときスパッタリング動作ガスは成膜された圧電性薄膜中に含有される。成膜の際に使用されたスパッタリング動作ガス、及び圧電性薄膜中への含有量を制御することでも圧電性薄膜の内部応力を制御することができる。
【0067】
また上記圧電性薄膜体素子の下部電極としてPt電極、あるいはPt合金、その他を使用することによって、または、上記下部電極としてRu、Ir乃至同酸化物やPtと、圧電性薄膜中に含まれる元素との化合物を使用することによって、上部に形成される圧電性薄膜の内部応力を制御できる。また、基板についても、Siのほか、MgO基板、SrTiO3基板、ガラス基板、石英ガラス基板、GaAs基板、サファイア基板、Ge基板、ステンレス基板等を使用することによって、その上に形成した圧電性薄膜の内部応力を制御することができる。これにより圧電特性を更に向上することができる。
【実施例1】
【0068】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0069】
(実施例1)
実施例1は投入電力を変化させることにより内部応力を制御するものである。
図1に、圧電性薄膜付の基板の概要を示す断面図を示す。本実施例においては、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成し、その上部に、下部電極層3とペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(以下、KNNと記す)の圧電性薄膜4を形成することにより、圧電性薄膜素子(圧電性薄膜付基板)を作製した。その際、作製条件によって圧電性薄膜の内部応力の状態が変化する。
【0070】
図1(a)に、反りが表面側に凸形状となる圧電性薄膜付基板の断面図を示す。ここで表面側とは基板と反対側の面である。凸形状は圧電性薄膜が面内で押し合う方向に力が加わった状態にあることを示しており、いわゆる圧縮応力状態にあることを表している。一方、図1(b)に、反りが表面側に凹形状となる圧電性薄膜付基板の断面図を示す。これは圧電性薄膜が面内で引っ張り合う方向に力が加わった状態にあることを示しており、引張応力状態にあることを表している。
【0071】
[圧電性薄膜付基板の製造方法]
以下、圧電性薄膜付基板の製造方法を記述する。
【0072】
始めに、図1に示すように、Si基板1の表面に熱酸化膜を形成し、その上に下部電極層3を形成した。下部電極層3は、接着層2として形成したTi膜と、このTi膜上に電極層として形成したPt薄膜とからなる。Pt薄膜は下地層としても機能するが、ここではPt下部電極層という。
【0073】
本発明の実施例のSi基板には、熱酸化膜付きの4インチサイズのSi基板を用いた。基板厚さは0.3mm、(100)面方位のものを用いた。酸化膜の厚さは150nmとした。Si基板上には厚さは1〜20nmのTi接着層をスパッタリング法により作製するとよい。
Ti接着層及びPt下部電極層は、スパッタリング法で作製した。Pt下部電極を成膜する場合、スパッタリング用ターゲットとしてPt金属ターゲットを用い、スパッタリング用ガスには100%Arガスを使用し、圧力を2.5Paとした。Pt薄膜形成時には基板温度を300℃にして成膜を行って多結晶薄膜のPt薄膜を形成した。比較例として、Pt薄膜の形成には基板温度を常温にして成膜を行った。なお、Pt薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力は65Wから100Wの間で制御されるとよい。本実施例における、Ti密着層、Pt薄膜の成膜時のスパッタリング投入電力を75Wとし、膜厚はそれぞれ、2nm、200nmとなるように形成した。このようにして2種類のPt電極付Si基板を作製した。
【0074】
次に、これら2種類のPt電極付Si基板のPt下部電極層上に、圧電性薄膜4としてKNN圧電性薄膜を形成した。このKNN圧電性薄膜の成膜にもスパッタリング法を用いて形成した。KNN圧電性薄膜の形成時には基板温度が600℃から900℃の範囲で制御されるよう基板加熱を行うとよい。本実施例では、基板温度が650℃となるよう制御した。Ar+O2の混合ガスによるプラズマでスパッタリングを実施した。混合比は9:1とした。スパッタリング用ターゲットには(NaxKyLiz)NbO3 x=0.5、y=0.5、z=0の焼結体ターゲットを用いた。膜厚は3μmになるまで成膜を行った。120Wのスパッタリング投入電力(Power)で成膜を行った。また、投入電力を50Wまで変化させ成膜したKNN圧電性薄膜も作製した。このように作製したKNN圧電性薄膜について、X線回折装置で結晶構造を調べた。
【0075】
その結果、300℃の基板加熱を行って形成した実施例1のPt薄膜は、図2のX線回折パターン(2θ/θスキャン測定)に示すように、基板の表面に垂直な向きにPt(111)面に配向した薄膜が形成されていることが判った。また、Pt(111)に配向したPt薄膜上に形成したKNN圧電性薄膜については、図2示すように、KNN(001)に強く配向していることが判った。
【0076】
これに対して、常温で成膜したPt膜をX線回折測定で調べた結果、特定の結晶面からの回折が存在せず、アモルファス状態となっていることを確認できた。また、常温で成膜したPt薄膜上に形成したKNN圧電性薄膜には配向表面がなく、ランダムな多結晶膜となっていることが判った。したがって、Pt薄膜(Pt下部電極層)としては、KNN膜を配向させるような配向、具体的にはPt(111)配向を備えることが好ましい。
【0077】
本実施例において、成膜条件等を変更し内部応力を制御したKNN圧電性薄膜について、表面の反り形状を光てこ法によって解析した。本測定では、−10mmから+10mmの薄膜範囲を1mmピッチで走査し、各点における変位量を測定した。
【0078】
図3に、実施例1の圧電性薄膜表面の反り形状の測定結果を示す。得られた測定データに対して、最小二乗法によるフィッティング解析(図3に示す実線)を行うことによって、曲率半径を求めた。
【0079】
その結果、投入電力を100Wに設定して作製した場合、図3(a)に示すように、反り形状は図1(a)に示した凸形状であり、圧縮応力状態にあった。このとき、反り量の解析値である曲率半径Rは10.4mであった。
【0080】
一方、50Wの投入電力で成膜した場合、図1(b)に示すように凹形状であり、引張応力状態となった。この反り量の曲率半径Rは10.3mであった。ここで得られた曲率半径Rを用いれば、KNN圧電性薄膜の面内の内部応力σを求めることができる。本実施例では、以下に示す定義式(1)に基づき計算を行った。
【0081】
σ=Eh2/(1−ν)・6Rt (1)
EはYoung率、νはPoisson比、hは基板の厚さ、tは薄膜の膜厚、およびRは基板の反り量(曲率半径)であって、t<<h<<Rの関係である。詳細については、下記の文献(1)、(2)を参照されたい。
【0082】
(1)須藤一著、残留応力とゆがみ、(内田老鶴圃、1988年)
(2)吉田貞史著、応用物理工学選書3「薄膜」、(培風館、1990年)
【0083】
前記の式(1)を元に、KNN圧電性薄膜の内部応力を求めた。本実施例で用いた基板は(100)Siウエハである。基板の機械的物性値は、Young率Eが130.8GPa、Poisson比νが0.28、厚さhが0.6mmである。また形成したKNN圧電性薄膜の厚さtは3μmである。これらをもとに前記条件で作製したKNN圧電性薄膜の内部応力を計算した結果、投入電力100Wで成膜したときは、内部応力は0.351GPaであり、投入電力50Wで成膜したとき、内部応力は0.353GPaであった。
【0084】
次に、スパッタリング投入電力に対するKNN圧電性薄膜の上記内部応力がどのように変化するのかを調べるために、投入電力を50Wから120Wまで変化させたときのKNN圧電性薄膜の内部応力を解析した。このとき使用したスパッタリングターゲットのサイズは直径が50mmであり、成膜に用いた基板は(100)Siである。
【0085】
図4にその結果を示す。この図の縦軸は内部応力の値を示し、正負符号について、正の場合は引張応力、負の場合は圧縮応力状態を表している。
【0086】
図4に示すように投入電力が50Wのときは引張応力状態にあり、その内部応力は0.3〜0.4GPaであった。投入電力を大きくするに従い、KNN圧電性薄膜の引張応力は小さくなることがわかる。そして、75W付近でKNN圧電性薄膜の内部応力はほぼ0になることがわかる。更に投入電力を大きくすると、基板の反り形状は凹形状であったものが凸形状へと変わり、引張応力から圧縮応力状態に変化したことがわかる。投入電力を120Wまで増加させたとき、圧縮応力の値は約0.6GPaにまで増加することがわかった。さらに検討した結果、+0.4GPa〜−0.6GPaの内部応力を有するKNN圧電性薄膜を得るには、前記圧電性薄膜の成膜時におけるスパッタリング投入電力が40Wから120Wの範囲内、好ましくはスパッタリング投入電力密度が0.010W/mm2から0.040W/mm2の範囲内で制御することで実現が可能であった。ここで、スパッタリング投入電力密度とは、ターゲットへの投入電力を、ターゲットのスパッタリング面の面積で割った値である。
【0087】
以上のように、KNN圧電性薄膜の内部応力の制御はスパッタリング投入電力を変化させることで可能になることがわかる。本実施例では、スパッタリング投入電力を75W近傍で制御することによって低内部応力のKNN圧電性薄膜を作製することが可能である。
【0088】
(実施例2)
実施例2は、基板材料を選択することにより内部応力を制御するものである。
また、実施例1の配向させたPt電極上のKNN圧電性薄膜を、Si基板以外の基板を用いて作製することを試みた。それぞれの基板の弾性定数であるYoung率やPoisson比及び熱膨張係数等が異なっているため、その上部に形成されるKNN圧電性薄膜へかかる内部応力は変化することが予想され、内部応力の制御が可能であると考えられる。実際に、様々な物質に変えて検討を行ったところ、KNN圧電性薄膜の内部応力状態が、個々の基板において異なることがわかった。
【0089】
本実施例2において用意した基板は、MgO、Si、Ge、SrTiO3、Al2O3及びSiO2である。KNN圧電性薄膜の成膜時のスパッタ投入電力は100Wとした。図5(a)は、個々の基板上に成膜したときのKNN圧電性薄膜の反り形状を示している。このとき、基板の厚さが0.3mmのGe基板上に成膜したKNN圧電性薄膜が最も小さい曲率半径を有し、0.8mであった。一方、最大の曲率半径を有するのは、基板厚さが0.6mmのSi基板上に成膜したKNN圧電性薄膜であり、反り量は小さいことがわかった。
【0090】
この結果をもとに、内部応力を計算した結果を図5(b)に示す。本実施例において、KNN圧電性薄膜の内部応力が使用する基板によって、圧縮応力や引張応力のいずれの状態にも変化していることがわかる。図5(b)に示すように、圧電性薄膜付基板の内部応力を解析した結果、特にMgO基板を使用したとき、KNN圧電性薄膜の内部応力は圧縮状態であり、約1.5GPaであった。またGe基板のときは圧縮応力状態であり、0.94GPa、Al2O3基板では、圧縮応力が0.31GPaであることがわかった。
【0091】
一方、SiやSiO2などを使用した場合、KNN圧電性薄膜の内部応力は引張応力状態であるが、その値は小さく、ほぼ0にすることできることがわかった。以上から、適切な基板を選択することによって、所望の内部応力を有するKNN圧電性薄膜を作製できることがわかった。また、ガラス基板やSUS基板においても、KNN圧電性薄膜の内部応力を制御できる点で同様の効果が得られる。
上記の通り、基板を選定することで、所望の内部応力を備える圧電性薄膜付基板及び圧電性薄膜素子を得ることがわかった。そして、内部応力を1.6GPa以下に制御することで、環境負荷を低減した小型のモータ、センサ、及びアクチュエータ等の小型システム装置、又はフィルタデバイスとして、適宜選択して用いることができる。
【0092】
(実施例3)
実施例3は、熱処理温度を変化させることにより内部応力を制御するものである。
KNN圧電性薄膜の温度に対する内部応力の変化を調べるために、実施例1に記載した断面構造を有するKNN圧電性薄膜について、その反り形状、すなわち内部応力の温度変化を検討した。図6にその温度特性の結果を示す。尚、この図の縦軸が正の場合は圧縮応力、負の場合は引張応力状態を表している。本実施例3では、75WでKNN膜を形成した素子について評価を行い、熱処理は大気中で行った。本図から、熱処理によってKNN圧電性薄膜は室温で圧縮応力状態にあったものが、引張応力状態に変わり、温度上昇とともに引張応力が増大することがわかる。これは、Si基板に対してKNN圧電性薄膜の熱膨張係数が大きいことを示している。この結果を元に、圧電性薄膜とSi基板の熱膨張係数の差を定量的に見積もることができる。一般に、熱による内部応力変化を式に表すと、下式(2)のように表される。
【0093】
σ=Ef(αf−αs)ΔT (2)
ここで、Efは薄膜のYoung率、αfは薄膜の熱膨張係数、αsは基板の熱膨張係数、そしてΔTは温度変化値である。本実施例において、図6に示す内部応力の温度変化について、一次関数を用いて最小二乗法フィッティング(Fitting)による解析を行うと、その直線の傾きは1.14×10-3GPa・K-1となる。これはσ/ΔTに相当する。KNN圧電性薄膜のEfを110.7GPa、Si基板のαsを3.2×10-6K-1とすれば、KNN圧電性薄膜の熱膨張係数αfは1.35×10-5K-1となる。結果として、基板に比べてKNN圧電性薄膜の熱膨張係数は約4倍以上であることがわかる。この指標を目安に、基板と圧電性薄膜の組み合わせを考慮して適宜選択すれば、熱処理温度がKNN圧電性薄膜の内部応力の制御パラメータとして有用となる可能性がある。
【0094】
そこで、KNN圧電性薄膜の内部応力の制御が、膜形成後の熱処理によっても可能かどうかを調べるために、膜形成後、熱処理なしの状態から750℃まで加熱処理を行ったときのKNN圧電性薄膜の内部応力を解析した。具体的には、膜形成後、一度室温まで降温させ、その後加熱処理を行った。さらに加熱処理後のKNN圧電性薄膜を再び室温まで降温した後、内部応力を測定した。このときの熱処理は大気中であるが、O2雰囲気あるいはN2雰囲気またはAr等の不活性ガス、もしくは前記ガスが少なくとも一つが含まれる混合ガスでも良い。尚、成膜に用いた基板は(100)Siである。
【0095】
図7にその結果を示す。尚、縦軸の値が正の場合は引張応力、負の場合は圧縮応力である。
【0096】
図7に示すように、スパッタリング投入電力80Wで成膜したとき、熱処理を行わない場合は、KNN圧電性薄膜は圧縮応力状態にあり、その内部応力は0から0.15GPa程度であった。このKNN圧電性薄膜について1時間の熱処理を行うと、基板の反り形状が変化することがわかった。
【0097】
図7に示すように、600℃で熱処理を行った場合、圧縮応力状態から引張応力状態に変化する傾向が見え、内部応力が0に近づくことがわかった。
また前記温度より高い700℃で熱処理を行うと、基板の凹形状は顕著になり、約0.2GPaの引張応力状態になることがわかった。更に高い750℃で熱処理を行うと、引張応力が大きくなり、0.4GPaになることがわかった。熱処理温度を600℃から増加させることによって、KNN圧電性薄膜を凸形状から凹形状へと引張応力状態へ変化させることができる。すなわち、熱処理温度を変化させることによって、KNN圧電性薄膜の内部応力を所望の値に制御できる。特に、低内部応力のKNN圧電性薄膜を作製する場合、本実施例においては、600℃付近で温度制御を行うことが好ましいことがわかった。
【0098】
したがって、0.4Gpa以下の内部応力を有するKNN圧電性薄膜を得るには、前記圧電性薄膜の成膜後に実施される熱処理の温度が800℃以下に制御され、−0.1Gpa〜+0.3GPaの内部応力を有するKNN圧電性薄膜を得るには、成膜後に実施される熱処理の温度が600℃から750℃の範囲内で制御されるのがよい。
【0099】
(実施例4)
実施例4は、下地層を設けることにより薄膜の内部応力を制御するものである。
図8に、実施例4の圧電性薄膜素子の断面図を示す。本実施例4では、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成した上部に、下部電極層3とKNNの配向性を向上させる配向制御層である下地層6と、KNNの圧電性薄膜4と上部電極層5とを形成した圧電性薄膜素子を作製した。
【0100】
実施例1と同様にSi基板1上に接着層2を介して、下部電極層2を形成し、下部電極層2を結晶化させて形成したPt(111)配向させ、かつ表面平坦化させたPt電極上に、下地層6としてLaNiO3(Lanthan Nickel Oxide;LNO)膜を形成した。LNO膜はPt(111)上で容易に(001)面に配向する。LNO膜もスパッタリング法を用いて形成した。スパッタリングガスはAr+O2の混合ガス(混合比9:1)を用いた。スパッタリング投入電力は75Wとして200nmの膜厚になるように成膜した。このLNO膜のX線回折測定を行ったところ、LNO(001)に単独配向していることが判った。このLNO膜の下地層6上に、KNN膜の圧電性薄膜を形成した。形成条件は実施例1と同様の条件とした。
【0101】
このようにして形成したKNN圧電性薄膜について、X線回折装置を用いて配向状態について評価した結果、実施例1で形成したKNN圧電性薄膜よりも、KNN(001)により強く配向していることが判った。本実施例の場合において、図8(a)に示すようにKNN圧電性薄膜形成時、そのスパッタリング投入電力を100Wより大きくすることによって、基板の反り形状が凸形状となることを確認した。
【0102】
また600℃以上の熱処理を大気中で実施することによって、図8(b)に示すように基板の反りが凹形状になることを確認した。以上の素子について、光てこ法による内部応力を解析した結果、スパッタリング投入電力を大きくしたとき、その内部応力は圧縮状態であり、−1GPa程度まで応力増大することを確認した。
【0103】
一方で、熱処理温度を増加させることによって、引張応力が増大し、1GPa程度まで増大した。以上から、実施例1または3と同じく、内部応力の大きさを制御できることがわかり、所望の圧電特性を示すKNN圧電性薄膜を作製できることがわかった。
【0104】
次に作製したKNN膜の圧電性薄膜4上に上部電極層5を形成した。上部電極層5の材料にはAlを選択し、真空蒸着法を用いて形成した。平坦な圧電性薄膜4の上部に形成した上部電極層5の表面も圧電性薄膜4とほぼ同じ反り形状となることがわかった。
【0105】
(実施例5)
実施例5は、下地層を変えることにより薄膜の内部応力を制御するものである。
図9に、実施例5の圧電性薄膜素子の断面図を示す。本実施例5では、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成した上部に、下部電極層3と、ニオブ酸ナトリウムの下地層7と、LKNNの圧電性薄膜8と、上部電極層5とを形成した圧電性薄膜素子を作製した。
【0106】
下地層7としては、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)を用いた。また、本実施例5はKNNにリチウムをドーピングしたLKNN(NaxKyLiz)NbO3,以下LKNNと記す)を圧電性薄膜8に用いた。LKNNは、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)、酸素の5元素で構成されるが、このうちリチウム、カリウムを含まないニオブ酸ナトリウム(NabO3)を下地層として用いれば、スパッタリングを行うチャンバー内が、圧電性薄膜8の構成元素以外の物質で汚染される恐れがないことから、下地層を成膜したチャンバーと同一のチャンバーを用いて圧電性薄膜の成膜ができ、下地層、圧電性薄膜の成膜を連続して行うことが可能となる。
【0107】
まず、実施例4と同じPt電極付き基板を用意し、その上部にニオブ酸ナトリウムの下地層7を形成した。この下地層7の形成にはスパッタリング法を用いた。スパッタリングガスにはAr+O2混合ガス(混合比は8.5:1.5)を用い、RF電力は100Wとして200nmの膜厚になるように成膜した。このようにして形成したニオブ酸ナトリウム膜をX線回折装置で評価したところ、(001)面に優先配向していることがわかった。次に、ニオブ酸ナトリウム膜の下地層7上に、LKNN膜の圧電性薄膜8を成膜した。LKNN圧電性薄膜の成膜はスパッタリング法を用いた。成膜中は600℃の基板加熱を行い、Ar+O2の混合ガス(混合比は9:1)によるプラズマでスパッタリングを実施した。ターゲットには、(NaxKyLiz)NbO3 x=0.48、y=0.48、z=0.04の焼結体ターゲットを用いた。スパッタリング投入電力は100Wで成膜を実施し、膜厚が3μmになるまで成膜を行った。X線回折装置を用いて結晶構造解析を実施したところ、LKNN圧電性薄膜は(110)、(001)面の二つの面に配向していることがわかった。
【0108】
本実施例の素子について、光てこ法を用いて内部応力の評価を行った。その結果、実施例4と同様に、LKNNのスパッタリング投入電力を大きくしたとき、図9(a)に示すように、凸形状の圧縮応力状態となり、−0.8GPa程度まで増大することを確認した。
一方、膜形成後に行う、熱処理温度を増加させることによって、図9(b)に示すように、凹形状の引張応力状態となり、0.8GPa程度まで増大した。したがって、スパッタリング投入電力や熱処理温度などによって内部応力の大きさを制御することにより所望の圧電特性を示すLKNN膜を作製できることがわかった。
【0109】
また、下地層として更に幾つかの材料について調べた。その結果、NaNbO3、LaNiO3以外に、LaAlO3、SrTiO3、SrRuO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4CoO3、KNbO3でも同様に制御できる効果があった。また、これらを積層させる(LaNiO3上にKNbO3を形成等)ことや、固溶させること(La(Ni、Al)O3等)でも同様な効果があった。
【0110】
以上、本実施例4と同様、スパッタリング投入電力や熱処理温度を精度良く制御すれば、低内部応力のLKNN膜を作製することができ、更に平坦でかつ高配向の圧電性薄膜を作製することが可能となり、高性能な圧電性薄膜を実現できる。
【0111】
次に作製したKNN膜の圧電性薄膜8上に上部電極層5を形成した。上部電極層5の材料にはAlを選択し、真空蒸着法を用いて形成した。平坦な圧電性薄膜8の上部に形成した上部電極層5の表面も圧電性薄膜8とほぼ同じ反り形状となることがわかった。
【0112】
(実施例6)
実施例6は、圧電性薄膜の内部応力を変化させることにより圧電定数を制御するものである。
本実施例6では、実施例1に示したSi基板上のKNN圧電性薄膜素子における、有効な圧電定数に対する、当該圧電性薄膜の基板反り形状及び内部応力の適切な値(範囲)を示す。
【0113】
ここで測定した圧電定数は、膜厚3μmのKNN圧電性薄膜に対して電圧を20V印加したときの圧電定数である。図10に、実施例の1つとして基板の反り形状(曲率)と圧電定数との相関図を示す。
【0114】
このとき図10の横軸は、曲率半径Rの逆数、いわゆる曲率(1/R)である。単位はm-1である。また、縦軸は圧電定数である。縦軸の具体的な例としては、電極面に垂直(厚さ方向)な伸縮の変化量であるd33、あるいは電極面にそった方向の伸縮の変化量であるd31があげられる。
【0115】
ここでの圧電定数の単位は任意単位である。圧電定数を任意単位としたのは、次の理由からである。圧電定数を求めるには、圧電薄膜のヤング率やポアソン比等の数値が必要であるが、圧電薄膜(圧電薄膜)のヤング率やポアソン比の数値を求めることは容易でない。殊に、薄膜の場合は、バルク体と異なり、成膜時に使用される基板からの影響(拘束など)を受けるため,薄膜自身のヤング率やポアソン比(定数)の絶対値(真値)を原理的に求めることは困難である。そこで、現在までに知られているKNN薄膜のヤング率やポアソン比の推定値を用いて、圧電定数を算出した。従って、得られた圧電定数は推定値となることから、客観性を持たせるために、相対的な任意単位とした。ただし、圧電定数の算出に用いたKNN薄膜のヤング率やポアソン比の値は推定値とはいえ、ある程度、信頼性のある値であり、圧電定数の約70[任意単位]は、大体、圧電定数d31が70[−pm/V]であると言える。このことは、後述する図11〜図13においても共通する。
【0116】
また、横軸の符号が負の場合は圧縮応力、正の場合は引張応力状態を示している。この図に示すように、圧縮応力状態の範囲において、圧電定数が、曲率が0に近づく(曲率半径が大きくなる)に従って大きくなることがわかる。また逆に、曲率が大きくなる(曲率半径が小さくなる)に従って圧電定数は小さくなる。特に、曲率が約−0.15m-1(曲率半径が約−6.7m)になると、圧電定数はほぼ0となる。一方、引張応力状態においては、曲率が0付近(曲率半径が大きい)のとき、圧電定数がわずかに大きくなる傾向にあるが、曲率が大きくなっても、圧電定数は減少しないことがわかる。これは、圧電定数は圧縮応力変化に敏感であり、基板の反りが凸形状にあったとき、その反り量(曲率)が、圧電定数の大きさに影響を与えることを表している。尚、図11に示すように、20V以下の印加電圧2Vの圧電定数についても、内部応力との相関は、ほぼ同様な結果が得られている。したがって、圧縮応力状態においては曲率半径を6.7m以上に制御することによって、所望の圧電定数を確保することができる。
【0117】
したがって、所望の圧電定数を有するKNN圧電性薄膜素子を得るには、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値が0.15m-1以下、所望の圧電定数よりも高い圧電定数を有するKNN圧電性薄膜素子を得るには、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値が0.07m-1以下の範囲で制御されるのがよい。
【0118】
次に、図12にKNN圧電性薄膜の内部応力と圧電定数との相関図を示す。表1には、各試料の内部応力と圧電定数の測定値を示す。図12の横軸は、KNN圧電性薄膜の内部応力値である。単位はGPaである。また、横軸の符号が負の場合は圧縮応力、正の場合は引張応力状態を示している。また、本実施例ではPt下部電極を形成したときに、内部応力はこの図からわかるように、圧縮応力状態において、KNN圧電性薄膜の内部応力が0に近づくに従って圧電定数が大きくなることがわかる。また逆に、内部応力が大きくなるに従って圧電定数は小さくなる。特に、内部応力が約0.9GPaになると、圧電定数がほぼ0となる。図13及び表2に示すように、20V以下の印加電圧の圧電定数についても、内部応力との相関は、ほぼ同様な結果が得られている。
従って、圧縮応力状態においては内部応力を0.9以下に制御することによって、所望の圧電定数を確保することができる。すなわち、本実施例で得られた相関関係をもとにして、KNN圧電性薄膜の内部応力を最適な値に制御することによって、各種デバイスに必要な性能を有する圧電性薄膜素子を製造することが可能になる。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
なお、表1及び表2に示した試料1〜42は、実施例1に記載の条件に基き作製した。成膜時の基板温度、スパッタ投入電力、成膜後の熱処温度をパラメータとして制御することで、異なる内部応力を有する試料を得た。具体的には、基板には熱酸化膜付のSi基板を用いた。基板サイズは4インチサイズであり、基板厚さは0.3mm、(100)面方位のものを用いた。また、酸化膜の厚さは150nmとした。Si基板上には、2nmのTi接着層を設け、Ti接着層上に、200nmのPt薄膜(下部電極層)を形成した。Pt下部電極は、(111)面へ優先配向している。Ti接着層及びPt薄膜は、成膜時の基板温度を300℃、スパッタリング用ガスにはArガス100%を用い、圧力2.5Paで成膜した。
圧電性薄膜であるKNN膜の厚さは3μmとした。スパッタリングターゲットにはKNN焼結体ターゲットを用いた。成膜時の基板温度は600℃〜900℃の間で制御し、投入電力密度が0.010W/mm2から0.040W/mm2の範囲内となるようパワーの制御をした。スパッタリング動作ガスには、Ar+O2の混合ガス(混合比9:1)を用い、圧力は0.4Pa〜1.3Paの間で制御した。KNN膜の成膜後の熱処理温度は、600℃〜750℃の範囲で制御した。また、本実施例におけるターゲットと基板間の距離(TS間距離)は、100mm〜150mmの間で制御した。
【0122】
また、本実施例のように、動作ガスにAr含有ガスを用いたスパッタリング法により成膜を行うことで、圧電性薄膜中にArが含有される。圧電薄膜中にArが含まれると、Arと圧電薄膜を構成する元素とは異なる原子半径を有するため、Arが圧電薄膜の結晶格子間に侵入、または圧電薄膜を構成する元素と置き換わり、圧電薄膜において内部応力を生じさせる場合がある。この場合、投入電力やTS間距離、ガス混合比を適宜制御することで、圧電性薄膜中におけるAr含有量を所定の範囲内とし圧電性薄膜の反り量を制御するとよい。本実施例における圧電薄膜素子では、Ar含有量は質量比で80ppm以下とした。なお、Arを含有するKNN圧電薄膜のAr含有量の評価は、蛍光X線分析装置(リガク社製、System3272)を用いた。
【0123】
本実施例で示された通り、所望の圧電定数を有するKNN圧電性薄膜を得るには、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値が0.9GPa以下、所望の圧電定数よりも高い圧電定数を有するKNN圧電薄膜素子得るには、0.45GPa以下の範囲で制御されるのがよい。
【0124】
本実施例によれば、Si基板上に鉛を用いることなく良好な圧電定数を有する圧電薄膜を形成することができる。これにより環境負荷物質である鉛を用いることなく、アクチュエータやセンサなど、高性能な圧電デバイスを実現できる。また、本実施例では基板と圧電薄膜との間に、下部電極層となるPt薄膜を形成した例を示したが、下部電極層を形成せずに、基板上に直接、またはKNN圧電薄膜の配向を制御するような下地層(配向制御層)を形成し、KNN圧電性薄膜を形成しても良い。この場合、KNN圧電性薄膜上に所定のパターンを備える上部電極を形成することで、表面弾性波を利用したフィルタデバイスを作製できる。
【符号の説明】
【0125】
1 Si基板
2 接着層
3 下部電極層
4 圧電性薄膜
5 上部電極層
6 LNO下地層
7 各種下地層
8 圧電性薄膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上にスパッタリング法によって成膜された(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜とを有し、該圧電性薄膜の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電性薄膜素子において、前記基板の厚さの増減率に応じて増減する前記基板の反り形状の曲率半径の増減率が、前記基板の厚さの増減率の二倍以上であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電性薄膜素子において、前記基板と前記圧電性薄膜との間に、前記圧電性薄膜の配向を制御する下地層を有することを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電性薄膜素子において、前記下地層は(111)面に配向して形成されるPt薄膜であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の圧電性薄膜素子において、前記基板と前記下地層との間に下部電極層が形成され、前記下部電極層と前記基板との間に接着層が形成され、前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の圧電性薄膜素子において、前記圧電性薄膜の曲率半径が0.8m以上であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電性薄膜素子において、前記圧電性薄膜上には上部電極が形成され、前記基板と前記圧電性薄膜との間には下部電極が形成され、前記下部電極層あるいは前記上部電極層もしくは両電極層の曲率半径が0.8m以上であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の圧電性薄膜素子において、前記圧電性薄膜はArガス又はArガスに酸素を混合させた混合ガス雰囲気下にてスパッタリング法により成膜され、前記圧電性薄膜中にArを含有することを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の圧電性薄膜素子において、前記基板は酸化膜付きのSi基板であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値を0.15m-1以下の範囲で制御することを特徴とする圧電性薄膜素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値を0.9GPa以下の範囲で制御することを特徴とする圧電性薄膜素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電性薄膜素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電薄膜デバイス。
【請求項1】
基板と、前記基板上にスパッタリング法によって成膜された(NaxKyLiz)NbO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表されるペロブスカイト型酸化物を主相とする圧電性薄膜とを有し、該圧電性薄膜の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電性薄膜素子において、前記基板の厚さの増減率に応じて増減する前記基板の反り形状の曲率半径の増減率が、前記基板の厚さの増減率の二倍以上であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電性薄膜素子において、前記基板と前記圧電性薄膜との間に、前記圧電性薄膜の配向を制御する下地層を有することを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電性薄膜素子において、前記下地層は(111)面に配向して形成されるPt薄膜であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の圧電性薄膜素子において、前記基板と前記下地層との間に下部電極層が形成され、前記下部電極層と前記基板との間に接着層が形成され、前記接着層もしくは前記下地層あるいは前記両方の層の内部応力の絶対値が1.6GPa以下であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の圧電性薄膜素子において、前記圧電性薄膜の曲率半径が0.8m以上であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電性薄膜素子において、前記圧電性薄膜上には上部電極が形成され、前記基板と前記圧電性薄膜との間には下部電極が形成され、前記下部電極層あるいは前記上部電極層もしくは両電極層の曲率半径が0.8m以上であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の圧電性薄膜素子において、前記圧電性薄膜はArガス又はArガスに酸素を混合させた混合ガス雰囲気下にてスパッタリング法により成膜され、前記圧電性薄膜中にArを含有することを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の圧電性薄膜素子において、前記基板は酸化膜付きのSi基板であることを特徴とする圧電性薄膜素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の曲率の絶対値を0.15m-1以下の範囲で制御することを特徴とする圧電性薄膜素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電性薄膜素子を製造する方法において、前記圧電性薄膜の内部応力の絶対値を0.9GPa以下の範囲で制御することを特徴とする圧電性薄膜素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれかに記載の圧電性薄膜素子と、電圧印加手段又は電圧検出手段とを備えた圧電薄膜デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−29591(P2011−29591A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48790(P2010−48790)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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