説明

基板洗浄装置および基板洗浄方法

【課題】高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板に与える物理的ダメージを最小限に抑制することができる基板洗浄装置および基板洗浄方法を提供する。
【解決手段】洗浄ヘッド60の筒状体61には80個の吐出孔64が穿設されている。各吐出孔64の孔径は10μm〜50μmである。高圧ポンプによって洗浄ヘッド60の流路62に洗浄液を加圧供給すると、洗浄ヘッド60の内部の液圧が1MPa以上10MPa以下に上昇することによって、各吐出孔64から洗浄液が押し出される。吐出孔64から押し出された洗浄液は連続した液流である液柱80を形成し、吐出孔64と基板Wとの距離dが1mm以上10mm以下であれば、液柱80の状態のまま基板Wの上面に供給される。これにより、洗浄ヘッド60が基板Wに与える物理力は常に一定となり、高いパーティクル除去能力と物理的ダメージの抑制とを両立することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等の薄板状の精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)に純水等の洗浄液を吐出して洗浄処理を行う基板洗浄装置および基板洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板等の製造プロセスにおいては基板に付着したパーティクルを除去する洗浄工程が必須のものとなっている。洗浄工程を実行する枚葉式の洗浄装置には、パーティクル除去のための種々の洗浄ツールが搭載されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、洗浄液と加圧した気体とを混合して液滴を生成し、その液滴と気体との混合流体を基板に噴射するいわゆる二流体ノズルが開示されている。基板に付着しているパーティクル等の異物は、洗浄液の液滴の運動エネルギーによって物理的に除去される。また、特許文献2には、圧電素子に超音波帯域の周波数で膨張収縮を繰り返し行わせることによって、吐出口から一方向に加速された洗浄液のミストを基板に向けて高速に噴出させる洗浄装置が開示されている。さらに、特許文献3には、洗浄ブラシ、超音波ノズル、高圧スプレーノズルなどの種々の洗浄ツールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−227878号公報
【特許文献2】特開2000−533号公報
【特許文献3】特開2001−246331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の洗浄ツールは、ある程度高いパーティクル除去能力を有するものの、基板に物理的なダメージを与えるものであった。近年、パターンの微細化が進展するにつれて、物理的なダメージによるパターンの倒壊が問題となってきている。すなわち、パターンの微細化が進展すると、より小さな物理的ダメージであってもパターンが損傷するおそれが生じてくる。このため、高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板に与える物理的ダメージを最小限に抑制することが求められている。
【0006】
かかる課題を解決するためには、洗浄ツールが基板に与える物理力の分布を狭くする必要がある。より具体的には、パーティクル除去能力を維持しつつも基板に与えるダメージが最小限となる範囲内に洗浄ツールが基板に与える物理力を収めることが必要となる。ところが、例えば特許文献1に開示されているような二流体ノズルを使用した場合、生成された液滴の物理力(具体的には、液滴の速度と大きさ)が広い範囲にわたって分布していたため、パーティクル除去に寄与しない無駄な液滴が存在する一方、パターンにダメージを与えるような有害な液滴も存在していた。その結果、洗浄効率の向上が抑制されるとともに、パターン破壊の可能性が生じるという問題があった。このような問題は、他の洗浄ツールを用いた場合も同様であり、高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板に与える物理的ダメージを最小限に抑制する範囲内に物理力を収める洗浄ツールは存在していなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板に与える物理的ダメージを最小限に抑制することができる基板洗浄装置および基板洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に洗浄液を吐出して洗浄処理を行う基板洗浄装置において、基板を保持する保持手段と、複数の吐出孔が穿設された洗浄ヘッドと、前記洗浄ヘッドの内部に洗浄液を加圧供給する加圧手段と、を備え、前記複数の吐出孔のそれぞれの孔径は10μm以上50μm以下であり、前記加圧手段によって洗浄液が加圧供給されているときの前記洗浄ヘッドの内部の液圧は1MPa以上10MPa以下であり、前記保持手段に保持された基板と前記複数の吐出孔との洗浄処理時の距離は1mm以上10mm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る基板洗浄装置において、前記複数の吐出孔のそれぞれの孔径は10μm以上15μm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る基板洗浄装置において、前記洗浄ヘッドに60個以上200個以下の吐出孔が穿設されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る基板洗浄装置において、前記洗浄ヘッドの内部を貫通して洗浄液の流路が設けられ、前記複数の吐出孔は前記流路と連通し、前記流路の流出口にはストップバルブが接続され、洗浄処理時には、前記加圧手段によって前記流路の流入口から洗浄液を加圧供給しつつ前記ストップバルブを閉止することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る基板洗浄装置において、前記保持手段に保持された基板の上方の処理位置とその上方から外れた待機位置との間で前記洗浄ヘッドを移動させるヘッド移動手段をさらに備え、洗浄処理開始時に前記ヘッド移動手段によって前記処理位置に向けて移動される前記洗浄ヘッドが前記保持手段に保持された基板の洗浄領域に到達する前に前記ストップバルブを閉止することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6の発明は、基板に洗浄液を吐出して洗浄処理を行う基板洗浄方法において、複数の吐出孔が穿設された洗浄ヘッドに加圧供給された洗浄液が前記複数の吐出孔から押し出されて連続した液柱状態を維持しつつ基板に供給されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る基板洗浄方法において、前記複数の吐出孔から押し出された洗浄液の液柱の流速は10m毎秒以上100m毎秒以下であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8の発明は、請求項6または請求項7の発明に係る基板洗浄方法において、前記複数の吐出孔から押し出された洗浄液の総流量は5mL毎分以上500mL毎分以下であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項9の発明は、請求項8の発明に係る基板洗浄方法において、60個以上200個以下の吐出孔から洗浄液が押し出されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10の発明は、請求項6から請求項9のいずれかの発明に係る基板洗浄方法において、洗浄処理開始時に前記洗浄ヘッドが基板の洗浄領域に到達する前に前記複数の吐出孔からの洗浄液吐出を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1から請求項5の発明によれば、複数の吐出孔のそれぞれの孔径は10μm以上50μm以下であり、加圧手段によって洗浄液が加圧供給されているときの洗浄ヘッドの内部の液圧は1MPa以上10MPa以下であり、保持手段に保持された基板と複数の吐出孔との洗浄処理時の距離は1mm以上10mm以下であるため、複数の吐出孔から加圧によって押し出された洗浄液は連続した液柱状態のまま基板に供給されることとなり、基板に与える物理力を常に一定にすることができ、その結果高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板に与える物理的ダメージを最小限に抑制することができる。
【0019】
特に、請求項3の発明によれば、洗浄ヘッドに60個以上200個以下の吐出孔が穿設されるため、1枚の基板の洗浄に要する処理時間を妥当なものとすることができる。
【0020】
特に、請求項5の発明によれば、洗浄処理開始時にヘッド移動手段によって処理位置に向けて移動される洗浄ヘッドが保持手段に保持された基板の洗浄領域に到達する前にストップバルブを閉止するため、洗浄液の物理力が安定してから基板に供給されることとなり、基板に大きな物理的ダメージを与えるのを防止することができる。
【0021】
また、請求項6から請求項10の発明によれば、複数の吐出孔が穿設された洗浄ヘッドに加圧供給された洗浄液が複数の吐出孔から押し出されて連続した液柱状態を維持しつつ基板に供給されるため、基板に与える物理力を常に一定にすることができ、その結果高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板に与える物理的ダメージを最小限に抑制することができる。
【0022】
また、請求項8の発明によれば、複数の吐出孔から押し出された洗浄液の総流量は5mL毎分以上500mL毎分以下であるため、1枚の基板の洗浄に要する処理時間を妥当なものとすることができる。
【0023】
また、請求項10の発明によれば、洗浄処理開始時に洗浄ヘッドが基板の洗浄領域に到達する前に複数の吐出孔からの洗浄液吐出を開始するため、洗浄液の物理力が安定してから基板に供給されることとなり、基板に大きな物理的ダメージを与えるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る基板洗浄装置の一例を示す図である。
【図2】洗浄ヘッドの概略構成を示す図である。
【図3】洗浄ヘッドの斜視図である。
【図4】洗浄ヘッドに穿設された吐出孔の配列を示す図である。
【図5】洗浄処理位置における洗浄ヘッドからの洗浄液吐出を模式的に示す図である。
【図6】洗浄ヘッドの移動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る基板洗浄装置の一例を示す図である。この基板洗浄装置1は、半導体の基板Wを1枚ずつ洗浄する枚葉式の洗浄装置であり、円形のシリコンの基板Wに付着したパーティクル等の汚染物質を除去して洗浄する。基板洗浄装置1は、主要な構成として、回転保持部10と、処理カップ20と、スプラッシュガード30と、ヘッド駆動部50と、洗浄ヘッド60と、制御部90と、を備える。
【0027】
回転保持部10は、スピンベース11、回転軸13およびモータ14を備える。スピンベース11は、基板Wよりも若干大きな径を有する円板状部材である。スピンベース11の上面周縁部には、同一円周上に沿って複数個(本実施形態では6個)の支持ピン12が立設されている。各支持ピン12は、基板Wの下面周縁部を下から支持する円筒状の支持部と、その支持部の上面に突設されて基板Wの端縁部に当接して押圧するピン部とによって構成されている。6個の支持ピン12のうち3個についてはスピンベース11に固定設置された固定支持ピンとされている。固定支持ピンは、円筒状支持部の軸心上にピン部を突設している。一方、6個の支持ピン12のうち残りの3個についてはスピンベース11に対して回転(自転)自在に設置された可動支持ピンとされている。可動支持ピンでは、円筒状支持部の軸心から若干偏心してピン部が突設されている。3個の可動支持ピンは図示省略のリンク機構および駆動機構によって連動して回動駆動される。可動支持ピンが回動することにより、6個のピン部で基板Wの端縁部を把持することと、基板Wの把持を解除することとが可能である。6個の支持ピン12によって基板Wの端縁部を把持することにより、スピンベース11は基板Wの下面中央部に接触することなく基板Wを水平姿勢にて保持することができる。
【0028】
回転軸13は、スピンベース11の下面側中心部に垂設されている。回転軸13は、駆動ベルト15を介してモータ14の駆動プーリ16と連動連結されている。モータ14が駆動プーリ16を回転駆動させると、駆動ベルト15が回走して回転軸13が回転する。これにより、スピンベース11に保持された基板Wは、スピンベース11および回転軸13とともに、水平面内にて鉛直方向に沿った中心軸RXの周りで回転する。
【0029】
また、回転軸13の内側は中空となっており、その中空部分には鉛直方向に沿って処理液ノズル18が挿設されている。処理液ノズル18は図示を省略する処理液供給源と連通接続されている。処理液ノズル18の先端はスピンベース11に保持された基板Wの下面中心部に向けて開口している。このため、処理液ノズル18の先端から基板Wの下面中心部に処理液を供給することができる。
【0030】
また、回転軸13の内壁面と処理液ノズル18の外壁面との間の隙間は気体供給流路とされており、図示を省略する気体供給源と連通接続されている。この隙間の上端からスピンベース11に保持された基板Wの下面に向けて気体を供給することができる。
【0031】
回転保持部10を取り囲んで処理カップ20が設けられている。処理カップ20の内側には、円筒状の仕切壁21が設けられている。また、回転保持部10の周囲を取り囲むように、基板Wの洗浄処理に用いられた洗浄液を排液するための排液空間22が仕切壁21の内側に形成されている。さらに、排液空間22を取り囲むように、処理カップ20の外壁と仕切壁21との間に基板Wの洗浄処理に用いられた洗浄液を回収するための回収空間23が形成されている。
【0032】
排液空間22には、排液処理装置(図示省略)へ洗浄液を導くための排液管27が接続され、回収空間23には、回収処理装置(図示省略)へ洗浄液を導くための回収管28が接続されている。
【0033】
処理カップ20の上方には、基板Wからの洗浄液が外方へ飛散することを防止するためのスプラッシュガード30が設けられている。このスプラッシュガード30は、中心軸RXに対して回転対称な形状とされている。スプラッシュガード30の上端部の内面には、断面Vの字形状の排液案内溝31が環状に形成されている。また、スプラッシュガード30の下端部の内面には、外側下方に傾斜する傾斜面からなる回収液案内部32が形成されている。回収液案内部32の上端付近には、処理カップ20の仕切壁21を受け入れるための仕切壁収納溝33が形成されている。
【0034】
このスプラッシュガード30は、ボールねじ機構等で構成されたガード昇降駆動機構35によって鉛直方向に沿って昇降駆動される。ガード昇降駆動機構35は、スプラッシュガード30を、回収液案内部32がスピンベース11に保持された基板Wの端縁部を取り囲む回収位置と、排液案内溝31がスピンベース11に保持された基板Wの端縁部を取り囲む排液位置との問で昇降させる。スプラッシュガード30が回収位置(図1に示す位置)にある場合には、基板Wの端縁部から飛散した洗浄液が回収液案内部32により回収空間23に導かれ、回収管28を介して回収される。一方、スプラッシュガード30が排液位置にある場合には、基板Wの端縁部から飛散した洗浄液が排液案内溝31により排液空間22に導かれ、排液管27を介して排液される。このようにして、洗浄液の排液および回収を切り換えて実行可能とされている。また、スピンベース11に対して基板Wの受け渡しを行う場合には、ガード昇降駆動機構35は、スピンベース11がスプラッシュガード30の上端よりも突き出る高さ位置にまでスプラッシュガード30を下降させる。
【0035】
ヘッド駆動部50は、昇降モータ51、スイングモータ53およびヘッドアーム58を備える。ヘッドアーム58の先端には洗浄ヘッド60が取り付けられている。ヘッドアーム58の基端側はスイングモータ53のモータ軸53aに連結されている。スイングモータ53は、モータ軸53aを中心に洗浄ヘッド60を水平面内にて回動させる。
【0036】
スイングモータ53は昇降ベース54に取り付けられている。昇降ベース54は、固定設置された昇降モータ51のモータ軸に直結されたボールネジ52に螺合されるとともに、ガイド部材55に摺動自在に取り付けられている。昇降モータ51がボールネジ52を回転させると、昇降ベース54とともに洗浄ヘッド60が昇降する。
【0037】
ヘッド駆動部50の昇降モータ51およびスイングモータ53によって、洗浄ヘッド60はスピンベース11に保持された基板Wの上方の洗浄処理位置(洗浄領域)とスプラッシュガード30よりも外方の(つまりスピンベース11に保持された基板Wの上方から外れた)待機位置との間で移動する(図6参照)。また、洗浄ヘッド60は、スピンベース11の上方において、スイングモータ53によって基板Wの上面の洗浄領域である中心部上方と端縁部上方との間で揺動される。
【0038】
また、制御部90は、基板洗浄装置1に設けられた種々の動作機構を制御する。制御部90のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。
【0039】
図2は、洗浄ヘッド60の概略構成を示す図である。また、図3は、洗浄ヘッド60の斜視図である。洗浄ヘッド60は、四角柱形状の筒状体61の一壁面に複数の吐出孔(ノズル)64を穿設して構成される。四角柱形状の筒状体61の内側には中空空間が形成されており、その両端は開口されている。本実施形態においては、洗浄ヘッド60は石英によって形成されている。なお、洗浄ヘッド60の材質は石英に限定されるものではなく、パーティクルを発生せず、かつ、耐薬品性を有しているものであれば良く、ジルコニア(ZrO2)等のセラミックスであっても良いし、樹脂であっても良い。
【0040】
四角柱形状の筒状体61の4つの側壁面のうちの一面(洗浄ヘッド60をヘッドアーム58に取り付けたときの底面)に80個の吐出孔64が穿設されている。図4は、洗浄ヘッド60に穿設された吐出孔64の配列を示す図であり、筒状体61を底面から見た平面図である。同図に示すように、筒状体61の底面には20個の吐出孔64を所定の配列間隔で一列に並べた孔列を4列設けている。20個の吐出孔64を4列配置することによって合計80個の吐出孔64を筒状体61の底面に設けている。各吐出孔64は、筒状体61の底壁面を貫通する略円筒形状の孔である。80個の吐出孔64の直径(孔径)は均一である。80個の吐出孔64のそれぞれの孔径は10μm以上50μm以下であり、本実施形態では15μmとされている。
【0041】
筒状体61の内側の中空空間は、洗浄ヘッド60の内部を貫通する洗浄液の流路62として機能する。80個の吐出孔64の上端は流路62に連通している。また、流路62の流入口66は供給配管70を介して洗浄液供給源71と連通接続されている。供給配管70の経路途中には高圧ポンプ72およびフィルター73が介挿されている。高圧ポンプ72は、洗浄液供給源71から洗浄ヘッド60に向けて洗浄液を圧送する。フィルター73は、高圧ポンプ72の駆動によって発生するパーティクルを洗浄液から取り除く。なお、洗浄液としては、本実施形態では純水を用いているがこれに限定されるものではなく、洗浄用の薬液の水溶液や炭酸水や純水にオゾンなどを溶解した機能水であっても良い。
【0042】
一方、筒状体61の流路62の流出口67には排出配管75が連通接続されている。排出配管75の経路途中にはストップバルブ76が介挿されている。高圧ポンプ72によって筒状体61の流路62に洗浄液を加圧供給するとともにストップバルブ76を閉止すると、80個の吐出孔64から加圧によって洗浄液が押し出される。流路62に洗浄液を加圧供給しつつストップバルブ76を開放すると排出配管75から装置外部へと洗浄液が排出される。なお、吐出孔64からの洗浄液の押し出しについてはさらに詳細に後述する。
【0043】
次に、上述の構成を有する基板洗浄装置1の処理動作について説明する。以下に説明する処理動作は、制御部90が所定の洗浄処理用ソフトウェアを実行して基板洗浄装置1の各機構を制御することによって行われるものである。
【0044】
洗浄ヘッド60には、洗浄処理を行っていないときにも常時連続して高圧ポンプ72から洗浄液が送給されている。洗浄処理を行っていないときには、ストップバルブ76が開放されており、筒状体61の流路62に送給された洗浄液はそのまま排出配管75から装置外部に排出され続けている。すなわち、洗浄ヘッド60がスプラッシュガード30よりも外方の待機位置にて待機しているときも洗浄ヘッド60には洗浄液が供給され続けており、その洗浄液は装置外部に排出され続けている。
【0045】
基板Wの洗浄処理を開始するときには、まず、スプラッシュガード30が下降してスピンベース11がスプラッシュガード30よりも上方に出た状態にて、スピンベース11に処理対象の基板Wが渡される。続いて、スプラッシュガード30が上述の排液位置まで上昇する。そして、ヘッド駆動部50が洗浄ヘッド60をスプラッシュガード30よりも外方の待機位置からスピンベース11に保持された基板Wの上方の洗浄領域の洗浄処理位置に向けて移動させる。ここで、洗浄処理位置に向けて移動される洗浄ヘッド60がスピンベース11に保持された基板Wの上方の洗浄領域に到達する前にストップバルブ76を閉止して洗浄ヘッド60から洗浄液吐出を開始する。従って、洗浄ヘッド60は、洗浄液を吐出しつつ、基板Wの上方に到達することとなる。洗浄処理位置においては、洗浄ヘッド60の複数の吐出孔64の下端と基板W上面との間隔が1mm以上10mm以下とされる。
【0046】
図5は、洗浄処理位置における洗浄ヘッド60からの洗浄液吐出を模式的に示す図である。洗浄処理時に、高圧ポンプ72によって洗浄ヘッド60の流路62に流入口66から洗浄液を加圧供給しつつ、ストップバルブ76を閉止すると、排出配管75からの洗浄液排出が停止され、洗浄ヘッド60の内部(流路62)における洗浄液の液圧が上昇する。このときの、洗浄ヘッド60の内部の液圧は1MPa以上10MPa以下となる。
【0047】
洗浄ヘッド60の内部の液圧が上昇することによって、孔径が10μm〜50μmの80個の吐出孔64から洗浄液が加圧によって押し出される。図5に示すように、各吐出孔64から押し出された洗浄液は連続した液柱80を形成し、その液柱80の状態のまま基板Wの上面に供給される。ここで、「液柱」とは、飛散することなく落下する液体が形成する連続した液流である。すなわち、洗浄ヘッド60の吐出孔64から押し出された洗浄液は途中で途切れたり、球状の液滴を形成することなく、連続した液流のまま基板Wに供給されるのである。従って、洗浄処理時に洗浄ヘッド60が基板Wに与える物理力は常に一定となる。
【0048】
吐出孔64の孔径を10μm以上50μm以下としているのは、液柱80に洗浄能力を付与しつつも、液柱80が基板Wに与える物理的ダメージを最小限に抑制するためである。すなわち、吐出孔64の孔径が10μmより小さいと、液柱80が形成できたとしても、その物理力が過小となり、必要なパーティクル除去能力を確保することが困難となる。また、孔径が小さすぎるために、吐出孔64からの洗浄液の押し出しが困難ともなる。一方、吐出孔64の孔径が50μmより大きいと、液柱80の物理力も大きくなり、基板Wに与える物理的ダメージが大きくなってパターンを損傷するおそれがある。このため、80個の吐出孔64のそれぞれの孔径を10μm以上50μm以下としている。特に、近年の微細なパターンの損傷をも確実に防止するためには、吐出孔64の孔径を10μm以上15μm以下とすることが好ましい。また、孔径が10μm以上50μm以下の吐出孔64から洗浄液を押し出して液柱80を形成するためには、洗浄ヘッド60の内部の液圧を1MPa以上10MPa以下、好ましくは2MPa以上5MPa以下とする必要がある。
【0049】
また、洗浄処理時における80個の吐出孔64とスピンベース11に保持された基板Wとの距離dを1mm以上10mm以下としているのは次の理由による。吐出孔64と基板Wとの距離dが10mmより大きくなると、吐出孔64から押し出された洗浄液が連続した液柱80の状態を維持できなくなって液滴を形成する。すなわち、吐出孔64から押し出された洗浄液が液柱80の状態を維持できるのは短時間であり、吐出孔64と基板Wとが離れすぎると、液柱80が分散して洗浄液の表面張力により球状の液滴が生成される。このような洗浄液の液滴が生成されると洗浄ヘッド60が基板Wに与える物理力を一定にすることは困難となる。一方、吐出孔64と基板Wとの距離dが1mmより小さくなると、基板W上に供給された洗浄液と洗浄ヘッド60の底面とが接触して液柱80が形成されなくなるおそれがある。このため、洗浄処理時における80個の吐出孔64と基板Wとの距離dを1mm以上10mm以下としている。
【0050】
これらの条件の下で、80個の吐出孔64から押し出された洗浄液は80本の液柱80を形成して基板Wに供給される。それら液柱80の流速は10m毎秒以上100m毎秒以下となる。基板Wに供給される液柱80の流速が10m毎秒より小さいと十分な洗浄能力を得ることができない。逆に、液柱80の流速が100m毎秒より大きいと基板Wに与える物理的ダメージが過大となる。
【0051】
また、洗浄処理時には、回転保持部10によって基板Wが回転されるとともに、ヘッド駆動部50によって洗浄ヘッド60が基板Wの中心部上方と端縁部上方との間で揺動(往復スキャン)されて洗浄処理が進行する(図6参照)。このときに、処理液ノズル18から基板Wの下面に向けて洗浄液を吐出しても良い。基板Wを回転させつつ洗浄ヘッド60を基板Wの中心上方と端縁部上方との間で往復スキャンさせ、その洗浄ヘッド60の80個の吐出孔64から継続して洗浄液の液柱80を基板W上面に供給し続けることにより基板W全面の洗浄処理が進行する。
【0052】
本実施形態においては、孔径が10μm〜50μmの吐出孔64から流速が10m毎秒〜100m毎秒となる連続した液流である液柱80を基板Wの上面に供給しており、基板Wに大きな物理的ダメージを与えることなくパーティクルを除去することができる。ここで重要なことは、本実施形態の基板洗浄装置1では洗浄液が連続した液流である液柱80として基板Wに供給され続けることである。これにより、洗浄ヘッド60が基板Wに与える物理力、つまり基板Wが液柱80から受ける物理力は常に一定となる。しかも、その物理力の分布は極めて狭い。その結果、基板Wの主面の単位面積が単位時間当たりに受ける運動エネルギーも一定となる。
【0053】
一般に洗浄ツールが基板に与える物理力が過大であるとパターンにダメージを与え、過小であると洗浄能力も低い。従来の洗浄ツールが基板に与える物理力は、仮に平均値が一定であったとしても、物理力の分布が広かった。例えば、特許文献1に開示されるようないわゆる二流体ノズルの場合、パーティクル除去に寄与しない無駄な液滴が存在する一方、パターンにダメージを与えるような有害な液滴も存在していた。
【0054】
本実施形態の洗浄ヘッド60が基板Wに与える物理力は常に一定で、しかもその分布は極めて狭い。このことは、パーティクル除去に寄与しない無駄な洗浄液および基板Wに大きな物理的ダメージを与えるような有害な洗浄液はほぼ皆無であることを意味している。従って、基板洗浄装置1は、高いパーティクル除去能力を維持しつつも、基板Wに与える物理的ダメージを最小限に抑制するこことができる。すなわち、基板洗浄装置1は、高いパーティクル除去能力と物理的ダメージの抑制とを両立することができるのである。
【0055】
また、本実施形態においては、洗浄ヘッド60に20個×4列の80個の吐出孔64を穿設しているが、洗浄ヘッド60に設ける吐出孔64の数は60個以上200個以下であれば良い。洗浄ヘッド60に設けられた吐出孔64が60個未満であると、基板Wの全面を洗浄するのに必要な時間が長くなり、枚葉式の基板洗浄装置1に許容される1枚当たりの処理時間内に収まらなくなる。一方、均質な吐出孔64を200個を超えて洗浄ヘッド60に設けることは難しく、また200個を超える吐出孔64の全てに均等に液圧を加えることは困難である。このため、洗浄ヘッド60に設ける吐出孔64の総数は60個以上200個以下としている。洗浄ヘッド60に穿設された60個以上200個以下の吐出孔64から押し出される洗浄液の総流量は5mL(ミリリットル)毎分以上500mL毎分以下となる。
【0056】
以上のようにして基板W全面の洗浄処理が終了した後、ヘッド駆動部50によって洗浄ヘッド60が洗浄処理位置から待避位置まで移動される。この移動過程において、洗浄ヘッド60が基板Wの上方の洗浄領域から外側に移動した後に、ストップバルブ76が開放される。高圧ポンプ72によって流路62に洗浄液を加圧供給したままであっても、ストップバルブ76が開放されると洗浄液は排出配管75から排出されるため洗浄ヘッド60から洗浄液吐出は停止される。これにより洗浄ヘッド60内部のディスペンス処理が行われる。なお、吐出孔64の孔径は10μm〜50μmと相当に小さいため流体の通過抵抗が排出配管75に比較して著しく大きく、ストップバルブ76が開放されている状態で吐出孔64から洗浄液が吐出することはない。
【0057】
続いて、基板Wの回転数を上昇させて基板Wの乾燥処理が実行される。乾燥処理が終了した後、基板Wの回転が停止するとともに、スプラッシュガード30が下降し、処理後の基板Wがスピンベース11から搬出される。これにより、基板洗浄装置1における一連の処理動作が終了する。なお、洗浄および乾燥処理中におけるスプラッシュガード30の位置は、洗浄液の回収または排液の必要性に応じて適宜変更することが好ましい。
【0058】
ところで、上述したように、本実施形態においては、洗浄処理開始時にヘッド駆動部50によって洗浄処理位置に向けて移動される洗浄ヘッド60がスピンベース11に保持された基板Wの上方の洗浄領域に到達する前にストップバルブ76を閉止して洗浄ヘッド60から洗浄液吐出を開始している。洗浄処理位置(洗浄領域)とは、図6に示すように、基板Wの中心部上方から端縁部上方までの位置であり、デバイス形成の有効領域である。この洗浄処理位置に向けて移動される洗浄ヘッド60が基板Wの上方の洗浄領域に到達する前(より厳密には基板Wの端縁部上方に到達する前)に洗浄液吐出を開始するのは、吐出開始時点の瞬間に基板Wに与えるダメージが定常状態より大きいためである。すなわち、洗浄液を連続した液流である液柱80として基板Wに供給する基板洗浄装置1では、液柱80を継続して供給し続けている間は基板Wに与える物理力が一定となるのであるが、洗浄ヘッド60から洗浄液吐出を開始した最初の瞬間はより大きな物理力を基板Wに与えることとなり、物理的ダメージも大きくなる。このため、洗浄ヘッド60が基板Wの上方に到達する前に吐出孔64から洗浄液吐出を開始しているのである。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、洗浄ヘッド60に20個の吐出孔64を4列配置していたが、洗浄ヘッド60に設ける吐出孔64の配列形態はこれに限定されるものではなく、吐出孔64の総数が60個以上200個以下の範囲内であれば任意の配列形態を採用することができる。例えば、60個以上200個以下の吐出孔64を規則性の無いランダムな配置に設けるようにしても良い。
【0060】
また、洗浄ヘッド60の筒状体61の形状は四角柱形状に限定されるものではなく、他の筒形状であっても良い。例えば、洗浄ヘッド60の筒状体61は円筒形状であっても良いし、三角柱形状であっても良い。形状に関わらず、筒状体61の壁面に孔径が10μm〜50μmの複数の吐出孔64を穿設するとともに、一端から高圧ポンプ72によって洗浄液を加圧供給しつつ他端をストップバルブ76にて閉止することにより、上記実施形態と同様に、吐出孔64から洗浄液が押し出されて液柱80が形成される。
【0061】
また、本発明に係る基板洗浄装置によって処理対象となる基板は半導体基板に限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板であっても良い。
【0062】
また、基板洗浄装置1の全体構成は、図1の形態に限定されるものではなく、例えば、洗浄処理後の基板Wに窒素ガスを噴出して乾燥させるガスノズルを設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 基板洗浄装置
10 回転保持部
11 スピンベース
20 処理カップ
30 スプラッシュガード
50 ヘッド駆動部
60 洗浄ヘッド
61 筒状体
62 流路
64 吐出孔
66 流入口
67 流出口
72 高圧ポンプ
73 フィルター
76 ストップバルブ
80 液柱
90 制御部
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に洗浄液を吐出して洗浄処理を行う基板洗浄装置であって、
基板を保持する保持手段と、
複数の吐出孔が穿設された洗浄ヘッドと、
前記洗浄ヘッドの内部に洗浄液を加圧供給する加圧手段と、
を備え、
前記複数の吐出孔のそれぞれの孔径は10μm以上50μm以下であり、
前記加圧手段によって洗浄液が加圧供給されているときの前記洗浄ヘッドの内部の液圧は1MPa以上10MPa以下であり、
前記保持手段に保持された基板と前記複数の吐出孔との洗浄処理時の距離は1mm以上10mm以下であることを特徴とする基板洗浄装置
【請求項2】
請求項1記載の基板洗浄装置において、
前記複数の吐出孔のそれぞれの孔径は10μm以上15μm以下であることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の基板洗浄装置において、
前記洗浄ヘッドに60個以上200個以下の吐出孔が穿設されることを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の基板洗浄装置において、
前記洗浄ヘッドの内部を貫通して洗浄液の流路が設けられ、
前記複数の吐出孔は前記流路と連通し、
前記流路の流出口にはストップバルブが接続され、
洗浄処理時には、前記加圧手段によって前記流路の流入口から洗浄液を加圧供給しつつ前記ストップバルブを閉止することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の基板洗浄装置において、
前記保持手段に保持された基板の上方の処理位置とその上方から外れた待機位置との間で前記洗浄ヘッドを移動させるヘッド移動手段をさらに備え、
洗浄処理開始時に前記ヘッド移動手段によって前記処理位置に向けて移動される前記洗浄ヘッドが前記保持手段に保持された基板の洗浄領域に到達する前に前記ストップバルブを閉止することを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項6】
基板に洗浄液を吐出して洗浄処理を行う基板洗浄方法であって、
複数の吐出孔が穿設された洗浄ヘッドに加圧供給された洗浄液が前記複数の吐出孔から押し出されて連続した液柱状態を維持しつつ基板に供給されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項7】
請求項6記載の基板洗浄方法において、
前記複数の吐出孔から押し出された洗浄液の液柱の流速は10m毎秒以上100m毎秒以下であることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7記載の基板洗浄方法において、
前記複数の吐出孔から押し出された洗浄液の総流量は5mL毎分以上500mL毎分以下であることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項9】
請求項8記載の基板洗浄方法において、
60個以上200個以下の吐出孔から洗浄液が押し出されることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれかに記載の基板洗浄方法において、
洗浄処理開始時に前記洗浄ヘッドが基板の洗浄領域に到達する前に前記複数の吐出孔からの洗浄液吐出を開始することを特徴とする基板洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−66301(P2011−66301A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217218(P2009−217218)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】