基板およびその製造方法
【課題】従来の基板では困難であった製造コストの低減と、ひずみの低減とを同時に達成することが可能な基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】複合基板9は、金属基板2と、金属基板2上に接触して形成されたGaN層1とを備えている。金属基板2とGaN層1とは格子整合していない。金属基板2とGaN層1とは、たとえばファンデルワールス力により接合されている。そして、金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11は、劈開面となっている。
【解決手段】複合基板9は、金属基板2と、金属基板2上に接触して形成されたGaN層1とを備えている。金属基板2とGaN層1とは格子整合していない。金属基板2とGaN層1とは、たとえばファンデルワールス力により接合されている。そして、金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11は、劈開面となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板およびその製造方法に関し、より特定的には、ベース層とベース層上に接触して形成された半導体層とを備えた複合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高性能化の要求に対して、半導体装置の製造にGaN(窒化ガリウム)、InN(窒化インジウム)、BN(窒化硼素)、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)、InGaN(窒化インジウムガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、ダイヤモンドなどの基板を用いることが検討されている。一方、半導体装置の普及に伴い、半導体装置の製造に用いられる基板に対しては、低コスト化の要求がある。
【0003】
上記GaN、InN、BN、AlGaN、InGaN、AlN、ダイヤモンドなどの基板の製造においては、たとえば、まず比較的大きな厚みを有する原料基板が作製された後、当該原料基板がワイヤーソーなどによりスライスされ、厚み方向に分離する工程が採用される。そして、上記原料基板をスライスする工程は、基板の製造コストや基板の品質に大きな影響を与える。そのため、原料基板をスライスする工程については種々の検討が行なわれ、多くの提案がなされている(たとえば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】石川憲一、「スライシング加工技術の現状と展望」、精密工学会誌、社団法人精密工学会、1994年、Vol.60、No.2、p163−167
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されたスライス方法を含め、従来のワイヤーソーを用いたスライス方法では、ワイヤーの太さに取りしろを加えた厚みの原料基板が、分離の際に失われる。上記GaN、InN、BN、AlGaN、InGaN、AlN、ダイヤモンドなどの基板は非常に高価であるため、このような損失は製造コストの大幅な上昇を招来する。一方、ワイヤーソーによる切断に代えて、一般的なレーザを使用して原料基板を切断することも可能であるが、切断面の周辺に熱ひずみや熱ダレが発生し、大きな切断しろが必要になったり、原料基板の深さ方向に光が侵入しにくくなって切断不能となったりするという問題がある。特に、ダイヤモンド等の透明基板では、このようなダレによる取りしろの増加が大きな問題である。
【0005】
これに対し、基板の厚みを小さくすることにより、製造コストを低減する対策が有効であるとも考えられる。しかし、基板を用いた半導体装置の製造工程において、自立体として取り扱い可能な基板(自立基板)であるためには、一般に厚みが300μm以上必要である。そのため、単に厚みを小さくすることによる低コスト化には限界がある。さらに、上記半導体の層を、比較的安価で、かつ当該半導体と少なくともある程度格子整合するベース基板上に薄くエピタキシャル成長させることにより、高価な半導体の領域を減少させてコストを低減するとともに、取り扱いの容易な基板とすることも可能である。しかし、ベース基板と半導体の層とが異種材料である限り、両者が完全に格子整合するものではないため、半導体の層内にひずみが導入される。そして、このひずみは、当該基板を用いて作製される半導体装置の性能に悪影響を与えるという問題を招来する。このように、従来の基板では、製造コストの低減と、ひずみの低減とを同時に達成することは困難であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った基板は、ベース層と、ベース層上に接触して形成された半導体層とを備えている。そして、ベース層とは反対側の半導体層の主面は、劈開面となっている。さらに、ベース層と半導体層とは格子整合していない。
【0008】
本発明の基板においては、ベース層上に半導体層が接触して形成されている。そのため、ベース層に比較的安価な材料を採用し、かつ半導体層を薄く形成することにより、製造コストを抑制することができる。また、本発明の基板においては、ベース層とは反対側の半導体層の主面が劈開面となっている。これにより、半導体層を、半導体からなる原料基板を劈開させて形成することが可能となる。その結果、原料基板から半導体層を分離する際の原料基板の損失が抑制され、製造コストを一層抑制することができる。さらに、本発明の基板においては、ベース層と半導体層とが格子整合していない。つまり、本発明の基板においては、半導体層は、ベース層上にエピタキシャル成長された層ではない。たとえば、ベース層と半導体層とは、それぞれ別個に形成された後、互いに接合されている。そのため、ベース層と半導体層との不完全な格子整合に起因して生じる半導体層内のひずみが低減される。以上のように、本発明の基板によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板を提供することができる。
【0009】
上記基板においては、半導体層上に形成されたエピタキシャル層をさらに備えていてもよい。上述のように、上記基板の半導体層はひずみが低減されている。そのため、当該半導体層上にエピタキシャル層を形成することにより、良質なエピタキシャル層を備えた基板を提供することができる。
【0010】
本発明に従った基板の製造方法は、原料基板を準備する工程と、原料基板の少なくとも一方の主面にベース基板を貼り付ける工程と、ベース基板が貼り付けられた原料基板の内部に集光するレーザ光を、原料基板の劈開面に交差する方向から原料基板に照射し、劈開面に沿う方向に走査する工程と、レーザ光が照射された原料基板を劈開面に沿う面において分離する工程とを備えている。
【0011】
本発明の基板の製造方法では、準備された原料基板の主面にベース基板が貼り付けられた後、原料基板の内部の劈開面に対してレーザ光が集光照射され、当該劈開面に沿う方向に走査される。これにより、レーザ光が照射された劈開面に沿って照射影響層が形成される。この照射影響層は、たとえば劈開分離面が形成された領域となっており、原料基板を部分的に分離する領域、あるいは周囲の領域に比べて脆弱な領域となっている。そして、たとえば上記照射影響層に対して剪断力が負荷されることにより、原料基板が当該劈開面に沿う面(照射影響層に沿う面)において分離される。
【0012】
本発明の基板の製造方法においては、レーザ光を照射することにより原料基板の内部の劈開面に沿って照射影響層が形成される。そして、この照射影響層に沿って原料基板の一部がベース基板と貼り付けられた状態で分離される。そのため、原料基板の形状に関わらず、劈開面である限り、任意の面方位を有する半導体層を、原料基板の損失を抑制しつつベース基板上に形成することができる。また、本発明の基板の製造方法においては、原料基板の厚みが小さい場合であっても、原料基板を容易に厚み方向に分離することができる。そのため、厚みの小さい原料基板から、効率よく基板を製造することができる。さらに、製造された基板は、ベース層を構成するベース基板上に原料基板から分離された半導体層が形成された構成となっている。そのため、当該ベース層と半導体層とは、格子整合していない。その結果、ベース層と半導体層との不完全な格子整合に起因して生じる半導体層内のひずみが低減されている。
【0013】
より具体的に説明すると、たとえば、GaNなどの六方晶系の基板を製造する場合、まず、格子欠陥の少ない良質な結晶を作製することが容易な[0001]軸(c軸)方向にHVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy;ハイドライド気相成長法)などにより結晶を成長させ(いわゆるC面成長)、原料基板を作製する。この原料基板にベース基板を貼り付けた後、原料基板の劈開面である面、たとえば分極性面である(0001)面(いわゆるC面)、半極性面である(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面、無極性面である(11−20)面(いわゆるA面)など所望の面に対してレーザ光を照射し、走査する。このとき、後工程において原料基板を分離するための領域以外の領域に照射影響層、たとえばクラックの形成された層が形成されないように、またレーザの照射により原料基板に溶融領域が形成されないように、たとえばパルス幅やエネルギー密度を調整しつつ、レーザ光を原料基板に対して照射する。そして、レーザ光が照射された劈開面に沿う面において原料基板を劈開させることにより、ベース基板とは反対側の主面が劈開面となっており、かつ当該主面が所望の面方位を有する半導体層を備えた基板を製造することができる。
【0014】
このとき、上述のように、原料基板に溶融領域が形成されることなく、原料基板が劈開により分離されるため、分離に際して生じる原料基板の損失が抑制される。また、上述のように、所望の劈開面にレーザ光を照射して走査することにより、作製の容易な[0001]方向に成長させた原料基板から、ベース基板とは反対側の主面が所望の面方位を有する半導体層を容易に分離することができる。さらに、レーザ光を劈開面に交差する方向から原料基板に照射して上記分離を実施することにより、厚みの小さい原料基板を厚み方向に容易に分離し、効率よく多数の基板を製造することができる。また、製造された基板においては、ベース層と半導体層とは貼り合わされて結合しているため、ベース層と半導体層とは、格子整合していない。その結果、半導体層内のひずみが低減されている。
【0015】
以上のように、本発明の基板の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板を製造することができる。
【0016】
上記基板の製造方法においては、上記劈開面に沿う面上に、半導体からなる層をエピタキシャル成長させる工程をさらに備えていてもよい。
【0017】
上述のように、上記基板の製造方法においては、上記半導体層内のひずみが低減されている。そのため、当該半導体層の上記劈開面に沿う面上に半導体からなる層をさらにエピタキシャル成長させることで、良質なエピタキシャル層を備えた基板を製造することができる。
【0018】
上記基板の製造方法において好ましくは、上記レーザ光のパルス幅は10fs以上500ps以下であり、上記劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度は10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下である。
【0019】
原料基板の温度上昇を抑制して原料基板の溶融等を回避するしつつ、容易に原料基板の所望の劈開面に沿って照射影響層を形成するためには、パルス幅が500ps(ピコ秒)以下の短パルスレーザが採用されることが好ましい。一方、レーザの安定性および出力の観点から、10fs(フェムト秒)以上のパルス幅を有するレーザ光が採用されることが好ましい。また、原料基板を容易に分離可能な照射影響層を形成するためには、上記劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度は、10−7mJ/cm2以上であることが好ましい。一方、上記劈開面において原料基板を溶融させないこと、レーザ光を集光するためのレンズの耐久性等を考慮すると、上記劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度は、10mJ/cm2以下であることが好ましい。
【0020】
上記基板の製造方法において好ましくは、ベース基板を貼り付ける工程よりも前に、上記少なくとも一方の主面を水素プラズマ処理する工程をさらに備えている。
【0021】
ベース基板が貼り付けられる原料基板の主面が水素プラズマ処理されることにより、当該主面(表面)が清浄化される。より具体的には、たとえば上記少なくとも一方の主面(表面)が水素終端構造をとることにより当該主面(表面)に存在する酸素が低減され、表面の清浄性が著しく向上する。その結果、その後に実施されるベース基板の貼り付けが容易となる。
【0022】
本発明に従った基板は、上記本発明の基板の製造方法により製造されている。本発明の基板は、上記本発明の基板の製造方法により製造されているため、製造コストが抑制されつつ、ひずみが低減された基板となっている。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から明らかなように、本発明の基板およびその製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0025】
(実施の形態1)
以下、本発明の一実施の形態である実施の形態1における基板について説明する。図1は、実施の形態1における基板の構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の基板における半導体層の表面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【0026】
図1を参照して、実施の形態1における基板としての複合基板9は、ベース層としての金属基板2と、金属基板2上に接触して形成され、金属基板2よりも厚みの小さい半導体層としてのGaN層1とを備えている。金属基板2とGaN層1とは、たとえばファンデルワールス力により接合されており、両者は格子整合していない。
【0027】
さらに、金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11は、劈開面となっている。より具体的には、図2を参照して、金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11は、劈開により形成された面である劈開面であることにより、複数の平坦部111およびステップ112が形成されている。この平坦部111とステップ112との間には、1nm以上3000nm以下程度の高さを有する段差が形成されている。
【0028】
ここで、一般に、主面上に結晶をエピタキシャル成長させることにより半導体層(エピタキシャル層)を形成し、半導体装置を製造するために使用される基板においては、結晶性が高く、良質なエピタキシャル層を容易に形成するため、その主面には微小な凹凸(ステップ)が形成されていることが望ましい。そして、ステップを有する主面を形成するため、従来、所定の結晶面に対して僅かに傾斜した(微小なオフ角を有する)主面を形成する対策が採用されている。より具体的に説明すると、たとえば分極性面である(0001)面を主面とする基板を作製したい場合、主面が(0001)面となるように作製された基板に対して、研磨などの機械加工が実施される。これにより、主面が(0001)面に対して僅かに傾斜し、主面に8°以下の僅かなオフ角が付与される。
【0029】
これに対し、図1および図2を参照して、本実施の形態における複合基板9においては、劈開面であるGaN層1の主面11に、劈開により形成された微小な凸部または凹部としてのステップ112が形成されている。そのため、ステップを形成するために、新たに研磨などの機械加工を実施する必要がない。その結果、GaN層1は、研磨などの機械加工によるひずみが低減された半導体層となっている。
【0030】
図3は、実施の形態1の変形例における基板の構成を示す概略断面図である。また、図4は、図3の基板における半導体層とピタキシャル層との界面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【0031】
図3および図4を参照して、実施の形態1の変形例における基板としてのエピタキシャル層付き複合基板91は、図1および図2に基づいて説明した上記複合基板9のGaN層1上に、エピタキシャル成長により形成されたGaNからなるエピタキシャル層7が配置されている。上述のように、ひずみが低減された半導体層であるGaN層1上にエピタキシャル成長することにより、エピタキシャル層7は、欠陥やひずみの少ない良質の半導体層となっている。
【0032】
また、本実施の形態の基板としての複合基板9およびエピタキシャル層付き複合基板91のGaN層1においては、上述のように金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11が劈開面となっている。そのため、GaN層1の形成においてワイヤーソーなどを用いたスライスが必要ないため、原料基板の損失が大幅に低減され、製造コストが抑制されている。さらに、本実施の形態における複合基板9およびエピタキシャル層付き複合基板91においては、原料基板の劈開を利用してGaN層1を形成可能であるため、ダイシングなどの機械加工による大きなひずみをGaN層1に導入することなくGaN層1を形成することができる。その結果、ひずみに起因するGaN層1の反りにより、金属基板2との接合が不十分となる等の問題が抑制されている。
【0033】
以上のように、本実施の形態における基板としての複合基板9およびエピタキシャル層付き複合基板91は、製造コストが抑制されつつ、ひずみが低減された基板となっている。
【0034】
次に、本発明の一実施の形態である実施の形態1における基板の製造方法について説明する。図5は、実施の形態1における基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図6は、図5のベース基板貼付工程およびレーザ光照射工程を説明するための概略断面図である。また、図7は、図5のレーザ光照射工程を説明するための概略平面図である。また、図8は、図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略平面図である。また、図9は、図5のレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。また、図10は、図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略斜視図である。また、図11および図12は、図5の支持板貼付工程および劈開分離工程を説明するための概略断面図である。
【0035】
図5を参照して、本実施の形態における基板の製造方法においては、まず、原料基板を準備する原料基板準備工程が実施される。具体的には、図6を参照して、5mm以上150mm以下程度の直径、1mm以上100mm以下程度の厚みを有するGaN原料基板10が、たとえばHVPE法により作製される。ここで、GaN原料基板10は、(0001)面を主面10Aとして作製される。
【0036】
次に、図5を参照して、GaN原料基板の主面を水素プラズマ処理する水素プラズマ処理工程が実施される。具体的には、図6を参照して、GaN原料基板10が、温度0℃以上400℃以下程度、圧力0.001Torr以上大気圧以下程度の水素ガスを含み、高周波またはマイクロ波等の電圧が印加された雰囲気中で、0.1秒以上600秒以下程度保持されることにより、一方の主面10A(後工程において金属基板2と接合される側の主面10A)が水素プラズマ処理される。その結果、当該一方の主面10Aに存在する酸素等が除去され、主面10Aが清浄化される。より詳細に説明すると、たとえばマグネトロンRF(Radio Frequency)装置を用いて、水素雰囲気中、周波数13.56MHz、電力500mWの条件で60秒間保持する、あるいはマイクロ波装置を用いて、水素雰囲気中、圧力40Torr、周波数2.45GHzまたは915MHz、電力200mWの条件で5秒間保持することにより、水素プラズマ処理を実施することができる。なお、上記水素プラズマ処理に代えて、水素ガス以外を用いた還元雰囲気中で、同様に高周波やマイクロ波等を印加することにより、GaN原料基板10の一方の主面10Aを清浄化してもよい。また、水素プラズマ処理により表面が水素終端構造となっているかどうかは、たとえば当該表面をXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光)、AFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)などにより解析して確認することができる。
【0037】
次に、図5を参照して、原料基板の主面にベース基板を貼り付けるベース基板貼り付け工程が実施される。具体的には、GaN原料基板10および金属基板2の互いに貼り付けられるべき面の少なくとも一方に水を付着させた後、両者を接触させることにより、GaN原料基板10の主面10Aに金属基板2が貼り付けられる。なお、水を付着させる前に、当該面を界面活性剤により洗浄してもよい。
【0038】
次に、図5を参照して、GaN原料基板の内部に集光するレーザ光を、基板の劈開面に交差する方向からGaN原料基板に照射し、劈開面に沿う方向に走査するレーザ光照射工程が実施される。具体的には、図6を参照して、まず、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10が、レーザ光照射装置3にセットされる。レーザ光照射装置3は、高精度ステッピングモータにより駆動されることにより、X軸方向およびX軸方向に直交する方向であるY軸方向(図6において紙面に垂直な方向)に移動可能なステージ31と、ステージ31に対向する位置に配置される集光レンズ33と、集光レンズ33を含む光学系を介してステージ31上にレーザ光40を照射可能な光源45とを備えている。集光レンズ33および光源45は、X軸方向およびY軸方向に直交する方向であるZ方向に移動可能である。
【0039】
レーザ光照射工程においては、まず、ステージ31上に透明石英からなる石英板32が載置される。石英板32上には、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10が、金属基板2が貼り付けられた側とは反対側の主面10Aが集光レンズ33に対向するように載置される。集光レンズ33に対向するGaN原料基板10の主面10Aは、(0001)面である。次に、光源45から出射されたレーザ光40がGaN原料基板10の内部の劈開面11に集光するように、GaN原料基板10の劈開面11に交差する方向からGaN原料基板10に対して照射され、走査される。これにより、GaN原料基板10の劈開面11に沿って、照射影響層41が形成される。照射影響層41は、上記レーザ光40の照射により形成される他の領域よりも脆弱な領域であって、たとえば多数の微小なクラックが形成された領域である。
【0040】
また、本実施の形態においては、レーザ光40は所定の繰り返し周波数、たとえば10Hz以上100MHz以下の繰り返し周波数で照射されている。そして、図6を参照して、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10および石英板32が載置されたステージ31は、X軸方向およびY軸方向(図6において紙面に垂直な方向)に、劈開面11におけるレーザ光40のスポット径よりも大きい距離を、照射の繰り返し周波数の逆数に相当する時間で移動する。そのため、図6に示すように、照射影響層41は、劈開面11に沿った方向に、複数個分離して形成される。なお、照射影響層41は、ステージ31を上記繰返し周波数の逆数に相当する時間に上記スポット径と同等以下の距離だけ移動させることにより、部分的に重なるように複数個形成されてもよい。
【0041】
ここで、GaN原料基板10に対するレーザ光40の照射は、平面的に見て、図7に示すように、照射影響層41が格子状に並ぶように行われてもよいし、図8に示すように、同心円状に並ぶように行われてもよい。また、劈開面11としては、図9に示すように、GaN原料基板10の主面10Aに平行な面、すなわち分極性面である(0001)面が選択されてもよいし、図10に示すように、主面10Aに交差する面、たとえば(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面などの半極性面や(11−20)面などの無極性面が選択されてもよい。主面10Aに交差する面が劈開面11として選択される場合、たとえば上記ステージ31の移動とともに、集光レンズ33を含む光学系がZ軸方向に移動することにより、所望の劈開面11に沿う方向にレーザ光40が走査される。
【0042】
次に、図5を参照して、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10の主面に、平行平板形状を有する支持板、たとえばアルミナなどのセラミックス、ガラス、Si、金属などからなる支持板を貼り付ける支持板貼付工程が実施される。具体的には、たとえば図11を参照して、上記レーザ光照射工程が実施されたGaN原料基板10の金属基板2とは反対側の主面10A、および金属基板2のGaN原料基板10とは反対側の主面2Aのそれぞれに、支持板50が貼り付けられる。この場合、たとえば吸着用の穴が形成された支持板50上に金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10を載置し、当該穴の内部を減圧することにより支持板50を、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10に吸着させる方法(真空吸着)を採用することができる。
【0043】
次に、図5を参照して、レーザ光40が照射されたGaN原料基板10を劈開面11に沿う面において分離する劈開分離工程が実施される。具体的には、図11を参照して、上述の2枚の支持板50に対し、劈開面11に平行で互いに反対向き(矢印αの向き)の力が付与される。これにより、複数の照射影響層41が形成された劈開面11に沿う面に剪断力が作用する。そして、隣接する領域に比べて脆弱な領域である照射影響層41に沿ってGaN原料基板10は、容易に劈開して分離される。つまり、GaN原料基板10は、照射影響層41を含む領域において、劈開して分離される。その結果、図9に示すように劈開面11として(0001)面が選択された場合、図12に示すように、分極性面である(0001)面を金属基板2とは反対側の主面とするGaN層1が、金属基板2に貼り付けられた状態でGaN原料基板10から分離される。
【0044】
次に、図5を参照して、金属基板2が貼り付けられたGaN層1(GaN層1と金属基板2との接合体)から支持板50を分離する支持板分離工程が実施される。具体的には、上記接合体に貼り付けられている支持板50が、たとえば真空吸着が停止されることにより、当該接合体から分離される。これにより、本実施の形態における基板としての複合基板9が得られる。一方、GaN原料基板10も同様に、支持板50から分離される。分離されたGaN原料基板10は、GaN層1の原料として、上記実施の形態における基板の製造方法において再度利用することができる。以上の工程により、本実施の形態における基板としての複合基板9が完成する。
【0045】
ここで、レーザ光40のパルス幅は、GaN原料基板10の劈開面11に沿った領域以外の領域に損傷を与えることを抑制するため、10fs以上500ps以下とすることが好ましく、30fs以上500fs以下とすることが特に好ましい。また、劈開面11に沿った領域に適切な照射影響層41を形成するためには、劈開面11におけるレーザ光40のエネルギー密度が10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下であることが好ましく、0.1mJ/cm2以上1mJ/cm2以下であることが、特に好ましい。
【0046】
上記本実施の形態における製造方法により製造された複合基板9のGaN層1は、レーザ光40が照射されることによりGaN原料基板10の劈開面11に沿って複数の照射影響層41が形成された上で、劈開により分離されて作製されている。その結果、図2を参照して、GaN層1の主面には、複数の平坦部111およびステップ112が形成される。そのため、GaN層1に対してひずみの原因となる機械加工等の新たな加工を実施することなく、GaN層1上に、容易に、良質なエピタキシャル層を形成することが可能となっている。
【0047】
また、上述のように、上記平坦部111およびステップ112は、照射影響層41の形成に対応して形成される。そのため、照射影響層41を劈開面11の全域にわたって周期的に形成することにより、この平坦部111およびステップ112を、GaN層1の主面全域に、周期的に形成することができる。これにより、主面上において安定したエピタキシャル成長が可能なGaN層1を備えた複合基板9を提供することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施の形態における複合基板9のGaN層1は、上述のようにGaN原料基板10を劈開させることにより分割して作製される。そのため、ワイヤーソーなどを用いたスライスが必要ないため、原料基板の損失が大幅に低減され、製造コストが抑制されている。
【0049】
さらに、近年、分極性面である(0001)面を主面とするGaN基板上に発光層をエピタキシャル成長させた半導体発光素子においては、GaN基板の極性に起因して発光素子の出力が低下するという問題が指摘されている。そのため、半導体発光素子に使用されるGaN基板に対しては、分極性面である(0001)面以外の面、たとえば半極性面である(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面、無極性面である(11−20)面などを主面とすることが要求される場合がある。この要求に応えるためには、たとえば、作製の容易な(0001)面を主面とするGaN原料基板を作製した上で、機械加工により所望の面を主面とするGaN基板を製造する必要がある。しかし、この場合、機械加工による原料基板の損失が大きく、製造コストが大幅に上昇するという問題が生じる。これに対し、上記本実施の形態における基板の製造方法では、所望の劈開面に対してレーザ光を照射し、走査することにより、原料基板の損失を抑制しつつ、所望の面を主面とするGaN層1を備えた複合基板9を製造することができる。その結果、本実施の形態における複合基板9によれば、所望の面を主面とする直径2インチ以上の半導体発光素子用のGaN層を備えた複合基板を安価に提供することができる。
【0050】
以上のように、本実施の形態における基板の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した複合基板9(図1および図2参照)を製造することができる。
【0051】
さらに、図5を参照して、本実施の形態においては、基板の半導体層上にエピタキシャル層が形成されるエピタキシャル成長工程が実施される。具体的には、図3および図4を参照して、複合基板9のGaN層1上に、GaNをエピタキシャル成長させることにより、GaNエピタキシャル層7が形成される。これにより、本実施の形態の変形例における基板であるエピタキシャル層付き複合基板91が完成する。
【0052】
上述のように、上記複合基板9のGaN層1はひずみが低減されている。そのため、当該GaN層1上にエピタキシャル層を成長させて作製されたエピタキシャル層付き複合基板91は、良質なGaNエピタキシャル層7を備えた基板となっている。
【0053】
次に、本実施の形態における基板の製造方法の変形例について説明する。図13は、実施の形態1の基板の製造方法の変形例における原料基板準備工程を説明するための概略断面図である。また、図14は、実施の形態1における基板の製造方法の変形例におけるベース基板貼付工程およびレーザ準備工程を説明するための概略断面図である。
【0054】
本実施の形態における基板の製造方法の変形例は、上記本実施の形態における基板の製造方法と、基本的には同様に実施される。しかし、原料基板準備工程において準備される原料基板が上記実施の形態とは異なっており、これに対応して製造される基板において相違点を有している。
【0055】
すなわち、図5を参照して、本変形例における基板の製造方法の原料基板準備工程においては、図13に示すように、GaNからなる下地基板としてのGaN下地基板101と、GaN下地基板101上にエピタキシャル成長により形成されたGaNからなるエピタキシャル成長領域としてのGaNエピタキシャル成長領域102とを備えたGaN原料基板10が準備される。
【0056】
次に、図5を参照して、上記実施の形態と同様に水素プラズマ処理工程が実施された後、ベース基板貼付工程およびレーザ光照射工程が実施される。ベース基板貼付工程においては、図14を参照して、GaN下地基板101とは反対側のGaNエピタキシャル成長領域102の主面に、金属基板2が貼り付けられる。そして、レーザ光照射工程では、GaN原料基板10の内部に集光するレーザ光が、劈開面11に交差する方向からGaN原料基板10に照射され、劈開面11に沿う方向に走査される。このとき、GaN下地基板101の内部の劈開面11Aに沿って、レーザ光が走査されてもよいし、GaNエピタキシャル成長領域102の内部の劈開面11Bに沿ってレーザ光が走査されてもよい。
【0057】
これにより、図1を参照して、本変形例の製造方法により製造される複合基板9のGaN層1は、GaNエピタキシャル成長領域102またはGaNエピタキシャル成長領域102上にGaN下地基板101が配置された構成となる。そして、分離されたGaN下地基板101は、GaN下地基板101上に再度所望のエピタキシャル成長領域を形成することにより、再度GaN原料基板10として、本変形例の基板の製造方法に使用することができる。また、上述のように、半導体であるGaNからなる下地基板としてのGaN下地基板101上に、同種材料であるGaNからなるGaNエピタキシャル成長領域102を形成することにより、本変形例において製造される複合基板9のGaN層1を欠陥が少なく、結晶性の高い良質な層とすることができる。
【0058】
さらに、原料基板準備工程において準備されるGaN原料基板10では、GaN下地基板101上に形成されるエピタキシャル成長領域は、必ずしもGaNである必要はなく、GaNに格子定数の近い材料、たとえばAlGaN、InGaNなどであってもよい。また、GaN下地基板101上に形成されるエピタキシャル成長領域は必ずしも一層である必要はなく、複数層であってもよい。具体的には、エピタキシャル成長領域は、たとえば半導体発光素子のクラッド層や多重量子井戸(MQW;Multi Quantum Well)層などを含む複数層とすることができる。
【0059】
以上のように、本変形例における基板の製造方法によれば、下地基板としてのGaN下地基板101上に所望のエピタキシャル層を形成して当該エピタキシャル層とベース基板とを備えた複合基板を製造可能であるとともに、高価なGaN下地基板101の再利用を繰り返すことができる。その結果、本変形例における基板の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板を製造することができる。
【0060】
(実施の形態2)
以下、本発明の一実施の形態である実施の形態2における基板の製造方法について説明する。図15は、実施の形態2におけるレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。
【0061】
実施の形態2における基板の製造方法は、基本的には上述した実施の形態1における基板の製造方法と同様に実施される。しかし、図5を参照して、実施の形態2における基板の製造方法は、レーザ光照射工程において、実施の形態1とは異なっている。すなわち、図15を参照して、実施の形態2におけるレーザ光照射装置3は、集光レンズ33により集光されたレーザ光40が直接被照射物であるGaN原料基板10に照射される構成ではなく、レーザ光40の光路において、集光レンズ33と被照射物であるGaN原料基板10との間にガルバノミラー60が配置されている点において、実施の形態1におけるレーザ光照射装置3とは異なっている。つまり、集光レンズ33により集光されたレーザ光40は、ガルバノミラー60により反射された後、GaN原料基板10に対して照射される。
【0062】
そして、実施の形態2におけるレーザ光照射工程においては、GaN原料基板10に対してレーザ光40を走査させるために、X軸方向およびY軸方向の両方にステージ31が移動する実施の形態1の構成とは異なり、ステージ31はX軸方向にのみ移動し、Y軸方向には移動しない。一方、反射部材としてのガルバノミラー60が回動することにより、GaN原料基板10に対してレーザ光40が走査される。つまり、本実施の形態におけるレーザ光照射工程においては、レーザ光40は、回動する反射部材に反射することによりGaN原料基板10に対して走査される。
【0063】
より具体的に本実施の形態におけるレーザ光照射工程を説明すると、まず、ステージ31が固定された状態でレーザ光40がGaN原料基板10に照射され、ガルバノミラー60が回動することにより当該レーザ光40はY軸方向に走査される。Y軸方向の走査が完了すると、ステージ31がX軸方向に所望の距離だけ移動してレーザ光40がGaN原料基板10に照射され、ガルバノミラー60が回動することにより当該レーザ光40がY軸方向に走査される。これを繰返すことにより、本実施の形態におけるレーザ光照射工程は実施される。
【0064】
本実施の形態のように、レーザ光40の走査にガルバノミラー60などの反射部材による反射を利用することにより、高速な走査が可能となり、複合基板9の生産効率が向上する。なお、本実施の形態においては、Y軸方向にのみガルバノミラーによる走査が行なわれる場合について説明したが、たとえばX軸方向およびY軸方向の両方にガルバノミラーによる走査が行われてもよい。これにより、複合基板9の生産効率を一層向上させることが可能となる。この場合、レーザ光照射装置3においては、複数(2つ)のガルバノミラーが採用されてもよい。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の基板の製造方法により複合基板が製造可能であることを確認する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0066】
まず、(0001)面を主面とする直径φ50mm、厚みt3mmの円盤状のGaN基板を原料基板(サンプル)として準備した。サンプルは、N2(窒素)ガス、NH3(アンモニア)ガス、HCl(塩化水素)ガスおよびTMG(トリメチルガリウム)ガスを用いたHVPE法により作製した。そして、当該サンプルに対して、上記実施の形態1における基板の製造方法のうち水素プラズマ処理工程およびベース基板貼付工程を省略し、レーザ光照射工程、支持板貼付工程および劈開分離工程と同様の工程を実施した。劈開面としては両側の主面からの距離が等しい位置の(0001)面を採用した。また、レーザ光には、パルス幅、劈開面におけるエネルギー密度、波長などが異なる3種類のレーザを採用した(実施例A〜C)。また、上記実施の形態2における基板の製造方法のうち水素プラズマ処理工程およびベース基板貼付工程を省略し、レーザ光照射工程、支持板貼付工程および劈開分離工程と同様の工程も上記サンプルに対して実施した(実施例D)。試験条件の詳細および試験結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
次に、試験結果について説明する。上記試験条件により厚み方向におけるサンプルの劈開による2等分を試みたところ、いずれの場合においても成功した。このことから、本発明の基板の製造方法によれば、原料基板から半導体層となるべき領域を分離する際の、原料基板の損失を抑制した基板の製造方法を提供可能であることが確認された。ただし、パルス幅:10fs以上500ps以下、劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度:10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下の範囲外である実施例BおよびCにおいては、劈開面以外の領域、具体的には劈開面から見てレーザ光が入射する側の領域に損傷(照射影響層)が発生していた。これに対し、パルス幅およびエネルギー密度が上記範囲内である実施例AおよびDにおいては、劈開面以外の領域に損傷は発見されなかった。このことから、パルス幅およびエネルギー密度は上記範囲とすることが好ましいことが確認される。
【0069】
さらに、上記実施の形態1と同様に実施された実施例A〜Cにおけるレーザ光照射工程は、60分間を要したのに対し、上記実施の形態2と同様に実施された、すなわちガルバノミラーを用いてY軸方向の走査を行なった実施例Dにおけるレーザ光照射工程は、2分間で完了した。このことから、レーザ光が回動する反射部材に反射することによって原料基板に対して走査されるレーザ光照射工程が採用されることにより、基板の生産効率を向上させることが可能であるといえる。
【0070】
なお、上記実施の形態および実施例においては、本発明の基板およびその製造方法における基板として、半導体層を構成する半導体がGaNである場合について説明したが、本発明の基板およびその製造方法はこれに限られない。本発明の基板およびその製造方法における半導体層を構成する半導体は、劈開面を有する、すなわち結晶性を有する半導体であればよく、GaNのほか種々の半導体、たとえばダイヤモンド、AlN、TiN、AlGaN、InN、InGaNなどであってもよい。
【0071】
また、本発明のベース層(ベース基板)を構成する素材としては、たとえばAl(アルミニウム)、Ag(銀)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、二酸化珪素(SiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、C(炭素)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ガドリニウムガリウムガーネット(Gd3Ga5O12)、ガリウム砒素(GaAs)、Si(珪素)などを採用することができる。特に、ベース層(ベース基板)の素材がGaNである場合、Mo、Si、Cuなどが好ましく、ベース層の素材がダイヤモンドである場合、Si、SiC、Si3N4、Cu、Moなどが好ましい。
【0072】
さらに、上記実施の形態および実施例においては、劈開分離工程において、劈開面に平行な方向に互いに反対向きの力が負荷される場合について説明したが、劈開面に交差する方向、たとえば劈開面に垂直に互いに反対向きの力が負荷されて劈開分離工程が実施されてもよい。さらに、劈開分離工程は、急激な加熱または冷却、たとえばレーザ光照射工程が実施された原料基板の一部が液体窒素に浸漬されることにより、劈開面にひずみが付与されて実施されてもよい。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の基板およびその製造方法は、ベース層とベース層上に接触して形成された半導体層とを備えた複合基板およびその製造方法に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施の形態1における基板の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の基板における半導体層の表面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図3】実施の形態1の変形例における基板の構成を示す概略断面図である。
【図4】図3の基板における半導体層とピタキシャル層との界面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図5】実施の形態1における基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図6】図6は、図5のベース基板貼付工程およびレーザ光照射工程を説明するための概略断面図である。
【図7】図5のレーザ光照射工程を説明するための概略平面図である。
【図8】図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略平面図である。
【図9】図5のレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。
【図10】図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略斜視図である。
【図11】図5の支持板貼付工程および劈開分離工程を説明するための概略断面図である。
【図12】図5の支持板貼付工程および劈開分離工程を説明するための概略断面図である。
【図13】実施の形態1の基板の製造方法の変形例における原料基板準備工程を説明するための概略断面図である。
【図14】実施の形態1における基板の製造方法の変形例におけるベース基板貼付工程およびレーザ準備工程を説明するための概略断面図である。
【図15】実施の形態2におけるレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
1 GaN層、2 金属基板、2A 主面、3 レーザ光照射装置、7 エピタキシャル層、9 複合基板、91 エピタキシャル層付き複合基板、10 GaN原料基板、10A 主面、101 下地基板、102 エピタキシャル成長領域、11 主面(劈開面)、11A,11B 劈開面、111 平坦部、112 ステップ、31 ステージ、32 石英板、33 集光レンズ、40 レーザ光、41 照射影響層、45 光源、50 支持板、60 ガルバノミラー。
【技術分野】
【0001】
本発明は基板およびその製造方法に関し、より特定的には、ベース層とベース層上に接触して形成された半導体層とを備えた複合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高性能化の要求に対して、半導体装置の製造にGaN(窒化ガリウム)、InN(窒化インジウム)、BN(窒化硼素)、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)、InGaN(窒化インジウムガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、ダイヤモンドなどの基板を用いることが検討されている。一方、半導体装置の普及に伴い、半導体装置の製造に用いられる基板に対しては、低コスト化の要求がある。
【0003】
上記GaN、InN、BN、AlGaN、InGaN、AlN、ダイヤモンドなどの基板の製造においては、たとえば、まず比較的大きな厚みを有する原料基板が作製された後、当該原料基板がワイヤーソーなどによりスライスされ、厚み方向に分離する工程が採用される。そして、上記原料基板をスライスする工程は、基板の製造コストや基板の品質に大きな影響を与える。そのため、原料基板をスライスする工程については種々の検討が行なわれ、多くの提案がなされている(たとえば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】石川憲一、「スライシング加工技術の現状と展望」、精密工学会誌、社団法人精密工学会、1994年、Vol.60、No.2、p163−167
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されたスライス方法を含め、従来のワイヤーソーを用いたスライス方法では、ワイヤーの太さに取りしろを加えた厚みの原料基板が、分離の際に失われる。上記GaN、InN、BN、AlGaN、InGaN、AlN、ダイヤモンドなどの基板は非常に高価であるため、このような損失は製造コストの大幅な上昇を招来する。一方、ワイヤーソーによる切断に代えて、一般的なレーザを使用して原料基板を切断することも可能であるが、切断面の周辺に熱ひずみや熱ダレが発生し、大きな切断しろが必要になったり、原料基板の深さ方向に光が侵入しにくくなって切断不能となったりするという問題がある。特に、ダイヤモンド等の透明基板では、このようなダレによる取りしろの増加が大きな問題である。
【0005】
これに対し、基板の厚みを小さくすることにより、製造コストを低減する対策が有効であるとも考えられる。しかし、基板を用いた半導体装置の製造工程において、自立体として取り扱い可能な基板(自立基板)であるためには、一般に厚みが300μm以上必要である。そのため、単に厚みを小さくすることによる低コスト化には限界がある。さらに、上記半導体の層を、比較的安価で、かつ当該半導体と少なくともある程度格子整合するベース基板上に薄くエピタキシャル成長させることにより、高価な半導体の領域を減少させてコストを低減するとともに、取り扱いの容易な基板とすることも可能である。しかし、ベース基板と半導体の層とが異種材料である限り、両者が完全に格子整合するものではないため、半導体の層内にひずみが導入される。そして、このひずみは、当該基板を用いて作製される半導体装置の性能に悪影響を与えるという問題を招来する。このように、従来の基板では、製造コストの低減と、ひずみの低減とを同時に達成することは困難であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った基板は、ベース層と、ベース層上に接触して形成された半導体層とを備えている。そして、ベース層とは反対側の半導体層の主面は、劈開面となっている。さらに、ベース層と半導体層とは格子整合していない。
【0008】
本発明の基板においては、ベース層上に半導体層が接触して形成されている。そのため、ベース層に比較的安価な材料を採用し、かつ半導体層を薄く形成することにより、製造コストを抑制することができる。また、本発明の基板においては、ベース層とは反対側の半導体層の主面が劈開面となっている。これにより、半導体層を、半導体からなる原料基板を劈開させて形成することが可能となる。その結果、原料基板から半導体層を分離する際の原料基板の損失が抑制され、製造コストを一層抑制することができる。さらに、本発明の基板においては、ベース層と半導体層とが格子整合していない。つまり、本発明の基板においては、半導体層は、ベース層上にエピタキシャル成長された層ではない。たとえば、ベース層と半導体層とは、それぞれ別個に形成された後、互いに接合されている。そのため、ベース層と半導体層との不完全な格子整合に起因して生じる半導体層内のひずみが低減される。以上のように、本発明の基板によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板を提供することができる。
【0009】
上記基板においては、半導体層上に形成されたエピタキシャル層をさらに備えていてもよい。上述のように、上記基板の半導体層はひずみが低減されている。そのため、当該半導体層上にエピタキシャル層を形成することにより、良質なエピタキシャル層を備えた基板を提供することができる。
【0010】
本発明に従った基板の製造方法は、原料基板を準備する工程と、原料基板の少なくとも一方の主面にベース基板を貼り付ける工程と、ベース基板が貼り付けられた原料基板の内部に集光するレーザ光を、原料基板の劈開面に交差する方向から原料基板に照射し、劈開面に沿う方向に走査する工程と、レーザ光が照射された原料基板を劈開面に沿う面において分離する工程とを備えている。
【0011】
本発明の基板の製造方法では、準備された原料基板の主面にベース基板が貼り付けられた後、原料基板の内部の劈開面に対してレーザ光が集光照射され、当該劈開面に沿う方向に走査される。これにより、レーザ光が照射された劈開面に沿って照射影響層が形成される。この照射影響層は、たとえば劈開分離面が形成された領域となっており、原料基板を部分的に分離する領域、あるいは周囲の領域に比べて脆弱な領域となっている。そして、たとえば上記照射影響層に対して剪断力が負荷されることにより、原料基板が当該劈開面に沿う面(照射影響層に沿う面)において分離される。
【0012】
本発明の基板の製造方法においては、レーザ光を照射することにより原料基板の内部の劈開面に沿って照射影響層が形成される。そして、この照射影響層に沿って原料基板の一部がベース基板と貼り付けられた状態で分離される。そのため、原料基板の形状に関わらず、劈開面である限り、任意の面方位を有する半導体層を、原料基板の損失を抑制しつつベース基板上に形成することができる。また、本発明の基板の製造方法においては、原料基板の厚みが小さい場合であっても、原料基板を容易に厚み方向に分離することができる。そのため、厚みの小さい原料基板から、効率よく基板を製造することができる。さらに、製造された基板は、ベース層を構成するベース基板上に原料基板から分離された半導体層が形成された構成となっている。そのため、当該ベース層と半導体層とは、格子整合していない。その結果、ベース層と半導体層との不完全な格子整合に起因して生じる半導体層内のひずみが低減されている。
【0013】
より具体的に説明すると、たとえば、GaNなどの六方晶系の基板を製造する場合、まず、格子欠陥の少ない良質な結晶を作製することが容易な[0001]軸(c軸)方向にHVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy;ハイドライド気相成長法)などにより結晶を成長させ(いわゆるC面成長)、原料基板を作製する。この原料基板にベース基板を貼り付けた後、原料基板の劈開面である面、たとえば分極性面である(0001)面(いわゆるC面)、半極性面である(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面、無極性面である(11−20)面(いわゆるA面)など所望の面に対してレーザ光を照射し、走査する。このとき、後工程において原料基板を分離するための領域以外の領域に照射影響層、たとえばクラックの形成された層が形成されないように、またレーザの照射により原料基板に溶融領域が形成されないように、たとえばパルス幅やエネルギー密度を調整しつつ、レーザ光を原料基板に対して照射する。そして、レーザ光が照射された劈開面に沿う面において原料基板を劈開させることにより、ベース基板とは反対側の主面が劈開面となっており、かつ当該主面が所望の面方位を有する半導体層を備えた基板を製造することができる。
【0014】
このとき、上述のように、原料基板に溶融領域が形成されることなく、原料基板が劈開により分離されるため、分離に際して生じる原料基板の損失が抑制される。また、上述のように、所望の劈開面にレーザ光を照射して走査することにより、作製の容易な[0001]方向に成長させた原料基板から、ベース基板とは反対側の主面が所望の面方位を有する半導体層を容易に分離することができる。さらに、レーザ光を劈開面に交差する方向から原料基板に照射して上記分離を実施することにより、厚みの小さい原料基板を厚み方向に容易に分離し、効率よく多数の基板を製造することができる。また、製造された基板においては、ベース層と半導体層とは貼り合わされて結合しているため、ベース層と半導体層とは、格子整合していない。その結果、半導体層内のひずみが低減されている。
【0015】
以上のように、本発明の基板の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板を製造することができる。
【0016】
上記基板の製造方法においては、上記劈開面に沿う面上に、半導体からなる層をエピタキシャル成長させる工程をさらに備えていてもよい。
【0017】
上述のように、上記基板の製造方法においては、上記半導体層内のひずみが低減されている。そのため、当該半導体層の上記劈開面に沿う面上に半導体からなる層をさらにエピタキシャル成長させることで、良質なエピタキシャル層を備えた基板を製造することができる。
【0018】
上記基板の製造方法において好ましくは、上記レーザ光のパルス幅は10fs以上500ps以下であり、上記劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度は10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下である。
【0019】
原料基板の温度上昇を抑制して原料基板の溶融等を回避するしつつ、容易に原料基板の所望の劈開面に沿って照射影響層を形成するためには、パルス幅が500ps(ピコ秒)以下の短パルスレーザが採用されることが好ましい。一方、レーザの安定性および出力の観点から、10fs(フェムト秒)以上のパルス幅を有するレーザ光が採用されることが好ましい。また、原料基板を容易に分離可能な照射影響層を形成するためには、上記劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度は、10−7mJ/cm2以上であることが好ましい。一方、上記劈開面において原料基板を溶融させないこと、レーザ光を集光するためのレンズの耐久性等を考慮すると、上記劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度は、10mJ/cm2以下であることが好ましい。
【0020】
上記基板の製造方法において好ましくは、ベース基板を貼り付ける工程よりも前に、上記少なくとも一方の主面を水素プラズマ処理する工程をさらに備えている。
【0021】
ベース基板が貼り付けられる原料基板の主面が水素プラズマ処理されることにより、当該主面(表面)が清浄化される。より具体的には、たとえば上記少なくとも一方の主面(表面)が水素終端構造をとることにより当該主面(表面)に存在する酸素が低減され、表面の清浄性が著しく向上する。その結果、その後に実施されるベース基板の貼り付けが容易となる。
【0022】
本発明に従った基板は、上記本発明の基板の製造方法により製造されている。本発明の基板は、上記本発明の基板の製造方法により製造されているため、製造コストが抑制されつつ、ひずみが低減された基板となっている。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から明らかなように、本発明の基板およびその製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0025】
(実施の形態1)
以下、本発明の一実施の形態である実施の形態1における基板について説明する。図1は、実施の形態1における基板の構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の基板における半導体層の表面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【0026】
図1を参照して、実施の形態1における基板としての複合基板9は、ベース層としての金属基板2と、金属基板2上に接触して形成され、金属基板2よりも厚みの小さい半導体層としてのGaN層1とを備えている。金属基板2とGaN層1とは、たとえばファンデルワールス力により接合されており、両者は格子整合していない。
【0027】
さらに、金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11は、劈開面となっている。より具体的には、図2を参照して、金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11は、劈開により形成された面である劈開面であることにより、複数の平坦部111およびステップ112が形成されている。この平坦部111とステップ112との間には、1nm以上3000nm以下程度の高さを有する段差が形成されている。
【0028】
ここで、一般に、主面上に結晶をエピタキシャル成長させることにより半導体層(エピタキシャル層)を形成し、半導体装置を製造するために使用される基板においては、結晶性が高く、良質なエピタキシャル層を容易に形成するため、その主面には微小な凹凸(ステップ)が形成されていることが望ましい。そして、ステップを有する主面を形成するため、従来、所定の結晶面に対して僅かに傾斜した(微小なオフ角を有する)主面を形成する対策が採用されている。より具体的に説明すると、たとえば分極性面である(0001)面を主面とする基板を作製したい場合、主面が(0001)面となるように作製された基板に対して、研磨などの機械加工が実施される。これにより、主面が(0001)面に対して僅かに傾斜し、主面に8°以下の僅かなオフ角が付与される。
【0029】
これに対し、図1および図2を参照して、本実施の形態における複合基板9においては、劈開面であるGaN層1の主面11に、劈開により形成された微小な凸部または凹部としてのステップ112が形成されている。そのため、ステップを形成するために、新たに研磨などの機械加工を実施する必要がない。その結果、GaN層1は、研磨などの機械加工によるひずみが低減された半導体層となっている。
【0030】
図3は、実施の形態1の変形例における基板の構成を示す概略断面図である。また、図4は、図3の基板における半導体層とピタキシャル層との界面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【0031】
図3および図4を参照して、実施の形態1の変形例における基板としてのエピタキシャル層付き複合基板91は、図1および図2に基づいて説明した上記複合基板9のGaN層1上に、エピタキシャル成長により形成されたGaNからなるエピタキシャル層7が配置されている。上述のように、ひずみが低減された半導体層であるGaN層1上にエピタキシャル成長することにより、エピタキシャル層7は、欠陥やひずみの少ない良質の半導体層となっている。
【0032】
また、本実施の形態の基板としての複合基板9およびエピタキシャル層付き複合基板91のGaN層1においては、上述のように金属基板2とは反対側のGaN層1の主面11が劈開面となっている。そのため、GaN層1の形成においてワイヤーソーなどを用いたスライスが必要ないため、原料基板の損失が大幅に低減され、製造コストが抑制されている。さらに、本実施の形態における複合基板9およびエピタキシャル層付き複合基板91においては、原料基板の劈開を利用してGaN層1を形成可能であるため、ダイシングなどの機械加工による大きなひずみをGaN層1に導入することなくGaN層1を形成することができる。その結果、ひずみに起因するGaN層1の反りにより、金属基板2との接合が不十分となる等の問題が抑制されている。
【0033】
以上のように、本実施の形態における基板としての複合基板9およびエピタキシャル層付き複合基板91は、製造コストが抑制されつつ、ひずみが低減された基板となっている。
【0034】
次に、本発明の一実施の形態である実施の形態1における基板の製造方法について説明する。図5は、実施の形態1における基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図6は、図5のベース基板貼付工程およびレーザ光照射工程を説明するための概略断面図である。また、図7は、図5のレーザ光照射工程を説明するための概略平面図である。また、図8は、図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略平面図である。また、図9は、図5のレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。また、図10は、図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略斜視図である。また、図11および図12は、図5の支持板貼付工程および劈開分離工程を説明するための概略断面図である。
【0035】
図5を参照して、本実施の形態における基板の製造方法においては、まず、原料基板を準備する原料基板準備工程が実施される。具体的には、図6を参照して、5mm以上150mm以下程度の直径、1mm以上100mm以下程度の厚みを有するGaN原料基板10が、たとえばHVPE法により作製される。ここで、GaN原料基板10は、(0001)面を主面10Aとして作製される。
【0036】
次に、図5を参照して、GaN原料基板の主面を水素プラズマ処理する水素プラズマ処理工程が実施される。具体的には、図6を参照して、GaN原料基板10が、温度0℃以上400℃以下程度、圧力0.001Torr以上大気圧以下程度の水素ガスを含み、高周波またはマイクロ波等の電圧が印加された雰囲気中で、0.1秒以上600秒以下程度保持されることにより、一方の主面10A(後工程において金属基板2と接合される側の主面10A)が水素プラズマ処理される。その結果、当該一方の主面10Aに存在する酸素等が除去され、主面10Aが清浄化される。より詳細に説明すると、たとえばマグネトロンRF(Radio Frequency)装置を用いて、水素雰囲気中、周波数13.56MHz、電力500mWの条件で60秒間保持する、あるいはマイクロ波装置を用いて、水素雰囲気中、圧力40Torr、周波数2.45GHzまたは915MHz、電力200mWの条件で5秒間保持することにより、水素プラズマ処理を実施することができる。なお、上記水素プラズマ処理に代えて、水素ガス以外を用いた還元雰囲気中で、同様に高周波やマイクロ波等を印加することにより、GaN原料基板10の一方の主面10Aを清浄化してもよい。また、水素プラズマ処理により表面が水素終端構造となっているかどうかは、たとえば当該表面をXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光)、AFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)などにより解析して確認することができる。
【0037】
次に、図5を参照して、原料基板の主面にベース基板を貼り付けるベース基板貼り付け工程が実施される。具体的には、GaN原料基板10および金属基板2の互いに貼り付けられるべき面の少なくとも一方に水を付着させた後、両者を接触させることにより、GaN原料基板10の主面10Aに金属基板2が貼り付けられる。なお、水を付着させる前に、当該面を界面活性剤により洗浄してもよい。
【0038】
次に、図5を参照して、GaN原料基板の内部に集光するレーザ光を、基板の劈開面に交差する方向からGaN原料基板に照射し、劈開面に沿う方向に走査するレーザ光照射工程が実施される。具体的には、図6を参照して、まず、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10が、レーザ光照射装置3にセットされる。レーザ光照射装置3は、高精度ステッピングモータにより駆動されることにより、X軸方向およびX軸方向に直交する方向であるY軸方向(図6において紙面に垂直な方向)に移動可能なステージ31と、ステージ31に対向する位置に配置される集光レンズ33と、集光レンズ33を含む光学系を介してステージ31上にレーザ光40を照射可能な光源45とを備えている。集光レンズ33および光源45は、X軸方向およびY軸方向に直交する方向であるZ方向に移動可能である。
【0039】
レーザ光照射工程においては、まず、ステージ31上に透明石英からなる石英板32が載置される。石英板32上には、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10が、金属基板2が貼り付けられた側とは反対側の主面10Aが集光レンズ33に対向するように載置される。集光レンズ33に対向するGaN原料基板10の主面10Aは、(0001)面である。次に、光源45から出射されたレーザ光40がGaN原料基板10の内部の劈開面11に集光するように、GaN原料基板10の劈開面11に交差する方向からGaN原料基板10に対して照射され、走査される。これにより、GaN原料基板10の劈開面11に沿って、照射影響層41が形成される。照射影響層41は、上記レーザ光40の照射により形成される他の領域よりも脆弱な領域であって、たとえば多数の微小なクラックが形成された領域である。
【0040】
また、本実施の形態においては、レーザ光40は所定の繰り返し周波数、たとえば10Hz以上100MHz以下の繰り返し周波数で照射されている。そして、図6を参照して、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10および石英板32が載置されたステージ31は、X軸方向およびY軸方向(図6において紙面に垂直な方向)に、劈開面11におけるレーザ光40のスポット径よりも大きい距離を、照射の繰り返し周波数の逆数に相当する時間で移動する。そのため、図6に示すように、照射影響層41は、劈開面11に沿った方向に、複数個分離して形成される。なお、照射影響層41は、ステージ31を上記繰返し周波数の逆数に相当する時間に上記スポット径と同等以下の距離だけ移動させることにより、部分的に重なるように複数個形成されてもよい。
【0041】
ここで、GaN原料基板10に対するレーザ光40の照射は、平面的に見て、図7に示すように、照射影響層41が格子状に並ぶように行われてもよいし、図8に示すように、同心円状に並ぶように行われてもよい。また、劈開面11としては、図9に示すように、GaN原料基板10の主面10Aに平行な面、すなわち分極性面である(0001)面が選択されてもよいし、図10に示すように、主面10Aに交差する面、たとえば(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面などの半極性面や(11−20)面などの無極性面が選択されてもよい。主面10Aに交差する面が劈開面11として選択される場合、たとえば上記ステージ31の移動とともに、集光レンズ33を含む光学系がZ軸方向に移動することにより、所望の劈開面11に沿う方向にレーザ光40が走査される。
【0042】
次に、図5を参照して、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10の主面に、平行平板形状を有する支持板、たとえばアルミナなどのセラミックス、ガラス、Si、金属などからなる支持板を貼り付ける支持板貼付工程が実施される。具体的には、たとえば図11を参照して、上記レーザ光照射工程が実施されたGaN原料基板10の金属基板2とは反対側の主面10A、および金属基板2のGaN原料基板10とは反対側の主面2Aのそれぞれに、支持板50が貼り付けられる。この場合、たとえば吸着用の穴が形成された支持板50上に金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10を載置し、当該穴の内部を減圧することにより支持板50を、金属基板2が貼り付けられたGaN原料基板10に吸着させる方法(真空吸着)を採用することができる。
【0043】
次に、図5を参照して、レーザ光40が照射されたGaN原料基板10を劈開面11に沿う面において分離する劈開分離工程が実施される。具体的には、図11を参照して、上述の2枚の支持板50に対し、劈開面11に平行で互いに反対向き(矢印αの向き)の力が付与される。これにより、複数の照射影響層41が形成された劈開面11に沿う面に剪断力が作用する。そして、隣接する領域に比べて脆弱な領域である照射影響層41に沿ってGaN原料基板10は、容易に劈開して分離される。つまり、GaN原料基板10は、照射影響層41を含む領域において、劈開して分離される。その結果、図9に示すように劈開面11として(0001)面が選択された場合、図12に示すように、分極性面である(0001)面を金属基板2とは反対側の主面とするGaN層1が、金属基板2に貼り付けられた状態でGaN原料基板10から分離される。
【0044】
次に、図5を参照して、金属基板2が貼り付けられたGaN層1(GaN層1と金属基板2との接合体)から支持板50を分離する支持板分離工程が実施される。具体的には、上記接合体に貼り付けられている支持板50が、たとえば真空吸着が停止されることにより、当該接合体から分離される。これにより、本実施の形態における基板としての複合基板9が得られる。一方、GaN原料基板10も同様に、支持板50から分離される。分離されたGaN原料基板10は、GaN層1の原料として、上記実施の形態における基板の製造方法において再度利用することができる。以上の工程により、本実施の形態における基板としての複合基板9が完成する。
【0045】
ここで、レーザ光40のパルス幅は、GaN原料基板10の劈開面11に沿った領域以外の領域に損傷を与えることを抑制するため、10fs以上500ps以下とすることが好ましく、30fs以上500fs以下とすることが特に好ましい。また、劈開面11に沿った領域に適切な照射影響層41を形成するためには、劈開面11におけるレーザ光40のエネルギー密度が10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下であることが好ましく、0.1mJ/cm2以上1mJ/cm2以下であることが、特に好ましい。
【0046】
上記本実施の形態における製造方法により製造された複合基板9のGaN層1は、レーザ光40が照射されることによりGaN原料基板10の劈開面11に沿って複数の照射影響層41が形成された上で、劈開により分離されて作製されている。その結果、図2を参照して、GaN層1の主面には、複数の平坦部111およびステップ112が形成される。そのため、GaN層1に対してひずみの原因となる機械加工等の新たな加工を実施することなく、GaN層1上に、容易に、良質なエピタキシャル層を形成することが可能となっている。
【0047】
また、上述のように、上記平坦部111およびステップ112は、照射影響層41の形成に対応して形成される。そのため、照射影響層41を劈開面11の全域にわたって周期的に形成することにより、この平坦部111およびステップ112を、GaN層1の主面全域に、周期的に形成することができる。これにより、主面上において安定したエピタキシャル成長が可能なGaN層1を備えた複合基板9を提供することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施の形態における複合基板9のGaN層1は、上述のようにGaN原料基板10を劈開させることにより分割して作製される。そのため、ワイヤーソーなどを用いたスライスが必要ないため、原料基板の損失が大幅に低減され、製造コストが抑制されている。
【0049】
さらに、近年、分極性面である(0001)面を主面とするGaN基板上に発光層をエピタキシャル成長させた半導体発光素子においては、GaN基板の極性に起因して発光素子の出力が低下するという問題が指摘されている。そのため、半導体発光素子に使用されるGaN基板に対しては、分極性面である(0001)面以外の面、たとえば半極性面である(10−1−3)面、(10−1−1)面、(11−22)面、無極性面である(11−20)面などを主面とすることが要求される場合がある。この要求に応えるためには、たとえば、作製の容易な(0001)面を主面とするGaN原料基板を作製した上で、機械加工により所望の面を主面とするGaN基板を製造する必要がある。しかし、この場合、機械加工による原料基板の損失が大きく、製造コストが大幅に上昇するという問題が生じる。これに対し、上記本実施の形態における基板の製造方法では、所望の劈開面に対してレーザ光を照射し、走査することにより、原料基板の損失を抑制しつつ、所望の面を主面とするGaN層1を備えた複合基板9を製造することができる。その結果、本実施の形態における複合基板9によれば、所望の面を主面とする直径2インチ以上の半導体発光素子用のGaN層を備えた複合基板を安価に提供することができる。
【0050】
以上のように、本実施の形態における基板の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した複合基板9(図1および図2参照)を製造することができる。
【0051】
さらに、図5を参照して、本実施の形態においては、基板の半導体層上にエピタキシャル層が形成されるエピタキシャル成長工程が実施される。具体的には、図3および図4を参照して、複合基板9のGaN層1上に、GaNをエピタキシャル成長させることにより、GaNエピタキシャル層7が形成される。これにより、本実施の形態の変形例における基板であるエピタキシャル層付き複合基板91が完成する。
【0052】
上述のように、上記複合基板9のGaN層1はひずみが低減されている。そのため、当該GaN層1上にエピタキシャル層を成長させて作製されたエピタキシャル層付き複合基板91は、良質なGaNエピタキシャル層7を備えた基板となっている。
【0053】
次に、本実施の形態における基板の製造方法の変形例について説明する。図13は、実施の形態1の基板の製造方法の変形例における原料基板準備工程を説明するための概略断面図である。また、図14は、実施の形態1における基板の製造方法の変形例におけるベース基板貼付工程およびレーザ準備工程を説明するための概略断面図である。
【0054】
本実施の形態における基板の製造方法の変形例は、上記本実施の形態における基板の製造方法と、基本的には同様に実施される。しかし、原料基板準備工程において準備される原料基板が上記実施の形態とは異なっており、これに対応して製造される基板において相違点を有している。
【0055】
すなわち、図5を参照して、本変形例における基板の製造方法の原料基板準備工程においては、図13に示すように、GaNからなる下地基板としてのGaN下地基板101と、GaN下地基板101上にエピタキシャル成長により形成されたGaNからなるエピタキシャル成長領域としてのGaNエピタキシャル成長領域102とを備えたGaN原料基板10が準備される。
【0056】
次に、図5を参照して、上記実施の形態と同様に水素プラズマ処理工程が実施された後、ベース基板貼付工程およびレーザ光照射工程が実施される。ベース基板貼付工程においては、図14を参照して、GaN下地基板101とは反対側のGaNエピタキシャル成長領域102の主面に、金属基板2が貼り付けられる。そして、レーザ光照射工程では、GaN原料基板10の内部に集光するレーザ光が、劈開面11に交差する方向からGaN原料基板10に照射され、劈開面11に沿う方向に走査される。このとき、GaN下地基板101の内部の劈開面11Aに沿って、レーザ光が走査されてもよいし、GaNエピタキシャル成長領域102の内部の劈開面11Bに沿ってレーザ光が走査されてもよい。
【0057】
これにより、図1を参照して、本変形例の製造方法により製造される複合基板9のGaN層1は、GaNエピタキシャル成長領域102またはGaNエピタキシャル成長領域102上にGaN下地基板101が配置された構成となる。そして、分離されたGaN下地基板101は、GaN下地基板101上に再度所望のエピタキシャル成長領域を形成することにより、再度GaN原料基板10として、本変形例の基板の製造方法に使用することができる。また、上述のように、半導体であるGaNからなる下地基板としてのGaN下地基板101上に、同種材料であるGaNからなるGaNエピタキシャル成長領域102を形成することにより、本変形例において製造される複合基板9のGaN層1を欠陥が少なく、結晶性の高い良質な層とすることができる。
【0058】
さらに、原料基板準備工程において準備されるGaN原料基板10では、GaN下地基板101上に形成されるエピタキシャル成長領域は、必ずしもGaNである必要はなく、GaNに格子定数の近い材料、たとえばAlGaN、InGaNなどであってもよい。また、GaN下地基板101上に形成されるエピタキシャル成長領域は必ずしも一層である必要はなく、複数層であってもよい。具体的には、エピタキシャル成長領域は、たとえば半導体発光素子のクラッド層や多重量子井戸(MQW;Multi Quantum Well)層などを含む複数層とすることができる。
【0059】
以上のように、本変形例における基板の製造方法によれば、下地基板としてのGaN下地基板101上に所望のエピタキシャル層を形成して当該エピタキシャル層とベース基板とを備えた複合基板を製造可能であるとともに、高価なGaN下地基板101の再利用を繰り返すことができる。その結果、本変形例における基板の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、ひずみを低減した基板を製造することができる。
【0060】
(実施の形態2)
以下、本発明の一実施の形態である実施の形態2における基板の製造方法について説明する。図15は、実施の形態2におけるレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。
【0061】
実施の形態2における基板の製造方法は、基本的には上述した実施の形態1における基板の製造方法と同様に実施される。しかし、図5を参照して、実施の形態2における基板の製造方法は、レーザ光照射工程において、実施の形態1とは異なっている。すなわち、図15を参照して、実施の形態2におけるレーザ光照射装置3は、集光レンズ33により集光されたレーザ光40が直接被照射物であるGaN原料基板10に照射される構成ではなく、レーザ光40の光路において、集光レンズ33と被照射物であるGaN原料基板10との間にガルバノミラー60が配置されている点において、実施の形態1におけるレーザ光照射装置3とは異なっている。つまり、集光レンズ33により集光されたレーザ光40は、ガルバノミラー60により反射された後、GaN原料基板10に対して照射される。
【0062】
そして、実施の形態2におけるレーザ光照射工程においては、GaN原料基板10に対してレーザ光40を走査させるために、X軸方向およびY軸方向の両方にステージ31が移動する実施の形態1の構成とは異なり、ステージ31はX軸方向にのみ移動し、Y軸方向には移動しない。一方、反射部材としてのガルバノミラー60が回動することにより、GaN原料基板10に対してレーザ光40が走査される。つまり、本実施の形態におけるレーザ光照射工程においては、レーザ光40は、回動する反射部材に反射することによりGaN原料基板10に対して走査される。
【0063】
より具体的に本実施の形態におけるレーザ光照射工程を説明すると、まず、ステージ31が固定された状態でレーザ光40がGaN原料基板10に照射され、ガルバノミラー60が回動することにより当該レーザ光40はY軸方向に走査される。Y軸方向の走査が完了すると、ステージ31がX軸方向に所望の距離だけ移動してレーザ光40がGaN原料基板10に照射され、ガルバノミラー60が回動することにより当該レーザ光40がY軸方向に走査される。これを繰返すことにより、本実施の形態におけるレーザ光照射工程は実施される。
【0064】
本実施の形態のように、レーザ光40の走査にガルバノミラー60などの反射部材による反射を利用することにより、高速な走査が可能となり、複合基板9の生産効率が向上する。なお、本実施の形態においては、Y軸方向にのみガルバノミラーによる走査が行なわれる場合について説明したが、たとえばX軸方向およびY軸方向の両方にガルバノミラーによる走査が行われてもよい。これにより、複合基板9の生産効率を一層向上させることが可能となる。この場合、レーザ光照射装置3においては、複数(2つ)のガルバノミラーが採用されてもよい。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の基板の製造方法により複合基板が製造可能であることを確認する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0066】
まず、(0001)面を主面とする直径φ50mm、厚みt3mmの円盤状のGaN基板を原料基板(サンプル)として準備した。サンプルは、N2(窒素)ガス、NH3(アンモニア)ガス、HCl(塩化水素)ガスおよびTMG(トリメチルガリウム)ガスを用いたHVPE法により作製した。そして、当該サンプルに対して、上記実施の形態1における基板の製造方法のうち水素プラズマ処理工程およびベース基板貼付工程を省略し、レーザ光照射工程、支持板貼付工程および劈開分離工程と同様の工程を実施した。劈開面としては両側の主面からの距離が等しい位置の(0001)面を採用した。また、レーザ光には、パルス幅、劈開面におけるエネルギー密度、波長などが異なる3種類のレーザを採用した(実施例A〜C)。また、上記実施の形態2における基板の製造方法のうち水素プラズマ処理工程およびベース基板貼付工程を省略し、レーザ光照射工程、支持板貼付工程および劈開分離工程と同様の工程も上記サンプルに対して実施した(実施例D)。試験条件の詳細および試験結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
次に、試験結果について説明する。上記試験条件により厚み方向におけるサンプルの劈開による2等分を試みたところ、いずれの場合においても成功した。このことから、本発明の基板の製造方法によれば、原料基板から半導体層となるべき領域を分離する際の、原料基板の損失を抑制した基板の製造方法を提供可能であることが確認された。ただし、パルス幅:10fs以上500ps以下、劈開面におけるレーザ光のエネルギー密度:10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下の範囲外である実施例BおよびCにおいては、劈開面以外の領域、具体的には劈開面から見てレーザ光が入射する側の領域に損傷(照射影響層)が発生していた。これに対し、パルス幅およびエネルギー密度が上記範囲内である実施例AおよびDにおいては、劈開面以外の領域に損傷は発見されなかった。このことから、パルス幅およびエネルギー密度は上記範囲とすることが好ましいことが確認される。
【0069】
さらに、上記実施の形態1と同様に実施された実施例A〜Cにおけるレーザ光照射工程は、60分間を要したのに対し、上記実施の形態2と同様に実施された、すなわちガルバノミラーを用いてY軸方向の走査を行なった実施例Dにおけるレーザ光照射工程は、2分間で完了した。このことから、レーザ光が回動する反射部材に反射することによって原料基板に対して走査されるレーザ光照射工程が採用されることにより、基板の生産効率を向上させることが可能であるといえる。
【0070】
なお、上記実施の形態および実施例においては、本発明の基板およびその製造方法における基板として、半導体層を構成する半導体がGaNである場合について説明したが、本発明の基板およびその製造方法はこれに限られない。本発明の基板およびその製造方法における半導体層を構成する半導体は、劈開面を有する、すなわち結晶性を有する半導体であればよく、GaNのほか種々の半導体、たとえばダイヤモンド、AlN、TiN、AlGaN、InN、InGaNなどであってもよい。
【0071】
また、本発明のベース層(ベース基板)を構成する素材としては、たとえばAl(アルミニウム)、Ag(銀)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、二酸化珪素(SiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、C(炭素)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ガドリニウムガリウムガーネット(Gd3Ga5O12)、ガリウム砒素(GaAs)、Si(珪素)などを採用することができる。特に、ベース層(ベース基板)の素材がGaNである場合、Mo、Si、Cuなどが好ましく、ベース層の素材がダイヤモンドである場合、Si、SiC、Si3N4、Cu、Moなどが好ましい。
【0072】
さらに、上記実施の形態および実施例においては、劈開分離工程において、劈開面に平行な方向に互いに反対向きの力が負荷される場合について説明したが、劈開面に交差する方向、たとえば劈開面に垂直に互いに反対向きの力が負荷されて劈開分離工程が実施されてもよい。さらに、劈開分離工程は、急激な加熱または冷却、たとえばレーザ光照射工程が実施された原料基板の一部が液体窒素に浸漬されることにより、劈開面にひずみが付与されて実施されてもよい。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の基板およびその製造方法は、ベース層とベース層上に接触して形成された半導体層とを備えた複合基板およびその製造方法に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施の形態1における基板の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の基板における半導体層の表面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図3】実施の形態1の変形例における基板の構成を示す概略断面図である。
【図4】図3の基板における半導体層とピタキシャル層との界面付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図5】実施の形態1における基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図6】図6は、図5のベース基板貼付工程およびレーザ光照射工程を説明するための概略断面図である。
【図7】図5のレーザ光照射工程を説明するための概略平面図である。
【図8】図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略平面図である。
【図9】図5のレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。
【図10】図5のレーザ光照射工程の変形例を説明するための概略斜視図である。
【図11】図5の支持板貼付工程および劈開分離工程を説明するための概略断面図である。
【図12】図5の支持板貼付工程および劈開分離工程を説明するための概略断面図である。
【図13】実施の形態1の基板の製造方法の変形例における原料基板準備工程を説明するための概略断面図である。
【図14】実施の形態1における基板の製造方法の変形例におけるベース基板貼付工程およびレーザ準備工程を説明するための概略断面図である。
【図15】実施の形態2におけるレーザ光照射工程を説明するための概略斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
1 GaN層、2 金属基板、2A 主面、3 レーザ光照射装置、7 エピタキシャル層、9 複合基板、91 エピタキシャル層付き複合基板、10 GaN原料基板、10A 主面、101 下地基板、102 エピタキシャル成長領域、11 主面(劈開面)、11A,11B 劈開面、111 平坦部、112 ステップ、31 ステージ、32 石英板、33 集光レンズ、40 レーザ光、41 照射影響層、45 光源、50 支持板、60 ガルバノミラー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層と、
前記ベース層上に接触して形成された半導体層とを備え、
前記ベース層とは反対側の前記半導体層の主面は、劈開面となっており、
前記ベース層と前記半導体層とは格子整合していない、基板。
【請求項2】
前記半導体層上に形成されたエピタキシャル層をさらに備えた、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
半導体からなる原料基板を準備する工程と、
前記原料基板の少なくとも一方の主面にベース基板を貼り付ける工程と、
前記ベース基板が貼り付けられた前記原料基板の内部に集光するレーザ光を、前記原料基板の劈開面に交差する方向から前記原料基板に照射し、前記劈開面に沿う方向に走査する工程と、
前記レーザ光が照射された前記原料基板を前記劈開面に沿う面において分離する工程とを備えた、基板の製造方法。
【請求項4】
前記劈開面に沿う面上に、半導体からなる層をエピタキシャル成長させる工程をさらに備えた、請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光のパルス幅は10fs以上500ps以下であり、前記劈開面における前記レーザ光のエネルギー密度は10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下である、請求項3または4に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
前記ベース基板を貼り付ける工程よりも前に、前記少なくとも一方の主面を水素プラズマ処理する工程をさらに備えた、請求項3〜5のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の基板の製造方法により製造された基板。
【請求項1】
ベース層と、
前記ベース層上に接触して形成された半導体層とを備え、
前記ベース層とは反対側の前記半導体層の主面は、劈開面となっており、
前記ベース層と前記半導体層とは格子整合していない、基板。
【請求項2】
前記半導体層上に形成されたエピタキシャル層をさらに備えた、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
半導体からなる原料基板を準備する工程と、
前記原料基板の少なくとも一方の主面にベース基板を貼り付ける工程と、
前記ベース基板が貼り付けられた前記原料基板の内部に集光するレーザ光を、前記原料基板の劈開面に交差する方向から前記原料基板に照射し、前記劈開面に沿う方向に走査する工程と、
前記レーザ光が照射された前記原料基板を前記劈開面に沿う面において分離する工程とを備えた、基板の製造方法。
【請求項4】
前記劈開面に沿う面上に、半導体からなる層をエピタキシャル成長させる工程をさらに備えた、請求項3に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光のパルス幅は10fs以上500ps以下であり、前記劈開面における前記レーザ光のエネルギー密度は10−7mJ/cm2以上10mJ/cm2以下である、請求項3または4に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
前記ベース基板を貼り付ける工程よりも前に、前記少なくとも一方の主面を水素プラズマ処理する工程をさらに備えた、請求項3〜5のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の基板の製造方法により製造された基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−81285(P2009−81285A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249610(P2007−249610)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]