説明

圧電振動素子、圧電振動子、圧電発振器、及び電子機器

【課題】小型化を図ると共に、耐衝撃性を改善した圧電振動素子を得る。
【解決手段】圧電振動素子1は、圧電振動素子1の圧電基板8が、複数の振動腕15a、15b、その振動腕の一方の端部間を連接する基部10、各振動腕15a、15bの他方の端部に夫々形成され幅広で錘部20a、20b、及び、各振動腕15a、15bの振動中心に沿って形成された溝部17a〜18b、を備えている。各錘部20a、20bの表面、又は裏面と接する最内側の第一層目の電極膜は圧電基板8との接着強度を高める電極膜を用い、第2層目の前記電極膜の密度を最大とし、第3層目の電極膜の密度が小さくなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動素子に関し、特に耐衝撃性を改善した圧電振動素子、圧電振動子、圧電発振器、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯電話等の移動体通信機や、モバイルコンピューター、ハードディスク・ドライブ等の小型情報機器には、基準周波数源として圧電デバイスが広く用いられている。圧電デバイスを搭載した電子機器の小型化、高性能化が進むに伴い、圧電デバイスの更なる小型化が求められている。
特許文献1には、耐衝撃性を改善した圧電デバイスが開示されている。圧電振動素子は、一対の振動腕と、一対の振動腕の一方の端部間を連接する基部と、各振動腕の振動中心に沿った表面及び裏面に夫々形成された溝部と、各振動腕に夫々形成され励振電極と、を備えている。溝部を設けることにより、基部よりも先端側である各振動腕の重量が軽量化される。このため圧電振動素子の重心は、溝なし圧電振動素子と比べると、基部側に移動する。つまり、圧電振動素子の全長Lに対して、圧電振動素子の基端部からの重心位置までの距離GLは小さくなり、GL/Lの値が小さくなる。この結果、衝撃が加わったとき振動腕先端部の撓み量(変位量)が小さくなり、耐衝撃性が改善されると開示されている。
また、特許文献2には、音叉型圧電振動素子の振動腕の長さをLとしたとき、振動腕の先端から基部に向かって0.01×L以上離れた位置から基部側に、周波数調整用金属膜を設けた音叉型圧電振動子が開示されている。落下による衝撃を受けると振動腕が湾曲し、金属膜のない圧電体がパッケージ本体、又は蓋体に衝突する。周波数調整用金属膜は接触しないので、周波数の変動が軽減されると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−133897公報
【特許文献2】特開2009−290778公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の圧電デバイスでは、耐衝撃性の改善が期待されるものの、振動腕の長手方向の腕長の短縮化を図るという最近の要求が満たされないという問題があった。
また、特許文献2に記載の音叉型圧電振動子は、落下等による衝撃の際に、周波数変動の軽減が期待されるものの、小型化への要求が満たされないという問題があった。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、圧電振動素子の小型化を図ると共に、耐衝撃性を改善した圧電振動素子、圧電振動子、圧電発振器、及電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本発明に係る圧電振動素子は、複数の振動腕、該各振動腕の一方の端部間を連接する基部、前記各振動腕の他方の端部に夫々形成され該各振動腕よりも幅広の錘部、及び、前記各振動腕の振動中心線に沿った表面及び裏面に夫々形成された溝部を備えた圧電基板と、前記各振動腕の表裏面及び両側面に夫々形成され、且つ前記基部に設けた複数の電極パッドとの間を夫々電気的に接続される励振電極と、を備えた圧電振動素子であって、前記各錘部の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の錘用単膜から成る錘用積層膜を備え、前記各錘部の表面、又は裏面と接する一層目の前記錘用単膜としては前記圧電基板との接着強度を高める材料を用い、二層目の前記錘用単膜の密度を最大とし、三層目以降の前記錘用単膜はその密度が順次小さくなるように構成したことを特徴とする圧電振動素子である。
【0007】
落下等により圧電振動素子に直交方向から衝撃が加えられると、圧電振動素子の振動腕が湾曲し、先端にある錘部が収容する絶縁基板に衝突する。このとき、錘用積層膜の最内側から二層目の錘用単膜の密度を最大とし、錘部の表面又は裏面から離間した錘用単膜の密度を、二層目の錘用単膜の密度より小さくするように構成してあるので、衝突により錘用積層膜の最外側の錘用単膜が変形しても、質量自体は変化しないので周波数の変化は極めて少ないという効果がある。また、最外側の錘用単膜が僅かに剥離したとしても、圧電振動素子の周波数変化は小さく抑えられるという効果がある。
【0008】
[適用例2]また圧電振動素子は、複数の振動腕、該各振動腕の一方の端部間を連接する基部、前記各振動腕の他方の端部に夫々形成され該各振動腕よりも幅広の錘部、及び、前記各振動腕の振動中心線に沿った表面及び裏面に夫々形成された溝部を備えた圧電基板と、前記各振動腕の表裏面及び両側面に夫々形成され、且つ前記基部に設けた複数の電極パッドとの間を夫々電気的に接続される励振電極と、を備えた圧電振動素子であって、前記各錘部の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の金属製の電極膜から成る錘用電極膜を備え、前記各錘部の表面、又は裏面と接する一層目の前記電極膜としては前記圧電基板との接着強度を高める電極膜を用い、二層目の前記電極膜の密度を最大とし、三層目以降の前記電極膜はその密度が順次小さくなるように構成し、最外側の前記電極膜は粘性率の小さい金属膜であることを特徴とする圧電振動素子である。
【0009】
落下等により圧電振動素子の振動腕が湾曲し、先端にある錘部が収容する絶縁基板に衝突する。このとき、錘用電極膜を以上のように構成してあるので、衝突により錘用電極膜の最外側の電極膜が変形しても、周波数の変化は極めて少ないという効果がある。また、最外側の電極膜が僅かに剥離したとしても、圧電振動素子の周波数変化は小さく抑えられるという効果がある。
また、錘用電極膜の最外側の電極膜の粘性率を、二層目の電極膜の粘性率より小さくする。圧電振動素子の周波数粗調のためレーザー光線を照射すると、照射された位置の錘用電極膜が蒸散されて、レーザースポット径の孔が空くと共に錘用電極膜の最外側の電極膜にバリが生じるが、粘性率が小さい金属を用いて構成してあるので、バリは高さも低く、丸みを帯びてなだらかになり、振動、衝撃等により剥離する確率は小さくなる。そのため、耐衝撃性の優れた圧電振動素子がえられるという効果がある。
【0010】
[適用例3]また圧電振動素子は、少なくとも何れか二つの前記電極膜間に金属の拡散を抑える拡散抑制電極膜を備えていることを特徴とする適用例2に記載の圧電振動素子である。
【0011】
高熱による金属の拡散を防止する拡散制御膜を、電極膜間に設けることにより、圧電振動素子をアニールする際に、拡散による電極膜の強度劣化を防止でき、衝撃等による周波数変動を低減できるという効果がある。
【0012】
[適用例4]本発明に係る圧電振動子は、適用例1乃至3の何れか一項に記載の圧電振動素子と、該圧電振動素子を収容する絶縁基板とを備えたことを特徴とする圧電振動子である。
【0013】
最外側の電極膜の密度を小さくすることにより、衝撃を受け僅かに剥離したとしても、剥離した電極膜は軽いので圧電振動素子の周波数変化は小さく抑えられるという効果がある。また、最外側の電極膜の粘性率を小さくすることにより、レーザー光線による周波数粗調の際のバリはなだらかになって、剥離しづらくなり、耐衝撃性が改善されるという効果ある。
また、電極膜間に金属拡散を防止する拡散制御膜を設けることにより、拡散による電極膜の強度劣化を防止でき、衝撃等による周波数変動を低減できるという効果がある。
【0014】
[適用例5]本発明に係る圧電発振器は、適用例1乃至3の何れか一項に記載の圧電振動素子と、該圧電振動素子を励振する発振回路を搭載したIC部品と、前記圧電振動素子を気密封止すると共に前記IC部品を収容するパッケージと、を備えたことを特徴とする圧電発振器である。
【0015】
衝撃を受けた際の周波数変動の少ない圧電発振器が得られるという効果ある。また、圧電発振器を実装する際の高熱に錘用電極膜の劣化がなく、耐衝撃性の優れた圧電発振器がえられるという効果がある
【0016】
[適用例6]本発明に係る電子機器は、適用例4に記載の圧電振動子を備えたことを特徴とする電子機器である。
【0017】
衝撃を受けた際に周波数変動の少ない電子機器が得られるという効果ある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る圧電振動素子の構造を示した概略図であり、(a)は平面図、(b)はP−P断面図。
【図2】(a)は一方の錘部の平面図であり、(b)はQ−Qに於ける錘部の電極膜構成を示す断面図。
【図3】変形例の錘部の電極膜構成を示す断面図。
【図4】本発明の圧電振動子2の構成を示す断面図。
【図5】レーザー光線照射後の錘部の模式断面図。
【図6】レーザー光線照射後の錘部の模式断面図。
【図7】本発明の圧電振発振器の構成を示す断面図。
【図8】本発明の電極機器の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態に係る圧電振動素子1の構成を示す概略平面図であり、同図(b)は(a)のP−P断面図である。圧電振動素子1は、平板状の圧電基板8と、圧電基板8の表裏面及び側面に形成した薄膜の電極25と、を概略備えている。
圧電基板8は、図1(a)に示すように、互いに並行(平行)して直線状に延びる細幅帯状の複数(本例では二本)の振動腕15a、15bと、各振動腕15a、15bの一方の端部(基端部)間を連接する基部10と、各振動腕15a、15bの他方の端部(先端部)に夫々連接して一体形成され、且つ各振動腕15a、15bの幅よりも幅広な錘部20a、20bと、各振動腕15a、15bの振動中心線Cに沿った表面及び裏面に夫々形成された溝部17a(17b)、18a(18b)と、を備えている。
【0020】
図1(a)に示す基部10は、振動漏れ低減と耐衝撃性改善のために、矩形平板状の基部本体12aと、基部本体12aの各振動腕15a、15bとは反対側の他端縁中間部に設けた細幅の連結部12dと、連結部12dを介して連接され且つ基部本体12aとは離間して延びる左右一対の支持腕12b、12cと、を備えている。つまり、L字状支持腕12bの基端部と、逆L字状の支持腕12cの基端部とが連接され、この連接部分が連結部12dを介して基部本体12aの一方の端縁中央に連結されてコ字状をなし、基部本体12aの他方の端縁には各振動腕15a、15bの基端部が連結されている基部の例である。
図1の実施形態において、基部10は、基部本体12aと、連結部12dと、左右一対の支持腕12b、12cと、を備えていると説明したが、基部本体12aのみでもよい。
また、各振動腕15a、15bは、基部本体12aの先端縁から間隔を隔てて互いに平行に延出し、各振動腕15a、15bの先端部には夫々振動腕15a、15bの幅よりも幅広の錘部20a、20bが連設され一体化されている。
【0021】
図1(b)に示した薄膜の電極25は、錘部20a、20bと、各溝部17a(17b)、18a(18b)内を含めた各振動腕15a、15bの表裏面及び側面と、に夫々形成され、且つ基部10に設けた複数の電極パッド(図示せず)との間を夫々リード電極(図示せず)にて電気的に接続される励振電極30、32、34、36と、を備えている。薄膜の電極25は、蒸着法、又はスパッタ法を用いて真空装置の中で成膜される。なお、錘部20a、20b、及び振動腕15a、15bは、各振動中心線Cに対し、対称に構成されている。また、錘部20a、20bの先端側に重心の位置を設定することにより、振動腕15a、15bの短縮化が図られる。
各錘部20a、20bの表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の金属製の電極膜から成る錘用電極膜22を備えている。各錘部20a、20bの表面、又は裏面と接する一層目の電極膜としては圧電基板8との接着強度を高める電極膜を用い、二層目の前記電極膜の密度を最大とし、三層目以降の電極膜はその密度が順次小さくなるように構成し、最外側の電極膜は粘性率の小さい金属膜とする。
【0022】
圧電基板8として例えば水晶基板を用いる場合には、Z板(光軸(Z軸)と直交して切り出された基板)を電気軸(X軸)の回りに所定の角度θだけ回転して切り出した基板を用いる。各振動腕15a、15b及び各振動腕15a、15bの溝部17a(17b)、18a(18b)、錘部20a、20b、基部10等の圧電基板8の外形は、フォトリソグラフィ技術を用いたエッチング加工で形成されている。
なお、圧電基板8としては、水晶以外にタンタル酸リチウム酸、ニオブ酸リチウム、ランガサイト等の圧電材料が用いられる。
【0023】
図1(b)は、(a)のP−P断面図であり、各振動腕15a、15bに夫々形成された励振電極30、32、34、36の配置を示す図である。励振電極30、34は、各溝部17a(17b)、18a(18b)の表面、及び側面に形成され、励振電極32、36は各振動腕15a、15bの夫々両側面に形成されている。
励振電極30、36と、励振電極32、34とは、互いに異符号の電圧が前記電極パッドを介して印加される。つまり、励振電極30、36に+電圧が印加されるとき、励振電極32、34には−電圧が印加され、図1(b)の矢印で示すような電界が生じ、圧電振動素子1の重心を通る中心線Cgに対し対称な屈曲振動(音叉振動)が励振される。
なお、溝部17a(17b)、18a(18b)を形成することにより、電界強度が強まり、音叉振動をより効率的に励振することができる。即ち、圧電振動素子のCI(クリスタルインピーダンス)を小さくすることができる。
【0024】
本発明の特徴である錘部20a、20bの錘用電極膜22について、図2を用いて詳しく説明する。
図2(a)は、一対の錘部20a、20bの一方の錘部20aの平面図であり、同図(b)は(a)のQ−Q断面図である。他方の錘部20bも錘部20aと同様に構成されている。錘部20a(20b)は、錘部本体(圧電基板8の錘部)21a(21b)と、複数の電極膜からなる錘用電極膜22と、を備えている。
図2(b)に示すように、錘用電極膜22は、錘部本体21aの表面又は裏面の少なくとも一方の面上に形成された複数層の電極膜22a、22b、22cから構成されている(図2は片側3層の電極膜の例)。錘部本体21aの表面、又は裏面と接する最内側(一層目)の電極膜22aは、錘部本体(圧電基板)21aとの接着(密着)強度を強めるため、クロムCr、又は二クロムNi−Cr等を用いる。第2層目の第2の錘用電極膜22bは、錘部20a(20b)としての機能を高めるため、密度を最大とする。第3層目の電極膜22cは、その密度を第2の錘用電極膜22bの密度よりも小さくする。
【0025】
図2の実施形態は、錘用電極膜22が片側三層の例を示したが、四層、五層であってもよい。この場合も第二層目の錘用電極膜22bに最大密度の電極膜、例えば金Au等を用い、最外側の錘用電極膜には金Auより密度の小さい錘用金属膜、例えばAg、チタンTi等を用いる。
また、錘部本体21aの表面又は裏面から離間した第3層目の電極膜22cは、第2の錘用電極膜22bの密度より小さくなるように構成すると説明したが、第3層目の電極膜22cに粘性率の小さい金属を用いるとよい。その理由は、レーザー光線を錘部20a(20b)照射して、圧電振動素子1の周波数を調整する際に、最外側の電極膜にバリのような突起物が形成されず、なだらかな溶融物となるからである。金Auの粘性率は5.0(mN.s/m2)であるが、これより粘性率の小さい物質としては、銀Ag(3.88)、アルミAl(1.30)、インジウムIn(1.89)、ゲルマニウムGe(0.64)等がある。物質の密度と粘性率とを考慮して適宜選択するとよい。
【0026】
図3は、錘用電極膜22の変形例を示す錘部20a(20b)の断面図である。図3の実施形態に示すように、錘用電極膜22は、錘部本体(圧電基板)21aの表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の電極膜22a、22b、22c、22dから成る錘用電極膜22(図3は片側4層の電極膜の例)を備えている。図2の実施形態の電極膜22の構成と異なる点は、第2層の電極膜22bと第3層の電極膜22cとの間に拡散防止用の第4の電極膜(拡散制御膜)22dを挟んで錘用電極膜22を構成したことである。この理由は、図2の実施形態に示す第2層の電極膜22bと、第3層の電極膜22cとが温度の上昇により互いに拡散し、本来有する金属としての性質を損ねて、例えば脆弱になることを避けるためである。拡散防止膜としては、モリブデンMo、プラチナPt等を一例としてあげることができる。
【0027】
図1、図2、図3に示す実施形態では、落下等により圧電振動素子の振動腕が湾曲し、先端にある錘部が収容する絶縁基板に衝突する。このとき、錘用電極膜を以上のように構成してあるので、衝突により錘用電極膜の最外側の電極膜22cが変形しても、周波数の変化が極めて少ないという効果がある。また、最外側の電極膜が僅かに剥離したとしても、圧電振動素子の周波数変化は小さく抑えられるという効果がある。
また、錘用電極膜の最外側の電極膜22cの粘性率を、二層目の電極膜22bの粘性率より小さくする。圧電振動素子の周波数粗調のためレーザー光線を照射すると、照射された位置の錘用電極膜が蒸散されて、レーザースポット径の孔が空くと共に錘用電極膜の最外側の電極膜にバリが生じるが、粘性率が小さい金属を用いて構成してあるので、バリは高さも低く、丸みを帯びてなだらかになり、振動、衝撃等により剥離する確率は小さくなる。そのため、耐衝撃性の優れた圧電振動素子が得られるという効果がある。
図1、図3に示す実施形態では、高熱による金属の拡散を防止する拡散制御膜を、電極膜間に設けることにより、圧電振動素子をアニールする際に、拡散による電極膜の強度劣化を防止でき、衝撃等による周波数変動を低減できるという効果がある。
【0028】
以上の錘部20a、20bの説明では、錘部20a、20bに錘用電極膜22を用いた実施の形態例を示したが、錘部20a、20bの錘用積層膜は必ずしも金属膜である必要はなく、絶縁材料を用いてもよい。
この場合、圧電基板8、基部10及び薄膜の電極25は、図1(a)の実施の形態例と同様に構成する。各錘部20a、20bは、その表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の錘用単膜から成る錘用積層膜22を備えている。各錘部20a、20bの表面、又は裏面と接する一層目の錘用単膜としては圧電基板(錘部本値21a、21b)との接着強度を高める絶縁材料を用い、二層目の錘用単膜の密度を最大とする。三層目以降の錘用単膜としては順次その密度が小さくなる錘用単膜を用いて、圧電振動素子1を構成する。
【0029】
以上の説明ように、錘用積層膜を構成する。落下等により圧電振動素子に直交方向から衝撃が加えられると、圧電振動素子の振動腕が湾曲し、先端にある錘部が収容する絶縁基板に衝突する。このとき、錘用積層膜の最内側から二層目の錘用単膜の密度を最大とし、錘部の表面又は裏面から更に離間した位置にある三層目以降の錘用単膜の密度を、二層目の錘用単膜の密度より小さくするように構成してあるので、衝突により錘用積層膜の最外側の錘用単膜が変形しても、質量自体は変化しないので周波数の変化は極めて少ないという効果がある。また、最外側の錘用単膜が僅かに剥離したとしても、圧電振動素子の周波数変化は小さく抑えられるという効果がある。
【0030】
図4は、本発明に係る第2の実施の形態の圧電振動子2の構成を示す断面図である。圧電振動子2は、図1の実施の形態の圧電振動素子1と、圧電振動素子1を収容するパッケージとを備えている。パッケージは、矩形の箱状に形成されているパッケージ本体40と、ガラス等からなる窓部材54を有する蓋部材52とから成る。
パッケージ本体40は、図4の実施の形態に示すように、絶縁基板として第1の基板41と、第2の基板42と、第3の基板43とを積層して形成されており、絶縁材料として、酸化アルミニウム質のセラミック・グリーンシートを成形し箱状とした後で、焼結して形成されている。実装端子45は、第1の基板41の外部底面に複数個形成された例である。
第3の基板43は中央部が除去されており、第3の基板43の上部周縁に例えばコバール等の金属シールリング44が形成されている。
第3の基板43と第2の基板42とにより、圧電振動素子1を収容する凹部が形成されている。第2の基板42の上面の所定の位置には、導体46により実装端子45と電気的に導通する複数の素子搭載パッド47が設けられている。
素子搭載パッド47の位置は、圧電振動素子1を載置した際に支持腕12b、12cに形成したパッド電極(図示せず)に対応するように配置されている。
【0031】
圧電振動子2の構成は、パッケージ本体40の素子搭載パッド47に導電性接着剤50、例えばエポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤、ビスマレイミド系接着剤の何れかを適量塗布し、その上に圧電振動素子1を載置して荷重をかける。
パッケージ本体40に搭載された圧電振動子1の導電性接着剤50を硬化させるために、所定の温度の高温炉に所定の時間入れる。アニール処理を施した後、上方からレーザー光線(YAGレーザー等)を照射して各錘部20a、20b、各振動腕15a、15bに形成された周波数調整用金属膜の一部を蒸散させて周波数粗調を行う。ガラス窓部54を備えて蓋部材52を、パッケージ本体40の上面に形成したシールリング44に搭載し、シーム溶接を行う。
パッケージの貫通孔48を封止する前に、加熱処理を施す。パッケージの上下を逆にして、貫通孔48内の段差部上に金属球の充填材48aを載置する。充填材48aとしては金−ゲルマニウム合金等がよい。充填材48aにレーザー光線を照射して溶融させ、貫通孔48を封止すると共にパッケージ内部を真空とする。パッケージの外部から窓部材54を介してレーザー光線をパッケージ内に照射し、振動腕15a、15bに形成した周波数調整用金属膜を蒸散させて周波数の微調整を行い、圧電振動子2を完成する。
【0032】
図4の実施の形態の圧電振動子2に、落下などの衝撃が加えられたときの圧電振動素子1の変形について説明する。圧電振動子2のパッケージの主面に直交方向に衝撃力が加えられると、圧電振動素子1は、素子搭載パッド47を支点として変形し易い支持腕支持部12b、12cがパッケージ本体40の底面に向かって変形する。次に、この変位が基部10の外側端縁12eに到達して反射され、変位が基部本体12aの中央部に到達し、基部本体12aを含めた全体がパッケージ本体40の底面側に沈み込む。その結果、振動腕15a、15bは、その先端側がパッケージ底面に向かって変形する。つまり、基部10の構造が、基部本体12aに連結部12dを介して支持腕12b、12cに連接されていることにより、加えられた衝撃を基部10の構造で緩和するように構成されている。
【0033】
落下等によりパッケージと直交方向から衝撃が加えられると、圧電振動素子1の振動腕15a、15bが湾曲し、先端にある錘部20a(20b)がパッケージ本体40の内部底面、又は蓋部材52に衝突する。このとき、図2、3の実施の形態に示すように、錘用電極膜22の最内側から第2層目の第2の錘用電極膜22bの密度を最大とし、錘部本体21aの表面又は裏面から離間した第3層目の電極膜22cの密度を、第2の錘用電極膜22bの密度より小さくするように構成したので、衝突により錘用電極膜22の最外側の電極膜22c(図2、3の例)が僅かに剥離したとしても、最外側の電極膜22cの密度が小さいため、圧電振動子2の周波数変化は小さく抑えられる。
【0034】
また、衝撃により剥離に至らず錘用電極膜22が多少変形する場合は、錘部20a(20b)の質量変化がなく、圧電振動子2の周波数変化はほぼない。
また、圧電振動素子1の錘部20a(20b)にレーザー光線(YAGレーザー等)を照射し、圧電振動素子1の周波数の粗調を行う。図5の錘部20aの断面図に示すように、錘部20aに高エネルギーを有するレーザー光線を照射すると、照射部が高熱となって蒸散され、スポット径(数μmから数十μm)の穴が空けられる。錘用電極膜22が蒸散されるときに、錘用電極膜22の最外側には電極膜が溶融したバリ23(誇張して図示)が生じる。落下等により圧電振動子2に衝撃が加えられ、圧電振動素子1の振動腕15a、15bが湾曲して、先端にある錘部20a(20b)がパッケージ本体40の内部底面、又は蓋部材52に衝突する。このとき、バリ23が剥離する虞がある。この場合も第3層目の電極膜22cの密度を、第2の錘用電極膜22bの密度より小さくしてあるので、圧電振動子2の周波数変化は小さく抑えることができる。
また、錘用電極膜22の最外側の電極膜22cとして、第2層の電極膜22bの粘性率より小さい粘性率の電極膜を設定する。このように錘用電極膜22を構成すると、圧電振動子2の周波数粗調のためレーザー光線を照射する際、照射された位置の錘用電極膜22が蒸散されて、レーザースポット径の孔が空くと共に錘用電極膜22の最外側の電極膜22cに溶融物が生じるが、粘性率が小さい金属を用いているので、溶融物(バリ)23は図6の断面図に示すように高さも低く、丸みを帯びてなだらかになる。振動、衝撃等により剥離は低減され、圧電振動子の周波数変動は抑制される。
【0035】
図4に示す実施形態では、最外側の電極膜の密度を小さくすることにより、衝撃を受け僅かに剥離したとしても、剥離した電極膜は軽いので圧電振動素子の周波数変化は小さく抑えられるという効果がある。また、最外側の電極膜の粘性率を小さくすることにより、レーザー光線による周波数粗調の際のバリはなだらかになって、剥離しづらくなり、耐衝撃性が改善されるという効果ある。
また、電極膜間に金属拡散を防止する拡散制御膜を設けることにより、拡散による電極膜の強度劣化を防止でき、衝撃等による周波数変動を低減できるという効果がある。
【0036】
図7は、本発明に係る第3の実施の形態の圧電発振器3の構成を示す断面図である。圧電発振器3は、上記の圧電振動素子1と、圧電振動素子1を励振する発振回路を有するIC部品78と、圧電振動素子1を真空封止すると共にIC部品78を収容するパッケージ本体60、及び窓部材75a有する蓋部材75と、を備えている。圧電振動素子1にレーザー光を照射しての粗調製、微調整する手法、また、パッケージの内部を真空にして貫通孔68の封止する手法等は、圧電振動子2の場合と同様であるので省略する。IC部品78はパッケージ本体60のIC部品搭載パッド69に、金属バンプ76等を用いて電気的に導通接続する。
なお、図11に示した圧電発振器3では、IC部品78が気密封止されていない例を示したが、IC部品78をパッケージ内部に配置し、気密封止してもよい。
図7に示す実施形態では、衝撃を受けた際の周波数変動の少ない圧電発振器が得られるという効果ある。また、圧電発振器を実装する際の高熱に錘用電極膜の劣化がなく、耐衝撃性の優れた圧電発振器がえられるという効果がある。
【0037】
図8は本発明に係る電子機器4の構成を示す概略構成図である。電子機器4には上記の第2の実施形態で説明した圧電振動子2を備えている。圧電振動子2を用いた電子機器4として、携帯電話やデジタルカメラ、ビデオカメラなどの携帯用電子機器が挙げられる。これらの電子機器4において圧電振動子2は、基準信号源として用いられ、小型で精度の良い圧電振動子2を備えることにより、小型で携帯性に優れ、特性の良好な電子機器を提供できる。
図8に示す実施形態では、衝撃を受けた際に周波数変動の少ない電子機器が得られるという効果ある。
【符号の説明】
【0038】
1…圧電振動素子、2…圧電振動子、3…圧電発振器、4…電子機器、8…圧電基板、10…基部、12a…基部本体、12b、12c…支持腕、12d…連結部、12e…外側端縁、15a、15b…振動腕、17a、17b、18a、18b…溝部、20a、20b…錘部、21a、21b…錘部本体、22a…第1の電極膜、22b…第2の電極膜、22c…第3の電極膜、25…電極、23…バリ、30、32、34、36…励振電極、40、60…パッケージ本体、41…第1の基板、42…第2の基板、43…第3の基板、44…金属シールリング、45、65…実装端子、46、66…導体、47、67…素子搭載パッド、48、68…貫通孔、48a、68a…充填材、50…導電性接着剤、52、75…蓋部材、54、75a…窓部材、69…部品搭載パッド、76…金属バンプ、78…IC部品、C…振動中心線、Cg…重心を通る中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動腕、該各振動腕の一方の端部間を連接する基部、前記各振動腕の他方の端部に夫々形成され該各振動腕よりも幅広の錘部、及び、前記各振動腕の振動中心線に沿った表面及び裏面に夫々形成された溝部を備えた圧電基板と、
前記各振動腕の表裏面及び両側面に夫々形成され、且つ前記基部に設けた複数の電極パッドとの間を夫々電気的に接続される励振電極と、
を備えた圧電振動素子であって、
前記各錘部の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の錘用単膜から成る錘用積層膜を備え、
前記各錘部の表面、又は裏面と接する一層目の前記錘用単膜としては前記圧電基板との接着強度を高める材料を用い、二層目の前記錘用単膜の密度を最大とし、三層目以降の前記錘用単膜はその密度が順次小さくなるように構成したことを特徴とする圧電振動素子。
【請求項2】
複数の振動腕、該各振動腕の一方の端部間を連接する基部、前記各振動腕の他方の端部に夫々形成され該各振動腕よりも幅広の錘部、及び、前記各振動腕の振動中心線に沿った表面及び裏面に夫々形成された溝部を備えた圧電基板と、
前記各振動腕の表裏面及び両側面に夫々形成され、且つ前記基部に設けた複数の電極パッドとの間を夫々電気的に接続される励振電極と、
を備えた圧電振動素子であって、
前記各錘部の表面又は裏面の少なくとも一方の面上に複数層の金属製の電極膜から成る錘用電極膜を備え、
前記各錘部の表面、又は裏面と接する一層目の前記電極膜としては前記圧電基板との接着強度を高める電極膜を用い、二層目の前記電極膜の密度を最大とし、三層目以降の前記電極膜はその密度が順次小さくなるように構成し、最外側の前記電極膜は粘性率の小さい金属膜であることを特徴とする圧電振動素子。
【請求項3】
少なくとも何れか二つの前記電極膜間に金属の拡散を抑える拡散抑制電極膜を備えていることを特徴とする請求項2に記載の圧電振動素子。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の圧電振動素子と、該圧電振動素子を収容する絶縁基板とを備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の圧電振動素子と、該圧電振動素子を励振する発振回路を搭載したIC部品と、前記圧電振動素子を気密封止すると共に前記IC部品を収容するパッケージと、を備えたことを特徴とする圧電発振器。
【請求項6】
請求項4に記載の圧電振動子を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−186680(P2012−186680A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48706(P2011−48706)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】